説明

樹脂成形品、及び樹脂成形品の製造方法

【課題】本発明は、透明性に優れ、しかもアウトガスの発生が少ない新規な樹脂成形品及び樹脂成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】素材Pとしてのポリプロピレン系樹脂組成物を、加熱筒2の上流側から間欠的に供給し、供給された素材Pを加熱筒2の軸心に沿って加熱筒2内に配されたスクリュー3を回転させることによって加熱筒2の上流側から下流側に順次輸送し、加熱筒2を加熱すると共に加熱筒2内を減圧することによって、素材Pからガス成分を遊離させつつ、ベント孔4を介して除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン系樹脂組成物を素材とする樹脂成形品、特に、シリコンウェハーやハードディスク等の精密基板を収容し、保管、運搬、洗浄、エッチング或いは乾燥等の処理を行う際に使用する精密基板収納容器を構成する部品として用いられる樹脂成形品、及び樹脂成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコンウェハーやハードディスク等の精密基板を保管、運搬等する際には、精密基板の汚染や破損等を防ぐために、精密基板を収納する精密基板収納容器が使用されている。この精密基板収納容器の素材としては、軽量性、洗浄性、生産性、及びコストといった諸要素を総合的に満たす、ポリオレフィン系樹脂、特に、ポリプロピレン系樹脂を主成分とするポリプロピレン系樹脂組成物が多用されている。
【0003】
ポリプロピレン系樹脂組成物の主成分たるポリプロピレン系樹脂は、その組成によりホモポリマー(単独重合体)と、少量のコモノマーがプロピレン連鎖中にランダムに取り込まれているランダムコポリマー、ポリプロピレンの中にコモノマーの重合体が海島状に分散して存在するブロックコポリマーに大きく分けることができるが、いずれもTiCl3等を含むチーグラー・ナッタ触媒を用いて製造されることが一般的である。
【0004】
しかしながら、この触媒を用いて製造されたポリプロピレン系樹脂には、その製造方法、触媒の種類等によって含有量に差はあるものの、触媒に起因するハロゲン成分(主に塩素)が触媒残渣として残留している。
【0005】
このようなハロゲン成分が残留するポリプロピレン系樹脂を主成分とするポリプロピレン系樹脂脂組成物を用いて精密基板収納容器を成形すると、残留するハロゲン成分がアウトガス(成形後に発生するガス成分。成形後、数ヶ月から1年程度はほぼ一定の発生量を維持する。)となって内部に収納された精密基板が汚染される。その結果、精密基板の不具合や歩留まりの低下が生じる。
【0006】
又、ポリプロピレン系樹脂組成物には、必要に応じて、酸化防止剤、帯電防止剤、中和剤、滑剤、界面活性剤及び過酸化物等の各種添加剤が添加されるが、これらの添加剤もアウトガスの原因となり、精密基板を汚染する。
【0007】
この点に鑑み、精密基板収納容器をベント式射出成形機で射出成形することによって、精密基板収納容器の製造時に、樹脂から発生するガス成分を排除する手段が提案されている(例えば、下記特許文献1記載の「半導体搬送用治具の製造方法」参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000‐218668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、近年の各種半導体用デバイスの微細化、高集積化の進展に伴い、精密基板収納容器に対しては、これまで以上に高度なレベルで基板の汚染を防止することが要求されている。具体的には、80℃×一時間の加熱条件下、精密基板収納容器内において発生するアウトガス(加熱発生ガス)の量が、3×105ng/h未満であることを求められており、特許文献1に記載の手段では、もはやこの要求を満足させるほどのアウトガスの発生が少ない精密基板収納容器を製造することはできなくなっている。
【0010】
ところで、この種精密基板収納容器に対しては、更に、容器内に精密基板が正しい状態で収納されているか否かなどを目視で判断し得る透明性が要求されることがある。
【0011】
