説明

油圧ショベルのエンジン制御装置

【課題】走行性能を確保しつつ、ショベル作業時の低燃費化および低騒音化を容易に実現する技術を提供する。
【解決手段】アイソクロナス制御またはドループ制御のうち、いずれかの制御方法を任意に選択可能なエンジン2の選択手段28と、走行装置20の走行状態を検知する走行検知手段4と、を具備する油圧ショベル1において、走行検知手段4が走行状態を検知する時には、アイソクロナス制御を選択し、出力増大時において、定格運転時のエンジン回転数を維持し、かつ、走行検知手段4が走行状態を検知しない時には、前記ドループ制御を選択し、出力増大時において、前記定格運転時のエンジン回転数に比して低いエンジン回転数とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の建設機械を駆動するエンジンの低燃費化および低騒音化するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、油圧ショベルの作業改善を目的とした技術としては、以下に示す(特許文献1)乃至(特許文献5)に開示されている技術が公知となっている。
まず、ショベル作業時の改善に関する技術が、(特許文献1)乃至(特許文献3)に本発明と同一の出願人により開示され公知となっている。
(特許文献1)では、油圧ショベルのブーム・アームの昇降および本体部の旋回等を駆動する油圧回路構造の効率化により低燃費化を図る技術が開示されている。
また、(特許文献2)および(特許文献3)では、油圧ショベルのブーム・アームの昇降を駆動する油圧回路において、油圧ポンプの流量を適正化することにより出力ロスを低減させ、低燃費化を図る技術が開示されている。
【0003】
また、走行時の改善に関する技術としては、(特許文献4)および(特許文献5)に開示され公知となっている。
(特許文献4)では、走行速度の低・高速切換または自動二速機能を有した油圧走行車両において、低速走行停止時のショックを低減させる技術が開示されている。
また、(特許文献5)では、走行時において走行系を駆動する油圧ポンプの出力を一時的に増大させる機能を具備することにより走行性能を一時的に向上可能とした技術が開示されている。
【特許文献1】特開平10−88627号公報
【特許文献2】特開2002−181004号公報
【特許文献3】特開2003−221842号公報
【特許文献4】実開平6−67904号公報
【特許文献5】実開平6−87467号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記先行技術の発明効果により、ショベル作業時においてはエンジン出力を低減させつつ必要能力が確保されるようになった。
しかしながら、油圧ショベルの登坂速度や旋回速度等の基本性能は、定格出力で決定付けられるものであり、現状においても、走行性能の確保という条件によりエンジン定格出力が決定されている。そのため、ショベル作業時においても定格出力域で運転がされ、結果として過剰出力となるために出力ロスが生じている。
そして、この過剰出力に起因する出力ロスについては、前記先行技術では改善されるものではなく、未だ改善の余地が残されている状況である。
そこで本発明では、このような状況を鑑み、走行性能を確保しつつ、ショベル作業時の低燃費化および低騒音化を容易に実現する技術を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0006】
即ち、請求項1においては、アイソクロナス制御またはドループ制御のうち、いずれかの制御方法を任意に選択可能なエンジン回転制御手段と、走行装置の走行状態を検知する検知手段と、を具備し、前記検知手段が走行状態を検知する時には、前記アイソクロナス制御を選択し、出力増大時において、定格運転時のエンジン回転数を維持し、かつ、前記検知手段が走行状態を検知しない時には、前記ドループ制御を選択し、出力増大時において、前記定格運転時のエンジン回転数に比して低いエンジン回転数とする油圧ショベルのエンジン制御装置としたものである。
【0007】
請求項2においては、前記アイソクロナス制御を選択した時の最小出力時のエンジン回転数と、前記ドループ制御を選択した時の最小出力時のエンジン回転数を、略同一に設定したこと、を特徴としたものである。
【0008】
請求項3においては、前記検知手段を、走行状態を報知する警報手段と兼用すること、を特徴としたものである。
