説明

炭素繊維複合材料

【課題】熱可塑性樹脂をマトリクスとした炭素繊維複合材料成形を提供する。
【解決手段】繊維長10mm超100mm以下の炭素繊維と熱可塑性樹脂とから構成され、炭素繊維が実質的に2次元ランダムに配向しており、式(1)で定義される臨界単糸数以上で構成される炭素繊維束(A)について、繊維全量に対する炭素繊維束(A)の割合が30Vol%以上90Vol%未満であり、かつ炭素繊維束(A)中の平均繊維数(N)が下記式(2)を満たすことを特徴とする複合材料。臨界単糸数=600/D(1)6×10/D<N<2×10/D(2)(ここでDは炭素繊維の平均繊維径(μm)である)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂をマトリクスとした繊維強化複合材料に関するものであって、機械物性に優れ、なかでも炭素繊維を複合したことによる強化機能の発現性に優れた炭素繊維複合材料を提供しようとするものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維やアラミド繊維、ガラス繊維などを強化繊維として用いた繊維強化複合材料として、等方性であるランダムマットが、賦形性や工程の簡便さより用いられている。このランダムマットは、カットした強化繊維単体、あるいは熱硬化性の樹脂を成形型に同時に吹き付けるスプレーアップ方式(乾式)や、バインダーを含有させたスラリーに予めカットした強化繊維を添加し、抄紙する方法(湿式)等により得る事ができる。
【0003】
複合材料の機械物性を向上させる手段としては、繊維体積含有率(Vf)を高くする事が知られているが、カット繊維を用いたランダムマットの場合、3次元方向の繊維が存在する、繊維の交絡が多いなどの理由により、繊維体積含有率を高くする亊が困難であった。またランダムマットを用いた場合は連続繊維を用いた場合と比較して繊維が不連続であるため、強化繊維の強度を十分に発現させる事が困難であった。そのため、従来の成形物では、成形物の引張り強度と強化繊維の強度の比である強度発現率は、5%程度に満たないものが一般的であった。
【0004】
非特許文献1には、熱硬化性樹脂をマトリックスとした炭素繊維のランダムマットからの複合材料が挙げられているが、かかる複合材料の強化繊維の強度発現率は、3.8%程度である。
近年、ランダムマットを用いた複合材料の機械物性を向上させる手段として、繊維束を斜めに裁断し、断面積を変化させたチョップド繊維束を用いる方法が提案された(特許文献1および2)。かかる手法によれば、従来3〜4%であった強化繊維の強度発現率を7%程度まで向上させる事が可能となったが、10%を超えるものではない。
【0005】
このように従来は熱硬化性樹脂をマトリックスとした複合材料が提案されていた。通常、繊維強化複合材料は、予め、強化繊維基材に熱硬化性樹脂を含浸させたプリプレグと呼ばれる材料を、オートクレーブを用いて2時間以上加熱・加圧する事により得られる。近年、樹脂を含浸させていない強化繊維基材を金型内にセットした後、熱硬化性樹脂を流し入れるRTM成形方法が提案され、成形時間は大幅に短縮された。しかしながら、RTM成形方法を用いた場合でも、1つの部品を成形するまでに10分以上必要となる。
【0006】
そのため、従来の熱硬化性樹脂に代わり、熱可塑性樹脂をマトリックスに用いたコンポジットが注目されている。しかしながら、熱可塑性樹脂は、一般的に熱硬化性樹脂と比較して粘度が高く、そのため、繊維基材に樹脂を含浸させる時間が長く、結果として成形までのタクトが長くなるという問題があった。
【0007】
これらの問題を解決する手法として、熱可塑スタンピング成形(TP−SMC)と呼ばれる手法が提案されている(例えば特許文献3)。これは、予め熱可塑性樹脂を含浸させたチョップドファイバーを融点以上に加熱し、これを金型内の一部に投入した後、直ちに型を閉め、型内にて繊維と樹脂を流動させる事により製品形状を得、冷却・成型するという成型方法である。この手法では、予め樹脂を含浸させた繊維を用いる事により、約1分程度という短い時間で成形が可能である。これらはSMCやスタンパブルシートと呼ばれるような成形材料とする方法であって、かかる熱可塑スタンピング成形では、型内を繊維と樹脂を流動させるために、薄肉ものが作れない、繊維配向が乱れ、制御が困難である等の問題があった。
