説明

環状シロキサン化合物及びそれを用いたポジ型レジスト組成物

【課題】レジストとしての物性に優れたポジ型レジスト組成物を与えることのできる環状シロキサン化合物及びそれを用いたポジ型レジスト組成物を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される化合物及び/又は下記一般式(1)で表される化合物を下記一般式(2)で表されるジビニル化合物とヒドロシリル化反応させて得られる化合物を、下記一般式(3)で表されるモノビニル化合物とヒドロシリル化反応させて得られる環状シロキサン化合物である。


CH=CH−R−CH=CH (2)
CH=CR−(R−T (3)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状シロキサン化合物及びそれを用いたポジ型レジスト組成物、特にポジ型永久レジスト組成物、なかでも透明性に優れたポジ型永久レジスト組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、アルカリ親和性官能基の一部を酸解離性の保護基とした基を有する環状シロキサン化合物が、ポジ型レジスト組成物に用いられている。例えば、特許文献1あるいは特許文献2にこのような環状シロキサン化合物及びそれを用いたポジ型レジスト組成物が記載されている。
【特許文献1】特開2001−114835号公報
【特許文献2】特開2002−105086号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、これらのポジ型レジスト組成物ではレジストとしての物性、例えば、着色性、耐水性、耐酸性、耐溶剤性などが劣っていたため、例えばポジ型永久レジスト(特に透明性に優れたポジ型永久レジスト)には使用できないものであった。
【0004】
そこで、本発明の目的は、レジストとしての物性に優れたポジ型レジスト組成物を与えることのできる環状シロキサン化合物及びそれを用いたポジ型レジスト組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、かかる現状に鑑み鋭意検討を重ねた結果、特定の化合物をヒドロシリル化反応させて得られる環状シロキサン化合物及びそれを用いたポジ型レジスト組成物が、レジストとしての物性に優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち本発明の環状シロキサン化合物は、下記一般式(1)で表される化合物及び/又は下記一般式(1)で表される化合物を下記一般式(2)で表されるジビニル化合物とヒドロシリル化反応させて得られる化合物を、下記一般式(3)で表されるモノビニル化合物とヒドロシリル化反応させて得られることを特徴とするものである。

(式中、Rは炭素原子数1〜8の炭化水素基であり、mは2〜8の数である。)
CH=CH−R−CH=CH (2)
(式中、Rは置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20の2価の炭化水素基である。)
CH=CR−(R−T (3)
(式中、Rは水素原子又は炭素原子数1〜3の直鎖又は分岐鎖の脂肪族炭化水素基であり、Rは炭素原子数1〜20の2価の炭化水素基であり、hは1又は0の数であり、Tはアルカリ親和性官能基の一部を置換して酸解離性の保護基とした基である。)
【0007】
また、本発明の他の環状シロキサン化合物は、下記一般式(1)で表される化合物及び/又は下記一般式(1)で表される化合物を下記一般式(2)で表されるジビニル化合物とヒドロシリル化反応させて得られる化合物を、下記一般式(3)で表されるモノビニル化合物とヒドロシリル化反応させた後、残存する−SiH基を不活性化して得られることを特徴とするものである。

