説明

熱収縮性フィルム並びに該フィルムを用いた成形品、熱収縮性ラベル、及び該成形品又は該ラベルを装着した容器

【課題】収縮過程で所定の剛性を有し、収縮仕上がりが良好であり、かつ低温収縮性にも優れるポリ乳酸系の熱収縮性フィルムの提供。
【解決手段】50質量%以上のポリ乳酸系樹脂を含有する樹脂組成物からなり、又はこの樹脂組成物からなる(I)層を有し、フィルムの厚みの平均値を20〜100μmとし、80℃×10秒間浸漬時の収縮率を20%以上とし、かつ3秒間温水中浸漬時の熱収縮率が10%、20%及び30%となる温度での主収縮方向と直交する方向の貯蔵弾性率Y(10)、Y(20)、Y(30)が以下の関係式を満たす
1.0×10MPa≦Y(10)≦7.0×10MPa
3.0×10MPa≦Y(20)≦2.5×10MPa
2.3×10MPa≦Y(30)≦9.0×10MPa

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形品や熱収縮性ラベル等として好適な熱収縮性フィルム、特に収縮過程において所定の剛性を有し、収縮仕上がり性が良好であり、かつ低温収縮性にも優れるポリ乳酸系の熱収縮性フィルム、成形品、熱収縮性ラベル、及び該成形品又は熱収縮性ラベルを装着した容器に関する。
【背景技術】
【0002】
ジュース等の清涼飲料水は、瓶又はペットボトルといった容器に充填されて販売される。清涼飲料水メーカーは、他社商品との差別化や商品の意匠性向上のために、容器外側にデザインが印刷された熱収縮性ラベルを装着している。特に最近では、ラベルのデザインが消費者の視覚に訴え、清涼飲料水の販売量に影響を与えることもあり、熱収縮性ラベルに印刷される図柄に特徴的なデザインを施したラベルが多く見られる。このような状況に対応するためには、特徴あるデザインを綺麗に印刷することはもちろんのこと、印刷された熱収縮性ラベルを容器にシワ、ムラ、歪み等なく綺麗に装着させるという収縮仕上がり性が良好なことが要求される。
【0003】
熱収縮性ラベルにおける収縮仕上がり性を改善すべく、これまで様々な方法が検討されている。例えば、スチレン−ブタジエンブロック共重合体を主成分とするポリスチレン系熱収縮性フィルムの場合、主収縮方向と直交する方向(以下、「直交方向」という。)には配向し難く、耐破断性が低下するという欠点を補うため、直交方向に多少の延伸をかけて配向を付与する技術が知られている(特許文献1)。
【0004】
また、アクリル酸エステルの共重合体からなるポリスチレン系熱収縮性フィルムの場合、熱収縮率の温度依存性が大きく、収縮過程における温度ムラに対して大きな収縮ムラを発生させることがあり、歪みやシワといった問題があるため、熱収縮率に対する温度依存性を低下させる目的で、延伸温度や延伸倍率を検討した技術が知られている(特許文献2及び3)。
【0005】
また、ポリエステル系フィルムの場合、室温の剛性が高く、自然収縮率が低いものの、熱収縮率の温度依存性が大きく、比較的収縮応力が高いので、収縮過程での温度ムラに対して収縮ムラを発生させシワや歪み等収縮仕上がり不良が発生するという問題がある。この問題を解決すべく、熱収縮率に対する温度依存性を低下させ、かつ収縮応力を低減させる技術が知られている(特許文献4及び5)。一方、収縮応力を低くしてもポリエステル系フィルムが結晶化するという特性を有するため、結晶化を低く抑えなければ収縮過程で一度発生したシワやムラの解消ができなくなるという、収縮応力を低下させる前提でより細部の仕上がり改良条件まで検討している技術もある(特許文献6)。さらに熱収縮率に対する温度依存性を低下させる手段として、ポリスチレン系フィルムを積層させる技術も知られている(特許文献7)。
【0006】
また、ポリオレフィン系フィルムの場合、熱収縮率に対する温度依存性を低下する検討がなされ、温度に対する熱収縮率の変化率を所定量以下とすることにより収縮仕上がりが良好となることが知られている(特許文献8)。
【0007】
上記の特許文献2から8までのフィルムでは、(1)収縮不足とならないように所定の収縮率を付与する、(2)収縮工程での温度ムラから生じる収縮ムラを低減すべく、温度に対する収縮率の変化を鈍化させる(熱収縮率の温度依存性を低下させる)、(3)通常プラスチック容器のラベルとして使用される熱収縮性フィルムは実質的には一軸延伸の範疇にある倍率比が選定されるが、主延伸方向と直交する方向の熱収縮率が大きくなると、ボトルに装着するときボトルの高さ方向にもフィルムが熱収縮しいわゆる縦引け現象が起こるので、当該熱収縮率をできるだけ小さくする、(4)収縮応力が大きいと縦引け現象が発生したり、収縮ムラが発生しやすくなるので、収縮応力をできるだけ小さくするという手段により収縮ムラを防いでいる。
【0008】
しかし上記(1)から(4)を満足したとしても、また上記(2)(3)(4)が満足できなかったとしても昨今のシュリンカーの機構からシュリンカー内の温度ムラができにくいようなノズル形状、配置等がなされており、またシュリンカーの温度条件やノズル配置を適正にすることで縦引け現象の低減化が達成できるので、シュリンカー内の温度ムラや、フィルムの直交方向の熱収縮性が大きいことを原因とする収縮仕上がり不良は改善できる。しかし収縮過程においてフィルムに剛性がないとシュリンカー内での倒れこみによるシワや折れ込みが発生する。
【0009】
他方、熱収縮性フィルムは、当初、耐破断性等の機械的強度、収縮特性、透明性等といった要求特性を多く満足するとの理由から原料としてポリ塩化ビニルが多く用いられていた。しかし、廃棄物規制が厳しくなっている今日、スチレン−ブタジエン−ブロック共重合体等からなるポリスチレン系フィルムや、PET等からなるポリエステル系フィルム、ポリエチレン等からなるポリオレフィン系フィルムが主流となっている。一方、近年ではゴミ処理等の環境問題を生じない分解性材料が注目されており、生分解性のポリ乳酸も熱収縮性ラベルの原料として使用されている(特許文献9参照)。
【0010】
しかし、特許文献9に記載のラベルは、ポリ乳酸系熱収縮性フィルムは材料の特性上、収縮加工温度領域での剛性が低く、倒れこみ、折れ込みが発生しやすいという問題がある。
【特許文献1】特開平7−144365号公報
【特許文献2】特開平8−118470号公報
【特許文献3】特開平9−29838号公報
【特許文献4】特開平4−170436号公報
【特許文献5】特開2002−212405号公報
【特許文献6】特開平7−80930号公報
【特許文献7】特開2006−35754号公報
【特許文献8】特開2000−246797号公報
【特許文献9】特開平5−212790号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、収縮過程で所定の剛性を有し、収縮仕上がりが良好であり、かつ低温収縮性にも優れるポリ乳酸系の熱収縮性フィルムを提供することにある。
【0012】
また、本発明のもう一つの課題は、前記熱収縮性フィルムを用いた成形品、及び該熱収縮性ラベルを装着した容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、収縮過程での折れ込みや倒れこみによる収縮仕上がり不良の発生機構と、それに対応可能なフィルムの設計に鋭意検討した結果、上記従来技術の問題点を解消し得る熱収縮性フィルムを得ることに成功し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の課題は以下の熱収縮性フィルムにより解決される。
【0014】
ポリ乳酸系樹脂(A)50質量%以上を含有する樹脂組成物からなり、又はこの樹脂組成物からなる(I)層を有し、かつ下記条件(1)から(3)を満たすことを特徴とする熱収縮性フィルム。
(1)温水中に3秒間浸漬したときの熱収縮率が10%となる温度における主収縮方向と直交する方向の貯蔵弾性率Y(10):
1.0×10MPa≦Y(10)≦7.0×10MPa
(2)温水中に3秒間浸漬したときの熱収縮率が20%となる温度における主収縮方向と直交する方向の貯蔵弾性率Y(20):
3.0×10MPa≦Y(20)≦2.5×10MPa
(3)温水中に3秒間浸したときの熱収縮率が30%となる温度における主収縮方向と直交する方向の貯蔵弾性率Y(30):
2.3×10MPa≦Y(30)≦9.0×10MPa
【0015】
本発明の熱収縮性フィルムは、ポリ乳酸系樹脂(A)80質量%以上を含有する樹脂組成物からなる(II)層を有することができる。
【0016】
本発明の熱収縮性フィルムにおいて、前記(III)層はポリ乳酸系樹脂(A)、ポリオレフィン系樹脂(B)、及びポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との相溶化を促進させる相溶性樹脂(C)を主成分とし、ポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との質量比が(A)/(B)=1〜80/99〜20である層であることが好ましい。
【0017】
本発明の熱収縮性フィルムにおいて、相溶性樹脂(C)は下記樹脂(c−1)、樹脂(c−2)、及び樹脂(c−3)からなる群から選ばれる少なくとも1種類であることが好ましい。
樹脂(c−1):酢酸ビニル、アクリル酸、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エチル、メチル(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、及び(メタ)アクリル酸グリシジルからなる群から選ばれる少なくとも1種以上と、エチレンとの共重合体
樹脂(c−2):変性ポリスチレン系樹脂
樹脂(c−3):変性ポリオレフィン系樹脂
【0018】
本発明の熱収縮性フィルムにおいて、相溶性樹脂(C)の含有量が、ポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との混合樹脂100質量部に対し、1質量部以上30質量部以下であることが好ましい。
【0019】
本発明のもう一つの課題は、前記熱収縮性フィルムを基材として用いた成形品、熱収縮性ラベル、又はこの成形品若しくは熱収縮性ラベルを装着した容器により解決される。
【発明の効果】
【0020】
本発明の熱収縮性フィルムは、温水中に3秒間浸漬したときに熱収縮率10%から30%を示す範囲の直交方向の貯蔵弾性率が所定の範囲にある。そのため、本発明によれば収縮仕上がり性が良好であり、かつ優れた低温収縮性を有する熱収縮性フィルムを得ることができる。
【0021】
また、本発明の熱収縮性フィルムを用いれば、優れた外観を有する成形品、熱収縮性ラベル、及び該成形品又はラベルを装着した容器を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態の一例としての熱収縮性フィルム、成形品、熱収縮性ラベル、該成形品又は熱収縮性ラベルを装着した容器(以下、「本発明のフィルム」、「本発明の成形品」、「本発明のラベル」、及び「本発明の容器」と省略する場合がある。)について詳細に説明する。