【0009】
請求項4においては、エコノミーモードまたは通常モードのうち、いずれかのモードを選択可能なモード選択手段を具備し、前記エコノミーモードを選択する時には、エンジン回転数を、前記定格運転時のエンジン回転数に比して、さらに低いエンジン回転数に制限すること、を特徴としたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0011】
請求項1においては、ショベル作業時においては必要最小限のエンジン出力で運転が可能となるため、出力ロスが低減され低燃費化を図ることができ、かつ、走行時においては定格エンジン出力で運転が可能となるため、走行性能が確保される。
【0012】
請求項2においては、作業モードと走行モードの切替時にエンジン回転数が変動しないため、オペレータが違和感を感じることがなく、操作フィーリングを損なうことがない。
【0013】
請求項3においては、エンジン制御装置の部品点数を少なくすることができるため、製造コストの低減に寄与することができる。
【0014】
請求項4においては、操作フィーリングを損なうことなく、ショベル作業時の更なる低燃費化および低騒音化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、発明の実施の形態を説明する。
【0016】
まず始めに、本発明を適用する一実施例に係る油圧ショベルの全体構成について、図1乃至図4を用いて説明をする。
図1に示す如く、油圧ショベル1はクローラ式走行装置20上に旋回台21を旋回可能に設け、該旋回台21上にエンジン2や操縦部23等を配置し、該旋回台21前部に掘削作業機22を配設している。前記操縦部23には運転席24とその前方に操作コラム25が配置され、該操作コラム25上に走行レバー6が配置されている。該走行レバー6の回動基部には、走行操作したことを検知するためにスイッチ等により構成した走行検知手段4が配置されている。但し、走行を検知する手段及び走行検知手段の配置位置は限定するものではなく、車軸の回転を回転センサで検知したり、圧力スイッチを油圧回路の走行モータ駆動油路に配置したりすることが可能である。
また、図2に示す如く、エンジン2の回転を制御するための制御手段3は、演算処理装置(CPU)26や記憶手段(RAM、ROM)27、選択手段28等を備えている。また、制御手段3には前記走行検知手段4、回転数を設定する設定手段(アクセルレバー)29、警報手段5、回転数を検知する手段となる回転数センサ30、燃料噴射量や噴射時期を制御するアクチュエータ31、切替手段32等が接続されている。
前記記憶手段27には複数のエンジン出力特性がマップとして記憶されており、該エンジン出力特性は作業内容や走行状態等に応じて自動的に選択手段28により切り替えられるようにし、また、ボタンやスイッチ等の切替手段32により任意に選択することも可能としている。また、前記走行検知手段4は走行レバー6を操作すると制御手段3に信号を送信し、走行状態であることが検知される。と同時に、走行警報手段5が作動される。該走行警報手段5と走行検知手段4は従来直接接続されていたが、制御手段3に接続することにより、走行検知手段4は選択手段28の切り替えと、走行警報手段5の作動に利用することが可能となり、検知する手段を兼用する構成となっている。
前記制御手段3の記憶手段には、図3に示す、走行時出力線11・11aと、図4に示す、作業時出力線10・10aが記憶されており、走行時と作業時において選択手段28により切り替えられるように構成している。
【0017】
図3に示す如く、現状においては、油圧ショベル1の定格出力は走行性能の確保に必要とされる出力に応じて決められており、定格出力点8付近で運転がされている。しかし、ショベル(掘削)作業においては、定格出力点8よりも低いエンジン回転数に抑えられる作業時出力点9付近で運転したほうが理想的である。つまり現状のショベル作業においては、過剰な高いエンジン回転数で運転されており、出力ロスが生じている。
【0018】
そこで、図4に示す如く、走行時は走行時出力線11・11aの出力特性で走行し、作業時は作業時出力線10・10aの出力特性で作業を行うようにする。つまり、走行時や作業時においてアクセルレバー(設定手段)29は作業域まで回動する。この状態で走行時には、選択手段28により出力特性が切り替えられて走行時出力線11aの如く、エンジン回転数は定格出力点8まで上昇し、無負荷であれば定格回転数よりも若干上昇したB点まで上昇する。作業時においては、選択手段28により出力特性が切り替えられて作業時出力線10aの如く、エンジン回転数は作業時出力点9まで上昇し、無負荷の時はA点まで上昇する。
