説明

洗浄方法および洗浄システム

【課題】SPM法において、ウエハ等を効果的に洗浄することを可能にし、所望によっては洗浄後の溶液の循環使用を可能にする。
【解決手段】洗浄方法として、硫酸溶液と過酸化水素水とを混合した後、混合液を加熱して被洗浄材の洗浄に供するものとし、洗浄システムでは、硫酸溶液と過酸化水素水とを混合して貯液する混合貯液部と、前記混合貯液部から供給される混合液を通液しつつ加熱する加熱器と、前記加熱器から供給される加熱混合液を洗浄液として用いる洗浄部と、を備えるものとすることで、硫酸溶液と過酸化水素水との混合によって、酸化力の強い混合溶液が得られ、混合後、加熱された混合溶液を用いて被洗浄材を効果的に洗浄できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、硫酸溶液と過酸化水素水を混合した溶液をシリコンウエハ等の電子材料に付着したレジスト等の洗浄に好適に使用することができる洗浄システムおよび洗浄方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造におけるレジスト剥離工程では硫酸・過酸化水素の混合溶液を洗浄液として用いるSPM洗浄法が広く知られている。SPM洗浄は、濃硫酸中に過酸化水素を一定の割合で混合することにより酸化力の強いカロ酸(ペルオキソ一硫酸)を生成させ、このカロ酸の酸化力を用いて半導体基板に付着したレジストを剥離して酸化分解するというものである。
このような従来のSPM法として、以下の方法が知られている。
【0003】
(1)その1
96質量%硫酸溶液と30質量%過酸化水素水とを容積比2:1で常温のまま混合し、洗浄部に供給し、ウエハ100を洗浄する(図6(a)参照)。混合後の溶液の温度は140℃まで上がる。
(2)その2
前記その1と同様に前記硫酸溶液と前記過酸化水素水とを容積比2:1で混合するが、96質量%硫酸を加熱器101で80℃まで予熱してから混合する(図6(b)参照)。これにより混合液は185℃に到達するが、混合後の硫酸濃度が75質量%になるので沸点を超えてしまう(75質量%硫酸溶液の沸点は183℃である)。従って、混合液が、洗浄部に備える洗浄ノズルを出た瞬間に沸騰蒸発して、液が周囲に飛び散り、適切にウエハ100上に散布することができない。
(3)その3
前記硫酸溶液と前記過酸化水素水との容積混合比を5:1にすれば混合後の硫酸濃度は86質量%になる。該濃度の硫酸溶液の沸点は200℃を超えるので、硫酸溶液が200℃に昇温しても混合液が沸騰する心配はない。前記硫酸溶液を図6(c)に示すように、加熱器101で120℃、前記過酸化水素水を加熱器102で60℃に予熱した後、混合することで混合液は200℃にまで到達する。
しかし、過酸化水素水の投入量が少ないので、下記式(1)で示す反応で生成されるカロ酸(HSO、ペルオキソ一硫酸)の濃度が低くなり、十分なレジスト剥離効果を得ることができないとされている。
SO+H→HSO+HO (1)
(4)その4
硫酸溶液と過酸化水素水の混合時に、混合液を冷却して溶解熱による温度上昇が発生しないように調整し、低温のまま洗浄を図る技術が公開されている。(特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−176782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した従来のSPM法のその1、その4で示す方法では、混合後の溶液の温度が十分に上がらず、溶液の温度が低いため洗浄効果が不十分であるという問題がある。
また、その3で示す方法においては、上記のように、カロ酸濃度が低く、十分な洗浄効果が得られていない。従来、その原因は過酸化水素水の投入量が少ないためと考えられていたが、本願発明者らの研究によって、カロ酸の濃度が低いのは、過酸化水素水の混合割合が低いためではなく、予熱された硫酸および過酸化水素水が接触した瞬間に、過酸化水素水が高温になり、下記式(2)に示すように過酸化水素が酸素を放出してしまい、前記(1)式の反応が起こらない、あるいは起こる割合が減ってしまうためであることが判明した。
→HO+1/2O (2)
【0006】
