説明

潰れ可能かつ再膨張可能な人工心臓弁カフ設計および補完的技術出願

人工心臓弁はカフ(85、285、400)を備えている。カフは、自然組織が不規則であるときでさえ自然組織の封止を促進する特徴を有している。弁が自然大動脈弁内に埋め込まれる際には、カフはLVOT(左室流出路)に保持されるようにされた部分(90)を含んでいてもよい。ステント体が膨張状態にある際には、弁はステント体に対してカフを外方に付勢する要素(210、211、230、252、253)を含んでいてもよい。カフは異なる厚み部分(280)を有していてもよい。異なる厚み部分(280)は、自然組織によって定められた開口部の形状に適合する形態で弁の周辺部周りに分配されている。カフの全部または一部(402)は、埋め込みの間にステントに対して移動可能であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本出願は、2008年7月15日出願の米国仮出願61/134995号優先権の利益を主張し、この内容全体を本明細書において援用する。
【0002】
本発明は、自然心臓弁置換用の人工心臓弁に関し、更にその人工心臓弁で使用される要素に関し、また更にはその人工心臓弁で患者を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ある人工心臓弁には、膨張可能なステント体やステント体に取り付けられた人工弁尖などの弁要素が組み込まれている。その人工心臓弁は、繊維または動物組織などの1以上の材料層を含むカフも含んでいてよい。ステント体とカフが比較的小さな直径にある潰れ状態で患者内に弁を進入させることによって、この種の弁を心臓内に埋め込むことができる。いったん弁が所望の埋め込み部位に位置決めされると、ステント体は、その一部が一般的に管状を呈する膨張状態に達する。ステント体のこの一部分は、これを取り囲む自然組織に係合し、所定位置にて弁を保持する。カフは、管状のステント体の全部または一部を覆う内層を形成する。弁は、病変した自然弁を機能的に置換する装置として作用する。そのため、ステント体内側の弁要素は、順行方向の血流については許容するものの、その順行方向と反対の逆行方向の血流を実質的に遮断する。たとえば、人工弁は、病変した自然大動脈弁内の部位へ動脈系を通して経皮的に進入させてもよいし、自然大動脈弁まで大動脈内を進入させてもよい。経尖的な留置では、人工弁は心尖切開部を通して進入させてもよいし、自然大動脈弁まで左心室を進入させてもよい。他のアクセス部位を介す他のアプローチを用いてもよい。いったん人工弁が所定位置に置かれると、人工弁は、心臓収縮期間に左心室が収縮している際には左心室から大動脈へ送り出される流れを許容するものの、心臓拡張期間には大動脈から左心室へと戻る逆行方向の流れを実質的に遮断する。
膨張可能な弁の設計では重要な課題がある。たとえば、弁は体内への進入を容易にするために比較的小さな直径まで潰れ可能であるのが望ましい。これにより、カフの設計、たとえばカフ内に組み込み可能な材料の厚みに深刻な制限が課される。しかし、ステント体が所定位置で弁を保持するようにステント体の周囲の自然組織にしっかり係合する作動、膨張状態まで、ステント体は膨張可能でなければならない。通常弁周囲逆流と呼ばれる、人工弁の外側部分周りの漏出を防ぐように、ステント体とステント体上に達したカフは、その周囲の自然組織とともに良好な封止部を形成しなければならない。しかし、ステント体とカフは、自然弁の弁輪に過度な力を印加してはならない。自然大動脈弁の弁輪に過度な力が印加されると、心臓の電気伝導系を乱し、僧帽弁の機能を損なわせる可能性もある。これらの問題は、病変した自然弁尖や他の病変組織により埋め込み部位が不規則になるという事実によって複雑化している。たとえば、石灰化または狭窄化した大動脈弁は、現在の潰れ可能な弁設計では十分に取り扱われない場合があって、(1)弁周囲逆流(PV漏出)、(2)弁移動、(3)僧帽弁衝突、(4)伝導系混乱などの問題に遭遇する場合もある。これらのすべてが不都合な臨床転帰に繋がりかねない。これらの不都合な事象を低減するために光学的弁が用いられ、この光学的弁は、隣接する組織や生理機能を阻害しうる過度な半径方向の力を必要とせずに十分な封止機能および固定機能を果たす。
【0004】
多数の人工弁やステント体の設計が提案されてきた。しかし、そのような設計に向けられた関心のすべてにも拘らず、更なる一層の改良が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6780510号公報
【特許文献2】米国特許第6468660号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】米国心臓病学会誌論文 心臓弁膜症 第51巻 ナンバー5、2008年2月5日号、579頁から584頁、「すべての石灰化狭窄大動脈弁を弁付きステントで処置することが妥当なのか?」ツェッチなど著
【非特許文献2】欧州胸部心臓外科学会誌論文、第27巻、2005年、836頁から840頁、「埋め込み前の経皮的大動脈弁交換切除」クォーデンなど著
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、十分な封止機能および固定機能を果たすことができる弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は人工心臓弁を提供する。本発明のこの態様による弁は、ほぼ管状の輪状部を有するステント体を含むのが望ましい。ステント体、および特に輪状部は近位遠位軸線を有する。ステント体は半径方向潰れ状態および半径方向膨張状態を有し、半径方向潰れ状態から半径方向膨張状態へと遷移する間に、輪状部の直径が増加する。本発明のこの態様による弁は、たとえば、人工弁尖のような1以上の人工弁要素を含むのが望ましい。人工弁要素は、ステント体に取り付けられているとともに、輪状部を通る近位方向の流れを許容するものの、輪状部を通る近位方向の流れを実質的には遮断するように作動する。
【0009】
本発明のこの態様による弁は、ステント体に保持されたカフを含むのが最も好ましい。カフは、輪状部の少なくとも一部を覆い、自然弁輪に配置される第1のカフ部を含んでいてもよく、第1のカフ部は、輪状部が半径方向膨張状態にある際に第1の半径を有する。本発明のこの態様では、カフが第1のカフ部に近接した第2のカフ部も含んでいるのが望ましく、第2のカフ部は輪状部が半径方向膨張状態にある際に第2の半径を有し、第2の半径は第1の半径よりも大きい。第2のカフ部は、自然弁輪に近接した自然組織に係合するようにされているのが好ましい。たとえば、人工弁が病変した自然大動脈弁内に埋め込まれた箇所では、第2のカフ部は左室流出路すなわちLVOTに係合してもよい。
【0010】
本発明の更なる態様は、上述のステント体と弁要素とを有してもよい人工弁を提供する。本発明のこの態様による弁は、ステント体に保持され、輪状部を取り囲んでいるカフを含むのが望ましく、カフは1以上のひだ部を有し、このひだ部は、ステント体が半径方向潰れ状態から半径方向膨張状態へと遷移する際に軸線方向には潰れ、半径方向には膨張するようにされている。更に以下で述べるように、ひだ部は、周囲自然構造物と共に効果的な封止を促進できる。
【0011】
本発明の更に別の態様による弁は、近位遠位軸線を有するほぼ管状の輪状部を備えたステント体を含むのが望ましく、上述のステント体に取り付けられた人工弁要素を含むのも望ましい。本発明のこの態様による弁は、ステント体に保持され、輪状部を取り囲むカフを有するのが最も好ましい。また、この弁は、カフから遠くの1以上の付勢要素を有するのも最も好ましい。付勢要素は、ステント体とカフとに機械的に接続されているとともに、ステント体に対して外方にカフの少なくとも一部を付勢するようにされている。単なる実施例として、付勢要素は、ステント体と別個にまたは一体的に形成されたばねを含んでいてもよく、カフとステント体との間に配置された吸湿材、水膨張性材も含んでいてよい。ステント体からカフを外方に付勢することによって、自然組織が不規則的な如何なる箇所であっても、付勢要素は、カフと周囲組織との間で密接な係合を促進することになる。
【0012】
本発明のまた更なる態様は、膨張可能なステント体と弁要素とを含む人工弁を提供し、この人工弁は、ステント体に保持されたカフも含んでいる。カフは可動部を有し、ステント体が半径方向潰れ状態にある際に、カフの可動部がステント体の輪状部から軸線方向においてずれるように、可動部がステント体に対して軸線方向に移動可能である。カフの可動部が輪状部の周りを延びる位置である作動位置まで、可動部が変位可能であるのが最も好適である。たとえば、カフはほぼ管状の壁を有し、この管状壁が、ステント体に取り付けられた固定端部と、ステント体が半径方向潰れ状態にある際に、輪状部から軸線方向に突出する自由端部とを有していてもよい。この構成では、カフの可動部は管状壁の自由端部を含む。管状壁は、その自由端部を作動位置へと運ぶように裏返しになって回転できるように構成されているのが望ましい。そのため、カフが作動位置にある際には管状壁の自由端部が輪状部周りを延びている。
