説明

液体吐出装置及び液体吐出方法

【課題】 吐出不良を防止して、液体吐出の安定性を向上させる。
【解決手段】 この液体吐出装置には、対向電極に対向するフラットなノズルプレートに形成されたノズルから液体を吐出するために、ノズルの吐出口に液体のメニスカスを形成する圧力発生手段及びノズルプレートを介して対向電極に対向する帯電用電極によりノズルの液体に静電電圧を印加する静電電圧印加手段を有する液体吐出ヘッドが設けられている。そして、液体吐出装置には、ノズルプレートに電荷を帯電する帯電手段と、圧力発生手段、静電電圧印加手段及び帯電手段を制御する動作制御手段とが備えられている。動作制御手段は、圧力発生手段、静電電圧印加手段及び帯電手段を制御して、初期動作としてノズルプレートに電荷を帯電させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出装置及び液体吐出方法に係り、特にフラットノズルを有する電界集中型の液体吐出装置及び液体吐出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェットでの画質の高精細化の進展および工業用途における適用範囲の拡大に伴い、微細パターン形成および高粘度のインク吐出の要請がますます強まっている。これらの課題を従来のインクジェット記録法で解決しようとすると、ノズルの微小化や高粘度のインク吐出による液吐出力の向上を図る必要が生じ、それに伴って駆動電圧が高くなり、ヘッドや装置のコストが非常に高価になってしまうため、実用に適う装置は実現されていない。
【0003】
そこで、前記要請に応え、微小化されたノズルから低粘度のみならず高粘度の液滴を吐出させる技術として、ノズル内の液体を帯電させ、ノズルと液滴の着弾を受ける対象物となる各種の基材との間に形成される電界から受ける静電吸引力により吐出させるいわゆる静電吸引方式の液滴吐出技術が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
また、この液滴吐出技術と、ピエゾ素子の変形や液体内部での気泡の発生による圧力を利用して液滴を吐出する技術とを組み合わせた、いわゆる電界アシスト法を用いた液滴吐出装置の開発が進んでいる(例えば、特許文献2〜5等参照)。この電界アシスト法は、メニスカス形成手段と静電吸引力を用いてノズルの吐出孔に液体のメニスカスを隆起させることにより、メニスカスに対する静電吸引力を高め、液表面張力に打ち勝ってメニスカスを液滴化し吐出する方法である。
【特許文献1】国際公開第03/070381号パンフレット
【特許文献2】特開平5−104725号公報
【特許文献3】特開平5−278212号公報
【特許文献4】特開平6−134992号公報
【特許文献5】特開2003−53977号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
静電吸引方式の液滴吐出技術や電界アシスト法を用いたこれらの液体吐出装置は、従来のピエゾ方式やサーマル方式を用いたインクジェット記録法に比べ、吐出効率は良いが、電界による静電吸引力が最大限に活用されていないため、メニスカスの形成や液滴の吐出が効率的に行われておらず、微細パターン形成および高粘度のインク吐出の要請に応えようとすると、従来のインクジェット記録法と同様に、駆動電圧を高くする必要が生じ、ヘッドや装置のコストが高価になってしまうという問題があった。また、静電吸引力を高めるために印加電圧を上げると、ヘッドと基材間で絶縁破壊が発生してしまい装置を駆動できない場合が生じるという問題もあった。
【0006】
静電吸引方式の液滴吐出技術や電界アシスト法を用いたこれらの液体吐出装置において、液体を吐出するノズルが設けられた液体吐出ヘッドとしてフラットな液体吐出ヘッドを用いた場合、構造が単純であるために生産性に優れ、また、液体吐出ヘッドのクリーニング時における吐出面のワイピングの際にワイパにノズルが引っ掛からないという大きな利点がある。
【0007】
しかし、静電吸引方式の液滴吐出技術においてこのようなフラットな液体吐出ヘッドを用いる場合、ノズル内の液体や吐出孔部分のメニスカスへの電界集中の程度が小さく、必要な静電吸引力を得るために液体吐出ヘッドと基材との間に印加する電圧として非常に高い電圧を印加する必要があった。また、ピエゾ素子の変形等で圧力を発生させてノズルの吐出孔に液体のメニスカスを隆起させ、隆起させたメニスカスに選択的に電界集中させて静電吸引力により液体を吐出させる電界アシスト法を用いた液体吐出装置の場合も、電界集中が小さいためにメニスカスを形成するうえで静電吸引力によるメニスカスを引き出す作用が小さく、結果的にピエゾ素子等の圧電素子アクチュエータよりなる圧力発生手段に高い電圧を印加する必要があるという問題があった。
【0008】
なお、本発明において、フラットなノズルやノズルプレート、液体吐出ヘッドとは、ノズルプレートの吐出面からのノズルの突出が30μm以下のものを意味し、前記ワイピングの際に破損等の支障を生じることがなく、ノズルの突出が小さく突出による電界集中効果が期待できないものをいう。
【0009】
そこで、このフラットな液体吐出ヘッドの問題点を解消するため、電界アシスト法を用いた液体吐出装置では、液体吐出ヘッドのノズルプレートから吐出面側にノズルを避雷針状に突出させ、ノズルの突起先端に電界を集中させてノズルの吐出効率を高めた液体吐出ヘッドが用いられることが多い。
【0010】
しかし、液体吐出ヘッドのノズルプレートから吐出面側に数十μm程度のノズルを多数立設させなければならないため、構造が複雑になり生産性が低下する。また、液体吐出ヘッドのクリーニング時に立設されたノズルが折れるなど操作性に劣るという問題があった。
【0011】
そこで、本発明者らは、吐出面がフラットで、かつ低電圧の静電電圧の印加で効果的に電界集中を生じ効率良く液体を吐出することができ、さらにメニスカス隆起量を制御し吐出制御する電界アシスト法においても低静電電圧で効率的に吐出することが可能となり、それによって微細パターン形成および高粘度の液体の吐出が可能な液体吐出装置の開発に着手した。
【0012】
開発を進めるにあたり、本発明者らはノズルプレートに電荷を帯電させることで電界強度を制御する方式を検討した。この検討により電界集中に必要なノズルプレートの電界強度を得るためにはノズルプレートを長時間帯電させなければならないことが分かった。これでは、描画のスタートまでに相当の時間がかかってしまい、効率的でない。そこでノズルプレートへの所望な電界強度を短時間で得ることが課題であった。
【0013】
本発明の課題は、ノズルプレートへの電界強度を短時間で得ることで、微細パターン形成及び高粘度の液体吐出が可能な液体吐出装置及び液体吐出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1記載の発明における液体吐出装置は、
基材を支持する対向電極と、
前記対向電極に対向するフラットなノズルプレートに形成されたノズルから液体を吐出するために、前記ノズルの吐出口に液体のメニスカスを形成する圧力発生手段及び前記ノズルプレートを介して前記対向電極に対向する帯電用電極により前記ノズルの液体に静電電圧を印加する静電電圧印加手段を有する液体吐出ヘッドと、
前記ノズルプレートに電荷を帯電させる帯電手段と、
前記圧力発生手段、前記静電電圧印加手段及び前記帯電手段を制御する動作制御手段とを備え、
前記動作制御手段は、前記圧力発生手段、前記静電電圧印加手段及び前記帯電手段を制御して、初期動作として前記ノズルプレートに電荷を帯電させることを特徴としている。
【0015】
本発明者らは、種々の実験、シミュレーションを行い、ノズルプレートに十分な電荷が帯電されていなければ電界強度が弱く吐出できないことを見出した。これを防止するために液体と出時の電圧を高めて吐出したとしても時間とともに電界強度が高まってしまい、液滴径のばらつきやミスト、サテライト液滴などの不良吐出が発生する可能性が高まってしまう。しかしながら、請求項1記載の発明のように帯電手段がノズルプレートに電荷を帯電させれば、吐出時の電圧を高めなくとも電界強度を強くすることができ、所望な電界強度を短時間で得ることができる。
