説明

溶接方法及び溶接装置

【課題】U字状リブの外側の片面からすみ肉溶接を行った場合でも、U字状リブの内側に形成される裏波ビードが応力集中を回避する形状とする。
【解決手段】デッキプレート10と縦板を構成するU字状リブのフランジ24の突合せ部を溶接する方法に関する。フランジ24のデッキプレート10に当接する縁部をフランジ24の一方の側(外側)から溶接することで、縁部を貫通してフランジ24の他方の側(内側)に裏波ビードを形成する。その際に、フランジ24の内側であって、フランジ24の外側から溶接している領域に対応する領域に、当て金1をデッキプレート10とフランジ24に当接するように配置する。当て金1は、裏波ビードに対応する領域に面取りCが施されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁に適用される鋼床版に補剛材をすみ肉溶接するのに好適な溶接方法及び溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図9(a)に示されるように、鋼床版(補剛板)100は、デッキプレート10(鋼板)の一方の面に一定の間隔で複数のU字状リブ20(補剛材)を配して構成されている。デッキプレート10は、例えば厚さが12〜14mmの鋼製の平板から構成され、U字状リブ20は、例えば厚さが6〜9mmの鋼製の平板を曲げ加工して断面をU字状とした形鋼から構成され、その幅は30cm程度である。
U字状リブ20の縁とデッキプレート10とのすみ肉溶接部21,22については、疲労設計指針でU字状リブ20の溶け込み必要深さをU字状リブ20の板厚の75%以上とすることが必要とされている(非特許文献1)。
ところが、鋼床版はデッキプレート10上に設けられるアスファルト製の舗装30(例えば厚さが80mm)を介して車両による輪荷重を繰り返して受けるので、疲労損傷に対して留意が必要である。特に、すみ肉溶接部21の溶け込み先端の延長線上の非溶接部Nに応力が集中して、図9(b)に示すように、比較的早期に疲労亀裂Fが生じる。
【0003】
そこで、溶け込み先端を起点する亀裂の発生を抑制するために、すみ肉溶接部21をU字状リブ20の板厚方向に貫通する完全溶込みとすることが提案されている(特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−272826号公報(図11、図12)
【特許文献2】特開2008−290115号公報(図1)
【特許文献3】特開2008−290116号公報(図1)
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】土木学会論文集No.519/I-32,127-137,1995.7 「鋼床版縦リブ・横リブ交差部の局部応力と疲労強度」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この完全溶込みを行う際に、U字状リブ20の外側及び内側の両側からすみ肉溶接して応力集中部をなくすことが好ましいが、狭隘なU字状リブ20の内側から溶接することは困難である。したがって、U字状リブ20の外側のみから溶接を行わなければならない。ところが本発明者等の検討によると、外側のみから溶接したのでは、U字状リブ20の内側に形成される裏波ビードが応力集中を生じさせる形状となる。そこで本発明は、応力集中を回避する裏波ビードを形成することのできる溶接方法を提供することを目的とする。
また本発明は、そのような溶接方法を実現することのできる溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
裏波ビードが応力集中を生じさせる形状となるのは、溶接により裏側(溶接される側の反対側)に到達した溶融金属が自由に流動できるからであり、本発明者等が溶接電流、溶接電圧及び溶接速度などの溶接条件を調整しても、裏波ビードの形状を制御することは容易でない。特に、U字状リブは長さが10m程度と長いものがあり、この長さの全域に亘って裏波ビードを応力集中が生じにくい形状にするのは困難であった。
