説明

気相成長装置の清浄度評価方法

【課題】SPV法により気相成長装置の清浄度を簡易に評価できる気相成長装置の清浄度評価方法を提供する。
【解決手段】Bがドーピングされたp型シリコンウェーハ5a上に、ドーパントを含まないシリコンエピタキシャル層9を、気相成長装置1内でエピタキシャル成長させ、SPV法によりシリコンエピタキシャル層9より下層のp型シリコンウェーハ5aで少数キャリアを発生させて少数キャリアの拡散長を測定することにより、p型シリコンウェーハ5a中のFeの不純物濃度を算出し、不純物濃度から気相成長装置1の清浄度を評価する。よって、Feの不純物濃度の指標で気相成長装置1の清浄度を把握できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相成長装置の清浄度評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エピタキシャルウェーハの製造に際して問題となるのが、気相成長装置の清浄度、すなわち気相成長装置内部の汚染のレベル(清浄さの度合い)である。シリコン単結晶基板上にシリコンエピタキシャル層を気相成長させる際、真空雰囲気としたエピリアクター(エピタキシャル反応室)内に原料ガスを供給して、エピタキシャル層を形成する。しかし、エピタキシャル層の形成とともに、反応生成物がエピリアクターの内壁等に付着するため、気相成長を繰り返すうちに反応生成物が堆積してエピタキシャルウェーハの品質の低下を招く汚染の温床となる。
【0003】
よって、所定の周期で気相成長装置内部に堆積した反応生成物を洗浄する必要がある。シリコンエピタキシャル層の気相成長装置においては、例えば、エピリアクター内にハロゲンガスを供給して行うが、同時に気相成長装置の素材として用いられるステンレス等からFe(鉄)やCr(クロム)等の不純物が発生して、エピリアクター内が汚染されるので、洗浄後の気相成長装置内部は一時的に清浄度が低下する。つまり、気相成長装置の洗浄により気相成長装置内部に汚染が生じる。
【0004】
かかる洗浄後の気相成長装置の汚染(汚染の有無或いは汚染のレベル)を評価するには、洗浄後、エピリアクターのサセプターにシリコンウェーハを載置し、当該シリコンウェーハ表面にエピタキシャル層を気相成長させて、気相成長後のエピタキシャルウェーハ(シリコンエピタキシャルウェーハ)の汚染の程度を測定・分析し、当該エピタキシャルウェーハを評価することにより行う。
【0005】
ここで用いられるエピタキシャルウェーハを評価する方法として、DLTS(Deep Level Transient Spectroscopy)法とSPV(Surface Photo Voltage)法がある。DLTS法の場合は、清浄度を評価する気相成長装置で成長させたエピタキシャルウェーハ(試料)の表面にショットキー接合またはPN接合を形成し、試料の温度を変化させながらFe等の金属不純物が作る半導体中の深い不純物準位を測定する。測定により、ウェーハ(試料)のFe汚染を評価し、かかる評価に基づき、気相成長装置の清浄度を評価する。
【0006】
SPV法の場合は、清浄度を評価する気相成長装置で成長させたエピタキシャルウェーハ(試料)の表面近傍に空乏層を形成した上で、エピタキシャルウェーハに光を照射して当該ウェーハ内部に少数キャリアを発生させる。すると、ウェーハ表面近傍に形成された空乏層の電界により少数キャリアがウェーハ表面に移動し、その結果発生する電位変化(SPV値)を測定する。そして、入射光の波長を変えて照射し、各波長におけるSPV値を測定することで、入射光の侵入深さ(入射光の波長)と測定したSPV値との関係から少数キャリアの拡散長を測定する(特許文献1)。拡散長の長さからウェーハ中の不純物濃度を評価(例えば、不純物濃度が高くなると拡散長は短くなる。)し、かかる評価に基づき気相成長装置の清浄度を評価する。
【0007】
また、かかるSPV法は、シリコンエピタキシャルウェーハ(試料)中のFe濃度等を算出できるため、Fe濃度等からも気相成長装置の清浄度を評価できる。具体的には、試料として用いられるp型のシリコンエピタキシャルウェーハは、主にB(ホウ素)がドーピングされる。室温において、このBドープのp型シリコンウェーハに含まれるFe(不純物)は、Fe−Bペアとして存在する。該Fe−Bペアを有するp型シリコンウェーハを光照射、又は、特許文献2に示すように約200℃で加熱させると、Fe−Bペアが解離する。Fe−Bペアにおいて、解離前後の拡散長変化をSPV法により測定すると、ウェーハバルク中のFe濃度を算出できる(特許文献2)。よって、SPV法により、ウェーハの拡散長やFe濃度等を測定・算出することで、かかる指標(拡散長、Fe濃度)に基づき、気相成長装置の清浄度を評価できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−235592号公報
