説明

波長可変干渉フィルター、光モジュール、および光分析装置

【課題】基板に生じる撓みを低減して分解能を向上させた波長可変干渉フィルター、光モジュール、及び光分析装置を提供する。
【解決手段】エタロン5(波長可変干渉フィルター)は、固定基板51と、固定基板51に対向する可動基板52と、固定基板51に設けられた固定反射膜56と、可動基板52に設けられ、固定反射膜56とギャップを介して対向する可動反射膜57と、固定基板51に設けられた固定電極541と、可動基板52に設けられ、固定電極541と対向する可動電極542と、を備え、可動電極542は、圧縮応力を有する圧縮電極層と、引張応力を有する引張電極層と、が積層されて構成された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射光から所望の目的波長の光を選択して出射する波長可変干渉フィルター、この波長可変干渉フィルターを備えた光モジュール、及びこの光モジュールを備えた光分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一対の反射膜間で光を多重干渉させて、所望の波長の光を出射させる波長可変干渉フィルターが知られている(例えば、特許文献1参照)。
この特許文献1に記載の光学フィルター装置(波長可変干渉フィルター)は、対向配置された第一基板、および第二基板を有し、これらの第一基板および第二基板の対向する面には、それぞれ可動ミラーおよび固定ミラーが設けられている。
また、第一基板において、可動ミラーは、基板中央部の第一部分に設けられ、第一部分の外周には、第一部分よりも厚み寸法が小さい、可撓性を有する第二部分が設けられている。そして、第一基板の第二部分の第二基板に対向する面には、第一電極が設けられ、第二基板の第一電極に対向する面には、第一電極と所定の距離を開けて対向配置される第二電極が設けられている。
このような波長可変干渉フィルターでは、第一電極および第二電極間の間に電圧を印加すると、静電引力により第一基板の第二部分が第二基板側に撓み、可動ミラーおよび固定ミラーの間のギャップ寸法が変化する。これにより、波長可変干渉フィルターは、第一電極および第二電極間の電圧を制御することで、入射光から、ミラー間のギャップ寸法に応じた波長の光を取り出すことが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−251105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1に記載のような波長可変フィルターでは、第一電極を、可撓性を有する第一基板の第二部分に設けている。この第一電極としては、膜状の電極が用いられているが、このような第一電極を成膜すると、膜の面方向(第一基板の基板表面に沿う方向)に内部応力が作用する。この内部応力の方向や大きさは、成膜方法や膜材質などにより決定される。そして、内部応力が膜中心部に向かう方向に作用している場合、圧縮応力となり、内部応力が第一電極の膜中心部から外側に作用している場合は引張応力となる。ここで、第一基板に形成される第一電極に圧縮応力が作用する場合、第一基板は、第二基板に向かって撓み、第一基板に形成される第一電極に引張応力が作用する場合、第一基板は、第二基板から離れる方向に撓む。
【0005】
このように、第一電極の内部応力により、第一基板が撓んでしまうと、可動反射膜も基板の撓みに応じて撓み、第一及び第二電極間に駆動電圧を印加していない初期状態において、可動反射膜および固定反射膜を平行に維持できなくなる場合があり、波長可変干渉フィルターの分解能が低下するという課題がある。
【0006】
本発明は上記のような課題に鑑みて、基板に生じる撓みを低減させた波長可変干渉フィルター、光モジュール、及び光分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の波長可変干渉フィルターは、第一基板と、前記第一基板に対向する第二基板と、前記第一基板の前記第二基板に対向する面に設けられた第一反射膜と、前記第二基板の前記第一基板に対向する面に設けられ、前記第一反射膜とギャップを介して対向する第二反射膜と、前記第一基板の前記第二基板に対向する面に設けられた第一電極と、前記第二基板の前記第一基板に対向する面に設けられ、前記第一電極に対してギャップを介して対向する第二電極と、を備え、前記第一電極は、前記第一基板の基板表面に沿う面方向に対する内部応力の方向が圧縮方向である圧縮電極層と、内部応力の方向が引張方向である引張電極層と、を積層して形成されたことを特徴とする。
【0008】
この発明では、第一基板に設けられる第一電極は、圧縮応力を有する圧縮電極層と、引張応力を有する引張電極層とが積層されることで構成されている。ここで、第一基板には、圧縮電極層の圧縮応力により第二基板側に撓ませようとする力が作用し、引張電極層の引張応力により第二基板から離れる側に撓ませようとする力と作用する。したがって、それぞれ力が反対方向に作用するため、これらの力が互いに打ち消しあって、第一基板を撓ませようとする力が低減される。これにより、第一基板の撓みが低減されるので、第一基板上に設けられた第一反射膜の撓みも低減することができ、第一反射膜および第二反射膜の平行精度が向上し、波長可変干渉フィルターの分解能を向上させることができる。
また、波長可変干渉フィルターの製造時では、第一電極および第二電極の間に駆動電圧を印加していない初期状態で、第一反射膜および第二反射膜のギャップの寸法を設定値(初期ギャップ寸法)に設定する。この際、第一基板に撓みがある場合、ギャップ寸法を正確に初期ギャップ寸法に設定することができないという問題がある。これに対して、本願発明では、第一基板の撓みが低減されるため、第一反射膜および第二反射膜のギャップを精度良く初期ギャップ寸法に合わせ込むことができる。
【0009】
本発明の波長可変干渉フィルターでは、前記圧縮電極層の内部応力および膜厚寸法の積の絶対値と、前記引張電極層の内部応力および膜厚寸法の積の絶対値とが、同値であることが好ましい。
【0010】
ここで、基板に形成された膜の内部応力が基板に及ぼす力は、膜の内部応力の大きさと、膜厚寸法との積に比例する。
