説明

樹脂歯車及び減速機構付き電動モータ

【課題】溶融樹脂の流れをスムーズにしてリムの真円度を高める。
【解決手段】ウォームホイール25は、回転軸26に連結されるハブ27と、外周に歯28を形成したリム29と、リム29とハブ27に跨って形成したウェブ30とを備えた樹脂歯車である。ウェブ30の両面には、ハブ27と同芯に配置した複数の環状リブ31と、略等間隔で配置した複数の放射状リブ33とを設けてある。放射状リブ33は、環状リブ31との交差箇所で段違いに形成され、ウェブ30の両面間で周方向に略半ピッチだけオフセットして配置されている。ウェブ30の両面でリム29と最外側の環状リブ31の間に周回溝32を形成してある。ハブ27には回転軸26をインサート成形してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェブの両面に環状リブと放射状リブを備えた樹脂歯車と、この樹脂歯車を用いた減速機構付き電動モータに関する。
【背景技術】
【0002】
ワイパやスライドドアなどを駆動する車載用アクチュエータとして、モータ本体と減速機構を一体化した減速機構付き電動モータが使用されている。この種のモータは、軽量化の要請が強く、減速機構の歯車に樹脂製のものを用いている。しかし、樹脂製の歯車は剛性が小さいため、ウェブにリブを設けて補強している。例えば、特許文献1の樹脂歯車では、ウェブの両面に環状リブを複数形成するとともに、複数の放射状リブをハブから延出させて環状リブと連結している。また、溶融樹脂が冷却固化する際、放射状リブのヒケによりリムが内側へ引っ張られて、真円度が悪くなるのを防止するため、放射状リブを環状リブとの交差箇所で段違いに形成している。
【特許文献1】特開2004−338140号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この樹脂歯車では、成形時に溶融樹脂が放射状リブに沿って流れ易くなるが、環状リブと交差する箇所で流動抵抗が大きくなるため、溶融樹脂がリムに到達する際の流速が周方向での差異を生じる。このため、強化繊維の配向性に乱れが生じ、溶融樹脂の冷却時の収縮差が大きくなり、リムの真円度が悪くなってしまう。
【0004】
本発明の目的は、溶融樹脂の流れをスムーズにしてリムの真円度を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の樹脂歯車は、回転軸に連結されるハブと、外周に歯を形成したリムと、該リムと上記ハブに跨って形成したウェブとを備えた樹脂歯車であって、上記ウェブの両面には、上記ハブと同芯に配置した複数の環状リブと、上記ハブから略等間隔で放射状に延出する複数の放射状リブとを備え、上記放射状リブは、環状リブとの交差箇所で段違いに形成され、上記ウェブの両面間で周方向にオフセットして配置されていることを特徴とする。
【0006】
上記ウェブの両面で上記リムと最外側の環状リブの間に周回溝を形成するのが好ましい。
【0007】
上記ハブに回転軸をインサート成形するのが好ましい。
【0008】
本発明の減速機構付き電動モータは、モータの回転軸に形成したウォームと、該ウォームと歯合するウォームホイールとを備えた減速機構付き電動モータであって、上記出力ギヤとして、回転軸に連結されるハブと、外周に歯を有するリムと、該リムと上記ハブに跨って形成したウェブとを備えた樹脂歯車を用い、上記ウェブの両面には、上記ハブと同芯に配置した複数の環状リブと、上記ハブから略等間隔で放射状に延出する複数の放射状リブとを備え、上記放射状リブは、環状リブとの交差箇所で段違いに形成され、上記ウェブの両面間で周方向にオフセットして配置されていることを特徴とする。
【0009】
本発明の減速機構付き電動モータは、モータの回転軸に逆向きのねじれを持って形成した一対のウォームと、これらウォームのそれぞれと噛合した一対のウォームホイールと、これらウォームホイールに設けたピニオンのそれぞれと噛合した単一の出力ギヤとを備えた減速機構付き電動モータであって、上記ウォームホイールとして、減速機構の出力軸に連結されるハブと、外周に歯を有するリムと、該リムと上記ハブに跨って形成したウェブとを備えた樹脂歯車を用い、上記ウェブの両面には、上記ハブと同芯に配置した複数の環状リブと、上記ハブから略等間隔で放射状に延出する複数の放射状リブとを備え、上記放射状リブは、環状リブとの交差箇所で段違いに形成され、上記ウェブの両面間で周方向にオフセットして配置されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の減速機構付き電動モータは、モータの回転軸に形成したウォームと、該ウォームと噛合するウォームホイールと、該ウォームホイールとクランク機構を介して連結したセクタギヤと、該セクタギヤと噛合した出力ギヤと、該出力ギヤとセクタギヤの回転軸同士を連結する連結部材とを備えた減速機構付き電動モータであって、上記ウォームホイール及び/又は出力ギヤとして、回転軸に連結されるハブと、外周に歯を有するリムと、該リムと上記ハブに跨って形成したウェブとを備えた樹脂歯車を用い、上記ウェブの両面には、上記ハブと同芯に配置した複数の環状リブと、上記ハブから略等間隔で放射状に延出する複数の放射状リブとを備え、上記放射状リブは、環状リブとの交差箇所で段違いに形成され、上記ウェブの両面間で周方向にオフセットして配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、放射状リブがウェブの両面間で周方向にオフセットして配置されるので、放射状リブと環状リブの交差する箇所での流動抵抗が減少し、溶融樹脂の流れが良くなり、リムに到達する際の流速が周方向で均一になる。この結果、強化繊維の配向性に乱れがなくなり、溶融樹脂の冷却時の収縮差が少なくなり、リムの真円度が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0013】
図1は本発明の樹脂歯車を採用したワイパモータ(減速機構付き電動モータ)の断面図である。
【0014】
このワイパモータ11はモータ12と減速機構13を備え、これらを有底筒状のヨーク14とギヤハウジング15に収容してある。ヨーク14の内面にはマグネット16が固着してあり、その内側にアマチュア17を収容配置してある。アマチュア17は回転軸18を備える。回転軸18は軸受け19,20でヨーク14に支持してある。回転軸18の先端はギヤハウジング15内に突出し、その先端を軸受け21で支持してある。アマチュア17のコイルにはブラシ22と整流子23を介して給電される。アマチュア17はマグネット16との間で生じる電磁力よって回転する。回転軸18にはウォーム24が形成してあり、このウォーム24にウォームホイール25を噛合させてある。つまり、モータ12の回転は減速機構13で減速されて回転軸26から出力される。
【0015】
図2はウォームホイール25の正面図、図3はウォームホイール25の背面図、図4は図2のA−A線断面図である。
【0016】
ウォームホイール25は、炭素繊維等の強化繊維を含有する樹脂製のもので、回転軸26に連結されるハブ27と、外周に複数の歯28を形成したリム29と、リム29とハブ27に跨って形成したウェブ30とを備えている。なお、ハブ27には回転軸26をインサート成形してある。
【0017】
ウェブ30の両面には、3つの環状リブ31をハブ27と同芯に形成してある。最外側の環状リブ31とリム29の間には周回溝32を形成してある。この周回溝32の幅は環状リブ31の間隔よりも小さくしてある。さらに、ウェブ30の両面には、ハブ27から最外側の環状リブ31に向かって放射状に延びる複数の放射状リブ33が略等間隔で形成してある。放射状リブ33は環状リブ31との交差箇所で段違いに形成されている。詳しくは、放射状リブ33は環状リブ31を挟んで周方向に略半ピッチだけオフセットしている。さらに、ウェブ30の両面にある放射状リブ33は周方向に略半ピッチだけオフセットしている。つまり、ウェブ30の両面にある放射状リブ33が環状リブ31を介して直線状に連なっている。なお、図2の一点鎖線枠B内は裏側の放射状リブ33を点線で示してある。
【0018】
図5と図6はウォームホイール25の成形時の溶融樹脂の流れを説明する図である。
【0019】
ウォームホイール25の成形に際しては、図5に示すようにハブ27の中央に配置したノズルNから金型のキャビティ内に溶融樹脂を射出する。溶融樹脂はキャビティ内を外側へ向かって流れるが、その際、流動抵抗の小さい放射状リブ33に沿って流れ易くなる。
【0020】
従来は、ウェブ30の両面の放射リブ33が重なっていたので、図6(b)に示すように、放射状リブ33に沿った溶融樹脂の流れが環状リブ31との交差箇所で方向を変えようとするため、流動抵抗が大きくなり、溶融樹脂がリム29に到達する際の流速が周方向で差異を生じていた。この結果、強化繊維の配向性に乱れが生じ、溶融樹脂の冷却時の収縮差が大きくなり、リム29の真円度が悪くなっていた。
【0021】
