説明

炭素−金属複合体およびこれを用いた回路部材または放熱部材

【課題】 断続する部分が少ない金属層が容易に形成できて放熱特性が良好な炭素−金属複合体およびこの炭素−金属複合体を用いた回路部材または放熱部材、また、これらの回路部材や放熱部材を設けてなる放熱複合部材およびこの放熱複合部材における回路部材の上に電子部品を搭載した電子装置を提供する。
【解決手段】 炭素を主成分とする緻密質な基材2の上に、銅またはアルミニウムを主成分とする伝熱層3が形成されている炭素−金属複合体1である。また、回路部材および放熱部材は、炭素−金属複合体1を用いたものとし、放熱複合部材は、絶縁性の支持基体の第1主面側にこの回路部材を、第1主面に対向する第2主面側にこの放熱部材をそれぞれ設けてなるものとし、電子装置は、この放熱複合部材における回路部材の上に電子部品を搭載したものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素−金属複合体およびこの炭素−金属複合体を用いた回路部材または放熱部材に関するものである。また、絶縁性の支持基体の一方の主面に回路部材を、他方の主面に放熱部材をそれぞれ設けてなる放熱複合部材およびこの放熱複合部材における回路部材の上に電子部品を搭載した電子装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置の構成部品として、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)素子,金属酸化膜形電界効果トランジスタ(MOSFET)素子,発光ダイオード(LED)素子,フリーホイーリングダイオード(FWD)素子,ジャイアントトランジスタ(GTR)素子等の半導体素子,昇華型サーマルプリンタヘッド素子およびサーマルインクジェットプリンタヘッド素子等の各種電子部品が放熱複合部材の回路部材上に搭載された電子装置が用いられている。
【0003】
そして、電子部品を搭載する回路部材を設けてなる放熱複合部材としては、絶縁性の支持基体であるセラミック基板の一方の主面に回路部材として銅板を接合し、他方の主面に放熱性の良好な放熱部材として銅板を接合してなる放熱複合部材が用いられている。
【0004】
そして、銅板を用いた回路部材および放熱部材に代わる材料として、熱伝導性や加工性に優れ、セラミックスの熱膨張係数に近く、金属より軽いといった特徴を有する炭素材料が注目されるようになっている。
【0005】
このような炭素材料として、特許文献1には、炭素繊維が実質的に厚み方向に配向しており、厚み方向に直角の方向の熱伝導率に対する厚み方向の熱伝導率の比率が2以上であり、かつ厚み方向の熱伝導率が3W/cm・℃以上である炭素繊維強化炭素複合材料が提案されている。この炭素繊維強化炭素複合材料は、炭素繊維の長繊維を熱硬化性樹脂に含浸し、これを加熱して繊維/樹脂の複合体を得、この複合体を目的とする複合材料の厚み方向より長く切断し、互いに実質的に平行となるように一方向に揃えて、その繊維の長さ方向に直角の方向に圧力を加え、成形して樹脂を硬化し、ついで炭化し、さらにこれをピッチ又は熱硬化性樹脂に含浸した後、炭化、必要に応じて黒鉛化することで得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−30666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1で提案されている炭素繊維強化炭素複合材料は、その厚み方向の熱伝導率および電気伝導率が大きく、厚み方向における熱および電気の伝導を必要とする場合に使用すると有効であるものの、炭素繊維強化炭素複合材料の製造過程において、隣り合う炭素繊維間に空隙が残って多孔質になりやすく、さらに放熱特性を高めるために炭素繊維強化炭素複合材料の表面に金属層を形成すると、金属層が多孔質となった表面上で断続する部分が多発し、放熱特性をさらに高めることができないという問題があった。
【0008】
本発明は、上記課題を解決すべく案出されたものであり、断続する部分が少ない金属層が容易に形成できて放熱特性が良好な炭素−金属複合体およびこの炭素−金属複合体を用いた回路部材または放熱部材を提供することを目的とするものである。また、これらの回路部材や放熱部材を設けてなる放熱複合部材およびこの放熱複合部材における回路部材の上に電子部品を搭載した電子装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の炭素−金属複合体は、炭素を主成分とする緻密質な基材の上に、銅またはアルミニウムを主成分とする伝熱層が形成されていることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の炭素−金属複合体は、上記構成において、前記基材は、銅またはアルミニウムが含浸されていることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の炭素−金属複合体は、上記各構成において、前記基材が等方性黒鉛からなることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の炭素−金属複合体は、上記各構成において、前記基材の上に、クロム,鉄,コバルトまたはニッケルを主成分とする中間層を介して、前記伝熱層が形成されていることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の炭素−金属複合体は、上記各構成において、前記基材の表面の端部に傾斜面を有することを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の炭素−金属複合体は、上記各構成において、前記基材の表面の端部が段状に形成されていることを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明の炭素−金属複合体は、上記各構成において、前記基材の側面に、クロム,鉄,コバルトおよびニッケルのいずれか1種を主成分とする被覆層が形成されていることを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明の炭素−金属複合体は、上記各構成において、前記基材の側面に、銀および銅のいずれか1種以上を主成分とし、チタン,ジルコニウム,ハフニウムおよびニオブから選ばれる1種以上を含有する被覆層が形成されていることを特徴とするものである。
【0017】
本発明の回路部材および放熱部材は、上記いずれかの本発明の炭素−金属複合体を用いたことを特徴とするものである。
【0018】
本発明の放熱複合部材は、絶縁性の支持基体の第1主面側に本発明の回路部材を、前記第1主面に対向する第2主面側に放熱部材をそれぞれ設けてなることを特徴とするものである。
【0019】
また、本発明の放熱複合部材は、絶縁性の支持基体の第1主面側に回路部材を、前記第1主面に対向する第2主面側に本発明の放熱部材をそれぞれ設けてなることを特徴とするものである。
【0020】
また、本発明の放熱複合部材は、本発明の回路部材および本発明の放熱部材の少なくとも一方は、前記支持基体側より第1金属層および第2金属層が順次接合されてなり、前記第1金属層は、主成分が銀および銅の少なくともいずれか1種であって、チタン,ジルコニウム,ハフニウムおよびニオブから選ばれる1種以上を含有し、前記第2金属層は、主成分が金,銀,銅,ニッケル,コバルトおよびアルミニウムから選ばれる1種以上を含有することを特徴とするものである。
【0021】
また、本発明の放熱複合部材は、上記構成において、前記第1金属層は、モリブデン,タンタル,オスミウム,レニウムおよびタングステンから選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とするものである。
【0022】
また、本発明の放熱複合部材は、上記各構成において、前記第1金属層は、インジウム,亜鉛および錫から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とするものである。
【0023】
また、本発明の放熱複合部材は、上記各構成において、前記支持基体は、窒化珪素または窒化アルミニウムを主成分とするセラミックスからなることを特徴とするものである。
【0024】
また、本発明の放熱複合部材は、上記各構成において、前記第1金属層の端面の少なくとも一部は、前記回路部材または前記放熱部材の各端面より外側に位置していることを特徴とするものである。
【0025】
また、本発明の放熱複合部材は、上記各構成において、前記支持基体の前記第1主面の長辺に対する反りが0.3%以下であって、該反りは前記第2主面側に凸状であることを特徴とするものである。
【0026】
本発明の電子装置は、上記いずれかの本発明の放熱複合部材における前記回路部材の上に電子部品を搭載したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0027】
本発明の炭素−金属複合体によれば、炭素を主成分とする緻密質な基材の上に、銅またはアルミニウムを主成分とする伝熱層が形成されていることから、伝熱層は断続する部分が少ないので、一方の主面側から他方の主面側へ効率よく熱を逃がすことができる。
【0028】
また、本発明の炭素−金属複合体によれば、基材に銅またはアルミニウムが含浸されているときには、一方の主面側から他方の主面側へより効率よく熱を逃がすことができるとともに、銅およびアルミニウムはいずれも炭素より体積固有抵抗が低いので、内部における発熱を低減させることができ、電力損失を減少させることができる。
