説明

液圧式の車両ブレーキ装置と車両ブレーキ装置を運転する方法

第1の発明は、スリップコントロール装置を備えた液圧式の車両ブレーキ装置(1)に関する。本発明は、ブレーキ倍力作用を得るために、前車軸のホイールにおけるホイールブレーキ(6)を、自己倍力作用を有するように形成することを提案している。これにより、それ以外の残りの負圧式ブレーキ倍力装置を省くことができる。第2の発明は、液圧式の車両ブレーキ装置を運転する方法であって、ライニング摩擦値が高い場合に、弁を制御してブレーキ液を液圧アキュムレータ(14)に導入するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液圧式の車両ブレーキ装置と、液圧式の車両ブレーキ装置を運転する方法に関する。
【0002】
ディスクブレーキの構造形式において車両用の自己倍力式の液圧式のホイールブレーキが公知である。このようなホイールブレーキは基本的に、自己倍力作用を有しない汎用のホイールブレーキ(ディスクブレーキ)の構造を有していて、自己倍力装置だけが補足されている。つまりこのようなホイールブレーキはブレーキピストンを有していて、このブレーキピストンは液圧負荷時に摩擦ブレーキライニングをブレーキディスクに押圧する。自己倍力作用のために、少なくとも1つの摩擦ライニングがブレーキディスクに対して平行に、該ブレーキディスクの周方向又は弦方向において移動可能であり、補助ピストンに支持されている。ディスクブレーキの作動時に、回転しているブレーキディスクは、該ディスクブレーキに押圧される摩擦ブレーキライニングを補助ピストンに向かって負荷し、この補助ピストンはブレーキ液を押し退けて、液圧を生ぜしめ、この液圧によってブレーキピストン又は付加的なピストンが負荷され、このブレーキピストン又は付加的なピストンは、摩擦ブレーキライニングを付加的に、ブレーキディスクに押し付ける。緊締力、つまり、摩擦ブレーキライニングがブレーキディスクに押し付けられる圧着力は、これによって高められ、ブレーキディスクは自己倍力装置もしくは自己倍力作用を有している。ブレーキディスクの両回転方向のために自己倍力作用を得るために、摩擦ブレーキライニングの両端部に補助ピストンを設けることができる。液圧式の自己倍力装置はこのように構成されている。
【0003】
ドイツ連邦共和国特許出願公開明細書DE10338449A1に開示された、電気機械式のホイールブレーキを備えた車両ブレーキ装置では、前車軸のホイールのホイールブレーキが自己倍力装置を有している。後車軸のホイールのホイールブレーキは、汎用のようにつまり自己倍力装置なしに構成されていても、自己倍力作用を有するように構成されていてもよい。公知の車両ブレーキ装置のホイールブレーキは同様に、ディスクブレーキの構造形式を有している。このようなホイールブレーキは電気機械式に作動させられ、電動機を有していて、この電動機は、回転運動を並進運動に変換する変換伝動装置、例えばウォーム伝動装置を介して、摩擦ブレーキライニングをブレーキディスクに押圧する。有利には、電動機とウォーム伝動装置との間に減速伝動装置が配置されている。自己倍力作用は機械式に、くさび機構を用いて行われ、摩擦ブレーキライニングはブレーキディスクの周方向又は割線方向に移動可能であり、ブレーキディスクに対して斜めに角度を成して延びているくさび面に支持されている。摩擦ブレーキライニングがブレーキディスクに対して周方向において、つまり円弧軌道に沿って移動可能である場合には、くさび面は正確に言えば弦巻線形状である。くさび角はくさび面の長さにわたって一定であることができ、しかしながらまた変化することも可能である。後者の場合には、ランプ機構(Rampenmechanismus)のことである。自己倍力装置の高さは、くさび角によって変化し、くさび角が移動距離にわたって鋭くなるに連れて、高い自己倍力作用を高い緊締力及びブレーキ力において得ることができる。
【0004】