これに対し、本実施形態のウォームホイール25では、ウェブ30の両面の放射状リブ33を周方向に略半ピッチだけオフセットさせてあるので、図5に示すようにウェブ30の両面の放射リブ33の間を溶融樹脂が蛇行しながら流れ、放射状リブ33から環状リブ31に向かう流れが抑制されて、図6(a)に示すように半径方向に沿った流れが促進される。つまり、放射状リブ33と環状リブ31の交差する箇所での流動抵抗が減少し、溶融樹脂の流れが良くなるため、リム29に到達する際の流速が周方向で均一になる。この結果、強化繊維の配向性に乱れがなくなり、溶融樹脂の冷却時の収縮差が少なくなり、リムの真円度が向上する。
【0022】
さらに、このウォームホイール25では、ウェブ30の両面でリム29と最外側の環状リブ31の間に周回溝32を形成してあるので、溶融樹脂が冷却固化する際、放射状リブ33のヒケによりリム29が内側へ引っ張られるのを抑制でき、リム29の真円度の一層の向上を図ることができる。この結果、歯28の加工精度が格段に向上し、バックラッシュを小さくしてギヤノイズの低減を図ることができる。また、ハブ27に回転軸26をインサート成形してあるので、組立工数の低減にも役立つ。
【0023】
ところで、本発明の樹脂歯車はワイパモータ11のウォームホイール25の他に次のような用途がある。
【0024】
図7は本発明の樹脂歯車を用いた別のワイパモータを示している。なお、図1のワイパモータ11と同一の構成要素は同一の符号を付してある。
【0025】
このワイパモータ50は、モータ12の回転軸18に逆向きのねじれを持って形成した一対のウォーム51,52と、これらウォーム51,52のそれぞれと噛合した一対のウォームホイール53,54と、これらウォームホイール53,54に一体に設けたピニオン55,56のそれぞれと噛合した単一の出力ギヤ57とを備えている。つまり、回転軸18に形成した逆向きのウォーム51,52にウォームホイール53,54を歯合させることで、回転軸18に作用するスラスト反力を相殺している。このタイプのワイパモータ50では、出力ギヤ57に本発明の樹脂歯車を用いることができる。
【0026】
図8は本発明の樹脂歯車を用いたリヤワイパモータを示している。なお、図1のワイパモータ11と同一の構成要素は同一の符号を付してある。
【0027】
このリヤワイパモータ60は、モータ12の回転軸18に形成したウォーム61と、このウォーム61と噛合するウォームホイール62と、このウォームホイール62とクランク機構63を介して連結したセクタギヤ64と、このセクタギヤ64と噛合した出力ギヤ65と、出力ギヤ65とセクタギヤ64の回転軸同士を連結する連結部材65と備えている。つまり、ウォームホイール62が回転すると、セクタギヤ64が出力ギヤ65を中心として回動し、出力ギヤ65が揺動回転することになる。このリヤワイパモータ60では、ウォームホイール62及び/又は出力ギヤ65に本発明の樹脂歯車を用いることができる。
【0028】
本発明は以上の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。例えば、以上の実施形態では、リム29と最外側の環状リブ31の間に周回溝32を形成してあるが、この周回溝32を省いて放射状リブ33をリム29に連結してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の樹脂歯車を採用したワイパモータの断面図である。
【図2】同ワイパモータで用いたウォームホイールの正面図である。
【図3】同ウォームホイールの背面図である。
【図4】図2のA−A線断面図である。
【図5】成形時の溶融樹脂の流れを説明する図である。
【図6】成形時の溶融樹脂の流れを説明する図である。
【図7】本発明の樹脂歯車を用いた別のワイパモータを示す図である。
【図8】本発明の樹脂歯車を用いた別のワイパモータを示す図である。
【符号の説明】
【0030】
11 ワイパモータ
12 モータ
13 減速機構
14 ヨーク
15 ギヤハウジング
16 マグネット
17 アマチュア
18 回転軸
22 ブラシ
23 整流子
24 ウォーム
25 ウォームホイール
26 回転軸
27 ハブ
28 歯
29 リム
30 ウェブ
31 環状リブ
32 周回溝
33 放射状リブ
50 ワイパモータ
51 ウォーム
52 ウォーム
53 ウォームホイール
54 ウォームホイール
55 ピニオン
56 ピニオン
57 出力ギヤ
60 リヤワイパモータ
61 ウォーム
62 ウォームホイール
63 クランク機構
64 セクタギヤ
65 出力ギヤ
65 連結部材
N ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に連結されるハブと、外周に歯を形成したリムと、該リムと上記ハブに跨って形成したウェブとを備えた樹脂歯車であって、