【0013】
本発明の更に別の態様は、ステント体と弁要素とを備えた弁を提供する。弁は、更に開放側面を備えたポケットを有するカフを含む。開放側面は、遠位方向などの軸線方向を向いているため、血流がポケットを膨張させ、血流によってカフが周囲組織に密接に係合する傾向になる。
【0014】
本発明のまた別の態様は、ステント体、弁要素、およびステント体の周辺部分周りに配された複数の領域を有するカフを有する弁を提供する。作動、埋め込み状態では、複数の領域は、半径方向厚みが異なっている。たとえば、カフは、中間領域によって互いに離間して配置された複数の隆起領域を含んでいてもよく、中間領域の半径方向厚みは、隆起領域の半径方向厚みよりも小さい。たとえば、狭窄三尖動脈弁のほぼ三角形状の開口部内に埋め込まれた弁は、3つの隆起領域を有していてもよい。隆起領域は、この三角形状の開口部の角部に係止されていてもよい。カフの様々な領域が別個の膨張可能なチャンバを備えていてもよいため、隆起領域および中間領域は特定の患者の要求に応じて形成できる。
【0015】
本発明の更に別の態様は、上述の態様などの弁を埋め込む方法、およびこのような方法を実行するキットを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】大動脈起始部組織の模式断面図である。
【図2】本発明の一実施形態で用いられるステント体の一部の斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態による弁の一部立面図である。
【図4】図3に示す弁の端面図である。
【図5】自然組織の一部に関連した図3と4の弁の一部が埋め込まれた状態を示す部分断面図である。
【図6】図3と4の弁を示す図5に類似し、図5とは異なった埋め込み状態にあることを示す図である。
【図7】本発明の更なる実施形態による弁の一部の部分立面図である。
【図8】本発明の更に別の実施形態による弁の一部を示す部分斜視図である。
【図9】本発明の別の実施形態による弁の斜視図である。
【図10】本発明の更なる実施形態による弁の斜視図である。
【図11】本発明の更に別の実施形態による弁の一部を示す断面図である。
【図12】図11に示す弁の要素を示す部分斜視図である。
【図13】本発明の更なる実施形態で用いられる要素の斜視図である。
【図14】本発明の更に別の実施形態で用いられる構造の端面図である。
【図15】本発明の更に別の実施形態による弁の部分断面図である。
【図16】図15に類似し、本発明のまた更なる実施形態による弁を示す図である。
【図17】本発明の更なる実施形態による弁で用いられるカフの斜視図である。
【図18】図17のカフを組み込んだ弁の斜視図である。
【図19】本発明の更に別の実施形態による弁で用いられる別のカフの斜視図である。
【図20】図19のカフを利用した弁発明の斜視図である。
【図21】本発明の更なる実施形態による弁が潰された形態の部分立面図である。
【図22】図21とは異なる作動状態にある弁を示す図である。
【図23】本発明の別の実施形態による弁の部分断面図である。
【図24】本発明の別の実施形態による弁の部分模式図である。
【図25】本発明のまた更なる実施形態による弁の部分立面模式図である。
【図26】自然組織に関連した本発明の一実施形態による弁が埋め込まれた状態を示す模式図である。
【図27】本発明の更に別の実施形態による弁の部分立面模式図である。
【図28】自然組織に関連した図27の弁が埋め込まれた状態を示す模式図である。
【図29】本発明のまた更なる実施形態による弁の部分立面図である。
【図30】図30とは異なる作動状態にある弁の一部を示す部分模式図である。
【図31】自然組織に関連した図29と図30に示す弁が埋め込まれた状態を示す模式図である。
【図32】図31に類似し、本発明の更なる実施形態による弁を示す図である。
【図33】本発明の更に別の実施形態による弁を示す部分断面図である。
【図34】本発明の更なる実施形態による弁の部分側面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0018】
図1に典型的な人間の心臓の大動脈起始部組織の幾何学的形状または解剖学的構造を簡略化した図を示す。左室流出路(LVOT)1は、自然大動脈弁の弁輪2やバルサルバ洞3を通じて上行大動脈5と連通している。バルサルバ洞3は、バルサルバ洞−上行大動脈移行部(STJ)4で大動脈と接合している。自然大動脈弁は3つの自然弁尖6を含むのが典型的であり、図1にはその弁尖6の2つだけが示されている。心臓収縮期間では左室が収縮しているため、血液が、左室流出路1から自然弁やバルサルバ洞3を通じて大動脈5に強制的に送られ、矢印Dで示す下流方向すなわち順行流れ方向に送られるのが一般的である。各自然弁尖は内面7と、その反対側を向く外面8とを有し、各内面7は、概して互いに近接して内方を向き他の自然弁尖に面している。健康体な個人では、各自然弁尖6が互いに離れるように開いて破線6’で模式的に示す位置へと動くことで、この移動方向に血液を流すことができる。心臓拡張期間では、左室が収縮していない際には自然弁尖6が図1の実線で示す位置まで戻り、その戻った位置にて各自然弁尖6が互いに当接または「接合」することで、矢印Dの反対方向である上流方向すなわち逆行方向の流れが実質的に遮断される。自然循環器系の特徴を参照して本明細書で用いる「遠位」の方向とは、矢印Dで示す順行流れの方向、すなわち、その自然循環器系の特徴によって支配的になる血流の方向を言う。自然循環器系の特徴を参照して本明細書で用いる「近位」の方向とは、「遠位」の方向と逆の方向を言う。
【0019】
図1で特定されたパラメータは、次のとおりである。DOはオリフィス直径(すなわち自然弁輪2の内径)を定め、DAは洞から一番遠位の大動脈の直径であり、DBは洞最大突出直径(この洞はバルサルバ洞と呼ばれることもある)を定め、LAは洞長(すなわち弁輪2から移行部4までの遠位方向寸法)を定め、そしてLBはDOとDB間の遠位方向距離を定める。
【0020】
弁尖6は弁輪2から遠くの遠位縁部9を有している。各自然弁尖6は本明細書で弁尖の「内面」と呼ぶ表面7を有し、各表面7は他の弁尖に面しているのが一般的である。各自然弁尖6は本明細書で弁尖の「外面」と呼ぶ表面8を有し、各表面8は、他の弁尖から離れるように外方を向き洞3の壁に面しているのが一般的である。このような自然弁の断面形状は、個々それぞれ多少変形しており、この変形例は、疾病の各種タイプによって増やすことができる。たとえば、症状に応じて、患者の弁の断面形状を円形、三角形、または楕円形に再形成できる。
【0021】
図2に本発明の一実施形態による人工心臓弁用の膨張可能ステント体を示す。ステント体10は、たとえば、呼称ニチノールで売られるタイプのニッケル−チタン合金などの超弾性金属合金の管をレーザー切断またはエッチング加工することによって一体構造物として形成されている。このような一体構造物は「不織の」構造物とも呼ばれており、この点において、ステント体10は1以上の繊維を織ったり、巻き付けたりしては形成されていない。図2に示す完全膨張、非拘束形態では、ステント10は、輪状部30、大動脈部20、および輪状部30と大動脈部20との間を延びる支持ストラット60を含んでいる。膨張形態での輪状部30が、中心軸14を有する円筒形の管状に形成されているのが一般的であるのに対して、大動脈部20は、輪状部30と同軸のフープ状に形成されているのが一般的である。膨張形態では、フレア部40を一端に有する輪状部30は、フレア部40を除いてその直径が実質的に一定である。管状の輪状部30は壁面を有し、この壁面は、複数のセルを形成するように相互に接続された多数のセルストラットによって形成されている。大動脈部20は、複数のセルで形成された類似の壁面で画定されており、各セルは、相互に接続された複数のセルストラットを含んでいる。
【0022】
ステント体10は、輪状部30が弁輪2(図1参照)に隣接し、大動脈部20が移行部4および大動脈5に隣接するように患者内に取り付けられるようにされている。そのため、ステント体を組み込んだ弁が患者内に置かれると、患者の循環器系に準拠する枠組みにおいては大動脈部20が輪状部30より遠位に配されることになる。したがって、ステント体10および弁の特徴に関連して使用されるように、軸線14に沿う図2に示す方向Dは、輪状部30のフレア部40から輪状部30を通る方向や輪状部30から大動脈部20へと向かう方向であり、この方向を遠位方向と呼び、その逆の方向を近位方向とする。言い換えると、ステント体に沿う遠位方向とは、循環器系に準拠する枠組みにおける近位への配置が意図されるステント体の端部から、この枠組みにおける遠位への配置が意図されるステント体の別の端部へ向かう方向のことである。本明細書で言及する「軸線」方向とは、その近位方向および遠位方向のことである。また、弁を参照して使用される外方とは、近位遠位軸線から離れる方向のことである。弁の特徴部を参照して用いられるように、「周」方向とは、軸線14周りの方向のことである。
