説明

流体軸受装置と、それを用いたスピンドルモータおよび情報記録再生装置

【課題】ハードディスクドライブなどの情報記録再生装置に搭載されている軸固定型の流体軸受装置において、スリーブにハブを圧入しても潤滑流体漏れが発生しない流体軸受装置を提供する。
【解決手段】スリーブ1の第1凹部および第2凹部にそれぞれベアリングカバー15を設けることによって、ハブ9を圧入するスリーブ1の第1圧入部10および第2圧入部11の剛性が向上するので、スリーブ1外周部にハブ9を圧入しても、スリーブ1の変形が小さくなり、潤滑流体漏れが発生しない流体軸受装置を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばハードディスクドライブ(以下、HDDと示す。)などの情報記録再生装置に搭載されている流体軸受装置と、それを用いたスピンドルモータおよび情報記録再生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク、ポリゴンミラー、光ディスク装置などのスピンドルモータに用いられている軸受装置として、従来用いられていた玉軸受装置に代わって、玉軸受よりも回転精度が優れ、しかも静音性にも優れる流体軸受装置が多く用いられつつある。
【0003】
図4に示すように、従来の流体軸受装置の構成は、例えばシャフト固定型の流体軸受構成を示しており、シャフト102はベース103に固定されている。また、ベース103には巻線が巻かれたステータコア116が取り付けられている。
【0004】
シャフト102にはスリーブ101が所定隙間を介して相対回転可能に挿入されている。このスリーブ101の内周面にはヘリングボーン形状などのラジアル動圧発生溝104が形成され、対向するシャフト102の外周面との間でラジアル動圧軸受が形成されている。
【0005】
シャフト102の上下部分の外周にはスラストフランジ105及び106が固定されている。スリーブ101の上下端面に設けられた凹部にはヘリングボーン形状などのスラスト動圧発生溝107及び108が形成されており、対向するスラストフランジ105の下面及びスラストフランジ106の上面との間でスラスト動圧軸受が形成されている。
【0006】
ここで、シャフト102、スラストフランジ105、106およびスリーブ101によって形成される隙間には潤滑流体が保持されている。
【0007】
そして、スリーブ101の外周側にはハブ109が圧入などによって固定されている。また、ハブ109にはマグネット115が前記ステータコア116に対向するように取り付けられている。
【0008】
そして、ステータコア116の巻線に通電すると、ステータコア116とマグネット115との吸引反発の磁気作用によって、ベース103に対してハブ109がシャフト102を中心として回転する。この回転によりラジアル動圧発生溝104及びスラスト動圧発生溝107及び108に動圧が発生し、軸受として作用して、シャフト102に対してスリーブ101が非接触で回転支持される。
【0009】
また、フランジ外周部111及び112とスリーブ101の内周部の間でキャピラリーシールを形成し、このキャピラリーシール部に潤滑流体界面113が存在する。この潤滑流体界面113に埃が入るのを防ぐために、ベアリングカバー114がハブ109のスラストフランジ105及び106の軸線方向外側の位置に取り付けられている。(例えば、特許文献1参照。)
このようなシャフト固定型の軸受は、スリーブ101にハブ109が圧入されるため、圧入によるスリーブ101の内径の変形が発生する。
【0010】
そのため、スリーブ101の内径とシャフト102の外径との間で構成するラジアル動圧軸受の性能にばらつきが生じ、潤滑流体漏れが生じる課題があった。
【特許文献1】特開2005−226657号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この潤滑流体漏れの課題に対し、特許文献1では、スリーブ101とハブ109の圧入部110の間にラジアル動圧発生溝を形成することにより解決している。つまり、圧入部110がラジアル軸受部よりも外側にあるので、ラジアル軸受部のスリーブ101内径が小さくなる。また、その変形によってラジアル軸受部の両端部側ほど狭くなる、いわゆるポンプイン形状となるようにスリーブ101の内径が変形するので、潤滑流体漏れが防止される技術が開示されている。
【0012】
