説明

熱接着用基材

【課題】柔軟性と金型への賦形性に優れると共に、接着性に優れ各種異種材料と強固に一体化することができ、かつ優れた難燃性を付与することができる、難燃性と接着性の両特性に優れた熱接着用基材を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂(a)からなる基材と熱可塑性樹脂(b)からなる単繊維集合体とをが接し一体化してなる複合体であって、該熱可塑性樹脂(a)の限界酸素指数をLaとし、該熱可塑性樹脂(b)の限界酸素指数をLbとすると、Lbが25以上で、Lb>Laであり、該熱可塑性樹脂(a)に融点が存在する場合は融点Taと、融点が存在しない場合はガラス転移温度をTaとし、該熱可塑性樹脂(b)に融点が存在する場合は融点Tbと、融点が存在しない場合はガラス転移温度をTbとすると、Tb>Taであることを特徴とする熱接着用基材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟性と金型への賦形性に優れると共に、接着性に優れ各種異種材料と強固に一体化することができ、かつ優れた難燃性を付与することができる熱接着用基材に関するものである。そのため、本発明の熱接着用基材は、難燃性が要望される電気・電子機器、オフィスオートメーション機器、家電機器、医療機器または自動車部品、航空機部品、建材などに好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な分野で製品の安全性が求められるようになり、火災に対する安全性については、特に航空機や車両などの構造材料や建築材料などにおいては、火災によって構造材料が着火燃焼し、有毒ガスなどが発生することは非常に危険であるため、材料に難燃性を有することが強く求められている。
【0003】
また、電気・電子・情報機器用途においても、装置内部からの発熱や外部の高温にさらされることにより、筐体や部品などが発火し燃焼する事故を防ぐために、材料の難燃化が求められている。その難燃性に関して、代表的な規格にUL94規格としてプラスチック材料の燃焼性について規定されており、電気・電子・情報機器には一部の例外を除いて、V−2以上の高い難燃性が要求されている。
【0004】
一方で、上記した用途の構造材料は、通常各種部材を作成し、次いで、それらの部材を一体化することにより製造されており、部材同士を強固に接合することが重要である。従来の一般的な一体化手法としては接着剤を使用する接合方法が、ボルト、リベットおよびビスなどの機械的接合方法とともに用いられており、部材を強固に接合している。さらに、その接着剤はプロセスの簡易性およびリサイクル性などの観点から、熱接着性のものが好んで使用される場合があり、その熱接着用基材に関しては、種々の技術が提案されている(特許文献1〜4参照)。しかしながら、これらの熱接着用基材は、接着性を重視した設計となっており、難燃性を考慮したものとしては設計されていなかった。
【0005】
また、難燃剤を使用したホットメルト接着剤についても提案されているが(特許文献5〜6参照)、難燃剤をホットメルト樹脂に単純に混合すると、樹脂自体が脆化して接着強度の低下を回避することは困難である。すなわち、優れた接着強度と難燃性を両立させるためには、さらなる改善が必要とされていた。
【特許文献1】特開平7−11227号公報
【特許文献2】特開2002−322455号公報
【特許文献3】特開平7−3109号公報
【特許文献4】特開平6−257054号公報
【特許文献5】特開2005−336381号公報
【特許文献6】特開2005−171044号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明の目的は、かかる従来技術の問題点に鑑み、柔軟性と金型への賦形性に優れていると共に、接着性に優れ各種異種材料と強固に一体化することができ、かつ優れた難燃性を付与することができる、難燃性と接着性の両特性に優れた熱接着用基材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、上記課題を達成できる次の難燃性熱接着用基材を見出した。
【0008】
(1)熱可塑性樹脂(a)からなる基材と熱可塑性樹脂(b)からなる単繊維集合体とが接し一体化してなる熱接着用基材であって、該熱可塑性樹脂(a)の限界酸素指数をLaとし、該熱可塑性樹脂(b)の限界酸素指数をLbとすると、Lbが25以上で、Lb>Laであり、該熱可塑性樹脂(a)に融点が存在する場合は融点Taと、融点が存在しない場合はガラス転移温度をTaとし、該熱可塑性樹脂(b)に融点が存在する場合は融点Tbと、融点が存在しない場合はガラス転移温度をTbとすると、Tb>Taであることを特徴とする熱接着用基材。
【0009】
(2)単繊維集合体が、繊維径1〜50μmの単繊維同士の一部が接着した構造体である(1)記載の熱接着用基材。
【0010】
(3)単繊維集合体が不織布形態である(1)または(2)記載の熱接着用基材。
【0011】
(4)熱可塑性樹脂(b)が、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂またはフェノール系樹脂である(1)〜(3)のいずれかに記載の熱接着用基材。
【0012】
(5)前記熱可塑性樹脂(b)を構成する熱可塑性樹脂が、元素分析でナトリウムおよびカルシウムの含有量が300ppm以下のポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂である、(4)に記載の熱接着用基材。
【0013】
(6)熱可塑性樹脂(b)からなる単繊維集合体の表面に、カルボキシル基、グリシジル基、アミノ基、イソシアネート基、および酸無水物基からなる群から選ばれた少なくとも1種の官能基を分子内に1個以上有する有機化合物、高分子化合物または有機ケイ素化合物が0.1〜10重量%付着している、(4)または(5)に記載の熱接着用基材。
【0014】