特に、液体吐出前にノズルプレートに十分な電荷が帯電されていないと、吐出不良が生じる可能性が解消されないが、上述のように液体吐出前の初期動作としてノズルプレートに電荷を帯電させていれば吐出不良を確実に防止することができる。
【0016】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の液体吐出装置において、
前記ノズルプレートの吐出面に接触して相対的に移動することで前記吐出面をワイプするワイパ手段を備え、
前記動作制御手段は、前記ワイパ手段及び前記帯電手段を制御して、前記ワイパ手段による前記吐出面のワイプ後に前記ノズルプレートに電荷を帯電させることを特徴としている。
【0017】
ここで、ノズルプレートに十分な電荷が帯電されていても、ワイパ手段によって吐出面がワイプされてしまうと、蓄えられていた電荷が大量に失われてしまい、吐出不良が生じてしまう。しかしながら、請求項2記載の発明のように、帯電のタイミングをワイプ後に設定していればワイプによる吐出不良を確実に防止することができる。
【0018】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の液体吐出装置において、
前記動作制御手段は、前記静電電圧印加手段を制御して、前記ワイパ手段による前記吐出面のワイプ時に前記静電電圧の印加を停止することを特徴としている。
【0019】
ワイプ時においてはノズルプレートの吐出面に付着した液体を拭いたり、弾き飛ばしたりするため、液体がノズル近隣に存在しており静電電圧を印可してしまうと帯電ムラを発生させる場合がある。またノズルプレートに接触するワイプ手段においても同様の悪影響が考えられる。しかしながら、請求項3記載の発明のように、ワイプ時に静電電圧の印加を停止させていれば、帯電ムラや悪影響を回避することができる。
【0020】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の液体吐出装置において、
前記ノズルプレートは絶縁性があり、かつ比誘電率が2以上10以下であることを特徴としている。
【0021】
請求項4記載の発明によれば、ノズルプレートは絶縁性があり、かつ比誘電率が2以上であるので、ノズルプレートの内部に強い電界を発生させることが可能となる。比誘電率が1であると帯電することがないが、1より大きければ帯電することになる。しかしながら、比誘電率が2未満では帯電性が芳しくないものの2以上であれば好適に帯電させることができる。一方、比誘電率が10よりも大きいと帯電させるための負荷が大きくなって現実的でない。
【0022】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4の何れか一項に記載の液体吐出装置において、
前記帯電手段は、前記動作制御手段の制御に基づいて、前記ノズルプレート及び前記対向電極を相対的に接離させる接離手段であり、
前記動作制御手段は、前記帯電時に前記接離手段を制御して、前記ノズルプレート及び前記対向電極の間隔を前記液体吐出時よりも狭めることを特徴としている。
【0023】
ここで、ノズルプレートに蓄えられる電荷(Q)はノズルプレートに電界がかかったことによる分極により発生する電荷であり、Q=CV(C:静電容量、V:電圧)で表される。また、C=ε・S/d(ε:空気の誘電率、S:ノズルプレート及び対向電極の対向部分の面積、d:ノズルプレートと対向電極との間隔)であるので、Q=(ε・S/d)・Vとなる。つまり、dが小さければ蓄えられる電荷も多くなる。このことから、請求項5記載の発明のように、帯電時にノズルプレート及び対向電極の間隔を液体吐出時よりも狭めることで、蓄えられる電荷を多くすることができ、その結果、単位時間あたりのチャージ量が増加し、短時間で必要な電荷を帯電させることが可能となる。
【0024】
請求項6記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の液体吐出装置において、
前記帯電時における前記間隔を300μm以下とすることを特徴としている。
【0025】
請求項6記載の発明によれば、帯電時におけるノズルプレートと対向電極との間隔が300μm以下に設定されているので、液体吐出に必要な電荷をより短時間で帯電することができる。
【0026】
請求項7記載の発明は、請求項1〜4の何れか一項に記載の液体吐出装置において、
前記帯電手段は、前記動作制御手段の制御に基づいて、前記静電電圧印加手段の電圧を調整する電圧調整手段であり、
前記動作制御手段は、前記帯電時に前記電圧調整手段を制御して、前記静電電圧印加手段の電圧を前記液体吐出時よりも高くすることを特徴としている。
【0027】
ここで、上記したようにノズルプレートに蓄えられる電荷(Q)はQ=(ε・S/d)・Vであるので、Vが大きければ蓄えられる電荷も多くなる。このことから、請求項7記載の発明のように帯電時に静電電圧印加手段の電圧を体吐出時よりも高くすることで、単位時間に蓄えられる電荷を多くすることができ、結果的に帯電時間を短縮することが可能となる。
【0028】
請求項8記載の発明は、請求項7記載の液体吐出装置において、
前記動作制御手段は、前記電圧調整手段を制御して、前記帯電時における電圧値を前記液体吐出時における電圧値に対して前記ノズルプレートの比誘電率倍以上にすることを特徴としている。
【0029】
ここで、ノズルプレートの比誘電率とは、(ノズルプレートの材質の誘電率)/(真空の誘電率)で表される。空気の誘電率は真空の誘電率にほぼ等しいと見なせる。ノズルプレートの材質の誘電率が空気の誘電率と同じ場合、比誘電率は1となり瞬時に電荷が帯電される。実際には空気すなわち気体と同等の低誘電率となるノズルプレートの材質はないため、帯電開始時と帯電後に差が発生する。ここで、マクスウェル・ガウスの式(∇・ε・ε・E=ρ)より、ノズルプレートの材質が比誘電率ε=Aである場合に、比誘電率ε=1と同じ電荷密度ρとするためには、電界EをA/1倍の強さにすることで短時間の帯電が可能となる。したがって、請求項8記載の発明のように、帯電時における電圧値が液体吐出時の電圧値に対してノズルプレートの比誘電率倍以上に設定されていれば、液体吐出に必要な電荷をより短時間で帯電することができる。
【0030】
請求項9記載の発明における液体吐出方法は、
対向電極に支持された前記基材に対向するフラットなノズルプレートに電荷を帯電させる帯電工程の後に、
前記ノズルプレートに形成されたノズルの吐出口に液体のメニスカスを形成するとともに、液体に静電電圧を印加することで、液体を吐出する液体吐出工程を行うことを特徴としている。
【0031】
請求項9記載の発明によれば、請求項1記載の発明と同等の作用、効果を得ることができる。
【0032】
請求項10記載の発明は、請求項9記載の液体吐出方方法において、
前記吐出工程後に、前記ノズルプレートの吐出面に接触して相対的に移動することで前記吐出面をワイプするワイプ工程を行い、
前記帯電工程は、前記ワイプ工程の後に前記ノズルプレートに電荷を帯電させることを特徴としている。
【0033】
請求項10記載の発明によれば、請求項2記載の発明と同等の作用、効果を得ることができる。
【0034】
請求項11記載の発明は、請求項10記載の液体吐出方法において、
前記ワイプ工程では、前記静電電圧の印加が停止されていることを特徴としている。
【0035】
請求項11記載の発明によれば、請求項3記載の発明と同等の作用、効果を得ることができる。
【0036】
請求項12記載の発明は、請求項9〜11のいずれか一項に記載の液体吐出方法において、
前記ノズルプレートが絶縁性であり、かつ比誘電率が2以上であることを特徴としている。
【0037】
請求項12記載の発明によれば、請求項4記載の発明と同等の作用、効果を得ることができる。
【0038】
請求項13記載の発明は、請求項9〜12の何れか一項に記載の液体吐出方法において、
前記帯電工程では、前記ノズルプレート及び前記対向電極の間隔を前記液体吐出工程よりも狭めることを特徴としている。
【0039】
請求項13記載の発明によれば、請求項5記載の発明と同等の作用、効果を得ることができる。
【0040】
請求項14記載の発明は、請求項9〜13のいずれか一項に記載の液体吐出方法において、
前記帯電工程での前記間隔は300μm以下であることを特徴としている。
【0041】
請求項14記載の発明によれば、請求項6記載の発明と同等の作用、効果を得ることができる。
