説明

液体ポンプ、液体収容容器およびインクジェット式記録装置

【課題】 インクジェット式記録装置のインクカートリッジに収容されるインクを、インク吐出ヘッドまで移送する方法としては、インクを収納するインクパックに対して、外部から圧力を加えてインクを加圧することにより、インクをインク吐出ヘッドまで移送していたが、インクパックに直接圧力を加えるため、インクパックが変形してインク残りが生じ、インクパックのインクを最後まで使えなかった。
【解決手段】 インクを流入口から吸引して、流出口で排出するインクポンプ100は、流入口から流出口までの流路と連通し、容積が可変で、インクを貯留する液体貯留部材と、この液体貯留部材の容積を増減させる伸縮部を備え、この伸縮部が液体貯留部材にインクを吸引すると供に、そのインクを液体貯留部材から排出する液体移送手段と、流入口から流出口へのインクの流れのみを許容する逆止弁とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体ポンプ、液体収容容器およびインクジェット式記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェット式記録装置のインクカートリッジに収容されるインクを、インク吐出ヘッドまで移送する方法としては、下記の特許文献1に記載のように、インクを収納するインクパックに対して、外部から圧力を加えてインクを加圧することにより、インクをインク吐出ヘッドまで移送していた。
【0003】
【特許文献1】特開2000−238291
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の方法では、インクパックに直接圧力を加えるため、インクパックが変形してインク残りが生じ、インクパックのインクを最後まで使えなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記した課題を解決するために、本発明の液体ポンプは、液体を流入口から吸引して、流出口で排出する液体ポンプであって、前記流入口から前記流出口までの流路と連通し、容積が可変で、前記液体を貯留する液体貯留部材と、前記液体貯留部材の容積を増減する伸縮部を有し、前記伸縮部が前記液体貯留部材の容積を増加させることで、前記液体を前記液体貯留部材に吸引することに加え、前記伸縮部が前記液体貯留部材の容積を減少させることで、前記液体を前記液体貯留部材から排出する液体移送手段と、前記流入口から前記流出口への前記液体の流れのみを許容する逆止弁とを備えることを特徴とする。
【0006】
上記構成によれば、液体の流入口と、流出口との間に配置した液体貯留部材は、伸縮部により、容積が増加された場合は液体を流入口から吸引し、容積が減少された場合は、吸引した液体を流出口に移送するため、液体の流入口を直接加圧することなく、液体を流出口まで確実に移送でき、流入口の液体を最後まで効率良く使える。
【0007】
本発明の液体ポンプでは、前記液体貯留部材は、容積が変動する容積部を少なくとも2つ以上備え、少なくとも1つ以上の一方の前記容積部の容積が増加する場合は、少なくとも1つ以上の残りの前記容積部の容積が略同時に減少すると供に、前記液体貯留部材の容積は、前記一方の容積部の容積が増加した状態と、減少した状態とで増減することが好ましい。
【0008】
上記構成によれば、一方の容積が増加した場合は、他方の容積が減少する複数の容積部により、液体貯留部材は、両者の容積の総和の変動分に相当する容積が増減するため、微量な容積の変動が可能であり、一回の容積の増減で微量の液体を排出できる。
【0009】
本発明の液体ポンプでは、前記液体貯留部材は、伸縮自在な可撓性の材質からなることが好ましい。
【0010】
上記構成によれば、伸縮自在な可撓性の材質からなることにより、液体貯留部材の収縮運動が容易となり、液体貯留部材を小型化できる。
【0011】
本発明の液体ポンプでは、前記伸縮部は、電流が供給された場合には、変位して前記液体貯留部材の容積を減少させる電動アクチュエータと、前記電流の供給が遮断された場合には、前記変位により生じる復元力により前記容積を増加させる復元部材とを備えることが好ましい。
【0012】
上記構成によれば、電流を供給することで、液体貯留部材の容積を減少させるため、迅速に容積を減少できることに加えて、液体ポンプに供給する電流が遮断された場合は、復元部材により液体貯留部材の容積が増加するため、液体貯留部材が負圧となり、流出口からの液体の漏洩を防止できる。
【0013】
本発明では、電動アクチュエータに、電流が供給されることにより生じる温度変化で変位する形状記憶合金を備える場合と、電流が供給されることにより生じる磁気力で変位する電磁アクチュエータを備える場合が考えられる。
【0014】