(7)前記有機化合物、高分子化合物または有機ケイ素化合物が、多官能芳香族エポキシ、グリシジル変性有機シラン化合物、イソシアネート変性有機シラン化合物、アミノ変性有機シラン化合物、酸変性ポリオレフィンおよびエポキシ変性ポリオレフィンからなる群から選ばれた少なくとも1種である、(6)に記載の熱接着用基材。
【0015】
(8)熱可塑性樹脂(a)からなる基材が不織布形態である(1)〜(7)のいずれかに記載の熱接着用基材。
【0016】
(9)熱可塑性樹脂(a)がポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂または変性ポリオレフィン樹脂である(1)〜(8)のいずれかに記載の熱接着用基材。
【0017】
(10)熱可塑性樹脂(a)が融点180℃以下の共重合ポリアミド樹脂である(9)記載の熱接着用基材。
【0018】
(11)熱可塑性樹脂(a)からなる基材の目付が5〜100g/mであり、熱可塑性樹脂(b)からなる単繊維集合体の目付が1〜50g/mである(1)〜(10)のいずれかに記載の熱接着用基材。
【0019】
(12)熱可塑性樹脂(a)からなる基材と熱可塑性樹脂(b)からなる単繊維集合体の接点が接着されてなる(1)〜(11)のいずれかに記載の熱接着用基材。
【0020】
(13)熱可塑性樹脂(a)からなる基材と熱可塑性樹脂(b)からなる単繊維集合体が層構造を形成する(1)〜(11)のいずれかに記載の熱接着用基材。
【0021】
(14)熱可塑性樹脂(b)からなる単繊維集合体を中間層とし、熱可塑性樹脂(a)からなる基材の複数の層で被覆された多層構造である(13)記載の熱接着用基材。
【0022】
(15)電気・電子機器、オフィスオートメーション機器、家電機器、医療機器、自動車部品、航空機部品または建材に用いられる(1)〜(14)のいずれかに記載の熱接着用基材。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、柔軟性と金型への賦形性に優れると共に、接着性に優れ各種異種材料と強固に一体化することができ、かつ優れた難燃性を付与する熱接着用基材が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の熱接着用基材について、具体的に説明する。
【0025】
図1は、本発明の難燃性と接着性に優れた熱接着用基材の一例を示す断面模式図である。図1に示すように、本発明の熱接着用基材1は、熱可塑性樹脂(a)からなる基材2と熱可塑性樹脂(b)からなる単繊維集合体3からなる複合体であって、基材2と単繊維集合体3が接することによって一体化した構造である。基材2と単繊維集合体3が一体化することにより、基材2と単繊維集合体3の接着性と難燃性を両立し、また熱接着用基材1の取扱いを容易にし、運搬や積層等の作業性を改善し、かつ接着した成形品に安定した性能を付与することができる。
【0026】
本発明においては、上記のように、熱可塑性樹脂(a)からなる基材2と熱可塑性樹脂(b)からなる単繊維集合体3を用いることが重要である。すなわち、単繊維集合体3を用いることにより、熱接着工程において、溶融した熱可塑性樹脂(a)からなる基材2が単繊維集合体3を構成する繊維と繊維の隙間を通って接着層を形成することが可能となる。この結果、接着層は熱可塑性樹脂(b)からなる単繊維集合体3の繊維で強化された複合構造となり、熱可塑性樹脂(a)からなる基材2の接着性に関する基本特性を維持したまま、熱可塑性樹脂(b)からなる単繊維集合体3の性質を接着層に付与することができる。従って、単純に難燃成分を混合した接着層とは異なり、接着強度の低下を伴うことなく、優れた難燃性を両立することが可能となる。
【0027】
また、単繊維集合体3の形態に関しては、例えば、千本〜百万本の単繊維を繊維束とした形態のものを平織りや綾織りなどの繊維織物形態としたもの、千本〜百万本の単繊維を繊維束とした形態のものをエアや水流などにより単繊維同士をランダムに交絡させた単繊維交絡形態としたもの、メルトブロー法やスパンボンド法などにより単繊維同士をランダムに溶融接着させた不織布形態としたものなどを例示することができる。なかでも、接着層を強化し、燃焼時に溶融して難燃性の皮膜を形成しやすくし難燃性を向上させることや取り扱い性の面から、繊維同士の接点において相互に単繊維同士が溶融接着していることが好ましく、また、接着が密になるほど、単繊維集合体3による補強効果が高い。
【0028】
一方で、熱接着工程においては、溶融した熱可塑性樹脂(a)からなる基材2が流動しやすくするために、単繊維集合体3には隙間が大きくあいている方が好ましい。このような観点から、単繊維集合体3を構成する各繊維の繊維径は1〜50μmが好ましく、より好ましくは2〜40μmであり、さらに好ましくは3〜30μmである。単繊維集合体3の形態は、とりわけ、取扱い性が容易な点を考慮すると、不織布形態であることが好ましい。
【0029】
ここで、本発明の効果である難燃性の観点から、熱可塑性樹脂(b)の限界酸素指数(LOI)Lbは25以上であること、および熱可塑性樹脂(a)の限界酸素指数(LOI)Laとの関係がLb>Laであることが重要である。火災などの燃焼を想定すると、接着層を構成する熱可塑性樹脂(a)からなる基材2の燃焼が始まると、その燃焼熱で単繊維集合体3を構成する熱可塑性樹脂(b)が溶融を始め、成形品の表面に被膜化して、燃焼を抑えることができる。このため、熱可塑性樹脂(b)は高い難燃性であることが好ましく、熱可塑性樹脂(b)のLbは、より好ましくは30以上であり、さらに好ましくは35以上である。熱可塑性樹脂(b)のLbの上限については、その定義上100が上限である。
【0030】
