説明

気相成長装置、気相成長方法、および半導体素子の製造方法

【課題】気相成長中のシャワープレートの平坦面への反応生成物の付着量を減少させる気相成長装置を提供する。
【解決手段】反応炉内に導入された材料ガスを用いて基板に成膜処理を施す気相成長装置は、シャワーヘッドおよびシャワープレート20を反応炉内に備える。シャワープレート20は、反応炉内において基板に対向する平坦面21と、平坦面21から貫通形成された複数のプレート孔22とを含む。平坦面21上における複数のプレート孔22同士の間には、複数の凹部23が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相成長装置、気相成長方法、および半導体素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LED(Light Emitting Diode)、半導体レーザ、または太陽電池等の製造方法として、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法が知られる。MOCVD装置は、MOCVD法(有機金属化学気相蒸着法)を使用する。MOCVD装置等の気相成長装置を使用する生産現場においては、被成膜基板(以下、基板ともいう)に対する成膜品質が重視される。成膜品質は、製品の歩留まりに関係する。気相成長装置の稼働率を高めつつ、効率的に安定した歩留まりを長期間維持することが重視されている。
【0003】
MOCVD装置は、横型MOCVD装置および縦型MOCVD装置に大別される。横型MOCVD装置においては、基板に対して水平方向に材料ガスが導入される。縦型MOCVD装置においては、基板に対して垂直方向に材料ガスが導入される。縦型MOCVDには、シャワー導入型の縦型MOCVD装置が含まれる。
【0004】
(気相成長装置200)
図14〜図16を参照して、一般的なシャワー導入型の縦型MOCVD装置である気相成長装置200について説明する。図14は、シャワープレート220を備えた気相成長装置200を模式的に示す断面図である。図15は、シャワープレート220を示す底面図である。図16は、シャワープレート220の一部を拡大して示す断面図である。
【0005】
図14を参照して、気相成長装置200においては、反応炉201の外部で、トレイ240の上に複数の基板230が載置される。基板230を載置したトレイ240は、トレイ搬送手段(図示せず)によって成長室202内に搬送された後、サセプタ242上に載置される。ヒータ244は、サセプタ242およびトレイ240を通して基板230を加熱する。サセプタ242に取り付けられた回転軸246は、回転手段248から動力を受けて矢印AR246方向に回転する。トレイ240が同方向に回転することによって、基板230はトレイ240上において回転軸246周りに回転する。
【0006】
基板230がトレイ240上において回転軸246周りに回転している状態で、成長室202には材料ガス(図示せず)が導入される。材料ガスは、2種類のガスとして、材料ガス源254Aから流量制御手段252Aおよびガス導入ライン250Aを順次通過した一のガスと、材料ガス源254Bから流量制御手段252Bおよびガス導入ライン250Bを順次通過した(一のガスとは異なる)他のガスとを含む。
【0007】
材料ガスは、シャワーヘッド210に設けられた複数のガス吐出口(図示せず)を通過する。シャワーヘッド210の下方には、シャワーヘッド210に対向するようにシャワープレート220が配置される。シャワープレート220には、基板230に対向する平坦面221が形成されている。
【0008】
図15および図16を参照して、材料ガスは、シャワーヘッド210(図14参照)における複数のガス吐出口(図示せず)を通過した後、シャワープレート220に設けられた複数のプレート孔222を通過する(図16中の矢印AR256参照)。材料ガスは、各プレート孔222の平坦面221上における開口端222Mから基板230(図14参照)に向かって吹き出される。
【0009】
図14を再び参照して、基板230がトレイ240上において回転軸246周りに回転している状態で、材料ガスはシャワープレート220の中央側から半径方向外側に向かって流れる。材料ガスが流れる過程で、ヒータ244に加熱された基板230上で気相化学反応が促進される。当該気相化学反応によって、基板230上に薄膜(図示せず)が形成される。
【0010】
シャワー導入型の縦型MOCVD装置である気相成長装置200においては、材料ガスが面内に均一に導入される。基板230上を流れる材料ガスの流速分布のバラツキが低減され、基板230上に高い品質を有する薄膜が形成される。成膜処理後の材料ガスは、真空ポンプ262の吸引によって成長室202からガス排気ライン260へと排出され、排ガス処理装置264において無害化される。