(式中、Rは炭素原子数1〜8の炭化水素基であり、mは2〜8の数である。)
CH=CH−R−CH=CH (2)
(式中、Rは置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20の2価の炭化水素基である。)
CH=CR−(R−T (3)
(式中、Rは水素原子又は炭素原子数1〜3の直鎖又は分岐鎖の脂肪族炭化水素基であり、Rは炭素原子数1〜20の2価の炭化水素基であり、hは1又は0の数であり、Tはアルカリ親和性官能基の一部を置換して酸解離性の保護基とした基である。)
【0008】
また、本発明のポジ型レジスト組成物は、上記の環状シロキサン化合物及び活性エネルギー線感受性酸発生剤を必須成分とすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、レジストとしての物性に優れたポジ型レジストを与えることのできる環状シロキサン化合物及びそれを用いたポジ型レジスト組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の環状シロキサン化合物について詳細に説明する。
【0011】
本発明の環状シロキサン化合物は、上記一般式(1)で表される化合物及び/又は上記一般式(1)で表される化合物を上記一般式(2)で表されるジビニル化合物とヒドロシリル化反応させて得られる化合物を、上記一般式(3)で表されるモノビニル化合物とヒドロシリル化反応させて得られることを特徴とする環状シロキサン化合物である。
【0012】
また、本発明の他の環状シロキサン化合物は、上記一般式(1)で表される化合物及び/又は上記一般式(1)で表される化合物を上記一般式(2)で表されるジビニル化合物とヒドロシリル化反応させて得られる化合物を、上記一般式(3)で表されるモノビニル化合物とヒドロシリル化反応させた後、残存する−SiH基を不活性化して得られることを特徴とする環状シロキサン化合物である。
【0013】
一般式(1)中のRは炭素原子数1〜8の炭化水素基であればよく、直鎖又は分岐鎖の脂肪族炭化水素基でも、直鎖又は分岐鎖の炭化水素基を置換基として有する脂環族炭化水素基でも、直鎖又は分岐鎖の炭化水素基を置換基として有する芳香族炭化水素基であってもよいが、本発明の効果をより顕著に得る観点から好ましくは炭素原子数1〜3の直鎖又は分岐鎖の脂肪族炭化水素基がよく、より好ましくはメチル基がよい。また、一般式(1)中のmは2〜8、本発明の効果をより顕著に得る観点及び産業化適性の観点から好ましくは3〜6、最も好ましくは4の数である。
【0014】
本発明においては、上記一般式(1)で表される化合物(以下、化合物(A))を上記一般式(2)で表されるジビニル化合物(以下、化合物(B))とヒドロシリル化反応させて得られる化合物(以下、化合物(C))も、化合物(A)と同様に使用することができる。
【0015】
一般式(2)中のRは置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20の2価の炭化水素基であればよく、直鎖又は分岐鎖の脂肪族炭化水素基でも、直鎖又は分岐鎖の炭化水素基を置換基として有する脂環族炭化水素基でも、直鎖又は分岐鎖の炭化水素基を置換基として有する芳香族炭化水素基であってもよいが、本発明の効果をより顕著に得る観点から好ましくは、縮合していてもよい芳香環(炭化水素基の置換基を有していてもよい)を有し且つ結合手を有する炭素原子が別々の脂肪族炭化水素基上の炭素原子である、炭素原子数8〜14の2価の炭化水素基であることがよい。このような好ましい2価の炭化水素の具体例としては以下を例示することができる。
【0016】