さらに、上記の本発明の効果を達成する観点から、熱可塑性樹脂(a)に融点が存在する場合は融点Taと、融点が存在しない場合はガラス転移温度をTaとし、熱可塑性樹脂(b)に融点が存在する場合は融点Tbと、融点が存在しない場合はガラス転移温度をTbとすると、Tb>Taとすることで、熱接着工程において、熱可塑性樹脂(b)は繊維集合体の形態を維持したまま、熱可塑性樹脂(a)からなる基材のみを溶融させることができる。それぞれの熱可塑性樹脂(a)と(b)が、結晶性樹脂の場合は融点を優先的に採用するものであるが、非晶性樹脂の場合はガラス転移温度を採用することができる。熱可塑性樹脂(a)、(b)がそれぞれ2種以上の熱可塑性樹脂の混合物であり、2種以上の融点あるいはガラス転移温度を示す場合は、本規定の目的が熱可塑性樹脂(a)、(b)の流動状態に差を出すこと、詳細には加熱処理を行った際に熱可塑性樹脂(a)を熱可塑性樹脂(b)よりも先に流動させることにあるため、熱可塑性樹脂(a)に関しては含まれる2種以上の熱可塑性樹脂のうち最も含有量の多い熱可塑性樹脂の融点またはガラス転移温度を選択する。含有量が同程度の熱可塑性樹脂が複数含まれる場合にはそのうちで最も高い融点あるいはガラス転移温度を選択する。熱可塑性樹脂(b)に関しては含まれる2種以上の熱可塑性樹脂のうち最も含有量の多い熱可塑性樹脂の融点またはガラス転移温度を選択する。含有量が同程度の熱可塑性樹脂が複数含まれる場合にはそのうちで最も低い融点あるいはガラス転移温度を選択する。
【0031】
ここで単繊維集合体3を構成する熱可塑性樹脂(b)は、具体的には、ポリアリーレンスルフィド(PAS)樹脂、ポリエーテルスルホン(PES)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂およびフェノール系樹脂より選ばれた少なくとも1種の樹脂を含むことが好ましい。また、これら熱可塑性樹脂は、上述の熱可塑性樹脂の共重合体や変性体、および/または2種類以上ブレンドした樹脂などであってもよい。さらに用途等に応じ、本発明の目的を損なわない範囲で適宜、他の充填材や添加剤を含有しても良い。例えば、難燃性を高めるために難燃剤を添加する、あるいは繊維布帛を作製しやすくするために可塑剤を添加することができる。なかでも、難燃性、コストおよび繊維作製の簡便さから、PAS樹脂、PES樹脂、PEI樹脂およびフェノール系樹脂が好ましく用いられる。
【0032】
これらのうちPAS樹脂とは、繰返し単位として-(Ar-S)-(但し、Arはアリーレン基を表す。)で主として構成されたものであり、アリーレン基としては、例えば、p−フェニレン基、m−フェニレン基、o−フェニレン基、置換フェニレン基、p,p' −ジフェニレンスルフォン基、p,p' −ビフェニレン基、p,p' −ジフェニレンエーテル基、p,p' −ジフェニレンカルボニル基、ナフタレン基などが使用できる。なかでも工業的に多数利用されているポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂が好ましく用いられる。
【0033】
また前記ポリフェニレンスルフィド樹脂は、その製造過程においてポリマー分子鎖末端がカルボン酸のナトリウム塩であるか、あるいはカルボン酸のカルシウム塩となることが多い。熱接着用基材において、熱可塑性樹脂(a)からなる基材が溶融して形成される接着層とポリフェニレンスルフィド繊維との密着性を高め、接着層自体を高強度化する観点から、該ポリマー分子鎖末端はカルボン酸末端であることが好ましい。より好ましくは該ポリマーの元素分析において、ナトリウムおよびカルシウムの含有量が300ppm以下である。さらに好ましくは100ppm以下である。ナトリウムおよびカルシウムの含有量の下限は特に制限はなく、含有量が少ない方がより好ましい。ポリフェニレンスルフィド樹脂中のナトリウム、カルシウムの濃度は公知の分析法で定量することができる。例えば、カルシウムの定量はエネルギー分散型もしくは波長分散型X線分光法で、ナトリウムの定量は灰化後、原子吸光法や発光分析法やICP発光分析法で実施することができる。
【0034】
上記ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂またはフェノール系樹脂を熱可塑性樹脂(b)に用いた場合、熱可塑性樹脂(a)からなる基材が溶融して形成される接着層との密着性をさらに高める観点から、該熱可塑性樹脂(b)からなる単繊維集合体の表面に接着成分を付与することが好ましい。密着性を高める観点からは、該接着成分が熱可塑性樹脂繊維(B)の表面の70%以上に付着していることが好ましく、より好ましくは90%以上で、表面全体に付着していることがさらに好ましい。該接着成分としては特に制限はないが、接着を高める点からは、高い反応性または相互作用を有する官能基を1個以上分子内に含む化合物が好ましい。官能基の例としてはカルボキシル基、グリシジル基、アミノ基、イソシアネート基、酸無水物基、水酸基、アミド基、エステル基などが挙げられるが、中でもカルボキシル基、グリシジル基、アミノ基、イソシアネート基、酸無水物基は反応性が高い官能基であり好ましい。さらには接着を高める観点から、該官能基を2個以上の複数有する化合物が好ましい。また該化合物は熱可塑性樹脂(b)への親和性の観点から、有機化合物、高分子化合物または有機ケイ素化合物であることが好ましく、無機化合物の場合は親和性に劣る場合がある。熱可塑性樹脂(b)の表面への付着量は、接着を高める効果を効率よく発揮するために、0.1〜10重量%であることが好ましい。より好ましくは0.2〜6重量%、さらに好ましくは0.3〜2重量%である。付着量が少ないと接着の効果が十分発現しない場合があり、付着量が多いと難燃性が悪化する場合がある。上記接着成分の付着量の評価方法については、例えば熱可塑性樹脂複合体(I)を熱可塑性樹脂繊維(B)は溶解しないで熱可塑性樹脂マトリックス層(A)および接着成分が溶解する溶剤に溶かし、該溶液を高速液体クロマトグラフィーまたはゲルパーミエーションクロマトグラフィーで分析し、含まれる熱可塑性樹脂マトリックス(A)と接着成分とを定量する方法がある。熱可塑性樹脂マトリックス層(A)と接着成分がともに溶解する溶剤がない場合には、熱可塑性樹脂マトリックス層(A)を溶解除去してから、接着成分が溶解する溶剤で溶かして該接着成分を定量しても良い。接着成分に含まれる官能基の種類と量に関しては、上記クロマトグラフィーや溶解度の差で分離した接着成分を核磁気共鳴法(NMR)や赤外吸収スペクトル(IR)などの通常の有機化合物分析手段を用いて構造解析することで確認することができる。
