説明

無段変速機の制御装置

【課題】車両の発進性能を向上させた無段変速機の制御装置を提供する。
【解決手段】車両の運転状態に基づいて目標変速比を設定し、実変速比を目標変速比に収束させるようにステップモータ27の駆動量を制御すると共に、車両の減速度が所定のしきい値を超えたときに、所定の変速比を保持するようにステップモータ27の駆動量を制御して、変速比を制御する変速比制御手段12と、を備え、変速比制御手段12は、ブレーキの作動を検出したときの実変速比に基づいて、所定のしきい値を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はベルト式無段変速機に関し、急減速時の車両の再発進性の向上を図ることができるベルト式無段変速機の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ベルト式無段変速機は、駆動プーリ(プライマリプーリ)と従動プーリ(セカンダリプーリ)との間に掛け回したベルトによって動力伝達を行っている。
【0003】
このようなベルト式無段変速機を搭載した車両において、車両の急減速が発生した場合には、減速後の再発進性を確保するために、減速に応じて急速にシフトダウンを行う。
【0004】
このように急速なダウンシフトを行うと、駆動プーリの油圧が急激に低下するため、駆動プーリにおいて、ベルトの狭持力が過渡的に低下する。この状態において、車輪のロックが発生したり、ダウンシフト中のイナーシャトルクの増加等によって、ベルトの滑りが発生してしまう可能性がある。
【0005】
このようなベルトの滑りを防止するために、急減速時に、減速度が所定値以上である場合は、所定のHigh側の変速比に変速比を固定して、駆動プーリの油圧を確保するように制御する急減速時変速比固定制御を行う無段変速機の制御装置(特許文献1参照。)が開示されている。
【特許文献1】特開平11−13876号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示された発明では、制御のしきい値である減速度を所定値として固定している。そのため、例えば、登坂走行中の急減速など、減速度が平坦路の急減速時に比べ見かけ以上に検出されてしまうような場合には、ベルトの滑りが発生しない程度の減速においても、前述の急減速時変速比固定制御を実行して、変速比を所定のHigh側の変速比に固定してしまう。
【0007】
このような制御がなされて場合には、そのまま停車に至ったときには、登坂路であるため、再発進性が悪化してしまうという問題があった。
【0008】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、実変速比に基づいて、急減速時の変速比を固定とするか否かを制御するベルト式無段変速機の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、車両の減速度を検出する減速度検出手段と、ブレーキの作動を検出するブレーキ作動検出手段と、車両の運転状態に基づいて目標変速比を設定し、実変速比を目標変速比に収束させるようにステップモータの駆動量を制御すると共に、車両の減速度が所定のしきい値を超えたときに、所定の変速比を保持するようにステップモータの駆動量を制御して、変速比を制御する変速比制御手段と、を備え、変速比制御手段は、ブレーキの作動を検出したときの実変速比に基づいて、所定のしきい値を決定する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、車両の減速度が所定のしきい値を超えたときに所定の変速比を保持するが、この所定の変速比を実変速比に基づいて決定するので、特に登坂路などにおいて、変速比が固定された状態で車両が停止することによる再発進性の悪化を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
図1は、Vベルト式無段変速機1の概略を示す構成ブロック図である。
【0013】
Vベルト式無段変速機1は、プライマリプーリ2及びセカンダリプーリ3を両者のV溝が整列するよう配して備え、これらプーリ2、3のV溝にVベルト(ベルト)4が掛け渡されている。プライマリプーリ2の同軸にエンジン5を配置し、このエンジン5及びプライマリプーリ2間に、エンジン5の側から順次ロックアップクラッチを備えたトルクコンバータ6および前後進切り替え機構(摩擦締結要素)7を設ける。
