説明

気体モニタリング装置、燃焼状態モニタリング装置、経年変化モニタリング装置、および不純物濃度モニタリング装置

【課題】 冷却機構なしで暗電流を減らし、受光感度を波長1.8μm以上に拡大したInP系フォトダイオードを用いて、気体のモニタリングを高感度で遂行することができる、気体モニタリング装置等を提供することを目的とする。
【解決手段】 受光層3がIII−V族半導体の多重量子井戸構造を有し、pn接合15は、不純物元素を受光層内に選択拡散して形成したものであり、受光層における不純物濃度が、5×1016/cm以下であり、気体モニタリング装置は、波長3μm以下の少なくとも1つの波長の光を受光して、気体中のガス成分等を検出することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外域を含む光に対して受光感度をもつ半導体受光素子を用いて、産業用装置やごみ焼却炉等のインフラ施設等、における気体中のガス成分等(ガス成分、すす等の浮遊物等)をモニタリングする、気体モニタリング装置、燃焼状態モニタリング装置、経年変化モニタリング装置、および不純物濃度モニタリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ボイラやごみ焼却炉等の施設には、運転状況に応じて変化する火炎や気体の状態を検知し、検知結果を運転に反映させ、また当該施設の劣化状態を知り当該施設を更新することが行われている。気体は、固体に比べて電磁波を通しやすいので、光学式モニタリングには適しているが、中でも、近赤外域の光は、炭化水素などの気体の吸収スペクトルが位置するので、有機物が発する気体のモニタリングに適している。しかし、近赤外光による分析では、出力信号に、受光素子に起因する大きなノイズが含まれている。このため、センサ(受光素子)の性能向上に全面的に頼らずに、出力信号について必要な情報を抽出するために、分光学的方法またはケモメトリックスなどが重要な手法として用いられている。
【0003】
上記センサ(受光素子)は、近赤外域では、電子管タイプと固体素子のフォトダイオード(PD)とに、大別される。このなかで、PDは、小型で、一次元アレイおよび二次元アレイなどの高集積化が容易なので、多くの研究開発が行われている(非特許文献1)。本発明は、PDを用いた生体成分についての検出装置を対象にする。現在、次のようなPD、またはPDアレイが用いられている。
(1)赤外域にまで受光感度を持ち、近赤外域にも受光感度をもつPD、またはそのアレイ。このようなフォトダイオードには、たとえばゲルマニウム(Ge)系PD、硫化鉛(PbS)系PD、HgCdTe系PD、またはその一次元アレイ、二次元アレイがある。
(2)近赤外域の波長1.7μm以下に受光感度を持つInP系PD、そのInP系PDの範疇に入るInGaAs系PD、またはそのアレイ。ここで、InP系PDとは、InP基板に形成されるIII−V族化合物半導体の受光層を含むPDをいい、InGaAs系PDも含まれる。
【0004】
上記のフォトダイオードのうち、(1)は、ノイズを抑制するため冷却する場合が多く、たとえば液体窒素温度(77K)やペルチエ素子で冷却して稼動させるものが多い。このため、装置が大がかりになり装置コストが大きくなる。室温でも用いることはできるが、波長域2.5μm以下の範囲で暗電流が大きく、検出能力が劣るという問題を有している。(2)一方、InP系PDの課題は、(I)InPに格子整合するInGaAsは暗電流が低いが、受光感度が近赤外域の1.7μm以下の波長域に限定されること、および(II)受光可能な波長域を2.6μmまで拡大したextended−InGaAsでは暗電流が大きく冷却する必要があること、である。したがって、InP系PDでは、気体モニタリングで精度向上のために重要となる2.0μm以上の光を、用いることができないか、または用いる場合には冷却する必要がある。
【0005】
近赤外光を用いた光学式モニタリングの例としては、OFケーブルのように絶縁油を収容した油入機器の保守管理に、油中溶存ガス中の複数の炭化水素の組成比を検知することで油入機器の劣化を知るものがある(特許文献1、2)。特許文献2では、とくに炭化水素ガスと、2原子分子に起因して赤外域に吸収スペクトルをもたない水素の濃度を検知する装置について提案がされている。この光学式モニタリング装置では、波長1.5〜1.6μm帯に感度をもつ受光素子を用いている。
他の例として、ボイラ等の燃焼装置における窒素酸化物、煤(すす)、一酸化炭素の発生を抑制するために、燃焼状態を監視する光学式モニタリング装置が提案されている(特許文献3)。この装置では、シリコンフォトダイードとPbS光導電型素子とを積層した多層受光素子が用いられている。また、シリコンフォトダイオードとGeフォトダイオードとの組み合わせ、またはシリコンフォトダイオードとPbSe光導電型素子との組み合わせ、の多層受光素子も合わせて提案されている。シリコンフォトダイオードを用いるのは、可視光域またはそれに近い波長の光を受光するためである。
また、ごみ焼却装置において、燃焼炉全体の温度分布をとらえる赤外線カメラの提案がなされている(特許文献4)。この赤外線カメラの受光部の内容は不明である。
LSI等の製造プロセスには、エピタキシャル膜の成膜に高純度のガスを用いるが、これらガスには微量の水分が含まれ、LSI等の耐久性に悪影響を及ぼす。このようなガス中の微量水分のモニタリングに近赤外域の単一波長を発振するレーザ光源を用いて、上記ガスの透過光を受光して、ロックイン検波により0.1〜1ppmオーダの水分濃度を検知する装置が提案されている(非特許文献2)。この装置の受光素子には、ゲルマニウムフォトダイオードが用いられている。
これらのガス成分の検出の受光装置、および他の一般的な近赤外受光装置では、InGaAs、PbS、Ge、HgCdTe、ステップバッファ層を多段に設けたextended−InGaAsなどの単素子またはアレイ型が用いられている。受光波長域は、上記すべての気体モニタリング装置に共通する範囲は1μm〜1.8μmである。ただし、2.0μmまたは2.5μm程度を上限に設定しているものも認められる。
【0006】
InGaAsについては、上述のように、受光感度を近赤外の長波長側まで拡大する課題がある。これを改善するために、下記の方策が提案されている。
(K1)InGaAs受光層のIn組成を高め、InP基板との格子不整合は、その間に挿入してIn組成を段階的に変えたステップバッファ層によって吸収する(特許文献5)。
(K2)InGaAs受光層にNを含有させてGaInNAs受光層とする(特許文献6)。InP基板との格子整合は、Nを多量に含有させることで満足させる。
(K3)GaAsSbとInGaAsとのタイプII型多重量子井戸構造によって、受光域の長波長化をはかる(非特許文献3)。InP基板との格子整合は、満たされている。
(K4)二次元アレイ化は、受光素子(画素)間に、素子分離溝をウエットエッチングを形成することで実現する(特許文献7)。
【非特許文献1】中山雅夫「赤外線検出素子の技術動向」センサー技術、1989年3月号(Vol.9, No.3),p.61-64
【非特許文献2】呉尚謙ら「半導体レーザ分光によるガス中微量水分の検出」日本赤外線学会誌、Vol.11,p.33-40(2001)
【非特許文献3】R.Sidhu,"A Long-Wavelength Photodiode on InP Using Lattice-Matched GaInAs-GaAsSb Type-II Quantum Wells, IEEE Photonics Technology Letters, Vol.17, No.12(2005), pp.2715-2717
【特許文献1】特開2007−120971号公報
【特許文献2】特開平09−304274号公報
【特許文献3】特開平05−79624号公報
【特許文献4】特開平05−196220号公報
【特許文献5】特開2002−373999号公報
【特許文献6】特開平9−219563号公報
【特許文献7】特開2001−144278号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の受光素子では、全体をまとめると最大2500nmまでの近赤外光を利用するものが示されている。受光感度が良好であれば、波長の上限は大きいほうが多くの情報を得ることができるので好ましい。しかし、波長1.7μmを超える光を受光するには、上述したように、PbS、HgCdTeなどを用いた受光素子では、暗電流が大きく、検出能力が低く、検出分解能を高める課題がある。また、検出能力を高めるために冷却して使用すると、気体モニタリング装置が大掛かりになる。
InP基板に格子整合するInGaAs受光素子は、検出能力に優れるが、感度は波長1.7μm以下であり、それより長波長域に吸収スペクトルを多くもつガス成分等の検出には不適である。とくに、有機物が発する炭化水素ガスのように、多くの成分が混在する場合、1つの検出対象のガス成分を、当該ガス成分起因の2つ以上の吸収帯を用いて、総合的に検出することが分解能を向上するのに望ましい。このような2つ以上の吸収帯を用いるガス成分の検出では、しかしながら、感度波長域1.7μm以下では、きわめて不十分である。
【0008】