しかしながら、前記従来の構成では、キャピラリーシール部を形成するスリーブ101の外周側の位置にハブ109の圧入部110が存在する。また、キャピラリーシール部のスリーブ101は薄肉になっており、変形しやすい形状となっている。そのため、スリーブ101にハブ109を圧入すると、キャピラリーシール部を形成するスリーブ101の内径が変形することにより、キャピラリーシール形状にばらつきが生じる。このキャピラリーシール形状のばらつきにより、キャピラリーシール性能が低下し、少しの振動で潤滑流体漏れが発生する。
【0013】
また、変形が大きいと、軸受に同じ量の潤滑流体を注入した場合に潤滑流体液面113の位置が、変形がない場合よりも軸方向外側に位置することになる。そうすると、温度変化などにより軸受隙間が小さくなると、軸受部の潤滑流体がキャピラリーシール部に流入する。その結果、キャピラリーシール部で流入量を保持することが出来なくなり、潤滑流体漏れが発生するという課題を有していた。
【0014】
そこで、本発明は、スリーブにハブを圧入しても潤滑流体漏れが発生しない流体軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
そして、この目的を達成するために、本発明の流体軸受装置は、ベースと、前記ベースに固定されたシャフトと、前記シャフトに相対回転可能な状態で挿入された軸受穴を有するスリーブと、前記スリーブに、ベースと軸線方向に反対側の端面に設けられた第1凹部と、前記スリーブに、第1の凹部の他方の端面に設けられた第2凹部と、前記第1凹部に収納される第1フランジと、前記第2凹部に収納される第2フランジと、前記第1凹部と前記第1フランジによって径方向に形成された第1隙間と、前記第2凹部と前記第2フランジによって径方向に形成された第2隙間と、前記スリーブの外周に径方向に圧入される内周面を有するハブと、前記第1凹部が形成されている領域およびその領域よりも軸線方向外側の領域で、前記スリーブ外周と前記ハブの内周面によって形成された第1圧入部と、前記第2隙間よりも軸線方向外側で、前記スリーブ外周と前記ハブの内周面によって形成された第2圧入部と、前記第1凹部に収納され、前記第1フランジの軸線方向外側に配置された第1ベアリングカバーと、前記第2凹部に収納され、前記第2フランジの軸線方向外側に配置された第2ベアリングカバーを備えているものである。
【発明の効果】
【0016】
以上のように発明によれば、スリーブの第1凹部および第2凹部にそれぞれ第1ベアリングカバーおよび第2ベアリングカバーを設けることによって、ハブを圧入するスリーブの第1圧入部および第2圧入部の剛性が向上するので、スリーブ外周部にハブを圧入しても、スリーブの変形が小さくなり、潤滑流体漏れが発生しない流体軸受装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の流体軸受装置と、それを用いたスピンドルモータおよび情報記録再生装置について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明では便宜上、図面の上下方向を「軸方向上側」、「軸方向下側」などと表現するが、実際の使用状態を限定するものではない。
【0018】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における流体軸受装置の断面図、図2は本発明の流体軸受装置の要部である図1に示すA部の詳細断面図である。この流体軸受装置は、図1に示すようにベース3にシャフト2の基端部が支持固定されているシャフト固定型である。また、ベース3にはステータコア18が取り付けられており、ステータコア18にはコイルが巻かれている。
【0019】
スリーブ1は略円筒状であって、中央に円形の軸受穴を有しており、円柱状のシャフト2にこの軸受穴が所定の微小隙間を介して相対的に回転可能な状態で挿入されている。
【0020】
また、スリーブ1の外周には圧入によって嵌合された姿勢でハブ9が固定されている。
【0021】
ここで、ハブ9は、前記ステータコア等を内部に配置するような中央に貫通孔を有する有天円筒状の形状に形成されている。(このような構成をインハブ構造という。)すなわち、図1に示すように径小の円筒に、径方向外周側に広がる前記径小の円筒よりも径大の天面を有する有天円筒状のものである。そして、この有天円筒状部外周の円筒状垂下壁部の内周にはステータコア18と周方向に対向する位置に、半径方向に所定の隙間を介してリング状のマグネット17が取り付けられている。
