説明

流路切替弁、内燃機関、及び内燃機関のEGR方法

【課題】比較的高圧の駆動用ガスを用いて、複数の入口側流路を高速で選択的に切り替えて出口側流路に連通させることができると共に、流路をシールするシール部材の破損を防止できる流路切替弁、内燃機関及び内燃機関のEGR方法を提供する。
【解決手段】複数の入口側流路51a、51bのいずれか一つ又は複数を選択的に単数又は複数の出口側流路52aに連通させたり、遮断したりする流路切替弁50Aにおいて、ケース54内に設けられた入口側流路51a、51b側と、出口側流路52a側との間でスライドするシャッター部材55を設け、出口側流路52aのシールのためにシャッター部材55とケース54の間にシール部材を配置し、更に、シャッター部材55をケース54の出口側流路側52aの内壁面から浮かせてスライドさせるための案内部材53を設けて、シャッター部材55と内壁面との間に隙間Pを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動用の高圧ガスを用いて、高圧側ガスの流路と低圧側ガスの流路とを高速で切り替えることができる流路切替弁、それを備えた内燃機関、及び内燃機関のEGR方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン等の内燃機関の排気ガス中のNOx(窒素酸化物)を低減するEGR(排気再循環)においては、過給システムを備えた内燃機関では、高圧EGR方式と低圧EGR方式とがある。この高圧EGR方式では、例えば、図29に示すように、高圧EGRシステムを備えた内燃機関1Xでは、ターボ式過給機14よりもエンジン本体11側にEGR通路17が設けられており、エンジン本体11の排気マニホールド11bから吸気マニホールド11aにEGR通路17経由でEGRガスGeを還流している。また、低圧EGR方式では、例えば、図30に示すように、低圧EGRシステムを備えた内燃機関1Yでは、ターボ式過給機14よりもエンジン本体11とは反対側にEGR通路17が設けられており、タービン14bの下流側からコンプレッサ14aの上流側にEGR通路17経由でEGRガスGeを還流している。
【0003】
これらのいずれのEGR方式でも、EGRガス量の制御には、MAF制御方式が一般的に使用されている。このMAF制御方式では、EGR無しでエンジンのシリンダ内に吸入される新気量(空気量)をMoとし、EGRを行うことでシリンダ内に吸入される新気量をMeとすると、還流されるEGRガス量のMegrがMegr=Mo−Meとなるので、これに基づいて、EGR弁21の弁開度により新気量Meを制御することで、EGRガス量Megrを制御している。
【0004】
つまり、エンジンの回転速度Neと燃料負荷Qをパラメータにして、各エンジンの運転状態に対する新気量Meを予め設定して作成した新気量Meのデータマップを基に、実際のエンジン運転時の回転速度Neと燃料負荷Qから目標の新気量Metを算出して、実際の新気量Meをこの目標の新気量Metになるように制御することで、EGRガス量Megrを制御している。
【0005】
しかしながら、ターボ式過給機を使用する場合には排気ガスのエネルギー(エンタルピ)を用いて過給を行うため、ターボ式過給機の応答遅れ(ターボラグ)を無くすことは不可能であり、このMAF制御方式では、このターボラグに起因する次のような問題がある。ターボラグにより負荷が急激に増加する過渡運転状態では、過給圧が定常運転時に設定した圧力まで上昇しないため、エンジンの吸入空気量が低下する。つまり、ターボ式過給機付きエンジンでも無過給エンジンと同程度の吸気量となってしまう。
【0006】
従って、定常運転条件で設定した目標のEGR量に達成することができず、図31に示すように、急激な過渡運転を行う際にNOxの排出量が増加する。また、煤の発生量を制限するために、過給圧があるレベルより上がらない場合には燃料の投入量が煤が増加しない領域内に抑えられるというスモークリミット制御が行われる。その結果、図32及び図33に示すように、燃料噴射量Qと空気量(Mo、Me)が共に点線で示されるように抑えられ、加速時のパワーが抑えられてしまうという問題がある。そのために、加速時等の負荷が急激に増加する過渡運転時には、NOx排出量の増加や燃費の悪化が発生する。
【0007】
一方、エンジンのクランクシャフト等によって、過給機を直接駆動して過給を行う機械式過給装置を使用する場合では、過給の応答遅れをなくす事ができるが、エンジンの回転速度が決まると燃料量の多少に関わらず、過給量が決まるために、また、駆動に要する仕事量が大きいために、燃費が悪化するという問題がある。
【0008】
この対策として、近年では、図34に示すような蓄ガス供給システムを備えた内燃機関1Zが研究されており、この蓄ガス供給システムでは、内燃機関1Zから排出される排気ガスGの一部Gpを空気Aaと混合した混合ガスCを容積型コンプレッサ(排気圧縮器)25で圧縮して高圧化し、この高圧化した混合ガスCを蓄ガス容器(圧力容器)27内に溜め込み、過渡時に放出電磁弁36を開弁して混合ガスCを調圧弁29経由で吸気弁(吸気スロットル)35の下流の吸気通路12に放出し、これにより、内燃機関1Zのシリンダ内への吸気量を過給機付きエンジン並みに増加させると共に、EGRの効果によるNOxの低減を図り、ターボラグの問題を解消している過給制御装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
この蓄ガス供給システムを採用した場合は、過渡時に加圧された混合ガスCをエンジン1Zの吸気通路12内に放出することで過給圧を上げて、シリンダ内への空気量を増加させることができるので燃料量も増やすことができる。その結果、加速性能が向上し、煤の排出も抑えることができる。また、過給圧は排気マニホールド11bの内圧よりも高くなるので、内燃機関1Zのポンピング損失が低下し燃費の向上を図ることができる。
【0010】
この蓄ガス供給システムにおける技術的に最も重要な点の一つに、蓄ガス供給通路側と吸気通路との合流部で、蓄ガス供給通路側と吸気通路の下流側との連通から、吸気通路の上流側と吸気通路の下流側との連通へ、または、逆に、切り替えるための流路切替弁がある。
【0011】
この流路切替弁では、蓄ガス容器からエンジンのシリンダ内へ加圧されたガスを供給する場合には、吸気通路の上流側を確実に閉じる必要があり、蓄ガス供給通路側の弁が開き出したときに吸気通路の上流側の弁が高速で閉まらないと、つまり、二箇所の弁が同時に開いている時間が長い程、加圧されたガスが吸気通路の上流側の弁の隙間を通じて大気側に逃げてしまうので、エンジンの吸気通路の下流側の過給圧が上がらなくなってしまう。
【0012】