【0017】
−SiH基とビニル化合物とのヒドロシリル反応は、公知の反応であり、上記化合物(A)と上記化合物(B)とのヒドロシリル化反応も公知の範囲で行なえばよく、特に限定されず、例えば、ヒドロシリル化反応に使用できることが知られている触媒を使用して従来公知の条件で行なえばよいが、反応速度の点から、室温〜130℃で行なうのが好ましく、反応時にトルエン,ヘキサン,MIBK(メチルイソブチルケトン),シクロペンタノン,PGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)等の従来公知の溶媒を使用してもよい。
【0018】
ヒドロシリル化反応に使用できることが知られている触媒としては何ら限定されるものではないが、例えば、白金系触媒を用いることができ、該白金系触媒としてはヒドロシリル化反応を促進する白金、パラジウム及びロジウムの一種以上の金属を含有する公知の触媒であればよい。
【0019】
これらのヒドロシリル化反応用の触媒として用いられる白金系触媒としては、白金−カルボニルビニルメチル錯体,白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体,白金−シクロビニルメチルシロキサン錯体,白金−オクチルアルデヒド錯体等の白金系触媒をはじめ、白金の代わりに同じく白金系金属であるパラジウム,ロジウム等を含有する化合物が挙げられ、これらの1種または2種以上を併用してもよい。特に反応性の点から、白金を含有するものが好ましく、具体的には、白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体(Karstedt触媒),白金−カルボニルビニルメチル錯体(Ossko触媒)が好ましい。また、クロロトリストリフェニルホスフィンロジウム(I)等の、上記白金系の金属を含有するいわゆるWilkinson触媒も、本発明では白金系触媒に含めるものとする。
【0020】
白金系触媒の使用量は、反応性の点から、化合物(A)と化合物(B)の合計量の5質量%以下が好ましく、0.0001〜1.0質量%がより好ましい。
【0021】
上記化合物(A)と上記化合物(B)との使用割合は特に限定されるものではなく、概ねモル比で1:9〜9:1、好ましくは1:3〜3:1、より好ましくは1:2〜2:1程度であればよい。
【0022】
得られる化合物(C)の分子量は特に制御する必要はないが、好ましくは、得られる環状ポリシロキサン化合物として、概ね1,000〜1,000,000、好ましくは5,000〜400,000、より好ましくは5,000〜200,000程度を与えるものであればよい。なお、ここでいう分子量とは重量平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィによるポリスチレン換算値)とした平均分子量である。
【0023】
本発明の環状シロキサン化合物は、上記化合物(A)及び/又は化合物(C)を、上記一般式(3)で表されるモノビニル化合物(以下、化合物D)と、ヒドロシリル化反応させて得られるものである。
【0024】
一般式(3)中のRは、水素原子又は炭素原子数1〜3の直鎖又は分岐鎖の脂肪族炭化水素基であり、好ましくは水素原子又はメチル基である。
【0025】
一般式(3)中のRは炭素原子数1〜20の2価の炭化水素基であればよく、直鎖又は分岐鎖の脂肪族炭化水素基でも、直鎖又は分岐鎖の炭化水素基を置換基として有する脂環族炭化水素基でも、直鎖又は分岐鎖の炭化水素基を置換基として有する芳香族炭化水素基であってもよい。このようなRの例としては、例えばフェニレン基、メチルフェニレン基、メチレン基、エチレン基、イソプロピレン基、シクロヘキシレン基、メチルシクロヘキシレン基などを例示することができる。また、一般式(3)中のhは1又は0の数であり、h=0のときは一般式(3)は、CH=CR−Tで表される。
【0026】
一般式(3)中のTはアルカリ親和性官能基の一部を置換して酸解離性の保護基とした基であれば特に限定されるものではないが、例えば、フェノール性水酸基,カルボキシル基などのアルカリ親和性官能基の水素原子を、置換アルキル基,シリル基,ゲルミル基,アルコキシカルボニル基,アシル基,飽和環式基等の基で置換して保護基とした基を挙げることができる。
【0027】
置換アルキル基としては、例えばメトキシメチル基、メチルチオメチル基、エトキシメチル基、エチルチオメチル基、メトキシエトキシメチル基、ビニルオキシメチル基、ビニルチオメチル基、ベンジルオキシメチル基、ベンジルチオメチル基、フェナシル基、ブロモフェナシル基、メトキシフェナシル基、メチルチオフェナシル基、α−メチルフェナシル基、シクロプロピルメチル基、ベンジル基、トリフェニルメチル基、ジフェニルメチル基、ブロモベンジル基、ニトロベンジル基、メトキシベンジル基、メチルチオベンジル基、エトキシベンジル基、エチルチオベンジル基、ピペロニル基、1−メトキシエチル基、1−メチルチオエチル基、1,1−ジメトキシエチル基、1−エトキシエチル基、1−エチルチオエチル基、1,1−ジエトキシエチル基、1−ビニルオキシエチル基、1−ビニルチオエチル基、1−フェノキシエチル基、1−フェニルチオエチル基、1,1−ジフェノキシエチル基、1−ベンジルオキシエチル基、1−ベンジルチオエチル基、1−フェニルエチル基、1,1−ジフェニルエチル基、イソプロピル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、1,1−ジメチルプロピル基、1−メチルブチル基、1,1−ジメチルブチル基、2−ビニルオキシエチル基、2−ビニルチオエチル基等を挙げることができる。
【0028】
シリル基としては、例えばトリメチルシリル基、エチルジメチルシリル基、メチルジエチルシリル基、トリエチルシリル基、イソプロピルジメチルシリル基、メチルジイソプロピルシリル基、トリイソプロピルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、メチルジt−ブチルシリル基、トリt−ブチルシリル基、フェニルジメチルシリル基、メチルジフェニルシリル基、トリフェニルシリル基等を挙げることができる。
【0029】
ゲルミル基としては、例えばトリメチルゲルミル基、エチルジメチルゲルミル基、メチルジエチルゲルミル基、トリエチルゲルミル基、イソプロピルジメチルゲルミル基、メチルジイソプロピルゲルミル基、トリイソプロピルゲルミル基、t−ブチルジメチルゲルミル基、メチルジt−ブチルゲルミル基、トリt−ブチルゲルミル基、フェニルジメチルゲルミル基、メチルジフェニルゲルミル基、トリフェニルゲルミル基等を挙げることができる。
【0030】
アルコキシカルボニル基としては、例えばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基等を挙げることができる。
【0031】
アシル基としては、例えばアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ヘプタノイル基、ヘキサノイル基、バレリル基、ピバロイル基、イソバレリル基、ラウリロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、オキサリル基、マロニル基、スクシニル基、グルタリル基、アジポイル基、ピペロイル基、スベロイル基、アゼラオイル基、セバコイル基、アクリロイル基、プロピオロイル基、メタクリル基、クロトノイル基、オレオイル基、マレオイル基、フマロイル基、メサコノイル基、カンホロイル基、ベンゾイル基、フタロイル基、イソフタロイル基、テレフタロイル基、ナフトイル基、トルオイル基、ヒドロアトロポイル基、アトロポイル基、シンナモイル基、フロイル基、テノイル基、ニコチノイル基、イソニコチノイル基、p−トルエンスルホニル基、メシル基等を挙げることができる。
【0032】
飽和環式基としては、例えばシクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘキセニル基、4−メトキシシクロヘキシル基、テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロフラニル基、テトラヒドロチオピラニル基、テトラヒドロチオフラニル基、3−ブロモテトラヒドロピラニル基、4−メトキシテトラヒドロピラニル基、4−メトキシテトラヒドロチオピラニル基、S,S−ジオキシド基、2−1,3−ジオキソラニル基、2−1,3−ジチオキソラニル基、ベンゾ−2−1,3−ジオキソラニル基、ベンゾ−2−1,3−ジチオキソラニル基等を挙げることができる。
【0033】
これらアルカリ親和性官能基の水素原子を置換して酸解離性の保護基とした基の好ましい具体例としては例えば以下を挙げることができる。
【0034】

