説明

永久磁石回転機及び圧縮機

【課題】回転軸挿入孔の内径より大きい外径を有する回転軸を回転軸挿入孔に挿入する時の影響を低減することができる永久磁石回転機を提供する。
【解決手段】回転子50の回転軸挿入孔59には、回転軸挿入孔59の内径より大きい外径を有する回転軸60が挿入される。回転子50の主磁極部aには、磁石挿入孔51a1が設けられている。磁石挿入孔51a1には、永久磁石52a1〜52a3が、磁石挿入孔51a1と永久磁石52a1〜52a3との間に隙間が形成されるように挿入される。磁石挿入孔51aより外周側には、カシメピン挿入孔55a、径方向に長いかしめ部57a1、57a2が設けられている。カシメピン挿入孔55aには、カシメピン56aが、カシメピン挿入孔55aとカシメピン56aとの間に隙間が形成されるように挿入される。補助磁極部ab、daには、通路孔58ab、58daが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転子に設けられている磁石挿入孔に永久磁石が挿入される永久磁石回転機に関する。特に、回転子軸挿入孔に回転軸を挿入する時の影響を低減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
エアコン(空調装置)や冷蔵庫等の圧縮機を駆動する電動機として、磁石挿入孔に永久磁石が挿入されている回転子を備える永久磁石電動機(「永久磁石埋込型電動機(Interior Permanent Magnet Motor;IPMモータ)」と呼ばれている)が用いられている。
永久磁石電動機は、ティースを有する固定子と、ティースの先端面と間隙を介して回転可能に配置されている回転子を備えている。従来の永久磁石電動機の回転子850を図11に示す。図11は、回転子850の、軸方向に直角な横断面図である。(特許文献1参照)
回転子850は、電磁鋼板を複数枚積層して構成される。回転子850の外周面は、磁極を構成する突極部850A1〜850A4と、切欠部850B1〜850B4によって構成されている。回転子850には、回転軸挿入孔859、磁石挿入孔851a〜851d、カシメピン挿入孔855a〜855d、かしめ部857ab〜857da、通路孔858ab〜858daが設けられている。
回転軸挿入孔859には、回転軸挿入孔859の内径より大きい外径を有する(「締め代」を有する)回転軸860が、焼ばめ方法あるいは圧入方法によって挿入される。「焼ばめ方法」は、回転子850を加熱することによって回転軸挿入孔859の内径を大きくした後、回転軸860を回転軸挿入孔859に挿入する方法である。「圧入方法」は、強力な力で回転軸860を押すことによって、回転軸860を回転軸挿入孔859に挿入する方法である。
磁石挿入孔851a〜851dには、永久磁石852a〜852dが、圧入によって挿入される。
カシメピン挿入孔855a〜855dには、積層された電磁鋼板を一体化するためのカシメピン(リベット)856a〜856dが挿入される。
かしめ部857ab〜857daとして、周方向に長いかしめ部が設けられている。かしめ部857ab〜857daは、電磁鋼板を積層する時に電磁鋼板を固定するためのものである。
通路孔858ab〜858daは、オイル通路を形成する。
【特許文献1】特開平7−236239号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
図11に示す従来例の回転子850では、回転軸860は、回転子850の回転軸挿入孔859に、焼ばめ方法あるいは圧入方法によって挿入される。このため、回転軸860が回転軸挿入孔859に挿入されると、回転軸挿入孔859の内周面が回転軸860により押圧され、回転子850の外径が、図11に破線で示すように拡大する。
ここで、回転子850の外径が拡大すると、固定子巻線の誘起電圧が乱され、固定子スロットに起因する高調波成分による鉄損が増加する。このため、電動機性能が低下する。
また、回転子850の外径の拡大によって、固定子の内周面と回転子の外周面との間の間隙(ギャップ)が不均一に狭くなると、音や振動が増加する。
また、従来例の回転子850では、永久磁石852a〜852dが、磁石挿入孔851a〜851dに圧入によって挿入されている。
このため、回転軸860を回転軸挿入孔859に挿入する時に、回転子の外径を拡大する応力が永久磁石852a〜852dに加わる。このため、永久磁石852a〜852dが割れたり、欠けたりする虞がある。
特に、焼ばめ方法を用いて回転軸860を回転軸挿入孔859に挿入する時には、回転子850の熱膨張率と永久磁石852a〜852dの熱膨張率との違いによる応力が永久磁石852a〜852dに加わる。このため、永久磁石852a〜852dが割れたり、欠けたりする虞が高くなる。
なお、永久磁石852a〜852dに加わる応力を低減するために、締め代(=回転軸の外径−回転軸挿入孔の内径)を小さくすると、回転軸860が空転する虞がある。
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、回転軸挿入孔の内径より大きい外径を有する回転軸を回転軸挿入孔に挿入する時の影響を低減する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するための本発明の第1発明は、請求項1に記載されたとおりの永久磁石回転機である。
本発明の永久磁石回転機は、固定子と回転子を備えている。固定子は、典型的には、内周側にティースを有している。そして、ティースによって形成されるスロットに固定子巻線が配設されている。回転子は、回転子の外周面が固定子の内周面(ティースの先端面)と対向するように回転可能に設けられている。回転子は、典型的には、複数枚の電磁鋼板が積層された積層体として構成される。積層体には、通常、カシメピン挿入孔が設けられる。そして、カシメピン挿入孔に挿入されるカシメピンによって、積層体が一体化される。
回転子は、主磁極部と補助磁極部が周方向に交互に配置されている。主磁極部には、磁石挿入孔が設けられている。これにより、永久磁石の磁束によるマグネットトルクと、補助磁極部の突極性によるリラクタンストルクの両方を利用することができる永久磁石電動機として構成可能である。
回転子には、回転軸が挿入される回転軸挿入孔が形成されている。回転軸の外径は、回転軸挿入孔の内径より大きく形成されている。回転軸挿入孔の内径より大きい外径を有する回転軸を回転軸挿入孔に挿入する方法としては、典型的には、圧入方法や焼ばめ方法が用いられる。
回転軸挿入孔の内径より大きい外径を有する回転軸が回転軸挿入孔に挿入される時、回転子の外径を拡大する応力が発生する。この応力による回転子の外径の拡大量は、永久磁石が配置されている主磁極部より補助磁極部の方が大きい。このため、本発明では、回転子の補助磁極部に、カシメピン挿入孔が形成されている。そして、カシメピンが、カシメピン挿入孔とカシメピンとの間に隙間が形成されるように、カシメピン挿入孔に挿入される。これにより、補助磁極部の外径を拡大する応力が、カシメピン挿入孔とカシメピンとの間の隙間によって吸収されるため、補助磁極部の外径の拡大量を低減することができる。また、回転子の内周面(回転軸挿入孔の内周面)と回転子の外周面が直接連結されている補助磁極部において、カシメピンによって回転子を一体化しているため、回転子の剛体強度を高めることができる。
カシメピン挿入孔とカシメピンとの間に隙間が形成されるように、カシメピンをカシメピン挿入孔に挿入する方法としては、典型的には、カシメピンの外周形状をカシメピン挿入孔の内周形状より小さく形成する方法が用いられる。例えば、カシメピンの外径を、カシメピン挿入孔の孔径より小さく形成する。この場合、少なくとも、回転子の径方向に隙間が形成されるように、カシメピンの外周形状あるいはカシメピン挿入孔の内周形状が形成されればよい。
また、回転軸を回転軸挿入孔に挿入する時に発生する応力が磁石挿入孔に挿入されている永久磁石に加わると、永久磁石が割れたり、欠けたりする。このため、本発明では、永久磁石は、磁石挿入孔と永久磁石との間に隙間が形成されるように、磁石挿入孔に挿入される。これにより、主磁極部の外径を拡大する応力が、磁石挿入孔と永久磁石との間の隙間によって吸収されるため、主磁極部の外径の拡大量を低減することができるとともに、永久磁石が割れたり、欠けたりするのを防止することができる。
磁石挿入孔と永久磁石との間に隙間が形成されるように、永久磁石を磁石挿入孔に挿入する方法としては、典型的には、永久磁石の外周形状を磁石挿入孔の内周形状より小さく形成する方法が用いられる。この場合、少なくとも、回転子の径方向に隙間が形成されるように、永久磁石の外周形状あるいは磁石挿入孔の内周形状が形成されればよい。
【0005】
本発明の第2発明は、請求項2に記載されたとおりの永久磁石回転機である。
本発明では、回転子の補助磁極部に、通路孔が回転子の軸方向に設けられている。通路孔により形成される通路は、例えば、圧縮機の冷却媒体や潤滑油等の媒体を流す通路として用いられる。
本発明では、補助磁極部にカシメピン挿入孔と通路孔が設けられている。これにより、補助磁極部の外径を拡大する応力が、カシメピン挿入孔とカシメピンとの間の隙間及び通路孔の空間によって吸収される。したがって、補助磁極部の外径の拡大量をより低減することができる。
【0006】
本発明の第3発明は、請求項3に記載されたとおりの永久磁石回転機である。
本発明では、通路孔が、カシメピン挿入孔より回転子の内周側に設けられている。
これにより、補助磁極部の外径を拡大する応力が、カシメピン挿入孔とカシメピンとの間の隙間で吸収される前に通路孔の空間によって吸収されるため、回転子の径方向の外径寸法の拡大量を効果的に低減することができる。
また、通路孔を内周側に設けることにより、通路孔を回転子外周側に設けた場合に比べて、通路孔を流れる冷却媒体や潤滑油等の媒体に作用する遠心力が小さくなる。これにより、冷却媒体や潤滑油等の媒体が通路孔内を流れ易くなる。
【0007】
本発明の第4発明は、請求項4に記載されたとおりの永久磁石回転機である。
本発明は、固定子と回転子を有している。回転子には、回転軸挿入孔、磁石挿入孔、カシメピン挿入孔、通路孔が設けられている。回転軸挿入孔には、回転軸挿入孔の内径より大きい外径を有する回転軸が挿入される。磁石挿入孔には、永久磁石が挿入される、カシメピン挿入孔には、回転子を一体化するためのカシメピンが挿入される。通路孔により形成される通路は、冷却媒体等を流す通路として用いられる。
本発明では、通路孔が、回転子の補助磁極部に設けられている。これにより、補助磁極部の外径を拡大する応力は、通路孔の空間によって吸収される。したがって、補助磁極部の外径の拡大量を低減することができる。
また、本発明では、永久磁石が、磁石挿入孔と永久磁石との間に隙間が形成されるように、磁石挿入孔に挿入される。さらに、主磁極部には、カシメピン挿入孔が、磁石挿入孔より外周側の位置に設けられている。そして、カシメピンが、カシメピン挿入孔とカシメピンとの間に隙間が形成されるように、カシメピン挿入孔に挿入される。これにより、主磁極部の外径を拡大する応力は、磁石挿入孔と永久磁石との間の隙間及びカシメピン挿入孔とカシメピンとの間の隙間によって吸収される。したがって、主磁極部の外径の拡大量を低減することができるとともに、永久磁石が割れたり、欠けたりするのを防止することができる。
また、複数枚の電磁鋼板を積層して回転子を構成する場合、主磁極部の磁石挿入孔より外周側の箇所が軸方向に膨らむことがある。本発明では、主磁極部の磁石挿入孔より外周側の箇所において、カシメピンによって回転子を一体化している。これにより、主磁極部の磁石挿入孔より外周側の箇所が軸方向に膨らむのを防止することができる。
また、主磁極部の、磁石挿入孔より外周側にカシメピン挿入孔、カシメピンを設けることにより、主磁極部の外周側の磁気抵抗を高めることができる。これにより、主磁極部の外周側に流れる、音や振動の発生要因となる磁束を低減することができる。
