説明

油圧流式発電機を備えた油圧作業機械

【課題】油圧ポンプとタンクとの間の作動油の循環による油圧エネルギの無駄遣いを低減する省エネルギ技術の提供。
【解決手段】油圧回路と、この油圧回路の作動油をタンク90に排出する排出油路に設けられた、油圧流によって回転する動翼81を有する油圧流式発電機8と、発電機8から出力された電力をバッテリ7に充電する充放電制御部70とを備えたトラクタ等の油圧作業機械であって、油圧流式発電機8は、作動油が高圧の場合、発電機8aを選択し、低圧の場合は、発電機8bを選択する。更に、発電機8cは、圧力感応分岐弁が設けられ、高圧と低圧とで油路が分岐するようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ポンプによって作り出された油圧を種々の油圧機器に供給する油圧回路を備えた油圧作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
そのような油圧回路では、組み込まれた油圧機器が種々の動作を行うために油圧ポンプで作り出された所定圧の油圧を有する作動油の供給を制御するために油圧弁を含む複雑な回路が構築されるが、供給された作動油は最終的にはタンクに戻され、再び油圧ポンプによって汲み上げられる。油圧回路によっては、制御弁の中立位置状態においては、油圧ポンプから送り出された作動油はリリーフ弁を通じてタンクに戻されるが、油圧ポンプにはリリーフ圧がかかったままであり、油圧ポンプによる油圧エネルギの無駄な消費は少なくない。また、アンロード回路を用いた場合には、油圧ポンプは無負荷となるが、油圧ポンプとタンクとの間の作動油の循環による油圧エネルギの無駄な消費はそのままである。
【0003】
また、近年高まってきた省エネルギ志向から、身近な生活環境における未利用の水力エネルギを有効利用するために、発電容量は小さいとしても、設置スペースも小さくなる発電機、いわゆるマイクロ水力発電が考え始められている。例えば、特許文献1に、トイレや洗面台に設置され、センサやスイッチなどによって電磁弁を開放して吐水を行うと共に、その吐水時の水流によって発電を行って電磁弁の駆動電力とする水栓装置が記載されている。ここでは、水栓装置に組み込まれた電気機器への給電のために、水栓用水力発電機が給水の流れを利用して発電している。
しかしながら、油圧回路における油圧流がもつ油圧エネルギの有効利用に関しては全く考えられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−12515号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記実情から、油圧ポンプとタンクとの間の作動油の循環による油圧エネルギの無駄遣いを低減する省エネルギ技術が所望されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による油圧作業機械の特徴は、油圧回路と、前記油圧回路の作動油をタンクに排出する排出油路に設けられた、油圧流によって回転する動翼を有する油圧流式発電機と、前記発電機から出力された電力をバッテリに充電する充放電制御部とを備えていることである。
油圧回路を流れている作動油は最終的にはタンク(作動油タンク)に排出され、同所から油圧ポンプ等で汲み上げられ、所要の油圧を有する作動油として再び油圧回路を流れていく。従って、タンクに排出される作動油がもつ流れエネルギ(運動エネルギ)や位置エネルギは無駄となっている。本発明の上記構成によれば、このタンクに排出される作動油が有するエネルギを利用すべく、その油圧流によって油圧流式発電機の動翼を回転させる。この回転に基づいて発生する電力に必要な変換処理を施すことでその電力はバッテリに対する充電電力となる。これにより、これまで利用することがなかった、タンクに排出される作動油がもつエネルギを電力の形で回収することができ、省エネルギに貢献する。
【0007】
タンクにつながる油路を流れる作動油には、まだかなりの高い油圧値を有する高圧作動油ものと、ほとんど大気圧近くに低下した低圧作動油とがある。高圧作動油と低圧作動油とでは、運動エネルギが異なるので、より効率的にその油圧流を利用するには、油圧流式発電機の形態をそれぞれに適応させた方が効果的である。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記発電機は、低圧の作動油が流れる低圧油路に装着される低圧流発電機と、前記低圧油路より高圧の作動油が流れる高圧油路に装着される高圧流発電機とを含み、前記低圧流発電機の動翼は作動油の重力を利用した作動油掛け流しで回転するように構成され、前記高圧流発電機は作動油流通油路として機能するハウジング部を有し、前記高圧流発電機の動翼は前記ハウジング部を貫流する作動油によって回転するように構成されている。この構成では、低圧油圧流が流れ込む低圧流発電機では、水車のように、主に位置エネルギを利用する形態で動翼を回転させ、高圧油圧流が流れ込む高圧流発電機では、タービンのように、主に流れ込んでくる油圧流の運動エネルギを利用する形態で動翼を回転させる。これにより、低圧または高圧の作動油がもつエネルギをできるだけ効率よく電力として回収することができる。
