説明

樹脂材料への超音波振動付与装置、この超音波振動付与装置を用いた樹脂材料の溶融成形方法及び樹脂組成物

樹脂ブレンドの混練性,相溶性を向上させ、樹脂に添加した添加剤やフィラーの分散性を向上させる。 溶融・流動状態の樹脂材料に、超音波振動を付与する超音波振動付与装置において、超音波振動を前記樹脂材料に付与する振動子31又はこの振動子の振動を前記樹脂材料に伝達する振動伝達部材32を有し、この振動子31と樹脂材料を接触させて、又は振動伝達部材32を前記樹脂材料に接触させて、振動子31又は振動伝達部材32を前記樹脂材料の流路11に設け、振動子31の振動又は振動伝達部材32の振動により、前記樹脂材料以外の他の部材が実質的に振動しないように、振動伝達抑制手段16,Gを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融・流動状態の樹脂に超音波振動を付与する超音波振動付与装置に関し、特に、押出成形や射出成形等に使用される樹脂材料の各種物性及び成形性を向上させ、高品質の成形品を得ることのできる樹脂材料への超音波振動付与装置、この超音波振動付与装置を用いた樹脂材料の溶融成形方法及び樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック等の樹脂材料を溶融,混練して所望形状の成形品を成形するための混練装置や押出成形装置、射出成形装置では、成形性の樹脂材料の機能性の向上、複数種類の樹脂を混合したときの樹脂材料の混練性又は相溶性の向上、添加剤やフィラーを配合したときの分散性の向上、樹脂変性の容易化は、高品質の成形品を成形する上できわめて重要であり、これらの目的を達成するために従来から種々の提案がなされている(例えば、特許文献1,2,3参照)。
【0003】
特許文献1に記載の技術は、成形性の向上や機能性の向上のために相溶化剤等の添加剤を樹脂材料に加える技術である。
特許文献2に記載の技術は、諸物性の向上や成形性の向上のために、樹脂材料内におけるフィラーの分散性を向上させる技術である。
特許文献3に記載の技術は、反応押出によって樹脂を変性させる場合において、樹脂材料と変性剤に相当量の過酸化剤を添加して溶融・混練する技術である。
【特許文献1】特開平5−247282号
【特許文献2】特開平10−101870号
【特許文献3】特開昭63−117008号
【0004】
しかし、上記特許文献1に記載の技術は、相溶化のために相溶化剤を添加するものであり、相溶化剤がドメインを作りやすく効率的ではなないという問題がある。また、諸物性の向上効果に限界があるという問題もある。また、各種の樹脂材料に対して最適な相溶化剤が存在するとは限らず、樹脂材料が異なる度に最適な相溶化剤を探し出すのに多大な労力を要するという問題がある。
【0005】
上記特許文献2に記載の技術では、微細フィラーの分散のために強混練、複数回混練を行っているが、このような方法ではフィラーの分散性向上にも限界があるという問題がある。また、複数回混練は非効率的である。さらに一定以上の混練は力学特性や色調などの樹脂性質を劣化させるという問題がある。
【0006】
上記特許文献3に記載の技術では、相当量の過酸化物を樹脂材料に添加しているが、このような方法では変性量や分子量等の制御が困難であるばかりでなく、過酸化物に起因する臭気や着色等の新たな問題が生じる。
また、上記特許文献1,2,3に記載の技術は、機能性の向上、混練性又は相溶性の向上、フィラー等の分散性の向上、樹脂変性の容易化等の問題を個々に解決しようとするものであり、これらの課題を一挙に解決することのできる技術的手法が切望されている。
【0007】
そこで、超音波振動を用いてこれらの課題を解決しようとする試みが、例えば特許文献4で提案されている。しかし、この特許文献4に記載の技術においても、力学物性の向上効果が射出成形では現れにくいなど、効果が限定的であるという問題がある。
【特許文献4】米国特許US6528554号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたもので、成形性などの機能性や二種以上の樹脂を混合したときの樹脂ブレンドの混練性,相溶性を向上させ、樹脂に添加剤やフィラーを添加する場合に前記添加剤やフィラーの樹脂材料内での分散性を向上させ、多量の過酸化物を添加することなく樹脂変性を容易に行うことのできる超音波振動付与装置を提供すること、この超音波振動付与装置を用いて、剛性、耐衝撃性等の機械特性、外観、グラスファイバー等との密着性に優れ、高品質の成形品を得ることのできる樹脂材料の溶融成形方法及び樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の発明者が鋭意研究を行った結果、1.超音波振動の漏洩を抑制して、樹脂材料に接触した状態で集中的に樹脂材料に所定の周波数、所定の振幅の超音波振動を付与する、2.超音波振動を樹脂材料と接触した状態で樹脂材料に付与する振動子等を、流路を流れる溶融状態の樹脂材料に対して付着性が高いものとする、3.超音波振動を前記樹脂材料の流動方向に対し直交する方向に伝達させる等の手段を講じることで、上記した複数の問題を一挙に解決できることを見出した。
【0010】
具体的に、請求項1に記載の超音波振動付与装置は、溶融・流動状態の樹脂材料に、超音波振動を付与する超音波振動付与装置において、超音波振動を前記樹脂材料に付与する振動子又はこの振動子の振動を前記樹脂材料に伝達する振動伝達部材を有し、この振動子と前記樹脂材料を接触させて、又は前記振動伝達部材を前記樹脂材料に接触させて、前記振動子又は前記振動伝達部材を前記樹脂材料の流路に設け、前記振動子の振動又は前記振動伝達部材の振動により、前記樹脂材料以外の他の部材が実質的に振動しないように、振動伝達抑制手段を設けた構成としてある。
【0011】
ここで、「振動子」とは、超音波振動の発生元であり、「振動伝達部材」とは、例えば振動子の先端に装着されて、前記振動子の振動を樹脂材料に伝達するための部材をいう。振動子や振動伝達部材は、樹脂材料が流れる流路の一部を構成するものであってもよい。なお、振動子や、振動子と振動伝達部材から構成されたものを、以下、「振動体」と総称することがある。