ここで、第一電極を構成する圧縮電極層の面積および引張電極層の面積を同一面積とし、圧縮電極層の圧縮応力の大きさ、および膜厚寸法の積の絶対値と、引張電極層の引張応力の大きさ、および膜厚寸法の積の絶対値が同一であれば、圧縮電極層が第一基板に及ぼす力と、引張電極層が第一基板に及ぼす力とが力が釣り合い、第一電極の内部応力に起因する第一基板の撓みが防止される。これにより、第一反射膜および第二反射膜が平行に維持され、波長可変干渉フィルターの分解能をより向上させることができる。
【0011】
本発明の波長可変干渉フィルターでは、前記圧縮電極層は、金属酸化物の膜であり、前記引張電極層は、金属膜であることが好ましい。
【0012】
一般に、成膜後にアニール処理などの後工程を実施しない場合、金属酸化物の膜は圧縮応力を有する膜となりやすく、金属膜は引張応力を有する膜となりやすい。したがって、本発明のように、金属酸化物の膜を圧縮電極層とし、金属膜を引張電極層とすることで、各電極層の成膜後に、内部応力の方向を決定するための後処理を行う必要がなく、容易に、第一基板の撓みを低減可能な第一電極を形成することができる。
【0013】
ここで、本発明の波長可変干渉フィルターでは、前記第一基板は、ガラスにより形成され、前記第一電極のうち、前記第一基板に接する層は、前記圧縮電極層であることが好ましい。
【0014】
波長可変干渉フィルターにおいて、可視光域や紫外光域の光を分光させる場合、第一基板としては、透光性を有するガラスで形成されることが好ましい。この場合、第一電極のうち、第一基板と密着させる電極層を、金属酸化物の膜の圧縮電極層にすることで、第一基板と圧縮電極層との密着性が良好となり、第一基板と第一電極との密着性も良好にできる。
【0015】
本発明の波長可変干渉フィルターでは、前記第一基板は、前記第一反射膜が設けられた可動部と、前記可動部を前記第二基板に対して進退移動可能に保持する保持部と、を備え、前記保持部は、厚み方向に対する剛性が前記可動部の厚み方向に対する剛性よりも小さく、前記第一電極は、前記保持部に設けられたことが好ましい。
【0016】
この発明では、第一基板には、可動部および可動部を保持する保持部が設けられ、保持部に第一電極が設けられている。このような波長可変干渉フィルターでは、保持部の厚み方向に対する剛性が可動部の厚み方向に対する剛性よりも小さいため、第一電極および第二電極間に低電圧を印加することで、保持部を容易に撓ませることができる。この際、可動部の剛性が保持部よりも大きいため、保持部が撓んだ場合でも、可動部の撓みを抑えることができ、第一反射膜の撓みをも防止することができる。つまり、保持部が設けられない構成に比べて小さい電圧(小さい静電引力)で、第一反射膜および第二反射膜のギャップを変化させることができ、省電力化を図ることができ、かつ、可動部の撓みも防止でき、第一反射膜および第二反射膜の平行精度を高く維持することができる。一方、このような剛性が小さい保持部では、第一電極の内部応力の影響を受けやすくなる。しかしながら、本発明では、上記のように、第一電極に、圧縮電極層と引張電極層とが設けられているため、これらの電極層の内部応力が第一基板の保持部に与える力が互いに打ち消され、保持部の撓みを防止することができる。
したがって、第一基板を撓ませて、波長可変干渉フィルターから射出させる光の波長を変化させた場合でも、分解能の低下を抑えることができる。
【0017】
本発明の波長可変干渉フィルターでは、前記第二基板は、前記第一電極および前記第二電極に電圧を印加して静電引力を付与した際に、静電引力により変形しない固定基板であり、前記第二電極上に、前記第二電極の前記第一基板に対向する面を覆う絶縁膜が設けられたことが好ましい。
【0018】
この発明によれば、第二電極上に絶縁膜が設けられているため、第一電極および第二電極間で発生する放電などによるリークを防止することができる。したがって、第一電極および第二電極に、設定駆動電圧に応じた所望の電荷が保持されることとなり、第一反射膜および第二反射膜の間のギャップを所望の寸法に設定することができる。
ここで、第二基板は、静電引力や、第二電極の内部応力等により撓むことがない剛性を有する固定基板であるため、このような絶縁層を設けた場合でも、絶縁層の内部応力により第二基板が撓むことがなく、第一反射膜および第二反射膜の平行精度を高く維持することができる。
【0019】
本発明の光モジュールは、上述のような波長可変干渉フィルターと、前記波長可変干渉フィルターを透過した光を検出する検出部と、を備えたことを特徴とする。
【0020】
この発明では、上述したように、波長可変干渉フィルターは、第一電極の内部応力による第一基板や第一反射膜の撓みが低減されるため、第一反射膜および第二反射膜の平行精度が向上し、高分解能を実現できる。したがって、このような波長可変干渉フィルターを備えた光モジュールでは、高い分解能で取り出された所望波長の光を検出部で受光させることができ、所望波長の光の光量を正確に検出することができる。
【0021】
本発明の光分析装置は、上述のような光モジュールと、前記光モジュールの前記検出部により受光された光に基づいて、前記光の光特性を分析する分析処理部と、を備えたことを特徴とする。
ここで、光分析装置としては、上記のような光モジュールにより検出された光の光量に基づいて、干渉フィルターに入射した光の色度や明るさなどを分析する光測定器、ガスの吸収波長を検出してガスの種類を検査するガス検出装置、受光した光からその波長の光に含まれるデータを取得する光通信装置などを例示することができる。
本発明では、上述したように、光モジュールにより、所望波長の光の正確な光量を検出することができるため、光分析装置の分析処理部では、このような正確なデータに基づいて、正確な光分析処理を実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る一実施形態の測色装置の概略構成を示す図である。
【図2】本実施形態の波長可変干渉フィルターであるエタロンの概略構成を示す平面図である。
【図3】本実施形態のエタロンの概略構成を示す断面図である。
【図4】本実施形態のエタロンの固定基板の製造工程を示す図である。
【図5】本実施形態のエタロンの可動基板の製造工程を示す図である。
【図6】本実施形態のエタロンの可動基板の製造工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る一実施形態について、図面に基づいて説明する。
〔1.測色装置の全体構成〕
図1は、本発明に係る実施形態の測色装置(光分析装置)の概略構成を示す図である。
