説明

熱可塑性樹脂組成物

【課題】引張弾性率、耐熱性、耐衝撃性及び流動性に優れ、かつこれらのバランスにも優れたポリカーボネート樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリカーボネート(A)98〜90質量部及び重合脂肪酸系ポリアミド(B)2〜10質量部(但し、(A)+(B)は100質量部である)を含有することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引張弾性率、耐熱性、耐衝撃性及び流動性に優れ、かつこれらのバランスにも優れたポリカーボネート樹脂組成物、及びそれから形成される樹脂成形物、特に自動車用内装部品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネートは、耐熱性、機械的強度(特に衝撃強度)、寸法安定性、電気的特性、透明性、衛生性等に優れたエンジニアリングプラスチックとして知られており、これらの特徴を生かして電気、電子、OA、精密機械、自動車、医療、家庭用品等種々の分野で広く使用されている。しかしながら、ポリカーボネートは溶融粘度が高いため流動性が不良であり成形温度を高温にする必要性を有する。このような欠点を改良するためポリカーボネートに、他の熱可塑性樹脂をブレンドする試みが広く行われている。
【0003】
例えば特許文献1には、樹脂流動性改良剤としてアミド化合物であるエチレンビスステアリルアミドを添加したポリカーボネート樹脂組成物が提案され、流動性を特異的かつ顕著に改善し得ることが記載されている。しかしながら、表1及び表2の実施例結果からわかるように、実施例5は比較例1と比較した場合、耐熱性、耐衝撃性が大幅に低下しており、耐熱性、耐衝撃性及び流動性のバランスについては未だ満足できるものではなかった。
【0004】
また、従来の樹脂流動性改良剤は、融点が低く常温で液体のものが多いが、常温液体成分を含むポリカーボネート樹脂組成物は耐熱性、耐衝撃性が低下する問題があった。
【0005】
ポリカーボネートの優れた引張弾性率、耐熱性及び耐衝撃性を保持しつつ流動性が向上され、かつこれらのバランスにも優れる材料系は未だ見出されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−37031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、引張弾性率、耐熱性、耐衝撃性及び流動性に優れ、かつこれらのバランスにも優れたポリカーボネート樹脂組成物、及びそれから形成される樹脂成形物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の発明を包含する。
(1)ポリカーボネート(A)98〜90質量部及び重合脂肪酸系ポリアミド(B)2〜10質量部(但し、(A)+(B)は100質量部である)を含有するポリカーボネート樹脂組成物。
(2)重合脂肪酸系ポリアミド(B)のメルトフローレート(MFR;測定温度230℃、荷重21.18N)が200〜2000(g/10分)である、上記(1)に記載の樹脂組成物。
(3)常温で液体の成分を含まない、上記(1)又は(2)に記載の樹脂組成物。
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の樹脂組成物をスラッシュ成形法、押出し成形法又は射出成形法を用いて成形してなる樹脂成形物。
(5)自動車用内装部品である、上記(4)に記載の樹脂成形物。
(6)自動車用内装部品がインストルメントパネル、コンソールボックス、ドアトリム、天井、ハンドル、コンソールボックス、シート又はシートノブである、上記(5)に記載の樹脂成形物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の樹脂組成物は、引張弾性率、耐熱性、耐衝撃性及び流動性に優れ、かつこれらのバランスにも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の樹脂組成物は、ポリカーボネート(A)98〜90質量部及び重合脂肪酸系ポリアミド(B)2〜10質量部(但し、(A)+(B)は100質量部である)を含有することを特徴とする。これにより、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、引張弾性率、耐熱性、耐衝撃性及び流動性に優れ、かつこれらのバランスにも優れる。重合脂肪酸系ポリアミド(B)の配合量は、前記(A)及び(B)の合計100質量部に対して、好ましくは3〜8質量部である。
【0011】
本発明の樹脂組成物に使用されるポリカーボネート(A)とは、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、又はジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体であり、代表的なものとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)から製造されたポリカーボネートが挙げられる。
【0012】
上記ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエーテルのようなジヒドロキシジアリールエーテル類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィドのようなジヒドロキシジアリールスルフィド類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホンのようなジヒドロキシジアリールスルホン類等が挙げられる。