また、蓄ガス容器のガスを用いた過給条件が解除されて、通常の吸気通路の上流側と吸気通路の下流側を連通させた状態に戻る場合には、蓄ガス供給通路側の弁が閉じたときに吸気通路の上流側の弁がまだ全開にならないと、吸気通路の上流側の吸気抵抗が増加してエンジンの吸気量が大幅に低下するので、エンジンのパワー、燃費、排ガス等に関するエンジン性能が悪化する。
【0013】
流路切替弁でこれらの状態が、車両が他の車線に合流するために加速したときに発生すると、車両の加速性能が低下してしまうので、これを回避する必要がある。このように、蓄ガス供給通路側と吸気通路の上流側のラインを遮断する二箇所の弁の切替を高速で行うことが重要な課題となっている。
【0014】
なお、三方切替弁として、例えば、一つの駆動手段と複数の三方切替手段の弁体を連結し、駆動手段により複数の弁体を連動して動かす一体式切替弁がある(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2011−21558号公報
【特許文献2】特開2000−193127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
一方、本発明者は、次のような知見を得た。つまり、実際の車両に、蓄ガス供給システムを搭載する場合に、流路切替弁の駆動を高速で行うためには、圧縮空気等の比較的高圧のガスを用いることが有効であり、駆動源となるガスとして過給に用いる蓄ガス容器内に蓄圧されたガスを用いることが有効である。
【0017】
この場合に、蓄ガス供給通路からガスをエンジンのシリンダ内に供給するときには蓄ガス容器内は高圧であるが、このガスの供給を終了するときには蓄ガス容器内のガスがシリンダ内に供給された後であり、相当量のガスが消費されているので、蓄ガス容器内の圧力は降下して比較的低圧になっている。
【0018】
従って、この低圧のガスでも二箇所の連通と閉鎖を行う切替部材を高速で作動させる必要がある。なお、ここで述べる高速作動とは、二箇所の連通と閉鎖の切替開始から切替完了までの時間が約30/1000秒(30ms)程度の短時間で完了することをいう。
【0019】
この流路切替弁に関して、本発明者は、本発明に関する技術の一環として、第1流路と第2流路を切り替えて、第1流路側のガスと第2流路側のガスのいずれか一方を第3流路に流す流路切替弁において、前記第1流路と前記第2流路をケース内の一方側に設け、前記第3流路を前記第1流路と前記第2流路の両方に対向して前記ケース内の他方側に設けると共に、前記第1流路と前記第3流路との間と、前記第2流路と前記第3流路との間を交互に連通及び閉鎖するようにスライドするシャッター部材を設け、前記シャッター部材を駆動用ガスで駆動するピストンでスライドさせるように構成される流路切替弁を考えた。
【0020】
しかしながら、ケースに挿入されたシャッター部材を高速で移動させ、二つ以上の入口側流路(ポート)の切り替えを同時に切り替えるシャッター部材を用いた構造で一つ以上の入口側流路に高圧が付加されるような場合には、シャッター部材は片側に押し付けられた状態で静止し、この静止状態からシャッター部材が高速で動きだすと、高圧を受けるシャッター部材は、図35〜図37に示すように、ケース54の一方側の内壁部54gに押し付けられたままであるので、シャッター部材55の端部が同じ一方側の内壁部54gのOリング等のシール部材54fの部分を通過する際に、シール部材54fを噛み込んで破損させる可能性が生じる。
【0021】
このOリング等のシール部材の破損は、蓄ガス供給システムの場合では、高圧の蓄ガス容器からエンジンのシリンダ内に吸入されるべきガスが吸気系通路から大気側へ漏れ出ることに繋がるため、過給補助の機能が失われる。更に、破損したシール部材の断片はエンジンの吸気バルブの破損の原因になる。また、蓄ガス供給通路がターボ式過給機のコンプレッサの上流側に接続されている場合には、このコンプレッサの翼を破損させる原因にもなる。
【0022】
本発明は、上記の状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、比較的高圧の駆動用ガスを用いて、複数の入口側流路を高速で選択的に切り替えて出口側流路に連通させることができると共に、流路をシールするシール部材の破損を防止でき、ガス圧縮装置を用いて、排気ガスの一部と空気とこれらの混合ガスのいずれかのガスを蓄ガス容器に溜め込み、負荷が急激に増加する過渡運転時に前記ガスをシリンダ内に一時的に供給して過渡運転時のNOxの排出を抑制するとともに加速性能を向上させる蓄圧ガス供給システムを備えた内燃機関等で使用できる流路切替弁を提供することにある。
【0023】
本発明の更なる目的は、蓄圧ガス供給システムを備えた内燃機関において、急加速時においてターボラグに起因する加速性能の低下を防止し、PM(粒子状物質)とNOx(窒素酸化物)の低減が可能となると共に、上記の流路切替弁を備えて、流路切替弁の損傷、及び、この損傷に起因する吸気弁やコンプレッサの故障を回避できる内燃機関及び内燃機関のEGR方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記の目的を達成するための本発明の流路切替弁は、複数の入口側流路のいずれか一つ又は複数を選択的に単数又は複数の出口側流路に連通させたり、遮断したりする流路切替弁において、前記入口側流路をケース内の一方側に設け、前記入口側流路の一部又は全部に対向して前記出口側流路を前記ケース内の他方側に設けると共に、前記入口側流路と前記出口側流路との間でスライドして、前記入口側流路と前記出口側流路との間の連通及び遮断を選択的に行うシャッター部材を設け、駆動用ガスで駆動するピストンで前記シャッター部材をスライドさせるように構成すると共に、前記出口側流路のシールのために前記シャッター部材と前記ケースの間にシール部材を配置し、更に、前記シャッター部材を前記ケースの前記出口側流路側の内壁面から浮かせてスライドさせるための案内部材を設けて、前記シャッター部材と前記内壁面との間に隙間を形成する。
【0025】
この構成によれば、比較的高圧の駆動用ガスを用いて、複数の入口側流路を高速で選択的に切り替えて出口側流路に連通されることができる。しかも、複数の入口側流路を一つのシャッター部材で交互に開閉するので、高速で且つ両方の開閉が同期した動きを与えることができる。その結果、複数の入口側流路を切り替える条件下で、この流路切替弁を備えた装置の性能悪化を防止することができる。
【0026】
従って、ガス圧縮装置を用いて、排気ガスの一部と空気とこれらの混合ガスのいずれかのガスを蓄ガス容器に溜め込み、負荷が急激に増加する過渡運転時に前記ガスをシリンダ内に一時的に供給して過渡運転時のNOxの排出を抑制するとともに加速性能を向上させる蓄圧ガス供給システムを備えた内燃機関等で使用できる。
【0027】