この測色装置1は、本発明の光分析装置であり、図1に示すように、被検査対象Aに光を射出する光源装置2と、本発明の光モジュールである測色センサー3と、測色装置1の全体動作を制御する制御装置4とを備えている。そして、この測色装置1は、光源装置2から射出される光を被検査対象Aにて反射させ、反射された検査対象光を測色センサー3にて受光し、測色センサー3から出力される検出信号に基づいて、検査対象光の色度、すなわち被検査対象Aの色を分析して測定する装置である。
【0024】
〔2.光源装置の構成〕
光源装置2は、光源21、複数のレンズ22(図1には1つのみ記載)を備え、被検査対象Aに対して白色光を射出する。複数のレンズ22には、コリメーターレンズが含まれていてもよく、この場合、光源装置2は、光源21から射出された白色光をコリメーターレンズにより平行光とし、図示しない投射レンズから被検査対象Aに向かって射出する。
なお、本実施形態では、光源装置2を備える測色装置1を例示するが、例えば被検査対象Aが液晶パネルなどの発光部材である場合、光源装置2が設けられない構成としてもよい。
【0025】
〔3.測色センサーの構成〕
測色センサー3は、本発明の光モジュールを構成する。この測色センサー3は、図1に示すように、本発明の波長可変干渉フィルターを構成するエタロン5と、エタロン5を透過する光を受光して検出する検出部31と、エタロン5で透過させる光の波長を可変する電圧制御部6と、を備えている。また、測色センサー3は、エタロン5に対向する位置に、被検査対象Aで反射された反射光(検査対象光)を、内部に導光する図示しない入射光学レンズを備えている。そして、この測色センサー3は、エタロン5により、入射光学レンズから入射した検査対象光のうち、所定波長の光のみを分光し、分光した光を検出部31にて受光する。
検出部31は、複数の光電交換素子により構成されており、受光量に応じた電気信号を生成する。そして、検出部31は、制御装置4に接続されており、生成した電気信号を受光信号として制御装置4に出力する。
【0026】
(3−1.エタロンの構成)
図2は、本発明の波長可変干渉フィルターを構成するエタロン5の概略構成を示す平面図であり、図3は、エタロン5の概略構成を示す断面図である。
エタロン5は、図2に示すように、平面正方形状の板状の光学部材であり、一辺が例えば10mmに形成されている。このエタロン5は、図3に示すように、本発明の第二基板である固定基板51、および本発明の第一基板である可動基板52を備えている。これらの2枚の基板51,52は、それぞれ例えば、ソーダガラス、結晶性ガラス、石英ガラス、鉛ガラス、カリウムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラスなどの各種ガラスや、水晶などにより形成されている。そして、これらの2つの基板51,52は、外周部近傍に形成される接合部513,523が、例えば常温活性化接合やプラズマ重合膜を用いたシロキサン接合などにより、接合されることで、一体的に構成されている。
【0027】
固定基板51には、本発明の第二反射膜を構成する固定反射膜56が設けられ、可動基板52には、本発明の第一反射膜を構成する可動反射膜57が設けられている。ここで、固定反射膜56は、固定基板51の可動基板52に対向する面に固定され、可動反射膜57は、可動基板52の固定基板51に対向する面に固定されている。また、これらの固定反射膜56および可動反射膜57は、ギャップを介して対向配置されている。
さらに、固定基板51と可動基板52との間には、固定反射膜56および可動反射膜57の間のギャップの寸法を調整するための静電アクチュエーター54が設けられている。この静電アクチュエーター54は、固定基板51側に設けられる本発明の第二電極としての固定電極541と、可動基板52側に設けられる本発明の第一電極としての可動電極542とを備えている。
【0028】
(3−1−1.固定基板の構成)
固定基板51は、厚みが例えば500μmに形成されるガラス基材を加工することで形成される。具体的には、図3に示すように、固定基板51には、エッチングにより電極形成溝511および反射膜固定部512が形成されている。この固定基板51は、可動基板52に対して厚み寸法が大きく形成されており、固定電極541および可動電極542間に電圧を印加した際の静電引力や、固定電極541の内部応力による固定基板51の撓みはない。
【0029】
電極形成溝511は、図3に示すようなエタロン5を厚み方向から見た平面視(以降、エタロン平面視と称す)において、平面中心点を中心とした円形に形成されている。反射膜固定部512は、前記平面視において、電極形成溝511の中心部から可動基板52側に突出して形成される。
また、固定基板51には、電極形成溝511から、固定基板51の外周縁の頂点方向(例えば図2における左下方向、および右上方向)に向かって延出する一対の引出形成溝(図示略)が設けられている。
【0030】
そして、固定基板51の電極形成溝511の溝底部である電極形成面511Aには、リング状の固定電極541が形成されている。この固定電極541は、複数層の電極層により形成され、本実施形態では、電極形成面511Aから、ITO(Indium Tin Oxide)、Cr、Auが順に積層されることで構成されている。
また、この固定電極541の外周縁から、一対の引出形成溝(図2では、右上方向)に沿って伸びる固定引出電極541Aが設けられている。この固定引出電極541Aの先端には、固定電極パッド541Bが形成され、この固定電極パッド541Bが電圧制御部6に接続されている。この固定引出電極541Aは、固定電極541の成膜時に同時に形成されるものであり、固定電極541と同様、複数の電極層(ITO,Cr、Au)が順に積層されて構成されている。
【0031】
また、固定電極541上には、固定電極541および可動電極542の間の放電を防止するための絶縁膜543が積層されている。この絶縁膜543は、例えばSiO等の絶縁性を有する部材により構成され、固定電極541の可動基板52に対向する面、および電極形成面511A上の固定引出電極541Aの可動基板52に対向する面を覆っている。なお、絶縁膜543としては、固定引出電極541Aの固定電極パッド541B以外の部分を全て覆う構成などとしてもよい。
なお、絶縁膜543の膜厚寸法としては、特に限定はされず、必要な絶縁耐圧に応じて設定されていればよい。
【0032】