また、「他の部材」とは、部材の一部又は全部が、振動体と接する物(部材)を意味し、例えば図1のダイス1やホーン押え15が含まれる。
【0012】
本発明においては、振動伝達抑制手段を設けることで、振動子や振動伝達部材からの振動の漏洩を抑制することができ、その結果、成形品について、従来技術からは予測できないレベルの、剛性、耐衝撃性向上や、分散性向上が達成される。これは、振動伝達抑制手段を設けることで、集中的に樹脂材料に振動を付与して、キャビテーションや超音波による圧力振動を効果的に樹脂材料の内部で発生させることができるためと推定される。
【0013】
請求項2に記載するように、前記振動子又は前記振動伝達部材として、前記樹脂材料と付着性の高いものを選択するとよい。
樹脂材料との付着性が高いと、振動体や振動伝達部材の振動に樹脂を追随させて樹脂材料の内部で有効にキャビテーションや超音波による圧力振動を発生させることができ、本発明による効果をより高めることができる。
【0014】
なお、本発明の超音波振動付与装置を用いて溶融混練する場合において「振動体と樹脂材料の付着性が高い」とは、例えば、
(1)振動体を、溶融混練する樹脂の温度T℃に保温する
(2)前記(1)の振動体を、超音波振動させながら、T℃に保持した樹脂材料に、「押し付けて、すぐに離す」作業を10回繰り返す
という手順で試験を行ったときに、前記(1)の振動体の表面積の1/5以上に樹脂材料が付着することをいうものとする。
【0015】
振動体のみならず、溶融混練機内の樹脂流路を成す金属面、特に超音波印加部付近の樹脂流路を成す金属面に、樹脂材料と付性を高める材料を選択したり、樹脂材料と付着性を高める加工、処理を施すことで、更に本発明による効果を高めることができる。
前記振動子又は前記振動伝達部材は、請求項3に記載するように、前記樹脂材料の流動方向に対し直交する方向に前記振動を伝達させるよう位置決めするのが好ましい。
【0016】
前記振動伝達抑制手段としては、請求項4に記載するように、前記振動体又は前記振動伝達部材と前記他の部材との間に介在させた弾性体とすることができる。この弾性体は、請求項5に記載するように、前記振動体又は前記振動伝達部材の内部を伝わる振動の節部分に、前記振動体又は前記振動伝達部材と前記他の部材とを連結する連結部を張り出して形成し、前記連結部と前記他の部材との間に前記弾性体を介在させるとよい。
このようにすることで、振動の漏洩をより効果的に抑制することができる。
【0017】
前記弾性体としては、前記振動体や振動伝達部材よりも縦弾性係数又は横弾性係数が十分に小さいものが好ましく、他の部材への振動の伝達を効果的に抑制するには、請求項6に記載するように、前記振動体又は前記振動伝達部材の弾性をEh、前記弾性体の弾性をEとしたときに、E<0.3Ehとするとよい。
【0018】
前記振動伝達抑制手段としては、弾性体に限らず、請求項7に記載するように、前記振動体又は前記振動伝達部材と前記他の部材との間に設けられたギャップであってもよい。また、ギャップと弾性体とを併用することで、振動伝達の抑制効果をさらに向上させることができる。
【0019】
前記したギャップの大きさとしては、樹脂材料の種類によっても異なるが、一般的なポリマー又はコポリマーにおいては、請求項8に記載するように、0.05mm以上とするのがよい。0.05mmより小さいと、ギャップが小さくなりすぎて振動伝達抑制効果を十分に得ることが困難になる。また、樹脂材料の漏洩を防ぐために、ギャップの大きさは0.5mm以下とすることが好ましい。
【0020】
振動体を形成する材料としては、超音波振動に対する耐久性の観点から、ジュラルミンにように樹脂材料との付着性が余り高くない材料を用いることがある。そのため、このような材料で振動体を形成する場合は、請求項9に記載するように、振動子又は振動伝達部材が前記樹脂材料に接触して振動を付与する振動印加面に、前記樹脂材料の付着性を向上させるための表面加工及び/又は表面処理を施し、樹脂材料との付着性を向上させるとよい。
【0021】
このような表面加工や表面処理としては、例えば、請求項10に記載するように、機械加工、サンドブラスト、エッチング等による溝又は凹凸の形成、メッキ処理、溶射、付着性向上剤の塗布処理のいずれか又はこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0022】
なお、「溶射」とは、溶融した金属を高速で対象物に衝突させることで、金属表面を改質する公知の加工方法である。溶射する金属として、樹脂材料との付着性が高いものを選択すればよい。また、溶射加工後やメッキ後は、表面を磨いて平滑に仕上げるのが一般的であるが、その磨きを加減して表面に凹凸を残すことで、樹脂材料の付着性をさらに高めることができる。
【0023】
さらに、前記した付着性向上剤としては、樹脂材料の種類や性質によって適切なものを選択する必要があるが、例えば、請求項11に記載するように、無水マレイン酸又はマレイン酸組成物を用いることができる。
【0024】
請求項12に記載するように、前記振動子又は前記振動伝達部材が、円柱状、板状、リング状、円錐状、円錐台状、コニカル型、エキスポネンシャル型、直方体状、立方体状、及びこれらにスリットや切り込み、フランジを形成したもののいずれかの形状を有するホーンを用いることができる。このホーンは、請求項13に記載するように、前記流路に沿って直列又は並列に複数設けてもよく、請求項14に記載するように、複数の前記ホーンを前記流路の周囲に配置し、異なる方向から前記樹脂材料に振動を付与するものであってもよい。
【0025】
上記構成の本発明の超音波振動付与装置は、請求項15に記載するように、押出成形装置、射出成形装置のシリンダー等に装着されてもよく、また、押出機、混練機のシリンダーやその下流の流路又は金型に装着されるものであってもよい。射出成形機や溶融混練機のシリンダ等に装着する場合は、前記シリンダ内の樹脂材料の流れに対して垂直方向の振動を与えるように、例えば、一つ又は複数の振動子と、この振動子の振動を径方向の振動として前記シリンダに伝達する振動伝達部材とから振動体を構成してもよい。なお、前記した振動伝達部材としては、前記シリンダに外嵌されたリング型のものを用いることができる。
【0026】
