説明

産業機械の振動減衰装置

【課題】防振すべき部位内の居住性や安定性を向上させるとともに、大きな振動に対しても容量を抑えたアクチュエータにより、振動の減衰を可能とする、コンパクト、かつ低コストで製造可能な産業機械の振動減衰装置を提供する。
【解決手段】振動検出器30が検出した設定値a以上の変位に伴う最初の衝撃時から振動収束時までにアクチュエータ26を駆動および停止させる、アクチュエータ26の制御手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機体を構成する上部体および下部体の間に設けた、弾性体を備えたリンク機構からなる、機体の上下方向に摺動可能とした防振支持部材と、上部体または下部体の振動を検出する手段と、防振支持部材を弾性体とは別個に機体の上下方向に摺動させるアクチュエータと、からなる、上部体または下部体に加わる振動を減少させる産業機械の振動減衰装置に関するものであり、より詳細には、振動減衰装置は、振動を検出する手段が検出した設定値以上の変位に伴う最初の衝撃時から変位収束時までにアクチュエータを駆動および停止させる、アクチュエータの制御手段を備えることに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の産業機械の車両には、例えば、走行時に路面などの凹凸(路面反力)に起因して車体へ入力される振動から、運転席を防振するアクティブシートとして、運転シートと、床面との間に昇降リンク機構を介在させるとともに、この昇降リンク機構の空間には、エアバネなどの弾性体および電動モータなどのアクチュエータを設置し、振動検出器からの路面反力に応じた、例えば加速度信号に基づいて、コントローラがアクチュエータを介してボールねじなどを駆動させ、路面反力による前記加速度を打ち消すだけの上下逆方向の加速度をこの運転シートに付加して、運転シートが受ける路面反力を低減させるものがある。(例えば特許文献1)
【0003】
【特許文献1】特開平11−123972号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このような車両のアクティブシートでは、検出器により検出された、車両が受ける大小あらゆる振動に対して、アクチュエータを駆動制御してボールねじなどを作動させ、運転シートの振動減衰操作を行っており、特に車両が大きな振動を受けた際には、昇降リンク機構に有するコイルバネなどの弾性体と、ボールねじとの両者によって、振動を吸収しようするため、大きな振動に伴う運転シートの上下振動を抑えるには、その振動の大きさに応じてアクチュエータに要求されるエネルギーが大きくなり、装置のコンパクト化を妨げたり、コストが上昇してしまうという問題があった。
そこで、この発明の目的は、振動を検出する手段が検出した設定値以上の変位に伴う最初の衝撃時および変位収束時に対してアクチュエータを駆動または停止させる、アクチュエータの制御手段を備えることで、防振すべき部位内の居住性や安定性を向上させるとともに、大きな振動に対しても容量を抑えたアクチュエータにより、振動の減衰を可能とする、コンパクト、かつ低コストで製造可能な産業機械の振動減衰装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このため、請求項1に記載の発明は、機体を構成する上部体および下部体の間に設けた、弾性体を備えたリンク機構からなる、前記機体の上下方向に摺動可能とした防振支持部材と、前記上部体または前記下部体の振動を検出する手段と、前記防振支持部材を前記弾性体とは別個に前記機体の上下方向に摺動させるアクチュエータと、からなる、前記上部体または前記下部体に加わる振動を減少させる産業機械の振動減衰装置において、
前記振動減衰装置は、前記振動を検出する手段が検出した設定値以上の変位に伴う最初の衝撃時から変位収束時までに前記アクチュエータを駆動および停止させる、アクチュエータの制御手段を備えることを特徴とする。
【0006】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の産業機械の振動減衰装置において、前記制御手段は、前記アクチュエータの停止タイミングを、前記振動を検出する手段が検出した設定値以上の変位とする。
【0007】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の産業機械の振動減衰装置において、前記振動を検出する手段は、前記振動の前記変位を検出するとともに、前記振動に伴う最初の衝撃時の、前記変位の正負切替点を検出することを特徴とする。
【0008】
請求項4に記載の発明は、請求項1および3に記載の産業機械の振動減衰装置において、前記制御手段は、前記アクチュエータの駆動タイミングを、前記変位の正負切替領域内とする。