更に、案内部材を設けているので、シャッター部材とケースの内壁面との接触が無くなり、摩擦が減少し、より少ない力でシャッター部材の高速移動が可能になると共に、Oリング等のシール部材が損傷するのを防止できる。
【0028】
そして、上記の流路切替弁のより具体的な形状の流路切替弁は、前記入口側流路を第1入口側流路と第2入口側流路で形成すると共に、前記出口側流路を第1出口側流路で形成し、第1流路切替で、前記第1入口側流路と前記第1出口側流路との間を連通すると共に前記第2入口側流路と前記第1出口側流路との間を遮断し、第2流路切替で、前記第1入口側流路と前記第1出口側流路との間を遮断すると共に前記第2入口側流路と前記第1出口側流路との間を連通するように構成される。
【0029】
あるいは、前記入口側流路を第1入口側流路と第2入口側流路と第3入口側流路で形成すると共に、前記出口側流路を第1出口側流路で形成し、第1流路切替で、前記第1入口側流路と前記第1出口側流路との間と前記第3入口側流路と前記第1出口側流路の間を連通すると共に前記第2入口側流路と前記第1出口側流路との間を遮断し、第2流路切替で、前記第1入口側流路と前記第1出口側流路との間と前記第3入口側流路と前記第1出口側流路の間を遮断すると共に前記第2入口側流路と前記第1出口側流路との間を連通するように構成される。
【0030】
あるいは、前記入口側流路を第1入口側流路と第2入口側流路と第3入口側流路で形成すると共に、前記出口側流路を第1出口側流路と第2出口側流路で形成し、第1流路切替で、前記第1入口側流路と前記第1出口側流路との間と前記第3入口側流路と前記第2出口側流路の間を連通すると共に前記第2入口側流路と前記第1出口側流路との間を遮断し、第2流路切替で、前記第1入口側流路と前記第1出口側流路との間と前記第3入口側流路と前記第2出口側流路の間を遮断すると共に前記第2入口側流路と前記第1出口側流路との間を連通するように構成される。
【0031】
そして、上記の目的を達成するための内燃機関は、内燃機関の排気ガスの一部をシリンダ内に再循環するためのEGR通路と、内燃機関の排気ガスの一部と空気とこれらの混合ガスのいずれかのガスを圧縮するガス圧縮装置と、該ガス圧縮装置で圧縮された前記ガスを貯蓄する蓄ガス容器と、該蓄ガス容器と吸気系通路を接続する蓄ガス供給通路を備えた内燃機関において、上記の流路切替弁の前記第1入口側流路に前記吸気系通路の上流側を接続し、前記第2入口側流路に前記蓄ガス供給通路を接続し、前記第1出口側流路に前記吸気系通路の下流側を接続して、前記流路切替弁を介して前記吸気系通路と前記蓄ガス供給通路とを接続し、内燃機関が過渡運転でないときは、前記吸気系通路の新気と前記EGRガス通路のEGRガスを前記吸気系通路に供給し、内燃機関が過渡運転であるときは、前記蓄ガス供給通路の前記ガスを前記吸気系通路に一時的に供給するように構成される。
【0032】
この構成によれば、流路切替弁で、比較的高圧の駆動用ガスを用いて、上流側の吸気通路に接続する第1入口側流路と蓄ガス供給通路に接続する第2入口側流路とを、高速で選択的に切り替えて、下流側の吸気通路に接続する第1出口側流路に連通させることができる。更に、上記の流路切替弁を備えることで、流路切替弁の損傷、及び、この損傷に起因する吸気弁やコンプレッサの故障を回避できる。
【0033】
また、上記の流路切替弁において、前記流路切替弁の前記ピストンの駆動用ガスとして、前記蓄ガス容器の前記ガスを用いると、ピストンの駆動用ガスを供給するための装置が不要になり、内燃機関の構造が複雑化するのを防止できる。
【0034】
そして、上記の目的を達成するための内燃機関のEGR方法は、内燃機関の排気系通路の排気ガスの一部と空気とこれらの混合ガスのいずれかのガスを圧縮して貯蓄すると共に、EGRでは、内燃機関が過渡運転でないときには、内燃機関の排気ガスの一部をEGR通路を経由してシリンダ内に再循環し、内燃機関が過渡運転であるときには、記ガスを一時的に蓄ガス供給通路から吸気系通路に供給する内燃機関のEGR方法において、上記の流路切替弁を用いて、内燃機関が過渡運転でないときには、前記流路切替弁の第1流路切替で、前記ガスを前記流路切替弁で遮断して、新気とEGRガスを前記吸気系通路に供給し、内燃機関が過渡運転であるときには、前記流路切替弁の第2流路切替で、新気とEGRガスを前記流路切替弁で遮断して、前記ガスのみを前記吸気系通路に一時的に供給することを特徴とする方法である。
【0035】
この方法によれば、流路切替弁で、比較的高圧の駆動用ガスを用いて、上流側の吸気通路に接続する第1入口側流路と蓄ガス供給通路に接続する第2入口側流路とを、高速で選択的に切り替えて、下流側の吸気通路に接続する第1出口側流路に連通させることができる。
【0036】
従って、ガス圧縮装置を用いて、排気ガスの一部と空気とこれらの混合ガスのいずれかのガスを蓄ガス容器に溜め込み、負荷が急激に増加する過渡運転時に前記ガスをシリンダ内に一時的に供給して過渡運転時のNOxの排出を抑制するとともに加速性能を向上させることができる。更に、上記の流路切替弁を用いることで、流路切替弁の損傷、及び、この損傷に起因する吸気弁やコンプレッサの故障を回避できる。
【発明の効果】
【0037】
本発明に係る流路切替弁によれば、比較的高圧の駆動用ガスを用いて、複数の入口側流路を高速で選択的に切り替えて出口側流路に連通させることができると共に、流路をシールするシール部材の破損を防止できる。
【0038】
また、ガス圧縮装置を用いて、排気ガスの一部と空気とこれらの混合ガスのいずれかのガスを蓄ガス容器に溜め込み、負荷が急激に増加する過渡運転時に前記ガスをシリンダ内に一時的に供給して過渡運転時のNOxの排出を抑制するとともに加速性能を向上させる蓄圧ガス供給システムを備えた内燃機関等で使用できる。
【0039】
また、本発明に係る内燃機関及び内燃機関のEGR方法によれば、急加速時等の過渡運転において、ターボラグに起因する加速性能の低下を防止することができ、PM(粒子状物質)とNOx(窒素酸化物)の排出量の低減が可能となると共に、流路切替弁の損傷、及び、この損傷に起因する吸気弁やコンプレッサの故障を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る第1の実施の形態の流路切替弁の構成を示す図で、第1入口側流路が第1出口側流路に連通している状態を示す図である。
【図2】図1の流路切替弁で、第2入口側流路が第1出口側流路に連通している状態を示す図である。
【図3】図1の流路切替弁のケースの図1のX1−X1断面を示す平断面図である。
【図4】案内部材の構成を示す、図3のZ1−Z1断面におけるY1−Y1側の部分の側断面図である。
【図5】案内部材の別の構成を示す、図3のZ1−Z1断面におけるY1−Y1側の部分の側断面図である。