形状記憶合金を備える場合は、液体貯留部材の容積の増減を、軽量な構成で実現できる。また、電磁アクチュエータを備える場合は、液体貯留部材の容積の増減を高速に実現できる。
【0015】
本発明の液体ポンプでは、前記液体がインクであっても適用できる。
【0016】
上記した課題を解決するために、本発明の液体収容容器は、前記液体ポンプと、前記液体ポンプと連通され、液体を内包する液体収容部とを備える。
【0017】
前記した液体ポンプを液体収容容器に適用することにより、液体収容部の液体を効率的に使用できると供に、小型化が可能な液体収容容器を提供できる。
【0018】
上記した課題を解決するために、本発明のインクジェット式記録装置は、往復移動してインクを吐出するインク吐出ヘッドを備えたインクジェット式記録装置であって、前記インクジェット式記録装置は、前記液体収容容器を備えることを特徴とする。
また、本発明のインクジェット式記録装置は、前記インク吐出ヘッドの往復移動に合わせて、前記液体貯留部材の容積を増減することが好ましい。
【0019】
前記した液体収容容器をインクジェット式記録装置に適用することにより、インクを効率的に使用して、小型化および軽量化が可能なインクジェット式記録装置を提供できる。
【0020】
本発明のインクジェット式記録装置は、前記インク吐出ヘッドが、インクを吐出しない位置にある場合、前記液体貯留部材の容積は、増加された状態であることが好ましい。
【0021】
更に、上記インクジェット式記録装置を使用しない状態の場合、インクカートリッジ内部の液体貯留部材は、容積が増加されてインクを吸引する状態であるため、インクの漏れを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を、インクジェット式記録装置に適用した場合を例に取り、図面を参照しつつ説明する。なお、以下に示す実施例は、特許請求の範囲に記載された発明の内容を何ら限定するものではない。また、以下の実施例に示す構成のすべてが、特許請求の範囲に記載された発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【実施例1】
【0023】
図1は、インクジェット式記録装置の基本構成を平面図で示したものである。図中符号1で示すキャリッジは、キャリッジモータ2によって駆動されるタイミングベルト3を介し、走査ガイド部材4に案内されて紙送り部材5の長手方向、すなわち記録用紙の幅方向である主走査方向に往復移動されるように構成されている。そして、図1には示されていないが、キャリッジ1の紙送り部材5に対向する面には、後述するインクジェット式の記録ヘッド6が搭載されているのに加えて、このインクジェット式記録装置の底部には、キャリッジモータ2を駆動する電源部や、後述するインクポンプ100を制御する容積制御部120等の制御部が配置されている。
【0024】
この制御部は、図示を略すが、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)およびROM等を内部に備えている。
この中で、CPUは、印刷処理などの各種処理を実行する。RAMは不揮発性半導体メモリの一種であり、印刷処理などのアプリケーションプログラムを一時的に展開する。また、ROMは、不揮発性半導体メモリの一種であり、各部を制御する制御プログラム等を格納する。なお、これらの各構成要素は、バスを介して電気的に接続されている。
【0025】
前記した容積制御部120は、CPU,RAMおよびROMなどのハードウェア資源と、ROMなどに記憶されたソフトウェアとが有機的に協働して、容積を制御する機能を実現している。
【0026】
キャリッジ1には、前記記録ヘッド6にインクを供給するための液体収容容器の1つであるサブタンク7a〜7dが搭載されている。これらサブタンク7a〜7dは、本実施形態においては、その内部において各インクを一時的に貯溜するために、ブラック,イエロー,マゼンタおよびシアンの各インクに対応して4個具備されている。そして、これら各サブタンク7a〜7dには、液体収容容器の1つであり、装置本体に配置されたカートリッジホルダ8に装填されたインクカートリッジとしてのメインタンク9a〜9dから、可撓性材料からなるそれぞれのインク補給チューブ10をそれぞれ介して、各インクが供給されるように構成されている。
【0027】
なお、前記したインクカートリッジとしての各メインタンク9a〜9dは、図示を略すが、その外郭形状が偏平状に形成されている。そして、前記カートリッジホルダ8において、偏平状の面がそれぞれ鉛直面に対向するように、いわゆる縦置き状態で装着されている。
【0028】
