説明

熱硬化性エラストマー用成形型、遠心成形機及び電子写真用ブレード部材

【課題】本発明は反応性の熱硬化性エラストマーを型内で成形し、より簡便に離型でき取り出し時に成型品のちぎれが発生しにくく、良好な離型・脱型性が長期に渡って継続する熱硬化性エラストマー用成形型を提供することを目的とする。
【解決手段】成形材料として反応性の熱硬化性エラストマー原料を投入し所定の寸法に硬化させ、脱型させる熱硬化性エラストマーの成形に用いる成形型の内部表面に、ポリアルキルシロキサン層を有する熱硬化性エラストマー用成形型において、前記ポリアルキルシロキサン層が、前記熱硬化性エラストマー原料と成形条件において反応する官能基を有さないポリアルキルシロキサン原料を用いて作製したものであることを特徴とする熱硬化性エラストマー用成形型。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は反応性の熱硬化性エラストマー用成形型に関するもの、特に電子写真用ブレード部材の遠心成形金型として使用される熱硬化性エラストマー用成形型に関するものである。更には、これを用いて形成する電子写真用ブレード部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高品質な画像を安定して形成するため、電子写真用ブレード部材は非常に高い精度での生産が望まれており、さらにその安定した生産方法の確立は重要な課題である。
【0003】
例えば、電子写真用の現像ブレードは、板状のゴム部材を支持部材と結合させたものが一例として挙げられる。このゴム部材の厚みは現像剤担持体との当接圧を決める上で重要であり、トナーのコート量に影響を与えるため、高い精度でのゴムシートの厚み管理が要求される。
【0004】
また、クリーニングブレードにおいても現像ブレードと同様の構成で作製されるが、その高精度化は必須な技術であり、近年の電子写真技術の進歩に伴い10μm程の微細なトナーを感光体上から除去する必要がある。これを実現するには非常に高い寸法精度が要求される。
【0005】
このように電子写真に用いられる現像ブレードやクリーニングブレードは高い寸法精度が要求される。さらには、両者共に回転部材との摺擦でその機能を発揮する為に、耐磨耗性の高い材料が好まれているので、主に熱硬化性のエラストマー、特に熱硬化性のポリウレタンが用いられることが多い。
【0006】
電子写真用ブレードのような高精度な厚みが要求される熱硬化性のエラストマーの成形方法としては、遠心成型法が一例として挙げられる。遠心成型法の有利な点としては、まず高精度な厚みを実現できることである。他にも投入量で自在に任意の厚みを制御できること、硬化速度や硬度など処方が違う材料にも同じ装置を流用することができ、汎用性が高いことなどが挙げられる。
【0007】
次にこのような手法に関して従来の技術とその特徴、そしてその問題点を例示する。
【0008】
例えば遠心成型法で高精度なエラストマーを成形する例としては、遠心成型機内部の金型に予め離型性の良いポリシロキサン系の材料を投入して硬化させ内部表面に適度な硬度の層(離型層)を形成させる。その後、ポリウレタンゴム材料を投入して熱硬化、脱型して作製する手法が挙げられる。このような手法ではオイル成分の離型剤を使うことなく繰り返し離型が可能とされている(特許文献1)。
【0009】
また縮合型の2液硬化型の液状シリコーンゴムを用い、同様に成形型内部に離型を目的とした材料を投入して硬化させ離型層を形成し、その後材料を投入して繰り返し成形する方法も挙げられている(特許文献2)。
【0010】
さらに成形型内部の離型層の内側に、もう一つの層として剥離可能な保持層を設ける手段も提案されている。これは特許文献1や2と同様に成形型内部表面に離型層を設ける手段ではあるが、さらに内側に保持層を設けることでより生産性を高めたものである。離型層内面に設けた剥離可能な保持層があることにより、離型層交換時の金型からの取り外しを簡便にして量産性を向上させ、さらには成形型の振れ精度を改善させるものである(特許文献3)。
【0011】
ここで挙げた特許文献1〜3は、成形型内部表面に成型品を容易に離型が可能な離型層を設け、繰り返し使用が可能なエラストマーの成形方法に関するものである。離型層の代表的な材料として、ポリアルキルシロキサン系の材料が例示されている。
【0012】
