説明

熱硬化性樹脂組成物、それを用いた硬化物及び積層板

【課題】ハロゲン化合物を含まずに、高周波領域での誘電特性、耐熱性、十分な難燃性を有する積層板を形成するための熱硬化性樹脂組成物、並びに、それを用いた硬化物及び金属箔付き積層板を提供すること。
【解決手段】リン元素を含有合する特定構造のベンゾオキサジン化合物と特定構造のビニルベンジルエーテル化合物を含有する熱硬化性樹脂組成物およびそれを用いる硬化物と積層板である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物、それを用いた硬化物、及び金属箔付き積層板に関し、特に、ハロゲン化合物を含まずに、高周波領域での使用に適しており、なお且つ難燃性を有する積層板に用いられる熱硬化性樹脂組成物、それを用いた硬化物及び金属箔付き積層板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気、電子材料分野ではプリント配線基板材料としてフェノール樹脂やエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂が一般的に用いられている。
【0003】
しかしながら、近年、電子機器の分野においては実装部品の小型化、高密度化への傾向は著しく、それに伴って使用される材料においても優れた耐熱性、難燃性、寸法安定性、電気特性が要求されており、これらの樹脂を基材とした場合、高周波領域で電気特性、特に誘電特性が悪いという課題を有している。
【0004】
また、これらの分野では実装部品に対しては高い難燃性が求められており、ハロゲン化合物を用いることにより難燃性を付与していた。しかしながら、近年では環境への負荷を低減させるという観点からハロゲン化合物の使用が問題となっている。
そこで、このようなハロゲン化合物による難燃処方に代わる技術として、トリフェニルフォスフェート等のリン酸エステル類や1,3−フェニレンビス(ジ−2,6−キシレニルホスフェート)等の縮合リン酸エステル類のようなリン系化合物が使用されていた。しかしながら、これらのリン系化合物を添加型難燃剤として使用した場合、硬化物の耐熱性、特にTgの低下が著しい。
【0005】
そのため、ノボラック型エポキシ樹脂を20重量%以上含有するエポキシ樹脂類と、キノン化合物および9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシドやジフェニルホスフィンオキシドのようなリン系化合物を反応させて得られた反応型のリン系化合物を使用することにより難燃性、耐水性等を改善する技術が提案されている(例えば、特許文献1〜3等)。それらは、リン化合物で変性したエポキシ樹脂を用いて成形品の耐熱性、難燃性等を図った技術である。しかしながら、これらの発明を用いた成型品の誘電特性は従来のエポキシ樹脂を用いた物と同等であり、高周波領域での特性が不十分である。
【0006】
一方、ベンゾオキサジン構造を有する化合物を硬化性樹脂用の硬化剤として使用することも多数提案されている(例えば、特許文献4〜6等)。これらの発明ではベンゾオキサジン構造を有する化合物を用いる事により高い難燃性を達成している。しかしながら、これらの発明を用いた成型品の誘電特性においても、高周波領域での特性が不十分である。
【0007】
また、高周波領域での誘電特性を改善する材料として、例えば、ポリビニルベンジルエーテル化合物が提案されている(下記特許文献7)。このポリビニルベンジルエーテル化合物は、優れた電気特性、耐熱性、信頼性を有しており、これを熱硬化性樹脂組成物、プリプレグ、銅張り積層板等に応用する事により、高周波領域での電気特性の改善がみられている。しかしながら、ポリビニルベンジルエーテル化合物を用いただけでは十分な難燃性を有していない為、別途に難燃剤を用いる必要がある。
【0008】
また、ポリビニルベンジルエーテル化合物とベンゾオキサジン化合物、ならびに添加型リン化合物(芳香族リン酸エステル化合物、もしくはフォスファゼン化合物)を用いることが提案されている(下記特許文献8)。これを熱硬化性樹脂組成物、プリプレグ、銅張り積層板等に応用する事により高周波領域での電気特性の改善、ならびにハロゲン元素を含有する化合物を用いる事無く高い難燃性を有する特性を達成している。
【0009】
【特許文献1】特開平4−11662号公報
【特許文献2】特開平11−279258号公報
【特許文献3】特開2000−309623号公報
【特許文献4】特開2001−220455号公報
【特許文献5】特開2003−147165号公報
【特許文献6】特開2004−352670号公報
【特許文献7】特開平9−31006号公報
【特許文献8】特開2007−2187号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献8で示されるようなリン化合物として添加型のリン化合物を用いた場合、耐熱性の低下やリン化合物のブリードアウトと言った欠点を有している。
【0011】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、ハロゲン化合物を含まずに、高周波領域での誘電特性、耐熱性、十分な難燃性を有する積層板を形成するための熱硬化性樹脂組成物、並びに、それを用いた硬化物及び金属箔付き積層板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、前記課題を解決するために、鋭意検討を重ねた結果、下記一般式(1)で表わされるリン元素を含有合するベンゾオキサジン化合物、下記一般式(4)または(5)で表わされるビニルベンジルエーテル化合物、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂を含むことにより、ハロゲン化合物を含まずに、高周波領域での誘電特性、耐熱性、十分な難燃性を有する積層板を形成するための熱硬化性樹脂組成物、並びに、それを用いた硬化物及び金属箔付き積層板を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表わされるリン元素を含有合するベンゾオキサジン化合物、下記一般式(4)または(5)で表されるビニルベンジルエーテル化合物、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂を含有することを特徴とする熱硬化性樹脂組成物を提供する。
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、R1は下記一般式(2)または(3)で表される基、R2は炭素数1〜6のアルキル基または置換基を有しても良いアリール基を表す。また、kは0〜4の整数を表す。uは1〜10の整数を表す。Xはu価の化合物残基を表す)
【0015】
【化2】