(但し、これらの基の結合先はベンゼン環上の炭素原子である。)
【0035】
また、以下も挙げることができる。
【0036】

(この基の結合先の炭素原子は全てのR若しくはR上の炭素原子でありうる。)
【0037】
上記化合物(A)及び/又は化合物(C)と、上記化合物(D)とのヒドロシリル化反応は、上記同様特に限定されず、ヒドロシリル化反応に使用できることが知られている触媒を使用して従来公知の条件で行なえばよく、詳細には上記と同様である。
【0038】
上記化合物(A)及び/又は化合物(C)と、上記化合物(D)との使用割合は、特に限定されないが、好ましくは上記化合物(A)及び/又は化合物(C)中の−SiH基のモル数:上記化合物(D)のモル数の比として、1:1〜1:10、好ましくは1:1〜1:5であることがよい。
【0039】
以上のようにして本発明の環状シロキサン化合物を得ることができるが、上記化合物(A)及び/又は化合物(C)と、上記化合物(D)とのヒドロシリル化反応においては、未反応の−SiH基が残存することがある。未反応の−SiH基が残存していると、当該環状ポリシロキサンを、どのような用途に使用した場合であっても、周囲の物質と反応したり、周囲の物質へ悪影響を与える可能性があるので、このような場合には、残存する−SiH基を不活性化することが好ましい。
【0040】
不活性化の方法は特に限定されるものではないが、例えば、トリメチルビニルシランなどを、60℃〜70℃で1〜10時間反応させることにより不活性化させることができる。
【0041】
本発明の環状ポリシロキサンを得るにあたって、上記化合物(A)及び化合物(C)を使用する場合、得られる環状ポリシロキサンの分子量としては、化合物(A)のみであってもよいので、下限値は特に制限はない。また、化合物(A)の分子量上限は、好ましくは1,000,000、より好ましくは400,000、さらに好ましくは200,000がよい。なお、ここでいう分子量とは重量平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィによるポリスチレン換算値)とした平均分子量である。
【0042】
上記した本発明の環状ポリシロキサン化合物の好ましい具体例の一例を示せば、以下の構造の化合物を例示することができる。
【0043】

