説明

湾曲形状を有する繊維強化プラスチック成形品

【課題】高強度化、軽量化に加えて、従来の方法では達成できなかった湾曲形状を有する繊維強化プラスチック成形品の良好な外観を得ることができ、この特性が要求される用途に適した湾曲形状を有する繊維強化プラスチック成形品を提供する。
【解決手段】連続繊維束を有する連続繊維強化シートを含む少なくとも3層以上からなる積層体からなり、意匠面を構成する最表層11から2層目に不織布シート13が挟まれるとともに、最表層11の連続繊維束の配向方向に直交する方向に湾曲してなることを特徴とする湾曲形状を有する繊維強化プラスチック成形品10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばパソコンやOA機器、携帯電話等の部品や筐体部分として用いられる、軽量、高強度・高剛性、高意匠性が要求される繊維強化プラスチック成形品に関する。特に本発明は、高意匠性が要求され、湾曲形状を有する繊維強化プラスチック成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
パソコン、携帯電話等の電気・電子機器製品に用いられるケーシングに対しては、高強度、軽量化(薄肉化)の両立に加え、さらに製品として顧客の目に触れる箇所であることから、外観がきれいなこと、すなわち高意匠性が求められるようになってきている。意匠性の面においては、使いやすさの観点等からも、湾曲形状等といった曲面を有する形状が求められるようになってきている。
【0003】
ケーシングの高強度、軽量化(薄肉化)を両立させるため、ガラス繊維や炭素繊維などの高機能繊維で樹脂を強化した繊維強化部材を使用した材料が多数提案されている。繊維強化部材に用いられる繊維基材としては、複数の強化繊維を束ねた強化繊維束を織物にしたクロス材や、強化繊維束を一方向に引きそろえたUD材(ni−irectional材)等が挙げられる。
【0004】
また、繊維強化部材の外観に高意匠性を持たせるため、繊維強化部材の最表層に強化繊維束の織り模様が現れるように繊維基材を配置することが提案されている。このとき、繊維強化部材の表面に織り模様が一様に形成されている場合は製品として使用出来るものの、織り模様が乱れたりすると、たとえ強度等は満足していても、意匠性が失われるため、もはや製品に使用することができなくなることも少なくない。
【0005】
ここで、クロス材やUD材を最表層に使用する場合は、クロス材やUD材の織り模様がそのまま意匠面として用いられるものの、製品形状によっては、加工時に織り模様を一様に保持できない等により、しばしば意匠性が得られないことがある。例えば、携帯電話ケーシングのように屈曲部を持つ形状にクロス材を適用した場合、強化繊維束の織り模様にズレが生じ、均一な格子模様が損なわれることがある。また、UD材を適用した場合には、強化繊維束が拘束されないUD材特有の構成により、強化繊維束の目曲がりが生じたり、隣接する繊維基材の表面状態の影響を受けたりするため、一様な織り模様が得られにくくなっている。
【0006】
これまでにも、高強度化と軽量化(薄肉化)の両立に加え、高意匠性を実現させる様々な繊維強化部材が提案されている。特許文献1では、コア材と表面材とから構成されるパネルにおいて表面材に繊維が斜交する一対以上の一方向性炭素繊維プリプレグからなる炭素繊維強化プラスチックを使用し、コア材として芳香族ポリアミド不織布で成形されたハニカムを使用することで、軽量且つ耐衝撃性に優れたサンドイッチパネルを提供している。しかし、コア材の形状をハニカムとしているため、炭素繊維プリプレグがハニカムの凹部に落ち込むことがあり、凹凸のない意匠面を目指す筐体への適応は難しいと考えられる。
【0007】
特許文献2では、炭素繊維強化熱硬化性樹脂シートの双方の面にそれぞれ熱可塑性樹脂フィルムを積層させ、高温環境下にもその表面の平滑性が損なわれることがない炭素繊維強化樹脂成形物を実現している。しかしながら、この方法では表面の平滑性は実現できるものの、意匠面最表層に新たにフィルム層を設けることは薄肉化を目指す筐体に適応するのは非現実的であるとともに、屈曲部を形成する際に強化繊維シートが横滑りして積層体形状が維持できず、所定の強度を発現することは困難と思われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−208465号公報
【特許文献2】特開平10−138354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、高強度化、軽量化に加えて、従来の方法では達成できなかった湾曲形状を有する繊維強化プラスチック成形品の良好な外観を得ることができるものであり、この特性が要求される用途に適した湾曲形状を有する繊維強化プラスチック成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明は、以下の構成を採用する。すなわち、