【0016】
(式中、R3及びR4はそれぞれ炭素数1〜6のアルキル基または置換基を有しても良いアリール基を表す。また、m、nは各々0〜4の整数を表す)
【0017】
【化3】

(式中、R5及びR6はそれぞれ炭素数1〜6のアルキル基または置換基を有しても良いアリール基を表す。また、o、pは各々0〜5の整数を表す)
【0018】
【化4】

【0019】
(上記式中のR7
【0020】
【化5】

【0021】
を表す。R8はそれぞれ炭素数1〜6のアルキル基または置換基を有しても良いアリール基を表す。)
【0022】
【化6】

【0023】
(上記式中のR9
【0024】
【化7】

【0025】
を表す。R10はそれぞれ炭素数1〜6のアルキル基または置換基を有しても良いアリール基を表す。)
【0026】
本発明は、さらに前記硬化性樹脂組成物を加熱硬化してなる硬化物、前記熱硬化性樹脂組成物を加熱下で加圧成形し、金属箔を積層してなる難燃性を有する積層板、および片面または両面に金属箔を有する積層板を提供する。
【発明の効果】
【0027】
本発明により、ハロゲン化合物を含まずに、高周波領域での誘電特性、耐熱性、十分な難燃性を有する積層板を形成するための熱硬化性樹脂組成物、並びに、それを用いた硬化物及び金属箔付き積層板を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、下記一般式(1)で表わされるリン元素を含有合するベンゾオキサジン化合物、下記一般式(4)または(5)で表されるビニルベンジルエーテル化合物、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂を含有する。
【0029】
【化8】

【0030】
一般式(1)において、uは1〜10の整数である。
まず、uが1の場合のリン含有ベンゾオキサジン化合物について説明する。一般式(1)において、R2はメチル基、エチル基のような炭素数1〜6のアルキル基または置換基を有しても良いアリール基を表す。アリール基としては、炭素数6〜15のものが好ましい。kは0〜4の整数を表す。kが2〜4の整数の場合、複数のR2は互いに同一でも異なっていても良い。Xはメチル基、エチル基のような炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有しても良い炭素数5〜15のシクロアルキル基、置換基を有しても良い炭素数7〜15のアラルキル基または置換基を有しても良い炭素数6〜15のアリール基を表す。置換基としてはメチル基、エチル基のような炭素数1〜6のアルキル基、水酸基、エステル基等が挙げられる。
炭素数5〜15のシクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、シクロデシル基などを、炭素数7〜15のアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、各種ナフチルメチル基などを、炭素数6〜15のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基などを挙げることができる。
【0031】
1は下記一般式(2)または(3)で表わされる。一般式(2)において、R3及びR4は、それぞれ独立してメチル基、エチル基のような炭素数1〜6のアルキル基または置換基を有しても良いアリール基を表す。アリール基としては、炭素数6〜15のものが好ましく、前記一般式(1)についての説明のとおりである。
【0032】
【化9】

【0033】
【化10】

【0034】
置換基としては、メチル基、エチル基のような炭素数1〜6のアルキル基、水酸基、エステル基、アルコキシル基等が挙げられる。mおよびnは各々0〜4の整数を表す。
mが2〜4の整数の場合、複数のR3は、互いに同一でも異なっていてもよく、nが2〜4の整数の場合、複数のR4は、互いに同一でも異なっていてもよい。
一般式(3)において、R5及びR6は、それぞれ独立してメチル基、エチル基のような炭素数1〜6のアルキル基または置換基を有しても良いアリール基を表す。アリール基としては、炭素数6〜15のものが好ましく、前記一般式(1)についての説明のとおりである。置換基としては、メチル基、エチル基のような炭素数1〜6のアルキル基、水酸基、エステル基、アルコキシル基等が挙げられる。o及びpは各々0〜5の整数を表す。
oが2〜5の整数の場合、複数のR5は、互いに同一でも異なっていてもよく、pが2〜5の整数の場合、複数のR6は、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0035】
前記一般式(1)で表わされる化合物において、uが1の場合の具体例としては、下記式(I)〜(IV)で表わされる化合物が挙げられる。
【0036】
【化11】

【0037】
【化12】

【0038】
【化13】

【0039】
【化14】

【0040】
次に、一般式(1)において、uが2の場合のリン含有ベンゾオキサジン化合物について説明する。
一般式(1)において、uが2の場合もR1は前記一般式(2)または(3)で表わされる。
Xは置換基を有しても良い炭素数1〜10のアルキレン基、置換基を有しても良い炭素数5〜15のシクロアルキレン基、置換基を有しても良い炭素数7〜15のアラルキレン基、置換基を有しても良い炭素数6〜15のアリーレン基が挙げられる。置換基としては、メチル基、エチル基のような炭素数1〜6のアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシル基、アシロキシル基等が挙げられる。
炭素数1〜10のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、各種プロパンジイル基、各種ブタンジイル基、各種ペンタンジイル基、各種ヘキサンジイル基、各種オクタンジイル基、各種デカンジイル基を、炭素数5〜15のシクロアルキレン基としては、各種シクロペンチレン基、各種シクロヘキシレン基、各種シクロオクチレン基、各種シクロデシレン基などを、炭素数7〜15のアラルキレン基としては、例えば、各種フェニレンメチレン基、各種フェニレンエチレン基、各種フェニレンプロピレン基、各種メチレンフェニレンメチレン基、各種ナフチレンメチレン基などを、炭素数6〜15のアリーレン基としては、例えば、各種フェニレン基、各種ナフチレン基、各種アントリレン基などを挙げることができる。
【0041】
また、Xは下記一般式(7)で表わされる構造を含む。
【0042】
【化15】

