説明

渦流の抑制方法、溶融金属収容容器、並びに溶銑又は溶鋼の製造方法

【課題】排出口を有する転炉に収容される溶銑に不活性ガスを吹き込まなくとも、この排出口から溶銑を流出する際にこの排出口の近傍の溶銑の浴面における渦流の形成を長期間にわたって阻害して、スラグの流出量を低減する。
【解決手段】溶融金属収容容器に収容される溶融金属を、この溶融金属収容容器に設けられる排出口から排出する際に、排出口の周縁であって排出口の中心軸に対して非対称となる位置に、マグネシアカーボンを含有するとともに排出口の周方向への溶融金属の渦流を阻害するための整流部を設けておくことを特徴とする渦流の抑制方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、渦流の抑制方法、溶融金属収容容器、並びに溶銑又は溶鋼の製造方法に関する。具体的には、本発明は、排出口を有する溶融金属収容容器から溶融金属を流出する際にこの排出口の近傍から溶融金属の浴面にかけて形成される渦流の抑制方法、溶融金属収容容器、並びに溶銑又は溶鋼の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融金属を精錬又は鋳造する際には、不可避的に、溶融金属を様々な溶融金属収容容器に移し換える。例えば、製鉄プロセスでは、製鋼工場へ搬送された溶鉄は種々の処理により溶銑予備処理炉又は転炉に装入され、それぞれの精錬容器により処理された溶鉄を、精錬容器の流出口から溶融金属収容容器である取鍋へ排出する。また、取鍋でさらに二次精錬された取鍋内の溶鉄を、取鍋の底部に設けられた流出口から溶融金属収容容器であるタンディッシュへ排出し、さらにタンディッシュの底部に設けられた流出口からモールドへ排出する。
【0003】
一般に、溶融金属収容容器に収容された溶融金属の上には、溶融金属よりも密度が低い酸化物であるスラグが浮遊する。このスラグは次工程での処理に有害となることが多い。このため、溶融金属を排出して様々な溶融金属収容容器に移し換える際には、溶融金属は排出するがスラグは排出しないことによって、溶融金属からスラグを分離することも重要である。
【0004】
溶融金属を溶融金属収容容器の排出口から流出しようとすると、排出口の近傍から溶融金属の浴面にかけて、流出口の周方向へ旋回する溶融金属の渦流が形成される。この渦流によって溶融金属の浴面を浮遊するスラグが溶融金属側に引き込まれるので、溶融金属からスラグを十分に分離できなくなり、スラグが溶融金属とともに移し換える溶融金属収容容器の内部に流出してしまう。
【0005】
そのため、例えば特許文献1には、転炉で精錬された溶鋼を出鋼する際に、出鋼口から離れた位置に設けられた、耐熱鋼チューブを内包した耐火物プラグを通じて不活性ガスを溶鋼に吹き込むことにより、溶融金属の渦流の形成を阻害する発明が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、溶融金属収容容器の排出口に対して対称となる位置に同一形状の突起部を設けておくことによって、溶融金属の渦流の形成を阻害する発明が開示されている。
【特許文献1】特開2001−303122号公報
【特許文献2】特開2000−218362号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1により開示された発明は、出鋼口の近傍に設けた耐火物プラグが閉塞し易いので、不活性ガスを長期間に渡って安定して溶鋼に吹き込むことが難しい。このため、流出口の周方向への溶融金属の渦流の形成を長期間安定して阻害することが難しく、溶融金属の浴面を浮遊するスラグが溶融金属とともに排出することを、長期間にわたって安定して防止できない。
【0008】
また、特許文献2により開示された発明は、そもそも、溶融金属の渦流の形成を阻害する効果が小さい。このため、溶融金属の浴面を浮遊するスラグが溶融金属とともに排出することを防止できない。
【0009】
