説明

特定物質抽出装置および特定物質抽出方法

【課題】 目的とする稀少物質の濃度が極めて低い溶液中であっても、当該稀少物質を効率的に分離抽出することが可能な技術を提供する。
【解決手段】 流体流路(R)内に配置させたパイプ本体(20)を浮遊する微粒子(X)に超音波を照射して濃縮させ、濃縮した微粒子(X)から稀少物質を回収する特定物質抽出装置(100)である。パイプ本体(20)から分岐させた分岐パイプ(30)と、その分岐パイプ(30)とパイプ本体(20)との境界領域で微粒子に超音波を照射させて濃縮させ、分離誘導手段(60)により電界が印加された微粒子(X)が分岐パイプ(30)側に誘導される。続けて、パイプ本体(20)から分岐パイプ(30)に誘導されてきた微粒子(X2) (X3)に対し、第二濃縮手段(22c,22d)が超音波を照射させて濃縮させ、第二分離誘導手段(60b)によって電界が印加された微粒子を第二分岐パイプ(40)側へと誘導する。そして、下流側で分離誘導された微粒子を集積して稀少物質を回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体中における特定物質を、超音波にて計測・抽出する稀少資源回収装置に関する。特に、所定以上の分散質質量を有する微粒子を分離して稀少資源を回収する特定物質抽出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
流体中の微粒子を計測する方法としては、特開昭54−69683号に開示されているように、微粒子に光を照射し、その反射散乱光を検出する方法が知られている(特許文献1参照)。また、微粒子を検出するには、照射光パワーの密度を高めるため照射光を絞り込む必要がある。しかしながら、上記照射光を絞り込むと照射領域が小さくなり、検出効率が低下して実効的な測定流量が小さくなるという問題があった。
【0003】
上記問題を解決した技術としては特開平6−241977号に開示された微粒子計測装置が知られている。この技術は、フローセル中の微粒子に超音波振動子による濃縮手段を設け、濃縮領域またはその下流で光照射し、微粒子からの散乱光を光検出器で検出する技術である(特許文献2参照)。この技術によれば、検出感度を低下させずに測定流量が増大でき、流体中の微粒子の物質弁別が可能となる。
【0004】
【特許文献1】特開昭54−69683号公報
【特許文献2】特開平6−241977号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
日本国においては、ウラン、パラジウム、金などのような物質(以下、稀少物質と表記する)は、そのほとんどを他国からの輸入に依存しているのが現状である。これら稀少物質は、海水中に多く含まれていることが知られているが、海水中は濃度が低いため、稀少物質のみを分離抽出することは非常に困難であった。
また、特開平6−241977号の技術では、検出感度を低下させずに測定流量が増大でき、流体中の微粒子の物質弁別が可能ではあるものの、その弁別した微粒子を分離抽出する方法は開示されていない。したがって、目的とする稀少物質の濃度が極めて低い溶液中から、目的の稀少物質を効率的に分離抽出する装置が望まれていた。
【0006】
請求項1から請求項6に記載の目的は、目的とする稀少物質の濃度が極めて低い溶液中であっても、当該稀少物質を効率的に分離抽出することが可能な特定物質抽出装置を提供することにある。
請求項7および請求項8に記載の発明の目的は、外部から電力を供給することなく、目的とする稀少物質の濃度が極めて低い溶液中であっても、当該稀少物質を効率的に分離抽出することが可能な特定物質抽出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(請求項1)
請求項1記載の発明は、流体流路(R)内に配置させたパイプ本体(20)に遊泳する微粒子(X)に超音波を照射して濃縮させ、濃縮した微粒子(X)から稀少物質を回収する特定物質抽出装置(100)に係る。
