説明

樹脂組成物、並びにこれを用いたプリプレグ、基板及び導体箔付き基板

【課題】 高周波用途に適しており、しかも耐熱性に優れる基板を得ることのできる樹脂組成物、及び、これにより得られた基板を提供すること。
【解決手段】 好適な実施形態の基板10は、樹脂層12と、樹脂層12中に配された繊維基材14とを備えている。樹脂層12は、樹脂組成物の硬化物からなり、この樹脂組成物は、ポリビニルベンジルエーテル化合物を含む樹脂成分、リン原子とビニル基を有するベンゼン環とを含む反応性リン化合物を含むリン化合物を含有している。この樹脂組成物においては、樹脂成分及びリン化合物中の、リン化合物に含まれるリン原子の合計含有率が3.5質量%以上であり、樹脂成分100質量部に対する反応性リン化合物の含有量は20質量部以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、並びにこれを用いたプリプレグ、基板及び導体箔付き基板に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器に搭載される回路基板等に用いる基板としては、ガラスクロス等の繊維基材や不織布に樹脂材料を含浸させて樹脂材料を硬化することにより得られたものが用いられている。このような基板に対しては、安全上の観点から、優れた難燃性を有していることが求められる。従来、基板に難燃性を付与する方法としては、樹脂材料として難燃性の高いハロゲンを含む材料を用いることが行われていた。
【0003】
しかし、このような樹脂材料を用いた基板は、焼却時に有害なガスを生じることから、環境上の観点から望ましくない。そこで、ハロゲンを使用しないで難燃性を向上させる方法として、ハロゲンを含まない樹脂材料とリン系化合物とを組み合わせて用いることが検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開1995−109416号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年では、電子機器の高速化及び大容量化を可能とするために、基板に対しては高周波帯域での使用に適した特性を有していることが求められている。具体的には、回路基板において高周波信号の伝達過程で生じる損失を低減するために、基板は、低誘電率であり低誘電損失であるという特性を有することが望ましい。しかしながら、上述したようにリン系化合物の添加により難燃性を向上させる場合は、上記誘電特性が悪くなり易く、高周波対応に優れた基板を確実に得るのが困難であった。
【0005】
また、十分な難燃性を得ようとする場合、リン系化合物をある程度多量に添加する必要があるが、このように、リン系化合物の添加量が多くなると、得られる基板の耐熱性が低下し、高温下での強度が不十分となる傾向にあった。
【0006】
そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、高周波用途に適しており、しかも耐熱性に優れる基板を得ることのできる樹脂組成物、並びに、これを用いたプリプレグ、基板及び導体箔付き基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の樹脂組成物は、樹脂成分及びリン化合物を含む樹脂組成物であって、樹脂成分は、ポリビニルベンジルエーテル化合物を含有し、リン化合物は、リン原子及び複数のベンゼン環を含み、ベンゼン環のうちの少なくとも一つがビニル基を有しており、且つ、ベンゼン環のうちの少なくとも一つがリン原子に結合している反応性リン化合物を少なくとも含有しており、樹脂成分及びリン化合物中の、リン化合物に含まれるリン原子の合計含有率は3.5質量%以上であり、樹脂成分100質量部に対する反応性リン化合物の含有量は、20質量部以上であることを特徴とする。
【0008】
本発明の樹脂組成物に、樹脂成分として含まれるポリビニルベンジルエーテル化合物は、極性の小さい構造を有していることから、その硬化物は、低誘電率且つ低誘電正接であるという特性を有するものとなる。また、リン化合物として含まれる反応性リン化合物は、ベンゼン環に結合したビニル基によって、硬化の際にポリビニルベンジルエーテル化合物と共重合され得る。このため、かかる樹脂組成物を硬化して得られる基板においては、リン化合物がポリビニルベンジルエーテル化合物の重合物中に取り込まれた状態となり、従来のようにリン化合物が遊離して含まれている場合に比して、誘電特性及び耐熱性の双方を維持したまま優れた難燃性が得られるようになる。以上のような要因に基づき、本発明の樹脂組成物から得られる基板は、高周波用途に適するとともに、優れた耐熱性をも発揮し得るものとなる。ただし、作用は必ずしもこれらに限定されない。
