説明

機械共振器

【課題】高周波数で動作する振動子の振動検出が容易な機械共振器を提供する。
【解決手段】機械共振器は、基板上に形成されたドレイン1と、基板上に形成されたソース2と、一端がドレイン1に接続され、他端がソース2に接続された伝導部3と、伝導部3と対向するように配置され、伝導部3の伝導度を電界効果により制御するゲート6,7とを備える。伝導部3とゲート6,7のうち少なくとも一方は、基板から浮いた状態で支持される。ゲート6,7に一定のバイアス電圧が印加された状態で、伝導部3とゲート6,7のうち少なくとも一方が振動子として振動したときに、伝導部3とゲート6,7との距離が変化することにより、ドレイン1とソース2間の出力電圧が変調される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的に振動するナノメートルオーダーの微小部分を備えた微小機械共振器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
機械共振器は、コンデンサやコイルなどを用いて構成した電気回路による共振器に比較して、機械共振を用いているので、高いQ値と優れた周波数特性とを有している。また、この機械共振器の共振周波数は、加えられた力により変化するため、共振周波数の変化を検出することにより、感度の非常に高い力検出素子を作成することが可能である(非特許文献1)。この高いQ値はすなわち高感度かつ低消費電力での駆動を実現できることから、次世代センサーへの応用の期待が高まっている。特に10-21グラムオーダーの質量検出まで可能である(非特許文献2)。
【0003】
機械共振器の光学的振動検出方法として、レーザードップラー干渉計を用いたものがあるが、検出可能な共振器のサイズは、振動子に照射するレーザーのビームスポットサイズに依存するため、ナノスケールで動作する共振器の振動検出は不可能である。また、機械共振器の電気的振動検出方法としては、機械共振器に金属導線を配置し、高周波信号の入射波と反射波との比が機械共振時に変化することを利用した検出方法や、静電容量の変化を利用した検出方法がある(非特許文献3)。
【0004】
一方、空間的に離れたサイドゲートにより伝導層の伝導特性を変調する素子として、インプレーンゲート(in-plane-gate)型トランジスタが広く知られている(非特許文献4、非特許文献5)。インプレーンゲート型トランジスタは、図7に示すようにウエハに反応性イオンエッチング等で溝を掘るのみで完成するため、リソグラフィの解像度の限界まで微細化することが可能である。図7における100はエッチング溝、101,102はゲート、103はチャネル、104はドレイン、105はソースである。ゲート101,102は、エッチング溝100によってチャネル103、ドレイン104およびソース105と隔てられている。チャネル103の一端はドレイン104と接続され、チャネル103の他端はソース105と接続されている。エッチング溝100の幅は例えば50nm程度である。このインプレーンゲート型トランジスタでは、チャネル103を挟んで両側にゲート101,102が配置されるサイドゲート構造が形成されている。
【0005】
このインプレーンゲート型トランジスタの静特性を図8に示す。図8は、両方のゲート101,102に0V、0.2V、0.4V、0.6V、0.8V、1.0Vのゲート電圧を印加したときの出力特性を示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】D.W.Carr,et al.,“Measurement of mechanical resonance and losses in nanometer scale silicon wires”,APPLIED PHYSICS LETTERS,Vol.75,No.7,pp.920-922,1999
【非特許文献2】Y.T.Yang,et al.,“Zeptogram-Scale Nanomechanical Mass Sensing”,Nano Lett.,2006,Vol.6,No.4,pp.583-586,2006
【非特許文献3】A.N.Cleland,et al.,“A nanometre-scale mechanical electrometer”,Nature,Vol.392,pp.160-162,1998
【非特許文献4】A.D.Wieck and K.Ploog,“In-plane-gated quantum wire transistor fabricated with directly written focused ion beams”,Appl.Phys.Lett.,Vol.56,No.10,pp.928-930,March 1990