本発明は、排出口を有する溶融金属収容容器に収容される溶融金属に不活性ガスを吹き込まなくとも、この排出口から溶融金属を流出する際にこの排出口から溶融金属の浴面にかけて形成される、排出口の周方向へ旋回する溶融金属の渦流を、長期間にわたって安定して阻害でき、これにより、溶融金属の上に存在するスラグが溶融金属とともに排出されることを防止する方法及び溶融金属収容容器と、この方法を用いた溶銑又は溶鋼の製造方法とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、溶融金属収容容器に収容される溶融金属を、この溶融金属収容容器に設けられる排出口から排出する際に、排出口の周縁であって排出口の中心軸に対して非対称となる位置に、マグネシアカーボンを含有するとともに排出口の周方向への溶融金属の渦流を阻害するための整流部を設けておくことを特徴とする渦流の抑制方法である。別の観点からは、本発明は、収容する溶融金属を排出するための排出口を設けられる本体と、この本体の内部における排出口の周縁であって排出口の中心軸に対して非対称となる位置に配置される、マグネシアカーボンを含有するとともに排出口の周方向への溶融金属の渦流を阻害するための整流部とを備えることを特徴とする溶融金属収容容器である。
【0011】
また、本発明は、溶融金属収容容器に収容される溶融金属を、この溶融金属収容容器に設けられる排出口から排出する際に、排出口の周縁であって排出口の中心軸に対して対称又は非対称となる位置に、マグネシアカーボンを含有するとともに排出口の水平断面積Soに対する水平断面積Sの比(S/So)が0.05以上である、排出口の周方向への溶融金属の渦流を阻害するための整流部を設けておくことを特徴とする渦流の抑制方法である。別の観点からは、本発明は、収容する溶融金属を排出するための排出口を設けられる本体と、この本体の内部における排出口の周縁であって排出口の中心軸に対して対称又は非対称となる位置に配置される、マグネシアカーボンを含有するとともに排出口の水平断面積Soに対する水平断面積Sの比(S/So)が0.05以上である、排出口の周方向への溶融金属の渦流を阻害するための整流部とを備えることを特徴とする溶融金属収容容器である。
【0012】
これらの本発明を、例えば、環境温度が高いとともに生成するスラグが溶損を招き易い組成である転炉にも適用できるようにするため、本発明における「整流部」は、マグネシアカーボンを含有する組成とする。カーボン含有量は5質量%以上30質量%以下であることが望ましい。これにより、この整流部に定期的な補修等を行うことによって、その形状を所定の形状に、例えば240チャージ以上という長期間にわたって安定して維持し続けることができる。
【0013】
これらの本発明に係る渦流の抑制方法では、整流部が突起状に形成される突起部であることが、その製作性を高めるためには望ましい。
別の観点からは、本発明は、溶融金属収容容器が転炉であるとともに溶融金属が溶銑又は溶鋼であって、上述した本発明に係る渦流の抑制方法を用いて転炉からの溶銑又は溶鋼の排出を行う工程を含むことを特徴とする溶銑又は溶鋼の製造方法である。
【0014】
これらの発明における「整流部」とは、排出口の周方向への溶融金属の渦流を阻害する整流作用を奏するものをいう。整流部が例えば突起状に形成される突起部である場合には、この突起部を溶融金属収容容器の排出口の形成面に対して直交するように又は傾斜するように設ける。また、整流部の水平断面積が高さ方向へ変化する場合には、上述した水平断面積Sは、変化する整流部の水平断面積のうちの最大値とする。さらに、同一の排出口に対して整流部を複数設ける場合には、この水平断面積Sは、複数の整流部それぞれの水平断面積とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、排出口を有する溶融金属収容容器に収容される溶融金属に不活性ガスを吹き込まなくとも、この排出口から溶融金属を流出する際に、この排出口の周方向への溶融金属の渦流を阻害することができる。このため、溶融金属の浴面を浮遊し、溶融金属の排出口からの排出に伴って排出されるスラグの量を、大幅に低減することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(実施の形態1)
以下、本発明を実施するための最良の形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以降の実施の形態の説明では、整流部が突起状に形成される突起部であり、溶融金属収容容器が転炉であるとともに溶融金属が溶銑であって、本発明に係る渦流の抑制方法を適用して転炉からの溶銑の排出を行う工程を含みながら溶鋼を製造する場合を例にとる。
【0017】
はじめに、本実施の形態で用いる転炉の構造を説明する。この転炉は、収容する溶銑を排出するための排出口を底部に設けられる本体と、この本体の底部に設けられる排出口の内部の周縁に配置される整流部とを備える。