【0023】
なお、本明細書において、「主成分とする」とは、各層を構成する樹脂の作用・効果を妨げない範囲で、他の成分を含むことを許容する趣旨である。さらに、この用語は、具体的な含有率を制限するものではないが、各層の構成成分全体の50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上かつ100質量%以下を占める成分である。
【0024】
また、本明細書において「主収縮方向」とは、フィルムの縦方向(長手方向)とフィルムの横方向(幅方向)のうち熱収縮率の大きい方向を意味し、例えば、ボトルに装着する場合にはその外周方向に相当する方向を意味し、「直交方向」とは主収縮方向と直交する方向を意味する。
【0025】
[熱収縮性フィルム]
本発明のフィルムは、ポリ乳酸系樹脂(A)50質量%以上を含有する樹脂組成物からなり、又はこの樹脂組成物からなる(I)層を有する。
【0026】
<ポリ乳酸(PLA)系樹脂(A)>
本発明で用いられるPLA樹脂(A)は、D−乳酸又はL−乳酸の単独重合体、又はそれらの共重合体であり、具体的には構造単位がD−乳酸であるポリ(D)−乳酸、構造単位がL−乳酸であるポリ(L)−乳酸、さらにはL−乳酸とD−乳酸の共重合体であるポリ(DL)−乳酸があり、またD−乳酸とL−乳酸との共重合比の異なる複数の上記共重合体の混合物も含まれる。
【0027】
構造単位がL−乳酸及びD−乳酸である共重合体における、D−乳酸とL−乳酸との共重合比は、D−乳酸/L−乳酸=99.5/0.5〜85/15、又は、D−乳酸/L−乳酸=0.5/99.5〜15/85、好ましくは、D−乳酸/L−乳酸=99/1〜87/13、又は、D−乳酸/L−乳酸=1/99〜13/87である。かかる共重合比のPLA系樹脂であれば、結晶性が低くなりすぎて耐熱性に劣り、フィルム同士の融着が起こるというような不具合が生じることがない。
【0028】
また、PLA系樹脂(A)として、L−乳酸(以下、L体と称すこともある)とD−乳酸(以下、D体と称すともある)の共重合比が異なる複数のPLA系樹脂をブレンドしたものを用いてもよい。この場合、複数のPLA系樹脂のL体とD体の共重合比の平均値が上記範囲に入るようにブレンドすることが好ましい。
【0029】
上記PLA系樹脂(A)は、縮合重合法、開環重合法等の各種の公知の方法を採用して重合することができる。例えば、縮合重合法では、L−乳酸又はD−乳酸、あるいはこれらの混合物等を直接脱水縮合重合して、任意の組成を有するPLA系樹脂が得られる。また、開環重合法(ラクチド法)では、乳酸の環状2量体であるラクチドを必要に応じて重合調整剤等を用いながら、適当な触媒、例えばオクチル酸スズ等を使用することによりPLA系樹脂が得られる。ラクチドには、L−乳酸の2量体であるL−ラクチド、D−乳酸の2量体であるD−ラクチド、さらに、L−乳酸とD−乳酸からなるDL−ラクチドがあり、これらを必要に応じて混合して重合することにより任意の組成、結晶性を有するPLA系樹脂が得られる。
【0030】
本発明において、耐熱性を向上させる等の目的で、上記PLA系樹脂(A)の本質的な性質を損なわない範囲、すなわち、PLA系樹脂(A)成分が外層全体に対して90質量%以上含有され得るような範囲内であれば、少量の共重合成分として、乳酸以外のα−ヒドロキシカルボン酸、テレフタル酸等の非脂肪族ジカルボン酸、コハク酸等の脂肪族ジカルボン酸、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物等の非脂肪族ジオール、エチレングリコール等の脂肪族ジオールからなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。また、分子量増大を目的として、少量の鎖延長剤、例えば、ジイソシアネート化合物、エポキシ化合物、酸無水物等を使用することもできる。
【0031】
乳酸以外のα−ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−メチル乳酸、2−ヒドロキシカプロン酸等の2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸やカプロラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン等のラクトン類が挙げられる。
【0032】
また、脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。また、脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、及び、ドデカン二酸等が挙げられる。
【0033】
乳酸と、α−ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ジオール、又は脂肪族ジカルボン酸との共重合体の共重合比は乳酸/α−ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ジオール、又は脂肪族ジカルボン酸=90/10〜10/90の範囲であることが好ましく、80/20〜20/80であることがより好ましく、30/70〜70/30であることがさらに好ましい。共重合比が上記範囲内であれば、剛性、透明性、耐衝撃性などの物性バランスの良好なフィルムを得ることができる。
【0034】
上記PLA系樹脂(A)は、重量(質量)平均分子量の下限値が、好ましくは50,000、より好ましくは100,000であり、上限値が、好ましくは400,000、より好ましくは300,000、さらに好ましくは250,000である。PLA系樹脂(A)の重量(質量)平均分子量が小さすぎると機械物性や耐熱性等の実用物性がほとんど発現されず、大きすぎると溶融粘度が高くなりすぎて成形加工性に劣ることがある。
【0035】
本発明で好ましく使用されるPLA系樹脂(A)の代表的なものとしては、三井化学社製の「レイシア」、Nature Works LLC社製の「Nature Works」等が商業的に入手されるものとして挙げられる。
【0036】
本発明のフィルムを構成する樹脂組成物又は該樹脂組成物からなる(I)層は、PLA系樹脂(A)の含有率が50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%、さらに好ましくは80質量%以上であれば、耐衝撃性や耐寒性を向上させる他の成分を含有させることができる。PLA系樹脂の含有率が50質量%以上であれば、フィルムの剛性、透明性を損なわず、耐衝撃性を付与することができ、熱収縮ラベルとして好適に使用することができる。
【0037】
耐衝撃性や耐寒性を向上させるPLA系樹脂(A)以外の成分としては、例えば、ガラス転移温度(Tg)が0℃以下の脂肪族ポリエステル樹脂、芳香族ポリエステル樹脂等を挙げることができる。このような脂肪族ポリエステル樹脂としては、例えば、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸を縮合して得られる脂肪族ポリエステル、環状ラクトン類を開環重合した脂肪族ポリエステル、合成系脂肪族ポリエステル等のPLA系樹脂を除く脂肪族ポリエステル樹脂が挙げられる。
【0038】
具体的には、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸を縮合して得られる脂肪族ポリエステルは、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、シクロペンタンジオール、シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂肪族ジオール、又はこれらの無水物や誘導体と、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸、又はこれらの無水物や誘導体の中からそれぞれ1種類以上選んで縮合重合することにより得られる。この際に、必要に応じてイソシアネート化合物等を添加することにより、所望のポリマーを得ることができる。
【0039】
また、環状ラクトン類を開環重合した脂肪族ポリエステルとしては、環状モノマーとして、ε−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン等から1種類以上を選択して、重合することにより得られる脂肪族ポリエステルが挙げられる。
【0040】
また、合成系脂肪族ポリエステルとしては、例えば、環状酸無水物とオキシラン類との共重合体、例えば、無水コハク酸とエチレンオキサイドとの共重合体、プロピオンオキサイドなどとの共重合体などが挙げられる。
【0041】
これらPLA系樹脂(A)以外の脂肪族ポリエステルの代表的なものとしては、コハク酸と1,4−ブタンジオールとアジピン酸とを重合して得られる「ビオノーレ」(昭和高分子社製)を商業的に入手することができる。また、ε−カプロラクトンを開環縮合して得られるものとしては、「セルグリーン」(ダイセル化学工業社製)が挙げられる。
【0042】
また、本発明のフィルムを構成する樹脂組成物には、耐衝撃性を向上させる目的で、PLA系樹脂(A)の含有率が50質量%以上となる範囲で、芳香族−脂肪族ポリエステル、ジオールとジカルボン酸と乳酸系樹脂との共重合体、コアシェル構造ゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体(EMA)、エチレン−メチル(メタ)アクリル酸共重合体(EMMA)などを含有させることもできる。
なお、本明細書ではアクリルとメタクリルを(メタ)アクリルと総称する。
【0043】
芳香族−脂肪族ポリエステルとしては、脂肪族鎖の間に芳香環を導入することによって結晶性を低下させたものを用いることができる。芳香族−脂肪族ポリエステルは、例えば、芳香族ジカルボン酸と、脂肪族ジカルボン酸と、脂肪族ジオールとを縮合して得られる。
【0044】
ここで、上記芳香族ジカルボン酸としては、例えばイソフタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、テレフタル酸が最も好適に用いられる。また、脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などが挙げられ、アジピン酸が最も好適に用いられる。なお、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸あるいは脂肪族ジオールは、それぞれ二種類以上を用いてもよい。
【0045】
芳香族−脂肪族ポリエステルの代表的なものとしては、テトラメチレンアジペートとテレフタレートの共重合体、ポリブチレンアジペートとテレフタレートの共重合体などが挙げられる。テトラメチレンアジペートとテレフタレートの共重合体として「イースターバイオ」(Eastman Chemicals社製)、またポリブチレンアジペートとテレフタレートの共重合体として、「エコフレックス」(BASF社製)を商業的に入手することができる。