ポリプロピレン系樹脂組成物を素材とする精密基板収納容器に透明性を付与するにあたっては、ポリプロピレン系樹脂のうち、ホモポリマーやブロックコポリマーは透明性に劣ることから、コモノマーとして少量のエチレンがプロピレン連鎖中にランダムに取り込まれているランダムコポリマー(ポリプロピレン‐エチレンランダム共重合体)を主成分とするポリプロピレン系樹脂組成物が用いられる。
【0012】
しかしながら、ポリプロピレン‐エチレンランダム共重合体の透明性を十分に向上するためには、ソルビトール系核剤などの核剤を相当量添加する必要があり、この核剤の添加によってアウトガスの発生量が更に増加する。
【0013】
このため、透明性の高いポリプロピレン‐エチレンランダム共重合体を素材として形成された精密基板収納容器にあっては、アウトガスの発生量が十分に少ないものは現在に至るまで存在しなかった。
【0014】
本発明は、前記技術的課題を解決するために開発されたものであって、透明性に優れ、しかもアウトガスの発生量が少ない新規な樹脂成形品及び樹脂成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の樹脂成形品(以下、「本発明成形品」と称する。)は、ポリプロピレン‐エチレンランダム共重合体を主成分とするポリプロピレン系樹脂組成物を素材とする樹脂成形品であって、肉厚1.5〜3mmに設定された部分の光線透過率が、波長550nmの光線に対して60%以上であり、且つ、80℃×一時間の加熱条件下における、加熱発生ガス‐DHS‐GC‐MS法によって測定されたアウトガス発生量が20ng/cm2・h以下であることを特徴とする。
【0016】
即ち、本発明成形品は、高い透明性を付与されたポリプロピレン‐エチレンランダム共重合体を主成分とするポリプロピレン系樹脂組成物を素材としているにもかかわらず、アウトガスの発生量が非常に少ない新規な樹脂成形品である。
【0017】
なお、肉厚1.5〜3mmに設定された部分の光線透過率を、波長550nmの光線に対して60%以上とした理由は、この波長の光線を60%以上透過すれば、可視光線の十分な透過が見込まれるからである。
【0018】
又、アウトガスの発生量は、樹脂成形品の表面積に比例することから、本発明成形品においては、樹脂成形品における単位面積あたりのアウトガス発生量を基準としている。
【0019】
本発明成形品は、各種の樹脂成形品として利用することができるが、アウトガスの発生が少ない特性を有することから、精密基板収納容器を構成する部品とすることが好ましい。
【0020】
精密基板収納容器は各種構成のものがあり、精密基板収納容器を構成する部品としては、例えば、容器本体部、容器本体部の開口を閉塞する蓋部、容器本体と蓋部とのシール性を向上するガスケット部、精密基板を収納するスロット部、スロット部と共に精密基板を保持する押え部材等がある。又、各種部品が一体的に形成されたものもある。
【0021】
本発明成形品を精密基板収納容器を構成する部品として利用すれば、アウトガスの発生量の少ない精密基板収納容器を構築することができる。又、本発明成形品を精密基板収納容器を構成する容器本体部及び蓋部の少なくとも一方とし、容器本体部及び蓋部の壁面部分における光線透過率が、波長550nmの光線に対して60%以上となるように肉厚を設定すれば、精密基板収納容器の内部の状態を目視で確認することが可能となる。
【0022】
本発明成形品においては、更に、肉厚1.5〜3mmに設定された部分の光線透過率が、波長550nmの光線に対して60%以上であり、且つ、波長600nmの光線に対して60%以上であるものが好ましい。
【0023】
精密基板収納容器は、内部に収納された精密基板が紫外線によって変性することを防止すべく、一般にイエローランプと称される紫外線領域の波長がカットされた照明の下に置かれることがある。精密基板収納容器を構成する容器本体部及び蓋部の少なくとも一方において、600nmの光線に対して60%以上の光線透過率があれば、イエローランプの照明下においても精密基板収納容器の内部の状態を目視で確認することが可能となる。
【0024】