本発明者等は、U字状リブの内側(裏側)に当て金を配設しながら、U字状リブの外側から溶接することで、裏波ビードを応力集中の生じにくい形状に制御できることを知見した。
【0008】
本発明は以上の検討結果に基づくものであり、平板状の鋼板と縦板の突合せ部を溶接する方法に関するものである。
この溶接方法は、縦板の鋼板に当接する縁部を縦板の一方の側から溶接することで、縁部を貫通して縦板の他方の側に達する裏波ビードを形成することを前提とする。
この溶接の際に、縦板の他方の側であって、縦板の一方の側から溶接している領域に対応する領域(以下、溶接対応領域という)に、当て金を配置して鋼板と縦板に当接させる。ただし、この当て金は、裏波ビードに対応する領域が面取りされていることを特徴としており、この面取りされている領域には、鋼板と縦板との間に空隙が形成される。
本発明の溶接方法は、裏波ビードに対応する領域が面取りされている当て金を、溶接対応領域に配置しながら溶接する。したがって、縦板の一方の側から溶接して形成される裏波ビードは、当て金の面取りにより形成される空隙に対応して形状が制御されながら冷却されるので、面取りの形状を調整することで、裏波ビードと鋼板がなす角度及び裏波ビードと縦板がなす角度の両者を応力集中がしにくい鈍角にできる。
【0009】
本発明おいて、溶接が行われる長さ(縦板の長さ)が長い場合には、この長さに対応する当て金を用いることは現実的ではない。したがって、例えば、溶接により熱影響が生じる範囲に対応する短尺の当て金とし、この当て金を溶接に同期して移動させることが好ましい。
【0010】
デッキプレートが平板状の鋼板をなし、U字状リブが縦板をなす場合に、平板状の鋼板と縦板の突合せ部は、リブの幅方向の両側に各々存在する。このように複数の突合せ部が存在する場合には、突合せ部ごとに当て金を配置して、複数の突合せ部を同時に溶接することが、生産効率の向上にとって好ましい。
【0011】
本発明は、以上の溶接方法を実現する溶接装置を提供する。
この溶接装置は、平板状の鋼板と縦板の突合せ部を溶接するのに用いられる。また、この溶接装置は、縦板の鋼板に当接する縁部を縦板の一方の側から溶接することで、縁部を貫通して縦板の他方の側に裏波ビードを形成するのに用いられる。
本発明の溶接装置は、溶接トーチと、当て金と、を備える。
溶接トーチは、前記一方の側に配置されるとともに、溶接線の方向に移動可能とされている。
当て金は、縦板の他方の側であって、溶接対応領域に配置される。当て金は、鋼板と縦板に当接されるが、裏波ビードに対応する領域が面取りされている。
本発明の溶接装置は、当て金を、縦板に押し当てる押当て機構を備えている。
本発明の溶接装置においても、以上説明した溶接方法と同様に、裏波ビードの形状を制御することで、応力集中を抑えることができる。また、本発明の溶接装置においては、当て金を縦板に押し当てる押当て機構を備えているので、裏波ビードを所望する形状に安定して形成できる。
【0012】
本発明の溶接装置において、溶接トーチの移動に同期して当て金を移動させる移動機構を備えることが好ましい。この機構は、短尺の当て金を用いる場合に効果的である。
前述したように、複数の突合せ部が存在する場合には、突合せ部ごとに当て金を配置して、複数の突合せ部を同時に溶接することができるが、この場合、移動機構は、複数の当て金を溶接トーチの移動に同期させて移動させる。
当て金を移動させる移動機構は、少なくとも二つの形態を含んでいる。
一つ目は、溶接が行われる領域外に配置される牽引装置により、当て金を溶接トーチの移動に同期して牽引する形態である。U字状リブをデッキプレートに溶接する場合、当て金は、U字状リブとデッキプレートで囲まれる閉空間内を移動することになる。狭隘であるこの閉空間に当て金の移動機構を設けるスペースを確保できない場合もある。そこで、この空間の外部に牽引装置を設け、この牽引装置と当て金を例えばワイヤロープで繋ぐことで、当て金を移動させる。
