説明

樹脂成形装置

【課題】ゴム製の成形型に対してキャビティ内の熱可塑性樹脂を選択的に加熱することができ、この加熱効果を向上させるためのフィルターを、冷却機能を備えて簡単に構成することができる樹脂成形装置を提供すること。
【解決手段】樹脂成形装置1は、ゴム製の成形型2と、波長が0.78〜4μmの電磁波を出射する電磁波発生手段4と、フィルター5とを有している。フィルター5は、透明材料からなる透明板51同士の間に形成した間隙511に、波長が2μmを超える電磁波の透過量を減少させるためのフィルター用水52を充填してなる。電磁波発生手段4は、キャビティ21内に熱可塑性樹脂3を充填する際に、当該成形型2を介して熱可塑性樹脂3にフィルター5を透過させた後の透過電磁波を照射して、熱可塑性樹脂3を加熱するよう構成してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂から樹脂成形品を得る樹脂成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は、種々の成形方法によって成形され、成形品とした後使用されている。結晶性、非晶性、あるいは溶融粘度の高低に応じて、更に成形品の形状に応じて射出成形、ブロー成形、押し出し成形、プレス成形等種々の成形方法が実用化されている。
ところで、熱可塑性樹脂の種類、成形品の形状によっては、成形中に熱可塑性樹脂の温度が低下することにより溶融粘度が高くなり、目的とする成形品を得ることが困難となることがある。そのため、これを改良するため、成形品を成形する成形型(金型)をヒーター等によって加熱する方法が知られている。
【0003】
また、例えば、特許文献1の樹脂成形方法においては、溶融した熱可塑性樹脂をシリコーンゴムで作製した成形型のキャビティ内に射出し、次いで、この熱可塑性樹脂を冷却して射出成形品を得る方法が開示されている。そして、表面精度、表面光沢が良好な樹脂成形品を簡便に作製することを目的として、シリコーンゴム製の成形型の組成に工夫を行っている。
【0004】
しかしながら、上記従来の樹脂成形方法においては、特に熱可塑性樹脂を充填するキャビティの端部等においては、成形する熱可塑性樹脂の温度が下がり、この熱可塑性樹脂の粘度が上昇する場合がある。この場合には、成形型のキャビティ内において、熱可塑性樹脂の充填不良が生じるおそれがある。
また、特許文献1においては、シリコーンゴムの耐熱温度は、例えば200℃程度であり、樹脂の温度の低下を防ぐためにヒーター等の加熱温度を上げると、シリコーンゴム製の成形型が劣化し、この成形型により成形する成形品の表面外観が低下するおそれがある。
【0005】
また、例えば、特許文献2の樹脂成形品の製造方法及びその装置においては、型枠に粒状あるいは粉状の金属骨材と熱可塑性樹脂とを投入して成形製品を得るに際し、金属骨材をスポット的に加熱することができる金属加熱手段を用いている。この製造方法においては、金属加熱手段から、マイクロ波あるいは電磁波等を型枠内の金属骨材に照射してこの金属骨材を発熱させ、この金属骨材の発熱を利用して型枠内の熱可塑性樹脂を軟化あるいは溶解させたのち、樹脂成形品を加圧成形している。
【0006】
しかしながら、特許文献2の技術は、金属骨材を選択的に加熱する技術であり、熱可塑性樹脂自体を加熱することができる技術ではない。また、金属加熱手段によって、金属骨材の加熱を行う際には、型枠も同時に加熱されてしまう。そのため、型枠をあまり加熱することなく、熱可塑性樹脂を選択的に加熱することはできない。
【0007】
【特許文献1】特開平7−178754号公報
【特許文献2】特開平10−193370号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、ゴム製の成形型に対してキャビティ内の熱可塑性樹脂を選択的に加熱することができ、この加熱効果を向上させるためのフィルターを、冷却機能を備えて簡単に構成することができる樹脂成形装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、熱可塑性樹脂を充填するためのキャビティを形成してなるゴム製の成形型と、
波長が0.78〜4μmの電磁波を出射する電磁波発生手段と、
該電磁波発生手段と上記成形型との間に配置し、波長が2μmを超える電磁波の透過量を減少させるフィルターとを有しており、
