説明

構造物内部状態計測システム及び構造物内部状態計測方法

【課題】構造物内部状態計測において、超音波を用いてさらに精度よく、測定対象である構造物の内部状態を計測することである。
【解決手段】構造物内部状態計測システム20は、構造物10に超音波を印加供給する超音波供給部30と、構造物10の内部を伝播する超音波振動18を検出して超音波検出信号を出力する超音波検出部40と、構造物10を移動可能に支持する試料保持部44と、試料保持部44を移動させる走査機構部46と、超音波検出部40からの超音波検出信号を受け取り、これに周波数解析を行い、得られるスペクトル分布に基いて計測を行う内部計測部50を含んで構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
構造物内部状態計測システム及び構造物内部状態計測方法に係り、特に測定対象物の構造物に超音波を供給し、測定対象の構造物の内部を伝播する超音波振動を検出して、測定対象の構造物の内部状態を計測する計測システム及び計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物の内部状態を計測する技術として超音波探傷技術が知られている。この技術は、測定対象物である構造物に超音波送信装置から超音波を入射し、構造物の内部を伝播する超音波振動を超音波受信装置で受信し、構造物の内部に欠陥等があると超音波振動が変化することを検知する。
【0003】
例えば、特許文献1には、超音波材料評価方法等として、従来よりも約10倍大きな振幅を有する収束超音波を超音波探触子から水あるいは樹脂製楔を介して被測定物表面に垂直あるいは斜めに入射し、励起される縦波、モード変換横波または表面波と材料の微視組織、欠陥等との相互作用により発生する歪んだ波形をフーリエ変換して得られる高調波波形を処理し、その最大振幅、波形立ち上がり時間、包絡線等を画像化する技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、被検体の超音波減衰量測定装置等として、被検体表面にアクリル板等の遅延材を介して数10MHzの超音波探触子を取り付け、被検体透過前の超音波パルス(表面エコー)と被検体透過後の超音波パルス(底面エコー)とをFFTによって周波数特性を算出し、その差から被検体境界における減衰の周波数特性を求めることが述べられている。そして、鉄鋼等は主に結晶粒界での反射に起因した散乱減衰や磁壁、転位の移動に起因する減衰であり、高分子材料等の粘性体は主に緩和現象に起因する減衰で、それぞれ減衰の周波数特性が異なる。ここでは、減衰を要因別にそれぞれを分離することで、それらの寄与を定量的に把握できると述べられている。
【0005】
そして、超音波を送受信する方法としては、測定対象物である構造物の表面に送受信プローブを接触させる接触式の他に、非接触式としてレーザを構造物に照射し、そのレーザによって構造物に超音波を励起する方法が知られている。
【0006】
例えば、特許文献3には、単一エコーによる超音波減衰量を使用して材料特性を決定するシステムとして、試験対象に20MHzまでの低周波の広帯域超音波パルスを発生する発生レーザと、試験対象の表面の検出位置にビームを向ける検出レーザを備え、検出超音波パルスの振幅スペクトルを生成するために離散フーリエ変換を用いることが述べられている。ここでは、試験対象と同様の回折特性を有するが実質的に減衰を示さない基準対象を用い、両者の振幅スペクトルの比較から減衰量の周波数特性を求め、これをモデル式にフィッティングして材料の減衰パラメータが決定される。
【0007】
また、特許文献4には、溶接部可視化装置として、励起用レーザとプローブ用レーザとを用い、測定位置を一定のピッチで移動させ、組成の境界面の位置を検出してこれを画像化することが述べられている。そして、溶接部の接合材に発生する空洞、被溶接材と接合材との界面形状、接合材又は被溶接材と大気との界面形状等は、小さなものであるので、それに合わせて小さい波長の超音波を用いることがよく、具体的には溶接部の表面に発生した50MHz以上の周波数を有する超音波振動のみを抽出して画像化する。
【0008】
また、特許文献5には、結晶粒径分布測定装置等として、超音波発生用レーザ源と超音波検出用レーザ源とを備え、超音波減衰率と平均結晶粒径との間に一定の相関関係があることを利用し、予め結晶粒径分布に関するパラメータを複数種類設定し、それらについて特定周波数の変化に対する超音波減衰率の変化を計算し、実測の減衰率特性と比較して、結晶粒径分布を求めることが述べられている。ここでは、周波数は25MHzまであるいは50MHzまでのものが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−64574号公報
【特許文献2】特開平5−333003号公報
【特許文献3】特表2008−545123号公報
【特許文献4】特開2007−57485号公報
【特許文献5】特開2005−300356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、測定対象である構造物の内部状態を知るために超音波技術が用いられている。特許文献1では、超音波検出信号の高調波成分の様子を画像化し、特許文献2では、超音波検出信号の減衰要素を分離すること、特許文献3では超音波検出信号の回折特性を除去すること、特許文献4では欠陥の大きさに合わせて50MHz以上の超音波検出信号を用いること、特許文献5では、複数の超音波周波数についての減衰特性から結晶粒径を測定することが述べられている。
【0011】
本発明の目的は、従来技術よりもさらに精度よく、測定対象である構造物の内部状態を計測することを可能とする構造物内部状態計測システム及び構造物内部状態計測方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、実験によって得られた知見に基づいている。すなわち、測定対象として、接合部として溶融部とその周囲の熱影響部とを有する構造物を用い、測定対象である構造物に超音波を導入した。そして超音波検出信号を取得する位置を測定位置として、測定対象の構造物に対し測定位置を相対的に順次変更させながら走査し、構造物内部を伝播した超音波を検出し、その超音波検出信号に基づく信号波形について周波数解析し、周波数に対するゲインまたは位相の関係であるスペクトル分布を求めた。そして、ゲインスペクトル分布または位相スペクトル分布の変化のあるところを調べると、接合部の領域等を計測できることが分かった。
【0013】
特に、超音波検出信号に基づく信号波形として、構造物に対し入力された入力超音波信号とその入力超音波信号に対応して出力された出力超音波信号について求められる伝達関数の関数波形を用いるときは、接合部における溶融部と熱影響部とを区別してその領域を計測できることが分かった。
【0014】
また、測定対象の構造物の内部を超音波供給部から超音波検出部に向かって超音波が伝播して1往復する時間である往復伝播時間の整数であるn倍の時間のところに現れる超音波振動信号群をn次振動信号群として、これらを超音波検出信号に関する信号波形とするときは、接合部の測定方向と深さ方向とについての2次元輪郭形状が計測できることが分かった。以下の手段は、これらの知見を実際に具現化するものである。
【0015】
すなわち、本発明に係る構造物内部状態計測システムは、接合部として溶融部とその周囲の熱影響部とを有する測定対象の構造物に超音波を印加供給する超音波供給部と、測定対象の構造物の内部を伝播する超音波振動を検出して超音波検出信号を出力する超音波検出部と、超音波検出信号を取得する位置を測定位置として、超音波供給部と超音波検出部とを同期させ、測定対象の構造物に対し測定位置を相対的に順次変更させながら走査する走査機構部と、超音波検出信号に基づく信号波形を周波数解析し、周波数に対するゲインまたは位相の関係であるスペクトル分布を出力する信号処理部と、走査機構部によって測定位置を変更して走査しながら、信号処理部によって出力されるスペクトル分布を取得し、測定位置とスペクトル分布との関係に基づいて、測定対象の構造物の内部における接合部または溶融部または熱影響部の領域輪郭を計測する内部計測部と、を備えることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る構造物内部状態計測システムは、接合部として溶融部とその周囲の熱影響部とを有する測定対象の構造物に超音波を印加供給する超音波供給部と、測定対象の構造物の内部を伝播する超音波振動を検出して超音波検出信号を出力する超音波検出部と、超音波検出信号を取得する位置を測定位置として、超音波供給部と超音波検出部とを同期させ、測定対象の構造物に対し測定位置を相対的に順次変更させながら走査する走査機構部と、超音波検出信号に基づく信号波形として、構造物に対し入力された入力超音波信号とその入力超音波信号に対応して出力された出力超音波信号について求められる伝達関数の関数波形を用い、伝達関数についての周波数に対する位相の関係である位相スペクトル分布を出力する信号処理部と、走査機構部によって測定位置を変更して走査しながら、信号処理部によって出力される位相スペクトル分布を取得し、全周波数帯域にわたって、予め求められている母材の位相よりも位相が変化する測定位置の部位を熱影響部の領域として計測する内部計測部と、を備えることを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る構造物内部状態計測システムは、接合部として溶融部とその周囲の熱影響部とを有する測定対象の構造物に超音波を印加供給する超音波供給部と、測定対象の構造物の内部を伝播する超音波振動を検出して超音波検出信号を出力する超音波検出部と、超音波検出信号を取得する位置を測定位置として、超音波供給部と超音波検出部とを同期させ、測定対象の構造物に対し測定位置を相対的に順次変更させながら走査する走査機構部と、超音波検出信号に基づく信号波形として、構造物に対し入力された入力超音波信号とその入力超音波信号に対応して出力された出力超音波信号について求められる伝達関数の関数波形を用い、伝達関数についての周波数に対するゲインの関係であるゲインスペクトル分布を出力する信号処理部と、走査機構部によって測定位置を変更して走査しながら、信号処理部によって出力されるゲインスペクトル分布を取得し、周波数に対しゲインが単調減少特性あるいは平坦特性を有する測定位置の部位を、熱影響部の領域として計測する内部計測部と、を備えることを特徴とする
【0018】
また、本発明に係る構造物内部状態計測システムにおいて、信号処理部は、さらに、伝達関数についての周波数に対するゲインの関係であるゲインスペクトル分布を出力し、内部計測部は、母材のゲイン最大となる周波数を予め求めてこれを母材固有伝播周波数とし、母材固有周波数よりも低い周波数でゲイン最大となる部位を、溶融部の領域であるとして計測することが好ましい。