【0013】
これらは単独又は2種類以上混合して使用されるが、これらの他に、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル等を混合して使用してもよい。
【0014】
さらに、上記のジヒドロキシジアリール化合物と以下に示すような3価以上のフェノール化合物を混合使用してもよい。3価以上のフェノールとしてはフロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン、2,4,6−トリメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン及び2,2−ビス〔4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキシル〕プロパンなどが挙げられる。
【0015】
ポリカーボネート(A)の粘度平均分子量には特に制限はないが、成形加工性、強度の面より通常10000〜100000、より好ましくは15000〜30000、さらに好ましくは17000〜26000の範囲である。また、かかるポリカーボネートを製造するに際し、分子量調整剤、触媒等を必要に応じて使用することができる。
【0016】
本発明の樹脂組成物に使用される重合脂肪酸系ポリアミド(B)とは、重合脂肪酸とエチレンジアミンを主成分として、酸成分には、重合脂肪酸単独若しくは、重合脂肪酸に酢酸、イソフタール酸、マロン酸、ジクリコール酸、ジフェノニックス酸、3,9−ビス(2−カルボキシアルキル)2,4,8,10−テトラオキサスピロウンデカン等の酸を併用し、アミン成分としてはエチレンジアミン単独若しくは、エチレンジアミンにプロピレンジアミン、イソフォロンジアミン、メトキシプロピルアミン、1,4−ビスアミノエチルベンゼン、4,4−ジアミノジフェニルメタン、エタノールアミン、ジエチレントリアミン等を併用し必要によりラウリルラクトン等を共重合したものである。
【0017】
上記重合脂肪酸は、石油由来であっても植物由来であってもよいが、植物由来の重合脂肪酸を使用することが、省化石資源及び環境配慮の観点から望ましい。
【0018】
本発明の樹脂組成物に使用される重合脂肪酸系ポリアミド(B)のメルトフローレート(MFR;測定温度230℃、荷重21.18N)は、ポリカーボネート(A)の分散性の観点から、200〜2000であることが好ましい。
【0019】
本発明の樹脂組成物に使用される重合脂肪酸系ポリアミド(B)としては、富士化成工業株式会社製「PA−30R」、同「PA−30M」、同「PA−30」、同「PA−40M」、同「PA−50R」、同「PA−50M」、同「PA−60」、同「PA−160M」、同「PA−160」、同「PA−260R」、同「PA−260M」、同「PA−260」、同「PA−270M」、同「PA−280R」、同「PA−280M」、同「PA−280」などが挙げられる。この中で、上記メルトフローレートを満たし、重合脂肪酸が植物由来であるという観点から、「PA−30R」及び「PA−280R」が好ましい。
【0020】
本発明の樹脂組成物には、常温で液体の成分を含まないことが、耐熱性及び耐衝撃性を維持する観点から好ましい。
【0021】
また、本発明の樹脂組成物には、必要に応じて、ポリカーボネート(A)及び重合脂肪酸系ポリアミド(B)以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の添加物を配合することができる。その他の添加物としては、例えば、公知慣用の顔料、無機充填剤、可塑剤、離型剤、有機充填剤、分散剤、紫外線吸収剤(光安定剤)、酸化防止剤、ブロッキング防止剤等が挙げられる。
【0022】
上記添加剤の合計配合量は、本発明の樹脂組成物100質量部に対して、通常40質量部以下、好ましくは30質量部以下である。
【0023】
本発明の樹脂組成物を製造する方法は、各成分を混合する工程を含む。混合に使用する混合装置としては、公知の粉体混合装置を使用でき、容器回転型混合機、固定容器型混合機、流体運動型混合機のいずれも使用できる。例えば固定容器型混合機としては高速流動型混合機、複軸パドル型混合機、高速剪断混合装置(ヘンシエルミキサー(登録商標)等)、低速混合装置(プラネタリーミキサー等)や円錐型スクリュー混合機(ナウタミキサ(登録商標)等)を使ってドライブレンドする方法が知られている。これらの方法の中で、複軸パドル型混合機、低速混合装置(プラネタリーミキサー等)、及び円錐型スクリュー混合機(ナウタミキサ(登録商標)等)を使用するのが好ましい。
【0024】
本発明の樹脂組成物からなる樹脂成形物はスラッシュ成形法、押出し成形法又は射出成形法で成形することができる。
【0025】
本発明の樹脂組成物は、自動車用内装部品、例えばインストルメントパネル、コンソールボックス、ドアトリム、天井、ハンドル、コンソールボックス、シート又はシートノブ等に好適に使用される。
【実施例】
【0026】
以下、製造例、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下において「部」は質量部、「%」は質量%を示す。
【0027】
[実施例1]
ポリカーボネート(A)[出光興産株式会社製、タフロン(登録商標)IV2200R]95部及び重合脂肪酸系ポリアミド(B)[富士化成工業株式会社製、PA−30R、MFR;1800(g/10分)]5部を熱風乾燥機でそれぞれ乾燥(乾燥温度:ポリカーボネート(A)120℃、重合脂肪酸系ポリアミド(B)80℃)し、これらをドライブレンドした後、二軸押出機[テクノベル製]を用いて溶融樹脂温度270℃、スクリュー回転数200rpmにて混練し樹脂組成物のペレットを得た。
