説明

燃料電池車の車体構造

【課題】車両正面が障害物に接触(衝突)したときに、変形してくる車体側とスタックとの干渉を抑制し、車幅の小さい小型車でも大きなスタックを搭載した燃料電池車の車体構造を提供する。
【解決手段】燃料電池車11の車体構造12では、水素と酸素で電気を発生させるスタック16はフレーム枠体に収納された状態でセンタトンネル15内に配置されている。センタトンネル15は、運転席座席13と助手席座席14との間に設けられている中央部の幅に比べ、幅が運転席座席13及び助手席座席14より前方で拡幅し、フレーム枠体は、センタトンネル15に沿っている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料の水素と酸素によって電気を発生させるスタックをセンタトンネル内に搭載しながら、車幅をより一層小型とした燃料電池車の車体構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池車の車体構造には、燃料の水素と酸素で電気を発生させる燃料電池スタックをセンタトンネル内に配置することで車室外に搭載し、且つ、運転席座席と助手席座席との間に燃料電池スタックを配置することで、車両正面に入力されることも考えられる衝撃から燃料電池スタックを保護しているものがある(例えば、特許文献1(図6、図7)参照)。
【0003】
しかし、従来技術(特許文献1)では、燃料電池スタックを保護するには、燃料電池スタックを運転席座席と助手席座席の間に配置する必要があり、結果的に、燃料電池車の車幅の制約が大きくなり、より小型の燃料電池スタック(以降、スタックと呼称する。)を搭載するのは困難であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−15590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、車両正面に荷重(衝撃)が入力されたときに、変形してくる車体側とスタックとの干渉を抑制し、車幅の小さい小型車でも大きなスタックを搭載し、スタックを搭載したフレーム枠体に生じる衝撃を吸収する燃料電池車の車体構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、請求項1に係る発明は、運転席座席と助手席座席の間に設けられたセンタトンネル内に水素と酸素で電気を発生させるスタックを配置した燃料電池車の車体構造において、スタックは、車両前方へ向けたエンドパネルを有するフレーム枠体に収納された状態でセンタトンネル内に配置されているとともに、運転席座席及び助手席座席より前側に配置されていることを特徴とする。
【0007】
請求項2に係る発明では、センタトンネルは、運転席座席と助手席座席との間に設けられている中央部の幅に比べ、幅が運転席座席及び助手席座席より前方で拡幅し、フレーム枠体は、センタトンネルに沿っていることを特徴とする。
【0008】
請求項3に係る発明では、運転席座席及び助手席座席は、それぞれ車両前後に移動させるスライド装置を有し、センタトンネルは、運転席座席及び助手席座席の前進限位置より前で拡幅していることを特徴とする。
【0009】
請求項4に係る発明では、センタトンネルは、運転席座席及び助手席座席に対向しているダッシュボードロアに連なるトンネル前口部を、ダッシュボードロアの延長部で封じていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明では、スタックは、車両前方へ向けたエンドパネルを有するフレーム枠体に収納された状態でセンタトンネル内に配置されているとともに、運転席座席及び助手席座席より前側に配置されているので、車両正面が障害物に接触(衝突)して、車両正面の後に配置されて前輪を駆動する電動モータやその他の装置がセンタトンネルへ向かって後退した場合、スタックとの間を仕切るエンドパネルに荷重が伝達されるため、フレーム枠体は、変形せずにスタックを収納したまま車両後方へ移動する。従って、変形してくる車体側とスタックとの干渉を抑制することができる。
【0011】
請求項2に係る発明では、センタトンネルは、運転席座席と助手席座席との間に設けられている中央部の幅に比べ、幅が運転席座席及び助手席座席より前方で拡幅し、フレーム枠体は、センタトンネルに沿っているので、車幅の小さい小型車でも、前方の拡幅によって大きなスタックを搭載することができる。
【0012】
また、正面衝突の荷重(衝撃)を伝達されたフレーム枠体が車両後方へ後退を始めると、フレーム枠体に含まれセンタトンネルに沿って幅を変化させている第1枠幅変化部がセンタトンネルの幅が変化している部位を押し広げつつ後退する。従って、フレーム枠体に生じる衝撃を吸収することができる。
【0013】
請求項3に係る発明では、運転席座席及び助手席座席は、それぞれ車両前後に移動させるスライド装置を有し、センタトンネルは、運転席座席及び助手席座席の前進限位置より前で拡幅しているので、センタトンネルを拡幅させても、運転席座席及び助手席座席をスライドさせることができる。
【0014】
請求項4に係る発明では、センタトンネルは、運転席座席及び助手席座席に対向しているダッシュボードロアに連なるトンネル前口部を、ダッシュボードロアの延長部で封じているので、車体剛性等の理由でセンタトンネルのトンネル前口部を閉じる専用の部材を造る必要がなく、燃料電池車の車体構造は容易になるという利点がある。