二つ目は、当て金を自走式にする形態である。U字状リブとデッキプレートで囲まれる閉空間内に自走式の機構を設けるスペースを確保できる場合、または、当て金を移動させるのが開空間の場合には、当て金を例えば自走式の台車により移動することができる。
【0013】
本発明の溶接装置において、当て金を冷却する冷却機構を設けることができる。この場合、この冷却機構を当て金に近接して配置し、かつ、当て金と同期して移動することが望ましい。そうすることで、冷却機構と当て金の間に設けられる配管等の付帯部材、設備を最小限に抑えることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、裏波ビードに対応する領域が面取りされている当て金を、溶接対応領域に配置しながら溶接する。そうすると、縦板の一方の側から溶接して形成される裏波ビードは、当て金の面取りにより形成される空隙に対応して形状が制御されながら冷却されるので、面取りの形状を調整することで、裏波ビードと鋼板がなす角度及び裏波ビードと縦板がなす角度の両者を鈍角にできる。したがって、裏波ビードと溶接継手の境界部分への応力集中を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施の形態における溶接方法を説明する図であり、(a)はU字状リブとデッキプレートで形成される閉空間に当て金が配置される様子を示し、(b)は当て金の正面図を示し、(c)は当て金の平面図を示す。
【図2】(a)は溶接時に当て金が所定の位置に配置された状態を示す部分拡大図、(b)は当て金を設けることなく溶接を行った溶接部のマクロ組織写真、(c)は当て金を設けて溶接を行った溶接部のマクロ組織写真である。
【図3】図2(b)の溶接部を模式化した図である。
【図4】図2(c)の溶接部を模式化した図である。
【図5】(a)は図2(b)のAで囲まれる領域の中の溶接熱影響部のミクロ組織写真を示し、(b)は図2(c)のBで囲まれる領域の中の溶接熱影響部のミクロ組織写真を示す。
【図6】(a)は図2(b)のAで囲まれる領域の中の溶接金属と母材の境界部のミクロ組織写真を示し、(b)は図2(c)のBで囲まれる領域の中の溶接金属と母材の境界部のミクロ組織写真を示す。
【図7】第1の形態による溶接装置の構成を示す図であり、(a)は正面図、(b)はU字状リブを除いた平面図である。
【図8】第2の形態による溶接装置の構成を示す図であり、(a)は正面図、(b)はU字状リブを除いた平面図、(c)は当て金の拡大断面図である。
【図9】(a)は鋼床版の構成を示す斜視図、(b)は溶接部に生じた亀裂を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付する図1〜図6を参照しながら、本発明の溶接方法を鋼床版100(図9)の作製を適用する実施形態に基づいて説明する。ただし、本発明に係る溶接方法が鋼床版100以外の用途にも適用できることは言うまでもない。
鋼床版100を作製する場合には、図1に示すように、デッキプレート10上の予め定められた位置にU字状リブ20が配置される。溶接は、デッキプレート10を舗装30が施工される側の面を下向きにしたデッキプレート10に、U字状リブ20を一対のフランジ24の先端(縁部)が対向するように配置した状態で行われる。なお、フランジ24が本発明の縦板を、また、デッキプレート10が本発明の鋼板をなし、両者が溶接されることで、略T字型継ぎ手を構成する。
ここで、溶接に伴ってU字状リブ20は加熱されるため、U字状リブ20の動きを拘束しないと、溶接の進行にともなってU字状リブ20に大きな反りが生じてしまい、U字状リブ20を所定位置に溶接できなくなるおそれがある。したがって、溶接に先立って、U字状リブ20をデッキプレート10に仮止めすることが好ましい。この仮止めするには、U字状リブ20の長手方向を間欠的に溶接すればよい。
【0017】
U字状リブ20は、ウェブ23と、ウェブ23の幅方向の両端から所定の角度で延びるフランジ24とから構成される。
それぞれのフランジ24の先端の外側には、レ形開先25が形成されている。このレ形開先25は、デッキプレート10の表面となす角度αが50°±30°、ルートフェイスを2mm±2mm(図2ではゼロ)とすることが好ましい。