【0011】
図17を参照して、ここで、気相成長装置200(図14参照)においては、気相成長時に材料ガスから反応生成物270が生成される。反応生成物270は、シャワープレート220の平坦面221(図15も参照)上に付着しやすい。シャワープレート220は、本来的には、シャワーヘッド210(図14参照)の面内およびガス吐出口の周辺部に反応生成物270が付着すること防止するために設けられる。反応生成物270のシャワープレート220への付着量は少ない方が好ましい。
【0012】
特開2000−235954号公報(特許文献1)は、プラズマを用いて半導体基板を処理する半導体処理装置において、ガス吹き出し板への反応生成物の付着および堆積を防止する発明を開示している。同公報が開示する発明においては、ガス吹き出し板に設けられたガス孔の直径が、流入側から噴出側に向かって次第に拡大している。同公報は、ガス孔の内側をプラズマにさらされやすくすることによって、ガス孔の内側に付着した反応生成物がプラズマによって除去され、結果的にガス孔への反応生成物の付着量を少なくすることができると述べている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2000−235954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特開2000−235954号公報(特許文献1)が開示する半導体処理装置においては、プラズマの発生によるエッチングを利用して反応生成物が除去される。同公報が開示する発明を実施するためには、基板に対する処理方式および処理目的に関わらず、反応生成物の近傍にプラズマを発生させる手段が必須となっている。同公報が開示する発明は、処理工程にプラズマの発生を伴う場合には適用可能であるが、プラズマの発生を意図していない装置および処理方法に適用されることは有効ではない。
【0015】
また、プラズマの発生量(強度分布)を広範囲にわたって均一に制御することは困難である。プラズマの発生量によって反応生成物の除去量にばらつきが生じた結果、反応生成物は局所的に残留および堆積する。プラズマ処理を繰り返すことによって、反応生成物はツララ状に成長する。反応生成物は、材料ガスの流れを乱したり、材料ガスの風圧によって剥がれ落ちたりする。反応生成物が基板上に落下すると成膜品質が低下する。メンテナンスを頻繁に実施することでこれらの不具合は解消されるが、生産性が低下するだけでなく、人件費等の増大も招く。
【0016】
本発明は、上記のような実情に鑑みて為されたものであって、気相成長中のシャワープレートの平坦面への反応生成物の付着量を減少させることが可能な気相成長装置、その気相成長装置を使用する気相成長方法、およびその気相成長装置を使用する半導体素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に基づく気相成長装置は、反応炉内に導入された材料ガスを用いて被成膜基板に成膜処理を施す気相成長装置であって、上記反応炉内に設けられ、複数のガス吐出口を含むシャワーヘッドと、上記反応炉内において上記被成膜基板に対向する平坦面、および複数の上記ガス吐出口のそれぞれに対応するように上記平坦面から貫通形成された複数のプレート孔を含むシャワープレートと、を備え、上記平坦面上における複数の上記プレート孔同士の間には、上記平坦面上に開口端を有する複数の凹部が形成されている。
【0018】
好ましくは、本発明に基づく上記の気相成長装置においては、複数の上記凹部の上記開口端の形状は、円形、楕円形、方形、または多角形である。
【0019】
好ましくは、複数の上記凹部の上記平坦面からの最大深さDと、複数の凹部の上記平坦面上における上記開口端の最大開口幅Wとの間には、D/W>1の関係が成立している。
【0020】
好ましくは、本発明に基づく上記の気相成長装置においては、複数の上記凹部の底面側の形状は、球面状に形成されている。
【0021】
好ましくは、本発明に基づく上記の気相成長装置においては、複数の上記凹部の上記開口端は、上記平坦面上において相互に接している。
【0022】
好ましくは、本発明に基づく上記の気相成長装置においては、複数の上記凹部の上記開口端の形状は、球面状に形成されている。
【0023】
好ましくは、本発明に基づく上記の気相成長装置においては、上記平坦面上における複数の上記プレート孔の開口端の形状は、球面状に形成されている。
【0024】
好ましくは、本発明に基づく上記の気相成長装置においては、上記凹部の内表面および/または上記平坦面は、鏡面状に形成されている。