該フィルターは、透明材料からなる透明板同士の間に形成した間隙に、フィルター用水を充填してなると共に、該フィルター用水を上記間隙に流入させる入口部と、上記フィルター用水を上記間隙から流出させる出口部とを有しており、
上記フィルター用水によって上記波長が2μmを超える電磁波の透過量を減少させると共に、上記フィルター用水を上記入口部と上記出口部とを介して入れ替え可能に構成してあり、
上記電磁波発生手段は、上記キャビティ内に上記熱可塑性樹脂を充填する際に、当該成形型を介して上記熱可塑性樹脂に上記フィルターを透過させた後の透過電磁波を照射して、上記熱可塑性樹脂を加熱するよう構成してあることを特徴とする樹脂成形装置にある(請求項1)。
【0010】
本発明の樹脂成形装置は、ゴム製の成形型を用いて、熱可塑性樹脂からなる樹脂成形品を成形する装置であり、成形型に対して、熱可塑性樹脂を選択的に加熱することができる装置である。すなわち、本発明の樹脂成形装置は、上記ゴム製の成形型と、上記波長が0.78〜4μmの電磁波を出射する電磁波発生手段と、波長が2μmを超える電磁波の透過量を減少させるフィルターとを有している。
【0011】
そして、ゴム製の成形型のキャビティ内に熱可塑性樹脂を充填する際には、電磁波発生手段から波長が0.78〜4μmの電磁波を出射し、フィルターを透過させた後の透過電磁波を、成形型を介して熱可塑性樹脂に照射する。このとき、成形型を構成するゴムと熱可塑性樹脂との物性の違いにより、ゴム製の成形型に比べて、熱可塑性樹脂を大きく加熱することができる。これにより、キャビティ内への熱可塑性樹脂の充填が完了するまでの間において、成形型の温度よりも、キャビティ内における熱可塑性樹脂の温度を高く維持することができる。
そのため、キャビティ内に熱可塑性樹脂の充填不良が生じることを防止して、良好な樹脂成形品を得ることができる。
【0012】
また、上記電磁波発生手段から出射された電磁波の中には、波長が2μmを超える電磁波も含まれているが、フィルターにより、波長が2μmを超える電磁波は、成形型にできるだけ照射させないようにすることができる。これにより、成形型のキャビティ内に充填された熱可塑性樹脂には、波長が2μm以下の近赤外線を効果的に照射させることができる。そのため、波長が2μm以下の近赤外線により、成形型をあまり加熱することなく、熱可塑性樹脂を効果的に加熱することができる。
【0013】
さらに、本発明のフィルターは、上記透明板同士の間に形成した間隙にフィルター用水を充填してなる。そして、電磁波発生手段から出射された電磁波は、フィルター用水による水膜を通過することによって、波長が2μmを超える電磁波の透過量が減少され、フィルター用水を透過した後の透過電磁波が、成形型を介して熱可塑性樹脂に照射される。
そのため、波長が2μmを超える電磁波の透過量を減少させるフィルターを容易に構成することができる。
【0014】
また、フィルター用水は、フィルターに形成した入口部と出口部とを介して入れ替え可能である。これにより、電磁波発生手段から照射された電磁波の一部を吸収して、間隙内にあるフィルター用水の温度が上昇しても、この温度上昇後のフィルター用水を、これよりも温度が低い他のフィルター用水に入れ替えることができる。
そのため、フィルターの温度が上昇することを効果的に抑制することができ、フィルターを冷却する構造を、簡単な構成によって実現することができる。
【0015】
それ故、本発明の樹脂成形装置によれば、ゴム製の成形型に対してキャビティ内の熱可塑性樹脂を選択的に加熱することができ、この加熱効果を向上させるためのフィルターを、冷却機能を備えて簡単に構成することができる。
【0016】
また、上記透過電磁波により、上記ゴム製の成形型に比べて、上記熱可塑性樹脂を選択的に加熱することができる理由としては、以下のように考える。
すなわち、ゴム製の成形型の表面に照射された上記透過電磁波は、成形型の表面を反射又は成形型を透過する割合が多いのに対し、熱可塑性樹脂に吸収される割合が多いと考える。そのため、透過電磁波による光のエネルギーが熱可塑性樹脂に優先的に吸収されて、熱可塑性樹脂を選択的に加熱することができると考える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
上述した本発明における好ましい実施の形態につき説明する。
