説明

燃料噴射弁

【課題】内燃機関の燃料噴射弁において燃料噴射のために開閉動作するニードル部に対して好適なダンパー作用を付与する燃料噴射弁を提供する。
【解決手段】内燃機関の燃料を噴射する燃料噴孔を有する噴射弁本体と、噴射弁本体の内部に形成され、燃料噴孔に連通する燃料室と、燃料室に燃料を供給する燃料通路と、噴射弁本体の内部をその軸方向に移動可能に配置され、燃料噴孔の開閉を行うニードル部と、を備える燃料噴射弁に、燃料通路と連通するダンパー室であって、ニードル部の燃料噴孔の開閉動作に応じてその容積が変動し、該燃料通路からの燃料を介して該ニードル部に対しダンパー作用を付与するダンパー室と、ダンパー室と燃料通路との間の燃料の移動に対する抵抗を、ニードル部の開閉動作に応じて変更させる流路抵抗可変手段と、を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃料噴射弁に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の燃料噴射弁には、要求された出力を適切に発揮し、また、好適な燃料の燃焼を実現するために、必要とされる燃料を的確に噴射することが求められる。一般に、燃料噴射弁は、その弁本体の内部で燃料噴孔の開閉を行うニードル部が上下移動する構成となっている。このとき、ニードル部が噴孔を閉じる際にその弁座に衝突して発生する反発力で、ニードル部が跳ね上がるバウンスが発生し、余計な燃料噴射を引き起こし、排気状態の悪化が懸念される。一方で、バウンスを抑制すべくニードル部の移動速度をいたずらに遅くすると、適切な燃料噴射の実現が難しくなる。
【0003】
そこで、このバウンスを抑制する技術として、ニードル部の開閉時の速度を落とすことなくバウンスを抑制する技術が開発されている(たとえば、特許文献1を参照)。当該技術では、ニードル部側の突出したショルダー部と弁本体側の拡大孔部とでダンパー室を形成し、そのダンパー室内の流路面積をニードル部の移動方向に沿って変化させる構成が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−22050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
内燃機関の燃料噴射弁は、好適な燃料の燃焼を実現するために、燃料に比較的高い圧力がかけられた状態で燃料噴射を行う。そのため、燃料噴射弁を開弁する際は、燃料噴射弁の内外の圧力差が開弁するためのニードル部に作用するため、閉弁するときと比べて大きな駆動力を要することになる。言い換えれば、燃料噴射弁の開弁時と閉弁時とでは、ニードル部に作用する圧力環境が大きく異なる。したがって、上記の先行技術のようにニードル部と噴射弁本体の間にダンパー機能を有するダンパー室を設けたとしても、そのダンパー機能が単一である場合には、すなわち燃料噴射弁の開弁動作、閉弁動作にかかわらず同じダンパー機能を発揮する構成である場合には、必ずしも適切なダンパー作用をニードル部に付与することができず、ニードル部の動きを好適な状態とすることが難しくなる。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、内燃機関の燃料噴射弁において燃料噴射のために開閉動作するニードル部に対して好適なダンパー作用を付与する燃料噴射弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては、上記課題を解決するために、燃料噴射弁の本体に備えられ、燃料噴孔の開閉を行うニードル部に対してダンパー作用を付与するダンパー室を該本体内に設けるとともに、ダンパー室と燃料通路との間の燃料の流れに対する抵抗を、ニードル部の開閉動作に応じて変更させる構成とした。ダンパー室はその内部に燃料を収容し、その燃料を介してニードル弁にダンパー作用を付与するものであることを踏まえて、そのダンパー室と外部とをつなぐ流路での抵抗を変更させることで、ニードル弁の開弁動作時、閉弁動作時のそれぞれに応じた適切なダンパー作用を、ニードル部に付与することが可能となる。