【0025】
本発明に基づく気相成長方法は、本発明に基づく上記の気相成長装置を用いて、上記被成膜基板に成膜処理を施す工程を含む。
【0026】
本発明に基づく半導体素子の製造方法は、本発明に基づく上記の気相成長装置を用いて、上記被成膜基板に成膜処理を施す工程を含む。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、気相成長中のシャワープレートの平坦面への反応生成物の付着量を減少させることが可能な気相成長装置、その気相成長装置を使用する気相成長方法、およびその気相成長装置を使用する半導体素子の製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施の形態における気相成長装置を模式的に示す断面図である。
【図2】実施の形態における気相成長装置のシャワーヘッドおよびシャワープレート等を部分的に示す断面図である。
【図3】実施の形態における気相成長装置のシャワープレートを示す底面図である。
【図4】実施の形態における気相成長装置のシャワープレートの一部を拡大して示す断面図である。
【図5】実施の形態における気相成長装置のシャワープレートの底面(平坦面)の一部を拡大して示す斜視図である。
【図6】実施の形態における気相成長装置、気相成長方法、または半導体素子の形成方法によって形成される半導体素子を示す断面図である。
【図7】実施の形態における気相成長装置の、気相成長時におけるシャワープレートの一部を拡大して示す断面図である。
【図8】実施の形態の第1変形例における気相成長装置のシャワープレートの一部を拡大して示す断面図である。
【図9】実施の形態の第1変形例における気相成長装置のシャワープレートの一部を拡大して示す斜視図である。
【図10】実施の形態の第1変形例における気相成長装置の他の例に係るシャワープレートの一部を拡大して示す斜視図である。
【図11】実施の形態の第1変形例における気相成長装置のさらに他の例に係るシャワープレートの一部を拡大して示す斜視図である。
【図12】実施の形態の第2変形例における気相成長装置のシャワープレートの一部を拡大して示す断面図である。
【図13】実施の形態の第2変形例における気相成長装置のシャワープレートの一部の底面(平坦面)の一部を拡大して示す斜視図である。
【図14】一般的な気相成長装置を模式的に示す断面図である。
【図15】一般的な気相成長装置のシャワープレートを示す底面図である。
【図16】一般的な気相成長装置のシャワープレートの一部を拡大して示す断面図である。
【図17】一般的な気相成長装置の、気相成長時におけるシャワープレートの一部を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明に基づいた各実施の形態について、以下、図面を参照しながら説明する。各実施の形態の説明において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。各実施の形態の説明において、同一の部品、相当部品に対しては、同一の参照番号を付し、重複する説明は繰り返さない場合がある。
【0030】
(気相成長装置100の構成)
図1を参照して、実施の形態における気相成長装置100の構成について説明する。図1は、シャワープレート20を備えた気相成長装置100を模式的に示す断面図である。
【0031】
気相成長装置100は、シャワー導入型の縦型MOCVD装置である。気相成長装置100は、反応炉1、成長室2、シャワーヘッド10、シャワープレート20、複数の基板30を載置するトレイ40、サセプタ42、ヒータ44、回転軸46、回転手段48、ガス導入ライン50A,50B、流量制御手段52A,52B、材料ガス源54A,54B、ガス排気ライン60、真空ポンプ62、および排ガス処理装置64を備えている。
【0032】
反応炉1内に、成長室2が形成される。ガス導入ライン50A,50Bは、成長室2にそれぞれ接続される。成長室2は、ガス導入ライン50Aおよび流量制御手段52Aを通して材料ガス源54Aに連通している。成長室2は、ガス導入ライン50Bおよび流量制御手段52Bを通して材料ガス源54Bに連通している。
【0033】
シャワーヘッド10は、成長室2の最上部に設置される。シャワーヘッド10の下方には、シャワーヘッド10に対向するようにシャワープレート20が配置される。シャワープレート20には、基板30(被成膜基板)に対向する平坦面21が形成されている。シャワーヘッド10およびシャワープレート20の詳細については、図2〜図5を参照して後述する。
【0034】
