説明

液体容器および液体吐出装置

【課題】 小型の、特に薄型の圧力調整弁を備え、液体収容率の高い液体容器、および液体容器を搭載する液体吐出装置を提供すること。
【解決手段】 軟質の弾性部材で扁平形状に形成された基体80と、硬質の弾性部材で薄板状に形成された作動体70を重ね合わせて、圧力調整弁40が構成される。作動体70は蓋部71とリード部72を有し、リード部72の一端であるリード基部73は基体上面92と接合固定される。蓋部71は、基体80に穿たれた孔部81の開口外縁部84と当接している。リード部72のバネ力によって発生する付勢力と、蓋部71の両面に働く液圧差から生じる作動力の関係によって、圧力調整弁としての機能が果たされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力調整弁を備えた液体容器、および圧力調整弁を備えた液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出装置としては、紙への印刷に適したインクジェットプリンタ等が知られており、一般的には、記録用紙の紙幅方向に往復動するキャリッジに印刷信号に対応して液滴(以下、インク滴とする)を吐出する記録ヘッドを搭載して、外部の液体容器(以下、インクカートリッジとする)から記録ヘッドにインクを供給するように構成されている。このようなインクカートリッジは、小型の記録装置にあっては、キャリッジに着脱可能に搭載できるように構成されている。
【0003】
インクカートリッジは記録ヘッドの上方に配置され、インクカートリッジに設けられた供給口を通してインクが供給されるようになっている。したがって、インクカートリッジに供給制御機能が備わっていない場合には、記録ヘッドのノズル面とインクカートリッジとの位置水頭差により、インクは際限なくノズルから漏れ出してしまうことになる。
このため、通常のインクカートリッジは、このような水頭差を打ち消して、ノズル開口の位置で適度なメニスカスが形成されるように、いわゆる負圧を発生させる機能を備えている。中でも圧力調整弁を備えたインクカートリッジは、安定した負圧を発生させることができ、有用である。
【0004】
このようなインクカートリッジとして、特許文献1に記載するようなものがある。このインクカートリッジは、中央に貫通孔を有した膜体と、貫通孔を閉塞するための部材である弁体とを組み合わせて弁を構成しており、弁の上流室と下流室との差圧が所定値以上になると膜体が作動して、弁の開閉がなされるようになっている。
【0005】
【特許文献1】特開平8−174860号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上述の文献に係るインクカートリッジは、膜体、弁体、および弁体を膜体に密着させるための付勢力を発生させる支持体を、立体的に配置した構造となっているため、圧力調整弁が大型化して、インク収容率を十分に上げることができないという課題がある。
【0007】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたもので、小型の、特に薄型の圧力調整弁を備え、液体収容率の高い液体容器、および圧力調整弁を備えた液体吐出装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的は、所定の差圧で作動する圧力調整弁を備えた液体容器であって、軟質の弾性部材で扁平形状に形成され、当該扁平な一面に開口を有して形成された孔部を備えた基体と、硬質の弾性部材で薄板状に形成され、前記孔部の開口形状に対応した蓋部と、前記蓋部の縁から延出したリード部、とを有する作動体と、を備え、前記リード部の前記蓋部とは反対側の一端部であるリード基部は固定され、前記蓋部が前記孔部の開口外縁部に接離可能に当接して、前記圧力調整弁を構成することを特徴とする液体容器により達成される。
【0009】
この液体容器は、作動体に形成された蓋部が、基体に形成された孔部の開口に蓋をするように、圧力調整弁を構成している。ここで、孔部は、基体を肉厚方向に貫通していてもよいし、有底ものであってもよい。このとき蓋部に一体に形成されたリード部は変形することでバネとして機能し、蓋部はこのバネの働きにより、基体の開口外縁部に密着するように付勢されている。孔部の開口において、作動体の一面側と他面側との差圧が所定値を超えると、当該付勢力に打ち勝って作動体が外縁部から離れ、基体側から作動体側へ液体が流れる。すなわち、圧力調整弁が作動する差圧は、孔部開口の面積とリード部のバネ力によって決定されている。液体が流れることにより当該差圧が当該所定値より小さくなると、再び蓋部は外縁部に密着する。