【特許文献2】特開2004−335529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、DLTS法は、接合形成時のウェーハ(試料)の面状態の影響を強く受け、測定にも長い時間を要するため簡便さに欠ける。また、SPV法は試料の種類(n型かp型か)により気相成長装置の清浄度を評価する指標が異なる。n型シリコンエピタキシャルウェーハの場合は、p型に比べ指標が少なくなり気相成長装置の清浄度を正確に評価することが難しい。特に、n型シリコンエピタキシャルウェーハは、P(リン)、As(ヒ素)、Sb(アンチモン)等がドーピングされるので、不純物(Fe)とn型ドーパント元素がペアを構成せず、解離前後の拡散長を測定できないため、Fe濃度等を算出できない。
【0010】
一方で、n型エピタキシャルウェーハは、先端撮像素子向け製品に用いられることが多く、デバイス特性の不良を防止するために、n型ドーパントを使用する気相成長装置の清浄度に注意が払われる。そこで、n型ドーパントを使用する気相成長装置においても、清浄度を正確に評価するため、p型のエピタキシャル層を形成することが考えられる。しかし、n型ドーパントを使用する気相成長装置において、p型ドーパントをドーピングすることは、p型不純物汚染を引き起こし、ウェーハ特性を狂わし、気相成長装置の特性調整(チューニング)に多大な時間を要する。
【0011】
本発明の課題は、SPV法により気相成長装置の清浄度を簡易に評価できる気相成長装置の清浄度評価方法を提供する。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0012】
上記課題を解決するために本発明の気相成長装置の洗浄度評価方法は、
Bがドーピングされたp型シリコンウェーハ上に、ドーパントを含まないシリコンエピタキシャル層を、気相成長装置内でエピタキシャル成長させ、
SPV法によりシリコンエピタキシャル層より下層のp型シリコンウェーハで少数キャリアを発生させて少数キャリアの拡散長を測定することにより、p型シリコンウェーハ中のFeの不純物濃度を算出して、不純物濃度から気相成長装置の清浄度を評価することを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、気相成長装置内にBがドーピングされたp型シリコンウェーハを用意して、該p型シリコンウェーハ上にドーパントを含まないシリコンエピタキシャル層を成長させる。すると、気相成長装置内部を汚染する金属不純物(Fe等)がシリコンエピタキシャル層に取り込まれる。Fe等の拡散速度の速い金属不純物は、エピタキシャル成長の熱履歴により、シリコンエピタキシャル層に取り込まれると同時に、p型シリコンウェーハ内部にも拡散する。よって、SPV法によりp型シリコンウェーハで発生した少数キャリアの拡散長を測定して、Fe濃度を算出することで気相成長装置の清浄度を評価できる。また、ドーピングの作業を行わないため、清浄度の評価作業が簡易となる。なお、ここでいう「ドーパントを含まない」とは、「ドーパント元素(例えばP、As、Sb)を故意に添加しない」との意味であり、通常の製造工程上、不可避的に混入するドーパント成分の含有をも排除するものではない。
【0014】
また、少数キャリアを発生させるためのSPV法による入射光の侵入深さがシリコンエピタキシャル層の厚さより深くすることができる。
【0015】
ノンドープシリコンエピタキシャル層とp型シリコンウェーハとの界面で、SPV法の入射光により少数キャリアが発生すると界面電荷による少数キャリアのドリフト、又は界面接合部の影響(バンドギャップの影響)により、少数キャリアが散乱して拡散長の測定精度が低下する。そのため、少数キャリアがシリコンウェーハの内部に発生するように、SPV法の入射光の侵入深さをシリコンエピタキシャル層の厚さより深くすることで測定精度を向上させることができる。なお、ここでいう「侵入深さ」とは、試料(シリコンエピタキシャルウェーハ)中に入射した入射光が、そのエネルギーを失い吸収されるまでに試料内部に侵入する深さをいい、その深さは入射光の波長(エネルギー)や試料等により異なる。
