説明

液晶組成物、カラーフィルタおよび液晶表示装置

【課題】ダイコータを用いて生産性において問題の無い高い塗工速度で位相差層を形成した場合でも、横スジムラの発生が極めて少なく、均一な位相差層が得られる液晶組成物、およびこれを用いたカラーフィルタ、ならびにこのカラーフィルタを用いた液晶表示装置を提供する。
【解決手段】1種または2種以上の架橋性液晶分子を含有し、動的表面張力が表面寿命10msで31mN/m〜50mN/m、かつシェアレートが100s-1の際の動的粘度が2.0mPa・s〜4.0mPa・sの範囲内にある液晶組成物であって、動的表面張力が表面寿命10msで27mN/m〜50mN/mの溶媒、および/またはアルキルエーテル系、シリコーン系もしくはフッ素系の界面活性剤を含有することを特徴とする液晶組成物、およびこれを基材に塗工して固定化した位相差層を備えるカラーフィルタならびに該カラーフィルタを表示側基板とする液晶表示装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶組成物、特にスリットダイコータ法による優れた塗工性を有する液晶組成物、該液晶組成物よりなる位相差層を有するカラーフィルタ、および該カラーフィルタを用いた液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置は、薄型軽量、低消費電力という大きな利点を持つため、パーソナルコンピューターや携帯電話、電子手帳等の表示装置に積極的に用いられている。これらの液晶表示装置は、駆動液晶の複屈折性を利用して光のスイッチングを行っている。したがって、液晶表示装置は駆動液晶の複屈折性に由来する視野角依存性が存在し、この問題を解決するために各種の位相差層形成フィルムが開発されている。この位相差層形成フィルムは通常、ポリアクリレート、ポリカーボネート、トリアセチルセルロース等のフィルムの延伸によって作製され、液晶セルの外側に設置される。
【0003】
また、最近では架橋性液晶や高分子液晶を液晶セルの内側に塗工および固定化することで、いわゆるインセル方式により位相差層を設置する方法が提案されている(下記特許文献1を参照。)。かかる方式によれば、延伸フィルムが不用となるため、耐熱性、耐膨潤性、および機械的強度などを向上することができる。
【0004】
この種の位相差層を形成するための塗布装置としては、従来スピナー、バーコータまたはロールコータなどが多く使用されてきたが、近年では塗工液の消費量を削減し、また塗膜の物性を向上するという観点からダイコータの使用が検討されている。
【0005】
ダイコータを用いたスリットダイコート法に関する塗工技術としては、例えば下記特許文献2〜4に見られるようにカーテンフロー法、押出法、ビード法などの塗工方法が知られる。中でも上記ビード法は、ダイコータの口金に設けられたスリットから塗料を吐出して、口金と一定の間隔を保って相対的に走行する被塗工材との間にビードと呼ばれる塗料溜りを形成し、この状態で被塗工材の走行に伴って塗料を引き出して塗膜を形成する。そして、塗膜形成により消費される量と同量の塗料をスリットから供給することにより塗膜を連続的に形成するビード法を採用すれば、形成された塗膜は膜厚の均一性をかなり高精度に達成できる。また、塗料の無駄がほとんどなく、また、スリットから吐出されるまで塗料送液経路が密閉されているのであるから、塗料の変質、異物の混入を防止でき、得られる塗膜の品質を高く維持できる。
【0006】
一方、下記特許文献5には、液晶表示装置等に用いられるカラーフィルタを構成する着色層をスリットダイコータ法にて塗工形成する際に、動的表面張力を所定の範囲とすることでスリットから吐出されるビードを安定化させ、塗工方向と直交する方向に生じるいわゆる横スジムラの発生を抑制しつつも塗工工程のスループットを高く維持することのできる着色層形成用塗工液の発明が記載されている。
【0007】
【特許文献1】特開2000−221506号公報
【特許文献2】米国特許第4,230,793号
【特許文献3】米国特許第4,696,885号
【特許文献4】米国特許第2,761,791号
【特許文献5】特開2004−070352号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献5に記載の着色層形成用塗工液は一般に洗浄されたガラス基板等の表面に直接塗布されることが一般的であるところ、液晶表示装置のカラーフィルタを構成する位相差層は、ガラス基材上のほか、着色層や保護層、透明電極など、表面平滑性や親水/疎水性が多様な基材(下地)に対して塗布および固定化されることが一般的であるという大きな相違点がある。また、位相差層と着色層とでは溶媒の種別や溶質との混合比、およびとりわけ架橋性液晶分子の含有の有無という決定的な差異があることから、上記特許文献5から得られる知見を位相差層形成用の液晶組成物にそのまま適用することはできず、したがって液晶組成物をスリットダイコート法により高品質かつ高スループットにて塗工する工程はこれまで確立されていなかったといえる。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、ダイコータを用いて生産性において問題の無い高い塗工速度で位相差層を形成した場合でも、横スジムラの発生が極めて少なく、均一な位相差層が得られる液晶組成物、およびこれを用いたカラーフィルタ、ならびにこのカラーフィルタを用いた液晶表示装置を提供することを主目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、発明者らの度重なる試行および検討の末、架橋性液晶分子を所定量含有する液晶組成物についても、表面寿命10msにおける動的表面張力が31mN/m〜50mN/mとなるよう調整することにより、スリットダイコート法による塗工性をきわめて良好とすることができるという知見に基づいてなされたものである。
【0011】
即ち本発明にかかる液晶組成物は、
(1)1種または2種以上の架橋性液晶分子を含有し、動的表面張力が表面寿命10msで、31mN/m〜50mN/mの範囲内にあることを特徴とする液晶組成物;
(2)シェアレートが100s-1の際の動的粘度が2.0mPa・s〜4.0mPa・sの範囲内である上記(1)に記載の液晶組成物;
(3)前記液晶組成物に用いられる溶媒の動的表面張力が表面寿命10msで、27mN/m〜50mN/mの範囲内にあることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の液晶組成物;
(4)アルキルエーテル系、シリコーン系またはフッ素系の界面活性剤を含有する上記(1)から(3)のいずれかに記載の液晶組成物;
(5)前記界面活性剤を0.01〜1重量%(対配合物換算値)含有する上記(4)に記載の液晶組成物;
を要旨とするものである。
【0012】
また本発明にかかるカラーフィルタおよびこれを用いた液晶表示装置は、
(6)透明基板上に少なくとも着色層と位相差層とが積層されたカラーフィルタであって、前記位相差層が、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の液晶組成物が硬化して形成されたものであることを特徴とするカラーフィルタ;
(7)前記位相差層が、前記着色層の上に前記液晶組成物を塗布し、その表面に活性放射線を照射して該液晶組成物を硬化させてなることを特徴とする上記(6)に記載のカラーフィルタ;
(8)位相差層が、対配合物換算値で少なくとも99.85〜70重量%の前記架橋性液晶分子と、0.1〜10重量%の光重合開始剤と、0.05〜10重量%の前記界面活性剤とを含む前記液晶組成物が光硬化および焼成されて形成されたものである上記(6)または(7)に記載のカラーフィルタ;
(9)前記架橋性液晶分子がホメオトロピック配向している上記(6)〜(8)に記載のカラーフィルタ;
(10)上記(6)〜(9)のいずれかに記載のカラーフィルタと、液晶駆動用電極を備える駆動用回路側基板とを対向させて配置し、前記カラーフィルタと駆動用回路側基板との間に駆動用液晶材料を封入してなる液晶表示装置;
を要旨とするものである。
【0013】
尚、本明細書において用いられるいくつかの用語について以下のとおり定義する。