本発明において、上記成形型を介して上記熱可塑性樹脂に照射する透過電磁波としては、波長が0.78〜2μmの領域の電磁波だけでなく、これ以外の領域の電磁波も含まれていてもよい。この場合において、成形型を介して熱可塑性樹脂に照射する透過電磁波は、波長が0.78〜2μmの領域の電磁波を、これ以外の領域全体の電磁波よりも多く含むことが好ましい。
【0018】
また、上記フィルター用水は、水道水等の純粋な水から構成することができる。また、フィルター用水は、純粋な水とする以外にも、冷却性能の高い種々の溶媒を、水に混合したものとすることもできる。
【0019】
また、上記フィルター用水は、上記入口部と上記出口部とを介して、上記間隙内を逐次循環させるよう構成することができる(請求項2)。
この場合には、電磁波発生手段から照射された電磁波の一部を吸収して、フィルター用水の温度が高くなる前に、このフィルター用水を積極的に入れ替えることができる。そのため、フィルターの冷却機能を向上させることができる。
【0020】
また、フィルター用水は、水タンク内に貯留するフィルター用水を、給水ポンプ等を用いて入口部へ供給し、出口部から温度上昇後のフィルター用水を水タンク内へ再び戻すよう構成して、上記間隙内に循環させることができる。
なお、フィルター用水は、逐次循環させるだけでなく、所定の温度まで上昇したときに入れ替えるよう構成することもできる。
【0021】
また、上記透明板同士の間の間隙は、0.5〜3mmの厚みに形成することができる(請求項3)。
この場合には、透明板同士の間の間隙に、適切な厚みのフィルター用水を保持させることができ、このフィルター用水により、上記波長が2μmを超える電磁波の透過量を減少させる効果を適切に得ることができる。
【0022】
なお、上記間隙の厚みが0.5mm未満の場合には、フィルター用水による波長が2μmを超える電磁波の吸収効果が十分に得られないおそれがある。一方、上記間隙の厚みが3mmを超える場合には、フィルター用水による水膜を、波長が2μmを越える電磁波だけでなく、波長が2μm以下である近赤外線も透過し難くなり、フィルター用水が、波長が2μm以下である近赤外線の多くも吸収してしまうおそれがある。
【0023】
また、上記透明板は、ガラス板とすることができる(請求項4)。
この場合には、ガラス板を用いてフィルターを容易に形成することができる。
【0024】
また、上記電磁波発生手段は、0.78〜2μmの波長領域に強度のピークを有する電磁波を出射するものとすることができる(請求項5)。
この場合には、上記熱可塑性樹脂を一層効果的に加熱することができる。
【0025】
また、上記樹脂成形装置は、上記成形型を収容する圧力容器と、該圧力容器内の真空引きを行う真空ポンプとを有していると共に、該真空ポンプによって真空状態にした上記キャビティ内に上記熱可塑性樹脂を充填するよう構成してあり、上記フィルターは、上記圧力容器における透明窓部として配設してあり、上記電磁波発生手段は、上記圧力容器の外部に配設してあると共に、上記透明窓部としての上記フィルターを介して、上記成形型へ上記透過電磁波を照射するよう構成することができる(請求項6)。
【0026】
この場合には、真空状態にしたキャビティ内に熱可塑性樹脂を充填することにより、この熱可塑性樹脂をキャビティの全体に一層容易に行き渡らせることができる。ここで、真空状態とは、絶対真空の状態のみを意味するのではなく、熱可塑性樹脂の充填が可能であれば、減圧状態も含めて真空状態という。
また、フィルターによって圧力容器における透明窓部を構成することにより、樹脂成形装置の構成を簡単にすることができる。
【0027】
また、上記樹脂成形装置は、上記成形型を収容する圧力容器と、該圧力容器内の真空引きを行う真空ポンプとを有していると共に、該真空ポンプによって真空状態にした上記キャビティ内に上記熱可塑性樹脂を充填するよう構成してあり、上記圧力容器には、耐圧ガラスからなる透明窓部が形成してあり、上記フィルターは、上記透明窓部の容器外部側に配設してあり、上記電磁波発生手段は、上記圧力容器の外部に配設してあると共に、上記フィルター及び上記透明窓部を介して、上記成形型へ上記透過電磁波を照射するよう構成することもできる(請求項7)。
【0028】