【0008】
詳細には、本発明は、内燃機関の燃料噴射弁であって、内燃機関の燃料を噴射する燃料噴孔を有する噴射弁本体と、前記噴射弁本体の内部に形成され、前記燃料噴孔に連通する燃料室と、前記燃料室に燃料を供給する燃料通路と、前記噴射弁本体の内部をその軸方向に移動可能に配置され、前記燃料噴孔の開閉を行うニードル部と、前記燃料通路と連通するダンパー室であって、前記ニードル部の前記燃料噴孔の開閉動作に応じてその容積が変動し、該燃料通路からの燃料を介して該ニードル部に対しダンパー作用を付与するダンパー室と、前記ダンパー室と前記燃料通路との間の燃料の移動に対する抵抗を、前記ニードル部の開閉動作に応じて変更させる流路抵抗変更手段と、を備える。
【0009】
本発明に係る燃料噴射弁は、噴射弁本体の内部にニードル部がその軸方向に移動することで、燃料噴孔の開閉動作が行われ、それにより燃料の噴射が実現される。ここで、燃料噴射弁に備えられたダンパー室は、燃料通路と連通することで該通路と燃料の授受が可能となるように構成されている。そのため、ダンパー室に収容される燃料から受ける圧力が、ニードル部に対するダンパー作用として現れることになる。このダンパー作用は、ニードル部の移動速度に応じて該ニードル部に作用するものであるから、特に開閉動作時のニードル部のバウンス抑制に有用である。
【0010】
なお、上記のとおり、内燃機関の燃料噴射弁においては、加圧された燃料が噴射されることから、ニードル弁の開動作時は、その閉動作時と比べて大きな圧力が係る環境下で噴射弁体内部を移動しなければならない。そのため、従来技術に係る燃料噴射弁のようにダンパー室のダンパー作用が単一的である場合には、そのダンパー作用を圧力環境の異なる開動作時と閉動作時の両方に好適に合わせることは困難とされる。しかし、本発明に係る燃料噴射弁では、流路抵抗変更手段を備えることで、ダンパー室と燃料通路との間で行われる燃料の授受、移動に対する抵抗を、ニードル部の開閉動作に応じて変更させることが可能となる。すなわち、本発明によれば、流路抵抗変更手段が上記抵抗を変更することで、ニードル部が開動作を行っているときと、閉動作を行っているときのそれぞれで、各動作に適した流路抵抗を設定し、ダンパー室のダンパー作用を多様化させることが可能となる。その結果、燃料噴射のためのニードル部の好適な移動速度と、該ニードル部のバウンス抑制とを両立することが可能となる。
【0011】
ここで、上記の燃料噴射弁において、前記ニードル部が前記燃料噴孔の開動作を行うとき前記ダンパー室の容積は増大し、該ニードル部が該燃料噴孔の閉動作を行うとき該ダンパー室の容積は減少するように形成され、そして、前記ニードル部が前記燃料噴孔の閉動作を行うとき、前記流路抵抗変更手段は、該ニードル部が該燃料噴孔の開動作を行うときと比べて、前記燃料通路と前記ダンパー室との間の抵抗を低下させるようにしてもよい。すなわち、ニードル部が燃料噴孔の閉動作を行うときダンパー室の容積が減少するように形成されることで、ダンパー室内の燃料によって効果的なダンパー作用がニードル部に及ぼされ、以て、閉動作時のバウンスを効果的に抑制し得る。そして、このような構成において、閉動作時に燃料通路とダンパー室間の抵抗が低下されることから、閉動作時のニードル部の移動速度がいたずらに低下するのを回避することが可能となる。この点は、単位時間当たりに高頻度で燃料噴射を行う必要のある燃料噴射弁において、極めて重要な事項であり、高性能な燃料噴射とバウンス抑制の両立を図ることが可能となる。
【0012】
ここで、上記の燃料噴射弁において、前記流路抵抗変更手段は、前記燃料通路と前記ダンパー室とをオリフィス通路で連通するオリフィス部を、該燃料通路と該ダンパー室との間に複数並行して備えてもよい。この場合、前記ニードル部が前記燃料噴孔の閉動作を行うとき、前記流路抵抗変更手段は、該ニードル部が該燃料噴孔の開動作を行うときと比べて、前記複数のオリフィス部のうち燃料が流通可能となる有効オリフィス部の数を増加させることで、前記燃料通路と前記ダンパー室との間の抵抗を低下させる。ここで言う有効
