説明

流体封入式防振装置

【課題】 軸方向の支持ばね剛性を十分に確保しつつ、第二のオリフィス通路のチューニング自由度を確保することが出来ると共に、軸直角方向の入力振動に対しては、広い周波数域に亘って封入流体の共振作用による防振効果を発揮することの出来る、新規な構造の流体封入式防振装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 一対の作用流体室88,88の一方における第二の取付部材14による覆蓋部分に設けられた開口窓54を第二の可撓性ゴム膜56によって流体密に閉塞せしめて、一方の作用流体室88の壁部の一部を第二の可撓性ゴム膜56で構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に封入された非圧縮性流体の流動作用に基づいて防振効果を得るようにした流体封入式防振装置に係り、特に、中心軸方向と軸直角方向の二方向の入力に対して何れも非圧縮性流体の流動作用に基づく有効な防振効果が発揮されて、例えば、自動車用エンジンマウント等に好適に採用され得る流体封入式防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、振動伝達系を構成する部材間に介装される防振連結体乃至は防振支持体としての防振装置の一種として、内部に非圧縮性流体を封入したものが知られている。このような流体封入式防振装置は、封入された非圧縮性流体の共振作用等の流動作用に基づいて特定の周波数域の振動に対して非常に優れた防振効果を得ることが出来ることから、例えば自動車用のエンジンマウント等への適用が検討されている。
【0003】
ところで、防振装置では、複数の方向から入力される振動に対して防振効果が要求される場合がある。例えば、自動車のパワーユニットを車両ボデーに対して慣性主軸上で支持せしめるエンジンマウントでは、一般に、自動車の上下方向の振動と、前後方向の振動に対して、それぞれ高度な防振性能が要求されることとなる。そこで、それら互いに直交する二方向の振動に対して、何れも、封入流体の流動作用に基づく防振効果が発揮されるようにすることが望ましい。
【0004】
かかる要求に対処するために、本出願人は、先に特開2002−327787号公報(特許文献1)において、流体封入式防振装置を提案した。この先願に係る流体封入式防振装置は、パワーユニットに取り付けられるロッド状の第一の取付部材を、車両ボデー側に取り付けられる大径円筒状の第二の取付部材に対して一方の開口部側から差し入れて配設し、それら第一の取付部材と第二の取付部材を本体ゴム弾性体で連結せしめた構造とされている。そして、本体ゴム弾性体の軸方向下方に位置して、第一のオリフィス通路で相互に連通された受圧室と平衡室が形成されており、軸方向(車両上下方向)の入力振動に対して、それら受圧室と平衡室の間で第一のオリフィス通路を通じて流動せしめられる流体の共振作用に基づく防振効果が発揮されるようになっている。また、第一の取付部材と第二の取付部材の径方向対向面間には、第一の取付部材を挟んだ両側に一対の作用流体室が形成されていると共に、それら一対の作用流体室が第二のオリフィス通路で相互に連通されており、軸直角方向(車両前後方向)の入力振動に対して、それら一対の作用流体室間で第二のオリフィス通路を通じて流動せしめられる流体の共振作用に基づく防振効果が発揮されるようになっている。
【0005】
しかしながら、このような構造とされた流体封入式防振装置では、軸直角方向の振動入力時に第二のオリフィス通路を流動せしめられる流体の共振作用に基づいて発揮される防振効果が比較的にピーキーで、防振効果の発揮される周波数域が狭いという問題があった。そのために、防振特性のチューニングが難しく、車両固有の条件や走行条件、或いは経年変化等によって入力される振動の周波数や、防振装置の特性が変化すると、目的とする防振性能が十分に発揮されなくなるおそれがあった。
【0006】
加えて、第二のオリフィス通路を流動せしめられる流体の共振作用に基づく防振効果が発揮される周波数域は、第二のオリフィス通路の通路長さや通路断面積を調節する他、一対の作用流体室の壁ばね剛性を調節することによってチューニングされる。ところが、作用流体室の壁ばねが本体ゴム弾性体で構成されていることから、壁ばね剛性の調節は本体ゴム弾性体のばね特性、即ち防振装置の支持ばね剛性等に直接に影響する。従って、現実的には、作用流体室の壁ばねを十分な自由度で調節することが極めて困難であり、第二のオリフィス通路のチューニング自由度も制限されてしまうという問題があったのである。なお、第二のオリフィス通路の通路長さや通路断面積によってチューニングに対応することも考えられるが、第二のオリフィス通路も、その形成スペースや構造上、或いは流体流動量の確保等の観点から制限されることから、必ずしも十分なチューニング自由度が確保され難い場合がある。
【0007】
なお、特開2002−327789号公報(特許文献2)に記載されているように、一対の作用流体室が対向する径方向に対して直交する径方向で第一の取付部材を挟んだ両側に位置して、本体ゴム弾性体を大きく切り欠いた空所を形成し、かかる空所を利用して、壁部の一部が可撓性膜で構成された平衡室を形成すると共に、該平衡室を各作用流体室に連通せしめる二つのオリフィス通路を形成した構造も提案されている。このような構造を採用すると、二つのオリフィス通路に対して互いに異なるチューニングを施すことにより、広い周波数域の振動に対応することも可能となる。
【0008】
ところが、かかる特許文献2に記載の防振装置では、本体ゴム弾性体に対して大きな空所を形成しなければならないために、防振装置本体の支持ばね剛性が著しく低下していまうことが避けられない。それ故、大きな支持ばね剛性が要求される分野においては、実用的ではない。加えて、自動車用エンジンマウントでは、車両走行コーナリング時の横Gに対応するために車両の左右方向に高動ばね特性が要求されることが多いことを考えると、車両左右方向で圧縮ばねとなる本体ゴム弾性体の領域に大きな空所を形成する特許文献2に記載の構造は、少なくとも自動車用エンジンマウントにおいて望ましい構成とは言い難いのである。
【0009】
【特許文献1】特開2002−327787号公報