【0008】
また熱可塑性樹脂をマトリクスとする複合材料について、強化繊維含む長繊維ペレットを射出成形する技術も提案されているが(特許文献4)、長繊維ペレットとはいえペレットの長さに制限があり、さらに混練により熱可塑性樹脂中で強化繊維が切断されてしまい強化繊維の長さを保てないなどの課題があった。またこのような射出成形による成形方法では強化繊維が配向してしまい等方性のものが得られない等の課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−114611号公報
【特許文献2】特開2009−114612号公報
【特許文献3】特許第4161409号公報
【特許文献4】特開平9−286036号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Composites PartA 38 (2007) 755〜770
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、炭素繊維と熱可塑性樹脂とから構成される複合材料に関するものである。本発明は、熱可塑性樹脂をマトリクスにした従来の複合材料では得られなかった機械物性に優れた複合材料を提供しようとするものである。さらに本発明は、炭素繊維を複合したことによる強化機能の発現性に優れた複合材料を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、熱可塑性樹脂と特定の開繊状態を満たす炭素繊維とから構成される複合材料であり、熱可塑性のマトリックス樹脂を容易に含浸でき、機械物性に優れ薄肉化が可能な炭素繊維複合材料を提供できることを見出し本発明に至ったものである。即ち、本発明は繊維長10mm超100mm以下の炭素繊維と熱可塑性樹脂とから構成され、炭素繊維が実質的に2次元ランダムに配向しており、式(1)で定義される臨界単糸数以上で構成される炭素繊維束(A)について、繊維全量に対する炭素繊維束(A)の割合が30Vol%以上90Vol%未満であり、かつ炭素繊維束(A)中の平均繊維数(N)が下記式(2)を満たすことを特徴とする複合材料である。
臨界単糸数=600/D (1)
6×10/D<N<2×10/D (2)
(ここでDは炭素繊維の平均繊維径(μm)である)
【発明の効果】
【0013】
本発明の複合材料は高い機械強度を発現し、また薄肉化や等方化が可能であるので、各種構成部材、例えば自動車の内板、外板、構成部材、また各種電気製品、機械のフレームや筐体等に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】カット工程の概略図
【図2】ロータリー分繊カッターの正面と断面の概略図
【図3】ナイフ角度の説明図
【発明を実施するための形態】
【0015】
[複合材料]
本発明の複合材料は、熱可塑性樹脂と繊維長10mm超100mm以下の炭素繊維とから構成され、炭素繊維は複合材料中で、実質的に2次元ランダムに配向しており、式(1)で定義される臨界単糸数以上で構成される炭素繊維束(A)について、繊維全量に対する炭素繊維束(A)の割合が30Vol%以上90Vol%未満であり、かつ炭素繊維束(A)中の平均繊維数(N)が下記式(2)を満たすことを特徴とする。
臨界単糸数=600/D (1)
6×10/D<N<2×10/D (2)
(ここでDは炭素繊維の平均繊維径(μm)である)
【0016】
ここで「実質的に2次元ランダム」とは、複合材料を構成する炭素繊維が、複合材料の接表面内に繊維軸の主配向方向があり、かつその面内において互いに直行する二方向に測定した引張弾性率の値のうち大きいものを小さいもので割った比が2を超えないことを言う。
【0017】
[炭素繊維]
複合材料を構成する炭素繊維は不連続であり、平均繊維長10mm超100mm以下である。本発明の複合材料は、ある程度長い炭素繊維を含んで強化機能が発現できることを特徴とし、好ましくは炭素繊維の平均繊維長が15mm以上100mm以下であり、より好ましくは15mm以上80mm以下であり、さらには20mm以上60mm以下が好ましい。マトリクス樹脂が熱可塑性樹脂であって後述する好ましい製造方法により溶融混練せずに複合材料を得ることができることから、用いた炭素繊維の長さを複合材料中で保つことが可能であり、例えば複合材料中の炭素繊維の繊維長分布がシャープなものが得ることができ、繊維長が揃った炭素繊維を存在させることで、均質な物性を有する複合材料が好ましく提供できる。
