説明

燃料噴射制御システム

【課題】燃料を衝突部に衝突させて燃焼室へ噴射する燃料噴射弁を備える燃料噴射制御システムにおいて、噴射条件にかかわらず、熱損失低減及びスモーク低減の効果を向上させる。
【解決手段】エンジン30には、燃焼室に燃料を直接噴射する燃料噴射弁31が設けられている。燃料噴射弁31は、弁体を移動可能に収容するボデーと、該ボデーの先端部に形成された噴孔から噴出した燃料を衝突させる衝突部とを有している。ECU40は、燃料噴射弁31から噴射された燃料が燃焼室の内壁面に到達しないようにすべく、燃焼サイクルごとの燃料噴射弁31による噴射条件に基づいて、当該燃焼サイクルでの多段噴射の噴射回数を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射弁により燃焼室に燃料を直接噴射し、その燃料を燃焼室内で燃焼させる内燃機関において、燃料噴射弁による燃料噴射を好適に制御する燃料噴射制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2等に記載の燃料噴射弁は、噴孔から噴射した燃料を衝突させる衝突部を備えている。これによれば、貫徹力の弱い燃料噴射にできるので、ピストン頂面(燃焼室壁面)への燃料付着を抑制できる。よって、排気中の未燃焼HCを低減してスモークの低減を図ることができるとともに、壁面近傍での燃焼を抑制して、燃焼ガスの熱が燃焼室壁面を通じて逃げていく熱損失(冷却損失)を低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−89195号公報
【特許文献2】特開平10−299613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のごとく燃料噴射弁において噴孔から噴射した燃料を衝突部に衝突させる構成であっても、噴射圧や燃料噴射量といった噴射条件によっては、燃料が燃焼室内の壁面(シリンダ内壁面や、ピストン頂部に形成された凹部内壁面)に到達することが考えられる。具体的には、噴射圧が高くなると、又は燃焼サイクルごとの燃料噴射量が多くなると、燃料が燃焼室内の壁面に到達する可能性が高まることとなる。そして、燃料の壁面付着により、熱損失の低減を図る上で所望とする効果が得られないといった不都合が生じる。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、燃料を衝突部に衝突させて燃焼室へ噴射する燃料噴射弁を備える燃料噴射制御システムにおいて、噴射条件にかかわらず、熱損失低減及びスモーク低減の効果を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0007】
本発明の燃料噴射制御システムは、内燃機関の燃焼室(Ea)に燃料を直接噴射する燃料噴射弁(I)と、該燃料噴射弁による燃料噴射を制御する制御手段(40)とを備えており、前記燃料噴射弁は、弁体(20)を移動可能に収容するボデー(10)と、該ボデーの先端部に形成された噴孔(12)から噴出した燃料を衝突させる衝突部(23)とを有している。また、前記制御手段は、前記燃料噴射弁から噴射された燃料が前記燃焼室の内壁面に到達しないようにすべく、燃焼サイクルごとの前記燃料噴射弁による噴射条件に基づいて、当該燃焼サイクルでの多段噴射の噴射回数を設定する噴射回数設定手段を備えている。
【0008】
上記構成によれば、燃料噴射弁の噴孔から噴出される燃料は、その噴出の直後に衝突部に衝突し、それに伴い減勢される。そのため、燃焼室内において貫徹力の弱い燃料噴射を実現でき、噴射燃料の壁面付着を抑制できる。さらに、燃焼サイクルごとの燃料噴射弁による噴射条件(噴射圧、要求噴射量等)に基づいて、当該燃焼サイクルでの多段噴射の噴射回数が設定され、それにより、燃料噴射弁から噴射された燃料が燃焼室の内壁面に到達することが抑制されるようになっている。したがって、噴射条件に応じて噴射燃料の飛行距離(噴霧長さ)が変わることを考慮しつつ、燃料の壁面付着を抑制できる。以上により、噴射条件にかかわらず、熱損失低減及びスモーク低減の効果を向上させることができるようになる。
【0009】
蓄圧部を備える燃料噴射制御システムにおいて、内燃機関の運転状態等に応じて燃料圧力(燃料噴射弁の噴射圧)が変わり、例えば燃料圧力が大きくなると、噴射燃料の飛行距離(噴霧長さ)が大きくなる。また、内燃機関の運転状態が相違すると燃料サイクルごとの要求噴射量が変わり、例えば要求噴射量が多くなると、噴射燃料の飛行距離(噴霧長さ)が大きくなる。
【0010】
この点からして、前記噴射回数設定手段は、圧力取得手段により取得した燃料圧力を前記噴射条件とし、その燃料圧力に基づいて、前記燃焼サイクルでの多段噴射の噴射回数を設定するとよい(請求項2)。また、前記噴射回数設定手段は、燃料サイクルごとの要求噴射量を前記噴射条件とし、その要求噴射量に基づいて、前記燃焼サイクルでの多段噴射の噴射回数を設定するとよい(請求項3)。
【0011】
これらの構成によれば、燃料圧力が大きくなっても、燃料の壁面付着を抑制できる。これにより、熱損失低減及びスモーク低減の効果を向上させることができる。
【0012】
ところで、本発明者らは、衝突部の衝突面の形状や角度について様々な試験を実施した。その結果、衝突面の形状や角度に応じて、燃焼室内における燃料の浮遊の状態が変わることが分かった。例えば衝突面の形状や角度を所定の状態にすれば、衝突して燃焼室壁面へ向けて拡散した燃料が、壁面に到達する前に方向転換等をすることにより浮遊することが分かった(図1及び図3参照)。以下、このような状態の燃料噴射を「衝突浮遊噴射」と呼ぶ。一方、上記の特許文献1(特開平10−89195号公報)、特許文献2(特開平10−299613号公報)に記載の燃料噴射弁では、衝突して燃焼室壁面へ向けて拡散した燃料が、燃焼室壁面へ向けてそのまま直進しやすくなっていると考えられる。以下の説明では、特許文献1,2に記載の燃料噴射を「衝突直進噴射」と呼び、衝突浮遊噴射とは区別する。