一方、冷却が不要で、近赤外域の長波長側に受光感度を有する受光素子および受光素子アレイは、上記の方策(K1)〜(K4)に示すように、いくつかの候補はある。しかし、それぞれに次の課題を残している。
(K1):InP基板と受光層とが、完全に格子整合しないため、高格子欠陥密度に起因する暗電流が非常に高い。このため十分高いダイナミックレンジ(S/N比)を得られず、高ノイズである。このため暗点(画像抜け)が多くなる。
また、積層体のトップ層をなす窓層について、格子整合を実現するために、InPを用いることができず、InAsP窓層とする必要がある。このため、生体成分によっては重要な吸収帯が位置する近赤外域から短波長側の感度が劣化する。
(K2):InPに格子整合しながら、バンドギャップを長波長化するために、Nを10at%程度にすると、良好な結晶のGaInNAsを得ることは非常に難しい。さらに、受光感度を十分高くするために、厚み2μm程度のGaInNAs得ることは、ほとんど不可能なくらい困難である。要は、鮮明な像を得ることができない。
(K3):多重量子井戸構造の受光層に、通常の方法で不純物を導入すると多重量子井戸構造の結晶性が害される。このため、製造歩留りが低下して製品コストを増大させ、かつ結晶性についても良好なものが得にくい。したがって、受光波長域は2.5μm程度まで長波長化できるが、鮮明な像を得ることができない。
(K4):ウエットエッチングにより素子分離してアレイ化するためには、エッチャントが、溝に十分深く、均一に回り込む必要がある。しかし、エッチャントは、溝に十分深く、均一に回り込まず、制御は難しい。このため製造歩留りが低くなる。一方、ドライエッチングでは、受光素子へのダメージが発生する。とくに気体モニタリング装置のように、波長に応じて回折された光を受光する装置の場合、上記ダメージは許容できない。
【0009】
冷却機構なしで暗電流を抑制したフォトダイオードを用いて、高い感度で近赤外分光が、簡単に行えるようになれば、気体モニタリングにおいても微量のガス成分や微小の温度変化を検知できるようになり有用性を増すことができる。
本発明は、冷却機構なしで暗電流を減らし、受光感度を波長1.8μm以上に拡大したInP系フォトダイオードを用いて、気体のモニタリングを高感度で遂行することができる、気体モニタリング装置、それを用いた、燃焼状態モニタリング装置、経年変化モニタリング装置、および不純物濃度モニタリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の気体モニタリング装置は、波長域3μm以下の近赤外域の光を利用して、気体をモニタリングするための装置である。この気体モニタリング装置は、近赤外域の光を受光する受光素子を備え、その受光素子がInP基板上に形成された多重量子井戸構造の受光層を有する。その受光層のバンドギャップ波長が1.8μm以上3μm以下であり、受光層のInP基板と反対側に拡散濃度分布調整層を備える。その拡散濃度分布調整層のバンドギャップがInPよりも小さく、受光素子では、その拡散濃度分布調整層を通して受光層へと届く不純物元素の選択拡散によって、pn接合が形成される。受光層における前記不純物元素の濃度が5×1016/cm以下である。そして、波長3μm以下の少なくとも1つの波長の、気体からの光を受光素子により受光して、該気体中のガス成分等(ガス成分、微粒子等の浮遊物)を検出することを特徴とする。
【0011】
上記の構成によって、近赤外域に対応したバンドギャップエネルギを有する多重量子井戸構造を、不純物濃度を5×1016cm−3以下に低くすることにより多重量子井戸構造を破壊されず、すなわち結晶性を損なわずに、形成することができる。そして、受光素子のpn接合形成のための不純物が選択拡散され、すなわち周縁部から内側に平面的に周囲限定されて、個々の受光素子に分離されるように導入される。このため、各受光素子を高精度で形成しやすく、素子分離溝を設ける必要がないので、暗電流の低い受光素子を形成することができる。このため、波長3μm以下において、冷却なしで高い感度の受光をすることができる。気体のガス成分(分子)の吸収帯は、波長0.9μm〜3μmに、いくつも存在するので、上記の気体モニタリング装置によって、これら複数の吸収帯を同時に用いて検出することができる。これによって検出精度を向上させることができる。
【0012】
拡散濃度分布調整層のバンドギャップをInPより小さくすることによって、拡散濃度分布調整層の受光層側の厚み範囲の不純物濃度を低くしても、電気抵抗を低く抑えることができ、このため応答速度の低下防止に資することができる。さらに詳しく説明すると、拡散濃度分布調整層のバンドギャップをInP基板のバンドギャップより小さくした理由は、次のとおりである。
(1)III−V族化合物半導体により近赤外域用の受光層を形成したとき、その受光層のバンドギャップエネルギより大きいバンドギャップエネルギを窓層に用いる場合があり、その場合、格子整合性等も考慮して、半導体基板と同じ材料が用いられることが多い。拡散濃度分布調整層のバンドギャップエネルギは、窓層のバンドギャップエネルギより小さく、受光層のバンドギャップエネルギより大きいことを前提としている。受光層のバンドギャップエネルギより小さい場合には、エピタキシャル層表面を入射面とする構造を採用したとき、拡散濃度分布調整層が対象とする光を吸収し、受光層の受光感度を低下させるからである。
(2)窓層に通常用いられる大きなバンドギャップエネルギの材料よりも小さいバンドギャップエネルギの材料を用いることにより、不純物濃度を低くしても電気抵抗増大の程度、または電気伝導度の低下の程度を小さくすることができる。この結果、上記のように電圧印加状態において応答速度の低下を抑制できる。
【0013】
ここで、検出とは、あらかじめ所定成分の検量線(所定成分の濃度と、その波長での光の強度または吸収度との関係)を作成しておいて、所定成分の濃度または含有率を求めることであってもよいし、そのような検量線を用いない手法であってもよい。なお、上記のpn接合は、次のように、広く解釈されるべきである。受光層内において、不純物元素が選択拡散で導入される側と反対の面側の領域の不純物濃度が、真性半導体とみなせるほど低い不純物領域(i領域と呼ばれる)であり、上記拡散導入された不純物領域と当該i領域との間に形成される接合をも含むものである。すなわち上記のpn接合は、pi接合またはni接合などであってもよく、さらに、これらpi接合またはni接合におけるp濃度またはn濃度が非常に低い場合も含むものである。
【0014】
上記の拡散濃度分布調整層内において、不純物元素の濃度が、受光層と反対側における1×1018/cm〜9.9×1018/cmから受光層側における5×1016/cm以下に低下する分布をとることができる。これによって、表面トップ側に位置する電極の界面抵抗を抑えながら、またはオーミック接触を可能にしながら、かつ多重量子井戸構造の良好な結晶性を確保することができる。拡散濃度分布調整層内の部分における低い不純物濃度に起因する電気抵抗の増大または電気伝導度の低下の問題は、上記のように、拡散濃度分布調整層のバンドギャップエネルギをInP相当のそれよりも小さくすることにより軽減することができる。
【0015】
上記の受光層をタイプIIの量子井戸構造とすることができる。これによって、電磁波の吸収の際に、電子の高い価電子帯の層から低い導電帯の層への遷移が可能となり、より長波長域の光に対する受光感度を獲得することが容易になる。
【0016】
上記の受光層を、(InGaAs/GaAsSb)の多重量子井戸構造、または(GaInNAs(P,Sb)/GaAsSb)の多重量子井戸構造とすることができる。ここで、(GaInNAs(P,Sb)/GaAsSb)は、(GaInNAsP/GaAsSb)、(GaInNAsSb/GaAsSb)、(GaInNAsPSb/GaAsSb)、または(GaInNAs/GaAsSb)を意味する。これによって、これまで蓄積した材料および技術を用いて、容易に、結晶性に優れ、暗電流の低い受光素子を得ることができる。
【0017】
上記のInP基板を、(100)から[111]方向または[11−1]方向に、5°〜20°傾斜したオフアングル基板とすることができる。これによって、欠陥密度が小さく結晶性に優れた、多重量子井戸構造の受光層を含む積層体を得ることができる。この結果、暗電流が抑制され、暗点が少ない受光層を得ることができる。
【0018】
上記の不純物元素を亜鉛(Zn)とし、拡散濃度分布調整層をInGaAsから形成することができる。これにより、電気抵抗の不純物濃度依存性が小さく、不純物濃度が低くても電気抵抗はそれほど高くならない材料で、拡散濃度分布調整層を形成することができる。電気抵抗の増大抑制は、応答速度の劣化を防止する。また、不純物の亜鉛は、これまでの選択拡散の実績が豊富であり、高い精度で拡散領域を形成することができる。このため、拡散濃度分布調整層内で、拡散導入側の上側で高い濃度の不純物を、受光層側の下側で低い濃度としながら、その下側での電気抵抗を高めないようにできる。このため量子井戸構造を有する受光層内に、高い不純物濃度の領域を形成しないようにできる。この結果、応答性を低下させずに、結晶性の良好な量子井戸構造の受光素子を得ることができる。なお、InGaAsのバンドギャップエネルギは0.75eVである。