【0035】
なお、前記有機化合物の好ましい例としては、N,N’−エチレンビストリメリットイミド、N,N’−ヘキサメチレンビストリメリットイミドなどのトリメリットイミド化合物や、多官能芳香族エポキシとしては、例えばビスフェノールA、レゾルシノール、ハイドロキノン、ビスフェノールS、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、などのビスフェノール−グリシジルエーテル系エポキシ化合物などがある。また、前記高分子化合物の好ましい例としては、酸変性ポリオレフィンの例としてエチレン−アクリル酸エチル共重合体、無水マレイン酸変性ポリプロピレンなどがあり、エポキシ変性ポリオレフィンの例としてはエチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体などがある。また、前記有機ケイ素化合物の好ましい例としては、グリシジル変性有機シラン化合物の例としてγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、イソシアネート変性有機シラン化合物の例として3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどがあり、アミノ変性有機シラン化合物としては3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランなどがある。
【0036】
前記有機化合物、高分子化合物または有機ケイ素化合物を熱可塑性樹脂(b)からなる単繊維集合体の表面に付与する方法は特に限定はないが、固形物であれば粉砕した粉末を熱可塑性樹脂(b)からなる単繊維集合体に付着させる方法や、該化合物を溶融させて塗布する方法などがあるが、均一に簡便な塗布方法としては、有機溶剤または水に上記化合物を溶解あるいは分散させた所定濃度の液に、熱可塑性樹脂(b)からなる単繊維集合体を浸漬させた後に乾燥させる方法や、スプレーで噴霧した後に乾燥させる方法などが好ましい。
【0037】
また、熱可塑性樹脂(a)からなる基材2の形態に関しては特に制限はなく、連続したシートまたはフィルム、あるいは熱可塑性樹脂(b)からなる単繊維集合体3と同様の単繊維集合体などとして必要に応じて使用することができる。なかでも賦形性に優れる点では、単繊維集合体が好ましく、その形状を維持するために繊維同士が接着した形態であることがより好ましく、取り扱い性が容易な不織布形態であることがさらに好ましい。また、接着性の均一化の点では、目付け、厚みが均一に制御できることからフィルム形状が好ましい。
【0038】
基材2を構成する熱可塑性樹脂(a)としては、限界酸素指数Laが繊維集合体3を構成する熱可塑性樹脂(b)の限界酸素指数Lbよりも小さいこと以外には特に制限はなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PENp)、液晶ポリエステル等のポリエステル系樹脂や、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン等のポリオレフィンまたは変性ポリオレフィン、スチレン系樹脂、ウレタン樹脂の他や、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリアリーレンスルフィド(PAS)樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性PPE、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルホン(PSU)、変性PSU、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルニトリル(PEN)、フェノール系樹脂およびフェノキシ樹脂等が挙げられる。
【0039】
また、これら熱可塑性樹脂(a)は、上記の熱可塑性樹脂の共重合体や変性体および/または2種類以上ブレンドした樹脂などであってもよい。これらの中でも、特定の目的に対して下記のように熱可塑性樹脂の1種または2種以上が、熱可塑性樹脂中に60重量%以上含まれることが好ましい。具体的に、成形品の強度と耐衝撃性の観点から、ポリアミド(PA)やポリエステルが好ましい。耐熱性と耐薬品性の観点からは、ポリフェニレンスルフィド(PPS)やポリエーテルイミド(PEI)が好ましい。成形品外観と寸法安定性の観点からは、ポリカーボネート(PC)やスチレン系樹脂が好ましく、耐熱水性の観点から、ポリフェニレンエーテル(PPE)が好ましい。また、成形性の観点からは、変性ポリオレフィンが好ましい。なかでも特に成形品の強度の観点から、ポリアミド樹脂が好ましい。
【0040】
また、接着性の観点から、熱接着を容易に行えるように融点が低い熱可塑性樹脂であることが好ましく、具体的には融点180℃以下の共重合ポリアミド樹脂が好ましく、より好ましい熱可塑性樹脂は融点160℃以下の共重合ポリアミドである。融点160℃以下の共重合ポリアミドとしては、3元共重合ポリアミドまたは4元共重合ポリアミドが挙げられる。具体的には、ポリアミド6/66/610、ポリアミド6/66/612、ポリアミド6/66/610/12、ポリアミド6/66/610/612などを挙げることができ、これらの1種を熱可塑性樹脂として単独で用いても良いし、2種以上を併用してもよい。
【0041】
さらに接着性の観点から、変性度の高い熱可塑性樹脂であることが好ましい。特に、例えば、カルボキシル基、アミノ基、グリシジル基および水酸基などの反応性の高い官能基を有する熱可塑性樹脂が好ましい。
【0042】
熱可塑性樹脂(a)からなる基材2および熱可塑性樹脂(b)からなる単繊維集合体3の目付は、接着層としての性能を確保することと難燃性を確保する観点から、それぞれに好ましい領域がある。熱可塑性樹脂(a)からなる基材2の目付は好ましくは5〜100g/mであり、より好ましくは20〜80g/mである。熱可塑性樹脂(b)からなる単繊維集合体3の目付は、好ましくは1〜50g/mであり、より好ましくは5〜40g/mである。