【0046】
PLA系樹脂(A)とジオールとジカルボン酸の共重合体の構造としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体が挙げられ、いずれの構造でもよい。但し、フィルムの耐衝撃性及び透明性の観点から、ブロック共重合体又はグラフト共重合体が好ましい。ランダム共重合体の具体例としては「GS−ポリ乳酸」(三菱化学社製)が挙げられ、ブロック共重合体又はグラフト共重合体の具体例としては「プラメート」(大日本インキ化学工業社製)が挙げられる。
【0047】
PLA系樹脂(A)とジオールとジカルボン酸の共重合体の製造方法は、特に限定されないがジオールとジカルボン酸とを脱水縮合した構造を持つポリエステルまたはポリエーテルポリオールを、ラクチドと開環重合あるいはエステル交換反応させて得る方法が挙げられる。また、ジオールとジカルボン酸とを脱水縮合した構造を持つポリエステルまたはポリエーテルポリオールを、PLA系樹脂と脱水・脱グリコール縮合あるいはエステル交換反応させて得る方法がある。
【0048】
PLA系樹脂(A)とジオールとジカルボン酸の共重合体は、イソシアネート化合物やカルボン酸無水物を用い手所定の分子量に調整することが可能である。但し、加工性、機械的特性の観点から、重量(質量)平均分子量は50,000以上、好ましくは100,000以上であり、かつ300,000以下、好ましくは250,000以下のものが望ましい。
【0049】
(I)層を構成する樹脂組成物に含有することができるコアシェル構造ゴムとしては、(メタ)アクリル酸−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体などのジエン系コアシェル型重合体、(メタ)アクリル酸−スチレン−アクリロニトリル共重合体などのアクリル系コアシェル型重合体、シリコーン−(メタ)アクリル酸−メチル(メタ)アクリル酸共重合体、シリコーン−(メタ)アクリル酸−アクリロニトリル−スチレン共重合体などのシリコーン系コアシェル型共重合体等を用いることができる。この中でもポリ乳酸系樹脂との相溶性が良好であり、フィルムの耐衝撃性、透明性のバランスのとれるシリコーン−(メタ)アクリル酸−メチル(メタ)アクリル酸共重合体がより好適に用いられる。
【0050】
具体的には、「メタブレン」(三菱レイヨン社製)、「カネエース」(カネカ社製)などが商業的に入手できる。
【0051】
エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体(EMA)、エチレン−メチル(メタ)アクリル酸エステル共重合体(EMMA)としては、エチレン含有率が30モル%以上、好ましくは40モル%以上であり、かつ90モル%以下、好ましくは80モル%以下であるものが好適に使用される。エチレン含有率が30モル%以上であれば、フィルム全体の剛性、耐熱性を良好に維持でき、またエチレン単位の含有率が90モル%以下であれば、フィルムの耐破断性に対する効果が十分に得られるほか、透明性も維持できるため好ましい。これらの中でも、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)をより好適に使用できる。
【0052】
エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)の市販品としては、例えば、「EVAFLEX」(三井デュポンポリケミカル社製)、「ノバテックEVA」(三菱化学社製)、「エバスレン」(DIC社製)、「エバテート」(住友化学社製)、エチレン−アクリル酸共重合体(EAA)としては「ノバテックEAA」(三菱化学社製)、エチレン−アクリル酸エチル共重合体(EMA)やエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体(EMA)としては「ノアフロイAC」(三井デュポンポリケミカル社製)、エチレン−メチル(メタ)アクリル酸共重合体(EMMA)としては「アクリフト」(住友化学社製)などが挙げられる。
【0053】
次に、本発明のフィルムは、次の(1)から(3)の条件、好ましくは(1)から(5)の条件を満たすことが重要である。本発明のフィルムの用途の1つとして熱収縮性ラベルが挙げられる。熱収縮性ラベルは、シュリンカーを用いてペットボトルやガラスボトルなどに収縮して装着される。しかし、ラベル装着部の上部の周囲長が下部の周囲長より短いボトルを使用した場合には、従来、腰折れによるラベルの倒れ込みや折れ込みという収縮仕上がり不良が発生し、大きな問題となっていた。本発明のフィルムは、この収縮工程におけるラベルの倒れ込みや折れ込みを防止することができる。
【0054】
<条件(1)から(3)>
本発明のフィルムは、温水中に3秒間浸漬したときの熱収縮率が10%となる温度における主収縮方向と直交する方向の貯蔵弾性率Y(10)が、1.0×10MPa≦Y(10)≦7.0×10MPaの範囲であること(条件(1))、温水中に3秒間浸漬したときの熱収縮率が20%となる温度における主収縮方向と直交する方向の貯蔵弾性率Y(20)が、3.0×10MPa≦Y(20)≦2.5×10MPaの範囲であること(条件(2))、及び温水中に3秒間浸したときの熱収縮率が30%となる温度における主収縮方向と直交する方向の貯蔵弾性率Y(30)が2.3×10MPa≦Y(30)≦9.0×10MPaの範囲であること(条件(3))が重要である。
【0055】
倒れ込み、折れ込み等の腰折れを抑制するためには、収縮過程でフィルムに剛性を持たせることが重要である。その目的を達成するため、本発明のフィルムでは温水中に3秒間浸漬させたときに10%、20%、30%収縮する各々の温度における直交方向の貯蔵弾性率を所定の範囲に調整することが必要である。すなわち、Y(10)、Y(20)、Y(30)をそれぞれ1.0×10MPa以上、3.0×10MPa以上、2.3×10MPa以上にすることにより、収縮過程における腰折れを抑制できる。特にY(10)が低いと、シュリンク温度条件が高温に設定された時に、腰折れが発生しやすく、Y(20)、Y(30)が低いとシュリンク温度条件が低温に設定された時でも腰折れが発生しやすくなる。よってシュリンク温度条件が、どの範囲で設定されても、腰折れを発生しにくくする為には、Y(10)、Y(20)、Y(30)の全てを前述の下限以上に調整する必要がある。
またY(10)、Y(20)、Y(30)をそれぞれ7.0×10MPa以下、2.5×10MPa以下、9.0×10MPa以下にすることにより、収縮工程において所望の収縮率を実現できる。
【0056】
各収縮率を発現する浸漬時間を3秒とすることにより、ボトルへのラベル装着時間が3〜5秒程度に対応させることができる。また、貯蔵弾性率測定の指標となる収縮率を10%、20%、30%と規定することにより、ボトルの最大周囲長に対して収縮前の周長を5%から25%程度余裕を持たせて設計されるラベルの特性を考慮し、ラベルをボトルに装着させる際の位置決めの採り方や収縮ムラを評価することができる。また貯蔵弾性率の方向を直交方向とすることにより収縮過程での腰折れが発生の度合いを評価することができる。
【0057】
条件(1)の3秒間温水に浸漬した場合に熱収縮率が10%となる温度における直交方向の貯蔵弾性率Y(10)は、好ましくは1.5×10MPa以上、より好ましく2.0×10MPa以上、さらに好ましくは2.5×10MPa以上であり、かつ6.5×10MPa以下、好ましくは6.0×10MPa以下、さらに好ましくは5.5×10MPa以下することが必要である。
【0058】
同様に、条件(2)の3秒間温水に浸漬した場合に熱収縮率が20%となる温度における直交方向の貯蔵弾性率Y(20)は、好ましくは3.1×10MPa以上、より好ましくは3.2×10MPa以上、さらに好ましくは3.3×10MPa以上であり、かつ2.4×10MPa以下、より好ましくは2.3×10MPa以下、さらに好ましくは2.2×10MPa以下であることが重要である。また条件(3)の3秒間温水に浸漬した場合に熱収縮率が30%となる温度における直交方向の貯蔵弾性率Y(30)は、好ましくは2.4×10MPa以上、より好ましくは2.5×10MPa、さらに好ましくは2.6×10MPa以上であり、かつ8.8×10MPa以下、より好ましくは8.6×10MPa以下、さらに好ましくは8.4×10MPa以下であることが必要である。
【0059】
Y(10)、Y(20)、Y(30)をそれぞれ1.0×10MPa以上、3.0×10MPa以上、2.3×10MPa以上とすることにより、シュリンク温度条件が、どの範囲で設定されても、腰折れを防止することができ、またY(10)、Y(20)、Y(30)をそれぞれ1.0×10MPa以下、3.0×10MPa以下、1.0×10MPa以下とすることにより、フィルムに好適な収縮率を付与できる。
【0060】
<条件(4)>
折れ込みや倒れ込みの腰折れは、熱収縮性フィルムの厚みが薄い場合に多く起こる現象である。そのため、例えばY(10)、Y(20)、及びY(30)がそれぞれ1.0×10MPa、3.0×10MPa、2.3×10MPaより小さい場合であっても、フィルムの厚みが100μmを超えると収縮過程での腰折れの発生頻度は低下し、収縮仕上がり性に与える影響は少なくなる。そのため、本発明のフィルムではフィルムの厚みの上限を100μmとしている。フィルムの厚みは100μm以下であれば特に制限がないが、80μm以下であることが好ましく、70μm以下であることがより好ましく、60μm以下であることがさらに好ましい。熱収縮性フィルムの厚みの下限はハンドリングの観点から20μm以上、好ましくは30μm以上、より好ましくは40μm以上であることが望ましい。
【0061】
<条件(5)>
本発明のフィルムは、80℃の温水中に10秒間浸漬させたときの収縮率が20%以上、好ましくは25%以上、さらに好ましくは30%以上であることが必要である。収縮過程における剛性が十分付与されて腰折れが発生しなくても、80℃の温水中に10秒間浸漬させたときの収縮率が20%より低いと収縮不足となり、タイトな収縮仕上がりが得られないこととなる。
【0062】
Y(10)、Y(20)、及びY(30)をそれぞれ1.0×10MPa以上、3.0×10MPa以上、2.3×10MPa以上に調整するためには、それに見合うように材料設計自体を選定する方法と、低温から収縮するように製膜加工する方法の2通りがある。材料設計により選定する方法の例としては、例えば、材料設計でY(10)、Y(20)、Y(30)を増加する方法としては、Y(10)、Y(20)、Y(30)が高い樹脂をブレンドするか又は積層する方法がある。PLA系樹脂はY(10)、Y(20)、Y(30)が通常低いので、Y(10)、Y(20)、Y(30)が高い樹脂とブレンド又は積層することで所定の範囲のY(10)、Y(20)、Y(30)を得ることができる。Y(10)、Y(20)、Y(30)が高い樹脂として代表的なものとしては、ポリスチレン樹脂やポリオレフィン系樹脂等があるが、これらはPLA系樹脂との屈折率の差異があることから、ブレンドすると透明性を阻害することとなるので、積層することが一般的に行われる。Y(10)、Y(20)、Y(30)が高すぎる場合には、PLA系のブレンド比率や積層の場合はPLA系樹脂(A)を主成分とする層比をアップすることで下げることができる。