反射膜固定部512は、上述したように、電極形成溝511と同軸上で、電極形成溝511よりも小さい径寸法となる円柱状に形成されている。なお、本実施形態では、図3に示すように、反射膜固定部512の可動基板52に対向する反射膜固定面512Aが、電極形成面511Aよりも可動基板52に近接して形成される例を示すが、これに限らない。電極形成面511Aおよび反射膜固定面512Aの高さ位置は、反射膜固定面512Aに固定される固定反射膜56、および可動基板52に形成される可動反射膜57の間のギャップの寸法、固定電極541および可動基板52に形成される後述の可動電極542の間の寸法、固定反射膜56や可動反射膜57の厚み寸法により適宜設定される。例えば反射膜56,57として、誘電体多層膜を用い、その厚み寸法が増大する場合、電極形成面511Aと反射膜固定面512Aとが同一面に形成される構成や、電極形成面511Aの中心部に、円柱凹溝上の反射膜固定溝が形成され、この反射膜固定溝の底面に反射膜固定面512Aが形成される構成などとしてもよい。
ただし、固定電極541および可動電極542の間に作用する静電引力は、固定電極541および可動電極542の距離の二乗に反比例する。したがって、これら固定電極541および可動電極542の距離が近接するほど、印加電圧に対する静電引力も増大し、ギャップの変動量も大きくなる。特に、本実施形態のエタロン5のように、ギャップの可変寸法が微小な場合(例えば250nm〜450nm)、ギャップの制御が困難となる。したがって、上記のように、反射膜固定溝を形成する場合であっても、電極形成溝511の深さ寸法をある程度確保する方が好ましく、本実施形態では、例えば、1μmに形成されることが好ましい。
【0033】
また、反射膜固定部512の反射膜固定面512Aは、エタロン5を透過させる波長域をも考慮して、溝深さが設計されることが好ましい。例えば、固定反射膜56および可動反射膜57の間のギャップの初期値(固定電極541および可動電極542間に電圧が印加されていない状態のギャップの寸法)が450nmに設定され、固定電極541および可動電極542間に電圧を印加することにより、ギャップが例えば250nmになるまで可動反射膜57を変位させることが可能な設定とする場合、固定反射膜56および可動反射膜57の膜厚および反射膜固定面512Aや電極形成面511Aの高さ寸法は、ギャップGを250nm〜450nmの間で変位可能な値に設定されていればよい。
【0034】
そして、反射膜固定面512Aには、円形状に形成される固定反射膜56が固定されている。この固定反射膜56としては、金属の単層膜により形成されるものであってもよく、誘電体多層膜により形成されるものであってもよく、さらには、誘電多層膜上にAg合金が形成される構成などとしてもよい。金属単層膜としては、例えばAg合金の単層膜を用いることができ、誘電体多層膜の場合は、例えば高屈折層をTiO、低屈折層をSiOとした誘電体多層膜を用いることができる。ここで、Ag合金の単層など金属単層により固定反射膜56を形成する場合、エタロン5で分光可能な波長域として可視光全域をカバーできる反射膜を形成することが可能となる。また、誘電体多層膜により固定反射膜56を形成する場合、エタロン5で分光可能な波長域がAg合金単層膜よりも狭いが、分光された光の透過率が大きく、透過率の半値幅も狭く分解能を良好にできる。
【0035】
さらに、固定基板51は、可動基板52に対向する上面とは反対側の下面において、固定反射膜56に対応する位置に図示略の反射防止膜(AR)が形成されている。この反射防止膜は、低屈折率膜および高屈折率膜を交互に積層することで形成され、固定基板51の表面での可視光の反射率を低下させ、透過率を増大させる。
【0036】
(3−1−2.可動基板の構成)
可動基板52は、厚みが例えば200μmに形成されるガラス基材をエッチングにより加工することで形成される。
具体的には、可動基板52は、図2に示すような平面視において、基板中心点を中心とした円形の可動部521と、可動部521と同軸であり可動部521を保持する保持部522と、を備えている。
【0037】
可動部521は、保持部522よりも厚み寸法が大きく形成され、例えば、本実施形態では、可動基板52の厚み寸法と同一寸法である200μmに形成されている。また、可動部521は、反射膜固定部512に平行な可動面521Aを備え、この可動面521Aに、固定反射膜56とギャップを介して対向する可動反射膜57が固定されている。
ここで、この可動反射膜57は、上述した固定反射膜56と同一の構成の反射膜が用いられる。
【0038】
さらに、可動部521は、可動面521Aとは反対側の上面において、可動反射膜57に対応する位置に図示略の反射防止膜(AR)が形成されている。この反射防止膜は、固定基板51に形成される反射防止膜と同様の構成を有し、低屈折率膜および高屈折率膜を交互に積層することで形成される。
【0039】
保持部522は、可動部521の周囲を囲うダイアフラムであり、例えば厚み寸法が50μmに形成され、可動部521よりも厚み方向に対する剛性が小さく形成されている。このため、保持部522は可動部521よりも撓みやすく、僅かな静電引力により固定基板51側に撓ませることが可能となる。この際、可動部521は、保持部522よりも厚み寸法が大きく、剛性が大きくなるため、静電引力により可動基板52を撓ませる力が作用した場合でも、可動部521の撓みはほぼなく、可動部521に形成された可動反射膜57の撓みも防止できる。
そして、この保持部522の固定基板51に対向する面には、固定電極541と、約1μmの隙間を介して対向する、リング状の可動電極542が形成されている。
【0040】
この可動電極542は、図3に示すように、複数層の電極層により構成されている。
具体的には、可動電極542は、可動基板52の表面から順に、第一電極層544、第二電極層545、第三電極層526の順に積層されて構成されている。ここで、第一電極層544は、面方向に沿って作用する内部応力の方向が、第一電極層544の外周縁から層中心部に向かう圧縮方向である、圧縮応力を有している。また、第二電極層545は、内部応力の方向が、層中心部から第二電極層545の外周縁に向かう引張方向である、引張応力を有している。さらに、第三電極層546は、引張応力を有している。すなわち、第一電極層544は、本発明の圧縮電極層を構成し、第二電極層545および第三電極層546は、本発明の引張電極層を構成する。
【0041】
