説明

機能性チタン酸ストロンチウム結晶およびその製造方法。

【課題】金属または半金属のドープ量が調整可能であって、機能性材料としての性質を発現するチタン酸ストロンチウム結晶を安価に提供すること。
【解決手段】 原子番号79以下の金属元素または半金属元素(ただし、Nb,In,ランタノイドを除く)をドープしたチタン酸ストロンチウム結晶である。これは、気化または昇華させた金属元素または半金属元素を800℃〜1300℃の温度の真空雰囲気下にてチタン酸ストロンチウム結晶に付着ないし拡散させることにより得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性チタン酸ストロンチウム結晶およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、導電性のないチタン酸ストロンチウム(以下、チタン酸ストロンチウムをSTOと称することとする。)結晶にNbをドープすると導電性を発揮し、近年、半導体材料、熱電変換材料、光触媒材料、高温電極材料などの機能性材料として脚光を浴びている。
【0003】
また、LaやNdなどのランタノイド、あるいはInを添加したSTOも同様な導電性を発揮することが知られている。
【0004】
【非特許文献1】C.S.Koonce, et al, 'Superconducting Transition Temperatures of Semiconducting SrTiO3' Physical Review Vol163, No.2(1967)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術では以下の問題点があった。
すなわち、STO結晶にNbやNdなどをドープするにあたっては、原料にあらかじめこれらの元素を含ませて結晶成長させる必要があった。従って、ドープ量を任意に設定して結晶成長させるのが困難であり、実際、現状では、Nb0.5wt%−チタン酸ストロンチウム(ドープ量1020/cm程度)のものが提供されているのみである。したがって、機能性材料といっても広範な研究ができるわけではなく、材料研究、特に単結晶を用いた研究はピンポイントとならざるを得ないという問題点があった。また、いわば不純物を取り込みながら結晶成長させるため、その制御が困難であり、結果としてドープされたSTO結晶が高価にならざるを得ないという問題点もあった。
【0006】
本発明は上記に鑑みてなされたものであって、金属または半金属のドープ量が調整可能であって、機能性材料としての性質を発現するチタン酸ストロンチウム結晶を安価に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載のチタン酸ストロンチウム結晶は、原子番号79以下の金属元素または半金属元素(ただし、Nb,In,ランタノイドを除く)をドープしたことを特徴とする。
【0008】
このチタン酸ストロンチウム結晶は、半導体材料、熱電変換材料、光触媒材料、高温電極材料といった機能性材料としての機能を発揮する。したがって、本発明は、チタン酸バリウムに、原子番号79以下の金属元素または半金属元素(ただし、Nb,In,ランタノイドを除く)をドープさせた半導体、熱電変換素材、光触媒、または、高温電極材、ということもできる。
【0009】
また、請求項2に記載のチタン酸ストロンチウム結晶は、請求項1に記載のチタン酸ストロンチウム結晶において、金属元素または半金属元素が、B,Si,Ti,Cr,Fe,Co,Ni,Cu,Ge,またはYであることを特徴とする。特にBである場合は、従来NbがドープされたSTO結晶と同程度の導電性を有する。
【0010】
また、請求項3に記載のチタン酸ストロンチウム結晶は、請求項1または2に記載のチタン酸ストロンチウム結晶金属元素または半金属元素のドープ量をチタン酸ストロンチウム結晶に対して1017cm−3〜1021cm−3(金属元素または半金属元素のドープ量をチタン酸ストロンチウム結晶の単位立方センチメートルあたり1017〜1021個)としたことを特徴とする。
【0011】
また、請求項4に記載の製造方法は、気化または昇華させた金属元素または半金属元素を800℃〜1300℃の温度の真空雰囲気下にてチタン酸ストロンチウム結晶に付着させて拡散させることにより、当該元素をドープしてチタン酸ストロンチウム結晶を得る方法である。
【0012】
これは、いわゆる真空蒸着法である。この方法により、金属元素または半金属元素がSTO中に拡散していく。このため、金属元素または半金属元素の蒸気濃度と加熱時間とによって、所望のドープ量のSTOを得ることができる。また、STOを結晶成長させる際にドープする方法ではないので、安価かつ簡便に製造することができる。なお、金属元素または半金属元素の蒸気圧が高いと再蒸発してSTO中に付着しないので、その蒸気圧は当該元素を付着させる温度において1×10−2Pa以下であるものが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、金属または半金属のドープ量が調整可能であって、機能性材料としての性質を発現するチタン酸ストロンチウム結晶を安価に提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<製造例>
ここでは、B(ホウ素)をドープしたSTOについて説明する。ドープは真空蒸着によりおこなった。詳しくは、(001)面STO単結晶基板(0.35mm厚)を900℃に保持し、電子ビーム蒸着によりBを0.1nm/sの速度で付着させ、積算で128nm付着させた。なお、これらの数値は基板横に設置した膜厚モニタの値である。組成を確認すると、Bドープ量は、蒸着面と裏面でほぼ差はなく(したがって、均一に拡散されたことが確認でき)、その値は約5×1019/cmであった。以降では、得られたものをBドープSTOと適宜称することとする。
【0015】
<物性>
得られたBドープSTOの物性は驚くべきことに、電気抵抗率の温度変化が金属的であり、キャリヤはn型であった。なお、室温における電気抵抗率は約60mΩ・cmであった。この値は、真空加熱によるSTOの酸素欠損に由来する導電性を遙かにしのぐものである。
【0016】
同様の真空蒸着の手法により、1×1018/cm〜5×1019/cmのBドープSTOを作成した。この導電性に関する検討結果を図1と図2に示す。図1は、2×1018/cmBドープSTOの電気抵抗率の温度依存性であり、図2は、室温(300K)と20Kにおける、電気抵抗率のBドープ量依存性を示すものである。いずれの場合も、電気抵抗率としては、半導体と金属の中間程度であり、その温度依存性は金属的である(温度が上がれば抵抗率も上昇する)ことを確認した。
【0017】
図3は、Bドープ量とゼーベック係数との関係を示した図である。ゼーベック係数は、熱電変換素子への応用上重要な係数である。図から明らかな様に1018/cm台のBドープ量の場合、700μV/Kという、大きなゼーベック係数を示しており、熱電変換材料としての利用可能性があることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0018】
ドープされたSTOは、高温電極材料として用いることができるので、本発明によれば、燃料電池の電極としての利用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】2×1018/cmBドープSTOの電気抵抗率の温度依存性を示した図である。
【図2】室温(300K)と20Kにおける、電気抵抗率のBドープ量依存性を示した図である。
【図3】Bドープ量とゼーベック係数との関係を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子番号79以下の金属元素または半金属元素(ただし、Nb,In,ランタノイドを除く)をドープしたチタン酸ストロンチウム結晶。
【請求項2】
金属元素または半金属元素が、B,Si,Ti,Cr,Fe,Co,Ni,Cu,Ge,またはYであることを特徴とする請求項1に記載のチタン酸ストロンチウム結晶。
【請求項3】
金属元素または半金属元素のドープ量をチタン酸ストロンチウム結晶に対して1017cm−3〜1021cm−3としたことを特徴とする請求項1または2に記載のチタン酸ストロンチウム結晶。
【請求項4】
気化または昇華させた金属元素または半金属元素を800℃〜1300℃の温度の真空雰囲気下にてチタン酸ストロンチウム結晶に付着させて拡散させることにより当該元素をドープすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のチタン酸ストロンチウム結晶製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−239456(P2008−239456A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−86538(P2007−86538)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(504155293)国立大学法人島根大学 (113)
【Fターム(参考)】