説明

滞在地推定装置、方法及びプログラム

【課題】離散的で長い周期でしか位置データを取得できない場合でも、ユーザが日常的に滞留している滞在地を推定可能にする。
【解決手段】携帯端末MS1〜MSnから取得されたGPSデータをもとに、先ず位置情報生成部212により当該携帯端末MS1〜MSnの滞在地点及び移動先地点を地図データ上にメッシュ状に定義された地域単位で求める。次に滞留地点算出部213により、上記求められた滞在地点及び移動先地点の情報をもとに携帯端末MS1〜MSnの地域ごとの滞在確率を算出し、さらに滞留地点間可到達チェック部214により、時間帯別の移動確率を算出してこの時間帯別の移動確率から携帯端末の滞在地の遷移を推定するようにしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ユーザの日常的な行動において、ユーザが滞留した地点を推定する滞在地推定装置、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ユーザが日常的に滞留している地点を抽出する技術として、例えばGPS(Global Positioning System)により取得した位置データから、ユーザがある地点付近に滞留している時間を算出し、ユーザがあるしきい値以上その地点付近に滞留していれば、その地点を滞留している滞在地として推定する方式が提案されている。(例えば、非特許文献1を参照。)。また、推定された複数の滞在地から、日常的に高い頻度で現れる滞在地とその順序を抽出する方式も提案されている。さらに、ある範囲においてGPSにより得られた方向がゼロクロスする頻度の比率に着目し、「滞在中」であるか又は「移動中」であるかを推定する方式も提案されている(例えば、非特許文献2を参照。)。
これら方式は、連続的に位置情報を取得できることを前提としており、GPS専用機であれば連続的に短い周期で位置データを取得することができるので、実施可能である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】西野等(西野、瀬古、青木、山田、武藤、阿部、“滞在地遷移情報からの行動パターン抽出方式の検討”、情報処理学会研究報告. UBI, 2008(110) pp.57−64
【非特許文献2】G.C.De Silva, T.Yamasaki, K.Aiazawa,“Human Locomotion Segmentation by Constrained Hierarchical Clustering of GPS Data”、映像情報メディア学会年次大会、 21-2, Aug.27-29, 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、携帯電話機やPDA(Personal Digital Assistant)等の携帯端末はGPSに特化した端末ではなく、移動通信機能や情報処理機能は勿論のこと、加速度センサやジャイロ等の複数のセンサが実装されている。そのため、例えばGPSにより位置データを短い取得周期で連続的に取得しようとすると、消費電力が増大して電池の寿命が数時間しか持たなくなる。そこで、アプリケーション側でGPSでの取得周期を長くする等の電池の消耗を抑える工夫が必要となる。また、GPS自体の特性として、ユーザが駅や電車等の屋内にいる場合には安定して位置データを取得することができない。それゆえ、携帯端末を利用する場合には、離散的で数分又はそれ以上のオーダの長い周期で位置データを取得せざるを得なくなり、この結果ユーザの滞在地を推定することが困難となる。
【0005】
この発明は上記事情に着目してなされたもので、その目的とするところは、離散的で長い周期でしか位置データを取得できない場合でも、ユーザが日常的に滞留している滞在地を推定可能にした滞在地推定装置、方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためにこの発明の1つの観点は、滞在地の推定対象となる携帯端末から当該携帯端末の位置データを間欠的に取得し、予め複数の地域に区分された地図データと上記取得された位置データをもとに、上記携帯端末の観測地点とその観測時間及び次の移動先地点をそれぞれ表す情報を上記地域単位で求めて記憶媒体に蓄積する。そして、この蓄積された上記携帯端末の観測地点とその観測時間及び次の移動先地点をそれぞれ表す情報をもとに上記携帯端末の上記地域ごとの滞在確率を算出し、この算出された滞在確率をもとに上記携帯端末の滞在地点を抽出する。次に、この抽出された滞在地点間における上記携帯端末の移動確率を時間帯別に求め、この時間帯別に求められた上記携帯端末の移動確率をもとに上記携帯端末の滞在地の遷移を推定するようにしたものである。