【0029】
また、本発明の炭素−金属複合体によれば、基材が等方性黒鉛からなるときには、異方性黒鉛である場合よりも放熱の方向は特定方向に偏りにくいので、さらに効率よく熱を分散させて逃がすことができる。
【0030】
また、本発明の炭素−金属複合体によれば、基材の上に、クロム,鉄,コバルトまたはニッケルを主成分とする中間層を介して、伝熱層が形成されているときには、基材に対する伝熱層の密着性がよくなり、さらに効率よく熱を逃がすことができる。
【0031】
また、本発明の炭素−金属複合体によれば、基材の表面の端部に傾斜面を有するときには、炭素−金属複合体の生産効率を高くすることができる。
【0032】
また、本発明の炭素−金属複合体によれば、基材の表面の端部が段状に形成されているときには、炭素−金属複合体の生産効率を高くすることができる。
【0033】
また、本発明の炭素−金属複合体によれば、基材の側面に、クロム,鉄,コバルトおよびニッケルのいずれか1種を主成分とする被覆層が形成されているときには、炭素−金属複合体を用いた回路部材の上に電子部品を搭載して、この電子部品が発熱を繰り返したとしても、伝熱層はその端部で被覆層に拘束されているので、剥離しにくくなるとともに、空気中の水分が基材の表面を囲む面から浸入しにくくなるので、短絡のおそれが減少する。
【0034】
また、本発明の炭素−金属複合体によれば、基材の側面に、銀および銅のいずれか1種以上を主成分とし、チタン,ジルコニウム,ハフニウムおよびニオブから選ばれる1種以上を含有する被覆層が形成されているときには、電子部品等の発熱する部品が炭素−金属複合体に搭載され、これら部品が動作を繰り返したとしても、伝熱層はその端部で被覆層により拘束されているので、剥離しにくくなるとともに、空気中の水分が基材の表面を囲む面から浸入しにくくなるので、短絡のおそれが減少する。
【0035】
また、本発明の回路部材によれば、本発明の炭素−金属複合体を用いていることにより、効率よく熱を逃がすことができるので、電子部品等の発熱する部品の寿命を延ばすことができる。
【0036】
また、本発明の放熱部材によれば、本発明の炭素−金属複合体を用いていることにより、回路部材と同様に、効率よく熱を逃がすことができるので、電子部品等の発熱する部品の寿命を延ばすことができる。
【0037】
また、本発明の放熱複合部材によれば、絶縁性の支持基体の第1主面側に本発明の回路部材を、第1主面に対向する第2主面側に放熱部材をそれぞれ設けてなる放熱複合部材であるときには、効率よく熱を逃がすことができるので、電子部品等の発熱する部品の寿命を延ばすことができる。
【0038】
また、本発明の放熱複合部材によれば、絶縁性の支持基体の第1主面側に回路部材を、第1主面に対向する第2主面側に本発明の放熱部材をそれぞれ設けてなる放熱複合部材であるときには、効率よく熱を逃がすことができるので、電子部品等の発熱する部品の寿命を延ばすことができる。
【0039】
また、本発明の放熱複合部材によれば、本発明の回路部材および本発明の放熱部材の少なくとも一方は、支持基体側より第1金属層および第2金属層が順次接合されてなり、第1金属層は、主成分が銀および銅の少なくともいずれか1種であって、チタン,ジルコニウム,ハフニウムおよびニオブから選ばれる1種以上を含有し、第2金属層は、主成分が金,銀,銅,ニッケル,コバルトおよびアルミニウムから選ばれる1種以上を含有するときには、支持基体と回路部材および放熱部材の少なくとも一方とを接合する場合に、低温で接合することができる。その結果、この接合に伴って支持基体に発生して残留する応力は高温で接合する場合よりも小さくなるため、支持基体に生じる反りを小さくすることができる。さらに、低温での接合ができることにより、回路部材および放熱部材をともにより厚くすることができるので、電子部品等から発生した熱をさらに拡散させるためのヒートシンクを取り付けなくても済む。
【0040】
また、本発明の放熱複合部材によれば、第1金属層がモリブデン,タンタル,オスミウム,レニウムおよびタングステンから選ばれる少なくとも1種を含有するときには、これらの金属は融点が高いので、第1金属層を形成するためのペーストの粘性が増して、支持基体上で広がりにくくなり、第1金属層の形状を比較的精度よく整えることができ、回路部材が複数並んで配置される場合に、隣り合う回路部材間で発生するおそれのある短絡を低減することができる。
【0041】
また、本発明の放熱複合部材によれば、第1金属層がインジウム,亜鉛および錫から選ばれる少なくとも1種を含有するときには、第1金属層を形成するためのペーストを支持基体に塗布しても、融点の低い金属を含有しているために融点が低くなるので、第1金属層内の空隙を減らすことができることから、支持基体と回路部材および放熱部材の少なくとも一方との接合強度を高くすることができる。
【0042】
また、本発明の放熱複合部材によれば、支持基体が窒化珪素または窒化アルミニウムを主成分とするセラミックスからなるときには、熱伝導率が高いので、放熱特性を高くすることができる。
【0043】
また、本発明の放熱複合部材によれば、第1金属層の端面の少なくとも一部は、回路部材または放熱部材の各端面より外側に位置しているときには、熱履歴が支持基体に加わっても、回路部材および放熱部材と支持基体との間の熱膨張係数の差によって発生する熱応力が第1金属層に分散しやすくなるため、支持基体にクラックが発生しにくくなり、信頼性を高くすることができる。
【0044】
また、本発明の放熱複合部材によれば、支持基体の第1主面の長辺に対する反りが0.3%以下であって、この反りは放熱部材が設けられている側である第2主面側に凸状であるときには、放熱部材の第2主面側に熱をさらに拡散させるためのヒートシンクを取り付けた場合に、このヒートシンクとの接触面積が増加して、熱がヒートシンクに逃げやすくなることから、より放熱特性を高くすることができる。
【0045】
また、本発明の電子装置によれば、本発明の放熱複合部材における回路部材の上に電子部品を搭載したことから、電子装置が動作しているときでも、電子部品に蓄熱することがほとんどなくなるので、好適な電子装置とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の炭素−金属複合体の実施の形態の一例を示す斜視図である。
【図2】本発明の炭素−金属複合体の実施の形態の他の例を示す斜視図である。
【図3】本発明の炭素−金属複合体の実施の形態の他の例を示す斜視図である。
【図4】本発明の炭素−金属複合体の実施の形態の他の例を示す斜視図である。
【図5】本発明の炭素−金属複合体の実施の形態の他の例を示す斜視図である。
【図6】本発明の炭素−金属複合体の実施の形態の他の例を示す斜視図である。
【図7】本発明の炭素−金属複合体の実施の形態の他の例を示す斜視図である。
【図8】本発明の放熱複合部材の実施の形態の一例を示す、(a)は平面図であり、(b)は(a)のA−A’線での断面図であり、(c)は底面図である。
【図9】本発明の放熱複合部材の実施の形態の他の例を示す、(a)は平面図であり、(b)は(a)のB−B’線での断面図であり、(c)は底面図である。
【図10】本発明の放熱複合部材の実施の形態の他の例を示す、(a)は平面図であり、(b)は(a)のC−C’線での断面図であり、(c)は(b)のD部拡大図であり、(d)は底面図である。
【図11】本発明の放熱複合部材の実施の形態の他の例を示す、(a)は平面図であり、(b)は(a)のE−E’線での断面図であり、(c)は(b)のF部拡大図であり、(d)は底面図である。
【図12】本発明の放熱複合部材の実施の形態の他の例を示す、(a)は平面図であり、(b)は(a)のG−G’線での断面図であり、(c)は(b)のH部拡大図であり、(d)は底面図である。
【図13】本発明の放熱複合部材の実施の形態の他の例を示す、(a)は平面図であり、(b)は(a)のJ−J’線での断面図であり、(c)は(b)のK部拡大図であり、(d)は底面図である。
【図14】本発明の放熱複合部材の反りを模式的に示す側面図である。
【図15】本発明の電子装置の実施の形態の一例を示す、(a)は平面図であり、(b)は(a)のL−L’線での断面図であり、(c)は底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明の炭素−金属複合体,回路部材,放熱部材,放熱複合部材および電子装置の実施の形態の例について説明する。
【0048】
図1は、本発明の炭素−金属複合体の実施の形態の一例を示す斜視図である。
【0049】
本発明の炭素−金属複合体1は、炭素を主成分とする緻密質な基材2の上に、銅またはアルミニウムを主成分とする伝熱層3が形成されていることが重要であり、例えば図1に示すように、基材2は直方体状であり、基材2の一方の主面に伝熱層3が形成されている。また、緻密質な基材2とは、相対密度が90%以上99%以下の基材2をいうものである。相対密度とは、かさ密度を理論密度で除した値を%で表したものであり、かさ密度はJIS R 1634−1998に準拠して求めればよい。
【0050】
そして、本発明の炭素−金属複合体1は、炭素を主成分とする緻密質な基材2の上に、銅またはアルミニウムを主成分とする伝熱層3が形成されていることから、伝熱層3は断続する部分が少ないので、一方の主面側から他方の主面側へ効率よく熱を逃がすことができる。このような炭素−金属複合体1の厚み方向における熱伝導率は、例えば240W/(m・K)以上である。
【0051】