【0043】
一般式(7)において、R13およびR14は、それぞれ独立してメチル基、エチル基のような炭素数1〜6のアルキル基または置換基を有しても良いアリール基を表す。アリール基としては、炭素数6〜15のものが好ましく、前記uが1の場合に説明したとおりである。
wおよびyは各々0〜4の整数を表し、Z'は−CH2−、−C(CH32−、酸素原子、硫黄原子またはスルホン基を表す。wが2〜4の整数の場合、複数のR9は、互いに同一でも異なっていてもよく、yが2〜4の整数の場合、複数のR10は、互いに同一でも異なっていてもよい。
前記一般式(7)で表わされる二価の基としては、ジフェニルエーテル−4,4'−ジイル基、ジフェニルスルホン−4,4'−ジイル基、ジフェニルメタン−4,4'−ジイル基、ジフェニルプロパン−4,4'−ジイル基が挙げられ、それらの基を含む化合物としては、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン、4,4'−ジアミノジフェニルメタン、4,4'−ジアミノジフェニルプロパン等が挙げられる。
【0044】
uが2の場合、前記一般式(1)で表わされる化合物の具体例としては、下記式(V)〜(VII)で表わされる化合物が挙げられる。
【0045】
【化16】

【0046】
【化17】

【0047】
【化18】

【0048】
uが3〜10の場合の前記一般式(1)で表わされる化合物についてもR1は前記一般式(2)または(3)で表わされる。一般式(2)または(3)における各置換基等についても、uが1または2の場合と同様である。uが3〜10の場合のXは3〜10価の化合物残基で、3以上の化合物の具体例としては、ポリメチレンポリフェニルアミン等が挙げられる。
【0049】
次に、本発明の一般式(1)で表わされるリン含有ベンゾオキサジン化合物の製造方法について説明する。
同リン含有ベンゾオキサジン化合物は、下記一般式(8)で表わされる2−ヒドロキシベンズアルデヒド化合物、アミン化合物、活性P−H基を有するリン化合物(以下、単にリン化合物と称することがある)、及びアルデヒド類から容易に合成できる。
【0050】
【化19】