【0019】
また、本発明に係る構造物内部状態計測システムにおいて、内部計測部は、母材のゲイン最大となる周波数を予め求めてこれを母材固有伝播周波数とし、母材固有周波数よりも低い周波数でゲイン最大となる部位を、溶融部の領域であるとして計測することが好ましい。
【0020】
また、本発明に係る構造物内部状態計測システムは、接合部として溶融部とその周囲の熱影響部とを有する測定対象の構造物に超音波を印加供給する超音波供給部と、測定対象の構造物の内部を超音波供給部から超音波検出部に向かって超音波が伝播して1往復する時間である往復伝播時間の整数であるn倍の時間のところに現れる超音波振動信号群をn次振動信号群として、予め定めた複数のn次振動信号群を検出してこれらを超音波検出信号に関する信号波形として出力する超音波検出部と、超音波検出信号を取得する位置を測定位置として、超音波供給部と超音波検出部とを同期させ、測定対象の構造物に対し測定位置を相対的に順次変更させながら走査する走査機構部と、超音波検出部から出力された複数のn次振動信号群について周波数解析し、周波数に対するゲインの関係であるゲインスペクトル分布を求めるときに、往復伝播時間に対応する共振周波数を単位として離散的に現れる複数のゲインスペクトル分布を出力する信号処理部と、走査機構部によって測定位置を変更して走査しながら、信号処理部によって出力される複数のゲインスペクトル分布を取得し、ゲインが予め定めた閾値ゲイン以下となってゲインスペクトルが離散的に現れなくなる測定位置と周波数の組み合わせの軌跡に基づいて、接合部の測定方向と深さ方向とについての2次元輪郭形状を計測する内部計測部と、を備えることを特徴とする。
【0021】
また、本発明に係る構造物内部状態計測システムにおいて、内部計測部は、さらに、
ゲインスペクトル分布が離散的に現れる間隔である共振周波数と、測定対象の構造物の内部を伝播する超音波の速度である伝播音速とに基づいて算出される超音波の1往復距離の半分の長さを、測定対象の構造物の超音波伝播方向の厚さ寸法として計測することが好ましい。
【0022】
また、本発明に係る構造物内部状態計測システムにおいて、超音波供給部は、測定対象の構造物の表面にレーザを照射し、これによって構造物内部に超音波を励起するレーザ照射手段であることが好ましい。
【0023】
また、本発明に係る構造物内部状態計測システムにおいて、超音波検出部は、測定対象の構造物の表面または裏面に設けられ、構造物の表面または裏面の超音波振動を検出する圧電素子であることが好ましい。
【0024】
また、本発明に係る構造物内部状態計測システムにおいて、超音波検出部は、測定対象の構造物の表面または裏面に設けられ、構造物の表面または裏面の超音波振動を検出する光学的干渉計であることが好ましい。
【0025】
また、本発明に係る構造物内部状態計測システムは、接合部として溶融部とその周囲の熱影響部とを有する測定対象の構造物に超音波を印加供給する超音波供給工程と、測定対象の構造物の内部を伝播する超音波振動を検出して超音波検出信号を出力する超音波検出工程と、超音波検出信号を取得する信号取得位置を測定位置として、超音波供給部と超音波検出部とを同期させ、測定対象の構造物に対し測定位置を相対的に順次変更させながら走査する走査工程と、超音波検出信号を周波数解析し、周波数に対するゲインまたは位相の関係であるスペクトル分布を出力する信号処理工程と、走査工程によって測定位置を変更して走査しながら、信号処理工程によって出力されるスペクトル分布を取得し、測定位置を変更したときにスペクトル分布が変化する様子をマップ化するマップ表示工程と、マップ化表示における測定位置とスペクトル分布との関係に基づいて、測定対象の構造物の内部における溶融部または熱影響部の領域輪郭を計測する内部計測工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
上記構成の少なくとも1つにより、構造物内部状態計測にあたっては、測定対象である構造物に超音波を導入し、構造物内部を伝播した超音波を検出し、その超音波検出信号に関する信号波形を周波数解析してスペクトル分布を求め、そして、測定位置を変更してスペクトル分布の変化を見る。ゲインスペクトル分布の変化は超音波減衰量の変化に対応し、位相スペクトル分布の変化は例えば金属組織の歪状態の変化に対応するので、スペクトル分布の変化と測定位置とを関連付けて計測することで、接合部全体、溶融部、熱影響部の領域を計測することができる。
【0027】
上記構成の少なくとも1つにより、超音波検出信号に基づく信号波形として、構造物に対し入力された入力超音波信号とその入力超音波信号に対応して出力された出力超音波信号について求められる伝達関数の関数波形を用い、伝達関数についての周波数に対する位相の関係である位相スペクトル分布を取得する。位相スペクトルの変化は、金属組織の歪状態の変化に対応付けられるので、測定位置を変更して走査するときに、全周波数帯域にわたって、予め求められている母材の位相よりも位相が変化する測定位置の部位を、熱影響部の領域として計測する。このように、接合部を構成する溶融部と熱影響部とを区別して、その領域を計測することができる。
【0028】
また、伝達関数についての周波数に対するゲインの関係であるゲインスペクトル分布を取得して、周波数に対しゲインが単調減少特性あるいは平坦特性を有する測定位置の部位を、熱影響部の領域として計測する。ゲインスペクトル分布の変化は、超音波減衰量の変化に対応するが、熱影響部は、溶融部と母材の間の遷移領域であるので、様々に変質した材料組織が混在するため、周波数に対しゲインが単調減少特性あるいは平坦特性を有する。そこで、そのような特性を有する測定位置の部位を、熱影響部の領域として計測することができる。
【0029】
また、ゲインスペクトル分布を取得して、母材のゲイン最大となる周波数を予め求めてこれを母材固有伝播周波数とし、母材固有周波数よりも低い周波数でゲイン最大となる部位を、溶融部の領域であるとして計測する。溶融部は、溶接の熱によって結晶粒の大きさが母材よりも大きくなり、これによって溶融部は母材よりもより低い周波数で減衰量の最小値をとる。減衰量の最小値はゲインの最大値であるので、母材固有周波数よりも低い周波数でゲイン最大となる部位を、溶融部の領域として計測することができる。
【0030】
また、構造物内部状態計測システムにおいて、共振周波数を単位として離散的に現れるゲインスペクトル分布について、ゲインが予め定めた閾値ゲイン以下となってゲインスペクトルが離散的に現れなくなる測定位置と周波数の組み合わせの軌跡に基づいて、接合部の測定方向と深さ方向についての2次元輪郭形状を計測する。
【0031】
超音波の減衰は周波数が高くなるほど大きくなる。換言すれば、同じ減衰量で比較すると、超音波減衰率の大きい材料組織の方が、超音波減衰率の小さい材料組織に比べ、より低周波側で減衰することになる。ここで、予め定めた閾値ゲインを用いると、閾値ゲイン以下となる周波数は、閾値ゲインに対応する閾値減衰量以上となる周波数であるので、その周波数は、超音波減衰率の大きいほど、低周波側となる。超音波減衰率の異なる複数の材料組織が混在する場合には、全体の板厚に占めるそれぞれの部分の長さに応じて、ゲインスペクトル分布が定まる。
【0032】
このように、ゲインに着目すると、全体の板厚に占める超音波減衰率の高い材料組織の部分の長さが長いほど、ゲインが小さくなり、したがって、ゲイン閾値以下となる周波数も低周波側となる。つまり、低周波側でゲインスペクトル分布が現れなくなる。このように、ゲイン閾値を設定したときにゲインスペクトル分布が現れなくなる周波数をみることで、全体の板厚に占める超音波減衰率の高い材料組織の部分の長さの割合を知ることができる。
【0033】
全体の板厚に占める超音波減衰率の高い材料組織の部分の長さの割合とは、超音波減衰率の高い材料組織の深さ方向の寸法であるので、ゲイン閾値を設定したときに離散化されたゲインスペクトル分布が現れなくなる周波数を求めることで、超音波減衰率の高い材料組織の深さ方向の寸法を間接的に計測できることになる。これに測定位置を組み合わせて、超音波減衰率の高い材料組織の測定方向と深さ方向とについての2次元輪郭形状を計測することができる。例えば、超音波減衰率の低い母材に比べ、超音波減衰率の高い接合部の測定位置と深さ方向とについての2次元輪郭形状を計測することができる。
【0034】
なお、構造物内部状態計測システムにおいて、ゲインスペクトル分布が離散的に現れる間隔である共振周波数と、測定対象の構造物の内部を伝播する超音波の速度である伝播音速とに基づいて算出される超音波の1往復距離の半分の長さを、測定対象の構造物の超音波伝播方向の厚さ寸法として計測する。例えば、構造物が板材として、その板材の厚さ方向に超音波を伝播させる場合には、超音波の1往復距離の半分が構造物である板材の板厚として計測することができる。
【0035】
また、構造物内部状態計測システムにおいて、超音波供給部は、測定対象の構造物の表面にレーザを照射し、これによって構造物内部に超音波を励起するレーザ照射手段であるので、非接触で構造物に超音波を印加供給できる。したがって、構造物の表面が凹凸、あるいは複雑な形状をしていても、その内部状態を計測できる。また、レーザビームを絞ることで、空間的な測定分解能を向上させることができる。
【0036】
また、構造物内部状態計測システムにおいて、超音波検出部は、測定対象の構造物の表面または裏面に設けられ、構造物の表面または裏面の超音波振動を検出する圧電素子である。従来から知られていて実績のある超音波受信手段を用いることが可能となる。
【0037】
また、構造物内部状態計測システムにおいて、超音波検出部は、測定対象の構造物の表面または裏面に設けられ、構造物の表面または裏面の超音波振動を検出する光学的干渉計である。したがって、構造物の表面が凹凸、あるいは複雑な形状をしていても、その内部状態を計測できる。また、測定のための光学的ビームを絞ることで、空間的な測定分解能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る実施の形態における構造物内部状態計測システムの構成を説明する図である。
【図2】本発明に係る実施の形態において、レーザを用いた超音波供給部の構成を説明する図である。
【図3】本発明に係る実施の形態において、適用される測定対象の構造物の例を説明する図である。
【図4】本発明に係る実施の形態において、超音波検出信号の例を説明する図である。
【図5】図5における1次振動信号群の周波数解析の結果のうち、高周波側の周波数帯域における周波数解析を中心として説明する図である。
【図6】図5について測定位置を変更して走査し、その結果を横軸に測定位置、縦軸に周波数をとり、ゲインスペクトル分布を等高線分布として示す図である。
【図7】本発明に係る実施の形態において、図4から図6の結果を裏付けるために行ったシミュレーションを説明する図である。