【特許文献2】特開2002−327789号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここにおいて、本発明は、上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、軸方向の入力振動と軸直角方向一方向の入力との何れの振動に対しても、内部に封入された非圧縮性流体の共振作用に基づく防振効果が発揮されるようにした流体封入式防振装置であって、特に、軸方向の支持ばね剛性を十分に確保しつつ、第二のオリフィス通路のチューニング自由度を確保することが出来ると共に、軸直角方向の入力振動に対しては、広い周波数域に亘って封入流体の共振作用による防振効果を発揮することの出来る、新規な構造の流体封入式防振装置を提供することにある。
【0011】
また、本発明は、互いに直交する軸直角方向でのばね比を大きく設定することが可能であり、軸直角方向一方向では、封入された非圧縮性流体の共振作用に基づいて有効な防振効果が発揮され得る一方、それに直交する軸直角方向他方向では、本体ゴム弾性体による有効な高動ばね特性が確保され得る、新規な構造の流体封入式防振装置を提供することも、併せて、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。また、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに限定されることなく、明細書全体に記載されたもの、或いは、それらの記載から当業者が把握することの出来る発明思想に基づいて認識されるものであることが理解されるべきである。
【0013】
本発明の第一の態様は、直線状に延びる支持軸部を備えた第一の取付部材を、略円筒形状を有する第二の取付部材の軸方向一方の開口側に離隔配置せしめて、該第一の取付部材の該支持軸部を該第二の取付部材の軸方向一方の開口部から略中心軸上を軸方向に入り込ませて内方に延び出させ、該支持軸部と該第二の取付部材を本体ゴム弾性体で連結することにより、該第二の取付部材の軸方向一方の開口部を該本体ゴム弾性体で流体密に閉塞せしめる一方、該第二の取付部材の軸方向他方の開口部を第一の可撓性ゴム膜で流体密に閉塞すると共に、それら本体ゴム弾性体と第一の可撓性ゴム膜の軸方向対向面間において該第二の取付部材で支持されて軸直角方向に広がる仕切部材を配設することにより、該本体ゴム弾性体で壁部の一部が構成された第一の受圧室と該第一の可撓性膜で壁部の一部が構成された第一の平衡室を該仕切部材を挟んだ各一方の側に形成して、それら第一の受圧室と第一の平衡室に非圧縮性流体を封入すると共に、それら第一の受圧室と第一の平衡室を相互に連通する第一のオリフィス通路を形成する一方、該本体ゴム弾性体において外周面に開口する一対のポケット部を、該第一の取付部材の該支持軸部を挟んだ径方向両側に対向位置して形成し、それら一対のポケット部の開口を該第二の取付部材で流体密に覆蓋することにより、それぞれ壁部の一部が該本体ゴム弾性体で構成されて非圧縮性流体が封入された一対の作用流体室を形成すると共に、それら一対の作用流体室を相互に連通する第二のオリフィス通路を設けた流体封入式防振装置において、前記一対の作用流体室の一方における前記第二の取付部材による覆蓋部分に開口窓を設けると共に、該開口窓を第二の可撓性ゴム膜で流体密に閉塞せしめて、該一方の作用流体室の壁部の一部を該第二の可撓性ゴム膜で構成することにより、かかる一対の作用流体室によって、壁部の一部が前記本体ゴム弾性体で構成されて前記第一の取付部材と該第二の取付部材の間への軸直角方向の振動入力時に該本体ゴム弾性体の弾性変形に伴って圧力変動が直接に生ぜしめられる第二の受圧室と、壁部の一部が該第二の可撓性ゴム膜で構成されて該第二の可撓性ゴム膜の変形に基づいて容積変化が容易に許容される第二の平衡室とを、構成したことを、特徴とする。
【0014】
このような本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、第二の平衡室の壁部の一部が第二の可撓性ゴム膜で構成されていることから、例えば、第二の可撓性ゴム膜の大きさや厚さ寸法,弛み,形成材料等を変更して、第二の可撓性ゴム膜のばね特性を調節することにより、第二の平衡室の壁ばね剛性を調節することが可能となる。
【0015】
従って、流体封入式防振装置における軸方向の支持ばね剛性等に大きな影響を与える本体ゴム弾性体のばね特性を調節することなく、第二の平衡室の壁ばね剛性を大きな自由度で調節することが可能となる。それ故、軸方向の支持ばね剛性を十分に確保しつつ、第二のオリフィス通路のチューニング自由度、即ち、第二のオリフィス通路を流動せしめられる流体の共振作用に基づく防振効果やそれが発揮される周波数域のチューニングに関して自由度を大きく確保することが可能となる。
【0016】
また、本態様に係る流体封入式防振装置においては、第二のオリフィス通路を通じて第二の受圧室に連通された第二の平衡室では、第二の可撓性ゴム膜の変形に基づいて容積変化が容易に許容されるようになっていることから、第二のオリフィス通路を流動せしめられる流体の共振作用に基づいて発揮される防振効果のピーキーな特性を抑えることが可能となる。それによって、第二のオリフィス通路を流動せしめられる流体の共振作用に基づく防振効果を広い周波数域に亘って発揮させることが可能となる。
【0017】
更にまた、本態様に係る流体封入式防振装置においては、第二の受圧室と第二の平衡室が第一の取付部材の支持軸部を挟んだ径方向一方向で対向位置せしめられていることから、第二の受圧室と第二の平衡室の対向方向に対して直交する方向において本体ゴム弾性体のゴムボリュームを大きく確保することが出来る。それ故、第二の受圧室と第二の平衡室の対向方向とそれに直交する方向でのばね比を大きく設定することが可能となる。
【0018】
これにより、本態様に係る流体封入式防振装置においては、第二の受圧室と第二の平衡室が対向する径方向では、第二のオリフィス通路を流動せしめられる流体の共振作用に基づく防振効果を得ることが出来る一方、第二の受圧室と第二の平衡室の対向方向に直交する径方向では、本体ゴム弾性体によって有効な高動ばね特性を得ることが出来る。
【0019】
本発明の第二の態様は、前記第一の態様に係る流体封入式防振装置において、前記第二の取付部材に対して前記第一の可撓性ゴム膜と前記第二の可撓性ゴム膜が何れも加硫接着されることにより、該第一の可撓性ゴム膜で該第二の取付部材の前記軸方向他方の開口部が流体密に閉塞されていると共に、該第二の可撓性ゴム膜で該第二の取付部材の前記開口窓が流体密に閉塞されていることを、特徴とする。このような本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、第一の可撓性ゴム膜と第二の可撓性ゴム膜をまとめて取り扱うことが可能となり、流体封入式防振装置を製造する際の製造工程の簡略化や取り扱い部品点数の減少が図られる。