【図6】流路切替弁のシャッター部材の構成を示す平面図である。
【図7】流路切替弁のシャッター部材の構成を示す図6のY2−Y2断面図である。
【図8】第1入口側流路が連通する場合のシャッター部材とケースの位置関係を示す横断面図である。
【図9】第2入口側流路が連通する場合のシャッター部材とケースの位置関係を示す横断面図である。
【図10】ピストンとシリンダの構成を示す横断面図である。
【図11】緩衝部材の構成を示す図である。
【図12】ピストンの駆動を説明するための図である。
【図13】本発明に係る第2の実施の形態の流路切替弁の構成を示す図で、第1入口側流路と第3入口側流路が第1出口側流路に連通している状態を示す図である。
【図14】図13の流路切替弁で、第2入口側流路が第1出口側流路に連通している状態を示す図である。
【図15】図13の流路切替弁のケースの図13のX2−X2断面を示す平断面図である。
【図16】図15の流路切替弁のケースにおける、第1入口側流路と第3入口側流路が連通する場合のシャッター部材とケースの位置関係を示す横断面図である。
【図17】図15の流路切替弁のケースにおける、第2入口側流路が連通する場合のシャッター部材とケースの位置関係を示す横断面図である。
【図18】本発明に係る第3の実施の形態の流路切替弁の構成を示す図で、第1入口側流路が第1出口側流路に連通し、第3入口側流路が第2出口流路に連通している状態を示す図である。
【図19】図18の流路切替弁で、第2入口側流路が第1出口側流路に連通している状態を示す図である。
【図20】シャッター部材の端部とシール部材が離間している状態を示す図である。
【図21】シャッター部材の端部とシール部材が接近している状態を示す図である。
【図22】シャッター部材の端部とシール部材が接触している状態を示す図である。
【図23】本発明に係る第1の実施の形態の内燃機関の構成を示す図である。
【図24】蓄ガス用のガス圧縮装置の駆動を説明するための図である。
【図25】本発明に係る第2の実施の形態の内燃機関の構成を示す図である。
【図26】本発明に係る第3の実施の形態の内燃機関の構成を示す図である。
【図27】本発明に係る第4の実施の形態の内燃機関の構成を示す図である。
【図28】本発明に係る第5の実施の形態の内燃機関の構成を示す図である。
【図29】従来技術の高圧EGR方式の内燃機関の構成を示す図である。
【図30】従来技術の低圧EGR方式の内燃機関の構成を示す図である。
【図31】車速の変化と瞬時NOx排出量の関係を示す図である。
【図32】全負荷における燃料噴射量の特性と過渡時の動きを示す図である。
【図33】過渡時のターボ式過給機の応答遅れとEGRの関係を示す図である。
【図34】先行技術の内燃機関の構成を示す図である。
【図35】先行技術の流路切替弁におけるシャッター部材の端部とシール部材が離間している状態を示す図である。
【図36】先行技術の流路切替弁におけるシャッター部材の端部とシール部材が接近している状態を示す図である。
【図37】先行技術の流路切替弁におけるシャッター部材の端部とシール部材が接触している状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明に係る実施の形態の流路切替弁、内燃機関及び内燃機関のEGR方法について、図面を参照しながら説明する。
【0042】
最初に、本発明に係る実施の形態の流路切替弁について3つの実施の形態で説明する。本発明に係る第1の実施の形態の流路切替弁50Aは、図1及び図2に示すように、入口側流路を第1入口側流路51aと第2入口側流路51bで形成し、出口側流路を第1出口側流路52aで形成する。
【0043】
そして、第1流路切替で、第1入口側流路51aと第1出口側流路52aとの間を連通すると共に第2入口側流路51bと第1出口側流路52aとの間を遮断し、第2流路切替で、第1入口側流路51aと第1出口側流路52aとの間を遮断すると共に第2入口側流路51bと第1出口側流路52aとの間を連通するように構成される。 つまり、この第1の実施形態の流路切替弁50Aは、第1入口側流路51aと第2入口側流路51bを切り替えて、第1入口側流路51a側のガス(吸気)Aと第2入口流路51b側のガスCのいずれか一方を第1出口側流路52aに流す流路切替弁である。
【0044】
この第1入口側流路51aと第2入口側流路51bをケース54内の一方側に設け、第1出口側流路52aを第1入口側流路51aと第2入口側流路51bの両方に対向してケース54内の他方側に設ける。それと共に、第1入口側流路51aと第1出口側流路52aとの間と、第2入口側流路51bと第1出口側流路52aとの間を交互に連通及び閉鎖するようにスライドするシャッター部材55を設ける。このシャッター部材55を駆動用ガスApで駆動するピストン56でスライドさせるように構成する。更に、ピストン56を収納し、ピストン56を駆動させるための第1ガス室57aと第2ガス室57bを有するシリンダ57を有して、ピストン駆動部を構成する。
【0045】
そして、図1に示すように、第1圧力の駆動用ガスApを第2ガス室57bに供給すると共に第1ガス室57aのガスAeを抜くことで、第1入口側流路51aと第1出口側流路52aとの間を連通し、第2入口側流路51bと第1出口側流路52aとの間を遮断する第1切替操作を行うように構成する。また、図2に示すように、第1圧力より高い第2圧力の駆動用ガスApを第1ガス室57aに供給すると共に第2ガス室57bのガスAeを抜くことで、第1入口側流路51aと第1出口側流路52aとの間を遮断し、第2入口側流路51bと第1出口側流路52aとの間を連通する第2切替操作を行うように構成する。
【0046】
図3に示すように、この流路切替弁50Aのケース54は、第1入口側流路51aと第1出口側流路52aとを連通するための第1孔54aと、第2入口側流路51bと第1出口側流路52aとを連通するための第2孔54bを設けて形成する。これらの第1孔54aの周囲と第2孔54bの周囲にはOリング溝54dと必要に応じてグリス溜り54eが設けられ、組み付け時にはそのリング溝54eにOリング54fを挿入する。つまり、第1出口側流路52aのシールのためにシャッター部材55とケース54の間にシール部材であるOリング54fを配置する。
【0047】
更に、図3、図4及び図5に示すように、シャッター部材55をケース54の第1出口側流路52a側の壁54gの内表面(内壁面)から浮かせてスライドさせるための案内部材53、53Aを設けて、シャッター部材55と壁54gの内表面との間に隙間Pを形成する。
【0048】
図4の構成では、シャッター部材55のスライド方向に対して垂直な方向の隅部に帯状の案内部材53を設けて、この上面をシャッター部材55が摺動するように構成する。また、図5の他の構成では、シャッター部材55のスライド方向に対して垂直な方向の壁部54hにレール状の案内部材53Aを設けて、シャッター部材55の溝部がこの案内部材53Aと係合して摺動するように構成する。