本発明は、上記事情を背景としてなされたものであり、硫酸溶液と過酸化水素水との混合液を用いてウエハなどを効果的に洗浄することができる洗浄方法および洗浄システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明の洗浄方法のうち第1の本発明は、硫酸溶液と過酸化水素水とを混合した後、混合液を加熱して被洗浄材の洗浄に供することを特徴とする。
第2の本発明の洗浄方法は、前記第1の本発明において、前記混合液が前記加熱前に60〜100℃の温度を有することを特徴とする。
第3の本発明の洗浄方法は、前記第1または第2の本発明において、前記混合液は、前記加熱後に150〜220℃の温度を有することを特徴とする。
第4の本発明の洗浄方法は、前記第1〜第3の本発明のいずれかにおいて、前記混合液の加熱を10秒以内で行い、該混合液を、加熱後20秒以内に前記洗浄に使用することを特徴とする。
第5の本発明の洗浄方法は、前記第1〜第4の本発明のいずれかにおいて、前記混合液は、硫酸濃度が70〜92質量%であることを特徴とする。
第6の本発明の洗浄方法は、前記第1〜第5の本発明のいずれかにおいて、前記洗浄後の混合液の一部または全部を回収し、回収した溶液に、前記硫酸溶液と過酸化水素の一方または両方を添加し前記混合液として循環使用することを特徴とする。
第7の本発明の洗浄方法は、前記第6の本発明において、前記洗浄における洗浄結果に従って、前記洗浄後の混合液の循環使用比率を調整することを特徴とする。
第8の本発明の洗浄方法は、前記第6または第7の本発明において、回収した前記溶液を120〜150℃の温度で貯液した後、前記混合液として循環使用することを特徴とする。
第9の本発明の洗浄方法は、前記第8の本発明において、前記加熱後の混合液の一部を、回収した前記溶液の貯液に供することを特徴とする。
第10の本発明の洗浄方法は、前記第6〜第9の本発明のいずれかにおいて、回収した前記溶液を冷却することを特徴とする。
第11の本発明の洗浄方法は、前記第6〜第10の本発明のいずれかにおいて、前記洗浄後の混合液の水分を一部除去して前記循環使用することを特徴とする。
【0008】
また、第12の本発明の洗浄システムは、過硫酸溶液と過酸化水素水とを混合して貯液する混合貯液部と、前記混合貯液部から供給される混合液を通液しつつ加熱する加熱器と、前記加熱器から供給される加熱した混合液を洗浄液として用いる洗浄部と、を備えることを特徴とする。
第13の本発明の洗浄システムは、前記第12の本発明において、前記加熱器は、入液部から出液部に至る通液時間が10秒以内とされ、入液された60〜100℃の混合液を150〜220℃に加熱して出液するものであることを特徴とする。
第14の本発明の洗浄システムは、前記第12または第13の本発明において、前記混合貯液部は、前記混合液を60〜100℃に保持するものであることを特徴とする。
第15の本発明の洗浄システムは、前記第12〜第14の本発明のいずれかにおいて、前記混合貯液部と前記洗浄部との間で、前記加熱器を介して前記混合液を循環させる循環ラインを備えることを特徴とする。
第16の本発明の洗浄システムは、前記第15の本発明において、前記循環ラインに、前記洗浄部で洗浄に用いた混合液を回収して貯液する回収貯液部が介在することを特徴とする。
第17の本発明の洗浄システムは、前記第16の本発明において、前記回収貯液部は、回収した溶液を120〜150℃に保持するものであることを特徴とする。
第18の本発明の洗浄システムは、前記第16または17の本発明において、前記加熱器と前記洗浄部との間で前記循環ラインから分岐して、前記回収貯液部に加熱された前記混合液の一部を供するバイパスラインを備えることを特徴とする。
第19の本発明の洗浄システムは、前記第15〜第18の本発明のいずれかにおいて、前記洗浄部の下流側であって、前記混合貯液部または該混合貯液部に至るまでに前記混合液を冷却する冷却器を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明では、硫酸溶液と過酸化水素水とを混合した後、加熱する構成とすることによって、混合液を洗浄に使用する際には、高温になって優れた洗浄効果を得ることを可能にし、該加熱前には混合液の温度を使用時よりも低くすることで過酸化水素の無駄な消費を抑えるとともに、硫酸と過酸化水素とが十分かつ均一に混合され、カロ酸などの酸化性物質が効果的に生成され、洗浄時に十分な濃度でカロ酸を含む溶液を用いることが可能になる。なお、硫酸溶液と過酸化水素水の混合がより均一になされるように、混合液を貯液し、これを加熱に供するのが望ましい。