【0020】
本発明の第三の態様は、前記第二の態様に係る流体封入式防振装置において、前記第一の可撓性ゴム膜と前記第二の可撓性ゴム膜が同一のゴム材料で一体成形されていると共に、前記第二の取付部材の内周面を略全面に亘って覆うシールゴム層が、それら第一及び第二の可撓性ゴム膜と一体成形されて該第二の取付部材に対して加硫接着されていることを、特徴とする。
【0021】
本発明の第四の態様は、前記第一乃至第三の何れかの態様に係る流体封入式防振装置において、前記本体ゴム弾性体の外周面に対して略円筒形状の金属スリーブが加硫接着されていると共に、該金属スリーブに対して一対の窓部が形成されており、かかる一対の窓部を通じて該本体ゴム弾性体に形成された前記一対のポケット部が外周面に開口せしめられている一方、該金属スリーブに対して前記第二の取付部材が外嵌固定されて、該金属スリーブにおける該一対の窓部が該第二の取付部材で流体密に覆蓋されていることを、特徴とする。このような本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、第二の取付部材に対する金属スリーブの嵌着部位における流体密性を確保することにより、第一のオリフィス通路によって相互に連通されている第一の受圧室および第一の平衡室と、第二のオリフィス通路によって相互に連通されている第二の受圧室および第二の平衡室とを、相互に独立した高度な流体密性をもって容易に形成することが可能となる。
【0022】
本発明の第五の態様は、前記第一乃至第四の何れかの態様に係る流体封入式防振装置において、前記第二の取付部材に対して外嵌固定される筒状部を備えた取付ブラケットを設けて、該第二の取付部材の前記開口窓に配設された前記第二の可撓性ゴム膜を該取付ブラケットの該筒状部で外側から覆うことにより、該第二の可撓性ゴム膜を挟んで前記第二の平衡室と反対側に密閉状の空気室を画成したことを、特徴とする。このような本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、第二の可撓性ゴム膜を挟んで第二の平衡室と反対側に画成された空気室に密閉された空気の圧縮弾性を利用することによって、第二の可撓性ゴム膜のばね特性を調節することが可能となる。それ故、第二のオリフィス通路を流動せしめられる流体の共振作用に基づく防振効果や、それが発揮される周波数域のチューニングを一層大きな自由度で行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
上述の説明から明らかなように、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、支持軸部を挟んだ径方向両側に位置する一対の作用流体室の壁部の一部を、本体ゴム弾性体と別体の第二の可撓性ゴム膜で構成することにより第二の平衡室が形成されていることから、支持ばね剛性を本体ゴム弾性体で有利に確保しつつ、第二の可撓性ゴム膜の形状や特性等を調節することにより、第二のオリフィス通路を流動する流体の共振作用に基づいて発揮される径方向の防振特性を大きな自由度でチューニングすることが出来る。特に、前述の先行特許文献1に開示された先願に係る流体封入式防振装置に比して、径方向の入力振動に対して発揮される流体の共振作用に基づく防振効果を、より広い周波数域に亘って得ることも可能となる。
【0024】
また、本態様に係る流体封入式防振装置においては、第二の受圧室と第二の平衡室の対向方向に直交する方向で本体ゴム弾性体のゴムボリュームを大きく確保することが可能となり、それによって、第二の受圧室と第二の平衡室が対向する径方向とそれに直交する径方向でのばね比を大きく設定することが可能となる。その結果、第二の受圧室と第二の平衡室が対向する径方向では、第二のオリフィス通路を流動せしめられる流体の共振作用に基づく防振効果を発揮することが可能となる一方、第二の受圧室と第二の平衡室の対向方向に直交する径方向では、本体ゴム弾性体による有効な高動ばね特性を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0026】
図1および図2には、本発明の第一の実施形態としての自動車用エンジンマウント10が示されている。このエンジンマウント10は、第一の取付部材としての第一の取付金具12と第二の取付部材としての第二の取付金具14が離隔配置されていると共に、それら第一の取付金具12と第二の取付金具14が本体ゴム弾性体16で弾性連結された構造とされており、第一の取付金具12が自動車のパワーユニットに取り付けられる一方、第二の取付金具14が取付ブラケット108によって自動車のボデーに取り付けられるようになっており、それによって、パワーユニットをボデーに対して防振支持せしめるようになっている。なお、本実施形態のエンジンマウント10は、図1中の上下方向が略鉛直上下方向となる状態で装着されるようになっており、以下の説明中、上下方向とは、原則として、図1中の上下方向をいうものとする。
【0027】
より詳細には、第一の取付金具12は、中実小径の円形ロッド形状を有する支持軸部18を備えており、上下方向にストレートに延びた支持軸部18の軸方向上端部に対して、中心軸上で厚肉偏平状に広がる取付固定部20が一体形成されている。なお、支持軸部18の軸方向中間部分には、テーパ部分22が設けられており、このテーパ部分22を挟んで、支持軸部18の軸方向下側が小径部分24とされている一方、支持軸部18の軸方向上側が大径部分26とされている。
【0028】
また、第一の取付金具12の外周側には、薄肉の大径円筒形状を有する金属スリーブ28が、径方向に所定距離を隔てて略同一中心軸上に配設されている。この金属スリーブ28は、図面上では必ずしも明らかではないが、略全長に亘って軸方向にストレートに延びる小径筒部30の軸方向一方の端部(軸方向上端部)に対して、径方向外方に広がる段差状部(図示せず)を介して大径筒部34が一体的に設けられた段付円筒形状とされている。また、金属スリーブ28の軸方向中間部分には、径方向一方向で対向位置する部分に一対の窓部36,36が形成されている。そこにおいて、本実施形態では、各窓部36は、周方向に半周弱の長さで開口せしめられている。
【0029】