この場合にも、真空状態にしたキャビティ内に熱可塑性樹脂を充填することにより、この熱可塑性樹脂をキャビティの全体に一層容易に行き渡らせることができる。また、圧力容器の透明窓部を上記耐圧ガラスによって構成することにより、圧力容器の強度を容易に高く維持することができる。そして、透明窓部の容器外部側にフィルターを配設することにより、容易に上記樹脂成形装置を構成することができる。
また、耐圧ガラスとしては、真空圧に耐えることができる種々のガラスを用いることができる。
【実施例】
【0029】
以下に、本発明の樹脂成形装置にかかる実施例につき、図面と共に説明する。
本例の樹脂成形装置1は、図1、図2に示すごとく、熱可塑性樹脂3を充填するためのキャビティ21を形成してなるゴム製の成形型2と、波長が0.78〜4μmの電磁波を出射する電磁波発生手段4と、この電磁波発生手段4と成形型2との間に配置し、波長が2μmを超える電磁波の透過量を減少させるフィルター5とを有している。
【0030】
図3に示すごとく、上記フィルター5は、透明材料からなる透明板51同士の間に形成した間隙511に、フィルター用水52を充填してなる。また、フィルター5は、フィルター用水52を上記間隙511に流入させる入口部512と、フィルター用水52を上記間隙511から流出させる出口部513とを有している。そして、樹脂成形装置1は、フィルター用水52によって波長が2μmを超える電磁波の透過量を減少させると共に、フィルター用水52を入口部512と出口部513とを介して入れ替え可能に構成してある。
【0031】
また、図1に示すごとく、電磁波発生手段4は、キャビティ21内に熱可塑性樹脂3を充填する際に、当該成形型2を介して熱可塑性樹脂3にフィルター5を透過させた後の透過電磁波を照射して、熱可塑性樹脂3を加熱するよう構成してある。なお、図1、図3において、電磁波の照射方向をXで示す。
【0032】
以下に、本例の樹脂成形装置1につき、図1〜図8と共に詳説する。
本例においては、熱可塑性樹脂3として、非晶性熱可塑性樹脂3であると共にゴム変性熱可塑性樹脂3であるABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂)を用いる。
本例の成形型2は、シリコーンゴムからなり、このシリコーンゴムの硬度は、JIS−A規格測定において25〜80とした。この成形型2は、成形する樹脂成形品のマスターモデル(手作りの現物等)を液状のシリコーンゴム内に配置し、このシリコーンゴムを硬化させ、硬化後のシリコーンゴムからマスターモデルを取り出すことによって作製することができる。
【0033】
また、波長が0.78〜2μmの電磁波(光)(以下に、近赤外線ということがある。)に対する吸光度(特定の波長の光に対する吸収強度を示す尺度)は、熱可塑性樹脂3として用いるABS樹脂の方が、ゴム製の成形型2として用いるシリコーンゴムよりも大きくなっている。
【0034】
図1に示すごとく、本例の電磁波発生手段4は、電磁波(光)の発生源41と、この発生源41による電磁波を成形型2の方向へ導くリフレクタ(反射板)42とを有している。リフレクタ42は、電磁波の発生源41の後方(成形型2の配設方向とは反対側の方向)に配設してあり、曲面状の反射面421を有している。本例の電磁波発生手段4は、リフレクタ42により、電磁波の発生源41から出射された電磁波のほとんどを、成形型2及び圧力容器61の方向へ導くよう構成してある。
また、本例の電磁波発生手段4としては、近赤外線ハロゲンヒータを用い、電磁波の発生源41として、近赤外線領域内の約1.2μmの付近に光強度のピークを有する近赤外線ハロゲンランプを用いた。
【0035】
また、本例の樹脂成形装置1においては、溶融した状態の熱可塑性樹脂3を成形型2のキャビティ21内に注入し、成形型2に上記近赤外線を照射することにより、上記溶融した状態の熱可塑性樹脂33の粘度が5000Poise以上になることを防止して、樹脂成形品を得る。
【0036】
図2に示すごとく、本例の樹脂成形装置1は、成形型2を収容する圧力容器61と、この圧力容器61内の真空引きを行う真空ポンプ62とを有している。そして、樹脂成形装置1は、真空ポンプ62によって真空状態にしたキャビティ21内に熱可塑性樹脂3を充填するよう構成してある。
また、圧力容器61内には、成形型2を載置するための載置台611が配設してあり、この載置台611は、昇降可能に構成してあり、成形型2の載置高さを調整することができるよう構成してある。
【0037】