電気機械式のホイールブレーキの原理は、液圧式の車両ブレーキ装置にそのまま応用することができない、もしくはいずれにせよそのまま簡単に応用することができない。それというのは、1つのブレーキ回路に一緒に接続されている複数の液圧式のホイールブレーキは、互いに連通しているからであり、その緊締力は、そのブレーキピストンのピストン面積の比に関連しているからである。電気機械式のホイールブレーキは互いに無関係であり、相互作用は存在せず、特に1つのホイールブレーキの緊締力又はブレーキ力が、他のホイールブレーキにおいて有効な力に対して影響を及ぼすことはない。別の理由は、液圧式のホイールブレーキでは、いずれにせよこのホイールブレーキがディスクブレーキとして構成されている場合には、自動的に行われる摩耗後調整が挙げられる。くさび機構を備えた自己倍力装置を有する電気機械式のホイールブレーキでは、摩擦ブレーキライニングの摩耗補償は、ホイールブレーキの作動のためにくさび面に沿って移動させられる摩擦ブレーキライニングがホイールブレーキの解除時に完全にはその出発位置に戻し移動させられないことによって、行うことができる。この摩耗補償はしかしながら自動的に行われるのではなく、しかも次のような欠点を有している。すなわちこの場合、走行方向交番時に摩擦ブレーキライニングは、ブレーキディスクへの接近を行うことができる前に、変位された位置から出発位置に移動されねばならない。
【0005】
発明の開示
自己倍力作用を有する液圧式のホイールブレーキを1つの車軸のホイールに有し、自己倍力作用を有しない液圧式のホイールブレーキを別の車軸のホイールに有していることを特徴とする、本発明による液圧式の車両ブレーキ装置は、1つの車軸のホイールにおける自己倍力作用を有する液圧式のホイールブレーキを、他の車軸のホイールにおける自己倍力作用もしくは自己倍力装置を有しない液圧式のホイールブレーキと組み合わせている。車両の前車軸のホイールが、自己倍力作用を有する液圧式のホイールブレーキを有していて、後車軸のホイールのホイールブレーキが自己倍力作用を有していない(請求項2)と、有利である。また、自己倍力作用もしくは自己倍力装置を有するホイールブレーキは有利には、両走行方向において自己倍力作用をもって作用し、この場合通常、前進走行のための自己倍力作用は、後進走行のための自己倍力作用よりも有利であり、従って、一方の走行方向特に前進走行のための自己倍力作用だけで十分である。本発明の枠内においては、後車軸のホイールに自己倍力作用を有するホイールブレーキを配置して、前車軸のホイールに自己倍力作用を有しないホイールブレーキを配置することも、又は1つの車軸の1つのホイールにおける自己倍力作用を有するホイールブレーキを配置して、同じ車軸の他のホイールに自己倍力作用を有しないホイールブレーキを配置することも、可能であるが、しかしながらこのような配置形式はドライバの操作作業に関して言えば不都合である。それというのは、前車軸のホイールにおける自己倍力作用を有する液圧式のホイールブレーキの構成が有利だからである。
【0006】
本発明の1つの利点としては、本発明による車両ブレーキ装置は、すべてのホイールブレーキが自己倍力作用を有している車両ブレーキ装置に比べて、安価である、ということが挙げられる。それというのは、自己倍力作用を有するホイールブレーキは大きな製造コストに基づいて、付加的な自己倍力装置によって、自己倍力作用を有しない汎用のホイールブレーキに比べて高価だからである。自己倍力作用を有するホイールブレーキが、自己倍力作用を有しないホイールブレーキと連通していると、自己倍力作用は、自己倍力装置を有しないホイールブレーキにも影響を及ぼす。自己倍力作用を有するホイールブレーキを、高い自己倍力作用を備えて設計することによって、本発明による車両ブレーキ装置のすべてのホイールブレーキによって自己倍力作用を得ることができ、この自己倍力作用は、低い自己倍力作用ではあるがすべてのホイールブレーキが自己倍力装置を有している車両ブレーキ装置の自己倍力作用に相当する。自己倍力作用もしくは自己倍力装置を有しないホイールブレーキが使用されているにもかかわらず、本発明による車両ブレーキ装置の自己倍力作用は、すべてのホイールブレーキが自己倍力装置を有している車両ブレーキ装置の自己倍力作用と同じ高さを有することができる。
【0007】
本発明の別の利点としては、自己倍力作用を有しない車両ブレーキ装置に比べて作動エネルギ及び作動出力が僅かである、ということが挙げられる。
【0008】
請求項1記載の本発明の有利な構成は、請求項2以下に記載されている。請求項3記載の構成では、自己倍力作用を有するホイールブレーキが、自己倍力作用を有しないホイールブレーキとは異なったばね定数cを有しており、有利には、自己倍力作用を有するホイールブレーキが、自己倍力作用を有しないホイールブレーキよりも高いばね定数cを有している(請求項4)。選択的に、前車軸のホイールのホイールブレーキが高いばね定数を有していてもよく、このことには、自己倍力作用を有するホイールブレーキが前車軸のホイールにではなく後車軸のホイールに設けられている場合に、違いがあるだけである。ホイールブレーキは、ディスクブレーキではブレーキキャリパ及び摩擦ブレーキライニングは、必ずしも剛性ではなく、緊締力によって変形され、ブレーキキャリパは拡開し、摩擦ブレーキライニングは圧縮される。ブレーキピストンが制動時に移動させられる実際の接近運動距離又は緊締運動距離は、これによって増大する。緊締力と緊締運動距離との間の比は、ばね定数を決定する。高いばね定数は、所定の緊締力を形成するためのブレーキピストンの短い緊締運動距離と堅いブレーキとを意味している。前車軸及び後車軸におけるホイールのホイールブレーキもしくはブレーキキャリパの異なったばね定数、もしくは自己倍力作用を有するホイールブレーキ及び自己倍力作用を有しないホイールブレーキの異なったばね定数によって、車両ブレーキ装置のペダル力・ペダル移動距離特性線に影響を与えることができる。ドライバが例えば負圧ブレーキ倍力装置を備えていて自己倍力作用を有するホイールブレーキを備えていない汎用の液圧式の車両ブレーキ装置によって慣れているような、特性線を得ることが望まれている。自己倍力作用を有するホイールブレーキ及び自己倍力作用を有しないホイールブレーキのばね定数の選択と、自己倍力作用の高さとによって、上に述べた慣れた特性線を少なくともほぼ得ることができる。さらに本発明のこの構成によって、特に、摩擦ブレーキライニングとブレーキディスクとの間におけるライニング摩擦値の変化時におけるペダル力・ペダル移動距離特性線の依存を、低く保つことが可能である。
【0009】
請求項6記載の本発明の構成では、車両ブレーキ装置がブレーキ倍力装置を有しておらず、例えば負圧ブレーキ倍力装置及び別体の負圧ポンプをも有していない。従ってこれらのユニットは節約され、これによってコスト及び構造空間に関する利点が得られる。ブレーキ倍力作用は、自己倍力作用を有するホイールブレーキの倍力作用によって、かつマスタブレーキシリンダのピストン面積とホイールブレーキのブレーキピストンのピストン面積との比を介して得られる。
【0010】
基本的には、自己倍力作用を有するホイールブレーキの自己倍力装置は、任意の形式であってよく、機械式以外、つまり例えば液圧式であってもよい。請求項7の構成では、自己倍力作用を有するホイールブレーキが、くさび機構を備えた機械式の自己倍力装置を有しており、この場合これは、摩擦ブレーキライニングの移動距離の長さにわたってくさび角が変化するランプ機構とも理解することができる。両走行方向における自己倍力作用のために、くさび機構は、逆向きの勾配を備えた対応くさび面を有することができる。
【0011】
請求項9記載の構成では、自己倍力作用を有するホイールブレーキが、距離を増大させるように構成されている。この場合摩擦ブレーキライニングの移動は、回転するブレーキディスクの周方向においてブレーキピストンの緊締距離を短縮する。液圧による大きな力伝達比によって、つまりマスタブレーキシリンダのピストン面積が、ホイールブレーキのブレーキピストンのピストン面積に比べて小さいことによって、距離を増大させるホイールブレーキと共に、高い倍力作用を得ることができる。
【0012】
請求項11記載の本発明による方法では、ライニング摩擦値が高い場合に、ブレーキ圧が弁の開放によって低下させられる。特に、存在する弁、例えば流出弁又はブレーキ減圧弁が開放される、もしくはブレーキ圧が弁の制御又は調整によって制御又は調整される。これによってホイールブレーキにおけるブレーキ圧が減じられ、つまりブレーキ圧の上昇が減じられる。このようにしてペダル力・ペダル移動距離特性線の上昇が減じられ、それと共に、ペダル力・ペダル移動距離特性線を、ライニング摩擦値の変化時にもほぼ一定に保つことができ、又はいずれにせよその変動を減じることができる。これにより、温度や水又は汚染によって変化するライニング摩擦値の、フットブレーキペダル又はハンドブレーキグリップに対する反作用もしくは反動は、減じられ、規定されたブレーキ力を形成するために必要なフットペダル移動距離又はハンドレバー移動距離の変化は、ライニング摩擦値の変化よりも小さくなる。本発明による方法は、自己倍力作用を有するホイールブレーキを備えた液圧式のホイールブレーキによって実施することも、又は自己倍力作用を有しないホイールブレーキによって実施することもできる。本発明による方法は有利には、1つの車軸における自己倍力作用を有するホイールブレーキと他の車軸における自己倍力作用を有しないホイールブレーキとが組み合わされている液圧式の車両ブレーキ装置によって用いられる(請求項12)。