【0042】
請求項15記載の発明は、請求項9〜13の何れか一項に記載の液体吐出方法において、
前記帯電工程では、前記液体吐出時の電圧値よりも電圧を高くすることを特徴としている。
【0043】
請求項15記載の発明によれば、請求項7記載の発明と同等の作用、効果を得ることができる。
【0044】
請求項16記載の発明は、請求項15記載の液体吐出方法において、
前記帯電工程における電圧値を前記液体吐出工程の電圧値に対して前記ノズルプレートの比誘電率倍以上にすることを特徴としている。
【0045】
請求項16記載の発明によれば、請求項8記載の発明と同等の作用、効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、初期動作として、帯電手段によりノズルプレートに電荷が帯電されることで、短時間で電界強度を強くすることができるために、吐出不良を防止して、液体吐出の安定性を高めることができる。このため、微細パターン形成及び高粘度の液体吐出が安定して行えるようになる。
また、吐出面をワイプする場合においては、帯電のタイミングがワイプ後に設定されているのでワイプによる吐出不良を確実に防止することができる。さらには、ワイプ時に静電電圧の印加を停止させているので、帯電ムラや悪影響を回避することができる。
そして、ノズルプレートは絶縁性があり、かつ比誘電率が2以上10以下であるために、ノズルプレートの内部に強い電界を発生させることが可能となる。
また、帯電時にノズルプレート及び対向電極の間隔を液体吐出時よりも狭める場合においては、蓄えられる電荷を多くすることができ、その結果、単位時間あたりのチャージ量が増加し、短時間で必要な電荷を帯電させることが可能となる。
さらに、帯電時におけるノズルプレートと対向電極との間隔を300μm以下に設定した場合においては、液体吐出に必要な電荷をより短時間で帯電することができる。
また、帯電時に静電電圧印加手段の電圧を体吐出時よりも高くする場合においては、単位時間に蓄えられる電荷を多くすることができ、結果的に帯電時間を短縮することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
以下、本発明に係る液体吐出装置の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0048】
図1は、本実施形態に係る液体吐出装置の全体構成を示す断面図である。なお、本発明の液体吐出装置1は、いわゆるシリアル方式或いはライン方式等の各種の液体吐出装置に適用可能である。
【0049】
本実施形態の液体吐出装置1は、インク等の帯電可能な液体Lの液滴Dを吐出するノズル11が形成された液体吐出ヘッド2と、液体吐出ヘッド2のノズル11に対向する対向面を有するとともにその対向面で液滴Dの着弾を受ける基材Kを支持する対向電極3とを備えている。
【0050】
液体吐出ヘッド2のヘッド本体部10の対向電極3に対向する側には、複数のノズル11を有する樹脂製のノズルプレート12が設けられている。ヘッド本体部10は、ノズルプレート12の対向電極3に対向する吐出面からノズル11が突出されない、いわゆるフラットな吐出面を有するヘッドとして構成されている。
【0051】
各ノズル11は、ノズルプレート12に穿孔されて形成されており、それぞれノズルプレート12の吐出面に吐出孔13を有する小径部14とその背後に形成されたより大径の大径部15との2段構造になっている。本実施形態では、ノズル11の小径部14及び大径部15は、それぞれ断面円形で対向電極側がより小径とされたテーパ状に形成されており、小径部14の吐出孔13の内部直径(以下、ノズル径という。)が10μm、大径部15の小径部14から最も離れた側の開口端の内部直径が75μmとなるように構成されている。
【0052】
なお、ノズル11の形状は前記の形状に限定されず、例えば図2(A)〜(E)に示す形状が挙げられる。図2(A)では、ノズル11全体がテーパ状に形成されている。図2(B)では、ノズル11の大径部15がテーパ状に形成されていて、小径部14が内径一定の円筒状に形成されている。図2(C)では、テーパ状の大径部15の先端部の内径が、円筒状の小径部14の内径よりも大きくなるように形成されている。図2(D)では、ノズル11の内径が一定の円筒状に形成されていて、吐出面から僅かに突出するように形成されている。図2(E)では、ノズル11全体がテーパ状に形成さていて、吐出面から僅かに窪むように形成されている。ここで、図2(D)の突出部は、吐出面から30μm以内の範囲の凸となるように形成されている。また、ノズル11は断面円形状でなくとも、例えば断面多角形状や断面星形状等であってもよい。
【0053】
ノズルプレート12の吐出面と反対側の面には、図1に示すように、例えばNiP等の導電素材よりなりノズル11内の液体Lを帯電させるための帯電用電極16が層状に設けられている。本実施形態では、帯電用電極16はノズル11の大径部15の内周面21まで延設されており、ノズル11内の液体Lに接するようになっている。
【0054】
また、帯電用電極16は、静電吸引力を生じさせる静電電圧を印加する静電電圧印加手段としての静電電圧電源17に接続されており、単一の帯電用電極16がすべてのノズル内の液体Lに接触しているため、静電電圧電源17から帯電用電極16に静電電圧が印加されると、全ノズル11の内部の液体Lが同時に帯電され、ヘッド本体部10と対向電極3との間、特に液体Lと基材Kとの間に静電吸引力が発生されるようになっている。
【0055】
帯電用電極16の背後には、ボディ層18が設けられている。ボディ層18の前記各ノズル11の大径部16の開口端に面する部分には、それぞれ開口端にほぼ等しい内径を有する略円筒状の空間が形成されており、各空間には、吐出される液体Lを一時的に貯蔵するためのキャビティ19とされている。
【0056】
ボディ層18の背後には可撓性を有する金属薄板やシリコン等よりなる可撓層20が設けられており、可撓層20によりヘッド本体部10と外界とが画されている。
【0057】
なお、ボディ層18と可撓層20との境界部には、キャビティ19に液体Lを供給するための図示しない流路が形成されている。具体的には、ボディ層18としてのシリコンプレートをエッチング加工してキャビティ19、共通流路及び共通流路とキャビティ19とを結ぶ流路が設けられていており、共通流路には、外部の図示しない液体タンクから液体Lを供給する図示しない供給管が連絡されており、供給管に設けられた図示しない供給ポンプにより或いは液体タンクの配置位置による差圧により流路やキャビティ19、ノズル11等の液体Lに所定の供給圧力が付与されるようになっている。
【0058】
可撓層20の外面の各キャビティ19に対応する部分には、それぞれ圧力発生手段としてのピエゾ素子23が設けられており、ピエゾ素子23には、素子に駆動パルス電圧を印加して素子を変形させるための駆動電圧電源24が接続されている。ピエゾ素子23は、駆動電圧電源24からの駆動電圧の印加により変形して、ノズル11内の液体Lに圧力を生じさせてノズル11の吐出孔13に液体Lのメニスカスを形成させるようになっている。なお、圧力発生手段は、本実施形態のような圧電素子アクチュエータの他に、例えば、静電アクチュエータやサーマル方式等を採用することも可能である。
【0059】
帯電用電極16に静電電圧を印加する静電電圧電源17及び駆動電圧電源24は、それぞれ動作制御手段25に接続されており、それぞれ動作制御手段25による制御を受けるようになっている。
【0060】
なお、本実施形態では、ヘッド本体部10のノズルプレート12の吐出面は、吐出孔13からの液体Lの滲み出しを抑制するための撥液層29が、吐出孔13以外の吐出面全面に設けられている。撥液層29は、例えば、液体Lが水性であれば撥水性を有する材料が用いられ、液体Lが油性であれば撥油性を有する材料が用いられるが、一般に、FEP(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン)、PTFE(ポリテトラフロロエチレン)、フッ素シロキサン、フルオロアルキルシラン、アモルファスパーフルオロ樹脂等のフッ素樹脂等が用いられることが多く、塗布や蒸着等の方法でノズルプレート12の表面に成膜されている。なお、撥液層29は、ノズルプレート12の吐出面に直接成膜してもよいし、撥液層29の密着性を向上させるために中間層を介して成膜することも可能である。