このような構造とされた第一の取付金具12と金属スリーブ28は、第一の取付金具12が金属スリーブ28に対して、軸方向上側の開口部から差し込まれるようにして配置されており、このように第一の取付金具12が金属スリーブ28に対して配置されることによって、第一の取付金具12における支持軸部18の小径部分24の全体を径方向に離隔して囲む状態で、金属スリーブ28が配置されることとなる。なお、このように第一の取付金具12が金属スリーブ28に対して配置された状態下において、第一の取付金具12の取付固定部20は、金属スリーブ28の軸方向上方に突出して位置せしめられている一方、支持軸部18の軸方向下端部は、金属スリーブ28の軸方向下端部まで至らない軸方向中間部分に位置せしめられている。
【0030】
また、このような配置関係にある第一の取付金具12の支持軸部18と金属スリーブ28の径方向対向面間には、本体ゴム弾性体16が配設されており、かかる本体ゴム弾性体16によって、第一の取付金具12と金属スリーブ28が弾性的に連結されている。この本体ゴム弾性体16は、全体として厚肉の円筒形状を呈しており、その内周面が第一の取付金具12の支持軸部18の外周面に加硫接着されている一方、その外周面が金属スリーブ28の内周面に加硫接着されている。即ち、本実施形態では、本体ゴム弾性体16は、第一の取付金具12と金属スリーブ28を備えた一体加硫成形品38として形成されているのである。
【0031】
また、本体ゴム弾性体16には、軸方向下端面中央において、下方に向かって開口する大径の逆すり鉢形状を有する円形凹所40が形成されていると共に、軸方向中間部分において、外周面に開口する一対のポケット部42,42が、支持軸部18を径方向一方向で挟んだ両側に形成されている。これら一対のポケット部42,42は、それぞれ、開口端に近づくに従って軸方向開口幅が次第に大きくなる拡開形状をもって、周方向に半周弱の長さで形成されており、金属スリーブ28に形成された一対の窓部36,36を通じて外周面に開口せしめられている。そして、上述の如く一対のポケット部42,42が周方向に半周弱の長さで形成されていることにより、一対のポケット部42,42の対向方向に直交する方向で、第一の取付金具12と金属スリーブ28を弾性連結する一対の連結部43,43が存在するようになっている。即ち、一対のポケット部42,42は、一対の連結部43,43によって周方向で分断されるように形成されているのである。そこにおいて、本実施形態では、各連結部43は、金属スリーブ28における小径筒部30の内径寸法の略1/3程度の大きさの幅寸法でもって一対のポケット部42,42の対向方向に対して直交する方向に延びるように形成されている。また、一対のポケット部42,42は、何れも、本体ゴム弾性体16の軸方向中央から軸方向上方に所定量だけ偏倚して形成されており、それによって、各ポケット部42における軸方向上壁部よりも軸方向下壁部のほうが全体に亘って厚肉とされている。
【0032】
一方、第二の取付金具14は、底壁部44と周壁部46を備えた大径の略有底円筒形状とされている。この底壁部44には、中央部分に位置して、大径の透孔48が形成されており、かかる透孔48の開口周縁部には、軸方向下方に向かって突出する保持筒部50が一体形成されている。そして、このように底壁部44に形成された透孔48内には、第一の可撓性ゴム膜としての第一のダイヤフラム52が配設されている。この第一のダイヤフラム52は、外周縁部が保持筒部50に加硫接着されており、それによって、第二の取付金具14の底壁部44に形成された透孔48が、第一のダイヤフラム52によって流体密に閉塞されている。なお、第一のダイヤフラム52は、容易に変形が許容されるように弛みをもって配設されている。
【0033】
一方、周壁部46は、金属スリーブ28よりも大径の円筒形状をもって軸方向に略ストレートに延びており、その軸方向長さは、金属スリーブ28の軸方向長さと略同じとされている。また、周壁部46には、軸方向中間部分において、開口窓54が形成されており、本実施形態では、かかる開口窓54は、ポケット部42の開口部分よりも小さくされている。因みに、本実施形態では、開口窓54の軸方向開口幅は、本体ゴム弾性体16に形成されたポケット部42の軸方向開口幅より僅かに小さい程度の大きさとされており、開口窓54の周方向開口幅は、本体ゴム弾性体16に形成されたポケット部42の周方向開口幅の略1/3程度の大きさとされている。このように周壁部46に形成された開口窓54の開口周縁部には、第二の可撓性ゴム膜としての第二のダイヤフラム56の外周縁部が加硫接着されており、それによって、開口窓54が第二のダイヤフラム56によって流体密に閉塞されているのである。そこにおいて、本実施形態では、第二のダイヤフラム56は、周壁部46の軸直角方向内方に弛むように配設されていると共に、その厚さ寸法は、周壁部46の厚さ寸法と後述するシールゴム層58の厚さ寸法を合わせた程度の大きさとされている。また、第二のダイヤフラム56は、第一のダイヤフラム52と同じ材料によって形成されている。
【0034】
更にまた、周壁部46の内周面には、その略全面に亘って第二のダイヤフラム56と一体成形された薄肉のシールゴム層58が被着されており、特に、本実施形態では、かかるシールゴム層58は、第一のダイヤフラム52とも一体成形されている。即ち、本実施形態では、第一および第二のダイヤフラム52,56とシールゴム層58は、同一のゴム材料によって一体成形されているのである。
【0035】
このような構造とされた第二の取付金具14は、その軸方向一方の端部から本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品38に外挿されて、軸方向一方の端部(開口端縁部)が金属スリーブ28の大径筒部34の径方向外方に位置せしめられた状態で八方絞り加工等によって縮径されることにより、大径筒部34に嵌着固定されている。
【0036】
そして、このように第二の取付金具14が金属スリーブ28に外嵌固定されることによって、第一の取付金具12が第二の取付金具14の開口部から入り込むようにして配設されることとなり、それによって、第一の取付金具12と第二の取付金具14が同一中心軸上に位置せしめられている。
【0037】
また、このように第二の取付金具14が金属スリーブ28に外嵌固定された状態下において、金属スリーブ28の軸方向下端面は、第二の取付金具14の底壁部44に当接せしめられており、それによって、金属スリーブ28が第二の取付金具14に対して軸方向で位置決めされている。更にまた、金属スリーブ28と第二の取付金具14の嵌着面間には、シールゴム層58が圧縮状態で介在せしめられている。