本発明者が鋭意検討した結果、前記エラストマー成形手法は、数回の成形加工においては良好な生産性能を示す。しかし、量産を視野に入れ連続して前記成形手法を数十回繰り返し行った場合、次第にその離型性、量産加工性が低下した。これにより、歩留まり低下が発生し、成形したエラストマーの変形・ちぎれ・脱型不良などの問題が生じることが明らかとなった。
【0013】
また、このような離型性の低下が発生した場合には、一旦生産を止めて離型層の張り替えなどの作業工程が必要なうえに、比較的材料単価の高いポリアルキルシロキサン系の材料を成形型全面に張り替えるため、ランニングコストが高くなる。
【0014】
ゆえに長期に渡って量産をする上で作業効率の向上や材料使用量を低減するために、この離型性低下の原因究明と対策の検討は重要な課題である。特許文献1〜3は、初期的に良好な離型性を示す離型層を用いる手法については示しているものの、繰り返して使用した場合の離型性低下の問題や対策については言及していない。
【0015】
本発明はこれらのような離型用の材料を投入し硬化させ離型層を形成した成形型によるエラストマー成形方法において、初期的な生産加工性だけではなく、量産において最も重要となる長期離型性・長期作業性を発現させることを目的とした。
【0016】
【特許文献1】特開2003−231142号公報
【特許文献2】特開2001−305858号公報
【特許文献3】特開2004−025846号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は反応性の熱硬化性エラストマーを型内で成形し、より簡便に離型でき取り出し時に成型品のちぎれが発生しにくく、良好な離型・脱型性が長期に渡って継続する熱硬化性エラストマー用成形型を提供することを目的とする。特には、熱硬化性エラストマー用の遠心成形金型を提供することを目的とする。また、これらにより成形された電子写真用ブレード部材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
成形材料として反応性の熱硬化性エラストマー原料を投入し所定の寸法に硬化させ、脱型させる熱硬化性エラストマーの成形に用いる成形型の内部表面にポリアルキルシロキサン層を有する熱硬化性エラストマー用成形型において、前記ポリアルキルシロキサン層が、前記熱硬化性エラストマー原料と成形条件において反応する官能基を有さないポリアルキルシロキサン原料を用いて作製したものであることを特徴とする熱硬化性エラストマー用成形型によって達成される。
【0019】
このとき、前記熱硬化性エラストマー原料がイソシアネート化合物を含有するものであり、前記ポリアルキルシロキサン層が、シラノール基を含有しないポリアルキルシロキサン原料を用いて作製したものであることを特徴とする。
【0020】
特に、前記熱硬化性エラストマーがポリウレタンであり、前記ポリアルキルシロキサン層がシリカを含有しないポリアルキルシロキサン原料を用いて作製したものであることを特徴とする。
【0021】
また、遠心成形機が、上記熱硬化性エラストマー用成形型を有することを特徴とする。
【0022】
更に、電子写真装置に搭載されるゴム部材が熱硬化性エラストマーを含む電子写真用ブレード部材が、前記熱硬化性エラストマー用成形型、又は前記遠心成形機で作製されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の熱硬化性エラストマー用成形型は、連続して長期的に渡って離型・脱型性が良好であり、取り出し時のちぎれ等の不良を低減することができる。さらに離型層の長寿命化から交換頻度の低減が可能になり、成形のランニングコストが抑えられ生産稼働率の向上が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明は成形型内部表面に離型層としてポリアルキルシロキサン層を有する熱硬化性エラストマー用成形型であって、長期に渡って繰り返し使用でき、精度良く安定した生産性を維持できる。
【0025】
本発明は、熱硬化性エラストマーからなる電子写真用ブレード部材を成形するのに特に有効である。具体的には電子写真用のブレード部材として、現像ブレードやクリーニングブレードの生産において特に優位性を発揮する。これらの部材は高い精度で均一な厚みが要求される軟らかいエラストマーで構成されているため、成型工程における脱型が難しく、本発明はこのような事例に特に適している。
【0026】
これらのブレード部材は共に熱硬化性エラストマーをシート状に成形した後に裁断して板状保持部材と一体化させて製造される。このとき、そのシート厚みの寸法精度は高品質な画像を安定して形成する上で非常に重要な要素である。