【0061】
液体吐出ヘッド2のヘッド本体部10の下方には、基材Kを支持する平板状の対向電極3がヘッド本体部10の吐出面に平行に所定距離離間されて配置されている。
【0062】
本実施形態では、対向電極3は接地されており、常時接地電位に維持されている。そのため、前記静電電圧電源17から帯電用電極16に静電電圧が印加されると、ノズル11の吐出孔13の液体Lと対向電極3のヘッド本体部10に対向する対向面との間に電界が生じるようになっている。また、帯電した液滴Dが基材Kに着弾すると、対向電極3はその電荷を接地により逃がすようになっている。
【0063】
なお、対向電極3または液体吐出ヘッド2には、液体吐出ヘッド2と基材Kとを相対的に移動させて位置決めするための図示しない位置決め手段が取り付けられており、これにより液体吐出ヘッド2の各ノズル11から吐出された液滴Dは、基材Kの表面に任意の位置に着弾させることが可能とされている。
【0064】
また、液体吐出装置1には、ノズルプレート12及び対向電極3の少なくとも一方を吐出面に対して直交する方向Zに移動させることで、ノズルプレート12及び対向電極3を相対的に接離させる接離手段31が設けられている。この接離手段31は、周知の移動機構が適用されており、その駆動源である接離用駆動源32は動作制御手段25に電気的に接続されて、当該動作制御手段25の制御に基づいて駆動するようになっている。
【0065】
そして、液体吐出装置1には、ノズルプレート12の吐出面に接触して相対的に移動することで前記吐出面をワイプするワイパ手段40が設けられている。このワイパ手段40には可撓性を有し、吐出面に接触するブレード41と、ブレード41の先端を吐出面に接触させた状態で吐出面全面をワイプするように、ブレード41を吐出面に沿わせながら相対的に移動させる移動部42と、移動部42の駆動源43とが設けられている。駆動源43は動作制御手段25に電気的に接続されて、当該動作制御手段25の制御に基づいて駆動するようになっている。
【0066】
動作制御手段25は、本実施形態では、CPU26やROM27、RAM28等が図示しないBUSにより接続されて構成されたコンピュータからなっており、CPU26は、ROM27に格納された電源制御プログラムに基づいて静電電圧電源17及び各駆動電圧電源24を駆動させてノズル11の吐出孔13から液体Lを吐出させるようになっている。ここで、動作制御手段25は、ノズルプレート12と対向電極3との間隔が液体吐出時においては1mmとなるように、ワイプ時においてはワイパ手段40のブレード41が吐出面全面をワイプできる間隔になるように、接離手段31の接離用駆動源32を制御するようになっている。ここで、動作制御手段25は、液体吐出前若しくはワイプ後には、ノズルプレート12に電荷を帯電するために、ノズルプレート12と対向電極3との間隔が液体吐出時の間隔よりも狭まるように、接離手段31の接離用駆動源32を制御するようになっている。ノズルプレート12に蓄えられる電荷(Q)はQ=CV(C:静電容量、V:電圧)で表される。また、C=ε・S/d(ε:空気の誘電率、S:ノズルプレート12及び対向電極3の対向部分の面積、d:ノズルプレート12と対向電極3との間隔)であるので、Q=(ε・S/d)・Vとなる。つまり、間隔dが小さければ蓄えられる電荷も多くなる。
【0067】
ここで、図3は間隔dの異なりによる電界強度の差を表す帯電時間−電界強度線図である。この図3の線T1は間隔dを1mmとして帯電を行った場合の電界強度変位を示しており、線T2は、間隔dを300μmとして帯電を行った場合の電界強度変位を示している。なお、印加電圧は1.5kvとしている。例えば、安定した吐出を行うために必要なメニスカス先端部の電界強度(必要電界強度)が3×10v/m以上である場合、間隔dを1mmとして帯電すると、必要電界強度を満たすまでに1.0×10秒、およそ28時間程度かかることになるが、間隔dを300μmとして帯電すると、帯電直後に必要電界強度を満たすことになる。これらのことから、本実施形態では、動作制御手段25は、帯電時になると間隔dが300μm以下になるように、接離手段31の接離用駆動源32を制御するようになっている。つまり、接離手段31が本発明に係る帯電手段である。
【0068】
次に、液体吐出装置1による吐出を行う液体Lについて説明する。この液体Lは、例えば、水、COCl、HBr、HNO、HPO、HSO、SOCl、SOCl、FSOHなどの無機液体である。
【0069】
また、有機液体としては、メタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、tert−ブタノール、4−メチル−2−ペンタノール、ベンジルアルコール、α−テルピネオール、エチレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどのアルコール類;フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾールなどのフェノール類;ジオキサン、フルフラール、エチレングリコールジメチルエーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、エピクロロヒドリンなどのエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−4−ペンタノン、アセトフェノンなどのケトン類;ギ酸、酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸などの脂肪酸類;ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−3−メトキシブチル、酢酸−n−ペンチル、プロピオン酸エチル、乳酸エチル、安息香酸メチル、マロン酸ジエチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、炭酸ジエチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、セロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート、アセト酢酸エチル、シアノ酢酸メチル、シアノ酢酸エチルなどのエステル類;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリル、プロピオニトリル、スクシノニトリル、バレロニトリル、ベンゾニトリル、エチルアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミン、アニリン、N−メチルアニリン、N,N−ジメチルアニリン、o−トルイジン、p−トルイジン、ピペリジン、ピリジン、α−ピコリン、2,6−ルチジン、キノリン、プロピレンジアミン、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N−メチルプロピオンアミド、N,N,N',N'−テトラメチル尿素、N−メチルピロリドンなどの含窒素化合物類;ジメチルスルホキシド、スルホランなどの含硫黄化合物類;ベンゼン、p−シメン、ナフタレン、シクロヘキシルベンゼン、シクロヘキセンなどの炭化水素類;1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,1,2−テトラクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、ペンタクロロエタン、1,2−ジクロロエチレン(cis−)、テトラクロロエチレン、2−クロロブタン、1−クロロ−2−メチルプロパン、2−クロロ−2−メチルプロパン、ブロモメタン、トリブロモメタン、1−ブロモプロパンなどのハロゲン化炭化水素類などが挙げられる。また、上記各液体を二種以上混合して用いてもよい。
【0070】
さらに、高電気伝導率の物質(銀粉等)が多く含まれるような導電性ペーストを液体Lとして使用し、吐出を行う場合には、前述した液体Lに溶解又は分散させる目的物質としては、ノズルで目詰まりを発生するような粗大粒子を除けば、特に制限されない。
【0071】