【0008】
本発明の第5発明は、請求項5に記載されたとおりの永久磁石回転機である。
通常、複数枚の電磁鋼板を積層して積層体を構成する場合、電磁鋼板を固定するために、各電磁鋼板に、凹凸部を有する、突起状のかしめ部が設けられる。本発明では、主磁極部あるいは補助磁極部の少なくとも一方に、回転子の径方向に長いかしめ部を設けている。すなわち、回転子内周側から回転子外周側に及び回転子外周側から回転子内周側に、軸方向に傾斜する楔状の突起がかしめ部として設けられる。このような径方向に長いかしめ部を設けることにより、回転子の外径を拡大する応力をかしめ部によって吸収することができる。したがって、回転子の主磁極部あるいは補助磁極部の外径の拡大量をより低減することができる。
なお、主磁極部にかしめ部を設ける場合には、主磁極部の磁石挿入孔より外周側に設けるのが好ましい。かしめ部を磁石挿入孔より外周側に設けることによって、主磁極部の外周側の磁気抵抗を高めることができる。したがって、主磁極部の外周側に流れる、音や振動の発生要因となる磁束を低減することができる。
【0009】
本発明の第6発明は、請求項6に記載されたとおりの永久磁石回転機である。
本発明では、かしめ部が、カシメピン挿入孔あるいは通路孔より外周側に設けられている。
これにより、補助磁極部あるいは主磁極部の外径を拡大する応力が、かしめ部、カシメピン挿入孔とカシメピンとの間の隙間、通路孔の空間によって吸収される。したがって、補助磁極部あるいは主磁極部の外径の拡大量をより低減することができる。
固定子のスロットに起因して、あるいは、PWM(パルス変調)制御方式のインバータの使用に起因して、回転子の外周部に高調波磁束が流れることがある。回転子の外周部に高調波磁束が流れると、鉄損が増加し電動機特性が低下する。この高調波磁束は、回転子の外周部の磁気抵抗を高めることによって低減することができる。また、回転子の遠心力による影響等を回避するためには、回転子の外周分に部品を配置するのを避けるのが好ましい。ここで、かしめ部は、電磁鋼板を変形させることによって形成されるため、かしめ部を設けた場合の磁気抵抗の増加量は、カシメピン挿入孔あるいは通路孔を設けた場合の磁気抵抗の増加量より大きい。したがって、カシメピン挿入孔あるいは通路孔より外周側にかしめ部を設けることにより、回転子の外周部に流れる高調波磁束による鉄損を効果的に低減することができる。また、回転子の遠心力による影響も低減することができる。
【0010】
本発明の第7発明は、請求項7に記載されたとおりの永久磁石回転機である。
回転軸を回転軸挿入孔に挿入する時に発生する応力を、カシメピン挿入孔とカシメピンとの間の隙間、通路孔の空間、かしめ部等によって吸収することができない場合には、回転子の外周面と固定子の内周面との間の間隙(ギャップ)が不均一に狭くなる。回転子の外周面と固定子の内周面との間の間隙が不均一に狭くなると、コギングトルクが発生し、音や振動が発生する。ここで、回転軸を回転軸挿入孔に挿入する時に発生する応力による補助磁極部の外径の拡大量は、永久磁石が配置されている主磁極部の外径の拡大量より大きい。
本発明では、補助磁極部の外周面の形状を変更することにより、回転子の外周面と固定子の内周面との間の間隙が不均一に狭くなるのを防止している。本発明では、回転子の外周面は、軸方向に直角な断面で見て、主磁極部のd軸と交差し、外周方向に突状に形成されている第1の曲線形状の外周面と、補助磁極部のq軸と交差し、外周方向に突状に形成されている第2の曲線形状の外周面により構成されている。そして、第2の曲線形状の外周面と固定子の内周面との間の間隙の最大値が、第1の曲線形状の外周面と固定子の内周面との間の間隙の最大値より大きく設定されている。
主磁極部のd軸は、回転軸挿入孔の中心(回転子の中心)と主磁極部の周方向中心を結ぶ線であり、補助磁極部のq軸は、回転軸挿入孔の中心と補助磁極部の中心を結ぶ線である。
固定子の内周面は、典型的には、固定子に設けられているティースのティース先端面が対応する。
これにより、回転軸を回転軸挿入孔に挿入する時に発生する応力によって、補助磁極部の外周面と固定子の内周面との間の間隙(ギャップ)が狭くなるのを防止することができる。
第1の曲線形状や第2の曲線形状としては、適宜の形状を選択することができる。例えば、同じ中心点を中心とし、半径が異なる円弧形状を選択することができる。あるいは、異なる中心点を中心とし、半径が異なる円弧形状に選択することができる。
なお、第1の曲線形状の外周面の周方向に沿った長さ(角度で表すこともできる)あるいは第2の曲線形状の外周面の周方向に沿った長さ(角度で表すこともできる)は、効率等を考慮して適宜設定される。
また、第2の曲線形状の外周面と固定子の内周面との間の間隙の最大値と、第1の曲線形状の外周面と固定子の内周面との間の間隙の最大値との差は、適宜設定される。
また、第1の曲線形状の外周面(主磁極部に対応する外周面)と第2の曲線形状の外周面(補助磁極部に対応する外周面)の境界部で磁束が急激に変化すると、誘起電圧の波形に含まれる高調波成分が多くなる。誘起電圧に含まれる高調波成分が多くなると、入力電圧と入力電流から回転子の位置を正確に検出することができなくなる。このため、第1の曲線形状の外周面と第2の曲線形状の外周面の境界部での磁束の急激な変化が抑制されるように、第1の曲線形状と第2の曲線形状を設定するのが好ましい。
【0011】
本発明の第8発明は、請求項8に記載されたとおりの永久磁石回転機である。
本発明では、第2の曲線形状の外周面の曲率半径が、第1の曲線形状の外周面の曲率半径より大きく設定されている。
第1の曲線形状の外周面としては、例えば、主磁極部のd軸上に中心点を有する円弧形状の外周面が用いられ、第2の曲線形状の外周面としては、例えば、補助磁極部のq軸上に中心点を有する円弧形状の外周面が用いられる。
本発明では、主磁極部に対応する外周面と補助磁極部に対応する外周面を、曲率半径を有する曲線面で形成している。これにより、回転子の製造が容易となる。また、補助磁極部に対応する外周面と主磁極部に対応する外周面の境界部で磁束が急激に変化するのを抑制することができるため、コギングトルクを低減することができる。これにより、コギングトルクによる音や振動を低減することができる。
【0012】
本発明の第9発明は、請求項9に記載されたとおりの永久磁石回転機である。
本発明では、回転子の外周面には、磁石挿入孔の回転子外周側端壁と対向する箇所に切欠部が形成されている。
回転子の外周面が第1の曲線形状の外周面と第2の曲線形状の外周面により構成される場合には、切欠部は、第2の曲線形状の外周面に形成される。
磁石挿入孔の回転子外周側端壁と対向する箇所に切欠部を形成することにより、永久磁石の磁束が、固定子のティースを介して短絡されるのを防止することができる。これにより、磁束の短絡によって発生するコギングトルクを低減することができる。
【0013】
本発明の第10発明は、請求項10に記載されたとおりの圧縮機である。
本発明では、圧縮機の駆動用電動機として、第1発明〜第9発明の永久磁石回転機を用いている。
これにより、第1発明〜第9発明の効果を有する圧縮機を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
請求項1〜9に記載の永久磁石回転機を用いれば、回転軸挿入孔の内径より大きい外径を有する回転軸を回転軸挿入孔に挿入する時の回転子の外径の拡大量を低減することができる。これにより、性能を向上させることができ、音や振動を低減することができ、また、永久磁石の割れや欠けの発生等を防止することができる。
また、請求項10に記載の圧縮機を用いることにより、同様の効果を有する圧縮機を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。以下では、本発明の永久磁石回転機を、永久磁石埋込型電動機として構成した場合について説明する。
本発明の永久磁石埋込型電動機(以下、「永久磁石電動機」という)を用いた圧縮機を図1、図2に示す。なお、図1は圧縮機10の縦断面図である。また、図2は、図1に示した永久磁石電動機30の回転子50の縦断面図である。
圧縮機10は、圧縮機構部20、永久磁石電動機30、アキュムレータ70等により構成されている。圧縮機20と永久磁石電動機30は、密閉容器11内に配置されている。密閉容器11には、吸入管71と、吐出管12が設けられている。
【0016】
アキュムレータ70は、冷却媒体(例えば、冷却ガス)と潤滑油を分離する。アキュムレータ70で分離された冷却媒体は、吸入管71を介して圧縮機構部20に戻る。また、アキュムレータ70で分離された潤滑油は、潤滑油溜め25に戻る。
圧縮機構部20は、シリンダ21と、回転軸60により駆動される偏心ロータ22を有している。圧縮機構部20は、偏心ロータ22が回転することによって、吸入管71から吸入された冷却媒体をシリンダ21内で圧縮する。
圧縮機構部20で圧縮された冷却媒体は、永久磁石電動機30の固定子40に形成された切欠部、回転子50に形成された通路孔、固定子40と回転子50との間の間隙(ギャップ)等を通り、吐出管12から吐出される。
また、回転軸60の回転によって、潤滑油溜め25に貯留されている潤滑油が圧縮機構部20の摺動部に供給される。各摺動部を潤滑した潤滑油は、潤滑油留め25に戻される。
図1に示す圧縮機10では、冷却媒体と潤滑油が混在した媒体が吐出管12から吐出される。
【0017】
永久磁石電動機30は、固定子40と回転子50を備えている。
本実施の形態の固定子40は、薄い板状の電磁鋼板を複数枚積層して構成される。固定子40は、例えば、図3に示すように、内周側にティース42が形成され、外周側に切欠部44が形成されている。固定子40の外周形状は、適宜決定される。ティース42の先端部には、周方向の両側にティース端部42b、42cが設けられている。そして、回転子50の外周面と対向する側に、ティース端部42bと42cの間にティース先端面42aが設けられている。
固定子40の、隣接するティース42によって、スロット43が形成されている。そして、スロット43内には、固定子コイル41(図1参照)が配設されている。固定子コイル41は、例えば、分布巻方式や集中巻方式によって、スロット43内に配設される。
固定子40の切欠部44は、圧縮機構部20で圧縮された冷却媒体が通過する通路を形成する。
【0018】
回転子50は、筒形状を有し、固定子40の内周側に、回転可能に配設される。この時、回転子50の外周面と固定子40の内周面(ティース先端面42a)との間の間隙(ギャップ)は、所定範囲に設定される。
回転子50は、板状の電磁鋼板を複数枚積層して構成される。回転子50には、図2に示すように、回転軸挿入孔59、磁石挿入孔51、カシメピン挿入孔55が、回転子50の軸方向に形成されている。なお、図2には示されていないが、本実施の形態の回転子50には、通路孔(例えば、図4の58ab、58da)が、回転子50の軸方向に形成されている。
回転軸挿入孔59には、回転軸60が挿入される。本実施の形態では、回転軸60の外径は、回転軸挿入孔59の内径より大きく形成されている。この場合、回転軸60の外径と回転軸挿入孔59の内径との差(回転軸60の外径−回転軸挿入孔59の内径)を「締め代」という。回転軸挿入孔59の内径より大きい外径を有する回転軸60を回転軸挿入孔59に挿入する方法としては、例えば、「圧入方法」あるいは「焼ばめ方法」が用いられる。
「焼ばめ方法」では、回転子50を加熱することによって回転子50を膨張させ、回転軸挿入孔59の内径を大きくする。そして、回転軸挿入孔59に回転軸60を挿入する。その後、回転子50を冷却することによって回転子50を収縮させ、回転軸挿入孔59の内径を小さくする。これにより、回転軸60が、回転軸挿入孔59に強固に取り付けられる。「圧入方法」では、回転軸60に強力な力を加えることによって、回転軸60を回転軸挿入孔59に挿入する。
磁石挿入孔51には、永久磁石52が挿入される。