【0063】
低温から収縮するように製膜加工する方法としては、収縮する温度域(以下、「収縮温度領域」という。)を低下させる方法、すなわちフィルムに低温収縮性を付与する方法により、Y(10)、Y(20)、Y(30)の値を増加させることができる。収縮温度領域でのフィルムの剛性が不足する場合、低温収縮性を付与するために、収縮温度領域自体を低温側へシフトさせることにより収縮温度領域での貯蔵弾性率を高めることができる。このような調整により収縮過程での剛性を上げて、Y(10)ないしY(30)での貯蔵弾性率の条件(1)、(2)、(3)、及び(5)を満足させることができる。
【0064】
<(II)層>
本発明のフィルムは、積層構造を有する場合、PLA系樹脂(A)50質量%以上を含有する樹脂組成物からなる層を(I)層とし、PLA系樹脂(A)80質量%以上を含有する樹脂組成物からなる層を(II)層として積層させることができる。
【0065】
(II)層を構成する樹脂組成物中にPLA系樹脂(A)を80質量%以上、好ましくは85質量%、さらに好ましくは90質量%含有させることにより、フィルムの室温での剛性を付与できると同時に、自然収縮性を抑えて実用上、好適に使用できる。
【0066】
(II)層で使用可能なPLA系樹脂(A)は、(I)層で使用するPLA系樹脂(A)と同様のものを使用することができる。
【0067】
<(III)層>
本発明のフィルムは、さらにポリオレフィン(PO)系樹脂(B)を主成分としてなる(III)層を(I)層又は(II)層に積層させることができる。(III)層は、好ましくはPLA系樹脂(A)、PO系樹脂(B)、及びPLA系樹脂(A)とPO系樹脂(B)との相溶化を促進させる相溶性樹脂(C)を主成分とし、PLA系樹脂(A)とPO系樹脂(B)との質量比が(A)/(B)=1〜80/99〜20である層である。
【0068】
(III)層で使用可能なPLA系樹脂(A)は、(I)層で使用可能なPLA系樹脂を挙げることができる。また、PO系樹脂(B)は、特に限定されるものではないが、熱収縮特性、機械的物性、及び成形性の観点から、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、又はこれらの混合物を用いることが好ましい。
【0069】
以下に、本発明で好適に用いられるポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、及びエチレン−酢酸ビニル共重合体を例示する。
【0070】
本発明で好適に用いられるポリエチレン系樹脂としては、密度が0.940g/cm3以上0.970g/cm3以下の高密度ポリエチレン樹脂(HDPE)、密度が0.920g/cm3以上0.940g/cm3以下の中密度ポリエチレン樹脂(MDPE)、密度が0.920g/cm3未満の低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)や直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)が挙げられる。中でも延伸性、フィルムの耐衝撃性、透明性等の観点からは直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)が特に好適に用いられる。
【0071】
前記直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)としては、エチレンと炭素数3から20、好ましくは炭素数4から12のα−オレフィンとの共重合体が挙げられる。α−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−へキセン、1−へプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン等が例示される。この中でも1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンが好適に用いられる。また、共重合するα−オレフィンは1種のみを単独で、又は2種以上を組み合わせて用いても構わない。
【0072】
前記ポリエチレン系樹脂の密度は0.800g/cm3以上、好ましくは0.850g/cm3以上であり、さらに好ましくは0.900g/cm3以上であって、0.945g/cm3以下、好ましくは0.935g/cm3以下、さらに好ましくは0.925g/cm3以下の範囲であることが望ましい。密度が0.800g/cm3以上であればフィルム全体の腰(常温での剛性)や耐熱性を著しく低下させないため、実用上好ましい。一方、密度が0.945g/cm3以下であれば、低温での延伸性が維持され、実用温度域(70℃以上90℃以下程度)の熱収縮率が充分得ることができる点で好ましい。
【0073】
また、ポリエチレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は、特に制限されるものではないが、通常、MFR(JIS K7210、温度:190℃、荷重:21.18N)が0.5g/10分以上、より好ましくは1.0g/10分以上であって、15g/10分以下、好ましくは10g/10分以下の範囲であることが望ましい。ポリエチレン系樹脂のMFRは、均一な厚みのフィルムを得るためにポリ乳酸系樹脂の溶融時の粘度に類似したものを選択することが好ましい。
【0074】
次にPO系樹脂(B)としては、ホモプロピレン樹脂、ランダムポリプロピレン樹脂、ブロックポリプロピレン樹脂、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−ブテンゴム、エチレンジエンゴムなどが挙げられる。中でも延伸性、透明性、剛性などの観点からランダムポリプロピレン樹脂が特に好適に使用される。
【0075】
前記ランダムポリプロピレン樹脂において、プロピレンと共重合させるα−オレフィンとしては、好ましくは炭素数2から20、より好ましくは炭素数4から12のものが挙げられ、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−へキセン、1−へプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセンなどを例示できる。本発明においては、延伸性、熱収縮特性、フィルムの耐衝撃性や透明性、剛性等の観点から、α−オレフィンとしてエチレン単位の含有率が2質量%以上10質量%以下のランダムポリプロピレンが特に好適に用いられる。また、共重合するα−オレフィンは1種のみを単独で、又は2種以上を組み合わせて用いても構わない。
【0076】
また、ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は、特に制限されるものではないが、通常、MFR(JIS K7210、温度:230℃、荷重:21.18N)が、0.5g/10分以上、好ましくは1.0g/10分以上であり、15g/10分以下、好ましくは10g/10分以下の範囲であることが望ましい。ポリプロピレンのMFRは、均一な厚みのフィルムを得るためにポリ乳酸系樹脂の溶融時の粘度に類似したものを選択することが好ましい。
【0077】
次にエチレン−酢酸ビニル共重合体としては、エチレン単位の含有率が50質量%以上、好ましくは60質量%以上であって、95質量%以下、好ましくは85質量%以下であるエチレン−酢酸ビニル共重合体を用いることが望ましい。エチレン単位の含有率が50質量%以上であれば、フィルム全体の剛性を良好に維持できるため、好ましい。一方、エチレン単位の含有率が95質量%以下であれば、フィルム全体の腰(常温での剛性)や耐熱性を著しく低下させないため、実用上好ましい。
【0078】
前記エチレン−酢酸ビニル共重合体のメルトフローレート(MFR)は、特に制限されるものではないが、通常、MFR(JIS K7210、温度:190℃、荷重:21.18N)が、0.5g/10分以上、好ましくは1.0g/10分以上であり、15g/10分以下、好ましくは10g/10分以下の範囲であることが望ましい。エチレン−酢酸ビニル共重合体のMFRは均一な厚みのフィルムを得るためにポリ乳酸系樹脂の溶融時の粘度に類似したものを選択することが好ましい。
【0079】
PO系樹脂(B)の製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、公知のオレフィン重合用触媒を用いた公知の重合方法、例えばチーグラー・ナッタ型触媒に代表されるマルチサイト触媒やメタロセン系触媒に代表されるシングルサイト触媒を用いた、スラリー重合法、溶液重合法、塊状重合法、気相重合法等、また、ラジカル開始剤を用いた塊状重合法等が挙げられる。
【0080】
PO系樹脂(B)として2種以上のポリオレフィン系樹脂を使用する場合、配合比は配合後の混合樹脂のガラス転移温度(Tg)、融点、粘弾性値などを考慮して適宜決定される。例えば、PO系樹脂がポリエチレン樹脂とポリプロピレン樹脂の混合樹脂である場合、ポリエチレン樹脂(a)とポリプロピレン樹脂(b)の配合比(a/b)は90/10〜10/90の範囲であり、80/20〜20/80の範囲が好ましく、70/30〜30/70の範囲がさらに好ましい。また、ポリプロピレン樹脂(b)とエチレン−酢酸ビニル共重合体(c)の混合樹脂の場合には、配合比(b/c)は90/10〜10/90の範囲であり、80/20〜20/80の範囲が好ましく、70/30〜30/70の範囲がさらに好ましい。
【0081】
本発明において、PO系樹脂(B)は、例えば、ポリエチレン系樹脂として商品名「ノバテックHD、LD、LL」「カーネル」「タフマーA,P」(日本ポリエチレン社製)、「サンテックHD、LD」(旭化成ケミカルズ社製)、「HIZEX」「ULTZEX」「EVOLUE」(三井化学社製)、「UBEポリエチレン」「UMERIT」(宇部興産社製)、「NUCポリエチレン」「ナックフレックス」(日本ユニカ社製)、「Engage」(ダウケミカル社製)などが市販されている商品を使用できる。またポリプロピレン系樹脂としては、例えば、商品名「ノバテックPP」「WINTEC」「タフマーXR」(日本ポリプロ社製)、「三井ポリプロ」(三井化学社製)、「住友ノーブレン」「タフセレン」「エクセレンEPX」(住友化学社製)、「IDEMITSU PP」「IDEMITSU TPO」(出光興産社製)、「Adflex」「Adsyl」(サンアロマー社製)、「VERSIFY」(ダウケミカル社製)など市販されている商品を使用できる。また、エチレン酢酸ビニル共重合体としては、例えば「エバフレックス」(三井・デュポンポリケミカル社製)、「ノバテックEVA」(日本ポリエチ社製)など市販されている商品を使用できる。
【0082】