成長室2の下部中央に、回転軸46が設けられる。回転軸46は、アクチュエータを含む回転手段48上に立設される。回転軸46の上端には、サセプタ42が水平に支持されている。
【0035】
サセプタ42上に、トレイ40が載置される。反応炉1の外部で、トレイ40の上に複数の基板30が載置される。基板30を載置したトレイ40は、トレイ搬送手段(図示せず)によって成長室2内に搬送された後、サセプタ42上に載置される。サセプタ42に取り付けられた回転軸46は、回転手段48からの動力を受けて矢印AR46方向に回転する。基板30は、トレイ40上において回転軸46周りに回転する。ヒータ44は、サセプタ42およびトレイ40を通して基板30を加熱する。
【0036】
基板30がトレイ40上において回転軸46周りに回転している状態で、成長室2には材料ガス(図示せず)が導入される。材料ガスは、2種類のガスとして、材料ガス源54Aから流量制御手段52Aおよびガス導入ライン50Aを順次通過した一のガスと、材料ガス源54Bから流量制御手段52Bおよびガス導入ライン50Bを順次通過した(一のガスとは異なる)他のガスとを含む。材料ガス源54Aからの当該一のガスの流量は、流量制御手段52Aによって調節される。流量制御手段52Bからの当該他のガスの流量は、流量制御手段52Bによって調節される。
【0037】
(シャワーヘッド10・シャワープレート20)
図2〜図5を参照して、実施の形態におけるシャワーヘッド10およびシャワープレート20の詳細について説明する。図2は、気相成長装置100におけるシャワーヘッド10およびシャワープレート20等を部分的に示す断面図である。図3は、シャワープレート20を示す底面図である。図4は、シャワープレート20の一部を拡大して示す断面図である。図5は、シャワープレート20の底面(平坦面21)の一部を拡大して示す斜視図である。
【0038】
図2を参照して、上述のとおり、シャワーヘッド10は、成長室2(図1参照)の最上部に設置される。シャワーヘッド10の下方には、シャワーヘッド10に対向するようにシャワープレート20が配置される。シャワープレート20には、基板30に対向する平坦面21が形成される。
【0039】
シャワーヘッド10においては、ガス導入ライン50Aに連通するガス導入管11と、ガス導入ライン50Bに連通するガス導入管13と、冷却水導入ライン80(図1において図示せず)に連通する冷却水導入管15とが、順に上方から下方に向かって層状に並んで配設される。ガス導入管11、ガス導入管13、および冷却水導入管15は、シャワーヘッド10を面方向(紙面左右方向)に貫通している。
【0040】
ガス導入管11には、下方に向かって複数の分岐管12が突設される。ガス導入管13には、下方に向かって複数の分岐管14が突設される。分岐管12および分岐管14は同軸上に位置し、分岐管14は分岐管12の外側に配置される。分岐管12および分岐管14は、いわゆる2重配管構造を呈している。分岐管12および分岐管14の開口端同士は、シャワーヘッド10におけるガス吐出口16の近傍で合流している。
【0041】
シャワープレート20には、上述のとおり複数のプレート孔22が設けられる。各プレート孔22は、直管状を呈している。各プレート孔22の上方側の開口端22Nは、シャワーヘッド10における各ガス吐出口16に対向している。各プレート孔22の下方側の開口端22Mは、シャワープレート20の平坦面21上に位置している。各プレート孔22同士の間隔は、シャワーヘッド10における各ガス吐出口16同士の間隔と同一である。各プレート孔22および各ガス吐出口16は、それぞれが一対一で対応している。
【0042】
図3〜図5を参照して、平坦面21上における複数の各プレート孔22同士の間には、複数の凹部23が形成されている。各凹部23は、平坦面21上に開口端23Mを有している。図4に示すように、本実施の形態における各凹部23は、平坦面21からたとえば円柱状に凹むように切削加工等によって形成される。
【0043】
また、各凹部23の内表面は、電界研磨加工等によって鏡面状に形成されているとよい。平坦面21も、電界研磨加工等によって鏡面状に形成されているとよい。
【0044】
各凹部23の平坦面21からの最大深さDと、各凹部23の平坦面21上における開口端23Mの最大開口幅Wとの間には、D/W>1の関係が成立しているとよい。たとえば、各凹部23が平坦面21から円柱状に凹むように形成される場合、各凹部23における最大開口幅W(開口端23Mの直径)と最大深さDとの間には、D/W(アスペクト比)>1の関係が成立しているとよい。
【0045】
各凹部23の平坦面21上における開口端23Mの形状としては、上記の場合に限られず、円形、楕円形、方形、および多角形のいずれであってもよい。各凹部23同士の間隔は、可能な限り小さく設計されるとよい。気相成長装置100は、以上のように構成される。