【0019】
拡散濃度分布調整層の上にInP窓層を備えることができる。InPによる窓層の形成は、内部の半導体積層構造の結晶性を損なわないことから、エピタキシャル層を入射面側とする構造を採用した場合、受光層より入射側での近赤外光の吸収などを防止しながら、暗電流の抑制にも有効に作用する。また、InPの結晶表面にパッシベーション膜を形成する技術は、他の結晶表面に形成する場合、たとえばInGaAsの表面にパッシベーション膜を形成する技術よりも蓄積があり、技術的に確立されており、表面での電流リークを容易に抑制することができる。
【0020】
上記のInP基板、受光層の量子井戸構造を構成する各層、および拡散濃度分布調整層、の任意の相互間において、格子整合度(|Δa/a|:ただし、aは格子定数、Δaは相互間の格子定数差)を0.002以下とすることができる。この構成により、普通に入手ができるInP基板を用いて、結晶性に優れた受光層を得ることができる。このため、波長1.8μm以上の近赤外光の受光素子または受光素子アレイにおいて、暗電流を画期的に抑制することができる。
【0021】
上記の受光素子は、一次元または二次元にアレイ化した構造をとることができる。受光素子アレイは、受光素子が、複数、半導体積層構造を共通にし、かつ不純物元素が受光素子ごとに受光層内に選択拡散されて形成されており、一次元または二次元に配列されている。この構成によれば、受光素子が個々の不純物拡散領域で形成されるため、素子分離溝を設ける必要がない。このため、高精度で形成しやすく、暗電流を低くできる受光素子アレイを形成することができる。
【0022】
上記受光素子の二次元アレイを含む撮像装置を備え、該撮像装置により気体中のガス成分の濃度分布および温度分布の像を形成することができる。これによって、感覚的に理解しやすい対象物中の所定成分の分布像を得ることができる。
【0023】
上記の受光素子は、受光層に対して、InP基板と反対側のエピタキシャル層トップ側を光入射面とするか、またはInP基板側が光入射面であって、当該InP基板が除去されているか若しくは受光層と同等以下の厚みに減厚されている構造をとることができる。これによって、InP基板による可視域〜近赤外域の光吸収を避けることができ、近赤外域よりも短波長側の受光感度を向上することができる。この結果、火炎、燃焼中のごみ、すす、着色センサ等の発する光の色彩をモニタリングすることができ、検知内容の拡大および検知精度の向上を得ることができる。なお、上記の気体からの光について、ガス成分等(ガス成分、該気体中の浮遊物等)の吸収スペクトルおよび/または発光スペクトルをモニタリングすることができる。これによって、ガス成分の濃度とともに、当該気体の温度等をモニタすることができる。
【0024】
本発明の燃焼状態モニタリング装置は、上記のいずれかの気体モニタリング装置を備え、燃料、ごみ等の物質の燃焼状態をモニタリングすることを特徴とする。これによって、たとえばNOx等の有害ガスの発生を抑制して、適切な燃焼状態を保つことができる。
【0025】
本発明の経年変化モニタリング装置は、上記のいずれかの気体モニタリング装置を備え、装置の経年変化に伴って発生するガス成分をモニタリングすることを特徴とする。これによって、たとえば電力輸送のOF(Oil Filled)ケーブルにおける経年劣化を検知して、事故発生を防止することができる。
【0026】
本発明の不純物濃度モニタリング装置は、上記のいずれかの気体モニタリング装置を備え、外から導入する気体中の不純物のガス成分濃度をモニタリングすることを特徴とする。これによって、たとえば高純度のプロセスガスを用いる半導体製造において、水分などの微量有害不純物をモニタリングして、迅速な対応をとることができる。この結果、製品の品質を維持することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の気体モニタリング装置、およびこれを用いた燃焼状態モニタリング装置等によれば、冷却機構なしで暗電流を減らし、受光感度を波長1.8μm以上に拡大したInP系受光素子を用いて、気体中のガス成分を高感度で検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
(実施の形態1−半導体受光素子アレイの構造−)
図1は、本発明の実施の形態における受光素子10を示す断面図である。図1によれば、受光素子10は、InP基板1の上に次の構成のIII−V族半導体積層構造(エピタキシャルウエハ)を有する。
(InP基板1/InPバッファ層2/InGaAsまたはGaInNAsとGaAsSbとの多重量子井戸構造の受光層3/InGaAs拡散濃度分布調整層4/InP窓層5)
InP窓層5から多重量子井戸構造の受光層3にまで届くように位置するp型領域6は、SiN膜の選択拡散マスクパターン36の開口部から、p型不純物のZnが選択拡散されることで形成される。受光素子10の周縁部の内側に、平面的に周囲限定されて拡散導入されるということは、上記SiN膜の選択拡散マスクパターン36を用いて拡散することによって達せられる。
【0029】
p型領域6にはAuZnによるp側電極11が、またInP基板1の裏面にはAuGeNiのn側電極12が、それぞれオーミック接触するように設けられている。この場合、InP基板1にはn型不純物がドープされ、所定レベルの導電性を確保されている。InP基板1の裏面には、またSiONの反射防止膜35を設け、InP基板の裏面側から光を入射するようにして使用することもできるようになっている。
【0030】
多重量子井戸構造の受光層3には、上記のp型領域6の境界フロントに対応する位置にpn接合が形成され、上記のp側電極11およびn側電極12間に逆バイアス電圧を印加することにより、n型不純物濃度が低い側(n型不純物バックグラウンド)により広く空乏層を生じる。多重量子井戸構造の受光層3におけるバックグラウンドは、n型不純物濃度(キャリア濃度)で5×1015/cm程度またはそれ以下である。そして、pn接合の位置15は、多重量子井戸の受光層3のバックグラウンド(n型キャリア濃度)と、p型不純物のZnの濃度プロファイルとの交点で決まる。すなわち図2に示す位置となる。
【0031】
拡散濃度分布調整層4内では、InP窓層5の表面5aから選択拡散されたp型不純物の濃度が、InP窓層側における高濃度領域から受光層側にかけて急峻に低下している。このため、受光層3内では、Zn濃度は5×1016/cm以下の不純物濃度を容易に実現することができる。図2では、受光層3内のZn濃度は、より低い1×1016/cm程度以下が実現されている。
【0032】
本発明が対象とする受光素子10は、近赤外域からその長波長側に受光感度を有することを追求するので、窓層には、受光層3のバンドギャップエネルギより大きいバンドギャップエネルギの材料を用いるのが好ましい。このため、窓層には、通常、受光層よりもバンドギャップエネルギが大きく、格子整合の良い材料であるInPが用いられる。InPとほぼ同じバンドギャップエネルギを有するInAlAsを用いてもよい。
【0033】
(本実施の形態の受光素子アレイのポイント)
本実施の形態における特徴は、次の要素で構成される点にある。
1.多重量子井戸構造は、選択拡散で不純物を高濃度に導入した場合、その構造が破壊されるため、選択拡散による不純物導入を低く抑える必要がある。通常、上記の拡散導入するp型不純物の濃度を5×1016/cm以下とする必要がある。
【0034】
2.上記の低いp型不純物の濃度を、実生産上、再現性よく安定して得るために、InGaAsによる拡散濃度分布調整層4を、受光層3の上に設ける。この拡散濃度分布調整層4において、受光層側の厚み範囲が、上記のような低い不純物濃度になると、その低い不純物濃度の範囲の電気伝導性は低下し、または電気抵抗は増大する。拡散濃度分布調整層4における低不純物濃度範囲の電気伝導性が低下すると、応答性が低下して、たとえば良好な動画を得ることができない。しかしながら、InP相当のバンドギャップエネルギより小さいバンドギャップエネルギの材料、具体的には1.34eV未満のバンドギャップエネルギを持つIII−V族半導体材料によって拡散濃度分布調整層を形成した場合には、不純物濃度が低くても、電気伝導性は非常に大幅には低下しない。上記拡散濃度分布調整層の要件を満たすIII−V族半導体材料として、たとえばInGaAsなどを挙げることができる。
受光層の不純物濃度を5×1016/cm以下とする理由をさらに詳しく説明する。p型不純物(Zn)の選択拡散の深さが深くなるなどして受光層3内におけるZn濃度が1×1017cm−3を超えると、超えた高濃度部分では量子井戸層を構成するInGaAsとGaAsSbの原子が相互に入り乱れ超格子構造が破壊される。破壊された部分の結晶品質は低下し、暗電流が増加するなど素子特性を劣化させる。ここで、Zn濃度は通常はSIMS分析法(Secondary Ion Mass Spectroscopy:二次イオン質量分析法)で測定するが、1017cm−3台あるいは1016cm−3台の濃度の分析は難しく、比較的大きな測定誤差が発生する。上記の詳細説明は、Zn濃度について倍または半分の精度での議論であるが、それはこの測定精度のあらさからきている。したがって、たとえば5×1016/cmと、6×1016/cmとの相違を議論するのは、測定精度上、難しく、またそれほど大きな意味がない。