【0018】
転炉の本体各部の構造及び形状や、この本体に設けられる排出口の形状及び配置等といった転炉の構造は、周知慣用のものであればよく、特定のものには限定されない。このような転炉の構造は、当業者にとっては周知であるので、これ以上の説明は省略する。
【0019】
本実施の形態における整流部は、排出口の内部周縁であって排出口の中心軸に対して非対称となる位置に、突起部として突起状に形成される。本実施の形態では、後述する図1(a)〜図1(c)に示すように、突起部は四角柱形に構成した。突起部は、溶銑を整流することにより、排出口の周方向への溶銑の渦流の形成を阻害するためのものである。
【0020】
突起部を排出口の周縁に設けることにより、排出口から溶銑を排出する際の溶銑に生じる、溶銑の浴面を浮遊するスラグを巻き込む渦流を、このスラグを巻き込まない窪み状の流れに変化させることができ、これにより、溶銑の浴面を浮遊するスラグの流出を防止できる。
【0021】
突起部の配置や形状、さらには寸法には好適な条件があり、この条件を満足しない場合には、溶銑の流れをスラグを巻き込まない窪み状の流れに変える効果が減少する。つまり、上述した特許文献2に開示されるように排出口の周縁であって排出口の中心軸に対して対称となる位置に同一の形状の突起部を複数設けても、スラグを巻き込む渦流をわずかに減衰させることは可能になるものの、突起部を設置しない場合と同様に中心が排出口の直上に位置し、溶銑の浴面に達する渦流が残存する。このため、残存する渦流により、溶銑の浴面を浮遊するスラグは、下方の溶銑の側に引き込まれ、スラグが溶銑とともに排出されてしまう。
【0022】
これに対し、本実施の形態の突起部を排出口の周縁に排出口の中心軸に対して非対称となる位置に設置すると、スラグを巻き込む渦流の中心が移動して排出口の直上から偏芯し、溶銑の浴面には達しない窪み状の流れに変化する。このため、この窪み状の流れが存在しても、溶銑の浴面を浮遊するスラグは、下方の溶銑の側には引き込まれない。
【0023】
図1は、突起部の作用を確認するために行った水モデル実験に用いた容器3に設けられた排出口1と突起部2との配置を示す説明図である。
この水モデル実験の結果に基づいて、この容器3に水を満たし、排出口1から水を排出する際における、排出口1の近傍で発生する渦流の挙動を説明する。なお、容器3に収容された水の水面に、オイルあるいはコルク屑(本実施の形態ではコルク屑)を搭載し、スラグの排出挙動を模擬する。
【0024】
排出口1の近傍に突起部を設けない場合(図示せず)には、容器3内の水に渦流が生成して容器3内の水面を浮遊するコルク屑の排出量が最も多くなる。
図1(a)に配置Aとして示すように、突起部2を排出口1の周縁に排出口1の中心軸に対して対称配置となる位置に配置しても、突起部2を設けない場合に比較してコルク屑の排出量をあまり低減できない。
【0025】
これに対し、図1(b)に示す配置Bや、又は図1(c)に示す配置Cのように、突起部2を排出口1の周縁に排出口1の中心軸に対して非対称となる位置に配置すると、図1(a)に示す配置Aに比較して、コルク屑の排出量を大幅に低減することができる。
【0026】
以上の結果を図2にグラフにまとめて示す。なお、図2のグラフの縦軸の模擬スラグ排出量(相対値)は、突起部2を排出口1の周縁に配置しない場合の値が1.0となるように換算した相対値である。
【0027】
図2のグラフに示すように、図1(a)の配置Aに示すように突起部2を対称に2つ配置しても、模擬スラグ排出量は僅かしか低減されないのに対し、図1(b)の配置B又は図1(c)の配置Cのように突起部2を非対象に配置することにより、模擬スラグ排出量を大幅に低減することができる。
【0028】
なお、配置Aでは、形成される渦流の中心は排出口1の中心と一致し、渦流の抑制効果は小さい。一方、配置B又は配置Cのように突起部2を非対称に配置すると、配置B又は配置Cのいずれの場合も渦流の中心が排出口1の中心から移動し、これによって渦流がスラグを巻き込まない窪み状の流れに変化する。
【0029】
このように、本実施の形態によれば、突起部2を排出口1の周縁に非対称に配置することにより、排出口1からの排出に伴って形成される渦流を、スラグを巻き込まない窪み状の流れへと変化させることができる。
【0030】
