説明

無段変速機

【課題】急変速時の変速応答性を向上することができる無段変速機を提供する。
【解決手段】入力ディスクと出力ディスクとに接触して設けられるパワーローラ4と、パワーローラ4を回転自在、かつ、傾転自在に支持すると共に、該パワーローラ4を入力ディスク及び出力ディスクに対する中立位置から変速位置に移動させることで、入力ディスクと出力ディスクとの回転数比である変速比を変更可能な変速比変更手段5と、目標変速比と実変速比とに基づいたフィードバック制御を行うフィードバック制御手段61と、目標変速比に応じたパワーローラ4の目標移動量の変化率に基づいたフィードフォワード制御を行うフィードフォワード制御手段62とを有し、フィードバック制御手段61とフィードフォワード制御手段62とによって実変速比が目標変速比になるように変速比変更手段5を制御する制御手段60とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機に関し、特に、入力ディスクと出力ディスクとの間に配置されたパワーローラの移動により変速比の変更が行われる、いわゆるトロイダル式の無段変速機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両には、駆動源である内燃機関や電動機からの駆動力、すなわち出力トルクを車両の走行状態に応じた最適の条件で路面に伝達するために、駆動源の出力側に変速機が設けられている。この変速機には、変速比を無段階(連続的)に制御する無段変速機と、変速比を段階的(不連続)に制御する有段変速機とがある。ここで、このような無段変速機、いわゆるCVT(CVT:Continuously Vaiable Transmission)には、入力ディスクと出力ディスクとの間に挟み込んだパワーローラを介して各ディスクの間でトルクを伝達すると共に、パワーローラを傾転させて変速比を変化させる、いわゆる、トロイダル式の無段変速機がある。
【0003】
このトロイダル式無段変速機は、トロイダル面を有する入力ディスクと出力ディスクとの間に、外周面をトロイダル面に対応する曲面としたパワーローラなどの回転部材を挟み込み、これら入力ディスク、出力ディスク及びパワーローラとの間に形成されるトラクションオイルの油膜のせん断力を利用してトルクを伝達するものである。そして、このパワーローラは、トラニオンにより回転自在に支持されており、このトラニオンは、揺動軸を中心として揺動可能であると共に、この揺動軸に沿った方向に移動可能に構成されている。したがって、トラニオンに支持されるパワーローラがこのトラニオンと共に入力ディスク及び出力ディスクに対する中立位置から変速位置に移動することで、パワーローラとディスクとの間にサイドスリップが発生し、このパワーローラが入力ディスク及び出力ディスクに対して揺動軸を中心として揺動、すなわち、傾転し、この結果、入力ディスクと出力ディスクとの回転数比である変速比が変更される。そして、入力ディスクと出力ディスクとの回転数比である変速比は、パワーローラが入力ディスク及び出力ディスクに対して傾転する角度、すなわち、傾転角に基づいて決まり、この傾転角は、当該パワーローラの中立位置から変速位置側への移動量としてのストローク量(オフセット量)に基づいて決まる。
【0004】
なお、このような従来のトロイダル式の無段変速機として、例えば、特許文献1に記載されているトロイダル型無段変速機の変速制御装置では、パワーローラ傾転角とパワーローラオフセット量とをフィードバックして、パワーローラ、言い換えれば、トラニオンを移動させるための変速制御弁が有するステッピングモータへの所定の変速指令値を決定している。そして、この変速制御装置のコントローラは変速指令値を決定するに際し、スロットル開度、車速、変速機入力回転数などに基づいて、第1のフィードバック系を経てフィードバックされるパワーローラ傾転角と目標変速比に対応した目標傾転角との偏差に応じたステップ数SFB及び第2のフィードバック系の傾転角速度演算部を経てフィードバックされる傾転角速度に応じたステップ数SDPを、フィードフォワード系を経てフィードフォワードされる目標傾転角に対応したステップ数SFFに加算して変速指令値を決定することで、外乱によるトルクシフトを抑制すると共にハンチングを抑制している。
【0005】
【特許文献1】特開平8−270772号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このような無段変速機の急変速制御として、例えば、キックダウン変速時においては、図6の従来の無段変速機を説明する線図に示すように、エンジン回転数を引き上げるため、変速機の目標入力回転数(言い換えれば、目標変速比)を時間軸に対して所定の傾きを有するランプ状に設定し、これにより、急変速制御中にて、エンジンに発生するエンジントルクのほとんどをエンジン回転数の上昇に使用し、急変速制御終了後に速やかに変速機の出力トルクを増加するようにしている。そして、このような急変速制御では、例えば、運転者がアクセルペダルを操作してから実際に運転者が変速機の作動を体感するまでのタイムラグにより運転者に対して違和感を与えないようにするためには、アクセル操作から変速終了までの期間をなるべく短期間にすることが好ましい。
【0007】
そして、従来の無段変速機の変速比制御では、目標傾転角(言い換えれば、目標変速比、目標ストローク量)と実際の実傾転角(言い換えれば、実変速比、実ストローク量)との偏差は時間軸に対して徐々にしか発生せず、この結果、ステッピングモータへの変速指令値を急激に増加させ、実ストローク量を急激に増加させることができなかったため、例えば、上記偏差が小さい変速初期にて、大きな変速遅れが発生してしまおそれがあった。このため、上記のような変速フィーリングの低下を抑制するためには、さらなる変速時間の短縮化を図り、さらなる急変速時の変速応答性の向上が望まれていた。
【0008】
そこで本発明は、急変速時の変速応答性を向上することができる無段変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明に無段変速機は、駆動力が入力される入力ディスクと、前記駆動力が出力される出力ディスクと、前記入力ディスクと前記出力ディスクとに接触して設けられるパワーローラと、前記パワーローラを回転自在、かつ、傾転自在に支持すると共に、該パワーローラを前記入力ディスク及び前記出力ディスクに対する中立位置から変速位置に移動させることで、前記入力ディスクと前記出力ディスクとの回転数比である変速比を変更可能な変速比変更手段と、目標の変速比である目標変速比と実際の変速比である実変速比とに基づいたフィードバック制御を行うフィードバック制御手段と、前記目標変速比に応じた前記パワーローラの目標の移動量である目標移動量の変化率に基づいたフィードフォワード制御を行うフィードフォワード制御手段とを有し、前記フィードバック制御手段と前記フィードフォワード制御手段とによって前記実変速比が前記目標変速比になるように前記変速比変更手段を制御する制御手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明による無段変速機では、前記入力ディスク及び前記出力ディスクに対する前記パワーローラの傾転角を検出する傾転角検出手段と、前記変速比変更手段を作動する作動油の元圧となるライン圧を検出するライン圧検出手段と、前記入力ディスクに入力される駆動力である入力トルクを検出する入力トルク検出手段とを備え、前記変速比変更手段は、前記パワーローラを前記中立位置から前記変速位置に移動させて前記傾転角を変更することで前記変速比を変更可能であり、前記フィードフォワード制御手段は、前記目標移動量の変化率を算出する目標移動量変化率算出手段と、前記目標移動量の変化率、前記ライン圧、前記入力トルク及び前記傾転角に基づいて前記変速比変更手段を制御するフィードフォワード制御指令手段とを有することを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明による無段変速機では、前記パワーローラの移動量を検出可能な移動量検出手段を備え、前記フィードバック制御手段は、前記目標変速比に応じた目標の傾転角である目標傾転角と前記実変速比に応じた実際の傾転角である実傾転角とに基づいて前記目標移動量を設定する目標移動量設定手段と、前記実変速比に応じた実際の移動量である実移動量と前記目標移動量とに基づいて前記変速比変更手段を制御するフィードバック制御指令手段とを有することを特徴とする。
【0012】
請求項4に係る発明による無段変速機では、前記フィードバック制御指令手段は、前記目標移動量と前記実移動量とに基づいて前記変速比変更手段を制御するためのフィードバック制御指令値を算出し、前記フィードフォワード制御指令手段は、前記目標移動量の変化率、前記ライン圧、前記入力トルク及び前記傾転角に基づいて前記変速比変更手段を制御するためのフィードフォワード制御指令値を算出し、前記制御手段は、さらに、前記フィードバック制御指令値に前記フィードフォワード制御指令値を加算して実制御指令値を算出する実制御指令値算出手段を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る無段変速機によれば、制御手段によって、目標変速比と実変速比とに基づいたフィードバック制御を行うと共に、目標移動量の変化率に基づいたフィードフォワード制御を行うことで、実変速比が目標変速比になるように変速比変更手段を制御するので、急変速時の変速応答性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明に係る無段変速機の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例】