【0035】
拡散濃度分布調整層にバンドギャップエネルギの狭い材料を用いると、不純物濃度が低くても電気抵抗の増加を抑制することができる。逆バイアス電圧印加等に対する応答速度は、容量および電気抵抗によるCR時定数で決まると考えられるので、電気抵抗Rの増大を、上記のように抑制することにより応答速度を短くすることができる。
【0036】
3.本実施の形態では、多重量子井戸構造をタイプIIとする。タイプIの量子井戸構造では、バンドギャップエネルギの小さい半導体層を、バンドギャップエネルギの大きい半導体層で挟みながら、近赤外域に受光感度を持たせる受光素子の場合、小さいバンドギャップエネルギの半導体層のバンドギャップにより受光感度の波長上限(カットオフ波長)が定まる。すなわち、光による電子または正孔の遷移は、小さいバンドギャップエネルギの半導体層内で行われる(直接遷移)。この場合、カットオフ波長をより長波長域まで拡大する材料は、III−V族化合物半導体内で、非常に限定される。これに対して、タイプIIの量子井戸構造では、フェルミエネルギを共通にして異なる2種の半導体層が交互に積層されたとき、第1の半導体の伝導帯と、第2の半導体の価電子帯とのエネルギ差が、受光感度の波長上限(カットオフ波長)を決める。すなわち、光による電子または正孔の遷移は、第2の半導体の価電子帯と、第1の半導体の伝導帯との間で行われる(間接遷移)。このため、第2の半導体の価電子帯のエネルギを、第1の半導体の価電子帯より高くし、かつ第1の半導体の伝導帯のエネルギを、第2の半導体の伝導帯のエネルギより低くすることにより、1つの半導体内の直接遷移による場合よりも、受光感度の長波長化を実現しやすい。
【0037】
4.上述のように、選択拡散マスクパターンを用いて選択拡散により、受光素子の周縁部より内側に、平面的に周囲限定してp型不純物を拡散導入するので、上記のpn接合は受光素子の端面に露出しない。この結果、光電流のリークは抑制される。
【0038】
図3は、上記の受光素子10を、共通のInP基板を含むエピタキシャルウエハに複数個配列した受光素子アレイ50を示す断面図である。受光素子10が複数個、素子分離溝なしに配列されている点に特徴を持つ。上述の4.で述べたように、各受光素子の内側にp型領域6が限定され、隣接する受光素子とは、確実に区分けされている。受光層3が多重量子井戸構造で形成されており、受光層3の上に拡散濃度分布調整層4が配置されて、受光層3内のp型不純物濃度が5×1016/cm以下とされている点などは、図1の受光素子10と同じである。
【0039】
次に、図1に示す受光素子10の製造方法について説明する。n型InP基板1上に、2μm厚みのInPバッファ層2またはInGaAsバッファ層2を成膜する。次いで、(InGaAs/GaAsSb)または(GaInNAs/GaAsSb)の多重量子井戸構造の受光層3を形成する。単位量子井戸構造を形成するInGaAs層(またはGaInNAs層)の厚みは5nmであり、ペア数(単位量子井戸の繰り返し数)は300である。次いで、受光層3の上に、Zn拡散導入の際の拡散濃度分布調整層4として、厚み1μmのInGaAs層をエピタキシャル成長し、次いで、最後に厚み1μmのInP窓層5をエピタキシャル成長する。上記の受光層3および拡散濃度分布調整層4は、ともにMBE(Molecular Beam Epitaxy)法によってエピタキシャル成長するのがよい。また、InP窓層5は、MBE法でエピタキシャル成長してもよいし、拡散濃度調整層4を成長させた後、MBE装置から取り出して、MOVPE(Metal Organic Vapor Phase Epitaxy)法によってエピタキシャル成長してもよい。
【0040】
InPバッファ層2またはInGaAsバッファ層2は、ノンドープでもよいし、Siなどn型ドーパントを1×1017/cm程度ドーピングしてもよい。InGaAs/GaAsSb(またはGaInNAs/GaAsSb)の多重量子井戸構造の受光層3、InGaAsの拡散濃度分布調整層4、およびInP窓層5は、ノンドープが望ましいが、Siなどn型ドーパントを極微量(たとえば2×1015/cm程度)ドーピングしてもよい。また、InP基板1とバッファ層2との間に、n型ドーパントを1E18cm−3程度ドープしたn側電極を形成するための高濃度のn側電極形成層を挿入してもよい。また、InP基板1は、Feドープの半絶縁性InP基板であってもよい。この場合は、その半絶縁性InP基板1とバッファ層2との間に、n型ドーパントを1×1018/cm程度ドープしたn側電極形成層を挿入する。
【0041】
上述のInP基板1を含む積層構造(エピタキシャルウエハ)を用いて、光デバイスを製造する。InP窓層5の表面5aに形成したSiNマスクパターン36を用いて、その開口部からZnを選択拡散してInGaAs/GaAsSb(またはGaInNAs/GaAsSb)多重量子井戸構造の受光層3内に届くようにp型領域6を形成する。p型領域6のフロント先端部がpn接合15を形成する。このとき、Zn濃度が1×1018/cm程度以上の高濃度領域は、InGaAs拡散濃度分布調整層4内に限定される。すなわち、上記高濃度不純物分布は、InP窓層5の表面5aから深さ方向に、InGaAs拡散濃度分布調整層4内にまで連続し、さらに拡散濃度分布調整層4内のより深い位置で5×1016/cm以下に低下する。そして、pn接合15の近傍におけるZn濃度分布は、傾斜型接合を示すような分布になっている。
【0042】
受光素子10の一次元または二次元配列、すなわち図3に示す受光素子アレイは、素子分離用のメサエッチングをすることなくZnの選択拡散(受光素子の周縁部の内側になるように平面的に周囲限定した拡散)によって、隣り合う受光素子どうし分離する。すなわち、Zn選択拡散領域6が1つの受光素子10の主要部となり、1つの画素を形成するが、Znが拡散していない領域が、各画素を分離する。このため、メサエッチングに付随する結晶の損傷などを受けることがなく、暗電流を抑制することができる。
【0043】
不純物の選択拡散によってpn接合を形成する場合、拡散が深さ方向だけでなく横方向(深さ直交方向)にも進行するので、素子間隔を一定以上、狭くすることができない懸念が、上記特許文献7に表明されている。しかしながら、実際にZnの選択拡散を行ってみると、最表面にInP窓層5があり、その下にInGaAs拡散濃度分布調整層4が配置された構造では、横方向の拡散は、深さ方向と同程度またはそれ以下に収まることが確認された。すなわち、Znの選択拡散において、Znはマスクパターンの開口径よりも横方向に広がるが、その程度は小さく、図1、図3などに模式的に示すように、マスクパターン開口部よりも少し広がるだけである。
【0044】
図4は、本発明とは異なる参考例1における受光素子110を示す断面図である。参考例1の受光素子110では、次の積層構造を有する。
(InP基板101/InPまたはInGaAsバッファ層102/(GaInNAs/GaAsSb)多重量子井戸構造の受光層103/InP窓層105)
本発明の実施の形態における積層構造と比較して、拡散濃度分布調整層がないことが相違点である。すなわち、InP窓層105の直下に、多重量子井戸構造の受光層103が配置されている。
【0045】
拡散濃度分布調整層がないと、図5に示すように、たとえばZn濃度分布は多重量子井戸構造の受光層103まで高い濃度となる。すなわち、多重量子井戸構造内において、5×1016/cmを超えて1×1018/cmの高い不純物濃度領域が形成される。多重量子井戸構造に高濃度不純物が導入されると、その構造が破壊され、暗電流が大きく増大する。逆に、このような高濃度不純物領域が、多重量子井戸構造内に形成されないようにするために、拡散濃度分布調整層を設けて選択拡散を行うのである。
【0046】
しかしながら、Znの選択拡散において、次のような考え方が成立する余地がある。
(1)拡散導入時間を短時間に限定して、高濃度領域が多重量子井戸構造103内にかからないようにする。
(2)InP窓層105の厚みを厚くして、拡散濃度分布調整層の役割をInP窓層105に分担させる。
図6は、上記の(1)および(2)の場合を検討するための参考例2における受光素子110を示す断面図である。参考例2の受光素子110では、参考例1の受光素子とほぼ同じ積層構造を有するが、InP窓層105の厚みは、参考例1よりも厚くしており、上記(2)の場合に対応するが、(1)の場合も検討することは可能である。図6の積層構造において、多重量子井戸構造103内にZnの高濃度領域を形成しないように選択拡散を行った結果、得られたのが図7に示すZn濃度分布である。図7に示すZn濃度分布の場合、InP窓層105内において、Zn濃度は、高濃度から低濃度へと急峻に低下し、受光層側のInP窓層105内において、1×1016/cm程度の低濃度不純物領域が形成される。
【0047】