【0007】
具体的には、上記滞在地点を抽出する際に、先ず蓄積されている携帯端末の観測地点とその観測時間及び次の移動先地点をそれぞれ表す情報をもとに、上記観測地点ごとにその出現回数、総観測時間及び次の移動先地点が同一となる滞在回数をそれぞれ算出する。そして、この算出された観測地点ごとの出現回数、総観測時間及び滞在回数をもとに、観測地点ごとに上記携帯端末が当該観測地点に滞在する確率を算出し、この算出された滞在確率が予め設定されたしきい値以上の地域を上記携帯端末の滞在地点として抽出する。
【0008】
また、取得された携帯端末の位置データをもとに、時間帯別の観測地点及び時間帯別の移動先地点をそれぞれ表す情報を上記記憶媒体にさらに蓄積する。この状態で、上記携帯端末の滞在地の遷移を推定する際に、上記蓄積された時間帯別の観測地点及び時間帯別の移動先地点をもとに、予め定められた時間帯ごとの滞留地点間の結合を表す行列を異なる2つの時間帯別観測地点の組み合わせごとに算出し、この算出された時間帯ごとの滞留地点間の結合を表す行列に基づいて、上記時間帯別の観測地点と時間帯別の移動先地点との間の到達の可否を表す可到達行列を算出する。そして、この算出された可到達行列をもとに、第1の時間帯別観測地点から第2の時間帯別観測地点への移動の有無を表す時間帯別滞在地点移動情報を作成すると共に、この時間帯別滞在地点移動情報を上記蓄積されたすべての観測期間にわたり合算して、この合算された時間帯別滞在地点移動情報に基づいて上記時間帯別観測地点ごとに上記携帯端末の移動確率を算出する。
【0009】
したがってこの発明の一観点によれば、携帯端末から取得された位置データをもとに、当該携帯端末の滞在地点及び移動先地点が地図データ上に定義された地域単位で求められ、この求められた滞在地点及び移動先地点をもとに携帯端末の地域ごとの滞在確率及び時間帯別の移動確率が順次算出されて、この時間帯別の移動確率から携帯端末の滞在地の遷移が推定される。このため、携帯端末の消費電力を抑制するため、或いは携帯端末の無線環境の影響により、携帯端末の位置データが間欠的(離散的)にしか取得できない場合でも、任意の時間帯における携帯端末の滞在地を確実に推定することが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
すなわちこの発明によれば、離散的で長い周期でしか位置データを取得できない場合でも、ユーザが日常的に滞留している滞在地を推定可能にした滞在地推定装置、方法及びプログラムを提供することを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の一実施形態に係わる滞在場所推定方法を実施するシステムの構成を示す図である。
【図2】図1に示したシステムにおける携帯端末の機能構成を示すブロック図である。
【図3】図1に示したシステムにおけるサービスサーバの機能構成を示すブロック図である。
【図4】図2に示した携帯端末による処理手順と処理内容を示すフローチャートである。
【図5】図3に示したサービスサーバによる処理手順と処理内容を示すフローチャートである。
【図6】図5に示したサービスサーバの処理手順のうち、地点番号の検索処理を説明するための図である。
【図7】図3に示したサービスサーバの位置情報記憶部に記憶された位置情報の一例を示す図である。
【図8】図3に示したサービスサーバの滞留地点算出部により算出された各地点における滞留確率の一例を示す図である。
【図9】図3に示したサービスサーバの滞留地点間可到達チェック部により生成される、1日分の時間帯別滞留地点移動表の一例を示す図である。
【図10】図3に示したサービスサーバの滞留地点間可到達チェック部により算出される日別滞留地点間の結合を表す行列の一例を示す図である。
【図11】図3に示したサービスサーバの滞留地点間可到達チェック部により算出される可到達行列の一例を示す図である。
【図12】図3に示したサービスサーバの滞留地点間可到達チェック部により生成される、5日分を合算した時間帯別滞留地点移動表の一例を示す図である。
【図13】図3に示したサービスサーバの滞留地点間可到達チェック部により生成される、時間帯別滞留地点ごとの移動確率の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照してこの発明に係わる実施形態を説明する。