【0023】
ステント体10は、更に以下に述べるように、弁尖の取り付けを容易にする特徴部を含んでいる。この特定のステント体における弁尖取り付け特徴部は3つの接合柱50を含んでいる。各接合柱50は、ステントの残り部分と一体的に形成され、輪状部30の軸線方向に延びている。接合柱50は、輪状部30のセルストラット60に接続され、輪状部30周りに等間隔に配置されている。
【0024】
図2やそれに続く図で示すステント体10の特定の構成は、1つの実施例にすぎない。他の潰れ可能かつ膨張可能な多数のステント体を用いることができる。単なる実施例として、輪状部30が複数のセルの列を含んでいてもよく、軸線方向に延びる柱以外の弁尖取り付け特徴部を用いることができる。そして、大動脈部20やストラット60は省略してもよい。一つの実施例としてステントの変形例を図33に示す。この変形例では、ステント体10の輪状部30が周方向に潰れ可能/膨張可能なセルの複数の列を備えている。図34を参照すると、より遠位すなわちより下流の列内の幾つかの代表的セルについては32aと番号が付されている一方、より近位すなわちより上流の列内の幾つかの代表的セルについては32bと番号が付されている。図34のカフ材で隠れた幾つかのセルの配置については、点線を追加することで強調されている。
【0025】
図2を参照して上述したステント体に類似するステント体10を組み込んだ弁100を図3に示す。弁100は3つの可撓性人工弁尖70を含んでいる。可撓性人工弁尖70は、たとえば心膜組織のような動物組織などの生体適合性材料、またはシリコーン‐ポリウレタンポリマーなどの合成ポリマー材料から形成されている。弁尖70は、たとえばこの弁尖70を支柱50に縫合することによりステント体10に取り付けられている。そのため、弁100とステント体10が図3に示す膨張状態にある際には、弁尖70は、ステント体10の輪状部30内の全体もしくは輪状部30内の一部に配置される。
【0026】
弁100はカフ85も含んでいる。カフ85は第1のカフ部80を含んでいる。第1のカフ部80は、本明細書では弁輪上カフ部とも呼ばれ、輪状部30の管状壁の領域上を延びている。輪状部30の管状壁の領域は、輪状部30の近位端部から離れていて、輪状部30のフレア部40に対して離れている。カフ85は第2のカフ部90も含んでいる。第2のカフ部90は、本明細書では弁輪下カフ部とも呼ばれ、第1のカフ部80に近接している。図3に示す線110は、説明を明確にするために2つのカフ部80、90間の境界線として描かれている。実用上、これらのカフ部80、90間に視認可能な境界線があってもよいし、なくてもよい。線110は、接合柱50の基部にほぼ位置している。言い換えると、この実施形態では、第2のカフ部90は、接合柱50および人工弁尖70に近接して配置されている。図3に示す実施形態では、第1および第2のカフ80、90の両方ともステント体10の外面上を延びている。すなわち、その外面は軸線14から外方に離れるように軸線14に面している。図4に示すように、第2すなわち弁輪下カフ部90は材料層120も含み、材料層120はステント体のフレア部40の内面上に位置している。このようにして、第2すなわち弁輪下カフ部90の厚みは、第1すなわち弁輪上カフ部80の厚みよりも大きくなっている。図4に示す破線105は、内層120と外面上の層との接合部、すなわちステント体の近位縁部を明確に図示するためのものである。実用上、この位置にて視認可能な境界線はなくてもよい。図4に示す特定の実施形態では、カフ85全体が単一のシート状材料層から形成されている。層120は、ステント体10の外側のカフ材料層と一体化しているとともに、ステント体10の近位縁部周りの単一シートを折り畳むことによって形成されている。ステント体10の内側の材料層と外側の材料層とは、共に縫合されていてもよい。
【0027】
この特定の実施形態は例示的なものにすぎず、他の構成においては、カフ部80、90が同一または異種の材料の別個の部品として形成されていてもよい。これらカフ部80、90のいずれかまたはその両方が、ステント体10の内側に1以上の層、ステント体10の外側に1以上の層、またはステント体10の内側および外側に1以上の層を含んでいてもよい。カフ85の内側および外側の各層は、互いに別個にまたは互いに一体的に形成されていてもよい。カフ85は、たとえば、セルストラット、各セルストラット間の接合部、または、セルストラットおよび各セルストラット間の接合部に縫合されるなどしてステントに取り付けられているのが望ましい。カフ85は、動物組織、たとえば、豚、羊および牛の心膜、豚の粘膜下組織のような動物組織などの材料や、編物または織物のポリエステルや不織繊維などの合成繊維から形成されていてもよい。コラーゲン含浸繊維を用いてもよい。また、ポリグラクチン(polyglactin)、ラクチド(lactide)とカプロラクトン(caprolactone)の共重合体、およびポリラクチド(polylactides)などの生体吸収性材料を用いることもできる。
【0028】
図4は、図3の弁100を軸線方向に沿って見た図を示し、弁100の近位端部から遠位の位置で見た図である。図4には、ほとんど閉じた状態(すなわち、弁尖の上側「自由」縁部がほぼY字状になるように互いに近接した状態)の3つの可撓性の弁尖70が示されている。弁100は、心臓拡張時の逆圧下では接合に十分余裕がある状態で近接するように設計されるのが好ましい。
【0029】
作動状態では、弁100は、細長いプローブなどの搬送装置(不図示)上に取り付けられて潰れた状態で運ばれる。この搬送装置はステント体を潰れた状態に保持するようにされたシースを有している。弁がいったん体内の所望の位置に進入するとシースからステント体10を放出する機械的構成または他の構成が、搬送装置に含まれていてもよい。たとえば、搬送装置は、オペレータが操作することでステント体10に対してシースを動かすように構成されていてもよい。潰れた状態では、弁輪部30と大動脈部20とを含むステント体は半径方向に圧縮されている。人工弁尖70はステント体10内に折り畳まれている。厚みのある第2のカフ部すなわち弁輪下カフ部90が弁尖70に近接して配置されるため、弁100は比較的小さな直径まで妨げられずに潰れる。
【0030】
搬送装置は、弁100が自然大動脈弁の位置に達するまで患者内を進入し、その位置にて輪状部30が大動脈の弁輪と隣接する。弁100がシースから放出され、ステント体10がそれ自体の弾性によって膨張する。そのステント体10の弾性膨張は、ステント体10が機械的拘束から開放される結果として単独に生じてもよいし、あるいは、ステント体10の材料が温度変化の影響を受ける結果として生じる膨張を含んでいてもよい。この実施形態においては、ステント体10が潰れた状態から膨張、作動状態へと導かれる膨張は、全体としてステント体自体によってほぼ行われる。言い換えると、ステント体が完全に自己膨張し、如何なる部分の膨張をも引き起こすバルーンや機械的運動装置を必要としないのが望ましい。図5に最もよく示すように、輪状部30によって、カフの第1すなわち弁輪上カフ部80は自然大動脈弁の弁輪2と自然弁尖の内面7とに係合するようにされる。輪状部30、特にフレア部40の膨張によって、カフの第2すなわち弁輪下カフ部90は弁輪2に近接したLVOTに係合するようにされる。カフは自然組織を備えた封止部を形成している。特定の患者の組織に応じて、封止部は自然弁尖の1以上の内面7、弁輪2およびLVOTで形成されていてもよい。大動脈部20(図1参照)は、移行部4にて、または移行部4の近くで自然組織と係合している。
【0031】
ステントは膨張形態に至るものの、完全膨張、非拘束形態までには至らないのが典型的である。そのため、典型的にはステント体10の弾性によって、大動脈部20が移行部4に保持されることになり、輪状部30が弁輪2と弁尖の内面7に保持されることにもなる。これにより、カフの自然組織に対する封止係合が維持される。人工弁尖70は、心臓収縮期間では遠位流れまたは順行方向流れを許容するように開口し、心臓拡張期間では近位流れまたは逆行方向流れを遮断するように閉鎖している。カフの自然組織に対する封止係合によって、ステント体の外側部分周りの逆行方向流れ、通常、弁周囲逆流と呼ばれる流れが遮断される。弁は、冠動脈への流れについては遮断しない。たとえば、支持ストラット60はバルサルバ洞を横切って延びていてもよいため、血液は、各支持ストラット60間の空間を通って冠動脈へと流すことができる。
【0032】