一方、前記キャリッジ1の移動経路上における非印字領域(ホームポジション)には、記録ヘッド6のノズル形成面を封止することができるキャッピング手段11が配置されている。さらに、このキャッピング手段11の上面には、前記記録ヘッド6のノズル形成面を封止し得るゴム等の可撓性素材により形成されたキャップ部材11aが配置されている。そして、前記キャリッジ1がホームポジションに移動したときに、前記キャップ部材11aによって記録ヘッドのノズル形成面を封止することができるように構成されている。
【0029】
このキャップ部材11aは、記録装置の休止期間中において前記記録ヘッド6のノズル形成面を封止し、ノズル開口の乾燥を防止する蓋体として機能する。また、このキャップ部材11aには、図には示されていないが、吸引ポンプ(チューブポンプ)におけるチューブの一端が接続され、吸引ポンプによる負圧を前記記録ヘッド6に作用させて、この記録ヘッド6からインクを吸引排出させるクリーニング動作が実行されるように構成されている。そして、前記キャッピング手段11の印字領域側に隣接して、ゴムなどの弾性素材によるワイピング部材12が配置され、必要に応じて記録ヘッド6のノズル形成面を払拭して清掃することができるように構成されている。
【0030】
また、前記ホームポジション、およびキャリッジ1の移動経路上における他方の終端近傍には、近接センサ(125a,125b)が配置されている。これらの近接センサ(125a,125b)は、前記キャリッジ1が往復移動して、終端に移動したことを検出する。検出した信号は、詳細は後述するが、容積制御部120に送られ、インクポンプ100を加圧するタイミングとして使用される。
【0031】
図2は、図1に示した記録装置に搭載されたインク供給システムの構成を模式的に示したものであり、このインク供給システムについて、それぞれ相当する各部を同一符号で示した図1と共に説明する。
【0032】
このインク供給システムは、各メインタンク9a〜9d(図2においては代表して符号9で示す。)と、サブタンク7a〜7d(図2においては代表して符号7で示す。)と、記録ヘッド6と、これらの間のインクの流れを制御するバルブ(26,35)およびチューブ(10,36)とを備えて構成される。
【0033】
メインタンク9としてのインクカートリッジの詳細な構成については、詳細は後述するが、その概略構成は図2に示されたように、メインタンク9のインクの取出し口には、インクポンプ100が装着され、メインタンク9の内部には、液体収容部の1つであり、インクを封入した可撓性素材により形成されたインクパック24が収納されている。このインクポンプ100は、ポンプが稼動することで、インクパック24内のインクを吸引して、ゴムキャップ50で封止されたインクポンプ100の流出口に、所定の圧力で供給するように構成された液体ポンプである。従って、インク補給バルブ26と連接した注射針14を、インクポンプ100のゴムキャップ50に挿入して、インクポンプ100の流出口と連通することで、インクポンプ100で吸引されたインクは、インク補給バルブ26側に所定の圧力で供給される。
【0034】
この構成により、前記各メインタンク9a〜9d内に収納された各インクパック24は、それぞれのインクポンプ100により、各メインタンク9a〜9dから各サブタンク7a〜7dに対して所定の圧力によるインク流が発生するようになされる。
【0035】
なお、前記各メインタンク9a〜9dにおいて加圧されたインクは、各インク補給バルブ26および各インク補給チューブ10を介して、キャリッジ1に搭載された各サブタンク7a〜7dに供給されるように構成されている。
【0036】
次に、サブタンク7には内部にフロート部材31が配置されており、そのフロート部材31には永久磁石32が取り付けられている。そして、ホール素子に代表される磁電変換素子33a,33bが、基板34に実装されてサブタンク7の側壁に添接されている。これにより、フロート部材31の浮上位置にしたがった前記永久磁石32による磁力線量に応じて、前記ホール素子33a,33bにより電気的出力を発生するインク量検出手段を構成している。
【0037】
したがって、例えばサブタンク7内のインク量が少なくなった場合には、サブタンク内に収納されたフロート部材31の位置が重力方向に移動し、これに伴い前記永久磁石32の位置も重力方向に移動する。それ故、前記永久磁石32の移動によるホール素子33a,33bの電気的出力は、前記サブタンク7内のインク量として感知することができ、ホール素子33a,33bにより得られた電気的出力によって、前記インク補給バルブ26が開弁される。
【0038】
これにより、前記インクポンプ100で加圧されたインクは、インク量が低下したそれぞれのサブタンク7内に個別に送出される。そして、当該サブタンク7内におけるインク量が所定の容量に達した場合には、前記したホール素子33a,33bの電気的出力に基づいて、前記インク補給バルブ26が閉弁される。このような繰り返しにより、前記メインタンク9から前記サブタンク7に対して断続的にインクが補給されるように作用し、各サブタンク7内には常にほぼ一定の範囲のインクが貯溜される。