積層体の軸方向両端部には、端板54が配設される。そして、カシメピン挿入孔55に挿入されたカシメピン56によって、積層体と端板54が一体化される。
54aは、回転子50のバランスを調整するためのバランスウェイトである。
なお、各電磁鋼板には、各電磁鋼板を積層する際に、各電磁鋼板を固定するためのかしめ部が形成される。
【0019】
次に、本発明の永久磁石電動機の回転子の各実施の形態を以下に説明する。
なお、以下の各実施の形態では、磁極数が4(極対数が2)である回転子について説明する。また、図1及び図3に示す構成の固定子40を用いるものとする。
また、回転子は、軸方向に直角な横断面図でみて、磁石挿入孔が設けられている主磁極部と、補助磁極部が周方向に交互に配置されている。以下では、各主磁極部を主磁極部a、b、c、dで表し、各補助磁極部を補助磁極部ab、bc、cd、daで表す。そして、各主磁極部に設けられている要素には記号a〜dあるいはA〜Dを付し、補助磁極部に設けられている要素には記号ab〜daあるいはAB〜DAを付す。また、各主磁極部及び各補助磁極部の構成は同じであるため、以下では、主磁極部aの構成と、主磁極部aの周方向両側に配置されている補助磁極部ab、daの構成について説明する。主磁極部と補助磁極部を周方向に交互に配置することにより、永久磁石の磁束によるマグネットトルクと、補助磁極部の突極性によるリラクタンストルクの両方を利用することができる。補助磁極部ab〜daの磁束通路幅を調整することによって、リラクタンストルクを調整することができる。
また、回転軸挿入孔の中心(回転子の中心)と主磁極部の周方向中心とを結ぶ線を、主磁極部の中心線あるいは「d軸」と表現し、回転軸挿入孔の中心(回転子の中心)と補助磁極部の周方向中心とを結ぶ線を、補助磁極部の中心線あるいは「q軸」と表現する。
【0020】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態の永久磁石電動機の回転子50を図3及び図4に示す。図3及び図4は、本実施の形態の回転子50の、軸方向に直角な横断面図である。
回転子50は、中央部に回転軸挿入孔59が設けられている。回転子50の外周面は、主磁極部a〜dに対応する、第1の曲線形状の外周面50A〜50Dと、補助磁極部ab〜daに対応する、第2の曲線形状の外周面50AB〜50DAにより構成されている。外周面50A〜50D、50AB〜50DAの曲線形状については後述する。
回転子50の主磁極部a〜dには、台形形状の磁石挿入孔51a1〜51d1が設けられている。台形形状は、回転子50の内周方向に突状(外周方向に凹状)となるように形成されている。
磁石挿入孔51a1には、永久磁石が挿入される。本実施の形態では、台形形状の磁石挿入孔51a1に、3個の平形形状(軸方向に直角な断面形状が長方形形状を有する)の永久磁石52a1〜52a3が挿入されている。なお、磁石挿入孔51a1には、内側に突出する突部51a3、51a5が形成されている。この突部51a3、51a5によって、磁石挿入孔51a1内での永久磁石52a1〜52a3の位置が規制される。
本実施の形態では、永久磁石52a1〜52a3は、磁石挿入孔51a1と永久磁石52a1〜52a3との間に隙間が形成されるように、磁石挿入孔51a1に挿入される。
磁石挿入孔51a1と永久磁石52a1〜52a3との間に隙間が形成されるように、永久磁石52a1〜52a3を磁石挿入孔51a1に挿入する方法としては、例えば、「隙間ばめ方法」が用いられる。すなわち、永久磁石52a1〜52a3を磁石挿入孔51a1に挿入した時に、磁石挿入孔51a1と永久磁石52a1〜52a3との間に隙間が形成されるように、磁石挿入孔51a1の内周形状(軸方向に直角な断面の内周形状)あるいは永久磁石52a1〜52a3の外周形状(軸方向に直角な断面の外周形状)が設定される。磁石挿入孔51a1と永久磁石52a1〜52a3との間の隙間は、少なくとも、回転子50の径方向に形成されればよい。
永久磁石としては、フェライト磁石や希土類磁石等が用いられる。また、製造の容易性の観点からは、平形形状の永久磁石を用いるのが好ましいが、異なる形状の永久磁石を用いることもできる。また、磁石挿入孔に挿入する永久磁石の数も適宜選択可能である。
【0021】
「隙間ばめ方法」を用いる場合には、圧入方法や焼ばめ方法を用いる場合に比べて、永久磁石52a1〜52a3を磁石挿入孔51a1に簡単に挿入することができる。これにより、永久磁石52a1〜52a3が割れたり、欠けたりすることがない。また、特別な設備も不要である。
磁石挿入孔51a1と永久磁石52a1〜52a3との間に隙間を形成することにより、主磁極部aの外径の拡大量を低減することができる。すなわち、回転軸60を回転軸挿入孔59に挿入する時に、主磁極部aの外径を拡大する応力が発生した場合、この応力は、磁石挿入孔51a1と永久磁石52a1〜52a3と間の隙間によって吸収される。
なお、本明細書では、「回転軸を回転軸挿入孔に挿入する時に発生する応力」という記載は、「回転軸を回転軸挿入孔に挿入した時に発生する応力」を含むものとして用いている。
永久磁石52a1〜52a3の断面面積は、マグネットトルクの大きさに影響する。このため、磁石挿入孔51a1と永久磁石52a1〜52a3との間の隙間は、主磁極部aの外径の拡大量を低減することができる範囲内で、できるだけ狭く設定するのが好ましい。
【0022】
なお、主磁極部a〜dの磁石収容孔51a1〜51d1に挿入された永久磁石は、隣接する主磁極部同士で異極となるように磁化される。すなわち、周方向にS極とN極の主磁極部が交互に配置されるように磁化される。
例えば、回転子50の回転軸挿入孔59に回転軸60を挿入した後、回転子50と対向する固定子40の固定子コイル41に着磁用電流を流すことにより、永久磁石を磁化する。
【0023】
磁石挿入孔51a1の回転子外周側端壁51a2、51a4と回転子50の外周面(図4では、第2の曲線形状の外周面50DA、50AB)との間には、空隙51a6、51a7が設けられている。空隙51a6、51a7は、孔や外周面50DA、50ABを切り欠いた切欠部として形成される。また、空隙部51a6、51a7には、非磁性材が充填されていてもよい。
磁石挿入孔51a1の回転子外周側端壁51a2、51a4と空隙部51a6、51a7との間には、ブリッジ53a1、53a3が設けられている。また、空隙部51a6、51a7と回転子50の外周面50DA、50ABとの間には、ブリッジ53a2、53a4が設けられている。
磁石挿入孔51a1の回転子外周側端壁51a2、51a4と回転子50の外周面との間に空隙部51a6、51a7を設けることによって、磁石挿入孔51a1に挿入されている永久磁石の磁束が漏れるのを防止することができる。
また、磁石挿入孔51a1の回転子外周側端壁51a2、51a4と回転子50の外周面との間にブリッジ53a1、53a3を設けることにより、遠心力に対する回転子50の強度を高めることができる。
なお、空隙部51a6、51a7の形状や、形成方法は適宜変更可能である。例えば、ブリッジ53a1、53a3を省略し、回転子外周側に空隙が形成されるように、永久磁石52a2、52a3を位置決めする位置決め部を設けてもよい。位置決め部としては、突部51a3、51a5と同様の突部を設けることができる。
【0024】
また、主磁極部aには、磁石挿入孔51a1より外周側に、カシメピン挿入孔55aが形成されている。カシメピン挿入孔55aは、主磁極部aの中心線(d軸)上に配置されている。カシメピン挿入孔55aには、前述した積層体と端板54を一体化するためのカシメピン56aが挿入される。
本実施の形態では、カシメピン56aは、カシメピン挿入孔55aとカシメピン56aとの間に隙間が形成されるように、カシメピン挿入孔55aに挿入されている。
カシメピン56aを、カシメピン挿入孔55aとカシメピン56aとの間に隙間が形成されるように、カシメピン挿入孔55aに挿入する方法としては、例えば、「隙間ばめ方法」が用いられる。すなわち、カシメピン56aがカシメピン挿入孔55aに挿入された時に、カシメピン挿入孔55aとカシメピン56aとの間に隙間が形成されるように、カシメピン挿入孔55aの内周形状(軸方向に直角な断面の内周形状)あるいはカシメピン56aの外周形状(軸方向に直角な断面の外周形状)が設定される。例えば、カシメピン56aの外径を、カシメピン挿入孔55aの内径より小さく設定する。
カシメピン挿入孔55aとカシメピン56aとの間に隙間が形成されていることにより、主磁極部aの外径の拡大量を低減することができる。すなわち、回転軸60を回転軸挿入孔59に挿入する時に、主磁極部aの外径を拡大する応力が発生した場合、この応力は、カシメピン挿入孔55aとカシメピン56aとの間の隙間で吸収される。
カシメピン挿入孔55aとカシメピン56aとの間の隙間は、主磁極部aの外径の拡大量を低減することができる範囲内で、できるだけ狭くなるように設定するのが好ましい。
カシメピン挿入孔55aとカシメピン56aとの間の隙間は、少なくとも、回転子50の径方向に形成されればよい。
【0025】
複数枚の電磁鋼板を積層して回転子を構成する場合、主磁極部aの磁石挿入孔51a1より外周側の箇所が軸方向に膨らむことがある。本実施の形態では、主磁極部aの磁石挿入孔51a1より外周側の箇所において、カシメピン56aによって回転子を一体化している。これにより、主磁極部aの磁石挿入孔51a1より外周側の箇所が、軸方向に膨らむのを防止することができる。
また、磁石挿入孔51a1より外周側にカシメピン挿入孔55a、カシメピン56aを設けているため、磁石挿入孔51a1より外周側の磁気抵抗を高めることができる。これにより、磁石挿入孔51a1より外周側を流れる、音や振動の発生要因となる磁束を低減することができる。
【0026】
また、主磁極部aには、磁石挿入孔51a1及びカシメピン挿入孔55aより外周側にかしめ部57a1、57a2が設けられている。かしめ部57a1、57a2は、主磁極部aの中心線(d軸)に対して、周方向の両側に設けられている。かしめ部57a1、57a2は、複数枚の電磁鋼板を積層する時に、各電磁鋼板を固定するために用いられる。通常、かしめ部は、電磁鋼板を加工することにより形成される、凹凸部を有する突起により構成される。
本実施の形態では、かしめ部57a1、57a2として、回転子の径方向に長いかしめ部が設けられている。径方向に長いかしめ部は、回転子50の内周側から外周側及び回転子50の外周側から内周側に向けて軸方向に傾斜する、楔状の突起により構成される。
このように、主磁極部aに、径方向に長いかしめ部57a1、57a2を設けることにより、主磁極部aの外径の拡大量を低減することができる。すなわち、回転軸60を回転軸挿入孔59に挿入する時に、主磁極部aの外径を拡大する応力が発生すると、この応力は、径方向に長いかしめ部57a1、57a2の傾斜部で吸収される。
【0027】
ここで、固定子40のスロット43に起因して、あるいは、PWM(パルス変調)制御方式のインバータの使用に起因して、回転子50の外周部に高調波磁束が流れることがある。回転子50の外周部に高調波磁束が流れると、鉄損が増加し電動機特性が低下する。この高調波磁束は、回転子外周部の磁気抵抗を高めることによって低減することができる。
ところで、回転子50の遠心力に対する影響等を回避するためには、回転子50の外周分に部品を配置するのを避けるのが好ましい。
かしめ部57a1、57a2は、電磁鋼板を加工することにより形成される、凹凸部を有する突起により構成される。このため、かしめ部57a1、57a2を設けた場合の磁気抵抗の増加量は、カシメピン挿入孔55aを設けた場合の磁気抵抗の増加量より大きい。
したがって、本実施の形態のように、かしめ部57a1、57a2を、カシメピン挿入孔55aより回転子50の外周側に設けることにより、カシメピン挿入孔55aをかしめ部57a1、57a2より回転子50の外周側に設ける場合に比べて、回転子50の外周側に流れる高調波磁束を低減することができる。高調波磁束の低減によって、回転子50の鉄損も低減することができる。また、カシメピン挿入孔55aを外周側に設けた場合に比べて、かしめ部57a1、57a2を外周側に設けた場合の方が、回転子50の遠心力に対する影響も低減される。