この液体容器の構成によれば、薄板状の作動体と扁平形状の基体を積層させるように組み合わせることで、非常に薄い構造の圧力調整弁を備えた、液体容器を提供することができる。
【0010】
上述の目的を達成するための液体容器は、前記基体は、前記孔部の側面から前記基体の肉厚方向に略直交する方向に沿って形成された溝である連通部を備えていることを特徴とする。
【0011】
この液体容器によれば、基体に形成された連通部によって、肉厚方向に直交する方向への液体の流路を構成することができる。ここで、連通部を形成するための溝は、基体を肉厚方向に貫通したものであってもよいし、有底ものであってもよい。溝によって形成されたこの流路を利用して液体容器を構成することで、さらに薄型の液体容器を提供することができる。
【0012】
また、このような液体容器についての好ましい形態として、前記基体は、前記孔部の側面から前記肉厚方向に略直交する方向に沿って形成された溝である連通部を備えていて、前記連通部を構成するための溝は、前記肉厚方向に貫通して形成され、前記作動体の一面が前記連通部の一底をなして、流路を構成することを特徴とする。
この液体容器における基体は、薄板状の部材をプレス等で打ち抜いて簡単に製造することができるため、非常に薄型の液体容器を提供することができる。
【0013】
上述の目的を達成するための液体容器は、前記開口外縁部近傍において、前記リード部と前記基体との干渉を防止する凹部であるリード退避部を備えていることを特徴とする。
【0014】
開口外縁部と蓋部との当接箇所は、圧力調整弁を構成する重要な部分であり、この箇所の密着性は、圧力調整弁の働きに重大な影響を及ぼす。すなわち、密着性が不十分である場合には、所定差圧に達する前に液体が孔部内から開口外部へ流れ出してしまい、弁としての機能を十分に果たせなくなってしまう。
作動体のリード部は、蓋部に付勢力を与えるために必要なものであるが、蓋部近傍のリード部が基体と干渉してしまうと、その干渉した箇所において抗力が働くため、蓋部と開口外縁部の密着性を低下させてしまう原因ともなる。この液体容器は、開口外縁部において、リード部と基体との干渉を防止するための凹部であるリード退避部を設けているため、蓋部と開口外縁部が確実に密着し、信頼性の高い液体容器を提供することができる。
【0015】
上述の目的を達成するための液体容器は、前記基体は、発泡性部材で形成されていることを特徴とする。
【0016】
基体に発泡性の部材を用いることにより、基体が軟らかく、変形しやすくなって、蓋部と開口外縁部とが確実に密着する。この構成により、信頼性の高い液体容器を提供することができる。
【0017】
上述の目的を達成するための液体容器は、前記開口外縁部において、前記基体は薄肉構造を有することを特徴とする。
【0018】
開口外縁部において、基体が薄肉構造となっていることにより、開口外縁部の表面が軟らかく、変形しやすくなって、蓋部と開口外縁部とが確実に密着する。この構成により、信頼性の高い液体容器を提供することができる。
【0019】
上述の目的を達成するための液体容器は、前記開口外縁部において、前記孔部の開口の外周方向に沿って形成された溝である外縁溝部を備えることを特徴とする。
【0020】
開口外縁部において、開口外縁部の剛性を弱くする外縁溝部が形成されていることにより、当該接触面における基体の変形が容易になって、密着性が向上する。この構成により、信頼性の高い液体容器を提供することができる。
【0021】
上述の目的を達成するための液体容器は、前記リード部は、屈曲形状を有していることを特徴とする。
【0022】
リード部は、その撓みによるバネ作用によって、蓋部と開口外縁部とを密着させる付勢力を発生させるが、直線的なリード部の場合、リード部の変形に応じて蓋部が(開口外縁部に対して)傾いてしまうといった構造的な課題を有する。そしてこのような構造は、蓋部と開口外縁部とを密着させた弁の構成において、弁の開閉動作を確実なものとするのに、必ずしも好適ではない。
この液体容器の構成によれば、リード部が屈曲形状を有しているため、その屈曲している部位のねじれが上述した蓋部の傾きを補償させ、信頼性の高い弁の開閉を実現することができる。
【0023】
また、このような屈曲形状のリード部を有する液体容器の好ましい形態として、前記リード部は、前記蓋部の縁から前記リード基部にかけて、延出する向きが折り返されて構成されていることを特徴とする。
この液体容器の構成によれば、屈曲箇所の一方側のリード部と他方側のリード部とで、その撓みに伴って生じるリード部の傾きが、互いに相殺するように作用するため、当該傾きを補償する効果が大きい。