【0039】
そして、前記各サブタンク7からはバルブ35およびチューブ36を介して前記記録ヘッド6に対してインクが供給されるように構成されている。このため、前記記録ヘッド6のアクチュエータ(図示せず)に供給される印刷データに基づいて、記録ヘッド6のノズル形成面に形成されたノズル開口6aよりインク滴13が吐出されるように作用する。
【0040】
図3は、インクポンプ100の全体構成を示す構成図である。この図3に示すように、インクポンプ100は、容積が可変な第1の蛇腹チューブ105と、電磁コイル101と、磁性コア(鉄芯)103と、貫通孔を有する金属板(104,108,109)と、容積が可変な第2の蛇腹チューブ106と、引っ張りバネ102と、ゴムキャップ50と、逆止弁107と、電流供給コネクタ46とを備える。
【0041】
先ず、このインクポンプ100の流路系統を説明する。第1の蛇腹チューブ105および第2の蛇腹チューブ106は、伸縮自在な可撓性の材質よりなる蛇腹機構を備えた液体貯留部材であり、この蛇腹機構は容積が変動可能な容積部を構成している。ここで、第1の蛇腹チューブ105および第2の蛇腹チューブ106の容積は、第1の蛇腹チューブ105の方が大きく、本実施例では、第2の蛇腹チューブ106の最大容積が、第1の蛇腹チューブ105の最小容積と同程度になるように構成されている。
【0042】
この第1の蛇腹チューブ105は、一方を、金属板104に固着されると供に、他方を金属板109に固着され、金属板104の貫通孔から金属板109の貫通孔まで連接された流路が形成されている。また、第2の蛇腹チューブ106は、一方を、金属板108に固着されると供に、他方を、前記金属板104の第1の蛇腹チューブ105が固着された側とは反対側に固着され、金属板108の貫通孔から金属板104の貫通孔まで連接された流路が形成されている。
【0043】
また、金属板108において、第2の蛇腹チューブ106が固着された側の反対側には、逆止弁107Aが固着されており、この逆止弁107Aを介して、インクパック24の出口から金属板108の貫通孔まで、連接された流路が形成されている。同様に、金属板109において、第1の蛇腹チューブ105が固着された側の反対側には、逆止弁107Bが固着されており、この逆止弁107Bを介して、金属板109の貫通孔からゴムキャップ50内部のインク溜り54まで、連接された流路が形成されている。
【0044】
以上の構成から、インクポンプ100の内部には、このインクポンプ100の流入口に該当するインクパック24の出口から、このインクポンプ100の流出口に該当するゴムキャップ50内部のインク溜り54まで連通され、この方向に限ってインクが移動可能な流路が形成されている。
【0045】
次に、このインクポンプ100がインクを移送する液体移送手段の構成について説明する。第2の蛇腹チューブ106の外周側には、引っ張りバネ102が配置される。この引っ張りバネ102は、一方がインクポンプ100のカバー45に接着され、他方が金属板104に接着される。なお、この引っ張りバネ102の一方は、カバー45に限らず、金属板108に接着されても良い。また、磁性コア103の外周部には、電磁コイル101が形成され、電動アクチュエータの一つである電磁アクチュエータを構成する。また、この電磁アクチュエータおよび引っ張りバネ102は、第1の蛇腹チューブ105および第2の蛇腹チューブ106の容積を増減する伸縮部を構成している。即ち、前記した電磁アクチュエータは、電流を供給することで磁性コア103が電磁石となり、金属板104を引き寄せ、第1の蛇腹チューブ105および第2の蛇腹チューブ106の容積を増減する。また、引っ張りバネ102は復元部材であり、金属板104が磁性コア103側に引き寄せられることで復元力が生じ、金属板104を元の位置に戻そうとする。この液体移送手段の詳細な動作については、後述する。
【0046】
この電磁コイル101の両端部は、それぞれ電流供給コネクタ(46A,46B)に接続されている。これらの電流供給コネクタ(46A,46B)は、信号線を介して容積制御部120と接続される。この容積制御部120は、近接センサ125と接続して、キャリッジ1が終端位置に移動したことを検出し、この検出に合わせてインクポンプ100に電流を供給する。
【0047】
ここで、電磁コイル101に電流が供給されない状態(初期状態)においては、金属板104の第1の蛇腹チューブ105側の面104Aと、磁性コア103の金属板104と対向する側の面103Aとは、所定の距離をおいて停止している。この状態において、第1の蛇腹チューブ105は、ある程度伸びた状態であり、第2の蛇腹チューブ106は、ある程度縮んだ状態である。