なお、ここではレ形開先25を設けた例を示しているが、レ形開先が設けられていない縦板を用いることを本発明は許容し、この場合も後述する当て金1による効果を享受できる。
【0018】
U字状リブ20がフランジ24を突き合わせてデッキプレート10に載せられると、U字状リブ20はデッキプレート10とともに、横断面方向に閉空間が形成される。この閉空間を「内側」といい、フランジ24よりも外方を「外側」というものとする。内側においてフランジ24とデッキプレート10とは角度βをなしている(図2(a))。
【0019】
本実施の形態では、U字状リブ20の外側からフランジ24の先端とデッキプレート10とをすみ肉溶接する。この際、フランジ24(U字状リブ20)の外側から内側に向けて溶け込みを貫通させ、内側に裏波ビードを形成させる完全溶込み溶接を行う。U字状リブ20の外側から行う溶接の手法は本発明において限定されず、アーク溶接、レーザ溶接などの公知の種々の溶接方法を適用することができる。なお、本実施の形態ではフランジ24の先端の外側にレ形開先25が形成されているが、このように開先を有する部材を溶接する場合をも含めて、本願ではすみ肉溶接と表記する。
【0020】
本実施の形態では、図1に示すように、当て金1をU字状リブ20の内側に配置しながら、溶接を行う。この当て金1は、熱伝導性の優れた例えば銅又は銅合金から構成される概略直方体状の部材である。当て金1は、例えば冷却水を流通させるといった強制的な冷却機構を持たせることができるが、ここでは、その説明、図示を省略する。
当て金1は、六面のうちの一面がフランジ24と当接される第1当接面3を構成し、また、他の一面がデッキプレート10と当接される第2当接面5を構成する。第1当接面3と第2当接面5とがなす角度γは、フランジ24とデッキプレート10とがなす角度βと等しく(∠β=∠γ)設定されている。したがって、U字状リブ20の内側において、第2当接面5をデッキプレート10に対向させ、また、第1当接面3をフランジ24に対向させて配置し、さらに、第1当接面3をフランジ24に向けて押し付けることにより、フランジ24に第1当接面3を当接させ、また、デッキプレート10に第2当接面5を当接させることができる。ただし、図2では、フランジ24と第1当接面3を、またデッキプレート10と第2当接面5を、意図的に離間させている。当て金1がこの当接状態にあることを、当て金1がセットされている、ということにする。そして、当て金1は、フランジ24の外側から溶接が行われている際に、U字状リブ20の内側であって、溶接されている領域に対応する領域に配置される。
【0021】
当て金1は、第1当接面3と第2当接面5との境界部に、面取りCが形成されている。この面取りCは、当て金1の長手方向の全長に亘って形成されている。また、面取りCは、当て金1をセットして溶接を行う際に、裏波ビードが形成される領域に対応して設けられている。当て金1がセットされている状態(溶接前)で、第1当接面3とフランジ24は当接し、また、第2当接面5とデッキプレート10は当接すると、当て金1は隙間なくU字状リブ20内にセットされるが、面取りCとフランジ24及びデッキプレート10との間には、面取りCに応じた隙間が形成される。この隙間を、溶金規制空隙ということにする。なお、面取りCの形状は、円弧、その他の曲線であってもかまわない。
【0022】
本実施形態によるすみ肉溶接は、当て金1がセットされている状態で行われる。溶接の際に、当て金1は以下の役割を果たす。
当て金1は、溶接により内側に到達した溶融金属が自由に流動するのを拘束しながら、溶融金属を冷却・固化させる。つまり、内側に達した溶融金属は、面取りCにより形成される溶金規制空隙の内部でのみ流動が許され、溶金規制空隙の外部に流出することなく固化される。したがって、この面取りCの形状、寸法を特定すれば、裏波ビードの形状を制御することができる。
【0023】