オリフィス部とは、ダンパー室と燃料通路との間を燃料が流通可能な状態とすることでニードル部に対してダンパー作用を付与することが可能なオリフィス部を指す。このように複数のオリフィス部のうち有効オリフィス部の数を、ニードル部の開動作時と閉動作時とで異ならしめることで、それぞれの動作に適したダンパー作用の形成が可能となる。
【0013】
また、上記の燃料噴射弁において、前記流路抵抗変更手段は、前記複数のオリフィス部の一部に対して、該オリフィス部が有するオリフィス通路を付勢手段によって塞ぐように付勢された閉塞部材を有してもよい。この場合、前記ニードル部が前記燃料噴孔の閉動作を行うときは、前記ダンパー室と前記燃料通路内の燃料の圧力差によって前記付勢手段の付勢力に抗して前記閉塞部材による前記オリフィス通路の閉塞状態が解消され、前記ニードル部が前記燃料噴孔の開動作を行うときは、前記付勢手段の付勢力によって前記閉塞部材による前記オリフィス通路の閉塞状態が維持される。すなわち、付勢手段と閉塞部材を用いて付勢手段による付勢力とダンパー室と燃料通路内の燃料の圧力差によって生じる力とのバランスを利用することで、ニードル部の開閉動作に応じて、オリフィス通路の閉塞状態を機械的に切り替えることが可能となる。このような機械的な切替動作を行う構成は、高頻度でニードル弁の開閉動作を行う燃料噴射弁において確実なダンパー作用の切替を実現するためにも有用な構成と考えられる。
【0014】
ここで、上述までの燃料噴射弁において、前記ニードル部は、前記燃料噴孔側のノズル部と、該ノズル部と分離して構成され前記ダンパー室からダンパー作用を受けるピストン部とを有し、更に、前記ノズル部と前記ピストン部は、前記ニードル部の移動方向に沿って両部の端部間に所定距離の空隙が存在するように遊嵌された状態で連結手段によって連結されている構成を採用してもよい。このような構成により、特にニードル部が閉動作を行う際に燃料噴孔を有する噴射弁本体側との接触によって受ける反発力で、先ず燃料噴孔から離れた方に位置するピストン部が反発させることが可能となる。このピストン部は、連結手段による連結部位での上記所定距離分だけ、ノズル部から離れることが可能であるから、少なくともこの所定距離分の反発分はピストン部が反発力を吸収する結果となり、燃料噴孔側に位置するノズル部の反発量を可及的に抑制することができる。もちろん、ノズル部とピストン部が遊嵌されているとはいえ連結手段による連結状態がある限り、ニードル部としての一体性は失われず、ニードル部の移動による燃料噴射の実現には支障はない。
【0015】
なお、上記燃料噴射弁において、前記ピストン部を、前記ノズル部より重く形成することで、該ピストン部の慣性力を該ノズル部より大きくすることができ、以てピストン部による反発力の吸収度合いを高めることが可能となる。この結果、ニードル部の閉動作時のバウンスを効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、内燃機関の燃料噴射弁において燃料噴射のために開閉動作するニードル部に対して好適なダンパー作用を付与する燃料噴射弁を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例に係る燃料噴射弁の概略構成を示す図である。
【図2】図1に示す燃料噴射弁のニードル部を構成するコマンドピストンとノズルニードルを連結するコネクタの概略構成図およびその連結部位近傍の拡大図である。
【図3】図1に示す燃料噴射弁における開閉動作時の、ダンパー室および燃料通路近傍の状態を示す図である。
【図4】図1に示す燃料噴射弁での開閉動作時のコマンドピストンのリフト量の時間推移を示す図である。
