説明

水分検出方法、水分検出装置及び配管検査装置

【課題】検査対象物内の液体の流れを停止させないで保温材内の水の存在位置を精度良く測定できる水分検出装置を提供する。
【解決手段】配管検査装置15の中性子発生管1及び中性子検出器を有する。中性子発生管2は単一エネルギーを有するパルス状の高速中性子20を発生し、保温材12に照射する。高速中性子20は保温材12内に存在する水14及び配管11内を流れる液体10によって減速されて熱中性子21となる。高速中性子20の照射方向とは逆方向に進行する熱中性子21はHe比例計数管2で検出される。この計数管2からの出力信号は多チャンネル波高分析器8を経てデータ処理装置9に達する。データ処理装置9は高速中性子の発生時刻を基準とする熱中性子検出率の分布情報を算出し、さらに、この分布情報を用いて、保温材12内に水14が存在する場合の水14の位置及び水14の量を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分検出方法、水分検出装置及び配管検査装置に係り、特に、化学プラントの蒸留塔等の塔及び槽、及び配管の周囲に設けられた保温材内の水分の検出に適用するのに好適な水分検出方法、水分検出装置及び配管検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、化学プラント等のプラントにおける配管検査、すなわち、配管を取囲む保温材内の水分の検出は、目視、超音波または渦電流を用いて実施されていた。しかし、この配管検査方法では、金属カバー及び保温材を取り除く必要があるため、配管検査に多大な労力及び時間を要していた。また、その配管検査時に化学プラントを停止する必要があった。
【0003】
金属カバー及び保温材を取り除かないで配管検査を行う方法としては、配管の腐食の原因となる保温材中の水分を計測する方法がある。この方法は、カリフォルニウム等の中性子線源から発生する中性子を金属カバーの外側から照射し、保温材中の水分によって中性子が減速され、その後、中性子の照射方向と逆方向に散乱されてくる熱中性子束を測定する方法である(特公平7−58253号公報)。測定された熱中性子に基づいて保温材に含まれた水分の量を同定する。
【0004】
【特許文献1】特公平7−58253号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特公平7−58253号公報に記載された方法は、中性子線源から発生する熱中性子のバックグラウンド及び検査対象以外からの熱中性子のバックグラウンドの影響を受けるため、保温材に含まれた水分の量を精度良く測定することができない。特に、化学プラントの配管内を流れる液体(重油、灯油等)で減速されて発生する熱中性子と保温材に含まれた水分で減速されて発生する熱中性子の区別がつかないため、配管内に液体が流れている化学プラントの運転中での、特許文献1記載の方法による配管検査が困難である。
【0006】
本発明の目的は、検査対象物内の液体の流れを停止させないで保温材内の水の位置を精度良く測定できる水分検出方法、水分検出装置及び配管検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、単一エネルギーを有するパルス状の高速中性子を内部に液体が存在する検査対象物の周囲に取り付けられている保温材に照射し、その高速中性子によって生成されて高速中性子の照射方向とは逆方向に進む熱中性子の強度の時間変化を、パルス状の高速中性子の発生時点を基点に算出し、得られたその時間変化の情報に基づいて保温材内における水の位置を求めることにある。
【0008】
本発明は、単一エネルギーを有するパルス状の高速中性子を検査対象箇所の保温材に照射するので、検査対象物(例えば配管)内に液体が流れている状態での、高速中性子の照射方向とは逆方向に進む熱中性子の強度の時間変化を、高速中性子の発生時点を基点に算出することができる。
このため、得られたその時間変化の情報に基づいて熱中性子が生成された時間を求めることができるので、検査対象物(例えば配管)内に液体が流れている状態でも、保温材内における水の位置を求めることができる。したがって、検査対象物(例えば配管)内の液体の流れを停止させないで保温材内の水の位置を精度良く測定できる。
【0009】
「高速中性子の照射方向とは逆方向に進む熱中性子」は、その照射方向と180°反対の方向だけではなく、照射方向と180°反対の方向に向かって進む速度成分を有する熱中性子も含んでいる。
【0010】
検査対象物としては、蒸留塔、反応塔、反応槽、吸着塔及び混合槽等の塔及び槽、タンク(プラントで用いる化学薬品を充填したタンク及び石油タンク等)及び配管がある。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、配管内の液体の流れを停止させないで保温材内の水の位置を精度良く測定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、発明者らが検査対象物(配管及び蒸留塔)内を流れる液体で減速されて発生する熱中性子と保温材内に存在する水分で減速されて発生する熱中性子を見分ける方法を種々検討して得た新たな知見に基づいて成されたものである。この知見は、単一エネルギーを有するパルス状の中性子を保温材に照射することによって、それらの熱中性子を見分けることができる、というものである。検査対象物としては、配管及び蒸留塔以外に、反応塔、反応槽、吸着塔及び混合槽等の塔及び槽、さらにはタンクがある。上記の新たな知見の内容を以下に具体的に説明する。以下の説明は、検査対象物である配管を対象にして説明するが、塔、槽及びタンクでも同様なことが言える。
【0013】