【0022】
このマグネット17は、Nd−Fe−B系樹脂ボンド磁石が使用されており、周方向にN極とS極が交互に多極着磁されている。そして、ステータコア18に巻かれたコイルに制御された電流を流すと、マグネット17との間に回転力が発生し、シャフト2、ベース3およびステータコア18などによって構成されるステータに対してスリーブ1、ハブ9およびマグネット17などによって構成されるロータを回転させる駆動機構として作用する。
【0023】
スリーブ1の内周面には、ヘリングボーン形状またはスパイラル形状のラジアル動圧発生溝4が形成されている。シャフト2の外周面とスリーブ1の内周面の間にはオイルなどの潤滑流体13が充填されている。
【0024】
ここで、スリーブ1が回転することによって、シャフト2の外周面とスリーブ1の内周面との間に、ラジアル動圧発生溝4によって動圧が発生し、ラジアル動圧軸受が構成される。このラジアル動圧軸受によって、シャフト2はスリーブ1に対してラジアル方向に非接触状態で回転可能に支持される。
【0025】
また、スリーブ1の軸線方向の両端面にはラジアル軸受部を構成している軸受穴よりも径が大きい円形の凹部が設けられている。ベース3に対して遠い方を第1凹部、近い方を第2凹部とする。そして、第1凹部に収納されるように円板状の第1フランジ5と、第2凹部に収納されるように円板状の第2フランジ6が、それぞれシャフト2に固定されている。
【0026】
第1フランジ5の下面、すなわちスリーブ1の第1凹部と軸線方向に対向する面には第1のスラスト動圧発生溝7が形成されている。また、第2フランジ6の上面、すなわちスリーブ1の第2凹部と軸線方向に対向する面には第2のスラスト動圧発生溝8が形成されている。
【0027】
そして、第1フランジ5の下面とスリーブ1の第1凹部の上面の間、及び第2フランジ6の上面とスリーブ1の第2凹部の下面との間には潤滑流体13が充填保持されている。
【0028】
ここで、スリーブ1が回転することによって、第1フランジ5の下面とスリーブ1の上面との間、及び第2フランジ6の上面とスリーブ1の下面との間に第1のスラスト動圧発生溝7および第2のスラスト動圧発生溝8によって動圧が発生し、スラスト動圧軸受が構成される。このスラスト動圧軸受によってスリーブ1は第1フランジ5及び第2フランジ6に対して軸線方向に非接触状態で回転可能に支持される。
【0029】
また、第1フランジ及び第2フランジの径方向の外周面は、それぞれが収納されているスリーブ1の両端面の凹部の軸線方向開口部側に向かって直径が小さくなる形状であり、キャピラリーシール部12が形成されている。このキャピラリーシール部12とスリーブ1の第1凹部の内周によって径方向に形成される第1隙間と、キャピラリーシール部12とスリーブ1の第2凹部の内周によって径方向に形成される第2隙間には潤滑流体13の界面14がそれぞれ形成されている。これにより、毛管力によって潤滑流体13を軸受内部に保持するキャピラリーシールが形成されている。
【0030】
ここで、本実施形態ではキャピラリーシールを形成する面はテーパ状であって、第1フランジ5、および第2フランジ6側に設けたが、これに限るものではなく、たとえば、キャピラリーシールを形成する面は階段状であってもよい。また、それらをフランジ1の第1凹部および第2凹部の径方向の内周面、すなわち、第1フランジ5、および第2フランジ6と径方向に対向する面に設けてもよく、これにより、同様にキャピラリーシールを形成できる。
【0031】
さらに、スリーブ1の第1凹部および第2凹部内周面の、第1フランジ5及び第2フランジ6よりもスリーブ1の両端面の凹部の軸線方向開口部側の位置に、それぞれ薄板リング状のベアリングカバー15が接着などにより固定されている。
【0032】
本実施形態におけるベアリングカバー15は、流体軸受装置外部から潤滑流体13の界面14に異物、埃などが侵入することを防止しているとともに、以下に述べるように流体軸受性能の悪化を防止するものである。
【0033】