【図5】図2に示す連結部位を有する燃料噴射弁と参考例に係る燃料噴射弁での開閉動作時のコマンドピストンのリフト量、ノズルニードルのリフト量、噴射率の時間推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る燃料噴射弁の具体的な実施態様について図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0019】
図1は、本発明の実施例に係る燃料噴射弁1の概略構成を示す図である。燃料噴射弁1は内燃機関に搭載され、燃焼室での燃焼に供される燃料を噴射する。ここで、燃料噴射弁1の本体は、第一ボデーB1、第二ボデーB2、第三ボデーB3、第四ボデーB4を含んで形成され、各ボデーB1−B4は図示されない締結手段によって締結されている。まず、第一ボデーB1においては、燃料噴射弁1のニードル部を構成するノズルニードル10が、第一ボデーB1の中央部に軸方向に延在する中空部分に挿入されており、その中空部分と第一ボデーB1との間にできる間隙によって燃料通路13が形成される。燃料通路13は、その近位端側(燃料噴射弁1の先端部側)で第一ボデーB1のシート部11に設けられた燃料噴孔12とつながる。また、燃料通路13の遠位端側には上記中空部分が部分的に拡径されて形成された燃料溜り14が設けられている。この燃料溜り14には、燃料通路15が接続され、該燃料通路15には後述する燃料通路16、36が接続されることで、燃料入口17からの加圧された燃料の供給を受ける。
【0020】
このような構成によりノズルニードル10がシート部11に着座しているときは燃料噴孔12が塞がれることで、加圧された燃料が燃料通路13や燃料溜り14等に封入され、後述する磁気回路60の作動によりノズルニードル10が上昇すると封入されていた燃料が燃料噴孔12から噴出される。なお、本明細書における「上昇」、「下降」の記載は、図1に示す状態でのニードル部(ノズルニードル10と後述するコマンドピストン30で構成される)の方向に基づいた移動動作を表現するものであり、絶対的な方向への移動を「上昇」、「下降」と記載しているのではない。また、本明細書における「遠位」、「近位」の表現についても同様に、図1に示す状態において、燃料噴射弁の噴孔側を「近位」、後述する磁気回路側を「遠位」と相対的に記載しているものである。
【0021】
ここで、第一ボデーB1の遠位端側であって第二ボデーB2に隣接する部位に第一スプリング室20が設けられており、そこには、その中央に位置するノズルニードル10側に設けられたプレート23に一端が固定され、第一ボデーB1側に設けられたストッパ21にもう一端が固定された第一スプリング22が配置されている。この構成により、ノズルニードル10は、プレート23を介して第一スプリング22からシート部11方向への付勢力を受けている。
【0022】
次に、第二ボデーB2にはその中央に貫通部25が設けられ、貫通部25では、上記ノズルニードル10と、該ノズルニードル10とは別体で形成され燃料噴射弁1のニードル部を構成するコマンドピストン30とがコネクタ33によって連結されている。図2(b)に示すように、ノズルニードル10の遠位端側はフランジ10aと首部10bによってくびれた形状となっており、同様にコマンドピストン30の近位端側もフランジ30aと首部30bによってくびれた形状となっている。そして、コネクタ33は、図2(a)に示すように、ノズルニードル10の首部10bがスライドして嵌まり込む溝33bと、コマンドピストン30の首部30bがスライドして嵌まり込む溝33aが設けられており、各溝に各首部が嵌め込まれることで、図2(b)、図2(c)に示す連結状態が形成される。
【0023】
この連結状態において、ノズルニードル10のフランジ10aとコマンドピストン30のフランジ30aは常時接触している状態とはならず、図2(b)に示すように最大で所