特に、炭素−金属複合体1の厚みtが1mm以上5mm以下であり、伝熱層3の厚みtが100μm以上400μm以下であって、厚みの比率t/tが2.5以上50以下であることが好適である。
【0052】
なお、基材2および伝熱層3における主成分とは、基材2または伝熱層3のそれぞれを構成する成分100質量%に対して、50質量%以上を占める成分をいい、特に70質量%以上であることが好適である。主成分の比率は、基材2の主成分である炭素の場合には、赤外吸収法により、また、伝熱層3の主成分である銅またはアルミニウムの場合には、蛍光X線分析法またはICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合プラズマ)発光分析法により、それぞれ求めることができる。
【0053】
図2〜図7は、それぞれ本発明の炭素−金属複合体の実施の形態の他の例を示す斜視図である。
【0054】
図2に示す例の本発明の炭素−金属複合体1は、基材2の両主面に伝熱層3(3a,3b)が形成されている。このような構成にすることにより、炭素−金属複合体1の厚み方向で電流が流れやすくなり、内部における発熱を低減させ、電力損失を減少させることができる。
【0055】
特に、炭素−金属複合体1の厚みtが1mm以上5mm以下であり、伝熱層3a,3bの厚みt3a,t3bがいずれも100μm以上400μm以下であり、厚みの比率t/t3a,t/t3bがいずれも2.5以上50以下であることが好適である。
【0056】
また、本発明の炭素−金属複合体1において、基材2に銅またはアルミニウムが含浸されていることが好適である。緻密質であるため基材2に空隙は少ないものの、基材2の空隙に銅またはアルミニウムが含浸されていれば、一方の主面側から他方の主面側へより効率よく熱を逃がすことができるとともに、銅およびアルミニウムはいずれも炭素より体積固有抵抗が低いので、内部における発熱を低減させることができ、電力損失を減少させることができる。
【0057】
また、本発明の炭素−金属複合体1は、基材2が等方性黒鉛であることが好適である。基材2が等方性黒鉛であるときには、異方性黒鉛である場合より放熱の方向は特定方向に偏りにくいので、さらに効率よく熱を分散させて逃がすことができる。
【0058】
ここで、等方性黒鉛とは、BAF値(Bacon Anisotropy Factor:結晶の異方性係数)が1.1以下である黒鉛をいう。なお、BAF値はX線回折法により求められ、例えばミラー指数が(002)で示されるX線回折の強度(I)と基材2のC軸方向が表面に垂直な方法からずれる角度(φ)との関係である配向関数I(φ)を求め、以下の式(1)により算出される値である。このBAF値は、数値が小さいほど異方性が小さく、数値が大きいほど異方性が大きいことを表わす。
BAF=2∫I(φ)cosφsinφdφ/∫I(φ)sinφdφ・・・(1)
さらに、ミラー指数が(002)の面間隔が0.34nm以下であることがより好適で、この面間隔についてもX線回折法により求めることができる。
【0059】
次に、図3に示す例の本発明の炭素−金属複合体1は、基材2の上に、クロム,鉄,コバルトまたはニッケルを主成分とする中間層4を介して、伝熱層3が形成されている。このような構成にすることにより、基材2に対する伝熱層3の密着性がよくなり、さらに効率よく熱を逃がすことができる。この理由は明らかではないが、中間層4を介して、伝熱層3が形成されていると、基材2側で炭素とクロム,鉄,コバルトまたはニッケルとが化合して炭化物を形成し、伝熱層3側でクロム,鉄,コバルトまたはニッケルと銅またはアルミニウムとが固溶体を形成しているため、基材2と中間層4および中間層4と伝熱層3の密着性がよくなっていると推定される。
【0060】
そして、炭素−金属複合体1の厚みtが1mm以上5mm以下に対し、例えば中間層4の厚みtは0.5μm以上5μm以下であり、伝熱層3の厚みtは100μm以上400μm以下である。
【0061】
次に、図4に示す例の本発明の炭素−金属複合体1は、基材2の表面の端部に傾斜面2a,2b,2c,2dを有している。基材2の表面の端部に傾斜面2a,2b,2c,2dを有しているときには、複数の本発明の炭素−金属複合体1を得るために短冊状等に作製した後、隣り合う炭素−金属複合体1の傾斜面同士によって形成された溝を切断することにより、容易に本発明の炭素−金属複合体1を得ることができるので、生産効率を高くすることができる。基材2の表面に対する傾斜面2a,2b,2c,2dのそれぞれの角度θ2a,θ2b,θ2c,θ2dは、いずれも45°以上80°以下であることが好適である。なお、基材2は、上側の表面の両端のみに傾斜面2a,2bを備えていてもよい。
【0062】
次に、図5に示す例の本発明の炭素−金属複合体1は、基材2の表面の端部が段状に形成されている。このように、段部2e,2f,2g,2hを有し、基材2の表面の端部が段状に形成されているときには、複数の本発明の炭素−金属複合体1を得るために短冊状等に作製した後、炭素−金属複合体1の厚みよりも薄い段状の部分を切断することにより、容易に本発明の炭素−金属複合体1を得ることができるので、生産効率を高くすることができる。炭素−金属複合体1の厚みtに対する段差h2e,h2f,h2g,h2hの比h2e/t,h2f/t,h2g/t,h2h/tは、いずれも0.1以上0.3以下であることが好適である。
【0063】
また、基材2の表面の端部に傾斜面を有していたり、基材2の表面の端部が段状に形成されていたりする炭素−金属複合体1であることによって、これを用いた回路部材や放熱部材を設けてなる放熱複合部材において、回路部材や放熱部材を配置する支持基体側の側面に拘束されない箇所があるので、側面に残る応力が緩和され、熱履歴が支持基体に加わっても支持基体にクラックが発生し難くなるとともに、回路部材や放熱部材は支持基体から剥離しにくくなるため、放熱複合部材の信頼性を高めることができる。
【0064】
次に、図6および図7に示す例の本発明の炭素−金属複合体1は、それぞれ図4および図5に示す例の基材2の側面に、クロム,鉄,コバルトおよびニッケルのいずれか1種を主成分とする被覆層5が形成されていることが好適である。このような被覆層5が形成されているときには、炭素−金属複合体1を用いた回路部材の上に電子部品を搭載して、この電子部品が発熱を繰り返したとしても、伝熱層3a,3bはその端部で被覆層5に拘束されているので、剥離しにくくなるとともに、空気中の水分が基材2の側面から浸入しにくくなるので、短絡のおそれが減少する。なお、基材2の側面とは、伝熱層3を形成する基材2の主面以外の面をいい、側面2i,2jのみならず、傾斜面2a,2b,2c,2dおよび段部2e,2f,2g,2hをも含む。
【0065】
また、本発明の炭素−金属複合体1は、クロム,鉄,コバルトおよびニッケルのいずれか1種を主成分とする被覆層5に代えて、基材2の側面に、銀および銅のいずれか1種以上を主成分とし、チタン,ジルコニウム,ハフニウムおよびニオブから選ばれる1種以上を含有する被覆層5が形成されていてもよい。このような被覆層5が形成されているときにも、炭素−金属複合体1を用いた回路部材の上に電子部品を搭載して、この電子部品が発熱を繰り返したとしても、伝熱層3a,3bはその端部で被覆層5に拘束されているので、剥離しにくくなるとともに、空気中の水分が基材2の側面から浸入しにくくなるので、短絡のおそれが減少する。
【0066】
この被覆層5は、例えば、チタン,ジルコニウム,ハフニウムおよびニオブから選ばれる1種以上が1質量%以上5質量%以下であり、銅が15質量%以上25質量%以下で、残部が銀からなり、その厚みは10μm以上30μm以下であることが好適である。
【0067】
ところで、図1〜図7に示す本発明の炭素−金属複合体1は、伝熱層3が無酸素銅,タフピッチ銅およびりん脱酸銅のうちのいずれかからなることが好ましい。特に、銅の含有率が高いほど電気抵抗が低く、熱伝導率が高いため、銅の含有率が99.995質量%以上の無酸素銅である線形結晶無酸素銅,単結晶状高純度無酸素銅および真空溶解銅のうちのいずれかであることが好ましい。このため、銅の含有率が99.995質量%以上の線形結晶無酸素銅、単結晶状高純度無酸素銅および真空溶解銅のうちのいずれかからなる伝熱層3が形成された炭素−金属複合体1を用いた回路部材の上に電子部品を搭載して、この電子部品が発熱を繰り返したとしても、炭素−金属複合体1は放熱特性に優れるため、電力損失を少なくすることができる。また、銅の含有率が高いほど、降伏応力が低く、高温下で塑性変形しやすくなるため、炭素−金属複合体1を用いた回路部材または放熱部材等の各種部材を接合する場合に、その接合強度が高くなり、より高い信頼性を確保することができる。
【0068】
また、本発明の回路部材は、上述したような本発明の炭素−金属複合体1を用いることが好適である。このような回路部材とは、炭素−金属複合体1に予めプレス加工,エッチング加工およびワイヤー加工といった方法によってパターニングして形成された回路を備えた部材である。本発明の炭素−金属複合体1を用いた回路部材の上に電子部品等の発熱する部品を搭載し、これらの部品が発熱を繰り返したとしても、効率よく熱を逃がすことができるので、電子部品等の発熱する部品の寿命を延ばすことができる。
【0069】
また、本発明の放熱部材は、上述したような本発明の炭素−金属複合体1を用いることが好適である。このような放熱部材とは、熱を発する部品に直接的または間接的に接合され、発熱する部品からの放熱を促進する部材である。熱を発する電子部品等の部品が回路部材を介して本発明の炭素−金属複合体1を用いた放熱部材に搭載されている場合には、効率よく熱を逃がすことができるので、電子部品等の発熱する部品の寿命を延ばすことができる。