【0027】
現像ブレードは現像剤担持体と当接して微細なトナーの層を現像剤担持体の上に適切な量を規制して取り込む役割を果している。前記現像ブレードのブレード部材の厚みは現像剤担持体との当接圧に関わり、そのトナー取り込み量などに影響を及ぼすため、高い厚み寸法の精度が要求される。ここでいう厚み寸法の精度とはブレード1本あたりの長手方向の厚み精度が重要であることはもちろんであるが、量産性を鑑みて成形生産バッチ毎の厚みの均一さにも同じことが言える。
【0028】
一方、似たような構成をもつクリーニングブレードにおいても同様の要求特性がある。この部材は感光ドラム上に転写されずに残存したトナーを掻き落とし清掃する役割を果す。この部材においても厚みは感光ドラムとの当接圧に関わるため、重要な管理項目となり高い精度で作る必要がある。この部材においても1本ごとの長手ムラのみならず、生産バッチ毎の厚み精度の要求が重要であるのは現像ブレードと同じである。
【0029】
これらの電子写真用ブレード部材を生産するにあたり高い厚み精度で繰り返し生産できる手法の一つとして、前述したように遠心成型法がよく用いられている。遠心成型により、大きなシート状で得られたエラストマーの成形品を所定の寸法に裁断後、支持部材に貼り付けて電子写真用ブレードとする方法である。
【0030】
前記手法では、成形の型内に予め、液状の硬化型のポリアルキルシロキサンで例示されるような離型性の良い材料を投入して硬化させ、これを離型層として繰り返し用いる方法がこれまでも多く検討されてきた。このような方法の利点として以下の点が挙げられる。
【0031】
1)オイル性の離型剤と異なり、毎回若しくは数回に一回のハケ塗りやスプレー塗布などの工程を必要とせず、作業の効率化を計れる
2)オイル成分を使わず硬化された材料を用いるので成型品にオイルの移行が発生しない
3)離型性の低下が起こっても離型層の上塗りや張り替えによって容易に復旧が可能である。
【0032】
作業効率としては1)や3)の点で、品質面では支持部材との接着力が重要な管理項目になるので2)が大きな利点となる。
【0033】
このような利点のある成形方法であるが、重大な問題として挙げられるのは繰り返し使用によるポリアルキルシロキサンからなる離型層の離型性の低下である。
【0034】
このような離型性の低下が生じた離型層は剥離してそれを張り替えるか、もしくは上からもう一度投入をしなおしてフレッシュな層を最表面に再び形成させる必要がある。このような再コートの処理は工程上の大きな手間や負担になる。例えば連続生産の中断を招いてしまい大幅な稼働率の低下の原因になるだけでなく、高価なポリアルキルシロキサン材料を多く使用する。したがって生産効率と材料コストの両面で課題があった。
【0035】
そこで本発明者はその原因を調べ、鋭意検討を行なうことで本発明に至った。
【0036】
本発明は、成形型の内部表面に、離型層としてポリアルキルシロキサン層を有する熱硬化性エラストマー用成形型において、該ポリアルキルシロキサン層が、成形材料である熱硬化性エラストマー原料と成形条件において反応する官能基を有さないポリアルキルシロキサン原料を用いて作製したものであることを特徴とする。
【0037】
本発明では、前記離型層の材料としてポリアルキルシロキサンを用いる。ポリアルキルシロキサンは成形型の内部表面に均一な層を簡便に設けることが可能であり、離型性が良く、成形時に固体であってオイル移行などの不具合を発生しないためである。
【0038】
ポリアルキルシロキサン原料には、従来市販の液状硬化型ポリアルキルシロキサンが用いられていた。市販のポリアルキルシロキサンは、強度向上などの付加価値を付与する目的で充填剤としてシリカ等を含有しているものが一般的である。
【0039】
しかし、検討の結果、シリカ表面に存在するシラノール基は、成形時に成形材料に含有されるイソシアネート化合物と反応し、離型層の表面を化学的に変質させ、成形を繰り返すことで離型性の低下を引き起こしていることが推測された。
【0040】
これより、ポリアルキルシロキサン原料が成形材料と反応する官能基を含まないことで、離型性の向上を図ることができる。
【0041】
特に、成形材料がイソシアネート化合物を含有している場合、ポリアルキルシロキサン層を構成する成分がシラノール基を有する化合物を含有しないことで、長期に渡り離型性を維持できる。
【0042】