【0046】
(気相成長装置100を使用した気相成長方法)
図1を再び参照して、本実施の形態における半導体素子の製造方法として、上記のように構成される気相成長装置100を使用した気相成長方法について説明する。
【0047】
シャワーヘッド10に接続されたガス導入ライン50Aから、一のガス(実線で示される矢印AR50A参照)が、ガス導入管11内に導入される。当該一のガスは、たとえば、アンモニアガス、ホスフィンガス、またはアルシンガス等の水素化合物ガスからなるV族ガスである。当該一のガスは、ガス導入管11内において面方向に広がる。当該一のガスは、ガス導入管11から下方に向かって複数突設された分岐管12の内部を、シャワープレート20に向かって流れる。
【0048】
一方、シャワーヘッド10に接続されたガス導入ライン50Bから、他のガス(点線で示される矢印AR50B参照)が、ガス導入管13内に導入される。当該他のガスは、たとえば、トリメチルガリウムまたはトリメチルアルミニウム等の有機金属ガスからなるIII族ガスである。当該他のガスは、ガス導入管13内において面方向に広がる。当該他のガスは、ガス導入管13から下方に向かって複数突設された分岐管14の内部を、シャワープレート20に向かって流れる。
【0049】
上記の一のガス(V族ガス)および他のガス(III族ガス)は、ガス吐出口16の近傍で混合され、材料ガスとしてガス吐出口16から排出される。本実施の形態においては、冷却水導入ライン80から所定の冷媒(たとえば冷水)が冷却水導入管15に導入される(一点鎖線で示される矢印AR80参照)。冷媒は、冷却水導入管15内において面方向に広がる。ガス吐出口16の近傍(冷却水導入管15)を流れる上記の材料ガスは、所定の温度に冷却された状態で、ガス吐出口16から排出される。
【0050】
上記の材料ガスは、シャワーヘッド10における各ガス吐出口16から排出された後、シャワープレート20における各開口端22Nから各プレート孔22の内部に入り込む。図1,図2および図4に示すように、材料ガスは、各プレート孔22を通過した後(白抜きで示される矢印AR56参照)、各プレート孔22の平坦面21上における各開口端22Mから吹き出される。
【0051】
基板30がトレイ40上において回転軸46(図1参照)周りに回転している状態で、材料ガスは基板30に対してシャワー状に吹き付けられる。材料ガスは、基板30の上方を、シャワープレート20の中央側から半径方向外側に向かって流れる。材料ガスが流れる過程で、ヒータ44(図1参照)に加熱された基板30上で材料ガスが分解され、気相化学反応が促進される。
【0052】
図6を参照して、当該気相化学反応によって基板30上に薄膜32が形成される。上記の動作を繰り返すことによって、基板30上に所定の構造を有する半導体素子34が形成される。図1を再び参照して、成膜処理後の材料ガスは、真空ポンプ62の吸引によって成長室2からガス排気ライン60へと排出され、排ガス処理装置64において無害化される。
【0053】
(作用・効果)
図7を参照して、上述のとおり、気相化学反応時における材料ガスは、シャワープレート20の中央側から半径方向外側に向かって平坦面21に沿うように流れる(たとえば矢印AR58参照)。平坦面21上の各プレート孔22同士の間の部分(開口端22M同士の間の部分)は、材料ガスの流れの澱みが発生しやすく反応生成物70が付着する。
【0054】
本実施の形態における気相成長装置100においては、シャワープレート20の平坦面21に複数の凹部23が形成されている。平坦面21と平坦面21に沿って流れる材料ガスとの接触面積が減少している。
【0055】
本実施の形態における気相成長装置100においては、冒頭に説明した気相成長装置200(図14〜図17)に比べて、平坦面21と平坦面21に沿って流れる材料ガスとの接触面積が少ない。冒頭に説明した特許文献1(特開2000−235954号公報)に開示の発明とは異なり、プラズマを発生させる手段を用いることなく、気相成長装置100においては平坦面21に付着する反応生成物70の量が減少している。
【0056】
特に、各凹部23における最大開口幅Wと最大深さDとの間に、D/W>1が成立しているとする(図4参照)。この場合、凹部23の開口端23Mの近傍においては、各凹部23の深さ方向に対する材料ガスのコンダクタンスが小さくなる。つまり、材料ガスが各凹部23に入り込もうとする際の抵抗が大きくなる(材料ガスは各凹部23に入り込み難くなる)。
【0057】