【0013】
次に図面を参照しながら本発明の実施例を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明による車両ブレーキ装置の液圧回路を示す回路図である。
【図2】図1に示された本発明による車両ブレーキ装置のホイールブレーキを示す図である。
【図3】図1に示された本発明による車両ブレーキ装置のホイールブレーキを示す図である。
【0015】
発明の実施形態
図面に示された本発明による液圧式の車両ブレーキ装置1は、スリップコントロール装置(アンチスキッドコントロール装置ABS、アクセレレーションスキッドコントロール装置もしくはトラクションコントロール装置ASR、ビークルダイナミックコントロール装置FDR,ESP)を有している。車両ブレーキ装置1は、2つのブレーキ回路I,IIを備えた2回路ブレーキ装置として形成されており、両ブレーキ回路I,IIは1つのマスタブレーキシリンダ2に接続されている。マスタブレーキシリンダ2はブレーキブースタを有していない。マスタブレーキシリンダ2はブレーキ液タンク3を有しており、このブレーキ液タンク3はマスタブレーキシリンダ2に載設されている。各ブレーキ回路I,IIは、セパレートバルブ4を介してマスタブレーキシリンダ2に接続されている。セパレートバルブ4は、無電流の基本位置において開放する2ポート2位置方向切換え電磁弁である。セパレートバルブ4には、マスタブレーキシリンダ2からホイールブレーキ5,6に向かってブレーキ液を貫流可能な各1つの逆止弁7が、液圧的に互いに並列に接続されている。各ブレーキ回路I,IIのセパレートバルブ4には、ホイールブレーキ5,6がブレーキ圧形成弁8を介して接続されている。ブレーキ圧形成弁8は、無電流の基本位置において開放する2ポート2位置方向切換え電磁弁である。ブレーキ圧形成弁8には逆止弁9が並列に接続されており、これらの逆止弁9は、ホイールブレーキ5,6からマスタブレーキシリンダ2に向かう貫流を可能にする。
【0016】
各ホイールブレーキシリンダ5,6にはブレーキ減圧弁10が接続されており、これらのブレーキ減圧弁10は共に、液圧ポンプ11の吸込み側に接続されている。ブレーキ減圧弁10は、無電流の基本位置において閉鎖する2ポート2位置方向切換え電磁弁として形成されている。液圧ポンプ11の圧力側は、ブレーキ圧形成弁8とセパレートバルブ4との間に接続されており、つまり液圧ポンプ11の圧力側は、ブレーキ圧形成弁8を介してホイールブレーキ5,6と接続され、かつセパレートバルブ4を介してマスタブレーキシリンダ2と接続されている。
【0017】
両ブレーキ回路I,IIはそれぞれ、共に電動モータ12によって駆動可能な液圧ポンプ11を有している。
【0018】
吸込み弁13を介して、液圧ポンプ11の吸込み側はマスタブレーキシリンダ2と接続されている。吸込み弁13は無電流の基本位置において閉鎖する2ポート2位置方向切換え電磁比例弁である。迅速なブレーキ圧形成のために、吸込み弁13は開放され、その結果液圧ポンプ11は直にマスタブレーキシリンダ2からブレーキ液を吸い出す。このことは特に、マスタブレーキシリンダ2の不作用時に液圧ポンプ11を用いてホールブレーキ圧を形成したい場合に、重要である。このことは例えば、始動時又は加速時におけるトラクションコントロール時や、一部ではビークルダイナミックコントロール時のような場合である。
【0019】