【0038】
また、このように第二の取付金具14が金属スリーブ28に外嵌固定されることにより、第二の取付金具14の周壁部46側の開口部が本体ゴム弾性体16によって流体密に閉塞されており、それによって、第二の取付金具14の底部分には、本体ゴム弾性体16と第一のダイヤフラム52との対向面間において、非圧縮性流体が封入された液室60が形成されている。なお、封入流体としては、例えば、水やアルキレングリコール,ポリアルキレングリコール,シリコーン油、或いは、それらを混合したものなどが採用可能であり、特に、後述するオリフィス通路を通じての流体の共振作用に基づく防振効果を有効に得るために、粘度が0.1Pa・s以下の低粘性流体を採用することが望ましい。
【0039】
また、かかる液室60には、全体として略円板形状を有する仕切部材62が軸直角方向に広がって配設されている。この仕切部材62は、厚肉円板形状の仕切金具64の上面に、薄肉円板形状の蓋金具66が重ね合わせられることによって形成されており、それら仕切金具64と蓋金具66の外周縁部が、密着状態で重ね合わせられて、第二の取付金具14の底壁部44と本体ゴム弾性体16の外周縁部の軸方向下端面との間で挟圧保持されることによって、第一のダイヤフラム52と本体ゴム弾性体16の対向面間に収容配置されている。
【0040】
そして、このように仕切部材62が第一のダイヤフラム52と本体ゴム弾性体16の対向面間に収容配置されることによって、第一のダイヤフラム52と本体ゴム弾性体16の対向面間に形成された液室60が、仕切部材62によって上下に二分されるようになっている。これにより、仕切部材62の上側において、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成されて、振動入力時に本体ゴム弾性体16の弾性変形に基づいて圧力変動が生ぜしめられる第一の受圧室68が形成されている一方、仕切部材62の下側において、壁部の一部が第一のダイヤフラム52によって構成されて第一のダイヤフラム52の変形に基づいて容積変化が容易に許容される第一の平衡室70が形成されている。
【0041】
また、仕切金具64には、外周面に開口して周方向に延びる凹溝72が半周弱の長さで形成されており、この凹溝72の開口が第二の取付金具14で流体密に閉塞されている。これにより、仕切部材62の外周部分を周方向に延び、周方向の一端部が連通孔74を通じて第一の受圧室68に接続されると共に、周方向の他端部が連通孔76を通じて第一の平衡室70に接続される第一のオリフィス通路78が形成されており、かかる第一のオリフィス通路78を通じて、第一の受圧室68と第一の平衡室70の間での流体流動が許容されるようになっている。なお、本実施形態では、かかる第一のオリフィス通路78を流動せしめられる流体の共振作用等に基づいてエンジンシェイクに相当する低周波数域の振動に対して高減衰効果が発揮されるように、第一のオリフィス通路78の長さや断面積等が調節されている。
【0042】
さらに、仕切金具64の中央部分には、上方に開口する円形の中央凹所80が形成されており、かかる中央凹所80の開口が蓋金具66によって覆蓋されるようになっている。この中央凹所80には、所定厚さの円板形状を有する可動ゴム板82が収容配置されている。この可動ゴム板82には、中央部分よりも厚肉の環状支持部84が外周縁部に形成されており、かかる環状支持部84が仕切金具64と蓋金具66によって挟圧保持されている。これにより、可動ゴム板82が、中央凹所80内において中央部分に所定量の軸方向弾性変形が許容される状態で配設されている。
【0043】
また、仕切金具64と蓋金具66によって形成された中央凹所80の上下両壁部には、複数の透孔86が設けられており、これらの透孔86を通じて、第一の受圧室68と第一の平衡室70の液圧が中央凹所80内に配設された可動ゴム板82の上面と下面に及ぼされるようになっている。そして、可動ゴム板82の上面に及ぼされる第一の受圧室68の液圧と可動ゴム板82の下面に及ぼされる第一の平衡室70の液圧との差に基づいて可動ゴム板82が弾性変形せしめられることにより、可動ゴム板82の弾性変形量に対応した量だけ、仕切金具64と蓋金具66にそれぞれ形成された透孔86と中央凹所80を通じての第一の受圧室68と第一の平衡室70の間での流体流動が、実質的に生ぜしめられることとなり、それによって、第一の受圧室68の圧力変動が軽減乃至は吸収されるようになっている。
【0044】
特に、本実施形態では、可動ゴム板82の弾性と可動ゴム板82の中央凹所80内面への当接とによって可動ゴム板82の弾性変形量が制限されることにより、こもり音等の高周波小振幅の振動入力時において、第一の受圧室68の圧力変動が可動ゴム板82の弾性変形に基づいて有利に吸収乃至は軽減され得る一方、エンジンシェイク等の低周波大振幅の振動入力時において、可動ゴム板82の弾性変形量が制限されることにより、第一の受圧室68に有効な圧力変動が惹起されるようになっている。
【0045】
更にまた、第二の取付金具14が金属スリーブ28に外嵌固定されることによって、金属スリーブ28の窓部36,36が第二の取付金具14で流体密に覆蓋されるようになっており、それによって、一対のポケット部42,42の開口が第二の取付金具14によって覆蓋されて、それぞれ非圧縮性流体が封入された一対の作用流体室88,88が形成されている。なお、これら一対の作用流体室88,88には、何れも、液室60に封入されている非圧縮性流体と同様な非圧縮性流体が封入されている。
【0046】
そこにおいて、本実施形態では、第二の取付金具14が金属スリーブ28に外嵌固定される際に、第二の取付金具14における周壁部46に形成された開口窓54が、金属スリーブ28に形成された一対の窓部36,36の何れか一方の径方向外方に位置せしめられるようになっており、それによって、一対のポケット部42,42の何れか一方の径方向外方において第二のダイヤフラム56が位置せしめられることとなる。
【0047】
その結果、本実施形態では、一対の作用流体室88,88の何れか一方によって、壁部の一部が第二のダイヤフラム56で構成されて第二のダイヤフラム56の変形に基づいて容積変化が容易に許容される第二の平衡室90が構成されていると共に、他方の作用流体室88によって、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成されて振動入力時に本体ゴム弾性体16の弾性変形に伴って圧力変動が直接に生ぜしめられる第二の受圧室92が構成されている。