【0024】
上述の目的を達成するための液体容器は、前記作動体は対をなした二つのリード部を有し、前記対をなした二つのリード部が前記蓋部の縁から延出する箇所は、前記蓋部の略中心に対して点対称な位置関係であることを特徴とする。
【0025】
片持ち式のリード部の場合には、蓋部を付勢する力のかかり方が蓋部の外縁方向に対して不均等になってしまうため、蓋部と開口外縁部を密着させるのに必ずしも適してはいない。この液体容器の構成によれば、対をなすリードによってリード部が構成されているので、蓋部の外縁方向に対して均等な付勢力を与えることができ、蓋部と開口外縁部とを好適に密着させることができる。
【0026】
上述の目的は、所定の差圧で作動する圧力調整弁を備えた液体吐出装置であって、軟質の弾性部材で扁平形状に形成され、当該扁平な一面に開口を有して形成された孔部を備えた基体と、硬質の弾性部材で薄板状に形成され、前記孔部の開口形状に対応した蓋部と、前記蓋部の縁から延出したリード部、とを有する作動体と、を備え、前記リード部の前記蓋部とは反対側の一端部であるリード基部は固定され、前記蓋部が前記孔部の開口外縁部に接離可能に当接して、前記圧力調整弁を構成することを特徴とする、液体吐出装置により達成される。
【0027】
この液体吐出装置の構成によれば、リード部が一体に形成された薄板状の作動体と扁平形状の基体を合わせることで、非常に薄い構造の圧力調整弁を備えた、液体容器を搭載する液体吐出装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
なお、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。
【0029】
まず、図1を参照して、液体吐出装置の全体構成の説明を行う。
液体吐出装置は、色材等を含んだ液体(以下、インクとする)を収容した液体容器としてのインクカートリッジを搭載し、紙等の印刷媒体に印刷を行うための装置である。
【0030】
図1は、本発明に係る液体吐出装置の一例を表す概略斜視図である。
液体吐出装置としてのプリンタ100は、キャリッジ51を有している。キャリッジ51は、タイミングベルト52を介してキャリッジ機構53のキャリッジモータ54に接続されており、ガイド部材55に案内されて印刷用紙56(印刷媒体)の紙幅方向に往復動する。
プリンタ100は、紙送りローラ57を用いた紙送り機構58も有している。キャリッジ51には印刷用紙56と対向する面、この図に示す例では下面に液体吐出ヘッドとしての印刷ヘッド60が取り付けられている。印刷ヘッド60は、キャリッジ51の上に保持されているインクカートリッジ1K、1Y、1LM、1M、1LC、1Cからインクの補給を受け、キャリッジ51の移動に合わせて印刷用紙56にインク滴を吐出してドットを形成し、印刷用紙56に画像や文字を印刷する。
インクカートリッジ1K、1Y、1LM、1M、1LC、1Cには、それぞれ、黒(K)、イエロー(Y)、ライトマゼンタ(LM)、マゼンタ(M)、ライトシアン(LC)、シアン(C)、のインクがそれぞれ収容されている。そして、それぞれのインクカートリッジから印刷ヘッド60に各色のインクが供給され、印刷ヘッド60から各色のインク滴として吐出されてカラー印刷が実現される。
プリンタ100において、インクカートリッジ1K、1Y、1LM、1M、1LC、1Cの基本的な構造は共通する。そこで、以下では、インクカートリッジ1Kを例にインクカートリッジの構造について説明する。
【0031】
まずは、インクカートリッジの外観と、プリンタ本体への装着に関して説明する。図2(a)はインクカートリッジの外観を示す概略斜視図である。
図2(a)において、インクカートリッジ1Kの外観は、内部にインクを収容する合成樹脂製の容器体3と、インクを導出するためのインク供給部5と、容器体内部の液室を外気に通じさせるための大気開放部9とを備えている。また、プリンタ搭載時においてインクカートリッジ1Kを固定させるための突起6およびフック7と、インクカートリッジ1Kの諸情報を記憶した記憶素子8を備えている。
【0032】
図2(b)は、プリンタ本体側のカートリッジ装着部の構造を示す概略斜視図である。カートリッジ装着部30は、図1のキャリッジ51に取り付けられていて、インクカートリッジ1Kを保持すると共に、プリンタ本体とインクカートリッジ1Kとのインターフェースとしての役割を果たす。
図2(b)において、カートリッジ装着部30には、インクカートリッジ1Kを装着する空間の底部31に針32が上向きに配置されている。針32には、針孔(図示せず)が設けられており、この針孔は印刷ヘッドに連通している。また、この針32の周りは凹部33となっていて、インクカートリッジ1Kのインク供給部と嵌合するようになっている。カートリッジ装着部30の壁34には、コネクタ35が固定されている。