上記ウェブの両面には、上記ハブと同芯に配置した複数の環状リブと、上記ハブから略等間隔で放射状に延出する複数の放射状リブとを備え、
上記放射状リブは、環状リブとの交差箇所で段違いに形成され、上記ウェブの両面間で周方向にオフセットして配置されていることを特徴とする樹脂歯車。
【請求項2】
請求項1記載の樹脂歯車において、上記ウェブの両面で上記リムと最外側の環状リブの間に周回溝を形成したことを特徴とする樹脂歯車。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の樹脂歯車において、上記ハブに回転軸をインサート成形したことを特徴とする樹脂歯車。
【請求項4】
モータの回転軸に形成したウォームと、該ウォームと噛合するウォームホイールとを備えた減速機構付き電動モータであって、
上記ウォームホイールとして、回転軸に連結されるハブと、外周に歯を有するリムと、該リムと上記ハブに跨って形成したウェブとを備えた樹脂歯車を用い、
上記ウェブの両面には、上記ハブと同芯に配置した複数の環状リブと、上記ハブから略等間隔で放射状に延出する複数の放射状リブとを備え、
上記放射状リブは、環状リブとの交差箇所で段違いに形成され、上記ウェブの両面間で周方向にオフセットして配置されていることを特徴とする減速機構付き電動モータ。
【請求項5】
請求項4記載の減速機構付き電動モータにおいて、上記ウェブの両面で上記リムと最外側の環状リブの間に周回溝を形成したことを特徴とする減速機構付き電動モータ。
【請求項6】
請求項4または請求項5記載の減速機構付き電動モータにおいて、上記ハブに回転軸をインサート成形したことを特徴とする減速機構付き電動モータ。
【請求項7】
モータの回転軸に逆向きのねじれを持って形成した一対のウォームと、これらウォームのそれぞれと噛合した一対のウォームホイールと、これらウォームホイールに設けたピニオンのそれぞれと噛合した単一の出力ギヤとを備えた減速機構付き電動モータであって、
上記出力ギヤとして、回転軸に連結されるハブと、外周に歯を有するリムと、該リムと上記ハブに跨って形成したウェブとを備えた樹脂歯車を用い、
上記ウェブの両面には、上記ハブと同芯に配置した複数の環状リブと、上記ハブから略等間隔で放射状に延出する複数の放射状リブとを備え、
上記放射状リブは、環状リブとの交差箇所で段違いに形成され、上記ウェブの両面間で周方向にオフセットして配置されていることを特徴とする減速機構付き電動モータ。
【請求項8】
請求項7記載の減速機構付き電動モータにおいて、上記ウェブの両面で上記リムと最外側の環状リブの間に周回溝を形成したことを特徴とする減速機構付き電動モータ。
【請求項9】
請求項7または請求項8記載の減速機構付き電動モータにおいて、上記ハブに回転軸をインサート成形したことを特徴とする減速機構付き電動モータ。
【請求項10】
モータの回転軸に形成したウォームと、該ウォームと噛合するウォームホイールと、該ウォームホイールとクランク機構を介して連結したセクタギヤと、該セクタギヤと噛合した出力ギヤと、該出力ギヤとセクタギヤの回転軸同士を連結する連結部材とを備えた減速機構付き電動モータであって、
上記ウォームホイール及び/又は出力ギヤとして、回転軸に連結されるハブと、外周に歯を有するリムと、該リムと上記ハブに跨って形成したウェブとを備えた樹脂歯車を用い、
上記ウェブの両面には、上記ハブと同芯に配置した複数の環状リブと、上記ハブから略等間隔で放射状に延出する複数の放射状リブとを備え、
上記放射状リブは、環状リブとの交差箇所で段違いに形成され、上記ウェブの両面間で周方向にオフセットして配置されていることを特徴とする減速機構付き電動モータ。
【請求項11】
請求項10記載の減速機構付き電動モータにおいて、上記ウェブの両面で上記リムと最外側の環状リブの間に周回溝を形成したことを特徴とする減速機構付き電動モータ。
【請求項12】
請求項10または請求項11記載の減速機構付き電動モータにおいて、上記ハブに回転軸をインサート成形したことを特徴とする減速機構付き電動モータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−30706(P2009−30706A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−194776(P2007−194776)
【出願日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(000144027)株式会社ミツバ (2,083)
【Fターム(参考)】