【0048】
次に、電磁コイル101に電流が供給された状態(第1の励磁状態)においては、磁性コア103が電磁石となり、金属板104を引き寄せて、前記した両面(104A,103A)は密着する。この状態において、一方の第1の蛇腹チューブ105は縮んだ状態となり、他方の第2の蛇腹チューブ106は伸びた状態となる。ここで、同一の変位量で蛇腹チューブ(105,106)が変位した場合は、第1の蛇腹チューブ105の容積と、第2の蛇腹チューブ106の容積との関係から、蛇腹チューブ全体(105,106)としては、前記初期状態より容積が減少する。従って、第1の蛇腹チューブ105内部のインクは加圧された状態になり、インクの一部は、逆止弁107Bを通り、ゴムキャップ50内部のインク溜り54に移動する。また、引っ張りバネ102は、金属板104が移動して引っ張られることにより、元の状態に戻る方向に復元力が生じる。
【0049】
ここで、再度、電磁コイル101に電流が供給されない状態(解除状態)に遷移すると、励磁状態が解除され、引っ張りバネ102の復元力により、金属板104は、磁性コア103から離れる方向に移動する。移動した金属板104は、引っ張りバネ102の復元力による単振動を続けた後に、前記初期状態と略同一位置で静止する。この状態において、ゴムキャップ50内部のインク溜り54に移動したインクは、逆止弁107Bにより、第1の蛇腹チューブ105に還流できないため、第1の蛇腹チューブ105内部の圧力は、インクパック24のインク圧に比べて負圧の状態となり、内部に吸引力が発生する。従って、インクパック24のインクは、第1の蛇腹チューブ105内部に吸引される。この場合、一度吸引されたインクパック24のインクは、逆止弁107Aにより、インクパック24に還流することはない。
【0050】
続いて、再度、電磁コイル101に電流が供給された状態(第2の励磁状態)に遷移すると、第1の蛇腹チューブ105の内部のインクは加圧され、逆止弁107Bを通り、ゴムキャップ50内部のインク溜り54に貯留される。この場合においても、インク溜り54に貯留されたインクは、逆止弁107Bにより、第1の蛇腹チューブ105に還流することは無い。
【0051】
上記したような電磁コイル101の励磁状態と、解除状態とを、前記したキャリッジ1の往復移動を検出する近接センサ125の信号に合わせて繰り返す。即ち、キャリッジ1が移動してホームポジションの位置を離れたことを近接センサ125bが検出すると、容積制御部120からの指示により、電磁コイル101は第1の励磁状態となる。次に、キャリッジ1が主走査方向に往復移動して印刷を開始した場合、近接センサ125aが往復移動するキャリッジ1を検出する度に、容積制御部120は、電磁コイル101に対して解除状態への遷移と、第2の励磁状態への遷移とを繰り返し指示する。
【0052】
以上の作用により、ゴムキャップ50内部のインク溜り54には、常に加圧されたインクが貯留される。このゴムキャップ50にインク補給バルブ26と連接した注射針14を挿入することで、インク補給バルブ26およびインク補給チューブ10を経て、サブタンク7にインクが供給される。
【0053】
図4および図5は、このインクジェット式記録装置に用いられるインクカートリッジ(前記したメインタンク9)の例を示したものである。なお、図4はメインタンクの全体構成を示した斜視図であり、図5は図4に示す外郭ケース内に収納されたインクパック24の構成を示した斜視図である。
【0054】
図4および図5に示すように、前記インクパック24の外郭ケースは、上ケース41および下ケース42により構成されている。このうち下ケース42は、偏平状の函型形状になされており、上面部が開放されてその内部にはインクを封入した状態の前記インクパック24(図5参照)が収納できるように構成されている。
【0055】
図5は、前記のようにして形成される外郭ケース内に収納された前記インクパック24の構成を示したものである。このインクパック24は、矩形状に形成された2枚の可撓性素材、例えばポリエチレンフィルムが用いられ、ガスバリア性の向上のために、例えばアルミ泊等によって表面にラミネート処理が施されている。そして、長手方向端縁におけるほぼ中央部には、インクポンプ100が取り付けられている。また、このインクパック24の内部には、インクポンプ100と接続されて、インクパック24内部のインクをインクパック24から導出する吸引管55が取り付けられている。
【0056】
前記吸引管55が取り付けられた側端部と、これに直交する二つの側端部との三辺が、先ず熱溶着によって接合されて袋状に形成される。なお、符号24bは前記三辺に施された熱溶着部分を示す。そして、前記のようにして袋状に形成されたインクパック24における残りの一辺における開口を利用して、インクパック24内にインクが導入され、最後に残りの一辺が熱溶着によって接合されて、インクパック24内にインクが封入された状態とされる。なお、符号24cは前記残りの一辺に施された熱溶着部分を示す。