【図8】図7のシミュレーションの結果を説明する図である。
【図9】本発明に係る実施の形態において、伝達関数を求める際の入力信号と出力信号の様子を説明する図である。
【図10】本発明に係る実施の形態において、伝達関数を求める際の入力信号の様子を説明する図である。
【図11】本発明に係る実施の形態において、伝達関数を求める際の出力信号の様子を説明する図である。
【図12】本発明に係る実施の形態において、伝達関数を求めるときの入力信号と出力信号との関係を模式的に説明する図である。
【図13】図9に基づいて求めた伝達関数の周波数応答特性におけるゲイン特性と測定位置との関係を示す図である。
【図14】図9に基づいて求めた伝達関数の周波数応答における位相特性と測定位置との関係を示す図である。
【図15】図13、図14の結果を構造物の材料組織と関連付けて説明する模式図である。
【図16】本発明に係る実施の形態において、伝達関数についての周波数解析から得られる周波数とゲインとの関係を示すゲインスペクトル分布を説明する図である。
【図17】本発明に係る実施の形態において、伝達関数についての周波数解析から得られる周波数と位相との関係を示す位相スペクトル分布を説明する図である。
【図18】図16、図17の結果を構造物の材料組織と関連付けて説明する模式図である。
【図19】本発明に係る実施の形態において、伝達関数についての周波数解析から得られるゲインスペクトル分布、位相スペクトル分布に基いて、構造物の内部状態を計測する手順を示すフローチャートである。
【図20】本発明に係る実施の形態において、測定対象の構造物を溶接された部材として、その内部状態の計測のために、複数のn次振動信号群を用いる場合の様子を説明する図である。
【図21】図20において、周波数解析を行う範囲の超音波検出信号の様子を説明する図である。
【図22】図20における1次から4次までの振動信号群の周波数解析を行い、さらに測定位置を変更して走査した結果について、横軸に測定位置、縦軸に周波数をとり、スペクトル分布を等高線分布として示す図である。
【図23】図22の結果をモデル的に説明する図である。
【図24】本発明に係る実施の形態において、測定対象の構造物を均一な内部状態の基準部材として、その内部状態の計測のために、複数のn次振動信号群を用いる場合の様子を説明する図である。
【図25】図24において、周波数解析を行う範囲の超音波検出信号の様子を説明する図である。
【図26】図25における1次から4次までの振動信号群の周波数解析を行い、さらに測定位置を変更して走査した結果について、横軸に測定位置、縦軸に周波数をとり、スペクトル分布を等高線分布として示す図である。
【図27】本発明に係る実施の形態において、複数のn次振動信号群に基いて、構造物の内部状態を計測する手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下では、超音波供給部として、測定対象である構造物の表面に集光してレーザを照射し、構造物の内部に超音波を励起するものを説明するが、これ以外の超音波供給装置を用いてもよい。例えば、レーザ照射についてその焦点を構造物の表面から離れたところに設定し、レーザによってプラズマを構造物の表面から離れたところを起点として発生させ、そのプラズマによって超音波を構造物表面に励起させてもよい。その際に、構造物の表面に平行にレーザ光を放射し、焦点を構造物の表面から離れたところに設定するものとしてもよい。また、超音波励起を、放電、マイクロ波照射等によって行うものとしてもよい。また、圧電素子等を用いた超音波送信装置を構造物に接触させる構成としてもよい。また、構造物を水中、油中等の媒体中に配置するものとしてもよい。
【0040】
以下では、超音波検出部として、圧電素子を用いた接触式の超音波受信装置、レーザ干渉計を用いた振動検出装置を説明するが、これら以外の振動検出装置を用いてもよい。例えば、光電式位置検出装置、静電容量型位置検出装置、磁気式位置検出装置等を用いて構造物の表面の変位を検出し、これによって振動を検出するものとしてもよい。
【0041】
以下では、測定対象の構造物として、円板状の2枚の板をスポット溶接したものを説明するが、勿論、これは説明のための一例であって、様々な形態の溶接構造物、接合構造物、加工構造物等を測定対象の構造物とすることができる。また、以下では、母材組織に対し、超音波減衰度が高い領域である接合部組織を計測することを述べるが、場合によって、例えば、加工によって逆に超音波減衰度が低くなるようなときには、母材に対し、超音波減衰度が低い領域を計測するものとしてもよい。
【0042】
また、以下で説明する材質、寸法、超音波周波数、共振周波数等は、説明のために一例であって、構造物内部状態計測の測定対象である構造物の内容、計測の仕様に応じて適宜変更することができる。
【0043】
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0044】
図1は、構造物内部状態計測システム20の構成を説明する図である。図1には、構造物内部状態計測システムを構成しないが、測定対象である構造物10が示されている。構造物10の代表例については図3を用いて後述する。構造物内部状態計測システム20は、構造物10に超音波振動を供給し、その超音波振動が構造物10を伝播する様子を解析することで構造物10の内部状態を計測する機能を有する計測システムである。
【0045】
構造物内部状態計測システム20は、構造物10に超音波を印加供給する超音波供給部30と、構造物10の内部を伝播する超音波振動18を検出して超音波検出信号を出力する超音波検出部40と、構造物10を移動可能に支持する試料保持部44と、試料保持部44を移動させる走査機構部46と、超音波検出部40からの超音波検出信号を受け取って表示するオシロスコープ52と、オシロスコープ52を介して超音波検出信号に対し信号処理を行って構造物10の内部状態の計測を行いその結果を表示する信号処理表示部54とを含んで構成される。
【0046】
ここで、超音波供給部30と超音波検出部40とは、超音波が供給される位置と超音波が検出される位置とが向い合うように予め相対位置が合わせこまれ、その向い合う位置が測定対象に対する測定位置とされ、その状態で一体的に固定されている。したがって、走査機構部46は、超音波供給部30と超音波検出部40とを同期させ、構造物10に対し測定位置を相対的に順次変更させながら走査する機能を有することになる。
【0047】
また、オシロスコープ52と信号処理表示部54とは、構造物10の内部を伝播する超音波信号の様子を解析して、構造物10の内部状態を計測する機能を有するので、これらが内部計測部50を構成する。構造物10の内部状態の計測としては、構造物10のナゲットと呼ばれる溶接溶融部の寸法計測等があげられる。
【0048】
超音波供給部30は構造物10に超音波を供給する機能を有するが、ここでは、構造物10にレーザを照射することで構造物10の内部に超音波を励起させる非接触式の超音波印加供給が行われる。すなわち、超音波供給部30は、構造物10の表面に集光してレーザを照射する装置であって、そのレーザ集光によって構造物10の表面に熱歪み、または溶融であるアブレーションを発生させ、これらによって超音波を構造物10に励起させる。
【0049】
このように、構造物10に接触することなしに超音波を供給できるので、構造物10の表面が複雑な形状をしていても、超音波供給を安定して行うことができる。また、レーザが集光する狭い領域に超音波を励起できるので、構造物10の内部状態について、細かい空間分解能で計測が可能となる。
【0050】
図2は、超音波供給部30の詳細な構成を説明する図である。超音波供給部30は、レーザ光源32と、レーザ光源32から放射されるレーザ光を2方向に分けるためのハーフミラー34と、2方向に分けられた一方のレーザ光を用いてレーザ光のパワーを計測するパワーメータ36と、2方向に分けられた一方のレーザ光を集光する集光レンズ38を含んで構成される。集光レンズ38によって集光されたれーザ光が、測定対象である構造物10に供給される励起用の入射光39となる。
【0051】
レーザ光源32は、YAGレーザ装置を用いることができる。例えば、波長を532nmのレーザ光を、パルス幅6ns、供給エネルギ4mJに制御して放射する装置を用いることができる。YAGレーザの代わりに、炭酸ガスレーザ等の高エネルギパルスレーザ装置を用いてもよい。また、場合によっては、連続レーザ、長波長レーザ等を用いてもよい。レーザ光源32からハーフミラー等の光学系へは、例えば光ファイバを用いてレーザ光を導くものとできる。
【0052】
ハーフミラー34は、半透過光学素子で、上記のようにレーザ光源32から導かれるレーザ光を透過させて集光レンズへ導く機能と、レーザ光源32から導かれる光の一部を反射させてパワーメータ36に導く機能とを有する。
【0053】
集光レンズ38は、凸レンズ等の光学素子で、例えば平行光線を焦点に集光する機能を有する。したがって、焦点位置を構造物10の表面になるように設定することで、励起用の入射光39は、構造物10の表面に焦点が合わされ、極めて狭い領域に大きな光エネルギを集めて照射することができる。例えば、構造物10の表面において、数10μmの直径を入射光39の照射領域とすることができる。
【0054】
図1に戻り、超音波検出部40は、構造物10の内部を伝播する超音波の様子を検出する機能を有するが、ここでは、構造物10の表面の超音波振動を検出する機能を有する。超音波検出部40としては、構造物10の表面の超音波振動を検出するために、狭い接触面積を先端に有するプローブ41を備える圧電素子型の超音波受信装置を用いることができる。先端の接触面積としては、例えば0.5mmの直径のものとできる。また、構造物10とプローブ41が滑らかに接触しながら相対的に移動できるように、構造物10とプローブ41の先端部との間に油、あるいは水等の適当な媒体を介在させることが好ましい。
【0055】
なお、超音波検出部40を非接触型としたいときは、光干渉計を用いることができる。光干渉計は、構造物10の表面に測定用レーザ光を照射し、構造物10の表面から反射されてくる反射レーザ光の振動数が構造物10の表面の振動に応じて変化することを検出する変位検出装置である。かかる光干渉計としては、2つの反射鏡を備えるファブリ・ペロー干渉計等を用いることができる。
【0056】
図1に示される筐体22は、超音波供給部30と超音波検出部とを位置合わせして固定する機能を有する架台である。超音波供給部30と超音波検出部との位置合わせによって、超音波供給部30から供給され、構造物10の内部を伝播して超音波検出部40によって検出される超音波振動18の往復距離が規定される。図1の例では、超音波検出部40が超音波供給部30と向い合わされて設定されるので、超音波供給部30の励起用の入射光39の光軸と、超音波検出部40のプローブ41の中心軸とが同軸となるように設定され、励起用の入射光39の焦点位置と、プローブ41の接触位置との間の距離が、超音波振動18の往復距離の1/2となる。