より具体的には、第一電極層544は、金属酸化物の膜をスパッタリングにより成膜することで形成される層であり、例えば、本実施形態では、厚み寸法が100nmであるITO(Indium Tin Oxide)により形成されている。このような金属酸化物により構成された第一電極層544は、ガラスにより形成される可動基板52との密着性が良好となり、可動基板52と可動電極542との剥離が防止される。また、金属酸化物により形成された膜は、例えばスパッタリングにより成膜された際に、後処理等されていない状態で圧縮応力を有する膜となる。
また、第二電極層545および第三電極層546は、金属膜をスパッタリングにより成膜することで形成される膜であり、例えば、本実施形態では、第二電極層545として、10nmのCr、第三電極層546として、100nmのAuが形成されている。
なお、本実施形態では、第一電極層544、第二電極層545、および第三電極層546の三層により可動電極542が構成される例を示すが、例えば、4層以上の電極層を備える構成としてもよく、2層のみの構成、例えば、圧縮応力を有する第一電極層544(ITO)と、引張応力を有する第三電極層546(Au)のみで構成されてもよい。ただし、Auで構成された第三電極層546は、ITOで構成された第一電極層544との密着性が悪く、第一電極層544上に第三電極層546を積層した場合、剥離等が発生する場合がある。これに対して、Crは、ITOおよびAuの双方に対して良密着性を示し、第一電極層544と第三電極層546との間にCrで構成された第二電極層545を設けることで、上述のような剥離等の問題を回避できる。
【0042】
また、本実施形態では、第一電極層544として、圧縮応力を有するITOを例示したが、その他の金属酸化物膜を用いてもよい。スパッタリングにより成膜された際に圧縮応力を示す金属酸化物膜としては、例えば、IZO、ICO、IGO、IXO、IWO等が挙げられる。さらに、第一電極層544として、金属酸化物に限られず、例えば導電性を付与したDLCなどを用いてもよい。
同様に、第二電極層545、第三電極層546として、引張応力を有するCr,Auを例示したが、その他の金属膜を用いてもよい。スパッタリングにより成膜された際に引張応力を示す金属としては、例えば、Cu,Al,Ag,Ti,W,Mo等が挙げられる。
【0043】
ここで、可動基板52に成膜された可動電極542の内部応力がσ、膜厚寸法がtであり、第一電極層544の内部応力がσ、膜厚寸法がt、第二電極層545の内部応力がσ、膜厚寸法がt、第三電極層546の内部応力がσ、膜厚寸法がtである場合、可動電極542が可動基板52を撓ませようとする力(曲げモーメント)Fは、下記式(1)により示される。
【0044】
[数1]
F∝σ×t=(σ×t)+(σ×t)+(σ×t) …(1)
【0045】
上記式(1)において、力Fが「0」となる場合に、可動電極542の内部応力による可動基板52の撓みが防止される。ここで、第一電極層544の内部応力は圧縮応力であるため、内部応力σは正の値となり、第二電極層545および第三電極層546の内部応力は引張応力であるため、内部応力σ、σは負の値となる。したがって、F=0(σ×t=0)となる場合、下記式(2)が成立する。
【0046】
[数2]
|σ×t|=|(σ×t)+(σ×t)| …(2)
【0047】
本実施形態では、可動電極542の各電極層544,545,546は、上記式(2)の関係を満たしており、これにより、可動電極542の内部応力による可動基板52の撓みが防止されている。
【0048】
そして、可動電極542の外周縁の一部からは、可動引出電極542Aが外周方向に向かって形成されている。具体的には、可動引出電極542Aは、エタロン平面視において、固定基板51に形成される一対の引出形成溝のうち、固定引出電極541Aが形成されていない他方の引出形成溝と対向する位置に設けられている。また、可動引出電極542Aは、先端部には、可動電極パッド542Bが形成され、電圧制御部6に接続されている。
この可動引出電極542Aは、可動電極542の成膜時に同時に形成されるものであり、可動電極542を同様の構成を有している。したがって、可動引出電極542Aの内部応力が可動基板52に及ぼす力も「0」となり、これによる可動基板52の撓みはない。
【0049】
(3−2.電圧制御手段の構成)
電圧制御部6は、制御装置4からの入力される制御信号に基づいて、静電アクチュエーター54の固定電極541および可動電極542に印加する電圧を制御する。
【0050】
〔4.制御装置の構成〕
制御装置4は、測色装置1の全体動作を制御する。
この制御装置4としては、例えば汎用パーソナルコンピューターや、携帯情報端末、その他、測色専用コンピューターなどを用いることができる。
そして、制御装置4は、図1に示すように、光源制御部41、測色センサー制御部42、および本発明の分析処理部を構成する測色処理部43などを備えて構成されている。
光源制御部41は、光源装置2に接続されている。そして、光源制御部41は、例えば利用者の設定入力に基づいて、光源装置2に所定の制御信号を出力し、光源装置2から所定の明るさの白色光を射出させる。
測色センサー制御部42は、測色センサー3に接続されている。そして、測色センサー制御部42は、例えば利用者の設定入力に基づいて、測色センサー3にて受光させる光の波長を設定し、この波長の光の受光量を検出する旨の制御信号を測色センサー3に出力する。これにより、測色センサー3の電圧制御部6は、制御信号に基づいて、利用者が所望する光の波長のみを透過させるよう、静電アクチュエーター54への印加電圧を設定する。
【0051】
〔5.エタロンの製造方法〕
次に、上記エタロン5の製造方法について、図面に基づいて説明する。
(5−1.固定基板の製造)
まず、固定基板51の製造素材である厚み寸法が500μmの石英ガラス基板を用意し、この石英ガラス基板の表面粗さRaが1nm以下となるまで両面を精密研磨する。そして、固定基板51の可動基板52に対向する面に電極形成溝511形成用のレジストを塗布して、塗布されたレジストをフォトリソグラフィ法により露光・現像して、電極形成溝511が形成される箇所をパターニングする。
次に、ウェットエッチングにより、反射膜固定面512Aの深さ寸法まで固定基板51をエッチングする。そして、反射膜固定面512Aにレジストを形成して、さらにエッチング処理をすることで、図4(A)に示すように、電極形成溝511を形成する。
【0052】