【0043】
本発明の熱接着用基材は、取扱い性の観点から、熱可塑性樹脂(a)からなる基材2と熱可塑性樹脂(b)からなる単繊維集合体3とが接触している部位が接着されていることが好ましい。接着の形態については特に制限はなく、熱可塑性樹脂(a)からなる基材2と熱可塑性樹脂(b)からなる単繊維集合体3とが一体化されている状態を保っていればよい。例えば、熱可塑性樹脂(a)からなる基材2および熱可塑性樹脂(b)からなる単繊維集合体3がともに単繊維集合体の場合は、ウォータージェットやニードルパンチ、エアなどにより構成繊維を交絡させた形態や、熱や振動により融着させた形態などをとることができる。また、熱可塑性樹脂(a)からなる基材2がシートまたはフィルムの場合は、熱や振動により融着させた形態をとることができる。なかでも、熱接着用基材1の運搬時や賦形時の基材の乱れなどを生じないようために、熱可塑性樹脂(a)からなる基材2と熱可塑性樹脂(b)からなる単繊維集合体3の接触している部位の少なくとも一部が融着一体化させたものが好ましく、接触している部位の半分程度が融着一体化されたものがより好ましく、全ての接触している部位が融着一体化されたものがさらに好ましい態様である。
【0044】
図2〜4に、本発明の他の熱接着用基材の構成形態の例を示す。図2は、本発明の2層形態の熱接着用基材の一例を示す断面模式図である。図3は、本発明の多層形態の熱接着用基材の一例を示す断面模式図であり、図4は、本発明の更に他の形態の熱接着用基材の一例を示す断面模式図である。
【0045】
本発明の熱接着用基材1の構成形態としては、例えば、熱可塑性樹脂(b)からなる単繊維集合体3と、シート状、フィルム状または単繊維集合体形状の熱可塑性樹脂(a)からなる基材2とが層状に積層された形態(図2左図と右図参照。)、熱可塑性樹脂(b)からなる単繊維集合体3がシート状またはフィルム状の熱可塑性樹脂(a)からなる基材2の内部に埋め込まれた形態、熱可塑性樹脂(b)からなる単繊維集合体3と単繊維集合体形状の熱可塑性樹脂(a)からなる基材2とを交絡させた繊維布帛状形態(図4左図参照。)、熱可塑性樹脂(b)からなる単繊維集合体3をシート状、フィルム状または単繊維集合体形状の熱可塑性樹脂(a)からなる基材2で被覆した形態(図4右図参照。)、およびこれら上記の形態同士をさらに積層して一体化した形態のものなどが挙げられるが、これに制限されるものではない。なかでも取り扱い性と形状保持に優れることから、熱可塑性樹脂(a)からなる基材2と熱可塑性樹脂(b)からなる単繊維集合体3を積層した形態のものが好ましい(図2と図3参照。)。
【0046】
接着性および難燃性の機能を効率的に発現させるためには、熱接着用基材1の構造としては、熱可塑性樹脂(a)からなる基材2と熱可塑性樹脂(b)からなる単繊維集合体3が層構造を形成することが好ましい(図3左図と右図参照。)。形成される層構造は何層でも良く、必ずしも全て連続である必要はないが、それぞれの要素が接着性および難燃性をより効果的に発揮できるという点から、接着させる部分全範囲に渡って各要素が連続した層構造を形成させることが好ましい。ここでいう連続とは、熱可塑性樹脂(a)からなる基材2がシート状またはフィルム状の場合、孔のない一体物の状態のことであり、単繊維集合体形状の場合は、各単繊維が少なくとも近接する繊維との間で一部を接着されていて、最終的には全ての繊維が一体物となっている状態をいう。
【0047】
なかでも、取り扱い性および接着性と難燃性の性能安定性に優れることから、熱可塑性樹脂(b)からなる繊維集合体3を中間層とし、熱可塑性樹脂(a)からなる基材2の複数の層で被覆された多層構造とすることが好ましい(図3左図と右図参照。)。表面に熱可塑性樹脂(a)からなる基材2層が存在することで、表面接着性に優れ、内部に熱可塑性樹脂(b)からなる単繊維集合体3層が存在することで難燃性を向上させることができる。
【0048】
ここで、熱可塑性樹脂(a)からなる基材2は、熱接着用基材としたときの賦形性と取扱性をより容易にするために、その厚みが10〜1000μmであることが好ましく、より好ましくは20〜500μmであり、更に好ましくは30〜100μmである。熱可塑性樹脂(b)からなる単繊維集合体3は、熱接着工程での取扱性や、溶融する熱可塑性樹脂(a)の流動をより容易にするために、その厚みは5〜500μmであることが好ましく、より好ましくは10〜100μmであり、更に好ましくは15〜50μmである。本発明の熱接着用基材は、基材2および単繊維集合体3の厚みを上記の好ましい範囲内とすることにより、より簡便に使用することができる。
【0049】
本発明の熱接着用基材の用法としては、ホットメルト接着に適用できるものであれば、特に制限なく使用できる。例えば、接合する部材と部材の接合面もしくは部材全面に熱接着用基材を配置し、熱溶着、振動溶着、超音波溶着およびレーザー溶着などの工法で接着する方法や、接合する部材を成形する際に熱接着用基材を配置して、一方の部材にまずは接着面を固定しておき、後接着工法でもう一方の部材と接着する方法や、一方の部材を成形する際にもう一方の部材を金型面にセットしておき、その接合面に熱接着用基材を配置して、接着と成形を同時におこなう方法など、多種多様な使用方法を例示することができる。なかでも、繊維強化樹脂(FRP)の接着には好適に用いられ、とりわけFRPの成形材料とともに熱接着用基材を配置して成形(コキュア)する方法により好適に用いられる。
【0050】