【0018】
複合材料を構成する炭素繊維の平均繊維径は3〜12μmであり、より好ましくは5〜7μmである。
炭素繊維はサイジング剤が付着されたものを用いることが好ましく、サイジング剤は炭素繊維100重量部に対し、0〜10重量部であることが好ましい。
【0019】
[開繊程度]
一般的に、炭素繊維は、数千〜数万本のフィラメントが集合した繊維束となっている。特に薄肉のコンポジットを得る場合、炭素繊維を繊維束のまま使用すると、繊維の交絡部が局部的に厚くなり、薄肉のものが得られない。そのため、炭素繊維を開繊して使用することが重要となるが、本発明の複合材料は炭素繊維の開繊程度をコントロールした複合材料とし、特定本数以上の炭素繊維からなる炭素繊維束と、それ以外の開繊された炭素繊維を特定の比率で含むことを特徴とする。
【0020】
本発明の複合材料は、式(1)
臨界単糸数=600/D (1)
(ここでDは炭素繊維の平均繊維径(μm)である)
で定義する臨界単糸数以上で構成される炭素繊維束(A)について、繊維全量に対する割合が30Vol%以上90Vol%未満であることを特徴とする。複合材料中には、炭素繊維束(A)以外の炭素繊維として、単糸の状態または臨界単糸数以下で構成される繊維束が存在する。
【0021】
炭素繊維束(A)の割合が30Vol%未満になると、表面品位に優れる複合材料が得られるという利点はあるものの、機械物性に優れた複合材料が得にくくなる。炭素繊維束(A)の割合が90Vol%以上になると、繊維の交絡部が局部的に厚くなり、薄肉のものが得られず、本発明の目的にそぐわない。炭素繊維束(A)の割合はより好ましくは40Vol%以上80Vol%未満である。
【0022】
さらに本発明の複合材料は、臨界単糸数以上で構成される炭素繊維束(A)中の平均繊維数(N)が下記式(2)
6×10/D<N<2×10/D (2)
(ここでDは炭素繊維の平均繊維径(μm)である)
を満たすことを特徴とする。
【0023】
炭素繊維束(A)中の平均繊維数(N)が6×10/D以下の場合、高い繊維体積含有率(Vf)を得る事が困難となる。また炭素繊維束(A)中の平均繊維数(N)が2×10/D以上の場合、局部的に厚い部分が生じ、ボイドの原因となりやすい。
このように式(1)で定義される臨界単糸以上の炭素繊維束(A)と、単糸の状態又は臨界単糸数以下の炭素繊維(B)が同時に存在する複合材料とすることで、繊維の充填効率よく、疎密のばらつきが少なく、機械強度に優れた複合材料が提供できる。
【0024】
またこのように特定本数以上の炭素繊維からなる炭素繊維束と、それ以外の開繊された炭素繊維を特定の比率で共存させることで、複合材料中の炭素繊維の存在量、すなわち繊維体積含有率(Vf)を高めることが可能となっている。
具体的には複合材料を構成する炭素繊維の平均繊維径が5〜7μmの場合、臨界単糸数は86〜120本となり、臨界単糸数以上の炭素繊維束が繊維全量に対する割合が30Vol%以上90Vol%未満である。
【0025】
炭素繊維の平均繊維径が5μmの場合、繊維束中の平均繊維数は2400〜8000本の範囲となるが、なかでも2500〜6000本であることが好ましい。炭素繊維の平均繊維径が7μmの場合、繊維束中の平均繊維数は1224〜4081本の範囲となるが、なかでも1500〜4000本であることが好ましい。
【0026】
本発明の複合材料は、各種の厚みとすることが可能であるが、厚みが0.2〜1mm程度の薄肉の成形品を好適に得ることができる。すなわち本発明により、各種目的の厚さに合わせた複合材料が提供でき、なかでも薄物の成形品が好適に得られ、サンドイッチ部材の表皮等も提供できる。
【0027】
[熱可塑性樹脂]
本発明の複合材料における熱可塑性樹脂の存在量は、炭素繊維100重量部に対し、50〜1000重量部であることが好ましい。より好ましくは、炭素繊維100重量部に対し、熱可塑性樹脂50〜500重量部、さらに好ましくは炭素繊維100重量部に対し、熱可塑性樹脂50〜100重量部である。
【0028】