単一エネルギーを有するパルス状の高速中性子を発生する中性子発生装置として、例えば、重水素と重水素の核融合反応を利用してその中性子を発生する装置を用いた。加速した重水素イオンをチタン等の水素吸蔵合金に吸蔵した重水素にパルス的に衝突させることによって、約2.5MeVのエネルギーの中性子がパルス的に発生する。金属カバーで覆われている保温材を取り付けた配管に、発生したパルス状の高速中性子(以下、パルス高速中性子という)を金属カバーの外側から照射する。約2.5MeVのエネルギーの高速中性子は、速度が約2.2×10m/秒であるため、1マイクロ秒当たり約22m進む。照射されたパルス状の高速中性子は、金属カバー、保温材、保温材中の水分、配管及び配管内の液体によって散乱され、エネルギーを失って熱中性子になる。その高速中性子は、金属による散乱ではほとんどエネルギーを失わず、水分等に含まれる軽元素による散乱によって大部分のエネルギーを失い、数マイクロ秒で熱中性子化される。このような熱中性子のうち、パルス状の高速中性子の照射方向に対して逆方向に進んでくる熱中性子をHe中性子検出器等の中性子入射装置に入射させた。熱中性子の平均エネルギーは0.025eVであり、速度が約2200m/秒であることから、10マイクロ秒あたり約2.2cm進むことになる。この熱中性子は、熱中性子化した位置から中性子入射装置に入射するまでに要した時間が経過した時刻に、中性子入射装置で検出される。単一エネルギーを有するパルス状の高速中性子が発生した時刻を基準にした熱中性子の検出時刻から、熱中性子化した位置を同定することができる。その時刻に計測される熱中性子束から水分量を同定できる。したがって、中性子発生装置で発生した、単一エネルギーを有するパルス状の高速中性子を用いること、この高速中性子の発生時刻を基点にした、熱中性子の計数率の時間変化を計測することによって、熱中性子化した位置を同定することができるため、配管内に液体が流れる状態で保温材内に存在する水の位置をより精度良く求めることができる。化学プラント等のプラントの運転を停止せずに、保温材に高速中性子を照射し、この照射により生成された熱中性子を計測してその水の位置を求めることができる。プラントの運転が停止されないので、プラントの稼働率を向上させることができる。
【0014】
以下、本発明の実施例を、図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0015】
本発明の好適な一実施例である実施例1の配管検査装置を、図1に基づいて説明する。
この配管検査装置は、検査対象物である配管における腐食している箇所及び腐食の可能性のある箇所を検出する水分検出装置の一種であり、後述の実施例2〜5の各配管検査装置も水分検出装置に含まれる。本実施例の配管検査装置15は、中性子発生管(中性子発生装置)1、中性子検出器であるHe比例計数管(中性子入射装置)2、制御装置4、多チャンネル波高分析器8及びデータ処理装置9を備えている。中性子検出器としてBF比例計数管2を用いてもよい。電源3がケーブルにて中性子発生管1に接続される。He比例計数管2は前置増幅器6及び増幅器7を介して多チャンネル波高分析器8に接続される。高圧電源5が前置増幅器6に接続される。データ処理装置9が多チャンネル波高分析器8及び表示装置16に接続される。制御装置4は、電源3及び多チャンネル波高分析器8に接続される。中性子発生管1及びHe比例計数管2は支持部材(図示せず)に取り付けられている。
【0016】
保温材12が検査対象物である配管11の周囲を取囲んで配管11に取り付けられている。配管11は例えば化学プラントの配管である。金属カバー13が保温材12の外面を覆っている。配管11内には、液体(例えば、重油、軽油、灯油及び化学物質等のいずれか)10が流れている。中性子発生管1及びHe比例計数管2は、金属カバー13の表面に対向し、それぞれの軸心が配管11の半径方向を向いて配置される。
【0017】
保温材12内に存在する水14は、屋外に設置された配管11の金属カバー13の隙間等から金属カバー13と配管11の間に浸入した雨水である。この水14が配管11の腐食の原因となる。化学プラントの屋外に配置された配管11を対象に、配管検査装置15を用いて行う検査を以下に説明する。配管検査装置15は、検査員が手に持って移動可能な重量及び大きさになっている。検査員は、配管検査装置15の中性子発生管1及び中性子検出器であるHe比例計数管2を、支持部材に取り付けて、検査箇所の金属カバー13の外面から所定の距離だけ離して配置する。この支持部材は、配管11が設置されている地面またはコンクリート表面の上に倒れないようにして置かれる。検査員は、データ処理装置9に接続された入力装置(図示せず)から配管11の直径、保温材12及び金属カバー13の各厚み、金属カバー13から中性子発生管1及びHe比例計数管2までの距離、配管11内を流れる液体10の種類名(例えば、灯油、重油及び化学物質等の名称)及び保温材の材質等の情報を入力する。これらの情報はデータ処理装置9のメモリ(図示せず)に記憶される。
【0018】
制御装置4は、クロック発生器(図示せず)からのクロック信号に基づいて所定の第1の時間間隔でパルス状の第1制御指令を発生し、この第1制御指令に基づいて電源3を制御する。電源3は、第1の時間間隔でON,OFFされ、ONの状態において中性子発生管2に高電圧を印加する。これにより、中性子発生管2は、第1の時間間隔でパルス状の高速中性子20を発生する。具体的には、図2(A)に示すように、中性子発生管1は、第1の時間間隔になっている時刻T1,T3,T5,T7……で、時間幅tの高速中性子20をパルス状に発生する。中性子発生管1として、重水素と重水素の核融合反応により高速中性子を発生させる中性子発生管を用いる。この中性子発生管1は、約2.5MeVの単一エネルギーの高速中性子20を発生する。中性子発生管1として、トリチウムと重水素の核融合反応により高速中性子を発生させる中性子発生管を用いることも可能である。
この場合には、約14MeVの単一エネルギーの高速中性子20が中性子発生管内で発生する。
【0019】
発生した高速中性子20は、金属カバー13、保温材12、保温材12内に存在する水14、配管11及び配管11内を流れる液体10のそれぞれの構成元素と弾性散乱することによって、エネルギーを失い、より低いエネルギーの熱中性子21となる。高速中性子20は、主に原子番号の小さい元素(例えば水素元素)との弾性散乱によって多くのエネルギーを失い、原子番号の大きい元素との弾性散乱によってはほとんどエネルギーを失わない。このため、高速中性子20は、金属カバー13、保温材12及び配管11によってはエネルギーをほとんど失わず、水14及び液体10によって主にエネルギーを失って熱中性子21となる。
【0020】
