説明

機械の移動可能な機械要素の運動案内方法

本発明は、制御装置(8)において動作する次のステップ、すなわち、a)機械要素(9)によって実行されるべき移動運動(XV)および最適化基準(OpK)が入力されるステップ、b)運動特性(Xsollk(t))が機械要素(9)によって実行されるべき移動運動および最適化基準(OpK)に基づいて決定されるステップ、c)位置目標量(Xsoll(n))が運動特性(Xsollk(t))により決定されるステップ、d)機械要素(9)の移動運動を実行するために調節部(6)に位置目標量(Xsoll(n))が出力されるステップを有する機械の移動可能な機械要素(9)の運動案内方法および制御装置(8)に関する。本発明は、使用者が直接に運動案内の最適化に影響を及ぼすことのできる機械の移動可能な機械要素の最適化された運動案内のための簡単な方法および簡単な制御装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械の移動可能な機械要素の運動案内方法ならびに対応する制御装置に関する。
【0002】
例えば工作機械、生産機械および/またはロボットのような機械では、しばしば移動可能な機械要素が正確に、振動なしに、かつできるだけ高速に位置決めされなければならない。予め定められた移動行程と予め定められた動的パラメータに依存して、機械軸移動のための調節器を用いた簡単な目標設定による調整によっては、移動可能な機械要素を振動なしにかつ時間的に最適に位置決めすることができない。現在の負荷、行程長さに依存して、また加加速度、加速度および速度のための設定パラメータに依存して、機械要素の位置決め時に多かれ少なかれ、避けることが非常に困難な機械要素および/または負荷の大きな振動が発生する。
【0003】
立体倉庫の積み込み・積み下ろし装置またはクレーンの形での生産機械においては、負荷振動の発生が増大する。
【0004】
従来技術から、移動可能な機械要素の運動案内のための種々の最適化方法が知られている。これらの方法は、例えば時間的に最適な移動、すなわちできるだけ高い速度による機械要素および/または負荷の移動を可能にしかつその際に発生する機械要素および/または負荷の振動を許容可能な範囲内にとどめる相応の運動特性を可能にする。しかしながら、このような方法によりほとんど振動のない運動経過も算出することができるが、これらの運動経過は一般的に、もはや時間的に最適ではなく、すなわち移動運動が緩慢に行なわれる。
【0005】
このような最適化方法は、例えば、本出願の開示の構成部分とみなされるべき独国特許出願公開第10063722号明細書、独国特許出願公開第10200680号明細書および独国特許出願公開第10315525号明細書から、専門家にとって十分に知られている。上述の最適化方法により、移動すべき機械軸の1つ又は複数の固有周波数を抑制することができる。この場合に一般には、少なくとも原理的に、振動の少ない移動運動を実現しようとするほど、運動の時間的最適性が低下し、すなわち運動の高速性が低下し、逆に運動の時間的最適性もしくは高速性を増そうとすればするほど、振動が激しくなるという原則が当てはまる。
【0006】
従来技術から知られているこれらの最適化方法の全ては、市販品としては、機械を制御するための制御装置において実施されてなく、前段階において、例えばパーソナルコンピュータのような機械外部の計算装置において使用者によって実施される。市販品としては、外部のコンピュータに処理すべき移動運動(例えば機械要素をX方向に3mだけ移動すること)が入力され、最適化方法が相応の最適化された運動特性を計算する。
【0007】
このようにして各機械軸について外部で算出された運動特性により、機械の各機械軸のための制御装置において位置目標量が発生され、移動可能な機械要素の移動過程を実行するために調節部に目標量として転送される。
【0008】
これまでの公知の方法は、既に述べたように、先ず外部のコンピュータにおいて運動特性が算出されなければならず、その後、運動特性に応じて運動を実行する機械の制御装置に算出された運動特性が移されなければならないという欠点を有する。したがって、機械の使用者、すなわち操作者は、機械の現場において、もはや、例えば算出された運動特性において負荷がまだ強すぎるという理由で、オンラインにて現場で機械に直接に、例えば更に振動の少ない運動経過に関して、または時間的に最適な運動経過に関して、移動運動に影響を及ぼすという可能性を持たない。このために、市販品では、まさに外部のPC上で再び新たな運動特性が算出されなければならず、その後それが再び制御装置に移されなければならない。その際にはじめて新たな運動特性による運動案内が実行される。したがって、従来の方法は非常に手間がかかって高コストである。
