説明

燃料噴射弁の制御装置

【課題】弁体に作用する力を考慮して、弁体又は弁座の磨耗発生を抑制し燃料噴射弁の生涯使用回数を増加させる。
【解決手段】ソレノイドを有する燃料噴射弁に通電される駆動電流を制御する制御装置において、燃料を噴射するための第1の噴射パルス信号が終了した後であって、燃料を噴射するために第1の噴射パルス信号に続いて出力される第2の噴射パルス信号の開始前に、ソレノイドに駆動電流を通電するための第3のパルス信号421を出力すると共に、第3のパルス421によってソレノイドに流れる駆動電流を燃料圧力の実測値又は予測値に基づいて制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は内燃機関の燃料噴射制御装置に係わり、特に燃料噴射弁の弁体の動きの制御に関する。
【背景技術】
【0002】
弁体が弁座に着座する際の弁座に対する弁体の衝突力を低減する方法として、ソレノイドへの通電が終了して弁体が閉弁方向に移動している際に微小な再通電を行い、弁体の移動速度(閉弁速度)を緩やかにする方法が知られている(例えば特開2003−120848号公報)。
【0003】
また、余剰な電力を消費しないことや、閉弁速度を適切に維持するために、それぞれの運転状況に応じてソレノイドへの再通電を制御する技術が知られている(特表2001−510528号公報、特開2000−205076号公報及び特開平4−153542号公報)。これらの技術では、アイドル状態時には、閉弁速度を緩やかにするために行う再通電の最大値を、通常運転時よりも低くすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−120848号公報
【特許文献2】特表2001−510528号公報
【特許文献3】特開2000−205076号公報
【特許文献4】特開平4−153542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記後者の従来技術では、エンジンの運転状況に応じてソレノイドへの再通電を制御している。一方、閉弁時に弁体が弁座に着座することによって弁体と弁座との間のシート部に加わる力は、燃料圧力の影響を大きく受ける。運転状況としてはエンジン負荷が考慮されるが、燃料圧力はエンジン負荷と必ずしも比例関係にあるわけではない。例えば、燃料圧力を増加させることで燃料を微粒化することができ、燃料と空気との混合を促進することができ、良好な燃焼状態を実現できる。このため、燃料圧力を、エンジン負荷に応じた噴射量だけでなく、混合の促進や低エミッションの観点から高圧化することが考えられる。
【0006】
上述したように、弁体が着座するときに弁体と弁座との間のシート部に加わる力は、必ずしもエンジンの運転状況に依存するわけではなく、燃料圧力に依存するところが大きいため、弁体又は弁座の磨耗を低減するためには燃料圧力に応じた開閉弁の制御が必要となってくる。
【0007】
そこで、本発明の目的は、弁体又は弁座に作用する力を考慮して、弁体又は弁座の磨耗発生を抑制し燃料噴射弁の生涯使用回数を増加させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を解決するために、本発明の燃料噴射弁の制御装置は、ソレノイドを有する燃料噴射弁に通電される駆動電流を制御する制御装置において、燃料を噴射するための第1の噴射パルス信号が終了した後であって、燃料を噴射するために前記第1の噴射パルス信号に続いて出力される第2の噴射パルス信号の開始前に、前記ソレノイドに駆動電流を通電するための第3のパルス信号を出力すると共に、前記第3のパルスによって前記ソレノイドに流れる駆動電流を燃料圧力の実測値又は予測値に基づいて制御する。この場合、燃料噴射弁の制御装置とは、一般的にエンジンコントロールユニット(ECU)と呼ばれる回路装置や、この回路装置と一体に構成されたり、またあるときは別体に構成されて燃料噴射弁に駆動電流を供給する駆動回路の両方又はいずれか一方に限定されるものではない。
【0009】