本発明者等は、当て金1を設けること以外の条件(溶接電流、溶接電圧及び溶接速度を含む)を一致させて溶接を行った。溶接後に略T字型継ぎ手部近傍の断面マクロ観察を行った。その結果を図2(b)、(c)に示す。また、図3にマクロ観察(図2(b))から得られた模式図を、また、図4にマクロ観察(図2(c))から得られた模式図を示す。
【0024】
図2(b)、図3に示すように、当て金1を設けることなく溶接を行うと、裏波ビードBとデッキプレート10のなす角度∠11、及び裏波ビードBとフランジ24のなす角度∠12は、略90°又は鋭角となる。また、裏波ビードBのデッキプレート10方向の脚長L11と、裏波ビードBのフランジ24方向の脚長L12は、L12がL11の2倍程度ある。また、デッキプレート10から裏波ビードの最上端までの距離、つまり裏波ビード高さH1が高い。
【0025】
これに対して図2(c)、図4に示すように、当て金1を設けて溶接を行うと、裏波ビードBとデッキプレート10のなす角度∠21、及び裏波ビードBとフランジ24のなす角度∠22は、ともに鈍角にすることができる。また、図4に示すように、裏波ビードBのデッキプレート10方向の脚長L21と裏波ビードBのフランジ24(縦板)方向の脚長L22はほぼ等しく、当て金1を設けることで等脚長の裏波ビードBが得られる。また、裏波ビード高さH2は低い。
このような特徴を有する裏波ビードの形状は、当て金1をセットした際に形成される溶金規制空隙に近似したものであり、当て金1により溶融金属の流動が規制されることが確認された。
【0026】
以上の通りであり、当て金1を設けることで、裏波ビードBとデッキプレート10となす角度∠21及び、裏波ビードBとフランジ24がなす角度∠22をともに鈍角にできる。ここの角度が小さくなるほど溶接ルートに応力が集中しやすくなり、逆に、ここの角度が大きくなるほど溶接ルートに応力が集中しにくくなる。したがって、当て金1を配置しながら溶接を行うことで、裏波ビードを基点とする亀裂発生を抑制できる。特に、デッキプレート10にU字状リブ20を溶接する際に、サイズが大きいこともあり、デッキプレート10に対するU字状リブ20の取り付け誤差が位置により相違すること、さらには溶接中に溶接機の一次側電圧が変動するなどの溶接環境の変化が生じること、が想定される。しかし、そのような裏波ビードの変動要因があっても、面取りCを備える当て金1を用いることで、裏波ビードを所望する形状に安定して形成することができる。
【0027】
また、当て金1は、内側から溶接ビード及びその周囲を冷却する。そのために、図2〜図4を参照することで理解できるように、溶接の加熱により影響を受け組織が変化する領域(溶接熱影響部,以下HAZ)を狭くすることができる。よく知られているように、HAZは、結晶粒が粗大化するので、機械的特性、特に靭性が劣る。したがって、溶接された部材はHAZがより狭くされることが望まれるが、当て金1を用いて溶接を行う本発明によるとHAZを狭くする効果をも享受できる。
実際にミクロ組織を観察した(図5,図6参照)。その結果、当て金1を用いることで、HAZの結晶粒を微細化できるとともに、溶接金属と母材の境界部の結晶粒を微細化できることが明らかとなった。このように、HAZ及び境界部の結晶粒を微細化することによっても、溶接継手部の靭性を向上できる。
【0028】
<第1の形態>
次に、当て金1を用いて鋼床版100を作製するのに好適な溶接装置50の例について図7を参照して説明する。
溶接装置50は、溶接部60と、当て金移動部70と、制御部80とを備えている。
溶接部60は、U字状リブ20の一対のフランジ24をデッキプレート10に同時に溶接するために、一対の溶接トーチ61を備えている。溶接トーチ61は、U字状リブ20の長手方向に沿って設けられるガイドレール63に案内されながら移動し、フランジ24をデッキプレート10に溶接する。
溶接トーチ61は、制御部80からの指示に従って、溶接を行うとともに、移動する。
溶接トーチ61の種類は限定されず、公知の溶接方法に基づいて適宜定めることができる。また、溶接トーチ61を移動させる手段も同様である。
【0029】