【非特許文献5】S.Reitzenstein,et al.,“Compact Logic NAND-Gate Based on a Single In-Plane Quantum-Wire Transistor”,IEEE ELECTRON DEVICE LETTERS,VOL.26,NO.3,pp.142-144,March 2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
微細化した梁に金属蒸着などの方法で金属導線を形成すれば、導線に印加した高周波の入射波と反射波とを比較することによって高周波動作している梁の振動検出が可能であるが、実際にはインピーダンスマッチングをとることが難しく、反射波の位相が入射波に対してずれるため、高周波領域で高感度な検出が難しい。すなわち、この振動検出方法では、機械共振器の微細化が難しいという問題点があった。また、非特許文献3に開示された、静電容量の変化を利用した振動検出方法では、所望の静電容量を得るために必要なサイズの問題から、機械共振器の微小化が難しいという問題点があった。以上のように、従来の技術では、ナノスケールで高周波数で動作する微小機械共振器の振動検出が困難であった。
【0008】
断面の形状が矩形で両端が支持された両持ち梁構造の共振周波数は、梁の長さの二乗と用いる材料の密度と厚さとに反比例し、梁の厚さと材料のヤング率とに比例する。このサイズによって共振周波数が変化することは、一端だけが支持された片持ち梁構造でも同様である。つまり、サイズを小さくすればするほど、高周波数の機械共振器を得ることができる。しかしながら、機械共振器をナノサイズ領域まで小さくした場合、前述したように従来の検出方法では共振器の振動検出が困難であった。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、高周波数で動作する振動子の振動検出が容易な機械共振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の機械共振器は、基板上に形成されたドレインと、基板上に形成されたソースと、一端が前記ドレインに接続され、他端が前記ソースに接続された伝導部と、この伝導部と対向するように配置され、前記伝導部の伝導度を電界効果により制御するゲートとを備え、前記伝導部と前記ゲートのうち少なくとも一方は、前記基板から浮いた状態で支持され、前記ゲートに一定のバイアス電圧が印加された状態で、前記伝導部と前記ゲートのうち少なくとも一方が振動子として振動したときに、前記伝導部と前記ゲートとの距離が変化することにより、前記ドレインと前記ソース間の出力電圧が変調されることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の機械共振器の1構成例において、前記ドレイン、ソース、伝導部およびゲートは、伝導層を有する半導体積層構造に形成され、前記ドレイン、ソースおよび伝導部と、前記ゲートとは、前記半導体積層構造に形成された溝によって分離されていることを特徴とするものである。
また、本発明の機械共振器の1構成例は、さらに、基板上に形成されたゲート支持部を備え、前記伝導部は、両端が前記ドレインとソースで固定されることによって前記基板から浮いた状態で支持される両持ち梁型の構造であり、前記ゲートは、一端が前記ゲート支持部で固定されることによって前記基板から浮いた状態で支持され、他端が前記伝導部と対向するように配置された片持ち梁型の構造であることを特徴とするものである。
また、本発明の機械共振器の1構成例において、前記伝導部は、半導体もしくは化合物半導体からなることを特徴とするものである。
また、本発明の機械共振器の1構成例において、前記伝導部は、Si、GaAs、InSb、InAsもしくはInGaAsからなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、伝導部とゲートとを、電極を用いずに溝を掘るだけで作製することができるので、機械共振器のサイズを、電子線描画装置やフォトリソグラフィ装置の解像度の限界まで微細化することが可能である。そして、本発明では、ゲートに一定のバイアス電圧を印加した状態で、伝導部とゲートのうち少なくとも一方が振動子として振動したときに、伝導部とゲートとの距離が変化することにより、ドレインとソース間の出力電圧が変調されるので、この変調された出力電圧を測定することで、微細加工可能な限界のサイズまで微小化した機械共振器の振動検出を容易に実現することができる。また、本発明によれば、機械共振器自体が電界効果トランジスタとしての機能を有しているため、高感度に振動検出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明で用いる半導体ウエハー構造を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る機械共振器の構造を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る機械共振器の構造を示す断面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る機械共振器の伝導部とゲートの振動方向を説明する図である。