定距離を有するギャップ(間隙)が形成され、且つ両フランジ間の距離はニードル部の上昇、下降による開閉動作に応じて変更可能となるように遊嵌された状態となっている。そして、図2(b)は、ノズルニードル10のフランジ10aとコマンドピストン30のフランジ30aのギャップが最大となる状態を示しており、図2(c)は、ノズルニードル10のフランジ10aとコマンドピストン30のフランジ30aが接触した状態を示している。なお、このコネクタ33によるノズルニードル10とコマンドピストン30の連結の詳細については後述する。
【0024】
また、第二ボデーB2には、上記燃料通路16が設けられている。
【0025】
次に、第三ボデーB3には、その中央にコマンドピストン30が嵌めこまれ、またその近位端側に第二ボデーB2の貫通部25とつながる第二スプリング室34が設けられている。第二スプリング室34には、一端がコネクタ33側に接続され、もう一端が第三ボデーB3側に接続された第二スプリング35が配置されている。この構成により、コマンドピストン30は、第二スプリング35からシート部11方向への付勢力を受けている。更には、コネクタ33による連結状態が図2(c)に示すようにフランジ10aとフランジ30aが接触している場合には、ノズルニードル10も、第二スプリング35からシート部11方向への付勢力を受ける。なお、上述した第一スプリング室20と第二スプリング室34は燃料通路36につながっており、燃料噴射弁1の作動時には燃料で満たされることになる。
【0026】
更に、第三ボデーB3の遠位端側には窪んだ空間として形成される環状部41が設けられ、そこにコマンドピストン30の遠位端側が拡径された円板部40が嵌まり込むことで、環状部41と円板部40により閉空間としてのダンパー室42が形成される。このダンパー室42の容積は、磁気回路60の駆動でコマンドピストン30が上昇、下降することで、変動する構成となっている。また、ダンパー室42の下部には第一オリフィス通路43を有する第一オリフィスブロック44が設けられ、ダンパー室42は燃料通路45を経て燃料通路36へと接続されている。この構成により、第一オリフィスブロック44が、燃料通路45を介したダンパー室42と燃料通路36との間の燃料の授受を計量する。更に、ダンパー室42の下部には第二オリフィス通路46を有する第二オリフィスブロック47が設けられ、ダンパー室42は燃料通路51を経て燃料通路36へと接続されている。ここで、第二オリフィスブロック47の下部空間(第二オリフィス通路46と燃料通路51との接続部位近傍の空間)50には、第三スプリング49によって第二オリフィスブロック47側に付勢された弁プレート48が設けられている。この構成により、第二オリフィスブロック47が、燃料通路51を介したダンパー室42と燃料通路36との間の燃料の授受を計量するとともに、弁プレート48は、第二オリフィスブロック47に計量されたダンパー室42から燃料通路51を介しての燃料通路36への燃料の移動を許可し、その逆方向の燃料の移動を遮る。
【0027】
また、第三ボデーB3の環状部41の縁部には、該環状部41に突出するようにストッパプレート52が設けられている。このストッパプレート52には、コマンドピストン30の円板部40が干渉し、コマンドピストン30の上昇量が規制され、ダンパー室42の最大容積が画定されるとともに、コマンドピストン30に連結されるノズルニードルの上昇量も規制されることになる。
【0028】
次に、第四ボデーB4には、磁気回路60が収容されている。磁気回路60はコマンドピストン30に締結されたアマーチャ61と、固定リング66によって第四ボデーB4側に固定された内部ステータ62、外周ステータ63、ボビン64、コイル65から構成され、図示しない外部駆動電源からの電力供給によりコイル65が通電されることで、アマーチャ61が内部ステータ62に吸引され、アマーチャ61に締結されたコマンドピスト