ブレーキ減圧弁10の、ホイールブレーキ5,6とは反対の側、ひいては液圧ポンプ11の吸込み側において、各ブレーキ回路I,IIには液圧アキュムレータ14が接続されている。これらの液圧アキュムレータ14は、スリップコントロール中にブレーキ減圧弁10によってホイールブレーキ5,6から放出されるブレーキ液の中間貯蔵のために働く。マスタブレーキシリンダ2からのブレーキ液を受容するための付加的な液圧アキュムレータ34が設けられていてもよい。このような付加的な液圧アキュムレータ34は、吸込み弁13と液圧ポンプ11の吸込み側との間に接続されており、この場合付加的な液圧アキュムレータ34と液圧ポンプ11との間には液圧ポンプ11に向かっての貫流を可能にする逆止弁35が配置されている。さらにこの場合、液圧ポンプ11に向かっての貫流を可能にする逆止弁36が、液圧アキュムレータ14と液圧ポンプ11との間に設けられていてよい。吸込み弁13の開放によって、マスタブレーキシリンダ2の作動時に、ブレーキ液がマスタブレーキシリンダ2から、液圧ポンプ11のために役立つ付加的な液圧アキュムレータ34に達する。既に述べたように、付加的な液圧アキュムレータ34はその逆止弁35及び逆止弁36と共に必ずしも必要ではなく、設けられていることができる。
【0020】
ブレーキ圧形成弁8及びブレーキ減圧弁10は、ホイールブレーキ圧調整弁装置を形成しており、これらのホイールブレーキ圧調整弁装置によって、液圧ポンプ11の駆動時にホイール個々のブレーキ圧調整がスリップコントロールのために自体公知の形式で(ゆえにここでは述べない)、可能である。
【0021】
スリップコントロール時にセパレートバルブ4は閉鎖され、ブレーキ回路I,IIはこれによって液圧的にマスタブレーキシリンダ2から切り離される。これによって反動、特に、ブレーキ圧調整の結果として生じるブレーキ液の圧力脈動によって、振動するフットブレーキペダル又は、特にモータサイクルでは、振動するハンドブレーキレバーが回避される。さらに閉鎖されたセパレートバルブ4によって、マスタブレーキシリンダ2の不作動時に、液圧ポンプ11から圧送されたブレーキ液がマスタブレーキシリンダ2に戻り流れることが阻止される。構造上の理由から、マスタブレーキシリンダ2はその操作時にブレーキ液タンク3を液圧的に切り離す。液圧ポンプ11から圧送されるブレーキ液がマスタブレーキシリンダ2に戻り流れることは、従って、マスタブレーキシリンダ2の不作動時には回避される。
【0022】
各ホイールブレーキ5,6には圧力センサ15が接続されている。また別の圧力センサ16が、両ブレーキ回路のうちの一方のブレーキ回路Iにおいてマスタブレーキシリンダ2に接続されている。マスタブレーキシリンダ2は、フットブレーキペダル18のペダル移動距離を測定するペダルストロークセンサ17を有している。
【0023】
本発明による車両ブレーキ装置1のホイールブレーキ5,6は、液圧式のディスクブレーキであるが、しかしながら本発明はディスクブレーキに制限されるものではない。車両ブレーキ装置1を備えた自動車の後車軸のホイールに配置されたホイールブレーキ5は、図2に略示されているような自己倍力装置を備えていない汎用の液圧式のディスクブレーキである。以下においてディスクブレーキ5とも呼ばれるホイールブレーキ5は、ブレーキキャリパ19を有しており、このブレーキキャリパ19内にはブレーキピストン20が配置されていて、このブレーキピストン20によって摩擦ブレーキライニング21がブレーキディスク22に押圧可能である。ブレーキキャリパ19はフローティングキャリパとして形成されており、つまりブレーキキャリパ19はブレーキディスク22に対して横方向で移動可能である。ブレーキディスク22の片側への摩擦ブレーキライニング21の押圧によって、ブレーキキャリパ19はブレーキディスク22に対して横方向に移動させられ、ブレーキディスク22の他方の側に配置された摩擦ブレーキライニング23をブレーキディスク22に押圧し、ブレーキディスク22はこれによって制動される。このことは自体公知であるので、さらなる説明は省く。ブレーキキャリパ19は必ずしも剛性に形成されていなくてよく、ブレーキキャリパ19は、ブレーキピストン20が摩擦ブレーキライニング21,23を制動のためにブレーキディスク22を押圧する際の緊締力もしくは応力に基づいて、拡開するような弾性を有している。ブレーキキャリパ19の弾性は図2においてばね24で示されている。実際にはこのようなばね24は設けられていない。ブレーキキャリパ19の弾性によって、ディスクブレーキ5の作動時におけるブレーキピストン20の緊締距離は長くなる。ブレーキキャリパ19の弾性は、ばね定数cによって検出することができ、このばね定数cは、ディスクブレーキ5の作動時にブレーキピストン20が摩擦ブレーキライニング21,23をブレーキディスク22に押し付ける緊締力と、ブレーキピストン20の移動距離又は緊締距離との比を定める。ばね定数cはまた、ディスクブレーキ5の作動時に緊締力によって弾性的に圧縮される摩擦ブレーキライニング21,23の弾性をも含んでいる。ばね定数cが大きくなればなるほど、ブレーキキャリパ19は剛性になり、つまりディスクブレーキ5の作動時におけるブレーキキャリパ19の拡開は小さくなる。
