説明

歯科用成形体及びその成形方法

シクロオレフィンポリマー樹脂、シクロオレフィンポリマー樹脂とポリオレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂の混合体またはシクロオレフィンポリマー樹脂とEVAの混合体からなる成形体であって、義歯床、人工歯、局部義歯の維持装置及びマウスピース製作に使用される。成形体の成形方法は、テーブル上に載置された右膏模型及びシクロオレフィンポリマー樹脂からなる成形体をチャンバー内に離間して支持させる工程、上記成形体を加熱軟化させる工程、上記チャンバー内のエアを吸引してチャンバー内空間を真空とする工程、真空状態下で上記テーブルを上昇させることにより上記成形体にて上記模型を被覆して上記成形体と上記テーブル間の空間をその外側の空間から遮断する工程、該空間の真空状態を維持した状態で、上記チャンバー内にエアを導入し、加圧雰囲気にて上記成形体シートを上記模型に押圧成形する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、口腔内に装着されるマウスピースまたは義歯、義歯の維持装置等を作製するための歯科用成形体及びその成形方法に関する。
【背景技術】
近時、歯科分野における予防医学の一環として、スポーツ用マウスピース(通常マウスガードと呼ばれる)が見直され、空手等においてはマウスピースの装着が義務づけられ、また剣道等非接触型競技においてもマウスピースの装着が奨励される等スポーツ分野全般にわたって普及してきている。またこのような傾向に伴ってマウスピースによる顎及び歯の保護機能をより向上させ、かつ装着時の違和感をできるだけ少なくするために形態精度の高いマウスピースが必要とされている。かかる形態精度の高いマウスピースは、歯科医が使用者(スポーツ選手)の上下顎を印象採得して石膏模型を作製し、この模型をもとに技工士がマウスピースを製作するという方法がとられる。
またマウスピースは、スポーツにおける歯の保護のほか、顎関節症、咬合障害の治療用(スプリントと呼ばれる)として、また就寝中の歯軋り防止用、いびき防止用として、ブリーチング(歯を漂白して白くする処置)の際、ブリーチング薬剤を充填するためのマウスピース、歯列の矯正用マウスピース等として使用される。マウスピースとはこれら種々の用途で使用されるものの総称として使用する。
従来この種マウスピースの成形材料として、軟質材料であるエチレン酢酸ビニルアセテート樹脂(以下EVAという)よりなるもの、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーよりなるものが市販され、また顎位調整を目的とするマウスピース(硬質)では、義歯床材料として広く使用されているポリメチルメタクリレート樹脂(以下PMMAという)を使用したものが実用化されている。
マウスピース材料に関し、ブテン−1−α−オレフィン共重合体(特許文献1)、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(特許文献2)、エチレン−α−オレフィン−ジエン共重合体を架橋してなる架橋体(特許文献3)、熱可塑性ラクトン樹脂(特許文献4)が文献に記載されている。
また、光学材料、例えばコンパクトディスク、ビデオディスク、コンピュータディスク等の光学式記録材料、光ファイバー、プリズム、プラスチックレンズ等の材料としてシクロオレフィンポリマーを使用することが知られている(特許文献5)。この特許文献5には、テトラシクロドデセン類の開環重合体またはテトラシクロドデセン類とノルボルネン類の開環重合体を水素添加反応させて得られた重合体を構成成分とするシクロオレフィンポリマーが開示され、かかる材料は上記光学材料に適している旨記載されている。
また、従来、義歯(義歯床及び人工歯)の材料としてはPMMAが広く使用されている。PMMA粉末にメチルメタクリレート(以下MMAという)モノマー液を混ぜて混練して餅状とし、これを石膏顎模型よりなる成形空間に充填し、湯中で加温して重合硬化させて、義歯床を作製するのである。人工歯も同様のPMMAよりなり、この材料にて形成された人工歯を予め石膏顎模型に埋め込んでおくことにより、義歯床硬化時これに固着される。また、局部義歯の維持装置例えばバー、クラスプとして、従来パラジウム合金等歯科用金属が使用されている。
特許文献1 特開平3−188846号公報
特許文献2 特開平3−244480号公報
特許文献3 特開平3−201111号公報
特許文献4 特許第2519984号公報
特許文献5 特公平2−9619号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
上記各種材料のうちスポーツ用マウスピース材料として、最も広く実用化されているのは簡易型マウスピース(使用者が湯につけて軟化させ、これを口中に入れて歯に被せ、自ら成形するもの)ではEVAが、また高精度のマウスピース(歯科医及び技工士により作製されるもの)ではポリオレフィン系熱可塑性エラストマーまたはEVAが使用されている。EVAは軟化温度(70〜80℃)が低いために、変形しやすいという欠点があり、耐久性も十分でないという問題がある。一方、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーは、軟化温度が通常100℃以上であるため容易に変形せず引張強度等耐久性にも優れており、マウスピース材料として好適であるといえるが、材料自体が化学的に安定していることから、他の材料との接着が、幾種類かの樹脂材料を除き難しいという問題がある。