図1は、この発明の一実施形態に係わる滞在場所推定装置を備えたシステムを示す図である。このシステムは、それぞれユーザが所持する複数の携帯端末MS1〜MSnを、通信ネットワークNWを介して、滞在場所推定装置としてのサービスサーバSVに接続可能としたものである。
【0013】
通信ネットワークNWは、IP(Internet Protocol)網と、このIP網にアクセスするためのアクセス網とから構成される。アクセス網としては、光公衆通信網、携帯電話網、LAN(Local Area Network)、無線LAN、CATV(Cable Television)網等が用いられる。
【0014】
携帯端末MS0〜MSnは、携帯電話機やPDA(Personal Digital Assistant)、ネットブック等と呼ばれる携帯型のパーソナル・コンピュータからなり、次のように構成される。図2はその機能構成を示すブロック図である。
すなわち、携帯端末MS1〜MSnは、制御部11と、無線送受信部12と、符号化処理部13と、音声インタフェースとしてのスピーカ14及びマイクロホン15と、GPS(Global Positioning System)受信機16と、記憶部17と、入力部18及び表示部19とを備えている。
【0015】
無線送受信部12は、アンテナ12aを介して通信ネットワークNWとの間で無線信号を送受信する。符号化処理部13は、音声やテキスト等の情報データ及び制御データを送受信するために必要な符号化処理及び復号処理を行う。GPS受信機16は、図示しない複数のGPS衛星から送信されるGPS信号をアンテナ16aを介して受信する。記憶部17は、上記情報データを記憶すると共に、後述するGPS計測部111により得られたGPSデータを記憶する。入力部18はダイヤルキーパッド及び複数の機能キーからなり、ユーザが通信に係わる種々情報を入力するために用いる。表示部19は例えば液晶表示器からなり、通信に係わる種々の情報を表示する。
【0016】
制御部11は、この発明に係わる機能として、GPS計測部111と、GPSデータ送信制御部112を備えている。GPS計測部111は、例えば5分以上の予め定められた計測周期で上記GPS受信機16を起動し、当該GPS受信機16により受信されたGPS信号を取り込んで自端末のGPSデータを得る。GPSデータは、「タイムスタンプ」、「緯度」、「経度」からなる。そして、上記得られたGPSデータを記憶部17に蓄積させる。
【0017】
GPSデータ送信制御部112は、サービスサーバSVからGPSデータの送信要求が到来した場合に、上記記憶部17に蓄積されたGPSデータを読み出して要求元のサービスサーバSVに向け送信する。なお、GPSデータは、定期的又は自端末の緯度経度が一定量以上変化したときに、記憶部17から読み出してサービスサーバSVへ送信するようにしてもよい。
【0018】
サービスサーバSVは、例えば通信事業者又はサービス事業者が運用するもので、次のように構成される。図3はその機能構成を示すブロック図である。
すなわち、サービスサーバSVは制御ユニット21と、通信インタフェース22と、記憶ユニット23を備えている。通信インタフェース22は、制御ユニット21の制御の下で通信ネットワークNWとの間で情報の送受信を行う。
【0019】
記憶ユニット23には、この発明を実施するために必要な記憶部として、位置情報記憶部231と、地図データベース232と、推定結果記憶部233が設けられている。
位置情報記憶部231は、上記携帯端末MS1〜MSnから収集したGPSデータ、つまり「タイムスタンプ」、「緯度」及び「経度」を記憶すると共に、後述する位置情報生成部212により生成される「観測された時間」、「地点番号」、「移動先地点番号」、「時間帯別地点番号」及び「時間帯別移動先地点番号」を記憶するために使用される。
【0020】
地図データベース232には、地図上の位置を表す緯度経度と、当該地図をメッシュ状に複数の地点に分割することにより定義した地点番号とが、相互に対応付けて記憶されている。
推定結果記憶部233は、後述する滞留地点算出部213及び滞留地点間可到達チェック部214による算出結果を記憶するために使用される。
【0021】
制御ユニット21は、中央処理ユニット(CPU;Central Processing Unit)を中核とするもので、この発明を実施するために必要な処理機能として、GPSデータ収集制御部211と、位置情報生成部212と、滞留地点算出部213と、滞留地点間可到達チェック部214とを備えている。これらの処理機能はいずれもアプリケーション・プログラムを上記CPUに実行させることにより実現される。