また、超音波振動を付与する樹脂材料としては、単一種類の樹脂及び/又はエラストマー、2種以上の樹脂及び/又はエラストマーの混合物、樹脂及び/又はエラストマーとフィラーの混合物のいずれかであるとよく、熱硬化性材料、熱可塑性材料のいずれでもよい。
【0027】
超音波を付与する樹脂材料としては、請求項16に記載するように、二種以上の樹脂及び/又はエラストマーの混合物、樹脂及び/又はエラストマーと充填材の混合物のいずれかとすることができる。単一種類の樹脂及び/又はエラストマー、2種以上の樹脂及び/又はエラストマーの混合物、樹脂及び/又はエラストマーとフィラーの混合物のいずれかであるとよく、熱硬化性材料、熱可塑性材料のいずれであってもよい。
【0028】
樹脂材料としては、振動伝達部材や振動子と付着性が高い樹脂組成物を選択することが好ましい。実生産における耐久性等を考慮すると、超音波振動を付与し続けることができる材料は、ステンレス、ジュラルミン、鋼鉄等、ある程度限られてくるので、樹脂材料の方に付着性を向上させるための材料、例えば無水マレイン酸や、それで変性した樹脂等を少量配合して、振動伝達部材や振動子との付着性を高くしても良い。
【0029】
また、樹脂材料にポリカーボネートやポリアリレーレンスルフィドのようなエンジニアリングプラスチック、特に金属素材との付着性の良い極性を持つエンジニアリングプラスチックを樹脂材料として選択しても良い。
【0030】
本発明の樹脂材料の溶融混練方法は、請求項17に記載するように、請求項1〜16のいずれかに記載の超音波振動付与装置を、溶融状態の樹脂材料が流通する流路に設け、前記樹脂材料の流通方向と直交する方向から、前記流路を流通する前記樹脂材料に前記超音波振動を付与し、前記振動子又は振動伝達部材を除く他の部材を実質的に振動させない条件の下で、前記振動子又は振動伝達部材を通じて超音波振動を付与した方法としてある。
【0031】
この方法によれば、剛性、耐衝撃性、外観、グラスファイバーとの付着性等に優れた高品質の成形品を得ることができる。これは、他の部材を実質振動させないことで、集中的に樹脂材料に振動を付与して、キャビテーションや超音波による圧力振動を効果的に樹脂材料の内部で発生させることができるためと推定することができる。また、他の部材の振動を抑制することで、他の部材の振動疲労を防止する効果もある。
【0032】
請求項18に記載の発明は、請求項1〜16のいずれかに記載の超音波振動付与装置を用いて生成された樹脂組成物である。
請求項18に記載の樹脂組成物では、請求項19に記載するように、二種以上の熱可塑性樹脂及び/又はエラストマーを混合してなり、混合した前記熱可塑性樹脂の間に界面が形成され、前記界面において一方の熱可塑性樹脂が他方の熱可塑性樹脂中に羽毛状に滲み出た構造を有する樹脂組成物を得ることができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、超音波振動を一定の条件下で溶融・流動状態の樹脂材料に付与するだけで、二種以上の樹脂材料を混合した樹脂ブレンドの混練性や相溶性を向上させることができ、樹脂材料に添加剤やフィラーを添加する場合に前記添加剤やフィラーの樹脂材料内での分散性を向上させることができる。さらに、変性剤を添加することなく、樹脂変性を容易に行うことができる。
【0034】
本発明は、このような特徴を生かした、樹脂組成物ペレットの製造方法に好適に用いることができる。
また、本発明の超音波振動付与装置によって一定の超音波振動を付与して生成された樹脂材料を用いることで、剛性や成形性等の機械特性に優れた高品質の成形品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態にかかり、押出機のダイスに超音波発振器のホーンを装着したダイスの断面図である。
【図2】円柱状のホーンを用いた場合における樹脂材料の流路とホーンとの装着関係を説明する斜視図である。
【図3】直方体状のホーンを用いた場合における樹脂材料の流路とホーンとの装着関係を説明する斜視図で、(a)は単一のホーンを流路に設けた場合を、(b)は複数のホーンを材料の流通方向に沿って配置した場合を示している。
【図4】リング状の振動伝達部材(ホーン)を用いた場合における樹脂材料の流路とホーンとの装着関係を説明する、(a)シリンダー長手方向の断面図と、(b)シリンダー径方向の断面図を示している。
【図5】超音波出力合成器を用いた例を示す断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明の超音波付与装置の好適な実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の第一の実施形態にかかり、超音波発振器のホーンを装着した押出機のダイスの断面図である。なお、以下の説明で「樹脂材料」には、特に指定しない限り、狭義の樹脂材料は勿論、熱可塑性エラストマーを含む樹脂材料を意味するものとする。
【0037】
シリンダ2で加熱・溶融された樹脂材料は、ダイス1内の流路11を通ってノズル13に供給され、このノズル13の先端から押し出される。ダイス1の途中部位には、振動体3が装着される。振動体3は、図示しない超音波供給源に連結された振動子31と、この振動子3の先端に取り付けられた振動伝達部材としてのホーン32とから構成されている。ダイス1の途中部位には、流路11に達するまでホーン挿入孔12が形成されている。ホーン32は、このホーン挿入孔12に挿入され、その端面が流路11の一部を構成するようになっている。
【0038】
この実施形態では、図2に示すように、ホーン32は円柱状に形成されていて、流路11内を流通する溶融状態の樹脂材料に対して、流通方向と直交する方向から超音波振動を付与するようになっている。
ホーン32の途中部位には、ホーン挿入孔12(図1参照)の開口周縁まで延びる環状のフランジ33が張り出し形成されている。そして、前記開口周縁でフランジ33がホーン押え15とパッキン16とによってダイス1に固定されている。
【0039】
[ホーンの他の実施形態]
なお、ホーンの形態としては、円柱状に限らず板状、リング状、円錐状、円錐台状、コニカル型、エキスポネンシャル型等種々のものを選択することができる。