図6は図5に類似し、弁が別の埋め込み処置で使用されることを示す図である。この処置では、図示患者内への人工弁100の埋め込みに先立って、患者の自然弁尖が切除(除去)されているのが典型的である。この実施形態でも、第1すなわち弁輪上カフ部80が自然弁輪2に係合する一方で、カフの第2すなわち弁輪下カフ部90が弁輪2に近接した自然組織、すなわち左室流出路(LVOT)の遠位端部と接触する。
【0033】
上述の実施形態では、様々な変形例を採ることができる。たとえば、図5と6に示す形態では、カフがステント体の輪状部30およびフレア部40の外側部分上だけに配置されている。しかし、輪状部30およびフレア部40の内側部分上、または、輪状部30およびフレア部40の内側部分と外側部分の両方上にカフを配置してもよい。また、ステント体は、必ずしも全体が自己膨張しないものであってもよいし、部分的にさえ自己膨張しないものであってもよい。搬送装置内に組み込まれた1以上の膨張可能なバルーンや機械的要素によって、潰れた状態から膨張、作動状態へとステント体を導いてもよい。
【0034】
図7に示すように本発明の更なる実施形態による弁はカフ200を含んでいる。カフ200は、ステントの輪状部202の外部周りを延びるように形成されている。ステント体が半径方向膨張状態にある際には、カフの素地がひだ状になっている。この実施形態でも、ステントは、半径方向に潰れ可能な構造であって上述のステント体に類似の構成とすることができる。たとえば、輪状部は多数のセルを含んでいてもよく、これらセルは協働して管状壁を定めており、各セルは、相互に接続されたセルストラット204から形成されている。半径方向潰れ状態(不図示)では、セルストラット204は、ステント体の近位遠位軸線214に対してほとんど平行に向けられている。そのため、ステントが図7に示す半径方向膨張状態から半径方向潰れ状態へと変形する際には、輪状部が軸線方向に伸張する傾向になる。半径方向潰れ状態から半径方向膨張状態への反対の遷移では、輪状部の直径が増加するにつれて輪状部の軸線方向の長さは減少する。カフのひだ部は、一般的には周方向に延びる複数の谷領域203および尾根領域205を定める。半径方向膨張状態への遷移期間、ステントの軸線方向の長さが減少すると、隣接する谷領域203が互いの方向へと移動する。これによって、尾根領域205が容易に半径方向に膨張する。選択的に、カフは谷領域でのみステント体に取り付けられていてもよい。ひだ部は、ステント体の半径方向潰れ状態において存在してもよい、存在しなくてもよい。言い換えると、半径方向潰れ期間にステント体が軸線方向に伸張することによって、尾根領域205の直径が谷領域203の直径と同じになるまで谷領域205が内方に潰されてもよい。ステント体が半径方向膨張状態にある際には、ひだ部は自然組織とともに有効な封止部を形成するようになる。この実施形態によるひだ状のカフは、上述のカフの素地から形成されていてもよい。ひだ部は、厳密に円周上にある必要はない。たとえば、1以上の螺旋状の谷領域および1以上の螺旋状の尾根領域があってもよい。そのため、谷領域と尾根領域が協働して一般的にねじ山のような形態が定められる。
【0035】
図7の弁は、吸湿性のある、スポンジのような材料のバンド210の形態にある付勢要素も含む。この付勢要素は、潰れることが容易であって、ステントが埋め込み後に膨張する際にその体積が十分に大きくなる。単なる実施例として、この吸湿材はコラーゲンフォームやコラーゲンスポンジであってもよく、このコラーゲンフォームやコラーゲンスポンジは、動脈を塞ぐために使用されるアンジオシール(登録商標)の下で商業上利用可能な材料や塞栓防止に現在使用されている類似材料に類似するものである。付勢要素すなわちバンド210は、カフとは別個に形成されているともに、カフの尾根領域205とステントの輪状部202の外面との間に係合している。そのため、付勢要素はカフやステント体に機械的に係合している。弁が埋め込まれ、バンド材210が膨張する際には、付勢要素がステント体の輪状部202に対してカフの尾根領域205を外方に付勢する。図7の実施形態では、吸湿材のバンド210は人工弁尖271に近接して配置されており、このようにして、バンド210の軸線方向は弁尖271の軸線方向からずれている。これによって、弁が小さな直径まで潰れることが容易になる。本発明のまた別の実施形態による弁(図8参照)では、付勢要素は、カフ201の内側に配置された吸湿材の螺旋状バンド211を含んでいる。
【0036】
吸湿材などの付勢要素は、図7と図8に示すひだ状のカフ以外のカフを備えて用いてもよい。吸湿材のバンド210は弁内に一体化でき、潰れた弁の直径が過度に増大することになるという妥協をせずに、バンドのこの特有の幾何学的形状を巧みに利用することで、弁の封止能力を増すことができる。たとえば、図3と図4を参照して上述したように第2すなわち弁輪下カフ部90を有するカフを含む弁100では、付勢要素が第2すなわち弁輪下カフ部90を膨張するように(すなわち患者の自然弁輪の上流側に)配置できる。またここでは、付勢要素の軸線方向が人工弁要素の軸線方向からずれているため、弁が潰れた際に弁尖が位置する人工弁の断面の面積は、この付勢要素によって増大しない。潰れた状態では、付勢要素の体積が弁尖の体積に付加されない。これにより、弁尖と付勢要素の両方が弁の同じ断面内にあるならば、弁は、可能であろう周方向サイズよりも小さい周方向サイズまで潰すことができる。
【0037】
更なる変形例では、吸水性高分子などの付勢要素をカフの各材料層間に配置してもよい。そのため、付勢要素は、カフの材料層の外層をステント体から離れるように付勢することになる。更なる実施形態では、カフ材料にそのような吸水性高分子が多く含まれていてもよい。患者内に埋め込まれる結果として弁が膨張できることで患者の組織および/または血液から水分を吸収する際には、これらの付勢要素は、カフ材料層の如何なる空隙をも満たすことができるとともに、弁周囲逆流(PV漏出)を低減するようにカフ材料層と自然組織との間の空隙を満たすこともできる。
【0038】
弁尖を越えてまたは経皮的に導入された細長い器具を用いたステープル留めおよび/または縫合が、患者の自然弁輪に弁を保持するために利用できる。図9に示す弁は、輪状部30を有するステント体を有している。輪状部30は、図2から図4を参照して上述した弁の輪状部に類似している。この特定の弁のステント体は、図2から図4の弁のステント体で用いられるような動脈部を有していない。輪状部30は近位端部、すなわち図9に示す図の基部にフレア部(不図示)を有している。この実施形態でも、カフは、第2すなわち弁輪下カフ部90を含んでいる。人工弁尖70の基部または近位端部が第2のカフ部90の下流にあるため、第2のカフ部90は、患者の自然組織に縫合またはステープル留めされ得る。図9の点線72は、弁尖の基部の概略位置を示している。このようにして、第2のカフ部90の区域92が、人工弁尖70と干渉せずに第2のカフ部90を介して患者の自然組織にステープル留めまたは縫合できる。
【0039】
図10の弁は、複数のポケット220を定めるカフ285を含んでいる。各カフ285は、遠位方向を向く開放側面221を有している。各カフ285の他の側面は実質的に閉鎖されている。弁が埋め込まれる際には、これらのポケット220はステント体の外側部分周りの弁周囲逆流や逆方向血流を妨げるようになる。逆行方向流れは、各ポケット220を血液で満たすことでポケット220の外面を外方に付勢することになる。これにより、ポケット220の外面は自然組織、たとえば、弁輪や自然弁尖に係合することになる。言い換えると、ポケット220は、弁の周辺部周りで小型パラシュートのように作動する。ひいては、ポケット220が自然組織内を伸張することで、長期間にわたってポケットが弁周囲逆流防止機能を果たす必要性を取り除くことが望まれる。図10では、カフの小型ポケット220が逆行方向流れを妨げるように構成されている。しかし、ポケットの開放側面221を概して互いに近接して対向させた状態で、前方血流を防止するように逆行方向とは反対の方向にポケット220を向けることができるのが好ましい。ポケット220は、弁周囲逆流を最小限に抑えるように如何なる数、サイズ、および/または形状で設けられていてもよい。ポケット220は上述のカフの材料と同じ材料でできていてもよい。
【0040】
図11に本発明の更なる実施形態による弁を示す。この弁には、ステント体に一体的に形成されたばね230の形態の付勢要素が組み込まれている。ステント体が膨張した状態では、ばね230の一部が輪状部30の管状壁から外方に突出する。カフまたはカフの最外層は、管状壁の外部およびばね230の外部に配置されている。そのため、ばね230は、輪状部30の管状壁に対して外方にカフ85を付勢する傾向になる。この種の付勢要素は、カフに沿う如何なる位置にも設けることができる。ばね230は、図12に示すような軸線方向に延びる指状であってもよく、または、他の形態であってもよい。たとえば、指状の形態であるばね230は、概して周方向に向けられていてもよい。指状部は、図12の230c、230dで示す丸い端部を有していてもよい。この丸い端部はカフに係合する。あるいは、指状部が図12の230a、230bで示す鋭い端部を有していてもよい。鋭い端部230a、230bを備えた指状部は、カフを貫通してもよいし、自然組織を貫通してもよい。