【0009】
ここで、上記ビニルベンジル化合物は、下記一般式(1)で表される化合物であると好ましい。これにより、より優れた誘電特性、耐熱性及び難燃性が得られるようになる。
【化1】


[式中、R11はメチル基又はエチル基であり、R12は、水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基であり、nは、2〜6の整数である。]
【0010】
上記本発明の樹脂組成物は、樹脂成分及びリン化合物中の、リン化合物に含まれるリン原子の合計含有率が、3.5質量%以上5.5質量%未満であるとより好ましい。リン原子の含有率が、3.5質量%未満であると、十分な耐熱性が得られ難くなる。一方、5.5質量%を超える場合、樹脂組成物中の樹脂成分の含有量が相対的に小さくなり、得られる基板の特性が低下する傾向にある。
【0011】
また、本発明の樹脂組成物は、tanδが2GHz以上の周波数帯域において0.003以下である無機フィラーを更に含むとより好ましい。これにより、誘電特性を低下させずに強度が一層向上した基板が得られるようになる。
【0012】
本発明のプリプレグは、本発明の樹脂組成物を用いて得られるものであり、上記本発明の樹脂組成物と、この樹脂組成物中に配された繊維基材とを含むことを特徴とする。また、本発明の基板は、上記プリプレグから好適に得られるものであり、上記本発明の樹脂組成物の硬化物と、この硬化物中に配された繊維基材とを含むことを特徴とする。かかる構成の基板は、本発明の樹脂組成物の硬化物から主として構成されるため、上述したように、難燃性に優れ、低誘電率且つ低誘電正接であり、且つ、優れた耐熱性を有するものとなる。
【0013】
さらに、本発明は、上記本発明の樹脂組成物の硬化物及びこの硬化物中に配された繊維基材を含む基板と、この基板の表面上に配された導体箔とを備える導体箔付き基板を提供する。また、本発明の基板は、上記本発明の樹脂組成物の硬化物からなる基板と、この基板の表面上に配された導体箔とを備えるものであってもよい。このような構成を有する導体箔付き基板は、その導体箔を所定のパターンに加工することで回路基板を形成し得る。また、必要に応じて、このような回路基板上に本発明の樹脂組成物を塗布した導体箔付き基板をさらに積層して多層化することも可能である。このようにして得られた回路基板は、上記本発明の樹脂組成物の硬化物を含む基板を備えることから、高周波用途に適しており、しかも、電子機器に搭載されて高温に晒された場合であっても優れた難燃性を発揮し、且つ、変形等を生じ難いものとなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高周波用途に適しており、しかも耐熱性に優れる基板を得ることのできる樹脂組成物、並びに、これを用いたプリプレグ、基板及び導体箔付き基板を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施の形態について、必要に応じて図面を参照しながら説明する。
[樹脂組成物]
【0016】
まず、好適な実施形態に係る樹脂組成物について説明する。本実施形態の樹脂組成物は、樹脂成分及びリン化合物を少なくとも含有するものである。以下、樹脂組成物に含まれる各成分について説明する。
【0017】
(樹脂成分)
樹脂組成物中の樹脂成分は、ポリビニルベンジルエーテル化合物を少なくとも含んでいる。ポリビニルベンジルエーテル化合物は、側鎖にエーテル結合を介してビニルベンジル基が結合している繰り返し単位を有する化合物であり、下記一般式(1)で表される化合物が好適である。
【化2】


[式中、R11はメチル基又はエチル基であり、R12は、水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基であり、nは、2〜6の整数である。]
【0018】
式(1)で表されるポリビニルベンジルエーテル化合物において、R12で表される炭化水素基としては、置換基を有していてもよいアルキル基、アラルキル基、アリール基等が例示できる。具体的には、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられ、アラルキル基としてはベンジル基が挙げられ、アリール基としてはフェニル基が挙げられる。なお、ポリビニルベンジル化合物としては、これらの構造を有するものを単独で含んでいてもよく、複数種を組み合わせて含んでいてもよい。