【0015】
図1は、本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機の概略断面図、図2は、本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機の要部の構成図、図3は、本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機が備えるパワーローラの入力ディスクに対する中立位置を説明する模式図、図4は、本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機が備えるパワーローラの入力ディスクに対する変速位置を説明する模式図、図5は、本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機のECUの要部構成の一例を示す概略構成図である。
【0016】
なお、図2は、トロイダル式無段変速機を構成する各パワーローラのうち任意のパワーローラと、このパワーローラに接触する入力ディスクを示す図である。また、図3、図4は、入力ディスクを出力ディスク側から見た図であり、入力ディスクとパワーローラをそれぞれ1つだけ模式的に図示している。ここで、以下で説明する実施例では、本発明の無段変速機に伝達される駆動力を発生する駆動源としてエンジントルクを発生する内燃機関(ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジンなど)を用いるが、これに限定されるものではなく、モータトルクを発生するモータなどの電動機を駆動源として用いてもよい。また、駆動源として内燃機関及び電動機を併用してもよい。
【0017】
図1に示すように、本実施例に係る無段変速機としてのトロイダル式無段変速機1は、車両に搭載される駆動源としての内燃機関としてのエンジンからの駆動力、すなわち出力トルクを車両の走行状態に応じた最適の条件で車輪に伝達するためのものであり、変速比を無段階(連続的)に制御することができる、いわゆるCVT(CVT:Continuously Vaiable Transmission)である。このトロイダル式無段変速機1は、入力ディスク2と出力ディスク3との間に挟み込んだパワーローラ4を介して各入力ディスク2と出力ディスク3の間でトルクを伝達すると共に、パワーローラ4を傾転させて変速比を変化させる、いわゆる、トロイダル式の無段変速機である。すなわち、このトロイダル式無段変速機1は、トロイダル面2a、3aを有する入力ディスク2と出力ディスク3との間に、外周面をトロイダル面2a、3aに対応する曲面としたパワーローラ4などの回転部材を挟み込み、これら入力ディスク2、出力ディスク3及びパワーローラ4との間に形成されるトラクションオイルの油膜のせん断力を利用してトルクを伝達するものである。
【0018】
具体的には、このトロイダル式無段変速機1は、図1、図2に示すように、入力ディスク2と、出力ディスク3と、パワーローラ4と、変速比変更手段としての変速比変更部5とを備える。変速比変更部5は、支持手段としてのトラニオン6と、移動手段としての移動部7を有する。さらに、移動部7は、油圧ピストン部8と、油圧制御装置9とを有する。また、このトロイダル式無段変速機1は、トロイダル式無段変速機1の各部を制御する制御手段としての電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)60を備える。このトロイダル式無段変速機1では、入力ディスク2と出力ディスク3とに接触して設けられるパワーローラ4が移動部7により入力ディスク2及び出力ディスク3に対して中立位置から変速位置に移動することで、入力ディスク2と出力ディスク3との回転数比である変速比が変更される。
【0019】
入力ディスク2は、エンジン側からの駆動力(トルク)が、例えば、発進機構であり流体伝達装置であるトルクコンバータや遊星歯車機構により構成される前後進切換機構などを介して伝達(入力)されるものである。入力ディスク2は、エンジンの回転に基づいて回転される入力軸10に2つが結合されており、この入力軸10により回転自在に設けられている。したがって、各入力ディスク2は、入力軸10の回転軸線X1を回転中心として回転可能である。そして、各々の入力ディスク2は、中央に開口が形成され、外側から中央側に向け徐々に突出する形状をなす。各入力ディスク2の突出部分の斜面は、回転軸線X1方向に沿った断面がほぼ円弧形状となるように形成され各入力ディスク2のトロイダル面2aをなす。2つの入力ディスク2は、トロイダル面2aが互いに対向するように設けられる。
【0020】
出力ディスク3は、各入力ディスク2に伝達(入力)された駆動力を車輪側に伝達(出力)するものであり、各入力ディスク2に対応して1つずつ、合計2つ設けられる。各入力ディスク2と各出力ディスク3とは、回転軸線X1に同軸上に入力軸10に対して相対的に回転自在に設けられる。したがって、各出力ディスク3は、回転軸線X1を回転中心として回転可能である。そして、各出力ディスク3は、各入力ディスク2とほぼ同一な形状をなし、すなわち、各々の出力ディスク3は、中央に開口が形成され、外側から中央側に向け徐々に突出する形状をなす。各出力ディスク3の突出部分の斜面は、回転軸線X1方向に沿った断面がほぼ円弧形状となるように形成され各出力ディスク3のトロイダル面3aをなす。そして、各出力ディスク3は、回転軸線X1に沿った方向に対して2つの入力ディスク2の間に設けられると共に、各トロイダル面3aが各入力ディスク2のトロイダル面2aにそれぞれ対向するように設けられる。すなわち、回転軸線X1に沿った断面内において、一方の入力ディスク2のトロイダル面2aと一方の出力ディスク3のトロイダル面3aとが半円キャビティを形成し、他方の入力ディスク2のトロイダル面2aと他方の出力ディスク3のトロイダル面3aとが別の半円キャビティを形成している。
【0021】
また、各出力ディスク3は、ベアリングを介し軸11に回転可能に支持されている。この2つの出力ディスク3の間には、出力ギア12が連結されており、この出力ギア12は、2つの出力ディスク3と共に一体で回転可能である。出力ギア12には、カウンターギア13がかみ合わされており、このカウンターギア13に出力軸14が連結されている。したがって、各出力ディスク3の回転に伴い、出力軸14が回転する。なお、上述の軸11は、入力軸10と同一の回転をするものであり、この軸11によって入力ディスク2が回転される。また、入力ディスク2は、軸11にスラストベアリングを介し連結されており、軸11の軸方向に移動可能になっている。
【0022】
パワーローラ4は、入力ディスク2と出力ディスク3と間にこの入力ディスク2と出力ディスク3とに接触して設けられ、入力ディスク2からの駆動力を出力ディスク3に伝達するものである。すなわち、パワーローラ4は、外周面がトロイダル面2a、3aに対応した曲面状の接触面4aとして形成される。そして、パワーローラ4は、入力ディスク2と出力ディスク3との間に挟持され、接触面4aがトロイダル面2a、3aに接触可能であり、各パワーローラ4は、それぞれ後述するトラニオン6によってこの接触面4aがトロイダル面2a、3aに接触しながら、回転軸線X2を回転中心として回転自在に支持されている。パワーローラ4は、トロイダル式無段変速機1に供給されるトラクションオイルにより入力ディスク2と出力ディスク3のトロイダル面2a、3aとパワーローラ4の接触面4aとの間に形成される油膜のせん断力を用いて駆動力(トルク)を伝達する。本実施例では、パワーローラ4は、一対の入力ディスク2及び出力ディスク3(1つのキャビティ)に対して2つずつ、合計4つ設けられる。
【0023】
ここで、入力軸10は、油圧押圧(エンドロード)機構15に接続される。この油圧押圧機構15は、内部に油圧を受け、各入力ディスク2に対してそれぞれ出力ディスク3側に押圧力を作用させることで、各入力ディスク2と各出力ディスク3との間に狭圧力を生じさせ、これによって各パワーローラ4をそれぞれ所定の圧力で入力ディスク2と出力ディスク3との間に挟み込むものである。これによって、入力ディスク2、出力ディスク3とパワーローラ4との間のスリップを防ぎ、トラクション状態を維持することができる。
【0024】
変速比変更部5は、上述したように、トラニオン6と、移動部7を有し、移動部7によって、入力ディスク2及び出力ディスク3の回転軸線X1に対して、トラニオン6と共にパワーローラ4を移動し、パワーローラ4をこの入力ディスク2及び出力ディスク3に対して傾転させることで変速比を変更するものである。ここで、変速比とは、入力ディスク2と出力ディスク3との回転数比であり、典型的には、[変速比=出力側接触半径(パワーローラ4と出力ディスク3とが接触する接触半径(接触点と回転軸線X1との距離))/入力側接触半径(入力ディスク2とパワーローラ4とが接触する接触半径)]で表すことができる。
【0025】
具体的には、各トラニオン6は、パワーローラ4をそれぞれ回転自在に支持すると共に、このパワーローラ4を入力ディスク2及び出力ディスク3に対して移動させ入力ディスク2及び出力ディスク3に対して傾転自在に支持するものである。トラニオン6は、ローラ支持部6aと揺動軸6bとを有する。ローラ支持部6aは、パワーローラ4が配置される空間部6cが形成され、トラニオン6は、この空間部6cにてパワーローラ4を回転自在に支持している。また、ローラ支持部6aは、揺動軸6bと一体で移動可能に設けられる。揺動軸6bは、柱状に形成され回転軸線X3を回転中心として回転可能に設けられる。したがって、トラニオン6は、ローラ支持部6aが揺動軸6bと共に回転軸線X3を回転中心として回転自在にケーシング(不図示)に支持されている。また、トラニオン6は、回転軸線X3に沿った方向に移動自在にケーシング(不図示)に支持され、後述する移動部7によって、回転軸線X3に沿った方向に移動可能に構成される。