【0048】
また、第二の取付金具14と金属スリーブ28の軸直角方向対向面間には、筒状オリフィス部材94が配設されている。筒状オリフィス部材94は、図3乃至図6にも示されているように、半周以上の周方向長さ(本実施形態では、略3/4周の周方向長さ)を有する略筒形状を呈しており、合成樹脂材や金属材等の硬質材により形成されている。また、筒状オリフィス部材94の内径寸法は、金属スリーブ28における小径筒部30の外径寸法よりも僅かに大きくされている一方、筒状オリフィス部材94の外径寸法は、金属スリーブ28における大径筒部34の外径寸法と略同じとされている。更にまた、筒状オリフィス部材94は、金属スリーブ28における小径筒部30のほうから軸方向上方に向かって外挿されることによって金属スリーブ28に組み付けられており、このように筒状オリフィス部材94が金属スリーブ28に組み付けられた状態下において、筒状オリフィス部材94の上端部分は、窓部36に延び出して該窓部36の軸方向中間部分に位置決めされている。一方、筒状オリフィス部材94の下端部分は、第二の取付金具14の底壁部44に当接されて位置決めされていると共に、金属スリーブ28における小径筒部30の開口側端縁部と第二の取付金具14の周壁部46の間で全周に亘って挟圧保持されている。そこにおいて、本実施形態では、筒状オリフィス部材94は、第二のダイヤフラム56の変形を妨げないように、第二のダイヤフラム56が径方向外方に位置せしめられたポケット部42を周方向に横断しないような位置に配されている。特に、本実施形態では、筒状オリフィス部材94において周方向で分断されている部分に対して第二のダイヤフラム56が位置せしめられている。即ち、筒状オリフィス部材94の周方向一方の端部と他方の端部に挟まれるようにして、第二のダイヤフラム56が位置せしめられているのである。
【0049】
さらに、筒状オリフィス部材94には、周方向に往復乃至は蛇行等して延びる凹溝96が外周面に開口して形成されており、この凹溝96の一方の端部が、凹溝96の底壁部に貫設された通孔98を通じて一方の作用流体室88(第二の受圧室92)に接続されていると共に、凹溝96の周方向他方の端部が、凹溝96の底壁部に貫設された通孔100を通じて他方の作用流体室88(第二の平衡室90)に接続されている。そして、この凹溝96が第二の取付金具14の周壁部46で流体密に覆蓋されることにより、一対の作用流体室88,88、即ち、第二の受圧室92と第二の平衡室90を相互に連通する第二のオリフィス通路102が形成されているのである。そこにおいて、本実施形態では、第二のオリフィス通路102を通じて第二の受圧室92と第二の平衡室90の間を流動せしめられる流体の共振作用に基づいてエンジンシェイク等の低周波振動に対して高減衰効果が発揮されるように、第二のオリフィス通路102の長さや断面積等が調節されている。なお、本実施形態の筒状オリフィス部材94には、適当な形状や大きさの肉抜き穴104が形成されている。
【0050】
更にまた、図面上では明示されていないが、金属スリーブ28の外周面には、小径筒部30における一対の窓部36,36の間で大径筒部34から軸方向に突出する、ゴム弾性体によって形成された係合凸部が固設されている。そして、これら係合凸部に対して、筒状オリフィス部材94において軸方向上端面に開口するように形成された矩形状の位置決め用切欠部106が嵌合せしめられるようになっており、それによって、筒状オリフィス部材94が一体加硫成形品38(金属スリーブ28)に対して周方向で位置決めされるようになっている。
【0051】
なお、本実施形態では、筒状オリフィス部材94の金属スリーブ28への外挿に際して、予め金属スリーブ28に八方絞り等の縮径加工が施されており、それによって、本体ゴム弾性体16に予圧縮が加えられている。その結果、本体ゴム弾性体16の加硫成形に際して、本体ゴム弾性体16に惹起される引張応力が軽減乃至は解消されて、本体ゴム弾性体16の耐荷重性能や耐久性の向上が図られている。
【0052】
このような構造とされたエンジンマウント10には、取付ブラケット108が取り付けられるようになっている。この取付ブラケット108は、全体として上底部110と筒状部112を備えた逆カップ形状とされており、その開口端には、径方向外方に突出する取付フランジ114が一体形成されている。このような構造とされた取付ブラケット108は、筒状部112が第二の取付金具14における周壁部46に外嵌固定されることで、エンジンマウント10に組み付けられるようになっており、このように筒状ブラケット108がエンジンマウント10に組み付けられた状態下において、第一の取付金具12は、上底部110に形成された挿通孔116から上底部110の上方に突出せしめられている。
【0053】
そこにおいて、本実施形態では、取付ブラケット108における筒状部112には、取付ブラケット108のエンジンマウント10への組付状態下で第二のダイヤフラム56によって流体密に閉塞された開口窓54の外側に位置するようにして貫通孔118が形成されており、それによって、第二のダイヤフラム56に対して大気圧が及ぼされるようになっている。
【0054】
このように取付ブラケット108が組み付けられたエンジンマウント10は、第一の取付金具12の取付固定部20が、取付固定部20に形成された取付孔120に挿通されるボルト(図示せず)によって、図示しないパワーユニットに固定される一方、第二の取付金具14が、取付フランジ114に形成されたボルト挿通孔122に挿通されるボルト(図示せず)によって自動車のボデーに固定されるようになっており、それによって、パワーユニットをボデーに対して防振支持せしめるようになっている。そこにおいて、本実施形態では、第二の受圧室92と第二の平衡室90が対向する径方向が車両の略前後方向となる状態で、エンジンマウント10が車両に装着されるようになっている。
【0055】
そして、上述の如くエンジンマウント10が車両に装着された状態下において、第一の取付金具12と第二の取付金具14の間に略鉛直方向の振動が入力されると、第一の受圧室68と第一の平衡室70の間に相対的な圧力差が生ぜしめられることとなる。そこにおいて、第一の取付金具12と第二の取付金具14の間に略鉛直方向に入力される振動が、エンジンシェイク等の低周波大振幅振動の場合には、第一のオリフィス通路78を通じて流動せしめられる流体の共振作用に基づいて高減衰効果が発揮されるようになっており、また、第一の取付金具12と第二の取付金具14の間に略鉛直方向に入力される振動が、こもり音等の高周波小振幅振動の場合には、可動ゴム板82の弾性変形に基づいて第一の受圧室68の圧力変動が吸収乃至は軽減されて、低動ばね作用による振動絶縁効果が発揮されるようになっている。