【0019】
このような構造を有するポリビニルベンジルエーテル化合物は、例えば、下記一般式(2)で表されるポリフェノール化合物と、ビニルベンジルハライドとを反応させることにより得ることができる。なお、下記式中、R11、R12及びnは上記と同義である。
【化3】

【0020】
本実施形態の樹脂成分中には、上記ポリビニルベンジルエーテル化合物以外の成分が含まれていてもよい。但し、樹脂組成物から得られる基板の誘電特性及び耐熱性を十分に得る観点からは、樹脂成分中、ポリビニルベンジルエーテル化合物が50質量%以上含まれていることが好ましい。
【0021】
上記ポリビニルベンジルエーテル化合物以外の成分としては、例えば、下記一般式(3a)で表されるポリフェノール化合物と、ビニルベンジルハライドとを反応させて得られた化合物が挙げられる。また、下記一般式(3b)又は(3c)で表される構造を有するポリビニルフェノール又はその共重合体と、ビニルベンジルハライドとを反応させて得られた化合物等も例示できる。下記式中、p、qはそれぞれ括弧内の構造の繰り返し数を示す整数であり、これらの化合物において通常採用される数であれば特に制限はない。
【化4】

【0022】
樹脂成分中には、例えば、ポリビニルベンジルエーテル化合物と共重合し得るモノマーが更に含まれていてもよい。かかるモノマーとしては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、ジビニルトルエン、ジビニルベンゼン、ジビニルベンジルエーテル、アリルフェノール、アリルオキシベンゼン、ジアリルフタレート、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ビニルピロリドン等が挙げられる。これらのモノマーの配合量は、ポリビニルベンジルエーテル化合物の質量に対して2〜50質量%であると好ましい。
【0023】
さらに、樹脂成分中には、ポリビニルベンジルエーテル化合物以外の樹脂が含まれていてもよい。樹脂としては、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、マレイミド樹脂、ポリフェノールのポリシアナート樹脂、ビニルベンジル化合物等の熱硬化性樹脂や、ポリエーテルスルホン、ポリアセタール、ジシクロペンタジエン系樹脂等の熱可塑性樹脂が挙げられる。これらの樹脂の配合量は、ポリビニルベンジルエーテル化合物の質量に対して5〜30質量%であると好ましい。
【0024】
(リン化合物)
本実施形態の樹脂組成物は、リン化合物として、リン原子と複数のベンゼン環とを含み、このベンゼン環のうちの少なくとも一つがビニル基を有しており、且つ、ベンゼン環のうちの少なくとも一つがリン原子に結合している反応性リン化合物を少なくとも含有している。
【0025】
反応性リン化合物においては、上記ビニル基を有するベンゼン環がリン原子に直接結合していると好ましい。また、リン原子に結合している炭素原子は、その全てが芳香環を構成している炭素原子であるとより好ましい。つまり、リン原子には、直鎖構造の炭化水素基が結合していないことが好ましい。これにより、反応性リン化合物の添加による誘電特性の低下を更に低減することができる。なかでも、反応性リン化合物においては、リン原子に結合している炭素原子が全てベンゼン環の構成炭素であると更に好ましい。
【0026】
このような反応性リン化合物としては、具体的には、下記一般式(4)で表されるp−スチリルジフェニルホスフィン(DPPST)が好ましい。DPPSTは、樹脂組成物の硬化の際、ポリビニルベンジルエーテル化合物の重合構造中に良好に取り込まれ、優れた耐熱性や機械的強度を維持しつつ硬化物の難燃性を向上させることができる。また、DPPSTは、ポリビニルベンジルエーテル化合物の誘電特性を維持する特性にも優れている。
【化5】

【0027】
また、樹脂組成物中には、リン化合物として、上述した反応性リン化合物以外のリン化合物が更に含まれていてもよい。但し、得られる基板の誘電特性、耐熱性及び機械的強度を十分に維持する観点からは、反応性リン化合物が、樹脂成分100質量部に対して、20質量部以上含まれていると好ましく、30〜80質量部含まれているとより好ましく、40〜60質量部含まれていると更に好ましい。
【0028】