【0070】
図8は、本発明の放熱複合部材の実施の形態の一例を示す、(a)は平面図であり、(b)は(a)のA−A’線での断面図であり、(c)は底面図である。
【0071】
図8に示す例の本発明の放熱複合部材6は、絶縁性の支持基体7の第1主面側に本発明の炭素−金属複合体1を用いた回路部材8aを、第1主面に対向する第2主面側に放熱部材9bをそれぞれ設けてなるものである。ここで、放熱部材9bは、銅を炭化珪素に含浸した複合体,銅−ダイヤモンド焼結体,銅に炭素を含浸した複合体,銅−モリブデン合金,銅−タングステン合金,銅および銅合金のうちのいずれかからなることが好適である。特に、放熱部材9bは、銅が主成分である場合、銅を99.96質量%以上含有することがさらに好適である。
【0072】
図9は、本発明の放熱複合部材の実施の形態の他の例を示す、(a)は平面図であり、(b)は(a)のB−B’線での断面図であり、(c)は底面図である。
【0073】
図9に示す例の本発明の放熱複合部材6は、絶縁性の支持基体7の第1主面側に回路部材8bを、第1主面に対向する第2主面側に本発明の放熱部材9aをそれぞれ設けてなるものである。ここで、回路部材8bは、銅もしくはその合金またはアルミニウムもしくはその合金のうちのいずれかからなることが好適で、特に、銅またはアルミニウムを99.96質量%以上含有することがさらに好適である。
【0074】
回路部材8bおよび放熱部材9bが、上述したいずれかの熱伝導率の高い材料を用いれば、回路部材8b上に搭載した半導体素子等の電子部品(図示しない)からの熱が直ぐに広がることから、放熱複合部材6の放熱特性を高くすることができる。
【0075】
また、回路部材8a,8bおよび放熱部材9a,9bの各体積固有抵抗は、5×10―8Ω・m以下、特に3×10―8Ω・m以下であることが望ましい。
【0076】
特に、本発明の放熱複合部材6は、本発明の炭素−金属複合体1を用いた回路部材8aおよび本発明の炭素−金属複合体1を用いた放熱部材9aを設けてなることが好適である。このようにすると、絶縁性の支持基体7の熱膨張係数と炭素−金属複合体1を形成する炭素との熱膨張係数とが近似しているため、支持基体7と回路部材8aおよび放熱部材9aとの接合工程で発生する残留応力を抑制することができることから、放熱複合部材6の信頼性を向上させることができる。
【0077】
本発明の放熱複合部材6を構成する支持基体7は直方体状であり、例えば、長さ(図8〜図14に示すX方向)が30mm以上80mm以下であり、幅(図8〜図14に示すY方向)が10mm以上80mm以下である。支持基体7の厚みは用途によって異なるが、耐久性および絶縁耐圧が高く、熱抵抗が抑制されたものにするには、0.2mm以上1.0mm以下とすることが好適である。回路部材8a,8bは、例えば、長さが5mm以上60mm以下であり、幅が5mm以上60mm以下である。厚みは、回路部材8a,8bを流れる電流の大きさや回路部材8a,8bに搭載される電子部品の発熱量等によって決められ、例えば0.5mm以上5mm以下である。放熱部材9a,9bは、例えば長さが5mm以上120mm以下であり、幅が5mm以上100mm以下である。放熱部材9a,9bの厚みは0.5mm以上5mm以下であるが、必要とされる放熱特性により異なる。
【0078】
また、本発明の放熱複合部材6においては、図10に示す例の本発明の回路部材8a、図11に示す例の本発明の放熱部材9aは、図10(c)および図11(c)に示すように、支持基体7側より第1金属層10および第2金属層11が順次接合されてなり、第1金属層10は、主成分が銀および銅の少なくともいずれか1種であって、チタン,ジルコニウム,ハフニウムおよびニオブから選ばれる1種以上を含有し、第2金属層11は、主成分が金,銀,銅,ニッケル,コバルトおよびアルミニウムから選ばれる1種以上を含有することが好適である。
【0079】
このような構成にすると、支持基体7と本発明の回路部材8aまたは本発明の放熱部材9aとを接合する場合に、第2金属層11の両主面を50℃以上100℃以下の低温で強固に接合することができる。その結果、この接合に伴って支持基体7にかかる残留応力は高温で接合する場合よりも小さくなるため、支持基体7に生じる反りを小さくすることができる。さらに、低温での接合ができることにより、回路部材8aおよび放熱部材9aをともにより厚くすることができるので、電子部品等から発生した熱をさらに拡散させるためのヒートシンクを取り付けなくても済む。
【0080】
また、第2金属層11は、ニッケルを主成分とすることが好適であり、ニッケルを90質量%以上、特に99質量%以上とすることがさらに好適である。第2金属層11にニッケルが多く含まれるほど電気抵抗が低く、熱伝導率が高くなるため、放熱複合部材6に電子部品を搭載して電子部品を作動させても、放熱複合部材6は放熱特性に優れるため、電力損失を少なくすることができる。また、ニッケルが多く含まれるほど、緻密な層が形成されるとともに、第2金属層11と、回路部材8a,放熱部材9aおよび第1金属層10との間に気孔等の空隙が発生しにくくなって、より信頼性が高くなる。また、第2金属層11がニッケルを主成分とすれば、第1金属層10の主成分である銀や銅との密着性が高いので好適である。
【0081】
ここで、第1金属層10は、例えば、X方向およびY方向のそれぞれの長さが2mm以上76mm以下であって、厚みが10μm以上60μm以下である。また、第2金属層11は、第1金属層10と略同じ大きさにすればよい。
【0082】
また、本発明の放熱複合部材6において、第1金属層10は、モリブデン,タンタル,オスミウム,レニウムおよびタングステンから選ばれる少なくとも1種を含有することが好適である。第1金属層10を形成するためのペーストに、融点の高い金属であるモリブデン,タンタル,オスミウム,レニウムおよびタングステンから選ばれる少なくとも1種を含有させることにより、ペーストの融点が高くなり、その粘度が増して、支持基体7上で広がりにくくなり、第1金属層10の形状を比較的精度よく整えることができるので、複数並べて回路部材8を配置する場合に、隣り合う回路部材8間で発生する短絡のおそれを低減することができる。
【0083】
また、本発明の放熱複合部材6において、第1金属層10がインジウム,亜鉛および錫から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。第1金属層を形成するためのペーストに、融点の低い金属であるインジウム,亜鉛および錫から選ばれる少なくとも1種を含有させることにより、融点が低くなることから第1金属層内の空隙を減らすことができるので、支持基体7と回路部材8および放熱部材9の少なくとも一方との接合強度を高くすることができる。
【0084】
本発明の放熱複合部材6を構成する絶縁性の支持基体7は、例えば、窒化珪素,酸化アルミニウム,窒化アルミニウム,酸化ジルコニウム,酸化ベリリウムのうちの少なくともいずれかを主成分とするセラミックス、または酸化アルミニウムと酸化ジルコニウムの化合物のセラミックスからなる。ここで、酸化アルミニウムと酸化ジルコニウムの化合物とは、酸化アルミニウムおよび酸化ジルコニウムの合計量に対して、酸化アルミニウムを20質量%以上80質量%以下含有したものである。
【0085】
そして、これらのセラミックスの中でも、支持基体7が窒化珪素または窒化アルミニウムを主成分とするセラミックスからなることが好適である。このようなセラミックスは焼結体または単結晶いずれでもよい。支持基体7が窒化珪素または窒化アルミニウムを主成分とするセラミックスからなると、両者とも熱伝導率がそれぞれ40W/(m・K)以上および150W/(m・K)以上と高い。このため、放熱特性および信頼性の高い放熱複合部材6とすることができる。支持基体7の主成分が窒化珪素である場合には、蛍光X線分析法またはICP発光分析法により珪素の比率を求め、窒化物に換算すれば窒化珪素の比率を求めることができる。また、支持基体7の主成分が窒化アルミニウムである場合には、上記の方法でアルミニウムの比率を求め、窒化物に換算すれば窒化アルミニウムの比率を求めることができる。
【0086】
特に、支持基体7が、窒化珪素を主成分とするセラミックスからなる場合は、窒化珪素は少なくとも80質量%以上含有していることが好適である。その他の添加成分として、酸化エルビウム,酸化マグネシウム,酸化珪素,酸化モリブデンおよび酸化アルミニウム等が含まれていてもよい。
【0087】
また、支持基体7の機械的特性は、3点曲げ強度が500MPa以上,ヤング率が300GPa以上,ビッカース硬度(Hv)が13GPa以上であり、さらに破壊靱性(K1C)が5MPam1/2以上であることが好ましい。これらにより、放熱複合部材6を構成した際に長期間の使用に供することができる。また、機械的特性が上述の範囲であることにより、信頼性を向上させることができ、特に耐クリープ性やヒートサイクルに対する耐久性を向上させることができる。
【0088】
なお、3点曲げ強度については、放熱複合部材6から第1金属層10,第2金属層11,回路部材8および放熱部材9をエッチングにより除去した後、JIS R 1601−2008(ISO 17565:2003(MOD))に準拠して測定すればよい。ただし、支持基体7の厚みが薄く、支持基体7より切り出した試験片の厚みを3mmとすることができない場合には、支持基体7の厚みをそのまま試験片の厚みとして評価するものとし、その結果が上記数値を満足することが好ましい。
【0089】