図3(a)は、本発明で利用が可能なホーンの他の形態を示す斜視図である。
【0040】
この実施形態では、直方体状のホーン35をダイス1に一つ装着している。また、ホーン35には、超音波振動の付与方向に長軸を有する複数の長孔状のスリット37が形成されている。図3(a)に示す例では、ホーン35の長手方向を、流路11を流れる材料の流通方向に差し向けて装着している。
【0041】
図3(b)に示す例では、幅広の流路11に、図3(a)で示したものと同様のホーン35を複数装着している。この場合は、ホーン11の長手方向を、流路11を流れる材料の流通方向に対して交叉する方向に差し向けている。
【0042】
図3(a)(b)のいずれの場合においても、ホーン35からからの超音波振動は、流路11を流れる樹脂材料に対して直交する方向から樹脂材料に付与される。また、図3(a)(b)に示す場合においても、ホーン35の両端にフランジ36を張り出し形成し、このフランジ36をホーン押え15及びパッキン16を介してダイス1に連結させる。
【0043】
[超音波振動]
上記したように、ホーン32から樹脂材料に付与される超音波振動は、溶融樹脂の流通方向に対してほぼ垂直に直交する。振動子31は、図示しない超音波発振器によって振動させられる。前記超音波発振器は、温度変化に伴う共振周波数の変化、あるいは条件の変化に伴う音響的な負荷変動に対応するため、振幅制御回路付自動周波数追尾型の発振器であるのが好ましい。
【0044】
また、必要な超音波出力が一個の振動子31では要求される値に達しない場合には、振動子31を複数個使用することも可能である。その際には、同じ振動特性をもつ振動子31を必要な本数だけ用意し、ホーン32の外周面に均等間隔で取り付ければよい。
【0045】
超音波振動の周波数及び振幅は、流路11を流通する溶融状態の樹脂材料の内部で、有効にキャビテーションや超音波による圧力振動を発生させることができるものを選択するのが良い。具体的な周波数及び振幅は、樹脂の種類によって異なり、実験や経験値から選択する必要があるが、一般的なポリマー又はコポリマーでは、周波数は10〜100kHz、好ましくは15KHz〜25KHzの範囲内のもの、振幅は1μm〜50μmの範囲内のものを選択するとよい。
【0046】
[ホーンの樹脂付着性]
ホーン32と溶融状態の樹脂材料とはその付着性が高いことが好ましい。付着性が低いと、樹脂材料の物性等の向上を高めることができない。ホーン32の振動に樹脂材料が追随せず、キャビテーションや超音波による圧力振動が有効に生じなくなったためと推定する。
【0047】
そのため、ホーン32の材質としては、超音波振動に対して必要な耐久性があり、振動の伝達損失が小さいかぎり、溶融状態の樹脂材料と付着性のよいものを選択する。樹脂材料が、無水カルボン酸又はその無水物で変性された樹脂を含む材料の場合は、付着性のよいホーン材質として、例えば、ジュラルミン、チタン、ステンレス、炭素鋼や合金鋼のような鋼鉄材、軟鉄等を挙げることができる。
【0048】
また、ホーン材質として使える素材の中に、樹脂付着性のよい材料がない場合は、樹脂付着性の良い材料を、ホーン32の端面にメッキしてもよいし、付着性のよい金属を溶融させて高速でホーン32に衝突させて溶射し、ホーン32を構成する金属の表面を改質するようにしてもよい。メッキや溶射する金属としては、樹脂材料との付着性が高いものを選択すればよい。なお、溶射加工後やメッキ後に行う表面の磨きを加減して凹凸を残し、樹脂材料の付着性をさらに高めるようにしてもよい。
【0049】
樹脂材料に対するホーン32の付着性は、種々の方法で試験することができる。例えば、ホーン32を溶融樹脂とほぼ同じ温度まで加熱し、超音波振動させたホーン32の先端を複数回(例えば10回)溶融状態の樹脂材料に接触させ、ホーン32の1/5以上に樹脂材料が付着するかどうかで行うようにしてもよい。
【0050】
また、樹脂材料に対するホーン32の付着性を向上させるために、ホーン32の端面にサンドブラスト等やエッチングにより微小凹凸を形成したり、機械加工やレーザ加工等で溝を形成したりしてもよい。また、付着性を向上させるための付着性向上剤を塗布してもよい。このような付着性向上剤は、樹脂材料の種類や性質によっても異なるが、一般的なポリマー又はコポリマーの場合には、例えば無水マレイン酸やマレイン酸組成物を挙げることができる。
【0051】
[振動伝達抑制手段]
ホーン32の振動は、流路11を流れる樹脂材料以外の他の部材、例えば、ダイス1やシリンダ2に伝達されないようにするのが好ましい。樹脂材料以外の前記他の部材に超音波振動が伝達されると、超音波振動のエネルギがそれだけ無駄に消費されることになるだけでなく、流路11を形成する他の部材が、振動子31と異なる周波数で振動すると、超音波の効果を損なうおそれがある。また、ダイス1やシリンダ2を損傷させる原因ともなる。
【0052】
この実施形態では、振動伝達抑制のために、ホーン32とダイス1との間に振動を吸収するパッキン16を介在させている。また、後述するが、ホーン32とダイス1のホーン挿入孔12の内周面との間には、一定寸法のギャップGが設けられている。このギャップGも振動伝達抑制手段として機能する。
【0053】
[パッキン]
振動伝達抑制手段であるパッキン16は、ホーン押え15とフランジ33との間に介在して設けられる。パッキン16の弾性(縦弾性係数又は横断性係数)Eはホーン32の弾性Ehとしたときに、E<0.3Ehとなるもの、好ましくは、E<0.1Ehとなるものを選択するとよい。この弾性条件を満足し、かつ、耐熱性を有するのであれば、パッキン16の材質としてはゴム、樹脂、紙製の部材に樹脂を含浸させたもの又は金属等を使用することができる。
【0054】
[ギャップ]
ギャップGの寸法は、0.05mmより大きく0.5mmより小さい範囲内で適宜に選択するとよい。ギャップGの寸法が0.05mm以下であると、ギャップGが小さすぎてダイス1にホーン32の振動が伝わりやすくなり、ダイス1を振動させることになる。なお、ギャップGが0.5mmより大きくなると、ギャップGから流路11を流れる樹脂材料が漏れ出しやすくなるおそれがあるが、その心配がない場合や、ギャップG以外の部位で、樹脂材料の漏れを防ぐ手段を講じている場合は、ギャップGは0.5mmを越えてもよい。