PDP、CRT、FEDなどの蛍光体としては、従来より知られているものを特に制限なく用いることができる。例えば、赤色蛍光体として、(Y,Gd)BO:Eu、YO:Euなど、緑色蛍光体として、ZnSiO:Mn、BaAl1219:Mn、(Ba,Sr,Mg)O・α−Al:Mnなど、青色蛍光体として、BaMgAl1423:Eu、BaMgAl1017:Euなどが挙げられる。
【0072】
上記の目的物質を基材上に強固に接着させるために、各種バインダーを添加するのが好ましい。用いられるバインダーとしては、例えば、エチルセルロース、メチルセルロース、ニトロセルロース、酢酸セルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース及びその誘導体;アルキッド樹脂;ポリメタクリタクリル酸、ポリメチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート・メタクリル酸共重合体、ラウリルメタクリレート・2−ヒドロキシエチルメタクリレート共重合体などの(メタ)アクリル樹脂及びその金属塩;ポリN−イソプロピルアクリルアミド、ポリN,N−ジメチルアクリルアミドなどのポリ(メタ)アクリルアミド樹脂;ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体、スチレン・マレイン酸共重合体、スチレン・イソプレン共重合体などのスチレン系樹脂;スチレン・n−ブチルメタクリレート共重合体などのスチレン・アクリル樹脂;飽和、不飽和の各種ポリエステル樹脂;ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどのハロゲン化ポリマー;ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体などのビニル系樹脂;ポリカーボネート樹脂;エポキシ系樹脂;ポリウレタン系樹脂;ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタールなどのポリアセタール樹脂;エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・エチルアクリレート共重合樹脂などのポリエチレン系樹脂;ベンゾグアナミンなどのアミド樹脂;尿素樹脂;メラミン樹脂;ポリビニルアルコール樹脂及びそのアニオンカチオン変性;ポリビニルピロリドン及びその共重合体;ポリエチレンオキサイド、カルボキシル化ポリエチレンオキサイドなどのアルキレンオキシド単独重合体、共重合体及び架橋体;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール;ポリエーテルポリオール;SBR、NBRラテックス;デキストリン;アルギン酸ナトリウム;ゼラチン及びその誘導体、カゼイン、トロロアオイ、トラガントガム、プルラン、アラビアゴム、ローカストビーンガム、グアガム、ペクチン、カラギニン、にかわ、アルブミン、各種澱粉類、コーンスターチ、こんにゃく、ふのり、寒天、大豆蛋白などの天然或いは半合成樹脂;テルペン樹脂;ケトン樹脂;ロジン及びロジンエステル;ポリビニルメチルエーテル、ポリエチレンイミン、ポリスチレンスルフォン酸、ポリビニルスルフォン酸などを用いることができる。これらの樹脂は、ホモポリマーとしてだけでなく、相溶する範囲でブレンドして用いてもよい。
【0073】
液体吐出装置1をパターンニング手段として使用する場合には、代表的なものとしてはディスプレイ用途に使用することができる。具体的には、プラズマディスプレイの蛍光体の形成、プラズマディスプレイのリブの形成、プラズマディスプレイの電極の形成、CRTの蛍光体の形成、FED(フィールドエミッション型ディスプレイ)の蛍光体の形成、FEDのリブの形成、液晶ディスプレイ用カラーフィルター(RGB着色層、ブラックマトリクス層)、液晶ディスプレイ用スペーサー(ブラックマトリクスに対応したパターン、ドットパターン等)などを挙げることができる。
【0074】
なお、リブとは一般的に障壁を意味し、プラズマディスプレイを例に取ると各色のプラズマ領域を分離するために用いられる。その他の用途としては、マイクロレンズ、半導体用途として磁性体、強誘電体、導電性ペースト(配線、アンテナ)などのパターンニング塗布、グラフィック用途としては、通常印刷、特殊媒体(フィルム、布、鋼板など)への印刷、曲面印刷、各種印刷版の刷版、加工用途としては粘着材、封止材などの本発明を用いた塗布、バイオ、医療用途としては医薬品(微量の成分を複数混合するような)、遺伝子診断用試料等の塗布等に応用することができる。
【0075】
ここで、本発明の液体吐出ヘッド2における液体Lの吐出原理について本実施形態を用いて説明する。
【0076】
本実施形態では、静電電圧電源17から帯電用電極16に静電電圧を印加し、ノズル11の吐出孔13の液体Lと対向電極3のヘッド本体部10に対向する対向面との間に電界を生じさせる。また、駆動電圧電源24からピエゾ素子23に駆動電圧を印加してピエゾ素子23を変形させ、それにより液体Lに生じた圧力でノズル11の吐出孔13に液体Lのメニスカスを形成させる。
【0077】
本実施形態のように、ノズルプレート12の絶縁性が高くなると、図4にシミュレーションによる等電位線で示すように、ノズルプレート12の内部に、吐出面30に対して略垂直方向に等電位線が並び、ノズル11の小径部14の液体Lや液体Lのメニスカス部分に向かう強い電界が発生する。
【0078】
特に、図4でメニスカスの先端部では等電位線が密になっていることから分かるように、メニスカス先端部では非常に強い電界集中が生じる。そのため、電界の静電力によってメニスカスが引きちぎられてノズル内の液体Lから分離されて液滴Dとなる。さらに、液滴Dは静電力により加速され、対向電極3に支持された基材Kに引き寄せられて着弾する。その際、液滴Dは、静電力の作用でより近い所に着弾しようとするため、基材Kに対する着弾の際の角度等が安定し正確に行われる。
【0079】
このように、本発明の液体吐出ヘッド2における液体Lの吐出原理を利用すれば、フラットな吐出面を有する液体吐出ヘッド2においても、高い絶縁性を有するノズルプレート12を用い、吐出面30に対して垂直方向の電位差を発生させることで強い電界集中を生じさせることができ、正確で安定した液体Lの吐出状態を形成することができる。
【0080】
発明者らが、電極間の電界の電界強度が実用的な値である1.5kV/mmとなるように構成し、各種の絶縁体でノズルプレート12を形成して下記の実験条件に基づいて行った実験では、ノズル11から液滴Dが吐出される場合と吐出されない場合があった。
【0081】
[実験条件]
ノズルプレート12の吐出面30と対向電極3の対向面との距離:1.0mm
ノズルプレート12の厚さ:125mm
ノズル径:10μm
静電電圧:1.5kV
駆動電圧:20V
【0082】
この実機による実験で、液滴Dがノズル11から安定に吐出されたすべての場合について、メニスカス先端部の電界強度を求めた。実際には、メニスカス先端部の電界強度を直接測定することが困難であるため、電界シミュレーションソフトである「PHOTO−VOLT」(商品名、株式会社フォトン製)で電流分布解析モードによるシミュレーションにより算出した。その結果、すべての場合においてメニスカス先端部の電界強度は3×10V/m(30kV/mm)以上であった。
【0083】
また、前記実験条件と同様のパラメータを同ソフトに入力してメニスカス先端部の電界強度を演算した結果、図5に示すように、電界強度はノズルプレート12に用いる絶縁体の体積抵抗率に強く依存することが分かった。文献等では絶縁体または誘電体とされる物質の体積抵抗率は1010Ωm以上のものを指すことが多く、代表的な絶縁体として知られているボロシリケイトガラス(例えば、PYREX(登録商標)ガラス)の体積抵抗率は1014Ωmである。
【0084】
しかし、このような体積抵抗率の絶縁体では、液滴Dは吐出されない。前記のように、ノズル11から液滴Dを安定に吐出させるためにはメニスカス先端部の電界強度が3×10V/m以上であることが必要であり、図5から、少なくともノズルプレート12の体積抵抗率は1015Ωm以上であることが必要であることが分かった。
【0085】