【0009】
独国特許出願公開第10164496号明細書から、運動案内のために運動特性が時間に関連してかつ位置に関連して実行される運動案内のための自動化システムが公知である。
【0010】
独国特許出願公開第10065422号明細書から、カム板の機能の形成および最適化のための方法および制御装置が公知である。
【0011】
独国特許出願公開第10055169号明細書において、特に生産機械のための市販の工業向け制御装置が開示されている。
【0012】
本発明の課題は、使用者が直接に運動案内の最適化に影響を及ぼすことのできる機械の移動可能な機械要素の最適化された運動案内のための簡単な方法および簡単な制御装置を提供することにある。
【0013】
この課題は、機械を制御するための制御装置において動作する次のステップ
a)機械の移動可能な機械要素によって実行されるべき移動運動および最適化基準が入力されるステップ、
b)最適化基準に依存して適切な最適化方法の選択が行なわれかつ選択された最適化方法により運動特性が決定されることによって、機械要素によって実行されるべき移動運動と最適化基準とに基づいて運動特性が決定されるステップ、
c)運動特性により位置目標量が決定されるステップ、
d)位置目標量が調節部に機械要素の移動運動を実行するために出力されるステップ
を有する機械の移動可能な機械要素の運動案内方法によって解決される。
【0014】
更に、この課題は、機械の移動可能な機械要素を運動案内するための制御装置において、
機械要素によって実行されるべき移動運動および最適化基準を入力するための手段と、
機械要素によって実行されるべき移動運動と最適化基準とに基づいて運動特性を決定するための手段と、
運動特性による位置目標量を決定し、位置目標量を調節部に機械要素の移動運動を実行するために出力するための手段と
を備える制御装置によって解決される。
【0015】
運動特性が時間的に走査されることによって、運動特性により位置目標量の決定が行なわれると有利であることが分かった。これによって、位置目標量の特に簡単な決定が可能にされる。
【0016】
更に、運動特性から多項式関数が求められかつ多項式関数の係数に基づいて位置目標量が決定されることによって、運動特性により位置目標量の決定が行なわれると有利であることが分かった。多項式関数の係数に基づく位置目標量の決定は市販されている手法である。
【0017】
更に、最適化基準に依存して適切な最適化方法の選択が行なわれかつ選択された最適化方法により運動特性が決定されることによって、機械要素によって実行されるべき移動運動と最適化基準とに基づいて運動特性の決定が行なわれると有利である。個々の最適化方法が移動特性の最適化のために使用されるだけでなく、適切な最適化方法の選択が最適化基準に依存して行なわれることによって、具体的な用途に関して特に良好に最適化された運動特性の決定が可能になる。
【0018】
工作機械、生産機械および/またはロボットは振動性の機械要素および/または負荷の問題を発生する機械の通常の構成である。
【0019】
更に、本発明による方法を実施するための制御装置のために、その方法を実行可能であるコード部分を含むコンピュータプログラムが設けられると好ましい。
【0020】
方法の有利な実施態様は、制御装置の有利な実施態様に類似して得られ、そしてその逆もそうである。
【0021】
本発明の実施例を図面に示し、以下において更に詳しく説明する。図面において、
図1は本発明による制御装置を示し、
図2は運動特性を示す。
【0022】
図1には、主として本発明による制御装置8が示されている。制御装置8は機械、特に機械の移動可能な機械要素9の制御に用いられる。このために制御装置8は位置目標値の形で位置目標量Xsoll(n)を決定し、位置目標量Xsoll(n)は調節部6に調節目標入力量として出力される。調節部6は駆動装置7を制御し、駆動装置7は移動可能な機械要素9を移動させるために用いられる。制御装置8は例えばクレーンの制御に役立つ。機械要素9は、例えばクレーンジブに沿って移動可能であるサドルの形で、ロープを介して荷(負荷)を吊り下げるためのクレーンフックを支持する。クレーンジブに沿ったサドルの所望の目標位置を記述する位置目標量Xsoll(n)は、調節部6に調節目標量として予め与えられる。測定システムにより、測定された位置実際量Xist(n)、すなわち機械要素9の測定された位置が、機械要素9の移動運動を調節するために調節部6に実際量として供給される。もちろん、調節部6も制御装置8に一体化された構成要素であってもよい。
【0023】