本発明における成形材料に用いる熱硬化性エラストマー原料としては、ポリウレタン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド等が挙げられる。好ましくは、ポリウレタンである。
【0043】
本発明における離型層に用いるポリアルキルシロキサン原料には、前記成形材料と反応する官能基を有する化合物を含まないものを用いる。前記成形材料と反応する官能基としては、シラノール基、反応未完結のビニル基等が挙げられる。
【0044】
前記成形材料がイソシアネート化合物を含有する場合、前記ポリアルキルシロキサン原料がシラノール基を含有しないものを用いることが好ましい。具体的には、ポリアルキルシロキサン原料中にシリカを含まないことが好ましい。
【0045】
本発明における熱硬化性エラストマー用成形型は、熱硬化性エラストマー成形に用いる遠心成形機の遠心成形金型に用いることが好ましい。前記遠心成形金型を用いた遠心成形法により、高精度な厚みを有する電子写真用ブレード部材を長期的、安価に製造することができる。
【0046】
また、前記熱硬化性エラストマー用成形型或いは前記遠心成形金型で作製した現像ブレード、クリーニングブレード等電子写真装置に搭載される電子写真用ブレード部材は、高い寸法精度を有するため、高品質な画像を安定して形成することが可能である。
【0047】
次に本発明の具体的な手法を示す。本発明は成形型内に離型層を有する成形型であり、一例として図1のような遠心成型金型が挙げられる。円周状で回転できる遠心成型金型10の周囲に加熱制御可能な設備を有し回転することによって熱硬化性エラストマーの成形が可能である。
【0048】
この遠心成型金型の内周面10aに図2の断面図で示す離型層11が施される。
【0049】
離型層11は均一な層である必要があることから、離型層11を形成するポリアルキルシロキサン原料としてシリコーン材料でもミラブルタイプのものは本発明には適用が難しい。また、シリコーンオイル系材料を塗布する場合は、良好な離型性能を示すものの、繰り返し使用によって離型性能が低下するため、再塗工が頻繁に必要な上、成型品へのオイル移行が起こるため後の接着工程の不安定さを招いてしまうので適さない。
【0050】
また、ポリアルキルシロキサン原料は、液状であり型内に投入後、均一に流したあとで任意のタイミングで硬化して層を形成できるものが好ましい。特に、二成分硬化型のシリコーンを用いれば容易でかつ、適切な離型層を形成することが可能である。二成分硬化型シリコーンは大きく二つに別けて付加硬化型シリコーンと縮合硬化型シリコーンとがある。しかし、成形材料と反応する官能基を有していなければいずれの材料を用いても問題はない。具体的に例示すればシリコーン充填剤として多く使われるシリカ、特に湿式シリカのような表面にシラノール基が多く存在する成分さえ含まれていなければ、離型層表面の化学的変質、品質劣化を低減できる。
【0051】
しかし、成型機内に離型層を形成させる作業そのものの効率化を考慮すれば付加硬化型シリコーンを選べばより効果的である。縮合硬化型シリコーンでも本発明に関して原理として問題はないが、完全硬化までに時間がかかるものが多く、全体的な作業効率を考慮すれば付加硬化型シリコーンを選択するのが好ましい。
【0052】
付加硬化型シリコーンで加熱によってより速く硬化できる材料を選択すればさらに作業性は良くなる。本発明で用いられる成形型は加熱設備を有した成形型であることが好ましく、その装置で作業上の任意のタイミングで熱硬化できるシリコーンを選べば作業性はより向上する。二成分付加硬化型シリコーン材料は加熱条件や触媒の種類によって硬化反応が速すぎて均一な層形成が難しい場合がある。このような場合は市販の付加硬化型シリコーンの反応遅延剤などを併用して適切に調整することができる。
【0053】
図2において、ポリアルキルシロキサン原料を投入し硬化させたポリアルキルシロキサンからなる離型層は11で示され、内周面10a全域に施し、これが離型層として用いられる。そして離型層の接触表面11aに対して反応性の熱硬化性エラストマー12が投入され、この状態で熱硬化される。
【0054】
本発明の実施される形態は上述のような図2で示される手法でも適用が可能であるが、図3で示した手法を複合して用いるとさらに生産性が向上して効果的に利用が可能である。図3のように遠心成型金型10の内周面10aに予め剥離可能な保持層13を設け、成形精度と作業効率を向上させるものである。
【0055】