熱中性子21は、高速中性子20が弾性散乱されることによってエネルギーを失ったものであるので、全方向に飛行する可能性がある。これらの熱中性子21のうち、高速中性子20の照射方向とは逆の方向に飛来する熱中性子21が、He比例計数管2で検出される。高圧電源5からの高電圧が前置増幅器6を介してHe比例計数管2に印加されている。He比例計数管2は、熱中性子21とHeの核反応によって発生する荷電粒子である陽子を検出することによって熱中性子21を検出する。すなわち、He比例計数管2は、発生した陽子のエネルギーが内部で失われるとき、失われたエネルギーに対応した電流信号を発生する。Heは熱中性子以外との反応が非常に小さいので、He比例計数管2は、入射される高速中性子20をほとんど検出せずほぼ熱中性子21のみを検出する。He比例計数管2から出力されたその電流信号は、前置増幅器6及び増幅器7を通して電圧信号に変換され、多チャンネル波高分析器8に入力される。多チャンネル波高分析器8は、その電圧信号の高さを分析し、上記の核反応によって生じた陽子のエネルギースペクトルを求める。このエネルギースペクトルの情報は、多チャンネル波高分析器8からデータ処理装置9に入力される。多チャンネル波高分析器8は、制御装置4から上記のクロック信号により定まる所定の第2の時間間隔で出力されるパルス状の第2の制御指令(サンプリング指令)に基づいて第2の時間間隔でサンプリングした電圧信号毎に陽子のエネルギースペクトル情報を求める。第2の時間間隔は第1の時間間隔よりもはるかに短くなっている。このため、例えば、時刻Tと時刻T3の間で、上記の電圧信号のサンプリングは多数回行われ、多チャンネル波高分析器8で求められる陽子のエネルギースペクトルの数も同じ数になる。上記の電圧信号のサンプリング、すなわち、熱中性子の計測は、中性子発生管1で発生する高速中性子20の発生時刻(例えば、時刻T1,T3,T5,T7……)を基点にし、第2の制御指令に基づいて行われる。
【0021】
データ処理装置9は、入力したそれぞれの陽子のエネルギースペクトル情報に対して以下の処理を実行する。すなわち、陽子のエネルギースペクトル情報から熱中性子のエネルギースペクトルの情報を取り出す。換言すれば、陽子のエネルギースペクトル情報からγ線のエネルギースペクトル情報等のノイズ情報を分離することによって、熱中性子のエネルギースペクトルの情報を得ることができる。得られた熱中性子のエネルギースペクトルの情報を積分して単位時間当たりにHe比例計数管2で検出された熱中性子の個数(熱中性子の検出率)(熱中性子の強度)を算出する。この検出率は、入力した陽子のエネルギースペクトル情報毎に算出される。データ処理装置9は、中性子発生管2で上記の所定の時間間隔で発生したそれぞれの高速中性子20の発生率の情報を入力する。この発生率の情報は、後述の高速中性子計測装置24によって得ることができる。
【0022】
高速中性子計測装置24を、図3を用いて詳細に説明する。中性子発生管1として、前述したように重水素と重水素の核融合反応を利用して高速中性子を発生する中性子発生管を用いる場合には、高速中性子計測装置24が用いられる。高速中性子計測装置24は、荷電粒子検出器19、前置増幅器6A、増幅器7A、多チャンネル波高分析器8A及びデータ処理装置9Aを含んでいる。荷電粒子検出器19、前置増幅器6A、増幅器7A、多チャンネル波高分析器8A及びデータ処理装置9Aは、この順に相互に接続される。荷電粒子検出器19は、中性子発生管1の陽子取り出し部27に設置されている。
【0023】
中性子発生管1は、上記の核融合反応によって発生する重水素イオン25を、重水素を吸蔵させたターゲット23に衝突させて高速中性子及び陽子26を発生させる。この高速中性子は、保温材12に照射される。陽子の発生率は高速中性子の発生率と等しい。発生した陽子26は荷電粒子検出器19で検出される。荷電粒子検出器19で検出された陽子の検出信号は、前置増幅器6A及び増幅器7Aで増幅され、多チャンネル波高分析器8Aに入力される。多チャンネル波高分析器8Aは、多チャンネル波高分析器8と同様な処理を行って陽子のエネルギースペクトルを求める。データ処理装置9Aは、陽子のエネルギースペクトル情報を用いて陽子の検出率を求める。データ処理装置9Aは、ターゲット23と荷電粒子検出器19の相対的な位置関係の情報及び荷電粒子検出器19の大きさの情報を用いて、陽子全体の発生率に変換する。この陽子全体の発生率が高速中性子の発生率である。
【0024】
重水素と重水素の核融合反応による高速中性子発生率の角度分布を図4に示す。重水素イオンのエネルギーが約100keVでは、重水素イオン25の飛行方向と同じ方向に照射される高速中性子の発生率は、その飛行方向と逆方向でのその発生率よりも大きくなる。したがって、重水素と重水素の核融合反応を発生する中性子発生管1を用いることによって、検査対象の配管11に多くの高速中性子を照射することができる。中性子発生管1は、ターゲット23への重水素イオン25の照射を停止することによって、高速中性子が発生しなくなるので、安全性の高い装置である。
【0025】
図1に示されるデータ処理装置9は、入力したそれぞれの高速中性子発生率情報及び算出されたそれぞれの熱中性子検出率情報(熱中性子強度情報)に基づいて、図2に示すそれぞれの画像情報を作成し、この画像情報を表示装置16に出力する。これらの画像情報は、中性子発生管1から放射されるパルス状の高速中性子20の、各発生時刻での発生率を示す画像情報(図2(A)参照)、及びHe比例計数管2の出力信号を基に得られた陽子のエネルギースペクトル情報を用いて求めた熱中性子の検出率の画像情報(図2(B)参照)である。図2(B)に示す画像情報は、保温材12内に水14が存在する状態での熱中性子検出率の分布の情報(以下、第1検出率情報という)を示している。この画像情報は、その水14に基づいて発生した熱中性子の領域a(以下、水領域aという)、及びバックグラウンドの熱中性子の領域b(以下、バックグランウンド領域bという)を含んでいる。図2(C)に示す画像情報は、保温材12内に水14が存在しない状態での熱中性子検出率の分布の情報(以下、第2検出率情報という)を示しており、バックグラウンド領域bのみが存在する。図2(C)に示す第2検出率情報は、保温材12内に水14が存在しない状態において、前述のようにして高速中性子20の照射方向とは逆の方向に散乱された熱中性子を計測することによって予め求められ、データ処理装置9のメモリ(図示せず)に記憶されている。保温材12内に水14が存在する状態での熱中性子検出率の分布を示す画像情報(図2(B))は、データ処理装置9において、第1及び第2検出率情報を用い、これらの情報を重ねるようにして作成される。データ処理装置9で作成された上記の画像情報は表示装置16に出力される。表示装置16は、保温材12内に水14が存在する場合には図2(A)及び図2(B)に示された各画像情報を、保温材12内に水14が存在しない場合には図2(A)及び図2(C)に示された各画像情報を、それぞれ表示する。なお、図2(C)に示す第2検出率情報における熱中性子検出率の分布は、高速中性子20の照射の回数を重ねるごとに検出率が大きくなっている。これは、熱中性子の寿命が約20分と高速中性子20を照射する第1の時間間隔よりも長いので、He比例計数管2で計測される熱中性子が増えるからである。