すなわち、水上に浮上可能な装置本体(1)と、その装置本体(1)に設置された自然エネルギを動力源とする発電装置(2)と、前記パイプ本体(20)から分岐させた分岐パイプ(30)と、その分岐パイプ(30)と前記パイプ本体(20)との境界領域において、対象となる微粒子に超音波を照射させて濃縮させる濃縮手段(22a,22b)と、電界を印加して、前記濃縮した微粒子(X)を前記分岐パイプ(30)側に誘導する分離誘導手段(60)と、その分離誘導手段(60)が、前記分岐パイプ(30)の下流側に分離誘導された微粒子(X2)を集積することによって稀少物質(X2)を回収可能な回収手段(70)と、を備えるとともに、前記分岐パイプ(30)から更に分岐させた第二分岐パイプ(40)と、その第二分岐パイプ(40)と前記分岐パイプ(30)との境界領域において対象となる微粒子(X)に超音波を照射させて濃縮させる第二濃縮手段(22c,22d)と、前記濃縮した微粒子に電界を印加して前記第二分岐パイプ(40)側に誘導する第二分離誘導手段(60b)と、前記第二分岐パイプ(40)の下流側に分離誘導された分散質質量の大きい微粒子を集積する第二回収手段(70b)と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
(用語説明)
「装置本体」を浮上させる「水上」とは、例えば、海洋、湖沼(例えば火山湖)などである。
「稀少物質」とは、海中水のウラン、パラジウム、金などである。
「分離誘導手段」とは、対象のパイプ内に対して電気分解を施すことであり、直流電源、電気分解によって析出したい物質を含む溶液、前記の直流電源に接続する電極を少なくとも備えている。
「回収手段」とは、他の請求項でも特定するが、例えば半透膜や吸着物質、更に具体的には、海水は通過させるものの誘導されてきた稀少物質を通過させないレベルの形態をした半透膜である。
【0009】
(作用)
パイプ本体(20)内で遊泳する微粒子(X)に対して、濃縮手段(22a,22b)が超音波を照射する。
ここで濃縮された微粒子(X2)は、分離誘導手段(60)によって電界が印加される。ここで、分散質質量が大きい微粒子(X2)は、分岐パイプ(30)側へと誘導されていく。一方、パイプ本体(20)の微粒子(X)は、そのまま水中へ放流される。分離誘導手段(60)によって分岐パイプ(30)側に誘導された微粒子(X2)は、分岐パイプ(30)に配設された回収手段(70)によって集積される。回収手段(70)が回収した微粒子(X2)は、所望する稀少物質を多く含ませて確保することができる。
続けて、パイプ本体(20)から分岐パイプ(30)に誘導されてきた微粒子(X2)に対し、分岐パイプ(30)内の第二濃縮手段(22c,22d)が超音波を照射する。照射された微粒子(X2)は、第二分離誘導手段(60b)によって電界が印加され、分散質質量が大きい微粒子(X3)は第二分岐パイプ(40)側へと誘導されていく。そして、第二回収手段(70b)が稀少物質として回収する。一方、分散質質量の小さい微粒子(X2)は、分岐パイプ(30)側に誘導され、外部へ放流される。または回収手段(70)によって稀少物質を回収しても良い。
すなわち、微粒子を分離誘導する箇所を本体パイプ(20)と分岐パイプ(30)および分岐パイプ(30)と第二分岐パイプ(40)の二段階に設定したことで、所望する稀少物質の回収を、より確実に行うことができる。
【0010】
(請求項2)
請求項2記載の発明は、請求項1記載の特定物質抽出装置を限定したものである。
すなわち、前記装置本体(1)に設置された自然エネルギを動力源として発電する発電装置(2)を備え、その発電装置(2)が発電した電気エネルギは、前記濃縮手段(22a,22b,22c,22d)、分離誘導手段(60,60b)および回収手段(70,70b)に対して供給することとしたことを特徴とする。
【0011】
(作用)