【0049】
この流路切替弁50Aでは、図6及び図7に示すように、シャッター部材55は、貫通孔55aを設けて形成される。このシャッター部材55は、図8及び図9に示すようにケース54の間に挿入され、図8に示すように、シャッター部材55がスライドして第1流路切替の状態になったときには、シャッター部材55の端部が第1入口側流路51aに接続される第1孔54aから外れて第1孔54aを連通すると共に、シャッター部材55が第2入口側流路52bに接続される第2孔54bを遮断し、また、図9に示すように、シャッター部材55が逆方向にスライドして第2流路切替の状態になったときには、シャッター部材55が第1孔54aを遮断すると共に、シャッター部材55の貫通孔55aが第2孔54bに重なり、第2孔54bを連通するように構成される。
【0050】
ピストン駆動部は、シャッター部材55の高速移動を行うためのものであり、図10に示すように、ピストン56、第1ガス室57aと第2ガス室57bを有するシリンダ57を有して構成される。ピストン56はピストンロッド56aと受圧部56bを一体化して形成し、この受圧部56bをシリンダ57内を摺動可能に構成する。また、第1ガス室57aと第2ガス室57bとの間のシールを行うために、受圧部56bにはOリング溝56cを設け、Oリング56dを挿入する。
【0051】
また、ピストン56が高速で移動するとピストン56の移動先のガス室57b(又は57a)ではガス室57b(又は57a)内のガスAeが圧縮されて、ピストン56の動きを阻害するので、圧力抜きの経路として、第1ガス室57aには第1連通路57cを、第2ガス室57bには第2連通路57dをそれぞれ形成する。
【0052】
ピストン56が高速で移動することで大きな慣性力が生じ、ロッド56aを必要なストローク動かした後に停止させるためには大きな制動力が必要になり、機械的に止めることは難しくなる。そのため、緩衝部材57eをストッパーとして、第1ガス室57aの内側と第2ガス室57bの内側にそれぞれ配設する。この緩衝部材57eにピストン56の受圧部56bを衝突させることで、ピストン56の制動に必要なエネルギーを緩衝部材57eで吸収して強制停止させる。
【0053】
つまり、高速で動くシャッター部材55を必要量動かした後では、ピストン56とシャッター部材55に大きな慣性力が付くので、非駆動側にゴム等の柔らかい衝突部となる緩衝部材57eを設けて、流路切替弁50Aが破損しないように、緩衝部材57eに受圧部56bを衝突させて停止させる。
【0054】
この緩衝部材57eは、ゴム等の軟質材で形成し、図11に示すようにリング形状に形成する。また、この緩衝部材57eには、第1連通路57c、又は、第2連通路57dに対向する部分に切り欠き57eaを設ける。なお、この緩衝部材57eに使用するゴム等軟質材の厚さは実験的に設定する。
【0055】
更に、ピストン56を第1ガス室57a側に移動するように付勢するスプリング(弾性体)58を設けて、第1切替操作をする際に、ピストン56の移動を助ける方向に弾性力を付勢する。これにより、比較的低い圧力の駆動用ガスApで第1切替操作をする際に、比較的高い圧力の駆動用ガスApで第2切替操作をする際と同様な速度で、シャッター部材55をスライドさせて、流路を切り替えることができるようになる。
【0056】
また、シャッター部材55とピストン56等の可動部分に、ジュラルミン、超ジュラルミン、超超ジュラルミン、窒素ケイ素等の低比重で強度の高い材料を用いると、シャッター部材55を軽量に形成できるので、小さい駆動力で、且つ、高速でシャッター部材55をスライドさせて、高速で流路を切り替えることができるようになる。
【0057】
図12に示すように、このピストン56を駆動させる駆動システム60は、駆動用ガスApを貯蔵する蓄ガス容器61を設けて構成する。更に、第2切替操作時に駆動用ガスApを第1ガス室57aに供給するために、第1駆動用ガス供給路62と第1三方弁63と第1駆動用ガス供給補助路62aと第1大気解放補助路62bを設ける。また、第1切替操作時に駆動用ガスApを第2ガス室57bに供給するために、第2駆動用ガス供給路64と第2三方弁65と第2駆動用ガス供給補助路64aと第2大気解放補助路64bを設ける。
【0058】
次に、本発明に係る第2の実施の形態の流路切替弁について説明する。この第2の実施の形態の流路切替弁50Bは、図13及び図14に示すように、入口側流路を第1入口側流路51aと第2入口側流路51bと第3入口側流路51cで形成し、出口側流路を第1出口側流路52aで形成する。
【0059】
そして、第1流路切替で、図13に示すように、第1入口側流路51aと第1出口側流路52aとの間と第3入口側流路51cと第1出口側流路52aとの間を連通すると共に第2入口側流路51bと第1出口側流路52aとの間を遮断し、第2流路切替で、図14に示すように、第1入口側流路51aと第1出口側流路52aとの間と第3入口側流路51cと第1出口側流路52aとの間を遮断すると共に第2入口側流路51bと第1出口側流路52aとの間を連通するように構成される。
【0060】
図15に示すように、この流路切替弁50Bのケース54は、第1入口側流路51aと第1出口側流路52aとを連通するための第1孔54aと、第2入口側流路51bと第1出口側流路52aとを連通するための第2孔54bと第3入口側流路51cと第1出口側流路52aとを連通するための第3孔54cを設けて形成する。これらの第1孔54a、第2孔54b、第3孔54cの各周囲にはOリング溝54dと必要に応じてグリス溜り54eが設けられ、組み付け時にはそのリング溝54eにOリング54fを挿入する。つまり、第1出口側流路52aのシールのためにシャッター部材55とケース54の間にシール部材であるOリング54fを配置する。
【0061】
この流路切替弁50Bでは、シャッター部材55は、第1の実施の形態の流路切替弁50Aと同じく、図6及び図7に示すように、貫通孔55aを設けて形成される。このシャッター部材55は、図16及び図17に示すようにケース54の間に挿入され、図16に示すように、シャッター部材55がスライドして第1流路切替の状態になったときには、シャッター部材55の端部が第1入口側流路51aに接続される第1孔54aから外れて第1孔54aを連通すると共に、シャッター部材55が第2入口側流路52bに接続される第2孔54bを遮断し、更に、シャッター部材55の第1孔55aが第3入口側流路52cに接続される第3孔54cに重なり、第3孔54cを連通するように構成される。
【0062】