【0051】
前記一般式(8)において、R15は、メチル基、エチル基のような炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有しても良いアリール基または水酸基を表わす。アリール基としては、炭素数6〜15のものが好ましく、前記一般式(1)の説明のとおりである。
置換基としては、メチル基、エチル基のような炭素数1〜6のアルキル基、水酸基、エステル基等が挙げられる。
jは0〜4の整数を表す。jが2〜4の整数の場合、複数のR15は、互いに同一でも異なっていてもよい。
反応の順序としては、2−ヒドロキシベンズアルデヒド化合物とアミン化合物とを反応させて得られる化合物に、リン化合物を付加反応させ、次いでアルデヒド類を反応させる方法(製造方法1)または2−ヒドロキシベンズアルデヒド化合物とリン化合物を反応させて得られる化合物にアミン化合物を付加反応させ、次いでアルデヒド類を反応させる方法(製造方法2)のいずれでも良い。
なお、アミン化合物として、p-アミノフェノールのような水酸基を有するアミノ化合物を用いた場合、アルデヒド類を反応させた後、さらに、無水酢酸のような酸無水物を反応させて水酸基をエステル基に変性しても良い。この場合、前記式(IV)で表わされるような化合物が得られる。
反応を安定化させて副反応を抑制するという観点から、上記製造方法1および製造方法2における反応はいずれも、通常、不活性な溶媒中で行なうのが好ましい。溶媒としては、エタノール、プロパノール(n-プロパノール、2−プロパノールや1−メトキシ−2−プロパノール)等のアルカノール類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、シクロヘキサン等の脂環族の炭化水素類、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン等の環状エーテル類、ジメトキシエチレングリコール等のエーテル類、酢酸ブチルなどのエステル類、ジメチルアセトアミド等のアミド類、等の沸点50〜250℃程度の溶媒が用いられる。
溶媒の使用量は、得られるリン含有ベンゾオキサジン化合物に対して質量比で0.1〜5倍程度、好ましくは0.5〜2倍程度である。溶媒の使用量を0.5倍以上とすることにより、反応を安定化させて副反応を抑制することができ、2倍以下とすることにより、溶媒を除去するための時間とエネルギーが増大するのを防止することができる。
【0052】
製造方法1においては、2−ヒドロキシベンズアルデヒド化合物とアミン化合物を、アルデヒド基とアミノ基をモル比約1/1で、溶媒中、還流下で脱水しながら反応させる。次いで、前記の反応における生成物に対して、リン化合物を前記反応により生成するイミノ基に対してモル比約1/1になるように仕込んで、還流下で反応させる。次いで、前記の反応における生成物に対して、アルデヒド類を前記反応により生成する2級アミンに対してモル比約1/1になるように仕込んで、還流下で反応させる。最後に溶媒を減圧留去し、さらに、必要に応じて未反応物や副生物を除去するため、水洗等の精製を行なう。
製造方法2においては、2−ヒドロキシベンズアルデヒド化合物とリン化合物をモル比約1/1で、溶媒中、還流下で脱水しながら反応させる。次いで、前記の反応における生成物に対して、アミン化合物をアミノ基がモル比約1/1になるように仕込んで、還流下で反応させる。次いで、前記の反応における生成物に対して、アルデヒド類を前記反応により生成する2級アミンに対してモル比約1/1になるように仕込んで、還流下で反応させる。
最後に溶媒を減圧留去し、さらに、必要に応じて未反応物や副生物を除去するため、水洗等の精製を行なう。
【0053】
前記一般式(8)で表わされる2−ヒドロキシベンズアルデヒド化合物としては、例えば、2−ヒドロキシベンズアルデヒド、5−メチル-2−ヒドロキシベンズアルデヒド、2,4−ジヒドロキシベンズアルデヒド、2、5−ジヒドロキシベンズアルデヒド、2、3−ジヒドロキシベンズアルデヒド、2,3,4−トリヒドロキシベンズアルデヒド等が具体的に挙げられる。入手のし易さという観点から2−ヒドロキシベンズアルデヒドが好ましく用いられる。
【0054】
アミン化合物としては、1級アミンを有する化合物であれば特に制限されない。例えば、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン等のアルキルモノアミン類、β-アミノエチルアルコールのようなアミノアルコール、アニリン、トルイジン、キシリジン、アニシジン、ベンジジン、アミノフェノール等の芳香族モノアミン類、ジアミノエタン、ジアミノプロパン、ジアミノブタン等のアルキルジアミン類、p−フェニレンジアミン、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル、4,4'−ジアミノジフェニルメタン、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン、ジアニシジン、o−トリジン等の芳香族ジアミン、ベンジルアミン、m−キシリレンジアミンなどが具体的に挙げられる。
アミン化合物としてモノアミン類を使用した場合、前記一般式(1)においてuが1で、Xが使用したモノアミン類の残基で表わされる化合物が得られ、ジアミン類を使用した場合、前記一般式(1)においてuが2で、Xが使用したジアミン類の残基で表わされる化合物が得られる。
【0055】
活性P−H基を有するリン化合物としては、前記一般式(2)または(3)で規定される構造を付与できるものであれば特に制限は無い。
特に好ましいものとしては、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド、ジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2−メチルフェニル)ホスフィンオキシド、ビス(2,5−ジメチルフェニル)フォスフィンオキシド、ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)ホスフィンオキシド等が挙げられる。
【0056】
アルデヒド類としてはホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、グリオキザール、ベンズアルデヒド等が具体的に挙げられる。
【0057】
水酸基を有するアミノ化合物を用いて、アルデヒド類を反応させた後、さらに水酸基をエステル基に変性する場合に使用される酸無水物としては、無水酢酸、無水コハク酸、無水フタル酸等が挙げられる。酸無水物の使用量は、水酸基を有するアミノ化合物の使用量に対して、通常モル比で1/1〜1/3程度、好ましくは、1.1/1〜1.5/1程度である。エステル化反応においては、必要に応じて、p−トルエンスルホン酸、第3級アミン化合物、第4級アンモニウム塩、ホスフィン化合物、第4級ホスホニウム塩等の触媒を適量用いても良い。エステル化反応は、通常、0〜120℃程度、好ましくは50〜80℃程度で行なう。
【0058】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は上記のベンゾオキサジン化合物と、下記一般式(4)または(5)で表されるビニルベンジルエーテル化合物を含有する。
【0059】
【化20】