熱可塑性樹脂の種類としては例えば塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド6樹脂、ポリアミド11樹脂、ポリアミド12樹脂、ポリアミド46樹脂、ポリアミド66樹脂、ポリアミド610樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ボリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹
【0029】
[他の剤]
本発明の複合材料中には、本発明の目的を損なわない範囲で、ガラス繊維や有機繊維等の各種繊維状または非繊維状フィラー、難燃剤、耐UV剤、顔料、離型剤、軟化剤、可塑剤、界面活性剤の添加剤を含んでいてもよい。
【0030】
[炭素繊維による強化機能の発現性]
2次元擬似等方ランダムに炭素繊維が含まれている複合材料の、強度の理論値に対して、本発明の複合材料は60〜80%の強度発現が可能となることを特徴とする。このような強度発現率の達成が可能になる理由は上記のとおり、特定本数以上の炭素繊維からなる炭素繊維束と、それ以外の開繊された炭素繊維を共存させることで複合材料中に効果的に炭素繊維を存在させていることによるものと思われる。
【0031】
[製造方法]
以下本発明の複合材料を好ましく得る方法について述べる。本発明の複合材料は以下の工程1〜5より、好ましく製造することができる。
1.炭素繊維をカットする工程、
2.カットされた炭素繊維を管内に導入し、空気を炭素繊維に吹き付ける事により、繊維束をある程度バラバラに開繊させる工程、
3.開繊させた炭素繊維を拡散させると同時に、繊維状又はパウダー状の熱可塑性樹脂とともに吸引し、炭素繊維と熱可塑性樹脂を同時に散布する塗布工程、
4.塗布された炭素繊維および熱可塑性樹脂を定着させ、ランダムマットを得る工程。
5.得られたランダムマットをプレス成形する工程。
【0032】
[カット工程]
炭素繊維をカットする工程について述べる。炭素繊維のカット方法は、好ましくはロータリーカッター等のナイフを用いて炭素繊維をカットする工程である。ロータリーカッターを用いたカット工程の一例を図1に示す。ロータリーカッターとしては、繊維束を1/2〜1/20程度に分繊してカットする、分繊カッターを用いる事が好ましい。ロータリー分繊カッターの好ましい例について、正面と断面の概略図を図2に、およびナイフ角度の説明図を図3に示す。ロータリー分繊カッターは本体に沿って複数の刃が等間隔かつ螺旋状に配置されているものである。従来のカッターのように、繊維束をそのままカットし、塗布する手法では、薄く、物性に優れる複合材料を得る事が難しい。繊維束をより細い束に分けながらカットする事により、工程4で得られるランダムマットの均質性が向上し、薄いランダムマットを得る事が可能となり、本発明の複合材料を好適に得ることができる。炭素繊維を連続的にカットするためのナイフ角度は特に限定されるものではなく、一般的な、繊維に対し、90度の刃を用いても、角度を持たせたものでも構わない。
【0033】
[開繊工程]
次いでカットされた炭素繊維を管内に導入し、空気を繊維に吹き付ける事により、繊維束をバラバラに開繊させる。より具体的にはカットされた炭素繊維を連続的に管内に導入し、圧力空気を直接繊維に吹き付ける事により、繊維束をバラバラに開繊させる工程である。開繊の度合いについては、空気の圧力等により適宜コントロールする事が出来る。
【0034】
好ましい炭素繊維の開繊方法は、圧縮空気を直接炭素繊維に吹き付ける方法である。具体的には圧縮空気吹き付け孔より、好ましくは風速5〜500m/secにて空気を吹き付ける事により、炭素繊維を開繊させる事ができる。好ましくは炭素繊維の通る管内にΦ1mm程度の孔を数箇所あけ、外側より0.01〜0.8MPa程度の圧力をかけ、圧縮空気を繊維束に直接吹き付けることにより、繊維束を任意の開繊度まで開繊する事ができる。
【0035】
[塗布工程]
次いで開繊させた炭素繊維を拡散させると同時に、繊維状又はパウダー状の熱可塑性樹脂とともに吸引し、炭素繊維と熱可塑性樹脂を同時に散布する塗布工程を行う。開繊させた炭素繊維と、繊維状又はパウダー状の熱可塑性樹脂とを同時に、シート上に塗布することで、本発明の複合材料を好適に得ることができる。
【0036】