また、図17に示すように、シャッター部材55が逆方向にスライドして第2流路切替の状態になったときには、シャッター部材55が第1孔54aを遮断すると共に、シャッター部材55の貫通孔55aが第2孔54bに重なり、第2孔54bを連通し、更に、シャッター部材55が第3孔54cを遮断するように構成される。
【0063】
上記の構成以外は、第1の実施の形態の流路切替弁50Aと同じ構成をしており、同じ作用効果を奏することができる。
【0064】
次に、本発明に係る第3の実施の形態の流路切替弁について説明する。この第3の実施の形態の流路切替弁50Cは、図18及び図19に示すように、入口側流路を第1入口側流路51aと第2入口側流路51bと第3入口側流路51cで形成し、出口側流路を第1出口側流路52aと第2出口側流路52bで形成する。
【0065】
この第1入口側流路51aと第2入口側流路51bと第3入口側流路51cをケース54内の一方側に設け、第1出口側流路52aを第1入口側流路51aと第2入口側流路51bの両方に対向してケース54内の他方側に設け、更に、第2出口側流路52bを第3入口側流路51cに対向してケース54内の他方側に設ける。
【0066】
そして、第1流路切替で、図18に示すように、第1入口側流路51aと第1出口側流路52aとの間と第3入口側流路51cと第2出口側流路52bとの間を連通すると共に第2入口側流路51bと第1出口側流路52aとの間を遮断し、第2流路切替で、図19に示すように、第1入口側流路51aと第1出口側流路52aとの間と第3入口側流路51cと第2出口側流路52bとの間を遮断すると共に第2入口側流路51bと第1出口側流路52aとの間を連通するように構成される。
【0067】
つまり、この第3の実施形態の流路切替弁50Cは、第1入口側流路51aと第2入口側流路51bを切り替えて、第1入口側流路51a側のガス(吸気)Aと第2入口流路51b側のガスCのいずれか一方を第1出口側流路52aに流すと共に、第3入口側流路51cのガス(EGRガス)Geの連通と遮断を行う流路切替弁である。
【0068】
上記の構成以外は、第2の実施の形態の流路切替弁50Bと同じ構成をしており、同じ作用効果を奏することができる。
【0069】
上述したように、本発明に係る実施の形態の流路切替弁は、上記の第1〜第3の実施の形態の流路切替弁50A、50B、50C(以下50iとする)であり、複数の入口側流路51a、51b(又は、51a、51b、51c:以下51iとする)のいずれか一つ又は複数を選択的に単数又は複数の出口側流路52a(又は、52a、52b、以下52iとする)に連通させたり、遮断したりする流路切替弁である。
【0070】
これらの流路切替弁50iでは、入口側流路51iをケース54内の一方側に設け、入口側流路51iの一部又は全部に対向して出口側流路52iをケース54内の他方側に設ける。それと共に、入口側流路51iと出口側流路52iとの間でスライドして、入口側流路51iと出口側流路52iとの間の連通及び遮断を選択的に行うシャッター部材55を設け、駆動用ガスApで駆動するピストン58でシャッター部材55をスライドさせるように構成する。
【0071】
そして、出口側流路52iのシールのためにシャッター部材55とケース54の間にシール部材54fを配置し、更に、シャッター部材55をケース54の出口側流路52i側の壁54gの内表面(内壁面)から浮かせてスライドさせるための案内部材53(又は、53A)を設けて、シャッター部材55と壁54gの内表面との間に隙間Pを形成する。
【0072】
そして、この案内部材53(又は、53A)を設けた構成により、ケース54に挿入されたシャッター部材55を高速で移動させ、二つ以上の入口側流路(ポート)51iの切り替えを同時に切り替えるシャッター部材55を用いた構造で一つ以上の入口側流路51iに高圧が付加されるような場合には、図20に示すように、シャッター部材55は片側に押し付けられた状態で静止するが、案内部材53により隙間Pがあるので、図21に示すように、この静止状態からシャッター部材が高速で動きだしても、高圧を受けるシャッター部材は、ケース54の一方側の壁54gの内表面との間に隙間Pがあるまま移動するので、摩擦が非常に少ないと共に、図22に示すように、シャッター部材55の端部が同じ一方側の壁54gの内表面に配置されるOリング等のシール部材54fの部分を通過してもシール部材54fを噛み込まなくなり、シール部材54fの破損を防止できる。
【0073】
次に、上記の本発明に係る実施の形態の流路切替弁50iを備えたエンジン(内燃機関)1A、1B、1C、1D、1Eについて図23〜図28を参照しながら説明する。図23に示すように、この第1の実施の形態のエンジン1Aは、第1の実施の形態の流路切替弁50Aを備えたエンジンであり、エンジン本体11と吸気マニホールド11aに接続する吸気通路12と排気マニホールド11bに接続する排気通路13を有して構成する。この吸気マニホールド11aと吸気通路12とで吸気系通路を形成し、排気マニホールド11bと排気通路13とで排気系通路を形成する。
【0074】
吸気通路12には、ターボ式過給機14のコンプレッサ14aを設け、排気通路13には、ターボ式過給機14のタービン14bと、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)装置15とNOx吸蔵還元型触媒等で形成されるNOx浄化触媒16を設ける。
【0075】
また、タービン14bの上流側の排気通路13からEGR通路17を分岐し、コンプレッサ14aの上流側の吸気通路12にEGR合流部18で合流させる。このEGR通路17に、上流側から、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)装置19とEGRクーラ20とEGR弁21を設ける。
【0076】
更に、NOx浄化触媒16の下流側の排気通路13から分岐して、排気ガス導入通路22を設ける。この排気ガス導入通路22にはEGRクーラ23と三方弁24を設け、この排気ガス導入通路22を機械式の容積型過給機(往復動式が望ましい)等で形成されるガス圧縮装置25に接続する。このガス圧縮装置25を、圧縮ガス供給通路26で圧力容器等で形成される蓄ガス容器27に接続する。また、この蓄ガス容器27を蓄ガス供給通路28で吸気通路12に接続する。この排気ガス導入通路22と圧縮ガス供給通路26と蓄ガス供給通路28で蓄圧ガス系通路を形成する。
【0077】
図24に示すように、このガス圧縮装置25は、エンジン1を搭載した車両の車軸31から歯車32、33と、電磁クラッチ34を経由してガス圧縮装置25の駆動軸に動力を伝達する。この電磁クラッチ34をONにして接続することにより、ガス圧縮装置25を駆動して、排気ガスGの一部Gpと空気Aaとこれらの混合ガスのいずれかのガスCを、圧縮して高圧化して蓄ガス容器27に供給し、貯蔵する。
【0078】