【0009】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の産業機械の振動減衰装置において、前記振動を検出する手段は、設定した前記変位の許容変化幅内に有する前記変位を前記変位収束時として検出することを特徴とする。
【0010】
請求項6に記載の発明は、請求項1および5に記載の産業機械の振動減衰装置において、前記制御手段は、前記アクチュエータの停止タイミングを、前記変位収束時とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、機体を構成する上部体および下部体の間に設けた、弾性体を備えたリンク機構からなる、機体の上下方向に摺動可能とした防振支持部材と、上部体または下部体の振動を検出する手段と、防振支持部材を弾性体とは別個に機体の上下方向に摺動させるアクチュエータと、からなる、上部体または下部体に加わる振動を減少させる産業機械の振動減衰装置において、振動減衰装置は、振動を検出する手段が検出した設定値以上の変位に伴う最初の衝撃時から変位収束時までにアクチュエータを駆動および停止させる、アクチュエータの制御手段を備えるので、機体に大きな振動が加振された最初の大きな衝撃時にアクチュエータを停止して、弾性体の伸縮のみで衝撃を吸収させ、シートの座り心地など居住性を快適にするとともに、この衝撃吸収後から振動の変位収束時まではアクチュエータを駆動して、振動を迅速に減衰させることができる。さらに、変位収束時には、通常のシート特性となるようにアクチュエータの制御モードを切替えて、シートの座り心地を安定させることができる。
従って、大きな振動に対しても容量を抑えたアクチュエータにより、振動の減衰を可能とする、コンパクト、かつ低コストで製造可能な産業機械の振動減衰装置を提供することができる。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、制御手段は、アクチュエータの停止タイミングを、振動を検出する手段が検出した設定値以上の変位とするので、機体に大きな振動が加振された最初の大きな衝撃を弾性体の伸縮のみで吸収でき、シートに着座などする防振すべき部位内の乗員は、最初の大きな衝撃を受けた時に、シートの座り心地の硬さなど不快感や疲労感を有することなく快適に着座することができる。従って、防振すべき部位内の居住性や安定性を向上させるとともに、大きな振動に対しても容量を抑えたアクチュエータにより、振動の減衰を可能とする、コンパクト、かつ低コストで製造可能な産業機械の振動減衰装置を提供することができる。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、振動を検出する手段は、振動の変位を検出するとともに、振動に伴う最初の衝撃時の、変位の正負切替点を検出するので、コントローラは、振動に伴う最初の大きな衝撃から振幅を繰り返す振動に切り替わる、この正負切替点を基準としてアクチュエータの駆動タイミングとし、アクチュエータの駆動を制御することができる。従って、大きな振動に対しても容量を抑えたアクチュエータにより、振動の減衰を可能とする、コンパクト、かつ低コストで製造可能な産業機械の振動減衰装置を提供することができる。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、制御手段は、アクチュエータの作動タイミングが、変位の正負切替領域内であるので、最初の大きな衝撃を弾性体のみで快適に吸収し、その後の振幅を繰り返す振動を、弾性体とともにアクチュエータの駆動による防振支持部材の摺動で、迅速に減衰することができる。従って、大きな振動に対しても容量を抑えたアクチュエータにより、振動の減衰を可能とする、コンパクト、かつ低コストで製造可能な産業機械の振動減衰装置を提供することができる。
【0015】
請求項5に記載の発明によれば、振動を検出する手段は、設定した変位の許容変化幅内に有する変位を変位収束時として検出するので、コントローラは、アクチュエータの停止タイミングを、この変位収束時として、大きな振動を迅速、かつ確実に減衰させることができる。従って、大きな振動に対しても容量を抑えたアクチュエータにより、振動の減衰を可能とする、コンパクト、かつ低コストで製造可能な産業機械の振動減衰装置を提供することができる。
【0016】
請求項6に記載の発明によれば、制御手段は、アクチュエータの停止タイミングを、変位収束時とするので、コントローラは、アクチュエータの停止タイミングを、この変位収束時として、大きな振動を迅速、かつ確実に減衰させるとともに、この変位収束時でアクチュエータを、通常のシート特性にする駆動制御に切換えることができる。従って、大きな振動に対しても容量を抑えたアクチュエータにより、振動の減衰を可能とする、コンパクト、かつ低コストで製造可能な産業機械の振動減衰装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ、この発明を実施するための最良の形態について詳述する。