【0014】
前後進切り替え機構7は、ダブルピニオン遊星歯車組7aを主たる構成要素とし、そのサンギヤを、トルクコンバータ6を介してエンジン5に結合し、キャリアをプライマリプーリ2に結合する。前後進切り替え機構7は更に、ダブルピニオン遊星歯車組7aのサンギヤおよびキャリア間を直結する前進クラッチ7b、およびリングギヤを固定する後進ブレーキ7cを備えている。この前進クラッチ7bの締結時にエンジン5からトルクコンバータ6を経由した入力回転をそのままプライマリプーリ2に伝達し、後進ブレーキ7cの締結時にエンジン5からトルクコンバータ6を経由した入力回転を逆転させプライマリプーリ2へ伝達する。
【0015】
プライマリプーリ2の回転はVベルト4を介してセカンダリプーリ3に伝達され、セカンダリプーリ3の回転はその後、出力軸8、歯車組9およびディファレンシャルギヤ装置10を経て車輪に伝達される。
【0016】
前述の動力伝達中に、プライマリプーリ2及びセカンダリプーリ3間における回転伝動比(変速比)を変更可能にするために、プライマリプーリ2及びセカンダリプーリ3のV溝を形成する円錐板のうち一方を固定円錐板2a、3aとし、他方の円錐板2b、3bを軸線方向へ変位可能な可動円錐板(可動フランジ)とする。これら可動円錐板2b、3bはライン圧を元圧として作り出したプライマリプーリ圧Ppriおよびセカンダリプーリ圧Psecをプライマリプーリ室2c及びセカンダリプーリ室3cに供給することにより固定円錐板2a、3aに向け付勢され、これによりVベルト4を円錐板に摩擦係合させてプライマリプーリ2およびセカンダリプーリ3間での動力伝達を行う。
【0017】
変速に際しては、目標変速比Ratio0に対応させて発生させたプライマリプーリ圧Ppriおよびセカンダリプーリ圧Psec間の差圧により両プーリ2、3のV溝幅を変化させ、プーリ2、3に対するVベルト4の巻き掛け円弧径を連続的に変化させることで実変速比Ratioを変更し、目標変速比Ratio0を実現する。
【0018】
プライマリプーリ圧Ppri及びセカンダリプーリ圧Psecは、前進走行レンジの選択時に締結する前進クラッチ7b及び後進走行レンジの選択時に締結する後進ブレーキ7cの締結油圧の出力と共に変速制御油圧回路11により制御される。変速制御油圧回路11は変速機コントローラ12からの信号に応答して制御を行う。
【0019】
変速機コントローラ12には、プライマリプーリ回転速度Npriを検出するプライマリプーリ回転速度センサ13からの信号と、セカンダリプーリ回転速度Nsecを検出するセカンダリプーリ回転速度センサ14からの信号と、セカンダリプーリ圧Psecを検出するセカンダリプーリ圧センサ15からの信号と、スロットルバルブの開度TVOを検出するスロットル開度センサ16からの信号と、インヒビタスイッチ17からの選択レンジ信号と、変速作動油温TMPを検出する油温センサ18からの信号と、エンジン5の制御を司るエンジンコントローラ19からの入力トルクTiに関した信号(エンジン回転速度や燃料噴時間)と、ブレーキペダルが操作されたか否かを検出するブレーキペダルSW28からのブレーキ信号と、加速度センサ20からの信号と、が入力される。
【0020】
次に、変速制御油圧回路11及び変速機コントローラ12について、図2の概略構成図を用いて説明する。まず、変速制御油圧回路11について以下に説明する。
【0021】
変速制御油圧回路11は、エンジン駆動されるオイルポンプ21を備え、オイルポンプ21によって油路22に供給する作動油の圧力をプレッシャレギュレータ弁23により所定のライン圧PLに調圧する。プレッシャレギュレータ弁23は、ソレノイド23aへの駆動デューティーに応じてライン圧PLを制御する。
【0022】
油路22のライン圧PLは、一方で減圧弁24により調圧されセカンダリプーリ圧Psecとしてセカンダリプーリ室3cに供給され、他方で変速制御弁25により調圧されプライマリプーリ圧Ppriとしてプライマリプーリ室2cに供給される。減圧弁24は、ソレノイド24aへの駆動デューティーに応じてセカンダリプーリ圧Psecを制御する。
【0023】