【0010】
上記混合液は、前記加熱前に60〜100℃の温度を有するのが望ましい。加熱前に100℃を超えると、加熱前に過酸化水素が無駄に消費され、洗浄時のカロ酸濃度を十分に得ることが難しくなる。一方、60℃未満であると、混合後に加熱する際の加熱負担が大きくなり、短時間で加熱することが難しくなり、加熱中にカロ酸が自己分解して濃度が低下するおそれがある。このため、加熱前の混合液の温度は上記範囲が望ましい。
なお、硫酸溶液と過酸化水素水とは混合した際に、溶解熱によって昇温するので、硫酸溶液と過酸化水素水とは低温にして混合するのが望ましい。昇温の程度は濃度や混合比率によっても異なるが、例えば硫酸溶液と過酸化水素水とを混合前に40℃以下としておくのが望ましい。
【0011】
なお、混合に際し、硫酸溶液と過酸化水素水とは、体積比で10:1〜1.5:1の範囲の混合比率で混合するのが望ましい。これは10:1よりも硫酸が多いとカロ酸の生成濃度が低くなりすぎ、1.5:1よりも過酸化水素が多いと混合後の硫酸濃度が低くなりすぎ、レジスト剥離性能が低下するためである。
【0012】
上記混合液は、短時間で加熱して時間を置くことなく洗浄に供するのが望ましい。
その理由は、式(3)(4)に示すような平衡反応により、高温になると徐々にカロ酸の分解が進む方に平衡が移動して酸素を放出してしまい、酸化剤としての機能を失うからである。また、カロ酸は高濃度硫酸溶液中では下記式(5)に示すような平衡反応により、その一部はペルオキソ二硫酸(H)になると考えられる。ペルオキソ二硫酸はカロ酸より更に強力な酸化剤と言われているが、高温では急速に分解してカロ酸に戻る方に平衡が移動することが知られている。さらには、高温によりカロ酸やペルオキソ二硫酸から非常に酸化力の強い硫酸ラジカルの生成が顕著になるが、硫酸ラジカルは化学的に不安定なため短時間で分解して硫酸に戻ってしまうと考えられる。
【0013】
SO+HO→HSO+H (3)
→HO+1/2O (4)
SO+HSO→H+HO (5)
【0014】
よって、硫酸と過酸化水素水とを混合した後の加熱は急速に行い、できるだけ短時間で被洗浄材上に供給しなければならない。
この場合、混合液の加熱後の温度は150〜220℃が望ましい。混合液の温度が150℃未満であると、カロ酸の自己分解による酸化力が十分に得られず、洗浄効果が十分ではない。一方、220℃を超えるとカロ酸の自己分解が短時間で進んでしまい、洗浄時に十分な洗浄効果が得られなくなる。したがって、混合液の加熱後の温度は上記範囲が望ましい。なお、同様の理由で下限を160℃、上限を200℃とするのが一層望ましい。なお混合液を液状に保持する必要があるので、混合液温度の上限値は混合液中の硫酸の濃度に対応する沸点以下とする。
なお混合液は、加熱を10秒以内で行い、加熱後、20秒以内に前記洗浄に使用するのが望ましい。さらには、前記加熱を5秒以内、加熱後の時間を10秒以内とするのが一層望ましい。上記加熱を短時間で行うために、一過式の加熱器などを用いることができ、該加熱器の加熱源として近赤外線を用いることができる。
【0015】
洗浄に際しては、混合液を被洗浄材に吹付けたり、滴下したりして洗浄を行う枚葉式の洗浄部を利用することができる。ただし、本発明としてはこれに限定されず、混合液に被洗浄材を浸漬などするバッチ式の洗浄部を利用することもできる。
【0016】
なお、本発明では、種々の被洗浄材を対象にして洗浄を行うことができるが、シリコンウエハ、液晶用ガラス基板、フォトマスク基板などの電子材料基板を対象にして洗浄処理をする用途に好適である。さらに具体的には、半導体基板上に付着したレジスト残渣などの有機化合物の剥離プロセスに利用することができる。また、半導体基板上に付着した微粒子、金属などの異物除去プロセスに利用することができる。
また、本発明は、シリコンウエハなどの基板上に付着した汚染物を高濃度硫酸溶液で洗浄剥離するプロセスに利用することができ、アッシングプロセスなどの前処理工程を省略してレジスト剥離することができる。
【0017】