次に、固定基板51の可動基板52に対向する側の面に、スパッタリングによるITO膜、Cr膜、Au膜の順に積層された積層膜の成膜と、フォトリソグラフィ法と、エッチングによるパターン形成とを行う。これにより、図4(B)に示すような固定電極541が形成される。
【0053】
次に、固定基板51の可動基板52と対向する側の面に、フォトリソグラフィ法により、反射膜固定面512Aに固定反射膜56が形成される領域のみが露出するパターンのレジストを形成し、固定反射膜56をスパッタリングまたは蒸着法により成膜する。そして、レジストを除去することで、図4(C)に示すように、反射膜固定面512Aに固定反射膜56が形成される。
【0054】
この後、固定基板51の可動基板52と対向する側の面に、スパッタリング、プラズマCVD法などにより、絶縁膜543を成膜し、フォトリソグラフィ法およびエッチングによるパターン形成を行う。
さらに、固定基板51に、接合部513が形成される領域だけが露出するパターンのレジストを形成し、ポリオルガノシロキサンを用いたプラズマ重合膜をプラズマCVD法により成膜し、リフトオフにより、レジストを除去する。以上により、図4(D)に示すように、固定基板51が形成される。
【0055】
(5−2.可動基板の製造)
可動基板52の形成では、予め可動電極542の各電極層の成膜条件を設定して、その成膜条件で各電極層544,545,546を成膜した際の内部応力を測定する。例えば、本実施形態では、第一電極層544、第二電極層545、および第三電極層546をスパッタリングにより成膜する。この場合、第一電極層544の成膜条件を、例えば成膜対象基板(可動基板52)の温度を250度、真空チャンバー内圧力を0.5Pa、ターゲットに印加する電力を200Wとし、この成膜条件でスパッタリングにより成膜された第一電極層544の内部応力を測定する。また、第二電極層545および第三電極層546の成膜条件を、例えば成膜対象基板の温度を常温(20度)、真空チャンバー内圧力を0.2Pa、ターゲットに印加する電力を200Wとし、この成膜条件でスパッタリングにより成膜された第二電極層545および第三電極層546の内部応力を測定する。
そして、シミュレーションにより、上記式(2)を満たす各電極層544,545,546の厚み寸法を決定する。ここでは、シミュレーションにより、第一電極層544の厚み寸法が100nm、第二電極層545の厚み寸法が10nm、第三電極層546の厚み寸法が100nmと決定されたものとする。
【0056】
この後、可動基板52の製造素材である厚み寸法が200μmの石英ガラス基板を用意し、図5(A)に示すように、このガラス基板の表面粗さRaが1nm以下となるまで両面を精密研磨する。
そして、可動基板52の一面(固定基板51とは反対側の面)に、フォトリソグラフィ法によりレジストを形成した後、ウェットエッチングを行うことにより、図5(B)に示すように、可動部521および保持部522を形成する。
【0057】
この後、図5(C)に示すように、可動基板52の固定基板51に対向する面に、設定した成膜条件で、スパッタリングにより、厚み寸法が100nmのITO膜を成膜する。そして、エッチングにより、パターン形成を行い、図5(D)に示すような第一電極層544を形成する。
【0058】
この後、図6(A)に示すように、可動基板52の固定基板51に対向する面に、設定した成膜条件で、スパッタリングにより、厚み寸法が10nmのCr膜、100nmのAu膜を成膜する。そして、エッチングにより、パターン形成を行い、図6(B)に示すような第二電極層545、第三電極層546を形成する。このように成膜された可動電極542では、各電極層544,545,546が上記式(2)の条件を満たすため、可動電極542の内部応力が可動基板52に及ぼす力Fは「0」となり、可動基板52の撓みが防止される。
【0059】
この後、固定基板51の固定反射膜56と同様に、フォトリソグラフィ法およびリフトオフ処理を行い、図6(C)に示すように、可動部521の可動面521Aに可動反射膜57を成膜する。
さらに、図6(D)に示すように、可動基板の接合部523に、ポリオルガノシロキサンを用いたプラズマ重合膜をプラズマCVD法により成膜する。
以上により、可動電極542の内部応力による撓みがない可動基板52が形成される。
【0060】
(5−3.固定基板及び可動基板の接合)
固定基板51及び可動基板52の接合では、まず、固定基板51の接合部513及び可動基板52の接合部523をそれぞれ活性化させる表面活性化工程を実施する。この表面活性化工程では、接合部513や接合部523の表面の分子結合が切断し、終端化されていない結合手を生じさせる。
この後、固定基板51の接合部513及び可動基板52の接合部523を重ね合わせて接合させ加圧接合させる。
この時、可動電極542の内部応力による可動基板52の撓みがないため、可動面521Aおよび可動反射膜57にも撓みが生じない。したがって、固定反射膜56および可動反射膜57を平行に維持することができ、加圧接合時に加える圧力を制御することで、所望の初期ギャップを精度よく設定することができる。
【0061】
〔6.本実施形態の作用効果〕
上述したように、上記実施形態のエタロン5は、可動基板52上に成膜される可動電極542が、第一電極層544、第二電極層545、および第三電極層546により構成され、第一電極層544は、圧縮応力を有し、第二電極層545および第三電極層546は、引張応力を有している。このため、第一電極層544の圧縮応力が可動基板52に及ぼす力と、第二電極層545および第三電極層546の引張応力が可動基板52に及ぼす力とが互いに打ち消しあい、可動基板52を撓ませる力が低減される。このため、可動基板52の撓みが防止され、可動反射膜57の撓みも防止される。したがって、可動反射膜57と固定反射膜56との平行精度を良好に維持でき、エタロン5の分解能を向上させることができる。
【0062】
そして、可動電極542を構成する各電極層544,545,546は、上述した式(2)に基づいて、各内部応力、および厚み寸法が設定されている。
このため、第一電極層544の圧縮応力が可動基板52に及ぼす力、第二電極層545および第三電極層546の引張応力が可動基板52に及ぼす力を、釣り合わせることができ、より確実に可動基板52の撓みを防止でき、可動反射膜57の撓みを防止することができる。
【0063】