変速制御弁25は、中立位置25aと、増圧位置25bと、減圧位置25cと、を有し、これら弁位置を切り換えるために変速制御弁25を変速リンク26の中程に連結する。変速リンク26は一方の端に、変速アクチュエータとしてのステップモータ27を連結し、もう一方の端にプライマリプーリ2の可動円錐板2bを連結する。
【0024】
ステップモータ27は、基準位置から目標変速比Ratio0に対応したステップ数Stepだけ進んだ操作位置にされ、ステップモータ27の操作により変速リンク26が可動円錐板2bとの連結部を支点にして揺動することにより、変速制御弁25を中立位置25aから増圧位置25bまたは減圧位置25cへ移動させる。これにより、プライマリプーリ圧Ppriがライン圧PLを元圧として増圧され、またはドレンにより減圧され、セカンダリプーリ圧Psecとの差圧が変化することでHigh側変速比へのアップシフトまたはLow側変速比へのダウンシフトを生じ、実変速比Ratioが目標変速比Ratio0に追従して変化する。
【0025】
変速の進行は、プライマリプーリ2の可動円錐板2bを介して変速リンク26の対応端にフィードバックされ、変速リンク26がステップモータ27との連結部を支点にして、変速制御弁25を増圧位置25bまたは減圧位置25cから中立位置25aに戻す方向へ揺動する。これにより、目標変速比Ratio0が達成される時に変速制御弁25が中立位置25aに戻され、変速比Ratioを目標変速比Ratio0に保つことができる。
【0026】
プレッシャレギュレータ弁23のソレノイド駆動デューティー、減圧弁24のソレノイド駆動デューティー、およびステップモータ27への変速指令(ステップ数)は、図1に示す前進クラッチ7bおよび後進ブレーキ7cへ締結油圧を供給するか否かの制御と共に変速機コントローラ12により行われる。変速機コントローラ12は圧力制御部12aおよび変速制御部12bによって構成する。
【0027】
圧力制御部12aは、プレッシャレギュレータ弁23のソレノイド駆動デューティー、および減圧弁24のソレノイド駆動デューティーを決定する。変速制御部12bは到達変速比DsrRTO、目標変速比Ratio0を算出する。
【0028】
このように構成されたVベルト式無段変速機1を搭載した車両において、車両の減速時には、減速後の再発進性を向上させるためにシフトダウンを行い、Low側の変速比へと変速させる。ここれにより、プライマリプーリ2は、ドレンによりプライマリプーリ圧Ppriが下がる。セカンダリプーリ3は、所定の変速比となるようにセカンダリプーリ圧Psecが制御される。これにより、シフトダウンが完了する。
【0029】
ここで、車両が急減速した場合は、この急減速に対応してシフトダウンも急なものとなる。すなわち、車速VSP、プライマリプーリ回転速度Npri及びセカンダリプーリ回転速度Nsecが、それぞれ急激に減少するため、これらに基づいて変速が行われることにより、プライマリプーリ圧Ppriは急激に下がる。これによりプライマリプーリ2におけるベルト4の狭持力が過渡的に低下する。
【0030】
このような状況において、車輪のロックが発生したり、急減速によるエンジンや変速機等のイナーシャトルクが急激に増加すると、ベルト4の滑りが発生してしまう可能性がある。ベルト4の滑りはベルト4やプーリの破損につながるため、これを未然に防ぐことが必要となる。
【0031】
そこで、本発明の実施形態では、以下に説明するように車両の急減速時に変速比を制御して、ベルト4の滑りの発生を防ぎつつ、該状態からの再発進性を確保するための最適な変速制御を行うように構成した。
【0032】
図3は、本発明の実施形態の変速機コントローラ12の変速制御部12bを中心とした機能ブロック図である。
【0033】
前述のように、変速制御部12bは、スロットル開度TVO、プライマリプーリ回転速度Npri及びセカンダリプーリ回転速度Nsec等の車両状態及び加速要求に基づいて目標変速比Ratio0を算出する。そして、この目標変速比Ratio0に対応するステップモータ27のステップ数Stepを算出して、ステップモータ27に指令を行うことによって、変速比が制御される。
【0034】
変速制御部12bは、次のような構成により、目標変速比Ratio0及びステップ数Stepを算出する。
【0035】