本発明で洗浄に用いた混合液は、その後、廃棄することができるが、一部または全部を回収して再利用することも可能である。この場合、回収した溶液(以下回収溶液という)に、必要に応じて硫酸溶液と過酸化水素の一方または両方を添加して液中にカロ酸やペルオキソ二硫酸を再度生成し、洗浄および加熱前の混合液として循環使用する。該混合液は、前記と同様に加熱後、洗浄に供される。特に本発明では、硫酸溶液と過酸化水素水を混合した後、加熱することで洗浄効果が高められるので、過酸化水素水の混合比率を小さくして硫酸溶液の希釈を限定的な範囲に留めることができ、溶液の循環使用がより容易になる。
溶液の回収、循環使用の方法では、使い捨て式に比べて酸化剤濃度は低くなるが、その後、高温に加熱されるのでレジストのイオンドーズレベルなどにもよるが十分な剥離効果が得られる。
【0018】
前記のように、混合液を一過式で用いて廃棄すると、薬品コストが嵩み、運転コストの大半を占めることになる。このため、洗浄に用いた混合溶液の少なくとも一部を回収して循環使用することで運転コストを大幅に低減することができる。
洗浄した混合溶液は全量を回収して循環使用してもよく、また、一部を破棄して残部を回収して循環使用するようにしてもよい。洗浄の際にウエハに付着して少量ずつ液量が減少するので、これを補うために循環使用に際し、硫酸溶液および過酸化水素を添加する。このとき所望の濃度になるように添加量を調整する。
【0019】
なお、洗浄後の溶液の回収割合については予め定めて実行する他、洗浄結果の変化に従って、回収割合、すなわち循環使用比率を調整するようにしてもよい。洗浄結果は、洗浄後の溶液におけるTOC(全有機炭素)濃度の測定などによって把握することができる。すなわち、TOC濃度の測定によって洗浄効果の低下が見られる場合には、洗浄後の溶液の回収割合を小さくし、洗浄結果が良好であれば、洗浄後の溶液の回収割合を大きくするように調整できる。
また、洗浄に用いた溶液を回収して循環使用する際に、該溶液を冷却してカロ酸などの早期の分解を抑制するのが望ましい。該冷却は、冷却器などを用いて行うことができる。
【0020】
なお、洗浄後の溶液を回収する際に、回収溶液を一旦貯液して、混合溶液側に供するようにしてもよい。この貯液において、被洗浄材の洗浄によって溶液に移行した有機物などを溶液に含まれるカロ酸などによって、さらに分解することができる。このため、回収溶液は適度な温度を有するのが望ましく、120〜150℃の温度範囲において回収溶液を貯液するのが望ましい。回収溶液の温度は、洗浄側から供給される際に、次第に降温するので、必要に応じて溶液を冷却したり、加熱したりして適度な温度に調整してもよい。
【0021】
回収溶液の温度が120℃未満であると、溶液に移行した有機物などの分解が十分になされず、一方、回収溶液の温度が150℃を超えると、カロ酸などの自己分解が早期に進行し、その後、洗浄に用いた際のカロ酸などの濃度が低くなって洗浄効果を低下させる。
また、貯液されている回収溶液には、加熱直後で洗浄使用前の混合溶液の一部を添加して有機物等の分解の促進を図るようにしてもよい。また、この添加によって回収溶液の温度を調整する機能も得られる。すなわち、回収溶液を貯液している際に、溶液が自然冷却によって温度が必要以上に低下するのを回避でき、回収溶液を加熱する手段を設けることなく回収溶液の温度調整を行うことができる。
回収溶液を貯液した後、該溶液は、硫酸溶液と過硫酸溶液とを混合して貯液している混合液に加えるのが望ましい。これにより加熱前の溶液が均一になり、洗浄に際し、バラツキのない洗浄能力が得られる。
【0022】
なお、混合溶液を回収して循環使用する際に過酸化水素水の添加によって硫酸が次第に希釈されるが、溶液中の水分を一部除去することで硫酸濃度を高く保つことができる。この液を循環使用することにより溶液を再び酸化力の強い状態に調製することができる。このとき、洗浄排液の一部を廃棄したり、必要に応じて若干の硫酸を加えて液量を調節しても良い。
なお、水分除去の方法は、本発明としては特に限定されるものではなく、例えば空気のストリッピングによって水分を蒸発させる放散塔や、水分を蒸発させる加熱蒸発器などを用いることができ、その他の既知のものを用いることができる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明によれば、硫酸溶液と過酸化水素水との混合によって、酸化力の強い混合溶液が得られ、混合後、加熱された混合溶液を用いて被洗浄材を効果的に洗浄することができる。