【0016】
具体的には、SPV法による入射光の侵入深さが20μm以上200μm以下であり、シリコンエピタキシャル層の厚さが10μm以下とすることができる。シリコンエピタキシャル層の厚さが10μm以下として、入射光の侵入深さが20μm以上とすることで、少数キャリアが散乱せず、SPV法による入射光の侵入深さとそれに対するSPV値との直線関係を崩すことなく正確に測定できる(侵入深さとそれに対応するSPV値をプロットすることで拡散長を測定するため、正確に拡散長を測定できる。)。また、エピタキシャルウェーハ表面から厚さ方向における深い位置で発生したキャリアがエピタキシャルウェーハ表面に到達するときに発生するSPV値は発生したキャリアの深さに反比例する。そのため、入射光の侵入深さが200μmを超える深い領域で発生したキャリアに基づくSPV値は非常に小さくなり、SPV値をとらえることができない。したがって、SPV法による入射光の侵入深さが20μm以上200μm以下とすることで精度よく拡散長を測定して、測定した拡散長から不純物濃度を算出することで気相成長装置の清浄度を正確に評価できる。
【0017】
更に、気相成長装置は、n型ドーパントを使用するn型用の気相成長装置とすることができる。n型用の気相成長装置においても、p型ドーパントを使用せずに清浄度を評価できるので、p型不純物汚染を引き起こすことなく、簡易かつ正確に気相成長装置の清浄度を評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】気相成長装置の概要を示す断面図。
【図2】本発明の清浄度評価方法の概略を示すフローチャート。
【図3】シリコンウェーハ上にシリコンエピタキシャル層を形成したエピタキシャルウェーハ(試料)を示す断面図。
【図4】本発明の清浄度評価方法の詳細を示すフローチャート。
【図5】SPV測定装置の構成例を示す説明図。
【図6】SPV法の測定原理を示す概念図。
【図7】ノンドープエピタキシャルウェーハを用いて拡散長を測定し、測定した拡散長の推移を示すグラフ。
【図8】ノンドープエピタキシャルウェーハを用いてFe濃度を算出し、算出したFe濃度の推移を示すグラフ。
【図9】ノンドープエピタキシャルウェーハを用いてFe以外の再結合中心密度を算出し、算出した再結合中心密度の推移を示すグラフ。
【図10】n/nシリコンピタキシャルウェーハを用いて拡散長を測定し、測定した拡散長の推移を示すグラフ。
【図11】図10の拡散長の推移を示す表。
【図12】図7〜図9の拡散長、Fe濃度、Fe以外の再結合中心密度の推移を示す表。
【図13】SPV法の公式を示す図。
【図14】Fe以外の再結合中心密度の算出方法例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について述べる。図1は、気相成長装置1の概要を示す断面図である。当該気相成長装置1はn型ドーパントを使用する装置であり、内部にはエピリアクター(エピチェンバー(反応室))2を有する。このエピリアクター2内には、円盤状のサセプター3とサセプター3を板面方向に回転させる回転軸4と、サセプター3上に載置するシリコンウェーハ5と、エピリアクター2の内部を加熱する加熱装置6と、シリコンウェーハ5上に気相を成長させるためにエピリアクター2に原料ガスを導入する導入管7と、気相成長後の反応ガスをエピリアクター2から排出する排出管8と、を有する。シリコンウェーハ5をサセプター3上に載置して、エピリアクター2内に原料ガス(トリクロロシラン)及びキャリアガス(例えば、水素ガス等)を供給することにより、シリコンウェーハ5上にエピタキシャル層を形成して、エピタキシャルウェーハを製造できる。
【0020】