到達プライマリプーリ回転数設定部101は、セカンダリプーリ回転速度センサ14によって検出されたセカンダリプーリ回転速度Nsecと、スロットル開度センサ16により検出されたスロットル開度TVOとから、マップを参照して到達プライマリプーリ回転数DsrREVを設定する。
【0036】
到達変速比設定部102は、到達プライマリプーリ回転速度DsrREVと、セカンダリプーリ回転速度Nsecとから到達変速比DRatioを算出する。
【0037】
目標変速比設定部103は、到達変速比DRatioに基づいて、実変速比Ratioを所望の応答で追従させるための目標変速比Ratio0を算出する。
【0038】
変速比F/F量設定部104は、目標変速比Raio0と到達変速比DRatioとから、フィードフォワード制御により指令変速比FFCoutを算出する。
【0039】
変速比F/B量設定部105は、指令変速比FFCoutに実変速比RatioをフィードバックすることによりF/B補償変速比FBCoutを算出する。
【0040】
セレクタ部106は、算出されたF/B補償変速比FBCout及び後述する急減速急減速時指令変速比DRatio_rpddclのいずれか一方を選択して、選択した値を制御目標変速比DsrRTOとして出力する。
【0041】
目標ステップ数設定部107は、制御目標変速比DsrRTOに基づいて、目標ステップ数マップを参照してステップモータ27への指令値であるステップ数Stepを算出する。
【0042】
除算器108は、セカンダリプーリ回転速度Nsecとプライマリプーリ回転速度Npriとの比により、実変速比Ratioを算出する。
【0043】
また、変速制御部12bは、急減速時制御部200を備える。
【0044】
急減速時制御部200は、ブレーキペダルSW28から取得したブレーキ信号の有無と、加速度センサ20から取得した減速度G_dataとから、急減速であるか否かを判定する急減速判定部201と、急減速判定部201によって急減速であると判定されたときに、セカンダリプーリ回転速度Nsecとプライマリプーリ回転速度Npriとから算出された実変速比Ratioに基づいて、急減速時指令減速比DRatio_rpddclを算出する急減速時指令変速比設定部202と、によって構成される。
【0045】
次に、この変速制御部12bが行うメイン処理を、図4のフローチャートに基づいて説明する。この図4のフローチャートに示すメイン処理は、変速制御部12bが所定の周期(例えば10ms毎)で実行する。
【0046】
まず変速制御部12bは、以降の処理に用いるための各種車両パラメータをセンサ等から読み込む(S10)。
【0047】
各種車両パラメータとは、プライマリプーリ回転速度センサ13が検出したプライマリプーリ回転速度Npri、セカンダリプーリ回転速度センサ14が検出したセカンダリプーリ回転速度Nsec、スロットル開度センサ16が検出したスロットル開度TVO、車速VSP等である。なお、車速VSPは、車速センサ等を備えてこの車速センサから取得してもよいが、Vベルト式無段変速機1の出力回転速度であるセカンダリプーリ回転速度Nsecに所定の減速比を乗じることによって算出することができる。
【0048】
次に、変速制御部12bは、ステップS10で取得した各種車両パラメータに基づいて、図3で前述したような処理により目標変速比Ratio0を算出する。また、この目標変速比Ratio0に基づいて、ステップモータ27の変位を決定するための制御値であるF/B補償変速比FBCoutを算出する(S20)。
【0049】
次に、変速制御部12bは、急減速時制御部200において急減速判定成立フラグF_rpddclが成立しているか否かを判定する(S30)。急減速判定成立フラグF_rpddclが成立していないと判定した場合はステップS40に移行し、急減速判定成立フラグF_rpddclが成立していると判定した場合はステップS60に移行する。
【0050】
なお、この急減速判定成立フラグF_rpddclの成否は、図5に示す急減速判定処理によって決定される。
【0051】
ステップS40では、変速制御部12bは急減速状態ではないと判断して、F/B補償変速比FBCoutを指令変速比DsrRTOとして設定する。
【0052】
そして、目標ステップ数設定部107は、この指令変速比DsrRTOに基づいて、マップからステップ数Stepを取得し、このステップ数Stepをステップモータ27に指令する(S50)。