また、ヤング率についても、放熱複合部材6から第1金属層10,第2金属層11,回路部材8および放熱部材9をエッチングにより除去した後、JIS R 1602−1995で規定される超音波パルス法に準拠して測定すればよい。ただし、支持基体7の厚みが薄く、支持基体7より切り出した試験片の厚みを10mmとすることができないときには、支持基体7の厚みをそのまま試験片の厚みとして評価するものとし、その結果が上記数値を満足することが好ましい。
【0090】
ビッカース硬度(Hv)および破壊靱性(K1C)については、それぞれJIS R 1610−2003(ISO 14705:2000(MOD)),JIS R 1607−1995に規定される圧子圧入法(IF法)に準拠して測定すればよい。なお、支持基体7の厚みが薄く、支持基体7より切り出した試験片の厚みをそれぞれJIS R 1610−2003,JIS R 1607−1995 圧子圧入法(IF法)で規定する0.5mmおよび3mmとすることができないときには、支持基体7の厚みをそのまま試験片の厚みとして評価してその結果が上記数値を満足することが好適である。ただし、そのままの厚みで評価して上記数値を満足することができないほどに支持基体7の厚みが薄いときには、支持基体7の厚みに応じて押し込み荷重を変更し、その結果を基に0.5mmおよび3mmのときのビッカース硬度(Hv)および破壊靱性(K1C)をシミュレーションにより推定すればよい。
【0091】
また、支持基体7の電気的特性は、体積固有抵抗が常温で1012Ω・m以上であり、300℃で1010Ω・m以上であることが好ましい。支持基体7がこれらの電気的特性を有していることにより、回路部材8の上に搭載される電子部品の動作時に回路部材8側から放熱部材9側への電流のリークを抑制することができるため、電力損失を発生させないとともに、電子装置の誤動作を低減することができる。
【0092】
また、本発明の放熱複合部材6は、第1金属層10の端面の少なくとも一部は、回路部材8または放熱部材9の各端面より外側に位置していることが好適である。図12に示す例の本発明の放熱複合部材6では、回路部材8および放熱部材9の各端面より第1金属層10のX方向における端面が外側に位置している。このような構成の放熱複合部材6は、熱履歴が支持基体7に加わっても、回路部材8および放熱部材9と支持基体7との間の熱膨張係数の差により発生する熱応力が第1金属層10に分散しやすくなるので、支持基体7にクラックが発生しにくくなり、信頼性を高くすることができる。
【0093】
なお、図示しないが、第1金属層10のY方向における各端面がそれぞれ回路部材8および放熱部材9の各端面より外側に位置していてもよい。また、第1金属層10のX方向およびY方向における各端面がそれぞれ回路部材8および放熱部材9の各端面より外側に位置してもよい。
【0094】
また、本発明の放熱複合部材6は、図13に示すように、第1金属層10のX方向における各端面がそれぞれ回路部材8および放熱部材9の各端面より外側に位置し、回路部材8より放熱部材9を大きくしている。図13に示す例の放熱複合部材6は、熱履歴が支持基体7に加わっても、回路部材8および放熱部材9と支持基体7との間の熱膨張係数の差により発生する熱応力が第1金属層10に分散しやすくなるので、支持基体7にクラックが発生しにくくなり、信頼性を高くすることができる。さらに、回路部材8より放熱部材9を大きくしていることで、回路部材8の上に搭載する半導体素子等の電子部品で発生した熱を効率よく拡散することができる。
【0095】
また、本発明の放熱複合部材6は、支持基体7の第2主面の長辺に対する反りが0.3%以下であって、この反りは放熱部材9に向かって凸状であることが好適である。放熱部材9を設ける第2主面側に熱をさらに拡散させるためのヒートシンク(図示しない)を取り付けた場合は、このヒートシンクとの接触面積が増加して、熱がヒートシンクに逃げやすくなることから、より放熱特性を高くすることができる。ここで、反りとは、図14に示すように、支持基体7の第1主面の最も高い部分から低い部分との差Hのことであり、表面粗さ計またはレーザー変位計で測定することができる。
【0096】
次に、図15に示す例の本発明の電子装置Sは、本発明の放熱複合部材6の回路部材8の上に1つ以上の半導体素子等の電子部品21,22が搭載されたものであり、これらの電子部品21,22同士は導体(図示しない)により互いに電気的に接続されている。
【0097】
また、図15に示す例のように、回路部材8および放熱部材9が、平面視でそれぞれ複数行および複数列に区分配置されていることが好適である。このように、回路部材8および放熱部材9が平面視で複数行および複数列に区分配置されることで、同じ個数の回路部材8が1行または1列に区分配置された放熱複合部材6に比べて、支持基体7を平面視で正方形あるいは正方形に近い長方形にすることができるため、放熱複合部材6の反りは抑制されやすくなる。さらに、支持基体7を形成するセラミックスの熱膨張係数と炭素−金属複合体1を形成する炭素との熱膨張係数とが近似していることにより、支持基体7と回路部材8および放熱部材9との接合工程で発生する残留応力を抑制することができるので、放熱複合部材6の信頼性も向上させることができる。
【0098】
次に、本発明の炭素−金属複合体1の製造方法の一例について説明する。
【0099】
予め準備した緻密質な基材2の上に、例えば、電解めっき法,無電解めっき法等の液相成長法、蒸着等の化学的気相成長法またはフレーム溶射法,電気式溶射法等の溶射法等により、銅またはアルミニウムを主成分とし、厚みが100μm以上200μm以下、好ましくは120μm以上180μm以下の伝熱層3を形成することで、図1,2に示す例のような本発明の炭素−金属複合体1を得ることができる。
【0100】
なお、予め準備する基材2は、銅またはアルミニウムが含浸されていることが好適である。銅またはアルミニウムが含まれている基材2を得るには、まず、骨材として平均粒径が15〜25μmの炭素粉を、結合剤としてタールピッチまたはコールタール等を配合し、配合した原料を双腕型ニーダを用いて150〜300℃で加熱混練して杯土とする。次に、粉砕機を用いて、平均粒径が10〜300μmになるように杯土を粉砕して粉体とする。そして、乾式加圧法により粉砕して得られた粉体を成形型に充填して、加圧することによって成形体とする。このときの圧力は、例えば、50〜200MPaとする。その後の焼成は、窒素ガスまたは不活性ガスを用いた非酸化雰囲気中または成形体の周囲に炭素粉を詰めて還元雰囲気中で、温度を800〜1000℃とし、保持時間を5〜400時間として焼成して焼結体とする。さらに、1000℃以上の高温で黒鉛化を進めてもよい。
【0101】
次に、金属を含浸させるための容器に焼結体を入れ、容器内の圧力を1330Pa以下に減圧した後、銅またはアルミニウムの各溶湯中に焼結体を浸漬して、窒素ガスを用いて0.49〜0.98MPaに加圧して含浸することにより、銅またはアルミニウムが含浸されている基材2を得ることができる。また、基材2が等方性黒鉛からなるものであっても好適である。
【0102】
また、伝熱層3の形成方法は、特に限定されないが、めっき法による形成は伝熱層3の表面の平滑性および経済性の観点から好適である。電解めっき法または無電解めっき法のいずれでもよく、これらの技術を併用してもよい。
【0103】
さらに、伝熱層3の表面の平滑性を上げるため、基材2の表面をできるだけ平滑にしておくことが好適である。基材2の表面はJIS B 0601−2001(ISO 4287:1997(IDT))で規定される算術平均高さRaを予め50μm以下にしておくことが好ましい。
【0104】
また、銅層3を形成する前に、例えば、電解めっき法または無電解めっき法等の液相成長法により、基材2の上にクロム,鉄,コバルトまたはニッケルを主成分とする中間層4を形成しておいてもよい。中間層4の厚みは0.5μm以上5μm以下であることが好適である。
【0105】
上述した伝熱層3または中間層4の形成に用いる液相成長法の一例を以下に示す。
【0106】
まず、前処理として、基材2を有機溶媒による超音波洗浄,酸による洗浄および水洗を順次行なって、付着している塵埃を除去する。
【0107】
無電解めっき法を用いる場合は、上述した前処理の後、伝熱層3または中間層4を形成するための核となる微細な粒子を基材2の表面に生成させるための処理(例えば、基材2に触媒であるパラジウムを付着させる処理。)を行なう。この処理を実施した後、基材2を水洗する。その後、所定の金属塩と還元剤とを含むめっき液に浸漬することで、炭素−金属複合体1を得ることができる。無電解めっき法を用いると、基材2内の気孔を通ってめっき液が基材2の内部にまで浸入するので、高いアンカー効果が得られ、伝熱層3または中間層4は剥がれにくくなる。
【0108】
電解めっき法を用いる場合は、上述した前処理の後、所定の金属塩を含んだ電解溶液中で基材2に通電し、基材2の表面に伝熱層3または中間層4を形成すればよい。電解めっき法を用いると、伝熱層3または中間層4への薬剤の混入が少ないため、無電解めっき法で得られる伝熱層3または中間層4よりも靱性の高い層とすることができる。
【0109】
なお、伝熱層3または中間層4の表面粗さが大きい場合には、表面の平滑性を上げるために、研磨等の加工を施してもよい。伝熱層3または中間層4の表面のJIS B 0601−2001(ISO 4287:1997(IDT))で規定される算術平均高さRaは、いずれも100nm以下とすることが好ましい。
【0110】
次に、本発明の炭素−金属複合体1の製造方法の他の例について説明する。
【0111】