【0024】
前車軸のホイールのホイールブレーキ6は同様にディスクブレーキであり、しかしながらホイールブレーキ6は、後車軸のホイールのホイールブレーキ5とは異なり、自己倍力装置を有している。図3には、以下においてディスクブレーキ6とも呼ばれる、前車軸のホイールのホイールブレーキ6が略示されている。前車軸のホイールの自己倍力式のホイールブレーキ6もまた、ディスクブレーキのブレーキ型式に制限されない。ディスクブレーキ6は、くさび機構26を備えた機械式の自己倍力装置25を有している。すなわちこの場合、ブレーキディスク22の片側における摩擦ブレーキライニング21は、ブレーキディスク22とは反対側の背側にくさび体27を有している。このくさび体27によって摩擦ブレーキライニング21は対応支持体28に支持されており、対応支持体28は、ブレーキディスク22に対してくさび角αを成して斜めに延びている。摩擦ブレーキライニング21は周方向又は割線方向において、かつブレーキディスク22に対して斜めにくさび角αにおいて、対応支持体28に沿って移動可能である。対応支持体28に沿ったくさび体27の移動可能性は、転動体29によって図示されているが、基本的には滑り支承を用いることも可能である。対応支持体28は、ブレーキキャリパ19におけるブレーキディスク22の周方向において移動に抗して支持されており、ブレーキディスク22に対して垂直方向においては、対応支持体28は移動可能である。このような支持形式及び移動可能な案内形式は、図3において転動体30を用いて示されているが、この場合においても滑り支承を用いることが可能である。ブレーキディスクの回転方向逆転時に自己倍力作用を得るために、くさび体27と対応支持体28とは互いに逆に斜めに延びる面を有しており、これらの面は破線で示されている。くさび体27と対応支持体28とは互いにリブ状に係合していて、逆向きに斜めに延びている面は、視線方向及びブレーキディスク22に対する半径方向において(交互に複数回)相前後して配置されている。ブレーキディスク22の両回転方向のためのくさび角αは、互いに同じであっても又は異なっていてもよい。
【0025】
作動のために、自己倍力作用を有するディスクブレーキ6は、自己倍力装置を有しない汎用のディスクブレーキのようなブレーキピストン20を有しており、このブレーキピストン20は対応支持体28を負荷し、かつこの対応支持体28を介して摩擦ブレーキライニング21を備えたくさび体27を負荷する。ブレーキピストン20がディスクブレーキ6を作動させるために摩擦ブレーキライニング21を回転するブレーキディスク22に押し付けると、回転するブレーキディスク22によって該ブレーキディスク22に押し付けられた摩擦ブレーキライニング21に加えられた摩擦力は、摩擦ブレーキライニング21をくさび体27と一緒にブレーキディスク22の回転方向において移動させる。対応支持体28にくさび角αをもって支持されていることに基づいて、ブレーキディスク22への摩擦ブレーキライニング21の接近により、フローティングキャリパとして形成されたブレーキキャリパ19はブレーキディスクに対して横方向に移動させられ、これによって他方の摩擦ブレーキライニング23は、ブレーキディスク22の他方の側に押し付けられ、ブレーキピストン20は押し戻され、ディスクブレーキ6のブレーキキャリパ19におけるシリンダ孔31から液圧媒体を押し退ける。これによって、ディスクブレーキ6の作動を目的としてブレーキピストン20を移動させるために働く、マスタブレーキシリンダ2から供給されねばならない液圧媒体量が、減じられ、接近運動距離の一部が、対応支持体28の傾斜面に沿ったくさび体27の移動に基づく距離獲得によって得られる。そしてディスクブレーキ6は距離を増大させる。制動時にブレーキディスク22から該ブレーキディスク22を押圧する摩擦ブレーキライニング21に伝達される、回転するブレーキディスク22の運動エネルギは、ディスクブレーキ6を作動させるための補助エネルギとして使用され、この補助エネルギは、ディスクブレーキ6を作動させるために必要なエネルギの一部を準備する。作動エネルギの残りの部分だけが、マスタブレーキシリンダ2によってもたらされればよい。