自然エネルギを、濃縮手段(22a,22b,22c,22d)、分離誘導手段(60,60b)および回収手段(70,70b)の動力として供給する。特定物質抽出装置の動力に自然エネルギを利用することで、電気コストの低減及び環境保全に寄与する。
【0012】
(請求項3)
請求項3記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の特定物質抽出装置を限定したものである。
すなわち、前記第二分岐パイプ(40)からさらに分岐させた第三分岐パイプ(50)と、その第三分岐パイプ(50)からさらに分岐させた第四分岐パイプ(55)とを備え、 前記第三分岐パイプ(50)および第四分岐パイプ(55)には、濃縮手段(22a,22b)および分離誘導手段(60)をそれぞれ備えていること特徴とする。
【0013】
(作用)
本発明は、請求項1に記載の第二分岐パイプからさらに分岐パイプを備えて多段構成としたものである。
第二分岐パイプから誘導されてきた微粒子に対し、第三分岐パイプ(50)の濃縮手段(22a,22b)が超音波を照射し、分離誘導手段(60)によって電界が印加される。そして、第四分岐パイプ(55)側に分離誘導された微粒子は、再び濃縮手段(22a,22b)によって超音波の照射と、分離誘導手段(60)による電界印加が施される。
このようにパイプを多段構成することで、濃縮度合いが高くなり効率的に回収可能となる。
なお、本発明では、分岐パイプを第四分岐パイプ(55)までとしているが、第四分岐パイプ(55)からさらにパイプを分岐させて構成することも可能である。
【0014】
(請求項4)
請求項4記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の特定物質抽出装置を限定したものである。
すなわち、前記回収手段(70)は、半透膜もしくは吸着物質を備えていることを特徴とする。
【0015】
(用語説明)
「半透膜」とは、一定の大きさ以下の分子またはイオンのみを透過させる膜であり、例えば、再生セルロース(セロハン)、アセチルセルロース、ポリアクリロニトリル、テフロン(登録商標)あるいはポリスルホンの多孔質膜などのことである。
「吸着物質」とは、例えば、ウランなどを回収するイオン吸着物質のことである。
【0016】
(作用)
回収手段(70)に半透膜もしくは吸着物質を備えているので、稀少物質の回収が容易になる。
なお、半透膜を透過しない溶質と透過性を示す溶媒の系では、半透膜を介して2つの濃度の溶液を接すると、隔てて浸透圧が発生し溶媒のみが透過する。理想的な半透膜の場合、浸透圧は溶液のモル濃度に比例し、この原理を用いて高分子などの分散質質量を測定することが可能である。
【0017】
(請求項5)
請求項5記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の特定物質抽出装置を限定したものである。
すなわち、発電装置(2)は、太陽光、風力、水力、波力、地熱などの自然エネルギを動力源として稼動する。
【0018】
(作用)
発電装置(2)は太陽光、風力、水力、波力、地熱などの自然エネルギを動力源としているので、屋外で電源の使用できない場所であっても動力を確保することができる。
【0019】
(請求項6)
請求項6記載の発明は、請求項1から請求項5のいずれかに記載の特定物質抽出装置を限定したものである。
すなわち、前記本体パイプ(20)を複数備えるとともに、その複数の本体パイプ(20)は、垂直方向に並列させたことを特徴とする。
複数の本体パイプ(20)のぞれぞれに対して分岐パイプ(30)や濃縮手段(22a,22b)を備える場合と、本体パイプ(20)は複数であるものの分岐パイプ(30)や濃縮手段(22a,22b)を共通化させる場合とがある。
【0020】
例えば、海洋に本願請求項に係る特定物質抽出装置を設置した場合、深度の異なる海水を濃縮して、特定物質を抽出することが可能となる。
海水や火山湖などは、その深さに応じてとけ込んでいる特定物質が異なる場合があり、それに対応することが可能となる。
【0021】
(請求項7)