【0033】
ここで、カートリッジ装着部30に対してインクカートリッジ1Kが装着される動作について説明する。
まず、カートリッジ装着部30の近傍にインクカートリッジ1Kを配置する。カートリッジ装着部30の壁34の篏合孔36の位置に、インクカートリッジ1Kの突起6を合わせる。続いて、容器体3の上面をカートリッジ装着部30の底部31側へ押し下げると、フック7がそのバネ性によりたわみ、突起6が嵌合孔36に嵌合すると共に、フック7部に設けられた爪部10が、カートリッジ装着部30の壁37に設けられた嵌合孔38部に嵌合する。
このとき、インクカートリッジ1Kのインク供給部5は凹部33に嵌合し、凹部33内の針32に設けられた針孔(図示せず)を通してインクの供給路が形成される。また、大気開放部9の空気弁が、カートリッジ装着部30の図示されていないピンに押されて開き、容器内の液室は外気に通じた状態となる。この状態において、インクの供給が可能となる。
また、このとき、インクカートリッジ1Kの記憶素子8の端子とコネクタ35とは電気的に接続された状態にあり、プリンタ本体とインクカートリッジ1Kとの間でインク色、インク残量等の諸情報の授受が可能となる。
【0034】
次に図3、図4を参照して、インクカートリッジの内部構造について説明する。図3はインクカートリッジの内部構造を示す概略断面図である。尚、図3において、インクカートリッジ1Kにはインクは充填されていない。
容器体3の扁平な面を構成する容器側壁部45と、容器側壁部45に略垂直な面を構成する外周壁部47によって囲まれた空間は、インクを貯留するための液室となっている。この液室はさらに、隔壁46によって上流室41と下流室42とに分かれており、隔壁46には、上流室41と下流室42とを接続するための分室連通路43が設けられている。
上流室41は、先に説明した大気開放部と連通する液室であり、大気開放部から空気を導入する代わりに、分室連通路43を通して内部のインクを下流室42に導出することができる。下流室42からは、インク供給部5の底面部に設けられた供給口11、および図2(b)の針32を通して、印刷ヘッドにインクを供給することができる。分室連通路43の下流室側の開口部には、圧力調整弁40が取り付けられており、上流室41から下流室42へのインクの移動は、この圧力調整弁40を介して行われる。ここで、先に、圧力調整弁40の機能について説明する。
【0035】
液体吐出装置が未動作の状態において、圧力調整弁40の弁は閉じた状態にある。ここで、液体吐出装置に対して、例えば印刷命令が出されると、印刷ヘッドは下流室42からのインクの供給を受けて、ノズル開口から液体を吐出させる。
下流室42内のインクが減少するにつれて、下流室42内の液圧は低下し、圧力調整弁40の上流室側と下流室側の液圧差は上昇する。そして、当該液圧差が所定値を超えると、圧力調整弁40の弁が開き、その液圧差によって上流室41から下流室42へインクが移動する。すると、当該移動よって液圧の差が補償され、再び弁が閉じて、インクの移動が規制される。このような動作を繰り返して、上流室41と下流室42の間において、液室の圧力差を一定に保つ役割を果たしている。すなわち、圧力調整弁40は、上流室側と下流室側のインクの移動を許容または規制する開閉弁としての機能と、その弁の開閉を上流室側と下流室側の液圧差(差圧)に応じて制御する制御機能の、二つの機能を果たしている。
【0036】
図4は、圧力調整弁40の詳細を示す概略分解斜視図である。
圧力調整弁40は、扁平形状に形成した基体80と、薄板状に形成した作動体70とから構成される。ここで、基体80は、軟質のゴム部材、例えば、シリコンゴムやエラストマー、ウレタン等を成型して形成される。本実施形態では、特に、発泡成型により、単泡性の空隙を有したエラストマーで基体80が形成されている。
作動体70は、柔軟なバネ性と耐腐食性に優れた金属、例えば、ステンレスをプレス加工して形成される。本実施形態では、金属の材質として、特に、SUS304を選択している。尚、作動体70の材質はステンレスに限定するものではなく、例えば、バネ性の優れたりん青銅に、ニッケルメッキや金メッキ等を施して耐腐食性を向上させて用いることもできる。
【0037】