【0013】
そして、衝突浮遊噴射によれば、燃焼室壁面の手前で方向転換等して燃料が浮遊するので、衝突直進噴射に比べて燃焼室壁面への燃料付着がより一層抑制される。よって、先述したスモーク低減及び冷却損失低減の効果を向上できる。
【0014】
また、特許文献2にも記載されているように、衝突直進噴射の場合には、ピストン頂面に円錐状のガイド面E22x(図20参照)を形成させておくことが一般的である。すなわち、ピストン頂面E21に形成された凹部E22の壁面に向けて直進する燃料を(矢印Ya参照)、ガイド面E22xに沿って巻き上げるように偏向させることで(矢印Yb参照)、燃焼室Eaの全体に燃料が広がるように攪拌させる。
【0015】
しかしながら、衝突浮遊噴射の場合には、燃料が自身で方向転換等して浮遊するので、上記ガイド面E22xによる巻き上げは不要になる。しかも、このようなガイド面E22xは、燃焼室中央へ向かう凸形状であるため、ガイド面E22xに燃料が付着してしまい、先述した冷却損失低減及びスモーク低減の効果が損なわれることが考えられる。
【0016】
上記に鑑みると、燃料噴射弁を備える燃焼システムとして、以下の〔発明1〕〜〔発明3〕の構成とすることが望ましい。
【0017】
〔発明1〕
内燃機関のピストン頂面により形成される燃焼室へ、燃料噴射弁から燃料を直接噴射する燃焼システムにおいて、
前記燃料噴射弁は、燃料を噴射する噴孔が形成されたボデー、及び前記噴孔から噴射された燃料を衝突させる衝突部を有しており、
前記ピストン頂面のうち前記噴孔と対向する部分は、平坦形状又は凹形状に形成されていることを特徴とする燃焼システム。
【0018】
これによれば、ピストン頂面のうち噴孔と対向する部分が平坦形状又は凹形状であるため、燃焼室中央部分にピストン頂面の一部(ガイド面E22x)が存在しないようになる。よって、先述した衝突浮遊噴射となるよう衝突部を形成した場合において、浮遊する燃料がピストン頂面に付着することを抑制できる。よって、冷却損失低減及びスモーク低減の効果を向上できる。
【0019】
〔発明2〕
前記噴孔は円環形状であり、
前記衝突部の衝突面は、前記噴孔に対向する円環形状に形成されていることを特徴とする上記発明1に記載の燃焼システム。
【0020】
このように、噴孔を円環形状に形成するとともに、衝突面を噴孔に対向する円環形状に形成すれば、衝突面の円錐角度を所定角度に設定することで、衝突面に衝突した燃料が円環の径方向外側に拡散し、その後、径方向内側に戻る向きに浮遊するようにできる。この理由についての考察を以下に説明する。
【0021】
すなわち、円環状に燃料を噴射して衝突させると、円環中心の気圧が低くなることを促進できる。そのため、衝突後の燃料は、気圧の低くなった円環中心に引き込まれるようになる。したがって、衝突面に衝突した燃料は円環の径方向外側へ拡散し(図1中の矢印Y1参照)、その後、円環中心に引き込まれるようにして径方向内側に方向転換等して浮遊する(図1中の矢印Y2,Y3参照)と考えられる。したがって、噴孔を円環形状に形成するとともに衝突面を噴孔に対向する円環形状に形成した上記発明によれば、衝突浮遊噴射の実現を図る上で好適である。
【0022】
〔発明3〕
前記衝突面の円錐角度を90度〜150度に設定したことを特徴とする上記発明2に記載の燃焼システム。
【0023】
ここで、衝突面の円錐角度θ1(図1参照)を過大にすると、衝突後に径方向外側へ拡散する推進力が前記引き込まれる力に対して過大となる。すると、ピストン頂面(図4の例では凹部E22の内周面)に達する手前で方向転換させて燃焼室内を浮遊させることが困難となり、ピストン頂面への燃料付着量が多くなる。一方、衝突面の円錐角度θ1を過小にすると、ピストン頂面へ向かう推進力が過大となるので、ピストン頂面(図4の例では凹部E22の底面E22a)への燃料付着量が多くなる。
【0024】
この点を鑑み、本発明者らが衝突面の円錐角度θ1を変えて噴射状態を確認する試験を実施したところ、燃焼室内を燃料が浮遊する衝突浮遊噴射にするには、円錐角度θ1を90度〜150度に設定することが好適であることが明らかとなった。よって、衝突面の円錐角度を90度〜150度に設定する上記発明によれば、衝突浮遊噴射の実現を図る上で好適である。
【0025】
また、内燃機関の運転状態によっては、燃料を衝突部に衝突させる衝突浮遊噴射よりも、衝突部に衝突させない噴射の方が適している場合がある。そこで、次の〔発明4〕と〔発明5〕を本発明者らは提案する。また、これらの発明4,5と発明1〜3のいずれか1つに記載の発明とを組み合わせるようにしてもよい。
【0026】
〔発明4〕
内燃機関のピストン頂面により形成される燃焼室へ、燃料噴射弁から燃料を直接噴射する燃焼システムにおいて、前記燃料噴射弁は、燃料を噴射する噴孔が形成されたボデー、及び前記噴孔から噴射された燃料を衝突させる衝突部を有しており、前記ボデーには、前記噴孔とは別の第2の噴孔が形成されており、前記燃料噴射弁は、前記第2の噴孔を閉弁するとともに前記噴孔を開弁して燃料を噴射させる衝突噴射モードと、前記噴孔を閉弁するとともに前記第2の噴孔を開弁して、前記衝突部に衝突させること無く燃料を噴射させる通常噴射モードとが、切り替え可能に構成されていることを特徴とする燃焼システム。
【0027】
〔発明5〕
前記内燃機関の運転状態が低負荷低回転の場合には前記衝突噴射モードで燃料を噴射させ、前記内燃機関の運転状態が高負荷高回転の場合には前記通常噴射モードで燃料を噴射させることを特徴とする、上記発明4に記載の燃焼システム。
【0028】