請求項7に記載の発明は、水上に浮上可能な装置本体に取り付けた流体流路内の流体中を浮遊する微粒子に超音波を照射して濃縮させ、濃縮した微粒子から稀少物質を回収する特定物質抽出方法に係る。
すなわち、前記装置本体に設置された自然エネルギから発電する発電手順と、 前記パイプ本体から分岐させた分岐パイプと前記パイプ本体との境界領域において対象となる微粒子に超音波を照射させて濃縮させる濃縮手順と、 濃縮された微粒子に電界を印加して前記分岐パイプ側に誘導する分離誘導手順と、 その分離誘導手順にて、前記分岐パイプの下流側に分離誘導された分散質質量の大きい微粒子を集積することによって稀少物質を回収可能な回収手順とを備える。
前記発電手順にて発電した電気エネルギは、前記濃縮手順、前記分離誘導手順、前記回収手順に対して供給する。
【0022】
(請求項8)
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の特定物質抽出方法を限定したものであり、
前記濃縮手順は、分岐パイプを複数段備えることによって複数回行うこととしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
請求項1から請求項6に記載の発明によれば、外部から電力を供給することなく、目的とする稀少物質の濃度が極めて低い溶液中であっても、当該稀少物質を効率的に分離抽出することが可能な特定物質抽出装置を提供することができた。
また、請求項7および請求項8に記載の発明によれば、外部から電力を供給することなく、目的とする稀少物質の濃度が極めて低い溶液中であっても、当該稀少物質を効率的に分離抽出することが可能な特定物質抽出方法を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明に係る実施形態について説明する。ここで使用する図面は図1から図15である。図1は、特定物質抽出装置の全体構成を示した概略図であり、図2は、特定物質抽出装置におけるパイプ本体および分岐パイプの構成を示した概略図であり、図3は、特定物質抽出装置の処理を示したフローチャートであり、図4および図5は、パイプ本体に流入した微粒子から稀少物質を分離抽出する様子を示した概略図である。
【0025】
(全体構成)
図1および図2に示すように、特定物質抽出装置100は、海上に浮上可能な装置本体1と、その装置本体1に設置された自然エネルギを動力源とする発電装置2と、海水中における流体流路R内に配置させたパイプ本体20と、そのパイプ本体20内の側壁25の一部から外側に向かって延出させた分岐パイプ30とを備える。また、その分岐パイプ30とパイプ本体20との境界領域において、微粒子に超音波を照射させて濃縮させる超音波振動子22a,22b(濃縮手段)と、電界を印加して濃縮された微粒子を分岐パイプ30側に誘導させる分離誘導手段60と、分岐パイプ30の下流側に分離誘導された微粒子を集積して稀少物質を回収可能な回収手段70と備えて構成されている。
【0026】
なお、流体流路R内に配置させたパイプ本体20で微粒子Xを計測および検出する処理については、特開平6−241977号(特許文献2)に開示された微粒子計測装置の技術を採用しているため、以下に特開平6−241977号を引用して説明していく。
【0027】
微粒子計測装置は、流体中の微粒子を濃縮させるために、超音波を用いて微粒子の集中化を行っている。すなわち、液体流路に超音波の定在波を形成し、その節の位置に微粒子を集中させるか、複数の超音波の進行波を重ね合わせて特定位置に微粒子を集合させ、特定の微粒子を分離する。
【0028】
超音波を用いて微粒子を集合させる方法をつぎに説明する。本発明では、主に輻射圧を利用した定在波または進行波による凝集機構を用いている。
【0029】
超音波が定在波のとき、上記超音波が微粒子におよぼす力Fcsは次式で表される。
【0030】
【数1】

【0031】