基体80は扁平で一定の肉厚を持った部材であり、その基体上面92および基体底面90はほぼ平面をなしていて、円柱状の孔形成部88から連通路形成部89が細長く延出した外形をしている。連通路形成部89の一端側は挿入部86と呼ばれ、図3に示すように、分室連通路43に挿入されて固定される。また、基体底面90は、図3に示すように、容器側壁部45に接着固定される。尚、孔形成部88と連通路形成部89の上面は、本実施形態においては同じ高さとなっているが、このことは本発明の効果を得るための必須要件ではない。すなわち、孔形成部と連通路形成部とは、その肉厚を違えて構成してもよい。
孔形成部88の中央には、肉厚方向(Z軸方向)に貫通して、円形状に穿たれた孔部81を備えている。孔部81の開口85に隣接した外縁部分は、特に、開口外縁部84と呼ぶことにする。
連通路形成部89には、連通部82を備えている。連通部82は、基体底面90に臨んで開放された有底の溝によって、孔部81の側面から連通路形成部89の延出方向に向かって、連通路形成部89を貫通するように形成され、挿入部86の側には、連通開口部91を有している。連通部82は、基体底面90と接着固定される容器側壁部(図3参照)と共に連通路を構成し、以上の構成により、図3に示す分室連通路43から、圧力調整弁40の開口85までのインク流路が形成される。
基体上面92の挿入部86に近い位置には、位置決め穴87が対をなして形成されている。位置決め穴87は、後述する作動体70との接合固定において使用される。
【0038】
作動体70は、薄い板状の部材であり、基体80の開口85よりもやや大きな面積を有した略円形の蓋部71を備えている。蓋部71の縁からは、リード部72が細長く延出して形成されており、その端部はやや広がって、リード基部73を形成している。リード基部73には、位置決め穴77が対をなして形成されていて、対をなす二つの位置決め穴の大きさおよび間隔は、基体80側の位置決め穴87のそれと等しくなるようにしてある。
リード部72はその細長い形状によって、変形しやすくなっている。図では、直線的に描かれているが、リード部72は、実際はごくわずかに、図面上方に凸になるように塑性変形させてあり、後述する基体80との重ね合わせにおいて、バネ力を発生させるようになっている。
【0039】
圧力調整弁40は、図示するように、基体80と作動体70とが重ね合わさって構成される。すなわち、作動体70側の位置決め穴77と基体80側の位置決め穴87とを、一致するように位置を合わせ、位置決め穴77および位置決め穴87を貫いてピン等で、または、接着等を用いて、あるいは、これらの手段を併用して、リード基部73と、基体上面92の一部とを接合固定する。このとき、蓋部71の中心と、開口85の中心とは一致するようになっている。
この構成において、蓋部71の上流面75は、開口外縁部84と当接し、開口85を閉じるようになっている。蓋部71は、開口85よりも大きな面積を有しているため、少々中心の位置がずれたとしても、蓋部71は開口85を確実に閉じることができる。
蓋部71は、リード部72によってリード基部73から支持されていると共に、リード部72が発生するバネ力によって、開口外縁部84に当接する方向に付勢されている。リード部72が発生するバネ力は、作動体70の材質および厚み、リード部72の太さ、リード部72に初期的に与えている塑性変形量、リード基部73と蓋部71との位置(高さ)関係等によって決定され、蓋部71と開口外縁部84とを密着させるために好適な付勢力を発生させるように、これらの条件が決められている。かくして、基体80の開口85は蓋部71によって開閉可能となり、上述した開閉弁としての機能が果たされる。
【0040】
インクがインクカートリッジに充填され、上流室41と下流室42(図3参照)の液圧差が大きくなった状態においては、蓋部71の上流面75と下流面74とに作用する圧力の差によって、蓋部71を開口外縁部84から離隔させようとする力が働く。この力は、当該圧力差と、開口85の面積によって決定され、この力が前段落で述べた付勢力を上回ると、開口85が開かれる。逆の言い方をすれば、開口85の面積と付勢力を発生させるリード部72のバネ力の関係で、弁の開閉を規定する液圧差(差圧)が決められており、上述した制御機能が果たされている。
【0041】
本実施形態においては、開閉弁としての機能を果たすための重要な要件である、蓋部71と開口外縁部84の密着性について、密着性を向上させるためにいくつかの工夫がなされている。その工夫についてこれから説明する。
先にも説明したように、基体80は、発泡性の部材で形成されている。発泡によって生じる空隙によって、開口外縁部84の部位は柔らかく、変形が容易になり、弱い付勢力であっても、また、付勢力のかかり方にムラができたとしても、蓋部71と開口外縁部84とをしっかりと密着させることができる。