【0041】
付勢要素は、コイルばねも含んでいてもよい。図13に示すように、円錐状のコイルばね250は、ばね軸線251、および、直径が徐々に増大する複数の湾曲部を定めるようにばね軸線251周りに螺旋状に配置されたばね部材を有している。最大の湾曲部253はばねの基面を定めている。このような複数のばねはステント体とカフとの間に取り付けできる。その際、ばねの基面はステント体に対して内方を向いており、ばね軸線251は概して半径方向または外方に延びている。ここでもまた、ばねは、ステント体に対してカフを外方に付勢する傾向にある。セルストラットから形成されたセルを含んでいるステントの一部では、各ばねの基面が各ストラット間の接合部に保持されていてもよい。また、図2に示す柱50などの接合柱を含むステントの一部では、ばねが接合柱に保持されていてもよい。更なる構成では、ばねを多層カフの各層間に設けてもよい。各ばね250は、平坦なシートからコイル(螺旋)状に切り出し、円錐状を呈していてもよい。ばね250の材料をニチノールなどの形状記憶/超弾性材とすることができる。ばね250の基部のサイズに応じて、螺旋状の各湾曲部は鞍状にすることさえ可能であり、これにより、ばね250が据えられるステント体の一部の曲率にばね形状を一致させることができる(図14参照)。
【0042】
図14の更なる実施形態では、湾曲部251は、ばね軸線250に沿って端面から見ると概して楕円形を呈する。また、この実施形態では、最大の湾曲部253で定められた基面が、ばね軸線250を横断する軸線257周りで湾曲している。そのため、軸線257から遠くの湾曲部253の部分255は、ばね軸線250に平行な方向、すなわち図13に示すように図面の紙面から視認者に向かう方向へと突出している。他の湾曲部は、この湾曲部と同様の曲率であるのが望ましい。よって、ばねが完全に潰れた際に、ばねは円筒状の一部の形状を呈し、軸線257はその円筒状部の軸線となる。本実施形態によるばねはステント体に取り付けられていてもよく、その際、横断軸線257は、その円筒状部の表面の軸線にほぼ平行であって、その円筒状部表面と同軸であるのが望ましい。言い換えると、潰れて圧縮された状態のばねは、半径方向に潰れた状態のステントの曲率と一致していてもよい。この設計により、ステントが潰れた際には弁の半径方向の大きさが最小になることで弁を薄型化できるとともに、ステントが展開した際には弁を半径方向外方に突出させることができる。
【0043】
図13と図14に示すコイルばねは、平坦シートから切り出した後、ばねとしての特性を与えるために心棒上で熱処理または成形され得る。コイルばねは、縫合、溶接、係止機構などによってステント体に取り付けられ、適切なカフ部内に配置され得る。また、コイルばねは、ステント体と一体的に形成されていてもよい。
【0044】
本発明の更に別の実施形態による弁は、上述のカフに類似するカフ85を含んでいる。しかし、この実施形態では、カフは薄いリング部260を備えている。リング部260は、シリコーンゴムなどの弾性材から形成されている。リング部260は、カフのリング部260以外の残り部分周りを周方向に延び、ステント体の輪状部30周りも延びている。リング部260は基部261および自由縁部262を有している。基部261はカフの他の層を介してステント体に保持されている。自由縁部262の軸線方向は基部261軸線方向からずれている。ステント体が半径方向に潰れた状態にある際は、リング部260の自由縁部262はステントの他の構造物に対して平坦な状態にある。ステント体の輪状部30の遷移によって強制的にリング部260の内径が広がると、リング部260の自由縁部262は跳ね上がって、基部261およびステント体に対して外方に突出することになる。これにより、リング部260の自由縁部262の周囲の自然組織が不規則的な箇所であっても、自由縁部262によって周囲自然組織は封止される。人工弁が患者内に搬送される間、リング部260は潰れた低い形状のままである。リング部260は、輪状部30の軸線方向のサイズに沿う如何なる箇所にも配置可能である。仮にリング部260の軸線方向が人工弁尖70の軸線方向からずれている場合は、第2すなわち弁輪下カフ部90の領域内にリング部260を配置することによって、弁尖70の断面での弁構成要素の数を最小限に抑えられる。
【0045】
図15を参照して上述したようなリング部は、ステント体に対してカフの別の部分を外方に付勢する付勢要素としても使用できる。たとえば、図16の実施形態では、上述したリング部に類似するリング部260がステント体とカフ材の被覆部270との間に配置されている。リング部260の自由縁部が被覆部270に保持されているとともに、ステント体に対して被覆部270を外方に付勢する。このようにして、シリコーン製リング部260の自由縁部が跳ね上がることによって、図16に示すカフが膨張する。
【0046】
図7から図16を参照して上述した特徴は、カフの一部が外方に付勢されるものであるため、それらの特徴によって、自然組織が不規則的な如何なる箇所であっても、カフと周囲自然組織との間で封止が効果的に促進されるようになる。これらの特徴は膨張可能なステント体に関連して上述してきたものであるが、他のタイプのステントに用いることもできる。たとえば、観血的手術手技で埋め込みが意図される弁は、膨張不能であって、実質的に剛体のステントを含んでいてもよい。上述の付勢要素の特徴は、この剛体タイプのステントにも採用できる。
【0047】
大動脈弁狭窄症の石灰化形態は、多様な分布形態で発生しうる。その石灰化形態は、狭窄弁尖と埋め込まれた潰れ可能な弁との間の弁周囲逆流に直接的な影響を与える。多くの場合において、弁周囲逆流は、各狭窄自然組織間の接合部位置で最も発生しがちである(非特許文献1参照)。言い換えると、自然弁輪、および自然弁尖の内面によって画定された空間は、円形の断面形状を有していない。図17にはカフ285を含んでいる更なる実施形態による弁が示されている。カフ285は、カフ285の周辺部周りに分配された複数の領域280を含んでいる。図示の作動、埋め込み形態では、これらの領域280は本明細書において「隆起」領域と呼ばれる領域280a、280b、280cと、「中間」領域と呼ばれる領域280d、280e、280fとを有している。隆起領域280a、280b、280cの半径方向厚みRは、中間領域280d、280e、280fなどの他の領域の半径方向厚みよりも大きい。図17と図18の特定の実施例では、3つの隆起領域が周方向に互いに離間して配置されており、中間領域が各隆起領域間に配置されている。別の実施例では、2つの隆起領域280a、280bが互いに離間して配置されており、領域280d、280eなどの中間領域が各隆起領域280a、280b間に配置されている。隆起領域の数および位置は、特定の患者の自然組織形態に適合するように選択されるのが望ましい。したがって、特定の患者に対して特異的に弁のカフを調整するために、各領域280は別個のチャンバ287に組み込まれている(図18参照)。各チャンバ287が膨張することで隆起領域280a、280b、280cが生じるか、あるいは、各チャンバ287が収縮することで中間領域280d、280e、280fが生じる。この構成により、追加的で不必要なカフ材を付加することなく、弁周囲逆流を十分に封止できる。図17および図18の形態は、たとえば、狭窄した自然弁尖を備えた典型的な三尖の自然大動脈弁を有する患者に使用できる。図19および図20の形態は、狭窄した二尖の自然大動脈弁を有する患者に使用できる。
【0048】
チャンバ287は、埋め込み前または狭窄した自然弁内で弁を膨張させた後のいずれかの時期に膨張可能である。膨張は、液体コラーゲンまたはRTV(Room Temperature Vulcanization)シリコーンなどの要素によって処置間に達成可能である。または、類似する要素もしくは他の要素による処置に先立って膨張させることも可能である。このカフの構成によって、狭窄した大動脈弁のサイズの多様性や石灰化分布形態の多様性に単一の潰れ可能な弁設計を用いる可能性が提供される。これに対して、既知の弁設計のいくつかは、一様な石灰化分布形態にしか適用できない。また、このカフ設計によって弁周囲逆流や空隙を塞ぐことができるため、封止が不十分な(漏出する)大動脈弁にこのカフ設計を適用してもよい。このカフ設計は、他の弁配置でも使用可能である。たとえば、図19と図20に示すような形態は、僧帽弁に特によく適合する可能性があり、僧帽弁は楕円形が自然な形態であって、封止が不十分な(漏出する)ことが頻繁である。