(1)連続繊維束を有する連続繊維強化シートを含む少なくとも3層以上からなる積層体からなり、意匠面を構成する最表層から2層目に不織布シートが挟まれるとともに、最表層の連続繊維束の配向方向に直交する方向に湾曲してなることを特徴とする湾曲形状を有する繊維強化プラスチック成形品。
(2)前記不織布シートの厚さが0.005mm〜0.1mmである(1)に記載の湾曲形状を有する繊維強化プラスチック成形品。
(3)前記連続繊維強化シートが、強化繊維束を一方向に配向した連続繊維強化シートである(1)または(2)に記載の湾曲形状を有する繊維強化プラスチック成形品。
(4)前記連続強化繊維シートの強化繊維が炭素繊維である(1)〜(3)のいずれかに記載の湾曲形状を有する繊維強化プラスチック成形品。
(5)(1)〜(4)のいずれかの湾曲形状を有する繊維強化プラスチック成形品を含むことを特徴とする電子機器筐体。
である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、軽量性、高剛性を維持したまま、厚さをほとんど変えることなく、連続繊維強化シート中の繊維の流動を抑制し、また不織布層を挟むことで下層の織り模様を最表層に出現させなくすることで、意匠性を向上させることができ、これらの特性を有するパソコンや携帯情報端末などの電気・電子機器の筐体を製造するのに適した複合成形品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の湾曲形状を有する繊維強化プラスチック成形品における(a)斜視図、(b)連続繊維強化シートと不織布シートの積層構成を示す概略図、(c)最表層における強化繊維束のばらつきを示す模式図、である。
【図2】比較例として用いる湾曲形状を有する繊維強化プラスチック成形品における(a)斜視図、(b)連続繊維強化シートの積層構成を示す概略図、(c)最表層における強化繊維束のばらつきを示す模式図、である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の湾曲形状を有する繊維強化プラスチック成形品について、図面を用いて説明する。
【0014】
図1(a)は、本発明に係る湾曲形状を有する繊維強化プラスチック成形品10の斜視図である。湾曲形状を有する繊維強化プラスチック成形品10は、図1(b)に示すように、最表層11と支持層12との間に不織布シート13が挟まれた積層構成からなる。最表層11は連続繊維強化シートであり、支持層12は1又は複数の連続繊維強化シートが積層されたものである。
【0015】
最表層11、支持層12を構成する連続繊維強化シートに用いられる強化繊維としては、例えばアルミニウム繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維などの金属繊維、ポリアクリロニトリル系、レーヨン系、リグニン系、ピッチ系等の炭素繊維や黒鉛繊維、ガラス繊維、シリコンカーバイト繊維、シリコンナイトライド繊維などの無機繊維や、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維、ポリエチレン繊維などの有機繊維等が使用できる。これらの強化繊維は単独で用いても、また、2種以上併用しても良い。なかでも、比強度、比剛性、軽量性のバランスの観点から炭素繊維が好ましく、比強度・比弾性率に優れる点でポリアクリロニトリル系炭素繊維を少なくとも含むことが好ましい。
【0016】
最表層11,支持層12に用いられる連続繊維強化シートは、UD材、クロス材やその他の織物を使用できる。UD材としては一方向の強化繊維束で強化したシートであり、クロス材としては縦方向の繊維束と横方向の強化繊維束を織ったシートが挙げられる。これら以外においても強化繊維が配向されているシート状の織物であれば使用可能である。これらの中でも特に、縦クロス材のような織り目の凹凸なく平滑であるという観点から、UD材が好ましい。なお、強化繊維束を構成する強化繊維の本数には特に制限はないものの、3,000〜24,000本の範囲とすることが好ましい。3,000本未満になると、強化繊維束自身が細くなり、シートに十分な繊維束が配列されず、UD材やクロス材を構成しづらくなる。また、24,000本を越えると、逆に強化繊維束が太くなり、均一な厚みの連続繊維強化シートを構成しづらくなる。特に好ましくは、6,000〜12,000本の範囲である。また、連続繊維強化シートの目付は、特に制限するものではないものの、140〜170g/m程度の範囲であることが、積層時、ハンドリング性がよいという点で好ましい。
【0017】
支持層12に用いられる強化繊維を含んだシートは、強化繊維を含む複数の層から構成されるものであっても良い。
【0018】
なお、支持層12に用いられる連続繊維強化シートは、複数の強化繊維を組み合わせた連続繊維強化シートを用いてもよく、また、一部が強化繊維以外の繊維を含んだ連続繊維強化シートであってもよい。