kは溶液中の波数、φは(微粒子の密度)/(溶媒の密度)、βは微粒子の弾性率、β0は溶液の弾性率、ρは溶液の密度、aは微粒子の直径、Usはつぎに定義する量である。Us2=(2I/ρC)×107(cm2/S2)、ただしIはパワー密度(W/cm2)、Cは溶媒中の音速、yは超音波進行方向の位置であり、フローセル中央における定在波の節の位置をy=0とする。上記微粒子はFcsによって節(y=0)の位置に集中する。
【0032】
また、超音波が進行波である場合には、微粒子におよぼす力Fctは次式で表される。
【0033】
【数2】

【0034】
図14は、微粒子の計測・検出処理を示した図、図15は微粒子を濃縮する領域を示す断面図で、(a)は流路の対向する側面に超音波振動子を用いた場合を示す図、(b)は流路の四方の側面に超音波振動子を用いた場合を示す図である。
【0035】
図14に示す実施例の装置は、超音波によって微粒子を集中させる部分からなっている。上記微粒子を集中させる部分では、フローセル4の外表面に1組の超音波振動子5が対向して貼り付けてあり、上記超音波振動子5を用いて、フローセル4内の中央部に節をもつ超音波の定在波を発生させる。純水中での音速度は水温25度で1500m/sであるから、1mmの幅をもつフローセル4中で1個の節をもつ定在波を発生するには、上記超音波振動子5を振動数750kHzで振動させればよい。
【0036】
1平方センチメートルあたりの超音波強度6.0〜9.0mWの超音波を照射することにより、上記フローセル4中の微粒子は、超音波の音圧および粒子相互の衝突に基づく力学的作用によって、それぞれの微粒子の形状および音響インピーダンスに応じた速度で、定在波の節の位置に集中させることができる。超音波の出力値はキャビテーションが発生しない範囲にとどめるのが望ましい。
【0037】
本実施例においては超音波定在波の節が1つであるが、必要に応じて複数の節を有する定在波を形成することも可能である。また本実施例では、流路の側面に1組の対向する超音波振動子5を用いているが、流路の四方の側面に対して超音波振動子5を用いてもよい。これらの場合の濃縮状態の違いは、図15の(a)および(b)にそれぞれ示すとおりであって、超音波振動子5を(a)のようにフローセル4の対向する側面に設けた場合よりも、(b)のようにフローセル4の四方の側面に設けた場合の方が、微粒子の濃縮率が高くなる。
【0038】
次に、本発明の稀少物質の回収処理について図3から図5を用いて説明する。
図3は、特定物質抽出装置100の各処理について説明したフローチャートであり、図4、図5は微粒子の変化を示している。なお、「稀少物質」とは、海中水のウラン、パラジウム、金などのことである。
【0039】
これらの図に示すように、パイプ本体20内の微粒子Xが本体パイプ20の側壁25に対向配置された超音波振動子22a、22bが、微粒子Xに対し超音波を照射する(S101)。超音波の照射によって濃縮された微粒子Xに、分離誘導手段60が電界を印加する(S102)。
【0040】
分離誘導手段60により分散質質量が大きい微粒子Xは、分岐パイプ30側に誘導される(S103)。一方、分散質質量が小さい微粒子は、分岐パイプ30側には誘導されず、そのまま本体パイプ20に誘導され(S104)、本体パイプの下流側の開口から放流される(S105)。
【0041】
前述の分離誘導手段60は、分岐パイプ30内に対して電界を印加して微粒子Xを分離誘導する機能であり、直流電源、電気泳動させたい物質を含む溶液および電源に接続する電極を少なくとも備えている。すなわち、微粒子の流れと垂直な電圧を掛けることで、微粒子を流れと垂直に泳動させ、微粒子を分岐パイプ30に誘導されるようにしている。このようにすると、本体パイプ20は、海水と同じような低い濃度であるが、分岐パイプ30は、海水よりも高い濃度になる。
【0042】
そして、分離誘導手段60によって分岐パイプ30側に誘導された微粒子X2は、分岐パイプ30に配設された回収手段70が稀少物質として集積して回収する(S106)。