また、エタロン5の製造時、固定基板51および可動基板52を接合させる接合工程においては、プラズマ重合膜に紫外線を照射することでプラズマ重合膜表面を活性化させ、固定基板51と可動基板52を重ね合わせ、厚み方向に沿って所定の圧力で加圧することで接合する。この時、例えば可動反射膜57の内部応力により可動基板52や可動反射膜57に撓みが生じている場合、固定反射膜56と可動反射膜57の初期ギャップ寸法が一様とならず、所望の設定値に合わせ込むことが困難となる。また、静電引力により可動基板52を撓ませるエタロン5では、初期ギャップ以上のギャップに設定することができないため、初期ギャップの設定値が誤っている場合、所望の波長域の光を分光させることができない不都合が生じる。したがって、可動基板52や可動反射膜57に撓みがある場合、分解能が低下するだけではなく、所望の波長域の光を分光可能なエタロン5を製造するためには、初期ギャップを大きく設定する必要があり、静電引力により可動基板52を可動させる際の駆動電圧も大きくなり、消費電力も増大する。
これに対して、上記実施形態のエタロン5では、上述のように、可動電極542による可動基板52の撓みが防止され、可動反射膜57および固定反射膜56を平行に維持することができるため、反射膜56,57間の初期ギャップを一様に揃えることができる。したがって、所望のギャップ寸法に精度よく合わせ込むことができる。この場合、所望のギャップ寸法以上にギャップを設定する必要がなくなるので、エタロン5を駆動させるための電圧値も小さくすることができ、省電力化を図ることができる。
【0064】
そして、本実施形態の第一電極層544は、金属酸化物膜であるITOにより形成され、第二電極層545および第三電極層546は、金属膜であるCrおよびAuにより形成されている。
このような金属酸化物膜は、例えばスパッタリングにより成膜された際、特別な後処理を実施することなく圧縮応力を有する膜となり、金属膜は、例えばスパッタリングにより成膜された際に、特別な後処理を実施することなく引張応力を有する膜となる。したがって、特別な後処理を実施することなく、容易に圧縮応力を有する第一電極層544と、引張応力を有する第二、第三電極層545,546を成膜することができ、製造工程を簡略化することができる。
【0065】
また、可動基板52は、ガラスにより形成されており、可動電極542のうち、可動基板52に接触する第一電極層544は、上述のように、金属酸化物膜であるITOにより形成されている。
このような構成では、第一電極層544と可動基板52との密着性を良好にすることができ、可動基板52の剥離を防止することができる。
【0066】
本実施形態の可動基板52は、可動反射膜57が形成される可動部521と、可動部521よりも厚み寸法が小さく形成されて厚み方向に対する剛性が小さい保持部522とを備え、保持部522に可動電極542が形成されている。
このように、可動部521および保持部522を設ける構成では、例えば保持部522が設けられない平行平板状の可動基板等に比べて、小さい駆動電圧で保持部522を撓ませ、可動部521を移動させることができ、省電力化を図ることができる。また、可動部521に比べて、保持部522が撓みやすくなっているため、可動基板52に静電引力が加わった際、保持部522が大きく撓み、可動部521の撓みが防止される。これにより、可動基板52を固定基板51側に撓ませた場合でも、可動部521の可動面521Aの撓みを防止することができ、可動反射膜57の撓みを防止することができる。
したがって、可動基板52を固定基板51側に撓ませた場合であっても、反射膜56,57の平行精度を維持することができ、エタロン5の分解能の低下を防止できる。
また、このような剛性の小さい保持部522に可動電極542を形成する場合、可動電極542の内部応力により保持部522を撓ませる力が作用すると、保持部522が容易に撓んでしまう。これに対して、本実施形態では、上述のように、可動電極542の各電極層544,545,546が上記式(2)の条件に基づいて成膜されており、保持部522を撓ませる力Fが作用しないので、保持部522の撓みを防止することができる。
【0067】
そして、固定基板51に形成される固定電極541を覆う絶縁膜543が形成されていることで、固定電極541および可動電極542間の放電を防止することができる。このため、固定電極541および可動電極542間に駆動電圧を印加した際、その電圧値に応じた電荷が各電極541,542に保持され、固定反射膜56および可動反射膜57間のギャップの寸法を精度よく制御することができる。
また、固定基板51は、厚み寸法が十分大きく形成され、固定電極541の内部応力や、静電引力等による撓みがないため、上述のような絶縁膜543を設けた場合であっても、絶縁膜の内部応力により固定基板51が撓むことがなく、固定反射膜56および可動反射膜57間の平行精度を良好に維持できる。
【0068】
〔他の実施の形態〕
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0069】
例えば、上記実施形態では、第一電極層544が圧縮応力を有する圧縮電極層、第二電極層545および第三電極層546が引張応力を有する引張電極層として構成される例を示したが、第一電極層544が引張電極層、第二電極層545や第三電極層546が圧縮電極層となる構成であってもよい。
第一電極層544として、ガラスである可動基板52と良密着性のITOを形成することが好ましいが、例えば、スパッタリングによる成膜後にアニール処理を実施することで、引張応力を有するITOの第一電極層544を形成することができる。また、スパッタリングによる成膜は、圧縮応力を有する膜が形成されやすく、蒸着法による成膜は、引張応力を有する膜が形成されやすい。したがって、所定の蒸着条件で、蒸着法により成膜することで、引張応力を有するITOの第一電極層544を形成してもよい。
このように、第一電極層544として、引張応力を有する引張電極層を形成した場合、第二電極層545および第三電極層546のうち少なくともいずれか一方を、圧縮応力を有する圧縮電極層とすることで、各電極層の内部応力による可動基板52に与える力が打ち消し合い、可動基板52の撓みを低減させることが可能となる。
【0070】
また、上記実施形態では、可動基板52を第一基板とし、固定基板51を第二基板としたが、例えば、固定基板51を第一基板として、固定電極541を圧縮電極層および引張電極層を積層した積層構造を有する第一電極としてもよい。この場合、厚み寸法が薄い固定基板51を用いた場合であっても、固定電極541の内部応力に起因した基板の撓みを防止することができる。