【0019】
次に、具体的制御について説明する。
図2および図4に示す如く、エンジン2を始動してアイドリング状態からアクセルレバー(設定手段)29を作業域まで回転すると、エンジン回転数は作業時出力点9における回転数まで上昇される。そして、運転者により走行レバー6が操作されると、走行検知手段4がこの操作を検知し制御手段3に入力し、該制御手段3は選択手段28により、作業時出力線10aから走行時出力線11aに変更され、制御手段3はアクチュエータ31等を作動してエンジン2の回転数を定格出力点8まで上昇させる。このときのエンジン回転数は回転数センサ30により検知されてフィードバック制御される。
また、前述の操作とは反対に、走行レバー6の解除操作(手を放す操作)がされると、前記走行時出力線11aから作業時出力線10aに変更されるようにしている。
こうして、運転者が通常の操作を行うことによって、出力線の切換を意識することなく、各運転状態に最適な出力特性による運転が可能となるのである。
【0020】
即ち、ショベル作業時は必要最小限のエンジン出力で運転が可能となるため、出力ロスが低減され低燃費化を図ることができ、走行時は定格エンジン出力で運転が可能となるため、走行性能が確保されるのである。
また、エンジン出力特性は自動で切り替えられるため、操作性が維持されるのである。
【0021】
また、前記複数のエンジン出力特性が、無負荷状態におけるエンジン回転数を略同一に設定することも可能である。
【0022】
前述のとおり、エンジン出力特性を各運転状態に応じて制御することにより、操作性を維持しつつ、低燃費化および走行性能の確保が可能となる。
しかしながら、図4に示される各出力線10a・11aを採用した場合には、自動的に出力特性が、作業時出力線10aで表される出力特性から、走行時出力線11aで表される出力特性へと瞬間的に変更されるため、その際に線図上の運転状態点が点Aから点Bに(もしくは点Bから点Aに)瞬間的に移動する。このため、エンジン回転数が急激に変動し、運転者に不快感を与えてしまう。
【0023】
そこで、図5に示す如く、走行時と作業時の無負荷状態(点C)でのエンジン回転数を略同一とした作業時出力線10bを設定することにより、出力線の自動変更に伴うエンジン回転数の急激な変動を無くすことができる。
即ち、作業状態と走行状態が切り替わる際にエンジン回転数が変動しないため、運転者に違和感を与えない操作フィーリングを維持することができるのである。
【0024】
以下においては、前記エンジン定格出力に到達する出力特性を有した前記エンジン出力特性が、定格出力時におけるエンジン回転数と、無負荷状態におけるエンジン回転数を略同一に設定されることについて説明をする。
前述のとおり、無負荷状態のエンジン回転数を略同一とした各出力線10b・11aを採用することにより、出力線の自動変更に伴うエンジン回転数の急激な変動を無くすことが可能となる。
しかしながら、図5に示される各出力線10b・11aを採用した場合には、走行状態において、定格出力時のエンジン回転数に比して無負荷状態のエンジン回転数が高く、無負荷状態での騒音が大きくなっている。このため、油圧ショベル1の運転騒音値を増大させる原因となってしまう。
【0025】
そこで、図6に示す如く、無負荷状態(つまり、最小出力時)のエンジン回転数(点D)を定格出力時のエンジン回転数と略同一としたアイソクロナス線を有する走行時出力線11bを設定する(即ち、アイソクロナス制御を行う)ことにより、走行状態での最小出力時の騒音値を定格出力運転時のレベルまで低減させることが可能となる。これにより、走行時における低騒音化を図ることができるのである。
さらに、図5と比較して判るように、走行時出力点である定格出力点8は変わらないため、走行時の走行性能は維持することができる。
尚、アイソクロナス線は、負荷の変動に関係なく速度設定(即ち、回転数)が一定である状態を示すものである。
【0026】
また、図6に示す如く、無負荷状態(つまり、最小出力時)のエンジン回転数(点D)を定格出力時のエンジン回転数と略同一としたドループ線を有する走行時出力線10cを設定する(即ち、ドループ制御を行う)ことにより、作業状態での最小出力時の騒音値を定格出力運転時のレベルまで低減させることが可能となる。これにより、特に低出力作業時における低騒音化を図ることができるのである。