図1は本発明の、上部体および下部体を備える産業機械の一実施例を示す、作業車両としてのホイール式トラクタの左側面図、図2は同トラクタの平面図である。
【0018】
この産業機械として例示する、作業車両のトラクタ1は、車体フレーム2の前後に、前輪3および後輪4を備え、前輪3の上方にボンネット5を形成するとともに、その内側には原動機部としてのエンジン6およびクラッチハウジング7が配置され、さらにこのクラッチハウジング7の後部にはミッションケース8が配設されており、エンジン6からの動力が前輪3および後輪4に伝達される。このような構成を有する下部体1Bのボンネット5の後部に連続して車体フレーム2上にはキャビン9が設けられる。なお、トラクタ1は、上述したようなキャビン仕様のほか、ロプス仕様であってもよい。
【0019】
次いで、キャビン9内には、操縦部として、ブレーキペダルやクラッチペダルなどの操作ペダル10、ステアリングハンドル11、後述する上部体1Aとしてのシート12が設けられる。また、シート12の両側方に有する一部不図示の左右フェンダには、例えば、主変速レバー14や副変速レバー、PTO変速レバーなどの各種操作レバーが突設されている。また、キャビン9の外周は、それぞれフロントガラス15、リヤガラス16、ドア17、屋根18などを取付けてもよい。
【0020】
そして、エンジン6の動力は、ミッションケース8から前後に突出した不図示のPTO軸に伝達され、このPTO軸の駆動により三点リンク式などの作業機装着装置19を介して車両後端に装着された図示しない作業機が駆動される。
【0021】
次に、本願発明の振動減衰装置について、その具体的構成を説明する。図3は上部体を左側面から見た斜視図、図4は振動減衰装置を下方に備える上部体の左側面模式図、図5は振動減衰装置の左側面模式図、図6は振動減衰装置の背面模式図である。
【0022】
まず、図3に示すように、シート12などの上部体1A(車体フレーム2上のキャビン9などの操縦部をはじめ、乗員の乗る部位が上部体1Aであるが、本発明では、シート12の振動減衰を説明するため、以後このシート12を上部体1Aとする)は、車体フレーム2などの下部体1B上に、図示しないが通常用いられる弾性材などの防振部材を介して下部体1Bの一部として取付けた、例えば台座21上に設置することができる。そして、この上部体1Aの下方は、その四方にカバー22を覆設してもよい。
【0023】
上部体1Aの下方には、図4に示すように、上部体1Aと、下部体1Bとの間に、走行時に路面などの凹凸に起因して車両の下部体1Bなどへ入力される振動から、上部体1Aを防振する振動減衰装置23が備えられる。なお、図4では、振動減衰装置23が見えるように、上述したカバー22を取り外したものである。また、図6では、弾性体20の図示を省略する。
【0024】
振動減衰装置23は、図5〜6に示すように、パンタグラフなどの防振支持部材24,25(リンク機構)や、コイルバネなどの弾性体20、電動モータなどのアクチュエータ26などから構成される。この振動減衰装置23は、例えば、上部体1Aの底部に取り付けられた上部体1Aの一部である上板27と、下部体1B上に取り付けられた下部体1Bの一部である下板28との間であって、これら上板27および下板28の車両左右方向の両側部には、それぞれ2本のアーム24a,24bおよび25a,25bを略X字状に回動支点kで連結し、アームの前部をボルト締結や溶接など適宜方法で上板27および下板28に固定するとともに、アームの後部を車両前後方向に摺動自在としたリンク機構で、上部体1Aを、回動支点kを中心として車両の上下方向に摺動可能とする、防振支持部材24,25が、車両の前後方向に設置される。なお、防振支持部材24,25のパンタグラフ構造は周知の技術であるため、詳細な説明は省略する。
【0025】
また、上板27と、下板28との間であって、これら上板27および下板28の前部には、弾性体20が上下方向に伸縮自在に設置される。なお、弾性体20は、コイルバネに限定されず、空気ダンパや油圧ダンパ、アキュムレータなどの付勢手段であってもよい。また、弾性体20は、上板27と、下板28との間であり、かつその反力が機体上下方向に作用すれば、左右方向などその設置向きや設置位置は限定されない。
【0026】
さらに、上板27と、下板28との間、かつ、防振支持部材24,25の中央近傍であって、防振支持部材24,25の回動支点k近傍であって、例えば、防振支持部材24の内側部に位置するアーム24bには、アクチュエータ26がボルト締結など適宜方法で取付けられる。なお、アーム24bは、アクチュエータ26の駆動軸26aが接触しないように、中央近傍を分断し、この分断した中央近傍を架橋するようにしてアクチュエータ26が取付けられる。なお、アクチュエータ26は、上記とは逆の防振支持部材25に取付けてもよく、さらには防振支持部材24,25の両方に取付けてもよい。
【0027】