本例の電磁波発生手段4は、圧力容器61の外部における側方に配設してある。圧力容器61において電磁波発生手段4と対向する部位(本例では圧力容器61の側部)には、電磁波発生手段4から出射した電磁波を圧力容器61内へ通過させるための透明窓部613が形成してある。
また、図3に示すごとく、本例のフィルター5は、圧力容器61における透明窓部613を構成している。このフィルター5は、ガラス板からなる一対の透明板51同士の間に、約1mmの厚みの間隙511を形成し、この間隙511内にフィルター用水52を充填して、水膜を形成してなる。
【0038】
そして、電磁波発生手段4は、上記真空ポンプ62により真空状態にしたキャビティ21内に熱可塑性樹脂3を充填する際に、上記透明窓部613としてのフィルター5を介して、このフィルター5を透過した後の透過電磁波を、成形型2に照射するよう構成してある。
また、フィルター5による透明窓部613は、圧力容器61の側方の両面に形成してあり、電磁波発生手段4は、圧力容器61の側方の両面に対向して配設してある。
【0039】
また、図示は省略するが、本例の樹脂成形装置1は、フィルター用水52を貯留する水タンクと、この水タンク内のフィルター用水52を給水配管を介してフィルター5における入口部512へ給水する給水ポンプと、フィルター5における出口部513から水タンクへ温度上昇後のフィルター用水52を回収するための排水配管とを有している。
【0040】
そして、フィルター5における間隙511内のフィルター用水52は、給水ポンプによって水タンクとの間で循環させるよう構成してある。
こうして、入口部512と出口部513とを介して、上記間隙511内におけるフィルター用水52を逐次循環させることにより、電磁波発生手段4から照射された電磁波の一部を吸収して、フィルター用水52の温度が高くなる前に、このフィルター用水52を積極的に入れ替えることができる。
【0041】
図4に示すごとく、本例のキャビティ21は、複数の板形状空間211を交錯させて連結した三次元形状の空間に形成してあり、各板形状空間211には、その外形を形成する面方向sと、この面方向sに垂直な厚み方向tとがある。そして、電磁波発生手段4は、キャビティ21内に熱可塑性樹脂3を充填する際に、各板形状空間211における面方向sに対して傾斜する方向から上記透過電磁波を照射するよう構成してある。
また、図1に示すごとく、成形型2の上面側には、キャビティ21内へ溶融状態の熱可塑性樹脂3を注入するための注入部22が形成してある。この注入部22は、板形状空間211に連通して形成してある。
【0042】
また、本例の成形型2は、ゴム製であるため、成形後の樹脂成形品にいわゆるアンダーカット部(成形後の樹脂成形品をキャビティ21内から取り出す際に成形型2に干渉する部分)が形成された場合でも、このアンダーカット部を弾性変形させながら成形後の樹脂成形品を取り出すことができる。そのため、ゴム型部25同士が合わさって形成されるパーティングラインを任意に設定することができる(図4参照)。
【0043】
次に、上記樹脂成形装置1を用いて、樹脂成形品を成形する方法につき詳説する。
本例においては、以下の真空工程、充填工程及び冷却取出工程を行って、熱可塑性樹脂3から樹脂成形品を得る。
樹脂成形品を成形するに当たっては、まず、図2に示すごとく、真空工程として、上記真空ポンプ62によって上記圧力容器61内の真空引きを行い、ゴム製の成形型2のキャビティ21内を真空状態にする。
【0044】
次いで、図1に示すごとく、充填工程として、上記成形型2の注入部22から溶融状態の熱可塑性樹脂3を、キャビティ21内へ注入する。
そして、充填工程を行う際には、電磁波発生手段4から波長が0.78〜4μmの電磁波を出射し、フィルター5を透過させた後の透過電磁波を、成形型2を介して熱可塑性樹脂3に照射する。注入部22からキャビティ21内へ流下する熱可塑性樹脂3は、透過電磁波によって、温度が低下することが抑制される。
【0045】
また、キャビティ21内を流動する熱可塑性樹脂3には、成形型2を介して透過電磁波が照射される。そして、溶融状態の熱可塑性樹脂3は、透過電磁波が照射されることによって、粘度が5000Poise以上になることが防止される。
