説明

標本合焦位置高精度計測法

【課題】 光照射等に弱い生物標本や低反射率の試料に対して合焦位置および試料位置を高精度で計測できる標本合焦位置高精度計測法を提供する。
【解決手段】 試料境界面からの全反射光を用いることにより、透明試料等で低反射率の試料においても、強い反射光を得ることができる。試料境界面が高さ方向にΔz変化すると、反射光は、試料境界面内で横方向にΔxずれた位置から出てくるとみなされる。このΔxを、試料位置計測用光センサーで計測する。ΔzとΔxの間には、Δx=2tanθ×Δzの関係があるので、入射角θを大きくすることにより、同じΔzの変化量に対しても、より大きなΔxの変化量を得ることができる。即ち、全反射による強い反射光強度とあわせ、より高精度でΔzを求めることができる。光源よりの入射光を対物レンズの辺縁部分の全反射領域を含む高開口数の領域に通すと、透明試料等も高精度で合焦位置および試料位置を計測できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学顕微鏡あるいは光を用いた計測装置の標本合焦位置高精度計測法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、オートフオーカスや形状観察において、試料の深さ(高さ)方向位置を知る方法としては、図4のように、対物レンズの片側から光を入射し、試料表面からの反射光を光センサーで検出する方法が用いられている。光センサー上に、反射光による試料表面の像を結像させ、センサー上における反射光の位置変化や非対称な像のボケ具合を利用して、試料の高さ位置の変化を求める方法である。このようなものは特許文献にも散見される(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−62481号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の方法は、金属や半導体のように反射率が高い試料では、高精度で位置を計測することが可能であるが、生物試料やガラス表面のように低反射率の試料においては、マイクロメートル程度の精度しか得ることができなかった。そこで、本発明は、顕微鏡観察や対物レンズを用いた位置計測において、生物試料のように光照射等に弱い標本に対しても損傷を与えることなく、透明試料等で低反射率の試料においても、焦位置および試料位置を高精度で計測することができる標本合焦位置高精度計測法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために、この発明の請求項1に係る標本合焦位置高精度計測法は、対物レンズを用いた顕微鏡観察および位置計測において、光源より対物レンズ辺縁部分の高開口数の領域に光を通し、全反射領域を含む大きな照明角度で試料を照射し、試料表面から対物レンズを通して戻ってくる反射光を位置計測用光センサー上に結像し、試料表面での全反射光を利用することにより、透明試料等で低反射率の試料においても、高精度で合焦位置および試料位置を計測可能にした。
【0005】
これにより、試料と支持基板(カバーガラス)との屈折率の違いから、臨界角以上の大きな角度で照明光を入射すると、試料境界面で全反射が起こる。この全反射光を利用することにより、透明試料等で低反射率の試料においても、強い強度の反射光を得ることができ、位置計測用光センサーに達する光の強度が強くなるため、高精度で、試料位置および合焦位置を計測することができる。
【0006】
この発明の請求項2に係る標本合焦位置高精度計測法は、対物レンズを用いた顕微鏡観察および位置計測において、光源として、非干渉性(インコヒーレント)光源もしくは非干渉性化したコヒーレント光源を用い、この光源より対物レンズ辺縁部分の高開口数の領域に光を通し、全反射領域を含む大きな照明角度で試料を照射し、試料表面から対物レンズを通して戻ってくる反射光を位置計測用光センサー上に結像し、試料表面での全反射光を利用することにより、透明試料等で低反射率の試料においても、より安定で高精度に合焦位置および試料位置を計測可能にした。
【0007】
これにより、光源にレーザー光を照明光として用いると、干渉が生じ、位置計測にノイズやドリフトをもたらし、計測精度が悪くなることが起こる。この場合に、非干渉性(インコヒーレント)光源もしくは非干渉性化したコヒーレント光源を用いて、上記請求項1に記載の試料合焦位置高精度計測法を行うと、より安定で高精度に位置計測を行うことができる。
【0008】
この発明の請求項3に係る標本合焦位置高精度計測法は、対物レンズを用いた顕微鏡観察および位置計測において、光源より対物レンズ辺縁部分の高開口数の領域に光を通し、全反射領域を含む大きな照明角度で試料を照射し、試料表面から対物レンズを通して戻ってくる反射光を位置計測用光センサー上に結像し、位置計測用光センサーからの出力を、試料位置の関数として求めておいて、試料位置を光センサーから計測し、試料表面での全反射光を利用することにより、透明試料等で低反射率の試料においても、高精度で合焦位置および試料位置を計測可能にした。
【0009】
これにより、位置計測用光センサーからの出力を、試料位置の変化Δzの関数として求めておくことにより、試料位置Δzを光センサー出力から求めることができる。光センサー位置を試料境界面と共役な位置に置けば、試料境界面を基準点として試料位置を求めることができる。