なお、図23に示すように、蓄ガス供給通路28には、調圧弁29を配置し、流路切替弁50Aに供給されるガスCの圧力を調整する。このとき、三方弁24で、排気ガスGの一部Gpの量と空気Aaの量を調整して、蓄ガス容器27で貯蔵されるガスCにおける酸素濃度を略一定に保つことが好ましく、これにより、EGRを行うときの制御を単純化することができる。
【0079】
そして、上記の機器類の制御を行うために、エンジンコントロールユニット(ECU)と呼ばれるエンジン1の運転の全般を制御する制御装置40を設け、図24に示すように、この制御装置40で蓄ガス容器27内の圧力P0やエンジン回転速度Neやアクセル開度Ac等を検出して、その結果に基づいて電磁クラッチ34や三方弁24を制御して、蓄ガス容器27内のガスCの量(圧力)と排気ガスGpと空気Aaの混合比率を調整制御する。
【0080】
なお、図23に示すように、この蓄ガス容器27の内部の最大圧を調整する調整弁27aを、蓄ガス容器27に設けて、ガス圧縮装置25を駆動している時には、常に仕事が発生するように調整弁27aを調整する。なお、図23では、調整弁27aを蓄ガス容器27に設けているが、調整弁27aを蓄ガス容器27とガス圧縮装置25の間の圧縮ガス供給通路26に設けてもよい。
【0081】
つまり、エンジン1は、排気ガスGの一部Geをシリンダ内に再循環するためのEGR通路17と、エンジン1の排気ガスGの一部Gpと空気Aaとこれらの混合ガスのいずれかのガスCを圧縮するガス圧縮装置25と、このガス圧縮装置25で圧縮されたガスCを貯蓄する蓄ガス容器27と、この蓄ガス容器27と吸気通路12を接続する蓄ガス供給通路28を備えて構成される。
【0082】
そして、吸気通路12と蓄ガス供給通路28を、上記の第1の実施の形態の流路切替弁50Aを介して接続する。この流路切替弁50Aでは、吸気通路12の上流側の通路が第1入口側流路51aに、蓄ガス供給通路28が第2入口側流路51bに、吸気通路12の下流側の通路側が第1出口側流路52aにそれぞれ接続され、吸気通路12の下流側の通路側を開放したまま、蓄ガス供給通路28側と吸気通路12の上流側の通路側とを切り替えるように構成される。
【0083】
この流路切替弁50Aの図12に示す蓄ガス容器61を図23に示す蓄ガス容器27で兼用して、第1ガス室57aと第2ガス室57bを第1駆動用ガス供給路62等と第2駆動用ガス供給路64等で接続する。これにより、蓄ガス容器27からのガスCを、駆動用ガスApとして使用する。なお、詳細は図12のような構成になるが、図23では、図面が複雑になるのを避けるため、簡略化して示してある。
【0084】
また、図25に示すように、第2の実施の形態のエンジン1Bは、第1の実施の形態の流路切替弁50Aを備えたエンジンであり、EGR通路17が排気通路13のタービン14bより下流側のNOx浄化触媒16よりも下流側から分岐している点が第1の実施の形態のエンジン1Aと異なるだけで他の構成は同じである。
【0085】
また、図26に示すように、第3の実施の形態のエンジン1Cは、第2の実施の形態の流路切替弁50Bを備えたエンジンであり、第1の実施の形態の流路切替弁50Aの代わりに第2の実施の形態の流路切替弁50Bを備えている点と、第1の実施の形態のエンジン1Aでは、EGR通路17が流路切替弁50Aよりも上流側の吸気通路12に接続しているのに対して、EGR通路17が流路切替弁50Bの第3入口側流路51cに接続している点が、第1の実施の形態のエンジン1Aと異なるだけで他の構成は同じである。
【0086】
また、図27に示すように、第4の実施の形態のエンジン1Dは、第2の実施の形態の流路切替弁50Bを備えたエンジンであり、EGR通路17が排気通路13のタービン14bより下流側のNOx浄化触媒16よりも下流側から分岐している点が、第3の実施の形態のエンジン1Cと異なるだけで他の構成は同じである。
【0087】
また、図28に示すように、第5の実施の形態のエンジン1Eは、第3の実施の形態の流路切替弁50Cを備えたエンジンであり、第2の実施の形態の流路切替弁50Bの代わりに第3の実施の形態の流路切替弁50Cを備えている点と、EGR通路17が流路切替弁50Cで終了せず、コンプレッサ14aより下流側の吸気通路12に接続している点が、第3の実施の形態のエンジン1Cと異なるだけで他の構成は同じである。
【0088】
次に、本発明に係る内燃機関のEGR方法について説明する。このEGR方法は、上記の構成のエンジン(内燃機関)1A、1B、1C、1D、1E(以下1iとする)で実施できる方法である。このEGR方法は、エンジン1iの排気通路(排気系通路)13の排気ガスGの一部Gpと空気Aaとこれらの混合ガスのいずれかのガスCを圧縮して貯蓄する。
【0089】
それと共に、EGRでは、エンジン1iの過渡運転でないときには、エンジン1iの排気ガスGの一部Geを、EGR通路17を経由してシリンダ内に再循環し、過渡運転であるときには、ガスCを一時的に蓄ガス供給通路28から吸気通路(吸気系通路)12に供給する。
【0090】
また、上記の第1〜第3の実施の形態の流路切替弁50A、50B、50C(以下、50iとする)を用いて、エンジン1iが過渡運転でないときには、流路切替弁50iの第1流路切替で、ガスCを流路切替弁50iで遮断して、新気AとEGRガスGeを吸気系通路12、11aに供給し、エンジン1iが過渡運転であるときには、流路切替弁50iの第2流路切替で、新気AとEGRガスGeを流路切替弁50iで遮断して、ガスCのみを吸気系通路12、11aに一時的に供給する。
【0091】
これらの制御においては制御装置40で、エンジン回転速度Ne、エンジン空気量Mo、エンジン燃料量(燃料噴射量)Q、蓄ガス容器27の内部の圧力等の検出値等に基づいて、調圧弁29とEGR弁21と流路切替弁50iを制御する。
【0092】
上記のエンジン(内燃機関)1i及び上記の内燃機関のEGR方法によれば、急加速等の過渡運転時においてターボラグに起因するEGR不足を解消し、過渡運転時のNOx排出を低減することができると共に加速性能の向上とPMの低減を図ることができる。更に、上記の流路切替弁50iを備えることで、流路切替弁50iの損傷、及び、この損傷に起因する吸気弁やコンプレッサ14aの故障を回避できる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の流路切替弁は、比較的高圧の駆動用ガスを用いて、入口側流路を高速で選択的に切り替えて出口側流路に連通させることができるので、ガス圧縮装置を用いて、排気ガスの一部と空気とこれらの混合ガスのいずれかのガスを蓄ガス容器に溜め込み、負荷が急激に増加する過渡運転時に前記ガスをシリンダ内に一時的に供給するような、トラックやバスや乗用車等に搭載する内燃機関で利用できる。
【0094】