【0026】
データ処理装置9は、配管検査時に入力した陽子のエネルギースペクトル情報毎に算出した熱中性子検出率の分布情報から第2検出率情報を差し引く。この演算によって、保温材12内に水が存在する場合には、高速中性子20の発生時刻を基点にしたある期間に零より大きな熱中性子検出率の分布情報(熱中性子の強度の時間変化の情報)が求まる。この分布情報は、例えば、図2(B)に熱中性子検出率の分布情報から図2(C)に示すその分布情報を引いたものであり、時刻T1から時刻T2、及び時刻T3から時刻T4等における水領域aに対する熱中性子検出率の分布情報となる。バックグラウンド領域bに対する熱中性子検出率の分布情報は含まれていない。保温材12内に水が存在しない場合には、熱中性子検出率は零となる。データ処理装置9は、さらに、上記の演算で得られた水領域aに対する熱中性子検出率の分布情報を基に水14の量を求め、その分布情報が発生している時刻(例えば、時刻T1から時刻T2)を基に水14が存在する位置を求める。高速中性子20は1マイクロ秒当たり約22m進むので、中性子発生管1から照射された高速中性子20が液体10及び水14の位置に到達する時刻は実質的に同じである。水14が存在している位置は、高速中性子20が水14で減速されて発生した熱中性子21の速度、金属カバー13とHe比例計数管2の間の距離、金属カバー13の肉厚、及び水領域aに対する熱中性子検出率の分布情報が発生している時刻に基づいて求められる。得られた、水14の量及び水14の存在位置の各情報は、表示装置16に出力されて表示される。
【0027】
高速中性子20の照射方向と逆方向に進行する熱中性子21を計測することによって、保温材12内に存在する水14の位置及び水14の量を検出できる原理を以下に説明する。検出される熱中性子21は、高速中性子20が水14及び配管11内の液体10のそれぞれの中でエネルギーを失うことによって生成されるので、熱中性子21の検出率と水14の量、及び熱中性子21の検出率と液体10の量は、それぞれ相関関係がある。計測したい量は水14の量であるが、液体10による熱中性子21の生成量の割合が大きい場合は、水14の計測が困難になる。そこで、He比例計数管2で計測された熱中性子21のうち、液体10によって生成された熱中性子21に対する水14によって生成された熱中性子21の割合を大きくするために、熱中性子21の速度が10マイクロ秒あたり約2.2cmであることを利用する。水14とHe比例計数管2の間の距離は液体10とHe比例計数管2の間の距離よりも短いので、水14からの熱中性子21は、液体10からの熱中性子21よりも早くHe比例計数管2で検出される。原理的には、10マイクロ秒程度の時間分解能で検出率を測定できる。このため、2.2cm程度の位置の分解能が得られる。高速中性子20から熱中性子21が生成されるまでの時間等の時間の広がり(熱中性子21の速度分布に応じた検出時刻の広がり)、水14からHe比例計数管2までの最短距離と最長距離の違い(He比例計数管2が棒状であるため、計数管2の先端部とその後端部では検出時刻に差が生じる)、及び液体10からHe比例計数管2までの最短距離と最長距離の違いのそれぞれの影響を、検出時刻が受けるために、水14からの熱中性子21と液体10からの熱中性子を完全に分離することはできない。しかしながら、He比例計数管2で検出される熱中性子21の検出率を、中性子発生管1で発生する高速中性子20の発生時刻を基準にして計測することによって、水14により生成された熱中性子の検出率を得ることができる。すなわち、その発生時刻を基点にして、第2の制御指令が出力されるサンプリング時間(計測時間)毎に、He比例計数管2からの出力信号に基づいて得られた熱中性子21の検出率から、バックグラウンドの熱中性子検出率(例えば、液体10からの熱中性子の検出率等)を差し引くことによって、その計測時間毎における、水14により生成された熱中性子の検出率が得られる。バックグラウンドの熱中性子検出率は、前述したように、保温材12内に水14がない状態で、高速中性子20を保温材12に向かって照射し、He比例計数管2で熱中性子21を計測することによって得ることができる。水領域aに対する熱中性子検出率の分布情報が発生している時刻、及び水14で発生した熱中性子の速度に基づいて水14が存在する位置を求めることができる。また、保温材12内の水14の量は、以下のようにして求められる。予め水14の量に応じた熱中性子21の検出率を計測しておき、水14の量と対応する熱中性子検出率をデータ処理装置9のメモリに記憶しておく。He比例計数管2からの出力信号に基づいて求められた熱中性子検出率に対応する水14の量をメモリから読み出すことにより、水14の量を計測することができる。
【0028】
配管11の保温材12内の水分検査の結果の一例を図2に示す。中性子発生管1は、時刻T1、T3、T5に、時間幅tの高速中性子20をパルス状に発生する。発生した高速中性子20は水14により熱中性子21となり、この熱中性子21は、パルス状の高速中性子20の発生時刻に対応して、時刻T1から時刻T2の間、時刻T3から時刻T4の間、時刻T5から時刻T6の間でそれぞれ検出される。また、発生した高速中性子20は配管11内の液体10により熱中性子21となり、この熱中性子21は、やはりパルス状の高速中性子20の発生時刻に対応して、主に時刻T1から時刻T3の間、時刻T3から時刻T5の間、時刻T5から時刻T7の間でそれぞれ検出される。したがって、時刻T1から時刻T2まで間、時刻T3から時刻T4の間、及び時刻T7から時刻T8までの間のそれぞれの熱中性子検出率といった時刻に対応した熱中性子検出率を測定することによって、液体10による熱中性子21の検出率に対する水14による熱中性子21の検出率の割合を高くすることが可能となり、水14を高い精度で検出することが可能となる。
【0029】