【0053】
一方、ステップS60では、変速制御部12bは、現在の車両状態は急減速状態であると判定する。急減速状態では急激なシフトダウンが実行されないように変速比を所定値に固定する。この所定値は、急減速時指令変速比設定部202により設定された急減速時指令減速比DRatio_rpddclを用いる。
【0054】
このとき、急減速判定部201は、急減速時指令変速比設定部202により設定された急減速時指令減速比DRatio_rpddclを読み込む(S60)。そして、セレクタ部106を制御して、この急減速時指令減速比DRatio_rpddclの値を指令変速比DsrRTOとして設定する(S70)。
【0055】
そして、目標ステップ数設定部107は、この指令変速比DsrRTOに基づいて、マップからステップ数Stepを取得し、ステップモータ27に指令する(S50)。
【0056】
この図4に示すフローチャートの処理によって、急減速状態ではない通常走行時には車両状態及び加速要求に基づいた変速制御を行う。一方、急減速状態と判定された場合は、急激なダウンシフトを抑制すべく、変速比を所定値に固定するように制御する。
【0057】
次に、急減速状態か否かを判定する急減速判定処理について説明する。
【0058】
図5は、急減速判定部201によって行われる急減速判定処理のフローチャートである。このフローチャートは、前述のメイン処理と並行して、急減速判定部201が所定の周期(例えば10ms)で実行する。
【0059】
急減速判定部201は、まず、予め設定された車速しきい値VSP_refと、減速度しきい値(減速度しきい値2)G_data_ref_2と、を読み込む(S101)。なお、これら車速しきい値VSP_refと、減速度しきい値G_data_ref_2は、車両に応じて予め設定して変速機コントローラ12の記憶装置等に予め記憶されている。
【0060】
なお、後述するように、車速しきい値VSP_refは、車両が停止状態か否かを判定するための閾値である。また、減速度しきい値G_data_ref_2は、車両が急減速状態から脱したか否かを判定するための閾値である。
【0061】
次に、急減速判定部201は、車速VSP、減速度G_data、実変速比Ratio及びブレーキ信号を読み込む(S102)。
【0062】
なお、車速VSPは、セカンダリプーリ回転速度Nsecに所定の減速比を乗じることによって算出する。また、実変速比Ratioは、プライマリプーリ回転速度Npriとセカンダリプーリ回転速度Nsecとの除算により算出する。
【0063】
また、減速度G_dataは、加速度センサ20により検出された値を取得する。なお、本発明の実施の形態では、マイナス側の加速度を減速度として取り扱う。すなわち、減速度の値が小さい(数値がマイナス側に大きい)場合は、減速度が大きいものとする。また、減速度G_dataは、加速度センサ20を用いず、車速VSPを求めて、これを時間微分することにより算出してもよい。
【0064】
次に、急減速判定部201は、急減速判定成立フラグF_rpddclが既に成立しているか否かを判定する(S103)。急減速判定成立フラグF_rpddclが成立していないと判定した場合はステップS104に移行し、急減速判定成立フラグF_rpddclが成立していると判定した場合はステップS116に移行する。
【0065】
急減速判定成立フラグF_rpddclは、車両が急減速状態であると判定された場合に成立する。ステップ103において、急減速判定成立フラグF_rpddclが成立していない場合は、ステップS104からS115の処理に移行して急減速状態であるか否かを判定する処理を実行する。一方、既に急減速判定成立フラグF_rpddclが成立している場合は、ステップS116からS118の処理に移行して急減速状態から脱したか否かを判定する処理を実行する。
【0066】
ステップS104では、急減速判定部201は、急減速判定中フラグF_det_rpddclが成立しているか否かを判定する。急減速判定中フラグF_det_rpddclが成立していないと判定した場合はステップS105に移行し、急減速判定中フラグF_det_rpddclが成立していると判定した場合はステップS112に移行する。
【0067】