【0044】

【0045】

【0046】

【0047】

【0048】

(式中、nは繰り返し数を表し、分子量に応じた数である。)
【0049】

(式中、nは繰り返し数を表し、分子量に応じた数である。)
【0050】
以下、本発明のポジ型レジスト組成物について詳述する。
【0051】
本発明のポジ型レジスト組成物は、上記した本発明の環状ポリシロキサン化合物、及び、活性エネルギー線感受性酸発生剤を必須成分とするものである。
【0052】
本発明のポジ型レジスト組成物に使用する環状ポリシロキサン化合物としての好ましいものの具体例等は上記同様である。
【0053】
本発明のポジ型レジスト組成物に使用する活性エネルギー線感受性酸発生剤は、エネルギー線(例えば、ガンマ線,エックス線,紫外線,可視光線,電子線等であり、特に工業化適性の観点から紫外線又は可視光線が好ましい)の照射によって酸を発生する化合物であれば特に限定されるものではなく、ポジ型レジスト組成物に使用可能であることが知られているエネルギー線感受性酸発生剤を全て使用することができ、特に、化学増幅ポジ型レジスト組成物に使用可能であることが知られているエネルギー線感受性酸発生剤を使用することができる。
【0054】
このようなエネルギー線感受性酸発生剤の好ましい一例としては、エネルギー線照射によってルイス酸を放出するオニウム塩である複塩、またはその誘導体を挙げることができる。かかる化合物の代表的なものとしては一般式、
[A]k+[B]k−
で表される陽イオンと陰イオンの塩を挙げることができる。
【0055】
ここで、陽イオンAk+はオニウム塩であるのが好ましく、その構造は例えば、
[(RaZ]k+
で表すことができる。
【0056】
更にここで、Rは炭素数が1〜60であり、炭素以外の原子をいくつ含んでもよい有機の基である。aは1〜5なる整数である。a個のRは各々独立で、同一でも異なっていてもよい。また、少なくとも1つは、芳香環を有する上記の如き有機の基であることが好ましい。ZはS,N,Se,Te,P,As,Sb,Bi,O,I,Br,Cl,F,N=Nからなる群から選ばれる原子あるいは原子団である。また、陽イオンAk+中のZの原子価をzとしたとき、k=a−zなる関係が成り立つことが必要である。
【0057】
また、陰イオンBk−は、ハロゲン化物錯体であるのが好ましく、その構造は例えば、
[LXbk−
で表すことができる。
【0058】
更にここで、Lはハロゲン化物錯体の中心原子である金属または半金属(Metalloid)であり、B,P,As,Sb,Fe,Sn,Bi,Al,Ca,In,Ti,Zn,Sc,V,Cr,Mn,Co等である。Xはハロゲンである。bは3〜7なる整数である。また、陰イオンBk−中のLの原子価をpとしたとき、k=b−pなる関係が成り立つことが必要である。
【0059】
上記一般式の陰イオン[LXbk−の具体例としてはテトラフルオロボレート(BF4),ヘキサフルオロホスフェート(PF6),ヘキサフルオロアンチモネート(SbF6),ヘキサフルオロアルセネート(AsF6),ヘキサクロロアンチモネート(SbCl6)等が挙げられる。
【0060】
また、陰イオンBk−は、
[LXb−1(OH)]k−
で表される構造のものも好ましく用いることができる。L,X,bは上記と同様である。
【0061】
また、その他用いることができる陰イオンとしては、過塩素酸イオン(ClO),トリフルオロメチル亜硫酸イオン(CFSO),フルオロスルホン酸イオン(FSO),トルエンスルホン酸陰イオン,トリニトロベンゼンスルホン酸陰イオン等が挙げられる。
【0062】
本発明では、この様なオニウム塩のなかでも、特に芳香族オニウム塩を使用するのが特に有効である。中でも、特開昭50−151997号及び特開昭50−158680号公報に記載の芳香族ハロニウム塩、特開昭50−151997号,特開昭52−30899号,特開昭56−55420号及び特開昭55−125105号公報等に記載のVIA族芳香族オニウム塩、特開昭50−158698号公報記載のVA族芳香族オニウム塩、特開昭56−8428号,特開昭56−149402号及び特開昭57−192429号公報等に記載のオキソスルホキソニウム塩、特開昭49−17040号記載の芳香族ジアゾニウム塩、米国特許第4139655号明細書記載のチオビリリウム塩等が好ましい。
【0063】
これらの芳香族オニウム塩のなかでも下記一般式、