本発明において、(III)層はPO系樹脂(B)の他に炭化水素樹脂類をさらに含有していてもよい。炭化水素樹脂類をポリオレフィン系樹脂(B)に含有させた場合、ポリオレフィン系樹脂(B)(例えば、ポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂)などの結晶化を抑制し、フィルムの透明性が向上させるほか、低温での延伸性が維持でき、熱収縮特性の向上が期待できる。
【0083】
本発明において炭化水素樹脂類とは、石油樹脂類、テルペン樹脂、ロジン系樹脂などを指す。石油樹脂類としては、シクロペンタジエン又はその二量体からの脂環式石油樹脂やC成分からの芳香族石油樹脂を例示できる。また、テルペン樹脂としては、β−ピネンからのテルペン樹脂やテルペン−フェノール樹脂が例示できる。また、ロジン系樹脂としては、ガムロジン、ウッドロジン等のロジン樹脂、グリセリンやペンタエリスリトール等で変性したエステル化ロジン樹脂等が例示できる。炭化水素樹脂類は、ポリオレフィン系樹脂等に混合した場合に比較的良好な相溶性を示すことが知られているが、色調、熱安定性、及び相溶性から水素添加誘導体を用いることが好ましく、水添石油樹脂や部分水添石油樹脂が特に好ましい。
【0084】
上記炭化水素樹脂類は、分子量に応じて種々の軟化温度を有するものがあるが、本発明では軟化温度が100℃以上、好ましくは110℃以上であり、150℃以下、好ましくは140℃以下のものが好適に用いられる。軟化温度が100℃以上であれば、混合した際にシート表面にブリードし、ブロッキングを招いたり、シート全体の機械的強度が低下して破れやすくなったりすることがなく、実用的で好ましい。一方、軟化温度が150℃以下であれば、ポリオレフィン系樹脂との相溶性が良好に維持され、経時的にフィルム表面にブリードし、ブロッキングや透明性の低下を招いたりすることがなく好ましい。
【0085】
上記炭化水素樹脂類の含有量は、PO系樹脂(B)全量の5質量%以上が好ましく、より好ましくは8質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上であり、かつ50質量%以下であり、好ましくは40質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以下であることが望ましい。ここで、炭化水素樹脂類の含有量が5質量%以上であれば、フィルムの透明性や収縮特性の向上効果が顕著であり、また50質量%以下であれば、経時的に表面にブリードし、フィルム同士がブロッキングしやすくなったり、耐衝撃性が低下したりするなどの問題が発生し難く好ましい。
【0086】
上記炭化水素樹脂類としては、例えば、三井化学(株)の商品名「ハイレッツ」、「ペトロジン」、荒川化学工業(株)の商品名「アルコン」、ヤスハラケミカル(株)の商品名「クリアロン」、出光石油化学(株)の商品名「アイマーブ」、トーネックス(株)の商品名「エスコレッツ」などの市販されている商品を使用することができる。
【0087】
<相溶性樹脂(C)>
本発明において相溶性樹脂(C)は、PLA系樹脂(A)とPO系樹脂(B)とを相溶化させる樹脂を主成分としてなる。相溶性樹脂(C)は、PLA系樹脂(A)とPO系樹脂(B)とを相溶化させる樹脂であれば特に限定されないが、下記樹脂(c−1)、樹脂(c−2)、及び樹脂(c−3)からなる群より選ばれる少なくとも1種の共重合体又は樹脂を用いることが好ましい。
樹脂(c−1):酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エチル、メチル(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、及び(メタ)アクリル酸グリシジルからなる群から選ばれる少なくとも1種と、エチレンとの共重合体
樹脂(c−2):変性ポリスチレン系樹脂
樹脂(c−3):変性ポリオレフィン系樹脂
【0088】
前記樹脂(c−1)とは、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エチル、メチル(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、及び(メタ)アクリル酸グリシジルからなる群から選ばれる少なくとも1種と、エチレンとの共重合体を指す。樹脂(c−1)を例示すれば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エチル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、エチレン−アクリル酸エチル−無水マレイン酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−メチル(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体が挙げられる。中でも、エチレン−酢酸ビニル−(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−メチル(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体などが挙げられ、中でもエチレン−酢酸ビニル−無水マレイン酸三元共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル−(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体を好適に使用できる。
【0089】
樹脂(c−1)は、エチレン単位の含有率が50質量%以上95質量%以下、好ましくは60質量%以上85質量%以下であることが望ましい。エチレン単位の含有率が50質量%以上であれば、フィルム全体の剛性を良好に維持できる。一方、エチレン単位の含有率が95質量%以下であれば、樹脂(A)と樹脂(B)の相溶化作用を十分に発揮し、透明性、機械的強度の優れたフィルムを得ることができる。
【0090】
樹脂(c−1)は、例えば、エチレン−酢酸ビニル−無水マレイン酸三元共重合体として「ボンダイン」(住友化学社製)、エチレン−(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル−(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体として「ボンドファースト」(住友化学社製)などの市販品を利用できる。
【0091】
次に、樹脂(c−2)について説明する。
本発明において変性ポリスチレン系樹脂とは、スチレン系炭化水素と共役ジエン系炭化水素との共重合体、又はその水素添加誘導体に極性基を導入した樹脂を指す。スチレン系炭化水素としては、例えばスチレンが好適に用いられ、α−メチルスチレン等のスチレン同族体なども用いることができる。また、共役ジエン系炭化水素としては、1,3−ブタジエン、1,2−イソプレン、1,4−イソプレン、1,3−ペンタジエン等が挙げられ、これらは水素添加誘導体であってもよい。これらは単独で、又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0092】
また、樹脂(c−2)におけるスチレン系炭化水素の含有率は、共重合体の総量の5質量%以上、好ましくは7質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上であり、かつ50質量%以下、好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは35質量%以下であることが望ましい。スチレンの含有率が5質量%以上であれば、添加した場合に、良好な相溶性が得られ、フィルムの透明性を維持することができる。一方、スチレンの含有率が50質量%以下であれば、フィルムの破断性を抑えることができる。
【0093】
さらに、樹脂(c−2)に導入する極性基としては、酸無水物基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、カルボン酸塩化物基、カルボン酸アミド基、カルボン酸塩基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、スルホン酸塩化物基、スルホン酸アミド基、スルホン酸塩基、エポキシ基、アミノ基、イミド基、オキサゾリン基、水酸基などが挙げられる。極性基を導入したスチレン炭化水素と共役ジエン系炭化水素との共重合体又はその水素添加誘導体としては、例えば、無水マレイン酸変性SEBS、無水マレイン酸変性SEPS、エポキシ変性SEBS、エポキシ変性SEPSなどが代表的に挙げられる。中でもエポキシ変性SEBSを好適に用いることができる。ここでエポキシ化の程度としては、樹脂(A)と樹脂(B)の配合比や、未変性のスチレン系樹脂の種類などによって適宜定められるが、エポキシ当量が350以上、好ましくは450以上であって、1000以下、好ましくは800以下であることが適当である。これらの共重合体は、各々単独に又は2種以上を混合して使用することができる。
【0094】
樹脂(c−2)は、商品名「タフテックM」(旭化成ケミカルズ社製)、「エポフレンド」(ダイセル化学社製)、「ダイナロン」(JSR社製)などの市販品を利用できる。
【0095】
次に、樹脂(c−3)について説明する。
本発明における変性ポリオレフィン樹脂とは、不飽和カルボン酸又はその無水物、あるいはシラン系カップリング剤で変性されたポリオレフィンを主成分とする樹脂をいう。不飽和カルボン酸又はその無水物としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、イタコン酸、無水イタコン酸あるいはこれらの誘導体のモノエポキシ化合物と前記酸とのエステル化合物、分子内にこれらの酸と反応し得る基を有する重合体と酸との反応生成物などが挙げられる。また、これらの金属塩も使用することができる。これらの中でも、無水マレイン酸がより好ましく用いられる。また、これらの共重合体は、各々単独に、又は2種以上を混合して使用することができる。
【0096】
また、シラン系カップリング剤としては、ビニルトリエトキシシラン、メタクロイルオキシトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリアセチルオキシシランなどを挙げることができる。
【0097】
変性ポリオレフィン樹脂を製造するには、例えば、予めポリマーを重合する段階でこれらの変性モノマーを共重合させることもできるし、一旦重合したポリマーにこれらの変性モノマーをグラフト共重合させることもできる。また変性はこれらの変性モノマーを単独で又は複数を併用し、その含有率が0.1質量%以上、好ましくは0.3質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上であり、5質量%以下、好ましくは4.5質量%以下、さらに好ましくは4.0質量%以下の範囲のものが好適に使用される。この中でもグラフト変性したものが好適に用いられる。