これによれば、低負荷低回転の場合には、衝突噴射モードで燃料噴射することで、先述した冷却損失低減及びスモーク低減を促進できる。一方、高負荷高回転の場合には、通常噴射モードで燃料噴射することで、内燃機関に要求される出力トルクを確実に生じさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】第1実施形態にかかる燃料噴射弁の構成を示す図。
【図2】図1のA−A断面図。
【図3】燃料噴射弁から噴射された燃料の噴霧塊を示す図。
【図4】燃料噴射弁をエンジンのシリンダヘッドに取り付けた状態を示す図。
【図5】ピストンの変形例を示す図。
【図6】コモンレール式燃料噴射システムの構成を示す図。
【図7】噴射信号と噴霧長さとの関係を示すタイムチャート。
【図8】異なる噴射圧ごとに燃料噴射量と噴霧長さとの関係を示す図。
【図9】(a)は噴射圧と噴射回数との関係を示す図、(b)は燃料噴射量と噴射回数との関係を示す図、(c)は噴射圧と上限噴射量との関係を示す図。
【図10】燃料噴射制御処理を示すフローチャート。
【図11】多段噴射の各噴射について説明する図。
【図12】ピストンの変形例を示す図。
【図13】第2実施形態においてエンジン周辺の構成を示す図。
【図14】気流生成を実施するエンジン運転領域を示す図。
【図15】スワール無しの場合とスワール有りの場合とで、煤量の違いを計測した実験結果を示す図。
【図16】気流生成に関する制御処理を示すフローチャート。
【図17】単発噴射/多段噴射を実施するエンジン運転領域を示す図。
【図18】第3実施形態にかかる燃料噴射弁の構成を示す図。
【図19】第3実施形態にかかる燃料噴射弁において、衝突噴射モード及び通常噴射モードの切替え制御を説明する図。
【図20】従来の燃焼システムを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を具体化した各実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下に説明する燃料噴射制御システムは、車両用のエンジン(内燃機関)に適用されたものであり、当該エンジンには、コモンレール内に高圧状態(例えば30MPa〜180MPa)で蓄圧された燃料(軽油)を燃料噴射弁により燃焼室内に噴射し、その噴射燃料を圧縮自着火燃焼させるディーゼルエンジンを想定している。
【0031】
(第1実施形態)
燃料噴射制御システムの説明に先立って、まずは本制御システムを構成する燃料噴射弁Iの構成について説明する。図1は、燃料噴射弁Iの先端部付近の構成を示す断面図であり、図2は図1のA−A断面図である。燃料噴射弁Iは、ボデー10の内部に弁体20や駆動装置(図示せず)等を収容して構成されている。ボデー10は円筒形状であり、その内部には先端側ほど縮径されるようにしてテーパ状中空部10aが形成されるとともに、円筒端部には円形の開口部11が形成されている。そして、弁体20のうち開口部11に位置する円柱部21と開口部11との隙間により噴孔12が形成されている。したがって、噴孔12は図2に示す如く円環形状となる。
【0032】
弁体20のうち円柱部21よりも上流側の部分には、シート面22が形成されている。燃料噴射が行われていない初期状態では、弁体20のシート面22がボデー10のシート面13に着座しており、弁体20とボデー10の間に形成されている燃料通路14が閉鎖されている。そして、弁体20がリフトアップすると、弁体20のシート面22がボデー10のシート面13から離座して燃料通路14が開通する。つまり、噴孔12が開弁されて燃料が噴射される。また、弁体20がリフトダウンすると、弁体20のシート面22がボデー10のシート面13に着座して、弁体20とボデー10の間に形成されている燃料通路14が閉鎖される。つまり、噴孔12が閉弁され、噴孔12からの燃料噴射が停止される。
【0033】
なお、図示しない駆動装置は、電磁アクチュエータや、電磁アクチュエータにより作動する制御弁、制御弁に弾性力を付与するスプリング等により構成され、弁体20の背圧室に供給される高圧燃料を制御弁で制御することにより、弁体20を開閉作動させるものである。
【0034】
弁体20のうち円柱部21よりも下流側の部分には衝突部23が形成されている。この衝突部23のうち噴孔12に対向する位置には、円環形状の衝突面23aが形成されている。衝突面23aは、燃料流れの上流側から下流側へ向かうにつれて径が拡大する、テーパ状の円錐形状(傘状)である。また、衝突面23aの投影面積(図2に示す面積)は噴孔12の投影面積よりも小さく設定されている。換言すれば、衝突面23aのうち径が最も拡大した最下流位置の直径d1は、噴孔12の直径D2よりも小さい。また、衝突面23aの円錐頂点の内角(円錐角度θ1)は、90度<θ1<150度となるように設定されている。
【0035】
噴孔12を開弁させると、後述するコモンレール32から燃料噴射弁Iへ供給される高圧燃料が、ボデー10内部の燃料通路14を通じて噴孔12から噴射される。そして、噴孔12から噴射した燃料は、衝突部23の衝突面23aに衝突して、弁体20の径方向外側かつ噴孔12から離れる向き(図1の斜め下方)に向かって直進する(図1中の矢印Y1参照)。この時点では、衝突後の燃料は円盤状に拡散した状態である。
【0036】
なお、ボデー10には、先端側ほど(下流側ほど)縮径されるようにしてテーパ状中空部10aが形成されており、そのテーパ状中空部10aに燃料通路14が形成されている。そのため、上記のとおり衝突面23aの最大径d1<噴孔12の直径D2となる構成であっても、噴孔12からの噴射燃料が衝突面23aに衝突することなく下方に向けて直進してしまう、といった不都合が抑制されている。
【0037】