当て金移動部70は、一対の当て金本体71と、一対の当て金本体71同士を機械的に接続する連結材72と、連結材72上に載置される冷却水循環ユニット73と、一対の当て金本体71を互いに離間する向きに押圧する押圧体74と、牽引装置75と、を備えている。
銅合金製の当て金本体71は、一対のフランジ24をデッキプレート10に同時に溶接するために、一対の溶接トーチ61に対応して設けられている。当て金本体71は、U字状リブ20に比べて十分に短尺に設定されている。
当て金本体71内部には、冷却水循環ユニット73から供給される冷却水が破線矢印Eの向きに流れる流路71aが設けられている。流路71aの両端の開口部には、冷却水循環ユニット73に繋がる配管71bが繋がれている。
当て金本体71は、デッキプレート10との摺動面である下面に、摩擦係数の小さい部材を設けることで、当て金本体71の移動を円滑に行うことができる。
なお、当て金本体71の基本的な構成は、図1、図2に基づいて先に説明した通りであるが、図8には面取りCの記載が省略されている。
【0030】
連結材72は、一対の当て金本体71をその上部において連結する。
連結材72は、白抜き矢印Gで示される当て金本体71の移動方向の前後の二箇所で当て金本体71を連結し、一対の当て金本体71が同期して移動するように規制する。なお、連結材72と当て金本体71は、前記移動方向に直交する方向(幅方向)には相対的な移動ができるように、連結材72が当て金本体71を連結している。
【0031】
冷却水循環ユニット73は、図示を省略するが、冷却水を蓄えるタンクと、タンク内の冷却水を当て金本体71に向けて供給するポンプと、ポンプを駆動するための電源と、を備える。
冷却水循環ユニット73は、連結材72上に搭載されるので、当て金本体71と同期して移動し、溶接トーチ61で溶接を行っている間、当て金本体71に対して冷却水の供給及び循環を継続して行う。
【0032】
押圧体74は、一対の当て金本体71の間に設けられ、各々の当て金本体71をフランジ24に押し付ける役割を担うものであり、バネなどの弾性体を用いることができるし、油圧シリンダなどの押圧機構を用いることもできる。
押圧体74を一対の当て金本体71の間に設けることで、一つの押圧体74により、2つの当て金本体71をフランジ24に押し付けることができる。
【0033】
牽引装置75は、制御部80により回転速度が制御される牽引モータ76で回転駆動される巻取りドラム77を備えている。この巻取りドラム77に一端が固定される牽引ワイヤ78の他端を、前方に位置する連結材72に固定し、巻取りドラム77で牽引ワイヤ78を巻き取ることで、当て金移動部70を移動させる。
【0034】
制御部80は、溶接トーチ61の溶接条件及び移動条件を制御する。また、制御部80は、牽引モータ76の回転速度を制御することで、当て金移動部70の移動条件を制御する。そして、制御部80は、溶接トーチ61で溶接されている領域に当て金本体71が位置するようにしながら、溶接トーチ61と当て金本体71が同期して移動するように制御する。
【0035】
以上の第1の形態による溶接装置50によると、以下の効果を奏する。
(1)長大な当て金本体を用いると、フランジ24、デッキプレート10に対して当て金本体71を隙間なく当接させることが困難である。これに対して、溶接装置50は、U字状リブ20よりも十分に短尺の当て金本体71を用い、溶接トーチ61と同期して移動させるので、当て金本体71を隙間なくフランジ24、デッキプレート10に押し当てることができる。したがって、所望する形状の裏波ビードを安定して得ることができる。特に、押圧体74により当て金本体71をフランジ24に向けて押し付けることで、より安定して所望する形状の裏波ビードを得ることができる。
(2)U字状リブ20に対して一対の溶接トーチ61、一対の当て金本体71を配設して、両側を同時に溶接できるようにしたので、鋼床版100の生産効率を向上できる。
(3)U字状リブ20の外部(溶接の終点側)に設けられる牽引装置75により、当て金本体71を牽引して移動させる構成としたので、U字状リブ20内部が狭隘であっても、当て金本体71を無理なく移動できる。