本発明の樹脂成形品の製造方法(以下、「本発明方法」と称する。)は、加熱筒の上流側から供給された素材を、加熱筒の軸心に沿って加熱筒内に配されたベント部を有するスクリューを回転させることによって、スクリューにおける上流側に存する第一ステージから、下流側の第二ステージに向かって輸送し、加熱筒を加熱すると共に加熱筒内を減圧することによって、素材から遊離させたガス成分を、ベント孔を介して除去するベント式射出成形機を用いた樹脂成形品の製造方法であって、この製造方法は、加熱筒の上流側から素材としてのポリプロピレン系樹脂組成物を間欠的に導入することによって、加熱筒における第一ステージに減圧された空隙を形成し、前記空隙に遊離したガス成分をベント孔を介して除去することを特徴とする。
【0025】
ベント式射出成形機を用いた「通常の射出成形」にあっては、素材としての樹脂組成物を加熱筒の上流側から「連続的」に供給し、加熱筒の上流側から下流側に向かって順次輸送する。連続的に供給された樹脂組成物は、加熱筒内におけるベント孔よりも上流側の第一ステージと称される部位を満たし、この状態で加熱され、可塑化される。
【0026】
即ち、ベント式射出成形機を用いた通常の射出成形にあっては、第一ステージが樹脂組成物によって満たされるため、樹脂組成物は、第一ステージにおいて減圧下に晒されることが無く、第一ステージを通過した時点でようやく減圧下に晒され、脱気される。
【0027】
一方、本発明方法においては、ポリプロピレン系樹脂組成物を加熱筒の上流側から「間欠的」に供給し、加熱筒の上流側から下流側に向かって順次輸送する。間欠的に供給された個々のポリプロピレン系樹脂組成物は、第一ステージにおいて減圧された空隙を形成し、この状態で加熱され、可塑化される。
【0028】
即ち、本発明方法によれば、第一ステージにおいて減圧された空隙が形成されるため、第一ステージにおけるポリプロピレン系樹脂は、ベント部に至る前の第一ステージを輸送される間においてもガス成分を遊離させる。又、加熱筒内にポリプロピレン系樹脂組成物の一単位を間欠的に供給することから、加熱筒内における個々のポリプロピレン系樹脂組成物は、減圧下に晒される表面積が比較的大きくなる。これより、加熱筒内に間欠的に供給された個々のポリプロピレン系樹脂組成物の一単位は、第一ステージを移動しながら加熱され、十分な時間をかけてその内部に含まれるガス成分を速やかに遊離させる。その結果、成形後の樹脂成形品においてアウトガスの発生量が非常に少なくなる。
【0029】
本発明方法においては、ポリプロピレン系樹脂組成物を、樹脂成形品をなす一単位量毎に加熱筒の上流側から間欠的に供給することが好ましい。
【0030】
「樹脂成形品をなす一単位量」とは、射出成形時における樹脂成形品(樹脂成形品自体に加え、場合によってはスプルー及びランナーを含む)一個を成形するために必要なポリプロピレン系樹脂組成物の量を意味する。
【0031】
本発明方法においては、素材として、肉厚2mmにおけるヘーズ値が20〜35%のポリプロピレン系樹脂組成物を用いることが好ましい。
【0032】
これによって、透明性に優れ、しかもアウトガスの発生量が少ない樹脂成形品を得ることができる。なお、ヘーズ値は、JIS K7136に準拠した測定装置(ヘーズメータ)によって測定することができる。
【0033】
本発明方法によれば、ベント式射出成形機を用いた通常の射出成形と比べてアウトガスの発生量の少ない樹脂成形品を製造することができ、例えば、80℃×一時間の加熱条件での加熱発生ガス‐DHS‐GC‐MS法によって測定されたアウトガス発生量が20ng/cm2・h以下の樹脂成形品を製造することもできる。
【発明の効果】
【0034】
本発明製品は、透明性に優れ、しかもアウトガスの発生が少ない新規な樹脂成形品である。これより、本発明製品を精密基板収納容器を構成する部品とすれば、アウトガスの発生量の少ない精密基板収納容器を構築することができる。又、本発明成形品を精密基板収納容器を構成する容器本体部及び蓋部の少なくとも一方とすれば、精密基板収納容器の内部の状態を目視で確認することが可能となる。
【0035】
本発明方法によれば、アウトガスの発生量の少ない樹脂成形品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、本発明方法に用いられるベント式射出成形機における射出ユニットの一実施形態を示す断面図である。
【図2】図2(a)〜(e)は、本発明方法の工程を示す説明図である。
【図3】図3は、本発明方法によって成形した精密基板収納容器(8インチウェハ用)を示す分解斜視図である。
【図4】図4は、本発明方法によって成形した精密基板収納容器(12インチウェハ用)を示す分解斜視図である。