なお、このインクパック24は、メインタンク9に装着される際には、カバー45によりインクポンプ100の周囲を覆う構造になっている。
【0057】
以上のように構成されたインクカートリッジとしての前記メインタンク9は、図4に示されたように、前記カートリッジケース(インクパック24の外郭ケース)の一面に、記録装置へ装填する場合に利用される位置決め手段としての一対の開口孔51が形成されている。これら両開口孔51は、前記カートリッジケースの前記一面における長手方向に沿った二箇所に離間した状態で配置されている。なお、これら両開口孔51は、前記下ケース42を例えば射出成形する場合に同時に形成される。
【0058】
また、前記カートリッジケースにおける両開口孔51のほぼ中間部には、前記インクパック24からインクを導出するインクポンプ100のゴムキャップ50が取り付けられている。さらに、このゴムキャップ50の近傍には、前記した電流供給コネクタ46が設けられている。この電流供給コネクタ46は、前記メインタンク9を記録装置側の前記カートリッジホルダ8に装着した状態において、記録装置側から電流が供給されるように構成されている。
【0059】
加えて、前記カートリッジケースにおける各開口孔51の外側には、回路基板53が配置されている。この回路基板53は、前記メインタンク9を記録装置側の前記カートリッジホルダ8に装着した状態において、前記メインタンク9に封入されたインクの種類、インク残量、シリアル番号および有効期限等のデータの授受がなされるように構成されている。
【0060】
ここで、インクジェット式記録装置のメインタンク9を交換する場合について説明する。インクジェット式記録装置の操作パネルから、メインタンク9を交換するモードを選択した場合、キャリッジ1は、前記したホームポジションに移動するように設定されている。ホームポジションに設置された近接センサ125aは、キャリッジ1の移動を検出すると、容積制御部120にキャリッジ1の検出を示す信号を送信する。この信号を受けた容積制御部120は、インクポンプ100への電流の供給していた場合、この電流の供給を遮断する。インクポンプ100へ電流が供給されない場合は、前述したように、インクポンプ100の第1の蛇腹チューブ105は、大気圧に比べて負圧の状態となり、内部に吸引力が発生する。この状態で、インク補給バルブ26と連接した注射針14をゴムキャップ50から外して、新しいメインタンク9と交換して、再度、この注射針14をゴムキャップ50に挿入することで、メインタンク9の交換は完了する。
【0061】
以上述べたような実施例1によれば、次のような効果がある。
(1)インクジェット式記録装置のメインタンク9を交換する場合、インクポンプ100の内部は、大気圧に比べて負圧の状態となるため、インクがメインタンク9の外部に漏れ出ることを防止できる。
(2)インクパック24とインクポンプ100を略一体化してメインタンク9に構成できるため、インクジェット式記録装置の小型化、軽量化を図れる。
(3)インクポンプ100へ供給する電流を適切に調整することにより、ゴムキャップ50のインク溜り54に供給されるインクの圧力を容易に調整できる。
【実施例2】
【0062】
次に、本発明の実施例2について、図6を参照して説明する。尚、以下の説明では、既に説明した部分と同一の部分については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0063】
図6は、本実施形態のインクポンプの全体構成を示している。前記の第1実施形態における第1の蛇腹チューブ105の内部の容積は、磁性コア103と電磁コイル101とで構成される電磁アクチュエータにより変化させていたが、本実施形態では、形状記憶合金バネ110により、第1の蛇腹チューブ105の容積を変化させる。この形状記憶合金バネ110は、形状記憶合金ワイヤで構成される。
【0064】
この形状記憶合金ワイヤは、内部の電気抵抗が高いために、通電すると発熱して内部の温度が変化して、マルテンサイト変態により縮む性質がある。従って、この形状記憶合金ワイヤを用いた形状記憶合金バネ110は、電流を供給されると縮み、電流を遮断すると自由な状態になる。この形状記憶合金バネ110の両端部は、金属板109の面と、金属板104とに接着される。また、引っ張りバネ102の両端部は、インクポンプ100のカバー45側と、金属板104とに接着される。
【0065】
ここで、形状記憶合金バネ110に電流が供給されない状態(初期状態)においては、金属板104の第1の蛇腹チューブ105側の面と、金属板109の金属板104と対向する側の面とは、所定の距離をおいて安定的に保持される。この状態において、第1の蛇腹チューブ105は、伸ばされて内部の容積が拡大した状態である。