また、キャビティ21内に熱可塑性樹脂3が充填される際には、成形型2を構成するゴムと熱可塑性樹脂3との物性の違いにより、ゴム製の成形型2に比べて、熱可塑性樹脂3を大きく加熱することができる。そして、ゴム製の成形型2よりも高い温度に熱可塑性樹脂3を加熱することができる。
【0046】
これにより、キャビティ21内への熱可塑性樹脂3の充填が完了するまでの間において、成形型2の温度よりも、キャビティ21内における熱可塑性樹脂3の温度を高く維持することができる。また、キャビティ21内が真空状態になっていることにより、熱可塑性樹脂3をキャビティ21の全体に十分に行き渡らせることができる。
そのため、キャビティ21内に熱可塑性樹脂3の充填不良が生じることを防止して、表面外観等に優れた良好な樹脂成形品を得ることができる。
【0047】
また、キャビティ21内に熱可塑性樹脂3を注入した後には、真空ポンプ62による真空引きを停止すると共に、圧力容器61を大気に開放して、圧力容器61内を大気圧状態にする。これにより、キャビティ21内に注入した熱可塑性樹脂3をキャビティ21の各板形状空間211の全体に十分に行き渡らせることができる。
【0048】
その後、冷却取出工程として、キャビティ21内の熱可塑性樹脂3を冷却して樹脂成形品を成形した後、成形型2を開いて、キャビティ21内から成形後の樹脂成形品を取り出す。
また、本例においては、成形した樹脂成形品は、成形型2のキャビティ21内において空冷することにより冷却した後、このキャビティ21内から取り出す。このとき、上記のごとく熱可塑性樹脂3を選択的に加熱できることにより、成形型2の温度は、熱可塑性樹脂3の温度よりも低く維持することができる。そのため、樹脂成形品を冷却するために要する冷却時間を短縮することができる。
また、成形型2の温度を低く維持できることにより、成形型2の劣化を抑制することができ、成形型2の耐久性を向上させることができる。
【0049】
また、本例においては、電磁波発生手段4から出射された電磁波の中には、波長が2μmを超える電磁波も含まれているが、フィルター5により、波長が2μmを超える電磁波は、成形型2にできるだけ照射させないようにすることができる。これにより、成形型2のキャビティ21内に充填された熱可塑性樹脂3には、波長が2μm以下の近赤外線を効果的に照射させることができる。そのため、波長が2μm以下の近赤外線により、成形型2をあまり加熱することなく、熱可塑性樹脂3を効果的に加熱することができる。
【0050】
さらに、本例のフィルター5は、透明板51同士の間に形成した間隙511にフィルター用水52を充填してなる。そして、電磁波発生手段4から出射された電磁波は、フィルター用水52による水膜を通過することによって、波長が2μmを超える電磁波の透過量が減少され、フィルター用水52を透過した後の透過電磁波が、成形型2を介して熱可塑性樹脂3に照射される。
そのため、波長が2μmを超える電磁波の透過量を減少させるフィルター5を容易に構成することができる。
【0051】
また、フィルター用水52は、フィルター5に形成した入口部512と出口部513とを介して循環可能である。これにより、電磁波発生手段4から照射された電磁波の一部を吸収して、間隙511内にあるフィルター用水52の温度が上昇しても、この温度上昇後のフィルター用水52を、これよりも温度が低い他のフィルター用水52に入れ替えることができる。
そのため、フィルター5の温度が上昇することを効果的に抑制することができ、フィルター5を冷却する構造を、簡単な構成によって実現することができる。
【0052】
それ故、本例の樹脂成形装置1によれば、ゴム製の成形型2に対してキャビティ21内の熱可塑性樹脂3を選択的に加熱することができ、この加熱効果を向上させるためのフィルター5を、冷却機能を備えて簡単に構成することができる。
【0053】
また、上記フィルター5として、水膜以外に、波長が2μmを超える電磁波の透過量を減少させるガラス板等を用いることも考えられる。しかし、この場合には、ガラス板が、電磁波を吸収することによって発熱し、膨張してしまう。そのため、特に、圧力容器61の透明窓部613としてこのガラス板によるフィルターを用いると、このガラス板を保持する部分に耐熱仕様の特殊なOリング等を用いる必要があり、装置を高価かつ複雑にしてしまうおそれがある。
【0054】
なお、本例においては、熱可塑性樹脂3としてABS樹脂を用いた。熱可塑性樹脂3としては、これ以外にも、上記成形型2の表面に上記透過電磁波を照射したときに、成形型2内に吸収されずに透過した透過電磁波を吸収することができる熱可塑性樹脂3を用いることができる。