【0022】
GPSデータ収集制御部211は、各携帯端末MS1〜MSnに対しそれぞれ異なるタイミングで定期的にGPSデータの送信要求を送信し、この要求に対し各携帯端末MS1〜MSnが送信するGPSデータを通信インタフェース22により受信して位置情報記憶部231に記憶させる処理を実行する。
【0023】
位置情報生成部212は、以下の処理を実行する。
(1) 上記受信されたGPSデータに含まれる「タイムスタンプ」をもとに「観測された時間」を算出すると共に、「緯度」及び「経度」をもとに地図データベース232から「地点番号」及び「移動先地点番号」を検索する。そして、この算出及び検索された「観測された時間」、「地点番号」及び「移動先地点番号」を上記位置情報記憶部231に記憶させる処理。
(2) 上記位置情報記憶部231に記憶された「地点番号」及び「移動先地点番号」と、「タイムスタンプ」とから、「時間帯別地点番号」と「時間帯別移動先地点番号」を求めて位置情報記憶部231に記憶させる処理。「時間帯別地点番号」とは、時間帯ごとの地点番号であり、また「時間帯別移動先地点番号」とは時間帯ごとの移動先地点番号である。
【0024】
滞留地点算出部213は、上記位置情報記憶部231に記憶された位置情報をもとに滞留確率を算出し、さらに滞留地点を求めるもので、具体的には以下の処理を実行する。
(1) 地点ごとの「滞留確率」を算出する処理
先ず、上記位置情報記憶部231に記憶された位置情報をもとに、「観測回数」、「総観測時間」、「滞留回数」を地点ごとに算出する。そして、この算出された「観測回数」、「総観測時間」、「滞留回数」をもとに、地点ごとに「滞留確率」を算出する。ただし、「観測回数」とは上記位置情報記憶部231に記憶された位置情報においてある地点番号が出現する頻度、「総観測時間」とは上記位置情報記憶部231に記憶された位置情報に含まれる「観測された時間」の地点ごとの合計時間、「滞留回数」とは上記位置情報記憶部231に記憶された位置情報に含まれる「地点番号」と「移動先地点番号」とが同じ場合の頻度である。続いて、上記算出された「観測回数」、「総観測時間」及び「滞留回数」をもとに、地点ごとの「滞留確率」を算出する。
【0025】
(2) 滞留地点を求める処理
上記(1) で算出された「観測回数」が1以上の地点を抽出し、同じく(1) で算出された「滞留確率」が予め定めたしきい値以上の地点番号(滞留地点と呼ぶ)を抽出する。
【0026】
次に、滞留地点間可到達チェック部214は、日ごとの滞留地点間の結合を表す行列と可到達行列を求めることで時間帯別滞留地点移動表を生成すると共に、全日分の時間帯別滞留地点移動表から時間帯別滞留地点間の移動確率を算出するもので、具体的には以下の処理を実行する。
【0027】
(1) 日ごとの滞留地点間の結合を表す行列C(滞留地点K_時間帯&滞留地点L_時間帯)を、時間帯別滞留地点の組み合わせごとに算出する。ここで、滞留地点間の結合を表す行列C(滞留地点K_時間帯&滞留地点L_時間帯)は
(滞留地点以外の時間帯別地点番号の数+2つの時間帯別滞留地点)
*(滞留地点以外の時間帯別地点番号の数+2つの時間帯別滞留地点)
となる行列であり、各要素cijは上記位置情報記憶部231に記憶された「時間帯別地点番号」と「時間帯別移動先地点番号」を参照して決定される。
【0028】
(2) 上記算出された滞留地点間の結合を表す行列C(滞留地点K_時間帯&滞留地点L_時間帯)を用いて、時間帯別地点番号と時間帯別移動先地点番号間が可到達かどうかをチェックする。そして、上記算出されたMr (滞留地点K_時間帯&滞留地点L_時間帯)から、可到達かどうかをチェックする。
【0029】
(3) 上記可到達行列Mr (地点K_時間帯&地点L_時間帯)を用いて、ある時間帯別滞留地点からある時間帯別移動先地点番号へ移動した場合は1、移動しなかった場合は0とする時間帯別滞留地点移動表を作成する。
(4) 位置情報記憶部231に記憶されているすべての期間のデータに対して、先ず日ごとの時間帯別滞留地点移動表を合算する。そして、時間帯別滞留地点ごとに移動確率Β(地点K_時間帯&地点L_時間帯)を算出する。
Β(地点K_時間帯&地点L_時間帯)
=(時間帯別地点番号が地点K_時間帯かつ時間帯別移動先地点番号が地点L_時間帯の値)/Σ(時間帯別地点番号が地点K_時間帯の値)。
【0030】
次に、以上のように構成されたシステムによる滞在地推定動作を、サービスサーバSVの動作を中心に説明する。
先ず各ユーザが所持する携帯端末MS1〜MSnでは、定常状態において以下のように位置情報の検出及び送信処理が行われる。図4はその処理手順と処理内容を示すフローチャートである。