InP窓層105内において、1×1016/cm程度の低濃度不純物領域が形成されると、その領域では、繰り返し説明してきたように電気抵抗が高くなり、応答速度が低下する。このため、窓層を形成するほどバンドギャップエネルギが大きい材料に、具体的にはその典型材料であるInP窓層105に、拡散濃度分布調整層の役割を果たさせることはできない。このことは、上記(1)および(2)の場合について同じである。よって、拡散濃度調整層には、バンドギャップエネルギがInP相当以下、具体的には1.34eV未満を満たす材料を用いるのがよい。すなわち、低濃度不純物領域でも、電気伝導度の低下が比較的小さく、電気抵抗の増加が比較的小さいInGaAsのような材料を用いる必要がある。
【0048】
(実施の形態2−気体モニタリングのための撮像装置の構造−)
図8は本発明の実施の形態2における、気体モニタリングのための撮像装置(受光素子アレイ)の概要を示す図である。気体の所定範囲についてピントを合わせるためのレンズなどの光学部品は省略してある。図9は、上記の撮像装置の受光素子アレイを説明するための図である。図10は、図9の受光素子アレイ50のうちの1つの受光素子を示す図である。図8において、この撮像装置70は、共通のInP基板51の上に形成された受光素子10がエピタキシャル層側を、実装基板の機能を有するマルチプレクサ71に向けて、いわゆるエピダウン実装されている。各受光素子10のエピタキシャル層のp型領域6と電気的に接続されるp側電極11と、共通のn型InP基板51(1)に設けられるn側電極12とは、マルチプレクサ71に接続され、電気信号をマルチプレクサに送り、マルチプレクサ71では各受光素子における電気信号を受けて、気体のピントを合わせた所定範囲について全体像を形成する処理を行う。n側電極12およびp側電極11は、それぞれはんだバンプ12b,11bを介在させてマルチプレクサ71と電気的に接続される。入射光は、InP基板51の裏面に形成したAR(Anti-Reflection)膜35を通して導入され、p型領域6と受光層3との界面であるpn接合15で受光される。p型領域6は、保護膜を兼ねるSiNのZn拡散マスク36の開口部から導入される。Zn拡散マスクパターン36は、その上に形成された保護膜のSiON膜パターン43とともにそのまま残される。受光素子アレイおよび各受光素子の構造については、図9および図10を用いて、次に詳しく説明する。
【0049】
図9において、受光素子アレイ50の受光素子10は、共通のInP基板51(1)に設けられている。各受光素子でSWIR帯の光を受光することにより生じた電流信号は、上述のように実装基板を兼ねたマルチプレクサ71に送られ、画像形成の処理がなされる。各受光素子のサイズやピッチ、アレイの大きさを変えながら、画素数を変化させる。図9に示す受光素子アレイ50は9万画素のものである。図10に示す受光素子10は、InP基板1の上に形成された複数のエピタキシャル膜を有し、また、p型領域6を形成する際に用いた、p型不純物導入用の拡散マスク36を残している。p型領域6にはp部電極11が接続され、はんだバンプなどによりマルチプレクサ71など実装基板の配線などへと接続される。
【0050】
図11は、図8に示したエピダウンの受光素子と異なり、エピアップ実装の受光素子を説明する断面図である。本発明においては、撮像装置内の受光素子はエピダウン実装でもエピアップ実装でも、どちらでもよい。この受光素子10は、n型InP基板1上に、下から順に、n型InPバッファ層2/受光層3/拡散濃度分布調整層4/InP窓層5/拡散マスク36/反射防止膜(AR膜:Anti-Reflection)35が位置している。p型領域6は、InP窓層5から拡散濃度分布調整層4を経て受光層3内のpn接合15まで形成されている。また、n側電極12がn型InP基板の裏面に位置し、p側電極11は、p型領域6のInP窓層5の表面に位置し、配線電極27に電気的に接続されている。本実施の形態においては、受光層3は、波長1.0μm〜3.0μmの範囲の光を受光する。具体的には、受光層3は、上述のタイプIIの多重量子井戸構造によって形成される。
【0051】
図11に示す受光素子は、上記したようにエピアップ実装され、エピタキシャル層すなわちInP窓層5の側から光を入射される。本実施の形態における受光素子は、上述のように、エピアップ実装でもエピダウン実装でもよく、図12に示すように、エピダウン実装され、InP基板1の裏面側から光を入射されるタイプでもよい。図12のエピダウン実装の受光素子10の場合、InP基板1の裏面にAR膜35が施される。拡散濃度調整層4、InP窓層5、p側電極11および保護膜を兼ねるSiNの拡散マスク36は、エピアップ実装の場合と同様に設けられる。図12に示すエピダウン実装の場合、InP基板などInPはSWIR帯光に透明なので、SWIR帯光は吸収されることなく、受光層3のpn接合15に到達する。図12の構造においても、受光層は、上述のタイプIIの多重量子井戸構造によって形成される。以後の本発明例においても、とくに断らない限り、同様である。
【0052】
p側電極11と、n側電極12とは、図11に示すようにInP基板1を間に挟んで対向する位置に配置してもよいし、図12に示すようにInP基板1の同じ側の位置に配置してもよい。図12に示す構造の場合、図9に示す受光素子アレイ50の各受光素子10と集積回路とはフリップチップ実装により電気的に接続される。図11および図12の構造の受光素子において、pn接合15に到達した光は吸収され、電流信号を生じ、上述のように、集積回路を通して各々一画素の像に変換される。
【0053】
InP基板1は、(100)から[111]方向または[11−1]方向に5度〜20度傾斜したオフアングル基板とするのがよい。より望ましくは、(100)から[111]方向または[11−1]方向に10度〜15度傾斜させる。このような大きなオフ角基板を用いることにより、欠陥密度が小さく結晶性に優れたn型InPバッファ層2、タイプIIの量子井戸構造の受光層3、InGaAs拡散濃度分布調整層4およびInP窓層5を得ることができる。この結果、暗電流が抑制され、暗点が少ない受光層を得ることができる。このため、微弱なSWIR帯の宇宙光を受光して撮像する装置の性能を大きく向上させる受光層を得ることができる。すなわち上記オフアングル基板を用いて形成された受光素子の有する作用は、宇宙光を受光して撮像する撮像装置の品質向上にとくに有用である。
【0054】
上記のような大きなオフ角は、InP基板について提唱されたことはなく、本発明者らによってはじめて確認されたものであり、InP基板上に良好な結晶性のエピタキシャル膜を成長させる場合の重要な要素である。たとえば、非常に長波長域の発光及び受光が可能であるとする、上記の量子井戸構造の受光層3中に、Nを含む化合物半導体、たとえばGaInNAsが含まれる場合、上記のような大きなオフ角のInP基板を用いない限り、実際には、実用に耐える、良好なエピアキシャル層として形成されることは不可能である。すなわち、上記のような大きなオフ角のInP基板を用いない限り、Nを含む化合物半導体、たとえばGaInNAsは暗電流を抑制し、暗点を減らした受光層になることはない。この結果、微弱なSWIR帯の宇宙光を用いて鮮明な画像を得ることができない。上記例としてあげたGaInNAsだけでなく、GaInNAsPおよびGaInNAsSbにおいてもInP基板のオフ角は、上記のような大きい角度範囲が、良好な結晶性を得るのに必要であるという点で同じである。
【0055】
図11および図12に示す受光素子10では、受光層3を覆うように位置するInGaAs拡散濃度調整層4およびInP窓層5を備える。受光層3の格子定数がInP基板1の格子定数と同じであるため、受光層3の上に、暗電流を小さくすることで定評があるInGaAs拡散濃度調整層4およびInP窓層5を形成することができる。このため、暗電流を抑制し、素子信頼性を向上させることができる。
【0056】
(実施の形態3:気体モニタリング装置(1)−OFケーブル経年劣化のモニタリング装置−)
図13は、本発明の実施の形態3における気体モニタリング装置100を示す図である。この気体モニタリング装置100は、電力等の伝送に用いられるOF(Oil Filled)ケーブルの経年劣化をモニタリングする。図14に示すように、気体モニタリング装置100は、OFケーブルに設けられた油中ガス分離セル40に存在する気体の成分を検知する。また、図15は、気体モニタリング装置100における導波路内の水素センサ45を説明するための図である。図13〜図15により、気体モニタリング装置100の構造について説明する前に、OFケーブルの油中ガス分離セル40内のガス成分を検出することによって、経年劣化をモニタできる理由について説明する。
図16は、油中ガス分離セル40におけるガス成分である、メタンCHとアセチレンCの濃度を示す図である。メタンとアセチレンの濃度を検出することで、おおよその劣化の程度を検知することができる。図16では、メタンとアセチレンの濃度に基づいて、A、B、C、Dの4グループに分けられている。ガス成分分析を行った直後に、OFケーブルを解体して劣化の程度を検査したところ、上記4グループとの間に、次に示すような関係が認められた。
Aグループ:ケーブル部の破壊など
Bグループ:コアの無色化など
Cグループ:接続部コロナ放電痕など
Dグループ:接続紙ややワックス化、正常のものも多い