ン30、コネクタ33を介して、ノズルニードル10へ上昇力が伝達される。また、第四ボデーB4は磁気回路60からの磁束の漏れを低減し、該磁気回路の性能を高めるために、非磁性体材料で形成されるのが好ましい。そして、第四ボデーB4の内部の、磁気回路60の下部には空間67が設けられ、図示しない燃料通路を介して燃料入口17と連通している。
【0029】
ここで、燃料噴射弁1のニードル部を構成するコマンドピストン30の上昇、下降動作について、図3に基づいて説明する。図3(a)はコマンドピストン30が上昇している際の、ダンパー室42近傍の状態を示す図である。磁気回路60の駆動によりコマンドピストン30が上昇し、その結果、円板部40が上昇することでダンパー室42の容積も増加していく過程にある。このようにダンパー室42の容積が増加すると、その内部の圧力は低下するため、ダンパー室42内と燃料通路51や下部空間50内の圧力差によって、弁プレート48が第三スプリング49の付勢力も相まって第二オリフィス通路46を塞いだ状態が維持される。この結果、コマンドピストン30の上昇時には、ダンパー室42と燃料通路36等の外部との燃料の流れは、第一オリフィスブロック44のみによって計量されることになる。
【0030】
一方で、図3(b)はコマンドピストン30が下降している際の、ダンパー室42近傍の状態を示す図である。磁気回路60による励磁磁界が解消すると第一スプリング22および第二スプリング35の付勢力により、コマンドピストン30は下降し、その結果、円板部40が下降することでダンパー室42の容積が減少していく過程にある。このようにダンパー室42の容積が減少すると、その内部の圧力が増加し燃料通路51や下部空間50内の圧力よりも高くなるため、弁プレート48が第三スプリング49の付勢力に抗して開いた状態となる。この結果、コマンドピストン30の下降時には、ダンパー室42と燃料通路36等の外部との燃料の流れは、第一オリフィスブロック44と第二オリフィスブロック47の両者によって計量されることになる。
【0031】
このように構成されるダンパー室42を有する燃料噴射弁1では、コマンドピストン30が上昇している際は、その際に生じる上述したダンパー室42周辺の圧力環境に適した燃料通路36からダンパー室42への燃料の流れに対する抵抗を形成するために第一オリフィスブロック44を調整すればよい。すなわち、ダンパー室42の容積増加に伴うダンパー室42と燃料通路36との圧力差の変動を、上昇時のニードル部のバウンス抑制や移動速度の観点から第一オリフィス通路43のオリフィス面積等を調整すればよい。一方で、コマンドピストン30が下降している際は、その際に生じる上述したダンパー室42周辺の圧力環境に適したダンパー室42から燃料通路36への燃料の流れに対する抵抗を形成するために主に第二オリフィスブロック47を調整すればよい。すなわち、ダンパー室42の容積減少に伴うダンパー室42と燃料通路36との圧力差の変動を、下降時のニードル部のバウンス抑制や移動速度の観点から、第一オリフィス通路43のオリフィス面積等を踏まえて第二オリフィス通路46のオリフィス面積等を調整すればよい。
【0032】
一般に、内燃機関のように加圧された燃料を噴射する燃料噴射弁では、その内部に高圧の燃料を封止した状態からニードル部が上昇(開動作)することで、燃料噴孔からの燃料噴射が行われる。そのため、ニードル部の上昇時には、スプリング等の付勢力に抗する力、シート部の面積に燃料圧力と燃料噴射弁の外部圧力の圧力差を乗じて算出される力、およびニードル部自体を加速させるための力の総和を、磁気回路が発揮する必要がある。この開動作のための力の総和を「開弁力」という。一方で、ニードル部の下降時には、基本的には、スプリング等の付勢力によって下降(閉動作)が行われる。この閉動作のための力の総和を「閉弁力」という。このように、開弁力と閉弁力には大きな差があるため、何れかの力を基準にしてダンパー室内とその外部との間の燃料の流れの抵抗を決定すると、他方の力が作用してニードル部を作動させるときにダンパー作用が弱すぎてバウンスを適
切に抑制することができなくなったり、いたずらにダンパー作用が強くなりニードル部の移動速度の低下につながったりする。