この回収手段70は、いわゆる半透膜で形成されている。「半透膜」とは、例えば、再生セルロース(セロハン)、アセチルセルロース、ポリアクリロニトリル、テフロン(登録商標)あるいはポリスルホンの多孔質膜などのことである。半透膜は、一定の大きさ以下の分子またはイオンのみを透過させる膜であるため、回収手段70を半透膜で形成することで、稀少物質の回収が容易になるのである。
【0043】
なお、半透膜を透過しない溶質と透過性を示す溶媒の系では、半透膜を介して2つの濃度の溶液を接すると、隔てて浸透圧が発生し溶媒のみが透過する。理想的な半透膜の場合、浸透圧は溶液のモル濃度に比例し、この原理を用いて高分子などの分散質質量を測定することも可能である。
【0044】
したがって、回収手段70が回収した微粒子X2を所望する稀少物質として回収することができる。これにより、濃度の低い水中であっても、目的の稀少物質を効率的に分離抽出することができる。
【0045】
また、回収手段70は、吸着物質としても形成することができる。「吸着物質」とは、例えば、ウランなどを回収するイオン吸着物質のことである。
【0046】
なお、特定物質抽出装置を稼動させる電源としては、自然エネルギを利用している。自然エネルギとしては、太陽光、水力、風力などのいずれでも良いが、使用場所を考慮すると太陽光が望ましい。また、自然エネルギに加えて所定のバッテリーを装置に積載し、動力補助として装置全体を稼動させることもできる。
また、特に海では、水流の流れが発生することから、潮力を利用して稼動させることも好ましい。
【0047】
(第二実施形態)
次に、本発明の第二実施形態について図6から図11を参照して説明する。第二実施形態の特定物質抽出装置200は、上述した第一実施形態の分岐パイプ30からさらに分岐するパイプを増やして微粒子を分離させる構成となっている。
【0048】
すなわち、第一実施形態で示した本体パイプ20、分岐パイプ30、分離誘導手段60に加え、分岐パイプ30の側壁35の一部から外側に向かって延出された第二分岐パイプ40と、その第二分岐パイプ40と分岐パイプ30との境界領域において、対象となる微粒子Xに超音波を照射させて濃縮させる超音波振動子22c、22d(第二濃縮手段)と、電界を印加して、濃縮した微粒子X2を第二分岐パイプ40側に誘導する第二分離誘導手段60bと、その第二分離誘導手段60bが、稀少物質を回収可能な第二回収手段70bとを備えて構成されている。
【0049】
図6から図11に示すように、パイプ本体20内の微粒子Xに超音波振動子22a、22bが超音波を照射する(S201)。超音波の照射によって濃縮された微粒子Xに、分離誘導手段60が電界を印加する(S202)。分離誘導手段60により分散質質量が大きい微粒子Xは、分岐パイプ30側に誘導される(S203)。一方、分散質質量が小さい微粒子は、分岐パイプ30側には誘導されず、そのまま本体パイプ20に誘導され(S204)、本体パイプの下流側の開口から放流される(S205)。
【0050】
続けて、図8に示すように、分岐パイプ30側に誘導された微粒子X2および微粒子X3は、分岐パイプ30の側壁35に配設された第二超音波振動子22c、22dが微粒子X2および微粒子X3に対し超音波を照射する(S206)。超音波照射によって濃縮された微粒子X2および微粒子X3に対し、第二分離誘導手段60bが電界を印加する(S207)。
【0051】
ここでも、第二分離誘導手段60bにより分散質質量が大きい微粒子X3は、第二分岐パイプ40側に誘導される(S208)。一方、分散質質量が小さい微粒子は、分岐パイプ30に誘導される(S209)。ここでは、分岐パイプ30の下流側の開口から放流する、もしくは、微粒子X2を稀少資源として回収する(S210)。
また、図11に示すように、第二分岐パイプ40に誘導された微粒子X3は、第二回収手段70bが稀少物質として集積して回収する(S211)。
【0052】