【0031】
すなわち、制御部11はステップS41によりGPS計測タイミングになったか否かを監視している。そして、例えば前回の計測タイミングから5分が経過すると、GPS計測部111がGPS受信機16を起動し、このGPS受信機16により受信されたGPS信号を取り込んで「緯度」及び「経度」を算出する。そして、この算出された「緯度」及び「経度」に計測時刻を示す「タイムスタンプ」を付与し、この「タイムスタンプ」が付与された「緯度」及び「経度」をGPSデータとしてステップS42により記憶部17に格納する。
【0032】
また制御部111は、上記GPSデータの計測処理を定期的に実行しながら、ステップS43においてGPSデータ送信要求の受信を監視する。この状態で、送信要求を受信すると、ステップS44に移行してGPSデータ送信制御部112を起動する。そして、GPSデータ送信制御部112により、上記記憶部17から前回の送信より後に記憶されたGPSデータを読み出し、この読み出された各位置情報を符号化処理部13及び無線送受信部12からサービスサーバSVに向け送信させる。以後、送信要求が受信されるごとに、上記記憶部17に記憶されたGPSデータをサービスサーバSVへ送信させる。
【0033】
一方、サービスサーバSVは以下の手順で処理を実行する。図5はその処理手順と処理内容を示すフローチャートである。
すなわち、制御ユニット21は先ずステップS51において、GPSデータ収集制御部211によりGPSデータの送信要求タイミングになったか否かを監視し、送信要求タイミングになると携帯端末MS1〜MSnへ向け通信インタフェース22から時分割でGPSデータ送信要求を送信する。そして、携帯端末MS1〜MSnからGPSデータが送られると、このGPSデータをステップS52により受信し、このGPSデータに含まれる「タイムスタンプ」、「緯度」及び「経度」を位置情報記憶部231に記憶させる。
【0034】
次に制御ユニット21は、ステップS53において位置情報生成部212を起動し、この位置情報生成部212の制御の下で、地図データベース232を参照して「地点番号」や「移動先地点番号」等の、位置情報を構成する他の要素を検索して位置情報記憶部231に記憶させる。
【0035】
例えば、先ず上記受信されたGPSデータに含まれる「タイムスタンプ」をもとに「観測された時間」を算出する。この「観測された時間」の計算は、
「観測された時間」=(ある時刻Ttのタイムスタンプ)−(1つ前の時刻Tt-1に得られたGPSデータのタイムスタンプ)
により行われる。
【0036】
また、ある時刻Tt における「緯度」及び「経度」をもとに、地図データベース232から当該「緯度」及び「経度」により表される位置を含む「地点番号」を検索する。例えば、地図データが図6に示すようにメッシュ状に複数の地点に区分されているとすれば、これらの地点の番号が検索される。
【0037】
さらに、次の時刻Tt+1に得られたGPSデータの「緯度」及び「経度」により表される位置を含む「地点番号」を、「移動先地点番号」として検索する。そして、この算出及び検索された「観測された時間」、「地点番号」及び「移動先地点番号」を上記位置情報記憶部231に記憶させる。
【0038】
続いてステップS54に移行し、上記検索された「地点番号」及び「移動先地点番号」と「タイムスタンプ」とから、時間帯ごとの地点番号の集合を表す「時間帯別地点番号」と、時間帯ごとの移動先地点番号の集合を表す「時間帯別移動先地点番号」を求めて、位置情報記憶部231に記憶させる。
【0039】
図7は、以上のように位置情報生成部212により生成され位置情報記憶部231に記憶された位置情報の一例を示すものである。同図において、「時間帯別地点番号」の「1_10」とは、10:00〜11:00の時間帯にユーザが地点1に存在することを示し、また「時間帯別移動先地点番号」の「1_11」とは、11:00〜12:00の時間帯にユーザが地点1に移動したことを示している。
【0040】
次に、制御ユニット21は滞留地点算出部213を起動し、この滞留地点算出部213の制御の下で以下のように滞留確率及び滞留地点を算出する。
すなわち、滞留地点算出部213は、先ずステップS55において、上記位置情報記憶部231に記憶された位置情報をもとに、当該位置情報においてある地点番号が出現する頻度を表す「観測回数」と、上記位置情報に含まれる「観測された時間」の地点ごとの合計時間を表す「総観測時間」と、上記位置情報に含まれる「地点番号」と「移動先地点番号」とが同じ場合の出現頻度を表す「滞留回数」を、地点ごとに算出する。