上記燃料噴射弁の制御装置において、燃料圧力の実測値又は予測値に基づいて、前記第3のパルスによって前記ソレノイドに流れる駆動電流の最大値又は前記第3のパルスによって前記ソレノイドに流れる駆動電流の有無のうち少なくともいずれか一方を制御するようにするとよい。この場合、第3のパルスは燃料を噴射するための噴射パルスと同じ信号線に出力されるのが通常であり、第3の噴射パルス信号と呼んでもよいが、燃料の噴射を目的とするものではないので、敢えて「噴射」を付けていない。
【0010】
また、燃料圧力の実測値又は予測値に基づいて、前記第3のパルスのパルス幅を変更するようにするとよい。
【0011】
また、燃料圧力の実測値もしくは予測値のほか、開閉弁のための駆動電流波形、エンジン回転数及び噴射回数に基づいて、前記第3のパルスによって前記ソレノイドに流れる駆動電流の投入タイミングを制御するようにするとよい。
【0012】
また、エンジン回転数および燃料圧力が高くなる第1の運転領域においては、前記第3のパルスを出力せず、前記第3のパルスによって前記ソレノイドに流れる駆動電流を流さないように制御するとよい。
【0013】
また、前記第1の運転領域に対して、エンジン回転数が同等で、燃料圧力が小さい第2の運転領域においては、前記第3のパルスを出力して前記ソレノイドに駆動電流を流すように制御するとよい。
【0014】
また、前記第1の運転領域及び前記第2の運転領域に対して、エンジン回転数が同等で、前記第2の運転領域よりもさらに燃料圧力が小さい第3の運転領域においては、前記第3のパルスを出力せず、前記第3のパルスによって前記ソレノイドに流れる駆動電流を流さないように制御するとよい。
【0015】
また、前記第3のパルスによって前記ソレノイドに駆動電流を通電する制御を場合に、前記制御を行わない場合に比べて前記第1の噴射パルスのパルス幅を短くするとよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、燃料圧力に基づいて弁体の閉弁速度を制御するので、弁体又は弁座に作用する力に配慮した閉弁速度の制御を行うことができ、弁体又は弁座の磨耗発生を抑制して、燃料噴射弁の生涯使用回数を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】エンジンシステムの構成図。
【図2】燃料噴射弁の構成図。
【図3】燃燃料噴射弁を駆動する回路構成図。
【図4】噴射信号と駆動電流波形と磁気力と弁変位の時系列グラフ。
【図5】磁気力と閉弁速度の通電時間との関係図。
【図6】実施例1におけるフローチャート。
【図7】実施例2における燃圧と駆動波形の関係を示す図。
【図8】実施例2におけるフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に関する燃料噴射弁の実施例を図面に基づき詳細に説明する。
【0019】
図1は本実施例のエンジンシステムの構成を示す図である。本実施例では1気筒以上のエンジンを想定しているが、説明上図示する気筒は1気筒に限定する。
【0020】
まず、エンジン1の基本動作について説明する。エンジン1に吸入される空気はエアクリーナ2を通り、吸気ダクトに取付けられたエアフロセンサ3により吸入空気量が計測される。エンジン1に吸入される空気量はスロットル弁4で制御される。吸気コレクタ5は図示しない他気筒へ空気を分配するためのもので、吸気コレクタ5で各気筒の吸気管に空気が分配され、吸気弁25を通じて燃焼室22に空気が吸入される。吸気管6の途中には、空気流に指向性を持たせるための図示しない空気流動制御弁を用いても良い。燃料の通路としては、燃料タンク7から燃料配管を図示しない低圧の燃料ポンプの吐出によって加圧輸送された燃料がコモンレール8に輸送される。それに伴い吸気カムシャフト9に取り付けられた高圧燃料ポンプ10によってさらに加圧、蓄圧される。エンジンコントロールユニット(以下、ECUという)11はエンジン1に取付けられた各種センサからの信号を基に、ECU11内部でエンジン1の運転状況を判定し、その運転状況に相応しい指令値を各種アクチュエータに出力する。
【0021】