【0026】
ここで、トラニオン6は、パワーローラ4の回転軸線X2が揺動軸6bの回転軸線X3と垂直な平面と平行になるようにパワーローラ4を支持している。また、トラニオン6は、揺動軸6bの回転軸線X3が入力ディスク2及び出力ディスク3の回転軸線X1と垂直な平面と平行になるように配置される。すなわち、トラニオン6は、回転軸線X1と垂直な平面内で回転軸線X3に沿って移動することで、パワーローラ4を入力ディスク2及び出力ディスク3の回転軸線X1に対して回転軸線X3に沿って移動させることができる。また、トラニオン6は、回転軸線X3を回転中心として回転揺動することで、パワーローラ4を回転軸線X3と垂直な平面内でこの回転軸線X3を中心として入力ディスク2及び出力ディスク3に対して傾転自在とすることできる。なお、言い換えれば、トラニオン6は、パワーローラ4に後述する傾転力が作用することでこのパワーローラ4を傾転可能に支持していることになる。
【0027】
移動部7は、トラニオン6と共にパワーローラ4を回転軸線X3に沿った方向に移動させるものであり、上述したように、油圧ピストン部8と、油圧制御装置9とを有する。
【0028】
油圧ピストン部8は、フランジ部8aと油圧室8bとを含んで構成され、油圧室8bに導入される作動油の油圧をフランジ部8aにより受圧することで、トラニオン6を回転軸線X3に沿った2方向に移動させるものである。
【0029】
フランジ部8aは、トラニオン6の揺動軸6bの端部に揺動軸6bの径方向に突出するように固定的に設けられており、トラニオン6の揺動軸6bと共に回転軸線X3に沿った方向に移動可能である。また、フランジ部8aは、作動油が導入される油圧室8b内に収容されると共に、この油圧室8b内を回転軸線X3に沿った方向に2つの油圧室、すなわち、第1油圧室OP1と第2油圧室OP2とに区画する。フランジ部8aの径方向外側の端部には、シール部材(不図示)が設けられており、したがって、このフランジ部8aによって区画される油圧室8bの第1油圧室OP1と第2油圧室OP2とは、それぞれこのシール部材により互いに作動油が漏れないようにシールされている。
【0030】
なお、一対の入力ディスク2及び出力ディスク3ごとにパワーローラ4、トラニオン6が2つずつ設けられることから、この第1油圧室OP1及び第2油圧室OP2は、一対の入力ディスク2及び出力ディスク3ごとにそれぞれ2つずつ設けられることになる。このとき、この一対のトラニオン6では、第1油圧室OP1及び第2油圧室OP2の位置関係がトラニオン6ごとに入れ替わっている。つまり、一方のトラニオン6の第1油圧室OP1とした油圧室が他方のトラニオン6の第2油圧室OP2となり、一方のトラニオン6の第2油圧室OP2とした油圧室が他方のトラニオン6の第1油圧室OP1となる。したがって、図2に示すトロイダル式無段変速機1では、一対の入力ディスク2及び出力ディスク3ごとに設けられる2つのパワーローラ4は、第1油圧室OP1又は第2油圧室OP2内の油圧により、回転軸線X3に沿って互いに逆方向に移動することになる。なお、トロイダル式無段変速機1は、一対の入力ディスク2及び出力ディスク3ごとに設けられる2つのパワーローラ4の回転軸線X3に沿った逆方向の移動を同期させるための機構として、ロアリンクやアッパリンクなどにより構成されるリンク機構(不図示)を備えていてもよい。
【0031】
油圧制御装置9は、トランスミッションの各部に作動油を供給するものであり、オイルタンク91と、オイルポンプ92と、第1流量制御弁93と、第2流量制御弁94と、第1通路95と、第2通路96と、供給通路97と、排出通路98とを含んで構成される。
【0032】
オイルタンク91は、トランスミッションの各部に供給する作動油を貯留している。オイルポンプ92は、例えば、エンジンの運転(クランクシャフトの回転)に連動して作動し、オイルタンク91に貯留されている作動油を吸引、加圧し、吐出するものである。この加圧された作動油は、プレッシャーレギュレータバルブ(不図示)を介して、第1流量制御弁93及び第2流量制御弁94や他の流量制御弁などに供給される。なお、このプレッシャーレギュレータバルブは、プレッシャーレギュレータバルブよりも下流側における油圧が所定油圧以上、すなわち、油圧制御装置9の元圧として用いられるライン圧以上になった際に、下流側にある作動油をオイルタンク91に戻して所定のライン圧に調圧するものである。
【0033】
第1流量制御弁93は、第1油圧室OP1に作動油を供給し、第2油圧室OP2から作動油を排出するものである一方、第2流量制御弁94は、第2油圧室OP2に作動油を供給し、第1油圧室OP1から作動油を排出するものである。第1流量制御弁93は、油路構成本体部93aと、スプール弁子93bと、作動油供給ポート93cと、作動油排出ポート93dと、第1油圧室連通ポート93eと、第2油圧室連通ポート93fと、第1弾性部材93gと、第1ソレノイド93hとにより構成される。一方、第2流量制御弁94は、油路構成本体部94aと、スプール弁子94bと、作動油供給ポート94cと、作動油排出ポート94dと、第2油圧室連通ポート94eと、第1油圧室連通ポート94fと、第2弾性部材94gと、第2ソレノイド94hとにより構成される。
【0034】
油路構成本体部93a、94aは、油路を構成するものであり、それぞれ、構成された油路と連通する作動油供給ポート93c、94c、作動油排出ポート93d、94dと、第1油圧室連通ポート93e、94fと、第2油圧室連通ポート93f、94eが形成される。油路構成本体部93a、94aに構成される油路は、それぞれスプール弁子93b、94bが挿入されている。スプール弁子93b、94bは、各ポートの連通状態を切り替えるものである。
【0035】
作動油供給ポート93c、94cは、供給通路97を介してオイルポンプ92と接続されており、この作動油供給ポート93c、94cにはオイルポンプ92によりライン圧に加圧された作動油が供給される。作動油排出ポート93d、94dは、排出通路98を介してオイルタンク91と接続されている。第1流量制御弁93の第1油圧室連通ポート93eは、第1通路95を介して第1油圧室OP1と接続されると共に、第2流量制御弁94の第1油圧室連通ポート94fと接続される。また、第1流量制御弁93の第2油圧室連通ポート93fは、第2通路96を介して第2油圧室OP2と接続されると共に、第2流量制御弁94の第2油圧室連通ポート94eと接続される。
【0036】
そして、第1弾性部材93g、第2弾性部材94gは、それぞれ、スプール弁子93b、94bの一端側に設けられる一方、第1ソレノイド93h、第2ソレノイド94hは、それぞれ、スプール弁子93b、94bの他端側に設けられる。第1弾性部材93g、第2弾性部材94gは、スプール弁子93b、94bを第1ソレノイド93h、第2ソレノイド94h側(OFF側)に移動させる付勢力を作用させる一方、第1ソレノイド93h、第2ソレノイド94hは、供給される駆動電流に応じて発生する電磁力により、当該付勢力に抵抗してスプール弁子93b、94bを第1弾性部材93g、第2弾性部材94g側(ON側)に移動させる押圧力を作用させる。
【0037】
また、この第1ソレノイド93h、第2ソレノイド94hは、制御手段としてのECU60と電気的に接続されており、このECU60により駆動制御されている。したがって、スプール弁子93b、94bには、第1ソレノイド93h、第2ソレノイド94hに供給される駆動電流に応じた押圧力が作用する。
【0038】
例えば、ECU60は、第1流量制御弁93がOFF状態(図2に示すOFFの分部)では、第1ソレノイド93hに供給する駆動電流を0Aとする。したがって、スプール弁子93bには、第1ソレノイド93hによる押圧力が作用しないため第1弾性部材93gによる付勢力のみが作用し、スプール弁子93bは、第1ソレノイド93h側のOFF位置に位置する。このとき、作動油供給ポート93cと第1油圧室連通ポート93eとの連通が遮断され、作動油排出ポート93dと第2油圧室連通ポート93fとの連通が遮断される。つまり、第1流量制御弁93がOFF状態では、オイルポンプ92により加圧された作動油は第1油圧室OP1に供給されず、第2油圧室OP2内の作動油は、排出されない。
【0039】
一方、ECU60は、第1流量制御弁93がON状態(図2に示すONの分部)では、第1ソレノイド93hに駆動電流を供給する。このとき、ECU60は、トロイダル式無段変速機1の変速比や変速速度などに基づいて駆動電流を設定する。したがって、スプール弁子93bには、第1ソレノイド93hによる押圧力と第1弾性部材93gによる付勢力とが作用する。第1ソレノイド93hによる押圧力が第1弾性部材93gによる付勢力よりも大きくなると、スプール弁子93bは、第1弾性部材93g側に移動し、OFF位置以外のON位置(最大ON位置は図2のONの部分)に位置する。このとき、作動油供給ポート93cと第1油圧室連通ポート93eとが連通され、作動油排出ポート93dと第2油圧室連通ポート93fとが連通される。つまり、第1流量制御弁93がON状態では、オイルポンプ92により加圧された作動油は第1油圧室OP1に供給され、第2油圧室OP2内の作動油は排出される。これにより、第1油圧室OP1の油圧がフランジ部8aに作用し[第1油圧室OP1の油圧>第2油圧室OP2の油圧]となることで、油圧ピストン部8のフランジ部8aが回転軸線X3に沿った第1方向A1に押圧され、トラニオン6と共にパワーローラ4が回転軸線X3に沿った第1方向A1に移動する。このとき、スプール弁子93bのON側への移動量に応じて、パワーローラ4の第1方向Aへの移動が調整される。