【0057】
図1では、超音波供給部30と超音波検出部40とが構造物10の表裏に対し互いに反対側に配置され、励起用の入射光39の光軸とプローブ41の中心軸が互いに向い合って同軸となる対向型のものとして説明したが、これを平行型のものとしてもよい。すなわち、超音波供給部30と超音波検出部40とが構造物10の表裏に対し互いに同じ側に配置され、励起用の入射光39の光軸とプローブ41の中心軸とが互いに平行となるようにしてもよい。また、励起用の入射光の構造物10の表面に対する角度である入射角は90度、すなわち垂直入射としてもよく、また、90度以外の斜め入射であってもよい。
【0058】
走査機構部46は、筐体22に対し相対的位置が固定される関係で設置され、試料保持部44を移動駆動する機能を有するアクチュエータ装置である。具体的には、走査機構部46を筐体22に取り付け、走査機構部46の移動体を延長してこれを試料保持部44とし、あるいは移動体に試料保持部44を取り付けるものとできる。走査機構部46としては、ステッピングモータ、リニアモータ等を用いることができる。
【0059】
上記で述べた対向型の場合も、平行型の場合も、超音波供給部30と超音波検出部40の相対的位置関係が位置決めされて、走査機構部46によって同期して移動可能とされることは同じである。そして、超音波検出部40のプローブ41の接触位置が超音波振動18を検出する測定位置となるので、走査機構部46は、超音波検出信号を取得する位置を測定位置として、超音波供給部30と超音波検出部40とを同期させ、測定対象の構造物10に対し測定位置を相対的に順次変更させながら走査する機能を有する装置であることになる。
【0060】
走査機構部46は、例えば、一方向に0.5mmピッチで試料保持部44、すなわち構造物10を移動走査するものとできる。また、一方向に走査するのみならず、平面内の任意の位置に移動走査するものとしてもよい。その場合には、走査機構部46は、例えばX軸方向移動用のモータと、X軸に垂直な方向であるY軸方向移動用のモータ等を備える構成とすることができる。
【0061】
内部計測部50を構成するオシロスコープ52は、超音波検出部40によって検出された構造物10の表面の振動を示す信号を超音波検出信号として表示する機能を有するオシロスコープである。例えば、横軸に時間、縦軸に電圧をとり、電圧に変換された超音波検出信号の時間的変化を表示することができる。
【0062】
なお、表示に当たって、超音波供給部30から供給される超音波パルスの供給タイミングとの同期を取るために、超音波供給部30からトリガ信号がオシロスコープ52に伝送される。オシロスコープ52としては、例えば1GHz帯域で、サンプリングレートが0.1nsの機能を有するディジタルオシロスコープ等を用いることができる。
【0063】
信号処理表示部54は、オシロスコープ52においてサンプリングレートごとに取得されるディジタルの超音波検出信号を処理し、構造物10の内部状態の計測値として出力する機能を有する演算装置である。かかる信号処理表示部54は、信号処理に適したコンピュータ等を用いることができる。
【0064】
具体的には、取得された超音波検出信号に基く信号波形を周波数解析し、周波数に対するゲインまたは位相の関係であるスペクトル分布を出力する信号処理機能を有する。周波数解析には高速フーリエ解析を用いることができる。また、走査機構部46によって測定位置を変更して走査しながら、信号処理機能によって出力されるスペクトル分布を取得し、測定位置とスペクトル分布との関係に基づいて、測定対象の構造物10の内部で母材と異なる組織の領域を計測する内部計測機能を有する。これらの詳細な内容については後述する。
【0065】
これらの機能は、ソフトウェアを実行することで実現でき、具体的には、構造物内部状態計測プログラムを実行することで実現できる。上記機能の一部をハードウェアによって実現するものとしてもよい。
【0066】
ここで、測定対象である構造物10の例について図3を用いて説明する。図3に示される構造物10は、円板状の2枚の板材13a,13bをその中央部でスポット溶接したものである。スポット溶接された部分は接合部14として示されている。
【0067】
2枚の板材13a,13bは、高抗張力鋼で、SPC590として知られているものである。2枚の板材13a,13bは上記のように中央部でスポット溶接されるので、その部分は、元々のSPC590の材料組織と異なってくる。上記のように、このスポット溶接した部分を接合部14と呼ぶこととするので、以下では、2枚の板材13a,13bと呼ぶときは、元々のSPC590の材料組織を有する部分を指すものとする。その意味で、以下における2枚の板材13a,13bとは、SPC590の材料組織を有する基材あるいは母材12のことである。
【0068】
図3には、中央部の拡大図も合わせて示されているが、接合部14は大別して2つの部分から構成されている。すなわち、接合部14は、母材12とは材料組織が異なる溶融部16と、溶融部16と基材との間の熱影響部17とから構成される。溶融部16は、2枚の板材13a,13bがスポット溶接による溶接エネルギによって基材の材料が溶融し、互いに混ざり合いながら接合された部分である。溶融部16は、接合技術としてスポット溶接技術を用いる場合は、ナゲット部または単にナゲットと呼ばれる部分に相当する。熱影響部17は、2枚の板材13a,13bが相互に圧接されている部分であり、母材組織と比べるとスポット溶接による熱影響を受けているが、溶融組織とは異なる材料組織である。熱影響部17は、母材12の材料組織と溶融部16の材料組織との間にある。その意味で熱影響部17は組織境界部である。
【0069】
溶融部16は、図3に示すように、楕円球体状の領域を有し、熱影響部17は、その楕円球体状の外側の薄い層としての領域となる。この両者を合わせた接合部14は、楕円球体状の3次元形状を有しているが、その寸法は、構造物10の外観からはほとんど判別できない。構造物内部状態計測システム20は、この接合部14の寸法等を計測する機能を有するものである。例えば、接合部14の直径DJ、あるいは溶融部16の直径DN、熱影響部17の幅である(DJ−DN)/2、接合部14の板厚の沿った方向と深さ方向とについての2次元輪郭形状等を計測する機能を有する。
【0070】
以下に、上記構成の作用についていくつかの例を用いて説明する。図4は、超音波検出部40によって検出された超音波振動18をオシロスコープ52に表示した時の代表的な例を示す図である。図4の横軸は時間、縦軸は超音波検出部40の出力である。時間軸の基準は、超音波供給部30においてパルス状の入射光39が出力された時間にとってある。
【0071】
図4の例では、入射光39が出力された時間を基準として、およそ0.4μs経過後に1つの超音波振動18が検出され、およそ0.8μs経過後に次の超音波振動18が検出され、およそ1.2μs経過後にさらに次の超音波振動18が検出されている。このように、およそ0.4μs間隔で、次々に超音波振動18が検出される。このように決まった時間間隔で繰り返し現れる超音波振動18は、構造物10の厚さ方向に超音波振動18が往復することに起因し、その時間間隔は、構造物10の厚さ方向の超音波振動の往復伝播時間t0に対応する。
【0072】
そこで、図4に示すように、超音波振動18が現れる順番に、1次、2次、3次、4次、5次・・n次として、これらを区別するものとする。ここで、n次の超音波振動とは、測定対象の構造物10の内部を超音波供給部30から超音波検出部40に向かって超音波振動18が伝播して1往復する時間である往復伝播時間t0の整数であるn倍の時間nt0のところで現れる超音波振動のことである。図4では、1次の超音波振動18と2次の超音波振動18との間の時間間隔をt0として示されている。なお、構造物10に供給された超音波信号が1つのパルスであっても、それが構造物10を伝播すると1つのパルスではなく、複数の複雑なパルス群となるので、n次の超音波振動18とは、実際には複数の複雑なパルスの集合である。そこで、これらをまとめてn次振動信号群と呼ぶことにする。
【0073】
最初の例は、1つのn次振動信号群を検出してこれを用いて構造物10の内部状態を計測するものである。例えば、図4の1次の超音波振動18のみを用いて構造物10の内部状態を計測する場合である。この場合には、その1つのn次振動信号群について周波数解析して、その周波数と振幅の関係であるスペクトル分布を求める。
【0074】
信号の振幅は、予め定めた基準振幅と比較することが便利であるので、(信号振幅/基準振幅)=ゲインとして、周波数と振幅の関係を周波数とゲインの関係とし、これをゲインスペクトル分布と呼ぶことにする。なお、ゲインと減衰量とは、一方が大きくなれば他方が同量だけ小さくなる関係にあるので、ゲインスペクトル分布とは、周波数と減衰量との関係も表していると考えることができる。以下では、特に断らない限り、周波数と振幅の関係、周波数とゲインの関係、周波数と減衰量の関係をいずれもゲインスペクトル分布として説明する。
【0075】
図5は、1次振動信号群について、高速フーリエ解析によって求めたゲインスペクトル分布の例を示すものである。ここでゲインスペクトル分布とは、周波数に対するゲインの関係を示すものであるが、ここではさらに、測定位置との関係をも示すものである。実際に、測定位置を変更して超音波検出位置を構造物10について走査しながらゲインスペクトル分布を調べると、周波数が40MHz以上で、測定位置によるゲインスペクトル分布の相違が顕著に観察された。そこで、その様子を示すため、図5では、横軸を20MHz以上の範囲としてある。測定位置=0mmとは、図3で説明した構造物10の中心位置であり、スポット溶接が行なわれた中心位置であり、溶融部16等の部分に相当する位置である。測定位置=6mmとは、中心位置からX方向に6mm移動した位置で、スポット溶接の経験上、その影響が及んでいない母材12の部分と考えられる位置である。
【0076】
図5に示されるように、周波数がおよそ25MHz、およそ45MHz、およそ65MHzのところに、相対的スペクトル強度のピークが観察される。ここでは、周波数がおよそ25MHzのピークが高速フーリエ解析における基本波の周波数である基本周波数に相当し、周波数がおよそ45MHz、およそ65MHzのピークは、基本周波数よりも高周波側の周波数帯域に現れている。
【0077】
そして、基本周波数成分のところにおいては、測定位置=6mmの相対的スペクトル強度に対し、測定位置=0mmの相対的スペクトル強度は、約80%程度となっている。これに対し、基本周波数よりも高周波側の周波数帯域においては、測定位置=6mmの相対的スペクトル強度に対し、測定位置=0mmの相対的スペクトル強度は、約1/2以下となっている。
【0078】