ここで各種センサの例としては、エアフロセンサ3、コモンレール8に設定された燃料の圧力を検出する燃圧センサ12、吸気カム9の位相を検出するフェーズセンサ13、排気カム14の位相を検出するフェーズセンサ15、クランク軸16の回転数を検出するクランク角センサ17、エンジン冷却水温度を検出する水温センサ18、ノッキングを検出するノックセンサ(図示しない)、排気管19内の排気ガス濃度を検出する排ガスセンサ(排気A/Fセンサ20、排気O2センサ21)などである。
【0022】
また、各種アクチュエータの例としては、燃料噴射弁23、高圧燃料ポンプ10、スロットル弁4、空気流動制御弁(図示しない)、吸気および排気のカム位相を制御する位相制御弁(図示しない)、点火コイル20などである。
【0023】
ここで、エンジン1の作動構成を考えると、エアフロセンサ3により計測された空気量、および排気A/Fセンサ20および排気O2センサ21の信号を取り込み、ECU11は燃料噴射量を算出し、高圧ポンプ10によって加圧された燃料の燃圧を燃圧センサ12によって検出することで、噴射期間を決定し、ECU11から燃料噴射弁の駆動回路30に噴射信号が送られ、燃料噴射弁の駆動回路30から燃料噴射弁23に駆動信号を出力することで燃料を噴射する。噴射信号は主に噴射時期、噴射回数、噴射期間で構成される。噴射信号については、後述の本発明の制御方法の最良の形態で説明する。尚、駆動回路30はECU11の内部に設けられる構成としても良い。
【0024】
燃焼室22に供給された空気と燃料は、ピストン24の上下動に伴い、燃焼室22内で気化、混合されて混合気が形成される。その後ピストン24の圧縮動作により、温度と圧力が上昇する。ECU11はエンジン回転数、燃料噴射量などの情報から点火時期を算出し、点火コイル27に点火信号を出力する。点火信号は主に点火コイル27への通電開始時期、通電終了時期で構成されている。これにより、ピストン24の圧縮上死点の少し手前のタイミングで点火プラグ28により点火が行われ、燃焼室22内の混合気に着火し燃焼が起こる。点火のタイミングは、運転状態によって異なるため、圧縮上死点後の場合もある。燃焼により高まった圧力により、ピストン24を下方向に押し返す力が働き、膨張行程でエンジントルクとしてクランク軸16に伝達され、エンジン動力となる。燃焼終了後、燃焼室22に残留したガスは、排気弁26を通り排気管19に排出される。排気ガスは排気管19の途中に配置された触媒29を通して大気中に排出される。
【0025】
次に、図1における燃料噴射弁23の制御の内容について、図1、図2、図3及び図4を用いて説明する。
【0026】
まず本実施例に用いる燃料噴射弁(図1中燃料噴射弁23)の構成について、図2を用いて説明する。図2に示す燃料噴射弁201において、本体202はコア203とノズルホルダ204とハウジング205とから構成され、図1における高圧燃料ポンプ10からの燃料を燃料通路206を介して、複数の燃料噴射孔207に導いている。弁体208は、上端部にアンカー209を有し、ガイド部材214,215によって弁体208の軸方向(燃料噴射弁201の中心軸方向)に摺動可能に案内されるようにして、ノズルホルダ203内に収納されている。本実施例では、弁体208とアンカー209とは弁体208の軸方向に相対変位可能に構成されており、アンカー209をスプリング216によって開弁方向に付勢しているが、アンカー209を弁体208に固定したものであってもよい。アンカー209を弁体208に固定した場合には、スプリング216は不要である。
【0027】
スプリング210は、弁体208とアジャスタピン211との間に配置され、アジャスタピン211によってスプリング210の上端部の位置が拘束され、スプリング210が弁体208をシート部材212のシート部213に押し付けることによって燃料噴射孔207は閉弁している。ソレノイド214は、駆動回路30からの駆動電流を受けて、コア203とアンカー209とを含む磁気回路を励磁し、コア203とアンカー209との間に磁気吸引力を発生させ、アンカー209をコア203に向かって軸方向に引き上げる。それに伴い、弁体208がアンカー209によって軸方向に引き上げられ、弁体208が弁座のシート部213から離れ、複数の燃料噴射孔207が開く。これにより、図1における高圧燃料ポンプ10によって加圧、圧送された燃料が燃料通路206を通って燃料噴射孔207から噴射される。