ここで、たとえば孔や配管の中を流体が流れようとした場合に、孔や配管の内壁面付近には流体に対する大きな抵抗が発生する。内壁面からの離れるほど当該抵抗は小さくなる。配管の中央部付近の方が内壁面側よりも抵抗が小さくなり、また、抵抗は流体の流れる方向の距離に比例して増加する。このため、凹部23については、凹部23の幅(開口端23Mの最大開口幅W)が大きくなると内部に入り込もうとする流体の抵抗は小さくなり、凹部23の長さ(凹部23の最大深さD)が大きくなると、内部に入り込もうとする流体の抵抗は大きくなる。
【0058】
各凹部23における最大開口幅Wと最大深さDとの間に、D/W>1が成立している場合には、特に、開口端23Mの近傍では、材料ガスが凹部23に侵入することはほとんどなくなる。シャワープレート20の平坦面21への反応生成物70の付着は、大幅に抑制される。
【0059】
また、各凹部23の内表面が鏡面状に形成されている場合、および平坦面21が鏡面状に形成されている場合も、各凹部23と付着物の粒子(材料ガス)との摩擦抵抗および平坦面21と付着物の粒子(材料ガス)との摩擦抵抗が小さくなることによって、シャワープレート20の平坦面21への反応生成物70の付着は大幅に抑制される。
【0060】
本実施の形態における気相成長装置100においては、反応生成物70は、平坦面21への付着量が極めて少ないため、材料ガスの流れを乱したり、材料ガスの風圧によって剥がれ落ちたりすることもほとんどない。反応生成物70が基板30(図1参照)に落下して成膜品質等が低下することもない。
【0061】
気相成長装置100によれば、基板30に対して材料ガスが安定して供給されることによって、基板30上に形成される薄膜(図6における薄膜32)の面内分布が均一となり、高品質な成膜処理を実現することが可能となる。気相成長装置100によれば、シャワープレートの洗浄サイクルを延ばし、稼働率を高めながら、効率的に安定した歩留まりを長期間維持しつづけることが可能となる。
【0062】
[実施の形態の第1変形例]
図8および図9を参照して、上述の実施の形態に係る気相成長装置の第1変形例について説明する。ここでは、上述の実施の形態との相違点について説明する。
【0063】
図8および図9に示すように、本変形例に係るシャワープレート20Aにおいては、平坦面21上における複数の各プレート孔22同士の間に、複数の凹部23Aが形成される。各凹部23Aは、平坦面21から半球状(ディンプル状)に凹むように形成される。各凹部23Aは、たとえば、平坦面21に対するエンボス加工または板金加工等によって形成されることができる。
【0064】
また、各凹部23Aの内表面は、電界研磨加工などによって鏡面状に形成されているとよい。本実施の形態における各凹部23Aは、一つ一つが全体として半球状を呈している。各凹部23Aの一つ一つの底面側の形状のみが部分的に球面状に形成され、他の開口端23M側の部分はたとえば円柱状に形成されていてもよい。
【0065】
本実施の形態における凹部23Aのように、その直径が開口端23Mから上方に向かうにつれて徐々に小さくなるように形成される場合、各凹部23Aの開口端23M同士は相互に接しているとよい。
【0066】
ここでいう開口端23M同士が相互に接しているとは、開口端23M同士が点で接触している場合、および開口端23M同士が線で接触している場合を含む。開口端23M同士が点で接触している場合とは、図10におけるシャワープレート20A1に示すように、隣り合う開口端23M同士が所定の1点で外接している状態である。開口端23M同士が線で接触している場合とは、図11におけるシャワープレート20A2に示すように、隣り合う開口端23M同士が所定の長さに形成される線状の外縁を共有している状態である。当該構成によれば、各凹部23A同士の間隔が小さくなり、平坦面21の面積をより一層減少させることが可能となる。
【0067】
本変形例に係る気相成長装置も、冒頭に説明した気相成長装置200(図14〜図17)に比べて、平坦面21と平坦面21に沿って流れる材料ガスとの接触面積が小さい。シャワープレート20A(およびシャワープレート20A1,20A2)の平坦面21への反応生成物70(図7参照)の付着が大幅に抑制され、上述の実施の形態と同様の作用および効果を得ることができる。
【0068】
[実施の形態の第2変形例]
図12および図13を参照して、上述の実施の形態に係る気相成長装置の第2変形例について説明する。ここでは、上述の実施の形態との相違点について説明する。
【0069】
図12および図13に示すように、本変形例に係るシャワープレート20Bにおいては、平坦面21上における複数の各プレート孔22同士の間に、複数の凹部23Bが形成される。各凹部23Bの平坦面21上における開口端23Mには、切削加工等によって球面状(R面取り状)の球面部23Rが形成されている。各凹部23Bおよび各球面部23Rは、上述の実施の形態と同様に鏡面状に形成されるとよい。