【0010】
この発明の請求項4に係る標本合焦位置高精度計測法は、対物レンズを用いた顕微鏡観察および位置計測において、光源より対物レンズ辺縁部分の高開口数の領域に光を通し、全反射領域を含む大きな照明角度で試料を照射し、試料表面から対物レンズを通して戻ってくる反射光を位置計測用光センサー上に結像し、試料表面での全反射光を利用することにより、透明試料等で低反射率の試料においても、高精度で合焦位置および試料位置を計測し、位置計測用光センサー位置を試料境界面と共役な位置からずらすことにより、試料上の異なる位置を合焦位置として求めることを可能にした。
【0011】
これにより、位置計測用光センサーを試料境界面と共役な位置からずらすことにより、試料境界面と異なる位置を基準点として試料位置および合焦位置として求めることができる。
【0012】
この発明の請求項5に係る標本合焦位置高精度計測法は、対物レンズを用いた顕微鏡観察および位置計測において、光源より対物レンズ辺縁部分の高開口数の領域に光を通し、全反射領域を含む大きな照明角度で試料を照射し、試料表面から対物レンズを通して戻ってくる反射光を位置計測用光センサー上に結像し、試料表面での全反射光を利用することにより、透明試料等で低反射率の試料においても、高精度で合焦位置および試料位置を計測可能にし、焦点駆動機構と組み合わせることにより、自動焦点合わせ、試料位置制御、対物レンズを経由して照明を行う薄層斜光照明法や全反射照明法などの照明光制御に適用可能とした。
【0013】
これにより、焦点駆動機構と組み合わせることにより、自動焦点合わせ(オートフオーカス)、試料位置制御を行うことができる。また、対物レンズを経由して照明を行う薄層斜光照明法や全反射照明法などの照明法では、試料位置を正確に知り制御することが照明光制御に必須であり、これを実現することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明の標本合焦位置高精度計測法は、顕微鏡観察や対物レンズを用いた位置計測において、生物試料のように光照射等に弱い標本に対しても損傷を与えることなく、合焦位置および試料位置を、透明試料等で低反射率の試料においても100nm以上の高精度で計測することができる。また、焦点駆動機構と組み合わせることにより、自動焦点合わせ(オートフオーカス)、試料位置制御を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、対物レンズの高開口数の領域のみに光を通し、全反射領域を含む大きな照明角度で照射し、試料境界面から対物レンズを通して戻ってくる反射光を、位置計測用光センサー上に結像し、試料境界面での全反射光を利用して合焦位置および試料位置を高精度に安定に計測するものである。次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の標本合焦位置高精度計測の基本原理の説明図である。
【0016】
図1において、光源よりの入射光と反射光との関係に注目する。試料境界面が高さ方向にΔz変化すると、反射光は、試料境界面内で横方向にΔxずれた位置から出てくるとみなされる。このΔxを、試料位置計測用光センサーで計測する。この時、ΔzとΔxの間には次式(1)が成立する。
【0017】
(数1) Δx=2×tanθ×Δz (1)
の関係があるので、入射角θを大きくすることにより、同じΔzの変化量に対しても、より大きなΔxの変化量を得ることができる。即ち、より高精度でΔzを求めることができる。従って、光源よりの入射光を対物レンズの辺縁部分の高開口数の領域に通す方が良い。そして、この理由から、透明試料等で低反射率の試料においても100nm以上の高精度で、合焦位置および試料位置を計測することを可能とする。
【0018】
また、全反射を用いると、弱い照明光を用いても十分な強度の反射光が得られ、試料側に透過する光が大きく減少するため、生物試料のように光照射等に弱い標本に対しても損傷を与えることなく、合焦位置および試料位置を計測することができる。それ故、光源からの入射光を対物レンズの辺縁部分の高開口数の領域に通し、全反射領域を含む大きな照明角度で試料を照射する必要がある。
【0019】
この計測原理を適用した、本発明の標本合焦位置高精度計測方法を実現する構成を図2を参照して、その作用を説明する。図2は光源に近赤外狭指向性LEDを用い、位置計測センサーに2分割フォトダイオードを用いた例を示す。
【0020】
図2において、1は観察対象の試料、2は近赤外狭指向性LEDである光源、3は照明用の集光レンズ、4はダイクロイックミラー、5は対物レンズ、6はオイル、7はカバーガラス、8は結像用レンズ、9は2分割フォトダイオードを用いた位置計測用光センサーである。
【0021】
対物レンズ5は開口数が試料の屈折率を越える高開口数の100倍油浸対物レンズからなる。試料1は、対物レンズ5の上方に位置される顕微鏡本体のステージ(図示なし)に載置されたカバーガラス(ガラス基板)7上にオイル6を介在して配置されている。この場合、試料1はオイル6及びカバーガラス(ガラス基板)7を介して対物レンズ5の焦点位置に位置されている。
【0022】
位置計測用の照明光源としての近赤外狭指向性LEDからの照明光は、照明用の集光レンズ3を通り、ダイクロイックミラー4で直角に曲げられて、対物レンズ5の辺縁部分の高開口数の領域を光が通り、全反射領域を含む大きな照明角度で試料1を照射する。