例えばスポーツ用マウスピースにあっては、歯の保護機能を高めた上で口腔内での違和感を最小限とするために、咬合面及び唇側の歯茎部上方部分のみ薄い硬質材料層で覆い、舌側及び歯茎部分を軟質材料で覆うという2層構造(ラミネート構造と呼ばれる)が、一般的構造として定着しつつある。しかしながら、ラミネート構造のマウスピースとする場合、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーは、他の材質のものとの接着性が劣るという点から、適当な材料が見つからず、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーの中から硬い材質のものを選択し、同質材料を用いて製作されるのが現状である。
またブリーチング用マウスピースにおいては、ゼリー状のブリーチング薬剤を歯に接した状態を数時間維持する必要があることから、多少の外力が加わっても薬剤を漏らさない硬度(形状維持性)が必要である。前述のポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、EVAはいずれも軟らかいために、容易に薬剤が漏れてしまい、ブリーチング用マウスピース材料としては、必ずしも十分ではない。
従来不正咬合、不正歯列の治療を行う矯正装置は、歯の表面に接着剤にて金具を固定しこれにワイヤを通して歯に所定方向の圧力あるいは引張力を加え、歯を徐々に移動させていくという方法が採られるが、この方法では接着剤にて歯のエナメル質が溶け、歯に損傷を与えるという問題がある。
義歯床の作製に際しては、PMMA粉末をMMAモノマー液に混ぜて餅状として石膏型内に充填されるが、MMAモノマーが生体に有害であるという問題がある。また、金属製クラスプ等は、口を開いたとき、外部から金属部分が見えるため、審美上の問題がある。
本発明は、このような背景に基づいてなされたものであり、様々な成形材料を検討した結果、光学材料として開発されたシクロオレフィンポリマーがマウスピース、義歯、義歯の維持装置を作製するための歯科成形体として極めて有効であることを見出すに至ったのである。
【課題を解決するための手段】
本発明(請求の範囲第1項)は、歯科用成形体が、シクロオレフィンポリマー樹脂、シクロオレフィンポリマー樹脂とポリオレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂の混合体、またはシクロオレフィンポリマー樹脂とEVAの混合体のいずれかよりなるものである。シクロオレフィンポリマー樹脂は、吸湿性が小さいために口腔内においても吸水変形が殆どなく、また硬度が高く強度も十分である。ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂及びEVAは、いずれも軟質かつ弾性を有するとともに、シクロオレフィンポリマー樹脂に対し相溶性がよいため、混合することにより、弾性及び硬度をシクロオレフィンポリマー樹脂単体の弾性及び硬度とポリオレフィン系エラストマー樹脂またはEVAの弾性及び硬度の間で任意に調整することができる。
本発明(請求の範囲第2項)にかかる歯科用成形体は、マウスピース製作のための成形体である。シクロオレフィンポリマー樹脂は、硬質樹脂であり、かつポリオレフィン系熱可塑性エラストマー及びEVAに熱溶着するから、シクロオレフィンポリマー樹脂層を硬質層とし、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーまたはEVAを軟質層とするラミネート構造のマウスピースが、特にスポーツ用マウスピースとして作製される。また成形体としてシクロオレフィンポリマー樹脂とポリオレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂の混合体またはシクロオレフィンポリマー樹脂とEVAの混合体を使用することにより、成形体の硬度を低下させ、軟質弾性を付与させ、硬軟2層構造を有するマウスピースの硬質層の硬度を軟質層より硬い範囲で低下させ、逆に軟質層の硬度を上げることができる。
またシクロオレフィンポリマー樹脂単独にてブリーチング用マウスピースあるいは顎関節症治療用マウスピースが作製される。さらに上記成形体は、硬度及び強度ともに矯正用マウスピースの材料として十分な特性を有する。歯列矯正に際しては、歯を矯正方向に常時押圧力を加える必要があり、特にシクロオレフィンポリマー樹脂にポリオレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂またはEVAを混合した材料では、歯に常時加わる弾性押圧力を得ることができる。
本発明(請求の範囲第3項)にかかる歯科用成形体は、義歯床及び人工歯製作のための成形体である。シクロオレフィンポリマー樹脂は成形性のよい熱可塑性樹脂であるから、義歯製作に際しては、射出成形あるいはプレス成形により、高精度の成形がなされる。さらに成形体としてシクロオレフィンポリマー樹脂とポリオレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂の混合体またはシクロオレフィンポリマー樹脂とEVAの混合体を使用することにより、成形体の硬度を低下させ、軟質弾性を付与させることにより、この軟質化した層を義歯床の歯茎に接する面に形成すれば、歯茎に密着する義歯床が作製できる。
本発明(請求の範囲第4項)にかかる歯科用成形体は、局部義歯の維持装置のための成形体である。シクロオレフィンポリマー樹脂、シクロオレフィンポリマー樹脂とポリオレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂の混合体、またはシクロオレフィンポリマー樹脂とEVAの混合体は透明であるから、目立たず、義歯を装着していることが分かりにくくなる。
本発明(請求の範囲第5項)にかかる歯科用成形体は、歯の矯正装置のための成形体である。硬質のシクロオレフィンポリマー樹脂にて、マウスピースの主要部分を形成して骨格体とし、歯の矯正部分例えば歯を押し圧する部分に弾性を有するポリオレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂またはEVAを形成して歯に圧力を加えることにより歯を移動させ、矯正を行うのである。