【0070】
複数の各プレート孔22の平坦面21上における開口端22Mに、エンボス加工または板金加工等によって球面状(R面取り状)の球面部22Rが形成されていてもよい。平坦面21および各球面部22Rは、上述の実施の形態および第1変形例と同様に鏡面状に形成されるとよい。
【0071】
本変形例に係る気相成長装置も、冒頭に説明した気相成長装置200(図14〜図17)に比べて、平坦面21と平坦面21に沿って流れる材料ガスとの接触面積が少ない。シャワープレート20Bの平坦面21への反応生成物70(図7参照)の付着が大幅に抑制され、上述の実施の形態と同様の作用および効果を得ることができる。
【0072】
以上、本発明に基づいた実施の形態および各実施例について説明したが、今回開示された実施の形態および各実施例はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0073】
1,201 反応炉、2,202 成長室、10,210 シャワーヘッド、11,13 ガス導入管、12,14 分岐管、15 冷却水導入管、16 ガス吐出口、70,270 反応生成物、20,20A,20A1,20A2,20B,220 シャワープレート、21,221 平坦面、22,222 プレート孔、22M,22N,23M,222M 開口端、22R,23R 球面部、23,23A,23B 凹部、30,230 基板、32 薄膜、34 半導体素子、40,240 トレイ、42,242 サセプタ、44,244 ヒータ、46,246 回転軸、48,248 回転手段、50A,50B,250A,250B ガス導入ライン、52A,52B,252A,252B 流量制御手段、54A,54B,254A,254B 材料ガス源、60,260 ガス排気ライン、62,262 真空ポンプ、64,264 排ガス処理装置、80 冷却水導入ライン、100,200 気相成長装置、AR46,AR50A,AR50B,AR56,AR58,AR80,AR246,AR256 矢印、D 最大深さ、W 最大開口幅。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応炉内に導入された材料ガスを用いて被成膜基板に成膜処理を施す気相成長装置であって、
前記反応炉内に設けられ、複数のガス吐出口を含むシャワーヘッドと、
前記反応炉内において前記被成膜基板に対向する平坦面、および複数の前記ガス吐出口のそれぞれに対応するように前記平坦面から貫通形成された複数のプレート孔を含むシャワープレートと、を備え、
前記平坦面上における複数の前記プレート孔同士の間には、前記平坦面上に開口端を有する複数の凹部が形成されている、
気相成長装置。
【請求項2】
複数の前記凹部の前記開口端の形状は、円形、楕円形、方形、または多角形である、
請求項1に記載の気相成長装置。
【請求項3】
複数の前記凹部の前記平坦面からの最大深さDと、複数の前記凹部の前記平坦面上における前記開口端の最大開口幅Wとの間には、D/W>1の関係が成立している、
請求項1に記載の気相成長装置。
【請求項4】
複数の前記凹部の底面側の形状は、球面状に形成されている、
請求項1から3のいずれかに記載の気相成長装置。
【請求項5】
複数の前記凹部の前記開口端は、前記平坦面上において相互に接している、
請求項4に記載の気相成長装置。
【請求項6】
複数の前記凹部の前記開口端の形状は、球面状に形成されている、
請求項1〜5のいずれかに記載の気相成長装置。
【請求項7】
前記平坦面上における複数の前記プレート孔の開口端の形状は、球面状に形成されている、
請求項1〜6のいずれかに記載の気相成長装置。
【請求項8】
前記凹部の内表面および/または前記平坦面は、鏡面状に形成されている、
請求項1〜7のいずれかに記載の気相成長装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の気相成長装置を用いて、前記被成膜基板に成膜処理を施す工程を含む、気相成長方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の気相成長装置を用いて、前記被成膜基板に成膜処理を施す工程を含む、半導体素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−124256(P2012−124256A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272578(P2010−272578)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】