【図5】図5は、精密基板収納容器(12インチウェハ用)の蓋部を示す分解斜視図である。
【図6】図6は、加熱発生ガス‐DHS‐GC‐MS法における、テストピースから発生するアウトガスの採取概要を示す模式図である。
【図7】図7は、加熱発生ガス‐DHS‐GC‐MS法における、精密基板収納容器内に発生するアウトガスの採取概要を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
<素材>
本発明において、「ポリプロピレン系樹脂」とは、プロピレンの単独重合体であるホモポリマー、少量のコモノマーがプロピレン連鎖中にランダムに取り込まれているランダムコポリマー、及びポリプロピレンの中にコモノマーの重合体が海島状に分散して存在するブロックコポリマーを意味する。
【0038】
又、本発明において、「ポリプロピレン‐エチレンランダム共重合体」とは、前記ポリプロピレン系樹脂のうち、少量(通常、2〜5重量%)のエチレンがコモノマーとしてプロピレン連鎖中にランダムに取り込まれているランダムコポリマーを意味する。
【0039】
更に、本発明において、「ポリプロピレン系樹脂組成物」とは、前記ポリプロピレン系樹脂を主成分とし、これに、酸化防止剤、帯電防止剤、中和剤、滑剤、界面活性剤、過酸化物及び核剤等の各種添加剤が添加されているものを意味する。
【0040】
添加剤の添加量は、特に限定されるものではないが、通常、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対し、酸化防止剤0.01〜0.1重量部、中和剤0.01〜0.05重量部、界面活性剤0.05〜0.2重量部、過酸化物0.01〜0.05重量部、核剤0.05〜0.2重量部程度の添加量で添加される。
【0041】
このようなポリプロピレン系樹脂組成物の具体例としては、プライムポリマー社製のプライムポリプロシリーズ(J‐721GR、J‐2021GR、J‐2023GR、J‐2041GA及びJ‐3021GR等)などを挙げることができる。
【0042】
<ベント式射出成形機>
図1に、本発明方法に用いられるベント式射出成形機における射出ユニットの一実施形態を示す。
【0043】
射出ユニット1は、素材を加熱すると共に、型締め装置(図示せず)に開閉自在に備えられた金型に可塑化した素材を射出する機構部分であり、加熱筒2と、スクリュー3と、ベント孔4と、ホッパ5と、ノズル6とを具備する。
【0044】
加熱筒2は、中空円筒状の筒本体21と、筒本体21の外周部分に備えられたバンドヒータ22とからなり、バンドヒータ22からの伝熱によって筒本体21内に存する素材が加熱される仕組みとなっている。なお、筒本体21の内径及び有効長さは、射出成形機の規模によって異なる。本実施形態においては、内径50mm、有効長さ3600mmのものを用いた。
【0045】
スクリュー3は、筒本体21の軸心に沿って、筒本体21内に配される。スクリュー3には、その長さ方向に沿って螺旋状の溝が設けられてなり、図示しないモータの駆動力を受けて回転する。筒本体21内に存する素材は、スクリュー3の回転に伴って筒本体21の上流側から下流側に輸送される。この際、バンドヒータ22からの伝熱と、スクリュー3の回転によるせん断力とによって、素材が効率よく可塑化される。
【0046】
スクリュー3に設けられた螺旋状の溝は、その中ほどにおいて、他の部分よりピッチが狭く、且つ溝深さが深くなるように設定されたベント部31が設けられている。又、ベント部31の上流側には、周縁に複数のスリットを備えたダム部32が設けられている。従って、筒本体21内を移動する素材は、可塑化されながらダム部32に至り、ダム部32に設けられたスリットによって線状に裁断されながら、ベント部31に押し出される。
【0047】
一般に、スクリュー3におけるベント部31が設けられた位置より上流側は、第一ステージと称され、第一ステージより下流側は第二ステージと称される。通常、第一ステージの長さより第二ステージの長さが短くなるように、第一ステージと第二ステージの長さの比率は、1:0.3〜0.9に設定される。本実施形態において第一ステージと、第二ステージとの比率は1:0.5に設定している。
【0048】