【0098】
変性ポリオレフィン系樹脂の好適な例としては、無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂、無水マレイン酸変性ポリエチレン樹脂、無水マレイン酸エチレン−酢酸ビニル共重合体などが挙げられ、中でも無水マレイン酸変性エチレン−酢酸ビニル共重合体が好ましい。
【0099】
また、その他の変性ポリオレフィン系樹脂としては、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エチル、メチル(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、及び(メタ)アクリル酸グリシジルからなる群から選ばれる少なくとも1種と、エチレンとの共重合体の熱可塑性樹脂セグメント(a)と、少なくとも1種のビニル系単量体から形成されるビニル系重合体セグメント(b)とを有するグラフト共重合体を用いることが好ましい。
【0100】
前記グラフト共重合体の枝成分となるビニル系重合体セグメント(b)を形成するビニル単量体は、アルキル鎖長の炭素数が1から20の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、酸基を有するビニル単量体、ヒドロキシル基を有するビニル単量体、エポキシ基を有するビニル単量体、シアノ基を有するビニル単量体、スチレンより選択される少なくとも1種の単量体である。
【0101】
上記ビニル単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリロニトリル、スチレン等が挙げられる。これらの中でも、ポリ乳酸樹脂との高い親和性から、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジル、アクリロニトリル、スチレンが好ましい。
【0102】
ビニル系重合体セグメント(b)を形成するビニル系重合体の質量平均分子量〔テトラヒドロフラン(THF)中、スチレン換算によるゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)による測定値〕は、通常1,000〜2,000,000、好ましくは5,000〜1,200,000の範囲である。この質量平均分子量が1,000未満であると、グラフト共重合体の耐熱性が低下する傾向があり、質量平均分子量が2,000,000を超えると、グラフト共重合体の溶融粘度が高くなり、成形性が低下する傾向にある。
【0103】
また、上記グラフト共重合体のメルトフローレート(MFR)又はメルトインデクス(MI)は、好ましくは0.01g/10分以上、より好ましくは0.1g/10分以上、さらに好ましくは1.0g/10分以上であり、500g/10分以下、好ましくは300g/10分以下、さらに好ましくは200g/10分以下である。このMFRはJIS 7210に規定された方法に準拠して、樹脂温度230℃、測定荷重21.18Nの条件で測定したものである。MFRが0.01g/10分以上500g/10分以下の範囲にあれば、グラフト共重合体とPLA系樹脂(A)との良好な親和性が得られる。
【0104】
グラフト共重合体は、幹成分の熱可塑性樹脂セグメント(a)が通常、5質量%以上、好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上であり、99質量%以下、好ましくは95質量%以下、さらに好ましくは90質量%以下からなり、枝成分のビニル系重合体セグメント(b)は通常、1質量%以上、好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上であり、95質量%以下、好ましくは90質量%以下、さらに好ましくは80質量%以下である。熱可塑性樹脂セグメント(a)が5質量%以上、又はビニル系重合体セグメント(b)が95質量%以下であれば、PLA系樹脂(A)へのグラフト共重合体の分散性が低下することもなく、良好な外観を有する成形体が得られる。一方、熱可塑性樹脂セグメント(a)が99質量%以下、又はビニル系重合体セグメント(b)が1質量%以上であれば、PLA系樹脂(A)に対する十分な改良効果が得られる。このような知見に基づき、熱可塑性樹脂セグメント(a)とビニル系重合体セグメント(b)の割合を調整して、グラフト共重合体の極性を変更することにより、PLA系樹脂(A)とグラフト共重合体との相互作用を調整することができる。
【0105】
グラフト共重合体を製造する際のグラフト化法は、一般に知られている連鎖移動法、電離性放射線照射法等いずれの方法でも良いが、熱可塑性樹脂セグメント(a)を構成する重合体中に、ビニル系重合体セグメント(b)を構成するモノマー(単量体)、特定のラジカル(共)重合性有機過酸化物、特定のラジカル重合開始剤を加え、ビニル系重合体セグメント(b)単量体を熱可塑性樹脂セグメント(a)重合体中で、混練することによりグラフト化反応させる製造方法が簡便で、グラフト効率が高く、熱によるビニル系重合体セグメント(b)の二次的凝集が起こらず、グラフト共重合体をPLA系樹脂(A)と混合しやすくなり、両者の相互作用に優れているため好ましい。
【0106】
樹脂(c−3)は、例えば、商品名「アドマー」(三井化学社製)、「モディック」(三菱化学社製)、「モディパーA」(日本油脂社製)などの市販品を使用できる。
【0107】
相溶性樹脂(C)として2種以上の樹脂を使用する場合、PLA系樹脂(A)とPO系樹脂(B)との相溶性、混合樹脂の透明性、粘弾性値等を考慮して配合比を調整することができる。例えば、
【0108】
(III)層において、PLA系樹脂(A)とPO系樹脂(B)の質量比は、PLA系樹脂(A)/PO系樹脂(B)=1/99〜80/20であることが好ましく、5/95〜78/22、さらに好ましくは10/90〜76/24である。PO系樹脂(B)の含有量を20質量%以上とすることで、耐衝撃性と収縮仕上がりの優れたフィルムが得られる。一方、PLA系樹脂(A)を1質量%以上含ませることにより、熱収縮特性及びに優れ、かつ自然収縮性の抑制されたフィルムを得ることができる。
【0109】
また、相溶性樹脂(C)の混合量は、PLA系樹脂(A)とPO系樹脂(B)の混合樹脂100質量部に対し、1質量部以上、好ましくは2質量部以上、さらに好ましくは3質量部以上であり、かつ30質量部以下、好ましくは25質量部以下、さらに好ましくは20質量部以下であることが望ましい。相溶性樹脂(C)の混合量が前記混合樹脂100質量部に対し1質量部以上含まれれば、フィルムに優れた外観と耐衝撃性を付与できる。一方、相溶性樹脂(C)の含有量を30質量部以下とすることで、フィルムの剛性を維持できる。
【0110】
本発明のフィルムは、PLA系樹脂(A)50質量%以上を含有する(I)層と、PLA系樹脂(A)とPO系樹脂(B)と相溶性樹脂(C)の混合樹脂からなる(III)層との間に接着性を向上させる目的で、さらに接着層を設けてもよい。接着層を構成する樹脂は、接着性を発現できる樹脂であれば特に限定されないが、相溶性樹脂(C)で例示した樹脂を接着性樹脂として好適に用いることができる。
【0111】
<フィルムの層構成>
本発明のフィルムは、(I)層のみからなる単層フィルムであっても、(II)層、(III)層、接着層を積層させた積層フィルムであってもよい。積層フィルムを具体的に例示すれば、例えば次のものが挙げられる。
(I)層/(II)層
(II)層/(I)層/(II)層
(I)層/(II)層/(I)層
(I)層/接着層/(III)層
(II)層/(I)層/接着層/(III)層
(I)層/(II)層/接着層/(III)層
(I)層/接着層/(III)層/接着層/(I)層
(III)層/接着層/(I)層/接着層/(III)層
(II)層/(I)層/接着層/(III)層/接着層/(I)層
(I)層/(II)層/接着層/(III)層/接着層/(I)層
(II)層/(I)層/接着層/(III)層/接着層/(II)層
(I)層/(II)層/接着層/(III)層/接着層/(II)層
【0112】
次に、本発明の好適な実施形態の1つである(I)層/接着層/(III)層/接着層/(I)層の3種5層フィルムについて説明する。
本発明で(I)層と(III)層との間に接着層を設ける場合、各層の厚み比は上述した作用効果を考慮して設定すればよく、特に限定されるものではない。フィルム全体の厚みに対する(I)層の厚み比は10%以上、好ましくは15%以上、さらに好ましくは20%であり、かつ70%以下、好ましくは60%以下、さらに好ましくは50%以下であることが望ましい。また接着層はその機能から、0.5μm以上、好ましくは0.75μm以上、さらに好ましくは1μm以上であり、かつ6μm以下、好ましくは5μm以下の範囲であることが望ましい。各層の厚み比が前記範囲内であれば、特に優れた熱収縮性、透明性に優れ、かつ自然収縮の抑制された収縮包装、収縮結束包装や収縮ラベル等の用途に適した熱収縮性フィルムがバランスよく得ることができる。
【0113】
本発明のフィルムは、前記各層のいずれか一層又は二層以上に対して、上述した成分のほか、本発明の効果を著しく阻害しない範囲内で、すなわち添加量として各層を構成する樹脂の総量100質量部に対して0.001質量部以上、好ましくは0.005質量部以上、さらに好ましくは0.01質量部以上であり、かつ10質量部以下、好ましくは5部以下、さらに好ましくは1質量部以下の範囲で、成形加工性、生産性及び熱収縮性フィルムの諸物性を改良・調整する目的で、フィルムの耳などのトリミングロス等から発生するリサイクル樹脂やシリカ、タルク、カオリン、炭酸カルシウム等の無機粒子、酸化チタン、カーボンブラック等の顔料、難燃剤、耐候性安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、溶融粘度改良剤、架橋剤、滑剤、核剤、可塑剤、老化防止剤などの添加剤を適宜添加できる。
【0114】
[物理的・機械的性質]
本発明のフィルムは、剛性の点から、フィルムの直交方向の引張弾性率が1000MPa以上あることが好ましく、1100MPa以上あることがさらに好ましい。また、通常使用される熱収縮性フィルムの引張弾性率の上限値は、3000MPa程度であり、好ましくは2900MPa程度であり、さらに好ましは2800MPa程度である。フィルムの主収縮方向と直交する方向の引張弾性率が1000MPa以上あれば、フィルム全体としての剛性を高くすることができ、特にフィルムの厚みを薄くした場合においても、ペットボトルなどの容器に製袋したフィルムをラベリングマシン等で被せる際に、斜めに被ったり、フィルムの腰折れなどで歩留まりが低下したりしやすいなどの問題点が発生し難く、好ましい。上記引張弾性率は、JISK7127 に準じて、23℃ の条件で測定することができる。
【0115】