さらに、容器3として転炉を用い、形成する突起部2の材質をシリカ、アルミナ又はマグネシアカーボンと変化させて溶銑を排出することにより、突起部2の耐用性を調査した。その結果、突起部2がシリカ又はアルミナからなる場合には、突起部2の耐用チャージ数はそれぞれ14、30チャージと極めて低い。これは、転炉3の内部に存在する高FeO濃度のスラグが突起部2を溶損させるためである。
【0031】
これに対し、突起部2の組成をマグネシア質とすると、転炉スラグとの反応性が著しく低下し、突起部2の耐用性が140チャージと大幅に向上する。さらに、定期的な補修等を適正に行うことによって突起部2の形状を初期形状のまま維持すると、突起部2は240チャージ以上の耐用性を有するようになる。このため、突起部2は、耐火物の組成であるマグネシア質とする。望ましくはマグネシアカーボン質である。
【0032】
本実施の形態で用いる転炉は、以上の構造を有する。次に、この転炉に収容された溶銑を排出する状況を説明する。
本実施の形態では、転炉に収容される溶銑を、転炉に設けられる排出口1から排出する。この際、排出口1の周縁であって排出口1の中心軸に対して非対称となる位置に、排出口1の周辺における溶銑の流れを阻害して整流するための整流部として、突起部2を設けてある。
【0033】
このため、本実施の形態によれば、形成された突起部2により排出口1の周縁に対して非対称の流れが形成され、排出口1からの溶銑の排出に伴って形成される渦流を、スラグを巻き込まない窪み状の流れへと変化させることができる。このため、転炉に収容された溶銑には、その中心が排出口1の直上からずれて位置する非巻き込み型の窪み状の流れが形成され、これにより、転炉から溶銑を排出する際に溶銑の浴面における渦流の発生を、抑制又は解消することができる。このため、溶銑の浴面を浮遊するスラグが、溶銑とともに排出されることを抑制又は解消することができる。
【0034】
このようにして、本実施の形態によれば、排出口1を有する転炉に収容される溶銑に不活性ガスを吹き込まなくとも、この排出口1から溶銑を流出する際に、この排出口の周方向への溶融金属の渦流を阻害することができる。このため、溶融金属の浴面を浮遊し、溶融金属の排出口からの排出に伴って排出されるスラグの量を、大幅に低減することが可能になる。
【0035】
この本実施の形態における渦流の抑制方法を、溶銑脱りん処理用の転炉に適用すれば、脱りん処理後の溶銑を取鍋に排出する際、溶銑とともに不可避的に流出する、りんを含有するスラグ量を低減できる。このため、その後に取鍋に排出するスラグを含む溶銑を、溶銑脱炭用の転炉に収容して脱炭処理を行う際における復りん量を抑制しながら、溶鋼を製造することができる。さらに、溶銑脱炭用の転炉で脱炭処理した溶鋼を取鍋に排出する際にも、溶銑とともに不可避的に流出する、酸化鉄を含有するスラグの量を低減できるので、その後に取鍋での溶鋼中Alとこのスラグとの反応により生成するアルミナ系介在物の生成を抑制しながら、[O]が低い高清浄鋼を製造することができる。
【0036】
また、本実施の形態を転炉に適用すれば、転炉から溶鉄を排出する際に転炉の内部に残留する溶鉄分を極めて少量にすることができるので、鉄歩留まりを高めながら溶鋼を製造することができる。
【0037】
一方、本実施の形態を取鍋に適用すれば、取鍋の底部から連続鋳造機におけるタンディッシュへ溶鋼を排出する際、不可避的に流出する、酸化鉄を含有するスラグの量を低減することができるため、タンディッシュでの溶鋼中Alとこのスラグとの反応により生成するアルミナ介在物の生成を抑制しながら、[O]が低い高清浄鋼を製造することができる。
【0038】
さらに、本実施の形態を取鍋に適用すれば、取鍋から溶鋼を排出する際に取鍋の内部に残留する溶鋼の量を極めて少量とすることができるため、鉄歩留まりを高めながら溶鋼を製造することができる。
(実施の形態2)
さらに、実施の形態2を説明する。
【0039】
実施の形態1では、排出口1の周縁に突起部2を排出口1の中心軸に対して非対称となる位置に配置することによって、渦流の発生を抑制する。これに対し、特許文献2により開示されるように排出口1の周縁に排出口1の中心軸に対して対称となる位置に同一の形状の突起部2を設置した場合(上述した図1(a)に示す配置A)であっても、さらに、排出口1の開口面積Soに対する、排出口1の周縁に配置する突起部2の水平断面積Sの比(S/So)がある臨界値以上になるように最適化すると、実施の形態1と同様に、スラグを巻き込む巻き込み型の渦流が非巻き込み型の窪み状の流れへと変化し、実施の形態1と同様の効果が得られる。