このように、基本周波数よりも高周波側の周波数帯域におけるゲインスペクトル分布は、測定位置によって、すなわち、構造物10の内部状態によって大きく変化することが分かる。したがって、その変化を明確にすることで、構造物10の内部状態における2つの状態の境界を明確にでき、その境界で囲まれた領域の寸法等を計測できることになる。
【0079】
図6は、横軸に測定位置、縦軸に周波数をとり、(測定位置,周波数)で規定される各点のそれぞれについて、ゲインスペクトル分布、すなわちゲインの大きさを等高線法によって示したものである。図6の例では、等高線で囲まれていないバックグランドの部分が最もゲインが小さく、すなわち最も減衰量が大きく、等高線で囲まれている部分については、外側から内側に向かうほどゲインが大きく、減衰量がより小さくなる。図6では、等高線の内部は3つに区分されていて、黒く塗りつぶした部分が最もゲインが大きく、斜線を付した部分は黒く塗りつぶした部分よりもゲインが小さく、何も付されていない部分は斜線を付した部分よりもゲインが小さいが、等高線の外側の部分よりもゲインが大きい。
【0080】
図6の表記法は、測定位置と周波数とゲインとを1つのマップにしたものであるので、これを周波数特性マップと呼ぶことにすると、周波数特性マップを用いることで、基本周波数よりも高周波側の周波数帯域におけるゲインスペクトル分布の変化が視覚的に把握できる。例えば、図6の例では、基本周波数よりも高周波側の周波数帯域において、測定位置が−2mmから+3mmの間の約5mmの領域で、その外側の領域に比べ、ゲインが著しく低下していることが分かる。このように、周波数特性マップを用いることで、特定の領域がその周辺の領域に比べ、ゲインスペクトル分布が相違することを容易に認識することができる。
【0081】
図6の結果をより定量的に扱うには、基本周波数よりも高周波側の周波数帯域におけるゲインスペクトル分布について、予め基準となる閾値ゲインを設定して、その閾値ゲインとの大小を比較すればよい。そして、予め定めた閾値ゲイン以下のゲインとなる測定位置の範囲の長さを計測し、その結果を、超音波減衰が予め定めた基準と異なる内部状態の領域の測定方向に沿った長さ寸法として出力することができる。図6の例では、母材のゲインを閾値ゲインとして、超音波減衰が予め定めた閾値ゲインと異なる内部状態の領域の測定方向に沿った長さ寸法Wを5mmと計測することができる。このWは、母材12と異なる材料組織の領域を示すものであるので、図3で説明した接合部14の直径であるDJに対応することになる。
【0082】
このようにして、母材12の材料組織と接合部14の材料組織との間の境界線を計測できる。すなわち、基本周波数よりも高周波側の周波数帯域のゲインスペクトル分布において、閾値ゲイン以下となる測定位置の範囲を計測することで、接合部14と母材12との境界線について計測を行うことができる。
【0083】
図7、図8は、上記で述べたことを裏付けるために行ったシミュレーションを説明する図である。ここでは、2つの相互に異なる材料組織に同じ超音波パルスを入射したときの1次超音波振動の様子を比較した。2つの相互に異なる材料組織として、スポット溶接を全く行わない母材として高抗張力鋼SPC590に対応する材料組織と、スポット溶接を行ったときのナゲットに対応する材料組織とを用いた。
【0084】
高抗張力鋼590である母材に対応する材料組織の超音波減衰率を5.7e−3(db/cm/MHz)とし、ナゲットに対応する材料組織の超音波減衰率を5.7e−2(db/cm/MHz)とした。音速はいずれも5,900m/sとした。いずれの材料組織を有する材料もその厚さを1mmとし、入力超音波は、20MHzに相当する単発パルスとした。
【0085】
図7は、オシロスコープ52の表示に対応するもので、横軸に時間、縦軸に相対的出力をそれぞれとって、入力超音波パルス、母材の材料組織を有する材料に対する超音波検出信号、溶融部の材料組織を有する材料に対する出力である超音波検出信号をそれぞれ示す図である。ここでは、1次と2次の超音波振動に対応する波形が示されている。1次と2次の超音波振動の間の時間差は、超音波が材料中を1往復伝播する往復伝播時間である。図7から分かるように、溶融部の材料組織を有する材料に対する超音波検出信号は、母材の材料組織を有する材料に対する超音波検出信号に比較して波形が歪む。
【0086】
図8は、図7の超音波検出信号を周波数解析した結果を示すもので、横軸が周波数、縦軸が振幅の相対的スペクトル強度である。図8から分かるように、基本波の周波数である基本周波数における相対的スペクトル強度は、母材の材料組織を有する材料とナゲットの材料組織を有する材料とでおよそ10%の相違である。これに対し、基本周波数よりも高周波側の周波数帯域における溶融部の材料組織を有する材料の相対的スペクトル強度は、母材の材料組織を有する材料の相対的スペクトル強度の約1/2から1/3である。このように、振幅に関する相対的スペクトルは、基本周波数よりも高周波側の周波数帯域において、母材の材料組織と溶融部の材料組織の相違が顕著に現れる。このシミュレーションによって、図4から図6の実験結果が裏付けられた。
【0087】
上記では、スペクトル分布として、超音波検出信号をそのままフーリエ解析して得られるゲインスペクトル分布を用いている。次の例は、スペクトル分布として、伝達関数についての周波数解析を行い、その周波数に対する位相の関係である位相スペクトル分布を用いるものである。
【0088】
図9は、伝達関数を求める際の入力信号と出力信号の様子を説明する図である。図9は図4と同様の図で、横軸は時間、縦軸は超音波検出部40の出力である。時間軸の基準は、超音波供給部30においてパルス状の入射光39が出力された時間にとってある。図4と同様に、ここでも、入射光39が出力された時間を基準として、ある時間間隔で次々に超音波振動18が検出される。パルス状の入射光39によって構造物10に初めて超音波振動が発生するので、伝達関数の計算に用いる入力超音波信号としては、1次の超音波検出信号を用い、出力超音波検出信号としては2次の超音波検出信号を用いる。すなわち、1次の超音波検出信号を構造物10に対し入力された入力超音波信号として扱う。
【0089】
伝達関数についての周波数解析は、次の手順に沿って行われる。すなわち、構造物10に対し入力された入力超音波信号を取得する。いまの場合、図9の1次の超音波検出信号を入力超音波信号とするので、この1次の超音波検出信号の信号波形を取得する。同様に、その入力超音波信号に対応して出力された出力超音波信号を取得する。いまの例では、図9の2次の超音波検出信号を取得する。
【0090】
図10は、1次の超音波検出信号の信号波形の様子を示し、図11は、2次の超音波検出信号の信号波形の様子を示す図である。これらの図には、測定位置=0mm,3mm、6mmについてのそれぞれの信号波形が示されている。図12は、1次の超音波検出信号から2次の超音波検出信号への変化の様子を模式的に示す図である。ここに示されるように、接合部14を有する構造物10に超音波が印加供給されると、その入力信号波形に対し、ゲインが低下し、位相が遅れた出力信号波形となる。この変化は、伝達関数を用いることでより明確に示される。
【0091】
伝達関数について周波数解析を行うには、次のような手順による。まず、1次の超音波検出信号の信号波形を多項式近似によって多項式化する。同様に、2次の超音波検出信号の信号波形を多項式近似によって多項式化する。得られた2つの信号多項式を、(2次の超音波検出信号の多項式)/(1次の超音波検出信号の多項式)の演算によって、伝達関数の多項式を求める。こうして求められた伝達関数の多項式について周波数解析を行う。つまり、ここでは、超音波検出信号に関する信号波形として、伝達関数の多項式で与えられる波形が用いられる。周波数解析には高速フーリエ解析を用いることができる。
【0092】
図13は、図9に基づいて求めた伝達関数について周波数解析を行い、周波数に対するゲイン特性と測定位置との関係を示すゲイン特性図である。横軸が周波数、縦軸がゲインである。ここでは、測定位置として、1mm,2mm,3mm,6mmが示されている。
【0093】
図13から次のことが分かる。1つ目は、測定位置=6mmに対応する部位では、低周波側から高周波側にむけてゲインが増加し、約70MHzのところで最大となる。測定位置=6mmは、母材12の材料組織であるので、SPC590の材料においては、超音波の振動周波数が70MHzのところで減衰が最も小さく、伝播がしやすい条件となっているものと考えられる。その意味で、この減衰量が最小でゲインが最大となる周波数を、母材固有伝播周波数と呼ぶことができる。母材固有伝播周波数は、母材12の材料組織で決まるもので、予め求めておくことができる。図13の例では、母材固有伝播周波数は、70MHzである。
【0094】
2つ目は、溶融部16に対応する測定位置=1mm、2mmにおいて、これらの最大ゲインは、測定位置=6mmの部位における最大ゲイン、つまり母材12の母材固有伝播周波数におけるゲインよりも小さい。例えば、図13の例で、母材固有伝播周波数における母材12の最大ゲインは約−2.5dBであり、測定位置=1mm、2mm、3mmにおける最大ゲインは、−6dBである。その差は約3.5dBある。また、これらにおいてゲイン最大値となる周波数は、いずれも母材固有伝播周波数よりも低い。例えば、図13の例で、測定位置=1mmの部位の最大ゲインとなる周波数は約55MHzであり、測定位置=2mmの部位の最大ゲインとなる周波数は約30MHzであり、測定位置=3mmの部位の最大ゲインとなる周波数は約10MHz以下であり、いずれも母材固有伝播周波数よりも低い。そして、測定位置=1mm、2mmの間において、ゲイン特性の変化幅がかなりある。
【0095】
3つ目は、熱影響部17に対応する測定位置=3mmにおいて、周波数に対し、ゲインはほぼ平坦でやや単調減少の特性を示し、70MHz以上で急激な減少特性となり、明確なゲインのピークを有しない。
【0096】
図14は、図9に基づいて求めた伝達関数について周波数解析を行い、周波数に対する位相特性と測定位置との関係を示す位相特性図である。横軸が周波数、縦軸が位相である。ここでは、測定位置として、1mm,2mm,3mm,6mmが示されている。
【0097】
図14から次のことが分かる。すなわち、測定位置=3mmに対応する部位の位相は、他の測定位置に対応する部位の位相に比べて、全周波数帯域にわたって、位相遅れとなる。例えば、母材12に対応する測定位置=6mmにおける位相に比べて、測定位置=3mmに対応する部位の位相は、全周波数帯域において、約20度から90度の位相遅れとなっている。
【0098】
図15は、上記のようなゲイン特性、位相特性について考えられる理由を説明する図である。図15には、最上段に、接合部14と母材12の材料組織を観察した結果が示され、中段にゲイン特性、最下段に位相特性が、対応する測定位置を合せて、それぞれ模式的に示されている。接合部14と母材12の材料組織を観察すると、溶融部16は、スポット溶接の加熱等による溶融、凝固によって、材料組織の結晶粒が母材12における結晶粒よりも大きくなっている。