さらに、図5に示す作業時出力線10bと比較して判るように、図6に示す作業時出力線10cを採用すれば、特に低出力作業時において、エンジン回転数を低減することができるため、低燃費化を図ることができる。
尚、ドループ線は、負荷の増加に応じて速度設定(即ち、回転数)が減少する状態を示すものである。
【0027】
即ち、アイソクロナス制御またはドループ制御のうち、いずれかの制御方法を任意に選択可能なエンジン2の選択手段28と、走行装置20の走行状態を検知する走行検知手段4と、を具備する油圧ショベル1において、走行検知手段4が走行状態を検知する時には、アイソクロナス制御を選択し、出力増大時において、定格運転時のエンジン回転数を維持し、かつ、走行検知手段4が走行状態を検知しない時には、前記ドループ制御を選択し、出力増大時において、前記定格運転時のエンジン回転数に比して低いエンジン回転数とするようにしている。
これにより、ショベル作業時においては必要最小限のエンジン出力で運転が可能となるため、出力ロスが低減され低燃費化を図ることができ、かつ、走行時においては定格エンジン出力で運転が可能となるため、走行性能が確保されるのである。
【0028】
またこの時、図6に示す如く、図5と同様に、走行時と作業時の無負荷状態(点D)でのエンジン回転数を略同一とした作業時出力線10cおよび走行時出力線11bを設定することにより、出力線の自動変更に伴うエンジン回転数の急激な変動を無くすことができる。
即ち、アイソクロナス制御を選択した時の最小出力時のエンジン回転数と、ドループ制御を選択した時の最小出力時のエンジン回転数を、略同一に設定することにより、作業状態と走行状態が切り替わる際にエンジン回転数が変動しないため、運転者に違和感を与えない操作フィーリングを維持することができるのである。
【0029】
また、前記複数のエンジン出力特性が、前記エンジン定格出力に到達しない出力特性を有した前記エンジン出力特性に比して、前記エンジン回転数を低く設定した前記エンジン出力特性の一を有する構成について説明をする。
前記油圧ショベル1においては、掘削作業のみならず、岩石等を破砕するクラッシャーやその他作業を想定した各種アタッチメントが装着可能である。アタッチメント装着時の作業においては、通常の作業状態に比して、低負荷での必要回転数は大きいが高負荷での必要回転数は小さいため、図6に示される作業時出力線10bを採用した場合には、不必要な出力域(即ち、過剰なエンジン回転数)での運転となるため出力ロスが生じてしまう。
そこで、図7に示す如く、アタッチメント装着作業を想定した第三の出力線として特別作業時出力線12を設定し、切替手段32を作業に合わせて切り換えることにより、アタッチメント装着作業の必要トルク出力および必要速度に応じた運用が可能となり、更なる低燃費化を図ることができる。
即ち、アタッチメント装着時作業においても、最適なエンジン出力特性で運転が可能となるのである。また、更なる低燃費化を図ることができるのである。
【0030】
また、油圧ショベル1には、走行時および旋回時の対人接触事故を回避するために、前記油圧ショベル1が走行状態であることを周囲に知らしめる手段として、走行警報手段5を具備することが一般的である。
走行状態への移行は、図2に示す如く、前述した各出力線10b・10cの切換と同様に、走行検知手段4が走行レバー6の操作を検知し、該走行検知手段4から走行警報手段5に信号を与えることで該走行警報手段5の作動・非作動が適切に切り替えられる。前記制御手段3と走行警報手段5は、前記油圧ショベル1が走行状態であるか否かによって動作を変える点で共通しており、信号を発生させ付与する手段として走行検知手段4を共有することは機能的に整合性が取れている。
また、この走行警報手段5は、前記油圧ショベル1が通常具備している機能であるため、走行検知手段4を前記制御手段3と共有すれば、新たな機能の追加に際して、部品の追加点数を減らすことができる。
即ち、走行検知手段4を、走行状態を報知する走行警報手段5と兼用する構成としており、これにより、部品点数を少なくすることができるのである。また、コスト低減に寄与することができるのである。
【0031】
次に、図6に示す出力線にさらに改善を加えた例(実施例1)について、図8を用いて説明をする。