衝突面23aに衝突した後、径方向外側かつ斜め下方へ向かう燃料は、噴孔12(衝突部23)を中心とする周囲部分において環状に浮遊した状態で滞留する。この場合、燃料の少なくとも一部は、弁体20の径方向内側へ方向転換して浮遊し(図1中の矢印Y2参照)、さらにその後、噴孔12へ近づく向き(図1の上方)に向かって浮遊する(図1中の矢印Y3参照)。要するに、矢印Yに示す経路を辿るように燃料は巻き込まれて浮遊する。その結果、燃料噴射弁Iから噴射された液体の燃料は、図3に示すようなドーナツ状(トーラス状)の噴霧の塊Fとなって燃焼室内を浮遊する。
【0038】
なお、矢印Y2の如く方向転換する理由の1つとして以下が考えられる。すなわち、方向転換の理由は、衝突面23aから勢いよく拡散していく噴射の影響により、衝突部23の直下における気圧が低下するからであり、この低気圧の部分に向けて衝突後の燃料が引き寄せられる結果、矢印Y2,Y3の如く巻き込まれるように浮遊すると考察される。
【0039】
図4は、図1に示す燃料噴射弁IをエンジンのシリンダヘッドE10に取り付けた状態を示す図であり、ピストンE20が上死点に位置する状況を示す。なお、燃料噴射弁Iからの燃料噴射は、上死点に達する以前(例えばBTDC180〜10℃A)に為される。燃料噴射弁Iは、燃焼室Eaの上側に配置され、かつ、燃料噴射弁Iの中心線J1とピストンE20の中心線J2が一致するよう、燃焼室Eaの中央に配置されている。
【0040】
ピストンE20の頂面E21には、噴孔12から遠ざかる向きに凹む、上面視が円形の凹部E22が形成されている。ピストンE20が上死点に位置する時には、噴孔12及び衝突面23aが凹部E22の中に位置するように燃料噴射弁Iが配置されている。そのため、上死点に達する直前に噴射された噴霧塊Fは、図4に示すように、自着火するまでは凹部E22の中で浮遊することとなる。
【0041】
ピストン頂面E21のうち噴孔12と対向する部分(つまり凹部E22の底面E22a、又は凹部E22の中央部分)は、図4に示す平坦形状に形成されている。或いは、図5に示すように、凹部E22の底面E22bは凹形状に形成されている。つまり、本実施形態では、凹部E22の底面を凸形状にすることを廃止しており、例えば、図20に示す従来のガイド面E22xを廃止している。要するに、上死点に位置するピストン頂面E21(凹部E22の表面)が噴霧塊Fと接触しないように、凹部E22の形状は設定されている。
【0042】
次に、コモンレール式燃料噴射システムの構成について図6を用いて説明する。
【0043】
図6において、ディーゼルエンジン(以下、エンジン30という)には気筒ごとに電磁駆動式の燃料噴射弁31が配設され、これら燃料噴射弁31は各気筒共通のコモンレール(蓄圧部)32に接続されている。この燃料噴射弁31が、上記説明した燃料噴射弁Iである。コモンレール32には燃料ポンプとしての高圧ポンプ33が接続されており、高圧ポンプ33の駆動に伴い燃料が高圧化され、噴射圧相当の高圧燃料がコモンレール32に連続的に蓄圧される。高圧ポンプ33は、エンジン30の回転に伴い駆動され、エンジン回転に同期して燃料の吸入及び吐出が繰り返し行われる。高圧ポンプ33には、その燃料吸入部に電磁駆動式の吸入調量弁(SCV)33aが設けられており、フィードポンプ34によって燃料タンク35から汲み上げられた低圧燃料は吸入調量弁33aを介して当該ポンプ33の燃料室に吸入される。
【0044】
コモンレール32には圧力センサ37が設けられており、圧力センサ37によりコモンレール32内の燃料圧力(以下、噴射圧とも言う)が逐次検出される。
【0045】
ECU40は、CPU、ROM、RAM、EEPROM等からなる周知のマイクロコンピュータを備えた電子制御ユニットであり、ROM内に記憶されている制御プログラムにより各種制御を実施する。ECU40には、上記の圧力センサ37の他、エンジン回転速度を検出する回転速度センサ41や、アクセル操作量を検出するアクセル開度センサ42、エンジン水温を検出する水温センサなどの各種センサから検出信号が逐次入力される。
【0046】
そして、ECU40は、エンジン回転速度やアクセル開度等のエンジン運転状態に基づいて噴射圧をフィードバック制御する。具体的には、エンジン運転状態に基づいて目標噴射圧を算出し、圧力センサ37にて検出された実噴射圧が目標噴射圧となるように高圧ポンプ33の燃料吐出量を制御する。このとき、噴射圧偏差に基づいて比例項や積分項が算出され、これら各項に基づいてフィードバック制御が実施される。噴射圧は、あらかじめ定めた所定範囲内で調整され、本実施形態では30〜180MPaの範囲内で噴射圧が調整されるようになっている。
【0047】
また、ECU40は、都度のエンジン運転情報に基づいて、燃料噴射態様として燃料噴射量及び噴射時期を決定し、それに応じた噴射信号を燃料噴射弁31に出力する。かかる燃料噴射制御により、各気筒において燃料噴射弁31から燃焼室への燃料噴射が制御される。特に本実施形態では、燃焼サイクルごとの燃料噴射量を、燃料噴射弁31により複数回に分割して噴射する、いわゆる多段噴射を実施することとしており、都度のエンジン運転状態に応じて、パイロット噴射、プレ噴射、メイン噴射、アフタ噴射、ポスト噴射の各噴射を適宜実施することとしている。これら各噴射のうちエンジン出力に寄与するのは主としてプレ噴射とメイン噴射である。
【0048】
ところで、燃料噴射弁31から噴射される燃料の噴霧長さは、燃料噴射量に応じて相違し、燃料噴射量が多いほど、噴霧長さが大きくなる。具体的には、図7に示すように、噴射信号がオンされることで燃料の飛行が開始されると、その開始直後から噴霧長さ(飛行距離)が伸び、その後次第に飛行の勢いが無くなることから噴霧長さの伸長が止まる。この場合、燃料噴射量が比較的少ない図7(a)では、噴霧長さがLaとなり、燃料噴射量が比較的多い図7(b)では、噴霧長さがLbとなる(La<Lb)。
【0049】