本発明の熱接着用基材の使用用途は特に制限されないが、とりわけ難燃性と力学的特性が要求されるディスプレー、FDDキャリッジ、シャーシ、HDD、MO、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、ノートパソコン、携帯電話、デジタルスチルカメラ、PDA、ポータブルMD、液晶ディスプレ−、プラズマディスプレーなどの電気・電子機器、電話、ファクシミリ、VTR、コピー機、テレビ、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器、電子レンジ、音響機器、掃除機、トイレタリー用品、レーザーディスク、コンパクトディスク、照明、冷蔵庫、エアコン、タイプライター、ワードプロセッサーなどのオフィスオートメーション機器および家電機器、X線カセッテなどの医療機器、アンダーカバー、スカッフプレート、ピラートリム、プロペラシャフト、ドライブシャフト、ホイール、ホイールカバー、フェンダー、ドアミラー、ルームミラー、フェイシャー、バンパー、バンパービーム、ボンネット、トランクフード、エアロパーツ、プラットフォーム、カウルルーバー、ルーフ、インストルメントパネル、スポイラーおよび各種モジュールなどの自動車部品、ランディングギアポッド、ウィングレット、スポイラー、エッジ、ラダー、フェイリングなどの航空機部品およびパネルなどの建材等の用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例に基づき、本発明の熱接着用基材について更に具体的に説明する。実施例および比較例中に示される配合割合(%)は、別途特定している場合を除き、全て重量%に基づく値である。本発明で行った評価方法は、次のとおりである。
【0052】
(1)限界酸素指数(LOI)評価
熱接着用基材をメタノール中に浸漬し、熱可塑性樹脂(a)からなる基材をメタノール中に溶解させた。残った熱可塑性樹脂(b)からなる単繊維集合体をメタノールで再度洗浄を繰り返し、熱可塑性樹脂(b)からなる単繊維集合体を分離した。メタノール溶液からメタノールを乾燥除去し、熱可塑性樹脂(a)からなる基材を分離した。分離した熱可塑性樹脂(a)と熱可塑性樹脂(b)を用いてISO4589(2005年)規格に準拠して評価を行った。
【0053】
(2)熱可塑性樹脂の融点評価およびガラス転移温度評価
融点およびガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)により評価を行った。容量50μlの密閉型サンプル容器に1〜5mgの試料を詰め、昇温速度10℃/分で30〜350℃の温度まで昇温し、評価した。評価装置には、PerkinElmer社製Pyris1DSCを使用した。
【0054】
(3)複合構造体の難燃性評価
UL−94規格に基づき、垂直燃焼試験により難燃性を評価した。熱接着用基材を成形した複合構造体から、幅12.7±0.1mm、長さ127±1mmの試験片を5本切り出した。切り出し方向は成形した複合構造体の表面層の繊維配向方向を長手方向とした。
【0055】
バーナーの、黄色のチップのない青色炎の高さを19.5mm(3/4インチ)に調節し、垂直に保持した試験片下端の中央部を炎に10秒間さらした後、炎から離し消炎までの時間を記録した。消炎後は、1回目と同様に2回目の炎を10秒間当て、再び炎から離し燃焼時間を計測し、燃焼の状況から難燃性の格付けを次のように行った。
V−0:5本の試験片に2回ずつ接炎した計10回の接炎後の消炎までの時間の合計が50秒以内であり、それぞれの接炎後の消炎までの時間が10秒以内であり、かつ有炎滴下物(ドリップ)がない。
V−1:上記V−0には及ばないものの、5本の試験片に2回ずつ接炎した計10回の接炎後の消炎までの時間の合計が250秒以内であり、それぞれの接炎後の消炎までの時間が30秒以内であり、かつ有炎滴下物(ドリップ)がない。
V−2:5本の試験片に2回ずつ接炎した計10回の接炎後の消炎までの時間の合計が250秒以内であり、それぞれの接炎後の消炎までの時間が30秒以内であるが、有炎滴下物(ドリップ)がある。
OUT:5本の試験片に2回ずつ接炎した計10回の接炎後の消炎までの時間の合計が250秒を超えるか、いずれかの接炎後の消炎までの時間が30秒を超えるか、または試験片保持部まで燃焼する。
すなわち、難燃性の序列は、V−0>V−1>V−2>OUTの順である。
【0056】
(4)垂直接着強度
本発明の熱接着用基材1を用いた複合構造体4を他の部材5と一体化した成形品6の接着強度評価方法である。一体化成形品6を、垂直接着強度評価サンプル(図5)として10mm×10mmの大きさで加工した。次いで、サンプルを測定装置の引張治具7に固定した。図6に試験の模式図を示す。測定装置として“インストロン”(登録商標)5565型万能材料試験機(インストロン・ジャパン(株)製)を使用した。なお、試料の固定は、成形品6が前記試験器のチャックに把持できるものはそのままチャックに挟み引張試験を行うが、把持できないものは成形体に接着剤(“スコッチウェルド”(登録商標)AF−163−2K)(住友スリーエム(株)製)(を塗布し、120±5℃、50±5%RHで4時間放置して引張治具7と接着させてもよい。
【0057】
引張試験は、雰囲気温度が調節可能な試験室において、25℃の雰囲気温度で行った。試験開始前に、試験片は、試験室内において、少なくとも5分間、引張試験の負荷がかからない状態を維持し、また、試験片に熱電対を配置して、雰囲気温度と同等になったことを確認した後に、引張試験を行った。引張試験は、引張速度1.27mm/分にて、両者の接着面から90°方向に引っ張って行い、その最大荷重を接着面積で除した値を垂直接着強度(単位:MPa)とした。また、試料数はn=5とした。
【0058】
(5)ナトリウムおよびカルシウムの含有量の元素分析
ポリフェニレンスルフィド樹脂中のナトリウムおよびカルシウムの定量は、次の方法で行った。まず、試料を弱火のバーナーで炭化後、600℃の電気炉で1時間加熱灰化した。次いで濃硝酸を50倍に希釈した希硝酸水溶液に残渣を溶解させた後、ナトリウムは原子吸光分析計(日立社製Z6100型)で、またカルシウムはICP発光分析計(ジャーレル社製ICP−575)で定量した。
【0059】
(参考例1)
下記に示す原料をニーダーで混合し、ポリビニルホルマールが均一に溶解したエポキシ樹脂組成物を得た。
・“エピコート”(登録商標)828(ジャパンエポキシレジン(株)製):20重量部
・“エピコート”(登録商標)834(ジャパンエポキシレジン(株)製):20重量部