【0060】
上記式中のR7
【0061】
【化21】

【0062】
であり、(4)式中、R8はそれぞれ炭素数1〜6のアルキル基または置換基を有しても良いアリール基を表す。
【0063】
【化22】

【0064】
上記式中のR9
【0065】
【化23】

【0066】
であり、(5)式中、R10はそれぞれ炭素数1〜6のアルキル基または置換基を有しても良いアリール基を表す。
【0067】
本発明に用いられるビニルベンジルエーテル化合物の具体例としては、フェノールノボラック樹脂のビニルベンジルエーテル化合物、クレゾールノボラック樹脂のビニルベンジルエーテル化合物、フェニルアラルキルノボラック樹脂のビニルベンジルエーテル化合物、ビフェニルアラルキルノボラック樹脂のビニルベンジルエーテル化合物、ナフトールアラルキルノボラック樹脂のビニルベンジルエーテル化合物等があげられる。
【0068】
次に、本発明の難燃性を有する硬化性樹脂組成物、熱硬化物、積層体について説明する。
硬化性樹脂として用いられるエポキシ樹脂は特に限定されるものではないが、グリシジルエーテル類が好ましく、例えば、ビスフェノールグリシジルエーテル、ジヒドロキシビフェニルグリシジルエーテル、ジヒドロキシベンゼングリシジルエーテル、含窒素環状グリシジルエーテル、ジヒドロキシナフタレングリシジルエーテル、フェノール・ホルムアルデヒドポリグリシジルエーテル、ポリヒドロキシフェノールポリグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0069】
ビスフェノールグリシジルエーテルの具体例としては、例えば、ビスフェノールAグリシジルエーテル、ビスフェノールFグリシジルエーテル、ビスフェノールADグリシジルエーテル、ビスフェノールSグリシジルエーテル、テトラメチルビスフェノールAグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0070】
ジヒドロキシビフェニルグリシジルエーテルの具体例としては、例えば、4,4'−ビフェニルグリシジルエーテル、3,3'−ジメチル−4,4'−ビフェニルグリシジルエーテル、3,3',5,5'−テトラメチル−4,4'−ビフェニルグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0071】
ジヒドロキシベンゼングリシジルエーテルの具体例としては、例えば、レゾルシングリシジルエーテル、ヒドロキノングリシジルエーテル、イソブチルヒドロキノングリシジルエーテル等が挙げられる。
【0072】
含窒素環状グリシジルエーテルの具体例としては、例えば、トリグリシジルイソシアヌレート、トリグリシジルシアヌレート等が挙げられる。
【0073】
ジヒドロキシナフタレンのグリシジルエーテルの具体例としては、例えば、1,6−ジヒドロキシナフタレングリシジルエーテル、2,6−ジヒドロキシナフタレングリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0074】
フェノール-ホルムアルデヒドポリグリシジルエーテルの具体例としては、例えば、フェノール・ホルムアルデヒドポリグリシジルエーテル、クレゾール・ホルムアルデヒドポリグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0075】
ポリヒドロキシフェノールポリグリシジルエーテルの具体例としては、例えば、トリス(4−ヒドロキシフェニル)メタンポリグリシジルエーテル、トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンポリグリシジルエーテル、トリス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンポリグリシジルエーテル、トリス(4−ヒドロキシフェニル)ブタンポリグリシジルエーテル、トリス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)メタンポリグリシジルエーテル、トリス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシ)メタンポリグリシジルエーテル、テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタンポリグリシジルエーテル、テトラキス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタンポリグリシジルエーテル、ジシクロペンテン−フェノールホルムアルデヒドポリグリシジルエーテル等が挙げられる。
これらのエポキシ樹脂は、単独で、又は2種或いはそれ以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0076】
本発明のリン含有ベンゾオキサジン化合物、ビニルベンジルエーテル化合物、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂を含有する熱硬化性樹脂組成物は、ベンゾオキサジン構造1当量につきエポキシ基が通常0.5〜3当量程度、好ましくは1.0〜2.0当量程度になるように配合される。
0.5当量以上とすることにより、エポキシ樹脂の硬化を十分進行させ、十分な機械的特性を得ることができ、かつ、不必要なリン含有ベンゾオキサジン化合物を使用することを防止する。また、3当量以下とすることにより、十分な難燃性を確保することができる。
【0077】
硬化性樹脂として用いられるフェノール性水酸基を有する樹脂も特に限定されるものではなく、例えばビスフェノール類、具体的には、2,6−ジヒドロキシナフタリン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[別名:ビスフェノールA]、2−(3−ヒドロキシフェニル)−2−(4'−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン[別名:ビスフェノールF]、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン[別名:ビスフェノールS]、フェノール樹脂類、具体的には、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂、フェノール・アラルキル樹脂、ナフトール・アラルキル樹脂、フェノール−ジシクロペンタジエン共重合体樹脂などが挙げられる。
これらのフェノール性水酸基を有する樹脂は、単独で、又は2種或いはそれ以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0078】
本発明のリン含有ベンゾオキサジン化合物、ビニルベンジルエーテル化合物、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂を含有する熱硬化性樹脂組成物は、ベンゾオキサジン構造1当量につきフェノール性水酸基が通常0.5〜5当量程度、好ましくは1.0〜3.0当量になるように配合される。
0.5当量以上とすることにより、フェノール性水酸基を有する樹脂の硬化を十分進行させ、十分な機械的特性を得ることができ、かつ、不必要なリン含有ベンゾオキサジン化合物を使用することを防止する。また、5当量以下とすることにより、十分な難燃性を確保することができる。
【0079】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、好ましくは、さらに下記一般式(6)で示されるビスマレイミド化合物を含有する。
【化24】