「動的表面張力」とは動いている液体の表面張力のことであり、本発明ではこれを最大泡圧法で測定する。最大泡圧法は、キャピラリの先端から液中に発生させた気泡の圧力を測定することで該液体の表面張力を求める方法である。またこの測定では、気泡の表面が形成されてから直ちに圧力を測定することでより流動状態に近い、すなわち動的な表面張力を求めることができるところ、本発明においてはこの経過時間である「表面寿命」を10msときわめて小さな値を採用している。このような動的表面張力の測定は、バブルプレッシャー動的表面張力計(商品名:BP−2、KRUSS社製)などを用いて測定することができる。
【0014】
なお、本発明にて定義する液晶組成物の動的表面張力とはスリットダイコート法による塗工工程に供される際の値をいい、液晶組成物の生産・流通時などに例えば濃縮状態で存在する場合における値を意味するものではない。
【0015】
「位相差層」とは、光の位相差(リタデーション)変化に対して光学補償することができる位相差制御機能を有する層を意味する。
【0016】
「液晶組成物」とは、少なくとも架橋性液晶分子を1種または2種以上含み、さらに位相差層を形成するために用いられる他の物質が配合された混合物である組成物、および上記混合物を溶媒に溶解もしくは懸濁させて調製した溶液状態である組成物の両方を意味する。また本明細書中、特に上述した「溶液状態である組成物」である本発明の液晶組成物のことを、便宜上「液晶組成物溶液」とも呼ぶ。
【0017】
「対配合物換算値」とは、本発明の液晶組成物が上記混合物である場合には、該混合物を構成する物質として配合される各配合物の総重量を100としたときの各配合物の重量比を意味し、本発明の液晶組成物が上記配合物を溶媒で溶解あるいは混合した溶液である場合には、溶液の重量から溶媒の重量を引いた重量(即ち、溶媒に溶解或いは懸濁する前の各配合物の総重量)を100としたときの各配合物の重量比を意味する。なお、本発明において特に断りなく重量%と表記した場合は、対配合物換算値を意味するものとする。
【0018】
「ホメオトロピック配向」とは、位相差層を構成する液晶分子の光軸が基板面に対して垂直または略垂直に立ち上がっている配向状態をいう。また「位相差層がホメオトロピック配向している」とは、位相差層を構成する液晶分子が、ホメオトロピック配向していることをいう。尚、本発明において、液晶分子の理想的なホメオトロピック配向とは、位相差層の厚さ方向をz軸としてxyz直交座標系を想定したとき、x軸方向の屈折率nxとy軸方向の屈折率nyはほぼ同じ値になり、かつ測定角度が0°の時の位相差値が4nm以下の場合をいい、好ましくは3.5nm以下、より好ましくは3nm以下の場合をいう。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、架橋性液晶分子を含有する液晶組成物をスリットダイコート法によって基材上に塗布する際、適用された面における塗液の塗れ性が十分となるため、決められた区域に塗液が均一に広がり、横スジムラの発生を抑えることができる。このため本発明の液晶組成物によれば、ガラス基板や着色層など基材の種類や表面の性状によらず良好な塗工性を得ることができるため、いわゆるインセル方式によって対向するガラス基板の内側に保護されるように位相差層を塗工形成した液晶表示装置、およびこれを構成するカラーフィルタにつき、安定して優れた視野角改善効果を発揮することができる。
【0020】
また本発明によれば、表面寿命10msで27mN/m〜50mN/mの範囲内の動的表面張力を有する溶媒を用いること、および/またはアルキルエーテル系、シリコーン系またはフッ素系の界面活性剤を混合することにより、特に所望の動的表面張力を有する液晶組成物を得ることができ、スリットダイコート法による良好な塗工性が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態について具体的に説明する。本発明の液晶組成物は、架橋重合可能な分子構造を有する架橋性液晶分子を含有し、かつその動的表面張力が上記所定の範囲内にあることを基本的な特徴とする。
【0022】
<架橋性液晶分子について>
本発明の液晶組成物に用いる架橋性液晶分子としては、架橋性のネマチック液晶を用いることができ、架橋性ネマチック液晶としては例えば、1分子中に(メタ)アクリロイル基、エポキシ基、オキタセン基、イソシアネート基等の重合性基を少なくとも1個有するモノマー、オリゴマー、ポリマー等が挙げられる。このような架橋性液晶としては、下記一般式(1)で表される化合物(I)のうちの1種の化合物もしくは2種以上の混合物、化2、化3に示す化合物(II)のうちの1種の化合物もしくは2種以上の混合物、またはこれらを組み合わせた混合物を用いることができる。特に、本発明における架橋性液晶分子を構成する架橋性ネマチック液晶分子の少なくとも1種が1分子中に1個または2個以上の(メタ)アクリロイル基を有することが好ましい。
【0023】
なお本発明において、「(メタ)アクリロイル基」とは、「アクリロイル基」および「メタアクリロイル基」の2つの官能基の総称として用いるものとする。尚、アクリロイル基の例としてはアクリレート基やアクリロイロキシ基など、メタアクリロイル基の例としてはメタクリレート基やメタクリロイロキシ基などが挙げられる。また「(メタ)アクリレート基」や「(メタ)アクリロイロキシ基」についても、それぞれ「アクリレート基」と「メタクリレート基」、および「アクリロイロキシ基」と「メタクリロイロキシ基」の総称として用いる。
【0024】
【化1】

【0025】
【化2】

【0026】
【化3】

【0027】
上記一般式(1)において、R1およびR2はそれぞれ水素またはメチル基を示すが、液晶相を示す温度範囲の広さからR1またはR2の少なくとも一方はともに水素であることが好ましく、R1およびR2がともに水素であることがより好ましい。Xは水素、塩素、臭素、ヨウ素、炭素数1〜4のアルキル基、メトキシ基、シアノ基またはニトロ基のいずれであってもよいが、塩素またはメチル基であることが好ましい。また、化合物(I)の分子鎖両端の(メタ)アクリロイロキシ基、芳香環とのスペーサーであるアルキレン基の鎖長を示すaおよびbは、それぞれ個別に2〜12の範囲で任意の整数をとり得るが、4〜10の範囲であることが好ましく、6〜9の範囲であることがさらに好ましい。a=b=0である一般式(1)の化合物は安定性に乏しく、加水分解を受けやすい上に、化合物自体の結晶性が高い。また、aおよびbがそれぞれ13以上である一般式(1)の化合物は、等方相転移温度(TI)が低い。この理由から、これらの化合物はどちらも液晶性を示す温度範囲が狭くなり好ましくない。上記した化1、化2、化3では架橋性液晶のモノマーを例示したが、架橋性液晶のオリゴマーや架橋性液晶のポリマー等も、従来用いられているもののなかから適宜選択して用いることができる。
【0028】
一般に位相差層のリタデーション量および配向特性は、架橋性液晶分子の複屈折Δnと、位相差層の膜厚により決定されるところ、架橋性液晶分子のΔnは0.03〜0.20程度が好ましく、0.05〜0.15程度が更に好ましい。かかる複屈折率を達成することで、一般的なスリットダイコータによる液晶組成物の塗工により、波長λの可視光を透過させた場合にλ/4やλ/2などの所望の位相差を得ることのできる位相差層が形成される。
【0029】
本発明の液晶組成物において、架橋性液晶分子は対配合物換算値で70重量%以上、好ましくは75重量%以上となるように配合されることが好ましい。含有量を70重量%以上とすることにより液晶性が向上し、位相差層における配向不良の発生を良好に抑制できる。ただし架橋性液晶分子に特定の作用を付与し、あるいは本発明の液晶組成物を用いて形成される位相差層に特定の機能を付与するためのさらなる添加剤を添加することが必要な場合には、架橋性液晶分子の添加量は上述の限りではない。かかる場合には、他の添加剤の添加量を考慮し、適宜、架橋性液晶分子の添加量を決定してよい。例えば、後述するカイラル剤を添加して一般に形成される所謂負のCプレートを得る場合などについては、架橋性液晶分子の添加量が70重量%未満になることを除外するものではない。