DグループからAグループへと、経年劣化の程度が大きくなっていることが分かる。より精度よく、経年劣化を判定するためには、メタンCH、アセチレンCの他に、水素H、エテンC、エタンC、一酸化炭素COの検出も必要となる。水素Hを含むこれらのガス成分を検出するために、図13〜図15に示す装置を用いる。
【0057】
上記のガス成分の近赤外域における吸収スペクトルのピーク波長は次のとおりである。
アセチレンC:1.5201μm
一酸化炭素CO:1.5688μm
エテンC:1.6245μm
メタンCH:1.6456μm
エタンC:1.6816μm
水素Hは2原子分子であり、双極子モーメントの変化が生じないので、近赤外域に吸収スペクトルを持たない。このため、水素の検出には、水素と接して水素を吸着することで色が変化する水素センサ45を気体セル40中に露出させ、その中を光伝播路が通過するように配置する。水素吸着に起因する水素センサの着色により光伝播路における近赤外域の光が減衰する。したがい水素濃度の大小により、近赤外域の光透過量は変化するので、この光量変化によって水素を検出することができる。
図13において、光源73は、近赤外域〜可視域の波長を含む光を放出する、ハロゲンランプなどを用いることができる。導光端81aから光ファイバに導光され、光分岐器88aにより、測定光と参照光とに分けられ、測定光は光ファイバ81に導光される。また参照光は光ファイバ7cへと、導光され、光路切換器8にいたる。測定光は、光ファイバ81の出射端から、油中ガス分離セルまたは気体セル40へと出射される。気体セル40には、経年変化によって水素を含む上記のガス成分が混入している。水素以外の近赤外域の上記ピーク波長に対応する吸収を受けた光は、導光端から光ファイバ82を伝播する。光ファイバ82を伝播した、ガス成分の吸収の情報を含む光は、光分岐器88bで分岐され、一方はその情報を含んだまま光路切換器8にいたる。また、他方は、水素によって色彩を変じた水素センサ45中を、伝播して、光ファイバ7bを経て、光路切換器8にいたる。
図15は、水素センサ45を示す図である。LiNbOからなる基板45aと、その基板にTiを熱拡散して形成された光伝播路45bと、その上にWOを真空蒸着させたWO薄膜45cと、その上にPdをスパッタリングさせたPd薄膜45dとを主構成要素とする。光伝播路45bの両端は、光ファイバ7bに接続される(図13参照)。この水素センサ45を、水素が混入する気体セル40におくと、Pd薄膜45dが触媒となってWO薄膜45cが着色する。その結果、光伝播路45bを伝播するエバネッセント波の減衰割合が増加して近赤外域での透過光量が減衰する。この透過光量変化に、水素濃度の情報が含まれる。
【0058】
図13を参照して、光路切換器8には3本の光ファイバ7a,7b,7cが接続されている。たとえば光ファイバ7aの光を通すと、水素以外のガス成分の情報を含んだ光が、出射端82bから出射される。この光はレンズで平行光とされ、回折格子91に照射される。回折格子91は当該光を分光し、受光素子アレイ50に分光された各波長の光を、出射角度に応じて出射する。受光素子アレイ50は、一次元アレイでも二次元アレイでもよいが、アレイ中の各受光素子は、予め、位置にしたがって波長に対応づけられている。この結果、水素を除くガス成分の、ベースノイズを含んだ吸収スペクトルを得ることができる。このようなスペクトルの測定を、光ファイバ7aの通過光だけでなく、光ファイバ7cの参照光と、光ファイバ7bの水素センサ透過光とについて行う。光ファイバ7a,7b,7c間の切り換えは、光路切換器8によって行う。どの光ファイバから測定を行うかの順序は問わないが、たとえば、(1)まず、油中ガス分離セル40に設けられた水素センサ45中を通り、光ファイバ7cを経由した光のスペクトルを求める。この水素センサ45中を通る光の測定は、水素によって着色する前、および着色した後、の両方について行っておく。次に、(2)光ファイバ7cの参照光のスペクトルを得る。(3)油中ガス分離セル40を通り、光ファイバ7aを経由した光のスペクトルを得る。
上記のスペクトルに基づいて、上述の各ガス成分の吸収ピーク波長における強度を求めることで、各ガス成分の濃度を求めることができる。水素については、近赤外域の適切な波長を定めておき、その波長について、水素センサ45の着色の前後の強度変化に基づいて求めることができる。
【0059】
水素濃度については、直接、可視光を用いて水素センサ45の着色による程度を測定してもよい。その場合、近赤外域より短波長側の可視域を含む光は、InP基板による吸収を受ける。受光素子10を一列に並べた構成であれば、図11に示すように、エピタキシャル層トップを光入射面とし(エピアップ実装)、InP基板を実装側とする受光素子10を用いるのがよい。共通のInP基板に設ける一次元アレイについては、一枚の共通InP基板に図11に示す受光素子10の構造を作り込むことは、容易に可能である。しかし、二次元アレイの構造については、各p側電極からの配線を光の障害にならないように設けることが難しい。このため、共通のInP基板上の二次元アレイ50については、図17に示すように、エピタキシャル層トップを実装側とし(エピダウン実装)、バッファ層2または受光層3側を光入射側とした構造とするのがよい。InP基板は、除去するか、または受光層3の厚み程度以下に減厚するのがよい。図17では、InP基板が除去されている。この受光素子アレイ50では、共通のn側電極12はボンディングワイヤ12wによりCMOS71の接地電位用電極パッド12cに接続されている。また、各p側電極11は、保護膜43中に設けられた電極パッド11cに接続される。このような受光素子アレイ50は、共通のInP基板に二次元に配列することができ、これによって、可視域の光を感度よく受光することができ、水素センサ9の着色を、直接、モニタすることができる。図17に示すような、受光素子アレイ50または撮像装置40は、このあと説明する本発明の実施の形態の変形例および実施の形態4においても言及する。
【0060】
従来(特許文献2)は、OFケーブルの経年変化モニタでは、各ガス成分の吸収ピーク波長に合わせたレーザ光源を5台配置して、各ガス成分の濃度を求め、かつレーザ光源に変調をかけ、その変調光を用いて水素濃度を求めていた。図13に示す気体モニタリング装置100では、上記5台のレーザ光源は不要であり、また変調器も不要である。この結果、経済性を大きく改善するとともに、モニタリング装置を大幅に簡単にすることができる。したがって故障にそなえてのメインテナンスの必要性が減り、メインテナンス頻度を減らすことができる。
【0061】
図18および図19は、上記本発明の実施の形態3の変形例を示す図である。この変形例では、近赤外域に吸収帯をもつガス成分と、吸収帯をもたない水素とが共存する場合、水素濃度および他のガス成分の濃度を求める点で、図13等に示す気体モニタリング装置100と同じである。相違点は、水素センサ45に光ファイバを通さず、気体中を伝播する光が、水素センサ45を透過して、水素センサ45を透過した光のスペクトルを測定する点である。すなわち、図17に示すように、水素センサ45は、透明なガラス基板45gと、触媒の薄膜45fとで形成される。触媒には、Pt,Pd,PdWO,PtWOなどを用いることができる。導光端81aから光ファイバ81およびレンズ87を経て気体セル40へと導光された光は、ガス成分が混合する気体と、水素センサ45とを透過する。その後、レンズ87により光ファイバ82に導光される。その後の経路は、図13における光ファイバ7aと同じである。
従来(特許文献1)は、レーザ光源の発振周波数を水素センサ45の吸収帯に合わせ、レーザ光源に変調をかけて変調されて出射される2倍周波数の波長範囲を炭化水素ガスの吸収ピーク波長に合わせていた。これによれば、相互に影響することなく、水素濃度と、他のガス成分の濃度とを得ることができる。従来の装置の場合、変調器、温度調節のペルチエ素子、位相検波器などを必要とする。これに対して、図18および図19の光モニタリング装置では、図13に示す装置構成と同じであり、非常に簡単である。図18および図19に示す装置においても、受光素子10または受光素子アレイ50に、図11の受光素子、もしくはその一次元アレイ、または図17に示す受光素子アレイ50を用いてもよい。むしろ、これら短波長域の吸収減少をはかった受光素子を用いるほうが、水素センサ45の着色変化を知る上で好ましい。
【0062】
(実施の形態4:気体モニタリング装置(2)−燃焼状態モニタリング装置−)
図20は、本発明の実施の形態4における気体モニタリング装置または燃焼状態モニタリング100cを示す図である。この燃焼状態モニタリング装置100cは、
燃焼炉内火炎の燃焼状態を診断する装置であって、火炎光を受光する複数個の光プローブP1、P2等から導光された火炎光のスペクトルを測定し、高精度の診断を行う。公害防止のため、ボイラ等の燃焼装置では、窒素酸化物、煤(すす)および一酸化炭素を発生させないことが望まれている。燃焼状態を形成するには、燃焼炉内で燃料と空気とが適度に混合する火炎を形成する。この適度な混合により、燃焼炉内に極端な高温領域を形成させず、かつ極端な低温領域を形成させないことが必要である。このような燃焼状態を監視する装置の一つに、火炎発光スペクトルを検出し、このスペクトル特性から燃焼状態を診断するものがあり、本実施の形態における燃焼状態モニタリング装置が該当する。