本発明は、かかる気相成長装置1において気相成長を所定回繰り返した後、装置1内部を洗浄し、洗浄後の気相成長装置1の清浄度を評価する。つまり、気相成長装置1の内部のエピリアクター2における清浄度を評価する。図2は、本発明の気相成長装置1における清浄度評価方法の概要を示すフローチャートである。図2を用いて、本発明の清浄度評価方法の概要を説明する。先ず、試料の基となるシリコンウェーハを準備する(工程1)。具体的には、Bがドーピングされたp型シリコンウェーハ5aを準備する。このp型シリコンウェーハ5aをn型ドーパント用の気相成長装置1のサセプター3上に載置してp型のシリコンウェーハ5a上にノンドープのシリコンエピタキシャル層9を堆積し、図3に示すようにシリコンエピタキシャルウェーハ10(試料)を製造する(工程2)。次に、製造したシリコンエピタキシャルウェーハ10をSPV法により測定・分析する(少数キャリアの拡散長を測定し、Fe濃度、Feを除く再結合中心密度を算出する。つまり、ウェーハ10自身の汚染を評価する。)(工程3)。最後に、かかるシリコンエピタキシャルウェーハ10の汚染の評価に基づいて、n型ドーパント用の気相成長装置1の清浄度を評価する(工程4)。
【0021】
図4は本発明の清浄度評価方法の詳細を示すフローチャートである。以下、清浄度評価方法の詳細を説明する。先ず、試料の基となるBドープのp型シリコンウェーハ5aを図1に示す洗浄後のn型ドーパント用の気相成長装置1に搬入する(S1)。搬入後、図1に示すようにp型シリコンウェーハ5aをエピリアクター2内のサセプター3上に載置し、エピリアクター2を昇温してp型シリコンウェーハ5aの表面に形成された自然酸化膜を水素熱処理により除去する(S2)。次に、エピリアクター2内を成長温度(例えば、1060〜1150℃)に設定し、原料ガス(例えば、トリクロロシラン等)をp型シリコンウェーハ5a上に供給して、p型シリコンウェーハ5a上にノンドープのシリコンエピタキシャル層9を気相成長させて、シリコンエピタキシャルウェーハ10(試料)を製造する(S3)。かかる気相成長の際、気相成長装置1の洗浄により発塵等した金属不純物(Fe等)等がシリコンエピタキシャル層9に取り込まれて、気相成長中の熱処理により当該金属不純物等がシリコンエピタキシャル層9からシリコンウェーハ5a内部に拡散する。
【0022】
当該シリコンエピタキシャルウェーハ10の製造後、エピリアクター2内からシリコンエピタキシャルウェーハ10を搬出して(S4)、該ウェーハ10の温度が室温となるまで徐冷する(S5)。徐冷によりシリコンウェーハ5aの内部に拡散したFeと、シリコンウェーハ5aにドープされたBがFe−Bペアを形成する。このFe−Bペアからペア解離後の拡散長を測定するために、Fe−Bペアが解離する温度(例えば、200℃〜220℃)に設定して、所定時間(例えば、2分から10分間)加熱処理をする(S6)。Fe−Bペアの解離状態を維持するため、シリコンエピタキシャルウェーハ10を冷却し(S7)、周知のSPV測定装置11(図5)に搬送する(S8)。そして、SPV法を用いて、Fe−Bペア解離後の拡散長を測定し、予め測定されているFe−Bペア解離前の拡散長を用いてFe濃度(不純物濃度)を算出する。気相成長装置1の洗浄により発塵等により取り込まれた不純物(Fe)の濃度を算出することで、n型ドーパントを行う気相成長装置1においてもp型ドーパントをドーピングせずに、不純物濃度から気相成長装置1の清浄度を評価できる。
【0023】
図5は、SPV測定装置11の概略を示す。図5に示すようにSPV測定装置11は、シリコンエピタキシャルウェーハ10(試料)に入射光12aを導入する光源12(発光ダイオード)と、当該光源12の波長を調整する調整装置13と、当該光源12の光を収束するレンズ14と、該レンズ14により収束した入射光12aを透過する透明電極15と、試料であるシリコンエピタキシャルウェーハ10を挟んで当該透明電極15と対向配置される基準電極16と、当該シリコンエピタキシャルウェーハ10にバイアス電圧を印加する電圧源(図示略)と、SPV値(電圧変化)を測定する測定手段17とを有する。
【0024】
図6は、SPV法の測定原理を示す原理図である。図6を用いて、SPV法の測定原理を説明する。SPV法を適用するためには、シリコンエピタキシャルウェーハ10の表面近傍に空乏層を形成する必要がある。そのため、本発明では正孔18となる多数キャリアと同符号の電荷をシリコンエピタキシャルウェーハ10の表面に付着させる。つまり、ウェーハ10の表面に正電荷19(電荷の合計が正)を付着させる(図6)。正電荷19によりウェーハ10表面近傍の正孔18(図示略)は、静電気的に反発してウェーハ10内部に押しやられる。するとウェーハ10の表面近傍には負にイオン化したアクセプタ原子(B)のみが出現するため、ウェーハ10の表面近傍は負電荷20(電荷の合計が負)となる。