本発明(請求の範囲第6項)にかかる歯科用成形体の成形方法は、テーブル上に載置された石膏模型と、シクロオレフィンポリマー樹脂、シクロオレフィンポリマー樹脂とポリオレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂の混合体、またはシクロオレフィンポリマー樹脂とEVAの混合体のいずれかよりなるシート状成形体をチャンバー内に離間して支持させる工程、上記成形体を加熱軟化させる工程、上記チャンバー内のエアを吸引してチャンバー内空間を真空とする工程、真空状態下で上記テーブルを上昇させることにより上記成形体にて上記模型を被覆して上記成形体と上記テーブル間の空間をその外側の空間から遮断する工程、該空間の真空状態を維持した状態で、上記チャンバー内にエアを導入し、加圧雰囲気にて上記成形体シートを上記模型に押圧成形する工程、を含むものである。
かかる方法において、成形体は真空状態で模型に被覆され、成形体と模型の間にエアが存在しない状態で大気圧またはそれ以上の加圧雰囲気にて成形体外側から押し圧成形される。これにより成形体は内側からの真空吸引と外側からの加圧とで、高い成形精度が得られる。また成形体と模型の間へのエアの残留が阻止される。
本発明(請求の範囲第7項)にかかる歯科用成形体の成形方法は、石膏模型が顎模型であり、成形体にて額模型を被覆するマウスピースが成形されるものである。かかる方法において、歯間部分の鼓形空隙等狭い空隙にも隈なく成形体材料が充填される。かかる鼓形空隙部分等アンダーカット部分はマウスピースの歯への維持を確実なものとする。
本発明(請求の範囲第8項)にかかる歯科用成形体の成形方法は、石膏模型がその表面に局部義歯の維持装置の形状に一致する凹部を有する模型であり、成形体を凹部に充填することにより維持装置が成形されるものである。かかる方法において、成形体により透明な維持装置が作製される。
【図面の簡単な説明】
図1は、ブリーチング用マウスピースを示す平面図である。
図2は、ブリーチング用マウスピースを歯に装着した状態を示す正面図である。
図3は、図2のA−A線断面図である。
図4は、ラミネート構造マウスピースを示す平面図である。
図5は、ラミネート構造マウスピースを歯に装着した状態の図4のB−B線(前歯部)断面図である。
図6は、ラミネート構造マウスピースを歯に装着した状態の図4のC−C線(臼歯部)断面図である。
図7は、マウスピース成形器による成形工程を説明するための断面図である。
図8は、マウスピース成形器による成形工程を説明するための断面図である。
図9は、マウスピース成形器による成形工程を説明するための断面図である。
図10は、義歯のプレス成形による作製を説明するための断面図である。
図11は、義歯のプレス成形による作製を説明するための断面図である。
図12は、義歯作製(プレス成形)の際に使用される成形体を示す斜視図である。
図13は、義歯の射出成形による作製を説明するための断面図である。
図14は、義歯作製(射出成形)の際に使用される成形体を示す斜視図である。
図15は、局部義歯の維持装置作製を説明するための斜視図である。
図16は、図15のD−D線断面図である。
図17は、バーを除去した場合の図16に対応する断面図である。
図18は、成形体シートによる成形後の状態を示す断面図である。
図19は、クラスプ、バーを示す斜視図である。
図20は、矯正用マウスピースを作製するための模型を示す斜視図である。
図21は、模型の歯を矯正方向への移動を説明するための模型を示す斜視図である。
図22は、模型の歯を矯正方向への移動を説明するための模型を示す斜視図である。
図23は、図22の要部拡大斜視図である。
図24は、矯正用マウスピースを模型に装着した状態を示す斜視図である。
図25は、矯正用マウスピースを患者の歯に装着した状態を示す断面図であり、図24のE−E線断面に対応する。
図26は、他の矯正用マウスピースを製作するための石膏模型を示す平面図である。
図27は、矯正される歯の石膏模型の斜視図である。
図28は、マウスピース成形後の構造を示す図27のF−F断面図である。
図29は、マウスピースを患者の顎に装着した状態を示す側面断面図である。
図30は、マウスピースを患者の顎に装着した状態を示す平面断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
シクロオレフィンポリマー樹脂は、ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、テトラシクロドデセン等のシクロオレフィンを基本原料とし、これをメタセシス重合することにより製造される透明な熱可塑性樹脂で、熱安定性がよい、吸水率が小さく吸湿変形がない、低不純物とすることができる等の特性を有する。かかる特性から、口腔内に装着しても吸水して変形することはなく、また生体に悪影響を及ぼすことはない。またロックウェル硬度20あるいは50と硬質であり、高強度である。かつ折り曲げても、曲がるのみで割れにくいから生体を傷つけにくい。なおこのシクロオレフィンポリマー樹脂よりなる成形体に予めガラス繊維、補強用フィラー等を混入しておくことにより、その機械的強度を向上させることができる。
図1において、1は、シクロオレフィンポリマー樹脂よりなるブリーチング用マウスピース(上顎用)を示す。このマウスピース1は石膏顎模型の歯の表面を所定厚さのワックスシートで覆った状態で成形され、図2,3に示すように、歯2に装着したとき、マウスピース1内面と歯2の表面との間にワックスシートの厚さに一致する所定幅の隙間Sが形成される。このマウスピース1は、歯茎線Lに沿ってカットされ、この部分で隙間Sが封鎖される。この隙間Sにゼリー状ブリーチング薬剤3が充填される。図では歯の前面のみ隙間Sを形成したが、歯2の舌側面も漂白する場合は舌側面にも薬剤が充填される隙間が形成される。