図20に示す燃焼状態モニタリング装置100cでは、ボイラの炉壁に複数のプローブP1,P2,・・Pn(または導光端82a)が取り付けられ、火炎光を光ファイバ82へと導光する。複数の光ファイバ82は、光路切換器8に接続され、当該光路切換器8によって選択された光路の光ファイバのみが、オン状態とされ光が通される。オン状態の光路の光は、光ファイバの出射端82bから、レンズ87へと出射される。レンズ87によって平行光線とされた光は、回折格子91で回折されて、受光素子アレイ50によって波長ごとの受光がされる。受光素子アレイ50は、共通のInP基板に作製された一次元もしくは二次元アレイでも、または個々の受光素子10が配列されたものであってもよい。この受光素子アレイ50については、図21に示すように、すすの発光スペクトルが可視域にかかるので、上記したように、列状に配列された個々の受光素子10であれば、図11に示すように、エピタキシャル層トップを光入射面とし(エピアップ実装)、InP基板を実装側とするのがよい。一次元アレイについては、上述のように、一枚の共通InP基板に、図11に示す受光素子10を一次元に配列させる構造は、容易に作製することができる。一方、共通のInP基板に二次元アレイ50を得るには、図17に示すように、エピタキシャル層トップを実装側とし、バッファ層2または受光層3側を光入射側とするのがよい(エピダウン実装)。InP基板は、除去するか、または減厚するのがよい。これによって、可視域の光を感度よく受光することができ、すすの発光スペクトルを感度よくモニタすることができる。
従来(特許文献3)は、多くの干渉フィルタを回転台に取り付け、かつシリコンフォトダイオードとPbS光導電型素子とを積層した複層素子を受光素子に用いていた。この複層の受光素子は、干渉フィルタと同数、必要であり、やはり回転台に取り付けられていた。図20に示す燃焼状態モニタリング装置100cは、上記の回転台、干渉フィルタ、複層の受光素子を必要とせず、従来の装置に比べて格段に簡単にすることができる。このような格段の簡単化によって、測定精度は向上し、燃焼状態モニタリング装置に対する必要なメインテナンス頻度を減少させ、当該装置の製造コストを減少させる。
【0063】
(実施の形態5:気体モニタリング装置(3)−ごみの燃焼における温度分布測定装置(温度カメラ)−)
図22は、ごみの燃焼炉においてごみの温度分布を得るための温度分布測定装置100dである。また図23は温度分布撮像装置55を示す図である。ごみ燃焼炉では、炭素または炭化水素は塊状であり燃料に適した形態で存在するわけではないので、すすは少なく、また水分が多量に存在する。図24は、ごみ燃焼炉における近赤外スペクトルを示すが、水の発光スペクトル波長λ,λが顕著である。本実施の形態においては、水の発光スペクトルが温度によって変化することを利用して、図25に示す水の吸収スペクトルと合わせて、水の濃度と温度とをモニタリングする。図25中、(K1)および(K2)は、それぞれ10mmおよび1mmのキュベットセルを用いて測定したものである。発光スペクトルの強度は、水の濃度にも比例するので、2つの発光ピーク波長だけでは、精度のよい測定が難しいので、吸収スペクトルも用いる。
温度分布撮像装置55では、干渉フィルタ55aが重要である。干渉フィルタ55aは、上記の水の発光ピーク波長λ,λ、および複数の吸収ピーク波長のそれぞれに透過波長をもつフィルタとする。たとえば吸収ピーク波長は、図25に示すように、近赤外域に2つの鋭いピークM2,M3をもつが、干渉フィルタ55aは、これらの波長の光を通すようにする。したがって、干渉フィルタ55aは、上記の2つの発光ピーク波長と合わせて全部で4種類、または4つの透過波長のフィルタを配置することになる。外部の操作によって自動的に、これら4種類の干渉フィルタを選択する自動選択機構を設けることが望ましい。レンズ等の光学系55cについても自動的にピントを合わせる自動焦点機構を設けるのがよい。たとえば、上記4種類の干渉フィルタに対応して、4つの波長の光について、ごみまたはその少し上方の撮像を行う。これによって4つの波長の像を得ることができる。
予め、水蒸気温度および水蒸気濃度を変えた空気について、上記の波長における光の強度を求め、温度の回帰式を求めておくことができる。この温度回帰式を制御部のマイコン85bに記憶させておく。上記の撮像によって、各位置において、波長ごとの強度を得ることができる。上記の温度回帰式を用いれば、各位置において、温度を求めることができる。このように、水の温度および濃度を両方ともモニタすることで、ごみの燃焼状態を精度よく検知することができる。
従来(特許文献4)は、多くの温度センサをごみ焼却装置内に配置していたが、本実施の形態の装置を、焼却炉の上方部または頂部に配置することで、温度センサの数を削減することができる。
【0064】
(実施の形態6:気体モニタリング装置(4)−プロセスガス中の不純物モニタリング装置−)
図26は、本発明の実施の形態6における気体モニタリング装置である、ガス中の不純物モニタリング装置100eを示す図である。この装置は、非特許文献2に開示された装置そのものである。光源73に発振波長1371μm付近(図25のM2に対応)の半導体レーザを用い、ビームスプリッタ93や鏡94を用いて、2ビームに分け、一方を測定対象のプロセスガスが導入されるサンプルセルを通し、他はキャンセル用ビームとする。光強度測定には、直流ノイズ成分を除去するため、ロックイン検波を行う。
異なる点は、光検出器(受光素子)10a,10bの内容である。非特許文献2ではプリアンプ付きのゲルマニウムフォトダイオードが用いられていたが、本実施の形態では、受光素子10a,10bに、図10または図11に示す受光素子を用いる。このため、暗電流が低く、感度の良い近赤外域での分光測定が可能となる。また、1つの波長だけでなく、図25に示した吸収ピーク波長のどれも選択することができる。したがって、図25のM1,M3に対応する半導体レーザ装置を準備することにより、3つの波長で水分濃度をモニタリングすることができる。これによって、プロセスガス中、最も望ましくない不純物である水分の濃度を、より高精度でモニタすることが可能になる。
【実施例】
【0065】
−半導体受光素子アレイの構造についての実施例−
本発明の受光素子アレイの素子間隔または画素ピッチをどの程度まで小さくできるか、図27に示す受光素子アレイを用いた実施例によって検証した。受光素子間隔または画素ピッチは、図27に示すように、SiN選択拡散マスクパターン36の非開口部の幅である。Znの選択拡散の後に、p側電極11はAuZnにより、またn側電極12はAuGeNiにより、それぞれ形成した。図3の場合、InP基板1にFeドープの半絶縁性基板を用いているので、高濃度不純物のバッファ層2にn側電極12を設けているが、図1に示すようにn型InP基板を用いる場合には、基板裏面にn側電極を設けてもよいし、または基板表面側に基板と隣接するn型半導体層(たとえばバッファ層2)にn側電極を設けてもよい。本実施例では、図3の受光素子アレイのp側電極11とn側電極12との間に5Vの逆バイアス電圧を印加して、暗電流を測定した。InP窓層5の厚みは0.6μmと1.6μmの2種類について、また素子間隔は3μm〜20μmの範囲にわたって7種類の素子間隔について、それぞれ受光素子アレイを製造して、暗電流を測定した。拡散濃度分布調整層4の厚みは1μmとした。
【0066】
結果を図28に示す。図28によれば、InP窓層5の厚みが0.6μmと薄い場合、素子間隔または画素ピッチを5μmまで小さくしても、暗電流は1×10−10A(アンペア)とすることができる。InP窓層5の厚みが1.6μmの場合には、上述したように、横方向へのZnの拡散が広がり、素子間隔7μmを超えないと、1×10−10Aとすることができない。しかし、本実施例によって、InP窓層5の厚みを0.6μmと薄くし、かつ拡散濃度分布調整層を配置することによって、素子間隔5μmとすることができることを確認した。
【0067】
拡散濃度分布調整層4の作用については、Znの深さ方向濃度分布をSIMS(Secondary Ion Mass Spectroscopy)分析によって検証した。図29に、Znの深さ方向濃度分布を示す。図29によれば、InGaAs拡散濃度分布調整層4と受光層3との界面において、Znのパイルアップのピーク値は5×1016cm-3以下に抑制されている。このため、受光層3のn型キャリア濃度のバックグラウンドと、Zn濃度との交差位置(図中○印)に形成されるpn接合において、Zn濃度は確実に低くすることができ、結晶性等の劣化を防止することができる。そして、この拡散濃度分布調整層4の配置によって、受光層の多重量子井戸構造にその本来の作用を奏させることが可能になる。
【0068】
上記において、本発明の実施の形態および実施例について説明を行ったが、上記に開示された本発明の実施の形態および実施例は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれら発明の実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、InP系PDの画期的な性能向上によって、既存の食品品質検査装置に対して、高精度な検査を行うことができ、食品の信頼性に資することができる。また、たとえばブランド食材の特定を行うことが可能になる等の変革をもたらす可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の実施の形態1における受光素子を示す断面図である。