また、本実施の形態では、かしめ部57a1、57a2が、主磁極部aの中心線(d軸)に対して角度を有して周方向の両側に配置されている。これにより、かしめ部57a1、57a2によって、主磁極部aの中央部への磁束の集中を妨げることがない。したがって、電動機効率が低下するのを防止することができる。
【0028】
また、回転子50の補助磁極部ab、daには、通路孔58ab、58daが、回転子50の内周側に設けられている。通路孔58ab、58daは、回転子50を軸方向に貫通する貫通孔として形成されている。通路孔58ab、58daは、補助磁極部ab、daの中心線(q軸)上に設けられている。
なお、本明細書では、「回転子50の内周側に設けられる(配置される)」という記載は、回転子50の径方向の長さ(回転子内周面と外周面との間の距離)の中心より内周側に設けられている(配置されている)ことを表している。また、「回転子の外周側に設けられている(配置されている)」という記載は、回転子50の径方向の長さの中心より外周側に設けられている(配置されている)ことを表している。
通路孔58ab、58daは、冷却媒体や潤滑油等の媒体を流す通路を形成する。
補助磁極部ab、daに通路孔58ab、58daを設けることにより、補助磁極部ab、daの外径の拡大量を低減することができる。すなわち、回転軸60を回転軸挿入孔59に挿入する時に、補助磁極部ab、daの外径を拡大する応力が発生すると、この応力は、通路孔58ab、58daの空間によって吸収される。
また、通路孔58ab、daが回転子50の内周側に設けられているため、通路孔58ab内を流れる冷却媒体や潤滑油等の媒体に作用する遠心力が、回転子50の外周側に通路孔を設けた場合に比して小さい。これにより、通路孔58ab、58da内を流れる媒体の流体抵抗が低減され、媒体が通路58ab、da内を容易に流れることができる。
【0029】
前述したように、回転軸挿入孔の内径より大きい外径を有する回転軸を回転軸挿入孔に挿入する時、回転子の径方向の外径寸法が拡大する。これにより、回転子の外周面と固定子の内周面との間の間隙(ギャップ)が狭くなる。
回転子の外周面と固定子の内周面との間の間隙が狭くなると、間隙の磁束量が増加する。この場合、永久磁石電動機の固定子コイルへの供給電圧の上限が定まっていると、永久磁石電動機の最大回転数が低下する。また、同一回転数、同一トルクで比較した場合、永久磁石電動機の仕様によっては、鉄損が増加し、電動機性能が悪化することがある。
また、誘起電圧を乱すような回転子の外径寸法の拡大は、回転子外周部に流れる高調波磁束を増加させる。これにより、鉄損が増加し、電動機効率が低下する。
また、回転子外周面と固定子内周面との間の間隙が不均一に狭くなると、音や振動が発生する虞がある。
また、状況によっては、回転子外周面と固定子内周面が接触する虞もある。
【0030】
回転軸60を回転軸挿入孔59に挿入する時に発生する応力による補助磁極部の外径の拡大量は、永久磁石が配置されている主磁極部の外径の拡大量より大きい。このため、補助磁極部ab、daに設けられている通路孔58ab、58daによって、この応力を十分に吸収することができないことが考えられる。
そこで、補助磁極部ab、daに対応する外周面(補助磁極部ab、daのq軸と交差する外周面)50AB、50DAの形状を、主磁極部aに対応する外周面(主磁極部aのd軸と交差する外周面)50Aの形状と変えている。本実施の形態では、回転軸挿入孔59の中心点(回転子50の中心点)Oと外周面50AB、50DAとの間の距離の最大値を、回転軸挿入孔59の中心点Oと外周面50Aとの間の距離の最大値より小さく設定している。言い換えれば、外周面50AB、50DAと固定子40の内周面(ティース先端面42a)との間の間隙(ギャップ)g(図3参照)の最大値を、外周面50Aと固定子40の内周面との間の間隙gの最大値より大きく設定している。
本実施の形態では、主磁極部aに対応する外周面50Aは、主磁極部aの中心線(d軸)上に曲率中心を有する円弧形状に形成されている。図4では、主磁極部aのd軸上の点O(回転子50の中心点)を曲率中心とする、半径Rdを有する円弧形状に形成されている。また、補助磁極部abに対応する外周面50ABは、補助磁極部abの中心線(q軸)上に曲率中心を有する円弧形状に形成されている。図4では、補助磁極部abのq軸上の、点Oから外周面50ABと反対側に離れている点Pを曲率中心とする、半径Rqを有する円弧形状に形成されている。ここで、半径Rqは、半径Rdより大きく設定されている(Rq>Rd)。
【0031】
このように、本実施の形態では、補助磁極部ab、daに対応する外周面50AB、50DAと固定子40の内周面との間の間隙の最大値が、主磁極部aに対応する外周面50Aと固定子40の内周面との間の間隙の最大値より大きくなるように構成されている。これにより、応力によって補助磁極部ab、daの外径が拡大された場合でも、回転子の外周面と固定子の内周面との間の間隙が不均一に狭くなるのを防止することができる。したがって、コギングトルクを低減することができ、コギングトルクに起因する音や振動を低減することができる。
外周面50Aの周方向に沿った幅(角度θで表すこともできる)あるいは外周面50ABの周方向の幅(角度で表すこともできる)は、適宜選択することができる。この場合、隣接する主磁極部a、bの磁石挿入孔51a1、51b1の回転子外周側端壁51a4、51b2に対応する箇所に外周面50ABが配置されるように、外周面50A、50Bあるいは外周面50ABが形成される。
【0032】
近年、永久磁石電動機の制御方式として、センサレス制御方式が用いられている。このセンサレス制御方式では、誘起電圧の波形が正弦波であると仮定し、入力電圧と入力電流を用いて回転子の位置を検出している。このセンサレス制御方式を用いている場合には、誘起電圧の波形に含まれる高調波成分が多くなると、回転子の位置検出制度が低下する。回転子の位置検出制度が低下すると、最適な制御を行うことができなくなり、永久磁石電動機の効率が低下する。
本実施の形態では、補助磁極部ab、daに対応する外周面50AB、50DAの曲率半径を、主磁極部aに対応する外周面50Aの曲率半径より大きく設定しているため、回転子50の外周面が、外周面50Aと外周面50AB、50DAの境界部で急激に変化していない。これにより、外周面50Aと外周面50AB、50DAの境界部が固定子40のティース42が配置されている箇所を通過する時に、固定子40のティース42に流れる磁束の急激な変化が防止される。ティース42に流れる磁束の急激な変化が防止されることにより、誘起電圧に含まれる高調波成分が少なくなる。したがって、センサレス制御方式を用いている場合でも、最適な制御を行うことができ、永久磁石電動機の効率を向上させることができる。
【0033】
本実施の形態では、主磁極部a〜dに対応する外周面50A〜50Dが、本発明の「主磁極部のd軸と交差し、外周方向に突状に形成されている第1の曲線形状の外周面」に対応する。また、補助磁極部ab〜daに対応する外周面50AB〜50DAが、本発明の「補助磁極部のq軸と交差し、外周方向の突状に形成されている第2の曲線形状の外周面」に対応する。
なお、補助磁極部ab、daに対応する外周面50AB、50DAの曲線形状や、主磁極部aに対応する外周面50Aの曲線形状は、円弧形状に限定されない。
【0034】
本実施の形態では、永久磁石52a1〜52a3が、主磁極部aに設けられている磁石挿入孔51a1に、磁石挿入孔51a1と永久磁石52a1〜52a3との間に隙間が形成されるように挿入されている。また、カシメピン56aが、主磁極部aに設けられているカシメピン挿入孔55aに、カシメピン挿入孔55aとカシメピン56aとの間に隙間が形成されるように挿入されている。また、主磁極部aに、径方向に長いかしめ部57a1、57a2が設けられている。これにより、回転軸60を回転軸挿入孔59に挿入する時に発生する、回転子50の主磁極部aの外径を拡大する応力が、磁石挿入孔51a1と永久磁石52a1〜52a3との間の隙間、カシメピン挿入孔55aとカシメピン56aとの間の隙間、径方向に長いかしめ部57a1、57a2によって吸収されるため、主磁極部aの外径の拡大量を低減することができる。
また、補助磁極部ab、daに通路孔58ab、58daが設けられている。これにより、回転軸60を回転軸挿入孔59に挿入する時に発生する、回転子50の補助磁極部ab、daの外径を拡大する応力が、通路孔58ab、58daの空間によって吸収されるため、補助磁極部ab、daの外径の拡大量を低減することができる。
また、回転子50の外周面を、主磁極部aに対応する外周面(第1の曲線形状の外周面)50Aと、補助磁極部ab、daに対応する外周面(第2の曲線形状の外周面)50AB、50DAにより構成している。そして、外周面50AB、50DAと固定子40の内周面との間の間隙の最大値を、外周面50Aと固定子40の内周面との間の間隙の最大値より大きく設定している。これにより、回転軸60を回転軸挿入孔59に挿入する時に発生する応力によって、回転子50の補助磁極部ab、daの外径が拡大された場合でも、回転子50の外周面と固定子40の内周面との間の間隙が狭くなるのを防止することができる。
したがって、電動機性能を向上させることができるとともに、永久磁石の割れや欠けの発生、音や振動の発生を防止することができる。
また、外周面50AB、50DAの曲率半径を、外周面50Aの曲率半径より大きく設定している。これにより、回転子50の外周面が、外周面50Aと外周面50AB、50DAとの境界部で急激に変化するのを防止している。したがって、ティース42に流れる磁束の急激な変化を防止することができ、誘起電圧に含まれる高調波成分を低減することができる。
また、カシメピン挿入孔55a及びかしめ部57a1、57a2が、主磁極部aの、磁石挿入孔51a1より外周側に設けられている。これにより、主磁極部aの磁石挿入孔51a1より外周側の磁気抵抗を高くすることができる。したがって、音や振動の発生要因となる磁束を低減することができる。
また、カシメピン挿入孔55aが磁石挿入孔51a1より外周側に設けられている。これにより、回転子50の、磁石挿入孔51a1より外周側の箇所が軸方向に膨らむのを防止することができる。
また、かしめ部57a1、57a2が、カシメピン挿入孔55aより外周側に設けられている。これにより、回転子50の外周側に流れる高調波磁束を低減することができ、回転子50の鉄損を低減することができる。
【0035】
[第2の実施の形態]
本発明の第2の実施の形態の永久磁石電動機の回転子150を図5に示す。図5は、本実施の形態の回転子150の横断面図である。
本実施の形態の回転子150の回転軸挿入孔159には、回転軸挿入孔159の内径より大きい外径を有する回転軸160が挿入される。
主磁極部aには、弓形形状に形成された磁石挿入孔151a1が設けられている。弓形形状は、回転子150の内周方向に突状(外周方向に凹状)に形成されている。
磁石挿入孔151a1には、弓形形状の永久磁石152aが挿入されている。永久磁石152aは、磁石挿入孔151a1と永久磁石152aとの間に隙間が形成されように、磁石挿入孔151a1に挿入される。磁石挿入孔151a1と永久磁石152aとの間に隙間が形成されるように、永久磁石152aを磁石挿入孔151a1に挿入する方法としては、例えば、「隙間ばめ方法」を用いることができる。
磁石挿入孔151a1の回転子外周側端壁151a2、151a3と回転子150の外周面(図5では、150DA、150AB)との間には、ブリッジ153a1、153a2が設けられている。
【0036】
主磁極部aには、磁石挿入孔151a1より外周側に、周方向に長いかしめ部157aが設けられている。