この急減速判定中フラグF_det_rpddclは、ステップS105からS107の処理により、ブレーキペダルSW28がONとなったとき、すなわち運転者によってブレーキペダルが操作されたことを契機として成立する。この急減速判定中フラグF_det_rpddclが成立している場合は急減速判定中であり、この急減速判定中における車両の状態(減速度、変速比等)によって、急減速状態か否かを判定する。
【0068】
ステップS105では、ブレーキペダルSW28がONとなったか否か、すなわち運転者によってブレーキペダルが操作されたか否かを判定する。ブレーキが操作されていなければ車両が急減速状態か否かの判定は必要ないので、本フローチャートによる処理を終了する。
【0069】
運転者によってブレーキが操作されたと判定した場合は、急減速判定中に移行する。まず、ステップS106に移行して、急減速判定部201は、現在の実変速比Ratioに基づいて、急減速判定部201が持つマップから減速度しきい値(減速度しきい値1)G_data_ref_1を取得する。
【0070】
図6は、目標ステップ数設定部107の減速度しきい値を設定するマップの一例を示す説明図である。
【0071】
この図6に示すマップは、減速度しきい値G_data_ref_1と実変速比Ratioとが対応付けられている。
【0072】
この図6のマップによれば、実変速比RatioがHigh側になるほど、減速度しきい値G_data_ref_1が大きな減速度となるように設定されている。
【0073】
例えば、実変速比RatioがHigh側である場合は、減速度しきい値G_data_ref_1は減速度が比較的大きく(減速度の値が−2G)に設定される。
【0074】
また、実変速比RatioがLow側である場合は、減速度しきい値G_data_ref_1は減速度が比較的小さく(減速度の値が−1G)に設定される。
【0075】
急減速判定部201は、この図6に示すようなマップから、現在の実変速比Ratioに対応する減速度しきい値G_data_ref_1を取得する。
【0076】
次に、急減速判定部201は、急減速判定中フラグF_det_rpddclを成立させる(S107)。この急減速判定中フラグF_det_rpddclの成立により、急減速判定中となる。
【0077】
次に、急減速判定部201は、ステップS102で取得した実減速度G_dataと、ステップS106で取得した減速度しきい値G_data_ref_1とを比較する。そして、比較の結果、実減速度G_dataの値が減速度しきい値G_data_ref_1の値よりも小さいか否か、すなわち、実減速度G_dataの減速度が、減速度しきい値G_data_ref_1よりも大きいか否かを判定する(S108)。
【0078】
実減速度G_dataの減速度が減速度しきい値G_data_ref_1よりも大きいと判定した場合は、急減速判定部201は、急減速状態であると判定し、ステップS109に移行して、急減速判定成立フラグF_rpddclを成立させる。そして、急減速判定中フラグF_det_rpddclを解除する(S110)。次に急減速判定部201は、急減速時指令変速比設定部202に対して、ステップS102において取得した実変速比Ratioを急減速時指令変速比DRatio_rpddclの値として設定するように要求する(S111)。その後、本フローチャートによる処理を終了する。
【0079】
一方、実減速度G_dataの減速度が減速度しきい値G_data_ref_1以下であると判定した場合は、急減速判定部201は、急減速状態ではないと判定し、本フローチャートによる処理を終了する。
【0080】
前述のステップS104において、既に急減速判定中フラグF_det_rpddclが成立していると判定した場合、すなわち、急減速判定中である場合は、ステップS112に移行し、まず、急減速判定部201は、現在の車速VSPがステップS101で取得した車速しきい値VSP_refよりも大きいか否かを判定する。この車速しきい値VSP_refは、車両が停止(または停止寸前)であるか否かの閾値であり、例えば3km/hに設定される。
【0081】
車速VSPが車速しきい値VSP_refよりも大きいと判定した場合は、車両は未だ走行中であると判定して、さらなる判定を行うためにステップS113に移行する。車速VSPが車速しきい値VSP_ref以下であると判定した場合は、車両は急減速状態ではなく既に停止状態であると判定して、ステップS115に移行する。