まず、ハブ9のスリーブ1への圧入位置であるが、スリーブ1の外周部とハブ9の内周面によって形成された第1圧入部10と第2圧入部11にハブ9が圧入されている。ここで、第1圧入部10は第1凹部と第1フランジ5によって径方向に形成された第1隙間部よりも軸線方向外側に設けられ、第2圧入部11は第2凹部と第2フランジ6によって径方向に形成された第2隙間部よりも軸線方向外側に設けられている。言い換えれば、本実施形態においては、ラジアル軸受部の領域およびスラスト軸受部の領域を外れた第1凹部が形成されている領域およびその領域よりも軸線方向外側の領域に第1圧入部を設け、また、第2凹部が形成されている領域およびその領域よりも軸線方向外側の領域に第2圧入部を設ける。このため、スリーブ1にハブ9を圧入した時に、ラジアル軸受部のスリーブ内径の変形に対する影響度が小さくなり、流体軸受性能の悪化を防ぐことが出来る。
【0034】
さらに、スリーブ1の第1凹部および第2凹部の内周面の、第1フランジ5及び第2フランジ6よりもスリーブ1の両端面の凹部の軸線方向開口部側の位置には、それぞれベアリングカバー15が固定されている。この構成にすることにより、図2に示すように、スリーブ1の凹部の開口部の内周側にベアリングカバー15が固定されて、圧入によるスリーブ1の外周部からの外力に対して強度を増す働きをするので、スリーブ1の剛性を向上させることが出来る。
【0035】
ここで、第1圧入部10または第2圧入部11が、ベアリングカバー15の固定位置と径方向に重畳していれば外力に対する強度は最も強くなりさらに好適である。なお、重畳していなくても圧入によるスリーブ1の外周部からの外力に対する強度的な効果を得られることは言うまでもない。
【0036】
したがって、図1に示すように第1圧入部10と第2圧入部11をキャピラリーシール部12のスリーブ1外周部に設けても、スリーブ1の第1凹部および第2凹部の内径の変形を抑制でき、適正なキャピラリ−シール形状を維持できる。したがって、キャピラリーシール性能を向上させ、潤滑流体の液面14の位置の安定化を実現することができ、潤滑流体漏れが発生しない流体軸受装置を提供することができる。
【0037】
また、ハブ9、スリーブ1およびベアリングカバー15において、その材料はベアリングカバー15に最も剛性の高い(ヤング率の大きい)材料を使い、次いでスリーブ1の材料の剛性が高く、ハブの9の材料の剛性を3つの部材の中では最も低くするのが好ましい。具体的には、例えば、ハブ9はアルミニウム、スリーブ1は真鍮で形成し、ベアリングカバー15をステンレスのような3つの材料の中で最もヤング率の大きな材料で形成するとよい。また、スリーブ1はさらに表面に無電解ニッケルメッキを施してもよい。
【0038】
さらに、ベアリングカバー15をスリーブ1に圧入固定するとスリーブ1が半径方向の外周方向に広がるように変形するので、ハブ9をスリーブ1に挿入するのが困難になる。
【0039】
したがって、スリーブ1とベアリングカバー15は、接着剤などによって固定することが好ましい。また、接着剤は適度に弾性を有するものが好ましく、スリーブ1にハブ9を圧入したときに接着剤部分が多少変形することによってハブ9の圧入をスムーズにすることができる。ただし、ベアリングカバー15があるので、スリーブ1の第1凹部および第2凹部の内周の変形は一定の範囲以内に抑えることができる。具体的には、例えば、エポキシ系やアクリル系の接着剤を用いるとよい。
【0040】
また、スリーブ1外周とハブ9内周面との間で、第1圧入部10と第2圧入部11の間の位置に凹部である接着剤溜り部16が形成されている。この接着剤溜り部16には、接着剤が充填されており、スリーブ1とハブ9の締結強度を向上させることができる。
【0041】
ところで、本実施形態では、ラジアル動圧発生溝4がスリーブ1の内周面に形成されている場合を述べたが、これに限るものではなく、シャフト2の外周面とスリーブ1の内周面の少なくともどちらか一方に形成されていれば良い。また、第1のスラスト動圧発生溝7は第1フランジ5の下面に、第2のスラスト動圧発生溝8は第2フランジ6の上面に形成されている場合を述べたが、これに限るものではなく、第1フランジの下面とスリーブ1の上面及び第2フランジ上面とスリーブ1の下面の少なくとも一方に形成されていれば良い。
【0042】
さらに、本実施形態では、それぞれのスラスト動圧発生溝はそれぞれフランジ側に設けたが、スリーブ1の第1凹部および第2凹部の内周の、それぞれ第1フランジ5、および第2フランジ6と軸線方向に対向する面側に設けても動圧を発生できることは言うまでもない。
【0043】