【0040】
突起部2を対称に配置する場合、渦流又は窪み状の流れの中心が排出口1の中心の直上から移動せず、排出口1の中心から偏心しない。しかし、この場合にも比(S/So)がある臨界値以上であると、スラグを巻き込む巻き込み型の渦流は発生せず、その底面がすり鉢状となってスラグを巻き込まない非巻き込み型の窪み状の流れが形成される。この比(S/So)が臨界値未満であると、渦流は減衰するものの非巻き込み型の窪み状の流れにはならず、糸状に細く残存する渦流が形成され、スラグを排出口に吸込む。
【0041】
比(S/So)をある臨界値以上に高めることによって底面がすり鉢状となってスラグを巻き込まない非巻き込み型の窪み状の流れを形成でき、さらに、突起部2を排出口1の周縁に排出口1の中心軸に対して非対称となる位置に設置することによって、渦流又は窪み状の流れの中心を移動して排出口1の直上から外すことができ、上述した窪み状の流れを形成する効果を、さらに高めることができる。
【0042】
比(S/So)を種々変更して排出口1から水を排出する場合における、排出口1の近傍で発生する渦流の挙動を説明する。なお、容器3に収容された水の上面にはコルク屑を載せて、スラグの排出挙動を模擬する。
【0043】
その結果、比(S/So)が臨界値よりも小さい場合には、渦流が生成して容器3内の水面を浮遊するコルク屑の排出量が増加する。しかし、比(S/So)が臨界角以上である場合には、コルク屑の排出量は低下し、渦流の発生を抑制できる。さらに、同一の比(S/So)の値で比較すると、図1(b)又は図1(c)に示す非対称な位置への配置B、Cのほうが、図1(a)に示す対称な位置への配置Aよりも、コルク屑の排出量は低下する。図2には、比(S/So)と模擬スラグ排出量(相対値)との関係をグラフで示す。
【0044】
図2にグラフで示すように、突起部2を排出口1の周縁に排出口1の中心軸に対して、対称となる位置又は非対称となる位置に配置するかには関わらず、比(S/So)が0.05未満であると模擬スラグ排出量の低減効果は小さくなるのに対し、比(S/So)が0.05以上であると模擬スラグ排出量を大幅に低減することができる。
【0045】
図2にグラフで示すように、比(S/So)のより好ましい範囲は0.07以上であり、0.1以上であることがさらに好ましい。
さらに、図1(b)に示す配置B、又は図1(c)に示す配置Cは、いずれも、図1(a)に示す配置Aよりも、スラグの排出量を大幅に抑制することができる。
【0046】
なお、配置Aでは渦流の中心は排出口の中心と一致するのに対し、配置B、Cではいずれも渦流の中心が排出口1の中心から移動し、これによって形成される渦流の勢いが一層低減される。
【0047】
このように、本実施の形態では、収容する溶銑を排出するための排出口を設けられる本体と、この本体の内部における排出口の周縁であって排出口の中心軸に対して対称又は非対称となる位置に配置される、排出口の水平断面積Soに対する水平断面積Sの比(S/So)が0.05以上の、排出口の周方向への溶銑の流れを阻害するための整流部とを備える転炉を用いる。
【0048】
そして、本実施の形態では、この転炉に収容される溶銑を、転炉に設けられる排出口から排出する際に、排出口の周縁であって排出口の中心軸に対して対称又は非対称となる位置に、排出口の水平断面積Soに対する水平断面積Sの比(S/So)が0.05以上の、排出口の周方向への溶銑の流れを阻害するための突起部を設けておくことにより、渦流の発生を抑制する。
【0049】
本実施の形態によれば排出口の水平断面積Soに対する整流部の水平断面積Sの比(S/So)を0.05以上に設定するので、排出口に対して対称となる位置に同一の形状の整流部を設けても、溶融金属に、スラグを巻き込む渦ではなくスラグを巻き込まない窪み状の流れを形成することができる。
【0050】
すなわち、整流部を排出口に対して対称となる位置に配置すると、排出時の溶融金属に形成される渦流または窪み状の流れの中心は排出口の中心の直上から移動せず排出口の中心に位置する。しかし、本実施の形態では比(S/So)を0.05以上に設定するので、スラグを巻き込む渦流は発生せず、渦流の底面がすり鉢状となるスラグを巻き込まない窪み状の流れを形成できる。比(S/So)を0.05未満に設定すると、渦流の底面はすり鉢状とならず、底面が糸状の渦流が排出口に吸込まれる。本実施の形態では、特に、整流部を排出口に対して非対称に設置することにより、渦流又は窪み状の流れを移動してその中心が排出口の直上からずれ、比(S/So)を0.05以上とすることができるので、スラグを巻き込む渦流は発生せず、底面がすり鉢状となってスラグを巻き込まない窪み状の流れを形成できる。