【0026】
ブレーキディスク22に対して周方向において、摩擦ブレーキライニング21もしくはくさび体27は戻しばね32を用いてブレーキキャリパ19内に支持されている。戻しばね32は、くさび体27を伴う摩擦ブレーキライニング21の移動に抗して作用し、ディスクブレーキ6の移動距離と自己倍力作用とを制限する。
【0027】
自己倍力作用を有するディスクブレーキ6のブレーキキャリパ19の剛性は、自己倍力作用を有しないディスクブレーキ5のブレーキキャリパ19の剛性に比べて高く、ブレーキキャリパ19の剛性とばね定数cとの比は例えば4:1である。自己倍力作用を有するディスクブレーキ6のブレーキキャリパ19と自己倍力作用を有しないディスクブレーキ5のブレーキキャリパ19とのばね定数cの相違によって、車両ブレーキ装置1のペダル力とペダル移動距離との関係を示す特性線(以下においてペダル力・ペダル移動距離特性線と呼ぶ)に影響を与えることができる。特にブレーキキャリパ19のばね定数cは、汎用の液圧式の車両ブレーキ装置によって公知でありかつなじみのある、ペダル力・ペダル移動距離特性線がほぼ生じるように、選択される。なお汎用の液圧式の車両ブレーキ装置というのは、自己倍力式のホイールブレーキを有しておらず、しかしながらマスタブレーキシリンダに(負圧式の)ブレーキ倍力装置を有している車両ブレーキ装置のことである。
【0028】
ブレーキディスク22の逆向きの回転方向のために、くさび体27と対応支持体28とは、逆向きに傾けられた傾斜面を有している。汎用のディスクブレーキにおけるように摩耗後調整は次のように自動的に行われ、つまりこの場合ブレーキピストン20はディスクブレーキ6の解除時に所定の距離だけ戻り運動し、この距離はピストンシールリング33の弾性変形によって規定されている。摩擦ブレーキライニング21,23の摩耗増大に連れて、ブレーキピストン20は、新しい摩擦ブレーキライニング21,23における本来の出発位置にまで、もはや戻り運動しなくなる。
【0029】
戻しばね32のばね定数cは、ブレーキディスク22と摩擦ブレーキライニング21との間におけるライニング摩擦値μが最大の場合に、ディスクブレーキ6の緊締距離が0であるように、選択されている。ライニング摩擦値μは、湿気、汚れ、温度に関連している。ライニング摩擦値の最大値は約0.45〜0.6と想定することができる。ディスクブレーキ6の緊締距離が最大のライニング摩擦値μにおいて0であるという条件は、最大のライニング摩擦値μにおいて、摩擦ブレーキライニング21が回転するブレーキディスク22に接触するやいなや、摩擦ブレーキライニング21が、対応支持体28の傾斜に沿ったブレーキディスク22の回転方向における移動によって、摩擦ブレーキライニング21の接近運動が行われ、ブレーキピストン20の運動によっては行われない、ということを意味している。ブレーキディスク22がロックすることは、戻しばね32が摩擦ブレーキライニング21のさらなる移動に、ひいてはブレーキ力の上昇に抗して作用することに基づいて、阻止されている。ブレーキ力の大きさは、シリンダ孔31内における液圧によって規定されている。
【0030】
自己倍力作用を有するディスクブレーキ6が、自己倍力装置を有しないディスクブレーキ5と共働することによって、自己倍力作用を有するディスクブレーキ6の自己倍力作用は、自己倍力装置を有しないディスクブレーキ5に対して影響を及ぼす。従って、すべてのホイールブレーキ5,6が自己倍力作用を有するように形成されている必要はない。ブレーキ倍力装置は、自己倍力作用に基づいて省くことができ、力の伝達比は、マスタブレーキシリンダ2におけるピストン面積とディスクブレーキ5,6のブレーキピストン20のピストン面積との比に基づいて生ぜしめられ、この比は、自己倍力作用に基づいて大きなブレーキ力を得るために大きく選択されることができる。
【0031】