【0055】
また、上記ギャップGは、ホーン挿入孔12に挿入されるホーン32の全体に形成するのではなく、ホーン32の先端面から所定の寸法tまで、部分的に形成してもよい。この寸法tは、ホーン32の材質や大きさにもよるが、強度を考慮して1mm以上とし、また、ギャップGによる効果を考慮して30mm以下とするのが好ましい。
【0056】
ホーン32の振動がダイス1やシリンダ2に伝達されるかどうかは、例えば以下の手順で確認することができる。すなわち、ホーン32をダイス1に装着した状態で、溶融状態の樹脂材料をシリンダ2からダイス1の流路11に供給する。そして、1MPa以下の比較的低い圧力状態で樹脂材料の流れを停止させ、しかる後に、ホーン32を振動させる。そして、ホーン32から樹脂材料に超音波振動を付与する。そして、ホーン32と同様の弾性率を有する鉄、銅、真鍮、アルミニウム等の金属片(幅2〜20mm、長さ50〜250mm程度)をダイス1やシリンダ2に押し当てて、振動が伝達されているかどうかを確認する。
【0057】
図4は、本発明を押出成形装置の溶融混練機に適用した他の実施形態にかかり、(a)は、超音波振動付与装置を装着したシリンダの全体構成を示す概略図、(b)は(a)のI−I方向断面図である。
この押出成形装置50は、ペレット等の押出し成形に用いられるもので、押出し金型52と、この押出し金型52に樹脂材料を溶融・混練して供給する溶融混練機51とを有している。
【0058】
溶融混練機51は、シリンダ511と、このシリンダ511内で回転して樹脂材料の混合と押出しとを行うスクリュー512と、シリンダ511に樹脂材料を供給するホッパ513と、シリンダ511内部の樹脂材料を加熱する加熱ヒータ516と、スクリュー512を回転させる駆動装置514とを有している。
【0059】
そして、シリンダ511の周囲に設けた加熱ヒータ516でシリンダ511を加熱することで、ホッパ513から供給された樹脂材料を溶融し、駆動装置514によるスクリュー512の回転によって、溶融した樹脂材料を混練しながら押出し金型52に向けて押し出す。
【0060】
加熱ヒータ516によって樹脂材料が溶融されるシリンダ511の圧縮部のほぼ中央には、その外周面に、超音波を伝達するリング状の振動伝達部材54が装着されている。そして、この振動伝達部材54の外周には、振動伝達部材54に超音波振動を付与するための振動子53が一つ設けられている。この実施形態では、振動子53と振動伝達部材54とで振動体が構成される。
なお、この実施形態においても、超音波を他の部材に伝達させないための振動伝達抑制手段が設けられているが、先の実施形態と同様であるため、詳しい説明は省略する。
【0061】
また、この実施形態においては、シリンダ511の外壁のうち、振動伝達部材54と接触している部分が、振動子53の振動を樹脂材料に伝達する振動伝達手段として機能する。そのため、シリンダ511の当該部分の内周面に、表面加工や表面処理を施し、樹脂材料との付着性を向上させるとよい。樹脂材料との付着性を向上させるための具体的手段については、先の実施形態で説明したとおりである。
【0062】
上記構成の振動体においては、振動子53が振動すると、この振動が振動伝達部材54に伝達され、径方向の振動となって、シリンダ511に付与される。すなわち、シリンダ511内における樹脂材料の流れ方向に直交する方向から、樹脂材料に超音波振動が付与されるわけである。
【0063】
なお、上記構成の振動体においては、シリンダ511の樹脂材料と接する面で節部を有しない振動を樹脂材料に付与するものであってもよい。この場合、振動伝達部材54は、シリンダ511の外径と同一の内径を有し、かつ、振動伝達部材54の内周面に振動の腹がくる限り肉厚は可能な限り厚くするのがよい。
【0064】
また、振動子53と振動伝達部材54とを所定長さの棒状の振動ホーンで連結し、この振動ホーンを介して、振動子53の振動を振動伝達部材54に伝達するようにしてもよい。
【0065】
また、振動伝達部材54及び振動子53は、金属,セラミックス,グラファイト等を用いて形成することができるが、振動の伝達損失の観点からすると、伝達損失の小さいアルミ合金,チタン合金が好ましい。
振動伝達部材54の固定は、共振をできるだけ妨げないようにして行なう必要がある。振動伝達部材54には、固定用の節部を発生させ、この節部を利用してシリンダ511に固定するようにするとよい。
【0066】
振動子53は、図示しない超音波発振器によって振動させられる。この実施形態においても、超音波発振器は、温度変化に伴う共振周波数の変化、あるいは成形条件の変化に伴う音響的な負荷変動に対応するため、振幅制御回路付自動周波数追尾型の発振器であるのが好ましい。
【0067】
また、必要な超音波出力が一個の振動子では要求される値に達しない場合には、振動子53を複数個使用することも可能である。この場合には、同じ振動特性をもつ振動子53を必要な本数用意し、振動伝達部材54の外周面に均等間隔で取り付ければよい。
【0068】
さらに大きな振動を振動伝達部材54に付与するために、超音波出力合成器を用いることもできる。この場合は、例えば、図5に示すように、振動特性を損なわないように多角形(八角形以上)に形成した振動板55の各辺に振動子53を接合し、これら振動子53を同一位相で振動させ、その出力を中央部に集めて、中央部に設けた共振棒56から振動伝達部材54に振動を付与するようにするとよい。
【0069】
上記構成からなる押出し成形装置50によれば、樹脂材料を溶融して押出し金型52に供給するときに、超音波発振器によって振動子53から振動伝達部材54に超音波振動を付与する。これにより、溶融混練機51の内部を流れる樹脂材料に、その流れに対して垂直方向から超音波振動を付与することができる。これにより、樹脂材料の衝撃強度や伸び等の物性値を高めることができ、高速度の押出成形が可能となる。
【0070】
上記構成の超音波振動付与装置によって超音波振動を付与することで、機能性の向上、混練性,相溶性の向上及び樹脂変性の容易化を図る樹脂材料としては、反射材や自動車用材料として広く使用されているポリマーやコポリマーを挙げることができる。
【0071】