図4,5,6は、ラミネート構造のマウスピース(上顎用)4を示し、歯2の咬合面及び頬側、舌側に密着してこれを覆う硬質層5と、この硬質層5を覆い、歯2の咬合面及び頬側部分を覆い、頬側歯茎部まで延びる軟質層6よりなる。図5は前歯部における装着状態を、図6は臼歯部における装着状態を示し、硬質層5が内側層を、軟質層6が外側層を構成する。硬質層6は、歯2のアンダーカット部分には入らないよう、設計される。アンダーカット部分に硬質材料が入ると歯2への着脱が困難になるからである。
硬質層5は、その舌側部を切除した構造とすることもできる。硬質層5は、全体として平面U字状を有し、左右方向に開きにくいから、歯2の頬側部のみに接触させる構造としても、維持力が得られるのである。かかる構造とすれば、マウスピース4の装着時違和感をより一層小さくすることができる。
図6に示すように、鼓形空隙等アンダーカット部分Uには軟質層6材料が充填される。前述のように硬質層5材料でアンダーカット部分Uを満たすと、マウスピース4の装着が困難になる。軟質材料をこのようなアンダーカット部分Uに入り込ませることにより、マウスピース4の歯2への装着強度が向上する。
硬質層6は、シクロオレフィンポリマー樹脂にて、軟質層6はポリオレフィン系熱可塑性エラストマーにて形成され、両者は熱溶着可能である。ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーよりなる歯科材料は、商品名モルテノ(登録商標、株式会社モルテンメディカル製)として販売されているものが使用でき、その硬度(JISA)は約60である。
次に、図7〜9を用いて、マウスピース成形工程を順に説明する。以下の説明は、前述したラミネート構造のスポーツ用マウスピース4を成形する場合である。
7は、開放可能なチャンバーで、上チャンバー8及び下チャンバー9よりなり、両者重ね合わされて密封空間を形成する。10は下チャンバー9内に配置されたテーブルで、チャンバー9の下部に取りつけられたエアシリンダー11のピストン12に連結されて上下駆動する。13は、テーブル10の表面に固定された多孔質板で、その下方に小空間14が形成されている。15は、小空間14とチャンバー7外部に設けられた真空ポンプ16とを連結するエアパイプである。
17は、多孔質板13上に着脱可能な状態で載置された石膏作業模型で、今の場合、上額用マウスピース4の作製であるから上顎模型とされる。18は、上チャンバー8と下チャンバー9の間に挟むごとく設置されたマウスピース成形体シート(以下シートと略称する)で、硬質層5を構成するものでシクロオレフィンポリマー樹脂シートよりなる。このシート18は厚さ1〜2mm程度の円板状に形成されている。なおこのとき顎模型17のアンダーカット部分には、シリコンパテ等を充填してこれを塞ぎ、硬質層5にアンダーカット部分が形成されない構造とする。
19は、上チャンバー8の天井に着脱自在に取りつけられた対合歯石膏模型(今の場合下顎模型)である。20は、上チャンバー8の内側であってシート18の上方に取りつけられヒータで、シート18を加熱軟化するものである。21は上下チャンバー8,9の側壁に形成されたエア通路で、シート18にて隔てられた上チャンバー空間22と下チャンバー空間23とを連通するものである。このエア通路21はバルブ24を介してエアコンプレッサ25に連通されている。26は、熱反射板である。
かかる構造のマウスピース成形器を用いて、マウスピース4を作製するに際しては、まずヒータ20にてシート18を加熱軟化し、成形可能とする。次いでチャンバー7内を密封し、真空ポンプ16を駆動させてエアパイプ15、小空間14、多孔質板13を介して下チャンバー空間23及びエア通路21を介して上チャンバー空間22のエアを吸引し真空雰囲気とする。このときバルブ24は閉鎖状態にある。
エアシリンダー11を駆動させてテーブル10を上昇させ、作業模型17をシート18に当てこのシート18を変形させつつ、テーブル10最上位位置にて停止させる(図8)。作業模型17と対合歯模型19との間には、一定間隔(通常スポーツ用マウスピースの場合約2mm程度)をあける必要があり、これは、予め咬合器を用いて設定しておく。今の場合ラミネート構造であるから、後述する2層目の成形時その表面が対合歯模型19に当接し、その咬合面形状とされる。テーブル10が最上位位置にて停止したとき、テーブル10とシート18で囲まれる空間(作業模型17及び小空間14を含む空間)はその外側のチャンバー空間22,23と遮断される。
その後、バルブ24を開きチャンバー7内にエアコンプレッサ25からエアを吹き込み、1気圧以上の加圧雰囲気とする。このときテーブル10とシート18で囲まれる空間及びテーブル内小空間14は真空ポンプ16の駆動により真空状態が維持されている。かくしてシート18は内側(作業模型17側)から真空吸引され、同時に外側から加圧されて、作業模型17に密着し、成形される(図9)。成形終了後、チャンバー7内は大気圧に戻され、シート18は冷却されて、アンダーカットとなる部分及び不要な周辺が切除されてマウスピース硬質層5(図5,6)が形成される。エアコンプレッサー25は、エアシリンダー11の駆動手段としても使用される。
マウスピース硬質層5が作業模型17に装着された状態で、模型17は再度テーブル上に載置され、2度目の成形工程に入る(図7に示す状態)。この工程は最初の成形工程と同じであるが、シクロオレフィンポリマー樹脂製成形体シート18に代えて、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂の円板状シート(厚さ1〜5mm、通常2mm程度)が使用される。すなわち、このシートが上下チャンバー8,9間に設置され、前述同様ヒータ20にて加熱軟化された後、テーブル10を上昇させて硬質層5を被覆してこれと熱溶着すると同時に成形がなされる。成形時、前述したごとく軟質層6(図5,6)表面に対合歯模型19が当接してその咬合面が印記される。