まず、短冊状の基材に上述したような製造方法で、伝熱層3および必要に応じて中間層4を形成する。次いで、短冊状の基材の表面に正面視したときの形状が三角形状または矩形状の溝を所定の間隔で形成する。これら各溝に沿って切断することにより、図4または図5に示す本発明の炭素−金属複合体1を得ることができる。
【0112】
ここで、図6または図7に示す本発明の炭素−金属複合体1を得るには、短冊状の基材を各溝に沿って切断した後、側面2i,2j、傾斜面2a,2b,2c,2dおよび段部2e,2f,2g,2h等を含む側面にチタン,ジルコニウム,ハフニウムおよびニオブから選ばれる1種以上を含有する銀(Ag)−銅(Cu)系合金のペーストを、スクリーン印刷法,ロールコーター法および刷毛塗り法等のうちのいずれかで塗布すればよい。このペーストを塗布した後、800℃以上900℃以下で熱処理することで、被覆層5が形成された図6または図7に示す本発明の炭素−金属複合体1を得ることができる。
【0113】
次に、本発明の放熱複合部材6の製造方法の一例について説明する。
【0114】
図8に示す例の本発明の放熱複合部材6を得るには、まず、X方向の長さが30mm以上80mm以下であり、Y方向の長さが10mm以上80mm以下であり、厚みが0.2mm以上1.0mm以下であり、窒化珪素,酸化アルミニウム,窒化アルミニウム,酸化ジルコニウム,酸化ベリリウムのうちの少なくともいずれかを主成分とするセラミックス、または酸化アルミニウムと酸化ジルコニウムの化合物からなるセラミックスからなる絶縁性の支持基体7を準備する。次いで、この支持基体7の第1主面側に本発明の炭素−金属複合体1を用いた回路部材8aを配置する。また、第2主面側に銅,銅合金,銅を炭化珪素に含浸した複合体,銅−ダイヤモンド焼結体,銅に炭素を含浸した複合体,銅−モリブデン合金および銅−タングステン合金のいずれかからなる放熱部材9bを配置する。そして、250℃以上700℃以下で熱処理することにより、回路部材8aおよび放熱部材9bは支持基体7に直接接合され、図8に示す本発明の放熱複合部材6を得ることができる。
【0115】
図9に示す例の本発明の放熱複合部材6を得るには、まず、上述した大きさおよび材質からなる支持基体7を準備する。次いで、この支持基体7の第1主面側に銅もしくはその合金またはアルミニウムもしくはその合金のいずれかからなる回路部材8bを配置する。また、第2主面側に本発明の炭素−金属複合体1を用いた放熱部材9aを配置する。そして、250℃以上700℃以下で熱処理することにより、回路部材8bおよび放熱部材9aは支持基体7に直接接合され、図9に示す本発明の放熱複合部材6を得ることができる。
【0116】
なお、支持基体7の第一主面側に本発明の炭素−金属複合体1を用いた回路部材8aを配置し、第2主面側に本発明の炭素−金属複合体1を用いた放熱部材9aを配置し、250℃以上700℃以下で熱処理することにより、本発明の回路部材8aおよび放熱部材9aをそれぞれ設けてなる本発明の放熱複合部材6が得られることはいうまでもない。
【0117】
また、図10,11に示す例の本発明の放熱複合部材6を得るには、まず、上述した大きさおよび成分からなる支持基体7を準備する。次いで、この支持基体7の両主面上に、チタン,ジルコニウム,ハフニウムおよびニオブから選ばれる1種以上を含有する銀(Ag)−銅(Cu)系合金のペーストを、スクリーン印刷法,ロールコーター法および刷毛塗り法等のいずれかで塗布する。その後、800℃以上900℃以下で加熱して、第1金属層10を形成する。
【0118】
なお、第1金属層10がモリブデンを含有する場合には、チタン,ジルコニウム,ハフニウムおよびニオブから選ばれる1種以上と、モリブデン,タンタル,オスミウム,レニウムおよびタングステンから選ばれる少なくとも1種とを含有する銀(Ag)−銅(Cu)合金のペーストを、上述した方法のいずれかで塗布した後、800℃以上900℃以下で加熱して、第1金属層10を形成すればよい。
【0119】
次に、第1金属層10上に、スパッタリング法、真空蒸着法および無電解めっき法から選ばれるいずれかの方法により、主成分が金,銀,銅,ニッケル,コバルトおよびアルミニウムから選ばれる1種以上を含有する第2金属層11を形成する。
【0120】
そして、支持基体7の第1主面側に回路部材8aを、第2主面側に放熱部材9bをそれぞれ配置し、50℃以上100℃以下で熱処理することで、図10に示す本発明の放熱複合部材6を得ることができる。
【0121】
また、支持基体7の第1主面側に回路部材8bを、第2主面側に放熱部材9aをそれぞれ配置し、50℃以上100℃以下で熱処理することで、図11に示す例の本発明の放熱複合部材6を得ることができる。
【0122】
このような熱処理に伴って、発生した熱応力は第2金属層11で吸収されて小さくなるため、回路部材8および放熱部材9をともにより厚くすることができる。回路部材8および放熱部材9を厚くした放熱複合部材6は、放熱特性を高くすることができ、場合によってはヒートシンクを取り付けなくても済む。
【0123】
ここで、第1金属層10および第2金属層11の間に反応層が実質的に存在しないようにするには、第2金属層11を形成する金属は、純度が99.9質量%以上である金属を用いればよい。
【0124】
なお、図12,13に示す例の本発明の放熱複合部材6を得るには、支持基体7の両主面上に、チタン,ジルコニウム,ハフニウムおよびニオブから選ばれる1種以上を含有する銀(Ag)−銅(Cu)合金のペーストを、上述した方法のいずれかで塗布し、第1金属層10の端面の少なくとも一部が回路部材8または放熱部材9の各端面より外側に位置するようにすればよい。
【0125】
また、図14に示す例の本発明の放熱複合部材6を得るには、上述した方法で第1金属層10および第2金属層11を形成した後、回路部材8および放熱部材9を、平面視でそれぞれ複数行および複数列に区分配置して、50℃以上100℃以下で熱処理すればよい。
【0126】
また、本発明の電子装置は、図15に示す例の電子装置Sのように、放熱特性の高い放熱複合部材6における回路部材8の上に電子部品21,22を搭載したことから、放熱特性の高い電子装置Sとすることができる。
【0127】
以上、本発明の放熱複合部材6は、上述の通り放熱特性が高いため、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)素子,金属酸化膜形電界効果トランジスタ(MOSFET)素子,発光ダイオード(LED)素子,フリーホイーリングダイオード(FWD)素子,ジャイアントトランジスタ(GTR)素子等の半導体素子,昇華型サーマルプリンタヘッド素子およびサーマルインクジェットプリンタヘッド素子等の各種電子部品で発生した熱を長期間に亘って放熱効率をほとんど低下させずに良好に放熱させながら用いることができる。
【0128】
以下、本発明の実施例を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0129】
まず、炭素が99質量%含まれ、相対密度が表1に示される値で、X方向およびY方向の長さがともに30mmであり、Z方向の長さが2mmである基材2を準備した。
【0130】
なお、表1に示される基材2の相対密度は、かさ密度を炭素の理論密度(2.26kg/m)で除した値を%で表したものであり、かさ密度についてはJIS R 1634−1998に準拠して求めた。
【0131】
次に、図2に示す例のように、基材2の両主面に厚みt3a,t3bがいずれも250μmであり、表1に示す元素を主成分とする伝熱層3(3a,3b)をめっき法により形成して、炭素−金属複合体である試料No.1〜26を得た。ここで、伝熱層3の各主成分は、伝熱層3を構成する元素100質量%に対して、いずれも99質量%とした。
【0132】
なお、試料No.1〜4,6,7,9,10,12,13,15,16,18,19,21,22,24,25は、等方性黒鉛からなる基材2を、試料No.5,8,11,14,17,20,23,26は、異方性黒鉛からなる基材2を用いた。また、試料No.4,7,10,13,16,19,22,25は、表1に示す元素の成分を予め含ませた基材2を用いた。
【0133】
そして、光学顕微鏡を用いて倍率を50倍として各試料を構成する伝熱層3aの表面を観察し、伝熱層3aが断続する部分が観察された試料に×、観察されなかった試料に○と表1に示した。
【0134】
また、各試料のX方向およびZ方向における各熱拡散率α,αをレーザフラッシュによる2次元法により熱定数測定装置(アルバック理工(株)製、TC−7000)を用いて、各試料の比熱容量Cを示唆走査熱量法(DSC法)により超高感度型示差走査熱量計(セイコーインスツルメンツ(株)製、DSC−6200)を用いて、また、各試料のかさ密度ρ(kg/m)をJIS R 1634−1998に準拠してそれぞれ測定した。そして、これらの方法によって求められた値を以下の式(2),(3)に代入して、各試料のX方向およびZ方向における各熱伝導率κ(W/(m・K)),κ(W/(m・K))をそれぞれ算出し、その値を表1に示した。
κ=α・C・ρ・・・(2)
κ=α・C・ρ・・・(3)
また、各試料の体積固有抵抗を2端子法により測定し、その測定値を表1に示した。
【0135】
【表1】

【0136】
表1に示す通り、本発明の範囲外である試料No.1,2は、基材2の相対密度が89%であり緻密質ではなかったために、伝熱層3aには断続する部分が観察されており、熱伝導率κが低く、体積固有抵抗値が大きかった。一方、本発明の試料No.3〜26は、基材2が緻密質であったために、伝熱層3aには断続する部分は観察されず、試料No.1,2よりも熱伝導率κが高く、体積固有抵抗値が小さかった。