また、噴霧長さは、噴射圧(すなわちレール圧)に応じて相違し、噴射圧が大きいほど、噴霧長さが大きくなる。具体的には、図8(a)〜(d)に示すように、噴射圧ごとに、燃料噴射量と噴霧長さとの関係がそれぞれ相違する。なお、図8では、噴射圧が40MPa、80MPa、120MPa、180MPaのそれぞれである場合について、燃料噴射量と噴霧長さとの関係を示している。図8において、「r1」は燃料噴射弁31の中心線J1(図4参照)から燃焼室内の内壁面(本実施形態では、図4に示すピストン凹部E22の内壁面)までの距離であり、噴霧長さがr1以上になると、燃料が燃焼室内の内壁面に到達してしまうことを意味する。
【0050】
図8(a)〜(d)では、いずれにおいても燃料噴射量が多いほど、噴霧長さが大きくなる関係が示されている。また、噴射圧が大きくなるほど、噴霧長さが大きくなる傾向が示されている。
【0051】
上記のとおり噴霧長さは燃料噴射量や噴射圧といった噴射条件に応じて変わり、噴霧長さが大きくなると、燃料噴射弁31から噴射された燃料噴霧が燃焼室の壁面(図4で言えば、凹部E22の壁面)に到達してしまい、それに起因して燃焼室壁面での熱損失が生じる。そして、熱損失の発生により運転効率が低下するという不都合が生じる。
【0052】
そこで本実施形態では、燃料噴射弁31から噴射された燃料が燃焼室の壁面に到達しないようにすべく、すなわち噴霧長さが過剰に長くなることを抑制すべく、燃焼サイクルごとの燃料噴射弁31による噴射条件に基づいて、当該燃焼サイクルでの多段噴射の噴射回数を設定するようにしている。ここで、噴射条件としては、噴射圧と燃料サイクルごとの燃料噴射量(要求噴射量)とを想定しており、噴射圧が大きい場合に、噴射圧が小さい場合に比べて多段噴射の噴射回数を大きい回数に設定するようにしている(図9(a)の関係参照)。また、燃料噴射量が多い場合に、燃料噴射量が小さい場合に比べて、多段噴射の噴射回数を大きい回数に設定するようにしている(図9(b)の関係参照)。
【0053】
また、噴射圧に基づいて、多段噴射の各噴射における上限噴射量を設定するようにしている。具体的には、噴射圧が大きい場合に、噴射圧が小さい場合に比べて上限噴射量を小さい噴射量に設定するようにしている(図9(c)の関係参照)。
【0054】
なお、多段噴射としては、例えばパイロット噴射、プレ噴射、メイン噴射、アフタ噴射、ポスト噴射の各噴射が知られているが、このうちエンジン出力に寄与する噴射は主にプレ噴射とメイン噴射であり、本実施形態では、これらプレ噴射とメイン噴射の各燃料量について噴射回数と、1噴射当たりの燃料噴射量を設定するようにしている。
【0055】
図10は、燃料噴射制御処理を示すフローチャートであり、本処理は、ECU40により所定の時間周期で繰り返し実施される。
【0056】
図10において、ステップS11では、エンジン回転速度やアクセル開度といったエンジン運転状態を読み込み、続くステップS12では、エンジン運転状態に基づいて、今回の燃焼サイクルで要求される要求噴射量Q0を算出する。このとき、エンジン30の要求トルクに応じた要求噴射量Q0が算出される。
【0057】
その後、ステップS13では、圧力センサ37により検出される噴射圧Pcを読み込み、続くステップS14では、噴射圧Pcに基づいて、燃料噴射弁31の1回当たりの上限噴射量Q1を算出する。このとき、以下の式(1)、式(2)を用いて上限噴射量Q1を算出する。
L1=0.8×r1×(40/Pc) …(1)
Q1=K×ln(L1)+3.8 …(2)
r1は、燃料噴射弁31の中心から燃焼室内の内壁面までの距離(燃焼室半径)であり、Kは、あらかじめ定めた定数である。
【0058】
なお、上記の式(1)、式(2)に代えて、図9(c)の関係を用いて、上限噴射量Q1を算出することも可能である。
【0059】
その後、ステップS15では、多段噴射の噴射回数Nを算出する。このとき、以下の式(3)を用いて噴射回数Nを算出する。
N=(Q0/Q1) …(3)
なお、上記の式(3)に代えて、図9(a)、(b)の関係を用いて、噴射回数Nを算出することも可能である。つまり、噴射圧が大きいほど、及び要求噴射量が多いほど、噴射回数Nを大きい値に算出する。
【0060】
その後、ステップS16では、多段噴射の各噴射について噴射量と噴射時期とを算出する。このとき、多段噴射として、圧縮上死点付近の後段噴射とそれよりも前の前段噴射とを実施することとし、特に前段噴射の噴射量を後段噴射の噴射量よりも少なくするようにしている。これを、図11により具体的に説明する。なお、図11では、要求噴射量を25mm3とする場合について示している。
【0061】
図11では、前段噴射として2回のプレ噴射(プレ1、プレ2)を実施し、後段噴射として1回のメイン噴射を実施するようにしている。(a)に示すように、プレ噴射(プレ1、プレ2)は圧縮行程の前半部分にて実施され、メイン噴射は圧縮行程の後半部分(圧縮上死点直前)にて実施される。
【0062】
各噴射の噴射量については、(b)に示すように、プレ噴射量<メイン噴射量としている。また、メイン噴射量が適正値に対して多すぎると(図のX1)、燃料が燃焼室内の壁面に到達してしまうことが懸念され、プレ噴射量が適正値に対して多すぎると(図のX2)、プレ噴射による燃料が燃焼室内で意に反して早期に自己着火してしまうことが懸念される。そこで、メイン噴射量については、上記の上限噴射量Q1による制限が行われる。また、プレ噴射量については、あらかじめ定めた所定値以下(例えば6mm3以下)に制限されて設定される。なお、プレ噴射が複数回実施される場合には、各プレ噴射量を同量にするか、又は先のプレ噴射の噴射量を後のプレ噴射の噴射量よりも少なくすることが望ましい。
【0063】
図10に戻り、最後にステップS17では、噴射信号を出力して燃料噴射弁31を開弁駆動させる。
【0064】
なお、図10の処理では、エンジン運転領域において多段噴射の実施を許可する許可領域と許可しない非許可領域とを定めておき、許可領域にある場合にのみ、多段噴射を実施するようにしてもよい。非許可領域にあれば、多段噴射ではなく単発噴射による燃料噴射制御を実施する。