【0028】
ここで、図3を用いて駆動回路の構成について説明する。図3は燃燃料噴射弁201を駆動する回路構成を示した図である。
【0029】
CPU301は例えばECU11に設けられ、内燃機関の運転条件に応じて適切な噴射パルスTiや噴射タイミングの演算を行い、通信ライン304を通して燃料噴射弁201の駆動IC302に噴射信号として噴射パルスTiを出力する。その後駆動IC302によって、スイッチング素子305、306、307のON、OFFを切替えて、燃料噴射弁307(図1の燃料噴射弁23、図2の燃料噴射弁201)へ駆動電流を供給する。
【0030】
スイッチング素子305は駆動回路30に入力された電圧源VBよりも高い高電圧源VHと燃料噴射弁307の高電圧側の端子間に接続されている。スイッチング素子は、例えばFETやトランジスタ等によって構成される。高電圧源VHは例えば、60Vであり、バッテリ電圧を昇圧回路314によって昇圧することで生成される。昇圧回路は例えば、DC/DCコンバータ等により構成される。スイッチング素子308は、低電圧源VBと燃料噴射弁307の高圧端子間に接続されている。低電圧源VBは例えば、バッテリ電圧であり12Vである。
【0031】
スイッチング素子306は、燃料噴射弁307の低電圧側の端子と接地電位の間に接続されている。駆動IC302は、電流検出用の抵抗315、312、313により、燃料噴射弁307に流れている電流値を検出し、検出した電流値によって、スイッチング素子305、306、308のON、OFFを切替え、所望の駆動電流を生成している。ダイオード309と310は電流を遮断するために備え付けられている。CPU301は駆動IC302と通信ライン303を通して通信を行っており、燃料噴射弁307に供給する燃料の圧力や運転条件によって、駆動IC302によって生成する駆動電流を切替えることが可能である。
【0032】
また、図示しないコンデンサをソレノイドに接続することで、ソレノイドの余剰な電流値をコンデンサに通電して、一定値に保つ構造とすることができる。ここで、余剰な電流値を放電させる方法は、弁体208の駆動の妨げにならなければ、コンデンサを接続しなくても良い。
【0033】
次に図4は燃料噴射弁(図1中燃料噴射弁23、図2中燃料噴射弁201)の制御信号に関して、上から噴射信号401、駆動電流402、図2における燃料噴射弁のソレノイド214への通電によって発生する磁気力403、燃料噴射弁の弁体の変位404を示している。
【0034】
図1におけるECU11において各種センサから受けた運転状態の検出結果から要求噴射量を検知し、図4における噴射信号401を決定する。尚、駆動波形判定までの流れは後述の図6のステップ図を用いて説明する。噴射信号401が図1におけるECU11から出力され、燃料噴射弁の駆動回路30から駆動電流402が出力されることで、図2における燃料噴射弁201(図1における燃料噴射弁23)のソレノイド214に通電され、磁気力403が発生する。これにより、弁体208を引き上げることで燃料を噴射する。詳細に各信号について説明すると、噴射信号401が駆動回路30に入力され、駆動回路30から駆動電流波形402が出力される。駆動電流波形402は、駆動電流の最大値Ipに到達するまで電流値を増加させる。これにより、磁気力403は弁体208を開弁させるのに十分な磁気力を発生させる。これにより、弁体208は、弁変位404のように磁気力から一定の遅れを持って動作する。続いて駆動電流402は開弁を保持するため電流値Ih1、Ih2を保持する。これによって磁気力403は、開弁に十分な磁気力を保持し続ける。このとき、図2のソレノイド214は弁体208の閉弁力の固体バラつきや、磁気力のバラつきを考慮して、開弁するに十分な磁気力に対して余剰な磁気力を有している。続いて噴射信号401が終了するにしたがって、駆動電流波形402の電流値も0になる。これにより、磁気力403も駆動電流波形402に一定の遅れを持って0になる。このとき、本実施例の制御を行わない場合においては、磁気力403は閉弁時に411の磁気力を有して0に向かうため弁変位404は弁変位412のように変化する。弁変位412は、閉弁時に磁気力が急激に小さくなり、燃圧およびスプリングの合力である閉弁力が強いことで、急激に閉弁される。これにより、図2における弁体208と弁座のシート部213に磨耗が発生する可能性がある。また、閉弁時に閉弁力が強いことで弁体208が符号425で示すようにバウンドする可能性も有している。