・“エピコート”(登録商標)1001(ジャパンエポキシレジン(株)製):25重量部
・“エピコート”(登録商標)154(ジャパンエポキシレジン(株)製):35重量部
・ジシアンジアミド(ジャパンエポキシレジン(株)製)DICY7 :4重量部
・赤燐“ノーバレッド”(登録商標)120(燐化学工業(株)製) :3重量部
・ポリビニルホルマール“ビニレック” (登録商標)K(チッソ(株)製):5重量部。
【0060】
調製した上記のエポキシ樹脂組成物を離型紙上に塗布してエポキシ樹脂フィルムを作製した。エポキシ樹脂フィルムの単位面積あたりの樹脂量は25g/mとした。次に、単位面積あたりの繊維重量が100g/mとなるようにシート状に一方向に整列させた炭素繊維“トレカ”(登録商標)T700SC−12K−50C(東レ株式会社製、引張強度4900MPa、引張弾性率230GPa)に、先に作成したエポキシ樹脂フィルムを炭素繊維からなるシート状物の両面から重ね、加熱加圧してエポキシ樹脂組成物を炭素繊維のシート状物に含浸させ、一方向プリプレグを作製した。
【0061】
(実施例1)
(a)熱接着用基材の製造
PPS樹脂(東レ(株)製“トレリナ”(登録商標)A900、限界酸素指数47、融点280℃)を押出機で加熱溶融した状態でエアーブローにて吹き出し、平均の単繊維直径10μm、目付20g/mの不織布(単繊維集合体)を得た。次いで、共重合ポリアミド樹脂(東レ(株)製“アミラン”(登録商標)CM8000、ポリアミド6/66/610/612共重合体、限界酸素指数20、融点128℃)を単軸押出機によって加熱溶融した状態でエアーブローにて吹き出し、平均の単繊維直径10μm、目付50g/mの不織布(単繊維集合体)を得た。この2種類の不織布同士を積層し、110℃の温度で熱圧着し、2種類の不織布の接点が接着して熱接着用基材を得た。得られた熱接着用基材は優れた柔軟性を有し、金型への賦形性に優れるものである。
【0062】
(b)複合構造体の製造
参考例1で調製した一方向炭素繊維プリプレグを所定の大きさ(100×100mm)のサイズにカットし、一辺に沿った方向を0°方向として繊維方向が上から0°、90°、0°となるように3枚のプリプレグを積層した。最後に積層したプリプレグの上から、上記(a)で作製した熱接着用基材をプリプレグ積層体と同様の大きさにカットしたものを1枚重ねて積層した。次に、プレス金型に該プリプレグ積層体をセットし、1MPaの圧力をかけながら130℃の温度で60分間加熱硬化させて、プレス成形して複合構造体を得た。複合構造体の厚みは0.4mmであり、UL94燃焼試験結果はV−0であった。
【0063】
(c)一体化成形品の製造
上記(b)で得られた複合構造体を射出成形のインサート金型内にセットした。このとき、複合構造体の熱接着用基材面が接合面にくるよう配置した。ポリアミドマトリックス樹脂を用いた長繊維強化材料(東レ(株)製長繊維ペレットTLP1146S(炭素繊維含有量20重量%))を射出成形して、接合面全体に射出成形部分を一体化した成形品を得た。得られた一体化成形品の垂直接着強度の評価を試みたところ、20MPaにおいて、接合部分が剥離し、良好な接着状態であった。
【0064】
(実施例2)
(a)熱接着用基材の製造
PPS樹脂(東レ(株)製“トレリナ” (登録商標)A900、限界酸素指数47、融点280℃)を押出機で加熱溶融した状態でエアーブローにて吹き出し、平均の単繊維直径10μm、目付20g/mの不織布(単繊維集合体)を得た。次いで、共重合ポリアミド樹脂(東レ(株)製“アミラン” (登録商標)CM8000、ポリアミド6/66/610/612共重合体、限界酸素指数20、融点128℃)を単軸押出機によってフィルミングし、厚み45μm、目付50g/mのフィルムを得た。このPPS樹脂の不織布と、共重合ポリアミド樹脂のフィルムとを積層し、110℃の温度で熱圧着し、不織布とフィルムの接点が接着した熱接着用基材を得た。得られた熱接着用基材はシート状であり、平面への賦形には好適である。
【0065】
(b)複合構造体の製造
実施例1と同様に、実施例2(a)で得られた熱接着用基材を用いて複合構造体を調製した。複合構造体の厚みは0.4mmであり、UL94燃焼試験結果はV−0であった。
【0066】
(c)一体化成形品の製造
上記実施例2(b)で得られた複合構造体を射出成形のインサート金型内にセットした。このとき、複合構造体の熱接着用基材面が接合面にくるよう配置した。ポリアミドマトリックス樹脂を用いた長繊維強化材料(東レ(株)製長繊維ペレットTLP1146S(炭素繊維含有量20重%))を射出成形して、接合面全体に射出成形部分を一体化した成形品を得た。得られた一体化成形品の垂直接着強度の評価を試みたところ、20MPaにおいて、接合部分が剥離し、良好な接着状態であった。
【0067】
(実施例3)
(a)熱接着用基材の製造
PPS樹脂(東レ(株)製“トレリナ” (登録商標)A900、限界酸素指数47、融点280℃)を押出機で加熱溶融した状態でエアーブローにて吹き出し、平均の単繊維直径10μm、目付20g/mの不織布(単繊維集合体)を得た。次いで該不織布を無水マレイン酸変性ポリプロピレン(A1)(MGP−055、丸芳化成品(株)製、酸価45mgKOH/mg、重量平均分子量20,000)の5%水分散液に浸漬したのち、110℃で3時間乾燥し、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(A1)が1%付着したPPS樹脂不織布を得た。該PPS繊維不織布を用いた以外は実施例1と同様にして、熱接着用基材を得た。
【0068】
(b)複合構造体の製造
実施例1と同様に、実施例3(a)で得られた熱接着用基材を用いて複合構造体を調製した。複合構造体の厚みは0.4mmであり、UL94燃焼試験結果はV−0であった。
【0069】
(c)一体化成形品の製造
上記実施例3(b)で得られた複合構造体を用いた以外は実施例1と同様にして一体化成形品を得た。得られた一体化成形品の垂直接着強度の評価を試みたところ、22MPaにおいて、接合部分が剥離するよりも前に試料と治具との接着剤による固定部分が剥離したことから、垂直接着強度は22MPa以上であり、良好な接着状態であった。