本発明によればライニング摩擦値μが高い場合に、ホイールブレーキ5,6のブレーキ力が低減される。このことは吸込み弁13の開放によって行われ、この際に吸込み弁13を通して、作動時にマスタブレーキシリンダ2から押し退けられたブレーキ液の一部が、液圧アキュムレータ14又は付加的な液圧アキュムレータ34に流入する。同様に、ホイールブレーキ圧の降下は、ブレーキ減圧弁10の開放及び/又は液圧ポンプ11の投入接続によっても可能である。個々に又は任意の組合せで一緒に実施することができる上記手段によって、車両ブレーキ装置1のペダル力・ペダル移動距離特性線の変化が、ライニング摩擦値μの変化時に生ぜしめられる。すなわち、ペダル力・ペダル移動距離特性線とライニング摩擦値μの変化との関連性は、フットブレーキペダル18の操作力に対する反作用と同様に減じられている。規定のブレーキ力を得るために必要なペダル力と不安定な変化するライニング摩擦値μとの関連性は減じられている。ペダル力制御又は調整のために、ライニング摩擦値μを検出することは不要である。圧力センサ16及びペダルストロークセンサ17によって、ペダル力・ペダル移動距離特性線を検出することができ、上記手段によって目標特性線に合わせることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液圧式の車両ブレーキ装置であって、車両ブレーキ装置(1)が、自己倍力作用を有する液圧式のホイールブレーキ(6)を1つの車軸のホイールに有し、自己倍力作用を有しない液圧式のホイールブレーキ(5)を別の車軸のホイールに有していることを特徴とする、液圧式の車両ブレーキ装置。
【請求項2】
車両ブレーキ装置(1)が、自己倍力作用を有する液圧式のホイールブレーキ(6)を前車軸のホイールに有し、自己倍力作用を有しない液圧式のホイールブレーキ(5)を後車軸のホイールに有している、請求項1記載の車両ブレーキ装置。
【請求項3】
自己倍力作用を有するホイールブレーキ(6)が、自己倍力作用を有しないホイールブレーキ(5)とは異なったばね定数cを有している、請求項1記載の車両ブレーキ装置。
【請求項4】
自己倍力作用を有するホイールブレーキ(6)が、自己倍力作用を有しないホイールブレーキ(5)よりも高いばね定数cを有している、請求項3記載の車両ブレーキ装置。
【請求項5】
自己倍力作用を有するホイールブレーキ(6)のばね定数cと自己倍力作用を有しないホイールブレーキ(5)のばね定数cとの比が、ほぼ1:4である、請求項3記載の車両ブレーキ装置。
【請求項6】
車両ブレーキ装置(1)がブレーキ倍力装置を有していない、請求項1記載の車両ブレーキ装置。
【請求項7】
自己倍力作用を有するホイールブレーキ(6)が、くさび機構(26)を備えた機械式の自己倍力装置(25)を有している、請求項1記載の車両ブレーキ装置。
【請求項8】
自己倍力作用を有するホイールブレーキ(6)が、ブレーキ力の上昇に抗して作用する戻しばね(32)を有している、請求項1記載の車両ブレーキ装置。
【請求項9】
自己倍力作用を有するホイールブレーキ(6)が、距離を増大させるように構成されている、請求項1記載の車両ブレーキ装置。
【請求項10】
戻しばね(32)のばね定数cは、最大のライニング摩擦値μにおいてホイールブレーキ(6)の緊締距離がほぼ0であるような大きさである、請求項7記載の車両ブレーキ装置。
【請求項11】
液圧式のホイールブレーキ(5,6)を備えた液圧式の車両ブレーキ装置を運転する方法であって、ライニング摩擦値μが高い場合に、弁を制御してブレーキ液を液圧アキュムレータ(14)に導入することを特徴とする、液圧式の車両ブレーキ装置を運転する方法。
【請求項12】
1つの車軸のホイールの液圧式のホイールブレーキ(6)が自己倍力作用を有していて、他の車軸のホイールにおける液圧式のホイールブレーキ(5)が自己倍力作用を有していない、請求項11記載の方法。
【請求項13】
弁制御によりブレーキ圧を液圧アキュムレータ(14)に導入することによって、車両ブレーキ装置(1)のペダル力・ペダル移動距離特性線に影響を与える、請求項11記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−525273(P2010−525273A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−504593(P2010−504593)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【国際出願番号】PCT/EP2008/052775
【国際公開番号】WO2008/135301
【国際公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】