【0035】
弁体208の閉弁速度を緩やかにする制御を行うために、噴射信号401は噴射期間Tiの間連続してON状態となる噴射パルスを終了(OFF)した後に、閉弁速度(閉弁力)を制御するためのパルス信号421を追加する。このとき駆動電流波形402は、弁体208を開弁方向に駆動するための電流値、或いは開弁状態を維持するための保持電流値から、閉弁させるために開弁状態を維持できない電流値まで、基本的には電流値がゼロとなるように減少させられる。そして、弁体208が着座する前にパルス421による駆動電流422がソレノイド214に流される。これによって、ソレノイド214は、開弁を再開できる力には到達せず、閉弁速度を揺やかにするだけの磁気力を発生させ、図4の符号423に示すように磁気力が変化する。磁気力423によって、弁変位404は符号424で示すように変化して弁体208は着座(閉弁)する。
【0036】
次に、駆動電流波形402、422について詳細に説明する。駆動電流波形422の電流の最大値をIp2とし、この電流値Ip2を実現するための噴射パルス421の期間(パルス幅)をTi2とする。また、噴射期間Tiの終了時刻からTi2が始まる時刻までの期間をTcと定める。
【0037】
まず、Ip2およびTi2の設定方法に関して説明する。Ip2およびTi2は閉弁力を決定するための磁気力を設定するものであり、閉弁力を左右する力によって変更される。つまり燃料噴射弁の閉弁力を左右する力は、燃料圧力によって左右されるため、燃料圧力によってIp2およびTi2を変更し、ソレノイド214に再通電することで生じる、閉弁速度を緩やかにするための磁気力423を燃料圧力に応じて変更する。この時Ip2は燃料圧力が高くなった場合は増加させ、燃料圧力が低くなった場合は低下させる。また、Ti2も同様に燃料圧力が高い場合に長期化させ、低い場合には短期化させることで、閉弁力を左右する磁気力323の発生を調整する。Ip2およびTi2の上限値は、開弁作動に至らないことと閉弁に至るために十分な速度を維持できる範囲で決められる。
【0038】
ここで、燃料圧力をPf、燃料噴射弁を構成するスプリング力をPsp、閉弁力を制御する電流322をソレノイドに通電することで発生する磁気力をPiとすると、閉弁力は燃料圧力Pfとスプリング力Pspとの和に等しく、磁気力Piは閉弁力よりも小さくなければならない。すなわち、数1の関係が満たされなければならない。
Pi<Pf+Psp …(数1)
【0039】
また、Ti2については、エンジンの回転数と噴射回数とによって時間の制約を受ける。したがって、閉弁速度を緩やかにするための磁気力を決定するIp2とTi2は、燃料の圧力、エンジン回転数、噴射回数によって決定される。
【0040】
次にTcの設定について説明する。Tcは閉弁速度を緩やかにするための制御時期を決定するためのもので、弁体が開弁してから閉弁する前に設定される。そのため、エンジン回転数と噴射期間Tiとに基づいて設定する。
【0041】
燃料噴射弁の閉弁速度を緩やかにするための駆動電流422を投入するかの判定をする際に考慮しなければならない磁気力、閉弁速度及びソレノイド214に通電する通電時間との関係を図5に示す。閉弁速度を緩やかにするための制御を行うためのソレノイド214の通電時間に関して、図5に示すように通電時間が長くなるに従い、磁気力が増加し閉弁速度を緩やかにすることができる。駆動電流422の通電時間は、弁体を開弁させることがなく、且つ閉弁速度が0にならない通電時間であることが必要であり、さらにはエンジンの回転数および1行程中の噴射回数(分割噴射回数)によって決定され、噴射から噴射までの間隔に依存する。つまりは、回転数が高く燃料の分割噴射を行う際に制御期間が極わずかしか存在しない場合においては、閉弁速度(閉弁力)を制御するための制御パルス(図4の421)よりも燃料を噴射するためのパルスを優先させる。