今や、サドル9の運動案内は、ロープを介してサドル9に接続された負荷が、サドルをクレーンジブに沿って例えば3m移動運動させる際に、極めて僅かしか振動しないようにするか、又は、例えば少し多めに振動しても構わないがその代わりにできるだけ高速に機械サドル、従って負荷の移動運動が実行されるように行なわれる。
【0024】
このために、制御装置8は、機械要素9によって実行された移動運動および最適化基準OpKの入力手段を有し、この入力手段は実施例では入力ブロック1の形で存在する。移動の開始時に、サドル9によって実行され、例えばサドル、従って負荷をクレーンジブに沿って3m移動させる移動運動XVが、入力ブロック1内に使用者によって入力される。更に、使用者は、実行された移動運動が成し遂げられるべきである最適化基準OpKを入力することを要求される。この入力は例えば画面上における相応の入力マスク内で行なわれ、使用者は最適化基準として例えば“ロバスト”または“時間的に最適”を選択することができる。
【0025】
入力されたデータは、矢印で示されているように、運動特性を算出する手段に導かれる。この手段は実施例では運動特性算出ユニット2の形で存在する。運動特性算出ユニット2においては、移動可能な機械要素9を運動案内するための運動特性Xsollk(t)が、機械要素9によって実行されるべき移動運動および最適化基準OpKに基づいて決定される。使用者が、例えば入力ブロック1においてロバストを選択した場合、運動特性算出ユニット2において、例えば独国特許出願公開第10315525号明細書、独国特許出願公開第10200680号明細書および独国特許出願公開第10063722号明細書に記載されている最適化方法により、最適な運動特性が算出される。この場合に、使用者がロバストな運動案内を所望したことから、機械要素9の運動案内は、ロープに吊り下げられる負荷が移動運動によってできるだけ少ない振動を起こすかもしくは発生させるように算出される。このために、最適化方法によって、振動系(負荷、ロープ)をできるだけ少ない振動で移動するために、できるだけ少なく振動系の固有周波数を励起する運動案内が算出される。
【0026】
使用者が、入力ブロック1内に、時間的に最適な運動案内を所望することを入力した場合、最適化方法により、例えば主固有振動周波数だけが移動運動によって励起されず、しかしその代わりに機械要素の運動を例えば高い速度および加速度で行う運動特性が算出される。
【0027】
もちろん、この場合に、最適化基準に依存して先ず、運動特性算出ユニット2内において、その都度の最適化基準にとって最適な最適化方法の選択が行なわれ、選択された最適化方法により運動特性が決定されることも可能である。例えば、独国特許出願公開第10063722号明細書による最適化方法を用いて、有利に、的確に個別の固有周波数を抑制することができ、これは、例えば時間的に最適な運動案内のために有利である。一方、例えば独国特許出願公開第10200680号明細書による最適化方法によれば、多くの固有周波数を同時に抑制することができ、これは振動の非常に少ない運動案内のために有利である。
【0028】
運動特性算出ユニット2は、出発点として、図2に示されている運動特性Xsollk(t)を出力する。
【0029】
運動特性Xsollk(t)は時間tに依存して位置目標量の連続的な推移を示す。運動特性Xsollk(t)は係数算出ユニット3に供給される。係数算出ユニット3は、例えば、本出願の開示の構成部分とみなされるべき独国特許出願公開第10164496号明細書および独国特許出願公開第10065422号明細書に開示された方法により、運動特性Xsollk(t)を記述する複数の多項式関数を求める。このために、運動特性Xsollk(t)が複数の運動部分に分けられ、運動特性推移が運動部分間においてそれぞれ多項式関数により模擬される。係数算出ユニット3は出力量として個々の多項式関数の係数qiを計算モジュール4に出力する。計算モジュール4において、係数qiから位置目標量Xsoll(n)が決定され、機械要素9の移動運動を実行するために調節部6に出力される。係数qiからの位置目標量Xsoll(n)の算出は、例えば、先ず時間tに関するそれぞれの多項式の時間推移が算出され、その後多項式関数が相応に等間隔走査される最も簡単な形で行なわれる。
【0030】
係数算出ユニット3および計算モジュール4は、運動特性によって位置目標量を決定し、機械要素の移動運動を実行するために調節部へ位置目標量を出力するための手段である。
【0031】
図1に示されている代替によれば、位置目標量の決定手段が、走査ユニット5の形で存在していてもよい。これは、等間隔の時間インターバルで運動特性Xsollk(t)を走査し、したがって等間隔走査値からなる位置目標量Xsoll(n)を発生する。