【0049】
以下で更に述べるように、人工心臓弁処置で採用可能なある種の手技を最適に適用できるのは、この手技で処置される領域が一時的に直接的な血流から孤立する期間である。作業チャンバを孤立させる装置が有効であり得る。このような装置が非特許文献2に開示されており、この開示を本明細書において援用する。クォーデンなど著作のこの論文で開示されるように、大動脈弁切除チャンバは、ポリエチレン製のバルーンで封止されている。手術器具が器具導管を通じて挿入される。小さい封止バルーンを備えた2つのカテーテルが、心臓麻痺がある冠状動脈に供給されて切除処理期間の冠状動脈塞栓を防止する。この種の作業チャンバは、すべての適用ケースにおいて必要ではないものの、本明細書で後述するある種の手技へ適用することも有効であり得る。
【0050】
医療産業では、組織を凝固させるためにレーザーが使用されてきた。レーザーの実施例として、組織を焼灼するのに用いられる内視鏡システムがある(この内視鏡システムは、米国95134−2011カリフォルニア州サンノゼ オーチャードドライブ3052のレーザースコープ社から入手可能である)。組織の蒸発を最小限に抑えて各組織を互いに結合できる低出力レーザーが最適である。超音波、低温技術、電気抵抗、またはその他の加熱要素などの他のエネルギー源をレーザーの代替手段として用いることができる。埋め込み期間または埋め込み後に、人工弁のカフは、自然組織、たとえば狭窄弁尖(もしくは、弁尖が切除される場合は自然弁輪)に結合されるようにされ得る。たとえば、組織間の接合部を結合するためにカフの外側の豚心膜片を用いることができる。指向性を有するエネルギーを所望の位置に印加するために、様々な形状(環状、先鋭状などの)プローブを用いることができる。
【0051】
エポキシアミンなどの生体適合性の接着剤が、ある医療用途において適用されてきた(特許文献1および特許文献2参照)。このような接着剤を人工弁のカフの周辺部周りに適用できることで、埋め込み期間または埋め込み後に狭窄弁尖(または、弁尖が切除される場合は弁輪)にカフが結合される。ある状況下では、他のシリコーン材を「封止材(caulk)」として用いることができる。接着剤は、弁のカフ自体のポート部および/またはカフを通じて内方または外方に注入することができ、このカフは接着剤の注入を許容するポケットを有していてもよい。(図10、図12および図16参照)。
【0052】
図21に本発明の更なる実施形態による弁を示す。この弁は膨張可能なステント体10を含み、ステント体10は近位遠位軸線14を備えた輪状部30を有している。弁はカフ400も含み、カフ400は、自由端部402と表面403、404とを備えたほぼ管状の壁を有している。図示の潰れた状態では、表面403は管状壁の内面であり、表面404は管状壁の外面である。ステント体10が半径方向に潰れた状態では、管状壁は、管状壁の自由端部402が輪状部30に近接するようにステント体10の近位端部から突出している。言い換えると、この状態では、管状壁の自由端部402は、輪状部30の軸線方向およびステント体10の軸線方向からずれている。そのため、図21には縮んで潰れた輪状部30と縮んで潰れたカフ400とが相違して示されており、弁の近位遠位軸線14に沿っては輪状部30とカフ400とが実質的に重なり合わない。要素30、400は互いに接続されていてもよく、たとえば、要素30と要素400との間の接合部で接続されていてもよい。しかし、要素30と要素400とは、広い範囲までは少なくとも重なり合わないのが好ましい。よって、この潰れた状態では、管状壁400の厚みがステントの直径に付加されない。この特徴はステントの外径を維持するのに望ましく、このようにして、弁の周方向サイズが可能な限り小さく保たれるため、弁の患者内への搬送が侵襲的にはならない。
【0053】
図21の弁が患者内に埋め込まれた際の構造を図22に示す。特に、図22には、半径方向膨張状態にある輪状部30が示されている。カフ400も半径方向に膨張し、その前に跳ね上げられたか、または裏返しに回転させられたかしている。そのため、カフ400は、現在、ステント体の輪状部30の少なくとも一部の外側部分周りに配置されている。表面403は、現在、管状の壁の外側にあることに留意されたい。潰れた状態から作動状態へ転換する際には、管状壁の自由端部402はステント体に対して移動する。したがって、自由端部402は、本明細書ではカフ400の「可動」部と呼ばれる。図22に示す作動状態では、自由端部402すなわち可動部は、輪状部30の一部と軸線方向が一致している。カフ400がこの作動状態にあると、患者の周囲自然組織に対する弁の封止が適切に確保される。
【0054】
弁が患者内に搬送される間すなわち弁が患者の弁埋め込み部位に据えられる前に、管状のカフ400を跳ね上げることができる。管状のカフ400の弾性特性に応じて、ステント体の半径方向膨張が、図示の管状カフの裏返しを引き起こしてもよい。その代替または追加として、管状カフ400が拘束されていない際には、図22に示すように管状カフ400が自然に裏返しになるように、カフ400が自由形状またはひずみのない形状を呈していてもよい。管状カフ400は、図21に示す状態に強制的に変形させてもよく、その位置にて搬送装置のシースや他の要素で拘束されてもよい。そのため、図23に示すように、カフ400が搬送シース500の遠位端部から現れた後、カフ400はステント体10の外側部分周りに弾性的に跳ね上がるようになる。ステント体10の外側部分周りにカフ400の可動要素すなわち端部402を引き上げるように縫合糸またはワイヤー510を用いる代替実施形態または追加実施形態を図24に示す。この端部の移動は、ステント体の膨張前、膨張期間、または膨張後のいずれに行われてもよい。単なる実施例として、搬送装置が細長いプローブを含む箇所では、縫合糸またはワイヤー510が、オペレータがアクセス可能なハンドルや他の要素まで搬送装置に沿って延びていてもよい。また、縫合糸510はループとして設けられていてもよく、縫合糸510は、ループの一端を選択的に引っ張ることによってカフから取り外すことができる。たとえば、縫合糸510a、510bは、カフの貫通孔を延びる単一のループの一部である。ループの両端を同時に引っ張ることによって、自由端部すなわち可動部402が引かれることになる。ループの一端を引っ張ることによって、縫合糸がカフから取り外されることになる。図25には更に別の代替実施形態または追加実施形態が示されている。その実施形態では、弁埋め込み部位にて、またはその近傍にて患者内側の搬送システムの拘束状態からカフが開放される際に、カフ400内またはカフ400上の形状記憶合金(たとえばニチノール)製の部材410がカフを跳ね上げる。
【0055】
可動部を備えたカフは、自然組織の如何なる部分とも封止部を形成するように構成されてよい。たとえば、図26には患者内に完全に埋め込まれた人工弁10が示されており、カフ400は、ステント体10の外側部分周りに跳ね上がるとともに、患者の狭窄した自然心臓弁尖6に対して半径方向外方に押される。これにより、弁周囲逆流が人工弁10で封止される。
【0056】
図27は概して図21と同様であるが、図27のカフ400は、図21のカフよりも長い形態である。図28は、概して図23と同様であるが、患者内に構造物が埋め込まれた後の状態を示す図である。図27と図28の構造では、カフ400の軸線方向長さは、ステント体の輪状部30の軸線方向長さとほぼ同じである。この実施形態では、ステントの近位端部が自然弁輪2に近接して配置されていてもよく、カフ400の一部が弁輪2や狭窄弁尖6などの自然構造物に到達して封止することになる。図27と図28の構造にはバルーン601が組み込まれていて、バルーン601は、輪状部30内などのステント体の内側部分にある搬送装置上に配置され、強制的にステント体を膨張させる。この構造は、別のバルーン603も含んでいる。バルーン603は、ステントが半径方向に潰れた状態にある際にカフ400内に配置される。ステント体が膨張する前または膨張している間、カフ400は、バルーン603を膨張させることで裏返しに回転させることができる。更なる変形例では、バルーンは、その膨張が自由端部402で始まり徐々に進行してゆくように構成されていてもよく、このバルーンの構成により、ステントは裏返しに回転する。単なる変形例として、バルーン603は複数のチャンバを含んでいてもよい。これら複数のチャンバは、前記構造物の軸線に沿って配置されているため、これらのバルーンの膨張を連続的に行うことができる。
【0057】