それ故、ウェーハ10表面近傍には正孔18が存在しない領域(空乏層領域)が形成される。この空乏層領域には、ウェーハ10表面の正電荷19とウェーハ10内部の負電荷20により、ウェーハ10表面から内部に向け電界が生じる。ここで、ウェーハ10にシリコンのバンドギャップ以上のエネルギーを有する入射光12a(例えば、波長が450nm程度)を照射すると波長(入射光12aの侵入深さ)に応じてウェーハ10の内部にキャリアが発生する。具体的には、ウェーハ10の表面から所定の深さの領域22において、図6に示すようにプラスとマイナスのキャリア(電子21:少数キャリア、正孔18:多数キャリア)が発生する。その結果、空乏層領域に形成された電界により多数キャリア(正孔18)がウェーハ10内部に移動する。一方、少数キャリア(電子21)はウェーハ10の表面側に移動し、ウェーハ10表面の障壁高さの電位を変化させる。この電位変化(SPV値)を測定手段17により測定する。
【0025】
入射光12aの侵入深さ(波長)毎にSPV値を測定することで、侵入深さとSPV値の相関関係から少数キャリアの拡散長を測定する。ウェーハ10におけるノンドープシリコンエピタキシャル層9の近傍で少数キャリアを発生させると、エピタキシャル層9とシリコンウェーハ5aとの界面で、界面電荷による少数キャリアのドリフト、又は界面接合部の影響(バンドギャップの影響)により、少数キャリアが散乱して拡散長の測定精度が低下する。そのため、入射光12aの侵入深さは、ノンドープシリコンエピタキシャル層9とp型シリコンウェーハ5aの界面より深い場所であることが好ましいが、エピタキシャルウェーハ表面から厚さ方向の深い位置で発生したキャリアがエピタキシャルウェーハ表面に到達するときに発生するSPV値は発生したキャリアの深さに反比例して小さくなる。したがって、例えば、ノンドープシリコンエピタキシャル層9の層厚が10μmの場合、入射光12aの侵入深さは、20μm以上200μm以下が好ましい。入射光12aの侵入深さが200μmを超える深い領域で発生したキャリアによるSPV値は非常に小さくなり、SPV値をとらえることができず、また、入射光12aの侵入深さが20μmに満たないと、ノンドープシリコンエピタキシャル層9近傍で少数キャリアが発生し、拡散長の測定精度が低下するからである。より好ましくは、入射光12aの侵入深さは30μm以上150μm以下である。ノンドープのエピタキシャル層はドーパント等の不純物が極端に少ないため、エピタキシャル層近傍でキャリアを発生させると、キャリアの発生深さとSPV信号強度の相関直線が乱れ(ノンドープエピタキシャル層中ではキャリアの減衰がほとんどないため)、測定精度が低下する。そのため、エピタキシャル層の層厚が10μmであれば、3倍程度の30μmの深さとすることでノンドープエピタキシャル層の影響が少なくなる。また、光源12が発光ダイオードの場合は、励起強度が低く発生キャリアも少ないので深い領域で発生したキャリアがエピタキシャルウェーハ表面に辿り着くことでSPV信号が発生しても、到達キャリア量が少ない分、SPV信号が非常に弱くなる。それ故、150μmを超える深さではSPV信号の安定性が劣る。したがって、入射光12aの侵入深さは30μm以上150μm以下であることがより好ましい。
【0026】
また、拡散長は、具体的には、図13に示すSPVの公式(1)により測定できるが、図13に示すSPVの公式(2)に示すように、表面再結合速度及び裏面再結合速度を実測することで飽和しない(正確な)拡散長を測定できる。測定した少数キャリアの拡散長から、例えばZothらにより提案された周知の計算式(Fe濃度の計算式)からFe濃度を算出できる。更に、Fe濃度からFeの再結合中心密度を換算して、図14に示す計算方法によりFeの再結合中心密度(NFe)と拡散長(L)により、Feを除く不純物の再結合中心密度(N)を算出する。シリコンウェーハ5aにおいては、Fe、Cu(銅)、Au(金)等の重金属不純物が再結合中心となるため、算出した再結合中心密度からFe以外のCu(銅)、Au(金)等による汚染の指標が得られる。つまり、Feの不純物濃度からFeを除く重金属不純物の再結合中心密度を算出し、再結合中心密度から気相成長装置1の清浄度を評価できる。以上により、拡散長、Fe濃度、Fe以外の再結合中心密度の指標で気相成長装置の清浄度を評価できる。
【実施例】
【0027】