【0033】
しかし、上記のとおり、本発明に係る燃料噴射弁1では、ニードル部の閉動作時と開動作時とのそれぞれに応じて第一オリフィス通路43のオリフィス面積等や第二オリフィス通路46のオリフィス面積等を調整できることから、燃料噴射弁全体として好適な動作を実現可能とするものである。ここで、図4(a)には、本発明に係る燃料噴射弁1におけるコマンドピストンのリフト量の推移を示し、図4(b)には、従来技術に係る燃料噴射弁におけるコマンドピストンのリフト量の推移を示す。これらの場合の閉弁力は開弁力の1/4という条件であり、また、本発明に係る燃料噴射弁1では、閉弁時のオリフィス面積(合計)は開弁時のオリフィス面積の2倍であり(すなわち、第一オリフィス通路43のオリフィス面積=第二オリフィス通路46のオリフィス面積)、従来技術に係る燃料噴射弁では、図1に示す燃料噴射弁においてダンパー室42と燃料通路36との間に第一オリフィス通路43のみが配置されている構成(すなわち、閉弁時のオリフィス面積と開弁時のオリフィス面積は変わらない構成)となっている。
【0034】
図4(b)に示すように、従来技術に係る燃料噴射弁では、閉弁力が弱まる下降時にコマンドピストンの速度(リフト量の傾き)が上昇時の半分程度に低下し、速やかな閉弁動作が阻害されている。一方で、図4(a)に示すように、本発明に係る燃料噴射弁1では、閉弁力が弱まる下降時であってもコマンドピストンの速度を上昇時と同程度にできるため、速やかな閉動作が担保されている。このように本発明に係る燃料噴射弁1では、閉動作時と開動作時のそれぞれに適した、ダンパー室42と燃料通路36との間の燃料抵抗を調整できることから、各動作に適したダンパー作用の付与が実現される。
【0035】
ここで、上記図2に示したように、燃料噴射弁1のニードル部は、ノズルニードル10とコマンドピストン30で構成され、両者は、コネクタ33によって最大で所定距離のギャップを有した状態で連結されている。そして、ノズルニードル10は、コマンドピストン30と比べて軽量に形成されている。このように構成されるニードル部を有する燃料噴射弁1で、ニードル部の閉動作が行われた場合、コネクタ33内では、ノズルニードル10のフランジ10aとコマンドピストン30のフランジ30aが接触した状態で下降し、ノズルニードル10の先端側がシート部11と衝突する。このとき、慣性力の違いから、重量の重いコマンドピストン30の方が先に、反発力によりバウンスする。コマンドピストン30とノズルニードル10とは分離した個別の構造体であることから、当初コマンドピストン30がバウンスしている間は、ノズルニードル10は燃料圧力や第一スプリング22の付勢力等によってシート部11に接触した状態とされる。この状態は、コネクタ33内で設定された上記の所定距離のギャップ分だけコマンドピストン30がノズルニードル10から離れるまで維持される。そのため、好ましくは、ギャップに関する所定距離は、想定されるコマンドピストン30のバウンスの大きさ以上に設定される。その値は、燃料噴射弁1の具体的な構成や、要求される燃料噴射の具体的な態様に応じて変化するが、例えば、20〜50μmの大きさのギャップが挙げられる。
【0036】
ここで、図5(a)に、本発明に係る燃料噴射弁1(上記ギャップを有する形態)におけるコマンドピストンのリフト量、ノズルニードルのリフト量、噴射率の推移を示し、図5(b)には、従来技術に係る燃料噴射弁(本発明のようでニードル部が分離された構成ではなく、一体的に構成されているもの、すなわちギャップの存在が無い構成)におけるコマンドピストンのリフト量、ノズルニードルのリフト量、噴射率の推移を示す。図5からも明らかなように、本発明のようにニードル部にギャップを備えることで、閉弁時のノズルニードルのバウンスを抑制でき、以て二次噴射の発生を確実に回避することができる。
【符号の説明】
【0037】
1・・・・燃料噴射弁
10・・・・ノズルニードル