つまり、燃料電池車の生産コストを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例に係る燃料電池車の車体構造の概要を示す側面図である。
【図2】本発明の実施例に係る燃料電池車の車体構造の概要を示す平面図である。
【図3】実施例に係る燃料電池車の車体構造が備えるセンタトンネル及びダッシュボードパネルの斜視図である。
【図4】実施例に係る燃料電池車の車体構造が備えるフレーム枠体と中央サブフレームとの関係を示す平面図である。
【図5】実施例に係る燃料電池車の車体構造が備えるフレーム枠体の斜視図である。
【図6】実施例に係る燃料電池車の車体構造のスタックへの干渉を抑制する機構を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、実施例で詳細に説明する。
【実施例】
【0017】
実施例に係る燃料電池車11の車体構造12は、図1、図2に示すように、運転席座席13と助手席座席14の間に設けられたセンタトンネル15内に水素と酸素で電気を発生させるスタック16を、運転席座席13と助手席座席14より前に配置し、車幅の小型化を図っている。以降で具体的に説明していく。
【0018】
燃料電池車11は、車室21と、車室21の床をなすアンダボデー22と、アンダボデー22に固定した運転席座席13と、助手席座席14と、アンダボデー22の後部に配置している水素用高圧タンク23と、アンダボデー22に下方から取付けられている中央サブフレーム24と、フロントボデー26と、フロントボデー26のフロントサイドフレーム27に下方から取付けられている前サブフレーム28と、フロントボデー26との隔壁をなしアンダボデー22に含まれるダッシュボードパネル31と、サイドボデー32と、前輪33、前輪33を操舵する操舵装置34と、を備える。
【0019】
燃料電池車11はまた、フロントボデー26内に配置され冷却系に含まれる熱交換器36と、フロントボデー26内で前輪33とダッシュボードパネル31との間に配置されている前輪33駆動用の電動モータ37と、電動モータ37とダッシュボードパネル31との間に配置され操舵装置34に含まれるステアリングギヤボックス38と、を備え、ステアリングギヤボックス38や電動モータ37を前サブフレーム28に載置し、スタック16やスタック補助装置41を中央サブフレーム24に載置して、燃料電池車11の車体構造12を含んでいる。
【0020】
次に、燃料電池車11の車体構造12を主体に説明する。
燃料電池車11の車体構造12は、図1〜図5に示しているように、運転席座席13と助手席座席14の間に設けられたセンタトンネル15内に水素と酸素で電気を発生させるスタック16を配置し、スタック16は、車両前方へ向けたエンドパネル44を有するフレーム枠体45に収納された状態でセンタトンネル15内に配置されているとともに、運転席座席13及び助手席座席14より前側に配置されている。
【0021】
センタトンネル15は、運転席座席13と助手席座席14との間に設けられている中央部(幅狭部47)の幅に比べ、幅が運転席座席13及び助手席座席14より前方で拡幅した幅広部48を形成し、フレーム枠体45は、センタトンネル15に沿っている。
センタトンネル15はまた、アンダボデー22のフロアパネル51(図3)に連なる幅広部48と、トンネル幅変化部52と、幅狭部47と、を備えている。
【0022】
運転席座席13及び助手席座席14はそれぞれ車両前後に移動させるスライド装置54を有し、センタトンネル15は、運転席座席13及び助手席座席14の前進限位置Eより前で拡幅している。
言い換えると、幅広部48は運転席座席13及び助手席座席14の前進限位置Eより前で拡幅している。
【0023】
センタトンネル15は、運転席座席13及び助手席座席14に対向しているダッシュボードロア55に連なるトンネル前口部56を、ダッシュボードロア55の延長部57(図3)で封じている。
【0024】
運転席座席13は、アンダボデー22に取付けられたスライド装置54で前に前進限位置Eまで移動させることができる。
スライド装置54は既存の構成であり、操作、機構については省略する。
助手席座席14は運転席座席13とほぼ同様で、前進限位置Eまで移動させることができる。
【0025】
センタトンネル15は、前述したが、図2、図3に示すように、アンダボデー22のフロアパネル51に連なり且つ、ダッシュボードパネル31のダッシュボードロア55に幅広部48の前縁をなすトンネル前口部56を接合している。ダッシュボードロア55は、センタトンネル15が位置する中央にアーチ状の切り欠いた部位がないもので、つまり、中央に一体に延長部57が形成されてトンネル前口部56を封じている。
【0026】
幅広部48は、車幅方向を幅としたときに、フレーム枠体45の幅より大きく、フレーム枠体45との間に所望の小さな隙間を設けている。
【0027】
幅狭部47は、幅広部48の幅に比べ、幅を小さくして、運転席座席13と助手席座席14の間に形成され、且つ、後席64の直前まで延びている。