式中、R11およびR12は、それぞれ独立して炭素数1〜6のアルキル基または置換基を有しても良いアリール基を表し、tおよびvは各々0〜4の整数を表し、Zは−CH2−、−C(CH32−、酸素原子、硫黄原子またはスルホン基を表す。t又はvが2以上の場合、R11またはR12は同一でも、異なってもよい。
【0080】
本発明に用いられるビスマレイミド化合物の具体例としては、ビス−(4−マレイミドフェニル)メタン、ビス−(4−マレイミドフェニル)エーテル、ビス−(4−マレイミドフェニル)スルフォン、ビス−(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン等である。
【0081】
本発明におけるビスマレイミド化合物の配合量は全質量に対にして、好ましくは10〜50質量%である。10質量%以下では十分な耐熱性の向上が見られず、また50質量%以上では高周波領域における誘電特性が不十分である。
【0082】
上記のようにして得られた前記一般式(1)で表されるリン含有ベンゾオキサジン化合物、一般式(4)または(5)で表されるビニルベンジルエーテル化合物、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂を含有する本発明の熱硬化性樹脂組成物は、好ましくは、さらにビスマレイミド化合物を配合し、これにより同樹脂組成物に対して難燃剤として、および硬化剤として作用する。
すなわち、加熱によりリン含有ベンゾオキサジン化合物のベンゾオキサジン環を開裂させ、フェノール性水酸基を有する樹脂に付加反応し、同樹脂を硬化させることができる。同時にフェノール性水酸基を生成することから、エポキシ基と付加反応を行うことによりエポキシ樹脂を硬化させることが可能である。
このように、本発明のリン含有ベンゾオキサジン化合物とビニルベンジルエーテル化合物を含有する熱硬化性樹脂組成物はフェノール性水酸基、またはエポキシ基などを有する樹脂に使用した場合には樹脂骨格中に化学的に結合して組み込まれるため、添加型の難燃剤のような耐熱性の低下、ガラス転移温度の低下や難燃剤のブリードアウトのような問題が抑制される。
【0083】
本発明のリン含有ベンゾオキサジン化合物とビニルベンジルエーテル化合物を含有する熱硬化性樹脂組成物を、エポキシ樹脂および/またはフェノール性水酸基を有する樹脂の硬化剤として用いる場合、硬化促進剤の併用が望ましい。硬化促進剤としては、エポキシ樹脂および/またはフェノール性水酸基を有する樹脂との硬化促進剤として一般的に用いられている第3級アミン化合物、第4級アンモニウム塩、ホスフィン化合物、第4級ホスホニウム塩、イミダゾール化合物等が使用可能である。
第3級アミン化合物としては、例えば1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7、ジメチルベンジルアミン、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等が使用可能である。
第4級アンモニウム塩としては、例えばテトラメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリエチルアンモニウムブロマイド等が挙げられる。
ホスフィン化合物としては、例えばトリフェニルフォスフィンなどが挙げられる。
第4級ホスホニウム塩としては、例えばテトラブチルホスホニウムクロライド、テトラブチルホスホニウムブロマイド等が挙げられる。
イミダゾール化合物としては、例えば2−メチルイミダゾール、2−エチルー4−メチルイミダゾール、1 - シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール等が使用可能である。これらの硬化促進剤は単独で用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。
【0084】
硬化促進剤は樹脂組成物100質量部に対して通常0.01〜10質量部程度、望ましくは0.1〜5質量部を添加する。
【0085】
本発明のリン含有ベンゾオキサジン化合物とビニルベンジルエーテル化合物を含有する熱硬化性樹脂組成物を用いて樹脂の難燃化を行う場合、樹脂組成物中にリン原子が通常0.1〜5.0質量%程度、好ましくは0.5〜2.0質量%程度存在するように配合する。
【0086】
本発明のリン含有ベンゾオキサジン化合物とビニルベンジルエーテル化合物を含有する熱硬化性樹脂組成物を用いて樹脂の難燃化を行う場合、必要に応じてその他の難燃剤と併用しても良い。例えば水酸化アルミニウム等の金属水酸化物や、リン酸エステル、フォスファゼン等のリン含有化合物等が挙げられる。また、前記特開平11−279258号公報に記載されているような、ノボラック型エポキシ樹脂を20質量%以上含有するエポキシ樹脂類と、キノン化合物および前記一般式(2)及び/または一般式(3)で表わされる化合物を反応させて得られた化合物を併用しても良い。
【0087】
本発明のリン含有ベンゾオキサジン化合物とビニルベンジルエーテル化合物を含有する熱硬化性樹脂組成物を含む難燃性を有する硬化性樹脂組成物には必要に応じて充填剤、カップリング剤、滑剤、離型剤、可塑剤、着色剤、増粘剤等の各種添加剤を添加しても良い。
【0088】