本発明のフィルムの自然収縮率はできるだけ小さいほうが望ましいが、一般的に熱収縮性フィルムの自然収縮率は、例えば、30℃ で30日保存後の自然収縮率が2.0%以下、好ましくは1.8%以下、さらに好ましくは1.6% 以下であることが望ましい。上記条件下における自然収縮率が2.0%以下であれば作製したフィルムを長期保存する場合であっても容器等に安定して装着することができ、実用上問題を生じにくい。
【0116】
本発明のフィルムの透明性は、例えば、厚み50μmのフィルムをJISK7105に準拠して測定した場合、ヘーズ値は15%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、7%以下であることがさらに好ましい。ヘーズ値が15%以下であれば、フィルムの透明性が得られ、ディスプレー効果を奏することができる。
【0117】
[単層フィルム又は積層フィルムの製造方法]
本発明のフィルムが(I)層のみからなる単層フィルムである場合、(I)層を構成する樹脂混合物を、一軸押出機、又は二軸(同方向、異方向)押出機によって押し出すことにより、少なくとも1軸に延伸して製造される。また、本発明の積層フィルムである場合、各層を構成する上記の樹脂又は樹脂混合物を、一軸押出機、又は二軸(同方向、異方向)押出機によって押し出すことにより、少なくとも1軸に延伸して製造される。
【0118】
押出に際しては、Tダイ法、チューブラ法等の既存の方法を採用してもよい。また、積層フィルムを製造する場合、共押出や、単層毎に押し出した後に重ね合わせる方法等を採用することができる。溶融押出された樹脂は、冷却ロール、空気、水等で冷却された後、熱風、温水、赤外線等の適当な方法で再加熱され、ロール法、テンター法、チューブラ法等により、1軸又は2軸に延伸される。
【0119】
延伸温度は、単層フィルム又は積層フィルムを構成する各樹脂の軟化温度や、得られる単層フィルムや積層フィルムに要求される用途によって変える必要があるが、概ね60〜130℃、好ましくは80〜120℃の範囲で制御される。
【0120】
上記延伸処理において、主収縮方向(単層フィルム又は積層フィルムの長さ方向と直角方向(TD))の延伸倍率は、単層フィルム又は積層フィルムの構成組成、延伸手段、延伸温度、目的の製品形態に応じて2〜7倍の範囲で適宜決定される。また、1軸延伸にするか2軸延伸にするかは、目的の製品の用途によって決定される。
【0121】
より具体的には、積層フィルムの場合、中間層が所望の割合になるように各原料を押出機で溶融し、Tダイにて押出した溶融体をキャストロールで冷却し厚さ200〜400μmの未延伸フィルムを得ることが好ましい。
【0122】
そして、この未延伸フィルムを流れ方向(MD)に1.0〜1.5倍延伸後、その直角方向(TD)に3〜8倍延伸し、熱処理を行い、厚さ約30〜70μmのフィルムを製作することができる。但し、延伸温度と熱処理温度は収縮温度領域において所望の熱収縮率が得られるように設定する必要がある。
【0123】
さらに、延伸、熱処理後、フィルムの分子配向が緩和しない時間内に速やかに、得られたフィルムの冷却を行うことも、収縮性を付与して保持する上で重要である。前記範囲内の延伸倍率で延伸した二軸延伸フィルムは、主収縮方向と直交する方向の熱収縮率が大きくなりすぎることはなく、例えば、収縮ラベルとして用いる場合、容器に装着するとき容器の高さ方向にもフィルムが熱収縮する、いわゆる縦引け現象を抑えることができるため好ましい。
【0124】
延伸温度は、用いる樹脂のガラス転移温度や熱収縮性フィルムに要求される特性によって変える必要があるが、概ね50℃以上、好ましくは60℃以上であり、上限が130℃以下、好ましくは110℃以下の範囲で制御される。次いで、延伸したフィルムは、必要に応じて、自然収縮率の低減や熱収縮特性の改良等を目的として、50℃以上100℃以下程度の温度で熱処理や弛緩処理を行った後、分子配向が緩和しない時間内に速やかに冷却され、熱収縮性フィルムとなる。
【0125】
また本発明のフィルムは、必要に応じてコロナ処理、印刷、コーティング、蒸着等の表面処理や表面加工、さらには、各種溶剤やヒートシールによる製袋加工やミシン目加工などを施すことができる。
【0126】
本発明のフィルムは、被包装物によってフラット状から円筒状等に加工して包装に供される。ペットボトル等の円筒状の容器で印刷を要するものの場合、まずロールに巻き取られた広幅のフラットフィルムの一面に必要な画像を印刷し、そしてこれを必要な幅にカットしつつ印刷面が内側になるように折り畳んでセンターシール(シール部の形状はいわゆる封筒貼り)して円筒状とすれば良い。センターシール方法としては、有機溶剤による接着方法、ヒートシールによる方法、接着剤による方法、インパルスシーラーによる方法が考えられる。この中でも、生産性、見栄えの観点から有機溶剤による接着方法が好適に使用される。
【0127】
[成形品、熱収縮性ラベル及び容器]
本発明のフィルムは、フィルムの低温収縮性、収縮仕上がり性、透明性、自然収縮等に優れているため、その用途が特に制限されるものではないが、必要に応じて印刷層、蒸着層その他機能層を形成することにより、ボトル(ブローボトル)、トレー、弁当箱、総菜容器、乳製品容器等の様々な成形品として用いることができる。特に本発明のフィルムを食品容器(例えば清涼飲料水用または食品用のPETボトル、ガラス瓶、好ましくはPETボトル)用熱収縮性ラベルとして用いる場合、複雑な形状(例えば、中心がくびれた円柱、角のある四角柱、五角柱、六角柱など)であっても該形状に密着可能であり、シワやアバタ等のない美麗なラベルが装着された容器が得られる。本発明の成形品及び容器は、通常の成形法を用いることにより作製することができる。
【0128】
本発明のフィルムは、優れた収縮特性、収縮仕上がり性を有するため、高温に加熱すると変形を生じるようなプラスチック成形品の熱収縮性ラベル素材のほか、熱膨張率や吸水性等が本発明の熱収縮性フィルムとは極めて異なる材質、例えば金属、磁器、ガラス、紙、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等のポリオレフィン系樹脂、ポリメタクリル酸エステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂から選ばれる少なくとも1種を構成素材として用いた包装体(容器)の熱収縮性ラベル素材として好適に利用できる。
【0129】
本発明のフィルムが利用できるプラスチック包装体を構成する材質としては、前記の樹脂の他、ポリスチレン、ゴム変性耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、スチレン−ブチルアクリレート共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、(メタ)アクリル酸−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS)、ポリ塩化ビニル系樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂等を挙げることができる。これらのプラスチック包装体は2種以上の樹脂類の混合物でも、積層体であってもよい。
【実施例】
【0130】
以下に実施例を示すが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。但し、以下の実施例では、フィルムの流れ方向をMD、流れ方向と直角方向をTDとして記載する(主収縮方向がTDに相当する)。なお、実施例に示す測定値及び評価は次のように行った。
【0131】
[熱収縮率]
フィルムを、主収縮方向が長くなるように幅40mm、長さ200mmの大きさに切り取り、主収縮方向(TD)の収縮量を70℃、80℃の温水バスに10秒間浸漬し測定した。熱収縮率は、収縮前の原寸に対する収縮量の比率を%値で表示した。
【0132】
[自然収縮率]
フィルムをTDに1000mmの長さで標線を入れ、23℃、30℃の雰囲気の恒温槽に30日間放置後、標線間の長さA(mm)を測定し、下記式より自然収縮率(%)を算出した。
自然収縮率(%)={(1000−A)/1000}×100
【0133】
[貯蔵弾性率測定]
粘弾性スペクトロメーターDVA−200(アイティ−計測制御(株)製)を用い、振動周波数1Hz、昇温速度3℃/分、測定温度20℃から120℃の範囲で測定フィルムMDについて測定した。
【0134】
[収縮率に対する貯蔵弾性率]
温度を60℃、70℃、80℃、90℃、100℃、浸漬時間を3秒とする以外は、上記[熱収縮率]に記載の方法で熱収縮率を測定し、横軸を温度、縦軸を収縮率として収縮曲線を作成した。得られた収縮曲線から10%、20%、30%の熱収縮率を得るための必要な3秒浸漬の温水温度を算出した。
得られた10%、20%、30%の各温度をそれぞれT(10)、T(20)、T(30)とし、得られたT(10)、T(20)、T(30)における貯蔵弾性率をそれぞれY(10)、Y(20)、Y(30)とした。
【0135】
[収縮仕上がり]
フィルムをMD160mm×TD238mmで切り出し、TDに10mm分重なるように折り、重なった部分をヒートシールし、円筒状とする。次いで、この円筒状のフィルムを500mlの多面体ボトルにボトルの下面までかぶせて仕上がり評価用サンプルを作製した。
【0136】
評価用サンプルは蒸気加熱方式の長さ4m(3ゾーン構成)の収縮トンネル中を回転させずに、トンネル内の各ゾーンの温度を以下の温度条件として5秒間で通過させ、ボトルに収縮したフィルムの腰折れに起因する折れ込みやシワがないか、収縮不足ではないかの確認を行い評価した。評価は各サンプルN=6で行った。
【0137】
温度条件1:1ゾーン/67〜73℃、2ゾーン/88〜92℃、3ゾーン/88〜92℃
温度条件2:1ゾーン72〜78℃、2ゾーン/96〜100℃、3ゾーン/96〜100℃
蒸気を噴射するトンネル内のノズル位置:1ゾーン/フィルム下部、2ゾーン前半/フィルム中央部、2ゾーン後半/フィルム全体、3ゾーン/フィルム全体
温度調整:ノズルに通じる蒸気配管のバルブ開閉により蒸気量を調整して行う。
【0138】
(評価方法)
温度条件1の場合、折れ込み、シワ、及び収縮不足のいずれもなかったものが1個以上あったときを○とし、収縮不足が1個以上あったときを×とした。また、温度条件2の場合、折れ込み、シワ及び収縮不足のいずれもなかったものが3個以上あったときを○とし、2個以下を×とした。総合評価は、温度条件1及び2のいずれも○の場合に○とし、いずれかが×の場合は×とした。
【0139】
(実施例1)
PLA系樹脂(ポリ乳酸樹脂、商品名「Nature Works 4050」、L−乳酸/D−乳酸=94.5/5.5、重量平均分子量20万;Nature Works LLC社製)(以下、「A−1」と略称)25質量% 、PLA系樹脂(ポリ乳酸樹脂、商品名「Nature Works 4060」、L−乳酸/D−乳酸=88.0/12.0、重量平均分子量20万;Nature Works LLC社製)(以下「A−2」と略称)55質量%、ポリブチレンサクシネート(「ビオノーレ1010」、融点114℃、ガラス転移温度−32℃;昭和高分子社製)8質量%、ポリカプロラクトン(商品名「セルグーリンPH−7」、融点:61℃ 、ガラス転移温度:−58℃;ダイセル化学社製)12質量%からなる混合樹脂を(I)層の原料とした。また、A−1を35質量% 、A−2を65質量% とした混合樹脂(粒径1.6μmのアルミナシリカ0.1%を含有)を(II)層の原料とした。