この成形に際しては、作業模型17上の硬質層5は予め予熱しておく方が好ましい。予熱により硬質層5とこれを覆うポリオレフィン系熱可塑性エラストマーシートがより確実に熱溶着するからである。また、シクロオレフィンポリマー樹脂シートの表面にポリオレフィン系熱可塑性エラストマーをシクロヘキサン等の溶剤に溶かした溶液を塗布し、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーのコーテイング層を形成しておくことにより、両者の接着をより確実かつ強固になすことができる。このコーティング層はシクロオレフィンポリマー樹脂シートとともに予熱して両者をよくなじませておけば、さらにポリオレフィン系熱可塑性エラストマーシートとの接着強度をあげることができる。
2つの層5,6の接着不要部分、例えば硬質層5の舌側表面に予め分離剤を塗っておき、成形後、硬質層5と分離した軟質層6部分が切除される。舌側には保護機能は不要だからである。同時にこれによりマウスピース装着時の違和感が軽減される。成形体シートを内側から真空吸引し、同時に外側から加圧することにより、成形精度は極めて高いものとなり、鼓形空隙等細く狭い空間にも軟質材料が充填されることとなる。
成形後、チャンバー7内を大気圧に戻し、マウスピース4を冷却して周辺を切除する。かくしてポリオレフィン系熱可塑性エラストマーよりなる軟質層6がシクロオレフィンポリマーよりなる硬質層5を覆い、かつこれと溶着により一体化したラミネート構造マウスピースが形成される。冷却後、不要部分を切り取り、切り取り面を研磨すればマウスピース4として完成する。
ラミネート構造マウスピース4はスポーツ用マウスピースとした場合に特に有効で、軟質層6を介して硬質層5に加わった衝撃は、硬質層5全面に分散し衝撃は全歯に分散されて加わることとなり、局所的に集中してその部分の歯が折れたり抜けたりする事故は抑制される。また硬質層5は、その硬さにより一旦歯に装着されるとはずれにくくなり、歯への装着強度を向上させる。また軟質層6は、衝撃を吸収緩和すると同時にマウスピース4の口腔内への装着をしやすくし、鼓形空隙等アンダーカット部分Uに入り込んで、容易には外れないマウスピース4とする。
これらより、かかるマウスピースは、歯の保護に不要な舌側部分は最小限薄くして違和感を抑え、保護の必要な部分は硬軟2層として厚さを抑えた状態で高い保護機能を発揮することから、従来の単層マウスピースに比較して格段に優れたマウスピースが実現できることとなる。
上記実施形態にあっては、軟質層6の材料としてポリオレフィン系熱可塑性エラストマーを用いたが、このほかEVAを使用することもできる。EVAもまたシクロオレフィンポリマー樹脂よりなる硬質層に熱溶着可能である。この溶着は、予めシクロオレフィンポリマー樹脂よりなる硬質層の表面にEVAをトルエンまたはシクロヘキサンに溶かした溶液を塗布し、予熱してEVA層を硬質層になじませておくことにより、接着強度は向上する。
ブリーチング用マウスピース1(図1〜3)にあっては、シクロオレフィンポリマー樹脂単層で作製される。この場合、厚さ0.5〜1.0mm程度の薄い成形体シートが使用される。このマウスピース1は歯を保護する作用は必要なく、薬剤3を歯2に接した状態で封じ込めておく作用のみでよいからである。薄い層とすることにより、バネのように弾性変形し、歯2への装着が可能となる。
かかるブリーチング用マウスピース1の作製においても、前述の成形器を用いた成形方法が適している。精密成形により、薬剤充填空間Sを密封空間とすることができ、薬剤3の漏れが防止できるからである。ブリーチング薬剤3は漂白作用を有し、これが歯茎に接すると粘膜面に炎症を起こす危険がある。それゆえマウスピース1は、薬剤3が歯にのみ接する構造とされなければならない。
また精密成形により、薬剤充填空間S以外の部分を、歯2へ密着させることができるから、マウスピース1をぐらつきなく確実に歯に固定することができ、かかる点からも薬剤3の漏れを防止することができる。すなわち舌側鼓形空隙部分のマウスピース部分で歯への装着性、維持性が向上する。さらに、シクロオレフィンポリマー樹脂は、硬質であるから、多少の外力が加わっても変形せず、薬剤が簡単には漏れないという利点がある。
歯軋り防止、いびき防止のためのマウスピースにあっては、シクロオレフィンポリマー樹脂単体でもよいが、この樹脂よりなる硬質層を外側とし、前述のポリオレフィンエラストマー樹脂よりなる軟質層を内側とした2層構造とすることにより、咬合力を緩和させることができる。さらに硬質層を軟質層の内部に埋め込んだ3層構造とすることも可能である。いびき防止用マウスピースは上下顎に装着される1対のマウスピースとされ、気道を広げるために下顎マウスピースにより下顎を僅か前方へ押し出す構造とされる。この作用は上下歯牙の咬合面の形状によりなされ、具体的には、1層構造として成形したマウスピース上に別のシクロオレフィンポリマー樹脂シートを熱風等により加熱軟化して必要箇所に圧接して咬合調整することによりなされる。またマウスピースが破損した場合あるいは形状修正する場合にも、上記シートを加熱軟化して、補修、補充することができる。
図10、11は、シクロオレフィンポリマー樹脂よりなる義歯のプレス成形方法を示す。通法にて1対のフラスコ30,31間に石膏にて顎形状に一致した空間32を有する模型33を作製する。34はシクロオレフィンポリマー樹脂にて形成された人工歯で石膏模型33に埋設されている。両フラスコ30,31を開いた状態で、その間に加熱軟化したシクロオレフィンポリマー樹脂よりなる成形体35を挟み、図11に示すように両フラスコ30,31を重ね合わせて型締めする。その後冷却して石膏模型33から取り出し、バリを除去して研磨する。これによりシクロオレフィンポリマー樹脂よりなる義歯床36が形成される。義歯床36成形時、人工歯34はアンカー構造により一体化される。成形体35は図12に示すように、顎堤に略一致する形状の馬蹄形とすることができる。