本実施例は、単一エネルギーを有するパルス状の高速中性子を検査対象箇所に照射するので、配管11内で液体10が流れている状態で、高速中性子20の発生時刻を基点に、照射した高速中性子20に対応した熱中性子の検出率分布を得ることができる。このため、配管11内の液体10の流れを停止させないで保温材12内で水14が存在している位置を精度良く測定することができる。保温材12内に存在する水14の量もより精度よく計測することができる。
【0030】
複数のエネルギーを有する高速中性子を検査対象箇所に照射した場合には、液体20及び水14によってエネルギーの異なる複数の熱中性子が生成される。これらの熱中性子がHe比例計数管2で検出されたとき、それぞれのエネルギーの熱中性子の検出率のそれぞれの分布が重なってしまい、S/N比が悪化する。本実施例は、単一エネルギーの高速中性子を照射しているので、検出される検出率のS/N比は向上する。パルス状の高速中性子を照射しているため、高速中性子20の発生時刻を基点にした熱中性子の検出率分布を得ることができる。したがって、上記したように、配管11内に液体10が流れている状態であっても、保温材12内で水14が存在している位置(配管11が腐食している位置または配管11が腐食しやすい位置)を精度良く測定することができる。
【0031】
本実施例は、化学プラントの運転を停止せずに、すなわち、配管11内に液体10を流している状態で、保温材12内に水14が存在するか否かを知ることができ、水14が存在する場合には水14の存在する位置をより精度良く求めることができる。化学プラントの運転が停止されないので、化学プラントの稼働率を向上させることができる。
【0032】
また、本実施例は、中性子発生管1として重水素と重水素の核融合反応を利用して高速中性子を発生する装置を用いるため、重水素の加速方向における高速中性子の発生率が高くなる。したがって、重水素の加速方向を高速中性子の配管への照射方向とすることによって、全体の高速中性子の発生率に対する配管11に照射される高速中性子の発生率の割合を高めることができ、効率の良い高速中性子の照射ができる。さらに、バックグラウンドを低くすることができることので、保温材12内で水14が存在している位置をより高精度で検出することができる。
【0033】
本実施例は、He比例計数管2において、発生した陽子のエネルギーが内部で失われるとき、失われたエネルギーに対応した電流信号を検出している。しかしながら、中性子検出器は発生した陽子の個数を計測してもよい。この陽子以下に述べる理由により計測が可能になる。中性子検出器としてシンチレータを用いた場合は、陽子一個が入射するたびに一回光る。その光を光電子増倍管等を用いて電気信号に変換することで、個数を計測できる。半導体検出器を用いた場合も、一個の陽子が入射したときに、プリアンプ及びアンプを通すことで、一個のパルス状の電圧が計測できる。その電圧パルスの個数を計測することで陽子の個数を計測できる。計測された陽子の個数に基づいて熱中性子の検出率を求める。この場合も、この熱中性子検出率に基づいて、前述と同様に、水14が存在する位置及び水14の量を求めることができる。陽子の個数の計測は、電流信号を計測する場合に比べて、熱中性子検出率を精度良く計測することができ、保温材12内の水14の位置および水14の量をより精度良く求めることができる。陽子の個数を計測する場合には、多チャンネル波高分析器8は不要で、増幅器7の出力を、直接、データ処理装置9に入力すればよい。このため、配管検査装置の構成が図1の構成よりも単純化できる。
【実施例2】
【0034】
本発明の他の実施例である実施例2の配管検査装置を、図5に基づいて説明する。本実施例の配管検査装置15Aは、He比例計数管、前置増幅器6、増幅器7及び多チャンネル波高分析器8をそれぞれ4つ備えている以外は実施例1の配管検査装置15の構成と同じである。これらのHe比例計数管は、一対のHe比例計数管2A及び一対のHe比例計数管2Bを含んでいる。前置増幅器6、増幅器7及び多チャンネル波高分析器8は、実施例1のように互いに接続されている。各前置増幅器6が、一対のHe比例計数管2A及び一対のHe比例計数管2Bにそれぞれ接続される。各多チャンネル波高分析器8が1つのデータ処理装置9に接続される。電源3が中性子発生管1に接続される。高圧電源5が4つの前置増幅器6にそれぞれ接続される。図5では、3つの前置増幅器6と高圧電源5の接続の図示を図面が煩雑になるために省略した。制御装置4は、第1制御指令を高圧電源3に出力し、第2制御指令を4つの多チャンネル波高分析器8に出力する。
一対のHe比例計数管2A及び一対のHe比例計数管2Bが、それぞれ、中性子発生管1の軸心に対して対称になるように、中性子発生管1の両側に配置される。中性子発生管1、He比例計数管2A,2Bのそれぞれの軸心は配管11の中心を向いている。一対のHe比例計数管2Aのそれぞれ、及び一対のHe比例計数管2Bのそれぞれは、配管11内の液体10から等距離の位置に位置している。
【0035】
第1制御指令に基づいて各中性子発生管2から金属カバー13に単一エネルギーの高速中性子20が照射される。この高速中性子は、第1制御指令が出力される時刻毎にパルス状に発生する。生成された熱中性子は該当するHe比例計数管に入射される。それぞれのHe比例計数管に接続される各多チャンネル波高分析器8で得られた各陽子のエネルギースペクトル情報は、データ処理装置9に入力される。データ処理装置9は、これらの陽子のエネルギースペクトル情報を基に実施例1と同様な処理を行い、それぞれのHe比例計数管に対応した、熱中性子検出率の分布情報の算出及び図2(A)及び図2(B)の画像情報を作成する。水14が存在しない場合には、図2(A)及び図2(C)の画像情報を作成する。
【0036】
本実施例は、水14が保温材12内で偏在する場合に、水14からHe比例計数管2A及びHe比例計数管2Bまでの距離が異なるので、水14により近い位置にあるHe比例計数管がより高い熱中性子検出率を示す。データ処理装置9は、この検出率の違いを用いて、保温材12内における水14の有り無しを判定することができる。水14が保温材12内に均一に存在する場合は、水14の量に対応した熱中性子21の検出率を前もって計測しておく必要があるが、偏在する場合は本実施例による簡易計測が可能となる。
本実施例は、実施例1で生じる効果も得ることができる。
【実施例3】
【0037】