前記の「樹脂材料」としては、例えばポリスチレン系樹脂、(例えば、ポリスチレン、ブタジエン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体等)、ABS樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン樹脂、エチレン−エチルアクリレート樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリブテン、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリメチルメタクリレート、飽和ポリエステル樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、生分解性ポリエステル樹脂(例えば、ポリ乳酸のようなヒドロキシカルボン酸縮合物、ポリブチレンサクシネートのようなジオールとジカルボン酸の縮合物等)ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、スチレン系エラストマー等の1種または2種以上の混合物が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂中では、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂が好ましく、特にポリスチレン、ポリプロピレンが好ましい。
【0072】
また、前記の「樹脂材料」は、加工温度付近で測定するメルトフローインデックスが0.05〜1000g/10分、好ましくは0.1〜1000g/10分、さらに好ましくは1〜1000g/10分の程度の範囲にあるのがよい。
また、変性剤を添加することなく樹脂変性を容易にする場合に、ポリマーやコポリマー等の樹脂材料に添加するフィラーとしては、例えば、酸化チタン、シリカ、炭酸カルシウム、ガラスビーズ等の球状フィラー、タルク、マイカ、クレイ等の板状フィラー、カーボンナノチューブ、炭素繊維、ガラス繊維等の繊維状又は棒状フィラー等を挙げることができる。
【0073】
また、低融点合金のように押出し混練時には溶融状態であり常温では固体となる物質も含まれる。粒子径も特に限定されないが、1μm以下のもの、特に0.1μm以下の粒子径にも適用が可能である。フィラーの配合量は特に限定されないが、1wt%程度から数十wt%の高い配合率のものまで適用が可能である。
【0074】
[第一の実施例]
樹脂材料PP(ポリプロピレン)/エストラマー
(1)押出機:日本製鋼所製TEX30H二軸押出機を使用し、シリンダ温度180℃、ダイス温度180℃ 吐出量2kg/h スクリュー回転数100RPMとした。
スクリューディメンジョンA:標準ディメンジョン
スクリューディメンジョンB:強混練ディメンジョン
(2)超音波:上記二軸押出機の出口部に、樹脂組成物に対して垂直方向に振動を加えるホーンを取り付けたダイスを装着した。
周波数:19.5kHz
振幅:7μm
ホーン素材:ジュラルミン Eh=7×10^10Pa
(3)材料組成:組成むらを防止するために、PP/EPDM=JSR製(配合比25:75)の組成を持つマスターバッチをPPで希釈し、又はPPと無水マレイン酸で希釈し、下記A,Bの配合になるようにドライブレンドした材料を、押出機のフィーダに投入した。
A:PP/EPDM=75/25(PP=出光石油化学(株)製F−704NP,EPDM=JSR(株)製EP33)
B:PP/EPDM/無水マレイン変性PP=75/25/1(PP=同上,EPDM=同上、無水マレイン酸変性PP=三洋化成工業(株)製H−1000P)
【0075】
(4)比較例
【表1】

【0076】
(備考)
・流路(mm)とは、ホーン先端と、その対面にあって流路を形成するダイス内面との距離である。
・比較例1:ホーン、ダイスを取り付けた状態で超音波印加なしとした。
・比較例2:強混練スクリューディメンジョンにてシリンダ温度120〜200℃
吐出量5kg/h スクリュー回転転370RPMにて、超音波印加なしで混練した。
・比較例3:強混練スクリューディメンジョンにてシリンダ温度200℃吐出量5kg/h、スクリュー回転転100RPMにて、超音波印加なしで混練した。
・比較例4:超音波を印加するが、パッキンなしギャップなしでダイスが振動する条件とした。
【0077】
(5)実施例
【表2】

【0078】
(備考)
・実施例は全て、前記(2)の条件で超音波を印加した。
・実施例、比較例とも、押し出して得られた成形体(ペレット)を、射出成形して試験片を作り、下記規格で測定した。
引張弾性率:JIS K7161:94でダンベル形状の試験片を作成し、
JIS K7162:94規定で引張試験して、求めた。
シャルピー衝撃強度:JIS K7111:96
・実施例1:パッキンとギャップによりダイス振動が抑制された状態(実施例2〜4でも同じ)。強混練では達成できないレベルに衝撃強度が向上した。
・実施例2:事前に先端をマレイン酸変性組成物(マレイン酸変性PP)で処理したホーンを使用。ホーン先端の印加面には幅1mm、間隔2mm、深さ0.5mmの溝加工を施した。
・実施例3:同処理を施したホーンを使用し流路を4mmとした。この実施例について、20000倍の電子顕微鏡で観察した結果、混合したPPとエストラマーの間に界面が形成され、前記界面においてPPマトリックス側にエストラマーが羽毛状に滲み出た構造のものとなっていた。
・実地別4:処理を行わないホーンを使用したが組成物に無水マレイン酸を添加した。
・実施例5:先端にサンドフラスト加工を施したジュラルミン製ホーンを使用した。
【0079】
[第二の実施例]
樹脂材料PP/エストラマー/タルク
(1)押出機:日本製鋼所製TEX30H二軸押出機を用い、シリンダ温度180℃、ダイス温度180℃ 吐出量3kg/h スクリュー回転数100RPMとした。
スクリューディメンジョンA
(2)超音波:第一の実施例と同じとした。
(3)材料組成:組成むらを防止するために予め二軸混練機でブレンドした下記材料を押出機のフィーダに投入した。
C:PP1/PP2/EBM/タルク/酸化防止剤/結晶核材=11.5/53/27/8.5/0.1/0.1(PP1=出光石油化学(株)製ホモPP)H−5000、PP2=同(ブロックPP)J−3057HP、EBM=三井化学(株)製IT100)