【0019】
連続繊維強化シートのマトリックス樹脂として使用される樹脂としては、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂のいずれでも好適に用いることができる。熱可塑性樹脂としては例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂、液晶ポリエステル樹脂等のポリエステル樹脂や、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリブチレン樹脂等のポリオレフィン樹脂や、スチレン系樹脂の他や、ポリオキシメチレン(POM)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリメチレンメタクリレート(PMMA)樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、変性PPE樹脂、熱可塑性ポリイミド(PI)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリスルホン(PSU)樹脂、変性PSU樹脂、ポリエーテルスルホン(PES)樹脂、ポリケトン(PK)樹脂、ポリエーテルケトン(PEK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂、ポリエーテルニトリル(PEN)樹脂、熱可塑性フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂などのフッ素系樹脂、更にポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリイソプレン系樹脂、フッ素系樹脂等の熱可塑エラストマー等や、これらの共重合体、変性体、および2種類以上ブレンドした樹脂があげられる。熱硬化性樹脂としては、例えば不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール(レゾール型)樹脂、ユリア・メラミン樹脂、ポリイミド樹脂等や、これらの共重合体、変性体、および、これらの少なくとも2種をブレンドした樹脂があげられる。これらの中でも、剛性、強度に優れることから、熱硬化性樹脂が好ましく、とりわけエポキシ樹脂を主成分とする熱硬化性樹脂が成形品の力学特性の観点からより好ましい。マトリックス樹脂には更に耐衝撃性向上等のために、熱硬化性樹脂に熱可塑性樹脂および/またはその他のエラストマーもしくはゴム成分等を添加した樹脂を用いてもよい。
【0020】
また、マトリックスの別の好ましい態様として、樹脂以外にも、チタン、マグネシウム、アルミニウム等の金属を用いることも可能である。
【0021】
不織布シート13としては、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂からなる不織布を用いることができる。この中でも、高温で軟化し、繊維強化樹脂シートとの密着性がよい熱可塑性樹脂がとくに好ましい。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリブチレン樹脂等のポリオレフィン樹脂や、ポリスチレン(PS)樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS)樹脂等のスチレン系樹脂や、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂、液晶ポリエステル樹脂等のポリエステル樹脂や、ポリオキシメチレン(POM)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、変性PPE樹脂、熱可塑性ポリイミド(PI)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリスルホン(PSU)樹脂、変性PSU樹脂、ポリエーテルスルホン(PES)樹脂、ポリケトン(PK)樹脂、ポリエーテルケトン(PEK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂、ポリエーテルニトリル(PEN)樹脂、熱可塑性フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂などのフッ素系樹脂、更にポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、ポリイソプレン系、フッ素系等の熱可塑エラストマー等や、これらの共重合体、変性体、および2種類以上のブレンド、ポリマーアロイなどがあげられる。これらのうち耐熱性、コストの観点からとくにポリエチレンテレフタラート(PET)樹脂が好ましい。また、不織布シート13に樹脂が含浸されたシートを用いても良い。含浸させる樹脂としては、特に制限するものではないが、軽量かつ高強度の繊維強化プラスチック成形品を得るためには、前述のマトリックス樹脂と同じ樹脂が用いられていることが好ましい。