また、主磁極部aには、かしめ部157aより外周側(回転子150の外周側)に、カシメピン挿入孔155aが設けられている。カシメピン挿入孔155aには、カシメピン156aが挿入される。本実施の形態では、カシメピン156aは、カシメピン挿入孔155aとカシメピン156aとの間に隙間が形成されるように、カシメピン挿入孔155aに挿入される。カシメピン挿入孔155aとカシメピン156aとの間に隙間が形成されるように、カシメピン156aをカシメピン挿入孔155aに挿入する方法としては、例えば、「隙間ばめ方法」を用いることができる。
カシメピン挿入孔155aが回転子150の外周側に配置される場合、かしめピン挿入孔155aに挿入されるカシメピン156aも回転子150の外周側に配置される。これにより、回転子150の回転バランスが良好となるため、バランスウェイト54a(図2参照)の高さを低くすることができる。したがって、回転子150の軸方向の長さを短くすることができ、回転子150を小型化することができる。
かしめ部157a、カシメピン挿入孔155aは、主磁極部aの中心線(d軸)上に配置されている。
また、主磁極部aには、かしめ部157aより外周側に、通路孔158a1、158a2が設けられている。通路孔158a1、158a2は、主磁極部aの中心線(d軸)に対して、周方向の両側に設けられている。
補助磁極部ab、daには、回転子150の内周側に、通路孔158ab、158daが設けられている。
また、補助磁極部ab、daには、通路孔158ab、158daより外周側に、径方向に長いかしめ部157ab、157daが形成されている。
通路孔158ab、158da、かしめ部157ab、157daは、補助磁極部ab、daの中心線(q軸)上に配置されている。
【0037】
回転子150の外周面は、第1の実施の形態の回転子50の外周面と同様に、主磁極部a〜dに対応する外周面(第1の曲線形状の外周面)150A〜150Dと、補助磁極部ab〜daに対応する外周面(第2の曲線形状の外周面)150AB〜150DAにより構成されている。
主磁極部aに対応する外周面150Aは、主磁極部aの中心線(d軸)上の点O(回転子150の中心点)を曲率中心とする、半径Rdを有する円弧形状に形成されている。また、補助磁極部abに対応する外周面150ABは、補助磁極部abの中心線(q軸)上の、点Oから外周面150ABと反対側に離れている点Pを曲率中心とする、半径Rqを有する円弧形状に形成されている。ここで、半径Rqは、半径Rdより大きく設定されている(Rq>Rd)。すなわち、外周面150ABと固定子40の内周面との間の間隙gの最大値は、外周面150Aと固定子40の内周面との間の間隙gの最大値より大きく設定されている。
なお、外周面150A及び150ABの曲線形状や曲率中心は、適宜設定することができる。
【0038】
本実施の形態では、回転軸160を回転軸挿入孔159に挿入する時に発生する、主磁極部aの外径を拡大する応力は、磁石挿入孔151a1と永久磁石152aとの間の隙間、カシメピン挿入孔155aとカシメピン156aとの間の隙間、通路孔158a1、158a2空間によって吸収される。これにより、応力による主磁極部aの外径の拡大量を低減することができる。
また、回転軸160を回転軸挿入孔159に挿入するときに発生する、補助磁極部ab、daの外径を拡大する応力は、通路孔158ab、158daの空間、径方向に長いかしめ部157ab、157daによって吸収される。これにより、応力による補助磁極部ab、daの外径の拡大量を低減することができる。
さらに、回転子150の外周面を、主磁極部aに対応する外周面(第1の曲線形状の外周面)150Aと、補助磁極部ab、daに対応する外周面(第2の曲線形状の外周面)150AB、150DAにより構成している。そして、外周面150AB、150DAと固定子40の内周面との間の間隙gの最大値を、外周面150Aと固定子40の内周面との間の間隙gの最大値より大きく設定している。これにより、回転軸160を回転軸挿入孔159に挿入する時に発生する応力によって、回転子150の補助磁極部ab、daの外径が拡大された場合でも、回転子150の外周面と固定子40の内周面との間の間隙が狭くなるのを防止することができる。
したがって、電動機性能を向上させることができるとともに、永久磁石の割れや破損、音や振動の発生を防止することができる。
また、外周面150AB、150DAの曲率半径を、外周面150Aの曲率半径より大きく設定している。これにより、回転子150の外周面が、外周面150Aと外周面150AB、150DAとの境界部で急激に変化するのを防止している。したがって、ティース42に流れる磁束の急激な変化を防止することができ、誘起電圧に含まれる高調波成分を低減することができる。
また、カシメピン挿入孔155a及び通路孔158a1、158a2が、主磁極部aの、磁石挿入孔151a1より外周側に設けられている。これにより、主磁極部aの磁石挿入孔151a1より外周側の磁気抵抗を高くすることができる。したがって、音や振動の発生要因となる磁束を低減することができる。
また、カシメピン挿入孔155aが回転子150の外周側に設けられている。これにより、バランスウェイトの高さを低くすることができるため、回転子150を小型化することができる。
また、カシメピン挿入孔155aが磁石挿入孔151a1より外周側に設けられている。これにより、回転子150の、磁石挿入孔151a1より外周側の箇所が軸方向に膨らむのを防止することができる。
また、通路孔158ab、158daが、かしめ部157ab、157daより内周側(回転子150の内周側)に設けられているため、通路孔158ab、158da内を流れる冷却媒体や潤滑油等の媒体に作用する遠心力を低減される。これにより、通路孔158ab、158da内を流れる媒体の流体抵抗が低減され、媒体が通路158ab、158da内を容易に流れることができる。
【0039】
[第3の実施の形態]
本発明の第3の実施の形態の永久磁石電動機の回転子250を図6に示す。図6は、本実施の形態の回転子250の横断面図である。
回転子250の回転軸挿入孔259には、回転軸挿入孔259の内径より大きい外径を有する回転軸260が挿入される。
回転子250の主磁極部aには、磁石挿入孔251a1と251a4が、V字形状に設けられている。V字形状は、回転子250の内周方向に突状(外周方向に凹状)に形成されている。磁石挿入孔251a1と251a4の間にはブリッジ253a1が設けられている。
磁石挿入孔251a1、251a4には、平形形状の永久磁石252a1、252a2が挿入される。磁石挿入孔251a1、251a4には、永久磁石252a1、252a2を位置決めするための突部251a3、251a6が形成されている。これにより、磁石挿入孔251a1、251a4の回転子外周側端壁251a2、251a5と永久磁石252a1、252a2の端部との間に空隙が形成される。この空隙によって、永久磁石252a1、252a2の磁束が短絡されるのを防止している。
永久磁石252a1、252a2は、磁石挿入孔251a1、251a4と永久磁石252a1、252a2との間に隙間が形成されるように、磁石挿入孔251a1、251a4に挿入される。例えば、「隙間ばめ」方法を用いて挿入される。
【0040】
主磁極部aには、磁石挿入孔251a1、251a4より外周側に、径方向に長いかしめ部257aが設けられている。かしめ部257aは、主磁極部aの中心線(d軸)上に設けられている。
補助磁極部ab、daには、回転子250の外周側に、カシメピン挿入孔255ab、255daが設けられている。カシメピン挿入孔255ab、255daには、カシメピン256ab、256daが挿入される。本実施の形態では、カシメピン256ab、256daは、カシメピン挿入孔255ab、255daとカシメピン256ab、256daとの間に隙間が形成されるように、カシメピン挿入孔255ab、255daに挿入される。例えば、「隙間ばめ」方法を用いて挿入される。
カシメピン挿入孔255ab、255daが回転子250の外周側に配置される場合、かしめピン挿入孔255ab、255daに挿入されるカシメピン256ab、256daも回転子250の外周側に配置される。これにより、回転子250の回転バランスが良好となるため、バランスウェイト54a(図2参照)の高さを低くすることができる。したがって、回転子250の軸方向の長さを短くすることができ、回転子250を小型化することができる。
また、補助磁極部ab、daには、カシメピン挿入孔255ab、255daより内周側に、通路孔258ab1、258ab2、258ab3、258da1、258da2、258da3が設けられている。
カシメピン挿入孔255ab、255daと、内径が大きい通路孔258ab1、258da1は、補助磁極部ab、daの中心線(q軸)上に配置されている。内径が小さい通路孔258ab2、258ab3、258da2、258da3は、補助磁極部ab、daの中心線(q軸)に対して、周方向両側に配置されている。
カシメピン挿入孔255ab、255daは回転子250の外周側に配置され、通路孔258ab1〜258ab3、258da1〜258da3は回転子250の内周側に配置されている。
【0041】
回転子250の外周面は、第1の実施の形態の回転子50の外周面と同様に、主磁極部a〜dに対応する外周面(第1の曲線形状の外周面)250A〜250Dと、補助磁極部ab〜daに対応する外周面(第2の曲線形状の外周面)250AB〜250DAにより構成されている。
主磁極部aに対応する外周面250Aは、主磁極部aの中心線(d軸)上の点O(回転子250の中心点)を曲率中心とする、半径Rdを有する円弧形状に形成されている。また、補助磁極部abに対応する外周面250ABは、補助磁極部abの中心線(q軸)上の、点Oから外周面250ABと反対側に離れている点Pを曲率中心とする、半径Rqを有する円弧形状に形成されている。ここで、半径Rqは、半径Rdより大きく設定されている(Rq>Rd)。すなわち、外周面250ABと固定子40の内周面との間の間隙gの最大値は、外周面250Aと固定子40の内周面との間の間隙gの最大値より大きく設定されている。
なお、外周面250A及び250ABの曲線形状や曲率中心は、適宜設定することができる。
【0042】
磁石挿入孔251a1、251a4に挿入されている永久磁石252a1、252a2から発生する磁束が固定子40のティース42を介して短絡されると、ティース42を流れる磁束が変動し、コギングトルクが発生する。コギングトルクが発生すると、音や振動が発生する。
そこで、本実施の形態では、補助磁極部ab、daに対応する外周面(第2の曲線形状の外周面)250AB、250DAには、磁石挿入孔251a1、251a4の回転子外周側端壁251a2、251a5と対向する箇所に切欠部250a1、250a2が設けられている。切欠部250a1、250a2の周方向に沿った幅A(角度で表すこともできる)、深さhの最小値は、永久磁石252a1、252a2から発生する磁束が、ティース42を介して短絡されるのを防止することができるように設定される。この時、電動機効率も考慮して設定される。なお、切欠部250a1、250a2の周方向に沿った幅A(角度で表すこともできる)は、磁石挿入孔251a1、251a4の回転子外周側端壁251a2、252a5の周方向に沿った幅(角度で表すこともできる)より大きく設定される。
切欠部250a1、250a2の深さhは、補助磁極部ab、daに対応する外周面250AB、250DA(外周面250AB、250DAに対応する仮想外周面)と切欠部250a1、250a2の底部との間の距離である。
【0043】
本実施の形態では、回転軸260を回転軸挿入孔259に挿入する時に発生する、主磁極部aの外径を拡大する応力は、磁石挿入孔251a1と永久磁石252aとの間の隙間、径方向に長いかしめ部257aによって吸収される。これにより、応力による主磁極部aの外径の拡大量を低減することができる。