【図5】本発明の実施の形態においてウェットエッチング加工後の伝導部とゲートを拡大した断面図である。
【図6】図5中のA点とB点との距離の変化を説明する模式図である。
【図7】従来のインプレーンゲート型トランジスタの平面図である。
【図8】図7のインプレーンゲート型トランジスタの静特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[発明の原理]
本発明は、弾性体の機械的な振動における共振現象を用いた機械共振器において、図1に示すような半導体ウエハー構造と、図7に示したインプレーンゲート型トランジスタのサイドゲート構造とを利用する。図1に示す半導体ウエハーは、GaAs基板200と、GaAs基板200上に形成されたAl0.65Ga0.35As犠牲層201と、Al0.65Ga0.35As犠牲層201上に形成されたGaAs/Al0.3Ga0.7As超格子層202と、GaAs/Al0.3Ga0.7As超格子層202上に形成されたGaAs層203と、GaAs層203上に形成されたAl0.3Ga0.7Asスペーサー層204と、Al0.3Ga0.7Asスペーサー層204上に形成されたSiドープAl0.3Ga0.7As層205と、SiドープAl0.3Ga0.7As層205上に形成されたGaAs保護層206とからなる。
【0015】
Al0.65Ga0.35As犠牲層201、GaAs/Al0.3Ga0.7As超格子層202、GaAs層203、Al0.3Ga0.7Asスペーサー層204、SiドープAl0.3Ga0.7As層205、GaAs保護層206の厚さは、それぞれ2μm、200nm、700nm、10nm、85nm、5nmである。この半導体ウエハー構造では、GaAs層203とAl0.3Ga0.7Asスペーサー層204との界面のGaAs層203に電子移動度の高い二次元電子の伝導層207が発生している。伝導層207の厚さは極めて薄く、約数nmである。
【0016】
伝導層207と隙間を隔ててサイドゲート(図7のゲート101,102)を形成すれば、外部から加えられた力に応じて振動子が振動したときに、伝導層207とサイドゲートとの距離が変調され伝導層207の伝導度が変調されることを利用できる。振動子としては、伝導部(図7のチャネル103)もしくはサイドゲートのどちらか一方を利用してもよいし、両方を利用してもよい。
【0017】
このように、本発明では、振動子が振動する際、サイドゲートと伝導層207との距離が変調され、実質的に伝導部に印加されるゲート電圧が変調されることになる。この振動によるゲート電圧変調によって、伝導部の伝導特性が変化するので、振動子の振動を検出することができる。伝導層207とサイドゲートとの距離の変化による振動検出は、特に、サイドゲートを片持ち梁構造とすることで、機械共振器の変位を大きくすることができ、振動検出の高感度化を実現することができる。一方、伝導部を単純な両持ち梁構造とすれば、微細化が容易となり、機械共振器の高周波動作を実現することができる。また、本発明による振動検出は、使用する材料が圧電材料でなくてもよいので、材料の汎用性を実現することができる。
【0018】
本発明の伝導部とサイドゲートとは、図1に示したような半導体ウエハー構造に溝を掘るだけで作成できるため、リソグラフィの精度限界のサイズで作成可能であり、その結果、高周波数領域での動作が可能となる。伝導部には、化合物半導体を用いることで、高周波数領域での振動検出が可能である。
【0019】
次に、本発明の実施形態について、図を用いて詳しく説明する。図2は本実施の形態に係る機械共振器の構造を示す斜視図、図3は図2の機械共振器をI−I線で切断した断面図である。本実施の形態の機械共振器は、ドレイン1(図7のドレイン104)と、ソース2(図7のソース105)と、両端がドレイン1とソース2で固定されることによってGaAs基板200から浮いた状態で支持される両持ち梁型の伝導部3(図7のチャネル103)と、ゲート支持部4,5と、一端がゲート支持部4,5で固定されることによってGaAs基板200から浮いた状態で支持され、他端が伝導部3と対向するように配置される片持ち梁型のゲート6,7(図7のゲート101,102)と、伝導部3とゲート6,7との間、ドレイン1とゲート6,7との間、ソース2とゲート6,7との間、ドレイン1とゲート支持部4,5との間、およびソース2とゲート支持部4,5との間に形成されるエッチング溝8(図7のエッチング溝100)と、伝導部3の下部およびゲート6,7の下部のAl0.65Ga0.35As犠牲層201に形成される空間9とから構成される。