【0066】
次に、形状記憶合金バネ110に電流が供給された状態(第1の電流供給状態)においては、形状記憶合金バネ110は発熱して縮むため、金属板104は引き寄せされる。この状態において、一方の第1の蛇腹チューブ105は縮んだ状態となり、他方の第2の蛇腹チューブ106は伸びた状態となる。ここで、同一の変位量で蛇腹チューブ(105,106)が変位した場合は、第1の蛇腹チューブ105の容積と、第2の蛇腹チューブ106の容積との関係から、蛇腹チューブ全体(105,106)としては、前記初期状態より容積が減少する。従って、第1の蛇腹チューブ105内部のインクは加圧された状態になり、インクの一部は、逆止弁107Bを通り、ゴムキャップ50内部のインク溜り54に移動する。また、引っ張りバネ102は、引っ張られることにより、元の状態に戻る方向に復元力が生じる。
【0067】
ここで、再度、形状記憶合金バネ110に電流が供給されない状態(電流解除状態)に遷移すると、形状記憶合金バネ110は自由な状態になり、引っ張りバネ102の復元力および形状記憶合金バネ110が自由な状態に戻る力により、金属板104は、金属板109から離れる方向に移動する。移動した金属板104は、引っ張りバネ102の復元力による単振動を続けた後に、前記初期状態と略同一位置で静止する。この状態において、ゴムキャップ50内部のインク溜り54に移動したインクは、逆止弁107Bにより、第1の蛇腹チューブ105に還流できないため、第1の蛇腹チューブ105内部の圧力は、、インクパック24のインク圧に比べて負圧の状態となり、内部に吸引力が発生する。従って、インクパック24のインクは、第1の蛇腹チューブ105内部に吸引される。この場合、一度吸引されたインクパック24のインクは、逆止弁107Aにより、インクパック24に還流することは無い。
【0068】
続いて、再度、形状記憶合金バネ110に電流が供給された状態(第2の電流供給状態)に遷移すると、第1の蛇腹チューブ105の内部のインクは加圧され、逆止弁107Bを通り、ゴムキャップ50内部のインク溜り54に貯留される。この場合においても、インク溜り54に貯留されたインクは、逆止弁107Bにより、第1の蛇腹チューブ105に還流することは無い。
【0069】
上記したような形状記憶合金バネ110への電流供給状態と、電流解除状態とを、前記したキャリッジ1の往復移動を検出する近接センサ125の信号に合わせて繰り返す。即ち、キャリッジ1が移動してホームポジションの位置を離れたことを近接センサ125bが検出すると、容積制御部120からの指示により、形状記憶合金バネ110は第1の電流供給状態となる。次に、キャリッジ1が主走査方向に往復移動して印刷を開始した場合、近接センサ125aが往復移動するキャリッジ1を検出する度に、容積制御部120は、形状記憶合金バネ110に対して電流解除状態への遷移と、第2の電流供給状態への遷移とを繰り返し指示する。
【0070】
以上の作用により、ゴムキャップ50内部のインク溜り54には、常に加圧されたインクが貯留される。このゴムキャップ50にインク補給バルブ26と連接した注射針14を挿入することで、インク補給バルブ26およびインク補給チューブ10を経て、サブタンク7にインクが供給される。
【0071】
このような実施形態においても、実施例1と同様な効果を奏することができる。
【0072】
以上、本発明のインクジェット式記録装置を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく以下に述べるような変形例も想定できる。
(1)インクを貯留する部材は、第1の蛇腹チューブ105および第2の蛇腹チューブ106に限らない。例えば、ゴムのような弾性を有する部材であっても良い。
(2)インクの貯留部材の容積を増減する手段としては、形状記憶合金や、電磁アクチュエータによる方法に限らない。例えば、傘のようなリンク構造や、圧縮性流体を用いて容積を増減させても良い。
(3)インクポンプ100は、流入口から流出口までの流路と連通していれば、この流路上になくても良い。例えば、この流路からT字状に分岐させて、その端部にインクポンプ100を配置しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施例1に係るインクジェット式記録装置の基本構成示す平面図。
【図2】前記実施例における記録装置に搭載されたインク供給システムの構成を模式的に示した図。
【図3】前記実施例におけるインクポンプの全体構成を示す構成図。
【図4】前記実施例におけるメインタンクの全体構成を示した斜視図。
【図5】前記実施例における外郭ケース内に収納されたインクパックの構成を示した斜視図。