【0099】
そのために、溶融部16では母材12におけるよりも結晶粒での超音波散乱が大きくなり、超音波減衰量が大きく、ゲインが小さくなるものと考えることができる。そして、その散乱周波数は、結晶粒径に関係し、結晶粒径が大きいほど、散乱周波数は低周波数側となる。これらのことから、結晶粒の大きな溶融部16では、減衰量の最小となる周波数、つまり最大ゲインとなる周波数が、母材12における最大ゲインとなる周波数よりも低周波数側となるものと考えられる。また、このように大きくなった結晶粒に異方性があることが予想されるが、その場合には、その異方性によって、測定位置による減衰量の変化幅が大きくなるものと考えられる。これに対し、熱影響部17は、様々に変質した組織が混在する遷移領域と考えられる。
【0100】
これらのことから、図13のゲイン特性で示されるように、溶融部16に対応する測定位置=1mm、2mmにおいて、これらの最大ゲインは母材12の最大ゲインよりも小さく、また、最大ゲインとなる周波数は母材固有伝播周波数よりも低周波数側となるものと考えられる。さらに、測定位置=1mm、2mmの間において、ゲイン特性の変化幅がかなりあることも上記の理由のためと考えられる。また、種々の変質組織が混在する熱影響部17においては、材料組織の特有性があまり現れず、したがって、ゲインも明確な最大ピークを取ることなく、ほぼ平坦な特性を取るものと考えられる。
【0101】
次に、位相特性についてであるが、位相特性には構造物10における金属組織の歪状態が関係していると考えることが出来る。これをスポット溶接の接合部14について当てはめると、溶融部16では溶融して固まるというプロセスを経るが、熱影響部17では溶融することがない。このことから、溶融部16と熱影響部17との境界部においては、金属組織の歪が発生しているものと考えられる。
【0102】
このことから、模式的には、図15の最下段に示すように、溶融部16と熱影響部17との境界部において、位相遅れが現れる。図14の位相特性で示されるように、熱影響部17の部位に相当する測定位置=3mmにおいて、他の部位、例えば母材12の部位における位相よりも、全周波数帯域において位相が遅れる。
【0103】
図16は、図13の結果をマップ化した様子を示す図である。ここでは、横軸に測定位置、縦軸に周波数をとり、(測定位置,周波数)で規定される各点のそれぞれについて、ゲインの大きさを等高線法によって示したものである。ここでは、減衰量に着目し、黒く塗りつぶした部分において減衰量が最も大きく、斜線を付してある部分は黒く塗りつぶした部分よりも減衰量が小さく、斜線を付した中では、斜線の密度が高いほど、減衰量が大きい。このように、図16の表示法は、図6の表示法と異なっている。
【0104】
図17は、図14の結果をマップ化した様子を示す図である。ここでは、横軸に測定位置、縦軸に周波数をとり、(測定位置,周波数)で規定される各点のそれぞれについて、位相遅れの大きさを等高線法によって示したものである。ここでは、黒く塗りつぶした部分において位相が最も遅れ、斜線を付してある部分は黒く塗りつぶした部分よりも位相遅れが小さく、斜線を付した中では、斜線の密度が高いほど、位相遅れが大きい。
【0105】
図18には、最上段に、溶融部16、熱影響部17、母材12の材料組織を観察した結果が示され、中段にゲインスペクトル分布マップ、最下段に位相スペクトルマップが、対応する測定位置を合せて、それぞれ模式的に示されている。なお、中段と最下段のマップは、図16と図17の結果のうち、母材固有伝播周波数である70MHz以上の部分に相当する。
【0106】
図18に示されるように、位相は、溶融部16と母材12との間の遷移領域である熱影響部17の狭い範囲の領域で位相遅れが顕著に現れる。したがって、位相スペクトル分布を観察することで、熱影響部17の部位の輪郭が計測でき、また、接合部14の直径であるDJ、溶融部16の直径DNを計測することができる。また、図18に示されるように、減衰量は、溶融部16の内側で最も大きな減衰量となる。
【0107】
上記のことを利用して、伝達特性についての周波数解析を行って得られるゲインスペクトル分布、位相スペクトル分布に基づき、構造物10の接合部14を構成する溶融部16、熱影響部17の領域を以下のようにして計測することができる。
【0108】
すなわち、位相スペクトル分布を取得し、全周波数帯域にわたって、予め求められている母材12の位相よりも位相が遅れる測定位置の部位を熱影響部17の領域として計測することができる。
【0109】
また、ゲインスペクトル分布を取得し、周波数に対しゲインが単調減少特性あるいは平坦特性を有する測定位置の部位を、熱影響部17の領域として計測することができる。また、母材12のゲイン最大となる周波数を予め求めてこれを母材固有伝播周波数とし、母材固有周波数よりも低い周波数でゲイン最大となる部位を、溶融部16の領域であるとして計測することができる。
【0110】
図19は、伝達関数についての周波数解析から得られるゲインスペクトル分布、位相スペクトル分布に基いて、構造物の内部状態を計測する手順を示すフローチャートである。これらの手順は、解析計算に適した適当なコンピュータにおいてプログラムを実行することで実現できる。以下の各手順は、プログラムにおける各処理手順に対応する。
【0111】
最初に超音波データを取得する(S10)。このとき、図10、図11で説明したように、各測定位置において超音波データを取得する。そして、伝達関数のための入出力を決定する(S12)。具体的には、図9で説明したように、1次の超音波検出信号を入力超音波信号とし、2次の超音波検出信号を出力超音波信号とする。
【0112】
そして、伝達関数入出力の同定を行う(S14)。具体的には、入力超音波信号の信号波形を多項式近似して多項式化する。同様に出力超音波信号の信号波形を多項式近似して多項式化する。多項式近似は、曲線を多項式形式に変換する周知技術の中の適当なものを用いて、コンピュータ等で演算することで行うことができる。次に同定精度がOKか否かを判定する(S16)。これは、近似した多項式の誤差が予め設定した規定精度を満たすか否かで行うことができる。NGのときはS14に戻って多項式近似をやり直す。
【0113】
S16の判定が肯定のときは、伝達関数の算出を行う(S18)。具体的には、出力超音波信号の信号波形を近似した多項式を、入力超音波信号の信号波形を近似した多項式で除算して得られる多項式を伝達関数の信号波形を示す多項式とする。伝達関数は、各測定位置ごとに算出される。
【0114】
得られた伝達関数について周波数解析を行い、周波数応答としてのゲイン特性、位相特性を計算する(S20)。上記のように、伝達関数は各測定位置について算出されるので、計算されたゲイン特性は、周波数とゲインと測定位置との関係を示すゲインスペクトル分布であり、位相特性は、周波数と位相と測定位置との関係を示す位相スペクトル特性である。計算された結果は、精度がOKか判断される(S22)。具体的には、ゲインに関するパワースペクトル、位相に関するパワースペクトルが規定以上の値になっているか否かを見て、周波数応答の計算が妥当か否かが判断される。NGのときはS14に戻り、再び多項式近似からやり直す。
【0115】
S22の判定が肯定されると、ボード線図の出力が行われる(S24)。出力されたボード線図の例は、図13、図14である。そして、これを周波数とゲインまたは位相と測定位置の3次元マップで周波数特性を出力する(S26)。ゲインまたは位相を等高線法で示したマップの例は、図16、図17である。そして、ボード線図とマップとから、溶融部16、熱影響部17の範囲を特定する(S28)。このようにして、構造物10の接合部14に対する計測が行われる。
【0116】
上記の例の1つは、超音波検出信号の中で、1次振動信号群について周波数解析を行い、その高周波側の周波数帯域におけるゲインスペクトル分布を用いて、構造物10の内部状態の計測を行うものであった。もう1つは、2つの超音波検出信号から伝達関数を求め、その伝達関数の信号波形について周波数解析を行い、ゲインスペクトル分布または位相スペクトル分布を用いて、構造物10の内部状態の計測を行うものであった。次の例として、周波数解析の対象を複数のn次振動信号群とする場合について説明する。
【0117】
複数のn次振動信号群を用いるとは、1つのn次振動信号群について周波数解析するのではなく、複数の振動信号群をまとめて周波数解析することである。例えば、1次振動信号群から4次振動信号群までの4つの振動信号群について、まとめて周波数解析を行う。このように複数のn次振動信号群について周波数解析を行うことで、構造物10の内部状態について単数のn次振動信号群の周波数解析を用いるのとは異なった観点の計測を行うことが可能となる。
【0118】
図20は、ここで構造物内部状態計測に用いられる構造物11と超音波供給に用いられる入射光39と超音波検出に用いられるプローブ41の様子を示す図である。ここでは、構造物11として、接合部14の深さ方向の形状を計測しやすいように、図3で説明した構造物10を厚さ方向に半分に割ったものが用いられる。半分に割られたときの板厚は約1.1mmである。したがって、楕円球状である接合部14も、厚さ方向に半分に割られ、半楕円球状となっている。
【0119】
図21は、図5に対応する図で、横軸に時間、縦軸に出力がとられ、横軸の時間は、レーザトリガ時間が基準としてその後の経過時間とされている。ここでは、1次振動信号群から4次振動信号群が示されているが、これら4つの振動信号群の全体が周波数解析の対象となる。図21に示されている往復伝播時間t0は約0.35μsで、これに対応する周波数は約2.8MHzである。この値は、構造物11の板厚1.1mmと、伝播音速である5,900m/sとから計算されるものとほぼ一致する。したがって、この往復伝播時間に対応する周波数を、板厚に関する共振周波数f0と呼ぶことができる。
【0120】
図21における1次振動信号群から4次振動信号群について高速フーリエ解析によって周波数解析を行うと、ゲインスペクトル分布は共振周波数f0を単位として離散的に現れる。図22は、図6に対応するもので、1次振動信号群から4次振動信号群について周波数解析を行い、その結果を横軸に測定位置、縦軸に周波数をとり、(測定位置,周波数)ので規定される各点のそれぞれについて、ゲインの大きさを等高線法によって示した周波数特性マップである。等高線法の内容は図6で説明した通りである。ここでは、周波数として、図8等で説明した高周波側の周波数帯域が取られている。高周波側とは、基本周波数より高周波数帯域であるが、図13で説明した母材固有伝播周波数までの周波数帯域とすることが好ましい。
【0121】