塗布工程において、熱可塑性樹脂の供給量は、炭素繊維100重量部に対し、50〜1000重量部であることが好ましい。より好ましくは、炭素繊維100重量部に対し、熱可塑性樹脂50〜400重量部、更に好ましくは、炭素繊維100重量部に対し、熱可塑性樹脂50〜100重量部である。
塗布工程において、炭素繊維および熱可塑性樹脂の供給量を適宜選択することで所望の厚さのものを得ることができる。
【0037】
ここで、炭素繊維と、繊維状又はパウダー状の熱可塑性樹脂は2次元配向する様に散布することが好ましい。開繊した炭素繊維を2次元配向させながら塗布するためには、塗布方法及び下記の定着方法が重要となる。炭素繊維の塗布方法には、円錐形等のテーパ管を用いることが好ましい。円錐等の管内では、空気が拡散し、管内の流速が減速し、このとき炭素繊維には回転力が与えられる。このベンチュリ効果を利用して開繊させた炭素繊維を好ましく拡散させ散布することができる。
開繊装置下部に設けた通気性シート上に塗布することが好ましい。また下記の定着工程のためにも、吸引機構を持つ可動式の通気性シート上に散布することが好ましい。
【0038】
[定着工程]
次いで塗布された炭素繊維および熱可塑性樹脂を定着させ、ランダムマットを得る。具体的には、塗布された炭素繊維および熱可塑性樹脂を通気性シート下部よりエアを吸引して炭素繊維を定着させ、ランダムマットを得る。炭素繊維と同時に散布された熱可塑性樹脂は混合されつつ、繊維状であればエア吸引により、パウダー状であっても炭素繊維に伴って定着される。
【0039】
具体的には通気性のシートを通して、下部より吸引する事により、2次元配向の高いランダムマットを得る事ができる。又、発生する負圧を用いてパウダー状、又は短繊維状の熱可塑性樹脂を吸引し、更に、管内で発生する拡散流により、炭素繊維と容易に混合する事ができる。得られるランダムマットは、炭素繊維の近傍に熱可塑性樹脂が存在する事により、下記の熱プレス工程において、樹脂の移動距離が短く、比較的短時間で樹脂の含浸が可能となる。
【0040】
[プレス]
次いで得られたランダムマットをプレス成形することにより、本発明の複合材料を得ることができる。このときランダムマットは複数枚重ねて、所望の厚さとすることもできる。プレス成形の方法および条件にはとくに制限はないが、マトリックスの熱可塑性樹脂の融点以上融点プラス80℃または分解温度以下の条件にて熱プレスすることが好ましい。プレスの圧力およびプレス時間も適宜選択できる。
【0041】
[成形体]
複合材料は、上記のようなプレス成形により、所望の厚さの成形体を得ることができる。また型の形状等を選択することにより、三次元形状等の所望形状の成形体を得ることも可能である。本発明の複合材料は、プレス工程における、樹脂の移動距離が短く、比較的短時間で樹脂の含浸が可能となり、肉薄で、物性に優れかつ表面品位に優れた成形品が提供できる。また炭素繊維が成形体中に等方的に存在するので均質性が確保できる。
【0042】
成形体は積層構造とすることも可能である。このような積層構造とするときの好ましい製造方法としては、例えば定着工程において、通気性シート上に、予めガラス繊維や有機繊維を用いたランダムマットや不織布等、通気性のあるシートを配置し、その上に炭素繊維を塗布する方法が挙げられる。
【0043】
また薄肉のものが得られるので、サンドイッチ部材の表皮としても好ましく用いることができる。サンドイッチ部材とするときのコア材にとくに限定はないが、樹脂の発泡体や、ガラス繊維や有機繊維の不織布等が好ましく挙げられる。本発明の複合材料からなる成形体をコア部材とともに積層して、例えばプレス成形することによりサンドイッチ部材とすることができる。上記のようにガラス繊維や有機繊維の不織布との積層構造とした場合、これらの不織布層はサンドイッチ部材のコア部材とすることができる。
【実施例】
【0044】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。
[複合材料における炭素繊維束(A)の繊維全量に対する割合の求め方]
1)複合材料を100mm×100mmに切り出し、厚み(Ta)を測定後、500℃×1時間程度、炉内にて樹脂を除去する。
2)樹脂を除去した複合材料より、繊維束をピンセットで全て取り出す。