又、第二ステージに占めるベント部31の長さの割合は、通常、第二ステージの長さに対し、ベント部31の長さが0.3〜0.7程度となるように設定される。本実施形態においては、第二ステージの長さに対し、ベント部31の長さが1:0.5となるように設定している。
【0049】
ベント孔4は、加熱筒2に備えられた中空円筒状の部材であり、筒本体21内に配されたスクリュー3におけるベント部31が存する位置において、その下部が筒本体21内に連通している。ベント孔4の上端は閉塞されているが、ベント孔4から図中横方向に延びる吸引管41によって、ベント孔4内と外部とが連通している。吸引管41は、図示しない減圧装置から延びる配管と接続される。これより、減圧装置を作動させることによって、筒本体21内が減圧される。
【0050】
ホッパ5は、筒本体21内に素材を供給するためのものであり、筒本体21の上流側に配される。ホッパ5は、漏斗状の脚部51を有し、脚部51が筒本体21内に連通している。本実施形態において、漏斗状の脚部51には、スライド式の開閉板52が備えられてなり、開閉板52を開くことによって、ホッパ5内に存する素材が筒本体21内に供給される。一方、開閉板52が閉じられれば、素材の供給が停止され、筒本体21の減圧状態が維持される。即ち、本実施形態においては、開閉板52を開閉することによって、素材の供給量及び供給ピッチが制御される仕組みとなっている。
【0051】
ノズル6は、加熱筒2の下流側末端に配され、筒本体21の下流側末端に所定量の素材が輸送されると、自動的に金型に向かって所定の射出圧力で素材を射出する仕組みとなっている。
【0052】
なお、ベント式射出成形装置における、加熱筒2の温度、開閉板52の開閉、スクリュー3の回転数、減圧装置による減圧、ノズル6の射出圧力及び射出ピッチ、金型温度等は、図示しない制御部によって制御されており、且つ任意に設定することができる。
【0053】
<樹脂成形品の製造方法>
図2(a)に示すように、本発明方法においては、まず、素材P(ポリプロピレン系樹脂組成物)をホッパ5に投入する。なお、素材Pは、ホッパ5に投入する前に、バッチ式の加熱・乾燥工程に供し、素材に含まれる水分や揮発成分を予備的に除去しておくことが好ましい。
【0054】
次いで、図2(b)に示すように、開閉板52が開かれると、素材Pが筒本体21内に供給される。
【0055】
所定量の素材Pが投入されると、開閉板52は閉じられ、図2(c)に示すように、スクリュー3の回転に伴って、投入された素材Pの一単位P1が筒本体21の上流側から下流側に向かって輸送される。なお、素材Pは、一定の間隔をおいて間欠的に投入されることから、第一ステージには空隙が形成される。
【0056】
スクリュー3によって筒本体21内を輸送される素材の輸送スピードは、モータの回転数、スクリュー3に設けられた螺旋状の溝のピッチ、及び溝深さによって決定される。素材の輸送スピードを遅くすると、素材の可塑化及び素材から発生するガスの脱気効率は向上するが、単位時間当たりの成形量が少なくなる。これより、本発明方法においては、素材の輸送スピード(平均)を20〜100mm/sとすることが好ましい。
【0057】
第一ステージにおいて、素材Pの一単位P1は、バンドヒータ22からの伝熱と、スクリュー3の回転によるせん断力とによって可塑化されると共にガス成分を遊離させる。バンドヒータ22によって加熱される筒本体21の温度は、素材Pの溶融温度を基準として設定され、通常、素材Pの溶融温度より20〜50℃高い温度に設定される。
【0058】
素材Pを間欠的に供給することによって、第一ステージに形成された空隙はベント孔4の吸引管41に接続された減圧機によって減圧状態となっており、第一ステージを移動する素材Pの一単位P1から遊離したガス成分は、ベント孔4を介して筒本体21外に排出される。なお、筒本体21内の気圧を下げれば下げるほど、ガス成分の脱気効率はより向上する。一般的な減圧装置を用いた場合、筒本体21内の気圧は0.5〜0.8Pa程度に設定される。
【0059】
その後、素材Pの一単位P1は、脱気されながらダム部32を通過し、ベント部31に至る(図2(d)参照)。ベント部31において素材Pの輸送速度は遅くなり、又、ベント部31における螺旋状の溝の溝深さが深いため、素材Pの一単位P1は、ベント部31をゆっくりと進みながら、より一層脱気される。
【0060】
ベント部31を通過した素材Pの一単位P1は、最終的に加熱筒2の下流側末端に到達し(図2(e)参照)、ノズル6を介して、金型に向かって射出される。