【0082】
ステップS113では、急減速判定部201は、ブレーキペダルSW28がONであるか否か、すなわちブレーキペダルSW28が操作されて車両が減速中であるか否かを判定する。ブレーキペダルSW28が操作されていると判定した場合は、ステップS114に移行する。ブレーキペダルSW28が操作されていないと判定した場合は、車両は急減速状態ではないと判定して、ステップS115に移行する。
【0083】
ステップS114では、急減速判定部201は、ステップS102で取得した実減速度G_dataと、ステップS101で取得した減速度しきい値G_data_ref_2とを比較する。比較の結果、実減速度G_dataの値が減速度しきい値G_data_ref_2の値以上であるか否か、すなわち、実減速度G_dataの減速度が減速度しきい値G_data_ref_2以下であるか否かを判定する。
【0084】
なお、この減速度しきい値G_data_ref_2は、急減速状態が終了したか否かを判定するための減速度しきい値G_data_ref_1に対するヒステリシスとして設定されている値であり、例えば0Gに設定される。
【0085】
実減速度G_dataの減速度が減速度しきい値G_data_ref_2以上であると判定した場合は、急減速判定部201は、未だ急減速状態が継続していると判定し、ステップS108に移行して、さらに急減速状態であるかを判定する。
【0086】
一方、実減速度G_dataの減速度が減速度しきい値G_data_ref_2よりも小さいと判定した場合は、急減速判定部201は、既に急減速状態ではないと判定して、ステップS115に移行する。
【0087】
前述のステップS112、S113及びS114の処理によって、車両は急減速状態から脱したと判定した場合は、ステップS105において、急減速判定部201は、急減速判定中フラグF_det_rpddclを解除する。これにより、ブレーキペダルの操作を契機として急減速判定中となったが、急減速状態とはならなかったため、急減速状態か否かの判定を行うことなく、本フローチャートによる処理を終了する。
【0088】
前述のステップS103の処理において、既に急減速判定成立フラグF_rpddclが成立していると判定した場合、すなわち急減速状態であると判定した場合は、ステップS116に移行して、急減速判定部201は、現在の車速VSPがステップS101で取得した車速しきい値VSP_refよりも大きいか否かを判定する。
【0089】
車速VSPが車速しきい値VSP_refよりも大きいと判定した場合は、車両は未だ走行中であると判定して、本フローチャートによる処理を終了する。車速VSPが車速しきい値VSP_ref以下であると判定した場合は、車両は急減速状態ではなく既に停止状態であると判定して、ステップS117に移行する。
【0090】
ステップS117では、急減速判定部201は、ステップS102で取得した実減速度G_dataと、ステップS101で取得した減速度しきい値G_data_ref_2とを比較する。比較の結果、実減速度G_dataの値が減速度しきい値G_data_ref_2の値以上であるか否か、すなわち、実減速度G_dataの減速度が減速度しきい値G_data_ref_2以下であるか否かを判定する。
【0091】
実減速度G_dataの減速度が減速度しきい値G_data_ref_2以上であると判定した場合は、急減速判定部201は、未だ急減速状態が継続していると判定して、本フローチャートによる処理を終了する。
【0092】
一方、実減速度G_dataの減速度が減速度しきい値G_data_ref_2よりも小さいと判定した場合は、急減速判定部201は、もはや急減速状態ではないと判定して、ステップS118に移行する。
【0093】
前述のステップS116及びS117の処理によって、車両は急減速状態から脱したと判定した場合は、ステップS118において、急減速判定部201は、急減速判定成立フラグF_rpddclを解除する。その後、本フローチャートによる処理を終了する。
【0094】