【0008】
油圧回路には種々の回路形態があり、作動油をタンクに排出する排出油路によっては、油圧回路の油圧機器の作動状態によって高圧流が流れたり、または低圧流が流れたりする。このような排出油路における油圧流エネルギの効率的な回収のために、本発明の実施形態の1つでは、油圧流の所定油圧以上の油圧で第1分岐油路に分岐し、所定油圧を下回る油圧で第2分岐油路に分岐する圧力感応分岐弁が前記排出油路に備えられ、前記第1分岐油路に前記高圧流発電機が装着され、前記第2分岐油路に前記低圧流発電機が装着されている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明で採用される油圧流発電の基本的な原理を図解する模式図である。
【図2】本発明による油圧作業機械の一例としての、油圧回路を搭載したトラクタの外観図である。
【図3】図2のトラクタにおける油圧を含む動力系統図である。
【図4】油圧流発電機を含む油圧回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の具体的な実施形態を説明する前に、本発明による油圧作業機械で採用される油圧流発電の基本的な原理を図1の模式図を用いて説明する。
図1では、油圧回路に含まれている油圧機器群からタンク90に接続されている排出油路に油圧流式発電機8が介装されている。油圧流式発電機8は、当該排出油路9を流れる油圧流によって回転する動翼81を有している。図1では、3つのタイプの発電機8、つまりAタイプ発電機8a、Bタイプ発電機8b、Cタイプ発電機8cが示されているが、特に区別する必要がない場合には、単に発電機8という語句が用いられる。
【0011】
Aタイプ発電機8aは、高圧の作動油が流れる油路9に装着されるものであり、その動翼81はハウジング部80aによって流れ方向に沿って小さな隙間でもって包囲されており、噴流タービンのように高圧流で動翼81を貫流しながら動翼81を回転させる構造を有する。
Bタイプ発電機8bは、低圧の作動油が流れる油路9に装着されるものであり、その動翼81はハウジング部80bによって流れ方向に沿って大きな隙間でもって包囲されているか、あるいは動翼81はハウジング部80bによって包囲されていない。つまり、水車のように重力差(高低差)で流れてくる作動油を動翼81に掛け流すことで動翼81を回転させる構造を有する。
Cタイプ発電機8cは、Aタイプ発電機8aとBタイプ発電機8bとを組み合わせたものであり、高圧の作動油が流れる期間と低圧の作動油が流れる期間がある油路9に装着される。つまり、このCタイプ発電機8c内にハウジング部80cとして、高油圧流を流す第1分岐油路と低油圧流を流す第2分岐油路が形成されており、第1分岐油路にAタイプ発電機8aが介装されており、第2分岐油路にBタイプ発電機8bが介装されている。第1分岐油路と第2分岐油路の分岐点に、油圧流の所定油圧以上の油圧で第1分岐油路に分岐するとともに所定油圧を下回る油圧で第2分岐油路に分岐する圧力感応分岐弁が設けられている。
【0012】
図1では模式的にしか図示されていないが、発電機8は、筒状に形成されたハウジング部80a,80b,80cと、動翼81と共通の軸を有するロータ82、ステータ83、を保持する保持ブラケットを備えている。動翼81が回転することで連動回転するロータ82とステータ83との協働作用によって生み出される電力は充電部と放電部とからなる充放電制御部70によってバッテリ7に充電に利用される。
【0013】
最終的にタンク90に戻された作動油を汲み上げて油圧機器群に油圧を供給する油圧ポンプ91は、油圧作業機械の動力源として用いられている内燃機関や電気モータの出力軸から回転動力を受ける。
【0014】
上述した、油圧流発電の基本的な原理を有する油圧作業機械の一つの実施形態であるトラクタを以下に説明する。図2は、油圧流発電機能を備えた油圧回路を搭載したトラクタの外観図である。図3は、このトラクタにおける油圧回路60を含む動力系統図である。
【0015】
このトラクタでは、ディーゼルタイプのエンジン1の出力軸30からの動力は無段変速装置の一例である静油圧式無段変速装置(以下、HSTと略称する)2とHST変速動力をさらに複数段(ここでは高低2段)に変速する副変速装置32とを介して変速出力軸31に伝達され、最終的に駆動輪(前輪または後輪あるいはその両方)3を回転させる。さらに、このエンジン1の出力軸30からの動力はPTO伝動系40を経てトラクタに装備された耕耘作業機などの外部作業機4にも伝達される。PTO伝動系40には、PTO伝動系40に
【0016】
このHST2は、よく知られているようにアキシャルプランジャ式に構成された可変容量型の油圧ポンプと油圧モータとを有する。油圧ポンプはエンジン1の出力軸30によって回転駆動される。油圧ポンプにおける斜板の斜板角度が変更されることで、吐出される圧油の吐出方向および吐出量が変更され、その圧油を受ける油圧モータの出力軸の回転が正転方向(前進)あるいは逆転方向(後進)に無段階で変速される。
【0017】
図4で示すように、このトラクタにおける油圧回路には、HST油圧回路61、PTO油圧回路62、作業機油圧回路64、圧力調整油圧回路65、パワーステアリング油圧回路66、さらに図4では省略されているが副変速油圧回路63が含まれている。