【0041】
そして、この算出された「観測回数」、「総観測時間」及び「滞留回数」をもとに、地点ごとに「滞留確率」を算出する。その計算式としては下式が用いられる。
「滞留確率」=F(総観測時間)*G(観測回数,滞留回数)
ただし、
F(総観測時間)= If 総観測時間/観測日数> α Then 1
Otherwise 0
G(観測回数,滞留回数)=(滞留回数)/(観測回数)
図8は、α=60分として、地点1〜16のそれぞれについて算出された「観測回数」、「総観測時間」、「滞留回数」、「滞留確率」の値の一例を示すものである。
【0042】
滞留地点算出部213は、次にステップS56において、先ず上記算出された「観測回数」が1以上の地点を抽出する。図8の例では、地点1、6、16が抽出される。そして、上記算出された「滞留確率」が予め定めたしきい値以上の地点番号を抽出し、これを滞留地点とする。例えば、しきい値を“0.5”に設定すると、図8に示した例では地点1、地点16が滞留地点として抽出される。
【0043】
次に制御ユニット21は、滞留地点間可到達チェック部214を起動し、この滞留地点間可到達チェック部214の制御の下で、以下のように日ごとの滞留地点間の結合を表す行列及び可到達行列を求めて時間帯別滞留地点移動表を生成し、さらに全日分の時間帯別滞留地点移動表から時間帯別滞留地点間の移動確率を算出する。
【0044】
すなわち、先ずステップS57において、日ごとの滞留地点間の結合を表す行列C(滞留地点K_時間帯&滞留地点L_時間帯)を、時間帯別滞留地点の組み合わせごとに算出する。ここで、滞留地点間の結合を表す行列C(滞留地点K_時間帯&滞留地点L_時間帯)は
(滞留地点以外の時間帯別地点番号の数+2つの時間帯別滞留地点)
*(滞留地点以外の時間帯別地点番号の数+2つの時間帯別滞留地点)
となる行列であり、各要素cijは上記位置情報記憶部231に記憶された「時間帯別地点番号」と「時間帯別移動先地点番号」を参照して、以下のように決定される。
cij=1:i行に相当する時間帯別地点番号mからj行に相当する時間帯別移動先地点番号nに移動している場合
0:それ以外
図10(a),(b)にそれぞれ、滞留地点を1_10と1_11とした時の滞留地点間の結合を表す行列C、及び滞留地点を1_11と16_12とした時の滞留地点間の結合を表す行列Cの例を示す。
【0045】
次に、ステップS58において、上記算出された滞留地点間の結合を表す行列C(滞留地点K_時間帯&滞留地点L_時間帯)を用いて、時間帯別地点番号と時間帯別移動先地点番号間が可到達かどうかをチェックする。例えば、以下に示すブール代数演算則に基づいて可到達行列Mr(地点K_時間帯&地点L_時間帯)を算出する。
Mr =(C+I)(p-1)
ここで、pは滞留地点間の結合を表す行列C(滞留地点K_時間帯&滞留地点L_時間帯)の行数である。なお、この行列式は、「ヒューマノイド工学」、熊本、東京電機大学出版局、p48-51,P58-59に記載されている。
【0046】
続いて、上記算出された可到達行列Mr (滞留地点K_時間帯&滞留地点L_時間帯)の以下の成分をチェックすることにより、可到達かどうかをチェックする。
(滞留地点K_時間帯に相当する列番号,滞留地点L_時間帯に相当する行番号)の成分=1の場合:
滞留地点K_時間帯から滞留地点L_時間帯は他の滞留地点を経由しないで可到達。
(滞留地点K_時間帯に相当する列番号,滞留地点L_時間帯に相当する行番号)の成分=0の場合:
滞留地点K_時間帯から滞留地点L_時間帯は到達不可。
【0047】
図11(a),(b)にそれぞれ、滞留地点を1_10と1_11としたときの可到達行列、及び滞留地点を1_11と16_12としたときの可到達行列の例を示す。
次に、ステップS59において、上記可到達行列Mr (地点K_時間帯&地点L_時間帯)を用いて、ある時間帯別滞留地点からある時間帯別移動先地点番号へ移動した場合は1、移動しなかった場合は0とする時間帯別滞留地点移動表を作成する。図9は、図7に対して作成された、2009年1月1日における時間帯別滞留地点移動表の一例を示すものである。
【0048】
最後に、ステップS60において、位置情報記憶部231に記憶されているすべての期間のデータに対して、先ず日ごとの時間帯別滞留地点移動表を合算する。そして、時間帯別滞留地点ごとに移動確率Β(地点K_時間帯&地点L_時間帯)を算出する。
Β(地点K_時間帯&地点L_時間帯)