【0022】
本発明の湾曲形状を有する繊維強化プラスチック成形品10は、前述のように、連続繊維強化シートからなる最表層11と、連続繊維強化シートを積層した支持層12との間に、不織布シート13を挟んだ構成からなるものである。最表層11は1層とし、支持層12は連続繊維強化シートを2層以上積層した構成とすることが好ましい。
【0023】
最表層11、支持層12を構成する連続繊維強化シートの組み合わせについて、特に限定されるものではないものの、少ない積層枚数で所定の強度等を発揮させるためには、同一の織り組織を有する連続繊維強化シートを用いることが好ましい。
【0024】
最表層11および支持層12の積層方法について、不織布シート13を除いた最表層11と支持層12からなる積層体が、積層体の中心から両表層に向かって対称となるように連続繊維強化シートの織り組織を配置することが好ましい。ここで対称となるように配置するとは、最表層11と支持層12を構成する連続繊維強化シートの枚数が偶数の場合は、その積層枚数の半分にあたる連続繊維強化シートの接する面に対して対称となるように配置されることをいい、奇数の場合は中心に配置される連続繊維強化シートに対して、その両側に配置される連続繊維強化シートが対称に配置されることである。さらに、それぞれの連続繊維強化シートの繊維配向も対称になるように配置されることがさらに好ましい。例えば、同一の織り組織からなるUD材を6層積層(偶数)する場合、繊維配列方向が上から0°/90°/0°/0°/90°/0°となるように積層させることができる。また、UD材を7層積層(奇数)する場合、繊維配列方向が上から0°/90°/0°/90°/0°/90°/0°となるように積層させることができる。ここで、0°とは、図1(a)において強化繊維束配列方向の矢印と平行に強化繊維束が配向する状態を、90°は矢印に直交するように強化繊維束が配向する状態を指す。このように連続繊維強化シートを対称に配置すると、反りや撓みのない繊維強化プラスチック成形品が得られる。逆に対称に配置しないと、強化繊維束の配向によって、反りや撓みを発生させる原因となる。
【0025】
そして、本発明は、意匠面となる最表層11から2層目に不織布シート13を挟むことが重要である。不織布シート13は、連続繊維強化シートの強化繊維束の凹凸を吸収するとともに、不織布シート13を含む連続繊維強化シートの積層体を湾曲形状にする場合に、図1(c)に示すように、最表層11を構成する強化繊維束のばらつきを抑制して、最表層11の意匠性を高めることができる。
【0026】
最表層11および支持層12は、前述のように、90°ずつ直交させるように、異なる繊維方向に積層することがある。断面が略円形や略楕円形の連続繊維束を同一方向に複数配列されたUD材は、連続繊維束同士が接する境界近傍では、構造上凹部が形成されるため、積層した連続繊維強化シートの強化繊維束が、この凹部に落ち込み、表面に凹凸を形成することがある。さらに、UD材等の連続繊維強化シートは、連続繊維束の断面形状が一様とは限らず、また連続繊維束同士の間隙にもばらつき(繊維密度差)が有ることも多い。このため、積層枚数が増えると、このような強化繊維束のばらつき等に起因して、表面に凹凸が形成されやすくなる。本発明においても、支持層12の表面は、このような凹凸が形成されていることが考えられ、この支持層12の上に直接最表層11を積層させると、支持層12表面の凹凸の影響を受け、最表層11の表面を平滑にすることが困難になる。
【0027】
このような支持層12の表面に不織布シート13を配置すると、不織布シート13のランダムな繊維配向により、支持層12表面の凹凸を吸収することができる。また、最表層11を不織布シート13上に載置しても、最表層11自身の強化繊維束のばらつきに起因する凹凸が不織布シート13に吸収されるため、支持層12にまで影響を与えることがない。したがって、図1(c)に示すように、最表層11自身の平滑性が、そのまま繊維強化プラスチック成形品の意匠性として発現できるのである。
【0028】
さらに、不織布シート13は、繊維方向がランダムであるため、最表層11や支持層12の方向、すなわち、繊維強化プラスチック成形品の厚さ方向に向く繊維が存在し、この繊維が最表層11や支持層12の表面に引っかかることにより、アンカー効果を発揮して最表層11や支持層12と高い接着性を発現させることができる。
【0029】