【0070】
上記のように実施例の熱接着性基材を使用することによって、複合構造体の難燃性を満たし、かつ一体化成形品の接着性を十分に両立することができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の熱接着用基材は、接着性に優れ各種異種材料と強固に一体化することができ、かつ優れた難燃性を付与することができるため、電気・電子機器、オフィスオートメーション機器、家電機器、医療機器、自動車部品、航空機部品および建材等の用途に好適に用いることができ有用である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】図1は、本発明の熱接着用基材の一例を示す断面模式図である。
【図2】図2は、本発明の2層形態の熱接着用基材の一例を示す断面模式図である。
【図3】図3は、本発明の他多層形態の熱接着用基材の一例を示す断面模式図である。
【図4】図4は、本発明の他の形態の熱接着用基材の一例を示す断面模式図である。
【図5】図5は、本発明の熱接着用基材を用いた成形品(垂直接着強度評価サンプル)を説明するための斜視模式図である。
【図6】図6は、垂直接着強度評価方法を説明するための側面模式図である。
【符号の説明】
【0073】
1 : 熱接着用基材
2 : 熱可塑性樹脂(a)からなる基材
3 : 熱可塑性樹脂(b)からなる単繊維集合体
4 : 複合構造体
5 : 他の部材
6 : 成形品
7 : 引張治具
8 : 垂直接着強度評価サンプル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂(a)からなる基材と熱可塑性樹脂(b)からなる単繊維集合体とが接し一体化してなる熱接着用基材であって、該熱可塑性樹脂(a)の限界酸素指数をLaとし、該熱可塑性樹脂(b)の限界酸素指数をLbとすると、Lbが25以上で、Lb>Laであり、該熱可塑性樹脂(a)に融点が存在する場合は融点Taと、融点が存在しない場合にはガラス転移温度をTaとし、該熱可塑性樹脂(b)に融点が存在する場合は融点Tbと、融点が存在しない場合にはガラス転移温度をTbとすると、Tb>Taであることを特徴とする熱接着用基材。
【請求項2】
単繊維集合体が、繊維径1〜50μmの単繊維同士の一部が接着した構造体である請求項1記載の熱接着用基材。
【請求項3】
単繊維集合体が不織布形態である請求項1または2記載の熱接着用基材。
【請求項4】
熱可塑性樹脂(b)が、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂またはフェノール系樹脂である請求項1〜3のいずれかに記載の熱接着用基材。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂(b)を構成する熱可塑性樹脂が、元素分析でナトリウムおよびカルシウムの含有量が300ppm以下のポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂である、請求項4に記載の熱接着用基材。
【請求項6】
熱可塑性樹脂(b)からなる単繊維集合体の表面に、カルボキシル基、グリシジル基、アミノ基、イソシアネート基、および酸無水物基からなる群から選ばれた少なくとも1種の官能基を分子内に1個以上有する有機化合物、高分子化合物または有機ケイ素化合物が0.1〜10重量%付着している、請求項4または5に記載の熱接着用基材。
【請求項7】
前記有機化合物、高分子化合物または有機ケイ素化合物が、多官能芳香族エポキシ、グリシジル変性有機シラン化合物、イソシアネート変性有機シラン化合物、アミノ変性有機シラン化合物、酸変性ポリオレフィンおよびエポキシ変性ポリオレフィンからなる群から選ばれた少なくとも1種である、請求項6に記載の熱接着用基材。
【請求項8】
熱可塑性樹脂(a)からなる基材が不織布形態である請求項1〜7のいずれかに記載
の熱接着用基材。
【請求項9】
熱可塑性樹脂(a)がポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂または変性ポリオレフィン樹脂である請求項1〜8のいずれかに記載の熱接着用基材。
【請求項10】
熱可塑性樹脂(a)が融点180℃以下の共重合ポリアミド樹脂である請求項9記載の熱接着用基材。
【請求項11】
熱可塑性樹脂(a)からなる基材の目付が5〜100g/mであり、熱可塑性樹脂(b)からなる単繊維集合体の目付が1〜50g/mである請求項1〜10のいずれかに記載の熱接着用基材。
【請求項12】
熱可塑性樹脂(a)からなる基材と熱可塑性樹脂(b)からなる単繊維集合体の接点が接着されてなる請求項1〜11のいずれかに記載の熱接着用基材。
【請求項13】
熱可塑性樹脂(a)からなる基材と熱可塑性樹脂(b)からなる単繊維集合体が層構造を形成する請求項1〜11のいずれかに記載の熱接着用基材。
【請求項14】
熱可塑性樹脂(b)からなる単繊維集合体を中間層とし、熱可塑性樹脂(a)からなる基材の複数の層で被覆された多層構造である請求項13記載の熱接着用基材。
【請求項15】
電気・電子機器、オフィスオートメーション機器、家電機器、医療機器、自動車部品、航空機部品または建材に用いられる請求項1〜14のいずれかに記載の熱接着用基材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−254719(P2007−254719A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−33014(P2007−33014)
【出願日】平成19年2月14日(2007.2.14)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.レーザーディスク
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】