図22に示されるように、高周波側の周波数帯域におけるゲインスペクトル分布は周波数に対し離散的に現れるが、その間隔は約2.8MHzで、上記の共振周波数f0と一致する。すなわち、図6では、単数の振動信号群について周波数解析を行ったものであるので、基本周波数とそれよりも高周波側の周波数帯域とについてゲインスペクトル分布が現れるが、複数のn次振動信号群について周波数解析を行うと、周波数において共振周波数f0を繰り返し間隔として多くのゲインスペクトル分布が現れる。
【0122】
このように、複数のn次振動信号群について周波数解析を行った結果の周波数特性マップは、共振周波数f0に関連した離散的な様子を示すものであるので、図6の周波数特性マップと区別して、これを共振特性マップと呼ぶことができる。
【0123】
共振特性マップを用いて、構造物11の板厚を計測することができる。すなわち、共振特性マップにおいてゲインスペクトル分布が離散的に現れる間隔である共振周波数f0と、測定対象の構造物11の内部を伝播する超音波の速度である伝播音速とに基づいて算出される超音波の1往復距離の半分の長さを、測定対象の構造物11の超音波伝播方向の厚さ寸法として計測することができる。上記の例では、f0=2.8MHz、伝播音速が5,900m/sであるので、超音波1往復距離は、5,900(m/s)/2.8(MHz)=2.1mmとなり、板厚はその半分の1.05mmと計測される。実際の値は1.1mmであるので、5%以下の誤差で、板厚を精度よく計測できる。
【0124】
また、図22に示されるように、ゲインがその他の部分と相違する領域が、離散的に現れるゲインスペクトル分布によって相違することを利用して、接合部14の深さ方向の形状を計測することができる。
【0125】
その様子について図23を用いて説明する。図23は、半楕円球状の溶融部16および熱影響部17について、X方向に超音波を走査したときに得られる共振特性マップと、溶融部16等の深さ方向の形状との関係を説明する図である。ここで深さ方向とは、超音波振動が伝播する方向であるが、図23の例では、測定位置の走査方向をX方向として、これに直交するY方向である。
【0126】
図23に示すように、構造物11の中心側から外周側に向かって、測定位置をX1,X2,X3と設定したものとする。X1は、構造物11のほぼ中央で、溶融部16が最も厚い位置に対応する。X2はX1より外周側で、溶融部16の外縁で熱影響部17のみがある位置に対応する。X3はX2よりさらに外周側で、板材13aにおいてスポット溶接の影響を受けていない母材12の位置に対応する。
【0127】
超音波の減衰率は、構造物11の内部の材料組織によって大きく変わる。材料組織の密度が密から疎となるにつれて、超音波の減衰率は大きくなる。図23の例では、溶融部16の密度が最も低く、熱影響部17の密度は溶融部16の密度よりも高く、母材12の密度は熱影響部17の密度よりもさらに高い。したがって、超音波の減衰率は、溶融部16が最も高く、母材12が最も低く、熱影響部17はその中間となる。
【0128】
また、超音波の減衰率は、超音波の周波数によっても変化する。超音波の周波数が低周波から高周波となるにつれて超音波の減衰率は大きくなる。したがって、同じ材料組織であっても、超音波の周波数が高周波であるときの超音波の減衰は、超音波の周波数が低周波であるときよりも大きく減衰する。したがって、接合部14をある周波数の超音波が伝播するときの減衰量と同じ減衰量が母材12で生じたとすれば、母材12を伝播する超音波の周波数は、接合部14を伝播した超音波の周波数よりも高いことになる。換言すれば、同じ減衰量で比較すると、接合部14の方が、母材12に比べ、より低周波側で減衰することになる。つまり、より低周波側でゲインスペクトル分布が現れなくなる。
【0129】
上で述べたことは、構造物11が超音波の伝播方向に沿って一様な材料組織である場合であって、構造物11が超音波の伝播方向にそって材料組織が混在している場合には、各材料組織の減衰率と、各材料組織の超音波伝播距離とが超音波の減衰量に関係してくる。すなわち、全体の伝播距離が同じとして、減衰率が高い材料組織の部分が長い距離の場合の方が、減衰率が高い材料組織の部分が短い距離の場合よりも超音波の減衰量は大きく、ゲインが小さい値となる。予め閾値ゲインを設けて、その閾値ゲイン以下の場合にはゲインスペクトル分布を表示しないものとすると、ゲインスペクトル分布が現れなくなる。このように、適当な閾値ゲインを設定して、ゲインスペクトル分布が現れなくなる周波数をみることで、全体の板厚に占める接合部14の部分の深さ方向の長さの割合を知ることができる。
【0130】
全体の板厚に占める接合部14の部分の長さの割合とは、接合部14の深さ方向の寸法であるので、離散化されたゲインスペクトル分布が現れなくなる周波数を求めることで、接合部14の深さ方向の寸法を間接的に計測できることになる。これに測定位置を組み合わせて、超音波減衰率の高い材料組織の測定方向と深さ方向とについての2次元的形状を計測することができる。
【0131】
これを図23の場合に適用すると次のようになる。測定位置X1においては、母材12の部分が全くなく、ほとんどが溶融部16の部分であるので、密度がかなり低く、したがって、超音波の減衰がかなり大きく、ゲインがかなり小さい。そして、超音波の周波数に注目すると、材料組織が母材12と異なることを認識するために用いる閾値ゲイン以下となる周波数はかなり低周波となる。つまり、かなり低周波のところまで、離散化されたゲインスペクトル分布が現れなくなっている。
【0132】
測定位置X2では、材料組織が熱影響部17のものとなるので、測定位置X1に比較して組織密度が密となり、超音波の減衰もすこし小さくなり、ゲインが少し高くなる。閾値ゲイン以下となる周波数も少し高周波側となる。そして、測定位置X1に比べ、離散化されたゲインスペクトル分布が確認できるようになってきている。
【0133】
測定位置X3では、材料組織が母材12のものとなるので、組織密度が最も密となり、超音波の減衰も小さくなり、ゲインが高くなる。閾値ゲイン以下となる周波数も高周波となる。ここでは、離散化されたゲインスペクトル分布が高周波側まで明確に確認できる。離散化されたゲインスペクトル分布が現れることを共振スペクトルが現れることと呼ぶこととすれば、組織密度が高い母材12のところでは共振スペクトルが現れ、組織密度が低い接合部14では共振スペクトルが現れないことになる。
【0134】
測定位置X1と測定位置X2の間では、溶融部16と熱影響部17と母材12とが混在しているので、板厚が一定として、板厚に占めるそれぞれの部分の長さに応じて、超音波の減衰量もゲインも定まる。X1により近い測定位置とX2により近い測定位置とを比べると、前者の方が後者に比べ、ゲインが小さく、閾値ゲイン値以下となる周波数も低周波側となる。したがって、離散化されたゲインスペクトル分布がなくなる範囲が広がってくる。
【0135】
このように、ゲインに着目すると、全体の板厚に占める接合部14の部分の長さが長いほど、構造物11の中心側に向かうほど、ゲインが小さくなり、したがって、閾値ゲイン以下となる周波数も低周波側となって、離散化されたゲインスペクトル分布がなくなる周波数の範囲が広がってくる。このように、ゲインが閾値ゲイン以下となって離散化されたゲインスペクトル分布がなくなる周波数の範囲は、全体の板厚に占める接合部14の部分の長さの割合を示すものとなっている。全体の板厚に占める接合部14の部分の長さの割合とは、接合部14の深さ方向の寸法であるので、離散化されたゲインスペクトル分布がなくなる周波数の範囲によって、接合部14の深さ方向の寸法を間接的に計測できることになる。
【0136】
図23に、閾値ゲインを共振特性マップにおける等高線の最小の値として、閾値ゲイン以下となる(測定位置,周波数)の位置を結んだ軌跡hが、接合部14の深さ方向の形状を示すものとして示されている。
【0137】
すなわち、共振周波数f0を単位として離散的に現れるゲインスペクトル分布を、離散的な周波数の大きさを深さ方向距離に対応するものとして、測定位置と組み合わせて作成される2次元平面上のゲインスペクトル分布について、予め定めた閾値ゲイン以下のゲインとなって、離散化されたゲインスペクトル分布がなくなる2次元平面範囲を、接合部14の領域の測定方向と深さ方向とについての2次元形状として計測することができる。
【0138】
図24から図26は、比較のために、測定対象の構造物を均一な内部状態の基準部材としたときの様子を、図20から図22に対応させて示す図である。図24においては、構造物8が均一な材料組織で構成され、接合部を有しないものであることが示されている。
【0139】
図25は、図21に対応する図で、周波数解析を行う範囲の超音波検出信号の様子として、1次振動信号群から4次振動信号群を用いることが示されている。
【0140】
そして、図26は、図22に対応する共振特性マップで、図25における1次から4次までの振動信号群の周波数解析を行い、さらに測定位置を変更して走査した結果について、横軸に測定位置、縦軸に周波数をとり、スペクトル分布を等高線法で示す図である。図26に示されるように、均一な材料組織の構造物8においては、共振特性マップにおいて、高周波側に微小なばらつきがみられるが、全体として、ゲインスペクトル分布がほぼ一様となっており、共振スペクトルが全体に現れている。
【0141】
図27は、構造物内部状態計測方法の手順を示すフローチャートの一例である。ここでは、複数のn次振動信号群について周波数解析を行い、ゲインスペクトル分布に基づいて構造物の内部状態を計測する方法の手順のフローチャートが示されている。これらの手順は、解析計算に適した適当なコンピュータにおいてプログラムを実行することで実現できる。以下の各手順は、プログラムにおける各処理手順に対応する。
【0142】
ここでは、まず測定対象である構造物10を図1で説明した試料保持部44に取付ける。そして、レーザ入射にて超音波入射を行う(S30)。具体的には、超音波供給部30において、図示されていないレーザ駆動回路を起動してレーザ光源32からレーザ光を発光させ、集光レンズ38で絞った入射光39を構造物10の表面に照射する。これによって構造物10の内部に超音波が励起され、超音波振動18が構造物10の内部を伝播する。
【0143】
伝播された超音波振動18は、超音波受信にてディジタル信号として取得される(S32)。具体的には、超音波検出部40の先端のプローブ41によって超音波振動18が受け止められ、電気信号の超音波検出信号に変換され、適当な信号線でオシロスコープ52に伝送される。オシロスコープ52では、超音波供給部30からのトリガ信号を用いて、入射光39の照射に同期させて適当なサンプリングレートでディジタル的に超音波検出信号を取得し表示する。
【0144】
取得されたディジタル信号はFFT処理によるフーリエスペクトル算出が行われる(S34)。具体的には、信号処理表示部54において、ディジタル信号に対し周波数解析である高速フーリエ変換(FFT)処理が実行され、周波数に対するゲインの関係であるゲインスペクトル分布が求められる。