【0061】
なお、素材Pを間欠的に供給するピッチ(供給間隔)としては、第一ステージに存する素材Pの一単位P1が、1〜5個、好ましくは1〜3個となるように設定することが好ましい。更に、素材Pの供給量としては、加熱筒2の有効容積(加熱筒2の容積からスクリュー3の体積を引いた値)に対し、20%(v/v)を超えないようにすることが好ましく、更に、10%(v/v)を超えないようにすることがより好ましい。
【0062】
[実施例1]
素材として、プライムポリマー社製、J‐2021GR(ポリプロピレン‐エチレンランダム共重合体、ヘーズ値30%(2mm))を用いた。
【0063】
この素材は、2.4〜3.0重量%のエチレンがプロピレン連鎖中にランダムに取り込まれているランダムコポリマー(ポリプロピレン‐エチレンランダム共重合体)を主成分とするポリプロピレン系樹脂組成物であり、主成分としてのポリプロピレン‐エチレンランダム共重合体100重量部に対し、下記表1の添加剤が添加されたものである。
【0064】
【表1】

【0065】
この素材を、前処理としてのバッチ式の加熱・乾燥工程(温度90℃)に供した後、前述の射出ユニット1を備えたベント式射出成形機に供給し、下記表2の条件で図3に示す精密基板収納容器(8インチウェハ用)100の容器本体部102(内側の表面積約3800cm2、リブ等を除く壁面部分の肉厚2mm)、蓋部101(内側の表面積約3950cm2、リブ等を除く壁面部分の肉厚2mm)、スロット部103(総表面積約7500cm2、リブ等を除く壁面部分の肉厚2〜5mm(テーパ状))を射出成形した。
【0066】
【表2】

【0067】
[実施例2]
素材として、プライムポリマー社製、J‐2023GR(ポリプロピレン‐エチレンランダム共重合体、ヘーズ値24%(2mm))を用いた。
【0068】
この素材は、2.4〜3重量%のエチレンがプロピレン連鎖中にランダムに取り込まれているランダムコポリマー(ポリプロピレン‐エチレンランダム共重合体)を主成分とするポリプロピレン系樹脂組成物であり、主成分としてのポリプロピレン‐エチレンランダム共重合体100重量部に対し、下記表3の添加剤が添加されたものである。
【0069】
【表3】

【0070】
この素材を、実施例1と同条件で加熱・乾燥工程に供した後、実施例1と同条件でベント式射出成形機に供給し、図3に示す精密基板収納容器100の容器本体部102、蓋部101、スロット部103を射出成形した。
【0071】
[実施例3]
図4に12インチウェハ用の精密基板収納容器100を示す。
【0072】
この精密基板収納容器100は、容器本体部102(内側の表面積約7127cm2)と、蓋部101(内側の表面積約2256cm2)と、ガスケット104とからなり、前記容器本体部102は、前記実施例1と同様、プライムポリマー社製、J‐2021GRを素材として用い、この素材を、前処理としてのバッチ式の加熱・乾燥工程(温度90℃)に供した後、前述の射出ユニット1を備えたベント式射出成形機に供給し、下記表4の条件で一体的に射出成形したものである(リブ等を除く壁面部分の肉厚3mm)。
【0073】
前記蓋部101は、図5に示すように、蓋部本体1011と、リテーナ部1012と、カム機構部1013と、被覆片1014とが、それぞれ別体にて形成されたものであり、前記蓋部本体1011、前記リテーナ部1012、及び前記被覆片1014は、前記実施例1と同様、プライムポリマー社製、J‐2021GRを素材として用い、この素材を、前処理としてのバッチ式の加熱・乾燥工程(温度90℃)に供した後、前述の射出ユニット1を備えたベント式射出成形機に供給し、一体的に射出成形したものである(リブ等を除く壁面部分の肉厚3mm)。前記蓋部本体1011、及び前記リテーナ部1012についての成形条件を下記表4に示す。
【0074】
なお、前記カム機構部1023については、一定以上の強度を必要とするため、東レ社製PBT(ポリブチレンテレフタレート)を素材として射出形成されたものを用いた。又、前記ガスケット104は、シリコーンゴムを素材として形成されたものである。
【0075】
【表4】

【0076】
[比較例1]