また、本実施形態ではスリーブ1を1部品構造としたが、ラジアル軸受部が形成される面を有する内周部材と、第1圧入部および第2圧入部が設けられる外周部材を略円筒状になるように分割してもよい。そして、内周部材の外周と外周部材の内周の少なくとも片方に軸線方向の溝を設け、これを組み合わせるようにして、2部品以上で形成することにより、上下のキャピラリーシール部を連結する連通路を容易に形成することができる。
【0044】
以上のように本実施形態によれば、スリーブ1外周部にハブ9を圧入しても、スリーブ1の変形が小さくなり、キャピラリ−シール形状のばらつきが小さくなる。したがって、キャピラリーシール性能の向上と潤滑流体液面位置の安定化を実現することができ、流体軸受装置からの潤滑流体漏れの発生が防止できる。また、潤滑流体漏れの発生が防止されることにより、漏れた潤滑流体13がHDDのディスクなどのメディアに付着することがなく、記録エラーが防止できる。さらに、潤滑流体漏れによって動圧軸受部の潤滑流体13が不足して、装置の振動が大きくなったり、焼付いたりすることを防止できる。
【0045】
(実施の形態2)
図3は、本発明の実施の形態2における流体軸受装置の断面図である。実施の形態1の流体軸受装置では、図1に示すようにスリーブ1とハブ9は第1圧入部10と第2圧入部11に圧入されていた。これに対し、実施の形態2では、図3に示すようにスリーブ1とハブ9は第1圧入部10でのみ圧入されている点で異なる。この構成にすることにより、ベース3に近い側、すなわち下側のキャピラリーシール部はスリーブ1にハブ9を圧入する影響を受けない。したがって、圧入部を1ヶ所に限定することにより、圧入の影響を、さらに小さくすることが出来る。
【0046】
さらに、図1の第2圧入部11に使用されていた領域が必要なくなるので、図3に示すようにステータコア18の内径を小さくすることが出来る。したがって、ステータコア18の全体の体積を増やすことが出来るので、モータの出力を上げることができ、(一般に、ステータコアやロータマグネットで構成されるモータ部体積が大きいほど、モータが発生する最大出力は大きくなる。)モータ設計の自由度が増大し、モータ性能(モータ出力は回転数とトルクの積であるので、モータ出力が大きければ高速回転においても必要なトルクを得ることができる。等)やモータ効率(モータ部が同じ体積であれば消費電流を低下させることができる。等)の向上を実現できる。
【0047】
また、スリーブ1の外周に径方向に伸びるリング状の段差部20を設け、この段差部20の端面である段差部上面19とハブ9の天面内側の面を当接させることによってハブ9のスリーブ1に対する組立て精度を向上することができる。
【0048】
ここで段差部20はリング状に限定されるものではなく、スリーブ1の外周に、円周方向に間隔をもって形成された突起などであってもよい。
【0049】
さらに、本実施形態においては、実施形態1と同様に、スリーブ1外周とハブ9内周面との間で、第1圧入部10と段差部20の端面である段差部上面19の間にスリーブ1外周面またはハブ9内周面の少なくともどちらか一方に接着剤溜り部16を設けている。この接着溜り部16には、接着剤が充填されているおり、スリーブ1とハブ9の締結強度を向上させることができる。
【0050】
なお、本発明の実施形態の説明では、動圧軸受部は、シャフトの外周面とスリーブの内周面の少なくとも一方に形成されたラジアル軸受部と、スリーブの端面とフランジの端面の少なくとも一方に形成されたスラスト軸受部で構成される例を挙げたが、これに限るものではなく、ラジアル軸受とスラスト軸受の双方の性質を備えた円錐軸受(コニカル軸受)であってもよい。(例えば、特開2002−122134参照)
また、潤滑流体13としては主にオイルを用いているが、高流動性グリスやイオン性液体を使用してもよい。
【0051】
なお、図1、図3、図4には連通路については図示していないが、それぞれのスラスト軸受部空間をつなぐ通路として連通路が形成されていてもよい。これにより、第1凹部と第2凹部にそれぞれ形成されたスラスト軸受部の圧力バランスを調整することができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明にかかる流体軸受装置と、それを用いたスピンドルモータおよび情報記録再生装置は、潤滑流体漏れの発生がなく、高い信頼性を確保することが出来るので、例えば、モバイル用途や車載用途のような悪条件で使用されるハードディスク装置に搭載される流体軸受装置を有するスピンドルモータとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る流体軸受装置の片側断面図