(4)冷却水循環ユニット73を、当て金本体71と近接し、かつ同期して移動できるようにしたので、当て金本体71との間に必要な配管系統などの付帯部材、設備を最小限にできるとともに、冷却水循環ユニット73を移動させるための機構を別途設ける必要がない。
【0036】
<第2の形態>
第1の形態による溶接装置50は当て金本体71を牽引装置75により移動させる形態としたが、本発明はこれに限定されず、当て金本体を自走式にすることもできる。その例を、図8を参照して説明する。なお、図7と同じ構成要素については図8に同じ符号を付すことで、以下では第2の形態の特徴部分を中心に説明する。
【0037】
第2の形態による溶接装置150は、自走台車160を備える。
自走台車160は、一対の当て金本体71の間に配置され、図示を省略するが、車輪駆動用のモータと、モータの動力源であるバッテリを備える。また、自走台車160は、モータの回転速度を制御する制御部163を備える。制御部163は、当て金本体71に内蔵される光センサ71cの光検出の状況に応じて、モータの回転速度を制御し、溶接トーチ61との同期移動を実現する。
自走台車160は、永久磁石製の車輪165を備える。永久磁石製の車輪165を用いることで、自走台車160は、車輪165とデッキプレート10の間の摩擦力に加えて磁力により駆動力が生まれるので、当て金本体71の移動のための負荷が変動しても、スリップが抑制された安定した走行ができる。この効果は、車輪165を永久磁石から構成する以外に、自走台車160の下部に永久磁石を配設し、デッキプレート10に対して発生する吸引力を利用しても得ることができる。
【0038】
第2の形態による溶接装置150は、当て金本体71内に光センサ71cを設けている。光センサ71cで所定値以上の光を検出すると、自走台車160の制御部163にそのことが通知される。当て金本体71は、外部の光が光センサ71cに到達できるように、光取り込み孔71dを形成している。光センサ71c、光取り込み孔71dは、各当て金本体71に設けられので、自走台車160はその前後方向及び幅方向に間隔を空けて光センサ71cを備えることになる。
光センサ71cを用いた溶接トーチ61と自走台車160の同期移動は、例えば以下のように実現される。
溶接トーチ61を前後の光センサ71cの間に配置されるようにして自走台車160の移動、溶接トーチ61による溶接を開始させる。
その際の自走台車160の移動速度は、溶接速度に一致させる。
自走台車160はデッキプレート10上をスリップすることがある。そうすると、溶接の進行にともなって、溶接トーチ61との間に位置ずれが生じる。この場合、自走台車160の前方に配置される光センサ71cが溶接による光を検出する。この検出の結果は、自走台車160の制御部163に送られる。
制御部163は、モータの回転速度を制御し、自走台車160の移動速度を所定比率(例えば10%)だけ速くする。なお、この比率はあらかじめ自走台車160の動き(追従性)を確認して設定すればよい。移動速度を遅くする場合も同様である。
そうして、しばらくすると前方に配置した光センサ71cが光を検出しなくなる。その時点で、制御部163は、自走台車160の速度を初期値に戻す。
以上の速度調整を繰り返すことで、自走台車160が溶接トーチ61よりも遅れて移動することを回避する。
【0039】
自走台車160は、溶接トーチ61よりも先に進むことも想定される。この場合は、以下のようにその移動速度が制御される。
この場合、自走台車160の後方に配置される光センサ71cが溶接による光を検出する。この検出の結果は、自走台車160の制御部163に送られる。
制御部163は、モータの回転速度を制御し、自走台車160の移動速度を所定比率(例えば10%)だけ遅くする。
そうして、しばらくすると後方に配置した光センサ71cが光を検出しなくなる。その時点で、制御部163は、自走台車160の速度を初期値に戻す。
以上の速度調整を繰り返すことで、自走台車160が溶接トーチ61よりも進んで移動することを回避する。