【図6】本発明の実施例2に係るインクポンプの全体構成を示す構成図。
【符号の説明】
【0074】
1…キャリッジ、2…キャリッジモータ、3…タイミングベルト、4…走査ガイド部材、5…紙送り部材、6…記録ヘッド、7…サブタンク、8…カートリッジホルダ、9…メインタンク、10…インク補給チューブ、11…キャッピング手段、12…ワイピング部材、13…インク滴、14…注射針、24…インクパック、26…インク補給バルブ、31…フロート部材、32…永久磁石、33a…ホール素子、34…基板、35…バルブ、36…チューブ、41…上ケース、42…下ケース、45…カバー、46…電流供給コネクタ、50…ゴムキャップ、51…開口孔、53…回路基板、55…吸引管、100…インクポンプ、101…電磁コイル、102…引っ張りバネ、103…磁性コア、104…金属板、105…第1の蛇腹チューブ、106…第2の蛇腹チューブ、107…逆止弁、108…金属板、109…金属板、110…形状記憶合金バネ、120…容積制御部、125…近接センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を流入口から吸引して、流出口で排出する液体ポンプであって、
前記流入口から前記流出口までの流路と連通し、容積が可変で、前記液体を貯留する液体貯留部材と、
前記液体貯留部材の容積を増減する伸縮部を有し、前記伸縮部が前記液体貯留部材の容積を増加させることで、前記液体を前記液体貯留部材に吸引することに加え、前記伸縮部が前記液体貯留部材の容積を減少させることで、前記液体を前記液体貯留部材から排出する液体移送手段と、
前記流入口から前記流出口への前記液体の流れのみを許容する逆止弁とを備えることを特徴とする液体ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の液体ポンプにおいて、
前記液体貯留部材は、容積が変動する容積部を少なくとも2つ以上備え、
少なくとも1つ以上の一方の前記容積部の容積が増加する場合は、少なくとも1つ以上の残りの前記容積部の容積が略同時に減少すると供に、
前記液体貯留部材の容積は、前記一方の容積部の容積が増加した状態と、減少した状態とで増減することを特徴とする液体ポンプ。
【請求項3】
請求項1乃至2のいずれかに記載の液体ポンプにおいて、
前記液体貯留部材は、伸縮自在な可撓性の材質からなることを特徴とする液体ポンプ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の液体ポンプにおいて、
前記伸縮部は、電流が供給された場合には、変位して前記液体貯留部材の容積を減少させる電動アクチュエータと、前記電流の供給が遮断された場合には、前記変位により生じる復元力により前記容積を増加させる復元部材とを備えることを特徴とする液体ポンプ。
【請求項5】
請求項4に記載の液体ポンプにおいて、
前記電動アクチュエータは、前記電流が供給されることにより生じる温度変化で変位する形状記憶合金からなることを特徴とする液体ポンプ。
【請求項6】
請求項4に記載の液体ポンプにおいて、
前記電動アクチュエータは、前記電流が供給されることにより生じる磁気力で変位する電磁アクチュエータからなることを特徴とする液体ポンプ。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の液体ポンプにおいて、
前記液体は、インクであることを特徴とする液体ポンプ。
【請求項8】
請求項7に記載の前記液体ポンプと、
前記液体ポンプと連通され、液体を内包する液体収容部とを備えることを特徴とする液体収容容器。
【請求項9】
往復移動してインクを吐出するインク吐出ヘッドを備えたインクジェット式記録装置であって、
前記インクジェット式記録装置は、請求項8に記載の液体収容容器を備えることを特徴とするインクジェット式記録装置。
【請求項10】
請求項9に記載のインクジェット式記録装置において、
前記インクジェット式記録装置は、前記インク吐出ヘッドの往復移動に合わせて、
前記液体貯留部材の容積を増減することを特徴とするインクジェット式記録装置。
【請求項11】
請求項10に記載のインクジェット式記録装置において、
前記インク吐出ヘッドが、インクを吐出しない位置にある場合、
前記液体貯留部材の容積は、増加された状態であることを特徴とするインクジェット式記録装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−1123(P2006−1123A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−179595(P2004−179595)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】