また、洗浄後の溶液を回収して循環使用することで、運転コストを低減できるとともに、洗浄効果を良好に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態の洗浄システムを示すフロー図である。
【図2】同じく、他の実施形態の洗浄システムを示すフロー図である。
【図3】同じく、さらに他の実施形態の洗浄システムを示すフロー図である。
【図4】同じく、さらに他の実施形態の洗浄システムを示すフロー図である。
【図5】同じく、さらに他の実施形態の洗浄システムを示すフロー図である。
【図6】従来のSPM法の洗浄システムを示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(実施形態1)
以下に、本発明の一実施形態の洗浄システム1を図1に基づいて説明する。
本発明の混合貯液部に相当する混合貯液槽2に送液ライン3の一端が接続されており、該送液ライン3は、送液ポンプ4、加熱器5が介設されて、他端が枚葉式の洗浄部6に接続されており、上記各部によって本発明の洗浄システムが構成されている。なお、加熱器5は、石英製の管路を有し、近赤外線ヒータによって溶液を通液しつつ一過式で加熱するものである。
【0026】
上記洗浄システムの作用について以下に説明する。
例えば、25℃の硫酸溶液と25℃の過酸化水素水とをそれぞれ用意し、前記混合貯液槽2に添加、混合する。該混合によって、硫酸と過酸化水素とは均一に混合され、前記式(1)(5)に示す反応が生じ、混合液である溶液50は反応に伴う発熱によって昇温する。
例えば、常温25℃の96質量%硫酸と30質量%過酸化水素水とを容積比5:1の割合で混合すると、硫酸濃度86質量%、温度が約100℃の混合液になる。
【0027】
この結果、溶液50は、カロ酸、ペルオキソ二硫酸などの酸化剤が生成され、強い酸化力を示す。この際に、溶液50の温度は100℃程度であり、酸化剤の分解速度はきわめて遅く、酸化剤の濃度が維持される。溶液50は、送液ポンプ4によって送液ライン3を通して例えば1.5L/min.の流量で送液される。そして、溶液50は、送液の際に加熱器5によって急速に加熱される。すなわち、加熱器5の入口から出口に達するまでの加熱時間は5秒以内であり、該加熱器5によって約100℃の溶液50は、180℃に加熱される。この結果、カロ酸、ペルオキソ二硫酸からさらに強い酸化剤である硫酸ラジカルの生成が顕著になる。なお、86質量%硫酸の180℃での蒸気圧は0.17atmなので、溶液50は沸騰することなく、また液が激しく飛散することなく洗浄に供することができる。
【0028】
もし、急速加熱器ではなく、従来のヒーターを用いた場合、ヒーター内での液保有量は例えば約3リットル程度あり、洗浄部への液流量は通常毎分1リットルから1.5リットルであるから、昇温時間は2分から3分かかることになる。この間にペルオキソ二硫酸はカロ酸に、カロ酸は過酸化水素になる方に平衡が移動してしまう上、カロ酸やペルオキソ二硫酸から生成した硫酸ラジカルは水と反応して硫酸に戻ってしまい、洗浄機に液が到達する頃にはレジスト剥離機能を失ってしまう。これに対して急速加熱器を用いることにより、効果的な高温SPMが可能となる。
【0029】
高温となった溶液50は、送液ライン3によって洗浄部6に送液され、加熱器5から出液された後、10秒以内に洗浄部6内のノズル6aに達し、被洗浄材であるウエハ100にスプレーされるか少量ずつウエハ100に流れ落ちる。溶液50に含まれるカロ酸、ペルオキソ二硫酸、硫酸ラジカル(特に硫酸ラジカル)の強い酸化力により、ウエハ100のレジスト等を効果的に剥離除去する。洗浄に用いられた溶液50は、洗浄部6から排液されてそのまま廃棄される。
【0030】
(実施形態2)
上記実施形態1の洗浄システムは、洗浄後の溶液50を廃棄しているが、本発明の他の形態では、洗浄後の溶液を回収して循環使用することができる。該循環使用を可能とした洗浄システムについて、図2に基づいて説明する。なお、前記実施形態1と同様の構成については同一の符号を付して説明する。
【0031】
洗浄システム10は、前記洗浄システム1と同様に、混合貯液槽2に送液ライン3の一端が接続され、該送液ライン3に、送液ポンプ4、加熱器5が介設されて、他端が枚葉式の洗浄部6に接続されている。