素材として実施例1と同様のプライムポリマー社製、J‐2021GRを用い、実施例1と同条件で加熱・乾燥工程に供した後、素材を連続的(6.7g/s)にベント式射出成形機に供給した以外は、実施例1と同様の条件で射出成形を行い、図3に示す精密基板収納容器100の容器本体部102、蓋部101、スロット部103を射出成形した。
【0077】
[比較例2]
素材として実施例2と同様のプライムポリマー社製、J‐2023GRを用い、実施例1と同条件で加熱・乾燥工程に供した後、素材を連続的(6.7g/s)にベント式射出成形機に供給した以外は、実施例1と同様の条件で射出成形を行い、図3に示す精密基板収納容器100の容器本体部102、蓋部101、スロット部103を射出成形した。
【0078】
[比較例3]
素材として実施例3と同様のプライムポリマー社製、J‐2023GRを用い、実施例1と同条件で加熱・乾燥工程に供した後、素材を連続的(6.7g/s)にベント式射出成形機に供給した以外は、実施例3と同様の条件で射出成形を行い、図4に示す精密基板収納容器100の容器本体部102、蓋部本体1011、リテーナ部1012、及び被覆片1014を射出成形した。なお、カム機構部1023及びガスケット104については、実施例3と同様のものを用いた。
【0079】
実施例1〜3、及び比較例1〜3において射出成形した各精密基板収納容器100を、550nm及び600nmにおける光線透過率の測定、単位面積あたりのアウトガス発生量の測定、及び精密基板収納容器100内におけるアウトガス発生量の測定に供した。各測定に用いた測定手段を以下に示す。
【0080】
<光線透過率の測定>
光線透過率は、JISK7361−1に基づき、ダブルビーム方式の分光光度計(日本分光株式会社製、V−650型)で容器本体部101及び蓋部102の壁面部分を測定した。光源(重水素ランプおよびハロゲンランプ)より発生した光を試験片に透過および散乱させ積分球を用いて全光線透過量を測定した。測定波長領域は200〜800nmの領域で測定し、550nm及び600nmの波長における光線透過率を評価した。
【0081】
<単位面積あたりのアウトガス発生量の測定>
単位面積あたりのアウトガス発生量は、加熱発生ガス‐DHS‐GC‐MS(Dynamic‐Headspace‐Gas Chromatography‐Mass Spectrometry)法によって測定した。
【0082】
容器本体部101及び蓋部102の壁面部分から、50mm×100mmのテストピースTを切り取り、このテストピースTをガラスセルS中に入れ、ガラスセルSをオーブンにて80℃×一時間加熱しながら、高純度N2ガス気流を通過させて、発生したアウトガスを吸着管aに捕集濃縮した後、GC‐MSで測定し(トルエン換算)、この測定値をテストピースTの総表面積で除算することによって単位面積あたりのアウトガス発生量を求めた。なお、GC‐MSのイオン化方式は、電子衝撃法(EI法;70V)を用いて測定した。加熱発生ガス‐DHS‐GC‐MS法におけるアウトガスの採取概要を図6に示す。
【0083】
<精密基板収納容器内におけるアウトガス発生量>
精密基板収納容器内におけるアウトガス発生量は、加熱発生ガス‐DHS‐GC‐MS法によって測定した。
【0084】
組み立てた(スロット部103が存在する場合は、内部にスロット部103を内在させて組み立てた)精密基板収納容器100の2箇所に穴を開け、この各穴にそれぞれチューブを差し込み、各チューブを介して、精密基板収納容器100内に高純度N2ガス気流を通過させた上で、精密基板収納容器100をオーブンにて80℃×一時間加熱し、発生したアウトガスを吸着管aに捕集濃縮した後、GC‐MSで測定した(トルエン換算)。なお、GC‐MSのイオン化方式は、電子衝撃法(EI法;70V)を用いて測定した。加熱発生ガス‐DHS‐GC‐MS法におけるアウトガスの採取概要を図7に示す。
【0085】
前記各測定手段によって測定した光線透過率、単位面積あたりのアウトガス発生量、及び精密基板収納容器100内におけるアウトガス発生量を下記表5に示す。
【0086】
【表5】

【0087】
表4に示す結果より、実施例1と比較例1、実施例2と比較例2、及び実施例3と比較例3は、それぞれ同じ素材を用いて成形したにもかかわらず、アウトガスの発生量が著しく異なっていることが確認された。
【0088】