【図2】図1の受光素子におけるZn濃度分布を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態1における受光素子アレイを示す断面図である。
【図4】本発明と異なる参考例1の受光素子の断面図である。
【図5】図4の受光素子におけるZn濃度分布を示す図である。
【図6】本発明と異なる参考例2の受光素子の断面図である。
【図7】図6の受光素子におけるZn濃度分布を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態2における撮像装置の概要を示す図である。
【図9】図8の撮像装置の受光素子アレイを示す図である。
【図10】図9の受光素子アレイにおける一つの受光素子を示す図である。
【図11】エピアップ実装の受光素子の断面図である。
【図12】エピダウン(フリップチップ)実装の受光素子の断面図である。
【図13】本発明の実施の形態3における気体モニタリング装置(1)を示す図である。
【図14】図13の気体モニタリング装置(1)をOFケーブルの油中ガス分離セルに取り付けた状態を示す図である。
【図15】水素センサとその中を通る光ファイバとを示す図である。
【図16】OFケーブルの経年劣化レベルとガス成分との関係の一例を示す図である。
【図17】近赤外域に加えて可視域での感度が必要な場合に好適な、本発明の受光素子の一例を示す図である。
【図18】図13の気体モニタリング装置(1)の変形例を示す図である。
【図19】図19に用いられる水素センサを示す図である。
【図20】本発明の実施の形態4における気体モニタリング装置(2)の燃焼状態モニタリング装置を示す図である。
【図21】火炎光のスペクトル例を示す図である。
【図22】本発明の実施の形態5における気体モニタリング装置(3)の温度分布測定装置を示す図である。
【図23】図22の気体モニタリング装置(3)における撮像装置を示す図である。
【図24】図22の気体モニタリング装置(3)の原理を説明するための、水の発光スペクトルを示す図である。
【図25】図22の気体モニタリング装置(3)の原理を説明するための、水の吸収スペクトルを示す図である。
【図26】本発明の実施の形態6における気体モニタリング装置(4)の不純物モニタリング装置を示す図である。
【図27】実施例に用いた受光素子アレイの部分断面図である。
【図28】実施例において測定した暗電流と素子間隔との関係を示す図である。
【図29】実施例におけるZnの深さ方向濃度分布を示す図である。
【符号の説明】
【0071】
1 InP基板、2 バッファ層、3 多重量子井戸構造の受光層、4 拡散濃度分布調整層、5 InP窓層、5a 窓層の表面、6 p型領域、7a,7b,7c 光ファイバ、10,10a,10b 受光素子、11 p側電極、12 n側電極、12b はんだバンプ、12c 電極パッド、12w ボンディングワイヤ、15 pn接合、35 反射防止膜、36 選択拡散マスクパターン、27 配線電極、40 ガスセル(油中ガス分離セル)、41 気体、43 保護膜、45 水素センサ、45a 基板、45b 光伝播路(光ファイバ)、45c WO薄膜、45d Pd薄膜、45f 触媒薄膜、45g 基板、50 受光素子アレイ、51 InP基板、55 撮像装置、55a フィルタ部、55c 光学系、70 撮像装置、71 マルチプレクサ(実装基板)、73 光源、81 光ファイバ、81a 導光端、81b 出射端、82 光ファイバ、83 プローブ、85 制御部、85b マイコン(演算部、CPU)、85c 表示部(出力装置)、87 レンズ、91 分光器(回折格子)、93 ビームスプリッタ、94 鏡、100 気体モニタリング装置、100c 燃焼状態モニタリング装置、100d 温度分布測定装置、100e 不純物モニタリング装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長域3μm以下の近赤外域の光を利用して、気体をモニタリングするための装置であって、
前記近赤外域の光を受光する受光素子を備え、
前記受光素子がInP基板上に形成された多重量子井戸構造の受光層を有し、
前記受光層のバンドギャップ波長が1.8μm以上3μm以下であり、
前記受光層の前記InP基板と反対側に拡散濃度分布調整層を備え、
前記拡散濃度分布調整層のバンドギャップがInPよりも小さく、
前記受光素子では、前記拡散濃度分布調整層を通して前記受光層へと届く不純物元素の選択拡散によって、pn接合が形成され、
前記受光層における前記不純物元素の濃度が5×1016/cm以下であり、
波長3μm以下の少なくとも1つの波長の、前記気体からの光を前記受光素子により受光して、該気体中のガス成分等を検出することを特徴とする、気体モニタリング装置。
【請求項2】
前記拡散濃度分布調整層内において、前記不純物元素の濃度が、前記受光層と反対側における1×1018/cm〜9.9×1018/cmから前記受光層側における5×1016/cm以下に低下することを特徴とする、請求項1に記載の気体モニタリング装置。
【請求項3】
前記受光層がタイプIIの量子井戸構造であることを特徴とする、請求項1または2に記載の気体モニタリング装置。
【請求項4】
前記受光層が(InGaAs/GaAsSb)の多重量子井戸構造、または(GaInNAs(P,Sb)/GaAsSb)の多重量子井戸構造であることを特徴とする、請求項3に記載の気体モニタリング装置。
【請求項5】
前記InP基板は、(100)から[111]方向または[11−1]方向に、5°〜20°傾斜したオフアングル基板であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の気体モニタリング装置。
【請求項6】
前記不純物元素が亜鉛(Zn)であり、前記拡散濃度分布調整層がInGaAsから形成されていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の気体モニタリング装置。
【請求項7】
前記拡散濃度分布調整層の上にInP窓層を備えることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の気体モニタリング装置。
【請求項8】
前記InP基板、前記受光層、および前記拡散濃度分布調整層の任意の相互間において、格子整合度(|Δa/a|:ただし、aは格子定数、Δaは相互間の格子定数差)が0.002以下であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の気体モニタリング装置。
【請求項9】
前記受光素子が、一次元または二次元にアレイ化していることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の気体モニタリング装置。
【請求項10】
前記受光素子の二次元アレイを含む撮像装置を備え、該撮像装置により前記気体中の所定範囲におけるガス成分の濃度分布および温度分布の像を形成することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の気体モニタリング装置。
【請求項11】
前記受光素子は、前記受光層に対して、前記InP基板と反対側のエピタキシャル層トップ側を光入射面とするか、または前記InP基板側が光入射面であって、当該InP基板が除去されているか若しくは前記受光層と同等以下の厚みとされていることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の気体モニタリング装置。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の気体モニタリング装置を備え、燃料、ごみ等の物質の燃焼状態をモニタリングすることを特徴とする、燃焼状態モニタリング装置。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の気体モニタリング装置を備え、装置の経年変化に伴って発生するガス成分をモニタリングすることを特徴とする、経年変化モニタリング装置。
【請求項14】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の気体モニタリング装置を備え、外から導入する気体中の不純物のガス成分濃度をモニタリングすることを特徴とする、不純物濃度モニタリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【公開番号】特開2010−151690(P2010−151690A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−331531(P2008−331531)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】