図8に示す如く、図6の出力線に比して、無負荷時回転数を若干高めの設定とし、その回転数を維持したまま出力トルクが上昇して定格出力点8に至る直前で、ドループ制御(図8中のP部)により定格出力回転数に到達するように走行時出力線11cを設定している。
そして、走行時は走行時出力線11・11cの出力特性で走行し、作業時は作業時出力線10・10c(点Dから作業時出力点9)の出力特性で作業を行うようにすることにより、図6の出力線を採用したときと同様に、ショベル作業時は必要最小限のエンジン出力で運転が可能となるため、出力ロスが低減され低燃費化を図ることができ、かつ走行時は定格エンジン出力で運転が可能となるため、走行性能が確保される。
またこの場合、無負荷状態時の騒音が若干高くなるというデメリットはあるが、無負荷状態における回転数と、定格出力点8における回転数に差異を設けることにより、出荷時やメンテナンス等において定格出力点8の確認や調整が容易となるため、実用性向上の面ではメリットがある。
以上が、図6に示す出力線にさらに改善を加えた例(実施例1)についての説明である。
【0032】
次に、図6に示す出力線にさらに改善を加えた例(実施例2)について、図9を用いて説明をする。
図9に示す如く、図6および図8の出力線に比して、無負荷時回転数を低め(作業時回転数よりも高い)の設定とし、その回転数を維持したまま出力トルクが上昇して定格出力点8に至る直前で、逆ドループ制御(図9中のQ部)により定格出力回転数に到達するように走行時出力線11dを設定している。尚、逆ドループ制御とは、無負荷状態から最大負荷までの間にエンジン回転数を増加させる制御を意味している。
そして、走行時は走行時出力線11・11dの出力特性で走行し、作業時は作業時出力線10・10dの出力特性で作業を行うようにすることにより、図6の出力線を採用したときと同様に、ショベル作業時は必要最小限のエンジン出力で運転が可能となるため、出力ロスが低減され低燃費化を図ることができ、かつ走行時は定格エンジン出力で運転が可能となるため、走行性能が確保される。
またこの場合、無負荷状態における回転数を、定格出力点8における回転数に比してさらに低く設定できるため、無負荷状態時の更なる低燃費化・低騒音化が可能となる。
以上が、図6に示す出力線にさらに改善を加えた例(実施例2)についての説明である。
【0033】
次に、図6に示す出力線にさらに改善を加えた例(実施例3)について、図10を用いて説明をする。
図10に示す如く、図6・図8および図9の出力線に比して、無負荷時回転数を低めの設定(作業時回転数)とし、定格出力点8には、逆ドループ制御により定格出力回転数に到達するように走行時出力線11eを設定し、かつ作業時出力点9には、アイソクロナス制御により作業時出力回転数に到達するように作業時出力線10eを設定している。
そして、走行時は走行時出力線11・11eの出力特性で走行し、作業時は作業時出力線10・10eの出力特性で作業を行うようにすることにより、図6の出力線を採用したときと同様に、ショベル作業時は必要最小限のエンジン出力で運転が可能となるため、出力ロスが低減され低燃費化を図ることができ、かつ走行時は定格エンジン出力で運転が可能となるため、走行性能が確保される。
またこの場合、無負荷状態における回転数を、定格出力点8における回転数に比して、前記(実施例2)に比してさらに低く設定できるため、無負荷状態時の更なる低燃費化・低騒音化が可能となる。
以上が、図6に示す出力線にさらに改善を加えた例(実施例3)についての説明である。
【0034】
次に、図6に示す出力線にさらに改善を加えた例(実施例4)について、図11を用いて説明をする。
図11に示す如く、図6および図8乃至図10の出力線に比して、無負荷時回転数を作業時回転数よりも低めの設定とし、定格出力点8には、逆ドループ制御により定格出力回転数に到達するように走行時出力線11fを設定し、かつ作業時出力点9には、無負荷時回転数(点D)を維持したままトルクを上昇し、作業時出力点9に至る直前より逆ドループ制御(図11中のR部)により作業時出力回転数に到達するように作業時出力線10fを設定している。
そして、走行時は走行時出力線11・11fの出力特性で走行し、作業時は作業時出力線10・10fの出力特性で作業を行うようにすることにより、図6の出力線を採用したときと同様に、ショベル作業時は必要最小限のエンジン出力で運転が可能となるため、出力ロスが低減され低燃費化を図ることができ、かつ走行時は定格エンジン出力で運転が可能となるため、走行性能が確保される。