また、回転軸260を回転軸挿入孔259に挿入するときに発生する、補助磁極部ab、daの外径を拡大する応力は、通路孔258ab1〜258ab3の空間及びカシメピン挿入孔255abとカシメピン256abとの間の隙間、通路孔258da1〜258da3の空間及びカシメピン挿入孔255daとカシメピン256daとの間の隙間によって吸収される。これにより、応力による補助磁極部ab、daの外径の拡大量を低減することができる。
さらに、回転子250の外周面を、主磁極部aに対応する外周面(第1の曲線形状の外周面)250Aと、補助磁極部ab、daに対応する外周面(第2の曲線形状の外周面)250AB、250DAにより構成している。そして、外周面250AB、250DAと固定子40の内周面との間の間隙gの最大値を、外周面250Aと固定子40の内周面との間の間隙gの最大値より大きく設定している。これにより、回転軸260を回転軸挿入孔259に挿入する時に発生する応力によって、回転子250の補助磁極部ab、daの外径が拡大された場合でも、回転子250の外周面と固定子40の内周面との間の間隙が狭くなるのを防止することができる。
したがって、電動機性能を向上させることができるとともに、永久磁石の割れや破損、音や振動の発生を防止することができる。
また、外周面250AB、250DAの曲率半径を、外周面250Aの曲率半径より大きく設定している。これにより、回転子250の外周面が、外周面250Aと外周面250AB、250DAとの境界部で急激に変化するのを防止している。したがって、ティース42に流れる磁束の急激な変化を防止することができ、誘起電圧に含まれる高調波を低減することができる。
また、カシメ部257aが、主磁極部aの、磁石挿入孔251a1、251a4より外周側に設けられている。これにより、主磁極部aの磁石挿入孔251a1、251a4より外周側の磁気抵抗を高くすることができる。したがって、外周側を流れる、音や振動の発生要因となる磁束を低減することができる。
また、カシメピン挿入孔255ab、255daが補助磁極ab、daに設けられている。これにより、回転子250の内周面と外周面が直接連結されている補助磁極部ab、daの箇所において、カシメピン256ab、256daによって回転子が一体化される。したがって、回転子250の剛体強度が増加する。
また、カシメピン挿入孔255ab、255daが回転子250の外周側に設けられている。これにより、バランスウェイトの高さを低くすることができるため、バランスウェイトを小型化することができる。したがって、回転子250の軸方向の長さを短くすることができ、回転子250を小型化することができる。
また、通路孔258ab1〜258ab3、258da1〜258da3がカシメピン挿入孔255ab、255daより内周側(回転子の内周側)に設けられているため、通路孔258ab1〜258ab3、258da1〜258da3内を流れる冷却媒体や潤滑油等の媒体に作用する遠心力が低減される。これにより、通路孔258ab1〜258ab3、258da1〜258da3内を流れる媒体の流体抵抗が低減されるため、媒体が通路258ab1〜258ab3、258da1〜258da3内を容易に流れることができる。
また、補助磁極部ab、daに対応する外周面(第2の曲線形状の外周面)250AB、250DAには、磁石挿入孔251a1、251a4の回転子外周側端壁251a2、251a5と対向する箇所に切欠部250a1、250a2が設けられている。これにより、永久磁石の磁束が固定子40のティース42を介して短絡されるのを防止することができ、コギングトルクを低減することができる。したがって、コギングトルクに起因する音や振動を低減することができる。
【0044】
[第4の実施の形態]
本発明の第4の実施の形態の永久磁石電動機の回転子350を図7に示す。図7は、本実施の形態の回転子350の横断面図である。
回転子350の回転軸挿入孔359には、回転軸挿入孔359の内径より大きい外径を有する回転軸360が挿入される。
回転子350の主磁極部aには、台形形状の磁石挿入孔351a1が設けられている。台形形状は、回転子350の内周方向の突状(外周方向に凹状)に形成されている。磁石挿入孔351a1には、3個の平形形状の永久磁石352a1、352a2、352a3が挿入される。磁石挿入孔351a1には、永久磁石351a1〜351a3を位置決めするための突部351a3、351a5が形成されている。永久磁石352a1〜352a3は、磁石挿入孔351a1と永久磁石352a1〜352a3との間に隙間が形成されるように、磁石挿入孔351a1に挿入される。例えば、「隙間ばめ」方法を用いて挿入される。
回転子350の主磁極部a、補助磁極部ab、daには、第3の実施の形態の回転子250と同様に、かしめ部、カシメピン挿入孔、通路孔が設けられている。
主磁極部aには、磁石挿入孔351a1より外周側に、径方向に長いかしめ部357aが設けられている。
補助磁極部ab、daには、回転子350の外周側に、カシメピン挿入孔355ab、355daが設けられている。また、補助磁極部ab、daには、カシメピン挿入孔355ab、355daより内周側に、通路孔358ab1、358ab2、358ab3、358da1、358da2、358da3が設けられている。カシメピン挿入孔355ab、355daには、カシメピン356ab、356daが、カシメピン挿入孔355ab、355daとカシメピン356ab、356daとの間に隙間が形成されるように、挿入される。例えば、「隙間ばめ」方法を用いて挿入される。
カシメピン挿入孔355ab、355daが回転子350の外周側に配置される場合、かしめピン挿入孔355ab、355daに挿入されるカシメピン356ab、356daも回転子350の外周側に配置される。これにより、回転子350の回転バランスが良好となるため、バランスウェイト24a(図2参照)の高さを低くすることができる。したがって、回転子350の軸方向の長さを短くすることができ、回転子350を小型化することができる。
【0045】
また、回転子350の外周面は、主磁極部a〜dに対応する外周面(第1の曲線形状の外周面)350A〜350Dと、補助磁極部ab〜daに対応する外周面(第2の曲線形状の画哀愁面)350AB〜350DAにより構成されている。
回転子350の中心点Oと補助磁極部abに対応する外周面350ABとの間の距離の最大値は、回転子350の中心点0と主磁極部aに対応する外周面350Aとの間の距離の最大値より大きく設定されている。すなわち、外周面350ABと固定子40の内周面との間の間隙gの最大値は、外周面350Aと固定子40の内周面との間の間隙gの最大値より大きく設定されている。
本実施の形態では、主磁極部aに対応する外周面350Aは、主磁極部aの中心線(d軸)上の点O(回転子350の中心点)を曲率中心とする、半径Rdを有する円弧形状に形成されている。また、補助磁極部abに対応する外周面350ABは、補助磁極部abの中心線(q軸)上の点O(回転子350の中心点)を曲率中心とする、半径Rqを有する円弧形状に形成されている。ここで、半径Rqは半径Rdより小さく設定されている(Rq<Rd)。言い換えれば、補助磁極部abに対応する外周面350ABは、主磁極部aに対応する外周面350A(外周面350Aに対応する仮想外周面)を切り欠いた切欠部350abの底面である。
外周面350Aの周方向に沿った幅(角度θで表すこともできる)あるいは外周面350ABの周方向に沿った幅(角度で表すこともできる)は、永久磁石から発生する磁束が、ティース42を介して短絡されるのを防止することができるように設定される。この場合、隣接する主磁極部a、bの磁石挿入孔351a1、351b1の回転子外周側端壁に対応する箇所に外周面350ABが配置されるように、外周面350Aあるいは外周面350ABが形成される。
【0046】
本実施の形態では、回転軸360を回転軸挿入孔359に挿入する時に発生する、主磁極部aの外径を拡大する応力は、磁石挿入孔351a1と永久磁石352a1〜352a3との間の隙間、径方向に長いかしめ部357aによって吸収される。これにより、応力による主磁極部aの外径の拡大量を低減することができる。
また、回転軸360を回転軸挿入孔359に挿入するときに発生する、補助磁極部ab、daの外径を拡大する応力は、通路孔358ab1〜358ab3の空間及びカシメピン挿入孔355abとカシメピン356abとの間の隙間、通路孔358da1〜358da3の空間及びカシメピン挿入孔355daとカシメピン356daとの間の隙間によって吸収される。これにより、応力による補助磁極部ab、daの外径の拡大量を低減することができる。
さらに、回転子350の外周面を、主磁極部aに対応する外周面(第1の曲線形状の外周面)350Aと、補助磁極部ab、daに対応する外周面(第2の曲線形状の外周面)350AB、350DAにより構成している。そして、外周面350AB、350DAと固定子40の内周面との間の間隙gの最大値を、外周面350Aと固定子40の内周面との間の間隙gの最大値より大きく設定している。これにより、回転軸360を回転軸挿入孔359に挿入する時に発生する応力によって、回転子350の補助磁極部ab、daの外径が拡大された場合でも、回転子350の外周面と固定子40の内周面との間の間隙が狭くなるのを防止することができる。
したがって、電動機性能を向上させることができるとともに、永久磁石の割れや破損、音や振動の発生を防止することができる。
また、カシメ部357aが、主磁極部aの、磁石挿入孔351a1より外周側に設けられている。これにより、主磁極部aの磁石挿入孔351a1より外周側の磁気抵抗を高くすることができる。したがって、外周側を流れる、音や振動の発生要因となる磁束を低減することができる。
また、カシメピン挿入孔355ab、355daが補助磁極ab、daに設けられている。これにより、回転子350の内周面と外周面が直接連結されている補助磁極部ab、daの箇所において、カシメピン356ab、356daによって回転子が一体化される。したがって、回転子350の剛体強度が増加することができる。
また、カシメピン挿入孔355ab、355daが、回転子350の外周側に設けられている。これにより、バランスウェイトの高さを低くすることができるため、回転子350を小型化することができる。
また、通路孔358ab1〜358ab3、358da1〜358da3がカシメピン挿入孔355ab、355daより内周側(回転子350の内周側)に設けられているため、通路孔358ab1〜358ab3、358da1〜358da3内を流れる冷却媒体や潤滑油等の媒体に作用する遠心力が低減される。これにより、通路孔358ab1〜358ab3、358da1〜358da3内を流れる媒体の流体抵抗が低減されるため、媒体が通路358ab1〜358ab3、358da1〜358da3内を容易に流れることができる。
また、磁石挿入孔351a1の回転子外周側端壁351a2、351a4と対向する箇所に切欠部350da、350abが設けられている。これにより、永久磁石の磁束が固定子40のティース42を介して短絡されるのを防止することができ、コギングトルクを低減することができる。したがって、コギングトルクに起因する音や振動を低減することができる。
【0047】
以上では、本発明の技術を、補助磁極部に対応する外周面の形状が、主磁極部に対応する外周面の形状と異なっている回転子に適用した場合について説明した。
本発明の技術は、補助磁極部に対応する外周面の形状が主磁極部に対応する外周面の形状と同じである回転子にも適用することができる。
【0048】
[第5の実施の形態]
本発明の第5の実施の形態の永久磁石電動機の回転子450を図8に示す。図8は、回転子450の横断面図である。
回転子450の外周面は、主磁極部a〜dに対応する外周面450A〜450Dと、補助磁極部ab〜daに対応する外周面450AB〜450DAにより構成されている。外周面450A〜450D及び450AB〜450DAは、回転軸挿入孔459の中心点(回転子450の中心点)Oを曲率中心とする、半径Rを有する円弧形状に形成されている。