上記反応性リン化合物以外のリン化合物としては、リン酸エステルが好適である。このように、樹脂組成物に含まれるリン化合物(反応性リン化合物及びその他のリン化合物)は、全て分子中に有機基を有する有機リン化合物であると好ましい。樹脂組成物中に添加し得るリン酸エステルとしては、下記一般式(5)で表される化合物(例えばレゾルシノールビス(2,6−キシレニルホスフェート))、ハイドロキノン−テトラ(2,6−キシレニルホスフェート)、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド等が挙げられる。
【化6】


[式中、R51は芳香環を有する2価の有機基又は炭素数2〜14の2価の脂肪族炭化水素基を示し、R52、R53、R54及びR55は各々独立に水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示し、kは1以上の整数を示し、m、m、m及びmは各々独立に1〜3の整数を示す。]
【0029】
本実施形態の樹脂組成物は、上述したようなリン化合物を含有するものであるが、かかるリン化合物の添加による難燃性向上効果を十分に得るために、樹脂組成物中のリン原子の含有量は次の条件を満たしている。すなわち、樹脂成分及びリン化合物中の、リン化合物に含まれるリン原子の合計含有率は、3.5質量%以上となっている。ここで、リン原子の合計含有率とは、リン化合物(反応性リン化合物及びその他のリン化合物を含む)に含まれている全てのリン原子の合計質量の、樹脂成分及びリン化合物の合計質量に対する割合(質量%)をいうものとする。かかるリン原子の合計含有率が3.5質量%未満であると、十分な難燃性が得られ難くなる。
【0030】
また、上記リン原子の合計含有率の上限は、5.5質量%であると好ましい。この上限値が5.5質量%を超えると、樹脂組成物中のリン化合物の配合量が過剰となり、得られる基板の誘電特性や耐熱性が低下する傾向にある。十分な難燃性を得るとともに、優れた耐熱性及び誘電特性を維持する観点からは、上記合計含有率は、3.5〜5.5質量%であると好ましく、4〜4.5質量%であると更に好ましい。
【0031】
(その他成分)
好適な実施形態の樹脂組成物は、所望とする特性に応じて上述した樹脂成分及びリン化合物以外の成分を含有していてもよい。このようなその他の成分としては、例えば、無機フィラーが挙げられる。樹脂組成物中に無機フィラーを更に含有させることによって、得られる基板の強度を向上させることができる。かかる無機フィラーは、基板の誘電特性の低下を防ぐ観点から、tanδ(誘電正接)が、2GHz以上の高周波帯域において、0.003以下であるものが好ましい。
【0032】
このような無機フィラーとしては、例えば、酸化チタン等の誘電材料、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタン酸カリウム、チタン酸バリウム、酸化亜鉛、ガラス繊維、ガラスビーズ、酸化マグネシウム(タルク)等が挙げられる。なかでも、低tanδであるシリカが好ましい。また、比誘電率を調製する目的で、低tanδなチタン酸バリウム系化合物を、無機フィラーとして含有させてもよい。
【0033】
無機フィラーの配合量は、樹脂成分に対して50体積%以下であると好ましく、特に、後述するような導体箔付き基板を形成する場合には、20〜40体積%であるとより好ましい。無機フィラーの配合量が20体積%以上であると優れた強度の向上効果が得られる傾向にある。しかし、50体積%を超えると、樹脂組成物が成形し難くなり、基板の作製が困難となる場合がある。
【0034】
なお、本実施形態の樹脂組成物中には、上記無機フィラー以外に、樹脂組成物の硬化を促進する硬化剤、劣化防止剤、難燃助剤(窒素系、シリコーン系、金属水酸化物系等)、有機フィラー等が、誘電特性、耐熱性や強度等の特性を低下させない程度の配合量で含まれていてもよい。
【0035】
(樹脂組成物の調製方法)
本実施形態の樹脂組成物は、例えば、上述した各成分を混錬することによって調製することができる。混錬は、混錬機、ニーダ、ボールミル、攪拌機、ロール等の方法により行うことができる。また、用いる材料によっては、樹脂成分やリン化合物を溶媒に溶解してから各成分を混合してもよい。この場合、溶媒としては、トルエン、キシレン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン等を適用できる。
[導体箔付き基板]
【0036】
次に、上述した樹脂組成物を用いた導体箔付き基板について説明する。図1は、好適な実施形態に係る導体箔付き基板を模式的に示す斜視図である。図1に示すように、本実施形態の導体箔付き基板10は、基板12と、この基板12の両面に設けられた導体箔層14とを備えている。
【0037】