D:PP/マレイン酸変性PP/EBM/有機化クレイ=42/30/20/8(組成中の無機成分5wt%)(PP=出光石油化学(株)製(ブロックPP)J−783HV、マレイン酸変性PP 東洋化成工業(株)製H−1000P、EBM=三井化学(株)製IT−100、有機化クレイ=コープケミカル(株)製MEE
【0080】
(4)比較例
【表3】

【0081】
(5)実施例
【表4】

【0082】
(備考)
・実施例は全て、前記(2)の条件で超音波を印加した。
・実施例、比較例とも、押し出しして得られた成形体(ペレット)を、射出成形して試験片を作り、下記規格で測定した。
引張破断伸び:JIS K7161:94でダンベル形状の試験片を作成し、JIS K7162:94規定で引張試験して、求めた。
シャルピー衝撃強度:JIS K7111:96
・これらは全てパッキンとギャップによりダイスは振動しない状態で実施した。
・実施例6:先端部に幅1mm、間隔2mm、深さ0.5mmの溝加工を施したホーンを使用。伸び及び衝撃強度が飛躍的に向上した。
・実施例7:実施例6のホーンにさらにクロムメッキを施した。
・実施例8:ホーン先端の印加面には幅1mm、間隔1mm、深さ1mmの溝加工を施し、マレイン酸組成物で処理を施した。衝撃強度が飛躍的に向上した。
【0083】
[第三の実施例]
(1)押出機:東洋精機(株)製ラボプラストミルを使用し、シリンダ温度180℃、ダイス温度180℃,吐出量3kg/h、スクリュー回転数100RPMとした。
(2)超音波:上記と同じ
(3)材料組成:ドライブレンドした下記材料をラボプラストミルのフィーダに投入した。
E:PP/酸化チタン/無水マレイン酸=98/2/1(PP=出光石油化学(株)製(ホモPP)J−2000GP、酸化チタン=石原産業(株)製CR63(粒子径200nm)、無水マレイン酸=三洋化成工業(株)製H−1000P)
F:PP/酸化チタン/無水マレイン酸=90/10/1(同上)
【0084】
(4)比較例
【表5】

【0085】
(5)実施例
【表6】

【0086】
(備考)
・実施例は全て、前記(2)の条件で超音波を印加した。
・これらは全てパッキンとギャップによりダイスは振動しない状態で実施した。
・比較例8と実施例9は材料組成Eで超音波あり/なしで比較し、比較例9と実施例10は材料組成Fで超音波あり/なしで比較した。
【0087】
比較例9と実施例9の分散状態を定量化し、得られたペレットを230℃で厚さ100μmにプレス成形したシートの面積420mmを、無作為に光学顕微鏡にて写真撮影した。写真をもとに50μm以上の凝集体の数、大きさを求めた。また、面積平均径、体積平均径、径の分布を算出してその結果を比較した。
【0088】
【表7】

【0089】
この表からわかるように、超音波振動を付与することにより、凝集体の数、大きさ、大きさの分布ともに顕著な分散効果が得られた。
上記の実施例1〜3からわかるように、本発明においては、押出成形品の剛性が約30%〜100%向上した。また、フィラーの分散度も、二倍程度に改善された。
【0090】
[第4の実施例]
実施例11〜13は、図4の押出し成形装置を用い、以下の材料及び条件で、ペレットを製造し、そのペレットを射出成形して試験片を作り、物性評価を行った。
リング状振動伝達材は、実施例1と同じギャップ、パッキンにより、シリンダーの振動が、実質振動しない状態に抑制されていた。
比較例10〜12は、ペレット製造時に超音波振動を付与しない以外は、各々実施例11〜13と同様に行った。
引張強度、伸び、曲げ強度、衝撃強度の物性の違いを比較し、その向上化率を評価した。その結果を表1に示す。なお、表1の物性の向上化率は、超音波処理が有り(実施例)の場合の物性をT1、無しの場合(比較例)の物性をT2として、{(T1−T2)/T2}×100(%)の式で求めた。
引張強度,伸び、曲げ強度、衝撃強度の測定は、以下の規格に従った。
引張強度,伸び JIS K7162:94
衝撃強度 JIS K7111:96
また、以下の実施例11〜13では、いずれにおいても、ペレット製造時に、中心周波数:19KHz、振幅:10μmの超音波を、10秒間付与するものとした。
【0091】
(実施例11及び比較例10)
材料:ブレンド比率70wt%−30wt%のPP−EPDM(エチレン・プロピレン・ジエン共重合エラストマー)
(実施例12及び比較例11)
材料:ブレンド比率70wt%−30wt%のPP−メタロセンLLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)
(実施例13及び比較例12)
材料:ブレンド比率70wt%−30wt%のPP−EBM(エチレン・ブチレン共重合エラストマー)
【0092】
【表8】

【0093】
本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態により何ら限定されるものではない。
例えば、上記の樹脂材料の流路11に複数のホーン32,35を設ける場合は、異なる方向にホーン32,35を取り付けて複数の方向から樹脂材料に超音波振動が付与されるようにしてもよい。
また、上記の説明では流路11を流れる樹脂材料に直接ホーン32,35の端面が接触するように、つまり、ホーン32,35の端面が流路11の一部を構成するようにしているが、ホーン32,35の振動を樹脂材料に伝達する振動伝達部材を介して、超音波振動がホーン32,35から樹脂材料に伝達されるようにしてもよい。例えば、流路11の外周面にホーン32,35を当接させ、流路11の壁面を通してホーン32,35の振動が樹脂材料に伝達されるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明は、溶融時の粘度が大きい熱可塑性樹脂にも適用が可能であるが、硬化前後の熱硬化性樹脂の方がキャビテーションや超音波による圧力振動が発生しやくすく、好適である。
また、二重結合を有するエストラマーに限らず、二重結合を含まないエストラマーにおいても物性の向上が確認され、適用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融・流動状態の樹脂材料に、超音波振動を付与する超音波振動付与装置において、