主磁極部aには、台形形状の磁石挿入孔451a1が設けられている。台形形状は、回転子450の内周方向の突状(外周方向に凹状)に形成されている。磁石挿入孔451a1には、3個の平板形状の永久磁石452a1〜452a3が挿入される。磁石挿入孔451a1には、永久磁石452a1〜452a3を位置決めするための突部451a3、451a5が形成されている。永久磁石452a1〜452a3は、磁石挿入孔451a1と永久磁石452a1〜452a3との間に隙間が形成されるように、磁石挿入孔451a1に挿入される。例えば、「隙間ばめ」方法を用いて挿入される。
磁石挿入孔451a1の回転子外周側端壁451a2、451a4と回転子450の外周面との間には、ブリッジ453a1〜453a4を介して空隙451a6、451a7が設けられている。
主磁極部aには、磁石挿入孔451a1より外周側に、カシメピン挿入孔455aが設けられている。カシメピン挿入孔455aは、主磁極部aの中心線(d軸)上に配置されている。また、主磁極部aには、カシメピン挿入孔455aより外周側に、径方向に長いかしめ部457a1、457a2が設けられている。かしめ部457a1、457a2は、主磁極部aの中心線(d軸)に対して、周方向の両側に設けられている。カシメピン挿入孔455aには、カシメピン456aが、カシメピン挿入孔455aとカシメピン456aとの間に隙間が形成されるように挿入される。例えば、「隙間ばめ」方法を用いて挿入される。
補助磁極部ab、daには、回転子450の内周側に、通路孔458ab、458daが設けられている。通路孔458ab、458daは、補助磁極部ab、daの中心線(q軸)上に、回転子450の内周側に設けられている。
【0049】
本実施の形態では、回転軸460を回転軸挿入孔459に挿入する時に発生する、主磁極部aの外径を拡大する応力は、磁石挿入孔451a1と永久磁石452a1〜452a3との間の隙間、カシメピン挿入孔455aとカシメピン456aとの間の隙間、径方向に長いかしめ部457a1、457a2によって吸収される。これにより、応力による主磁極部aの外径の拡大量を低減することができる。
また、回転軸460を回転軸挿入孔459に挿入するときに発生する、補助磁極部ab、daの外径を拡大する応力は、通路孔458ab、458daの空間によって吸収される。これにより、応力による補助磁極部ab、daの外径の拡大量を低減することができる。
したがって、電動機性能を向上させることができるとともに、永久磁石の割れや破損、音や振動の発生を防止することができる。
また、カシメピン挿入孔455a及びカシメ部457a1、457a2が、主磁極部aの、磁石挿入孔451a1より外周側に設けられている。これにより、主磁極部aの磁石挿入孔451a1より外周側の磁気抵抗を高くすることができる。したがって、外周側を流れる、音や振動の発生要因となる磁束を低減することができる。
また、カシメピン挿入孔455aが磁石挿入孔451a1より外周側に設けられている。これにより、回転子450の、磁石挿入孔451a1より外周側の箇所が軸方向に膨らむのを防止することができる。
また、かしめ部457a1、457a2が、カシメピン挿入孔455aより外周側に設けられている。これにより、回転子50の外周側に流れる高調波磁束を低減することができ、回転子50の鉄損を低減することができる。
また、通路孔458ab、458daが、回転子450の内周側に設けられているため、通路孔458ab、458da内を流れる冷却媒体や潤滑油等の媒体に作用する遠心力が低減される。これにより、通路孔458ab、458da内を流れる媒体の流体抵抗が低減されるため、媒体が通路458ab、458da内を容易に流れることができる。
【0050】
[第6の実施の形態]
本発明の第6の実施の形態の永久磁石電動機の回転子550を図9に示す。図9は、本実施の形態の回転子550の横断面図である。
回転子550の外周面は、主磁極部a〜dに対応する外周面550A〜550Dと、補助磁極部ab〜daに対応する外周面550AB〜550DAにより構成されている。外周面550A〜550D及び550AB〜550DAは、回転子550の中心点Oを曲率中心とする、半径Rを有する円弧形状に形成されている。
主磁極部aには、台形形状の磁石挿入孔551a1が設けられている。磁石挿入孔551a1には、3個の平板形状の永久磁石552a1〜552a3が挿入される。磁石挿入孔551a1には、永久磁石552a1〜552a3を位置決めするための突部551a3、551a5が形成されている。永久磁石552a1〜552a3は、磁石挿入孔551a1と永久磁石552a1〜552a3との間に隙間が形成されるように、磁石挿入孔551a1に挿入される。例えば、「隙間ばめ」方法を用いて挿入される。
磁石挿入孔551a1の回転子外周側端壁551a2、551a4と回転子550の外周面との間には、ブリッジ553a1〜553a4を介して空隙551a6、551a7が設けられている。
主磁極部aには、磁石挿入孔551a1より外周側に、径方向に長いかしめ部557aが設けられている。かしめ部557aは、主磁極部aの中心線(d軸)上に配置されている。
補助磁極部ab、daには、回転子550の外周側に、カシメピン挿入孔555ab、555daが設けられている。また、補助磁極部ab、daには、カシメピン挿入孔555ab、555daより内周側に、径方向に長いかしめ部557ab、557daが設けられている。また、補助磁極部ab、daには、かしめ部557ab、557daより内周側に、通路孔558ab1、558ab2、558da1、558da2が設けられている。カシメピン挿入孔555ab、555da、かしめ部557ab、557daは、補助磁極部ab、daの中心線(q軸)上に配置されている。通路孔558ab1、558ab2、558da1、558da2は、補助磁極部ab、daの中心線(q軸)に対して、周方向の両側に配置されている。そして、カシメピン挿入孔555ab、555daには、カシメピン556ab、556daが、カシメピン挿入孔555ab、555daとカシメピン556ab、556daとの間に隙間が形成されるように挿入される。例えば、「隙間ばめ」方法を用いて挿入される。
カシメピン挿入孔555ab、555daが回転子550の外周側に配置される場合、かしめピン挿入孔555ab。555daに挿入されるカシメピン556ab、556daも回転子550の外周側に配置される。これにより、回転子550の回転バランスが良好となるため、バランスウェイト54a(図2参照)の高さを低くすることができる。したがって、回転子550の軸方向の長さを短くすることができ、回転子550を小型化することができる。
【0051】
本実施の形態では、回転軸560を回転軸挿入孔559に挿入する時に発生する、主磁極部aの外径を拡大する応力は、磁石挿入孔551a1と永久磁石552a1〜552a3との間の隙間、径方向に長いかしめ部557aによって吸収される。これにより、応力による主磁極部aの外径の拡大量を低減することができる。
また、回転軸560を回転軸挿入孔559に挿入するときに発生する、補助磁極部ab、daの外径を拡大する応力は、通路孔558ab1、558ab2、558da1、558da2の空間、径方向に長いかしめ部557ab、557da、カシメピン挿入孔555abとカシメピン556abとの間の隙間、カシメピン挿入孔555daとカシメピン556daとの間の隙間によって吸収される。これにより、応力による補助磁極部ab、daの外径の拡大量を低減することができる。
したがって、電動機性能を向上させることができるとともに、永久磁石の割れや破損、音や振動の発生を防止することができる。
また、カシメ部557aが、主磁極部aの、磁石挿入孔551a1より外周側に設けられている。これにより、主磁極部aの磁石挿入孔551a1より外周側の磁気抵抗を高くすることができる。したがって、外周側を流れる、音や振動の発生要因となる磁束を低減することができる。
また、かしめ部557aが、回転子550の外周側に設けられている。これにより、回転子550の外周側に流れる高調波磁束を低減することができ、回転子550の鉄損を低減することができる。
また、カシメピン挿入孔555ab、555daが補助磁極ab、daに設けられている。これにより、回転子550の内周面と外周面が直接連結されている補助磁極部ab、daの箇所において、カシメピン556ab、556daによって回転子が一体化される。したがって、回転子550の剛体強度が増加することができる。
また、カシメピン挿入孔555ab、555daが、回転子550の外周側に設けられている。これにより、バランスウェイトの高さを低くすることができるため、回転子550を小型化することができる。
また、通路孔558ab1、558ab2、558da1、558da2が、回転子550の内周側に設けられているため、通路孔558ab1、558ab2、558da1、558da2内を流れる冷却媒体や潤滑油等の媒体に作用する遠心力が低減される。これにより、通路孔558ab1、558ab2、558da1、558da2内を流れる媒体の流体抵抗が低減されるため、媒体が通路558ab1、558ab2、558da1、558da2内を容易に流れることができる。
【0052】
[第7の実施の形態]
本発明の第7の実施の形態の永久磁石電動機の回転子650を図10に示す。図10は、本実施の形態の回転子650の横断面図である。
回転子650の外周面は、主磁極部a〜dに対応する外周面650A〜650Dと、補助磁極部ab〜daに対応する外周面650AB〜650DAにより構成されている。外周面650A〜650D及び650AB〜650DAは、回転子650の中心点Oを曲率中心とする、半径Rを有する円弧形状に形成されている。
主磁極部aには、直線形状の磁石挿入孔651a1が設けられている。直線形状は、回転子650の径方向に直交するように形成されている。磁石挿入孔651a1には、平形形状の永久磁石652aが挿入される。磁石挿入孔651a1には、永久磁石652aを位置決めするための突部651a3、651a5が形成されている。これにより、永久磁石652aの端部と磁石挿入孔651a1の回転子外周側端壁651a2、651a4との間に空隙が形成される。永久磁石652aは、磁石挿入孔651a1と永久磁石652aとの間に隙間が形成されるように、磁石挿入孔651a1に挿入される。例えば、「隙間ばめ」方法を用いて挿入される。
主磁極部aには、磁石挿入孔651a1より内周側に、通路孔658aが設けられている。
補助磁極部ab、daには、回転子650の外周側に、径方向に長いかしめ部657ab、657daが設けられている。また、補助磁極部ab、daには、かしめ部657ab、657daより内周側にカシメピン挿入孔655ab、655daが設けられている。カシメピン挿入孔655ab、655da、かしめ部657ab、657daは、補助磁極部ab、daの中心線(q軸)上に配置されている。そして、カシメピン挿入孔655ab、655daには、カシメピン656ab、656daが、カシメピン挿入孔655ab、655daとカシメピン656ab、656daとの間に隙間が形成されるように挿入される。例えば、「隙間ばめ」方法を用いて挿入される。
さらに、回転子650の外周面には、磁石挿入孔651a1の回転子外周側端壁651a2、651a4と対向する箇所に、切欠部650a1、650a2が形成されている。切欠部650a1、650a2の幅(あるいは角度)A、深さhの最小値は、永久磁石652aから発生する磁束が、ティース42を介して短絡されるのを防止することができるように設定される。この時、電動機効率も考慮して設定される。なお、切欠部650a1、650a2の周方向に沿った幅A(角度で表すこともできる)は、磁石挿入孔651a1の回転子外周側端壁651a2、651a4の周方向に沿った幅(角度で表すこともできる)より大きく設定される。