11・・・・シート部
12・・・・燃料噴孔
13、15、16、36、45、51・・・・燃料通路
20・・・・第一スプリング室
22・・・・第一スプリング
30・・・・コマンドピストン
33・・・・コネクタ
40・・・・円板部
41・・・・環状部
42・・・・ダンパー室
43・・・・第一オリフィス通路
44・・・・第一オリフィスブロック
46・・・・第二オリフィス通路
47・・・・第二オリフィスブロック
48・・・・弁プレート
49・・・・第三スプリング
60・・・・磁気回路
B1・・・・第一ボデー
B2・・・・第二ボデー
B3・・・・第三ボデー
B4・・・・第四ボデー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の燃料を噴射する燃料噴孔を有する噴射弁本体と、
前記噴射弁本体の内部に形成され、前記燃料噴孔に連通する燃料室と、
前記燃料室に燃料を供給する燃料通路と、
前記噴射弁本体の内部をその軸方向に移動可能に配置され、前記燃料噴孔の開閉を行うニードル部と、
前記燃料通路と連通するダンパー室であって、前記ニードル部の前記燃料噴孔の開閉動作に応じてその容積が変動し、該燃料通路からの燃料を介して該ニードル部に対しダンパー作用を付与するダンパー室と、
前記ダンパー室と前記燃料通路との間の燃料の移動に対する抵抗を、前記ニードル部の開閉動作に応じて変更させる流路抵抗変更手段と、
を備える燃料噴射弁。
【請求項2】
前記ニードル部が前記燃料噴孔の開動作を行うとき前記ダンパー室の容積は増大し、該ニードル部が該燃料噴孔の閉動作を行うとき該ダンパー室の容積は減少し、
前記ニードル部が前記燃料噴孔の閉動作を行うとき、前記流路抵抗変更手段は、該ニードル部が該燃料噴孔の開動作を行うときと比べて、前記燃料通路と前記ダンパー室との間の抵抗を低下させる、
請求項1に記載の燃料噴射弁。
【請求項3】
前記流路抵抗変更手段は、前記燃料通路と前記ダンパー室とをオリフィス通路で連通するオリフィス部を、該燃料通路と該ダンパー室との間に複数並行して備え、
前記ニードル部が前記燃料噴孔の閉動作を行うとき、前記流路抵抗変更手段は、該ニードル部が該燃料噴孔の開動作を行うときと比べて、前記複数のオリフィス部のうち燃料が流通可能となる有効オリフィス部の数を増加させることで、前記燃料通路と前記ダンパー室との間の抵抗を低下させる、
請求項2に記載の燃料噴射弁。
【請求項4】
前記流路抵抗変更手段は、前記複数のオリフィス部の一部に対して、該オリフィス部が有するオリフィス通路を付勢手段によって塞ぐように付勢された閉塞部材を有し、
前記ニードル部が前記燃料噴孔の閉動作を行うときは、前記ダンパー室と前記燃料通路内の燃料の圧力差によって前記付勢手段の付勢力に抗して前記閉塞部材による前記オリフィス通路の閉塞状態が解消され、
前記ニードル部が前記燃料噴孔の開動作を行うときは、前記付勢手段の付勢力によって前記閉塞部材による前記オリフィス通路の閉塞状態が維持される、
請求項3に記載の燃料噴射弁。
【請求項5】
前記ニードル部は、前記燃料噴孔側のノズル部と、該ノズル部と分離して構成され前記ダンパー室からダンパー作用を受けるピストン部とを有し、
前記ノズル部と前記ピストン部は、前記ニードル部の移動方向に沿って両部の端部間に所定距離の空隙が存在するように遊嵌された状態で連結手段によって連結されている、
請求項1から請求項4の何れか一項に記載の燃料噴射弁。
【請求項6】
前記ピストン部は、前記ノズル部より重く形成される、
請求項5に記載の燃料噴射弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−197739(P2012−197739A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63105(P2011−63105)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】