洗浄部6では、洗浄に用いた溶液を回収する回収ライン11の一端が接続されており、該回収ライン11の他端に回収貯液槽12が接続されている。該回収貯液槽12は、本発明の回収貯液部に相当する。回収貯液槽12には、さらに環流ライン13の一端が接続されており、環流ライン13の他端は前記混合貯液槽2に接続されている。環流ライン13には、上流側から環流ポンプ14、冷却器15が順次介設されている。また、回収貯液槽12には、回収した溶液の一部を廃棄する廃棄ライン16が接続されている。
上記した送液ライン3、回収ライン11、環流ライン13は、本発明の循環ラインを構成する。
【0032】
上記洗浄システム10の作用について以下に説明する。
25℃の硫酸溶液と25℃の過酸化水素水とを前記混合貯液槽2に添加、混合する。該混合によって得られる溶液50は前記反応式(1)(5)で示される反応に伴う発熱によって昇温する。常温25℃の96質量%硫酸と30質量%過酸化水素水とを容積比5:1の割合で混合して硫酸濃度86質量%、温度が約100℃の溶液50が得られる。
【0033】
カロ酸、ペルオキソ二硫酸などの酸化剤を含む溶液50は、酸化剤の分解速度が抑制され、送液ポンプ4によって送液ライン3を通して送液され、加熱器5によって5秒以内で180℃に急速加熱され、硫酸ラジカルが生成される。
高温となった溶液50は、送液ライン3によって洗浄部6に送液され、10秒以内に洗浄部6内のノズル6aからウエハ100にスプレーされるか少量ずつウエハ100に流れ落ちてウエハ100のレジスト等を剥離除去する。
【0034】
洗浄に用いられた溶液50は、洗浄に伴って温度が150℃にまで低下し、回収ライン11を通して回収貯液槽12に回収される。回収貯液槽12では、貯液中に溶液50に含まれる剥離したレジスト等に由来する有機物の分解がなされる。回収貯液槽12では、一部の溶液が廃棄ライン16を通して廃棄され、液量が調整される。この際に、液量が一定範囲内に維持されるように廃棄量を調整してもよく、洗浄部6における洗浄結果に基づいて廃棄量を調整してもよい。すなわち、洗浄部6における洗浄効果が低くなれば、酸化剤濃度が低下していることが推定されるため、回収した溶液の廃棄量を増加する。また、洗浄効果が良好に維持されていれば、酸化剤の濃度は十分にあると推定され、したがって廃棄量を少なくする。
【0035】
回収貯液槽12で循環使用する溶液は、環流ポンプ14によって環流ライン13を通して混合貯液槽2に環流される。この際に、酸化剤の分解を抑制するため溶液50を冷却器15で冷却する。冷却によって溶液の温度は、混合貯液槽2に貯液されている溶液と同程度の温度である100℃にまで低下させる。
【0036】
回収貯液槽12では、必要に応じて常温25℃の過酸化水素水、常温25℃の硫酸溶液を添加し、硫酸濃度や過酸化水素濃度を調整する。循環された溶液50は、当初と同様に送液ポンプ4によって送液ライン3を通して送液され、加熱器5によって5秒以内で180℃に急速加熱されて洗浄部6で洗浄に供される。これによって上記溶液50は、混合貯液槽2、洗浄部6、回収貯液槽12間で、循環ラインを通して循環しつつウエハ100の洗浄を行うことができる。
上記溶液50を繰り返し循環しつつ使用することで、洗浄効果を損なうことなく薬液の使用量を低減し、運転コストを低下させることができる。
例えば、回収した液量の半量を循環使用して、これに新たな硫酸と過酸化水素水を同じ比率で加えて溶液を調製し、急速加熱して洗浄に供すれば、薬剤消費量は半分に低減できる。従来のSPM法では薬品費が年間運転コストの約80%を占めているので、これを半減することにより年間運転費を60%に下げることができる。レジストの剥離性能との見合いで循環比率を調整して運転費を適宜低減することができる。
【0037】
(実施形態3)
上記実施形態2では、回収貯液槽12においてレジスト等に由来する有機物の分解を行っている。該分解を促進するため、加熱された溶液50を回収貯液槽12に補給することができる。
該実施形態を図3に基づいて説明する。なお、前記各実施形態と同様の構成については同一の符号を付してその説明を省略または簡略化する。
【0038】