【0051】
このように、実施の形態2によっても、排出口1を有する転炉に収容される溶銑に不活性ガスを吹き込まなくとも、この排出口1から溶銑を流出する際に、この排出口1の周方向への溶銑の渦流を阻害することができる。
【0052】
なお、実施の形態1,2において、整流部の水平断面積を高さ方向へ変化させることが好ましい。具体的には、整流部(突起部)の上部よりも下部の水平断面積を大きくさせることが望ましい。この下方に向かって水平断面積が大きくなる、いわゆる「傾斜」形状を突起部の側面に設けることにより、渦流又は窪み状の流れを排出口の直上から偏心させる効果を助長できるからである。設ける「傾斜」の程度としては、鉛直方向に対する側面の角度を20度以上とすることが望ましく、40度以上とすることがより望ましい。
【実施例1】
【0053】
本発明を、実施例を参照しながら、より具体的に説明する。なお、以降においては組成に関する「%」は「質量%」であることを示す。
(従来例)
予め必要に応じて溶銑脱硫を行った溶銑を、250トン規模の脱りん炉である上底吹き転炉型溶融金属容器に装入し、[P]が0.01%になるまで脱りん処理し、終点温度を1320℃として脱りん溶銑(C:3.9%、Si:0.003%、Mn:0.2%、P:0.01%、S:40ppm)を、脱りん炉の排出口を介して、取鍋に排出した。
【0054】
この溶銑と、この溶銑を排出する際に不可避的に流出する脱りん処理スラグとを脱炭炉である上底吹き転炉型溶融金属容器に装入し、脱炭処理を行った。なお、脱炭炉では、脱りん能の低いスラグを使用した。脱炭後の溶鋼組成は(C:0.05%、Si:トレース、Mn:0.15%、P:0.02%、S:40ppm)であった。
【0055】
脱りん後から脱炭後にかけての[P]は、0.01%から0.02%へと増加しており、この原因は、脱りん炉から取鍋に排出する際にりん濃度が高いスラグが多量に流出したためである。
(本発明例)
図1(a)又は図1(b)に示すように、上述した脱りん炉である上底吹き転炉型溶融金属容器の排出口1に、カーボン分が5〜30質量%であるマグネシアカーボン質からなる突起部2を、表1に示す比(S/So)となるように変更して配置し、上述した処理と同様の処理を行った。脱りん後の[P]濃度は0.01%であった。一方、脱炭後の[P]濃度を表1にまとめて示す。
【0056】
【表1】

【0057】
表1から、比(S/So)が0.05未満であるNo.1では脱りん後のスラグ流出が多く、復りん量も大きくなった。これに対し、比(S/So)が0.05以上のNo.2、3ではスラグ流出量も少なく、復りん量も小さかった。また、突起部2を排出口1の周縁に排出口1の中心軸に対して非対称となる位置に配置したNo.4〜6では、比(S/So)の値が同一であるNo.1〜3に対して、復りん量をさらに抑制できることがわかる。
【0058】
以上の結果から、排出口1の周縁に設置する突起部2の水平断面積を適正化することにより、スラグの流出量を抑制することができ、さらに突起部2を排出口1の周縁に排出口1の中心軸に対して非対称となる位置に配置することにより、スラグの流出量の抑制効果をさらに高めることができる。
【0059】
なお、この脱りん炉の排出口にシリカ質の突起部2を配置して連続試験を行った。突起部2の材質がマグネシアカーボン質である場合には、設置後240チャージまでりん濃度の増加量を低減する効果を維持することができたのに対し、突起部2の材質がシリカ質である場合には設置後14チャージしか効果を持続することができなかった。この原因は、非処理中に脱りん炉の内部を観察したところ、シリカ質を用いた場合には溶損による突起部の体積の著しい縮小がみられたことである、と考えられる。
【実施例2】
【0060】
上述した実施例1における本発明例により得られた脱炭炉内の溶鋼を脱炭炉の排出口を介して取鍋へ出鋼した。その際、図1(a)及び図1(c)に示すように、脱炭炉の排出口の近傍に、カーボン分が5〜30%であるマグネシアカーボン質の突起部を配置し、又は配置しないで、実験を行った。
【0061】