ノズルプレート12の体積抵抗率とメニスカス先端部の電界強度との関係が図5のような特徴的な関係になるのは、ノズルプレート12の体積抵抗率が低いと、静電電圧を印加してもノズルプレート内で等電位線が図4に示したように吐出面30に対して略垂直方向に並ぶような状態にはならず、ノズル内の液体Lおよび液体Lのメニスカスへの電界集中が十分に行われないためであると考えられる。
【0086】
理論上、体積抵抗率が1015Ωm未満のノズルプレート12でも、静電電圧を非常に大きくすればノズル11から液滴Dが吐出される可能性はあるが、電極間でのスパークの発生等により基材Kが損傷される可能性があるため、本発明では採用されない。
【0087】
なお、図5に示したようなメニスカス先端部の電界強度のノズルプレート12の体積抵抗率に対する特徴的な依存関係は、ノズル径を種々に変化させてシミュレーションを行った場合でも同様に得られており、どの場合も体積抵抗率が1015Ωm以上の場合にメニスカス先端部の電界強度が3×10V/m以上になることが分かっている。また、前記実験条件中のノズルプレート12の厚さとは、本実施形態の場合は、ノズル11の小径部14の長さと大径部15の長さの和に等しい。
【0088】
一方、体積抵抗率が1015Ωm以上の絶縁体を用いてノズルプレート12を作製しても、ノズル11から液滴Dが吐出されない場合がある。下記実施例1に示すように、液体Lとして水などの導電性溶媒を含有する液体を用いた実験では、ノズルプレート12の液体の吸収率が0.6%以下であることが必要であることが分かった。
【0089】
これは、ノズルプレート12が液体L中から導電性溶媒を吸収すると導電性の液体である水分子等の分子が本体絶縁性であるノズルプレート12内に存在することになるため、結果的にノズルプレート12の電気伝導度が高くなり、特に液体Lに接する局部の実効的な体積抵抗率の値が低下し、図5に示す関係に従ってメニスカス先端部の電界強度が弱まり、液体Lの吐出に必要な電界集中が得られなくなるためと考えられる。
【0090】
一方、下記実施例1によれば、液体Lとして導電性溶媒を含まない絶縁性溶媒に帯電可能な粒子を分散した液体を用いた場合には、ノズルプレート12は、その液体に対する吸収率に係わりなく体積抵抗率が1015Ωm以上であれば液体Lを吐出することが分かった。これは、絶縁性溶媒がノズルプレート12内に吸収されても絶縁性溶媒の電気伝導度が低いためノズルプレート12の電気伝導度が大きく変化せず、実効的な体積抵抗率が低下しないためであると考えられる。
【0091】
なお、前記絶縁性溶媒に分散されている帯電可能な粒子は、例えば、電気伝導度が極めて大きな金属粒子であってもノズルプレート12には吸収されないため、ノズルプレート12の電気伝導度を高めることはない。なお、前記絶縁性溶媒とは、単体では静電吸引力により吐出されない溶媒をいい、具体的には、例えば、キシレンやトルエン、テトラデカン等が挙げられる。また、導電性溶媒とは、電気伝導度が10−10S/cm以上の溶媒をいう。
【0092】
また、前記シミュレーションにおいて、ノズルプレート12の厚さを変化させた場合およびノズル径を変化させた場合のメニスカス先端部の電界強度を、図6および図7にそれぞれ示す。この結果から、メニスカス先端部の電界強度は、ノズルプレート12の厚さおよびノズル径にも依存し、それぞれ75μm以上および15μm以下であることが好ましい。なお、ノズルプレート12の厚さおよびノズル径の前記適正範囲は、下記実施例2に示すように実機による実験でも確認されている。
【0093】
メニスカス先端部の電界強度がノズルプレート12の厚さに依存する理由としては、ノズルプレート12の厚さがより厚くなることで、ノズル11の吐出孔13と帯電用電極16との距離が遠くなり、ノズルプレート内の等電位線が略垂直方向に並び易くなるためメニスカス先端部への電界集中が生じ易くなることが考えられる。
【0094】
また、ノズル径が小径になることで、メニスカスの径が小さくなり、より小径となったメニスカス先端部に電界が集中することで電界集中の度合が大きくなる。そのため、メニスカス先端部の電界強度が強くなると考えられる。
【0095】
なお、図6に示したノズルプレート12の厚さとメニスカス先端部の電界強度との関係および図7に示したノズル径とメニスカス先端部の電界強度との関係は、本実施形態のような小径部14および大径部15よりなる2段構造のノズル11の場合のみならず、1段構造、すなわち、単純なテーパ状のノズルや円筒状のノズル、或いは多段構造のノズルの場合もほぼ同じシミュレーション結果が得られている。
【0096】
さらに、前記シミュレーションにおいて、小径部14および大径部15の区別がないテーパ状または円筒状の1段構造のノズル11において、ノズル11のテーパ角を変化させた場合のメニスカス先端部の電界強度の変化を図8に示す。この結果から、メニスカス先端部の電界強度は、ノズル11のテーパ角に依存することが分かる。ノズル11のテーパ角は30°以下であることが好ましい。なお、テーパ角とはノズル11の内面とノズルプレート12の吐出面30とのなす角のことをいい、テーパ角が0°の場合はノズル11が円筒形状であることに対応する。
【0097】
次に、本実施形態の液体吐出装置1を用いて本発明に係る液体吐出方法について説明する。
【0098】
先ず、待機時においては、動作制御手段25は、ノズルプレート12と対向電極3との間隔dが1mmとなるように接離手段31の接離用駆動源32を制御している(図9(a))。
ここで、動作制御手段25は、液体吐出前の初期動作としてノズルプレート12に電荷を帯電するために、動作制御手段25は、接離用駆動源32を制御して、間隔dを1mmから300μmまで狭め、この状態で静電電圧電源17を制御して、静電電圧電源17から帯電用電極16に一定の静電電圧Vを印加させる(帯電工程:図9(b))。
【0099】
印加してから1秒経過すると、動作制御手段25は、静電電圧Vを印加したままで接離用駆動源32を制御して、間隔dを300μmから1mmに広げて、液体吐出工程に移行する(図9(c))。
【0100】
液体吐出工程について図10を参照にして説明する。
まず、液体吐出ヘッド2の各ノズル11には常時一定の静電電圧Vが印加されていると、ノズル11の吐出孔13の液体Lと対向電極3の対向面との間に定常的な電界が生じる。
【0101】
動作制御手段25は、液滴Dを吐出させるべきノズル11ごとに、そのノズル11に対応する駆動電圧電源24からピエゾ素子23に対して電圧値Vを有するパルス状の駆動電圧を印加させる。
【0102】
このような駆動電圧が印加されると、ピエゾ素子23が変形して、ノズル内部の液体Lの圧力を上げる。そのため、ノズル11の吐出孔13では、図10中Aの状態からメニスカスが隆起し始め、Bのようにメニスカスが隆起した状態となる。
【0103】
すると前述したように、メニスカス先端部に高度な電界集中が生じて電界強度が非常に強くなり、メニスカスに対して静電電圧Vにより形成された定常的な電界から強い静電力が加わる。この強い静電力による吸引とピエゾ素子23による圧力、及び液体Lの表面張力とにより図10中Cのようにメニスカスが引きちぎられて液滴Dが形成される。液滴Dは、定常的な電界で加速されて対向電極方向に吸引され、対向電極3に支持された基材Kに着弾する。
【0104】
その際、液滴Dには空気の抵抗等が加わるが、前述したように、静電力の作用で液滴Dはより近い所に着弾しようとするため、基材Kに対する着弾方向がぶれることなく安定し、基材Kに正確に着弾する。
【0105】
本実施形態では、静電電圧電源17から帯電用電極16に印加される一定の静電電圧Vは1.5kVに設定されており、駆動電圧電源24からピエゾ素子23に印加されるパルス状の電圧の電圧値はV=20Vに設定されている。
【0106】
なお、ピエゾ素子23に印加する駆動電圧Vとしては本実施形態のようにパルス状の電圧とすることも可能であるが、この他にも例えば電圧が漸増した後漸減するいわば三角状の電圧や、電圧が漸増した後一旦一定値を保ちその後漸減する台形状の電圧、或いはサイン波の電圧を印加するように構成することも可能である。また図11(A)に示すように、ピエゾ素子23に定常電圧Vを印加しておいて一旦切り、再度電圧Vを印加して、その立ち上がり時に液滴Dを吐出させるようにしてもよい。また、図11(B)、(C)に示すような種々の駆動電圧Vを印可するように構成してもよい。
【0107】