例えば内周面10aに予めエポキシ樹脂製の離型剤を塗布し、熱硬化性のエポキシ樹脂を投入して保持層13を形成後、この上に離型層11を形成させる。このような手法を取ると、液状であった樹脂を熱硬化させるため、成形型表面の水平精度が高まることによって成形品の厚み精度が大幅に向上する。例えば遠心成型金型10の厚み精度は成型品の厚みに直接影響してしまうのでその厚み精度管理を機械的に行なうのは非常に困難である。しかし、一度液状であるものを硬化させた保持層13を成型機内で形成するステップを経由することでその厚み精度が改善されてより厚み精度の高い成形品を提供できる。
【0056】
保持層13の材料としては、熱硬化性のエポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂等を用いることができる。好ましくは、エポキシ樹脂である。エポキシ樹脂は熱膨張率が大きく、冷却すると大幅に収縮するため、冷却するだけで容易に遠心成型金型10からとり外すことができる。ゆえに剥離が簡単で成型機の交換メンテナンスが容易になる。
【0057】
保持層13は、例えば内周面10aに傷が入った場合でも、オイル性の離型剤を用いる成形方法では成型品にその傷が転写されてしまうため成形型そのものが使用できなくなるが、保持層13により傷の影響なく成形を行うことができる。離型層11の材料を多量に投入してこの役割を担うことも技術上は可能である。しかし、高価なシリコーン樹脂を多量に使うことなく、離型層11を成型品12の接する最低限の量にとどめ、保持層13で保持するとコストパフォーマンスの向上を果すことができる。本発明ではこのような技術との複合によってさらに効果的な生産手法を提供できる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0059】
まず、離型層11の離型性低下の原因を検討するため、連続成形試験を行った。
【0060】
離型層の接触表面11aに触れるようにして熱硬化性エラストマー12を投入し、熱硬化させ熱硬化性エラストマー12を剥離して成型品を得る作業を50回繰り返し、離型層の接触表面11aがどのような変化をするのか検証した。この実験の際には離型性が低下して途中で成型品のちぎれ、変形、破壊が起こってもそのまま継続して清掃しながら実験を続け、50回にわたって離型層11上に熱硬化性エラストマー12の繰り返し成形・離型の工程を行った。この時に用いた熱硬化性エラストマー12はMDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)とポリオールからなるウレタンプレポリマーであり、このような試験を様々なポリアルキルシロキサン原料で検証を行った。
【0061】
前記連続成形試験において、ポリアルキルシロキサン原料によっては離型層11の接触表面11bが白色に変色される現象が観察された。さらにこの離型層11を取り出し、図4に示される接触表面11bの断面をビデオマイクロスコープ((株)キーエンス製)で観察すると、およそ100μmの深さに渡って変色した層が存在することが確認できた。
【0062】
さらにこの変色した部分を切り出し、熱分解GC/MSを用い550℃で熱分解して分析した。熱分解GC/MSには、熱分解装置(商品名:「PY2020D」、フロンティアラボ製)、GC(商品名:「GC6890」、HP製)、MS(商品名:「JMS−SON200型」、日本電子製)を用いた。これを熱硬化性エラストマー12と非接触で変色のない部分と比較すると、GC上に異なるピークの存在が認められた。
【0063】
このピーク部分をMSスペクトルで解析すると成型原料中に含まれていたイソシアネート化合物であるMDIと完全に一致することが明らかとなった。
【0064】
また、変色が大きくMDIの検出量が多いものについては、前述の50回連続の繰り返し成形試験で離型性の低下が著しい傾向が見られた。特に、白色変化とMDI検出量の多かったポリアルキルシロキサン原料は充填剤としてのシリカの配合量が多い傾向が見られた。
【0065】
この実験事例では、この表面変質の原因となった成分は、ポリアルキルシロキサン原料に含まれる充填剤のシリカ表面に多く存在するシラノール基と、成形材料中に多く存在するイソシアネート基が反応して生成した化合物と推測される。この化学的な反応活性のために、繰り返し使用した際に、離型層11表面に化学的に変質した層が発生し、表面の物性が変化したために離型性が低下したと推察される。
【0066】
[実施例1]
次に本発明の具体的な実施例について述べる。
【0067】