基板12は、上述した実施形態の樹脂組成物の硬化物を含むものである。また、この基板12は、かかる硬化物以外に、通常、基板の補強材として用いられるような繊維基材を更に含有していてもよい。つまり、基板12は、上述した実施形態の樹脂組成物の硬化物と、この硬化物中に配された繊維基材とを含むものであってもよい。繊維基材としては、ガラス、アラミド、石英、液晶ポリマー等からなる繊維、或いは、これらの繊維からなる織布や不織布が好ましい。なかでも、ガラスクロスが、価格や繊維基材としての性能(強度等)の面から好ましい。
【0038】
このような基板12は、例えば、本実施形態の樹脂組成物が繊維基材に含浸されてなるプリプレグから形成されたものであると好ましい。このプリプレグに含まれる樹脂組成物を硬化することによって、基板12が得られる。プリプレグを製造する際における、繊維基材への樹脂組成物の含浸は、繊維基材を、樹脂組成物中、又は、樹脂成分、リン化合物及びその他の成分が溶媒中に溶解又は分散されてなる溶液中に浸漬させることによって行うことができる。ここで、後者のような溶液を用いる場合は、樹脂含浸後の繊維基材を加熱して溶媒等を除去することによりプリプレグが得られる。なお、加熱は、樹脂組成物が完全に硬化しない程度の温度とすることが好ましく、樹脂組成物の一部が硬化していてもよい。なお、繊維基材は、樹脂組成物やその硬化物との接着性を良好とするために、シランカップリング剤等による表面処理が施されていてもよい。
【0039】
かかる基板12において、樹脂組成物の硬化物は、上記一般式(1)で表されるポリビニルベンジルエーテル化合物が、そのビニル基において重合された重合体を主として含むものとなる。そして、かかる重合体の一部には、上述した反応性リン化合物がそのビニル基において共重合されて取り込まれた状態となっている。
【0040】
導体箔層14としては、回路基板等の回路材料に通常用いられる導体材料からなるものが挙げられる。例えば、金、銀、銅、アルミニウム等の金属箔が挙げられ、なかでも、銅箔が好ましい。金属箔としては、電解法、圧延法のいずれの方法で作製されたものでも構わない。
【0041】
このような構成を有する導体箔付き基板10は、例えば、上述したプリプレグの両側に導体箔層14となるべき導体箔を重ね、得られた積層体を真空プレス等により加熱及び加圧した後、導体箔を所望のパターンとなるように加工することにより製造することができる。積層体の加熱及び加圧によって、プリプレグ及び導体箔の各層が密着するとともに、プリプレグ中の樹脂組成物の硬化が生じて基板12が形成される。この際の加熱及び加圧は、温度120〜200℃、圧力0.5〜4MPaの条件で行うことが好ましく、これらの条件内で複数回繰り返し行ってもよい。また、導体箔のパターン加工は、フォトリソグラフィー法等の公知のパターニング方法により適宜行うことができる。
【0042】
なお、導体箔付き基板10の製造においては、上述のような導体箔を積層する前に、例えば、上記プリプレグを加熱し樹脂組成物を硬化すること等によって先に基板12のみを形成し、その後、基板10の表面上に導体箔層14を形成するようにしてもよい。基板12を得る場合の加熱は、好ましくは100〜220℃、より好ましくは120〜200℃の範囲で行うことができる。かかる加熱は、例えば真空プレスにより加熱しながら加圧することで行ってもよい。
【0043】
このような構成を有する導体箔付き基板10における基板12は、上記本発明の樹脂組成物の硬化物を主として含むものであることから、難燃性に優れるほか、低誘電率且つ低誘電正接であり、しかも、耐熱性や機械的強度にも優れるものとなる。このため、この導体箔付き基板10から得られる回路基板は、電子機器に搭載されて高温に晒されても優れた難燃性を発揮し得るほか、変形等も生じ難く、更には高周波帯域の信号を低損失で伝送可能なものとなる。
【0044】
なお、本発明の導体箔付き基板としては、上述した形態以外の構成を有するものであってもよい。例えば、導体箔付き基板は、基板として、上述した基板を複数積層してなる積層基板を備えるものであってもよい。図2は、積層基板を備える導体箔付き基板の一例を示す模式断面図である。図示されるように、導体箔付き基板40は、任意の層数(ここでは3層)の基板20からなる積層基板25と、この積層基板25の両面に配された導体箔30からなるものである。基板20は、上記実施形態の基板12と同様のものである。また、導体箔30としては、上述した導体箔層14を形成するための導体箔と同様のものが適用できる。このような導体箔付き基板40は、導体箔30を所定の回路パターン等に加工することによって、電子機器等に搭載される回路基板等として用いることができる。