【0055】
図5は、透明のシリコーンゴムと半透明のシリコーンゴムについて、横軸に波長(nm)をとり、縦軸に光の透過率(%)をとって、各シリコーンゴムにおける光の透過率を示すグラフである。同図において、各シリコーンゴムは、200〜2200(nm)の間の波長の光を透過させることがわかる。そのため、この波長の領域にある近赤外線をシリコーンゴム製の成形型2の表面に照射すると、当該近赤外線の多くを、成形型2を透過させて熱可塑性樹脂3に吸収させることができる。
【0056】
図6、図7は、フィルター5による波長が2μmを超える電磁波(光)の吸収効果を確認した結果を示すグラフである。両図は、横軸に波長(nm)をとり、縦軸に光の透過率(%)をとって、ガラス板からなる透明板51同士の間の間隙511にフィルター用水52を充填して水膜を形成した状態のフィルター5(両図における実線)と、間隙511にフィルター用水52を入れずに、水膜を形成する前の透明板51(両図における破線)とについて、光の透過率を示すグラフである。
【0057】
また、図6は、間隙511(水膜)の厚みを1mmにした場合を示し、図7は、間隙511(水膜)の厚みを3mmにした場合を示す。両図において、ガラス板からなる透明板51のみ(両図における破線)によると近赤外線を含め広い範囲の波長(約500〜約2500nm)の電磁波が吸収されてしまうのに対し、フィルター用水52による水膜を有するフィルター5によれば、波長が約1400(nm)を超える電磁波の多くを効果的に吸収できることがわかる。そのため、フィルター用水52を用いたフィルター5により、波長が2μmを超える電磁波(光)を効果的に吸収できることがわかった。
【0058】
また、図7に示すごとく、水膜が3mmの場合には、近赤外線を含め全体の光の透過率が減少してしまうのに対し、図6に示すごとく、水膜が1mmの場合には、特に約1400nm以下の近赤外線の多くを透過できることがわかった。そのため、上記一対の透明板51同士の間に形成した間隙511の厚み、すなわちフィルター用水52による水膜の厚みは、1mm前後にすることが好ましいことがわかった。
【0059】
また、本例の樹脂成形装置1においては、成形型2のキャビティ21内に熱可塑性樹脂3を充填する際には、熱可塑性樹脂3の自重を利用して、充填を行うことができる。そのため、熱可塑性樹脂3に大きな圧力が加わることがなく、成形した樹脂成形品において、残留歪がほとんど発生しない。そのため、樹脂成形品の耐薬品性、耐熱性等の特性を著しく向上させることができる。
【0060】
なお、上記圧力容器61及びフィルター5は以下の構成にすることもできる。
すなわち、図8に示すごとく、圧力容器61には、耐圧ガラスからなる透明窓部613Aを形成し、フィルター5は、透明窓部613Aの容器外部側に配設することもできる。また、耐圧ガラスとしては、真空圧に耐えることができる種々のガラスを用いることができる。そして、電磁波発生手段4は、フィルター5及び透明窓部613Aを介して、成形型2へ透過電磁波を照射するよう構成することもできる。この場合には、圧力容器61の透明窓部613Aを耐圧ガラスによって構成することにより、圧力容器61の強度を容易に高く維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】実施例における、成形型のキャビティに熱可塑性樹脂を充填した状態の樹脂成形装置を示す断面説明図。
【図2】実施例における、成形型のキャビティに熱可塑性樹脂を充填する前の状態の樹脂成形装置を示す断面説明図。
【図3】実施例における、圧力容器におけるフィルターの周辺を示す断面説明図。
【図4】実施例における、成形型におけるキャビティの形成状態を示す説明図。
【図5】実施例において、横軸に波長(nm)をとり、縦軸に光の透過率(%)をとって、透明のシリコーンゴムと半透明のシリコーンゴムについての光の透過率を示すグラフ。
【図6】実施例において、横軸に波長(nm)をとり、縦軸に光の透過率(%)をとって、1mmの厚みの間隙(水膜)を形成したフィルターにおける光の透過率を示すグラフ。
【図7】実施例において、横軸に波長(nm)をとり、縦軸に光の透過率(%)をとって、3mmの厚みの間隙(水膜)を形成したフィルターにおける光の透過率を示すグラフ。