(式中、Rは夫々同一でも異なっていてもよい水素原子、ハロゲン原子、炭素数1から5のアルキル基、もしくは水酸基、ハロゲン原子または炭素数1から5のアルコキシ基で置換されていてもよい炭素数1から5のアルコキシ基、XはSbF6、PF6、SbF5(OH)およびPF5(OH)からなる群から選ばれる陰イオンである。)で表される化合物が好ましく、具体例としては、ビス−[4−(ビス(4−ブトキシフェニル)スルフォニオ)フェニル]スルフィド・ビスヘキサフルオロアンチモネートを例示することができる。
【0064】
本発明のポジ型レジスト組成物は、好ましくは上記環状シロキサン化合物100質量部に対して、上記エネルギー線感受性酸発生剤を0.01〜10質量部配合していることがよく、より好ましくは0.05〜5質量部配合していることがよい。
【実施例】
【0065】
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0066】
〔実施例1〕
(環状シロキサン化合物1の製造)
1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン(以下、TMCTS)100質量部及び、4−ビニル安息香酸t−ブチルエステル(以下、VBATB)340質量部を、溶媒としての1−メトキシ−2−プロパノールアセテート(以下、MPA)700質量部に、触媒としての白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体(以下、Karstedt触媒)0.0001質量部とともに加えて、撹拌しながら70℃で3時間反応させた後、3時間還流処理した。
【0067】
反応液を70℃で溶媒を減圧留去することで、末端にエステル基を含有する本発明の環状シロキサン化合物1を得た。環状シロキサン化合物1をH−NMRにて分析したところ4.3〜5.0ppmの吸収域に帰属するSiH基の吸収が見られなかった。環状シロキサン化合物1は上記化合物1に相当する構造の化合物であると同定された。
【0068】
(ポジ型レジスト組成物1の製造)
上記本発明の環状シロキサン化合物1の100質量部に対し、溶媒としてのMPA400質量部及び、活性エネルギー線感受性酸発生剤としてのビス−[4−(ビス(4−ブトキシフェニル)スルフォニオ)フェニル]スルフィドビスヘキサフルオロアンチモネート(以下、光酸発生剤1)0.2質量部を配合して、本発明のポジ型レジスト組成物1を得た。
【0069】
〔実施例2〕
(環状シロキサン化合物2の製造)
TMCTS100質量部及び、メタクリル酸t−ブチルエステル(以下、MAATB)237質量部を、溶媒としてのMPA700質量部に、触媒としてのKarstedt触媒0.0001質量部とともに加えて、撹拌しながら70℃で3時間反応させた後、3時間還流処理した。
【0070】
反応液を70℃で溶媒を減圧留去することで、末端にエステル基を含有する本発明の環状シロキサン化合物2を得た。環状シロキサン化合物2をH−NMRにて分析したところ4.3〜5.0ppmの吸収域に帰属するSiH基の吸収が見られなかった。環状シロキサン化合物2は上記化合物2に相当する構造の化合物であると同定された。
【0071】
(ポジ型レジスト組成物2の製造)
上記本発明の環状シロキサン化合物2の100質量部に対し、溶媒としてのMPA400質量部及び、光酸発生剤1を0.2質量部配合して、本発明のポジ型レジスト組成物2を得た。
【0072】
〔実施例3〕
(環状シロキサン化合物3の製造)
TMCTS100質量部及び、p−(1−エトキシエトキシ)スチレン320質量部を、溶媒としてのMPA700質量部に、触媒としてのKarstedt触媒0.0001質量部とともに加えて、撹拌しながら70℃で3時間反応させた後、3時間還流処理した。
【0073】
反応液を70℃で溶媒を減圧留去することで、末端にアセタール基を含有する本発明の環状シロキサン化合物3を得た。環状シロキサン化合物3をH−NMRにて分析したところ4.3〜5.0ppmの吸収域に帰属するSiH基の吸収が見られなかった。環状シロキサン化合物3は上記化合物3に相当する構造の化合物であると同定された。
【0074】
(ポジ型レジスト組成物3の製造)
上記本発明の環状シロキサン化合物3の100質量部に対し、溶媒としてのMPA400質量部及び、光酸発生剤1を0.2質量部配合して、本発明のポジ型レジスト組成物3を得た。
【0075】
〔実施例4〕
(環状シロキサン化合物4の製造)
TMCTS100質量部及び、p−t−ブトキシスチレン293質量部を、溶媒としてのMPA700質量部に、触媒としてのKarstedt触媒0.0001質量部とともに加えて、撹拌しながら70℃で3時間反応させた後、3時間還流処理した。
【0076】
反応液を70℃で溶媒を減圧留去することで、末端にエーテル基を含有する本発明の環状シロキサン化合物4を得た。環状シロキサン化合物4をH−NMRにて分析したところ4.3〜5.0ppmの吸収域に帰属するSiH基の吸収が見られなかった。環状シロキサン化合物4は上記化合物4に相当する構造の化合物であると同定された。
【0077】
(ポジ型レジスト組成物4の製造)
上記本発明の環状シロキサン化合物4の100質量部に対し、溶媒としてのMPA400質量部及び、光酸発生剤1を0.2質量部配合して、本発明のポジ型レジスト組成物4を得た。
【0078】
〔実施例5〕
(環状シロキサン化合物5の製造)
TMCTS100質量部及び、p−アセトキシスチレン270質量部を、溶媒としてのMPA700質量部に、触媒としてのKarstedt触媒0.0001質量部とともに加えて、撹拌しながら70℃で3時間反応させた後、3時間還流処理した。
【0079】
反応液を70℃で溶媒を減圧留去することで、末端にアセトキシ基を含有する本発明の環状シロキサン化合物5を得た。環状シロキサン化合物5をH−NMRにて分析したところ4.3〜5.0ppmの吸収域に帰属するSiH基の吸収が見られなかった。環状シロキサン化合物5は上記化合物5に相当する構造の化合物であると同定された。
【0080】
(ポジ型レジスト組成物5の製造)
上記本発明の環状シロキサン化合物5の100質量部に対し、溶媒としてのMPA400質量部及び、光酸発生剤1を0.2質量部配合して、本発明のポジ型レジスト組成物5を得た。