ここで、発泡によって形成される空隙は、単泡性のものであることが望ましい。ここで言う単泡性とは、空隙同士が独立して形成されている状態のことを指している。空隙が連続しているような連泡性の発泡性部材を用いると、その空隙によって連通流路が形成されてしまい、当該連通流路の位置や経路によっては、かえって密着性を低下させてしまったり、封止性を失ってしまったりする虞がある。本実施形態では、単泡性の発泡部材を用いることにより、このような問題を回避しつつ、蓋部71と開口外縁部84との密着性の向上を実現している。
【0042】
基体80の開口外縁部84に隣接した一部には、リード退避部83を備えている。リード退避部83は、基体上面92に凹部を設けて形成されており、このリード退避部83により、リード部72と蓋部71との接続部位であるリード接続部76が、基体上面92と干渉してしまうのを防止している。このような干渉が起こってしまうと、リード接続部76は基体上面92から抗力を受けてしまい、その近傍における蓋部71と開口外縁部84との密着力が弱くなってしまう。すなわち、リード退避部83を設けることにより、蓋部71と開口外縁部84とをしっかり密着させ、信頼性の高い圧力調整弁を提供することができる。尚、リード退避部83の深さや幅および長さは、設計の範囲で最適に決めることができ、本実施形態のように深さに傾斜を持たせて構成してもよい。
【0043】
図5(a)および図5(b)は、基体の別の構成例を示す概略斜視図である。この基体の構成では、基体80の孔形成部88が薄肉構造で形成されている。すなわち、開口外縁部84の肉厚が薄くできているため、蓋部71との当接箇所において変形が容易になり、弱い付勢力であっても、また、付勢力のかかり方にムラができたとしても、蓋部71と開口外縁部84とをしっかりと密着させることができる。
この変形例に示した態様は、開口外縁部が薄肉構造で構成されている基体のほんの一例に過ぎず、他にもいろいろな態様が考えられる。例えば、基体全体が薄肉構造となっているものをブロー成型で形成してもよいし、孔形成部の一部が中空になったような態様も考えられる。
【0044】
図6は、基体のさらに別の構成例を示す概略斜視図である。この変形例においては、開口外縁部84の円周方向に沿って、有底の溝である外縁溝部93が基体の肉厚方向(Z軸方向)に穿たれている。この外縁溝部93によって開口外縁部84の剛性が弱くなるため、蓋部71との当接箇所において変形が容易になり、弱い付勢力であっても、また、付勢力のかかり方にムラができたとしても、蓋部71と開口外縁部84とをしっかりと密着させることができる。
【0045】
以上、蓋部71と開口外縁部84との密着性を向上させるための工夫について説明してきたが、別の例として、開口外縁部の断面形状を工夫することも考えられる。例えば、断面を台形形状や半円形状にして、点接触的に蓋部と開口外縁部とを当接させるようにしてもよい。
【0046】
図7は、圧力調整弁の構成の変形例1を示す概略分解斜視図である。先の実施形態(図4)と重複する箇所の説明は避け、相違点についてのみ説明する。この変形例においては、連通部が有底の溝ではなく、基体の肉厚方向(Z軸方向)に貫通した溝である点と、リード退避部が設けられていない点が、先の実施形態と異なる。
連通部82の幅は、リード部72の幅よりも狭くなっており、作動体70と基体80とを重ね合わせた状態において、連通部82の基体上面92に臨んで開放された部分をリード部72が覆うようになっている。また、基体上面92は平滑な一面となっていて、上流面75を含む作動体70の裏面と完全に密着できるようになっている。リード退避部に相当する凹部を設けていないのは、この基体上面92の一面性を確保するためである。
【0047】
以上の構成において、作動体70のリード部72の裏面は、連通部82と共にインク流路を構成すると共に、開閉弁としても機能する。すなわち、上流室側と下流室側の液圧差が高まった状態においては、リード部72の連通部82に臨んだ面も差圧による押し上げ力を受け、また、押し上げられた状態において、リード部72と基体上面92との隙間からもインクが移動することになる。従って、この変形例の圧力調整弁を構成する上では、リード部72と基体上面92との密着性や、リード部72の幅、連通部82の幅等にも、十分注意を払う必要がある。
本変形例における基体80は、ごく薄い板状の部材をプレス等で打ち抜いて簡単に製造することができる。かくして、非常に薄いサイズで圧力調整弁を構成することができる。
【0048】
図8は、圧力調整弁の構成の変形例2を示す概略分解斜視図である。先の実施形態(図4)と重複する箇所の説明は避け、相違点についてのみ説明する。この変形例では、リード部72の構成と、それに伴うリード退避部83の箇所、および、リード基部73の固定位置が先の実施形態と異なる。