3)全ての繊維束について、個々の繊維束の長さ(Li)と重量(Wi)を測定し、繊維束数(I)を記録する。ピンセットにて取り出す事ができない程度に繊維束が小さいものについては、まとめて最後に重量を測定する(Wk)。このとき、1/1000gまで測定可能な天秤を用いる。なお、繊維長が短い場合には、繊維束の重量が小さく、測定が困難になる。こういった場合には、繊維を0.2mm程度の間隔で分類し、分類した繊維束を複数本まとめて重量を測定し、平均値を用いても良い。
4)全ての分類について測定後、以下の計算を行う。使用している炭素繊維の繊度(F)より、分類した繊維束群の繊維本数(Ni)は次式により求められる。
Ni=Wi/(Li×F)。
炭素繊維束(A)中の平均繊維数(N)は以下の式により求める。
Nj=ΣNi/I
また、個々の繊維束の体積(Vi)及び、炭素繊維束(A)の繊維全体に対する割合(VR)は、使用した炭素繊維の繊維比重(ρ)を用いて次式により求められる。
Vi=Wi/ρ
VR=ΣVi/Va×100
ここで、Vaは切り出したシートの体積であり、Va=100×100×Ta
[繊維強度発現率の求め方]
繊維強度発現率は、得られた複合材料の試験片についてJISK7164に従い引張強度を測定した結果と、炭素繊維の引張強度との比より求めた。
【0045】
[実施例1]
炭素繊維として、東邦テナックス社製の炭素繊維“テナックス”(登録商標)STS40−24KS(繊維径7μm、引張強度4000MPa)を使用した。カット装置には、超硬合金を用いてナイフを形成するロータリーカッターを用いた。なお、ナイフの角度は周方向と90度であり、ナイフは刃幅を1mmのものを用いた。このナイフを周方向に16mmピッチで配置し、更に、隣り合うナイフは周方向に互いに1mmオフセットさせるように配置した。開繊装置として、小孔を有した管を用意し、コンプレッサーを用いて圧縮空気を送気した。この時、小孔からの風速は、100m/secであった。この管をロータリーカッターの直下に配置し、さらに、その下部にはテーパ管を溶接した。テーパ管の側面より、マトリックス樹脂を供給し、このマトリックス樹脂として、帝人化成社製のポリカーボネート“パンライト”(登録商標)L−1225Lペレットを冷凍粉砕し、更に、20メッシュ、及び30メッシュにて分級したパウダーを用いた。このとき、平均粒径は約1mmであった。次に、テーパ管出口の下部に、XY方向に移動可能なテーブルを設置し、テーブル下部よりブロワにて吸引を行った。そして、炭素繊維の供給量を600g/min、マトリックス樹脂の供給量を500g/min、にセットし、装置を稼動したところ、平均繊維長16mmの炭素繊維とポリカーボネートが混合された、厚み2mm程度のランダムマットを得た。このランダムマットを300℃に加熱したプレス装置にて、2.0MPaにて5分間加熱し、t=0.8mmの成形板を得た。
【0046】
得られた複合材料について、式(1)で定義される臨界単糸数は86、臨界単糸数以上で構成される炭素繊維束(A)中の平均単糸数(N)は1600であり、臨界単糸数以上で構成される炭素繊維束(A)の割合は53Vol%であった。得られた複合材料の繊維体積含有率は44Vol%であった。
成形板の引張強度は0度と90度方向からn=5ずつ250×25mmの試験片を切り出しJISK7164に準拠し測定した結果、410MPaであり、強化繊維の強度発現率は10.3%であった。
【0047】
[実施例2]
炭素繊維として、東邦テナックス社製の炭素繊維“テナックス”(登録商標)UMS40−12K(繊維径5μm、引張強度4600MPa)を使用した。カット装置には、刃幅を0.5mm、ナイフ間隔を32mmとした実施例1に使用したロータリーカッターを用いた。開繊装置として、小孔を有した管を用意し、コンプレッサーを用いて圧縮空気を送気した。この時、小孔からの風速は、300m/secであった。この管をロータリーカッターの直下に配置し、さらに、その下部にはテーパ管を溶接した。テーパ管の側面より、マトリックス樹脂を供給し、このマトリックス樹脂として、2mmにドライカットしたPA66繊維(旭化成せんい製 T5ナイロン 1400dtex)を用いた。次に、テーパ管出口の下部に、XY方向に移動可能なテーブルを設置し、テーブル下部よりブロワにて吸引を行った。そして、炭素繊維の供給量を1600g/min、マトリックス樹脂の供給量を1000g/minにセットし、装置を稼動し、平均繊維長32mmの炭素繊維とPA66が混合された、厚み4mm程度のランダムマットを得た。