切欠部650a1、650a2の深さhは、回転子650の主磁極部aに対応する外周面650A(外周面650Aに対応する仮想外周面)を切り欠いた切欠部650a1、650a2の底部との間の距離である。
【0053】
本実施の形態では、回転軸660を回転軸挿入孔659に挿入する時に発生する、主磁極部aの外径を拡大する応力は、磁石挿入孔651a1と永久磁石652aとの間の隙間、通路孔658aによって吸収される。これにより、応力による主磁極部aの外径の拡大量を低減することができる。
また、回転軸660を回転軸挿入孔659に挿入するときに発生する、補助磁極部ab、daの外径を拡大する応力は、カシメピン挿入孔655ab、655daとカシメピン656ab、656daとの間の隙間、径方向に長いかしめ部657ab、657daによって吸収される。これにより、応力による補助磁極部ab、daの外径の拡大量を低減することができる。
したがって、電動機性能を向上させることができるとともに、永久磁石の割れや破損、音や振動の発生を防止することができる。
また、かしめ部657ab、657daが、回転子650の外周側に設けられている。これにより、回転子650の外周側に流れる高調波磁束を低減することができ、回転子650の鉄損を低減することができる。
また、カシメピン挿入孔655ab、655daが補助磁極部ab、daに設けられている。これにより、回転子650の内周面と外周面が直接連結されている補助磁極部ab、daの箇所において、カシメピン656ab、656daによって回転子が一体化される。したがって、回転子650の剛体強度が増加することができる。
また、通路孔658aが、回転子650の内周側に設けられているため、通路孔658a内を流れる冷却媒体や潤滑油等の媒体に作用する遠心力が低減される。これにより、通路孔658a内を流れる媒体の流体抵抗が低減されるため、媒体が通路658a内を容易に流れることができる。
また、かしめ部657ab、657daが、カシメピン挿入孔655ab、655daより外周側に設けられている。これにより、回転子650の外周側の磁気抵抗が増加する。したがって、外周側を流れる、音や振動の発生要因となる磁束を低減することができる。
【0054】
本発明は、回転子の主磁極部に関しては、少なくとも、磁石挿入孔と永久磁石との間に隙間を形成する構成を用いていればよい。そして、この構成に加えて、種々の他の構成を用いることができる。例えば、カシメピン挿入孔、通路孔あるいは径方向に長いかしめ部を、磁石挿入孔の外周側あるいは内周側に設ける構成のいずれか一つあるいは複数の組み合わせを用いることができる。なお、カシメピン挿入孔には、カシメピン挿入孔とカシメピンとの間に隙間が形成されように、カシメピンが挿入される。
また、回転子の補助磁極部に関しては、カシメピン挿入孔、通路孔あるいは径方向に長いかしめ部を設ける構成のいずれか一つあるいは複数の組み合わせを用いることができる。そして、この構成に加えて、補助磁極部に対応する外周面と固定子の内周面との間の間隙の最大値を、主磁極部に対応する外周面と固定子の内周面との間の間隙の最大値より大きく設定する構成や、回転子の外周面に、磁石挿入孔の回転子外周側端端壁と対向する箇所に切欠部を設ける構成を用いることができる。
主磁極部に関する前記構成及び補助磁極部に関する前記構成を組み合わせることによって、各組み合わせそれぞれに固有の効果を得ることができる。
なお、カシメピン挿入孔、通路孔、かしめ部の大きさ、配設位置、数は、適宜選択することができる。
【0055】
本発明は、実施の形態で説明した構成に限定されず、種々の変更、追加、削除が可能である。
例えば、磁石挿入孔の形状、配設位置、数等は適宜選択することができる。磁石挿入孔に挿入する永久磁石の形状、数等は、適宜選択することができる。永久磁石の材料は、適宜選択することができる。
回転子や固定子の構成は、実施の形態で説明した構成に限定されない。
本発明の永久磁石回転機は、圧縮機以外の種々の装置の駆動用電動機として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の永久磁石回転機を用いた圧縮機の縦断面図である。
【図2】本発明の永久磁石回転機の回転子の縦断面図である。
【図3】第1の実施の形態の固定子及び回転子の横断面図である。
【図4】第1の実施の形態の回転子の横断面図である。
【図5】第2の実施の形態の回転子の横断面図である。
【図6】第3の実施の形態の回転子の横断面図である。
【図7】第4の実施の形態の回転子の横断面図である。
【図8】第5の実施の形態の回転子の横断面図である。
【図9】第6の実施の形態の回転子の横断面図である。
【図10】第7の実施の形態の回転子の横断面図である。
【図11】従来例の回転子の横断面図である。
【符号の説明】
【0057】
10 圧縮機
20 圧縮機構部
11 密閉ケース
12 吐出口
30 永久磁石電動機
40 固定子
41 固定子コイル
42 ティース
43 スロット
50、150、250、350、450、550、650、850 回転子
50A、〜50D、150A〜150D、250A〜250D、350A〜350D 第1の曲線形状の外周面
50AB〜50DA、150AB〜150DA、250AB〜250DA、350AB〜350DA 第2の曲線形状の外周面
51、51a1〜51d1、151a1〜151d1、251a1〜251d1、251a4〜251d4、351a1〜351d1、451a1〜451d1、551a1〜551d1、651a1〜651d1、851a〜851d 磁石挿入孔
51a2、51a4、51b2、151a2、151a3、251a2、251a5、351a2、351a4、451a2、451a4、551a2、551a4、651a2、651a4 磁石挿入孔の回転子外周側端壁
51a3、51a5、251a3、251a6、351a3、351a5、451a3、451a5、551a3、551a5、651a3、651a5 突部
51a6、51a7、451a6、451a7、551a6、551a7 空隙
52a1〜52a3、152a1、252a1、252a2、352a1〜352a3、452a1〜452a3、552a1〜552a3、652a1、852a〜852d 永久磁石
53a1〜53a4、153a1、153a2、253a1〜253a3、353a1、353a2、453a1〜453a4、553a1〜553a4、653a1、653a2 ブリッジ
54 端板
54a バランスウェイト
55、55a、155a、255ab、255da、355ab、355da、455a、555ab、555da、655ab、655da、855a〜855d カシメピン挿入孔
56、56a、156a、256ab、256da、356ab、356da、456a556ab、556da、656ab、656da、856a〜856d カシメピン
57a1、57a2、157a、157ab、157da、257a、357a、457a1、457a2、557a、557ab、557da、657ab、657da、857ab〜857da かしめ部
58ab、58da、158a1、158a2、158ab、158da、258ab1〜258ab3、258da1〜258da3、358ab1〜358ab3、358da1〜358da3、458ab、458da、558ab1、558ab2、558da1、558da2、658a、858abないし858da 通路孔
59、159、259、359、459、559、659、859 回転軸挿入孔
60、160、260、360、460、56、660、860 回転軸
250a1、250a2、650a1、650a2 切欠部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子と、回転子を備え、回転子には、回転軸が挿入される回転軸挿入孔、永久磁石が挿入される磁石挿入孔及びカシメピンが挿入されるカシメピン挿入孔が軸方向に設けられており、回転軸挿入孔には、回転軸挿入孔の内径より大きい外径を有する回転軸が挿入される永久磁石回転機であって、
回転子には、軸方向に直角な断面で見て、磁石挿入孔が設けられている主磁極部と、補助磁極部が周方向に沿って交互に配置されており、
カシメピン挿入孔は、回転子の補助磁極部に設けられており、
永久磁石は、磁石挿入孔と永久磁石との間に隙間が形成されるように磁石挿入孔に挿入され、
カシメピンは、カシメピン挿入孔とカシメピンとの間に隙間が形成されるようにカシメピン挿入孔に挿入されている、
ことを特徴とする永久磁石回転機。
【請求項2】
請求項1に記載の永久磁石回転機であって、回転子の補助磁極部には、通路孔が軸方向に設けられていることを特徴とする永久磁石回転機。
【請求項3】
請求項2に記載の永久磁石回転機であって、通路孔は、カシメピン挿入孔より回転子の内周側に設けられていることを特徴とする永久磁石回転機。
【請求項4】
固定子と、回転子を備え、回転子には、回転軸が挿入される回転軸挿入孔、永久磁石が挿入される磁石挿入孔、カシメピンが挿入されるカシメピン挿入孔及び通路孔が軸方向に設けられており、回転軸挿入孔には、回転軸挿入孔の内径より大きい外径を有する回転軸が挿入される永久磁石回転機であって、
回転子には、軸方向に直角な断面で見て、磁石挿入孔が設けられている主磁極部と、補助磁極部が周方向に沿って交互に配置されており、
カシメピン挿入孔は、回転子の主磁極部に、磁石挿入孔より回転子の外周側に設けられており、
通路孔は、回転子の補助磁極部に設けられており、
永久磁石は、磁石挿入孔と永久磁石との間に隙間が形成されるように磁石挿入孔に挿入され、
カシメピンは、カシメピン挿入孔とカシメピンとの間に隙間が形成されるようにカシメピン挿入孔に挿入されている、
ことを特徴とする永久磁石回転機。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の永久磁石回転機であって、回転子の主磁極部あるいは補助磁極部の少なくとも一方には、回転子の径方向に長いかしめ部が設けられていることを特徴とする永久磁石回転機。
【請求項6】
請求項5に記載の永久磁石回転機であって、かしめ部は、カシメピン挿入孔あるいは通路孔より回転子の外周側に設けられていることを特徴とする永久磁石回転機。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の永久磁石回転機であって、
回転子の外周面は、軸方向に直角な断面で見て、主磁極部のd軸と交差し、外周方向に突状に形成されている第1の曲線形状の外周面と、補助磁極部のq軸と交差し、外周方向に突状に形成されている第2の曲線形状の外周面により構成されており、
第2の曲線形状の外周面と固定子の内周面との間の距離の最大値が、第1の曲線形状の外周面と固定子の内周面との間の距離の最大値より大きく設定されている、
ことを特徴とする永久磁石回転機。
【請求項8】
請求項7に記載の永久磁石回転機であって、第2の曲線形状の外周面の曲率半径は、第1の曲線形状の外周面の曲率半径より大きく設定されていることを特徴とする永久磁石回転機。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の永久磁石回転機であって、回転子の外周面には、磁石挿入孔の回転子外周側端壁と対向する位置に切欠部が設けられていることを特徴とする永久磁石回転機。
【請求項10】
電動機により駆動される圧縮機であって、電動機として請求項1〜9のいずれかに記載の永久磁石回転機を用いたことを特徴とする圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−159196(P2007−159196A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−347734(P2005−347734)
【出願日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(000100872)アイチエレック株式会社 (58)
【Fターム(参考)】