【0042】
次に図6の制御のフローを用いて燃料噴射弁の弁体の閉弁速度を緩やかにするための制御を用いる場合の制御方法について説明する。
【0043】
図6におけるS601において、図1において説明した各種センサからの出力を受けて運転状態を判別する。次に、S602において、検出された運転状態から要求される出力を決定する。S603において、要求される出力からECU11で噴射量を演算し、S604において、ECU11に取り込まれている燃圧センサからの出力を基に燃料圧力(燃圧)を判定する。
【0044】
また、燃料圧力の値は、圧力センサ12の出力値を用いても良いが、エンジン回転数と出力から決定される燃圧の予測値を用いても良い。つまり、駆動波形の切り替えの判定値には燃料の圧力の値か、それに準ずる予測値を用いても良い。
【0045】
次に、S605において駆動電流波形の変更が不要「否」と判定された場合、つまりは燃料圧力が低い場合には駆動電流波形に駆動電流422を追加する制御を行わない。この時、燃料圧力の大小の判定には、予め実験等で決められた値を設定して判定値を設定しておけば良い。燃料噴射弁201のシート部213の硬度と針弁208の硬度と閉弁速度に基づく閉弁力との関係を事前に入手しておくことにより、燃料圧力による閉弁速度(閉弁力)の変化によって駆動電流波形に駆動電流422を入れるための燃料圧力の基準値を設けることができる。ここで、燃料圧力の判定値は、あくまで制御の基準として設定するものであり、基準値を別の方法から求めても良い。
【0046】
次に、駆動電流422を追加せず駆動電流波形の変更がない場合においては、S606のフローに従い、1行程中に噴く燃料の噴射回数と噴射時期を決定し、S608において噴射量要求、エンジン回転数、駆動波形、噴射回数、噴射時期によって噴射パルス幅Tiを算出し、駆動回路30に噴射信号を出力する。
【0047】
次に、S605において駆動電流422の追加が必要と判定した場合のフローについて説明する。S604の燃圧値(燃料圧力の値)もしくは燃圧の予測値に基づいて、S605で駆動電流波形に駆動電流422を追加する、閉弁速度制御の入力を選択する。このとき、前述の燃圧の判定値に基づいて、駆動電流波形を変更する。次に、S609において、駆動電流波形を変更する前の状態において噴射回数を決定する。続いて、S610において、噴射時期を決める。続いてS611において、噴射パルスのパルス幅Ti1を決定する。続いてS612において、S609で決定した噴射回数、S610で決めた噴射時期、S611で決定したパルス幅Ti1に基づいて、閉弁速度制御用駆動電流の最大値Ip2と駆動電流値Ip2を発生させるパルス421の期間(パルス幅)Ti2を決定する。続いてS613において、S611にて演算された噴射パルス幅Tiを参考値として閉弁速度を制御する制御パルス421を投入する時期Tcを規定する。続いてS613にて規定された追加制御パルスTi2の分の開弁時間の延長分を考慮するため、S608において噴射パルス幅Tiを決定する。このとき、噴射パルス幅Tiを短くする期間の設定は予め記憶している値もしくは排気A/Fセンサからの出力を参考に決定しても良い。
【0048】
次に、図7及び図8を用いて本発明に係る実施例2について説明する。図7は実施例2における制御の判定方法を説明するための図である。基本的なシステム構造や燃料噴射弁の構造は、図1と同様である。実施例1では、燃圧センサからの出力によって制御判定をすることで駆動電流波形を変更した。しかし本実施例2では、図7に示すように、燃料圧力とエンジン回転数とから予めECU11に記憶したMAPを用いることで、燃料圧力の推定値を用いて制御可能な領域を特定し、図4に示した制御を行う。これによって、燃圧センサが存在しない場合においても制御を行うことが可能となる。また、予め燃料圧力の値を記憶しておくためのMAPは、エンジン回転数の他にアクセル開度や水温等の運転状況に関する内容を用いても良い。
【0049】