このランダムマットを280℃に加熱したプレス装置にて、2.5MPaにて3分間加熱し、t=1.8mmの成形板を得た。得られた複合材料について、式(1)で定義される臨界単糸数は120、臨界単糸数以上で構成される炭素繊維束(A)中の平均単糸数(N)は2800であり、臨界単糸数以上で構成される炭素繊維束(A)の割合は66Vol%であった。得られた複合材料の繊維体積含有率は51Vol%であった。成形板の引張強度は0度と90度方向からn=5ずつ250×25mmの試験片を切り出しJISK7164に従い測定した結果、引張強度の平均値は490MPaであり、強化繊維の強度発現率は10.6%であった。
【0048】
[実施例3]
炭素繊維の供給量を380g/min、マトリックス樹脂の供給量を300g/min、にセットし、実施例1と同様の作成方法にてランダムマットを2枚作成した。このマットをJSP社のPC発泡体“ミラポリカフォーム(登録商標)”t=0.8の上下に1枚ずつ配置し、300℃に加熱したプレス装置にて、1.5MPaにて10分間加熱し、t=1.7mmのサンドイッチ部材を得た。得られたサンドイッチ部材の重量は1.5kg/mであり、厚さ0.9mmのスチール鋼板と比較し、等価剛性でありながら、重量が約30%である非常に軽量なパネルを得た。
【0049】
[実施例4]
炭素繊維の供給量を380g/min、マトリックス樹脂であるナイロンの供給量を530g/min、にセットし、コア材として、ガラスマット(セントラル硝子社製 チョップドストランドマット 300g/m)を予め定着装置上に設置し、実施例1と同様の作成方法にてランダムマットを2枚作成した。このマットを、ガラスマットが内側になる様、面対象に1枚ずつ積層し、270℃に加熱したプレス装置にて、1.5MPaにて3分間加熱し、t=1.7mmのサンドイッチ部材を得た。得られたサンドイッチ部材の重量は2.4kg/mであり、厚さ0.9mmのスチール鋼板と比較し、等価剛性でありながら、重量が約34%である非常に軽量なパネルを得た。
【0050】
[比較例1]
実施例1において、分繊機構の無いロータリーカッターを用い、開繊装置での圧縮空気の圧力を0MPaとし、同様にランダムマットを作成した。得られたランダムマットは、すべて原糸の繊維束(24000本)のままの短冊状の繊維束からなり、若干裏が透けて見える状態のものであった。このランダムマットを用いて実施例1と同様に成形板を作成したところ、繊維束の重なりが多い部分においては樹脂の未含浸部が確認され、繊維の疎な部分においては、裏側が透けて見えるといったものとなった。
【符号の説明】
【0051】
1.炭素繊維
2.ピンチローラー
3.ゴムローラー
4.ロータリーカッター本体
5.刃
6.カットされた炭素繊維
7.周方向と刃の配列のなす角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維長10mm超100mm以下の炭素繊維と熱可塑性樹脂とから構成され、炭素繊維が実質的に2次元ランダムに配向しており、式(1)で定義される臨界単糸数以上で構成される炭素繊維束(A)について、繊維全量に対する炭素繊維束(A)の割合が30Vol%以上90Vol%未満であり、かつ炭素繊維束(A)中の平均繊維数(N)が下記式(2)を満たすことを特徴とする複合材料。
臨界単糸数=600/D (1)
6×10/D<N<2×10/D (2)
(ここでDは炭素繊維の平均繊維径(μm)である)
【請求項2】
複合材料における熱可塑性樹脂の存在量が、炭素繊維100重量部に対し、50〜1000重量部である事を特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
複合材料における熱可塑性樹脂の存在量が、炭素繊維100重量部に対し、50〜100重量部である事を特徴とする請求項2に記載の複合材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−178891(P2011−178891A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44287(P2010−44287)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】