実施例1〜3においては、容器本体部102と蓋部101の光線透過率が550nm及び600nmにおいて、60%以上となっており、且つ、アウトガスの発生量が、20ng/cm2・h以下となっていることが確認された。
【0089】
実施例1〜3によって製造された精密基板収納容器100内におけるアウトガス発生量は、精密基板収納容器100に要求されるアウトガス発生量の基準量3.0×105ng/h未満を十分に満たしていることが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明成形品は、透明性及び低アウトガス性が求められる樹脂成形品として利用することができる。又、本発明方法は、アウトガスの発生が少ない樹脂成形品の製造方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0091】
1 射出ユニット
2 加熱筒
3 スクリュー
4 ベント孔
5 ホッパ
6 ノズル
100 精密基板収納容器(樹脂成形品)
101 容器本体部(樹脂成形品)
102 蓋部(樹脂成形品)
103 スロット部(樹脂成形品)
P 素材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン‐エチレンランダム共重合体を主成分とするポリプロピレン系樹脂組成物を素材とする樹脂成形品であって、
肉厚1.5〜3mmに設定された部分の光線透過率が、波長550nmの光線に対して60%以上であり、
且つ、窒素雰囲気下、80℃×一時間の加熱条件での加熱発生ガス‐DHS‐GC‐MS法によるアウトガス発生量が20ng/cm2・h以下であることを特徴とする樹脂成形品。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂成形品において、
樹脂成形品が精密基板収納容器を構成する部品である樹脂成形品。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の樹脂成形品において、
肉厚1.5〜3mmに設定された部分の光線透過率が、波長550nmの光線に対して60%以上であり、且つ、波長600nmの光線に対して60%以上である樹脂成形品。
【請求項4】
加熱筒の上流側から供給された素材を、加熱筒の軸心に沿って加熱筒内に配されたベント部を有するスクリューを回転させることによって、スクリューにおける上流側に存する第一ステージから、下流側の第二ステージに向かって輸送し、
加熱筒を加熱すると共に加熱筒内を減圧することによって、素材から遊離させたガス成分を、ベント孔を介して除去するベント式射出成形機を用いた樹脂成形品の製造方法であって、
この製造方法は、
加熱筒の上流側から素材としてのポリプロピレン系樹脂組成物を間欠的に導入することによって、加熱筒における第一ステージに減圧された空隙を形成し、
前記空隙に遊離したガス成分をベント孔を介して除去することを特徴とする樹脂成形品の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の樹脂成形品の製造方法において、
ポリプロピレン系樹脂組成物を、樹脂成形品をなす一単位量毎に加熱筒の上流側から間欠的に供給する樹脂成形品の製造方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の樹脂成形品の製造方法において、
肉厚2mmにおけるヘーズ値が20〜35%のポリプロピレン系樹脂組成物を用いる樹脂成形品の製造方法。
【請求項7】
請求項4ないし6のいずれか1項に記載の樹脂成形品の製造方法によって製造された樹脂成形品であって、この樹脂成形品は、窒素雰囲気下、80℃×一時間の加熱条件での加熱発生ガス‐DHS‐GC‐MS法によるアウトガス発生量が20ng/cm2・h以下であることを特徴とする樹脂成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−99800(P2012−99800A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221041(P2011−221041)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(591270419)ゴールド工業株式会社 (14)
【出願人】(509160236)双日プラネット株式会社 (5)
【Fターム(参考)】