本変形例においては、蓋部71の仮想中心点lに対して点対称な位置から延出する2つの対を成すリード部を有している。リード部72は、屈曲部94でほぼ直角に屈曲して斜め下方に延び、屈曲部95で折り返されてさらに斜め下方に延び、端部であるリード基部73において、基体底面90の縁から突き出して形成された翼部96と接合固定されている。すなわち、リード部72は、全体として基体80の肉厚方向(Z方向)に撓んでおり、この撓みによって蓋部71に付勢力を発生させている。
リード退避部83は、リード部72に構成に合わせて、リード接続部76に対応する位置に設けられている。
この変形例が示すように、リード部は1つのリードで構成されることに限定されるものではなく、対をなしていても、また、複数のリードで構成されるものであってもよい。また、リード基部73の固定については、基体上面92での固定に限定されるものではなく、基体底面90の近傍で固定されていてもよい。また、図3に示す容器側壁部45に直接固定されるようにしてもよい。リード基部が固定端としての役割を果たしてさえいれば、その固定位置には、なんら限定が及ぶものではない。
【0049】
ここで、図9(a)〜図9(d)を用いて、リード部72に形成された屈曲部94,95の作用効果について説明する。図9は、圧力調整弁の開閉動作を示す動作図であり、図9(a)〜図9(b)は、図4の実施形態における概略側面動作図、図9(c)〜図9(d)は、図8の変形例における概略側面動作図である。
図9(a)は図4の実施形態において、弁が閉じた状態、図9(b)は弁が開いた状態を示している。この図が示すように、直線的なリード部の構成においては、リード部72の撓み変形に応じて、蓋部71が開口外縁部84の面に対して傾いてしまう、といった構造的な課題を有する。そしてこのような構造は、蓋部71と開口外縁部84との密着性や弁の開閉動作の確実性に対して、必ずしも好適なものとはいえない。
【0050】
図9(c)は図8の変形例において、弁が閉じた状態、図9(d)は弁が開いた状態を示している。この変形例のリード部の構成においては、リード部72は二つの屈曲部94,95を有しており、この屈曲部94,95がねじれることによって、蓋部71を傾けることなく、弁の開閉動作を実現することができる。特に、屈曲部95は、リード部が(V字状に)折り返された構成となっており、補償の効果が大きい。かくして、信頼性の高い圧力調整弁を備えるインクカートリッジを提供することができる。また、屈曲形状により、リード部72を実質的に長く形成することができる。尚、リード部72の屈曲形状は、明確な屈曲部を要求するものではなく、連続的に弧を描いたような形状(例えば、らせん形状)であったとしても、その効果を得ることができる。
【0051】
次に、図4および図8を用いて、対をなすリード部の構成についての作用効果を説明する。
図4の実施形態においては、リード部72は一つリードで構成されている。このような片持ち式のリード部の構成においては、蓋部71において働く付勢力は、リード接続部76近傍で強くなり、リード接続部76から離れるに従って弱くなる。すなわち、蓋部71に働く付勢力が指向性を持つため、蓋部71を開口外縁部84に対して密着させるのに、必ずしも適していない。
図8の変形例においては、蓋部71の仮想中心点lに対して点対称な位置から延出した二つの対をなすリード部72,72によって、蓋部71が付勢される構成となっている。このようなリード部の構成とすれば、図4の実施形態のように、一方向に偏った力で蓋部71が付勢されることはなく、蓋部71と開口外縁部84とを好適に密着させることができる。かくして、信頼性の高い圧力調整弁を備えるインクカートリッジを提供することができる。
【0052】
本発明は上述の実施形態に限定されない。例えば、基体に設けた連通部は必須のものではなく、容器体の壁に連通路を形成して、上流室と孔部とを連通させる構成としてもよい。また、圧力調整弁は液体容器に一体に設ける態様に限定されるものではなく、例えば、印刷ヘッドに一体にまたは、別ユニットとして構成してもよい。さらには、各実施形態の各構成はこれらを適宜組み合わせたり、省略したり、図示しない他の構成と組み合わせたりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明に係る液体吐出装置の一例を表す概略斜視図。
【図2】図2(a)はインクカートリッジの外観を示す概略斜視図。図2(b)はプリンタ本体側のカートリッジ装着部の構造を示す概略斜視図。
【図3】インクカートリッジの内部構造を示す概略断面図。