本発明の他の実施例である実施例3の配管検査装置を、図6に基づいて説明する。本実施例の配管検査装置15Bは、実施例2における中性子発生管1及び一対のHe比例計数管2の組を三組備えている。これらの三組の中性子発生管1及び一対のHe比例計数管2は、検査対象の配管11の周囲に120°間隔に配置され、配管11を取り囲む環状の連結具(移動体)17に取り付けられる。一対のHe比例計数管2が、それぞれ、中性子発生管1の軸心に対して対称になるように、中性子発生管1の両側に配置される。連結具17は、金属カバー13の表面に設置され、金属カバー13を取り囲むガイドレール(ガイド装置)28に移動可能に取り付けられる。三組の中性子発生管1及び一対のHe比例計数管2は、連結具17をガイドレール28に沿って移動させることにより、金属カバー13の周囲を回転する。
【0038】
配管検査装置15Bは、実施例2の配管検査装置15Aと同様に、He比例計数管2毎に前置増幅器6、増幅器7及び多チャンネル波高分析器8を備えている。6つの多チャンネル波高分析器8が1つのデータ処理装置9に接続されている。制御装置4からの第2制御指令が各多チャンネル波高分析器8に入力される。各中性子発生管1及び各He比例計数管2のそれぞれの軸心は配管11の中心を向いている。
【0039】
連結具17を、所定の角度だけ回転させた後、その角度で保持し、3つの中性子発生管1のそれぞれから高速中性子を保温材12に照射する。保温材12内に存在する水14、及び配管11内の液体10で生成された熱中性子が各He比例計数管2で計測される。
ある角度での熱中性子の計測が終了したとき、連結具17が所定角度だけ回転される。このようにして、中性子発生管1及びHe比例計数管2の金属カバー13の周囲での移動及び保持を所定角度ずつ繰り返しながら、保温材12の周方向全域に亘って、熱中性子の計測が行われる。配管11の周方向において水14が保温材12に偏在する場合には、水14から、1つの中性子発生管1の両側に位置する2つのHe比例計数管2までの距離が異なる。このため、これらのHe比例計数管2のうち、水14に近い位置にあるHe比例計数管2の出力信号で得られた熱中性子の検出率が大きな値となる。したがって、実施例2のように1つの中性子発生管1に複数対のHe比例計数管を設ける必要がなく、1つの中性子発生管1に対して設けた一対のHe比例計数管2を配管11の周囲で回転させることだけで、配管検査装置15Bは保温材12の周方向の全域に亘って水14の有り無しを判定することができる。
【0040】
本実施例は、実施例2で生じる効果を得ることができ、さらに、中性子発生管1一つ当たりのHe比例計数管2の個数を低減することができる。なお、1つの中性子発生管1及び一対のHe比例計数管2の組を三組でなく一組だけ設けても、検査時間は掛かるが、保温材12の周方向全域での検査が可能である。
【実施例4】
【0041】
本発明の他の実施例である実施例4の配管検査装置を、図7に基づいて説明する。図7は、本実施例の配管検査装置15Cの中性子発生管1及び一対のHe比例計数管2の部分のみを示しており、配管検査装置15Cのこれら以外の部分の構成を省略している。この省略された部分の構成は、図5における中性子発生管1及び一対のHe比例計数管2に関連する構成である。本実施例において、中性子発生管1の軸心は配管11の中心に向かって配置され、その軸心は水平方向に伸びている。この中性子発生管2の両側に位置する一対のHe比例計数管2のそれぞれの軸心は、He比例計数管2から配管11を見たときに、配管11の軸心と直交するように配置されている。換言すれば、その一対のHe比例計数管2のそれぞれの軸心は、中性子発生管1の軸心と交差する(直交する)一つの面に沿って実質的に並行に配置されている。このようにHe比例計数管2を配置している本実施例は、保温材12に向き合うHe比例計数管2の面積が大きくなるので、He比例計数管2に入射される熱中性子の飛行距離の幅が広くなる。したがって、本実施例は、水14で生成された熱中性子の検出率の検出効率が向上する。これは、保温材12内に存在する水14の計測に要する時間をより短縮することができる。本実施例は、実施例1で生じる効果も得ることができる。ちなみに、実施例1,2及び3は、He比例計数管2を、その軸心が配管11の半径方向を向くように配置している。
【実施例5】
【0042】
本発明の他の実施例である実施例5の配管検査装置を、図8に基づいて説明する。図8は、本実施例の配管検査装置15Dの中性子発生管1及び一対のHe比例計数管2の部分のみを示しており、配管検査装置15Dのこれら以外の部分の構成を省略している。この省略された部分の構成は、実施例4の配管検査装置15Cと同じである。配管検査装置15Dは、配管検査装置15Cの一対のHe比例計数管2の、配管11(具体的には金属カバー13)と面しない部分に、熱中性子遮へい材18を取り付け、その部分を熱中性子遮へい材18で覆った構成となっている。熱中性子遮へい材18は、熱中性子吸収率が高いガドリニウム、カドミウム及びハウニウム等の熱中性子吸収材で構成される。
【0043】
水14の量に対応した熱中性子の検出率を予め計測し、この予め計測している熱中性子検出率と実際の配管11の検査で計測した熱中性子検出率を比較するためには、中性子発生管1での高速中性子の発生率を正確に計測する必要がある。中性子発生管1での高速中性子の発生率を計測するために、配管検査装置15Dは、図9に示すように、高速中性子計測装置24Aを、中性子発生管1に近接して設置している。高速中性子計測装置24Aは、熱中性子を計測する中性子検出器であるHe比例計数管2Cの外面を中性子減速材17で囲い、さらにその中性子減速材17の外側を熱中性子吸収材16で取り囲んで構成されている。高速中性子計測装置24Aによる高速中性子の計測について説明する。中性子発生管1内に設けられたターゲット23Aによって発生する高速中性子21は、保温材12に照射されると共に、一部が高速中性子計測装置24に入射される。この高速中性子は中性子減速材17で減速されて熱中性子21Aとなり、この熱中性子21AがHe比例計数管2Cで検出される。中性子減速材17による減速によって生成された熱中性子21A以外の熱中性子は、中性子吸収材16で吸収されるので、He比例計数管2Cによって検出されない。He比例計数管2Cによって検出された熱中性子21Aの検出率は、中性子発生管1に対するHe比例計数管2Cの設置位置を固定することによって、中性子発生管1で発生した高速中性子20の発生率に比例する。He比例計数管2Cで熱中性子21Aの検出率を計測することによって、高速中性子の発生率の相対値を計測することができる。