図13は、シクロオレフィンポリマー樹脂よりなる義歯の射出成形方法を示す。前述同様、通法にて1対のフラスコ30,31間に石膏にて顎形状に一致した空間32を有する模型33を作製する。37は、成形空間に通じるスプルーである。38は射出成形器のシリンダー部分を示し、シリンダー38から加熱溶融したシクロオレフィンポリマー樹脂をピストン39にて押し出し、成形空間32に充填する。40はシリンダー38周囲に配置されたヒータである。樹脂充填後、冷却して石膏型から取り出し、研磨すれば人工歯34を固定した義歯床36が完成する。成形体35は、図14に示すようにシリンダー38に差し込みやすい円柱状とすることができる。人工歯34の作製にもこの射出成形法が採用できる。
なお、シクロオレフィンポリマーにて義歯床を形成し、これが顎堤に接する面に裏装材としてポリオレフィン系エラストマー層を形成することにより、粘膜面に軟らかく接する義歯を作製することもできる。
図15〜19は、維持装置例えばクラスプ50、バー51の作製工程を示し、前述の真空加圧成形器が使用される。まずクラスプ50、バー51の基材が、歯科用光重合樹脂、例えばライトパターン(登録商標、株式会社モルテンメディカル製)にて作製され、光照射により硬化される。これらの作製は通法により行われる。これら基材がラバーボウル52に満たされた流動状態にある石膏53の表面に載置され、やや押し圧されて埋没しきらない状態に埋められる。このときクラスプ50、バー51が歯に接する面が下側(石膏に埋め込まれる面)とされる(図16)。
石膏53の硬化後、クラスプ50、バー51の基材に熱風あるいは湯をかけて加温することにより軟化させ、除去する(図17)。これにより、石膏模型53表面にクラスプ50、バー51の形状に一致した溝54が形成される。石膏模型53はラバーボウル52から取り出され、前述の成形器のテーブル10の多孔質板13(図7)上に載置される。成形体シートとしてシクロオレフィンポリマー樹脂シート18が使用される。
真空、加圧成形によりシート18は石膏模型53表面に密着し、クラスプ、バー形成溝54内に充填される(図18)。シート18冷却後、シートは、クラスプ50、バー51の形成溝54に沿って切り出され(図18、矢印P)、石膏模型53から外され研磨されて透明なクラスプ50、バー51が完成する。
次に歯列の矯正用マウスピースについて、図20〜図25に基づいて説明する。
図20に示すように、患者の例えば上顎をアルギン酸印象材またはシリコン印象材にて印象採得し、これをもとに石膏模型60が作製される。
次いで図21、22に示すように、矯正しようとする歯、今の場合2本の前歯下面に金属製ピン61が埋められ、周囲が切断されて、歯ブロック62が形成される。歯ブロック62は、歯の部分63と直方体形状の歯茎部分64よりなる。模型60の下に石膏よりなる基台65が形成されて、模型60に固定される。基台65にはその形成時ピン61に対応する孔66が形成され、歯ブロック62はそのピン61が孔66に差し込まれることにより、元の位置が再現される。
図23に示すように、歯ブロック62の歯茎部分64の破線67(図22)にて示す部分を削り、ピン61(図22)を中心として回動可能とし、歯の部分63を矯正方向へ僅か回動させた状態で、模型60と歯ブロック64との間隙68をワックスで埋め、矯正位置に固定する。図中、破線aにて矯正前の歯の位置(図21に示す位置)を、実線にて矯正後の位置を示す。図示の例では、前歯2本を矯正する場合を示したが、同様の操作が矯正すべきすべての歯についてなされる。
このようにして作製された矯正模型60をもとに、図24に示すようにマウスピース69が成形される。矯正用マウスピース69は、全歯の周囲を囲むように形成される。このマウスピース69は、多くの場合咬合面を除いて差し支えないが、上下歯牙が反対咬合となっている場合に、これを矯正するために咬合挙上が必要なときは、咬合面も形成される。
図25に示すように、形成されたマウスピース69を患者の顎に装着すると、マウスピース69により、歯70の一方の面に矯正方向の緩圧弾性力(矢印b)が作用する。このとき歯70の他方の面には隙間71が開いている。このマウスピース69の弾性力により歯70は徐々に移動する。歯70が移動し、弾性圧力が作用しなくなった時点で、再度矯正模型60の歯の部分63(図22)を矯正方向に移動させ、より正常に近い歯列状態とし、2回目のマウスピース69を形成する。これを最初のマウスピース69に代えて患者の顎に装着し、さらに矯正を進める。
このように矯正の進み具合に応じてマウスピース69が作り変えられるが、通常、矯正を終了するまでには、10個ないし20個程度のマウスピースが必要となる。なおマウスピース69の作り変えを少なくするために、1個のマウスピース69にて矯正が進んだ段階で、押し圧部分にポリオレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂またはEVAの薄いシートを貼り付けて、圧力を増すという方法をとることができる。このようにして不正咬合あるいは不正歯列が矯正される。かかる方法では、歯に接着剤を塗る必要はないから、接着剤による歯の溶解が起こることはなく、歯に何の損傷も与えることなく矯正治療を行うことができる。
次に図26〜図30を参照して、別の歯の矯正方法を説明する。図26において、矯正される歯72を、点Qに圧力を加えることにより、支点Pを中心として回転させるものとする。かかる場合、まず、患者から印象採得して形成した石膏模型73を使用して、前述した方法により、シクロオレフィンポリマー樹脂にて歯全面を覆うマウスピース74を形成する。このとき歯の舌側にワックス75を薄く盛っておくことにより、作成されたマウスピース74の歯72の舌側面にスペース76が形成される。