【0040】
同様に、第2流量制御弁94のOFF状態(図2に示すOFFの分部)では、ECU60は、第2ソレノイド94hに供給する駆動電流を0Aとする。このとき、作動油供給ポート94cと第2油圧室連通ポート94eとの連通が遮断され、作動油排出ポート94dと第1油圧室連通ポート94fとの連通が遮断され、オイルポンプ92により加圧された作動油は第2油圧室OP2に供給されず、第1油圧室OP1内の作動油は、排出されない。第2流量制御弁94のON状態(図2に示すOFFの分部)では、ECU60は、第2ソレノイド94hに駆動電流を供給する。このとき、作動油供給ポート94cと第2油圧室連通ポート94eとが連通され、作動油排出ポート94dと第1油圧室連通ポート94fとが連通され、オイルポンプ92により加圧された作動油は第2油圧室OP2に供給され、第1油圧室OP1内の作動油は排出される。これにより、第2油圧室OP2の油圧がフランジ部8aに作用し[第1油圧室OP1の油圧<第2油圧室OP2の油圧]となることで、油圧ピストン部8のフランジ部8aが回転軸線X3に沿った第2方向A2に押圧され、トラニオン6と共にパワーローラ4が回転軸線X3に沿った第2方向A2に移動する。
【0041】
したがって、この移動部7は、ECU60により油圧制御装置9が駆動され油圧ピストン部8の各油室内の油圧が制御されることで、トラニオン6と共にパワーローラ4を回転軸線X3に沿った2方向、すなわち、第1方向A1と第2方向A2とに移動させることができる。そして、変速比変更部5は、この移動部7によって、トラニオン6と共にパワーローラ4を入力ディスク2及び出力ディスク3に対する中立位置(図3参照)から変速比に応じた変速位置(図4参照)に移動させ、このパワーローラ4を入力ディスク2及び出力ディスク3に対して傾転させることで変速比を変更することができる。
【0042】
ここで、図3に示すように、パワーローラ4の入力ディスク2及び出力ディスク3に対する中立位置は、変速比が固定される位置であり、パワーローラ4を入力ディスク2及び出力ディスク3に対して傾転させる傾転力がこのパワーローラ4に作用不能な位置である。すなわち、パワーローラ4が中立位置にあり、変速比が固定されている状態では、パワーローラ4の回転軸線X2は、回転軸線X1を含む平面で、かつ、回転軸線X3と垂直な平面内に設定される。言い換えれば、パワーローラ4の中立位置(変速比固定時)では、パワーローラ4の回転軸線X3に沿った方向の位置は、このパワーローラ4の回転軸線X2が回転軸線X1を通る(直交する)位置に設定される。このとき、パワーローラ4と入力ディスク2との接触点において、パワーローラ4の回転方向(転がる方向)と入力ディスク2の回転方向とが一致しており、この結果、パワーローラ4に傾転力が作用させず、したがって、パワーローラ4は、この中立位置にとどまりながら入力ディスク2とともに回転をつづけ、この間の変速比は固定されている。このとき、入力ディスク2からパワーローラ4に作用する力は駆動力(トルク)だけであるので、移動部7の油圧ピストン部8と油圧制御装置9とは、油圧によりこの駆動力に抗するだけの力をトラニオン6に作用させている。
【0043】
一方、図4に示すように、パワーローラ4の変速位置は、変速比が変更される位置であり、パワーローラ4を入力ディスク2及び出力ディスク3に対して傾転させる傾転力がこのパワーローラ4に作用する位置である。すなわち、パワーローラ4が変速位置にあり、変速比が変更される状態では、パワーローラ4の回転軸線X2は、回転軸線X1を含む平面で、かつ、回転軸線X3と垂直な平面内から回転軸線X3に沿った第1方向A1あるいは第2方向A2に移動した位置に設定される。言い換えれば、パワーローラ4の変速位置(変速時)では、パワーローラ4の回転軸線X3に沿った方向の位置は、このパワーローラ4の回転軸線X2が回転軸線X1を通る位置、すなわち、中立位置からオフセットされた位置に設定される。このとき、パワーローラ4と入力ディスク2との接触点において、パワーローラ4の回転方向と入力ディスク2の回転方向とがずれ、これにより、パワーローラ4に傾転力が作用する。この結果、パワーローラ4に作用する傾転力によりパワーローラ4と入力ディスク2及び出力ディスク3との間にサイドスリップが発生し、パワーローラ4は、入力ディスク2及び出力ディスク3に対して傾転し、パワーローラ4と入力ディスク2との入力側接触半径と、パワーローラ4と出力ディスク3との出力側接触半径とが変更され、したがって、変速比が変更される。
【0044】
例えば、本図4に示すように、入力ディスク2が図4中の矢印B方向(反時計回り)に回転している状態において、パワーローラ4を回転軸線X3に沿った第2方向A2(パワーローラ4と入力ディスク2と接触点における入力ディスク2の移動方向とは反対方向、すなわち、入力ディスク2の回転方向に逆らう方向)にオフセットする。すると、パワーローラ4と入力ディスク2との接触点において、パワーローラ4に入力ディスク2の円周方向の力が作用し、パワーローラ4を入力ディスク2の周辺側に移動させる方向(パワーローラ4を入力ディスク2の回転軸線X1から離間させる方向)の傾転力が作用する。この結果、パワーローラ4は、入力ディスク2との接触点が入力ディスク2の径方向外方側に移動すると共に出力ディスク3との接触点が出力ディスク3の径方向内方側に移動するように傾転し、変速比が減少側に変更され、アップシフトする。そして、パワーローラ4が再び中立位置に戻ることで変更された変速比が固定される。
【0045】
逆に、ダウンシフトする場合は、パワーローラ4を回転軸線X3に沿った第1方向A1(パワーローラ4と入力ディスク2と接触点における入力ディスク2の移動方向、すなわち、入力ディスク2の回転方向に沿う方向)にオフセットする。すると、パワーローラ4と入力ディスク2との接触点において、パワーローラ4に入力ディスク2の円周方向の力が作用し、パワーローラ4を入力ディスク2の中心側に移動させる方向(パワーローラ4を入力ディスク2の回転軸線X1に近接させる方向)の傾転力が作用する。この結果、パワーローラ4は、入力ディスク2との接触点が入力ディスク2の径方向内方側に移動すると共に出力ディスク3との接触点が出力ディスク3の径方向外方側に移動するように傾転し、変速比が増加側に変更され、ダウンシフトする。そして、パワーローラ4が再び中立位置に戻ることで変更された変速比が固定される。
【0046】
ここで、このパワーローラ4の位置は、中立位置からのストローク量(x)と入力ディスク2及び出力ディスク3に対する傾転角(φ)により決定される。パワーローラ4のストローク量は、パワーローラ4の回転軸線X2が入力ディスク2及び出力ディスク3の回転軸線X1を通る中立位置を基準位置として、この中立位置から第1方向A1あるいは第2方向A2への移動量(中立位置からのオフセット量)である。パワーローラ4の傾転角は、パワーローラ4の回転中心である回転軸線X2が入力ディスク2及び出力ディスク3の回転中心である回転軸線X1と直交する位置を基準位置として、この基準位置から入力ディスク2及び出力ディスク3に対する傾斜角度(鋭角側の傾斜角度)であり、言い換えれば、回転軸線X3周りの回転角度である。そして、このトロイダル式無段変速機1の変速比は、パワーローラ4の入力ディスク2及び出力ディスク3に対する傾転角によって定まり、この傾転角は、パワーローラ4の中立位置からのストローク量により定まる。
【0047】
ここで、ECU60は、トロイダル式無段変速機1の運転状態に応じてトロイダル式無段変速機1の各部の駆動を制御しトロイダル式無段変速機1の実際の変速比である実変速比を制御するものである。すなわち、ECU60は、例えば、種々のセンサが検出するスロットル開度、アクセル開度、エンジン回転数、入力ディスク回転数、出力軸回転数、シフトポジション、ライン圧などの運転状態や傾転角、ストローク量などに基づいて、目標の変速比である目標変速比を決定すると共に変速比変更部5を駆動してパワーローラ4を中立位置から変速位置側に所定のストローク量まで移動させて、所定の傾転角まで傾転させることで変速比の変更を実行する。さらに言えば、ECU60は、第1ソレノイド93h、第2ソレノイド94hに供給する駆動電流を制御することで、第1流量制御弁93又は第2流量制御弁94のON/OFF状態を制御し、これにより、油圧ピストン部8の第1油圧室OP1、第2油圧室OP2の油圧を制御して、トラニオン6と共にパワーローラ4を中立位置から変速位置側に所定のストローク量まで移動させて所定の傾転角まで傾転させることで、実変速比が目標変速比となるように制御する。
【0048】