【0045】
さらに、上述した銅箔付き基板をコア基板として用いれば、容易に多層基板を形成することもできる。すなわち、銅箔付き基板の外層に更に絶縁層及び導体箔層を交互に積層することによって、導体箔層及び絶縁層を交互に備える多層基板を容易に得ることができる。かかる構造の多層基板においては、上記実施形態の基板12や20は、コア基板用の基板だけでなく、導体箔層間に配置される絶縁層(層間基板)として用いてもよい。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[基板の作製]
【0047】
(実施例1〜6、比較例1〜6)
まず、ポリビニルベンジルエーテル化合物(ARS−068、昭和高分子社製)、リン化合物であるp−スチリルジフェニルホスフィン、及びその他のリン化合物をトルエンに溶解した後、所望の添加剤を加えてこれらを均一に混合して、樹脂組成物の溶液を得た。なお、樹脂組成物に用いた各成分の種類及び配合量は、表1(実施例1〜6)及び表2(比較例1〜6)に示す通りとした。
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
表1及び2中、VBEはポリビニルベンジルエーテル化合物、DPPSTはp−スチリルジフェニルホスフィン(北興化学工業社製)、PX200はレゾルシノールビス(2,6−キシレニルホスフェート(大八化学社製)、MR−260はジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェートをそれぞれ示し、リン含有率は、樹脂組成物(表中の各成分の合計)に含まれる全リン原子の含有率(重量%)を示す。
【0050】
次に、各樹脂組成物の溶液を、ガラスクロス(Eガラス)に含浸させてプリプレグを形成した。各実施例及び比較例に対応するプリプレグを所望の枚数ずつ形成した後、それぞれを重ねて真空プレスにより、温度プロファイル120℃30分、150℃30分、180℃6.5時間、圧力3MPaの条件で加圧・硬化して、厚さ1.2mmの基板(積層基板)を作製した。
【0051】
(実施例7)
上記実施例4の基板の形成に用いたのと同じ組成の樹脂組成物に、無機フィラーとして球状シリカ(FB−3SDC:電気化学工業社製)を40体積%となるように配合した。この無機フィラー混合後の樹脂組成物を、フィルム上にキャスト法で成膜し、120℃で1時間乾燥させて溶剤を除去し、樹脂組成物からなる塗膜を形成した。その後、得られた塗膜を金型でプレスし、真空中、200℃、5時間の条件で硬化を行い、厚さ1.2mmの基板を作製した。
【0052】
(実施例8)
実施例4の基板の形成に用いたのと同じ組成の樹脂組成物に、無機フィラーとしてセラミック粉末(BaNdTi12:TDK社製、平均粒径1.6μm)を40体積%となるように配合した。無機フィラー混合後の樹脂組成物を用い、実施例1〜6と同様にして厚さ1.2mmの基板を作製した。
[特性評価]
【0053】
実施例1〜8及び比較例1〜6の基板を用い、以下に示す方法に従って各基板の誘電特性、難燃性、耐熱性及び耐溶剤性の評価を行った。得られた結果をまとめて表3に示す。
【0054】
(誘電特性)
実施例1〜8及び比較例1〜6の基板を90mm×1.5mm×0.8mmのサイズに切り出して誘電特性測定用サンプルとした後、空洞共振器摂動法(高周波誘電特性測定装置、ヒューレットパッカード(株)製83620A及び8757Dを使用)により2GHzの周波数にて各サンプルの誘電率(ε´)及び誘電正接(tanδ)を測定した。
【0055】
(難燃性評価)
実施例1〜8及び比較例1〜6の基板を127mm×12.7mm×0.8mm(1/21インチ)のサイズに切り出して燃焼試験用サンプルとした後、これを用いてUL94垂直試験法に準拠する方法で燃焼性試験を行い、各サンプルが燃焼を生じるか否かを観察した。なお、燃焼が生じなかったサンプルについては、難燃性のグレード(V−0、V−1及びV−2)についてもあわせて評価した。
【0056】
(耐熱性)
実施例1〜8及び比較例1〜6の基板を40mm×10mm×0.8mmのサイズに切り出して耐熱性試験用サンプルとした後、このサンプルを用いて室温〜300℃の測定温度範囲、昇温速度が5℃/分の条件でDMA(DynamicMechanical Analysis:粘弾性測定器)による測定を行い、各サンプルのガラス転移温度(Tg)を測定した。なお、Tgは測定後のtanδのピークとした。Tgが高いほど熱変形温度が高く、耐熱性に優れることを示している。また、表3中、Tgの表記がないものは、明確なピークが無く、Tgが判別できなかったことを示している。