次いで石膏模型73の歯72のQ位置に溝77を掘り込む。同時にこのQ位置に対応するマウスピース74の部分を削除し、孔78を開ける。かかる処理を施した後、マウスピース74を模型73にはめ込み、前述の成形器を用いて、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーのシートをシクロオレフィンポリマー樹脂よりなるマウスピース74上に被せ、両者溶着させて2層構造のマウスピースを成形する。かくすると、成形時、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーよりなる外側層79が内側層のマウスピース74に空けた孔78を介して溝内77に充填され、細長い突条80を形成する。
患者の顎に装着した場合、図29に示すように、硬質のシクロオレフィンポリマー樹脂よりなる内側層74は天然歯81を覆う部分のみとし、軟質のポリオレフィン系熱可塑性エラストマー外側層79はさらに延ばして歯茎を覆うごとく形成される。かくして、図30に示すように、突条80にて天然歯81を弾性的に押し圧し、固定された支点Pを中心に回転し、矯正される。突条80が当たる天然歯81の舌側にはスペース76が形成されているから、天然歯81の回転が妨げられることはない。なお外側層79のポリオレフィン系熱可塑性エラストマーの成形は、前述の成形器を使用することなく、シクロオレフィンポリマー樹脂よりなる単層マウスピース74を使用し、歯72に形成した溝77に対応する部分に開けた孔78に、過熱軟化させたポリオレフィン系熱可塑性エラストマーの塊を押し当て、接着させる構造としてもよい。かかる矯正方法によれば、前述の矯正方法のように、各歯の石膏切り出し作業及びピンで基台に固定する作業等が不要となるから、より簡単に矯正治療を行うことができる。
マウスピース69の材料としては、典型的には、単層マウスピースではシクロオレフィンポリマー樹脂が使用でき、ラミネート構造ではシクロオレフィンポリマー樹脂とポリオレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂またはEVAが、硬質層及び軟質層を構成する材料としてそれぞれ使用できる。しかしながら硬質層あるいは軟質層の硬度をさらに細かく調整することもでき、その場合シクロオレフィンポリマー樹脂にポリオレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂またはEVAを混合して使用できる。これらの調整は使用用途、使用条件あるいは症状に応じてなされる。例えば、歯に接する部分のみ軟質弾性材料で歯を囲むように形成し、骨格部分を硬質として形状維持、強度を上げる等の設計が自由にできる。
シクロオレフィンポリマー樹脂とポリオレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂またはEVAとの混合割合は、シクロオレフィンポリマー樹脂に対し、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂またはEVAが0から約50重量%の範囲で混合される。骨格体としての機能を持たせ硬度及び強度を維持するために、シクロオレフィンポリマー樹脂は少なくとも50重量%必要である。
矯正用マウスピース69の成形体は、その厚さをかなり大きくしなければならない場合があることから、最初から厚いものが用意され、例えば、3cm×3cm×8cmの直方体とすることができる。
シクロオレフィンポリマー樹脂単体では、成形時クラックが入ることが稀にあるが、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂もしくはEVA樹脂を数重量%混合することにより、このようなクラックの発生を防止できる。
【産業上の利用可能性】
本発明(請求の範囲第1項)によれば、歯科用成形体が、シクロオレフィンポリマー樹脂、シクロオレフィンポリマー樹脂とポリオレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂の混合体、またはシクロオレフィンポリマー樹脂とEVAの混合体のいずれかよりなるから、シクロオレフィンポリマー樹脂単体としたときは、義歯あるいはマウスピースとして口腔内に装着したとき吸水変形が殆どなく、高い成形精度が長期間維持され、良好な装着性能を保つことができる。また成形体をシクロオレフィンポリマー樹脂とポリオレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂の混合体、またはシクロオレフィンポリマー樹脂とEVAの混合体としたときは、弾性及び軟質性を付与させることができる。
本発明(請求の範囲第2項)によれば、硬質のマウスピースが作製できるから、顎関節症治療用のマウスピースあるいはブリーチング用マウスピースをより機能の高いものとすることができる。またシクロオレフィンポリマー樹脂は、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂に熱溶着するから、シクロオレフィンポリマー樹脂層を硬質層とし、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーを軟質層とするラミネート構造のマウスピースが作製でき、装着性及び保護機能の向上、装着時の違和感減少を実現することができる。さらにシクロオレフィンポリマー樹脂とポリオレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂の混合体、またはシクロオレフィンポリマー樹脂とEVAの混合体を使用することにより、ラミネート構造マウスピースの硬質層及び軟質層のそれぞれについて、その硬度及び弾性を調整することができる。