【0030】
<正のCプレートについて>
上記架橋性液晶分子を垂直配向(ホメオトロピック配向)させて固定化することにより、液晶分子の光軸が位相差層の法線方向を向くとともに常光線屈折率よりも大きな異常光線屈折率を位相差層の法線方向に有する、いわゆる正のCプレートを形成することができる。この場合、液晶組成物の塗布面には垂直配向膜を予め形成するか、または液晶組成物に垂直配向助剤を混合するとよい。
【0031】
垂直配向助剤の例としては、例えばレシチンや第四級アンモニウム界面活性剤などの垂直に整列したアルキル鎖またはフルオロカーボン鎖を有する表面カップリング剤、HTAB(ヘキサデシル−トリメチルアンモニウムブロミド)、DMOAP(N,N−ジメチル−N−オクタデシル−3−アミノプロピルトリメトキシシリルクロリド)、N−パーフルオロオクチルスルホニル−3−アミノプロピルトリメチルアンモニウムヨージド、長鎖アルキルアルコール、シランポリマーなどを挙げることができる。
【0032】
架橋性液晶分子がホメオトロピック(垂直)配向した上記正のCプレートを形成するに際し、本発明の課題である横スジムラの発生は架橋性液晶の垂直配向性を著しく乱し該プレートの光漏れを生じる要因となることから、本発明のごとく塗工性を改善し横スジムラの発生を低減することのできる液晶組成物は、正のCプレートの形成を目的とする場合に特に好適に用いられる。
【0033】
<負のCプレートについて>
一方、液晶分子の光軸が位相差層と並行するとともに常光線屈折率よりも小さな異常光線屈折率を位相差層の法線方向に有する、いわゆる負のCプレートを形成する場合、架橋性ネマチック液晶としてはカイラル剤を添加したコレステリック規則性を有するカイラルネマチック液晶を好適に用いることができる。
【0034】
カイラル剤は光学活性な部位を有する低分子量化合物で、分子量1500以下の化合物が好ましい。カイラル剤は、上記化1に示す化合物(I)、または化2、化3に示す化合物(II)が発現する正の一軸ネマチック規則性に、螺旋ピッチを誘起させる目的で用いられる。カイラル剤としては下記、化4に示す化合物を例示することができるが、上記化合物(I)や化合物(II)と溶液状態または溶融状態で相溶性を有し、かつ架橋性ネマチック液晶の液晶性を損なうことなく螺旋ピッチを誘起できるものであれば、化4に示す化合物に限定されない。しかしながら分子の両末端に架橋性官能基を有するものが、耐熱性の良い光学素子を得る上で好ましい。カイラル剤は分子内に光学活性な部位を有する化合物である。
【0035】
本発明で使用可能なカイラル剤としては、例えば1つもしくは2つ以上の不斉炭素を有する化合物、キラルなアミン、キラルなスルフォキシド等のようにヘテロ原子上に不斉点がある化合物、またはクムレン、ビナフトール等の軸不斉を持つ化合物等が挙げられる。例えば市販のカイラルネマチック液晶、より具体的にはMerck社製S−811等を用いることができる。選択したカイラル剤の性質によっては、ネマチック規則性の破壊、配向性の低下を招き、また非重合性のカイラル剤の場合には架橋性液晶の硬化性の低下、硬化フィルムの電気的信頼性の低下を招く虞があり、更に光学活性な部位を有するカイラル剤の多量使用はコストアップを招く。従って本発明で用いるカイラル剤としては、液晶性高分子の配向に螺旋ピッチを誘発する効果の大きなカイラル剤を選択することが好ましく、具体的には下記一般式(2)〜(4)で表されるような化合物であって、分子内に軸不斉を有する低分子化合物の使用が好ましい。
【0036】
【化4】

【0037】
上記一般式(2)〜(4)において、R4は水素またはメチル基を示し、Yは下記、化5、化6に示す(i)〜(xxiv)のうちの任意の一つであるが、中でも式(i)、(ii)、(iii)、(v)および(vii)の何れか一つであることが好ましい。またアルキレン基の繰り返しを示すcとdは、それぞれ個別に2〜12の範囲であることがさらに好ましい。cとdのいずれかまたは両方の値が0または1である化合物は、安定性に欠け、加水分解を受けやすく、結晶性も高い。一方、cまたはdのいずれかの値が13以上である化合物は、融点(Tm)が低い。換言すると、cとdの値がともに上記好ましい範囲のカイラル剤を用いると、上記化合物(I)および化合物(II)に例示される架橋性液晶モノマーとの相溶性が十分に得られるという利点がある。
【0038】
【化5】

【0039】
【化6】

【0040】
カイラル剤の配合量の最適範囲は、螺旋ピッチ誘起能力や最終的に得られる位相差層のコレステリック性を考慮して決められる。具体的な配合量の範囲は、架橋性液晶の種類等により大きく異なるものではあるが、一般に液晶組成物の対配合物換算値で0.01〜30重量%、好ましくは0.1〜20重量%、更に好ましくは0.5〜15重量%となるように配合される。特に好ましいカイラル剤の配合量は、対配合物換算値で1〜15重量%である。カイラル剤の配合量が対配合物換算値で0.01重量%未満の場合、液晶組成物に十分なコレステリック性を付与できない場合があり、また30重量%を超える場合は、架橋性液晶分子の配向が阻害され、硬化させる際に硬化速度の低下や架橋密度の低下といった悪影響を及ぼす虞がある。特にカイラル剤の配合量が上記好適な数値範囲内の場合、負のCプレートの配向性と架橋硬化性をともに十分に高め、位相差層の良好な光学特性を得ることができる。
【0041】
尚、本発明で用いるカイラル剤は、特に架橋性を有することを必須とするものではないが、得られる位相差層の熱安定性等を考慮すると、上述した架橋性液晶と重合し、コレステリック規則性を固定化することが可能な架橋性カイラル剤を用いることが好ましい。特に、分子の両末端に架橋性官能基があることが、耐熱性のよい光学素子を得る上で好ましい。
【0042】
<正のAプレートについて>
また、液晶分子の光軸が位相差層と並行する、いわゆる正のAプレートを形成する場合、ラビング処理などを施した水平配向膜による配向規制力を架橋性液晶分子に負荷するか、または空気界面に対する架橋性液晶分子の表面自由エネルギーを抑制するためのレベリング剤を添加することで該分子を水平配向させることができる。
【0043】
<液晶組成物の動的表面張力について>
本発明の液晶組成物は、スリットダイコート法による塗工に供される際の動的表面張力が表面寿命10msで、31mN/m〜50mN/mの範囲内、好ましくは32mN/m〜50mN/mとした点に大きな特徴を有する。本発明にかかる液晶組成物の動的表面張力を上記範囲とすることにより、塗工時にコータ下端面と塗工面との間に形成される液晶組成物のビードの形状を安定化させることが可能となり、その結果、形成される位相差層の表面に生じる横スジムラを大幅に低減することができる。
【0044】
液晶組成物の動的表面張力の測定には、上記バブルプレッシャー動的表面張力計を用いることができる。測定条件は以下の通りである。
キャピラリ径:φ0.228mm
測定温度:23℃
液量:60cc
表面寿命:10ms
キャピラリ浸漬深さ:10mm
設定密度:1.00g/cm3
上記バブルプレッシャー動的表面張力計の概略を図1に示す。
【0045】
本発明の液晶組成物の動的表面張力を上記範囲とするためには、例えば液晶組成物の溶媒として所定の動的表面張力を有するものを選択する方法や、液晶組成物に界面活性剤に代表される添加剤を添加する方法などを挙げることができる。溶媒は特に液晶組成物に多量に含まれているため、その種類を選択して用いることにより、液晶組成物の動的表面張力を上述した範囲に好適に調整することができる。
【0046】
<液晶組成物の動的粘度について>
また本発明の液晶組成物は、動的表面張力が上記所定範囲であることに加え、さらにシェアレート(ずり速度)が100s-1の際の動的粘度が2.0mPa・s〜4.0mPa・sの範囲内、特に2.5mPa・s〜4.0mPa・sの範囲内であることが好ましい。動的粘度がこの範囲内であることにより、上述した液晶組成物のビード形状をより安定させることができ、結果的に得られる位相差層表面の横スジムラの発生率をさらに低減させることができる。
【0047】
なお、液晶組成物の上記動的粘度は、スリットダイコート法による塗工工程に供される際の値をいい、液晶組成物の生産・流通時などに例えば濃縮状態で存在する場合における値を意味するものではない。