【0065】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0066】
燃料噴射弁31を、ボデー10の先端部の噴孔12から噴出した燃料を衝突させる衝突部23を有する構成とした。また、ECU40による燃料噴射制御において、燃料噴射弁31から噴射された燃料が燃焼室の内壁面に到達しないようにすべく、燃焼サイクルごとの燃料噴射弁31による噴射条件に基づいて、当該燃焼サイクルでの多段噴射の噴射回数を設定するようにした。
【0067】
上記構成によれば、燃料噴射弁31の噴孔12から噴出される燃料は、その噴出の直後に衝突部23に衝突し、それに伴い減勢される。そのため、燃焼室内において貫徹力の弱い燃料噴射を実現でき、噴射燃料の壁面付着を抑制できる。また、都度の噴射条件に基づいて多段噴射の噴射回数が設定されることで、噴射条件に応じて噴射燃料の飛行距離(噴霧長さ)が変わることを考慮しつつ、燃料の壁面付着を抑制できる。以上により、噴射条件にかかわらず、熱損失低減及びスモーク低減の効果を向上させることができる。
【0068】
噴射条件として噴射圧(コモンレール32内の燃料圧力)と要求噴射量とを用い、その噴射圧と要求噴射量とに基づいて多段噴射の噴射回数を設定するようにした。これにより、例えば噴射圧が大きくなることに伴い噴霧長さが大きくなっても、燃料の壁面付着を抑制できる。また、例えば要求噴射量が多くなることに伴い噴霧長さが大きくなっても、燃料の壁面付着を抑制できる。以上により、熱損失低減及びスモーク低減の効果を向上させることができる。
【0069】
噴射圧(コモンレール32内の燃料圧力)に基づいて多段噴射の各噴射における上限噴射量Q1を設定するようにした。これにより、噴射圧が変わっても噴霧長さが過剰に大きくなることが抑制される。つまり、噴射圧が大きくなっても、燃料の壁面付着を抑制できる。
【0070】
多段噴射の実施に際して圧縮上死点付近のメイン噴射とそれよりも前のプレ噴射とを実施するようにし、プレ噴射量をメイン噴射量よりも少なくするようにした。これにより、プレ噴射について、そのプレ噴射の燃料が意図せず着火燃焼することを抑制でき、ひいては燃焼行程での燃焼状態を好適化できる。
【0071】
以下には、燃料噴射弁31に関する効果について列記する。
【0072】
(1)ボデー10に複数の噴孔を形成するのではなく、1つの噴孔12を円環形状に形成し、その円環形状に対向するように衝突面23aを円環形状に形成する。そして、衝突面23aの円錐角度θ1を90度〜150度に設定している。これにより、噴霧塊Fとなる衝突浮遊噴射を好適に実現できる。
【0073】
(2)このような衝突浮遊噴射を実現させた本実施形態によれば、凹部E22の内周面の手前で燃料が方向転換等することにより浮遊して噴霧塊Fになるので、凹部E22の内周面への燃料付着を抑制できる。しかも、凹部E22の底面E22a,E22bは、平坦形状、或いは凹形状に形成されているので、凹部E22の底面E22a,E22bへの燃料付着をも抑制できる。したがって、排気中の未燃焼HCを低減してスモークの低減を図ることができるとともに、噴霧塊Fによる燃焼ガスの熱がピストン頂面E21(凹部E22の表面)を通じて逃げていく損失(冷却損失)を低減できる。
【0074】
ただし、多段噴射の制御に関して言えば、ピストン凹部E22の底面E22a,E22bが平坦形状又は凹形状であることは必須でなく、他の形状であっても所望の効果が得られる。例えば、図12に示すように、ピストンE20において、凹部E22の底面が、燃料噴射弁Iに近づく方向(燃焼室の中央側)に突出する凸形状であってもよい。
【0075】
(第2実施形態)
上記構成の燃料噴射弁31(図1の燃料噴射弁I)を用いた燃料噴射システムとして、燃焼室内でスワールやタンブルといった気流(渦流)を生じさせる気流生成手段を有する構成を採用してもよい。
【0076】
ここで、スワールやタンブルによる気流を燃焼室内で生じさせると、燃焼室内において、ドーナツ状(トーラス状)の噴霧形状が崩れたり、噴霧が燃焼室壁面に飛ばされて接触したりすることが懸念されるが、燃料噴射量が所定量以上になる場合には、噴霧内部の燃料及び空気の混合悪化を抑制するために、燃焼室内で積極的に気流を生じさせることが望ましい。つまり、燃料噴射量がある程度に多くなると、ドーナツ状噴霧の内部(噴霧塊の内部)における混合悪化に起因してスモーク(煤)の排出量が増加することが懸念される。この点、燃焼室内で気流を生じさせて燃料と空気との混合を図ることで、スモーク排出量の減少を図ることができる。
【0077】
図13は、エンジン周辺の構成を示す図である。エンジン50には吸気部51と排気部52とが設けられている。吸気部51は、燃焼室54に通じる吸気通路として各気筒に2つずつの通路を有しており、その2つの吸気通路のうちいずれかに気流生成弁53が設けられている。気流生成弁53は、2つの吸気通路のうち一方を閉鎖することで、燃焼室54内にスワール(横渦)を生成するものである。なお、スワール生成手段としては任意の構成を適用でき、上記以外に、吸気バルブの可変駆動機構を有する場合には、気筒ごと2つずつの吸気バルブのうち一方を開放、他方を閉鎖させることにより、燃焼室54内にスワール(横渦)を生成するようにしてもよい。エンジン50には、気筒ごとに既述の燃料噴射弁31が設けられている。
【0078】
ECU55は、都度のエンジン運転状態に基づいて、燃料噴射弁31による燃料噴射や気流生成弁53による気流生成を制御する。本実施形態では、エンジン回転速度とエンジントルク(要求トルク)とに基づいて気流生成を実施するか否かを制御するようにしており、その気流生成を実施するエンジン運転領域を図14示す。図14では、エンジン回転速度が小さく、かつエンジントルクが小さい領域(低回転・低負荷領域)で気流生成を行わず、エンジン回転速度及びエンジントルクがそれぞれ増加するエンジン運転領域で気流生成を行うようにしている。