【0020】
ゲート6,7は、エッチング溝8によってドレイン1、ソース2および伝導部3と隔てられている。伝導部3の一端はドレイン1と接続され、伝導部3の他端はソース2と接続されている。この機械共振器では、伝導部3の架設方向と直角な方向(図2左右方向)に沿って2つのゲート6,7が設けられ、このゲート6,7が伝導部3を両側から挟むように配置されるサイドゲート構造が形成されている。伝導部3とゲート6,7との距離(エッチング溝8の幅)Lは50nm、伝導部3の長さL1は1μm、伝導部3の幅W1は100nm、ゲート6,7の長さL2は800nm、ゲート6,7の幅W2は300nmである。
【0021】
次に、本実施の形態の機械共振器の製造方法について簡単に説明する。まず、図1に示したような伝導層207をもつヘテロ構造を作製する。続いて、反応性イオンエッチング等により図1に示したヘテロ構造のGaAs/Al0.3Ga0.7As超格子層202とGaAs層203とAl0.3Ga0.7Asスペーサー層204とSiドープAl0.3Ga0.7As層205とGaAs保護層206とをエッチングして、エッチング溝8を形成する。こうして、ドレイン1とソース2と伝導部3とゲート6,7とを有する、図7と同様のメサ構造を作製する。この時点で、ゲート6,7に印加するバイアス電圧によって伝導部3の伝導特性を制御することができ、メサ構造は図8に示したようなFETとしての伝導特性を有する。
【0022】
次に、フッ酸など、エッチング選択性の高いエッチング溶液を用いたウェットエッチングにより、伝導部3の下部およびゲート6,7の下部のAl0.65Ga0.35As犠牲層201を除去して空間9を形成する。これにより、伝導部3はGaAs基板200から浮いた状態でドレイン1とソース2によって支持され、またゲート6,7はGaAs基板200から浮いた状態でゲート支持部4,5によって支持されることになるので、伝導部3とゲート6,7のどちらか一方、もしくは伝導部3とゲート6,7の両方を振動子として利用することができるようになる。
【0023】
伝導部3は両持ち梁型の構造なので、振動子として用いる場合、図4に示すように上下方向または左右方向に振動することが可能である。ゲート6,7は片持ち梁型の構造なので、振動子として用いる場合、図4に示すように上下方向に振動することが可能である。ゲート6,7に一定のバイアス電圧を印加した状態で、外部から機械共振器に加えられた力に応じて振動子が振動すると、この振動子の機械共振周波数で、伝導部3とゲート6,7との距離が変化することになり、伝導部3に印加される実効的な電界が変調され、FETとしての出力が変調される。
【0024】
図5はウェットエッチング加工後の伝導部3とゲート7を拡大した断面図である。ここでは、伝導部3の右側面の1点をA点とし、ウェットエッチング加工前にA点と正対していた、ゲート7の端面の点をB点としている。A点とB点とは、ウェットエッチング加工前は同じ高さである。しかし、伝導部3が両持ち梁型の構造であるのに対して、ゲート6,7は、片持ち梁型の構造であるために、ウェットエッチング加工後に下にたわみ易くなり、図5に示すようにA点とB点との間にΔZの段差が生じる。図5に示すLは、設計時の伝導部3とゲート6,7との距離であり、ウェットエッチング加工後の状態においては伝導部3とゲート6,7とが振動していない時の伝導部3とゲート6,7との水平方向の距離と略等しい。
【0025】
次に、振動時の電界変化の原理について説明する。図6は、図5中のA点とB点との距離rの変化を表す模式図である。
図6(A)のように、伝導部3が上下方向にasinωtで振動するとき(aは振幅、ωは振動の角速度)、A点とB点との距離rは次式で表される。
r=(L2+ΔZ21/2+ΔZ(L2+ΔZ2-1/2asinωt ・・・(1)
【0026】
伝導部3が上下方向にasinωtで振動するとき、伝導部3にゲート6,7が及ぼす電界Eは次式で表される。
E=E0+C1asinωt ・・・(2)
ここで、E0は伝導部3が振動しないときにゲート6,7に印加されている一定のバイアス電圧によって生じる電界、C1はゲート6,7のゲート長と、ゲート6,7のキャリア濃度と、伝導部3とゲート6,7との段差ΔZとに依存する定数である。
【0027】