実験には遠心成型機を用いた。遠心成型金型の寸法は径が400mmで奥行きが250mmである。また、成型条件として、回転速度は800rpmで130℃に加熱した状態で行った。
【0068】
まず遠心成型金型の内周面に対して垂直な部分、すなわち成形されるシートの平面ではなく厚み方向に対する離型の目的で、ここに相当する部分にシリコーンレジン系の焼き付け型の離型剤(商品名:「SEPA COAT」、信越化学工業製)を噴霧した。次に内周面にエポキシ樹脂用離型剤(商品名:「KS707」、信越化学工業社製)を塗布した後、液状熱硬化性エポキシ樹脂(商品名:「基本液状タイプ グレード827」、ジャパンエポキシレジン製)を厚みが1mmとなる相当量流し込んだ。この後、1時間130℃で硬化させることで保持層を得た。
【0069】
次に、別途液状の二成分付加硬化型シリコーンゴム(商品名:「XE15−C2617AB」、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ製)の主剤と硬化剤を混合し1時間の真空脱泡を行なった。これを厚みが1mmとなる相当量、回転中に流し込んで1時間硬化させて離型層を形成させた。
【0070】
ここで用いた二成分付加硬化型シリコーンゴムは充填剤としてのシリカを含まないものであり、また化学量論的に当量のヒドロシリル化反応により生成されたものであって、イソシアネート化合物と反応活性な官能基成分を排除したものを選択した。
【0071】
成形材料に用いる熱硬化性エラストマーには、MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)−ポリブチレンアジペート系ポリウレタンプレポリマー(商品名:「コロネート4387」、日本ポリウレタン工業社製、イソシアネート価 6.2%)を用いた。さらに硬化剤としては1,4−ブタンジオールとトリメチロールプロパンを70:30で混合し、ここにTEDA(トリエチレンジアミン)を1000ppm加えたものを用いた。前記ポリウレタンプレポリマーを80℃の電気炉で溶解して透明になるまで予熱(およそ8時間)した後、前記硬化剤をイソシアネート基に対する水酸基のモル比が0.95になるように混合して成型原料とした。これを前述の離型層を有する遠心成型金型に厚みが1mmとなる相当量投入して130℃のまま50分間、熱硬化させて脱型を行った。このようにして電子写真用ブレード部材の裁断前の形状を作製した。
【0072】
この成形・脱型の作業を50回繰り返して行い、成型品のちぎれ・脱型時の変形等について検討を行った。この連続成形試験では50回の連続した脱型作業が可能かどうかを検証の評価基準とした。以下に評価方法を示す。
【0073】
○:50回繰り返し後も脱型が容易に可能であり、連続生産における使用上好ましい
△:50回繰り返し後に脱型にかかる力が大きくなり、連続生産に問題あり
×:50回到達前に脱型時に成型品のちぎれや変形が生じ、この用途に対して適切ではない。
【0074】
さらに、50回の連続成形試験を行った成形型表面の表面観察並びに熱分解GC/MSによる分析を前記方法にて行った。
【0075】
この時、離型層と成形材料との接触表面における外観上の変化は殆どなく、接触表面を熱分解GC/MSで分析した結果、検出限界に近い痕跡量のMDIが検出されるのみで、そのGCチャートはほぼ使用前と変化は見られなかった。50回連続した成形脱型試験においても問題なく脱型が可能であり、繰り返し離型が可能であることが確認できた(評価:○)。結果を表1に示す。
【0076】
[実施例2]
実施例1と同様の実験を二成分縮合硬化型シリコーン(商品名:「TSE3503」、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)を用いて行なった。なお、前記二成分縮合硬化型シリコーンは実施例1同様にシリカを含有せず、化学量論的に当量のヒドロシリル化反応により生成されたものを用いた。この場合も外観上の変化は殆どなく、熱分解GC/MSによる分析でもMDIは痕跡量しか検出されず、GCチャートは変化が無かった。この場合も不具合はなく50回の連続成形は可能であった(評価:○)。結果を表1に示す。
【0077】
[比較例1]
比較として実施例1で用いた二成分付加硬化型シリコーンゴム100質量部に対して、シリカ10質量部を添加したポリアルキルシロキサン原料を作製し、同様の連続成形試験と分析を行なった。その結果、50回の連続成形後、離型層表面には外観上に白濁する変化が見られ、熱分解GC/MSで分析するとMDI残渣が検出され、離型層表面が改質されていることが確認された。連続した離型性試験においては50回が限界で、これ以上は剥離にかかる力が大きく生産性の低下を起こしてしまい、量産使用については困難であった(評価:△)。結果を表1に示す。