【0044】
このような本実施例は、配管11側以外から飛来する熱中性子を遮蔽することができ、熱中性子のバックグランドをさらに低減することができる。本実施例は、実施例4で生じる効果を得ることができる。
【実施例6】
【0045】
本発明の他の実施例である実施例6の水分検出装置及びこれを用いた水分検出方法を、図10に基づいて説明する。本実施例の水分検出装置30は、実施例1の配管検査装置15と同じ構成を有する。本実施例における検査対象物は、化学プラントの蒸留塔31であり、屋外に設置されている。
【0046】
保温材12が蒸留塔31の周囲を取囲んで蒸留塔31に取り付けられている。金属カバー13が保温材12の外面を覆っている。蒸留塔31内には、液体(例えば、重油、軽油、灯油及び化学物質等のいずれか)10が流れている。中性子発生管1及びHe比例計数管2は、金属カバー13の表面に対向し、それぞれの軸心が蒸留塔31の半径方向を向いて配置される。水14が保温材12内に存在していることを想定する。
【0047】
水分検出装置30は、配管検査装置15と同様に機能して蒸留塔31を取囲む保温材12内の水14を検出する。この水分検出装置30による水14の検出の概略を以下に説明する。
【0048】
中性子発生管1は、時間幅tの高速中性子20をパルス状に発生する。中性子発生管1から放出された高速中性子20は、金属カバー13、保温材12、保温材12内に存在する水14、蒸留塔31及び蒸留塔31内を流れる液体10のそれぞれの構成元素と弾性散乱することによって、エネルギーを失い、より低いエネルギーの熱中性子となる。高速中性子20は、金属カバー13、保温材12及び蒸留塔31によってはエネルギーをほとんど失わず、水14及び液体10によって主にエネルギーを失って熱中性子となる。
【0049】
発生した熱中性子のうち、高速中性子20の照射方向とは逆の方向に飛来する熱中性子が、He比例計数管2で検出される。熱中性子の検出によってHe比例計数管2から出力された電流信号は、前置増幅器6及び増幅器7を通過する際に電圧信号に変換され、多チャンネル波高分析器8に入力される。多チャンネル波高分析器8は、その電圧信号の高さを分析し、前述したように、核反応によって生じた陽子のエネルギースペクトルを求める。このエネルギースペクトルの情報は、多チャンネル波高分析器8からデータ処理装置9に入力される。
【0050】
データ処理装置9は、入力したそれぞれの高速中性子発生率情報及び算出されたそれぞれの熱中性子検出率情報(熱中性子強度情報)に基づいて、実施例1と同様に、図2に示すそれぞれの画像情報を作成し、この画像情報を表示装置16に出力する。さらに、データ処理装置9は、実施例1と同様にして、保温材12内の水14の量、及び水14が存在する位置を求める。得られた、水14の量及び水14の存在位置の各情報は、表示装置16に出力されて表示される。
【0051】
本実施例は、実施例1で生じる効果を、蒸留塔31を対象にして得ることができる。水14が存在している位置を知ることによって、蒸留塔31の腐食している位置または腐食の可能性のある位置を知ることができる。
【0052】
水分検出装置30の替りに、実施例2〜5でそれぞれ用いられる配管検査装置15A,15B,15C及び15Dのいずれかを、水分検出装置として用いてもよい。また、配管検査装置15,15A,15B,15C及び15Dのいずれかを水分検出装置として用いて、蒸留塔31以外の検査対象物である蒸留塔、反応塔、反応槽、吸着塔及び混合槽等の塔及び槽、及びタンクの検査、すなわち、これらの検査対象物を取囲む保温材内の水の検出を、蒸留塔31と同様に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の好適な一実施例である実施例1の配管検査装置の構成図である。
【図2】実施例1で計測された熱中性子の検出率の分布を示し、(A)はパルス状の高速中性子の、各発生時刻での発生率を示す画像情報を示す説明図、(B)は保温材内に水が存在する状態での熱中性子の検出率の画像情報の説明図、(C)は温材内に水が存在しない状態での熱中性子の検出率の画像情報の説明図である。
【図3】実施例1で用いられる高速中性子計測装置の構成図である。
【図4】角度に対応した、重水素と重水素の核融合反応による高速中性子発生率を示した特性図である。
【図5】本発明の他の一実施例である実施例2の配管検査装置の構成図である。
【図6】本発明の他の一実施例である実施例3の配管検査装置の構成図である。
【図7】本発明の他の一実施例である実施例4の配管検査装置の構成図であり、(A)はHe比例計数管から配管を見たときの、中性子発生管及びHe比例計数管の配置を示す説明図、及び(B)は(A)のV−V断面図である。
【図8】本発明の他の一実施例である実施例5の配管検査装置の構成図であり、(A)はHe比例計数管から配管を見たときの、中性子発生管及びHe比例計数管の配置を示す説明図、及び(B)は(A)のVI−VI断面図である。
【図9】実施例5の配管検査装置で用いられる高速中性子計測装置の構成図である。
【図10】本発明の他の一実施例である実施例6の水分検出装置の構成図である。
【符号の説明】
【0054】
1…中性子発生管、2…He比例計数管(中性子検出器)、4…制御装置、8…多チャンネル波高分析器、9…データ処理装置、10…液体、11…配管、12…保温材、13…金属カバー、14…水、15,15A,15B,15C,15D…配管検査装置、16…表示装置、17…連結具、18…中性子減速材、19…荷電粒子検出器、20…高速中性子、21,21A…熱中性子、23,23A…ターゲット、24,24A…高速中性子計測装置、26…陽子、30…水分検出装置、31…蒸留塔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一エネルギーを有するパルス状の高速中性子を内部に液体が存在する検査対象物の周囲に設けられた保温材に照射し、この高速中性子の照射により生成され、前記高速中性子の照射方向とは逆方向に進行する熱中性子を検出し、熱中性子の検出信号を基に、前記パルス状の高速中性子の発生時点を基点にした、前記検出された熱中性子の強度の時間変化を算出し、得られた前記時間変化の情報に基づいて前記保温材内における水の位置を求めることを特徴とする水分検出方法。
【請求項2】
前記検査対象物が、内部に液体が存在する塔、槽、タンク及び配管のいずれかである請求項1に記載の水分検出方法。