次いで、(I)層、(II)層の混合原料を別々の押出機にて190℃〜210℃にて混練し、(I)層を構成する混合樹脂100質量部に対してジ(2−エチルヘキシル)アゼレート(DOZ:SP値8.96)を5質量部ベント溝より添加し、200℃でTダイ内にて合流させ、(II)層/(I)層/(II)層の2種3層構造からなる溶融体を約36℃のキャスティングロールにて急冷し、未延伸シートを得た。この未延伸シートをMDに60℃で1.02倍のロール延伸、次いで、TDに62℃で3.7倍延伸し、73℃で熱処理を行い厚さ50μmの熱収縮性フィルム(積層比:5μm/40μm/5μm)を得た。得られた熱収縮性フィルムの評価結果を表1及び2に示す。なお、この場合、TDが主収縮方向となる(以下、同様)。
【0140】
(実施例2)
PO系樹脂(ポリプロピレン樹脂、商品名「ノーブレンFH3315」、MFR3.0g/10分;住友化学社製)(以下「B−1」と略称)35質量%と、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン樹脂、商品名「UMERIT 0540F」、MFR4.0g/10分;宇部興産社製)45質量%と、水添石油樹脂(荒川化学社製、商品名「アルコンP125」)を15質量%と、A−2を5質量%とからなる混合樹脂100質量部に対し、エチレン−メタクリル酸−グリシジルメタクリレート共重合体(商品名「ボンドファースト7M」;住友化学社製)(以下「C−1」と略称する。)を2質量部配合してなる樹脂を(III)層とし、A−2を60質量%と、ポリ乳酸系樹脂(ポリ乳酸樹脂、「商品名:LACEA H−440」、L体/D体量=95.8/4.2;三井化学社製)40質量%とからなる混合樹脂を(I)層とし、(I)と(III)の層間に変性ポリオレフィン樹脂(商品名「アドマーSE800」、MFR4.4g/10min;三井化学社製)(以下「AD−1」と略称する。)を接着層として(III)層、(I)層、接着層の樹脂を別々の押出機にて190℃〜210℃ にて混練し、200℃でT ダイ内で合流させ、(I)層/接着層/(III)層/接着層/(I)層の3種5層構造からなる溶融体を約30℃のキャスティングロールにて急冷し、未延伸シートを得た。この未延伸シートをMDに55℃で1.05倍のロール延伸、次いで、TDに80℃で5.0倍延伸し、50℃で熱処理を行い厚さ50μmの熱収縮性フィルム(積層比:6μm/1μm/36μm/1μm/6μm)を得た。得られた熱収縮性フィルムの評価結果を表1及び2に示す。
【0141】
(実施例3)
キャスティングロールの温度を約50℃、TDに70℃で4.5倍延伸し、80℃で熱処理を行う以外は、実施例2と同様に熱収縮性フィルムを得た。得られた熱収縮性フィルムの評価結果を表1及び2に示す。
【0142】
(実施例4)
PO系樹脂(ポリプロピレン樹脂、商品名「VERSIFY2400」)(以下「B−2」と略称)22質量%と、C−1を5質量%、PLA系樹脂(ポリ乳酸樹脂、商品名「Nature Works 4042」、L−乳酸/D−乳酸=95.7/4.3;Nature Works LLC社製)(以下、「A−4」と略称)24質量%、A−2を49質量%配合してなる樹脂を(III)層とし、A−2を60質量%と、A−4を40質量%配合してなる混合樹脂(粒径1.6μmのアルミナシリカ0.1%を含有)を(I)層とし、(I)と(III)の層間にAD−1を接着層として(III)層、(I)層、接着層のそれぞれの樹脂を別々の押出機にて190℃〜210℃ にて混練し、200℃でT ダイ内で合流させ、(I)層/接着層/(III)層/接着層/(I)層の3種5層構造からなる溶融体を45℃のキャスティングロールにて急冷し、未延伸シートを得た。この未延伸シートをMDに45℃で1.02倍のロール延伸、次いで、TDに80℃で5.0倍延伸し、95℃で熱処理を行い厚さ50μmの熱収縮性フィルム(積層比:6μm/1μm/36μm/1μm/6μm)を得た。得られた熱収縮性フィルムの評価結果を表1及び2に示す。
【0143】
(実施例5)
B−2を22質量%、C−1を5質量%、A−4を41質量%、A−2を32質量%配合してなる樹脂を(II)層とし、A−2を60質量%と、A−4を40質量%とからなる混合樹脂(平均粒径1.6μmのアルミナシリカ0.1%を含有)を(I)層とした。
次いで、(I)層、(II)層の混合原料を別々の押出機にて190℃〜210℃ にて混練し、200℃でTダイ内にて合流させ、(II)層/(I)層/(II)層の2種3層構造からなる溶融体を45℃のキャスティングロールにて急冷し、未延伸シートを得た。この未延伸シートをMDに45℃で1.02倍のロール延伸、次いで、TDに70℃で5倍延伸し、90℃で熱処理を行い厚さ50μmの熱収縮性フィルム(積層比:6μm/38μm/6μm)を得た。得られた熱収縮性フィルムの評価結果を表1、2に示す。なお、この場合T D が主収縮方向となる。
【0144】
(実施例6)
B−2を22質量%、B−1を8質量%、C−1を5質量%、A−2を34質量%、A−4を15質量%、メタクリル酸メチルとアクリル酸メチルの共重合体(クラレ製、商品名「パラペットHR−L」)を16質量%配合してなる樹脂を(II)層とし、A−2を60質量%と、A−4を40質量%とからなる混合樹脂(平均粒径1.6μmのアルミナシリカ0.1%を含有)を(I)層とした。
次いで、(I)層、(II)層の混合原料を別々の押出機にて190℃〜210℃ にて混練し、200℃でTダイ内で合流させ、(II)層/(I)層/(II)層の2種3層構造からなる溶融体を45℃のキャスティングロールにて急冷し、未延伸シートを得た。この未延伸シートをMDに45℃で1.02倍のロール延伸、次いで、TDに80℃で5倍延伸し、90℃で熱処理を行い厚さ50μmの熱収縮性フィルム(積層比:6μm/38μm/6μm)を得た。得られた熱収縮性フィルムの評価結果を表1及び2に示す。
【0145】
(比較例1)
TDに65℃で3.7倍延伸し、76℃で熱処理を行う以外は実施例1と同様に熱収縮性フィルムを得た。得られた熱収縮性フィルムの評価結果を表1及び2に示す。
【0146】
(比較例2)
キャスティングロールの温度を約50℃、TDに75℃で4.5倍延伸し、85℃で熱処理を行う以外は、実施例2と同様に熱収縮性フィルムを得た。得られた熱収縮性フィルムの評価結果を表1及び2に示す。
【0147】
(比較例3)
キャスティングロールの温度を約50℃、TDに70℃で4.5倍延伸し、90℃で熱処理を行う以外は、実施例2と同様に熱収縮性フィルムを得た。得られた熱収縮性フィルムの評価結果を表1及び2に示す。
【0148】
(比較例4)
キャスティングロールの温度を約50℃、TDに70℃で5倍延伸し、100℃で熱処理を行う以外は、実施例2と同様に熱収縮性フィルムを得た。得られた熱収縮性フィルムの評価結果を表1及び2に示す。
【0149】
【表1】

【0150】
【表2】

【0151】
表1及び2より、Y(10)、Y(20)、Y(30)が全て以下の条件を満たす実施例1〜6は、腰折れによるシワ等の発生や収縮不足なく、収縮仕上がりが良好なシュリンクを実現することができた。一方、本発明の条件(1)ないし(3)のいずれかを満足しない比較例1〜4は収縮過程で腰折れによるシワ等が発生し問題であることが分かる。
【0152】
これより本発明のフィルムは収縮過程での剛性が高い為に、腰折れによる折れ込み等が発生しないプラスチック容器等にラベルとして被服するのに好適な熱収縮性フィルムであることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系樹脂(A)50質量%以上を含有する樹脂組成物からなり、又はこの樹脂組成物からなる(I)層を少なくとも1層有し、かつ下記条件(1)から(3)を満たすことを特徴とする熱収縮性フィルム。
(1)温水中に3秒間浸漬したときの熱収縮率が10%となる温度における主収縮方向と直交する方向の貯蔵弾性率Y(10):
1.0×10MPa≦Y(10)≦7.0×10MPa
(2)温水中に3秒間浸漬したときの熱収縮率が20%となる温度における主収縮方向と直交する方向の貯蔵弾性率Y(20):
3.0×10MPa≦Y(20)≦2.5×10MPa
(3)温水中に3秒間浸したときの熱収縮率が30%となる温度における主収縮方向と直交する方向の貯蔵弾性率Y(30):
2.3×10MPa≦Y(30)≦9.0×10MPa
【請求項2】
ポリ乳酸系樹脂(A)80質量%以上を含有する樹脂組成物からなる(II)層をさらに有する請求項1に記載の熱収縮性フィルム。
【請求項3】
ポリ乳酸系樹脂(A)、ポリオレフィン系樹脂(B)、及びポリ乳酸系樹脂とポリオレフィン系樹脂との相溶化を促進させる相溶性樹脂(C)を主成分とし、ポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との質量比が1〜80/99〜20である(III)層をさらに有する請求項1又は2に記載の熱収縮性フィルム。
【請求項4】
相溶性樹脂(C)が下記樹脂(c−1)、樹脂(c−2)、及び樹脂(c−3)からなる群から選ばれる少なくとも1種類である請求項3に記載の熱収縮性フィルム。
樹脂(c−1):酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エチル、メチル(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、及び(メタ)アクリル酸グリシジルからなる群から選ばれる少なくとも1種以上と、エチレンとの共重合体
樹脂(c−2):変性ポリスチレン系樹脂
樹脂(c−3):変性ポリオレフィン系樹脂
【請求項5】
相溶性樹脂(C)の含有量が、ポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との混合樹脂100質量部に対し、1質量部以上30質量部以下である請求項3又は4に記載の熱収縮性フィルム。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の熱収縮性フィルムを基材として用いた成形品。
【請求項7】
請求項1から5のいずれかに記載の熱収縮性フィルムを基材として用いた熱収縮性ラベル。
【請求項8】
請求項6に記載の成形品、又は請求項7に記載の熱収縮性ラベルを装着した容器。

【公開番号】特開2009−13407(P2009−13407A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−149988(P2008−149988)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】