以上のようにして、溶接装置150は、当て金本体71が溶接トーチ61と同期して移動するのを担保することができる。
なお、光センサ71cを用いて当て金本体71が溶接トーチ61と同期して移動することを担保する手法は、牽引装置を用いて当て金を移動させる第1の形態にも適用できる。
【0040】
自走台車160は、2台のカメラ166、167を備えている。カメラ166、167は、各々、当て金本体71を当てながら溶接することで形成された裏波ビードa,bを撮影する。なお、裏波ビードaはカメラ166により撮影され、裏波ビードbはカメラ167により撮影されるものとする。撮影された裏波ビードa,bは、モニタ168に映し出される。溶接に関わる作業者は、モニタ168に映し出される裏波ビードa,bを監視することで、溶接とほぼ同時に裏波ビードa,bの形状を確認することができるので、溶接検査の効率を図ることができる。
なお、このカメラにより裏波ビードを撮影する手法は、牽引装置を用いて当て金を移動させる第1の形態にも適用できる。
【0041】
以上、本発明の溶接装置の実施の形態を説明したが、これはあくまで一例であり、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0042】
1…当て金
3…第1当接面
5…第2当接面
10…デッキプレート10
20…U字状リブ、21,22…すみ肉溶接部、23…ウェブ、24…フランジ、25…レ形開先
50,150…溶接装置
60…溶接部、61…溶接トーチ
70…当て金移動部、71…当て金本体、71c…光センサ
73…冷却水循環ユニット
74…押圧体
75…牽引装置
80,163…制御部
160…自走台車
100…鋼床版

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の鋼板と縦板の突合せ部を溶接する方法であって、
前記縦板の前記鋼板に当接する縁部を前記縦板の一方の側から溶接することで、前記縁部を貫通して前記縦板の他方の側に達する裏波ビードを形成し、
前記縦板の他方の側であって、前記縦板の一方の側から溶接している領域に対応する領域に、前記裏波ビードに対応する領域が面取りされている当て金を鋼板と縦板に当接するように配置しながら溶接を行う、
ことを特徴とするすみ肉溶接方法。
【請求項2】
溶接が行われる長さより短い当て金を溶接に同期して移動させながら溶接を行う、
請求項1に記載のすみ肉溶接方法。
【請求項3】
複数の突合せ部が存在する場合に、各突合せ部ごとに前記当て金を配置し、複数の前記突合せ部を同時に溶接する、
請求項1又は2に記載のすみ肉溶接方法。
【請求項4】
平板状の鋼板と縦板の突合せ部を、前記縦板の前記鋼板に当接する縁部を前記縦板の一方の側から溶接することで、前記縁部を貫通して前記縦板の他方の側に裏波ビードを形成しながら溶接する装置であって、
前記一方の側に配置されるとともに、溶接線の方向に移動可能とされている溶接トーチと、
前記縦板の他方の側であって、前記縦板の一方の側から溶接している領域に対応する領域に配置され、前記裏波ビードに対応する領域が面取りされている当て金と、
前記当て金を前記縦板に押し当てる押当て機構と、
を備えることを特徴とするすみ肉溶接装置。
【請求項5】
前記溶接トーチの移動に同期して前記当て金を移動させる移動機構を備える、
請求項4に記載のすみ肉溶接装置。
【請求項6】
前記当て金に近接して配置されるとともに、前記当て金と同期して移動する、前記当て金を冷却する冷却機構を備える、
請求項4又は5に記載のすみ肉溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−30252(P2012−30252A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171824(P2010−171824)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(506122246)三菱重工鉄構エンジニアリング株式会社 (111)
【Fターム(参考)】