【0137】
また、基材2が等方性黒鉛からなり、その相対密度が93%であって、伝熱層3の主成分がアルミニウムである試料No.3,4を比べると、試料No.4はアルミニウムが基材2に含まれていることから、熱伝導率が高くなっている。これは、基材2の主成分である炭素より熱伝導率の高いアルミニウムが含まれているからであり、アルミニウムが基材2に含まれていない試料No.3より一方の主面側から他方の主面側へより効率よく熱を逃がすことができるといえる。このことは、試料No.6,7、試料No.9,10、試料No.12,13、試料No.15,16、試料No.18,19、試料No.21,22、試料No.24,25についても同様である。
【0138】
また、基材2の相対密度が93%であって、伝熱層3の主成分がアルミニウムである試料No.3,5を比べると、試料No.3は等方性黒鉛からなる基材2を用いていることから、異方性黒鉛からなる基材2を用いた試料No.5より、熱伝導率κと熱伝導率κとの差Δκの差が小さく、放熱の方向は特定方向に偏りにくく分散されるので、さらに効率よく熱を逃がすことができるといえる。このことは、試料No.6,8、試料No.9,11、試料No.12,14、試料No.15,17、試料No.18,20、試料No.21,23、試料No.24,26についても同様である。
【実施例2】
【0139】
次に、炭素が99質量%含まれ、相対密度が93%であって、X方向およびY方向の長さがともに30mmであり、Z方向の長さが2mmである等方性黒鉛からなる基材2を準備した。なお、基材2の相対密度は、実施例1に示した方法と同じ方法で求めた。
【0140】
そして、基材2の一方の主面に、表2に示す主成分であり、厚みtが250μmである伝熱層3を形成して、試料No.27および32の本発明の炭素−金属複合体1を得た。また、基材2の一方の主面に、厚みtが3μmであり、表2に示す主成分の中間層4を電解めっき法により形成した後、この中間層4を介して、厚みtが250μmであり表2に示す主成分の伝熱層3を形成して、本発明の炭素−金属複合体1である試料No.28〜31および33〜36を得た。
【0141】
その後、基材2に対する伝熱層3の密着性を評価するため、エッチングすることによって伝熱層3のY方向の長さを30mmから10mmに狭くした後、伝熱層3の引きはがし強さをJIS C 6481−1996に準拠して測定し、測定値を表2に示した。
【0142】
【表2】

【0143】
表2に示す通り、試料No.28〜31,33〜36はクロム,鉄,コバルトまたはニッケルを主成分とする中間層4を介して、伝熱層3が形成されていることから、中間層4がない試料No.27,32よりも伝熱層3の引きはがし強さが大きく、基材2に対する伝熱層3の密着性が高いことがわかった。
【実施例3】
【0144】
次に、炭素が99質量%含まれ、相対密度が93%であって、X方向,Y方向およびZ方向の各長さが120mm,30mmおよび2mmである等方性黒鉛からなる短冊状の基材2を準備した。基材2の相対密度は、実施例1に示した方法と同じ方法で求めた。
【0145】
次に、基材2の両主面に、厚みt3a,t3bがいずれも250μmであって、表3に示す主成分の伝熱層3a,3bをめっき法により形成した後、短冊状の基材2の表面に正面視したときの形状が三角形状である溝をX方向に30mmの間隔で形成した。なお、伝熱層3の各主成分は、伝熱層3を構成する元素100質量%に対していずれも99質量%とし、傾斜面2a,2b,2c,2dの各角度θ2a,θ2b,θ2c,θ2dはいずれも70°とした。
【0146】
そして、被覆層5は、厚みが10μmであり、表3に示す成分となるペーストを用いてスクリーン印刷法により各傾斜面2a,2b,2c,2dを含む側面に塗布した後、850℃で熱処理することによって、試料No.38〜56および58〜76の本発明の炭素−金属複合体1を得た。また、被覆層5を形成しない試料No.37および57の本発明の炭素−金属複合体1を準備した。
【0147】
そして、これらの炭素−金属複合体1を温度110℃で60分保持してから、放冷し、そのときの質量Wを測定した。その後、炭素−金属複合体1を水に浸漬し、周波数が28kHzの超音波を3分間当ててから取り出し、温度60℃で30分保持してから、放冷し、そのときの質量Wを測定した。そして、以下の式(4)で示される質量増加率ΔW(%)を算出し、その値を表3に示した。
ΔW=(W−W)/W×100・・・(4)
【0148】
【表3】

【0149】
表3に示す通り、試料No.38〜41,58〜61は、クロム,鉄,コバルトおよびニッケルのいずれか1種を主成分とする被覆層5が、また、試料No.42〜56,62〜76は、銀および銅のいずれか1種以上を主成分とし、チタン,ジルコニウム,ハフニウムおよびニオブから選ばれる1種以上を含有する被覆層5が形成されていることから、被覆層5が形成されていない試料No.37,57よりも質量増加率ΔW(%)が低く、空気中の水分の基材2の側面からの浸入が少なく、伝熱層3が被覆層5によって拘束されているので、剥離しにくくなり、空気中の水分が基材2の側面から浸入しにくくなるので、短絡のおそれを少なくできることがわかった。
【実施例4】
【0150】
次に、炭素が99質量%含まれ、相対密度が93%であって、X方向およびY方向の長さがともに30mmであり、Z方向の長さが2mmである等方性黒鉛からなる基材2を準備した。基材2の相対密度は、実施例1に示した方法と同じ方法で求めた。
【0151】
そして、基材2の両主面に、厚みt3a,t3bがいずれも250μmであって、表4に示す主成分の伝熱層3(3a、3b)をめっき法により形成して、本発明の炭素−金属複合体1を得た。
【0152】
次に、窒化珪素を主成分とし、X方向およびY方向の長さがともに32mmであり、Z方向の長さが0.32mmである絶縁性の支持基体7を準備し、この支持基体7の両主面上に、第1金属層10が表4に示す成分となるペーストを用いてスクリーン印刷法により塗布し、850℃で加熱して、第1金属層10を形成した。
【0153】
そして、第1金属層10上に、表4に示す主成分の第2金属層11となるように無電解めっき法を用いて塗布した後、支持基体7の第1主面側に先に作製した炭素−金属複合体1である回路部材8aを、第2主面側に同じく先に作製した炭素−金属複合体1である放熱部材9aをそれぞれ配置し、80℃で熱処理することにより、放熱複合部材6である試料No.77〜134を得た。
【0154】
そして、支持基体7の第1主面のX方向における反りHをレーザー変位計で測定した。また、回路部材8aの側面からはみ出している第1金属層10の回路部材8aの側面と支持基体7の側面とを垂直に結ぶ線上における最大長さを、光学顕微鏡により倍率を50倍として測定し、この最大長さをはみ出し長さとした。
【0155】
また、超音波探傷法により支持基体7と第1金属層10との間に生じている空隙を平面視した面積Sを測定し、空隙が全くない状態の面積、すなわち回路部材8aの支持基体7に接合している主面を合わせた面積Sに対する比率(=S/S×100)を求め、空隙率とした。ここで、超音波探傷法の測定条件は、探傷周波数を50MHzとし、ゲインを30dBとし、スキャンピッチを100μmとした。これらの測定結果を表4に示す。
【0156】
【表4】

【0157】
表4に示す通り、試料No.78〜105,107〜134は、回路部材8aおよび放熱部材9aが、支持基体7側より第1金属層10および第2金属層11が順次接合されてなり、第1金属層10は、主成分が銀および銅の少なくともいずれか1種であって、チタン,ジルコニウム,ハフニウムおよびニオブから選ばれる1種以上を含有し、第2金属層11は、主成分が金,銀,銅,ニッケル,コバルトおよびアルミニウムから選ばれる1種以上を含有することから、第2金属層11が形成されていない試料No.77,106より、支持基体7の第1主面のX方向における反りHの値が小さく、好適であることがわかった。
【0158】
また、試料No.92〜99,121〜128は、第1金属層10がモリブデン,タンタル,オスミウム,レニウムおよびタングステンから選ばれる少なくとも1種を含有することから、第1金属層10がこれらの金属を含有しない試料No.77〜91,100〜120,129〜134よりも、回路部材8aの端面からの第1金属層10は、はみ出し長さが短く、支持基体7上で広がりにくいので、第1金属層10の形状を比較的精度よく整えることができ、複数並べて回路部材8aを配置する場合に、隣り合う回路部材8a間で発生する短絡のおそれを低減できることがわかった。
【0159】
さらに、試料No.93〜95,122〜124は、第1金属層10がインジウム,亜鉛および錫から選ばれる少なくとも1種を含有していることから、第1金属層10の成分2までの構成が同じであり、インジウム,亜鉛および錫から選ばれる少なくとも1種を含有していない試料No.92,試料No.121と比較して、第1金属層10内の空隙率が低く、接合強度を高くできることがわかった。
【実施例5】
【0160】
次に、炭素が99質量%含まれ、相対密度が93%であって、X方向およびY方向の長さがともに30mmであり、Z方向の長さが2mmである等方性黒鉛からなる基材2を準備した。基材2の相対密度は、実施例1に示した方法と同じ方法で求めた。
【0161】
そして、基材2の両主面に、厚みt3a,t3bがいずれも250μmであって、主成分が銅である伝熱層3a、3bをめっき法により形成して、本発明の炭素−金属複合体1を得た。
【0162】