=(時間帯別地点番号が地点K_時間帯かつ時間帯別移動先地点番号が地点L_時間帯の値)/Σ(時間帯別地点番号が地点K_時間帯の値)。
図12は、以上のようにして5日間分を合算したときの時間帯別滞留地点移動表の一例を示す。また、図13はこの時間帯別滞留地点移動表の算出結果をもとに時間帯別滞留地点ごとに算出した移動確率Βの一例を示す。
【0049】
以上詳述したようにこの実施形態では、携帯端末MS1〜MSnから取得されたGPSデータをもとに、先ず位置情報生成部212により当該携帯端末MS1〜MSnの滞在地点及び移動先地点を地図データ上にメッシュ状に定義された地域単位で求める。次に滞留地点算出部213により、上記求められた滞在地点及び移動先地点の情報をもとに携帯端末MS1〜MSnの地域ごとの滞在確率を算出し、さらに滞留地点間可到達チェック部214により、時間帯別の移動確率を算出してこの時間帯別の移動確率から携帯端末の滞在地の遷移を推定するようにしている。
【0050】
したがって、携帯端末MS1〜MSnの消費電力を抑制する必要性から、或いは携帯端末MS1〜MSnの無線環境の影響により、携帯端末MS1〜MSnの位置を表すGPSデータを間欠的(離散的)にしか取得できない場合でも、任意の時間帯における携帯端末MS1〜MSnの滞在地を確実に推定することが可能となる。
この推定された滞在地の情報を利用することで、例えば携帯ユーザが立ち寄った地域や店舗等を空白区間を生じることなく推定することが可能となり、この推定された地域や店舗に対応する広告や案内、注意情報をユーザに配信することが可能となる。すなわち、ユーザの滞在地に応じて効果的なレコメンドサービスを実施することができる。
【0051】
なお、この発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、前記実施形態ではGPSデータ収集制御部211、位置情報生成部212、滞留地点算出部213及び滞留地点間可到達チェック部214をサービスサーバSVに設けた場合を例にとって説明した。しかし、これに限らず上記各機能を携帯端末MS1〜MSnに設け、携帯端末MS1〜MSnが自身或いは他の携帯端末の滞在地の遷移を推定するようにしてもよい。
その他、GPSデータ収集制御部、位置情報生成部、滞留地点算出部及び滞留地点間可到達チェック部の構成やその処理手順及び処理内容等についても、この発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施可能である。
【0052】
要するにこの発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【符号の説明】
【0053】
MS1〜MSn…携帯端末、SV…サービスサーバ、NW…通信ネットワーク、11…携帯端末の制御部、12…無線送受信部、13…符号化処理部、14…スピーカ、15…マイクロホン、16…GPS受信機、17…携帯端末の記憶部、18…入力部、19…表示部、111…GPS計測部、112…GPSデータ送信制御部、21…サービスサーバの制御ユニット、22…サービスサーバの通信インタフェース、23…サービスサーバの記憶ユニット、211…GPSデータ収集制御部、212…位置情報生成部、213…滞留地点算出部、214…滞留地点間可到達チェック部、231…位置情報記憶部、232…地図データベース、233…推定結果記憶部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
滞在地の推定対象となる携帯端末から当該携帯端末の位置データを間欠的に取得する手段と、
予め複数の地域に区分された地図データと、前記取得された位置データをもとに、前記携帯端末の観測地点とその観測時間及び次の移動先地点をそれぞれ表す情報を前記地域単位で求めて記憶媒体に蓄積する手段と、
前記蓄積された前記携帯端末の観測地点とその観測時間及び次の移動先地点をそれぞれ表す情報をもとに前記携帯端末の前記地域ごとの滞在確率を算出し、この算出された滞在確率をもとに前記携帯端末の滞在地点を抽出する手段と、
前記抽出された滞在地点間における前記携帯端末の移動確率を時間帯別に求め、この時間帯別に求められた前記携帯端末の移動確率をもとに前記携帯端末の滞在地の遷移を推定する手段と
を具備することを特徴とする滞在地推定装置。
【請求項2】
前記滞在地点を抽出する手段は、
前記蓄積されている前記携帯端末の観測地点とその観測時間及び次の移動先地点をそれぞれ表す情報をもとに、前記観測地点ごとにその出現回数、総観測時間及び次の移動先地点が同一となる滞在回数をそれぞれ算出する手段と、