さらに、固定基板51および可動基板52の双方に可動部が設けられ、これらの可動部がそれぞれ厚み方向に対して変位可能な構成などとしてもよく、この場合、固定電極541および可動電極542の双方を、圧縮電極層および引張電極層を積層した積層構造としてもよい。
【0071】
また、上記実施形態では、可動基板52には、ダイアフラム状の保持部522が形成される例を示したがこれに限定されない。
保持部522としては、可動部521を固定基板51に対して進退移動可能に保持する構成であればよく、例えば、複数の架橋部により構成されていてもよい。この場合、これらの架橋部の全部、または、可動基板52の中心点に対して対象となる位置に設けられる架橋部に可動電極542を形成する。これにより、架橋部の撓みバランスを良好にでき、可動反射膜57を固定反射膜56に対して平行に維持した状態で、可動部521を移動させることができる。
【0072】
また、上記実施形態では、対向する固定反射膜56と可動反射膜57との間の寸法が、対向する固定電極541と可動電極542との寸法より小さい構造のエタロン5について説明したが、固定反射膜と可動反射膜との間の寸法が、固定電極と可動電極との寸法より大きい構造の光フィルターであっても、本実施形態と同様の効果を奏する。
【0073】
さらに、上記実施形態において、光モジュールとして、測色センサー3を例示し、光分析装置として測色装置1を例示したが、これに限定されない。
例えば、本発明の光モジュールを、波長可変干渉フィルターであるエタロン5により取り出された光を検出部により受光することで、ガス特有の吸収波長を検出するガス検出モジュールとして用いることもでき、光分析装置として、ガス検出モジュールにより検出された吸収波長からガスの種類を判別するガス検出装置として用いることもできる。
さらには、例えば、光モジュールは、光ファイバーなどの光伝達媒体により伝送された光から所望の波長の光を抽出する光通信モジュールとしても用いることができる。また、光分析装置として、このような光通信モジュールから抽出された光からデータをデコード処理し、光により伝送されたデータを抽出する光通信装置として用いることもできる。
【0074】
その他、本発明の実施の際の具体的な構造および手順は、本発明の目的を達成できる範囲で他の構造などに適宜変更できる。
【符号の説明】
【0075】
1…光分析装置としての測色装置、3…光モジュールとしての測色センサー、5…波長可変干渉フィルターとしてのエタロン、31…検出部、43…分析処理部としての測色処理部、51…第二基板としての固定基板、52…第一基板としての可動基板、56…第二反射膜としての固定反射膜、57…第一反射膜としての可動反射膜、521…可動部、522…保持部、541…第二電極としての固定電極、542…第一電極としての可動電極、543…絶縁膜、544…圧縮電極層としての第一電極層、545…引張電極層としての第二電極層、546…引張電極層としての第三電極層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一基板と、
前記第一基板に対向する第二基板と、
前記第一基板の前記第二基板に対向する面に設けられた第一反射膜と、
前記第二基板の前記第一基板に対向する面に設けられ、前記第一反射膜とギャップを介して対向する第二反射膜と、
前記第一基板の前記第二基板に対向する面に設けられた第一電極と、
前記第二基板の前記第一基板に対向する面に設けられ、前記第一電極に対してギャップを介して対向する第二電極と、を備え、
前記第一電極は、前記第一基板の基板表面に沿う面方向に対する内部応力の方向が圧縮方向である圧縮電極層と、内部応力の方向が引張方向である引張電極層と、を積層して形成された
ことを特徴とする波長可変干渉フィルター。
【請求項2】
請求項1に記載の波長可変干渉フィルターにおいて、
前記圧縮電極層の内部応力および膜厚寸法の積の絶対値と、前記引張電極層の内部応力および膜厚寸法の積の絶対値とが、同値である
ことを特徴とした波長可変干渉フィルター。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の波長可変干渉フィルターにおいて、
前記圧縮電極層は、金属酸化物の膜であり、
前記引張電極層は、金属膜である
ことを特徴とした波長可変干渉フィルター。
【請求項4】
請求項3に記載の波長可変干渉フィルターにおいて、
前記第一基板は、ガラスにより形成され、
前記第一電極のうち、前記第一基板に接する層は、前記圧縮電極層である
ことを特徴とした波長可変干渉フィルター。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の波長可変干渉フィルターにおいて、
前記第一基板は、
前記第一反射膜が設けられた可動部と、
前記可動部を前記第二基板に対して進退移動可能に保持する保持部と、を備え、
前記保持部は、厚み方向に対する剛性が前記可動部の厚み方向に対する剛性よりも小さく、
前記第一電極は、前記保持部に設けられた
ことを特徴とした波長可変干渉フィルター。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の波長可変干渉フィルターにおいて、
前記第二基板は、前記第一電極および前記第二電極に電圧を印加して静電引力を付与した際に、静電引力により変形しない固定基板であり、
前記第二電極上に、前記第二電極の前記第一基板に対向する面を覆う絶縁膜が設けられた
ことを特徴とした波長可変干渉フィルター。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の波長可変干渉フィルターと、
前記波長可変干渉フィルターを透過した光を検出する検出部と、を備えた
ことを特徴とする光モジュール。
【請求項8】
請求項7に記載の光モジュールと、
前記光モジュールの前記検出部により受光された光に基づいて、前記光の光特性を分析する分析処理部と、を備えた
ことを特徴とする光分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−47890(P2012−47890A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−188506(P2010−188506)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】