【0032】
更に、ここで述べておくに、最適化基準としては、代替または追加として、例えば抑制されるべき固有周波数も入力ブロック1にて入力されること、および/または代替または追加として、例えば最大許容加加速度、最大許容加速度および/または最大許容速度のような他のパラメータが最適化基準として入力されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明による制御装置を示すブロック図
【図2】運動特性を示すダイアグラム
【符号の説明】
【0034】
1 入力ブロック
2 運動特性算出モジュール
3 係数算出ユニット
4 計算モジュール
5 走査ユニット
6 調節部
7 駆動装置
8 制御装置
9 機械要素
OpK 最適化基準
i 係数
t 時間
V 移動運動
sollk(t)運動特性
soll(n) 位置目標量
ist(n) 位置実際量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械を制御するための制御装置において動作する次のステップ、
a)機械の移動可能な機械要素(9)によって実行されるべき移動運動(XV)および最適化基準(OpK)が入力されるステップ、
b)最適化基準(OpK)に依存して適切な最適化方法の選択が行なわれかつ選択された最適化方法により運動特性(Xsollk(t))が決定されることによって、機械要素(9)によって実行されるべき移動運動と最適化基準(OpK)とに基づいて運動特性(Xsollk(t))が決定されるステップ、
c)運動特性(Xsollk(t))により位置目標量(Xsoll(n))が決定されるステップ、
d)位置目標量(Xsoll(n))が調節部(6)に機械要素(9)の移動運動を実行するために出力されるステップ
を有することを特徴とする機械の移動可能な機械要素の運動案内方法。
【請求項2】
運動特性(Xsollk(t))が時間的に走査されることによって、運動特性(Xsollk(t))により位置目標量(Xsoll(n))の決定が行なわれることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
運動特性(Xsollk(t))から多項式関数が求められかつ多項式関数の係数(qi)に基づいて位置目標量(Xsoll(n))が決定されることによって、運動特性(Xsollk(t))により位置目標量(Xsoll(n))の決定が行なわれることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
機械の移動可能な機械要素(9)を運動案内するための制御装置(8)において、
制御装置(8)が、
機械要素(9)によって実行されるべき移動運動および最適化基準(OpK)を入力するための手段(1)と、
機械要素(9)によって実行されるべき移動運動と最適化基準(OpK)とに基づいて運動特性(Xsollk(t))を決定するための手段(2)と、
運動特性(Xsollk(t))によって位置目標量(Xsoll(n))を決定し、位置目標量(Xsoll(n))を調節部(6)に機械要素(9)の移動運動を実行するために出力するための手段(3,4,5)と
を備え、最適化基準(OpK)に依存して適切な最適化方法の選択が行なわれかつ選択された最適化方法により運動特性(Xsollk(t))が決定されることを特徴とする制御装置。
【請求項5】
機械が、工作機械、生産機械および/またはロボットとして構成されていることを特徴とする請求項4記載の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−546545(P2008−546545A)
【公表日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−516274(P2008−516274)
【出願日】平成18年6月2日(2006.6.2)
【国際出願番号】PCT/EP2006/062857
【国際公開番号】WO2006/134036
【国際公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(390039413)シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト (2,104)
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Wittelsbacherplatz 2, D−80333 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】