前記算出された観測地点ごとの出現回数、総観測時間及び滞在回数をもとに、観測地点ごとに前記携帯端末が当該観測地点に滞在する確率を算出する手段と、
前記算出された滞在確率が予め設定されたしきい値以上の地域を前記携帯端末の滞在地点として抽出する手段と
を備えることを特徴とする請求項1記載の滞在地推定装置。
【請求項3】
前記蓄積する手段は、前記取得された位置データをもとに、時間帯別の観測地点及び時間帯別の移動先地点をそれぞれ表す情報を前記記憶媒体に蓄積する手段を、さらに備え、
前記携帯端末の滞在地の遷移を推定する手段は、
前記蓄積された時間帯別の観測地点及び時間帯別の移動先地点をもとに、予め定められた時間帯ごとの滞留地点間の結合を表す行列を異なる2つの時間帯別観測地点の組み合わせごとに算出する手段と、
前記算出された時間帯ごとの滞留地点間の結合を表す行列に基づいて、前記時間帯別の観測地点と時間帯別の移動先地点との間の到達の可否を表す可到達行列を算出する手段と、
前記算出された可到達行列をもとに、第1の時間帯別観測地点から第2の時間帯別観測地点への移動の有無を表す時間帯別滞在地点移動情報を作成する手段と、
前記時間帯別滞在地点移動情報を前記蓄積されたすべての観測期間にわたり合算し、この合算された時間帯別滞在地点移動情報に基づいて、前記時間帯別観測地点ごとに前記携帯端末の移動確率を算出する手段と
を備えることを特徴とする請求項1又は2記載の滞在地推定装置。
【請求項4】
滞在地の推定対象となる携帯端末から当該携帯端末の位置データを間欠的に取得する過程と、
予め複数の地域に区分された地図データと、前記取得された位置データをもとに、前記携帯端末の観測地点、移動先地点及びその観測時間を前記地域単位で管理する過程と、
前記管理されている前記携帯端末の観測地点、移動先地点及びその観測時間をもとに前記携帯端末の前記地域ごとの滞在確率を算出し、この算出された滞在確率が予め設定されたしきい値以上の地域を前記携帯端末の滞在地点として抽出する過程と、
前記抽出された滞在地点間における前記携帯端末の移動確率を時間帯別に求め、この時間帯別に求められた前記携帯端末の移動確率をもとに前記携帯端末の滞在地の遷移を推定する過程と
を具備することを特徴とする滞在地推定方法。
【請求項5】
前記滞在地点を抽出する過程は、
前記蓄積されている前記携帯端末の観測地点とその観測時間及び次の移動先地点をそれぞれ表す情報をもとに、前記観測地点ごとにその出現回数、総観測時間及び次の移動先地点が同一となる滞在回数をそれぞれ算出する過程と、
前記算出された観測地点ごとの出現回数、総観測時間及び滞在回数をもとに、観測地点ごとに前記携帯端末が当該観測地点に滞在する確率を算出する過程と、
前記算出された滞在確率が予め設定されたしきい値以上の地域を前記携帯端末の滞在地点として抽出する過程と
を備えることを特徴とする請求項4記載の滞在地推定方法。
【請求項6】
前記蓄積する過程は、前記取得された位置データをもとに、時間帯別の観測地点及び時間帯別の移動先地点をそれぞれ表す情報を前記記憶媒体に蓄積する過程を、さらに備え、
前記携帯端末の滞在地の遷移を推定する過程は、
前記蓄積された時間帯別の観測地点及び時間帯別の移動先地点をもとに、予め定められた時間帯ごとの滞留地点間の結合を表す行列を異なる2つの時間帯別観測地点の組み合わせごとに算出する過程と、
前記算出された時間帯ごとの滞留地点間の結合を表す行列に基づいて、前記時間帯別の観測地点と時間帯別の移動先地点との間の到達の可否を表す可到達行列を算出する過程と、
前記算出された可到達行列をもとに、第1の時間帯別観測地点から第2の時間帯別観測地点への移動の有無を表す時間帯別滞在地点移動情報を作成する過程と、
前記時間帯別滞在地点移動情報を前記蓄積されたすべての観測期間にわたり合算し、この合算された時間帯別滞在地点移動情報に基づいて、前記時間帯別観測地点ごとに前記携帯端末の移動確率を算出する過程と
を備えることを特徴とする請求項1又は2記載の滞在地推定方法。
【請求項7】
請求項1乃至3のいずれか記載の滞在地推定装置が備える各手段に相当する処理を、当該滞在地推定装置が備えるコンピュータに実行させる滞在地推定プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−128725(P2011−128725A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284414(P2009−284414)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】