次に、窒化珪素を主成分とし、X方向およびY方向の長さがともに32mmであり、Z方向の長さが0.32mmである絶縁性の支持基体7を準備し、この支持基体7の両主面上に、スクリーン印刷法を用いてチタンを含有する銀(Ag)−銅(Cu)系合金のペーストを塗布し、850℃で加熱して、第1金属層10を形成した。なお、ペーストの塗布においては、回路部材8aおよび放熱部材9aを接合した後の回路部材8aまたは放熱部材9aの各端面に対する第1金属層10のX方向およびY方向における各端面の位置が表5に示すようになるように調整した。
【0163】
そして、第1金属層10上に、無電解めっき法を用いて銅を主成分とするペーストを塗布した第2金属層11を形成した後、支持基体7の第1主面側に先に作製した炭素−金属複合体1である回路部材8aを、第2主面側に同じく先に作製した炭素−金属複合体1である放熱部材9aをそれぞれ配置し、80℃で熱処理することにより、放熱複合部材6である試料No.135〜138を得た。
【0164】
そして、常温から125℃に昇温して30秒保持した後、−45℃に降温して30秒保持して常温に昇温するというサイクルを1サイクルとして、試料No.135〜138にヒートサイクル試験を実施した。100サイクル毎に、超音波探傷法により支持基体7に発生するクラックの有無を調べ、クラックが始めて確認されたサイクル数を表5に示した。ここで、超音波探傷法の測定条件は、探傷周波数を50MHzとし、ゲインを30dBとし、スキャンピッチを100μmとした。
【0165】
なお、表5において、回路部材8a側の第1金属層10の端面の位置が「外側」とは、回路部材8aの端面の位置に対して30μmを越えて外側にあり、「同一」とは、回路部材8aの端面の位置に対して±30μm以内にあり、「内側」とは、回路部材8aの端面の位置に対して30μmより内側にあることを示す。また、クラック発生サイクル数の欄の不等号「>」は、そのサイクル数を超えてもクラックが確認されなかったことを示す。
【0166】
【表5】

【0167】
表5に示すように、試料No.135,136は、第1金属層10の端面の少なくとも一部が回路部材8aまたは放熱部材9aの各端面より外側に位置していることから、熱履歴が支持基体7に加わっても、回路部材8aおよび放熱部材9aと支持基体7との間の熱膨張係数の差によって発生する熱応力が第1金属層10に分散しやすくなっているため、第1金属層10の端面の少なくとも一部が回路部材8aまたは放熱部材9aの各端面より外側に位置していない試料No.137,138よりも支持基体7にクラックが発生しにくいため、信頼性が高いことがわかった。
【実施例6】
【0168】
次に、炭素が99質量%含まれ、相対密度が93%であって、X方向およびY方向の長さがともに30mmであり、Z方向の長さが2mmである等方性黒鉛からなる基材2を準備した。基材2の相対密度は、実施例1に示した方法と同じ方法で求めた。
【0169】
そして、基材2の両主面に、厚みt3a,t3bがいずれも250μmであって、主成分が銅である伝熱層3a、3bをめっき法により形成して、本発明の炭素−金属複合体1を得た。
【0170】
次に、窒化珪素を主成分とし、X方向およびY方向の長さがともに32mmであり、Z方向の長さが0.32mmである絶縁性の支持基体7を準備し、この支持基体7の両主面上に、スクリーン印刷法を用いてチタンを含有する銀(Ag)−銅(Cu)系合金のペーストを塗布し、850℃で加熱して、第1金属層10を形成した。
【0171】
そして、支持基体7の第1主面のX方向における反りHをレーザー変位計で測定し、表6に示した。また、実施例5に示したヒートサイクル試験と同じヒートサイクル試験を実施し、100サイクル毎に、超音波探傷法により支持基体7に発生するクラックの有無を調べ、クラックが始めて確認されたサイクル数を表6に示した。ここで、超音波探傷法の測定条件は、探傷周波数を50MHzとし、ゲインを30dBとし、スキャンピッチを100μmとした。
【0172】
【表6】

【0173】
表6に示すように、試料No.140,141は、支持基体7の第1主面のX方向における反りが0.3%以下であって、反りは放熱部材9aに向かって凸状であることから、支持基体7の第1主面の長辺に対する反りが0.3%を超える試料No.142および支持基体7の第1主面の長辺に対する反りが0.3%以下であるものの反りは放熱部材に向かって凹状である試料No.139よりも、支持基体7にクラックが発生しにくくなり、信頼性が高いといえる。
【符号の説明】
【0174】
1:炭素−金属複合体
2:基材
3:伝熱層
4:中間層
5:被覆層
6:放熱複合部材
7:支持基体
8:回路部材
9:放熱部材
10:第1金属層
11:第2金属層
21,22:電子部品
S:電子装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素を主成分とする緻密質な基材の上に、銅またはアルミニウムを主成分とする伝熱層が形成されていることを特徴とする炭素−金属複合体。
【請求項2】
前記基材は、銅またはアルミニウムが含浸されていることを特徴とする請求項1に記載の炭素−金属複合体。
【請求項3】
前記基材が等方性黒鉛からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の炭素−金属複合体。
【請求項4】
前記基材の上に、クロム,鉄,コバルトまたはニッケルを主成分とする中間層を介して、前記伝熱層が形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の炭素−金属複合体。
【請求項5】
前記基材の表面の端部に傾斜面を有することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の炭素−金属複合体。
【請求項6】
前記基材の表面の端部が段状に形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の炭素−金属複合体。
【請求項7】
前記基材の側面に、クロム,鉄,コバルトおよびニッケルのいずれか1種を主成分とする被覆層が形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の炭素−金属複合体。
【請求項8】
前記基材の側面に、銀および銅のいずれか1種以上を主成分とし、チタン,ジルコニウム,ハフニウムおよびニオブから選ばれる1種以上を含有する被覆層が形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の炭素−金属複合体。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の炭素−金属複合体を用いたことを特徴とする回路部材。
【請求項10】
請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の炭素−金属複合体を用いたことを特徴とする放熱部材。
【請求項11】
絶縁性の支持基体の第1主面側に請求項9に記載の回路部材を、前記第1主面に対向する第2主面側に放熱部材をそれぞれ設けてなることを特徴とする放熱複合部材。
【請求項12】
絶縁性の支持基体の第1主面側に回路部材を、前記第1主面に対向する第2主面側に請求項10に記載の放熱部材をそれぞれ設けてなることを特徴とする放熱複合部材。
【請求項13】
請求項9に記載の回路部材および請求項10に記載の放熱部材の少なくとも一方は、前記支持基体側より第1金属層および第2金属層が順次接合されてなり、前記第1金属層は、主成分が銀および銅の少なくともいずれか1種であって、チタン,ジルコニウム,ハフニウムおよびニオブから選ばれる1種以上を含有し、前記第2金属層は、主成分が金,銀,銅,ニッケル,コバルトおよびアルミニウムから選ばれる1種以上を含有することを特徴とする請求項11または請求項12に記載の放熱複合部材。
【請求項14】
前記第1金属層は、モリブデン,タンタル,オスミウム,レニウムおよびタングステンから選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項13に記載の放熱複合部材。
【請求項15】
前記第1金属層は、インジウム,亜鉛および錫から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項13または請求項14に記載の放熱複合部材。
【請求項16】
前記支持基体は、窒化珪素または窒化アルミニウムを主成分とするセラミックスからなることを特徴とする請求項11乃至請求項15のいずれかに記載の放熱複合部材。
【請求項17】
前記第1金属層の端面の少なくとも一部は、前記回路部材または前記放熱部材の各端面より外側に位置していることを特徴とする請求項13乃至請求項15のいずれかに記載の放熱複合部材。
【請求項18】
前記支持基体の前記第1主面の長辺に対する反りが0.3%以下であって、該反りは前記第2主面側に凸状であることを特徴とする請求項11乃至請求項17のいずれかに記載の放熱複合部材。
【請求項19】
請求項11乃至請求項18のいずれかに記載の放熱複合部材における前記回路部材の上に電子部品を搭載したことを特徴とする電子装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−77013(P2010−77013A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−176060(P2009−176060)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】