具体的には、図2示すように、ECU60は、上述したように、第1ソレノイド93h、第2ソレノイド94hに電気的に接続されており、第1ソレノイド93h、第2ソレノイド94hをデューティ制御している。さらに、ECU60は、傾転角検出手段としての傾転角センサ50と、移動量検出手段としてのストロークセンサ51と、ライン圧検出手段としてのライン圧センサ52が電気的に接続されている。また、ECU60は、この他にも入力回転数センサ53、出力回転数センサ54、アクセル開度センサ55、車速センサ56、スロットル開度センサ57、シフトポジションセンサ58などの種々のセンサが電気的に接続されている。傾転角センサ50は、パワーローラ4の入力ディスク2及び出力ディスク3に対する傾転角(φ)を検出し、検出した傾転角をECU60に送信する。ここで、傾転角センサ50が検出する傾転角は、パワーローラ4と共に回転軸線X3周り回転するトラニオン6の回転軸線X3周りの回転角度として検出している。ストロークセンサ51は、パワーローラ4の中立位置からのストローク量(x)を検出し、検出したストローク量をECU60に送信する。ここで、ストロークセンサ51が検出するパワーローラ4のストローク量は、このパワーローラ4共に回転軸線X3に沿った方向に移動するトラニオン6のストローク量として検出している。ライン圧センサ52は、油圧制御装置9の元圧として用いられるライン圧(P)を検出し、検出したライン圧をECU60に送信する。また、入力回転数センサ53は、入力ディスク2の回転数である入力回転数及び回転方向を検出し、検出した入力回転数及び回転方向をECU60に送信する。出力回転数センサ54は、出力ディスク3の回転数である出力回転数及び回転方向を検出し、検出した出力回転数及び回転方向をECU60に送信する。アクセル開度センサ55はこのトロイダル式無段変速機1が搭載される車両のアクセル開度を、車速センサ56は車速を、スロットル開度センサ57はスロットル開度を、シフトポジションセンサ58はシフトポジションをそれぞれ検出し、それぞれ検出したアクセル開度、車速、スロットル開度、シフトポジションをECU60に送信する。
【0049】
上記のようなトロイダル式無段変速機1は、入力ディスク2に駆動力(トルク)が入力されると、その入力ディスク2にトラクションオイルを介して接触しているパワーローラ4に駆動力が伝達され、さらにそのパワーローラ4から出力ディスク3にトラクションオイルを介して駆動力が伝達される。この間、トラクションオイルは加圧されることによりガラス転移化し、それに伴う大きいせん断力によって駆動力を伝達するので、各入力ディスク2、出力ディスク3は、入力トルクに応じた圧力がパワーローラ4との間に生じるように、油圧押圧機構15により押圧される。また、パワーローラ4の周速と各入力ディスク2、出力ディスク3のトルク伝達点(パワーローラ4がトラクションオイルを介して接触している接触点)の周速とが実質的に同じであるから、入力ディスク2とパワーローラ4との接触点の回転軸線X1からの半径と、パワーローラ4と出力ディスク3との接触点の回転軸線X1からの半径とに応じて、各入力ディスク2、出力ディスク3の回転数(回転速度)が異なることとなり、その回転数(回転速度)の比率が変速比となる。
【0050】
そして、ECU60は、変速比を設定した目標変速比に変更する場合、すなわち、変速比の変速の場合は、入力ディスク2の回転方向に基づいて、第1ソレノイド93hあるいは第2ソレノイド94hに駆動電流を供給し、第1流量制御弁93あるいは第2流量制御弁94をON状態とすることで、パワーローラ4が目標変速比に応じた傾転角になるまで、トラニオン6を中立位置から第1方向A1あるいは第2方向A2に移動させる。例えば、入力ディスク2が図2中の矢印B方向(反時計回り)に回転している状態において、第1流量制御弁93をON状態、第2流量制御弁94をOFF状態として、第1油圧室OP1の油圧によりパワーローラ4を中立位置から回転軸線X3に沿った第1方向A1に移動させると、上述したように変速比が増加しダウンシフトが行われる。一方、入力ディスク2が図2中の矢印B方向(反時計回り)に回転している状態において、第1流量制御弁93をOFF状態、第2流量制御弁94をON状態として、第2油圧室OP2の油圧によりパワーローラ4を中立位置から回転軸線X3に沿った第2方向A2に移動させると、上述したように変速比が減少しアップシフトが行われる。また、設定された変速比を固定する場合は、第1ソレノイド93hあるいは第2ソレノイド94hに駆動電流を供給し、第1流量制御弁93あるいは第2流量制御弁94をON状態とすることでパワーローラ4が中立位置となるまで、トラニオン6を第1方向A1あるいは第2方向A2に移動させる。
【0051】
ここで、このECU60は、傾転角センサ50によって検出されるパワーローラ4の傾転角(φ)とストロークセンサ51によって検出されるストローク量(x)に基づいて、実変速比(実際の変速比)が目標変速比(変速後の目標の変速比)となるようにカスケード式のフィードバック制御を行っている。すなわち、このECU60は、アクセル開度及び車速に基づいて目標変速比に対応した目標の傾転角である目標傾転角を決定し、この目標傾転角と傾転角センサ50によって検出した実際の傾転角である実傾転角との偏差に基づいて、目標変速比、目標傾転角に対応した目標のストローク量である目標ストローク量を決定し、ストロークセンサ51が検出したストローク量がこの目標ストローク量となるように移動部7の第1流量制御弁93、第2流量制御弁94を制御している。このようなトロイダル式無段変速機1の変速制御では、基本的には、傾転角センサ50によって検出される傾転角(言い換えれば、変速比)のみをフィードバック制御すればよいが、ストローク量が傾転角の微分に相当することから、ストロークセンサ51によって検出されるストローク量のフィードバック制御もあわせて行うことで、傾転制御における振動を抑制するダンピング効果を得ることができる。
【0052】
ところで、このようなトロイダル式無段変速機1の急変速制御として、例えば、アクセルペダルが全開付近まで踏み込まれる、いわゆる、キックダウン操作がなされた際に、現時点での駆動力よりも大きな駆動力で運転するため変速比を増加させてダウンシフトが実行される。このようなキックダウン変速時においては、エンジン回転数を引き上げるため、トロイダル式無段変速機1の目標入力回転数(言い換えれば、目標変速比)を、例えば、図6に示すように、時間軸に対して所定の傾きを有するランプ(斜面路)状に設定し、これにより、急変速制御中にて、エンジンに発生するエンジントルクのほとんどをエンジン回転数の上昇に使用し、急変速制御終了後に速やかに変速機の出力トルクを増加するようにしている。この場合、エンジントルクのほとんどをエンジン回転数の上昇に使用されるがためにトロイダル式無段変速機1の出力トルクの上昇が抑制される。そして、このような急変速制御では、例えば、運転者がアクセルペダルを操作してから実際に運転者が変速機の作動を体感するまでの期間(言い換えれば、アクセルペダル操作から出力トルクの増加までの期間)により運転者に対して違和感を与えないようにするためには、アクセル操作から変速終了までの期間をなるべく短期間(例えば、0.3秒以内)にすることが好ましい。
【0053】
ここで、上記のような目標傾転角と実傾転角との偏差や目標のストローク量と実ストローク量との偏差に基づいて実変速比を目標変速比とするフィードバック制御による変速比制御では、目標傾転角と実傾転角との偏差、目標のストローク量と実ストローク量との偏差(言い換えれば、実変速比と目標変速比との偏差)は、時間軸に対して徐々にしか発生せず、この結果、移動部7の第1流量制御弁93、第2流量制御弁94への制御指令値を急激に増加させ、実ストローク量を急激に増加させることができなかったため、例えば、上記偏差が小さい変速初期にて、大きな変速遅れが発生してしまおそれがある。このため、上記のような変速フィーリングの低下を抑制するためには、さらなる変速時間の短縮化を図り、さらなる急変速時の変速応答性の向上が望まれている。
【0054】
そこで、本実施例のトロイダル式無段変速機1は、制御手段としてのECU60によって、目標変速比と実変速比とに基づいたフィードバック制御と共に、目標移動量の変化率に基づいたフィードフォワード制御を行って実変速比が目標変速比になるように変速比変更部5を制御することで、急変速時の変速応答性の向上を図っている。
【0055】
具体的には、本実施例のECU60は、図2、図5に示すように、フィードバック制御を行うフィードバック制御手段としてのフィードバック制御部61と、フィードフォワード制御を行うフィードフォワード制御手段としてのフィードフォワード制御部62と、実制御指令値算出手段としての流量制御弁制御指令値算出部63とを有する。そして、ECU60は、流量制御弁制御指令値算出部63がフィードバック制御部61にて算出されるフィードバック制御指令値と、フィードフォワード制御部62にて算出されるフィードフォワード制御指令値とに基づいて、第1流量制御弁93、第2流量制御弁94を制御するための実制御指令値を算出することで、フィードバック制御部61とフィードフォワード制御部62とによって実変速比が目標変速比になるように変速比変更部5を制御する。
【0056】
フィードバック制御部61は、目標変速比と実変速比とに基づいたフィードバック制御を行うものであり、目標移動量設定手段としての目標ストローク量設定部64と、フィードバック制御指令手段としてのFB制御指令値算出部65とを有する。
【0057】
ECU60は、まず、アクセル開度センサ55が検出するアクセル開度と車速センサ56が検出する車速などから目標の変速比である目標変速比を決定する。ここで、例えば、アクセル開度などで表される要求駆動量と車速とに基づいて要求駆動力が算出され、その要求駆動力と車速とから目標出力が求められ、その目標出力を最小の燃費で達成するエンジンの回転数が求められ、トロイダル式無段変速機1の入力回転数がそのエンジンの回転数に相当する回転数となるように目標変速比が求められる。そして、パワーローラ4と入力ディスク2及び出力ディスク3との接触点がわかれば、変速比と傾転角との関係は幾何学形状だけで定まるため、目標変速比から目標傾転角を求めることができる。
【0058】