この実施形態3の洗浄システム20は、前記洗浄システム1、10と同様に、混合貯液槽2に送液ライン3の一端が接続され、該送液ライン3に、送液ポンプ4、加熱器5が介設されて、他端が枚葉式の洗浄部6に接続されている。また、洗浄部6には回収ライン11の一端が接続され、該回収ライン11の他端に回収貯液槽12が接続されている。回収貯液槽12に接続された環流ライン13は、上流側から環流ポンプ14、冷却器15が順次介設されて、他端が前記混合貯液槽2に接続されている。また、送液ライン3には、前記加熱器5の下流側にバイパスライン21の一端が接続されており、該バイパスライン21の他端側は前記回収貯液槽12に接続されている。これにより加熱器5で急速加熱された溶液50の一部が回収貯液槽12に供給される。
【0039】
この実施形態では、前記実施形態2と同様に洗浄後の溶液50は回収貯液槽12で貯液され、その後、混合貯液槽2に環流されて循環使用され、洗浄部6でウエハ100の洗浄が行われる。回収貯液槽100では、前記実施形態2と同様に洗浄に際し溶液50に移行した有機物が分解されるが、加熱器5で加熱した直後の溶液50の一部がバイパスライン21を通して供給されることで、回収貯液槽12内の溶液中の酸化剤の濃度が上がり、有機物の分解が促進される。また、高温の溶液50が供給されることで、回収貯液槽12内の溶液50の温度を適温に維持して良好な酸化性能を維持することを可能にする。
なお、加熱された溶液50の回収貯液槽12への供給は連続的に行ってもよく、また、間欠的に行うようにしてもよい。また、供給量を時間とともに変化させるようにしてもよい。
【0040】
(実施形態4)
前記実施形態2では、回収貯液槽12における廃棄量の調整によってシステム全体における液量を調整しているものとして説明している。この実施形態4では、溶液50の水分除去を行うことで液量の調整を行うとともに、硫酸濃度を高めるものとしている。以下に、図4に基づいて説明する。なお、前記各実施形態と同様の構成については同一の符号を付してその説明を省略または簡略化する。
【0041】
この実施形態4の洗浄システム30は、前記洗浄システム1、10、20と同様に、混合貯液槽2に送液ライン3の一端が接続され、該送液ライン3に、送液ポンプ4、加熱器5が介設されて、他端が枚葉式の洗浄部6に接続されている。洗浄部6に一端が接続された回収ライン11は、他端が回収貯液槽12が接続されている。回収ライン11には、放散塔31が介設されている。回収貯液槽12に一端が接続された環流ライン13は、環流ポンプ14、冷却器15が順次介設されて、他端が前記混合貯液槽2に接続されている。
【0042】
上記構成により、硫酸溶液と過酸化水素水とは混合した後、加熱器5によって急速加熱して洗浄に供され、洗浄後の溶液が回収ライン11で回収される。回収ライン11で送液される際に、溶液50は放散塔31に導入される。一方、放散塔31には空気が導入され、該空気は放散塔31に導入された溶液50の水分をストリッピングをして水分の一部を除去する。
洗浄部6から出た溶液50を、放散塔31において900NL/minの空気でストリッピングすると、水分が蒸発し、温度が下がって、硫酸濃度86.4質量%、118℃にすることができる。これを回収貯液槽12に回収して50%を廃棄ライン16より廃棄し、50%を循環使用するとすれば、硫酸の使用量は50%、過酸化水素水の使用量は56.8%になる。即ち、放散塔無しで50%循環使用する場合よりも過酸化水素の投入量が13.7%多くなるので、前記実施形態の方法よりカロ酸などの酸化剤濃度をそれだけ高くすることができる。
なお、上記の説明では硫酸濃度調整の方法として空気による放散を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば加熱蒸発など、その他の方法で濃度調整を行っても良い。
【0043】
(実施形態5)
次の実施形態5は、図5に示すように、前記実施形態4において加熱器5で加熱された溶液50をバイパスライン21によって回収貯液槽12に導入する洗浄システム40を示すものである。放散塔31で水分をストリッピングすることによって溶液50の温度が放散塔31を用いないものよりも低下しており、バイパスライン21を通して供給される高温の溶液50によって回収貯液槽12内の溶液の温度を上昇させて溶液に含まれる有機物の分解を促進することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 洗浄システム
2 混合貯液槽
3 送液ライン
4 送液ポンプ
5 加熱器
6 洗浄部
10 洗浄システム
11 回収ライン