この図5に示すフローチャートの処理によって、ブレーキペダルSW28が操作されたことを契機として、急減速状態であるか否かを判定する。特に、急減速状態であるか否かを判断するための閾値(減速度しきい値G_data_ref_1)が、変速比が高いほど減速度が大きくなるように設定したため、変速比がHigh側にあるときは、急減速の減速度がより高い場合のみ変速比の固定を行う制御をする。
【0095】
以上のように構成された本発明の実施の形態によれば、車両が急減速状態となったときに、急減速に伴う急激なシフトダウンによってプライマリプーリ圧Ppriの急減圧によるベルト狭持力の低下が発生して、ベルトの滑りが発生することを防止するために、急減速状態となったときに変速比を所定値に固定するように制御する。このように制御することによって、急減速時に急激なダウンシフトが抑制されて、プライマリプーリ圧Ppriの急減圧によるベルトの滑りを防止することができる。
【0096】
また、この急減速状態であるかの判定を行う閾値(減速度しきい値G_data_ref_1)を、変速比がHigh側であるほど大きな減速度(マイナス側の加速度)となるように設定した。これによって、High側の変速比において、より減速度が高い状態にのみ急減速制御によって変速比を固定するように制御するので、変速比がHigh側に固定された状態で車両が停止することによる再発進性の悪化を防止することができる。
【0097】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内でなしうるさまざまな変更、改良が含まれることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明の実施形態の無段変速機の概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態の変速制御油圧回路および変速機コントローラの概略構成図である。
【図3】本発明の実施形態の変速制御部の構成ブロック図である。
【図4】本発明の実施形態のメイン処理のフローチャートである。
【図5】本発明の実施形態の急減速判定処理のフローチャートである。
【図6】本発明の実施形態の減速度しきい値を設定するマップの説明図である。
【符号の説明】
【0099】
1 無段変速機
2 プライマリプーリ
3 セカンダリプーリ
4 Vベルト(ベルト)
12 変速機コントローラ
13 プライマリプーリ回転速度センサ
14 セカンダリプーリ回転速度センサ
16 スロットル開度センサ
20 加速度センサ
25 変速制御弁
27 ステップモータ(変速アクチュエータ)
28 ブレーキペダルスイッチ(ブレーキペダルSW)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力源から出力された動力が入力されるプライマリプーリと車両の駆動系の出力側に接続されるセカンダリプーリとにベルトを掛け回し、ステップモータを駆動することで前記プライマリプーリへの供給油圧を調整して、前記プライマリプーリ及び前記セカンダリプーリの溝幅を変更することで前記駆動力源の回転速度を無段階に変速して出力するベルト式無段変速機の制御装置において、
車両の減速度を検出する減速度検出手段と、
ブレーキの作動を検出するブレーキ作動検出手段と、
車両の運転状態に基づいて目標変速比を設定し、実変速比を前記目標変速比に収束させるように前記ステップモータの駆動量を制御すると共に、前記車両の減速度が所定のしきい値を超えたときに、所定の変速比を保持するように前記ステップモータの駆動量を制御して、変速比を制御する変速比制御手段と、
を備え、
前記変速比制御手段は、ブレーキの作動を検出したときの実変速比に基づいて、前記所定のしきい値を決定することを特徴とするベルト式無段変速機の制御装置。
【請求項2】
前記しきい値は、前記実変速比がHigh側であるほど大きく設定されていることを特徴とする請求項1に記載の無段変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−287726(P2009−287726A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−142733(P2008−142733)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】