他の実施形態では、カフの可動部が自然組織構造に係合することによって、可動部がステント体に対して移動する形態であってもよい。たとえば、カフは、搬送期間に患者の自然狭窄心臓弁尖に係止するように構成、搬送できる。図29から図31にこの作用の一実施例を示す。図30の弁は、概して図22と図28の弁に類似するが、ステント30から遠くのカフ400の自由端部420上にフック420の形態にある係合要素が追加されている。図30は、図29の構造物が展開段階にある状態を示す。この段階では、係止部材またはフック420が患者の自然狭窄弁尖6の遠位縁部に係合(係止)可能な形態まで、管状のカフは変形している。いったん係止部材が係合してしまうと、ステント体は自然組織に対して近接する方向に移動する。図31に示すように、自然弁尖6で境界が定められた空間内へステント体10が近位方向に移動することによって、カフ400はステント10の外側部分周りで裏返される。この作用は、フック420によってカフ400の自由端部402が弁尖6の遠位縁部に保持されるという事実で裏付けられる。図31に示すように最終的には、カフ400はステント体10と自然弁尖6との間に狭持される。自然弁尖6上にフック420があることで、カフ400は、人工弁の弁周囲逆流に対する封止を促進するとともに、患者内に配置された弁をしっかり固定するという効果も促進する。
【0058】
係合要素またはフック420は、好適であれば如何なる材料であってもよい。一つの可能性として、フック420がニチノールでできていて繊維または他の材料のカフ400を通って延びる形態もある。フック420は、ステント体の輪状部30または他の部分に接続されていてもよく、かつ、ステント体と一体的に形成されていてもよい。
【0059】
図29から図31の処置では、弁が近位方向へ移動する間、可動要素は大動脈5から左室1へ向かって移動する。更なる変形例では、可動要素は、自然組織に対して反対の遠位方向に移動することによって展開する。その場合では、図32に示すようにフック420’は弁輪2内に係止するように構成できる。この構成では、管状のカフ要素は、初期は輪状部30の遠位端部から突出している。係止部材420’はLVOTなどの自然組織構造と係合している。ステント体が自然組織に対して離間する方向に移動する際には、自由端部すなわち可動要素は、ステント体の輪状部30に対して近接する方向に移動する。
【0060】
カフの可動部は、カフの全体またはカフの如何なる部分をも含んでいてもよい。また、カフの可動部の移動は、カフを裏返しに回転させる以外の方法で発生し得る。たとえば、カフ400、および輪状部30を有するステント体10が図33の構造物に組み込まれている。弁を患者内に進入させる間、ステントはシース605によって半径方向に潰れた状態に拘束されている。カフ400は弾性管を含み、この弾性管は非拘束的な内径を有している。この内径寸法は、カフ400が半径方向に潰れた状態では輪状部30のほぼ外径寸法以上にある。患者内に進入させる間、カフ400は、シース605から遠くの別のシース607によって潰れた状態に保持されている。展開の間に、シース607がそれ自体に対して軸線方向A1の方向に移動することで、ステント体に最も近接したカフ400の少なくとも一部が解放され、カフ400のこの少なくとも一部が膨張可能となる。シース605がステント体に対して軸線方向A2の方向に移動する間に、ステント体が作動、半径方向膨張状態に完全に膨張する前にはカフ400もステント体に対して軸線方向A2の方向に移動する。たとえば、搬送装置は、図24を参照して上述した、カフを移動させる縫合糸に類似する縫合糸510を含んでいてもよい。ステント体が膨張する際には、ステント体はカフの内側に係合する。ステント体がバルーンまたは機械的な要素によって強制的に膨張する箇所では、カフはステント体の外部上を滑らすことができる。そのため、膨張装置が作動状態にある前または作動状態の間、ステント体の外側部分周りのカフは引っ張られる。
【0061】
上述の弁は患者の人工的でない自然弁内に埋め込むものであるが、この弁を予め埋め込まれた人工弁内に埋め込むこともできる。このような処置では、予め埋め込まれた人工弁は自然弁を構成する。たとえば、カフは予め埋め込まれた人工弁の構造物を封止するものであり、この構造物の例としては、予め埋め込まれたステント体やカフの内部、または予め埋め込まれた人工弁尖の内面が挙げられる。
【0062】
特定の実施形態を参照して本明細書における発明を述べてきたが、これらの実施形態は本発明の原則および適用の単なる例示であると解すべきである。したがって、その例示的実施形態は多種多様に修正できると解すべきあり、更には特許請求の範囲で定めるように本発明の精神および範囲を逸脱することなく他の構成を導くことができると解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自然弁輪を有する自然心臓弁を置換する人工心臓弁であって、
(a)近位遠位軸線を有するほぼ管状の輪状部を含むとともに、半径方向潰れ状態および半径方向膨張状態を有するステント体であって、該半径方向潰れ状態から該半径方向膨張状態へと遷移する間に、前記輪状部の直径が増加する、ステント体と、
(b)前記ステント体に取り付けられた1以上の人工弁要素であって、前記輪状部を通る近位方向の流れを許容するものの、該輪状部を通る該近位方向の流れを実質的には遮断するように作動する人工弁要素と、
(c)前記ステント体に保持されたカフであって、
(i)前記輪状部の少なくとも一部を覆い、前記自然弁輪に配置される第1のカフ部であって、該輪状部が前記半径方向膨張状態にある際に第1の半径を有する第1のカフ部と、
(ii)前記第1のカフ部に近接しているとともに、前記輪状部が前記半径方向膨張状態にある際に第2の半径を有する第2のカフ部であって、該第2の半径が前記第1の半径よりも大きく、前記自然弁輪に近接した自然組織に係合するようにされた第2のカフ部と、
を有するカフと、
を有する、
人工心臓弁。
【請求項2】
前記ステント体は、前記輪状部に近接したフレア部を含み、
該フレア部は、前記ステント体が前記膨張形態にある際に前記輪状部よりも直径が大きく、
前記第2のカフ部の少なくとも一部は、前記ステント体の前記フレア部に沿って延びている、
請求項1に記載の弁。
【請求項3】
(a)近位遠位軸線を有するほぼ管状の輪状部を含むとともに、半径方向潰れ状態および半径方向膨張状態を有するステント体であって、該半径方向潰れ状態から該半径方向膨張状態へと遷移する間に、前記輪状部の直径が増加し、該輪状部の軸線方向長さが減少するステント体と、
(b)前記ステント体に取り付けられた1以上の人工弁要素であって、前記輪状部を通る近位方向の流れを許容するものの、該輪状部を通る該近位方向の流れを実質的には遮断するように作動する人工弁要素と、
(c)前記ステント体に保持され、前記輪状部を取り囲んでいるカフであって、前記ステント体が前記半径方向潰れ状態から前記半径方向膨張状態へと遷移する際に軸線方向には潰れ、半径方向には膨張するようにされた1以上のひだを有するカフと、
を有する、
人工心臓弁。
【請求項4】
(a)近位遠位軸線を有するほぼ管状の輪状部を含むステント体と、
(b)該ステント体に取り付けられた1以上の人工弁要素であって、前記輪状部を通る近位方向の流れを許容するものの、該輪状部を通る該近位方向の流れを実質的には遮断するように作動する人工弁要素と、
(c)前記ステント体に保持され、前記輪状部を取り囲んでいるカフと、
(d)前記カフから離れ、前記ステント体と前記カフとに機械的に接続された1以上の付勢要素であって、前記ステント体に対して外方に前記カフの少なくとも一部を付勢するようにされた付勢要素と、
を有する、
人工心臓弁。
【請求項5】
前記ステント体は、半径方向潰れ状態および半径方向膨張状態を有する膨張可能な金属製ステント体であり、
該半径方向潰れ状態から該半径方向膨張状態へと遷移する間に、前記輪状部の直径が増加する、
請求項6に記載の弁。
【請求項6】
前記1以上の付勢要素は1以上のばねを含む、請求項5に記載の弁。
【請求項7】
前記ばねは前記ステント体と一体的に形成されている、請求項6に記載の弁。
【請求項8】
前記ばねは複数のコイルばねを含み、各コイルばねは、ばね軸線と、該ばね軸線の周りの複数の湾曲部と、該複数の湾曲部内を延びる細長い部材と、を有する、請求項6に記載の弁。
【請求項9】
各ばねの前記湾曲部は、前記ばね軸線を横切る軸線の周りに湾曲しているとともに前記ステント体の前記近位遠位軸線に平行である、請求項8に記載の弁。
【請求項10】
前記1以上の付勢要素は吸湿材を含む、請求項5に記載の弁。
【請求項11】
前記1以上の弁要素は、前記輪状部内の少なくとも一部に配置された複数の人工弁尖を含み、かつ、
前記ステント体が少なくとも前記半径方向潰れ状態にある際に、前記吸湿材は、前記近位方向または遠位方向において前記弁尖からずれている、
請求項10に記載の弁。
【請求項12】
前記吸湿材は、前記輪状部の周りを延びる螺旋状の吸湿要素を含む、請求項10に記載の弁。
【請求項13】
前記1以上の付勢要素は、前記輪状部の周りを周方向に延びる弾性リング部を含み、
該リング部は、前記ステント体に保持された基部と、前記ステント体から離脱した自由縁部と、を有し、