12 回収貯液槽
13 環流ライン
14 環流ポンプ
15 冷却器
20 洗浄システム
21 バイパスライン
30 洗浄システム
31 放散塔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸溶液と過酸化水素水とを混合した後、混合液を加熱して被洗浄材の洗浄に供することを特徴とする洗浄方法。
【請求項2】
前記混合液は、前記加熱前に60〜100℃の温度を有することを特徴とする請求項1記載の洗浄方法。
【請求項3】
前記混合液は、前記加熱後に150〜220℃の温度を有することを特徴とする請求項1または2に記載の洗浄方法。
【請求項4】
前記混合液の加熱を10秒以内で行い、該混合液を、加熱後20秒以内に前記洗浄に使用することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の洗浄方法。
【請求項5】
前記混合液は、硫酸濃度が70〜92質量%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の洗浄方法。
【請求項6】
前記洗浄後の混合液の一部または全部を回収し、回収した溶液に、前記硫酸溶液と過酸化水素の一方または両方を添加し前記混合液として循環使用することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の洗浄方法。
【請求項7】
前記洗浄における洗浄結果に従って、前記洗浄後の混合液の循環使用比率を調整することを特徴とする請求項6に記載の洗浄方法。
【請求項8】
回収した前記溶液を120〜150℃の温度で貯液した後、前記混合液として循環使用することを特徴とする請求項6または7に記載の洗浄方法。
【請求項9】
前記加熱後の混合液の一部を、回収した前記溶液の貯液に供することを特徴とする請求項8記載の洗浄方法。
【請求項10】
回収した前記溶液を冷却することを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載の洗浄方法。
【請求項11】
前記洗浄後の混合液の水分を一部除去して前記循環使用することを特徴とする請求項6〜10のいずれか1項に記載の洗浄方法。
【請求項12】
過硫酸溶液と過酸化水素水とを混合して貯液する混合貯液部と、前記混合貯液部から供給される混合液を通液しつつ加熱する加熱器と、前記加熱器から供給される加熱した混合液を洗浄液として用いる洗浄部と、を備えることを特徴とする洗浄システム。
【請求項13】
前記加熱器は、入液部から出液部に至る通液時間が10秒以内とされ、入液された60〜100℃の混合液を150〜220℃に加熱して出液するものであることを特徴とする請求項12記載の洗浄システム。
【請求項14】
前記混合貯液部は、前記混合液を60〜100℃に保持するものであることを特徴とする請求項12または13に記載の洗浄システム。
【請求項15】
前記混合貯液部と前記洗浄部との間で、前記加熱器を介して前記混合液を循環させる循環ラインを備えることを特徴とする請求項12〜14のいずれか1項に記載の洗浄システム。
【請求項16】
前記循環ラインに、前記洗浄部で洗浄に用いた混合液を回収して貯液する回収貯液部が介在することを特徴とする請求項15に記載の洗浄システム。
【請求項17】
前記回収貯液部は、回収した溶液を120〜150℃に保持するものであることを特徴とする請求項16に記載の洗浄システム。
【請求項18】
前記加熱器と前記洗浄部との間で前記循環ラインから分岐して、前記回収貯液部に加熱された前記混合液の一部を供するバイパスラインを備えることを特徴とする請求項16または17に記載の洗浄システム。
【請求項19】
前記洗浄部の下流側であって、前記混合貯液部または該混合貯液部に至るまでに前記混合液を冷却する冷却器を備えることを特徴とする請求項15〜18のいずれか1項に記載の洗浄システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−49391(P2012−49391A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−191150(P2010−191150)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】