目標ストローク量設定部64は、この目標変速比と実変速比との偏差に基づいて目標ストローク量を設定する。本実施例の目標ストローク量設定部64は、実変速比と目標変速比との偏差として、上述のように目標変速比から目標傾転角を算出し、この算出した目標傾転角と傾転角センサ50が検出した実傾転角(実変速比に応じた実傾転角)との偏差を算出する。そして、目標ストローク量設定部64は、この目標傾転角と実傾転角との偏差に基づいて、実変速比を目標変速比に変更するための目標ストローク量、言い換えれば、実傾転角を目標傾転角に追従させることで実変速比を目標変速比に追従させるための目標ストローク量を設定する。
【0059】
FB制御指令値算出部65は、ストロークセンサ51により検出され実変速比に応じた実ストローク量と目標ストローク量設定部64が設定した目標ストローク量との偏差に基づいて変速比変更部5を制御する。すなわち、FB制御指令値算出部65は、実ストローク量と目標ストローク量との偏差に基づいて変速比変更部5の第1流量制御弁93、第2流量制御弁94を制御するためのフィードバック制御指令値(例えばデューティ比)を算出する。
【0060】
フィードフォワード制御部62は、目標変速比に応じたパワーローラ4(トラニオン6)の目標ストローク量の変化率に基づいたフィードフォワード制御を行うものであり、目標移動量変化率算出手段としての目標ストローク量変化率算出部66と、フィードフォワード制御指令手段としてのFF制御指令値算出部67を有する。
【0061】
目標ストローク量変化率算出部66は、目標ストローク量設定部64が設定した目標ストローク量の変化率を算出する。目標ストローク量変化率算出部66は、目標ストローク量の変化率を、例えば、現時点で設定されている目標ストローク量の移動平均と前回設定されていた目標ストローク量の移動平均との差分を算出、現時点で設定されている目標ストローク量と前回設定されていた目標ストローク量との差分を算出、あるいは、現時点で設定されている目標ストローク量と前回設定されていた目標ストローク量との差分にローパスフィルタをかける、などの種々の方法で算出すればよい。
【0062】
ここで、入力としての変速比変更部5の第1流量制御弁93、第2流量制御弁94を制御するための制御指令値に対する出力としてのトラニオン6(パワーローラ4)のストローク量の動特性(入力としての制御指令値から出力としてのストローク量までの動特性)は、下記数式(1)により表すことができる。ここで、数式(1)において、「X」はトラニオン6(パワーローラ4)のストローク量、「duty」は、第1流量制御弁93、第2流量制御弁94を制御するための制御指令値、「k」は、ライン圧、トロイダル式無段変速機1への入力トルク、傾転角に応じて定まる定数である。
【0063】
【数1】

【0064】
上記数式(1)において、制御指令値dutyに対するストローク量Xの動特性には、積分関係(1次遅れ系)があるが、目標ストローク量の変化率に基づいた見込値をFB制御指令値算出部65により算出されたフィードバック制御指令値に加算することで、上記の遅れを大幅に軽減することができる。すなわち、フィードフォワード制御部62は、フィードバック制御部61のFB制御指令値算出部65により算出されるフィードバック制御指令値に、目標ストローク量の変化率に応じたストローク量増加分の制御指令値の見込値として、目標ストローク量変化率算出部66が算出した目標ストローク量の変化率に応じて後述するFF制御指令値算出部67により算出されるフィードフォワード制御指令値を加算してトータルの制御指令値を増加させ、言い換えれば、フィードバック制御指令値に応じたストローク量に、目標ストローク量の変化率に応じたストローク量増加分の制御指令値の見込値としてのフィードフォワード制御指令値に応じたストローク量を加算してトータルの制御指令値に応じたストローク量を増加させる。これにより、目標傾転角と実傾転角との偏差や目標のストローク量と実ストローク量との偏差に基づいたフィードバック制御では、当該偏差が時間軸に対して徐々にしか発生せず第1流量制御弁93、第2流量制御弁94への制御指令値を急激に増加させ、実ストローク量を急激に増加させることができなくても、例えば、目標ストローク量の変化率が大きい急変速時には、このフィードフォワード制御部62により第1流量制御弁93、第2流量制御弁94への制御指令値を急激に増加させることができ、上記偏差が小さい変速初期にて、大きな変速遅れが発生することを防止することができる。
【0065】
ここで、上記数式(1)の定数kは、ライン圧、トロイダル式無段変速機1への入力トルク、傾転角(言い換えれば、変速比)に応じて定まる定数である。このため、目標ストローク量の変化率に応じたストローク量増加分の制御指令値の見込値は、トロイダル式無段変速機1の運転状態に応じたライン圧、入力トルク、傾転角に基づいて補正されることで、トロイダル式無段変速機1の運転状態に応じて適正化することができ、この結果、好適な応答遅れ補償が可能となる。
【0066】
このため、FF制御指令値算出部67は、目標ストローク量変化率算出部66が算出した目標ストローク量の変化率に応じたフィードフォワード制御をライン圧センサ52により検出されたライン圧、傾転角センサ50により検出された傾転角及び入力ディスク2(図1参照)への入力トルクに基づいて補正している。
【0067】
ここで、このECU60は、上述の入力ディスク2に入力される駆動力である入力トルクを検出するための入力トルク検出手段としての入力トルク演算部73(図5参照)を有する。この入力トルク演算部73は、種々の方法で入力トルクを演算することができるものであり、例えば、スロットル開度、アクセル開度、エンジン回転数などに基づいてエンジンが発生する駆動力(エンジントルク)を算出し、算出した駆動力(エンジントルク)にトルクコンバータのトルク比を乗じることなどにより、入力トルクを推定演算することができる。
【0068】
そして、このFF制御指令値算出部67は、目標ストローク量の変化率、ライン圧、入力トルク及び傾転角に基づいて、下記数式(2)、(3)により、変速比変更部5を制御するためのフィードフォワード制御指令値(例えばデューティ比)を算出する。ここで、数式(2)、(3)において、「dutyFF」は、補正後のフィードフォワード制御部62によるフィードフォワード制御指令値、「A」は、ピストン面積(油圧ピストン部8のフランジ部8aの受圧面積)、「P」は、ライン圧センサ52により検出されるライン圧、「X」は、目標ストローク量設定部64により設定される目標ストローク量である。目標ストローク量変化率算出部66が算出した目標ストローク量の変化率は、数式(2)における「dX/dt」により表される。また、「K」は、第1流量制御弁93、第2流量制御弁94の諸元値から定まる係数、「φ」は、傾転角センサ50により検出される傾転角、「TIN」は、入力トルク演算部73により演算される入力ディスク2への入力トルク、「r」は、キャビティ半径 、「e」は、ディスク仮想最小半径である。図1に示すように、キャビティ半径rは、トロイダル面2aとトロイダル面3aとが形成する半円キャビティの半径、言い換えれば、パワーローラ4の傾転中心からパワーローラ4とトロイダル面2aとの接触点までの距離であり、ディスク仮想最小半径eは、入力ディスク2のトロイダル面2aにおいて回転軸線X1に最も近接した点からこの回転軸線X1までの距離、言い換えれば、回転軸線X1からパワーローラ4の傾転中心までの距離からキャビティ半径rを減算した距離である。したがって、入力ディスク2の回転軸線X1からパワーローラ4の傾転中心までの距離は、r+eとなる。「Freact」は、入力トルクTINに応じてパワーローラ4と入力ディスク2との接触点に作用する接線力であり、入力ディスク2の回転方向下流側にトラニオン6を押し下げる力である。
【0069】
【数2】

【数3】

【0070】
例えば、上述のようなキックダウン急変速中においては、ライン圧Pや入力トルクTINの外乱も大きくなる。FF制御指令値算出部67は、このような外乱を低減するため、目標ストローク量の変化率に応じたストローク量増加分の制御指令値の見込値を上記数式(2)、(3)により補正してフィードフォワード制御指令値を算出することで、トロイダル式無段変速機1の運転状態に応じてフィードフォワード制御指令値を適正化することができ、この結果、フィードフォワード制御部62にて、変速比変更部5の油圧制御装置9による油圧制御系の応答遅れを大幅に改善することができる。
【0071】
そして、流量制御弁制御指令値算出部63は、FB制御指令値算出部65が算出したフィードバック制御指令値に、FF制御指令値算出部67が算出したフィードフォワード制御指令値を加算して実制御指令値を算出する。そして、この実制御指令値に応じた駆動電流が第1ソレノイド93h、第2ソレノイド94hに供給され、これにより、第1流量制御弁93、第2流量制御弁94のON・OFF状態が制御され、この結果、油圧ピストン部8の第1油圧室OP1、第2油圧室OP2内の油圧が制御され、パワーローラ4の実ストローク量が目標ストローク量となり実変速比が目標変速比となるようにトラニオン6が移動される。
【0072】