【0018】
HST2の油圧ポンプや油圧モータはHST油圧回路61に組み込まれており、油圧ポンプの斜板角度はHST油圧回路61の斜板制御油圧機器によって変更される。斜板制御油圧機器は、シリンダや電磁制御弁など油圧機器で構成されている。
PTO油圧回路62は、PTOクラッチ41に組み込まれたピストンに作動油を給排することで入り切り操作する。副変速油圧回路63は、PTO油圧回路62と類似した構成を有し、副変速用クラッチのピストンに作動油を給排することで高低副変速装置32の高速段または低速段を選択的に作り出す。
【0019】
作業機油圧回路64は、ここでは油圧シリンダを動作させるための油圧機器だけしか示されていないが、複数の油圧シリンダや油圧モータなど多くの油圧機器が組み込まれた外部作業機4が装着された場合は、かなり複雑で、大容量の作動油が給排される油圧回路となる。
圧力調整油圧回路65は、油圧回路における圧力調整を行う回路であり、所定圧を越える油圧の発生に伴ってリリーフ弁が作動し、作動油をタンクに戻すことで油圧回路の油圧を所定圧に維持する。
パワーステアリング油圧回路66は、ステアリング操作機構のパワーステアリングシリンダやアシスト用油圧モータを操作する。
【0020】
この油圧回路60では、HST油圧回路61を除いて、エンジン1の出力軸30によって駆動される、油圧ポンプ91によって油圧供給されている。なお、図4では、2台の油圧ポンプ91が出力軸30に連設されている。油圧回路60で必要とされる油圧の最大必要量に基づいて油圧ポンプ91の容量が決定されるので、通常の運転時には、油圧ポンプ91によって油圧回路60に供給される作動油にはかなりの余剰油圧流が含まれることになる。この余剰油圧流のもつエネルギの少なくとも一部は、油圧流式発電機8によって電力の形で回収される。
【0021】
上述した各種油圧回路を含む、このトラクタの油圧回路60に含まれる油圧機器群は、油圧制御手段6によって制御される。また、この油圧制御手段6に制御指令を与えるのは、車両制御コントローラ5Aや外部作業機制御コントローラ5Bである。
【0022】
〔別実施の形態〕
(1)上述した実施形態では、タンク90への排出油路毎に油圧流式発電機8が設けられていたが、いくつかあるいは全ての排出油路を統合して、その統合された排出油路に油圧流式発電機8を設ける構成を採用してもよい。
(2)油圧流式発電機8の形態は上述した実施形態で示したもの以外、マイクロ水力発電等に用いられている種々の形態のものを利用することができる。
(3)上述した実施形態では、無段変速装置としてHST2を採用していたが、これに代えて、利用可能なHMT(Hydraulic Mechanical Transmission)などの油圧式変速装置にも、本発明による油圧流発電を適用することができる。
(4)本発明を適用できる油圧作業機械として、車両関係では、トラクタ以外、田植機、コンバイン、芝刈り機、土木・建築作業機、バギーなどのオフロードカーなどが挙げられるが、油圧式クレーンなど定置式の油圧作業機械にも本発明を適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、作動油をタンクに排出する油路を備えた全ての油圧作業機械に適用することができる。
【符号の説明】
【0024】
60:油圧回路
7:バッテリ
70:充放電制御部(充電制御部)
8:油圧流式発電機
8a:高圧流発電機
8b:低圧流発電機
80a:ハウジング部
80d:圧力感応分岐弁
81:動翼
9:油路(排出油路)
90:作動油タンク(タンク)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧回路と、前記油圧回路の作動油をタンクに排出する排出油路に設けられた、油圧流によって回転する動翼を有する油圧流式発電機と、前記発電機から出力された電力をバッテリに充電する充放電制御部とを備えた油圧作業機械。
【請求項2】
前記発電機は、低圧の作動油が流れる低圧油路に装着される低圧流発電機と、前記低圧油路より高圧の作動油が流れる高圧油路に装着される高圧流発電機とを含み、前記低圧流発電機の動翼は作動油の重力掛け流しで回転するように構成され、前記高圧流発電機は作動油流通油路として機能するハウジング部を有し、前記高圧流発電機の動翼は前記ハウジング部を貫流する作動油によって回転するように構成されている請求項1に記載の油圧作業機械。
【請求項3】
油圧流の所定油圧以上の油圧で第1分岐油路に分岐し、所定油圧を下回る油圧で第2分岐油路に分岐する圧力感応分岐弁が前記排出油路に備えられ、前記第1分岐油路に前記高圧流発電機が装着され、前記第2分岐油路に前記低圧流発電機が装着されている請求項2に記載の油圧作業機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−23034(P2013−23034A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158412(P2011−158412)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】