上記のように調製される本発明のリン含有ベンゾオキサジン化合物とビニルベンジルエーテル化合物を含有する熱硬化性樹脂組成物を含む難燃性を有する硬化性樹脂組成物は以下のような条件で硬化させることにより、熱硬化物が得られる。
硬化温度と硬化時間は通常160〜240℃で30〜180分程度、好ましくは180〜220℃で60〜120分程度である。硬化温度を180℃以上、硬化時間を60分以上とすることにより、硬化を充分に進行させることができ、240℃以下、180分以下とすることにより、硬化物が着色したり、加熱劣化により物性が低下するのを防止し、かつ、生産性の低下を防止する。
【0089】
本発明のリン含有ベンゾオキサジン化合物とビニルベンジルエーテル化合物を含有する熱硬化性樹脂組成物を用いた難燃性を有する硬化性樹脂組成物を加熱反応させて熱硬化物を得る場合の成形法としては、公知の方法を用いて実施することができる。例えば、溶融注型法、圧縮成形機により加熱加圧する圧縮成形法、可塑化された成形材料を加熱した金型キャビティ内に圧入して成形するトランスファ成形法、プリプレグを数枚重ね合わせて加熱加圧により硬化させて積層品を得る積層成形法、プリフォームに樹脂を含浸させて圧縮成形するマッチドダイ成形法、SMC法、BMC法、一方向繊維に樹脂を含浸させた後ダイ中で硬化させる引き抜き成形法、樹脂を含浸したロービングを芯材に巻き付けるフィラメントワインディング法、RIM法などが挙げられる。
【0090】
本発明のリン含有ベンゾオキサジン化合物とビニルベンジルエーテル化合物を含有する熱硬化性樹脂組成物を用いた難燃性を有する硬化性樹脂組成物は、従来の難燃剤や難燃技術を用いた樹脂組成物およびそれから得られる硬化物と比較し難燃性、耐熱性や誘電特性に優れている。また、本発明の硬化性樹脂組成物を金属箔と積層した場合、金属箔との密着性に優れている。
この優れた特性により、本発明のリン含有ベンゾオキサジン化合物とビニルベンジルエーテル化合物を含有する熱硬化性樹脂組成物、およびそれを用いた難燃性を有する硬化性樹脂組成物は、電子基板用積層板(プリント配線板)、半導体の封止材や印刷回路基板などの電子材料等に好適に用いることができる。
本発明はまた、前記本発明の難燃性を有する硬化性樹脂組成物を加熱下で加圧成形してなる積層板をも提供する。この積層板には片面または両面に金属箔を設けることができる。
この積層板はプリント配線板用基板などとして好適に使用される。
用いられる金属箔としては通常用いられる金属であれば特に限定されないが、アルミニウム、銅、ニッケルまたはこれらの合金が挙げられ、中でも、物理的、電気的性能面の観点から銅箔および銅を主成分とする合金箔が好ましい。
【0091】
また、本発明のリン含有ベンゾオキサジン化合物とビニルベンジルエーテル化合物を含有する熱硬化性樹脂組成物を用いた硬化性樹脂組成物はカーボン繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、シリコンカーバイド繊維のような強化用繊維基材にも含浸させて用いることもできる。強化用繊維基材の含有量は適宜選ぶことができるが、例えば、樹脂組成物100質量部に対して5〜500質量部が好ましく、10〜300質量部がより好ましい。さらに、本発明のリン含有ベンゾオキサジン化合物を用いた難燃性を有する硬化性樹脂組成物は、電子材料だけでなく、自動車部品、OA機器部品などにも適用できる。
【実施例】
【0092】
以下、実施例を用いて本発明についてより詳細に説明するが、これらの実施例は本発明を何ら限定するものではない。
【0093】
[合成例1]
本発明におけるリン元素を含有するベンゾオキサジン化合物(A−1)の合成を行った。アミン化合物として4,4′−ジアミノジフェニルエーテル200g(1.0モル)と2−ヒドロキシベンズアルデヒド244g(2.0モル)を、722gの2−プロパノール中、還流下で脱水しながら3時間反応させた。次に、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン−10−オキシド432g(2.0モル)を投入、還流下で3時間反応した。次に、パラホルムアルデヒド60g(2.0モル)を投入し還流下で6時間反応を行った。最後に溶媒を減圧溜去し、褐色固体のリン含有ベンゾオキサジン化合物(A−1)を得た。元素分析、マススペクトル、1H−NMR、赤外線吸収スペクトル分析を行った結果、このA−1は下記式(I)で表わされる化合物であることが確認できた。
元素分析の結果、リン元素は7.1%(理論値:7.1%)で、マススペクトル(M/Z)分析の結果、分子量は864.1(分子量計算値:864.83)であった。
1H−NMR(CDCl3)による吸収ピークの帰属は下記の通りである。
【0094】
4.8ppm(2H)、5.0ppm(2H)、5.3ppm(1H)、5.5ppm(1H)、6.6〜7.0ppm(12H)、7.2〜7.4ppm(12H)、7.7〜8.0ppm(4H)
【0095】
赤外線吸収スペクトルの吸収ピーク(cm-1)は下記の通りである。
3064、2924、2035、1707、1607、1595、1582、1561、1498、1497、1449、1431、1367、1309、1227、1201、1147、1117、1082、1036、1009、957、917、876、837、805、752、715、687
【0096】
【化25】