図6(B)のように、伝導部3が左右方向にasinωtで振動するとき、A点とB点との距離rは次式で表される。
r=(L2+ΔZ21/2+L(L2+ΔZ2-1/2asinωt ・・・(3)
【0028】
伝導部3が左右方向にasinωtで振動するとき、伝導部3にゲート6,7が及ぼす電界Eは次式で表される。
E=E0+C2asinωt ・・・(4)
ここで、C2はゲート6,7のゲート長と、ゲート6,7のキャリア濃度と、設計時の伝導部3とゲート6,7との距離Lとに依存する定数である。
【0029】
図6(C)のように、ゲート6,7が上下方向にasinωtで振動するとき、A点とB点との距離rは次式で表される。
r=(L2+ΔZ21/2+ΔZ(L2+ΔZ2-1/2asinωt ・・・(5)
ゲート6,7が上下方向にasinωtで振動するとき、伝導部3にゲート6,7が及ぼす電界Eは上記の式(2)で表される。
【0030】
なお、振動変位asinωtの大きさは、ΔZやLに比べて一桁小さいため、式(1)、式(3)、式(5)の距離rの導出には以下の近似式を用いている。式(6)は任意の値X,YがX≫Yのときに成り立つ式である。
(X+Y)2=X2(1+Y/X)2≒X2(1+2Y/X)、(Y/X)2≒0
・・・(6)
【0031】
式(2)、式(4)で示したような電界の変化が、図8に示した伝導特性を変調させるので、振動変位asinωtを検出することが可能となる。つまり、伝導部3は、ゲート6,7によって制御される、図8のような伝導特性を有するFETとして動作する。振動子の振動変位がsin関数のとき、式(1)、式(3)、式(5)に示したようにA点とB点との距離rの変調成分もsin関数となる。面積sの平板に電荷Qが一様に分布した際に、この平板から距離rだけ離れた位置の電界強度はE=(Qr)/(εs)となる(εは平板とこの平板から距離rだけ離れた位置とを含む空間の誘電率)。この電界強度Eにおおよそ近似できる電界が伝導部3に印加されると考えられる。したがって、実効的な電界は距離rに比例すると考えられるので、FETのゲート6,7にsin関数の信号が印加されると考えられる。
【0032】
すなわち、振動子がasinωtで振動すると、asinωtに比例した成分がFETの出力電圧(ドレイン−ソース間電圧)に現れることになる。このFETの出力から機械共振器の共振周波数ω0を求めることができる。また、FETの出力から機械共振器のQ値も求めることができる。なお、振動の振幅aを求めるには、キャリブレーションを行う必要がある。キャリブレーションの方法としては、熱振動(外的な力ではなく、振動子の持つ熱によって生じる振動)のスペクトルから振幅aを算出する方法や、機械共振器に加える外的な力を変化させていき振動が非線形性を見せる時の値から振幅aを求める方法などがある。これらのキャリブレーションの方法は周知であるため、詳細な説明は省略する。
【0033】
図8に示したようなFETとしての特性は常温で現れることから、振動子の振動は常温で検出できる。当然のことながら、FETとして動作する温度であれば、常温を下回る温度あるいは常温を上回る温度であっても、振動子の振動を検出することができる。
【0034】
本実施の形態では、1例として伝導部3を両持ち梁型の構造とし、ゲート6,7を片持ち梁型の構造としたが、振動時に伝導部3とゲート6,7との距離が変調される構造であれば、どのような構造であってよいことは言うまでもない。
また、本実施の形態では、伝導部3の伝導度を変調するゲートの効果を高めるために、ゲートを伝導部3の両側に1つずつ設けているが、ゲートは1つであってよい。
【0035】
本実施の形態では、伝導部3とゲート6,7とを、電極を用いずに溝を掘るだけで作製することができる。そのため、機械共振器のサイズを、電子線描画装置やフォトリソグラフィ装置の解像度の限界まで微細化することが可能である。特に、伝導部3を振動子として用いる場合は超微細化が可能で、高周波数で動作する機械共振器および検出素子を実現することができる。
【0036】
伝導部3のみを振動子として利用する場合には、ゲート6,7の下部の犠牲層201を残して、伝導部3の下部の犠牲層201を除去すればよい。ゲート6,7のみを振動子として利用する場合には、伝導部3の下部の犠牲層201を残して、ゲート6,7の下部の犠牲層201を除去すればよい。伝導部3とゲート6,7の両方を振動子として利用する場合には、伝導部3の下部およびゲート6,7の下部の犠牲層201を除去すればよい。なお、伝導部3の下部およびゲート6,7の下部の犠牲層201を両方とも除去した場合であっても、後述のように伝導部3の共振周波数とゲート6,7の共振周波数を個別に検出できるので、伝導部3の共振周波数のみを測定結果として採用すれば、実質的に伝導部3のみを振動子として利用することになり、ゲート6,7の共振周波数のみを測定結果として採用すれば、実質的にゲート6,7のみを振動子として利用することになる。