【0048】
本発明の液晶組成物の動的粘度は、例えば二重円筒方式レオメータ(レオメトリック・サイエンティフィック社製、商品名:ARES)を用い、シェアレートが100s-1、23℃、液量10ccで測定した値を用いることができる。二重円筒方式レオメータの概略を図2に示す。
【0049】
液晶組成物の動的粘度の調整は、例えば液晶組成物溶液の混合物の濃度を調整することにより行うことが可能であり、また用いる溶媒を選択することによっても行うことができる。
【0050】
<溶媒について>
本発明の液晶組成物は、塗布性を向上させるために上記固形分を溶媒に溶解した液晶組成物溶液として用いられる。溶媒としては上述した架橋性液晶分子や、必要に応じて用いられる垂直配向助剤、カイラル剤および後述する光重合開始剤や界面活性剤等の溶質成分を溶解することが可能であり、かつ塗布する相手側素材の性能を阻害しないものを選択する。
【0051】
また本発明の液晶組成物に用いられる溶媒は、表面寿命10msにおける動的表面張力が27mN/m〜50mN/mの範囲内、好ましくは28mN/m〜48mN/mであるものを選択して用いるとよい。この範囲内の溶媒を選択して用いることにより、液晶組成物溶液としての動的表面張力を上述した範囲内に調整することができ、スリットダイコート法による高速塗工を行った際のビード安定性を向上させることができる。
【0052】
また溶媒は、100s-1における動的粘度が1.0mPa・s〜4.0mPa・sの範囲内、特に1.0mPa・s〜3.0mPa・sの範囲内であることが好ましい。溶媒の動的粘度が上述した範囲内であるものを選択して用いることにより、このような溶媒を用いて調製された液晶組成物の動的粘度を上述した所定の範囲内とすることが可能となり、結果的に得られる位相差層の表面の平滑性を向上させることができる。
【0053】
上記溶媒の常圧沸点は、液晶組成物溶液とした場合の取扱性の観点から、140℃〜210℃の範囲内、特に140℃〜180℃の範囲内のものが好ましく、また蒸気圧が0.1kPa〜1.4kPaの範囲内、特に0.13kPa〜1kPa(20℃、1気圧時)の範囲内のものが好適に用いられる。
【0054】
溶媒の具体例としては以下のものを例示することができる。すなわち、ベンゼン、トルエン、キシレン、n−ブチルベンゼン、ジエチルベンゼン、テトラリン等の炭化水素類、メトキシベンゼン、1,2−ジメトキシベンゼン、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、2,4−ペンタンジオン等のケトン類、酢酸エチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン等のエステル類、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、トリトリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、オルソジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒、t−ブチルアルコール、ジアセトンアルコール、グリセリン、モノアセチン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ等のアルコール類、フェノール、パラクロロフェノール等のフェノール類等の1種または2種以上が使用可能である。
【0055】
なお、単一種の溶媒を使用した場合に動的表面張力および/または動的粘度が上記所望の範囲を逸脱する場合、2種以上の溶媒を混合することで該混合溶媒の動的表面張力および動的粘度を上記範囲に調整してもよい。また架橋性液晶分子等の溶質成分の溶解性が不充分である場合や、塗布する相手方の素材が侵される虞がある場合等についても、2種以上の溶媒を混合使用することにより、これらの不都合を回避することができる。上記した溶媒のなかにあって、単独溶媒として好ましいものは、炭化水素系溶媒とグリコールモノエーテルアセテート系溶媒であり、混合溶媒として好ましいものは、エーテル類またはケトン類と、グリコール類との混合系である。液晶組成物溶液の濃度、すなわち溶媒と溶質成分とを混合した液晶組成物溶液に占める溶質成分の重量比率は、液晶組成物に用いる溶質成分の溶解性や位相差層の所望する膜厚等により異なるが、通常は1〜60重量%、好ましくは3〜40重量%の範囲で用いられる。
【0056】
<界面活性剤について>
本発明においては、液晶組成物に界面活性剤を添加することにより、その動的表面張力を上記所定の範囲内に調整し、塗工形成される位相差層の横スジムラを抑制することもできる。ここで、アルキルエーテル系、シリコーン系またはフッ素系の界面活性剤を用いた場合に、上記横スジムラの抑制効果がもっとも享受されることが発明者らの検討により明らかとなっている。
【0057】
液晶組成物に好適に添加されるアルキルエーテル系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン(POE)デシルエーテル、POEラウリルエーテル、POEトリデシルエーテル、POEアルキレンデシルエーテル、POEソルビタンモノラウレート、POEソルビタンモノオレエート、POEソルビタンモノステアレート、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、POEアルキルアミン、POEアセチレングリコール、POE(3)2級アルキルエーテル、POE(5)2級アルキルエーテル、POE(7)2級アルキルエーテル、POE(9)2級アルキルエーテル、POE(12)2級アルキルエーテル等が挙げられる。このうち、本発明の液晶組成物を塗工および固定してなる位相差層を液晶表示素子に用いた場合の電圧保持率を良好に維持できるという観点から、特にノニオン系界面活性剤が好適に用いられる。
【0058】
また、アルキルエーテル系界面活性剤の市販品としては、ソフタノールEP5035、ソフタノールEP9050およびソフタノール150(日本触媒(株)製)、ディスパノール16A、ディスパノールLS−100、ディスパノールTOC(日本油脂(株)製)、NIKKOL BT−3、NIKKOL BT−5、NIKKOL BT−7、NIKKOL BT−9、NIKKOL BT−12、(日光ケミカルズ(株)製)などが挙げられる。
【0059】
シリコーン系界面活性剤としては、例えば、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリエーテル変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性ジメチルポリシロキサン、ジメチルシリコーン、ジフェニルシリコーン、ハイドロジェン変性ポリシロキサン、ビニル変性ポリシロキサン、ヒドロキシ変性ポリシロキサン、アミノ変性ポリシロキサン、カルボキシル変性ポリシロキサン、クロル変性ポリシロキサン、エポキシ変性ポリシロキサン、メタクリロキシ変性ポリシロキサン、メルカプト変性ポリシロキサン、フッ素変性ポリシロキサン、長鎖アルキル変性ポリシロキサン、フェニル変性ポリシロキサン、シリコーン変性コポリマーなどの珪素原子含有の低分子化合物が挙げられる。
【0060】
また、シリコーン系界面活性剤の市販品としては、トーレシリコーンDC3PA、同DC7PA、同SH11PA、同SH21PA、同SH28PA、同SH29PA、同SH30PA、同FS−1265−300(以上、東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製)、TSF−4300、同−4440、同−4445、同−4446、同−4452、同−4460(以上、GE東芝シリコン(株)製)、ポリシロキサンポリマーKP341(信越化学(株)製)、BYK−301、同BYK−302、同BYK−307、同BYK−325、同BYK−331、同BYK−333、同BYK−341、同BYK−345、同BYK−346、同BYK−348、同BYK−375(ビックケミー・ジャパン(株)製)アロンGS−30(東亜合成社製)、シリコーンL−75、シリコーンL−76、シリコーンL−77、シリコーンL−78、シリコーンL−79、シリコーンL−520及びシリコーンL−530(日本ユニカ社製)等を挙げることができる。このうち、本発明の液晶組成物を塗工および固定してなる位相差層を液晶表示素子に用いた場合の電圧保持率を良好に維持できるという観点から、特にノニオン系界面活性剤が好適に用いられる。