第二分離誘導手段60bは、直流電源、電気泳動させたい物質を含む溶液および電源に接続する電極を少なくとも備えている点は、上述した分離誘導手段60と同一である。すなわち、微粒子の流れと垂直な電圧を掛けることで、微粒子を流れと垂直に泳動させ、微粒子を第二分岐パイプ40側に誘導させるようにしている。このようにすると、第二分岐パイプ40は、分岐パイプよりもさらに高い濃度になる。
【0053】
本実施形態では、微粒子Xを分離誘導させる箇所を、本体パイプ20と分岐パイプ30および分岐パイプ30と第二分岐パイプ40の二段階に設定している。これは、分岐パイプ30に誘導された微粒子X2においても、ウランや金などの所望する稀少物質を集積することも可能であるが、回収しきれない可能性がある。これに対して、特定物質抽出装置200では、微粒子X2をさらに分離抽出して第二分岐パイプ40に誘導することで、濃度を高めることにより確実に所望する稀少物質X2を集積して回収することができる。
【0054】
なお、図12に示すように、第二分岐パイプ40の側壁から下流に向かってさらに分岐させた第三分岐パイプ50を備えることもできる。また、図13に示すように、第三分岐パイプ50の側壁から下流に向かってさらに分岐させた第四分岐パイプ55を備えることもできる。これら第三分岐パイプ50および第四分岐パイプ55には、超音波振動子および分離誘導手段をそれぞれ備えており、第二分岐パイプ40から誘導されてきた微粒子に対し、第三分岐パイプ50の超音波振動子が超音波を照射し、分離誘導手段によって電界が印加される。そして、第四分岐パイプ55側に分離誘導された微粒子は、再び濃縮手段によって超音波の照射と、分離誘導手段による電界印加が施される。
【0055】
すなわち、分岐パイプを多段階に分岐し、下層パイプへ分岐していくほど、微粒子の濃度がより高まる。なお、分岐パイプを何段階に設定するかは、回収対象の稀少物質の分散質質量によって異なる。
【0056】
本発明に係る特定物質抽出装置は、海水中の微粒子から稀少物質を分離回収することを記載されているが、このほか、火山湖などの湖水などにも適用することができる。火山湖によっては、稀少物質が海水よりも多く含有されていることも考えられるため、効率的に回収作業を実施することができる。
また、本実施形態では、稀少物質の回収を目的として説明してきたが、海水中、湖水中の有害物質の回収にも適用可能である。この場合には、分離誘導手段が有害物質を誘導可能な濃度に変更すればよい。このようにすれば、水中を浄化して各種の公害対策などにも寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】特定物質抽出装置の全体構成を示した概略図である。
【図2】特定物質抽出装置におけるパイプ本体および分岐パイプの構成を示した概略図である。
【図3】特定物質抽出装置の処理を示したフローチャートである。
【図4】パイプ本体に流入した微粒子が超音波で照射される様子を示した概略図である。
【図5】分散質質量の異なる微粒子ごとに分離誘導される様子を示した概略図である。
【図6】第二実施形態におけるパイプ本体、分岐パイプおよび第二分岐パイプの構成を示した概略図である。
【図7】第二実施形態における特定物質抽出装置の処理を示したフローチャートである。
【図8】パイプ本体に流入した微粒子が超音波で照射される様子を示した概略図である。
【図9】分散質質量の異なる微粒子ごとに分離誘導される様子を示した概略図である。
【図10】第二分離誘導手段において、分散質質量の異なる微粒子ごとに分離誘導される様子を示した概略図である。
【図11】分離誘導された微粒子が回収手段で回収された様子を示した概略図である。
【図12】三段パイプ構造を示した概略図である。
【図13】四段パイプ構造を示した概略図である。
【図14】微粒子の計測・検出処理を示した図である。
【図15】微粒子を濃縮する領域を示す断面図である。
【符号の説明】
【0058】
1 装置本体
2 発電装置
20 パイプ本体
22a、22b、22c、22d 超音波振動子
25 側壁
30 分岐パイプ
35 側壁
40 第二分岐パイプ
50 第三分岐パイプ
55 第四分岐パイプ