ここで、本発明のように、最表層の連続繊維束の配向方向に直交する方向に湾曲形状を有する繊維強化プラスチック成形品において、図2(b)のように不織布シート13がない場合には、図2(c)に示すように、湾曲部において強化繊維束同士の間隔にばらつきが生じやすくなる。湾曲形状では樹脂が流動しやすく、繊維密度に差が出るため、部分的には強化繊維が存在しない樹脂のみの部分が形成される。後述するように、樹脂を硬化させると、この樹脂のみの部分にヒケが発生して、最表層11の表面に凹凸を生じさせることもある。不織布シート13を載置すると、支持層12表面の凹凸の影響を受けないばかりでなく、繊維強化プラスチック成形品の厚さ方向に向く繊維により最表層11の強化繊維束が湾曲に沿ってばらつきにくくなり、また軟化した樹脂が不織布シート13内に流れることで密度差のばらつきが生じにくくなり、強化繊維束が均等に配列された湾曲形状を形成することができる。これによって、最表層11には樹脂のみの部分も形成されにくくなり、硬化時におけるヒケも発生しにくく、平滑で高意匠性を発現することができるのである。
【0030】
なお、図1(c)、図2(c)ともに、最表層11として強化繊維束が一方向に配向したUD材を連続繊維強化シートとした例で説明したが、本発明はこれに限定されることなく、クロス材を用いることも可能である。クロス材の場合、強化繊維束が直交するように構成されているため、いずれか一方の強化繊維束の配向方向に直交する方向に湾曲形状を有するものであればよい。
【0031】
ここで、不織布シート13の厚さは、湾曲形状を有する繊維強化プラスチック成形品10全体の厚みを抑制するためにも、0.005mm〜0.1mmであることが好ましい。0.1mmより厚いと連続繊維強化シートの対称性が失われ、反りが発生するおそれがある。0.005mmより薄い場合は、その薄さのため、下層の凹凸を十分な吸収できず、下層の織り模様が現れるのを抑制する効果を期待することは難しい。厚みの増加と反りの影響を考慮すると、0.005mm〜0.03mmがさらに好ましい。
【0032】
本発明の対象とする成形プロセスは、マトリックス樹脂があらかじめ含浸されたプリプレグを連続強化繊維シートとした積層体を、加圧すると同時に加熱硬化して板状の成形品を得るプロセスであり、このような成形が可能な方法であれば特に限定されるものではない。例えば、加熱された一対の成形型間に油圧等により加圧力を加え、離型フィルムを用いてプレスする方法や、一つの成形型上に配置したプリプレグの積層体の上にバッグフィルムを配置し、成形型とバッグフィルム間を真空吸引することにより加圧力を得るバッグ法、さらにバッグフィルムの外側を気体で加圧するオートクレーブ法等が挙げられるが、いずれの成形プロセスも用いることが可能であり、成形品の要求特性やマトリックス樹脂の種類に応じて選択することができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の骨子は以下の実施例に限定されるものではない。表1に実施例1〜6の積層構成および効果、表2に比較例1〜5の表層、2層目の積層構成および効果を示す。
【0034】
(実施例1)
最表層として炭素繊維一方向プリプレグ(UD PP)P3052S−15(東レ(株)製 炭素繊維T700S使い マトリックス樹脂:エポキシ樹脂 炭素繊維含有率67% 厚さ0.143mm)とし、2層目に不織布シート(PET不織布 厚さ0.038mm)、意匠面から3〜6層目に繊維強化部材として炭素繊維一方向プリプレグ(UD PP)P3052S−15(東レ(株)製 炭素繊維T700S使い マトリックス樹脂:エポキシ樹脂 炭素繊維含有率67% 厚さ0.143mm)、7層目には最表層と同じ炭素繊維一方向プリプレグを順に積層した。なお、PET不織布の厚さはJIS K7130(1999)に基づき、マイクロメーターで測定した。プリプレグの積層構成は、繊維強化プラスチック成形品の長手方向を0°としたとき、炭素繊維の配向を、最表層から順に0°/不織布/90°/0°/0°/90°/0°となるように積層させた。この積層体を離型フィルムで挟んだものを、プレス成形(金型温度150℃、圧力1.5MPa、硬化時間30分、プレス後の狙い厚み0.8mm)し、図1(a)のような湾曲形状を有する繊維強化プラスチック成形品を得た。この成形品を242.90mm×189.75mmのサイズに加工し、射出成形金型内にセットし、型締めを行った後、樹脂部材として長繊維ペレット TLP1146S(東レ(株)製 炭素繊維含有量20%、ベースレジン:ポリアミド6;溶解度パラメータδ(SP値)13.6、樹脂流動方向成形収縮率:0.1%)を成形品の周縁部に射出成形した複合成形品を製造した。その結果、湾曲した最表層の端部に黒いスジ状の凹凸やヒケは全く見られず、極めて高い意匠性を有する良好な外観の複合成形品が得られた。
【0035】
(実施例2)
最表層および最表層から7層目に用いるプリプレグを炭素繊維一方向プリプレグ(UD PP)P3052S−17(東レ(株)製 炭素繊維T700S使い マトリックス樹脂:エポキシ樹脂 炭素繊維含有率67% 厚さ0.167mm)とした以外は実施例1と同様の構成からなる積層体を形成し、実施例1と同じ条件でプレス成形を行い、実施例1と同じ長繊維ペレットを射出成形して複合成形品を製造した。最表層の樹脂が比較的厚めとなったものの、最表層において成形品端部に黒いスジ状の凹凸やヒケは全く見られず、極めて高い意匠性を有する良好な外観の複合成形品が得られた。