【0037】
伝導部3とゲート6,7の両方を振動子として利用する場合には、伝導部3の共振周波数とゲート6,7の共振周波数とは一致しないため、個別に検出することができる。伝導部3の共振周波数とゲート6,7の共振周波数とは、そのサイズと材料によって決まり、一方が他方の倍あるいは一方が他方の半分となる倍半分の範囲に収まると仮定できる。伝導部3とゲート6,7のサイズが近い場合、高次の共振モードの共振周波数を比較することで、伝導部3の共振周波数とゲート6,7の共振周波数とを区別することができる。例えば、片持ち梁の場合、2次のモードは約6.3倍の共振周波数になるが、両持ち梁の場合、2次のモードは約2.8倍の共振周波数になる。したがって、高次の共振モードの共振周波数を比較することで、伝導部3の共振周波数とゲート6,7の共振周波数とを区別することができ、これらの共振周波数を個別に検出することができる。
【0038】
本実施の形態の機械共振器では、伝導部3およびゲート6,7に用いる材料として、III−V族化合物半導体を用いる場合、図8に示す伝導特性(静特性)に従い、高周波動作が可能となる。特に伝導部3にInAsもしくはInGaAsを用いることで、微細化による表面空乏化の影響を防ぐことが可能である。
【0039】
また、伝導部3に、シリコン、ゲルマニウム、炭素、およびこれらの混晶などのIV族半導体を用いるようにしてもよい。また、伝導部3に、InP、InAs、InSb、GaP、GaAs、AlP、AlAs、GaN、AlN、CuInSe2をはじめとした化合物半導体を用いるようにしてもよい。また、ゲート6,7によって伝導特性が変化する材料であれば、半導体以外の任意の材料を伝導部3に用いてもよい。また、伝導部3には、P型半導体、N型半導体のどちらを用いてもよいことは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、機械共振器を微小化する技術に適用することができる。
【符号の説明】
【0041】
1…ドレイン、2…ソース、3…伝導部、4,5…ゲート支持部、6,7…ゲート、8…エッチング溝、9…空間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成されたドレインと、
基板上に形成されたソースと、
一端が前記ドレインに接続され、他端が前記ソースに接続された伝導部と、
この伝導部と対向するように配置され、前記伝導部の伝導度を電界効果により制御するゲートとを備え、
前記伝導部と前記ゲートのうち少なくとも一方は、前記基板から浮いた状態で支持され、
前記ゲートに一定のバイアス電圧が印加された状態で、前記伝導部と前記ゲートのうち少なくとも一方が振動子として振動したときに、前記伝導部と前記ゲートとの距離が変化することにより、前記ドレインと前記ソース間の出力電圧が変調されることを特徴とする機械共振器。
【請求項2】
請求項1記載の機械共振器において、
前記ドレイン、ソース、伝導部およびゲートは、伝導層を有する半導体積層構造に形成され、
前記ドレイン、ソースおよび伝導部と、前記ゲートとは、前記半導体積層構造に形成された溝によって分離されていることを特徴とする機械共振器。
【請求項3】
請求項1または2記載の機械共振器において、
さらに、基板上に形成されたゲート支持部を備え、
前記伝導部は、両端が前記ドレインとソースで固定されることによって前記基板から浮いた状態で支持される両持ち梁型の構造であり、
前記ゲートは、一端が前記ゲート支持部で固定されることによって前記基板から浮いた状態で支持され、他端が前記伝導部と対向するように配置された片持ち梁型の構造であることを特徴とする機械共振器。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の機械共振器において、
前記伝導部は、半導体もしくは化合物半導体からなることを特徴とする機械共振器。
【請求項5】
請求項4記載の機械共振器において、
前記伝導部は、Si、GaAs、InSb、InAsもしくはInGaAsからなることを特徴とする機械共振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−9144(P2013−9144A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140287(P2011−140287)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【Fターム(参考)】