超音波振動を前記樹脂材料に付与する振動子又はこの振動子の振動を前記樹脂材料に伝達する振動伝達部材を有し、
この振動子と前記樹脂材料を接触させて、又は前記振動伝達部材を前記樹脂材料に接触させて、前記振動子又は前記振動伝達部材を前記樹脂材料の流路に設け、
前記振動子の振動又は前記振動伝達部材の振動により、前記樹脂材料以外の他の部材が実質的に振動しないように、振動伝達抑制手段を設けたこと、
を特徴とする樹脂材料への超音波振動付与装置。
【請求項2】
前記振動子又は前記振動伝達部材として、前記樹脂材料と付着性の高いものを選択したことを特徴とする請求項1に記載の樹脂材料への超音波振動付与装置。
【請求項3】
前記振動子又は前記振動伝達部材が、前記樹脂材料の流動方向に対し直交する方向に前記振動を伝達させるよう、位置決めされていることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂材料への超音波振動付与装置。
【請求項4】
前記振動伝達抑制手段が、前記振動体又は前記振動伝達部材と前記他の部材との間に介在させた弾性体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂材料への超音波振動付与装置。
【請求項5】
前記振動体又は前記振動伝達部材の内部を伝わる振動の節部分に、前記振動体又は前記振動伝達部材と前記他の部材とを連結する連結部を張り出して形成し、前記連結部と前記他の部材との間に前記弾性体を介在させたことを特徴とする請求項4に記載の樹脂材料への超音波振動付与装置。
【請求項6】
前記振動体又は前記振動伝達部材の弾性をEh、前記弾性体の弾性をEとしたときに、E<0.3Ehであることを特徴とする請求項4又は5に記載の樹脂材料への超音波振動付与装置。
【請求項7】
前記振動伝達抑制手段が、前記振動体又は前記振動伝達部材と前記他の部材との間に設けられたギャップであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂材料への超音波振動付与装置。
【請求項8】
前記ギャップの大きさを、0.05mm以上0.5mm以下としたことを特徴とする請求項7に記載の樹脂材料への超音波振動付与装置。
【請求項9】
前記振動体又は前記振動伝達部材が前記樹脂材料に接触して振動を付与する振動印加面に、前記樹脂材料の付着性を向上させるための表面加工及び/又は表面処理を施したことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の樹脂材料への超音波振動付与装置。
【請求項10】
前記表面加工又は前記表面処理が、凹凸又は溝の形成,メッキ処理及び付着性向上剤の塗布処理,溶射のいずれか又はこれらの組み合わせであることを特徴とする請求項9に記載の樹脂材料への超音波振動付与装置。
【請求項11】
前記付着性向上剤が無水マレイン酸又はマレイン酸組成物であることを特徴とする請求項10に記載の樹脂材料への超音波振動付与装置。
【請求項12】
前記振動子又は前記振動伝達部材が、円柱状、板状、リング状、円錐状、円錐台状、コニカル型、エキスポネンシャル型、直方体状、立方体状、及びこれらにスリットや切り込み、フランジを形成したもののいずれかの形状を有するホーンであることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の樹脂材料への超音波振動付与装置。
【請求項13】
前記ホーンを、前記流路に沿って直列又は並列に複数設けたことを特徴とする請求項12に記載の樹脂材料への超音波振動付与装置。
【請求項14】
複数の前記ホーンを前記流路の周囲に配置し、異なる方向から前記樹脂材料に振動を付与することを特徴とする請求項12に記載の樹脂材料への超音波振動付与装置。
【請求項15】
前記流路が、押出成形装置又は射出成形装置のシリンダ、押出機又は混練機のシリンダー、チャンバー、前記シリンダーの出口より下流側及び金型のいずれかに形成されたものであることを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載の樹脂材料への超音波振動付与装置。
【請求項16】
前記樹脂材料が、二種以上の樹脂及び/又はエラストマーの混合物、樹脂及び/又はエラストマーと充填材の混合物のいずれかであることを特徴とする、請求項1〜15のいずれかに記載の、樹脂材料への超音波振動付与装置。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれかに記載の超音波振動付与装置を、溶融状態の樹脂材料が流通する流路に設け、
前記樹脂材料の流通方向と直交する方向から、前記流路を流通する前記樹脂材料に前記超音波振動を付与し、
前記振動子又は振動伝達部材を除く他の部材を実質的に振動させない条件の下で、前記振動子又は振動伝達部材を通じて超音波振動を付与したこと、
を特徴とする樹脂材料の溶融成形方法。
【請求項18】
請求項1〜16のいずれかに記載の超音波振動付与装置を用いて生成されたことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項19】
請求項18に記載の樹脂組成物であって、二種以上の熱可塑性樹脂及び/又はエラストマーを混合してなり、混合した前記熱可塑性樹脂の間に界面が形成され、前記界面において一方の熱可塑性樹脂が他方の熱可塑性樹脂中に羽毛状に滲み出た構造を有することを特徴とする樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【国際公開番号】WO2005/007373
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【発行日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511832(P2005−511832)
【国際出願番号】PCT/JP2004/010026
【国際出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】