本発明(請求の範囲第3項)によれば、義歯床及び人工歯を、射出成形あるいはプレス成形により、比較的容易に成形できかつ高い成形精度を得ることができる。
本発明(請求の範囲第4項)によれば、局部義歯の維持装置例えばクラスプ、バーを透明なシクロオレフィンポリマー樹脂、シクロオレフィンポリマー樹脂とポリオレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂の混合体、またはシクロオレフィンポリマー樹脂とEVAの混合体にて形成することができるから、いずれも透明体とすることができ、局部義歯の装着が目立たず、審美的向上を図ることができる。
本発明(請求の範囲第5項)によれば、マウスピース構造の矯正装置が実現できるから、矯正金具を歯面に接着してワイヤで結ぶ従来方式に比べて歯の損傷は殆どなく、安全な矯正装置が実現できる。
本発明(請求の範囲第6項)によれば、成形体は内側からの真空吸引と外側からの加圧とで、高い成形精度が得られるから、粘性のある熱可塑性樹脂であっても細く狭い空隙にも隈なく充填させることができ、精密成形が可能となる。さらに成形体と模型の間へのエアの残留が阻止されるから、成形後の製品に気泡が混入するおそれはない。
本発明(請求の範囲第7項)によれば、精密成形が可能であるから、ブリーチング用マウスピースに適用した場合、薬剤が漏れない構造とすることができる。また歯牙を覆う部分のみ硬質層とすることにより、ラグビー、ボクシング、空手等の競技において、相手選手から受ける衝撃を全部の歯で受け、1本1本の歯が受ける衝撃を緩和することができる。またシクロオレフィンポリマー樹脂はマウスピース材料として賞用されているポリオレフィン熱可塑性エラストマー及びEVAと熱溶着することから、これらにて2層のラミネート構造とすることにより、硬質層による衝撃分散、軟質層による衝撃吸収、両層による歯への維持性を従来のものに比較して格段に向上させることができる。またスポーツ用マウスピースは、相手選手と接触しない競技においても、咬合挙上により高い咬合圧を得、瞬発力を上げる効果があるため、非接触型競技にも有効である。
さらにラミネート構造のマウスピースにあっては、硬質層を構成するシクロオレフィンポリマー樹脂にポリオレフィン系熱可塑性エラストマーまたはEVAを混合してその硬度を下げるとともに弾性を付与することが可能であり、使用用途、使用条件あるいは症状に応じた硬度に調整することができる。
本発明(請求の範囲第8項)によれば、クラスプ、バー等維持装置が、透明体で構成されるから、口を開いたとき、局部義歯を装着していることが分かりにくく、義歯の審美性を向上することができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】

【図21】

【図22】

【図23】

【図24】

【図25】

【図26】

【図27】

【図28】

【図29】

【図30】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロオレフィンポリマー樹脂、シクロオレフィンポリマー樹脂とポリオレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂の混合体、またはシクロオレフィンポリマー樹脂とエチレン酢酸ビニルアセテート樹脂の混合体のいずれかを含む歯科用成形体
【請求項2】
歯科用成形体がマウスピース製作のための成形体である請求の範囲第1項記載の歯科用成形体
【請求項3】
歯科用成形体が義歯床及び人工歯製作のための成形体である請求の範囲第1項記載の歯科用成形体
【請求項4】
歯科用成形体が局部義歯の維持装置のための成形体である請求の範囲第1項記載の歯科用成形体
【請求項5】
歯科用成形体が歯の矯正ための成形体である請求の範囲第1項記載の歯科用成形体
【請求項6】
テーブル上に載置された石膏模型と、シクロオレフィンポリマー樹脂、シクロオレフィンポリマー樹脂とポリオレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂の混合体、またはシクロオレフィンポリマー樹脂とエチレン酢酸ビニルアセテート樹脂の混合体のいずれかを含むシート状成形体をチャンバー内に離間して支持させる工程、上記成形体を加熱軟化させる工程、上記チャンバー内のエアを吸引してチャンバー内空間を真空とする工程、真空状態下で上記テーブルを上昇させることにより上記成形体にて上記模型を被覆して上記成形体と上記テーブル間の空間をその外側の空間から遮断する工程、該空間の真空状態を維持した状態で、上記チャンバー内にエアを導入し、加圧雰囲気にて上記成形体を上記模型に押圧成形する工程、を含む歯科用成形体の成形方法
【請求項7】
上記石膏模型が顎模型であり、上記成形体にて上記額模型を被覆するマウスピースが成形されることを特徴とする請求の範囲第6項記載の歯科用成形体の成形方法
【請求項8】
上記石膏模型がその表面に局部義歯の維持装置の形状に一致する凹部を有する模型であり、上記成形体を該凹部に充填することにより上記維持装置が成形されることを特徴とする請求の範囲第6項記載の歯科用成形体の成形方法

【国際公開番号】WO2004/049967
【国際公開日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【発行日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−570720(P2004−570720)
【国際出願番号】PCT/JP2003/014488
【国際出願日】平成15年11月13日(2003.11.13)
【出願人】(301065870)
【Fターム(参考)】