図7について詳細に説明する。領域701は燃料圧力が低いために本制御を必要としない領域である。また、駆動電流422を追加する制御が不要な燃料圧力の判定は、予め実験によって磨耗や破損が発生しない燃料圧力の領域を設定しておくことにより、行えば良い。また燃料圧力の判定は、燃料噴射弁の弁体208と弁座のシート部213とを構成する各構成材料によって変化するため、燃料圧力の閾値は規定しない。
【0050】
次に領域702について説明する。燃料圧力が閾値よりも高く、エンジン回転数が低い状態においては、図4におけるIp2を領域703、704、705よりも小さく設定する。また、エンジンの1サイクルあたりの時間が長いため、駆動電流422を発生させるパルス421のパルス幅Ti2の設定自由度が高い。そこで、パルス幅Ti2を領域703、704、705よりも長く設定する。
【0051】
それに対して、領域703においてはエンジン回転数が高いため、閉弁速度を制御するための時間を確保するのが非常に難しく、閉弁速度を制御するための磁気力を発生させる時間が限られるため、駆動電流の最大値Ip2の値は、領域702に比べて大きく設定される。また、時間Ti2は、次の噴射までの時間が短くなるため、領域702に比べて短く設定される。
【0052】
次に、領域704について説明する。燃料圧力が高く、エンジン回転数が低い領域では、閉弁速度の制御に必要とする時間が確保できるため、閉弁速度(閉弁力)に対してIp2の値を規定することができる。また、Ti2の値は、時間の確保が容易なため、領域702に比べて長く設定する。
【0053】
次に、領域705について説明する。領域705は燃圧が高くかつエンジン回転数が速いため、閉弁速度を制御するのに十分な時間を確保するのが困難である。そのため、Ip2とTi2の上限値を十分な大きさで規定することができない。したがって、Ti2は、次の噴射までの時間と、駆動電流422によって発生した磁気力が次の噴射に影響を及ぼさない範囲とで設定する。同時にIp2は閉弁可能な範囲で設定する。
【0054】
次に領域706について説明する。領域706ではエンジン回転数が速いために、閉弁速度の制御を行うための時間を僅かしか確保できない。その時間は領域705よりも更に短い。つまり噴射時間が短いために、閉弁動作開始からシート部213に弁体208が着座するまでの時間が短いため、閉弁速度の制御を行う時間を確保できない領域が存在する。このため、領域706においては、駆動電流422をソレノイド214に流さず、閉弁速度を緩やかにする制御を行わない。
【0055】
また、図7における燃料圧力とエンジン回転数の関係は、1行程中に1回の噴射を想定しており、分割噴射を行って噴射回数が増加する場合には制御可能な領域がさらに限定される。つまりは、噴射から噴射までの時間が僅かしか確保できない場合においては、制御時間が確保できる領域でのみ制御を行う。
【0056】
次に図8を用いて実施例2における制御のフローを説明する。S801において、ECU11に各種センサから出力を取り込み、運転状態の検出を行う。それに伴い、ECU11においてS802で目標出力を決定し、S803で要求噴射量を算出する。続いてS804において、検出した各種センサからの出力を用いて、例えばクランク角センサやスロットル開度、水温センサからの出力によって、図7のような燃料圧力のMAPにおける領域を判定する。次に、閉弁速度の制御が不要な領域701や制御が不可能な領域706となる場合には、噴射回数、噴射時期、噴射パルスをS805、S806、S807に従って演算する。次に、S804にて、閉弁速度の制御を行う燃料圧力の領域の場合においては、S808において追加する制御内容を決定し(具体的には、図4におけるIp2、Ti2、Tc)を決定して駆動電流波形に追加する。変更した駆動電流波形に従い、噴射回数、噴射時期、噴射パルスをS805、S806、S807にて演算する。
【符号の説明】
【0057】
11 エンジンコントロールユニット(ECU)
12 燃圧センサ
201 燃料噴射弁
202 弁本体
208 針弁
210 スプリング
212 シート部材
213 シート部
214 ソレノイド
401 噴射信号
402 駆動電流
403 磁気力
404 弁変位
421 閉弁力を制御するための信号
422 閉弁力を制御するため駆動電流
423 閉弁力を制御するため磁気力
424 閉弁力を制御した際の弁変位