【0061】
フッ素系界面活性剤としては、末端、主鎖および側鎖の少なくともいずれかの部位にフルオロアルキル基あるいはフルオロアルキレン基を有する化合物が好ましく、その具体例としては、1,1,2,2−テトラフロロオクチル(1,1,2,2−テトラフルオロ−n−プロピル)エーテル、1,1,2,2−テトラフルオロ−n−オクチル(n−ヘキシル)エーテル、オクタエチレングリコールジ(1,1,2,2−テトラフルオロ−n−ブチル)エーテル、ヘキサエチレングリコール(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−n−ペンチル)エーテル、オクタプロピレングリコールジ(1,1,2,2−テトラフルオロ−n−ブチル)エーテル、ヘキサプロピレングリコールジ(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−n−ペンチル)エーテル、1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−n−デカン、1,1,2,2,8,8,9,9,10,10−デカフルオロ−n−ドデカン、パーフルオロ−n−ドデシルスルホン酸ナトリウムや、フルオロアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、フルオロアルキルホスホン酸ナトリウム、フルオロアルキルカルボン酸ナトリウム等のアニオン系界面活性剤、フルオロアルキルポリオキシエチレンエーテル、ジグリセリンテトラキス(フルオロアルキルポリオキシエチレンエーテル)、パーフルオロアルキルポリオキシエタノール、パーフルオロアルキルアルコキシレート、フッ素系アルキルエステル等のノニオン系界面活性剤、フルオロアルキルアンモニウムヨージド等のカチオン系界面活性剤、フルオロアルキルベタイン等の両性界面活性剤を挙げることができる。このうち、本発明の液晶組成物を塗工および固定してなる位相差層を液晶表示素子に用いた場合の電圧保持率を良好に維持できるという観点から、特にノニオン系界面活性剤が好適に用いられる。
【0062】
また、フッ素系界面活性剤の市販品としては、商品名で、例えば、BM−1000、同−1100(以上、BM CHEMIE社製)、メガファックF142D、同F172、同F173、同F183、同F178、同F191、同F471、同F475、同F476(以上、大日本インキ化学工業社製)、フロラードFC−170C、同FC−171、同FC−430、同FC−431(以上、住友スリーエム社製)、サーフロンS−112、同S−113、同S−131、同S−141、同S−145、同S−382、同SC−101、同SC−102、同SC−103、同SC−104、同SC−105、同SC−106(以上、旭硝子社製)、エフトップEF301、同EF303、同EF352(以上、新秋田化成社製)、フタージェントFT−100、同FT−110、同FT−140A、同FT−150、同FT−250、同FT−251、同FTX−251、同FTX−218、同FT−300、同FT−310、同FT−400S(以上、ネオス社製)等を挙げることができる。
【0063】
上記アルキルエーテル系、シリコーン系またはフッ素系界面活性剤は、液晶の配向を大きく損なわない範囲で添加することが好ましく、具体的には対配合物換算値で0.01〜1重量%となるように添加する。0.01重量%以上となる量を添加することにより液晶組成物に十分な塗工性を付与することができ、横スジムラの良好な防止効果が発揮される。また添加量を1重量%以下とすることによって、位相差層中の液晶の配向不良の発生や、位相差層の電気信頼性の低下の虞を抑えることができる良好である。
【0064】
<光重合開始剤について>
本発明の液晶組成物を紫外線などの電磁波を照射して重合硬化させる場合、光重合開始剤を配合するとよい。光重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤を使用することができる。ラジカル重合開始剤は電磁波のエネルギーによりフリーラジカルを発生する化合物であって、例えばベンゾイン、ベンゾフェノンなどのベンゾフェノン誘導体またはそれらのエステルなどの誘導体;キサントンおよびチオキサントン誘導体;クロロスルフォニル、クロロメチル多核芳香族化合物、クロロメチル複素環式化合物、クロロメチルベンゾフェノン類などの含ハロゲン化合物;トリアジン類;フルオレノン類;ハロアルカン類;光還元性色素と還元剤とのレドックスカップル類;有機硫黄化合物;過酸化物等が挙げられる。光重合開始剤としては、イルガキュアー184、イルガキュアー369、イルガキュアー651、イルガキュアー907(いずれもチバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)、ダロキュアー(メルク社製)、アデカ1717(旭電化工業株式会社製)、2,2’−ビス(o−クロロフェニル)−4,5,4’−テトラフェニル−1,2’−ビイミダゾール(黒金化成株式会社製)等のケトン系、ビイミダゾール系化合物等が好ましい。これらの重合開始剤は、1種のみまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。2種以上を併用する場合には、吸収分光特性を阻害しないように、吸収波長の異なる開始剤を組み合わせるのが良い。上記光重合開始剤が配合された本発明の液晶組成物を基材上に塗布して塗膜を形成し、該塗膜中に存在する架橋性液晶分子を配向させた後、該光重合開始剤の感光波長の光を該塗膜に照射することによって、配向した架橋性液晶分子同士を良好に架橋させることができる。
【0065】
光重合開始剤は、液晶の配向を大きく損なわない範囲で添加することが必要であり、液晶組成物の対配合物換算値で0.01〜15重量%、好ましくは0.1〜12重量%、より好ましくは0.1〜10重量%、特に0.5〜10重量%となるように添加する。
【0066】
なお本発明の液晶組成物には光重合開始剤のほか、その目的が損なわれない範囲で液晶組成物の保存安定性を向上するための重合禁止剤を、また紫外線などの電磁波の吸収を補助するための増感剤を添加することもできる。
【0067】
<スリットダイコート法による塗工方法について>
本発明の液晶組成物は、塗工速度が80〜500mm/secの範囲内で、かつ塗布ギャップが120〜300μmの範囲内の条件でスリットダイコート法により基材(下地)上に塗工することができる。かかる塗工速度による場合、基材とスリットダイコータ口金との衝突の虞がなく、またかかる広い塗布ギャップの条件下でダイコータを用いて位相差層を形成した場合でも、横スジムラの発生が極めて少ない位相差層を得ることができる。
【0068】
なお、上記塗工速度とは、スリットダイコータ口金と基材との相対速度を意味し、上記範囲のうち、さらに80〜250mm/sec、特に80〜150mm/secの速度とした場合に生産効率の確保と横スジムラの低減の効果を両立することができる。
また上記塗布ギャップとは、スリットダイコータ口金の下端面から基材表面までの距離をいい、これが上記範囲のうち、さらに120〜200μm、特に120〜150μmの場合、スリットダイコータ口金と基材との衝突を回避しつつ、ビードの安定性を保つことができる。
【0069】
<液晶組成物を用いたカラーフィルタについて>
本発明の液晶組成物は、液晶表示装置において視野角を調整するための位相差層を形成するために用いることができ、位相差層は例えば液晶表示装置のカラーフィルタに代表される光学素子に設けることができる。以下、位相差層を設けたカラーフィルタについて図面に基づいて例示的に説明する。
【0070】
図3は本発明にかかるカラーフィルタ1の一実施例を示し、2は透明基板、3は着色層、4は本発明の液晶組成物により形成した位相差層を示す。カラーフィルタ1は、透明基板2の上に、ブラックマトリクス5(BM)、赤(R)のサブ画素6、緑(G)のサブ画素7、青(B)のサブ画素8を設けて着色層3を形成し、さらに着色層3の表面に本発明の液晶組成物を用いて成膜した位相差層4を積層したものである。