【図2】本発明の要部であるシール部の断面図
【図3】本発明の第2の実施の形態に係る流体軸受装置の片側断面図
【図4】従来のスピンドルモータの片側断面図
【符号の説明】
【0054】
1 スリーブ
2 シャフト
3 ベース
4 ラジアル動圧発生溝
5 第1フランジ
6 第2フランジ
7 第1のスラスト動圧発生溝
8 第2のスラスト動圧発生溝
9 ハブ
10 第1圧入部
11 第2圧入部
12 キャピラリーシール部
13 潤滑流体
14 界面
15 ベアリングカバー
16 接着溜り部
17 マグネット
18 ステータコア
19 段差部上面
20 段差部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースと、
前記ベースに固定されたシャフトと、
前記シャフトに相対回転可能な状態で挿入された軸受穴を有するスリーブと、
前記スリーブに、ベースと軸線方向に反対側の端面に設けられた第1凹部と、
前記スリーブに、第1の凹部の他方の端面に設けられた第2凹部と、
前記第1凹部に収納される第1フランジと、
前記第2凹部に収納される第2フランジと、
前記第1凹部と前記第1フランジによって径方向に形成された第1隙間と、
前記第2凹部と前記第2フランジによって径方向に形成された第2隙間と、
前記スリーブの外周に径方向に圧入される内周面を有するハブと、
前記第1凹部が形成されている領域およびその領域よりも軸線方向外側の領域で、前記スリーブ外周と前記ハブの内周面によって形成された第1圧入部と、
前記第2凹部が形成されている領域およびその領域よりも軸線方向外側の領域で、前記スリーブ外周と前記ハブの内周面によって形成された第2圧入部と、
前記第1凹部に収納され、前記第1フランジの軸線方向外側に配置された第1ベアリングカバーと、
前記第2凹部に収納され、前記第2フランジの軸線方向外側に配置された第2ベアリングカバーを備えている流体軸受装置。
【請求項2】
前記第1圧入部と第2圧入部の間に前記スリーブ外周面または前記ハブ内周面の少なくとも一方に設けられた接着剤溜り部と、
前記接着剤溜り部に充填される接着剤を備えている請求項1に記載の流体軸受装置。
【請求項3】
ベースと、
前記ベースに固定されたシャフトと、
前記シャフトに相対回転可能な状態で挿入された軸受穴を有するスリーブと、
前記スリーブに、ベースと軸線方向に反対側の端面に設けられた第1凹部と、
前記スリーブに、第1の凹部の他方の端面に設けられた第2凹部と、
前記第1凹部に収納される第1フランジと、
前記第2凹部に収納される第2フランジと、
前記第1凹部と前記第1フランジによって径方向に形成された第1隙間と、
前記第2凹部と前記第2フランジによって径方向に形成された第2隙間と、
前記第1凹部が形成されている領域およびその領域よりも軸線方向外側の領域で、前記スリーブ外周に設けられた第1圧入部と、
前記第1凹部に収納され、前記第1フランジの軸線方向外側に配置された第1ベアリングカバーと、を備えている流体軸受装置。
【請求項4】
前記スリーブ外周に設けられた段差部を備え、
前記第1圧入部にハブが圧入され、前記段差部端面と前記ハブ端面が軸線方向に当接している請求項1に記載の流体軸受装置。
【請求項5】
前記第1圧入部と前記段差部端面の間に前記スリーブ外周面または前記ハブ内周面の少なくとも一方に設けられた接着剤溜り部と、
前記接着剤溜り部に充填される接着剤を備えている請求項3または4に記載の流体軸受装置。
【請求項6】
前記第1隙間及び前記第2隙間が軸線方向外側に向かって拡径する請求項1から請求項5のいずれか一つに記載の流体軸受装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一つに記載の流体軸受装置を用いたスピンドルモータ。
【請求項8】
請求項7に記載のスピンドルモータを用いた情報記録再生装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−150493(P2009−150493A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−329721(P2007−329721)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】