S604 燃圧値、燃圧予測値検出工程
S605 駆動電流波形変更要否判断工程
S612 閉弁速度制御用駆動電流最大値Ip2、閉弁速度制御用パルスのパルス幅Ti2演算工程
S613 閉弁速度制御投入時期Tc演算工程
701〜706 制御領域1
S804 燃圧領域演算工程
S808 駆動波形制御追加工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソレノイドを有する燃料噴射弁に通電される駆動電流を制御する制御装置において、
燃料を噴射するための第1の噴射パルス信号が終了した後であって、燃料を噴射するために前記第1の噴射パルス信号に続いて出力される第2の噴射パルス信号の開始前に、前記ソレノイドに駆動電流を通電するための第3のパルス信号を出力すると共に、前記第3のパルスによって前記ソレノイドに流れる駆動電流を燃料圧力の実測値又は予測値に基づいて制御することを特徴とする燃料噴射弁の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料噴射弁の制御装置において、
燃料圧力の実測値又は予測値に基づいて、前記第3のパルスによって前記ソレノイドに流れる駆動電流の最大値又は前記第3のパルスによって前記ソレノイドに流れる駆動電流の有無のうち少なくともいずれか一方を制御するようにしたことを特徴とする燃料噴射弁の制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の燃料噴射弁の制御装置において、
燃料圧力の実測値又は予測値に基づいて、前記第3のパルスのパルス幅を変更することを特徴とする燃料噴射弁の制御装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の燃料噴射弁の制御装置において、
燃料圧力の実測値もしくは予測値のほか、開閉弁のための駆動電流波形、エンジン回転数及び噴射回数に基づいて、前記第3のパルスによって前記ソレノイドに流れる駆動電流の投入タイミングを制御することを特徴とする燃料噴射弁の制御装置。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれか1項に記載の燃料噴射弁の制御装置において、エンジン回転数および燃料圧力が高くなる第1の運転領域においては、前記第3のパルスを出力せず、前記第3のパルスによって前記ソレノイドに流れる駆動電流を流さないように制御することを特徴とする燃料噴射弁の制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の燃料噴射弁の制御装置において、
前記第1の運転領域に対して、エンジン回転数が同等で、燃料圧力が小さい第2の運転領域においては、前記第3のパルスを出力して前記ソレノイドに駆動電流を流すように制御することを特徴とする燃料噴射弁の制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載の燃料噴射弁の制御装置において、
前記第1の運転領域及び前記第2の運転領域に対して、エンジン回転数が同等で、前記第2の運転領域よりもさらに燃料圧力が小さい第3の運転領域においては、前記第3のパルスを出力せず、前記第3のパルスによって前記ソレノイドに流れる駆動電流を流さないように制御することを特徴とする燃料噴射弁の制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載の燃料噴射弁の制御装置において、
前記第3のパルスによって前記ソレノイドに駆動電流を通電する制御を場合に、前記制御を行わない場合に比べて前記第1の噴射パルスのパルス幅を短くすることを特徴とする燃料噴射弁の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−50065(P2013−50065A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188159(P2011−188159)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】