【0145】
ここでは、複数のn次振動信号群について周波数解析を行い、ゲインスペクトル分布に基づいて構造物の内部状態を計測する方法について述べているので、FFT処理は複数のn次振動信号群について実行され、その中で特に高周波側の周波数帯域についての離散化されたゲインスペクトル分布が用いられる。
【0146】
S30では、ある測定位置についてレーザ照射が行われるが、ここで目的とする測定範囲について全てレーザ照射が行われ、取得された超音波検出信号について周波数解析等が行われたかが判断される(S36)。まだ測定範囲の全部について処理が終了していないときは、走査機構部46によって、測定位置の移動(S38)が行われ、S30,S32,S34,S36の工程が繰り返される。
【0147】
測定範囲の全部に渡って処理が終了すると、共振特性マップが作成される(S40)。共振特性マップは、図22で説明したように、横軸に測定位置、縦軸に周波数をとり、(測定位置,周波数)の各点についてゲインを示したものである。なお、図27では、Z軸にフーリエスペクトル、すなわちスペクトル値をとることとして示してあるが、図22では等高線法によってゲインを示すものとして説明した。
【0148】
このようにして得られた共振特性マップにおいて、共振スペクトルの有無から、(測定位置,周波数)の各点が非接合部か接合部かを判定する(S42)。共振スペクトルが有るとは、共振周波数を単位として離散的にゲインスペクトル分布が現れることであり、共振スペクトルが無いとは、予め定めた閾値ゲインを基準として、離散的なゲインスペクトル分布が消えることである。図23に関連して説明したように、接合部14では組織密度が疎となり、ある周波数以上で共振スペクトルが消えることが生じる。このことから、共振スペクトルの有無で、非接合部か接合部かの判定ができる。
【0149】
そして、S44において接合部であると判断されると、共振スペクトルの有無の分布から、構造物10の内部における接合部の形状等の計測が行われる(S46)。
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明に係る構造物内部状態計測システムおよび方法は、例えばスポット溶接が行われた構造物の内部状態のように、超音波伝播特性が異なる部分を有する構造物の内部状態の計測に利用できる。
【符号の説明】
【0151】
8,10,11 構造物、12 母材、13a,13b 板材、14 接合部、16 溶融部、17 熱影響部、18 超音波振動、20 構造物内部状態計測システム、22 筐体、30 超音波供給部、32 レーザ光源、34 ハーフミラー、36 パワーメータ、38 集光レンズ、39 入射光、40 超音波検出部、41 プローブ、44 試料保持部、46 走査機構部、50 内部計測部、52 オシロスコープ、54 信号処理表示部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合部として溶融部とその周囲の熱影響部とを有する測定対象の構造物に超音波を印加供給する超音波供給部と、
測定対象の構造物の内部を伝播する超音波振動を検出して超音波検出信号を出力する超音波検出部と、
超音波検出信号を取得する位置を測定位置として、超音波供給部と超音波検出部とを同期させ、測定対象の構造物に対し測定位置を相対的に順次変更させながら走査する走査機構部と、
超音波検出信号に基づく信号波形を周波数解析し、周波数に対するゲインまたは位相の関係であるスペクトル分布を出力する信号処理部と、
走査機構部によって測定位置を変更して走査しながら、信号処理部によって出力されるスペクトル分布を取得し、測定位置とスペクトル分布との関係に基づいて、測定対象の構造物の内部における接合部または溶融部または熱影響部の領域輪郭を計測する内部計測部と、
を備えることを特徴とする構造物内部状態計測システム。
【請求項2】
接合部として溶融部とその周囲の熱影響部とを有する測定対象の構造物に超音波を印加供給する超音波供給部と、
測定対象の構造物の内部を伝播する超音波振動を検出して超音波検出信号を出力する超音波検出部と、
超音波検出信号を取得する位置を測定位置として、超音波供給部と超音波検出部とを同期させ、測定対象の構造物に対し測定位置を相対的に順次変更させながら走査する走査機構部と、
超音波検出信号に基づく信号波形として、構造物に対し入力された入力超音波信号とその入力超音波信号に対応して出力された出力超音波信号について求められる伝達関数の関数波形を用い、伝達関数についての周波数に対する位相の関係である位相スペクトル分布を出力する信号処理部と、
走査機構部によって測定位置を変更して走査しながら、信号処理部によって出力される位相スペクトル分布を取得し、全周波数帯域にわたって、予め求められている母材の位相よりも位相が変化する測定位置の部位を熱影響部の領域として計測する内部計測部と、
を備えることを特徴とする構造物内部状態計測システム。
【請求項3】
接合部として溶融部とその周囲の熱影響部とを有する測定対象の構造物に超音波を印加供給する超音波供給部と、
測定対象の構造物の内部を伝播する超音波振動を検出して超音波検出信号を出力する超音波検出部と、
超音波検出信号を取得する位置を測定位置として、超音波供給部と超音波検出部とを同期させ、測定対象の構造物に対し測定位置を相対的に順次変更させながら走査する走査機構部と、
超音波検出信号に基づく信号波形として、構造物に対し入力された入力超音波信号とその入力超音波信号に対応して出力された出力超音波信号について求められる伝達関数の関数波形を用い、伝達関数についての周波数に対するゲインの関係であるゲインスペクトル分布を出力する信号処理部と、
走査機構部によって測定位置を変更して走査しながら、信号処理部によって出力されるゲインスペクトル分布を取得し、周波数に対しゲインが単調減少特性あるいは平坦特性を有する測定位置の部位を、熱影響部の領域として計測する内部計測部と、
を備えることを特徴とする構造物内部状態計測システム。
【請求項4】
請求項2に記載の構造物内部状態計測システムにおいて、
信号処理部は、さらに、伝達関数についての周波数に対するゲインの関係であるゲインスペクトル分布を出力し、
内部計測部は、
母材のゲイン最大となる周波数を予め求めてこれを母材固有伝播周波数とし、母材固有周波数よりも低い周波数でゲイン最大となる部位を、溶融部の領域であるとして計測することを特徴とする構造物内部状態計測システム。
【請求項5】
請求項3に記載の構造物内部状態計測システムにおいて、
内部計測部は、
母材のゲイン最大となる周波数を予め求めてこれを母材固有伝播周波数とし、母材固有周波数よりも低い周波数でゲイン最大となる部位を、溶融部の領域であるとして計測することを特徴とする構造物内部状態計測システム。
【請求項6】
接合部として溶融部とその周囲の熱影響部とを有する測定対象の構造物に超音波を印加供給する超音波供給部と、
測定対象の構造物の内部を超音波供給部から超音波検出部に向かって超音波が伝播して1往復する時間である往復伝播時間の整数であるn倍の時間のところに現れる超音波振動信号群をn次振動信号群として、予め定めた複数のn次振動信号群を検出してこれらを超音波検出信号に関する信号波形として出力する超音波検出部と、
超音波検出信号を取得する位置を測定位置として、超音波供給部と超音波検出部とを同期させ、測定対象の構造物に対し測定位置を相対的に順次変更させながら走査する走査機構部と、
超音波検出部から出力された複数のn次振動信号群について周波数解析し、周波数に対するゲインの関係であるゲインスペクトル分布を求めるときに、往復伝播時間に対応する共振周波数を単位として離散的に現れる複数のゲインスペクトル分布を出力する信号処理部と、
走査機構部によって測定位置を変更して走査しながら、信号処理部によって出力される複数のゲインスペクトル分布を取得し、ゲインが予め定めた閾値ゲイン以下となってゲインスペクトルが離散的に現れなくなる測定位置と周波数の組み合わせの軌跡に基づいて、接合部の測定方向と深さ方向とについての2次元輪郭形状を計測する内部計測部と、
を備えることを特徴とする構造物内部状態計測システム。
【請求項7】
請求項6に記載の構造物内部状態計測システムにおいて、
内部計測部は、さらに、
ゲインスペクトル分布が離散的に現れる間隔である共振周波数と、測定対象の構造物の内部を伝播する超音波の速度である伝播音速とに基づいて算出される超音波の1往復距離の半分の長さを、測定対象の構造物の超音波伝播方向の厚さ寸法として計測することを特徴とする構造物内部状態計測システム。
【請求項8】
請求項1、2、3、6のいずれか1に記載の構造物内部状態計測システムにおいて、
超音波供給部は、測定対象の構造物の表面にレーザを照射し、これによって構造物内部に超音波を励起するレーザ照射手段であることを特徴とする構造物内部状態計測システム。
【請求項9】
請求項1、2、3、6のいずれか1に記載の構造物内部状態計測システムにおいて、
超音波検出部は、測定対象の構造物の表面または裏面に設けられ、構造物の表面または裏面の超音波振動を検出する圧電素子であることを特徴とする構造物内部状態計測システム。
【請求項10】
請求項1、2、3、6のいずれか1に記載の構造物内部状態計測システムにおいて、
超音波検出部は、測定対象の構造物の表面または裏面に設けられ、構造物の表面または裏面の超音波振動を検出する光学的干渉計であることを特徴とする構造物内部状態計測システム。
【請求項11】
接合部として溶融部とその周囲の熱影響部とを有する測定対象の構造物に超音波を印加供給する超音波供給工程と、
測定対象の構造物の内部を伝播する超音波振動を検出して超音波検出信号を出力する超音波検出工程と、
超音波検出信号を取得する信号取得位置を測定位置として、超音波供給部と超音波検出部とを同期させ、測定対象の構造物に対し測定位置を相対的に順次変更させながら走査する走査工程と、
超音波検出信号を周波数解析し、周波数に対するゲインまたは位相の関係であるスペクトル分布を出力する信号処理工程と、
走査工程によって測定位置を変更して走査しながら、信号処理工程によって出力されるスペクトル分布を取得し、測定位置を変更したときにスペクトル分布が変化する様子をマップ化するマップ表示工程と、
マップ化表示における測定位置とスペクトル分布との関係に基づいて、測定対象の構造物の内部における溶融部または熱影響部の領域輪郭を計測する内部計測工程と、
を含むことを特徴とする構造物内部状態計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2011−58937(P2011−58937A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−208426(P2009−208426)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】