またこの場合、無負荷状態における回転数を、定格出力点8における回転数に比して、前記(実施例3)に比してさらに低く設定できることは言うまでも無く、作業時回転数に比しても低く設定することができるため、無負荷状態時の更なる低燃費化・低騒音化が可能となる。
以上が、図6に示す出力線にさらに改善を加えた例(実施例4)についての説明である。
【0035】
以上の説明に示す如く、(実施例1)においては、定格出力時におけるエンジン回転数と、無負荷状態におけるエンジン回転数が、略同一に設定された複数のエンジン出力特性を有し、該エンジン出力特性を作業内容に応じて自動的に選択する制御手段3を具備した油圧ショベル1であって、前記複数のエンジン出力特性が、無負荷状態からドループ制御によりエンジン定格出力の回転数に到達する走行時出力線11・11cと、無負荷状態からドループ制御によりエンジン定格出力の回転数に到達しない作業時出力線10・10cを具備する構成としている。
これにより、ショベル作業時は必要最小限のエンジン出力で運転が可能となるため、出力ロスが低減され低燃費化を図ることができ、走行時は定格エンジン出力で運転が可能となるため、走行性能が確保されるのである。
また、定格出力点の確認が容易にできるのである。
【0036】
また、(実施例2)においては、前記複数のエンジン出力特性が、無負荷状態から逆ドループ制御によりエンジン定格出力の回転数に到達する走行時出力線11・11dと、無負荷状態からドループ制御によりエンジン定格出力の回転数に到達しない作業時出力線10・10dを具備する構成としている。
これにより、ショベル作業時は必要最小限のエンジン出力で運転が可能となるため、出力ロスが低減され低燃費化を図ることができ、走行時は定格エンジン出力で運転が可能となるため、走行性能が確保されるのである。
【0037】
また、(実施例3)においては、前記複数のエンジン出力特性が、無負荷状態から逆ドループ制御によりエンジン定格出力の回転数に到達する走行時出力線11・11eと、無負荷状態からアイソクロナス制御によりエンジン定格出力の回転数に到達しない作業時出力線10・10eを具備する構成としている。
これにより、ショベル作業時は必要最小限のエンジン出力で運転が可能となるため、出力ロスが低減され低燃費化を図ることができ、走行時は定格エンジン出力で運転が可能となるため、走行性能が確保されるのである。
また、無負荷状態時における更なる低燃費化・低騒音化を図ることができるのである。
【0038】
また、(実施例4)においては、前記複数のエンジン出力特性が、無負荷状態から逆ドループ制御によりエンジン定格出力の回転数に到達する走行時出力線11・11fと、無負荷状態から逆ドループ制御によりエンジン定格出力の回転数に到達しない作業時出力線10・10fを具備する構成としている。
これにより、ショベル作業時は必要最小限のエンジン出力で運転が可能となるため、出力ロスが低減され低燃費化を図ることができ、走行時は定格エンジン出力で運転が可能となるため、走行性能が確保されるのである。
また、無負荷状態時における更なる低燃費化・低騒音化を図ることができるのである。
【0039】
次に、図6に示す出力線にさらに改善を加えた例(実施例5)について、図2、図6または図12を用いて説明をする。
図2に示す如く、(実施例5)においては、モード選択手段33を具備するようにしており、図6に示す出力線で表される通常モードに加えて、エコノミーモードを選択可能な構成としている。
【0040】
図12に示す如く、エコノミーモードを選択した時には、エコノミーモード時最高回転数を設定するようにしており、通常モード時最高回転数(つまり、定格時エンジン回転数)に比して、エンジン回転数を低く制限するようにしている。
これにより、エコノミーモードを選択したときには、エンジン回転数が低下するため作業スピード(例えば、走行速度や旋回速度)が低下する反面、低燃費化および低騒音化を図ることができるとともに、出力トルクが通常モードと同等に維持される。
【0041】
また、エコノミーモード時においても、通常モードと同様に、点Eを共通として、作業時出力線10hはドループ線(つまり、ドループ制御を行う)としており、かつ、走行時出力線11gはアイソクロナス線(つまり、アイソクロナス制御を行う)としているため、通常モードとエコノミーモードを切替えても、違和感の無い操作フィーリングを維持することができる。