また、本実施形態では、ピエゾ素子23の変形により形成されたメニスカスを静電吸引力で分離して液滴化し、静電電圧Vによる定常的な電界で加速して基材Kに着弾させる構成としているが、この他にも、例えば、ピエゾ素子23の変形による圧力のみで液体Lが液滴化する程度の強い駆動電圧を印加するように構成することも可能である。
【0108】
液体吐出工程の途中に、吐出面のクリーニングタイミングになると、動作制御手段25は、駆動電圧電源24を制御してピエゾ素子23に対する印加を停止させる。その後動作制御手段25は、接離用駆動源32を制御して、間隔dを1mmから、ブレード41が吐出面全面をワイプできる間隔まで広げている。間隔dが広げられると、動作制御手段25は、ブレード41の先端が吐出面に接触した状態で吐出面全面をワイプするように、移動部42の駆動源43を制御する(ワイプ工程:図9(d))。これにより、吐出面に付着した液体をブレード41によって除去されることになる。
【0109】
ワイプ工程が完了すると、動作制御手段25は、ノズルプレート12に電荷を帯電するために、接離用駆動源32を制御して、間隔dを300μmまで狭め、この状態で静電電圧電源17を制御して、静電電圧電源17から帯電用電極16に一定の静電電圧Vを印加させる(帯電工程:図9(e))。
【0110】
印加してから1秒経過すると、動作制御手段25は、静電電圧Vを印加したままで接離用駆動源32を制御して、間隔dを300μmから1mmに広げて、液体吐出工程を再開する(図9(f))。
【0111】
以上のように、本実施形態によれば、帯電工程でノズルプレート12に電荷が帯電されると、吐出時の電圧を高めなくとも電界強度を強くすることができ、吐出不良を防止することができる。特に、液体吐出前にノズルプレート12に十分な電荷が帯電されていないと、吐出不良が生じる可能性が解消されないが、上述のように帯電のタイミングを液体吐出前に設定していれば吐出不良を確実に防止することができる。また、ノズルプレート12に十分な電荷が帯電されていても、ワイパ手段40によって吐出面がワイプされてしまうと、蓄えられていた電荷が大量に失われてしまい、吐出不良が生じてしまうものの、上述のように帯電のタイミングをワイプ後に設定していればワイプによる吐出不良を確実に防止することができる。このように、吐出不良を防止できれば、液体吐出の安定性を高めることができる。
【0112】
また、帯電時にノズルプレート12及び対向電極3の間隔を液体吐出時よりも狭めているので、単位時間に蓄えられる電荷を多くすることができ、結果的に帯電時間を短縮することが可能となる。特に、帯電時におけるノズルプレート12と対向電極3との間隔が300μm以下に設定されているので、液体吐出に必要な電荷をより短時間で帯電することができる。
【0113】
なお、本実施形態では、ノズル内の液体Lに圧力を生じさせ、ノズル11の吐出孔13に液体Lのメニスカスを形成する圧力発生手段としてピエゾ素子23の変形を用いる場合について示したが、圧力発生手段はこの機能を有するものであればよく、この他にも、例えば、ノズル11やキャビティ19の内部の液体Lを加熱するなどして気泡を生じさせ、その圧力を用いるように構成することも可能である。
【0114】
また、本実施形態では、対向電極3を接地する場合について述べたが、例えば、電源から対向電極3に電圧を印加して、帯電用電極16との電位差が1.5kV等の所定の電位差になるようにその電源を動作制御手段25で制御するように構成することも可能である。
【0115】
そして、本実施形態では、接離手段31によりノズルプレート12と対向電極3との間隔を狭めることで短時間の帯電を行う場合について説明したが、静電電圧電源17の電圧を吐出時と帯電時とで異ならせれば、ノズルプレート12及び対向電極3を接離させなくとも帯電することができる。例えば、動作制御手段25が静電電圧電源17の電圧を調整する電圧調整手段の機能を兼ね備えるようにすれば、液体吐出時の電圧値よりも帯電時の電圧値を高くすることで短時間での帯電が可能となる。なぜなら上記したようにノズルプレート12に蓄えられる電荷(Q)はQ=(ε・S/d)・Vであるので、Vが大きければ蓄えられる電荷も多くなることからである。ここで、動作制御手段25は、帯電時における電圧値を液体吐出時における電圧値に対してノズルプレート12の比誘電率倍以上にしている。このように帯電時における電圧値が液体吐出時の電圧値に対してノズルプレート12の比誘電率倍以上に設定されていれば、液体吐出に必要な電荷をより短時間で帯電することができる。ここで、ノズルプレート12の比誘電率は2以上10以下であることが好ましい。
なお、ここでは動作制御手段25が電圧調整手段の機能を兼ね備える場合を例示して説明したが、動作制御手段25と電圧調整手段は別体であっても構わない。
【0116】
そして、本実施形態では、帯電工程と液体吐出工程における間隔dが異なる場合を例示して説明したが、間隔dが一定であってもよい。こうした場合間隔dは300μm以下であることが好ましい。
【0117】
帯電工程の条件はノズルプレート12の材質の誘電率と導電率よりシミュレーションにより吐出条件と同じ電界強度となる条件(間隔d、印可電圧、印可時間)を求めることができる。別の方法として間隔dを段階的に順次狭め、各段階の吐出状態を検出することにより吐出に必要な電界強度に達し十分な電荷がノズルプレート12に帯電されたことを確認し、正規の間隔に広げる方法もとることができる。電圧値を調整して帯電する場合においても電圧値を段階的に異ならせて吐出状態を検出することにより求めることができる。
また、帯電時においては間隔dの調整及び電圧値の調整の併用も可能であるが、この場合、間隔dを調整して帯電する方の比率を高めた方がスパーク放電の発生しやすさ、安全性面から好ましい。
【実施例】
【0118】
本実施形態の液体吐出装置1で液体を吐出させて、その吐出状態を比較検討した。なお、比較例1〜3及び実施例1〜6は通常の液体吐出であり、比較例4〜6及び実施例7〜12はワイプ工程後の液体吐出である。
比較例1、4では帯電を行わずに間隔dを1mm、印加電圧を1.5kvとして液体吐出を行った。
比較例2、5では帯電を行わずに間隔dを1mm、印加電圧を4kvとして液体吐出を行った。
実施例3、6では間隔dを1mm、印加電圧1.5kvで帯電を行った後に、間隔dを1mm、印加電圧を1.5kvとして液体吐出を行った。
【0119】
実施例1、7では間隔dを0.4mm、印加電圧1.5kvで帯電を行った後に、間隔dを1mm、印加電圧を1.5kvとして液体吐出を行った。
実施例2、8では間隔dを0.3mm、印加電圧1.5kvで帯電を行った後に、間隔dを1mm、印加電圧を1.5kvとして液体吐出を行った。
実施例3、9では間隔dを0.2mm、印加電圧1.5kvで帯電を行った後に、間隔dを1mm、印加電圧を1.5kvとして液体吐出を行った。
【0120】
実施例4、10では間隔dを1mm、印加電圧3kvで帯電を行った後に、間隔dを1mm、吐出時の印加電圧を1.5kvとして液体吐出を行った。
実施例5、11では間隔dを1mm、印加電圧4kvで帯電を行った後に、間隔dを1mm、吐出時の印加電圧を1.5kvとして液体吐出を行った。
実施例6、12にでは間隔dを1mm、印加電圧5kvで帯電を行った後に、間隔dを1mm、吐出時の印加電圧を1.5kvとして液体吐出を行った。
【0121】
なお、比較例1〜6及び実施例1〜12の共通の条件としては、ノズルプレート12は撥液加工をした125μm厚のポリエチレンテレフタレートシートである。このノズルプレート12にレーザー加工により、テーパ角4°の一段テーパ形状で最少径部分のノズル内径が10μmのノズルを形成した。そして駆動電圧は20Vとした。また、液体Lは、水を47%エチレングリコールとプロピレングリコールを夫々22%界面活性剤を1%染料(CIアシッドレッド1)を3%含有する液体とした。
【0122】
表1及び表2に評価結果を示す。
【表1】

【0123】
【表2】

【0124】
表1にも示すように、比較例1、4では吐出できず、比較例2、5では液体の飛散が大きく吐出状態が不安定であった。比較例3、6では吐出状態は安定していたものの、帯電時間が30時間もかかってしまった。
【0125】