【0081】
〔実施例6〕
(環状シロキサン化合物6の製造)
TMCTS100質量部及び、m,p−ジビニルベンゼン50質量部を、溶媒としてのMPA70質量部に、触媒としてのKarstedt触媒0.0001質量部とともに加えて、撹拌しながら70℃で3時間反応させた後、3時間還流処理した。
【0082】
反応液を70℃で溶媒を減圧留去することで、未だSiH基を有するオリゴマー状乃至ポリマー状の環状シロキサン化合物(以下環状シロキサン化合物中間体という)を得た。
【0083】
上記環状シロキサン化合物中間体の50質量部及び、VBATB100質量部を、溶媒としてのMPA300質量部に、触媒としてのKarstedt触媒0.0001質量部とともに加えて、撹拌しながら70℃で3時間反応させた後、3時間還流処理した。
【0084】
反応液を70℃で溶媒を減圧留去することで、末端にエステル基を含有する本発明の環状シロキサン化合物6を得た。環状シロキサン化合物6をH−NMRにて分析したところ4.3〜5.0ppmの吸収域に帰属するSiH基の吸収が見られなかった。環状シロキサン化合物6は上記化合物6に相当する構造の化合物であると同定された。環状ポリシロキサン化合物6の分子量は21000であった。
【0085】
(ポジ型レジスト組成物6の製造)
上記本発明の環状シロキサン化合物6の100質量部に対し、溶媒としてのMPA400質量部及び、光酸発生剤1を0.2質量部配合して、本発明のポジ型レジスト組成物6を得た。
【0086】
〔実施例7〕
(環状シロキサン化合物7の製造)
実施例6で得た環状シロキサン化合物中間体の50質量部及び、MAATB70質量部を、溶媒としてのMPA300質量部に、触媒としてのKarstedt触媒0.0001質量部とともに加えて、撹拌しながら70℃で3時間反応させた後、3時間還流処理した。
【0087】
反応液を70℃で溶媒を減圧留去することで、末端にエステル基を含有する本発明の環状シロキサン化合物7を得た。環状シロキサン化合物7をH−NMRにて分析したところ4.3〜5.0ppmの吸収域に帰属するSiH基の吸収が見られなかった。環状シロキサン化合物7は上記化合物7に相当する構造の化合物であると同定された。環状ポリシロキサン化合物7の分子量は19000であった。
【0088】
(ポジ型レジスト組成物7の製造)
上記本発明の環状シロキサン化合物7の100質量部に対し、溶媒としてのMPA400質量部及び、光酸発生剤1を0.2質量部配合して、本発明のポジ型レジスト組成物7を得た。
【0089】
〔実施例8〕
実施例1〜7で得られた本発明のポジ型レジスト1〜7を用いて、以下に従ってプリベーク試験片、光プリベーク試験片、ポストベーク試験片を作製し、下記の各種試験を行った。
【0090】
(試験片)
2.5cm四方のガラス板上に、上記ポジ型レジスト1〜7のそれぞれを、厚さ3μmとなるようにスピンコートした後、110℃で3分間加熱処理したものをプリベーク試験片とした。プリベーク試験片は同様の試験片を2枚ずつ作成した。
【0091】
また、同様のガラス板上に同様にスピンコートした後、高圧水銀灯により紫外線を200mJで照射後、110℃で3分間加熱処理したものを光プリベーク試験片とした。
【0092】
一方、2枚ずつ作製した上記プリベーク試験片の一方について下記除去試験を実施後、窒素雰囲気下200℃で1時間加熱処理したものをポストベーク試験片とした。
【0093】
(官能基評価法)
プリベーク試験片、光プリベーク試験片について、赤外分光光度計を用いて、2800〜3600cm−1間の水酸基吸収の有無を測定した。
【0094】
(除去剤溶液)
TMAH(テトラメチルアンモニウムヒドロキシド)の10質量%水溶液を除去剤とした。
【0095】
(除去試験)
プリベーク試験片、光プリベーク試験片を除去剤溶液に室温で3分間浸漬し、その後水洗し、風乾後に除去効果を判定した。
【0096】
(着色試験)
プリベーク試験片、ポストベーク試験片の膜の着色度合いについて、紫外可視分光光度計を用いて、400nmの透過率を測定した。透過率95%以上を○、透過率95%未満を×で表す。
【0097】
(耐水試験)
プリベーク試験片、ポストベーク試験片について、イオン交換水に60℃で12時間浸漬した後の膜の状態変化及び、浸漬水のpHを測定した。試験後の膜の状態変化は無く、浸漬水のpHも変化しない場合を○、膜の状態、浸漬水のpHの何れか1つでも変化した場合を×で表す。
【0098】
(耐酸試験)
プリベーク試験片、ポストベーク試験片について、5質量%塩化水素酸水溶液に室温下で60分浸漬した後の目視による膜の状態変化、及び触針式表面形状測定器を用いた膜厚変化率を測定した。目視上試験後の膜の状態変化は無く、且つ膜厚変化率の絶対値が10%未満である場合を○、目視上試験後の膜の状態変化がある、若しくは膜厚変化率の絶対値が10%以上の何れか1つでも認められた場合を×で表す。
【0099】
(耐溶剤試験)
プリベーク試験片、ポストベーク試験片について、DMSO(ジメチルスルフォキシド)、アセトンに、それぞれ室温下で60分浸漬した後の膜厚変化率を、触針式表面形状測定器を用いて測定した。膜厚変化率の絶対値が10%未満である場合を○、10%以上である場合を×で表す。
【0100】
結果を表1に示す。表1に示した通り、本発明の環状シロキサン化合物を用いたポジ型レジスト組成物は、プリベークの状態にあってはアルカリ性の除去剤によって除去されず、且つ透明性高く、また耐水、耐酸、耐溶剤性が低いので不要の場合の除去性にも優れている。また、光プリベークの状態にあっては、アルカリ性の除去剤による除去性が高く、さらにポストベークの状態にあっては、アルカリ性除去剤で除去されないだけでなく、透明性が高く、且つ耐水、耐酸、耐溶剤性にも優れているので、非常に優れたレジスト、特にポジ型永久レジスト(とりわけ高透明性ポジ型永久レジスト)を与えるものであることが明らかである。
【0101】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物及び/又は下記一般式(1)で表される化合物を下記一般式(2)で表されるジビニル化合物とヒドロシリル化反応させて得られる化合物を、下記一般式(3)で表されるモノビニル化合物とヒドロシリル化反応させて得られることを特徴とする環状シロキサン化合物。