【図4】圧力調整弁の詳細を示す概略分解斜視図。
【図5】基体の別の構成例を示す概略斜視図であり、図5(a)は上面側から見た概略斜視図、図5(b)は底面側から見た概略斜視図である。
【図6】基体の別の構成例を示す概略斜視図である。
【図7】圧力調整弁の構成の変形例1を示す概略分解斜視図。
【図8】圧力調整弁の構成の変形例2を示す概略分解斜視図。
【図9】圧力調整弁の開閉動作を示す動作図であり、図9(a)〜図9(b)は、図4の実施形態における概略側面動作図、図9(c)〜図9(d)は、図8の変形例における概略側面動作図。
【符号の説明】
【0054】
1K…液体容器としてのインクカートリッジ、3…容器体、5…インク供給部、11…供給口、30…カートリッジ装着部、40…圧力調整弁、41…上流室、42…下流室、43…分室連通路、45…容器側壁部、46…隔壁、47…外周壁部、60…印刷ヘッド、70…作動体、71…蓋部、72…リード部、73…リード基部、74…下流面、75…上流面、76…リード接続部、77…位置決め穴、80…基体、81…孔部、82…連通部、83…リード退避部、84…開口外縁部、85…開口、86…挿入部、87…位置決め穴、88…孔形成部、89…連通路形成部、90…基体底面、91…連通開口部、92…基体上面、93…外縁溝部、94,95…屈曲部、96…翼部、100…液体吐出装置としてのプリンタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の差圧で作動する圧力調整弁を備えた液体容器であって、
軟質の弾性部材で扁平形状に形成され、当該扁平な一面に開口を有して形成された孔部を備えた基体と、
硬質の弾性部材で薄板状に形成され、前記孔部の開口形状に対応した蓋部と、前記蓋部の縁から延出したリード部、とを有する作動体と、を備え、
前記リード部の前記蓋部とは反対側の一端部であるリード基部は固定され、
前記蓋部が前記孔部の開口外縁部に接離可能に当接して、前記圧力調整弁を構成することを特徴とする液体容器。
【請求項2】
前記基体は、前記孔部の側面から前記基体の肉厚方向に略直交する方向に沿って形成された溝である連通部を備えていることを特徴とする請求項1に記載の液体容器。
【請求項3】
前記開口外縁部近傍において、前記リード部と前記基体との干渉を防止する凹部であるリード退避部を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の液体容器。
【請求項4】
前記基体は、発泡性部材で形成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の液体容器。
【請求項5】
前記開口外縁部において、前記基体は薄肉構造を有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の液体容器。
【請求項6】
前記開口外縁部において、前記孔部の開口の外周方向に沿って形成された溝である外縁溝部を備えることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の液体容器。
【請求項7】
前記リード部は、屈曲形状を有していることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一項に記載の液体容器。
【請求項8】
前記作動体は対をなした二つのリード部を有し、
前記対をなした二つのリード部が前記蓋部の縁から延出する箇所は、前記蓋部の略中心に対して点対称な位置関係であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか一項に記載の液体容器。
【請求項9】
所定の差圧で作動する圧力調整弁を備えた液体吐出装置であって、
軟質の弾性部材で扁平形状に形成され、当該扁平な一面に開口を有して形成された孔部を備えた基体と、
硬質の弾性部材で薄板状に形成され、前記孔部の開口形状に対応した蓋部と、前記蓋部の縁から延出したリード部、とを有する作動体と、を備え、
前記リード部の前記蓋部とは反対側の一端部であるリード基部は固定され、
前記蓋部が前記孔部の開口外縁部に接離可能に当接して、前記圧力調整弁を構成することを特徴とする液体吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−35485(P2006−35485A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−215334(P2004−215334)
【出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】