【0056】
一方、上述の如くエンジンマウント10が車両に装着された状態下において、第一の取付金具12と第二の取付金具14の間に略水平方向(略車両前後方向)に振動が入力されると、第二の受圧室92と第二の平衡室90の間に相対的な圧力差が生ぜしめられることとなる。そこにおいて、第一の取付金具12と第二の取付金具14の間に略水平方向(略車両前後方向)に入力される振動が、エンジンシェイク等の低周波大振幅振動の場合には、第二のオリフィス通路102を通じて流動せしめられる流体の共振作用に基づいて高減衰効果が発揮されるようになっている。
【0057】
そこにおいて、本実施形態のエンジンマウント10にあっては、第一の取付金具12における支持軸部18を挟んだ径方向両側に対向位置して、一対の作用流体室88,88が形成されており、それら一対の作用流体室88,88の何れか一方において壁部の一部が第二のダイヤフラム56によって構成された第二の平衡室90が構成されていると共に、他方の作用流体室88によって壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成されて第一の取付金具12と第二の取付金具14の間に略水平方向(略車両前後方向)に振動が入力された際に本体ゴム弾性体16の弾性変形に伴って圧力変動が直接に生ぜしめられる第二の受圧室92が構成されていることから、第二のダイヤフラム56の大きさや厚さ寸法,弛み,形成材料等を変更して、第二のダイヤフラム56のばね特性を調節することにより、第二の平衡室90の壁ばね剛性を調節することが可能となる。
【0058】
従って、本実施形態のエンジンマウント10においては、軸方向の支持ばね剛性等に影響を与えることとなる本体ゴム弾性体16のばね特性を変更せずに、第二の平衡室90の壁ばね剛性を大きな自由度で調節することが可能となり、それによって、第二のオリフィス通路102を流動せしめられる流体の共振作用に基づく防振効果が発揮される周波数域のチューニングを大きな自由度で行うことが可能となる。
【0059】
また、本実施形態のエンジンマウント10においては、第二のオリフィス通路102が第二の受圧室92と第二の平衡室90を相互に連通するようになっていることから、第二のオリフィス通路102を流動せしめられる流体の共振作用に基づいて発揮される防振効果のピーキーな特性を抑えることが可能となり、それによって、第二のオリフィス通路102を流動せしめられる流体の共振作用に基づく防振効果が発揮される周波数域を広くすることが可能となる。
【0060】
更にまた、本実施形態のエンジンマウント10にあっては、一対のポケット部42,42が対向する径方向、即ち、第二の受圧室92と第二の平衡室90が対向する径方向に対して直交する径方向に延びるように形成されている連結部43,43において空所等が形成されていないことから、それら連結部43,43のゴムボリュームを大きく確保することが可能となり、それによって、第二の受圧室92と第二の平衡室90が対向する径方向と、第二の受圧室92と第二の平衡室90の対向方向に直交する径方向でのばね比を大きく設定することが可能となる。
【0061】
それ故、本実施形態のエンジンマウント10においては、第二の受圧室92と第二の平衡室90が対向する径方向に振動が入力された際には、第二のオリフィス通路102を流動せしめられる流体の共振作用に基づく防振効果を発揮することが可能となる一方、第二の受圧室90と第二の平衡室92の対向方向に対して直交する径方向に振動が入力された際には、一対の連結部43,43が圧縮/引張変形せしめられて、本体ゴム弾性体16による有効な高動ばね特性を得ることが可能となる。
【0062】
因みに、本実施形態に従う構造とされたエンジンマウント10を用いて、第二の受圧室92と第二の平衡室90が対向位置する軸直角方向の入力振動に対する防振性能の周波数特性のシミュレーション結果を、図7に実施例として示す。また、かかるエンジンマウント10において、第二の取付金具14に開口窓54を形成することなく、一対のポケット部42,42の開口部を何れも剛性の周壁部46で閉塞した構造のエンジンマウントについても同様なシミュレーションを行い、その結果を、比較例として、図7に併せ示す。
【0063】
図7に示された結果からも、本実施形態のエンジンマウント10においては、第二のオリフィス通路102を流動せしめられる流体の共振作用に基づいて発揮される防振効果が広い周波数域に亘って発揮され得ること等が明らかである。
【0064】
また、図8には、本発明の第二の実施形態としての自動車用エンジンマウント124が示されている。なお、以下の説明において、第一の実施形態と同様な構造とされた部材および部位については、図中に、第一の実施形態と同一の符号を付すことにより、それらの詳細な説明を省略する。
【0065】
すなわち、前記第一の実施形態では、取付ブラケット108の筒状部112に対して貫通孔(118)が形成されていたが、本実施形態では、筒状部112に対して貫通孔(118)が形成されておらず、それによって、第二のダイヤフラム56の外側が筒状部112で覆われて、第二のダイヤフラム56を挟んで第二の平衡室90と反対側に密閉状の空気室126が形成されている。
【0066】
このような構造とされた本実施形態のエンジンマウント126においても、第一の実施形態のエンジンマウント(10)と同様な効果を得ることが出来る。
【0067】
また、本実施形態のエンジンマウント126においては、第二のダイヤフラム56を挟んで第二の平衡室90と反対側に密閉状の空気室126が形成されていることから、空気室126に密閉された空気の圧縮弾性を利用することによって、第二のダイヤフラム56のばね特性を調節することが可能となり、それによって、第二のオリフィス通路102を流動せしめられる流体の共振作用に基づく防振効果が発揮される周波数域のチューニングを一層大きな自由度で行うことが可能となる。
【0068】
以上、本発明の幾つかの実施形態について詳述してきたが、これらはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものではない。
【0069】