本発明の効果を調べるために次の実験を行った。n型ドーパント用の気相成長装置1により気相成長を所定回繰り返した後で、当該気相成長装置1を洗浄した。洗浄後の気相成長装置1のサセプター3上にBをドーピングしたp型シリコンウェーハ5a(基板抵抗率9〜12Ωcm)を載置して、当該p型シリコンウェーハ5a上に、ノンドープのシリコンエピタキシャル層9を1100℃程度で3分間、堆積させ(層の厚さ:10μm、抵抗率100Ωcm以上)、シリコンエピタキシャルウェーハ10を製造した。このエピタキシャル成長工程において取り込まれる不純物(洗浄後のFe等の不純物)の汚染を把握し、洗浄後における気相成長装置1の清浄度の評価するために、洗浄(メンテナンス)後における気相成長装置1で製造したシリコンエピタキシャルウェーハ10をSPV法により測定・分析して、気相成長装置1の清浄度の推移を把握した。
【0028】
なお、SPV法による測定に際し、シリコンエピタキシャルウェーハ10表面を安定化するために(多数キャリアと同符号の電荷をウェーハ10表面に付着させるために(ウェーハ10の表面近傍に空乏層を形成するために))、HF前処理(5%HFで2分間+純水による水洗10分間)を行い、樹脂製ウェーハボックス内に25℃で24時間放置した。更に、SPV値を測定する直前にSPV測定装置11のホットプレート(図5及び図6に図示せず)で熱処理(190℃で5分間+85℃で15分間)を行いウェーハ10表面の自然酸化膜を安定化した。
【0029】
SPV測定装置11を用い、入射光12aの侵入深さが30μm〜150μmの条件でウェーハ10面内177点を測定した。つまり、ノンドープエピタキシャル層9(層厚:10μm)より下の層であるpシリコンウェーハ5aの上層部(pシリコンウェーハ5aとエピタキシャル層9との界面から20μm〜140μmまでの深さ)で発生した少数キャリアによるSPV値を求めて、入射光12aの侵入深さとSPV値との関係から少数キャリアの拡散長を測定し、Fe濃度、Feを除く再結合中心密度を算出した。
【0030】
具体的には、エピリアクター2の洗浄(メンテナンス)後の清浄度の推移を確認するために、洗浄後の気相成長装置1で50枚のウェーハを製造した後にp型シリコンウェーハ5aを用いてシリコンエピタキシャルウェーハ10を製造した。同様に100枚製造後、200枚製造後、500枚製造後の4段階に分けてシリコンエピタキシャルウェーハ10を製造した。また、各段階で製造したシリコンエピタキシャルウェーハ10を上記測定条件でSPV測定装置11により測定し、エピタキシャルウェーハ10を評価した(拡散長を測定し、Fe濃度、Fe以外の再結合中心密度を算出した。)。
【0031】
以上の方法により、拡散長を測定した結果を図7のグラフに示す。図7は、横軸が気相成長装置1のメンテナンス(洗浄)後に製造したウェーハの枚数(製造回数)であり、縦軸がSPV測定装置11により測定した少数キャリアの拡散長である。図7に示すように、ウェーハの製造枚数(製造回数)が増加する毎に測定される拡散長が長くなる。不純物濃度が高いウェーハは、キャリアの再結合の確率が高くなるため、入射光12aにより生成された少数キャリアが再結合するまでに移動する距離(拡散長)は一般的に短くなる。それ故、図7のグラフに示すように、製造工程を繰り返す毎に拡散長が長くなることから、ウェーハ中の不純物濃度が次第に減少していると考えられる。そのため、エピタキシャル成長中にエピタキシャルウェーハに取り込まれる不純物濃度も次第に減少し、気相成長装置1の清浄度が次第に回復していると評価できる。
【0032】
図8は、測定した拡散長からFe濃度を算出した結果を示すグラフである。横軸が製造したウェーハの枚数(製造回数)であり、縦軸が算出したFe濃度である。図8に示すように、ウェーハを50枚製造した後においては、Fe濃度は高い数値を示す。しかし、ウェーハを100枚製造した以降は、ウェーハを50枚製造した後のFe濃度と比べ半分以下のFe濃度を示す。これは、気相成長装置1の洗浄により気相成長装置1の内部に一時的にFe汚染が生じたこと(Feが発塵したこと)が原因と考えられる。つまり、装置1の洗浄後にウェーハを50枚製造した時点では、気相成長装置1の洗浄により発生したFeがシリコンエピタキシャル層9に取り込まれ、シリコンウェーハ5aにFeが拡散してFe濃度が高い数値を示したものと考えられる。一方、洗浄後にウェーハを100枚製造した以降では、Fe濃度は、ほぼ横ばいとなっており、気相成長装置1の洗浄によるFe汚染が安定したものと考えられる。そのため、Fe濃度の推移からメンテナンス後の気相成長装置1におけるFe汚染からの回復状況を把握でき、気相成長装置1の清浄度を評価できる。それ故、気相成長装置1によりエピタキシャルウェーハを製造し、該エピタキシャルウェーハを複数回製造した毎にFeの不純物濃度を算出することにより、かかる不純物濃度の推移から気相成長装置1の清浄度を評価し、メンテナンス後の回復状況を判断できる。