一方、実施例1、4、7、10では吐出状態が不安定であったものの、実施例2、3、5、8、9、11では吐出状態が安定していた。実施例6、12では吐出状態は安定していたものの帯電時にスパークが発生してしまった。
【0126】
この結果から帯電時の印加電圧が一定であれば間隔dを0.3mm以下として帯電を行った後に、1mmに戻しても液体吐出をすれば安定した液体吐出が可能な状態になったことが分かる。また、帯電時の間隔dが一定であるときには液体吐出時の印加電圧に対してノズルプレート12の材質の比誘電率倍以上の印加電圧をかけて帯電すれば吐出状態が安定することが分かる。なお、本実験では帯電時の印加電圧が高すぎた場合、スパークの発生が観察された。
液体吐出時の間隔dを1mmとした理由は、間隔dが1mmあれば紙のばたつきなど基材の搬送に問題なく対応できるためである。間隔dが1mm未満であっても安定吐出可能であるが、間隔dが1mmの条件で搬送時に基材と液体吐出ヘッド2との接触がなく良好な搬送性を示した。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】本実施形態に係る液体吐出装置の全体構成を示す断面図である。
【図2】図1の液体吐出装置に備わるノズルの変形例を表す断面図である。
【図3】メニスカス先端部の電界強度と帯電時間との関係を表す帯電時間−電界強度線図である。
【図4】シミュレーションによるノズルの吐出孔付近の電位分布を示す模式図である。
【図5】メニスカス先端部の電界強度とノズルプレートの体積抵抗率との関係を示す図である。
【図6】メニスカス先端部の電界強度とノズルプレートの厚さとの関係を示す図である。
【図7】メニスカス先端部の電界強度とノズル径との関係を示す図である。
【図8】メニスカス先端部の電界強度とノズルのテーパ角との関係を示す図である。
【図9】本実施形態の液体吐出装置における各工程の状態を表せ説明図である。
【図10】本実施形態の液体吐出装置における液体吐出ヘッドの駆動制御を説明する図である。
【図11】本実施形態の液体吐出装置におけるピエゾ素子に印加する駆動電圧の変形例を表す図である。
【符号の説明】
【0128】
1 液体吐出装置
2 液体吐出ヘッド
3 対向電極
10 ヘッド本体部
11 ノズル
12 ノズルプレート
13 吐出孔
14 小径部
15 大径部
16 帯電用電極
17 静電電圧電源
18 ボディ層
19 キャビティ
20 可撓層
23 ピエゾ素子
24 駆動電圧電源
25 動作制御手段
26 CPU
27 ROM
28 RAM
29 撥液層
30 吐出面
31 接離手段
32 接離用駆動源
40 ワイパ手段
41 ブレード
42 移動部
43 駆動源
D 液滴
K 基材
L 液体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材を支持する対向電極と、
前記対向電極に対向するフラットなノズルプレートに形成されたノズルから液体を吐出するために、前記ノズルの吐出口に液体のメニスカスを形成する圧力発生手段及び前記ノズルプレートを介して前記対向電極に対向する帯電用電極により前記ノズルの液体に静電電圧を印加する静電電圧印加手段を有する液体吐出ヘッドと、
前記ノズルプレートに電荷を帯電させる帯電手段と、
前記圧力発生手段、前記静電電圧印加手段及び前記帯電手段を制御する動作制御手段とを備え、
前記動作制御手段は、前記圧力発生手段、前記静電電圧印加手段及び前記帯電手段を制御して、初期動作として前記ノズルプレートに電荷を帯電させることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
請求項1記載の液体吐出装置において、
前記ノズルプレートの吐出面に接触して相対的に移動することで前記吐出面をワイプするワイパ手段を備え、
前記動作制御手段は、前記ワイパ手段を制御して、前記ワイパ手段による前記吐出面のワイプ後に前記ノズルプレートに電荷を帯電させることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項3】
請求項2記載の液体吐出装置において、
前記動作制御手段は、前記静電電圧印加手段を制御して、前記ワイパ手段による前記吐出面のワイプ時に前記静電電圧の印加を停止することを特徴とする液体吐出装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の液体吐出装置において、
前記ノズルプレートは絶縁性があり、かつ比誘電率が2以上10以下であることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載の液体吐出装置において、
前記帯電手段は、前記動作制御手段の制御に基づいて、前記ノズルプレート及び前記対向電極を相対的に接離させる接離手段であり、
前記動作制御手段は、前記帯電時に前記接離手段を制御して、前記ノズルプレート及び前記対向電極の間隔を前記液体吐出時よりも狭めることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の液体吐出装置において、
前記帯電時における前記間隔を300μm以下とすることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項7】
請求項1〜4の何れか一項に記載の液体吐出装置において、
前記帯電手段は、前記動作制御手段の制御に基づいて、前記静電電圧印加手段の電圧を調整する電圧調整手段であり、
前記動作制御手段は、前記帯電時に前記電圧調整手段を制御して、前記静電電圧印加手段の電圧を前記液体吐出時よりも高くすることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項8】
請求項7記載の液体吐出装置において、
前記動作制御手段は、前記電圧調整手段を制御して、前記帯電時における電圧値を前記液体吐出時における電圧値に対して前記ノズルプレートの比誘電率倍以上にすることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項9】
対向電極に支持された前記基材に対向するフラットなノズルプレートに電荷を帯電させる帯電工程の後に、
前記ノズルプレートに形成されたノズルの吐出口に液体のメニスカスを形成するとともに、液体に静電電圧を印加することで、液体を吐出する液体吐出工程を行うことを特徴とする液体吐出方法。
【請求項10】
請求項9記載の液体吐出方方法において、
前記吐出工程後に、前記ノズルプレートの吐出面に接触して相対的に移動することで前記吐出面をワイプするワイプ工程を行い、
前記帯電工程では、前記ワイプ工程の後に前記ノズルプレートに電荷を帯電させることを特徴とする液体吐出方法。
【請求項11】
請求項10記載の液体吐出方法において、
前記ワイプ工程では、前記静電電圧の印加が停止されていることを特徴とする液体吐出方法。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれか一項に記載の液体吐出方法において、
前記ノズルプレートが絶縁性であり、かつ比誘電率が2以上であることを特徴とする液体吐出方法。
【請求項13】
請求項9〜12の何れか一項に記載の液体吐出方法において、
前記帯電工程では、前記ノズルプレート及び前記対向電極の間隔を前記液体吐出工程よりも狭めることを特徴とする液体吐出方法。
【請求項14】
請求項9〜13記載の液体吐出方法において、
前記帯電工程での前記間隔は300μm以下であることを特徴とする液体吐出方法。
【請求項15】
請求項9〜12の何れか一項に記載の液体吐出方法において、
前記帯電工程では、前記液体吐出時の電圧値よりも電圧を高くすることを特徴とする液体吐出方法。
【請求項16】
請求項15記載の液体吐出方法において、
前記帯電工程における電圧値を前記液体吐出工程の電圧値に対して前記ノズルプレートの比誘電率倍以上にすることを特徴とする液体吐出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−175296(P2006−175296A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−368152(P2004−368152)
【出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】