図5は、ECU60の要部構成の一例を示す概略構成図である。このECU60が備えるフィードバック制御部61は、減算器68、71、積算器69、72及び加算器70を有する。上述のようにアクセル開度、車速に基づき目標変速比が決定され、これに対応する目標傾転角Φが決定される。この目標傾転角Φは、減算器68に入力される。減算器68は、傾転角センサ50により実際に検出された実傾転角Φが入力されており、目標変速比と現時点での実変速比との偏差として、目標傾転角Φと現時点での実傾転角Φとの偏差ΔΦを算出し出力する。この減算器68の出力である目標傾転角Φと実傾転角Φとの偏差ΔΦは、積算器69に入力される。この積算器69は、目標傾転角Φと実傾転角Φとの偏差ΔΦに所定のゲインKφを乗算し、Kφ×ΔΦを算出して出力する。このKφ×ΔΦが目標変速比と現在の実変速比の差に応じて決定される目標ストロークオフセット量ΔXとなる。この積算器69の出力である目標ストロークオフセット量ΔX=Kφ×ΔΦは、加算器70に入力される。加算器70は、パワーローラ4及びトラニオン6の中立位置における中立位置ストローク量Xの検出値が入力されており、目標ストロークオフセット量ΔXと中立位置ストローク量Xとの和を算出して出力する。この目標ストロークオフセット量ΔXと中立位置ストローク量Xとの和が目標変速比と現在の実変速比の差に応じて決定される目標ストローク量Xとなる。すなわち、この減算器68と、積算器69と、加算器70は、実変速比に応じた実傾転角と目標変速比に応じた目標傾転角との偏差に基づいて目標ストローク量を設定する目標ストローク量設定部64をなす。この加算器70の出力である目標ストローク量Xは、減算器71に入力される。
【0073】
この減算器71は、ストロークセンサ51により実際に検出された実ストローク量Xが入力されており、加算器70により算出された目標ストローク量Xと実ストローク量Xとの偏差ΔXを算出し出力する。この減算器71の出力である目標ストローク量Xと実ストローク量Xとの偏差ΔXは、積算器72に入力される。この積算器72は、目標ストローク量Xと実ストローク量Xとの偏差ΔXに所定のゲインKxを乗算し、Kx×ΔXを算出して出力する。このKx×ΔXがフィードバック制御系において目標変速比と現在の実変速比の差に応じて決定されるフィードバック制御指令値dutyFBとなる。すなわち、この減算器71と積算器72とは、目標ストローク量Xと実ストローク量Xとの偏差に基づいて、第1流量制御弁93及び第2流量制御弁94を制御するためのフィードバック制御指令値dutyFBを算出するFB制御指令値算出部65をなす。この積算器72の出力であるフィードバック制御指令値dutyFBは、加算機63aに入力される。
【0074】
フィードフォワード制御部62は、目標ストローク量設定部64の加算器70の出力である目標ストローク量Xが目標ストローク量変化率算出部66に入力される。目標ストローク量変化率算出部66は、入力された目標ストローク量Xに基づいて、上述したような種々の方法により、目標ストローク量Xの変化率dX/dtを算出し出力する。目標ストローク量変化率算出部66の出力である目標ストローク量Xの変化率dX/dtは、FF制御指令値算出部67に入力される。
【0075】
FF制御指令値算出部67は、傾転角センサ50により実際に検出された実傾転角X、ライン圧センサ52により検出されたライン圧P及び入力トルク演算部73により演算された入力トルクTINが入力されている。FF制御指令値算出部67は、目標ストローク量変化率算出部66により算出された目標ストローク量Xの変化率dX/dt、実傾転角X、ライン圧P及び入力トルクTINに基づいて、数式(2)、(3)により、変速比変更部5を制御するためのフィードフォワード制御指令値dutyFFを算出し出力する。このFF制御指令値算出部67の出力であるフィードフォワード制御指令値dutyFFは、上述の加算機63aに入力される。
【0076】
加算機63aは、FB制御指令値算出部65により算出されたフィードバック制御指令値dutyFBとFF制御指令値算出部67の出力であるフィードフォワード制御指令値dutyFFとを加算し実制御指令値dutyを算出し出力する。すなわち、この加算機63aはフィードバック制御指令値dutyFBにフィードフォワード制御指令値dutyFFを加算して実制御指令値dutyを算出する流量制御弁制御指令値算出部63をなす。加算機63aの出力である実制御指令値dutyは、第1流量制御弁93、第2流量制御弁94の第1ソレノイド93h、第2ソレノイド94hに入力され、この実制御指令値dutyに応じた駆動電流が第1ソレノイド93h、第2ソレノイド94hに供給される。
【0077】
そして、この実制御指令値dutyに基づいて第1流量制御弁93及び第2流量制御弁94の駆動制御が行われることで、トロイダル式無段変速機1のトラニオン6の駆動制御が行われ変速比の制御が行われる。すなわち、第1ソレノイド93h、第2ソレノイド94hに供給される駆動電流量が制御され、トラニオン6の実ストローク量が目標ストローク量となるように制御され、実傾転角が目標傾転角となるように変更され、実変速比を目標変速比に追従させるフィードバック制御及び変速比の応答性を向上するフィードフォワード制御が行われる。
【0078】
なお、目標ストローク量設定部64の積算器69のゲインKφ及びFB制御指令値算出部65の積算器72のゲインKxは、トロイダル式無段変速機1の運転条件に応じて変更してもよい。例えば、入力ディスク2、出力ディスク3の押圧力(あるいは入力トルク)、入力回転数、及び傾転角(あるいは変速比)のいずれか1つ以上に基づいて、ゲインKφ、Kxを変更してもよい。
【0079】
以上で説明した本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機1によれば、駆動力が入力される入力ディスク2と、駆動力が出力される出力ディスク3と、入力ディスク2と出力ディスク3とに接触して設けられるパワーローラ4と、パワーローラ4を回転自在、かつ、傾転自在に支持すると共に、このパワーローラ4を入力ディスク2及び出力ディスク3に対する中立位置から変速位置に移動させることで、入力ディスク2と出力ディスク3との回転数比である変速比を変更可能な変速比変更部5と、目標の変速比である目標変速比と実際の変速比である実変速比とに基づいたフィードバック制御を行うフィードバック制御部61と、目標変速比に応じたパワーローラ4の目標のストローク量である目標ストローク量の変化率に基づいたフィードフォワード制御を行うフィードフォワード制御部62とを有し、フィードバック制御部61とフィードフォワード制御部62とによって実変速比が目標変速比になるように変速比変更部5を制御するECU60とを備える。
【0080】
したがって、ECU60によって、目標変速比と実変速比とに基づいたフィードバック制御と共に、目標ストローク量の変化率に基づいたフィードフォワード制御を行って実変速比が目標変速比になるように変速比変更部5を制御することで、フィードバック制御部61により実変速比と目標変速比とに基づいて実変速比が目標変速比になるようにフィードバック制御を行うことができると共に、フィードフォワード制御部62により目標ストローク量の変化率に応じてパワーローラ4(トラニオン6)のストローク量を増加させることで、急変速時にて変速時間を短縮化することができ、急変速時の変速応答性を向上することができる。このため、例えば、キックダウン変速時などの変速フィーリングの低下を抑制することができる。
【0081】
さらに、以上で説明した本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機1によれば、入力ディスク2及び出力ディスク3に対するパワーローラ4の傾転角を検出する傾転角センサ50と、変速比変更部5を作動する作動油の元圧となるライン圧を検出するライン圧センサ52と、入力ディスク2に入力される駆動力である入力トルクを検出する入力トルク演算部73とを備え、変速比変更部5は、パワーローラ4を中立位置から変速位置に移動させて傾転角を変更することで変速比を変更可能であり、フィードフォワード制御部62は、目標ストローク量の変化率を算出する目標ストローク量変化率算出部66と、目標ストローク量の変化率、ライン圧、入力トルク及び傾転角に基づいて変速比変更部5を制御するFF制御指令値算出部67とを有する。したがって、FF制御指令値算出部67によって、目標ストローク量の変化率、ライン圧、入力トルク及び傾転角に基づいて変速比変更部5を制御することで、急変速中におけるライン圧Pや入力トルクTINの外乱を低減することができ、フィードフォワード制御部62にて、変速比変更部5の油圧制御装置9による油圧制御系の応答遅れを大幅に改善することができる。
【0082】
さらに、以上で説明した本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機1によれば、パワーローラ4のストローク量を検出可能なストロークセンサ51を備え、フィードバック制御部61は、目標変速比に応じた目標の傾転角である目標傾転角と実変速比に応じた実際の傾転角である実傾転角とに基づいて目標ストローク量を設定する目標ストローク量設定部64と、実変速比に応じた実際のストローク量である実ストローク量と目標移動量とに基づいて変速比変更部5を制御するFB制御指令値算出部65とを有する。したがって、目標ストローク量設定部64によりこの目標傾転角と実傾転角との偏差に基づいて、実変速比を目標変速比に変更するための目標ストローク量を設定し、FB制御指令値算出部65により、この目標ストローク量と実ストローク量との偏差に基づいて第1流量制御弁93、第2流量制御弁94を制御することから、実傾転角と実ストローク量とに基づいたカスケード式のフィードバック制御により実変速比を目標変速比に追従させることができる。この結果、傾転角センサ50によって検出される傾転角のフィードバック制御に加えて、ストロークセンサ51によって検出されるストローク量のフィードバック制御もあわせて行うことで、傾転制御における振動を抑制するダンピング効果を得ることができる。
【0083】