例えば、第一および第二の実施形態では、第一の受圧室68と第一の平衡室70の壁部の一部が、高周波数域の圧力変動を吸収する可動ゴム板82で構成されていたが、かかる可動ゴム板82は、要求される防振特性等に応じて適宜に配設されるものであり、本発明において、必ずしも必要なものではない。
【0070】
また、第一および第二のオリフィス通路78,102の通路長さや通路断面積,チューニング周波数等は、要求される防振特性に応じて適宜に決定されるものであって、前記第一および第二の実施形態のものに限定されることはない。
【0071】
更にまた、前記第一および第二の実施形態では、開口窓54が一つしか形成されていなかったが、開口窓54は複数形成されていても良い。また、開口窓54の大きさ等も前記第一および第二の実施形態のものに限定されるものではない。
【0072】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の第一の実施形態としての自動車用エンジンマウントを示す縦断面図であって、図2におけるI−I方向に相当する断面図である。
【図2】図1におけるII−II断面図である。
【図3】図1に示された自動車用エンジンマウントを構成する筒状オリフィス部材を示す正面図である。
【図4】図3に示された筒状オリフィス部材の平面図である。
【図5】図3に示された筒状オリフィス部材の右側面図である。
【図6】図3に示された筒状オリフィス部材の左側面図である。
【図7】本実施形態のエンジンマウントにおいて、第二のオリフィス通路を流動せしめられる流体の流動作用に基づく防振特性を説明するためのグラフである。
【図8】本発明の第二の実施形態としての自動車用エンジンマウントを示す縦断面図であって、図2におけるI−I方向に相当する断面図である。
【符号の説明】
【0074】
10 エンジンマウント
12 第一の取付金具
14 第二の取付金具
16 本体ゴム弾性体
18 支持軸部
42 ポケット部
52 第一のダイヤフラム
54 開口窓
56 第二のダイヤフラム
68 第一の受圧室
70 第一の平衡室
78 第一のオリフィス通路
88 作用流体室
90 第二の平衡室
92 第二の受圧室
102 第二のオリフィス通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線状に延びる支持軸部を備えた第一の取付部材を、略円筒形状を有する第二の取付部材の軸方向一方の開口側に離隔配置せしめて、該第一の取付部材の該支持軸部を該第二の取付部材の軸方向一方の開口部から略中心軸上を軸方向に入り込ませて内方に延び出させ、該支持軸部と該第二の取付部材を本体ゴム弾性体で連結することにより、該第二の取付部材の軸方向一方の開口部を該本体ゴム弾性体で流体密に閉塞せしめる一方、該第二の取付部材の軸方向他方の開口部を第一の可撓性ゴム膜で流体密に閉塞すると共に、それら本体ゴム弾性体と第一の可撓性ゴム膜の軸方向対向面間において該第二の取付部材で支持されて軸直角方向に広がる仕切部材を配設することにより、該本体ゴム弾性体で壁部の一部が構成された第一の受圧室と該第一の可撓性膜で壁部の一部が構成された第一の平衡室を該仕切部材を挟んだ各一方の側に形成して、それら第一の受圧室と第一の平衡室に非圧縮性流体を封入すると共に、それら第一の受圧室と第一の平衡室を相互に連通する第一のオリフィス通路を形成する一方、
該本体ゴム弾性体において外周面に開口する一対のポケット部を、該第一の取付部材の該支持軸部を挟んだ径方向両側に対向位置して形成し、それら一対のポケット部の開口を該第二の取付部材で流体密に覆蓋することにより、それぞれ壁部の一部が該本体ゴム弾性体で構成されて非圧縮性流体が封入された一対の作用流体室を形成すると共に、それら一対の作用流体室を相互に連通する第二のオリフィス通路を設けた流体封入式防振装置において、
前記一対の作用流体室の一方における前記第二の取付部材による覆蓋部分に開口窓を設けると共に、該開口窓を第二の可撓性ゴム膜で流体密に閉塞せしめて、該一方の作用流体室の壁部の一部を該第二の可撓性ゴム膜で構成することにより、かかる一対の作用流体室によって、壁部の一部が前記本体ゴム弾性体で構成されて前記第一の取付部材と該第二の取付部材の間への軸直角方向の振動入力時に該本体ゴム弾性体の弾性変形に伴って圧力変動が直接に生ぜしめられる第二の受圧室と、壁部の一部が該第二の可撓性ゴム膜で構成されて該第二の可撓性ゴム膜の変形に基づいて容積変化が容易に許容される第二の平衡室とを、構成したことを特徴とする流体封入式防振装置。
【請求項2】
前記第二の取付部材に対して前記第一の可撓性ゴム膜と前記第二の可撓性ゴム膜が何れも加硫接着されることにより、該第一の可撓性ゴム膜で該第二の取付部材の前記軸方向他方の開口部が流体密に閉塞されていると共に、該第二の可撓性ゴム膜で該第二の取付部材の前記開口窓が流体密に閉塞されている請求項1に記載の流体封入式防振装置。
【請求項3】
前記第一の可撓性ゴム膜と前記第二の可撓性ゴム膜が同一のゴム材料で一体成形されていると共に、前記第二の取付部材の内周面を略全面に亘って覆うシールゴム層が、それら第一及び第二の可撓性ゴム膜と一体成形されて該第二の取付部材に対して加硫接着されている請求項2に記載の流体封入式防振装置。
【請求項4】
前記本体ゴム弾性体の外周面に対して略円筒形状の金属スリーブが加硫接着されていると共に、該金属スリーブに対して一対の窓部が形成されており、かかる一対の窓部を通じて該本体ゴム弾性体に形成された前記一対のポケット部が外周面に開口せしめられている一方、該金属スリーブに対して前記第二の取付部材が外嵌固定されて、該金属スリーブにおける該一対の窓部が該第二の取付部材で流体密に覆蓋されている請求項1乃至3の何れかに記載の流体封入式防振装置。
【請求項5】
前記第二の取付部材に対して外嵌固定される筒状部を備えた取付ブラケットを設けて、該第二の取付部材の前記開口窓に配設された前記第二の可撓性ゴム膜を該取付ブラケットの該筒状部で外側から覆うことにより、該第二の可撓性ゴム膜を挟んで前記第二の平衡室と反対側に密閉状の空気室を画成した請求項1乃至4の何れかに記載の流体封入式防振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−64033(P2006−64033A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−245327(P2004−245327)
【出願日】平成16年8月25日(2004.8.25)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】