【0071】
透明基板2は光透過性を有し、光学的に等方性のものが好ましいが、必要に応じて局所的に光学的異方性または遮光性の領域を設けることもできる。また光透過率はカラーフィルタの用途に応じて適宜選定可能である。
【0072】
具体的には、ガラス、シリコン、もしくは石英等の無機基材か、次に列挙するような有機基材からなる。有機基材としては、ポリメチルメタクリレート等のアクリル、ポリアミド、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、トリアセチルセルロース、もしくはシンジオタクティック・ポリスチレン等、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂、もしくはポリエーテルニトリル等、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリシクロヘキセン、もしくはポリノルボルネン系樹脂等、または、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリプロピレン、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、もしくは熱可塑性ポリイミド等からなるものを挙げることができるが、一般的なプラスチックからなるものも使用可能である。透明基板2の厚さについても、用途に応じて、例えば5μm〜3mm程度のものが使用される。
【0073】
透明基板2上には、RGB3色のサブ画素の予定配置位置を区画形成するため、遮光性または吸光性のブラックマトリクス(BM)5がストライプ状やモザイク状などに予め設けられている。
【0074】
かかる透明基板2の上に、フォトリソグラフィー法やインクジェット法などでRGB各色の着色レジストを塗布し、さらにこれを加熱焼成することで赤(R)のサブ画素6、緑(G)のサブ画素7、青(B)のサブ画素8を順次設け、着色層3を形成する。着色レジストは、顔料など各色の着色材料を溶媒に分散させて得ることができる。
【0075】
着色層3は表面の不純物を除去し、また液晶組成物に対する濡れ性を改善するため、UV洗浄処理やコロナ処理などの表面改質処理が施されることが一般的である。これにより、着色層3と後述する位相差層4との密着性が向上し、カラーフィルタ1の耐久性が向上する。
【0076】
着色層3の表面には、本発明の液晶組成物をスリットダイコート法によって塗布し、液晶塗布膜を形成する。
【0077】
このとき、位相差層4を形成するに先だって、必要に応じて塗工面となる透明基板2や着色層3の表面には図示しない配向膜を設けてもよい。配向膜は必ずしも必須ではないが、これを設けることにより架橋性液晶分子の配向方向の制御が容易となる。
水平配向膜の場合、透明基板2上にポリイミド等の配向性樹脂を塗布、乾燥させた後、ラビング処理や光配向処理することにより形成することができるが、ラビング処理や光配向処理は必ずしも行わなくてもよい。
また垂直配向膜の場合、透明基板2上に酸化ケイ素を斜め蒸着することで配向膜を形成することもできる。
本発明で用いられる配向膜材料としては、市販の配向膜材料を用いることができる。具体的には日産化学(株)製の配向膜材料(サンエバー)、日立化成デュポンマイクロシステムズ(株)製の配向膜材料(QL,LXシリーズ)、JSR(株)製の配向膜材料(ALシリーズ)、チッソ(株)製の配向剤(リクソンアライナー)などを用いることができる。
【0078】
着色層3または配向膜の表面に液晶塗布膜を形成した後、液晶塗布膜に含まれる架橋性液晶分子に予め定められた配向性を付与して架橋性液晶の分子を架橋重合させる。
【0079】
例えば、液晶塗布膜を正のCプレートとしての機能を有する位相差層4となす場合には、液晶塗布膜中の架橋性液晶分子をホメオトロピック配向させて架橋性液晶分子同士を重合させる。架橋性液晶分子にホメオトロピック配向を付与することは、赤外線で加熱する手段などを用いて液晶塗布膜を加熱して、その液晶塗布膜の温度を、その中に含まれる架橋性液晶が液晶相となる温度(液晶相転移温度)以上、架橋性液晶が等方相(液体相)となる温度(等方相転移温度)未満にすることで実施できる。
【0080】
加熱温度は液晶組成物に含まれる各溶質成分の違いにより異なるが、通常70〜120℃であり、加熱時間は2〜30分間程度である。次いで紫外線を照射して架橋性液晶を架橋硬化させる。紫外線としては、波長200〜500nm程度のものが照射され、紫外線源としては高圧水銀ランプ、キセノンランプ、メタルハライドランプ等が用いられる。照射光量は架橋性液晶の種類や組成、光重合開始剤の種類や量等によっても異なるが、通常、10〜3000mJ/cm2程度である。
【0081】
紫外線照射後、更に加熱処理することにより、光重合では硬化しきれなかった未反応の架橋性液晶分子を互いに架橋させ、一定方向に配列した状態で三次元構造に重合させて位相差層4を形成する。紫外線照射後に加熱処理する際の温度、時間は、架橋性液晶分子の種類や組成に依存するが、通常、150℃〜260℃で10分〜60分間程度の範囲で行われる。塗布した液晶組成物を架橋、硬化させて得られる位相差層4の厚み特に制限はないが、生産性等を考慮して通常、0.5〜10μm程度が好ましい。
【0082】
上記本実施の形態のカラーフィルタ1のように、透明基板2上に液晶組成物を塗布してこれを配向および固定化して位相差層4を形成することにより、いわゆるインセル型の位相差層4を得ることができる。これにより、シート状に外部成形した位相差フィルムを接着剤などにより透明基板に貼り付ける従来の方式に比べ、カラーフィルタ1の全体を薄型化し、また該接着剤による光の散乱が防止できるとともに、位相差層4が透明基板2で保護されることからその耐熱性の向上や吸湿変形の抑制などの効果を得ることができる。
【0083】
<その他の層について>
図3に示すように、位相差層4の表面には必要に応じて更に保護層9、スペーサー10を順次設けてもよい。保護層9は、多官能アクリレートを含有するアクリル系、アミド系もしくはエステル系ポリマー等の材料からなる透明樹脂材料、または多官能エポキシを含有するアクリル系、アミド系もしくはエステル系ポリマー等の材料からなる透明樹脂塗料を位相差層4の表面に塗布し、さらにこれを乾燥および硬化させて形成することができる。保護層9の硬化には、透明樹脂材料の性質に応じて、例えばUV光を照射するなどの方法を採ることができる。
【0084】
スペーサー10は、多官能アクリレートを含有するアクリル系、アミド系またはエステル系ポリマー等の材料からなる光硬化性の感光性塗料を、位相差層4、保護層9、または透明基板2の上に塗布してこれを乾燥させ、さらにスペーサー10の形成予定位置に対応したマスクパターンを介して該塗料を露光硬化させた後、未硬化部分をエッチング除去し、さらに全体を焼成することにより形成される。同図に示すようにスペーサー10の配置位置を、分散配置されたブラックマトリクス5と対応させることにより、カラーフィルタ1の光学特性を阻害せずに機械特性の向上の効果を得ることができる。
【0085】
このほか、カラーフィルタ1には、透明基板2と位相差層4の間、または位相差層4の上に、例えば光軸が透明基板2の面に平行するように形成された液晶材料を配向および固定化してなる正のAプレートなどの他の位相差制御層などの層を備えてもよい。
【0086】
一方、カラーフィルタ1のうち、透明基板2を挟んで位相差層4の反対側には、その他の機能層20を備えてもよい。機能層20の例としては、後述する駆動用電極との間に電場を形成する透明導電膜、上記正または負のCプレートや正のAプレートなどの位相差制御層、または偏光板などを例示することができる。これらを1種または2種以上選択し、透明基板2に積層することにより、本発明のカラーフィルタ1を後述する液晶表示装置として用いた場合に所望の機能が発揮される。
【0087】