【0097】
〔実施例1、2〕及び〔比較例1〜5〕
[難燃性を有する硬化性樹脂組成物の配合]
表1に示す配合組成で、各成分を下記の方法で溶媒に溶解してワニスを調製した。さらに、下記の条件で硬化させて両面銅張積層板を試作し、ピール強度、難燃性(UL)、Tg(DMA法)、耐熱性、耐ハンダ性試験の試験を行った。また、調整したワニスを乾燥後、プレスを用いて加熱硬化する事により成型板を作成し線膨張係数(TMA法)、誘電率(空洞共振器摂動法)及び誘電正接(空洞共振器摂動法)の試験を行った。評価結果を表1に示す。
なお、表中の部及び%はいずれも質量基準である。
【0098】
【表1】

なお、難燃性欄中におけるNGは試験片が全焼したことの意味である。
【0099】
表1中のエポキシ樹脂および硬化剤は、それぞれ下記の物質を表す。
<エポキシ化合物>
・クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(大日本インキ化学工業株式会社製、商品名:EPICLON N−680、エポキシ当量208グラム/当量)
<フェノール化合物>
・クレゾールノボラック形フェノール樹脂 (昭和高分子株式会社製、商品名:CRG−951、水酸基当量=118グラム/当量)
<ビニルベンジルエーテル化合物>
・フェノールアラルキルノボラック型ビニルベンジル樹脂 (昭和高分子株式会社製、商品名:V−1000X)
<ビスマレイミド化合物>
・ビス−(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン (ケイアイ化成株式会社製、商品名:BMI−70)
<リン含有化合物>
・上記合成例1で得られたリン含有ベンゾオキサジン化合物(A−1)
・シクロフォスファゼンオリゴマー (大塚化学会社製のフォスファゼン系難燃剤、商品名:SPE−100、リン含有率13.0質量%)
<硬化促進剤>
・1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール (四国化成株式会社製の硬化促進剤、商品名:キュアゾールC11Z−CN)
・2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン (日本油脂株式会社製 過酸化物、商品名 パーヘキサ25B)
【0100】
[ワニスの調製]
ワニスは、予め表1に示す量の各成分をメトキシプロパノールとメチルエチルケトンとの混合溶媒に溶解し、硬化促進剤(C11Z−CN、パーヘキサ25B)を加え、最終的に硬化性樹脂組成物の不揮発分(N.V.)が60質量%となるように調製した。また、硬化促進剤は、樹脂(エポキシ樹脂、フェノール性水酸基を有する樹脂、硬化剤の合計)100質量部に対してC11Z−CNは0.2質量部、パーヘキサ25Bは0.6質量部となる割合とした。
【0101】
[積層板作製条件]
実施例1、2および比較例1〜5で調製されたワニスを、厚さ約180μmのガラスクロス(日東紡績株式会社製 ガラスクロス「WE18K105」)に含浸させた後、溶媒を乾燥した。
ついで、120℃×3分、引き続き160℃×3分の条件で予備加熱してプリプレグを作製した。各プリプレグの両面に厚さ約18μmの銅箔(日鉱マテリアル株式会社製「JTC1/2OZ」)を貼り合わせ、さらに3.92MPaの加圧下、220℃×60分の条件で加熱成形することで積層板を作製した。得られた積層板は、厚み約0.2mm、樹脂含有量約40質量%であった。
[成型板作製条件]
実施例1、2および比較例1〜5で調製されたワニスを、1.33×10-3MPaの減圧下で90℃、30分の乾燥により樹脂固形物を得た。得られた樹脂固形物を1.0MPaの加圧下、220℃×60分の条件で加熱成形することで成型板を作製した。
【0102】
[物性試験項目および測定条件]
下記、測定項目のうち(1)〜(4)は硬化前の樹脂を用いて、(5)〜(10)は積層板を用いて、(11)および(12)は成型板を用いて測定を行った。
(1)元素分析
リン含有量については試料を硫酸+硝酸で分解後ICP発光法を用いて測定した。
(2)マススペクトル
Thermofinnigan LCQ Advantage を用いて測定した。
(3)1H−核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR)
テトラメチルシランを内部標準物質に、日本電子社製JNM−LA300を用いて測定した。
(4)赤外線吸収スペクトル
Perkin Elmer社製フーリエ変換赤外分光光度計Spectrum Oneを用いて測定した。
(5)難燃性
UL−94垂直燃焼試験に準拠して測定した。
(6)ピール強度
JIS−C6481に準拠して測定した。
(7)ガラス転移温度(Tg)
DMA(動的粘弾性分析)法にて測定(昇温スピード3℃/分)した。なお、測定には、ORIENTEC社製RTM−1Tを用いた。
(8)耐熱性
JIS−C6481に準拠して測定した。試験時間は60分とし、n=3で全数合格となる温度を記録した。
(9)2%重量減少温度
SII社製TG/DTA6200を用い、窒素気流下、昇温速度10℃/分で測定した。
(10)半田耐熱
JIS−C6481に準拠して測定した。260℃の半田に積層板を120秒浸漬したときの膨れ発生の有無を目視で観察し、膨れ発生が認められないものを「合格」とした。
(11)誘電率及び誘電正接
ヒューレットパッカード(株)社製ベクトルネットワークアナライザHP8753Eを用い、1.5mm×1.5mm×75mmの角柱状試験片を用いて空洞共振器摂動法で測定した。
(12)線膨張係数
TMA(熱機械分析)法にて3.0mm×3.0mm×20.0mmの角状試験片を用い、50−150℃の範囲で測定した(昇温スピード10℃/分)。なお、測定には、株式会社リガク社製 ThermoFlex TAS−200 TMA 8140Cを用いた。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明は、ハロゲン化合物を含まずに、高周波領域での誘電特性、耐熱性、十分な難燃性を有する積層板を形成するための熱硬化性樹脂組成物、並びに、それを用いた硬化物及び金属箔付き積層板を提供するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表わされるリン元素を含有合するベンゾオキサジン化合物、下記一般式(4)または(5)で表されるビニルベンジルエーテル化合物、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂を含有することを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【化1】

(式中、R1は下記一般式(2)または(3)で表される基、R2は炭素数1〜6のアルキル基または置換基を有しても良いアリール基を表す。また、kは0〜4の整数を表す。uは1〜10の整数を表す。Xはu価の化合物残基を表す)
【化2】

(式中、R3及びR4はそれぞれ炭素数1〜6のアルキル基または置換基を有しても良いアリール基を表す。また、m、nは各々0〜4の整数を表す)
【化3】

(式中、R5及びR6はそれぞれ炭素数1〜6のアルキル基または置換基を有しても良いアリール基を表す。また、o、pは各々0〜5の整数を表す)
【化4】

(上記式中のR7
【化5】

を表す。R8はそれぞれ炭素数1〜6のアルキル基または置換基を有しても良いアリール基を表す。)
【化6】

(上記式中のR9
【化7】

を表す。R10はそれぞれ炭素数1〜6のアルキル基または置換基を有しても良いアリール基を表す。)
【請求項2】
前記リン元素を含有するベンゾオキサジン化合物が熱硬化性樹脂組成物の全質量に対して5〜40質量%であり、前記ビニルベンジルエーテル化合物が熱硬化性樹脂組成物の全質量に対して30〜80質量%であることを特徴とする請求項1記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
エポキシ樹脂を、ベンゾオキサジン構造1当量につきエポキシ基が0.5〜3当量含有するように配合することを特徴とする請求項1または2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
フェノール樹脂を、ベンゾオキサジン構造1当量につきフェノール性水酸基が0.5〜5当量含有するように配合することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
さらに下記一般式(6)で示されるビスマレイミド化合物を熱硬化性樹脂組成物の全質量に対して10〜50質量%を含有する事を特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【化8】

式中、R11およびR12は、それぞれ独立して炭素数1〜6のアルキル基または置換基を有しても良いアリール基を表し、tおよびvは各々0〜4の整数を表し、Zは−CH2−、−C(CH32−、酸素原子、硫黄原子またはスルホン基を表す。tが2以上の場合、R11は同一でも、異なってもよい。vが2以上の場合、R12は同一でも、異なってもよい。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物を加熱硬化してなる難燃性を有する硬化物。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物を加熱下で加圧成形し、金属箔を積層してなる難燃性を有する積層板。
【請求項8】
片面または両面に金属箔を有する請求項7に記載の積層板。

【公開番号】特開2009−120667(P2009−120667A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−294321(P2007−294321)
【出願日】平成19年11月13日(2007.11.13)
【出願人】(000187068)昭和高分子株式会社 (224)
【Fターム(参考)】