【図8】実施例において、耐圧ガラスからなる透明窓部の容器外部側にフィルターを配設してなる樹脂成形装置を示す断面説明図。
【符号の説明】
【0062】
1 樹脂成形装置
2 成形型
21 キャビティ
3 熱可塑性樹脂
4 電磁波発生手段
5 フィルター
51 透明板
511 間隙
512 入口部
513 出口部
52 フィルター用水
61 圧力容器
613 透明窓部
62 真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を充填するためのキャビティを形成してなるゴム製の成形型と、
波長が0.78〜4μmの電磁波を出射する電磁波発生手段と、
該電磁波発生手段と上記成形型との間に配置し、波長が2μmを超える電磁波の透過量を減少させるフィルターとを有しており、
該フィルターは、透明材料からなる透明板同士の間に形成した間隙に、フィルター用水を充填してなると共に、該フィルター用水を上記間隙に流入させる入口部と、上記フィルター用水を上記間隙から流出させる出口部とを有しており、
上記フィルター用水によって上記波長が2μmを超える電磁波の透過量を減少させると共に、上記フィルター用水を上記入口部と上記出口部とを介して入れ替え可能に構成してあり、
上記電磁波発生手段は、上記キャビティ内に上記熱可塑性樹脂を充填する際に、当該成形型を介して上記熱可塑性樹脂に上記フィルターを透過させた後の透過電磁波を照射して、上記熱可塑性樹脂を加熱するよう構成してあることを特徴とする樹脂成形装置。
【請求項2】
請求項1において、上記フィルター用水は、上記入口部と上記出口部とを介して、上記間隙内を逐次循環させるよう構成してあることを特徴とする樹脂成形装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、上記透明板同士の間の間隙は、0.5〜3mmの厚みに形成してあることを特徴とする樹脂成形装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項において、上記透明板は、ガラス板であることを特徴とする樹脂成形装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項において、上記電磁波発生手段は、0.78〜2μmの波長領域に強度のピークを有する電磁波を出射するものであることを特徴とする樹脂成形装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項において、上記樹脂成形装置は、上記成形型を収容する圧力容器と、該圧力容器内の真空引きを行う真空ポンプとを有していると共に、該真空ポンプによって真空状態にした上記キャビティ内に上記熱可塑性樹脂を充填するよう構成してあり、
上記フィルターは、上記圧力容器における透明窓部として配設してあり、
上記電磁波発生手段は、上記圧力容器の外部に配設してあると共に、上記透明窓部としての上記フィルターを介して、上記成形型へ上記透過電磁波を照射するよう構成してあることを特徴とする樹脂成形装置。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項において、上記樹脂成形装置は、上記成形型を収容する圧力容器と、該圧力容器内の真空引きを行う真空ポンプとを有していると共に、該真空ポンプによって真空状態にした上記キャビティ内に上記熱可塑性樹脂を充填するよう構成してあり、
上記圧力容器には、耐圧ガラスからなる透明窓部が形成してあり、上記フィルターは、上記透明窓部の容器外部側に配設してあり、
上記電磁波発生手段は、上記圧力容器の外部に配設してあると共に、上記フィルター及び上記透明窓部を介して、上記成形型へ上記透過電磁波を照射するよう構成してあることを特徴とする樹脂成形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−44271(P2008−44271A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−223352(P2006−223352)
【出願日】平成18年8月18日(2006.8.18)
【出願人】(396021575)テクノポリマー株式会社 (278)
【出願人】(594014638)日本レックス株式会社 (19)
【Fターム(参考)】