60、60b 分離誘導手段
70、70b 回収手段
100、200 特定物質抽出装置
R 流体流路
X、X1、X2、X3 微粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体流路内に配置させたパイプ本体を浮遊する微粒子に超音波を照射して濃縮させ、濃縮した微粒子から稀少物質を回収する特定物質抽出装置であって、
水上に浮上可能な装置本体と、
前記パイプ本体から分岐させた分岐パイプと、
その分岐パイプと前記パイプ本体との境界領域において対象となる微粒子に超音波を照射させて濃縮させる濃縮手段と、
前記濃縮した微粒子に電界を印加して前記分岐パイプ側に誘導する分離誘導手段と、
その分離誘導手段が、前記分岐パイプの下流側に分離誘導された分散質質量の大きい微粒子を集積することによって稀少物質を回収可能な回収手段と、を備えるとともに、
前記分岐パイプから更に分岐させた第二分岐パイプと、
その第二分岐パイプと前記分岐パイプとの境界領域において対象となる微粒子に超音波を照射させて濃縮させる第二濃縮手段と、
前記濃縮した微粒子に電界を印加して前記第二分岐パイプ側に誘導する第二分離誘導手段と、
前記第二分岐パイプの下流側に分離誘導された分散質質量の大きい微粒子を集積する第二回収手段と、
を備えたことを特徴とする特定物質抽出装置。
【請求項2】
前記装置本体に設置された自然エネルギを動力源として発電する発電装置を備え、
その発電装置が発電した電気エネルギは、前記濃縮手段、分離誘導手段および回収手段に対して供給することとしたことを特徴とする特定物質抽出装置。
【請求項3】
前記第二分岐パイプからさらに分岐させた第三分岐パイプと、その第三分岐パイプからさらに分岐させた第四分岐パイプとを備え、
前記第三分岐パイプおよび第四分岐パイプには、濃縮手段および分離誘導手段をそれぞれ備えていること特徴とする請求項1または請求項2に記載の特定物質抽出装置。
【請求項4】
前記回収手段は、半透膜もしくは吸着物質を備えていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の特定物質抽出装置。
【請求項5】
前記発電装置は、太陽光、風力、水力、波力、地熱などの自然エネルギを動力源として稼動する請求項1から請求項4のいずれかに記載の特定物質抽出装置。
【請求項6】
前記本体パイプを複数備え、
その複数の本体パイプは、垂直方向に並列させたことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の特定物質抽出装置。
【請求項7】
水上に浮上可能な装置本体に取り付けた流体流路内の流体中を浮遊する微粒子に超音波を照射して濃縮させ、濃縮した微粒子から稀少物質を回収する特定物質抽出方法であって、
その装置本体に設置された自然エネルギから発電する発電手順と、
前記パイプ本体から分岐させた分岐パイプと前記パイプ本体との境界領域において対象となる微粒子に超音波を照射させて濃縮させる濃縮手順と、
濃縮された微粒子に電界を印加して前記分岐パイプ側に誘導する分離誘導手順と、
その分離誘導手順にて、前記分岐パイプの下流側に分離誘導された分散質質量の大きい微粒子を集積することによって稀少物質を回収可能な回収手順とを備え、
前記発電手順にて発電した電気エネルギは、前記濃縮手順、前記分離誘導手順、前記回収手順に対して供給することを特徴とする特定物質抽出方法。
【請求項8】
前記濃縮手順は、分岐パイプを複数段備えることによって複数回行うこととした請求項7に記載の特定物質抽出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−155077(P2008−155077A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−343587(P2006−343587)
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】