【0033】
また、個々のFe濃度から気相成長装置1の不純物汚染を見積もることができる。本実験におけるエピタキシャル成長の熱処理条件は、1100℃程度で3分である。シリコンエピタキシャル層9からシリコンウェーハ5aに拡散するFeは、例えば3分、1100℃程度の熱履歴によりエピタキシャル層9を含む表面から内部の深さ約290μmまで拡散する。そのため、ノンドープエピタキシャル層9中のFe濃度と、入射光12aの侵入深さ150μmのFe濃度は、だいたい同じになると推測できる。よって、ノンドープエピタキシャル層9側からSPV値を測定することで、エピタキシャル成長工程中に取り込んだ不純物(Fe)濃度を見積もり、間接的に気相成長装置1(エピリアクター2)の不純物汚染を把握できる。気相成長装置には広くステンレス鋼が用いられるため、ステンレス鋼の主成分であるFe濃度により、気相成長装置の清浄度を効率よく評価できる。
【0034】
図9は、Feを除く再結合中心密度を算出した結果を示すグラフである。横軸が製造したウェーハの枚数(製造回数)であり、縦軸が算出したFeを除く再結合中心密度である。図9に示すように、ウェーハを100枚製造した後は、ウェーハを50枚製造した後に比べて再結合中心密度が大きく減少して、その後は、ほぼ横ばいの数値を示す。シリコンウェーハ5aにおいては、Fe、Cu、Au等の重金属不純物が再結合中心となるため、装置1の洗浄により一時的に汚染(Cu、Au等の汚染)が生じることでウェーハを50枚製造した時点では、再結合中心密度が高いものと考えられる。一方、ウェーハを100枚製造した後では、気相成長装置1の洗浄によるCuやAu等の汚染が安定したものと考えることができ、気相成長装置1の清浄度が回復して安定したものと評価できる。それ故、気相成長装置1によりエピタキシャルウェーハを製造し、該エピタキシャルウェーハを複数回製造した毎にFe以外の再結合中心密度を算出することにより、かかるFe以外の再結合中心密度の推移から気相成長装置1の清浄度を評価し、メンテナンス後の回復状況を判断できる。
【0035】
従来例として洗浄後のn型ドーパント用の気相成長装置1において、撮像素子向けエピタキシャルウェーハなどに用いられるような200mmのn/nエピタキシャルウェーハ(エピタキシャル層の層厚:10μm、エピタキシャル層の抵抗率10〜20Ωcm、シリコンウェーハの抵抗率10〜20Ωcm)を作製し、気相成長装置1のメンテナンス後における清浄度の推移をSPV法により測定した。
【0036】
ただし、実施例と異なり、SPV法による測定に際し、シリコンエピタキシャルウェーハ表面を安定化させるため(多数キャリアと同符号の電荷をウェーハ10表面に付着させるために)SC−1(NHOH+H+HO)液で前処理を行い、樹脂製ウェーハボックス内に25℃で48時間放置し、更に、SPV測定装置11では4種類の光学フィルターにより波長を分離し、入射光の侵入深さが11μm〜150μmの条件でウェーハ面内177点を測定した。そして、実施例と同様に気相成長装置1のメンテナンス後における清浄度の推移を確認するため、メンテナンス後、50枚、100枚、200枚、500枚製造後毎にシリコンエピタキシャルウェーハを製造して清浄度の推移を測定した。
【0037】
n型シリコンエピタキシャルウェーハは、Bがドープされていないため、SPV測定装置11により得られる情報はSPV値及び拡散長のみである。よって、p型のシリコンエピタキシャルウェーハ10のようにFe濃度を算出できない。図10は、かかるn/nエシリコンエピタキシャルウェーハを用いて拡散長を測定した結果を示すグラフである。図11は、図10の拡散長の推移を示す表である。図10及び図11に示すように、n型シリコンエピタキシャルウェーハでは、拡散長の推移から気相成長装置の清浄度が次第に回復していると評価できるのみである。
【0038】