【0036】
(実施例3)
最表層および最表層から7層目に用いるプリプレグを炭素繊維一方向プリプレグ(UD PP)P3251S−15(東レ(株)製 炭素繊維T700S使い マトリックス樹脂:エポキシ樹脂 炭素繊維含有率63% 厚さ0.151mm)とした以外は実施例1と同様にして複合成形品を製造した。この複合成形品は実施例1よりも最表層の樹脂割合を高くしたものであるが、最表層において成形品端部に黒いスジ状の凹凸やヒケは全く見られず、極めて高い意匠性を有する良好な外観の複合成形品が得られた。
【0037】
(実施例4)
最表層および最表層から7層目に用いるプリプレグを炭素繊維一方向プリプレグ(UD PP)P3255S−17(東レ(株)製 炭素繊維T700S使い マトリックス樹脂:エポキシ樹脂 炭素繊維含有率75% 厚さ0.142mm)とした以外は実施例1と同様にして複合成形品を製造した。実施例1〜3と同様に、最表層において成形品端部に黒いスジ状の凹凸やヒケは全く見られず、極めて高い意匠性を有する良好な外観の複合成形品が得られた。
【0038】
(実施例5)
2層目の不織布シート目付を厚いもの(PET不織布 厚さ0.15mm)とした以外は、実施例1と同様にして複合成形品を製造した。最表層において外観上問題ない程度の樹脂不足部分が発生し、成形品端部に黒いスジ状の凹凸やヒケは全く見られない良好な外観の複合成形品が得られた。
【0039】
(実施例6)
2層目の不織布シートをガラス不織布とした以外は実施例1と同様に複合成形品を製造した。不織布シートの材質としてガラス不織布を用いた場合でも、最表層において成形品端部に黒いスジ状の凹凸やヒケは全く見られず、極めて高い意匠性を有する良好な外観の複合成形品が得られた。
【0040】
(比較例1〜4)
不織布シートを最表層と支持層との間に挟まないこと以外は、実施例1〜4と同様のプリプレグを組み合わせて複合成形品を製造した。その結果、いずれの成形品においても、湾曲した最表層の端部に、強化繊維束の繊維密度のばらつきに起因する黒いスジ状の凹凸やヒケが高い割合で発生した。
【0041】
(比較例5)
実施例1と同じ炭素繊維一方向プリプレグを用意し、最表層から2層目ではなく、3層目に実施例1と同じ不織布シートを積層した以外は、実施例1と同様の構成からなる積層体を形成し、実施例1と同じ条件で複合成形品を製造した。その結果、湾曲した最表層の端部に黒いスジ状の凹凸やヒケが発生した。3層目に不織布シートを配置しても意匠性の向上に対し効果が上がらないことが確認できた。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明にかかる繊維強化シートからなる電子機器筐体の用途としては、例えば、パラボナアンテナ、パソコン、ノートパソコン、携帯電話、デジタルスチールカメラ、デジタルビデオカメラ、PDA、ポータブルMD、家庭用ゲーム機などの電子機器筐体に有用である。中でも、高剛性かつ軽量であって、意匠性も同時に求められる、ノートパソコン、携帯電話、PDAなどの電子機器筐体に有用である。
【符号の説明】
【0045】
10 湾曲形状を有する繊維強化プラスチック成形品
11 最表層
12 支持層
13 不織布シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続繊維束を有する連続繊維強化シートを含む少なくとも3層以上からなる積層体からなり、意匠面を構成する最表層から2層目に不織布シートが挟まれるとともに、最表層の連続繊維束の配向方向に直交する方向に湾曲してなることを特徴とする湾曲形状を有する繊維強化プラスチック成形品。
【請求項2】
前記不織布シートの厚さが0.005mm〜0.1mmである請求項1に記載の湾曲形状を有する繊維強化プラスチック成形品。
【請求項3】
前記連続繊維強化シートが、強化繊維束を一方向に配向した連続繊維強化シートである請求項1または2に記載の湾曲形状を有する繊維強化プラスチック成形品。
【請求項4】
前記連続強化繊維シートの強化繊維が炭素繊維である請求項1〜3のいずれかに記載の湾曲形状を有する繊維強化プラスチック成形品。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかの湾曲形状を有する繊維強化プラスチック成形品を含むことを特徴とする電子機器筐体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−255533(P2011−255533A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129795(P2010−129795)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】