前記リング部が半径方向に膨張する際には、該リング部が変形し、該変形によって前記自由縁部を前記基部および前記ステント体に対して外方に付勢するように前記リング部が構成されている、
請求項5に記載の弁。
【請求項14】
(a)近位遠位軸線を有するほぼ管状の輪状部を含むとともに、半径方向潰れ状態および半径方向膨張状態を有するステント体であって、該半径方向潰れ状態から該半径方向膨張状態へと遷移する間に、前記輪状部の直径が増加する、ステント体と、
(b)前記ステント体に取り付けられた1以上の人工弁要素であって、前記輪状部を通る近位方向の流れを許容するものの、該輪状部を通る該近位方向の流れを実質的には遮断するように作動する人工弁要素と、
(c)前記輪状部の周りを延びる前記ステント体に保持され、該ステント体の周りを周方向に延びるリング部を含むカフであって、該リング部が、前記ステント体に保持された基部と、前記ステント体から離脱した自由縁部と、を有し、前記リング部が半径方向に膨張する際には、該リング部が変形し、該変形によって前記自由縁部を前記基部および前記ステント体に対して外方に付勢するように前記リング部が構成されている、カフと、
を有する、
人工心臓弁。
【請求項15】
(a)近位遠位軸線を有するほぼ管状の輪状部を含むとともに、半径方向潰れ状態および半径方向膨張状態を有するステント体であって、該半径方向潰れ状態から該半径方向膨張状態へと遷移する間に、前記輪状部の直径が増加する、ステント体と、
(b)前記ステント体に取り付けられた1以上の人工弁要素であって、前記輪状部を通る近位方向の流れを許容するものの、該輪状部を通る該近位方向の流れを実質的には遮断するように作動する人工弁要素と、
(c)前記輪状部の周りを延びる前記ステント体に保持され、可動部を有するカフであって、前記ステント体が前記半径方向潰れ状態にある際に、該カフの該可動部が前記ステント体の前記輪状部から軸線方向においてずれるように、かつ、前記カフの前記可動部が前記輪状部の周りを延びる位置である作動位置まで前記可動部が変位可能であるように、前記可動部が前記ステント体に対して軸線方向に移動可能である、カフと、
を有する、
人工心臓弁。
【請求項16】
前記カフはほぼ管状の壁を有し、該管状壁は、前記ステント体に取り付けられた固定端部と、前記ステント体が前記半径方向潰れ状態にある際に、前記輪状部から軸線方向に突出する自由端部と、を有し、
前記カフの前記可動部は、前記管状壁の前記自由端部を含み、
前記管状壁は、その前記自由端部を前記作動位置へと運ぶように裏返しになって回転できるように構成されており、
前記カフが前記作動位置にある際に、前記管状壁の前記自由端部は前記輪状部周りを延びている、
請求項15に記載の弁。
【請求項17】
前記半径方向潰れ状態から前記半径方向膨張状態へ前記輪状部が遷移することに対応して、前記カフの少なくとも一部は、前記管状壁の前記自由端部を前記作動位置へと運ぶように裏返しになって回転するよう構成されている、請求項16に記載の弁。
【請求項18】
前記カフの前記自由端部に接続されたカフ係合要素を更に有し、
自然組織の1以上の係合特徴部に対する前記ステント体の軸線方向の移動によって前記カフの少なくとも一部が裏返しに回転できるように、前記カフ係合要素が前記自然組織の前記1以上の係合特徴部に係合するよう構成されている、
請求項16に記載の弁。
【請求項19】
前記カフの前記自由端部は、前記ステント体の前記輪状部から前記近位方向に突出しており、前記カフの係合特徴部は、自然弁尖に係合するようにされている、請求項18に記載の弁。
【請求項20】
(a)近位遠位軸線を有するほぼ管状の輪状部を含むステント体と、
(b)前記ステント体に取り付けられた1以上の人工弁要素であって、前記輪状部を通る近位方向の流れを許容するものの、該輪状部を通る該近位方向の流れを実質的には遮断するように作動する人工弁要素と、
(c)前記輪状部の外側に1以上のポケットを定めるカフであって、各ポケットは外壁と、第1の軸線方向を向く開放側面と、該第1の軸線方向の反対側に位置する第2の軸線方向を向く閉鎖側面と、を有し、該第2の軸線方向における血流が前記ポケット内に強制的に流される傾向になるとともに、該血流が前記ステント体に対して前記ポケットの前記外壁を外方に付勢する傾向になる、カフと、
を有する、
人工心臓弁。
【請求項21】
前記1以上のポケットは、遠位方向を向く開放側面を有する複数のポケットを含む、請求項20に記載の弁。
【請求項22】
(a)近位遠位軸線を有するほぼ管状の輪状部を含むステント体と、
(b)前記ステント体に取り付けられた1以上の人工弁要素であって、前記輪状部を通る近位方向の流れを許容するものの、該輪状部を通る該近位方向の流れを実質的には遮断するように作動する人工弁要素と、
(c)周方向に互いに離間して配された複数の領域を有し、前記輪状部の周りを延びるカフであって、該複数の領域の各々は半径方向厚みを有し、該カフが作動形態にある際に、前記複数の領域の少なくとも1つの領域の前記半径方向厚みが、該複数の領域の少なくとも1つの他の領域の該半径方向厚みとは異なっている、カフと、
を有する、
人工心臓弁。
【請求項23】
前記複数の領域の少なくとも幾つかは中空チャンバを含み、該中空チャンバを膨張させることで前記カフを前記作動形態に導くことが可能である、請求項22に記載の弁。
【請求項24】
前記中空チャンバの少なくとも1つは、他の前記中空チャンバの少なくとも1つと独立して膨張可能であるように構成されている、請求項23に記載の弁。
【請求項25】
前記複数の領域は、周方向に互いに離間して配置された3つの隆起領域および該隆起領域間に配置された中間領域を含み、該隆起領域の半径方向厚みは、該中間領域の半径方向厚みよりも大きい、請求項22に記載の弁。
【請求項26】
前記複数の領域は、周方向に互いに離間して配置された2つの隆起領域および該隆起領域間に配置された中間領域を含み、該隆起領域の半径方向厚みは、該中間領域の半径方向厚みよりも大きい、請求項22に記載の弁。
【請求項27】
前記1以上の弁要素は複数の可撓性人工弁尖を含み、該複数の可撓性人工弁尖は前記輪状部内に少なくとも部分的に配置されている、請求項1から26のいずれか1項に記載の弁。
【請求項28】
(a)ステント体と、該ステント体に接続された1以上の人工弁要素と、前記ステント体の少なくとも一部上を延びているカフと、を含む人工弁を前記ステント体および前記カフが半径方向潰れ状態にある間に、患者内に挿入する挿入ステップと、
(b)前記ステント体および前記カフを半径方向膨張状態に誘導し、前記カフの第1の部分が自然弁輪に係合するとともに前記カフの第2の部分が該自然弁輪に隣接した自然組織に係合するように、前記ステント体および前記カフを位置決めする誘導、位置決めステップと、
(c)前記カフの前記第2の部分を前記自然組織に取り付ける取り付けステップと、
を有する、
患者の治療方法。
【請求項29】
前記カフの前記第2の部分は、縫合またはステープル留めによって前記自然組織に取り付けられる、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記取り付けステップは、前記カフの前記第2の部分が前記自然組織と接合部を形成するエネルギーを該第2の部分に印加するステップを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記自然弁輪は自然大動脈弁の弁輪であり、前記カフの前記第2の部分は自然左室流出路に係合する、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
請求項38から31のいずれか1項に記載の方法を実行するキットであって、
(i)ステント体と、該ステント体に接続された1以上の人工弁要素と、前記ステント体の少なくとも一部上を延びているカフと、を含む人工弁と、
(ii)前記カフを前記自然組織に取り付けるようにされた少なくとも1つの取り付け工具と、
を有する、
キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図12D】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【公表番号】特表2011−528256(P2011−528256A)
【公表日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−518722(P2011−518722)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【国際出願番号】PCT/US2009/004094
【国際公開番号】WO2010/008548
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(500232466)セント ジュード メディカル インコーポレイテッド (23)
【Fターム(参考)】