一方、図12は実施例のノンドープエピタキシャルウェーハを用いて測定又は算出した、拡散長、Fe濃度、Fe以外の再結合中心密度の推移を示す表である。従来例では、拡散長の良否からしか評価できなかった清浄度が、図12に示すようにノンドープのシリコンエピタキシャルウェーハ10を用いることで、拡散長、Fe濃度、Feを除く再結合中心密度の指標で気相成長装置1(エピリアクター2)の清浄度を把握できる。具体的には、図10に示すように、従来例では、製造回数が増えるに従い、なだらかに拡散長が伸びているのに対し、実施例では、図7に示すように、製造回数が50回と100回との間を契機にし、拡散長が急激に伸びている。よって、拡散長のデータのみから製造回数が100を超えることでメンテナンス後における気相成長装置1の清浄度が回復すると評価できる。更に、拡散長による気相成長装置1の清浄度の評価だけではなく、Feによる汚染状況やCuやAu等(Feを除く)による汚染状況に基づき、気相成長装置1の清浄度を評価できる。つまり、高精度かつ多角的に気相成長装置1の清浄度を評価できる。また、図7〜図9に示すように各指標(拡散長、Fe濃度、Fe以外の再結合中心密度)の推移を把握することで、エピリアクター2のメンテナンス後の回復状況がより判りやすくなる。よって、Feによる汚染状況やCuやAu等(Feを除く)の汚染状況を分析することで、エピリアクター2の汚染低減対策等にも活用できる。それ故、拡散長、Feの不純物濃度及びFe以外の再結合中心密度から気相成長装置1の清浄度を評価することにより、高精度かつ多角的に気相成長装置1の清浄度を評価でき、汚染状況の分析、汚染対策にも活用できる。
【0039】
なお、実施例では、気相成長装置1としてn型ドーパントを使用する装置として説明したが、p型ドーパントを使用する装置でも同様の効果が得られる。
【0040】
以上、本発明の実施例を説明したが、これはあくまでも例示にすぎず、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づく種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 気相成長装置 2 エピリアクター
3 サセプター 4 回転軸
5 ウェーハ 5a p型シリコンウェーハ
6 加熱装置 7 導入管
8 排出管 9 シリコンエピタキシャル層
10 シリコンエピタキシャルウェーハ
11 SPV測定装置 12 光源
13 調節装置 14 レンズ
15 透明電極 16 基準電極
17 測定手段 18 正孔
19 正電荷 20 負電荷
21 電子(少数キャリア) 22 領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Bがドーピングされたp型シリコンウェーハ上に、ドーパントを含まないシリコンエピタキシャル層を気相成長装置内でエピタキシャル成長させ、
SPV法により前記シリコンエピタキシャル層より下層の前記p型シリコンウェーハで少数キャリアを発生させて前記少数キャリアの拡散長を測定することにより、前記p型シリコンウェーハ中のFeの不純物濃度を算出して、前記不純物濃度から前記気相成長装置の清浄度を評価することを特徴とする気相成長装置の清浄度評価方法。
【請求項2】
前記少数キャリアを発生させるための前記SPV法による入射光の侵入深さが前記シリコンエピタキシャル層の厚さより深いことを特徴とする請求項1に記載の気相成長装置の清浄度評価方法。
【請求項3】
前記少数キャリアを発生させるための前記SPV法による入射光の侵入深さが20μm以上200μm以下であり、前記シリコンエピタキシャル層の厚さが10μm以下とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の気相成長装置の清浄度評価方法。
【請求項4】
前記気相成長装置は、n型ドーパントに使用されるn型用気相成長装置であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の気相成長装置の清浄度評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−51303(P2013−51303A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188273(P2011−188273)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】