トンネル幅変化部52は、前進限位置Eの運転席座席13と助手席座席14の角部に沿って形成されているとともに、スタック16の長手方向に対して傾斜角α(図2)で漸減させている。逆に表現すると、幅狭部47に対し、傾斜角α(図2)で漸増させている。
【0028】
フレーム枠体45は、図5に示したベースフレーム66が井桁状に形成され、ベースフレーム66の前部67にスタック16の角に沿って第1枠本体68が形成され、ベースフレーム66の後部71にスタック補助装置41に近接させて第2枠本体72が形成され、第1枠本体68にエンドパネル44が設けられている。
【0029】
第2枠本体72は、第1枠本体68の幅に比べ幅が狭く、第1枠本体68に第1枠幅変化部74を介して接合し、ベースフレーム66には第2枠幅変化部75を介して接合している。
【0030】
エンドパネル44は、ダッシュボードロア55の近傍に配置されているとともに、スタック16の正面近傍に設けられ、スタック16の正面77より大きい板である。すなわち、スタック16の正面77とダッシュボードロア55との間を仕切る板で、強度を高めた。
【0031】
次に、本発明の実施例に係る燃料電池車11の車体構造12の作用を主に図6で説明する。
燃料電池車11では、車両正面が障害物Sに接触(衝突)して、ダッシュボードパネル31が変形すると、ダッシュボードパネル31はフレーム枠体45に衝撃を入力し、入力されたフレーム枠体45は形状を保ったまま車両後方へ矢印a1のように移動するので、ダッシュボードパネル31とスタック16との干渉や、フレーム枠体45とスタック16との干渉を抑制することができる。
【0032】
具体的には、車両正面に荷重が入力され、フロントボデー26が変形し始めると、フロントボデー26のフロントサイドフレーム27に支持している前サブフレーム28が変形することで衝撃を吸収しつつ、載せている電動モータ37やステアリングギヤボックス38などフロントボデー26内の装置とともに前サブフレーム28が矢印a2のように車両後方へ向かって後退する。そして、電動モータ37などの装置類がダッシュボードパネル31(ダッシュボードロア55を含む)に達して、ダッシュボードパネル31(ダッシュボードロア55を含む)を車室21内方へ向け変形させると、ダッシュボードパネル31(ダッシュボードロア55を含む)はフレーム枠体45に荷重を入力する。つまり、フレーム枠体45を押す。フレーム枠体45はエンドパネル44でダッシュボードパネル31(ダッシュボードロア55を含む)を受けるので、ダッシュボードパネル31とスタック16とは干渉しない。続けて、フレーム枠体45は形状を保持した状態でセンタトンネル15内を車両後方へ向かって移動し始める。従って、スタック16との干渉を抑制することができる。
【0033】
尚、本発明の燃料電池車の車体構造は、実施の形態では燃料電池車に採用されているが、燃料電池車以外にも採用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の燃料電池車の車体構造は、小型の燃料電池車に好適である。
【符号の説明】
【0035】
11…燃料電池車、12…燃料電池車の車体構造、13…運転席座席、14…助手席座席、15…センタトンネル、16…スタック、44…エンドパネル、45…フレーム枠体、47…中央部(幅狭部)、48…幅広部、54…スライド装置、55…ダッシュボードロア、56…トンネル前口部、57…延長部、E…前進限位置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転席座席と助手席座席の間に設けられたセンタトンネル内に水素と酸素で電気を発生させるスタックを配置した燃料電池車の車体構造において、
前記スタックは、車両前方へ向けたエンドパネルを有するフレーム枠体に収納された状態で前記センタトンネル内に配置されているとともに、前記運転席座席及び前記助手席座席より前側に配置されていることを特徴とする燃料電池車の車体構造。
【請求項2】
前記センタトンネルは、前記運転席座席と前記助手席座席との間に設けられている中央部の幅に比べ、幅が前記運転席座席及び前記助手席座席より前方で拡幅し、
前記フレーム枠体は、前記センタトンネルに沿っていることを特徴とする請求項1記載の燃料電池車の車体構造。
【請求項3】
前記運転席座席及び前記助手席座席は、それぞれ車両前後に移動させるスライド装置を有し、
前記センタトンネルは、前記運転席座席及び前記助手席座席の前進限位置より前で拡幅していることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の燃料電池車の車体構造。
【請求項4】
前記センタトンネルは、前記運転席座席及び前記助手席座席に対向しているダッシュボードロアに連なるトンネル前口部を、前記ダッシュボードロアの延長部で封じていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池車の車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−221723(P2010−221723A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−67834(P2009−67834)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】