なお、カラーフィルタ1の異なる態様としては、透明基板2の上に必要に応じて配向膜を形成した後、本発明の液晶組成物を塗工、三次元配向、および加熱焼成により固定化して位相差層4を形成し、さらにその上にブラックマトリクス5および赤(R)のサブ画素6、緑(G)のサブ画素7、青(B)のサブ画素8を順次設けて着色層3を形成してもよい。
【0088】
<液晶表示装置について>
図4に示すように、本発明のカラーフィルタ1と駆動用回路側基板13とを、熱硬化性樹脂からなるシール剤16によって貼り合わせ、両基板の間に駆動用液晶材料14を封入して液晶セル15を形成することにより、カラーフィルタ1を液晶表示装置11の観察者側(図中上方に相当)に設置される表示側基板12として用いることができる。カラーフィルタ1の位相差層4は、上記のように架橋性液晶分子が透明基板2に対して、例えばホメオトロピック(垂直)配向した状態で固定化された正のCプレートを構成しているものとする。ここで、位相差層4はカラーフィルタ1の透明基板2と、駆動用回路側基板13を構成する透明基板31との間に挟まれるよう配置され、いわゆるインセル型をなす。なお、スペーサー10は図示を省略している。
【0089】
液晶表示装置11がIPSモードの場合には、表示側基板12の直線偏光板23と、駆動用回路側基板13の直線偏光板32とは、互いの透過軸が直交するように配されている。
【0090】
駆動用回路側基板13は、透明基板31のインセル側(駆動用液晶材料14の封入される側)に駆動用回路33と、これにより電圧の負荷量を制御される液晶駆動用電極34とが設けられている。一方、表示側基板12には、機能層20として、透明導電膜21、正のAプレート22、および直線偏光板23を、透明基板2の観察者側に備えている。
【実施例】
【0091】
次に、本発明の液晶組成物を用いた位相差層につき、液晶組成物に含まれる液晶の分子をホメオトロピック配向させ、位相差層を正のCプレートとなす場合を例として詳細に説明する。
【0092】
(実施例1)
下記化7に示す化合物(a)〜(d)の混合物を架橋性液晶分子として用い、重合禁止剤としてBHT(2,6−ジーtert−ブチル−4−ヒドロキシトルエン)、重合開始剤としてイルガキュアー907、そのほか添加剤としてドデカノールを用い、これらを混合して下記組成の架橋性液晶組成物(組成物A)を作製した。架橋性液晶組成物は、特表2004−524385号公報の記載に準じて作製した。尚、以下に示す組成物Aにおける各物質の重量比は、組成物Aの総重量に対する各物質の重量比である。
【0093】
【化7】

【0094】
<架橋性液晶組成物A>
化合物(a) 32.67重量%
化合物(b) 18.67重量%
化合物(c) 21.00重量%
化合物(d) 21.00重量%
ドデカノール 1.02重量%
BHT 0.04重量%
イルガキュアー907 5.60重量%
【0095】
上記液晶組成物に対して、界面活性剤としてアルキルエーテル系のノニオン系界面活性剤(日光ケミカルズ社製、NIKKOL BT−3)を対配合物換算値で0.01%添加した後、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)で溶解し、濃度20%の液晶組成物を得た。なお、上記装置にて測定されるPGMEAの動的表面張力は、表面寿命10msで27.4mN/mであった。
【0096】
液晶組成物の動的表面張力を上記測定装置で測定した結果、35mN/mであった。またその動的粘度は、2.5mPa・sであった。
【0097】
次に下記着色レジストを用いて、基材サイズが550mm×650mm×0.7mmの無アルカリガラス(日本電気硝子社製OA−10)基板上に単色(赤色)の着色層を形成した。
【0098】
<赤色(R)着色画素用フォトレジスト組成>
・赤顔料・・・・・5.0重量部
(C.I.PR254(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製、クロモフタールDPP Red BP))
・黄顔料・・・・・1.0重量部
(C.I.PY139(BASF社製、パリオトールイエローD1819))
・分散剤・・・・・3.0重量部
(ゼネカ(株)製、ソルスパース24000)
・多官能アクリレートモノマー・・・・・4.0重量部
(サートマー(株)製、SR399)
・ポリマー・・・・・5.0重量部
(昭和高分子(株)製VR60)
・開始剤1・・・・・1.4重量部
(チバガイギー社製、イルガキュアー907)
・開始剤2・・・・・0.6重量部
(2,2’−ビス(o−クロロフェニル)−4,5,4’,5’−テトラフェニル−1,2’−ビイミダゾール)
・溶媒・・・・・80.0重量部
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
【0099】
次いで、下記条件に従ってスリットダイコータ法により液晶組成物を着色層上に塗布した。
すなわち定量ポンプにはダイヤフラムポンプを使用し、塗布ギャップを120μmに設定し、スリット先端の吐出口の渡り方向の幅を520mmとした。また、ガラス基板端部より10mmの位置に口金先端の中央部を停止させ、クリアランスを40μmとし、定常塗工時と同じ0.01〜0.03L/minの吐出レートで塗料を0.7sec間吐出し、塗料ビードを形成した。
【0100】
次に、基板搬送速度を80mm/sec〜120mm/secに変化させ、吐出レートを0.01〜0.03L/minの間でウェット膜厚に対して任意に設定し、塗料吐出装置をZ軸方向に上昇させ、塗布ギャップが120μmとなる点で上昇を停止して定常塗工状態とした。
さらに、塗工終了側の基板端部より10mmの位置にて、塗料の吐出を停止させ、同時に塗料吐出装置をZ軸方向に上昇させ塗工を終了した。
【0101】
得られた塗工基板を減圧乾燥機にて内圧が93Paを示すまで仮乾燥させた後、空気雰囲気下において超高圧水銀灯(UXM−5000MA(ウシオ電機製))を有する市販の紫外線照射装置により紫外線を20mW/cm2で10秒照射して架橋性液晶を架橋させ、次いで230℃のオーブンを用いて30分焼成して膜厚1.5μmの位相差層を形成した。
【0102】
得られた位相差層につき、架橋性液晶分子の垂直配向性および塗工性を測定した。
【0103】
(評価1:垂直配向性)
位相差層を構成する架橋性液晶分子の配向状態は、波長589nmの光が位相差層を透過する際に生じる位相差を、次のように測定することによって評価した。なお、位相差の測定には、大塚電子社製のRETS−1250AVを用いた。
【0104】
図5に示すように、位相差層の表面上に互いに直交するx軸とy軸をとるとともにx軸とy軸に対して垂直なz軸を想定した。そして、z軸方向およびz軸に対してx軸方向及びy軸方向に傾斜する方向について光学素子の位相差を測定した。また、x軸方向に傾斜する方向について測定された場合、y軸方向に傾斜する方向について測定された場合、光学素子に生じる位相差がz軸を基準として対称性を示しているか否かを測定した。これらの測定結果に基づき、架橋性液晶分子が良好にホメオトロピック配向をしているか否かという配向性の良否を、次のように評価した。結果については表1に示す。
【0105】
位相差はx軸方向、y軸方向ともに対称性を示す、又は、z軸方向の位相差の値が4nm以下、についていずれか一方を満たす ・・・・ ○
位相差はx軸方向、y軸方向ともに対称性に乱れがあり、且つ、z軸方向の位相差の値が4nmより大きい ・・・・・・・・・・・・・ ×
【0106】
なお、上記の位相差4nmの基準に関し、透過軸方向がそれぞれ直交する(いわゆるクロスニコルに配した)二枚の直線偏光板の間で位相差を生じさせ、二枚の偏光板を光が透過するか否かを調べた場合に、目視上、光の透過が確認できない程度に収まる位相差の基準値が4nmである。
【0107】
(評価2:塗工性)
スリットダイコート法により塗工形成された位相差層につき、横スジムラの発生の有無を下記条件化で目視観測により評価した。
【0108】
1)単色光照射時の反射評価
単色光光源に波長589nmのナトリウムランプを用い、検査光入射角度を60°、検査光反射角度を45°として該反射光の光ムラを目視観測した。
評価基準は、
・横スジムラが観測されなかった ・・・・・・・・・・・・・・・・・ ◎
・横スジムラに起因する光ムラが若干観測された ・・・・・・・・・・ ○