【0057】
(耐溶剤性)
実施例1〜8及び比較例1〜6の基板をトルエン中に浸漬し、超音波を15分印加する処理を行った。処理後の基板の外観を目視で観察し、処理前と比べて外観に変化が生じていなかったものを耐溶剤性に優れるものとして○で示し、外観に変化がみられたものを耐溶剤性に劣るものとして×で示した。
【0058】
【表3】

【0059】
表3より、リン化合物としてDPPSTを含む樹脂組成物を用いて得られた実施例1〜8の基板は、低誘電率且つ低誘電正接であり誘電特性に優れ、なお且つ、優れた難燃性、耐熱性及び耐溶剤性を具備していることが確認された。これに対し、リン化合物としてDPPSTを含まないか、又は、リン原子の合計含有量が本発明の範囲外であった樹脂組成物を用いた比較例1〜6の基板は、特に、誘電特性、難燃性及び耐熱性のうちいずれかの特性が劣っていることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】好適な実施形態に係る導体箔付き基板を模式的に示す斜視図である。
【図2】積層基板を備える導体箔付き基板の一例を示す模式断面図である。
【符号の説明】
【0061】
10…導体箔付き基板、12…基板、14…導体箔層、20…基板、25…積層基板、30…導体箔、40…導体箔付き基板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成分及びリン化合物を含む樹脂組成物であって、
前記樹脂成分は、ポリビニルベンジルエーテル化合物を含有し、
前記リン化合物は、リン原子及び複数のベンゼン環を含み、前記ベンゼン環のうちの少なくとも一つがビニル基を有しており、且つ、前記ベンゼン環のうちの少なくとも一つが前記リン原子に結合している反応性リン化合物を含有しており、
前記樹脂成分及び前記リン化合物中の、当該リン化合物に含まれるリン原子の合計含有率が3.5質量%以上であり、
前記樹脂成分100質量部に対する前記反応性リン化合物の含有量は、20質量部以上である、ことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリビニルベンジルエーテル化合物は、下記一般式(1)で表される化合物であることを特徴とする請求項1記載の樹脂組成物。
【化1】


[式中、R11はメチル基又はエチル基であり、R12は、水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基であり、nは、2〜6の整数である。]
【請求項3】
前記樹脂成分及び前記リン化合物中の、当該リン化合物に含まれるリン原子の合計含有率は、3.5質量%以上5.5質量%未満であることを特徴とする請求項1又は2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
tanδが2GHz以上の周波数帯域において0.003以下である無機フィラーを更に含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の樹脂組成物と、該樹脂組成物中に配された繊維基材と、を含むことを特徴とするプリプレグ。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の樹脂組成物の硬化物と、該硬化物中に配された繊維基材と、を含むことを特徴とする基板。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の樹脂組成物の硬化物及び該硬化物中に配された繊維基材を含む基板と、該基板の表面上に配された導体箔と、を備えることを特徴とする導体箔付き基板。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の樹脂組成物の硬化物からなる基板と、該基板の表面上に配された導体箔と、を備えることを特徴とする導体箔付き基板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−2191(P2007−2191A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−187067(P2005−187067)
【出願日】平成17年6月27日(2005.6.27)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】