(式中、Rは炭素原子数1〜8の炭化水素基であり、mは2〜8の数である。)
CH=CH−R−CH=CH (2)
(式中、Rは置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20の2価の炭化水素基である。)
CH=CR−(R−T (3)
(式中、Rは水素原子又は炭素原子数1〜3の直鎖又は分岐鎖の脂肪族炭化水素基であり、Rは炭素原子数1〜20の2価の炭化水素基であり、hは1又は0の数であり、Tはアルカリ親和性官能基の一部を置換して酸解離性の保護基とした基である。)
【請求項2】
下記一般式(1)で表される化合物及び/又は下記一般式(1)で表される化合物を下記一般式(2)で表されるジビニル化合物とヒドロシリル化反応させて得られる化合物を、下記一般式(3)で表されるモノビニル化合物とヒドロシリル化反応させた後、残存する−SiH基を不活性化して得られることを特徴とする環状シロキサン化合物。

(式中、Rは炭素原子数1〜8の炭化水素基であり、mは2〜8の数である。)
CH=CH−R−CH=CH (2)
(式中、Rは置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20の2価の炭化水素基である。)
CH=CR−(R−T (3)
(式中、Rは水素原子又は炭素原子数1〜3の直鎖又は分岐鎖の脂肪族炭化水素基であり、Rは炭素原子数1〜20の2価の炭化水素基であり、hは1又は0の数であり、Tはアルカリ親和性官能基の一部を置換して酸解離性の保護基とした基である。)
【請求項3】
請求項1に記載の環状シロキサン化合物及び活性エネルギー線感受性酸発生剤を必須成分とすることを特徴とするポジ型レジスト組成物。
【請求項4】
請求項2に記載の環状シロキサン化合物及び活性エネルギー線感受性酸発生剤を必須成分とすることを特徴とするポジ型レジスト組成物。

【公開番号】特開2008−231068(P2008−231068A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−75991(P2007−75991)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】