【0023】
試料1の表面から対物レンズ5を通して戻ってくる反射光を、ダイクロイックミラー4で直角に曲げられて、結像用レンズ8を介して位置計測用光センサー9の上に結像する。ここで図1で説明した式(1)に基づいて、試料境界面の高さ方向の変化量Δzに対して、試料境界面内で横方向のずれΔxのより大きな変化量を得ることができ、より高精度でΔzを求めることができる。このように、試料1の表面での全反射光を利用することにより、透明試料等で低反射率の試料においても、高精度で合焦位置および試料位置を計測することができる。
【0024】
また、光源1にレーザー光を照明光として用いると、干渉が生じ、位置計測にノイズやドリフトをもたらし、計測精度が悪くなることが起こる。この場合に、非干渉性(インコヒーレント)光源もしくは非干渉性化したコヒーレント光源を用いて、上記の試料合焦位置高精度計測法を行うと、より安定で高精度に位置計測を行うことができる。
【0025】
また、位置計測用光センサーからの出力を、試料位置の変化Δzの関数として求めておくことにより、試料位置Δzを光センサー出力から求めることができる。即ち、光センサー位置を試料境界面と共役な位置に置けば、試料境界面を基準点として試料位置を求めることができる。
【0026】
位置計測センサーに2分割フォトダイオードを用いることにより、図3の制御フローに示すように、位置計測用光センサー9の2分割フォトダイオード10a、10bの差分出力を、差分増幅器11を用いて増幅し、試料位置信号として用いる。これを、薄層斜光照明法および全反射照明法を用いた蛍光顕微鏡12に組み込まれた焦点駆動機構13の制御信号に利用し、自動焦点合わせ、試料位置制御、対物レンズを経由して照明を行う薄層斜光照明法や全反射照明法などの照明光制御に適用することができる。
【0027】
試料1の境界面を観察する場合には、位置計測用光センサー9を試料境界面と共役な位置に置く。境界面よりも深い位置を観察する場合には、位置計測用光センサー9をその観察位置と共役な位置に置けば、その位置を基準として位置計測を行なうこともできる。これにより、生物試料や透明試料で低反射率の試料においても、合焦位置および試料位置を、100nm以上の高精度で計測することができる。
【0028】
また、生きている生物試料に対して光照射損傷の弱い近赤外光を位置計測用光源として用いており、光照射に弱い生きている生物試料に対しても損傷をほとんど与えることなく、試料位置を知ることができる。本発明の装置は、蛍光顕微鏡、フォトトンネル顕微鏡あるいは光を利用した計測装置にも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の標本合焦位置高精度計測の基本原理の説明図。
【図2】本発明の標本合焦位置高精度計測方法を実現する構成。
【図3】焦点駆動機構の制御制御フロー。
【図4】従来の試料の深さ(高さ)方向位置を計測する概要図。
【符号の説明】
【0030】
1 観測対象の試料
2 光源
3 照明用の集光レンズ
4 ダイクロイックミラー
5 対物レンズ
6 オイル
7 カバーガラス
8 結像用レンズ
9 位置計測用光センサー
10 2分割フォトダイオード
11 差分増幅器
12 蛍光顕微鏡
13 焦点駆動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対物レンズを用いた顕微鏡観察および位置計測において、光源より対物レンズ辺縁部分の高開口数の領域に光を通し、全反射領域を含む大きな照明角度で試料を照射し、試料表面から対物レンズを通して戻ってくる反射光を位置計測用光センサー上に結像し、試料表面での全反射光を利用することにより、透明試料等で低反射率の試料においても、高精度で合焦位置および試料位置を計測可能にしたことを特徴とする試料合焦位置高精度計測法。
【請求項2】
前記光源として、非干渉性(インコヒーレント)光源もしくは非干渉性化したコヒーレント光源を用い、より安定で高精度に位置計測を行うことを特徴とする請求項1に記載の試料合焦位置高精度計測法。
【請求項3】
位置計測用光センサーからの出力を、試料位置の関数として求めておくことにより、試料位置を光センサーから計測することを特徴とする請求項1に記載の試料合焦位置高精度計測法。
【請求項4】
位置計測用光センサー位置を試料境界面と共役な位置からずらすことにより、試料上の異なる位置を合焦位置として求めることを特徴とする請求項1に記載の試料合焦位置高精度計測法。
【請求項5】
焦点駆動機構と組み合わせることにより、自動焦点合わせ、試料位置制御、対物レンズを経由して照明を行う薄層斜光照明法や全反射照明法などの照明光制御に適用可能としたことを特徴とする請求項1記載の試料合焦位置高精度計測法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−225627(P2007−225627A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−89764(P2004−89764)
【出願日】平成16年3月25日(2004.3.25)
【出願人】(504202472)大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 (119)
【Fターム(参考)】