・横スジムラに起因する光ムラが観測された ・・・・・・・・・・・・ △
・液晶組成物の液切れによる塗工不良が生じた ・・・・・・・・・・・ ―
とした。評価結果を表2に示す。
【0109】
2)白色光照射時の透過評価
白色光の光源として、発光スペクトラムのピークがRGBの三波長に存在する三波長管を用いた。クロスニコル状態の二枚の直線偏光板にて本実施例にかかる位相差層を挟み、上記白色光をその背面から照射して透過光の光ムラを目視観測した。
評価基準は、
・良好な白色光が観測された ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ○
・透過光がグレー光として観測された ・・・・・・・・・・・・・・・ △
・透過光不良が生じた ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ×
・液晶組成物の液切れによる塗工不良が生じた ・・・・・・・・・・・ ―
とした。評価結果を表2にあわせて示す。
【0110】
(実施例2)
界面活性剤としてアルキルエーテル系のノニオン系界面活性剤(日本触媒社製、ソフタノールEP5035)を対配合物換算値で0.01%添加した以外は実施例1と同様にして位相差層を作製した。
液晶組成物の動的表面張力を上記測定装置で測定した結果、34mN/mであった。またその動的粘度は、2.6mPa・sであった。
得られた位相差層の配向性および塗工性を実施例1と同様に測定した。評価結果を表1および表2に示す。
【0111】
(実施例3)
界面活性剤としてシリコーン系のノニオン系界面活性剤(ビックケミー・ジャパン社製、BYK−301)を対配合物換算値で0.01%添加した以外は実施例1と同様にして位相差層を作製した。
液晶組成物の動的表面張力を上記測定装置で測定した結果、34mN/mであった。またその動的粘度は、2.7mPa・sであった。
得られた位相差層の配向性および塗工性を実施例1と同様に測定した。評価結果を表1および表2に示す。
【0112】
(実施例4)
界面活性剤としてシリコーン系のノニオン系界面活性剤(GE東芝シリコーン社製、TSF−4300)を対配合物換算値で0.01%添加した以外は実施例1と同様にして位相差層を作製した。
液晶組成物の動的表面張力を上記測定装置で測定した結果、34mN/mであった。またその動的粘度は、2.7mPa・sであった。
得られた位相差層の配向性および塗工性を実施例1と同様に測定した。評価結果を表1および表2に示す。
【0113】
(実施例5)
界面活性剤としてフッ素系のノニオン系界面活性剤(大日本インキ化学工業社製メガファックF475)を対配合物換算値で0.01%添加した以外は実施例1と同様にして位相差層を作製した。
液晶組成物の動的表面張力を上記測定装置で測定した結果、34mN/mであった。またその動的粘度は、2.8mPa・sであった。
得られた位相差層の配向性および塗工性を実施例1と同様に測定した。評価結果を表1および表2に示す。
【0114】
(実施例6)
界面活性剤としてフッ素系のノニオン系界面活性剤(大日本インキ化学工業社製メガファックF482)を対配合物換算値で0.01重量%添加した以外は実施例1と同様にして位相差層を作製した。
液晶組成物の動的表面張力を上記測定装置で測定した結果、33mN/mであった。またその動的粘度は、3.0mPa・sであった。
得られた位相差層の配向性および塗工性を実施例1と同様に測定した。評価結果を表1および表2に示す。
【0115】
(比較例1)
界面活性剤として脂肪酸系のノニオン系界面活性剤(花王製、エマゾールL−10V)を対配合物換算値で0.1重量%用いた以外は実施例1と同様にして位相差層を作製した。液晶組成物の動的表面張力を上記測定装置で測定した結果、30mN/mであった。得られた位相差層の配向性および塗工性を実施例1と同様に測定した。評価結果を表1および表2に示す。
【0116】
(比較例2)
界面活性剤の対配合物換算値を1.0重量%とした以外は実施例5と同様にして位相差層を作製した。
液晶組成物の動的表面張力を上記測定装置で測定した結果、30mN/mであった。得られた位相差層の配向性および塗工性を実施例1と同様に測定した。評価結果を表1および表2に示す。
【0117】
(比較例3)
PGMEAに代えて、溶媒にヘキサンを用いた以外は実施例2と同様にして位相差層を作製した。なおヘキサンの動的表面張力は、表面寿命10msで18mN/mである。
液晶組成物の動的表面張力を上記測定装置で測定した結果、24mN/mであった。得られた位相差層の配向性および塗工性を実施例1と同様に測定した。評価結果を表1および表2に示す。
【0118】
(表1)

【0119】
(表2)

【0120】
上記実施例と比較例を対比することにより、本発明の液晶組成物は、各塗工速度におけるスリットダイコーティングにより横スジムラの発生を抑え、良好な光学特性を有する位相差層が得られることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】動的表面張力を測定する装置を示す概略正面図である。
【図2】本発明のカラーフィルタの一実施例を示す縦断面図である。
【図3】本発明のカラーフィルタの他の実施例を示す縦断面図である。
【図4】本発明のカラーフィルタを用いた液晶表示装置の一例を示す縦断面図である。
【図5】サンプルの位相差測定方向を示した図である。
【符号の説明】
【0122】
1 カラーフィルタ
2 透明基板
3 位相差層
4 着色層
11 液晶表示装置
12 表示側基板
13 駆動用回路側基板
14 駆動用液晶材料
15 液晶セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種または2種以上の架橋性液晶分子を含有し、動的表面張力が表面寿命10msで、31mN/m〜50mN/mの範囲内にあることを特徴とする液晶組成物。
【請求項2】
シェアレートが100s-1の際の動的粘度が2.0mPa・s〜4.0mPa・sの範囲内である請求項1に記載の液晶組成物。
【請求項3】
前記液晶組成物に用いられる溶媒の動的表面張力が表面寿命10msで、27mN/m〜50mN/mの範囲内にあることを特徴とする請求項1または2に記載の液晶組成物。
【請求項4】
アルキルエーテル系、シリコーン系またはフッ素系の界面活性剤を含有する請求項1から3のいずれかに記載の液晶組成物。
【請求項5】
前記界面活性剤を0.01〜1重量%(対配合物換算値)含有する請求項4に記載の液晶組成物。
【請求項6】
透明基板上に少なくとも着色層と位相差層とが積層されたカラーフィルタであって、前記位相差層が、請求項1〜5のいずれかに記載の液晶組成物が硬化して形成されたものであることを特徴とするカラーフィルタ。
【請求項7】
前記位相差層が、前記着色層の上に前記液晶組成物を塗布し、その表面に活性放射線を照射して該液晶組成物を硬化させてなることを特徴とする請求項6に記載のカラーフィルタ。
【請求項8】
位相差層が、対配合物換算値で少なくとも99.85〜70重量%の前記架橋性液晶分子と、0.1〜10重量%の光重合開始剤と、0.05〜10重量%の前記界面活性剤とを含む前記液晶組成物が光硬化および焼成されて形成されたものである請求項6または7に記載のカラーフィルタ。
【請求項9】
前記架橋性液晶分子がホメオトロピック配向している請求項6〜8に記載のカラーフィルタ。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれかに記載のカラーフィルタと、液晶駆動用電極を備える駆動用回路側基板とを対向させて配置し、前記カラーフィルタと駆動用回路側基板との間に駆動用液晶材料を封入してなる液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−333896(P2007−333896A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−163930(P2006−163930)
【出願日】平成18年6月13日(2006.6.13)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】