つまり、作業スピードが要求されないときには、エコノミーモードを選択することにより、必要な走行性能および掘削性能を確保しつつ、違和感の無い操作フィーリングを維持しながら、通常モードに比して更なる低燃費化および低騒音化を図ることができる。
【0042】
即ち、エコノミーモードまたは通常モードのうち、いずれかのモードを選択可能なモード選択手段33を具備し、エコノミーモードを選択する時には、エンジン回転数を、定格運転時のエンジン回転数(つまり、通常モード時最高回転数)に比して、さらに低いエンジン回転数(つまり、エコノミーモード時最高回転数)に制限するようにしており、これにより、操作フィーリングを損なうことなく、ショベル作業時の更なる低燃費化および低騒音化を図ることができるのである。
以上が、図6に示す出力線にさらに改善を加えた例(実施例5)についての説明である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施例に係る油圧ショベルの全体的な構成を示した側面図。
【図2】本発明の一実施例に係る油圧ショベルの制御系統の構成を示した説明図。
【図3】本発明を適用しない油圧ショベルにおける出力トルク−エンジン回転数の関係を示す出力線。
【図4】本発明を適用しない油圧ショベルにおけるショベル作業時と走行時のエンジン出力特性を切り替える場合の出力トルク−エンジン回転数の関係を示す出力線。
【図5】本発明の一実施例に係る油圧ショベルにおけるショベル作業時と走行時のエンジン出力特性を切り替える場合の出力トルク−エンジン回転数の関係を示す出力線。
【図6】本発明の一実施例に係る油圧ショベルにおける走行時の定格出力点と無負荷状態でのエンジン回転数を略同一とした出力トルク−エンジン回転数の関係を示す出力線。
【図7】本発明の一実施例に係るアタッチメント装着時作業に適した出力トルク−エンジン回転数の関係を示す出力線。
【図8】出力線の改善例(実施例1)の出力トルク−エンジン回転数の関係を示す出力線。
【図9】出力線の改善例(実施例2)の出力トルク−エンジン回転数の関係を示す出力線。
【図10】出力線の改善例(実施例3)の出力トルク−エンジン回転数の関係を示す出力線。
【図11】出力線の改善例(実施例4)の出力トルク−エンジン回転数の関係を示す出力線。
【図12】出力線の改善例(実施例5)の出力トルク−エンジン回転数の関係を示す出力線。
【符号の説明】
【0044】
1 油圧ショベル
2 エンジン
3 制御手段
4 走行検知手段
20 走行装置
28 選択手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アイソクロナス制御またはドループ制御のうち、
いずれかの制御方法を任意に選択可能なエンジン回転制御手段と、
走行装置の走行状態を検知する検知手段と、
を具備し、
前記検知手段が走行状態を検知する時には、
前記アイソクロナス制御を選択し、
出力増大時において、
定格運転時のエンジン回転数を維持し、かつ、
前記検知手段が走行状態を検知しない時には、
前記ドループ制御を選択し、
出力増大時において、
前記定格運転時のエンジン回転数に比して低いエンジン回転数とすること、
を特徴とする油圧ショベルのエンジン制御装置。
【請求項2】
前記アイソクロナス制御を選択した時の最小出力時のエンジン回転数と、
前記ドループ制御を選択した時の最小出力時のエンジン回転数を、
略同一に設定したこと、
を特徴とする請求項1記載の油圧ショベルのエンジン制御装置。
【請求項3】
前記検知手段を、
走行状態を報知する警報手段と兼用すること、
を特徴とする請求項1記載の油圧ショベルのエンジン制御装置。
【請求項4】
エコノミーモードまたは通常モードのうち、
いずれかのモードを選択可能なモード選択手段を具備し、
前記エコノミーモードを選択する時には、
エンジン回転数を、
前記定格運転時のエンジン回転数に比して、
さらに低いエンジン回転数に制限すること、
を特徴とする請求項1または請求項2記載の油圧ショベルのエンジン制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−255414(P2007−255414A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−293044(P2006−293044)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】