また、本発明の流路切替弁を備えた内燃機関及び内燃機関のEGR方法によれば、急加速時等の過渡運転において、ターボラグに起因する加速性能の低下を防止することができ、PM(粒子状物質)とNOx(窒素酸化物)の排出量の低減が可能となると共に、流路切替弁の損傷、及び、この損傷に起因する吸気弁やコンプレッサの故障を回避できるので、トラックやバスや乗用車等に搭載する内燃機関及び内燃機関のEGR方法として利用できる。
【符号の説明】
【0095】
1A、1B、1C、1D、1E、1X、1Y、1Z エンジン(内燃機関)
11 エンジン本体
11a 吸気マニホールド(吸気系通路)
11b 排気マニホールド(排気系通路)
12 吸気通路(吸気系通路)
13 排気通路(排気系通路)
14 ターボ式過給機
14a コンプレッサ
14b タービン
17 EGR通路
21 EGR弁
22 排気ガス導入通路
24 三方弁
25 ガス圧縮装置
26 圧縮ガス供給通路
27、61 蓄ガス容器
28 蓄ガス供給通路
40 制御装置
50A、50B、50C 流路切替弁
51a 第1入口側流路
51b 第2入口側流路
51c 第3入口側流路
52a 第1出口側流路
52b 第2出口側流路
53、53A 案内部材
54 ケース
54g 内壁面
54f、56d Oリング(シール部材)
55 シャッター部材
56 ピストン
57 シリンダ
57a 第1ガス室
57b 第2ガス室
57c 第1連通路
57d 第2連通路
57e 緩衝部材
58 スプリング(弾性体)
60 駆動システム
A 新気
Aa 空気
Ae 抜きガス
Ap 駆動用ガス
C ガス
G 排気ガス
Ge EGRガス
Gp 排気ガスの一部
P 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の入口側流路のいずれか一つ又は複数を選択的に単数又は複数の出口側流路に連通させたり、遮断したりする流路切替弁において、
前記入口側流路をケース内の一方側に設け、前記入口側流路の一部又は全部に対向して前記出口側流路を前記ケース内の他方側に設けると共に、前記入口側流路と前記出口側流路との間でスライドして、前記入口側流路と前記出口側流路との間の連通及び遮断を選択的に行うシャッター部材を設け、駆動用ガスで駆動するピストンで前記シャッター部材をスライドさせるように構成すると共に、前記出口側流路のシールのために前記シャッター部材と前記ケースの間にシール部材を配置し、
更に、前記シャッター部材を前記ケースの前記出口側流路側の内壁面から浮かせてスライドさせるための案内部材を設けて、前記シャッター部材と前記内壁面との間に隙間を形成したことを特徴とする流路切替弁。
【請求項2】
前記入口側流路を第1入口側流路と第2入口側流路で形成すると共に、前記出口側流路を第1出口側流路で形成し、第1流路切替で、前記第1入口側流路と前記第1出口側流路との間を連通すると共に前記第2入口側流路と前記第1出口側流路との間を遮断し、第2流路切替で、前記第1入口側流路と前記第1出口側流路との間を遮断すると共に前記第2入口側流路と前記第1出口側流路との間を連通することを特徴とする請求項1記載の流路切替弁。
【請求項3】
前記入口側流路を第1入口側流路と第2入口側流路と第3入口側流路で形成すると共に、前記出口側流路を第1出口側流路で形成し、第1流路切替で、前記第1入口側流路と前記第1出口側流路との間と前記第3入口側流路と前記第1出口側流路の間を連通すると共に前記第2入口側流路と前記第1出口側流路との間を遮断し、第2流路切替で、前記第1入口側流路と前記第1出口側流路との間と前記第3入口側流路と前記第1出口側流路の間を遮断すると共に前記第2入口側流路と前記第1出口側流路との間を連通することを特徴とする請求項1記載の流路切替弁。
【請求項4】
前記入口側流路を第1入口側流路と第2入口側流路と第3入口側流路で形成すると共に、前記出口側流路を第1出口側流路と第2出口側流路で形成し、第1流路切替で、前記第1入口側流路と前記第1出口側流路との間と前記第3入口側流路と前記第2出口側流路の間を連通すると共に前記第2入口側流路と前記第1出口側流路との間を遮断し、第2流路切替で、前記第1入口側流路と前記第1出口側流路との間と前記第3入口側流路と前記第2出口側流路の間を遮断すると共に前記第2入口側流路と前記第1出口側流路との間を連通することを特徴とする請求項1記載の流路切替弁。
【請求項5】
内燃機関の排気ガスの一部をシリンダ内に再循環するためのEGR通路と、
内燃機関の排気ガスの一部と空気とこれらの混合ガスのいずれかのガスを圧縮するガス圧縮装置と、
該ガス圧縮装置で圧縮された前記ガスを貯蓄する蓄ガス容器と、
該蓄ガス容器と吸気系通路を接続する蓄ガス供給通路を備えた内燃機関において、 請求項2〜4のいずれか1項に記載の流路切替弁の前記第1入口側流路に前記吸気系通路の上流側を接続し、前記第2入口側流路に前記蓄ガス供給通路を接続し、前記第1出口側流路に前記吸気系通路の下流側を接続して、前記流路切替弁を介して前記吸気系通路と前記蓄ガス供給通路とを接続し、
内燃機関が過渡運転でないときは、前記吸気系通路の新気と前記EGRガス通路のEGRガスを前記吸気系通路に供給し、内燃機関が過渡運転であるときは、前記蓄ガス供給通路の前記ガスを前記吸気系通路に一時的に供給することを特徴とする内燃機関。
【請求項6】
前記流路切替弁の前記ピストンの駆動用ガスとして、前記蓄ガス容器の前記ガスを用いることを特徴とする請求項5記載の内燃機関。
【請求項7】
内燃機関の排気系通路の排気ガスの一部と空気とこれらの混合ガスのいずれかのガスを圧縮して貯蓄すると共に、EGRでは、内燃機関が過渡運転でないときには、内燃機関の排気ガスの一部をEGR通路を経由してシリンダ内に再循環し、内燃機関が過渡運転であるときには、前記ガスを一時的に蓄ガス供給通路から吸気系通路に供給する内燃機関のEGR方法において、
請求項2〜4のいずれか1項に記載の流路切替弁を用いて、
内燃機関が過渡運転でないときには、前記流路切替弁の第1流路切替で、前記ガスを前記流路切替弁で遮断して、新気とEGRガスを前記吸気系通路に供給し、内燃機関が過渡運転であるときには、前記流路切替弁の第2流路切替で、新気とEGRガスを前記流路切替弁で遮断して、前記ガスのみを前記吸気系通路に一時的に供給することを特徴とする内燃機関のEGR方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【公開番号】特開2012−251615(P2012−251615A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125434(P2011−125434)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】