【0079】
図15は、スワール無しの場合とスワール有りの場合とで、煤量の違いを計測した実験結果を示す図である。なお、図15には、スワール比(周方向の旋回流の流速とその軸方向の流速の比)を2.2として、燃焼を10回行った場合の煤量の計測結果を示している。図15から分かるように、スワールによる気流生成によって煤量が大幅に減少する。これは、気流形成により燃焼室内での混合が改善され、燃焼室壁面付近での火炎発生が抑制されるためであると考えられる。
【0080】
なお、気流生成として、スワールを生成することに加えて又は代えて、タンブルを生成するようにしてもよい。この場合、吸気部51にタンブル生成弁などを設けるとよい。
【0081】
多段噴射を実施する燃料噴射システム(図6)に、気流生成を実施する構成を付加してもよい。この場合、ECU55は、図16に示す制御処理を実施する。
【0082】
図16において、ステップS21では、現在のエンジン運転領域に基づいて単発噴射を実施するか多段噴射を実施するかを判定する(噴射形態決定手段に相当)。例えば、図17に示すように、低中回転・低中負荷域を単発噴射領域、高回転域又は高負荷域を多段噴射領域とし、これら各領域に基づいて噴射形態を選別するとよい。
【0083】
単発噴射を実施する場合、ステップS22に進み、現在のエンジン運転領域に基づいて気流生成を実施するか否かを判定する。図17に示すように、気流生成領域、気流非生成領域は共に単発噴射領域内に図示のとおり設定されている。そして、気流生成領域にあればステップS23に進み、気流生成を実施すべく気流生成弁53を閉状態に制御する(気流制御手段に相当)。続くステップS24では、燃料噴射弁31により単発噴射を実施する。
【0084】
また、多段噴射を実施する場合、ステップS25に進む。ステップS25では、既述の制御手順に基づいて燃料噴射弁31により多段噴射を実施する(図10参照)。このとき、噴射条件としての噴射圧や要求噴射量に基づいて、噴射回数や、噴射回ごとの上限噴射量を設定する。
【0085】
以上の構成では、単発噴射と多段噴射とを好適に使い分けることができるとともに、単発噴射の実施時において気流生成を適宜に実施できる。これにより、いずれの運転領域においても燃焼状態の改善を図ることができる。
【0086】
(第3実施形態)
上記第1実施形態では、衝突浮遊噴射のみを行う燃料噴射弁Iを採用しているのに対し、図18に示す本実施形態では、衝突浮遊噴射と以下に説明する針状噴射とが切り替え可能な燃料噴射弁Iaを採用している。以下、図18に示す燃料噴射弁Iaの構成について、図1との違いを中心に説明する。なお、図18中、図1と同一符号部分についてはその説明を援用する。
【0087】
この燃料噴射弁Iaのボデー10には、噴孔12とは別に、燃料を噴射する第2の噴孔15が形成されている。第2の噴孔15は、ボデー10の側面に貫通する形状であり、同心円状に複数(図18の例では4つ)形成されている。また、弁体20の円柱部21の外周面のうち、第2の噴孔15の流入口に対向する部分には、その流入口を開閉する開閉部24が形成されている。開閉部24は、円柱部21において外側に突出して設けられる突起部であり、非噴射状態(初期状態)では、第2の噴孔15を閉じ、弁体20が所定量以上リフトアップすると、第2の噴孔15を開放するものとなっている。
【0088】
図18及び図19(a)は、第2の噴孔15が開閉部24により閉じた状態を示す。ただし、この状態(衝突噴射モード)の時には、弁体20のシート面22がボデー10のシート面13から離座しているので、噴孔12から燃料が噴射され、上記第1実施形態と同様の衝突浮遊噴射が為される。
【0089】
一方、弁体20を図19(a)の状態からさらにリフトアップさせると、弁体20の衝突面23aがボデー10のシート面16に着座して図19(b)に示す状態になる。この状態(通常噴射モード)の時には、開閉部24の位置が第2の噴孔15からずれるので、複数の第2の噴孔15から燃料が噴射される。この噴射(針状噴射)は、衝突浮遊噴射に比べて貫徹力が強く、ピストン頂面E21(凹部E22の表面)まで到達して付着する。
【0090】
要するに、本実施形態にかかる燃料噴射弁Iaでは、第2の噴孔15を閉弁するとともに噴孔12を開弁して衝突浮遊噴射を実施する衝突噴射モードと、噴孔12を閉弁するとともに第2の噴孔15を開弁して、衝突面23aに衝突させること無くさせる針状噴射を実施する通常噴射モードとが、切り替え可能に構成されている。
【0091】
また、このようなモードの切り替えは、図19(c)に例示するマップに基づき実施される。すなわち、要求トルクが低くエンジン回転速度が小さい低負荷低回転の時には、衝突噴射モードに切り替えて燃料噴射する。一方、要求トルクが高くエンジン回転速度が大きい高負荷高回転の時には、通常噴射モードに切り替えて燃料噴射する。
【0092】
以上本実施形態によれば、衝突浮遊噴射を実施している時には上記第1実施形態と同様の効果が発揮される。そして、低負荷低回転の場合には衝突噴射モードに切り替えることで、先述した冷却損失低減及びスモーク低減を促進できる。一方、高負荷高回転の場合には通常噴射モードに切り替えることで、エンジンに要求される出力(要求トルク)を確実に生じさせることができる。
【0093】
(他の実施形態)
上記実施形態を以下のように変更して実施してもよい。また、各実施形態の特徴的構成をそれぞれ任意に組み合わせるようにしてもよい。
【0094】