さらに、以上で説明した本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機1によれば、FB制御指令値算出部65は、目標ストローク量と実ストローク量とに基づいて変速比変更部5を制御するためのフィードバック制御指令値を算出し、FF制御指令値算出部67は、目標ストローク量の変化率、ライン圧、入力トルク及び傾転角に基づいて変速比変更部5を制御するためのフィードフォワード制御指令値を算出し、ECU60は、さらに、フィードバック制御指令値にフィードフォワード制御指令値を加算して実制御指令値を算出する流量制御弁制御指令値算出部63を有する。したがって、流量制御弁制御指令値算出部63にて、FB制御指令値算出部65により算出されるフィードバック制御指令値に、目標ストローク量変化率算出部66が算出した目標ストローク量の変化率に応じてFF制御指令値算出部67により算出されるフィードフォワード制御指令値を加算してトータルの実制御指令値を増加させることで、例えば、目標ストローク量の変化率が大きい急変速時には、第1流量制御弁93、第2流量制御弁94への実制御指令値を急激に増加させることができ、変速初期にて、大きな変速遅れが発生することを防止することができる。
【0084】
なお、上述した本発明の実施例に係る無段変速機は、上述した実施例に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変更が可能である。以上の説明では、移動手段を構成する油圧制御装置9は、流量制御弁を2つ備えるものとして説明しが、これに限らず、1つでもよいし3つ以上でもよい。また、入力トルク検出手段は、トルクセンサを用いて入力ディスク2に入力される駆動力である入力トルク検出してもよい。また、ライン圧検出手段は、ライン圧を種々の演算により検出してもよいし、ライン圧に相当する値としてライン圧を制御する制御手段からの指令値(例えば、デューティ比)を用いてもよい。
【0085】
また、例えば、パワーローラ4と入力ディスク2及び出力ディスク3との接触点がわかれば、実変速比と実傾転角との関係は幾何学形状だけで定まるため、実変速比を実傾転角に置き換えることができ、また、実傾転角を実変速比に置き換えることもできる。すなわち、目標移動量設定手段は、傾転角検出手段が検出した実際の実傾転角に基づいて実変速比を算出し、算出した実変速比と目標変速比との偏差を算出し、この偏差に基づいて目標移動量を設定するようにしてもよい。また、この場合、実変速比は、傾転角検出手段が検出した実際の実傾転角に基づいて算出する以外にも、例えば、入力回転数センサ53が検出した入力回転数と出力回転数センサ54が検出した出力回転数から算出することもできる。
【0086】
また、目標移動量は、目標移動量に相当する制御指令値として算出してもよい。例えば、以上の説明では、フィードバック制御指令手段は、目標移動量設定手段が設定した目標移動量と、移動量検出手段が検出した実移動量との偏差に基づいて変速比変更手段を制御するための制御指令値を算出するものとして説明したが、目標移動量に相当する制御指令値(例えば、目標傾転角と実傾転角との偏差に所定のゲインKφ’を乗じた値に基づく傾転角制御指令値)と、実移動量に相当する制御指令値(例えば、実移動量に所定のゲインKx’を乗じた値に基づくストローク量制御指令値)との偏差から移動手段を制御するための制御指令値を算出してもよい。
【0087】
また、以上の説明では、パワーローラ4、トラニオン6の実ストローク量は、ストロークセンサ51により検出するものとして説明したが、これに限らず、傾転角センサ50が検出した実傾転角の変化量、入力回転数センサ53が検出した入力回転数の変化量又は実変速比の変化量に基づいて算出してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0088】
以上のように、本発明に係る無段変速機は、急変速時の変速応答性を向上するものであり、パワーローラを有する種々のハーフトロイダル式の無段変速機に適用して好適である。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機の概略断面図である。
【図2】本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機の要部の構成図である。
【図3】本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機が備えるパワーローラの入力ディスクに対する中立位置を説明する模式図である。
【図4】本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機が備えるパワーローラの入力ディスクに対する変速位置を説明する模式図である。
【図5】本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機のECUの要部構成の一例を示す概略構成図である。
【図6】従来の無段変速機を説明するための線図である。
【符号の説明】
【0090】
1 トロイダル式無段変速機(無段変速機)
2 入力ディスク
3 出力ディスク
4 パワーローラ
5 変速比変更部(変速比変更手段)
6 トラニオン
6a ローラ支持部
6b 揺動軸
6c 空間部
7 移動部
8 油圧ピストン部
8a フランジ部
8b 油圧室
9 油圧制御装置
15 油圧押圧機構
50 傾転角センサ(傾転角検出手段)
51 ストロークセンサ(移動量検出手段)
52 ライン圧センサ(ライン圧検出手段)
55 アクセル開度センサ
56 車速センサ
60 ECU(制御手段)
61 フィードバック制御部(フィードバック制御手段)
62 フィードフォワード制御部(フィードフォワード制御手段)
63 流量制御弁制御指令値算出部(実制御指令値算出手段)
64 目標ストローク量設定部(目標移動量設定手段)
65 FB制御指令値算出部(フィードバック制御指令手段)
66 目標ストローク量変化率算出部(目標移動量変化率算出手段)
67 FF制御指令値算出部(フィードフォワード制御指令手段)
68、71 減算器
69、72 積算器
63a、70 加算器
73 入力トルク演算部(入力トルク検出手段)
91 オイルタンク
92 オイルポンプ
93 第1流量制御弁
93h 第1ソレノイド
94 第2流量制御弁
94h 第2ソレノイド
OP1 第1油圧室
OP2 第2油圧室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力が入力される入力ディスクと、
前記駆動力が出力される出力ディスクと、
前記入力ディスクと前記出力ディスクとに接触して設けられるパワーローラと、
前記パワーローラを回転自在、かつ、傾転自在に支持すると共に、該パワーローラを前記入力ディスク及び前記出力ディスクに対する中立位置から変速位置に移動させることで、前記入力ディスクと前記出力ディスクとの回転数比である変速比を変更可能な変速比変更手段と、
目標の変速比である目標変速比と実際の変速比である実変速比とに基づいたフィードバック制御を行うフィードバック制御手段と、前記目標変速比に応じた前記パワーローラの目標の移動量である目標移動量の変化率に基づいたフィードフォワード制御を行うフィードフォワード制御手段とを有し、前記フィードバック制御手段と前記フィードフォワード制御手段とによって前記実変速比が前記目標変速比になるように前記変速比変更手段を制御する制御手段とを備えることを特徴とする、
無段変速機。
【請求項2】
前記入力ディスク及び前記出力ディスクに対する前記パワーローラの傾転角を検出する傾転角検出手段と、
前記変速比変更手段を作動する作動油の元圧となるライン圧を検出するライン圧検出手段と、
前記入力ディスクに入力される駆動力である入力トルクを検出する入力トルク検出手段とを備え、
前記変速比変更手段は、前記パワーローラを前記中立位置から前記変速位置に移動させて前記傾転角を変更することで前記変速比を変更可能であり、
前記フィードフォワード制御手段は、前記目標移動量の変化率を算出する目標移動量変化率算出手段と、前記目標移動量の変化率、前記ライン圧、前記入力トルク及び前記傾転角に基づいて前記変速比変更手段を制御するフィードフォワード制御指令手段とを有することを特徴とする、
請求項1に記載の無段変速機。
【請求項3】
前記パワーローラの移動量を検出可能な移動量検出手段を備え、
前記フィードバック制御手段は、前記目標変速比に応じた目標の傾転角である目標傾転角と前記実変速比に応じた実際の傾転角である実傾転角とに基づいて前記目標移動量を設定する目標移動量設定手段と、前記実変速比に応じた実際の移動量である実移動量と前記目標移動量とに基づいて前記変速比変更手段を制御するフィードバック制御指令手段とを有することを特徴とする、
請求項2に記載の無段変速機。
【請求項4】
前記フィードバック制御指令手段は、前記目標移動量と前記実移動量とに基づいて前記変速比変更手段を制御するためのフィードバック制御指令値を算出し、
前記フィードフォワード制御指令手段は、前記目標移動量の変化率、前記ライン圧、前記入力トルク及び前記傾転角に基づいて前記変速比変更手段を制御するためのフィードフォワード制御指令値を算出し、
前記制御手段は、さらに、前記フィードバック制御指令値に前記フィードフォワード制御指令値を加算して実制御指令値を算出する実制御指令値算出手段を有することを特徴とする、
請求項3に記載の無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−58020(P2009−58020A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−224635(P2007−224635)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】