これらの方法により取鍋に収容した溶鋼に、通常の二次精錬処理(RHでの環流時間15分)を施した。二次精錬後の取鍋内溶鋼からサンプルを採取し、[O]分析を行った。[O]濃度は鋼中の介在物量を反映しており、[O]濃度が低いほど清浄度が高いことを意味する。また、突起部を設けない場合における二次精錬後の[O]濃度は、25ppmであった。突起部を設けた場合の結果を表2に示す。なお、突起部の側面の傾斜角度は25度とし、突起部の下方の水平断面積が上方よりも大きくなるようにした。
【0062】
【表2】

【0063】
表2より、比(S/So)が0.05よりも小さいとスラグの流出抑制が十分でなく、二次精錬後の[O]が高い値を示すのに対し、比(S/So)が0.05以上であると[O]濃度が大幅に低下する。
【0064】
表2に示すように、突起部の配置を配置A(No.7〜9)から配置C(No.10〜12)へ変更すると、さらにスラグの流出を抑制でき、二次精錬後の[O]濃度が低下することがわかる。
【0065】
以上から、転炉の排出口の周縁に設置する突起部の水平断面積を適正化することによって、酸化鉄を含有する転炉スラグの流出を抑制することができ、清浄な鋼を溶製することができる。さらに、突起部を、排出口の周縁に排出口の中心軸に対して非対称に配置することにより、転炉スラグの流出抑制効果をさらに高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】突起部の作用を確認するために行った水モデル実験に用いた容器の排出口と突起部との配置を示す説明図である。
【図2】比(S/So)と模擬スラグ排出量(相対値)との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0067】
1 排出口
2 突起部(整流部)
3 溶融金属収容容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属収容容器に収容される溶融金属を、該溶融金属収容容器に設けられる排出口から排出する際に、該排出口の周縁であって該排出口の中心軸に対して非対称となる位置に、マグネシアカーボンを含有するとともに前記排出口の周方向への溶融金属の渦流を阻害するための整流部を設けておくことを特徴とする渦流の抑制方法。
【請求項2】
溶融金属収容容器に収容される溶融金属を、該溶融金属収容容器に設けられる排出口から排出する際に、該排出口の周縁であって該排出口の中心軸に対して対称又は非対称となる位置に、マグネシアカーボンを含有するとともに前記排出口の水平断面積(So)に対する水平断面積(S)の比(S/So)が0.05以上である、前記排出口の周方向への溶融金属の渦流を阻害するための整流部を設けておくことを特徴とする渦流の抑制方法。
【請求項3】
前記整流部は突起状に形成される突起部である請求項1又は請求項2に記載された渦流の抑制方法。
【請求項4】
収容する溶融金属を排出するための排出口を設けられる本体と、該本体の内部における前記排出口の周縁であって該排出口の中心軸に対して非対称となる位置に配置される、マグネシアカーボンを含有するとともに前記排出口の周方向への溶融金属の渦流を阻害するための整流部とを備えることを特徴とする溶融金属収容容器。
【請求項5】
収容する溶融金属を排出するための排出口を設けられる本体と、該本体の内部における前記排出口の周縁であって該排出口の中心軸に対して対称又は非対称となる位置に配置される、マグネシアカーボンを含有するとともに該排出口の水平断面積(So)に対する水平断面積(S)の比(S/So)が0.05以上である、前記排出口の周方向への溶融金属の渦流を阻害するための整流部とを備えることを特徴とする溶融金属収容容器。
【請求項6】
前記溶融金属収容容器が転炉であるとともに前記溶融金属が溶銑又は溶鋼であって、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された渦流の抑制方法を用いて前記転炉からの前記溶銑又は溶鋼の排出を行う工程を含むことを特徴とする溶銑又は溶鋼の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−314836(P2007−314836A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−145470(P2006−145470)
【出願日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】