・図10のステップS14において、内燃機関の温度としてエンジン水温を検出し(温度検出手段)、そのエンジン水温に基づいて、上限噴射量Q1を設定するようにしてもよい。エンジン水温が低温である場合と、高温である場合とを比較すると、その前者の方が、燃料の壁面付着による不都合が大きいと考えられる。それは、燃焼室壁面を通じて放出される熱量がより大きくなるためである。この点について、ECU40は、エンジン水温が低いほど、上限噴射量Q1を小さくする。本構成によれば、燃料の壁面付着による不都合が大きいエンジン低温時において、その壁面付着をより確実に生じないようにし、上記不都合の発生を回避することができる。
【0095】
・上記第1実施形態では、噴射条件として噴射圧(コモンレール32内の燃料圧力)と要求噴射量とを用い、その噴射圧と要求噴射量とに基づいて多段噴射の噴射回数を設定するようにしたが、これを変更し、噴射圧と要求噴射量とのうち噴射圧に基づいて多段噴射の噴射回数を設定する構成、又は要求噴射量に基づいて多段噴射の噴射回数を設定する構成としてもよい。
【0096】
・上記各実施形態では、ピストン頂面E21に凹部E22を形成しているが、この凹部E22を廃止してもよい。ただしこの場合、ピストン頂面E21のうち噴孔12と対向する部分(つまりピストン頂面E21の中央部分)が、平坦形状であることが望ましい。
【0097】
・上記各実施形態では、燃料噴射弁Iの中心線J1とピストンE20の中心線J2が一致するように燃料噴射弁Iを配置しているが、本発明はこのような配置の燃料噴射弁Iに限られるものではない。ただし、両中心線J1,J2が平行になっていることが望ましい。或いは、ピストンE20の中心線J2上に燃料噴射弁Iを配置することが望ましい。
【0098】
・衝突面23aの円錐角度θ1を大きく設定するほど、噴霧塊Fの厚み寸法d3(図3参照)が小さくなるとともに、噴霧塊Fの径寸法d4が大きくなる。一方、円錐角度θ1を小さく設定するほど、噴霧塊Fの厚み寸法d3が大きくなるとともに、噴霧塊Fの径寸法d4が小さくなる。よって、円錐角度θ1に応じてピストン頂面E21の形状を設定すれば、噴霧塊Fと接触しない形状にピストン頂面E21を設定することを容易に実現できる。
【符号の説明】
【0099】
10…ボデー、12…噴孔、20…弁体、23…衝突部、30…エンジン(内燃機関)、40…ECU(制御手段、噴射回数設定手段、上限設定手段)、Ea…燃焼室、I…燃料噴射弁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の燃焼室(Ea)に燃料を直接噴射する燃料噴射弁(I)と、該燃料噴射弁による燃料噴射を制御する制御手段(40)とを備える燃料噴射制御システムにおいて、
前記燃料噴射弁は、弁体(20)を移動可能に収容するボデー(10)と、該ボデーの先端部に形成された噴孔(12)から噴出した燃料を衝突させる衝突部(23)とを有し、
前記制御手段は、前記燃料噴射弁から噴射された燃料が前記燃焼室の内壁面に到達しないようにすべく、燃焼サイクルごとの前記燃料噴射弁による噴射条件に基づいて、当該燃焼サイクルでの多段噴射の噴射回数を設定する噴射回数設定手段を備えることを特徴とする燃料噴射制御システム。
【請求項2】
前記燃料噴射弁から噴射される燃料を高圧状態で蓄圧する蓄圧部(32)を備え、該蓄圧部内の燃料圧力を可変に制御する燃料噴射制御システムであって、
前記蓄圧部内の燃料圧力を取得する圧力取得手段を備え、
前記噴射回数設定手段は、前記圧力取得手段により取得した燃料圧力を前記噴射条件とし、その燃料圧力に基づいて、前記燃焼サイクルでの多段噴射の噴射回数を設定する請求項1に記載の燃料噴射制御システム。
【請求項3】
前記噴射回数設定手段は、燃料サイクルごとの要求噴射量を前記噴射条件とし、その要求噴射量に基づいて、前記燃焼サイクルでの多段噴射の噴射回数を設定する請求項1又は2に記載の燃料噴射制御システム。
【請求項4】
前記燃料噴射弁から噴射される燃料を高圧状態で蓄圧する蓄圧部(32)を備え、該蓄圧部内の燃料圧力を可変に制御する燃料噴射制御システムであって、
前記蓄圧部内の燃料圧力を取得する圧力取得手段を備え、
前記制御手段は、前記圧力取得手段により取得した燃料圧力に基づいて、前記多段噴射の各噴射における上限噴射量を設定する上限設定手段を更に備える請求項1乃至3のいずれか一項に記載の燃料噴射制御システム。
【請求項5】
前記制御手段は、前記多段噴射として、圧縮上死点付近の後段噴射とそれよりも前の前段噴射とを実施し、
前記上限設定手段は、前記多段噴射の実施に際し、前記前段噴射の噴射量を前記後段噴射の噴射量よりも少なくする請求項4に記載の燃料噴射制御システム。
【請求項6】
前記内燃機関の温度を検出する温度検出手段を備え、
前記上限設定手段は、前記温度検出手段により検出した機関温度に基づいて、前記上限噴射量を設定する請求項4又は5に記載の燃料噴射制御システム。
【請求項7】
前記内燃機関には、前記燃焼室内で気流を生じさせる気流生成手段(53)が設けられており、
前記制御手段により前記多段噴射を実施するための実施条件を定めておき、その実施条件に基づいて、前記多段噴射を実施するか、該多段噴射を実施せずに単発噴射を実施するかを決定する噴射形態決定手段と、
前記噴射形態決定手段により前記単発噴射を実施すると決定された場合に、前記気流生成手段により前記燃焼室内で気流を生じさせる気流制御手段と、
を備える請求項1乃至6のいずれか一項に記載の燃料噴射制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−229691(P2012−229691A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−88508(P2012−88508)
【出願日】平成24年4月9日(2012.4.9)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【Fターム(参考)】