【0028】
[実施例2]
実施例1において、重合脂肪酸系ポリアミド(B)[富士化成工業株式会社製、PA−30R、MFR;1800(g/10分)]5部の代わりに、重合脂肪酸系ポリアミド(B)[富士化成工業株式会社製、PA−280R、MFR;1300(g/10分)]5部を使用した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物のペレットを得た。
【0029】
[比較例1]
実施例1において、ポリカーボネート(A)[出光興産株式会社製、タフロン(登録商標)IV2200R]95部及び重合脂肪酸系ポリアミド(B)[富士化成工業株式会社製、PA−30R、MFR;1800(g/10分)]5部の代わりに、ポリカーボネート(A)[出光興産株式会社製、タフロン(登録商標)IV2200R]100部を使用した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物のペレットを得た。
【0030】
[比較例2]
実施例1において、ポリカーボネート(A)[出光興産株式会社製、タフロン(登録商標)IV2200R]95部及び重合脂肪酸系ポリアミド(B)[富士化成工業株式会社製、PA−30R、MFR;1800(g/10分)]5部の代わりに、ポリカーボネート(A)[出光興産株式会社製、タフロン(登録商標)IV2200R]80部及び重合脂肪酸系ポリアミド(B)[富士化成工業株式会社製、PA−30R、MFR;1800(g/10分)]20部を使用した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物のペレットを得た。
【0031】
実施例1、2及び比較例1、2で得られたペレットから射出成型機[名機製作所製]を用いて物性試験用のダンベル試験片を作成した。物性試験は、引張弾性率、引張降伏強さ、引張伸び、耐熱性、耐衝撃性及び流動性について、以下に示す方法で行った。
【0032】
<物性試験条件>
引張弾性率:ISO527−1、2に準じて測定した。
引張降伏強さ:ISO527−1、2に準じて測定した。
引張伸び:ISO527−1、2に準じて測定した。
耐熱性(荷重たわみ温度:HDT):ISO75−1、2に準じて、荷重0.45MPaにて測定した。
耐衝撃性(ノッチ付きシャルピー):ISO179−1、2に準じて測定した(ノッチあり)。
流動性(MI):ISO1133に準じて、荷重21.18kg、測定温度280℃にて測定した。
表1に、実施例1、2及び比較例1、2の樹脂組成物の物性試験の結果を示す。
【0033】
【表1】

【0034】
重合脂肪酸系ポリアミド(B)としてPA−30Rを用いた本発明の樹脂組成物(実施例1)は、重合脂肪酸系ポリアミド(B)を含有しない樹脂組成物(比較例1)と比較して、引張弾性率、引張降伏強さ、引張伸び及び耐熱性を保持したまま、耐衝撃性の低下が要求値である20KJ/m以上に抑えられ、さらに流動性が向上していることがわかる。
【0035】
重合脂肪酸系ポリアミド(B)としてPA−280Rを用いた本発明の樹脂組成物(実施例2)は、重合脂肪酸系ポリアミド(B)を含有しない樹脂組成物(比較例1)と比較して、引張弾性率、引張降伏強さ、引張伸び及び耐熱性を保持したまま、耐衝撃性の低下を要求値である20KJ/m以上に抑えられ、さらに流動性が向上していることがわかる。
【0036】
重合脂肪酸系ポリアミド(B)としてPA−30Rを20部用いた樹脂組成物(比較例2)は、重合脂肪酸系ポリアミド(B)としてPA−30R又はPA−280Rを5部用いた樹脂組成物(実施例1又は2)と比較して、流動性は向上しているものの、引張弾性率、引張降伏強さ、引張伸び及び耐熱性が低下し、特に耐衝撃性が大幅に低下して要求値である20KJ/m未満となり、バランスに欠けることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の樹脂組成物から成形される表皮は、自動車用内装部品、例えばインストルメントパネル、コンソールボックス、ドアトリム、天井、ハンドル、コンソールボックス、シート又はシートノブ等の表皮として好適に使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート(A)98〜90質量部及び重合脂肪酸系ポリアミド(B)2〜10質量部(但し、(A)+(B)は100質量部である)を含有するポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
重合脂肪酸系ポリアミド(B)のメルトフローレート(MFR;測定温度230℃、荷重21.18N)が200〜2000(g/10分)である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
常温で液体の成分を含まない、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂組成物をスラッシュ成形法、押出し成形法又は射出成形法を用いて成形してなる樹脂成形物。
【請求項5】
自動車用内装部品である、請求項4に記載の樹脂成形物。
【請求項6】
自動車用内装部品がインストルメントパネル、コンソールボックス、ドアトリム、天井、ハンドル、コンソールボックス、シート又はシートノブである、請求項5に記載の樹脂成形物。

【公開番号】特開2011−162601(P2011−162601A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−24139(P2010−24139)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】