【請求項3】
単一エネルギーを有するパルス状の高速中性子を発生し、この高速中性子を内部に液体が存在する検査対象物の周囲に設けられた保温材に照射する中性子発生装置と、前記高速中性子により生成され、前記高速中性子の照射方向とは逆方向に進行する熱中性子を入射する中性子入射装置と、前記中性子入射装置の出力を基に、前記パルス状の高速中性子の発生時点を基点にした、前記検出された熱中性子の強度の時間変化を算出し、得られた前記時間変化の情報に基づいて前記保温材内における水の位置を求めるデータ処理装置とを備えたことを特徴とする水分検出装置。
【請求項4】
前記データ処理装置が前記時間変化の情報に基づいて前記保温材内の水の量を求める請求項3に記載の水分検出装置。
【請求項5】
対となる前記中性子入射装置が前記中性子発生装置の軸心に対して対象になるように配置された請求項3または請求項4に記載の水分検出装置。
【請求項6】
前記検査対象物の周囲に配置されるガイド装置と、前記中性子発生装置及び前記中性子入射装置が取り付けられ、前記ガイド装置に沿って移動する移動体とを備えた請求項5に記載の水分検出装置。
【請求項7】
前記中性子発生装置の両側に位置する一対の前記中性子入射装置のそれぞれの軸心が前記中性子発生装置と交差する面に沿って実質的に並行に配置されている請求項3ないし請求項6のいずれか1項に記載の水分検出装置。
【請求項8】
前記面が前記中性子発生装置の軸心と直交している請求項7に記載の水分検出装置。
【請求項9】
前記中性子発生装置の両側に位置する一対の前記中性子入射装置のそれぞれの軸心が前記配管の半径方向に沿って配置されている請求項3ないし請求項6のいずれか1項に記載の水分検出装置。
【請求項10】
前記中性子入射装置の、前記検査対象物に向き合う表面以外の部分の表面を、熱中性子遮蔽材で覆った請求項3ないし請求項6のいずれか1項に記載の水分検出装置。
【請求項11】
重水素及びトリチウムのいずれかと重水素の核融合反応により前記高速中性子を発生する前記中性子発生装置を備えた請求項3ないし請求項10のいずれか1項に記載の水分検出装置。
【請求項12】
高速中性子計測装置を備えた請求項3ないし請求項6のいずれか1項に記載の水分検出装置。
【請求項13】
前記高速中性子計測装置は、熱中性子検出装置、前記熱中性子検出装置の周囲を覆った中性子減速部材、及び前記中性子減速部材の周囲を覆った熱中性子吸収材を有する請求項12に記載の水分検出装置。
【請求項14】
重水素及びトリチウムのいずれかと重水素の核融合反応により前記高速中性子を発生する前記中性子発生装置を備え、前記高速中性子計測装置が、前記中性子発生装置内で高速中性子が発生するときに発生する荷電粒子を検出する荷電粒子検出器、及び前記荷電粒子検出器により検出する前記荷電粒子の計数率に基づいて、前記高速中性子の発生率を算出する他のデータ処理装置を含んでいる請求項12に記載の水分検出装置。
【請求項15】
単一エネルギーを有するパルス状の高速中性子を発生し、この高速中性子を配管の周囲に設けられた保温材に照射する中性子発生装置と、前記高速中性子により生成され、前記高速中性子の照射方向とは逆方向に進行する熱中性子を入射する中性子入射装置と、前記中性子入射装置の出力を基に、前記パルス状の高速中性子の発生時点を基点にした、前記検出された熱中性子の強度の時間変化を算出し、得られた前記時間変化の情報に基づいて前記保温材内における水の位置を求めるデータ処理装置とを備えたことを特徴とする配管検査装置。
【請求項16】
前記データ処理装置が前記時間変化の情報に基づいて前記保温材内の水の量を求める請求項15に記載の配管検査装置。
【請求項17】
対となる前記中性子入射装置が前記中性子発生装置の軸心に対して対象になるように配置された請求項15または請求項16に記載の配管検査装置。
【請求項18】
前記配管の周囲に配置されるガイド装置と、前記中性子発生装置及び前記中性子入射装置が取り付けられ、前記ガイド装置に沿って移動する移動体とを備えた請求項17に記載の配管検査装置。
【請求項19】
前記中性子発生装置の両側に位置する一対の前記中性子入射装置のそれぞれの軸心が前記中性子発生装置と交差する面に沿って実質的に並行に配置されている請求項13ないし請求項18のいずれか1項に記載の配管検査装置。
【請求項20】
前記面が前記中性子発生装置の軸心と直交している請求項19に記載の配管検査装置。
【請求項21】
前記中性子発生装置の両側に位置する一対の前記中性子入射装置のそれぞれの軸心が前記配管の半径方向に沿って配置されている請求項14ないし請求項18のいずれか1項に記載の配管検査装置。
【請求項22】
前記中性子入射装置の、前記配管に向き合う表面以外の部分の表面を、熱中性子遮蔽材で覆った請求項15ないし請求項18のいずれか1項に記載の配管検査装置。
【請求項23】
重水素及びトリチウムのいずれかと重水素の核融合反応により前記高速中性子を発生する前記中性子発生装置を備えた請求項15ないし請求項22のいずれか1項に記載の配管検査装置。
【請求項24】
高速中性子計測装置を備えた請求項15ないし請求項18のいずれか1項に記載の配管検査装置。
【請求項25】
前記高速中性子計測装置は、熱中性子検出装置、前記熱中性子検出装置の周囲を覆った中性子減速部材、及び前記中性子減速部材の周囲を覆った熱中性子吸収材を有する請求項24に記載の配管検査装置。
【請求項26】
重水素及びトリチウムのいずれかと重水素の核融合反応により前記高速中性子を発生する前記中性子発生装置を備え、前記高速中性子計測装置が、前記中性子発生装置内で高速中性子が発生するときに発生する荷電粒子を検出する荷電粒子検出器、及び前記荷電粒子検出器により検出する前記荷電粒子の計数率に基づいて、前記高速中性子の発生率を算出する他のデータ処理装置を含んでいる請求項24に記載の配管検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−180700(P2008−180700A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−324749(P2007−324749)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【出願人】(000233044)株式会社日立エンジニアリング・アンド・サービス (276)
【Fターム(参考)】