【0078】
[比較例2]
実施例1で用いた二成分付加硬化型シリコーンゴム100質量部に対して、シリカ30質量部を添加したポリアルキルシロキサン原料を作製し、同様の連続成形試験と分析を行った。離型層表面は5回目付近から白濁が起こった。同様に熱分解GC/MSでMDIが検出されて表面が改質されていることが確認された。本試験では50回まで離型性が確保できず、40回目以降で離型性の低下から脱型時に成型品のちぎれや変形が起こる結果となり、これ以上回数を重ねることは出来なかった。本材料が本用途での使用には不適であることが確認された(評価:×)。結果を表1に示す。
【0079】
[比較例3]
実施例1で用いた二成分付加硬化型シリコーンゴムとほぼ同じ粘度と反応硬化速度であって、付加反応のタイプも同じである市販のシリコーン材料で、該シリコーン材料100質量部に対して、シリカが30質量部含まれているものを試験材料として選択した(商品名:「CY52−005AB」 ダウ・コーニングシリコーン製)。これを実施例1と同様に連続成形試験をした結果、5回目付近から表面の白濁現象が確認された。また、熱分解GC/MSでMDIが検出されて表面が改質されていることが確認された。本試験では40回目以降で離型性の低下による成形品のちぎれや変形が起こる結果となった。本材料においても、本用途での使用には不適であることが確認された(評価:×)。結果を表1に示す。
【0080】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の成形型の一例である。
【図2】本発明でエラストマーを成形している成形型の断面図である。
【図3】本発明での剥離可能な保持層を有する例の一つである。
【図4】本発明の実施例で発生しうる離型層表面の化学的な変化を表す。
【符号の説明】
【0082】
10 遠心成型金型
10a 遠心成型金型の内周面
11 離型層
11a 離型層の接触表面
11b 離型層の接触表面(成形繰り返し後)
12 熱硬化性エラストマー
13 保持層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形材料として反応性の熱硬化性エラストマー原料を投入し所定の寸法に硬化させ、脱型させる熱硬化性エラストマーの成形に用いる成形型の内部表面に、ポリアルキルシロキサン層を有する熱硬化性エラストマー用成形型において、
前記ポリアルキルシロキサン層が、前記熱硬化性エラストマー原料と成形条件において反応する官能基を有さないポリアルキルシロキサン原料を用いて作製したものであることを特徴とする熱硬化性エラストマー用成形型。
【請求項2】
前記熱硬化性エラストマー原料が、イソシアネート化合物を含有し、前記ポリアルキルシロキサン層がシラノール基を含有しないポリアルキルシロキサン原料を用いて作製したものであることを特徴とする請求項1記載の熱硬化性エラストマー用成形型。
【請求項3】
前記熱硬化性エラストマーがポリウレタンであり、前記ポリアルキルシロキサン層がシリカを含有しないポリアルキルシロキサン原料を用いて作製したものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱硬化性エラストマー用成形型。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の熱硬化性エラストマー用成形型を有する遠心成形機。
【請求項5】
電子写真装置に搭載されるゴム部材が熱硬化性エラストマーを含む電子写真用ブレード部材において、
請求項1から3のいずれかに記載の熱硬化性エラストマー用成形型又は請求項4に記載の遠心成形機で作製されたことを特徴とする電子写真用ブレード部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−196301(P2009−196301A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−42892(P2008−42892)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(393002634)キヤノン化成株式会社 (640)
【Fターム(参考)】