このアクチュエータ26の駆動軸26aを、防振支持部材24におけるアーム24aの回動支点kと一体とすることで、駆動軸26aの回転によりアーム24aが駆動軸26aを中心として時計回りおよび反時計回りに回動するため、アーム24aの後端部が前後方向に摺動する。従って、アクチュエータ26の駆動により、防振支持部材24の上下方向の摺動が上板27を介して防振支持部材25も上下方向に摺動する構成とされる。そして、上部体1Aは、これら弾性体20や、防振支持部材24,25で支持される。なお、アクチュエータ26は、上述した電動モータに限定されず、回転型のアクチュエータであればよい。
【0028】
また、アクチュエータ26は、後述するコントローラ32を介して、上部体1Aの適宜位置に取付けられた、上部体1Aが受ける振動の大きさを検出する手段として、例えば、加速度検出器などの振動検出器30に接続される。
【0029】
なお、振動検出器30は、加速度検出器に限定されず、変位検出器であってもよく、それらの検出器は、上部体1Aもしくは下部体1Bに設置されることが好ましい。また、振動検出器30は、上述以外にも回転センサや、ジャイロ、傾斜センサなどの回転検出器であってもよく、これら検出器の場合は、防振支持部材24,25に設置されることが好ましい。
【0030】
このような振動減衰装置23により、上部体1Aが路面の凹凸などに起因する機体上下方向の振動を受けた場合、上部体1Aは、弾性体20の伸縮とともに、アクチュエータ26の駆動による駆動軸26aの回転で、振動方向とは逆方向に与える防振支持部材24,25の上下摺動により、この防振支持部材24,25が上板27に、変位に比例する弾性力や、速度に比例する減衰力、加速度に比例する慣性力などの力を作用させ、弾性体20および防振支持部材24,25の両者の上述したような力により上部体1Aが受ける振動を迅速に減衰することができる。なお、これら防振支持部材やアクチュエータの設置数や設置位置は、上述に限定されない。
【0031】
次に、図7は、振動検出器により上部体の上下振動を変位として検出した経時変化の一例を概略的に示したグラフである。本願発明の振動検出器30は、図7に示すように、上部体1A(機体)に、機体の上下方向の振動が加振されたとき、通常の中程度以下の振動検出以外にも、特に予め設定しておいた、振動の大きさを検出する変位の一例として示す相対速度が、設定値a以上となった大きな振動を最初の衝撃(パンチング)として検出するとともに、上部体1Aが、正速度または負速度の一方(機体の下方向)に受けた前記パンチングとは正負逆速度に変わる(機体の上下の振幅方向が変わる)点を、相対速度の正負切替点bとして検出することができる。この相対速度の設定値aは適宜設定を変更することができる。なお、上述したパンチングとは、機体が突起物などを乗り越えた後の最初の大きな落下衝撃を指す。また、設定値aは、上述したパンチングとする他に、パンチングの予兆としてもよい。
【0032】
また、振動による相対速度は、振動の減衰に伴いその相対速度の変化幅が徐々に縮小してゆくが、振動検出器30は、振動による相対速度が、予め設定した許容変化幅c以内に入った点を振動の収束時として検出することができる。なお、相対速度の許容変化幅cは適宜設定を変更することができる。
【0033】
ここで、本願発明の特徴である、上部体1Aが大きな振動を受けた場合の振動減衰装置23におけるアクチュエータ26の制御手段を、図8〜9を用いて説明する。なお、図8はアクチュエータの制御手段を示すブロック図、図9は制御手段の遷移図である。
【0034】
図8に示すように、振動検出器30は、コントローラ32に接続するとともに、コントローラ32をアクチュエータ26に接続することで、振動検出器30の検出情報によりコントローラ32がアクチュエータ26の駆動を制御する。
【0035】
以下、アクチュエータ26の制御手段を詳述する。コントローラ32は、まず、例えば図9に示すように、振動検出器30が機体の振動を検出したとき、その検出値である相対速度などの変位が設定値aよりも小さい場合には、アクチュエータ26を周知のように制御モードAで駆動制御する。つまり、比較的中程度以下の振動に対しては、上述したように、上部体1Aは、弾性体20の伸縮とともに、アクチュエータ26の駆動による駆動軸26aの回転で、振動方向とは逆方向に与える防振支持部材24,25の上下摺動により、この防振支持部材24,25が上板27に、前述の力を作用させ、弾性体20および防振支持部材24,25の両者の前記力により上部体1Aが受ける振動を迅速に減衰させることができる。
【0036】
次いで、振動検出器30により検出された変位の大きさが、設定値a以上のパンチングであった場合には、コントローラ32は、パンチングの前期として、アクチュエータ26を矢印イのように制御モードAから制御モードBに遷移して制御する。つまり、コントローラ32は、この設定値aを停止タイミングとして、アクチュエータ26の駆動を停止させる。このとき、アクチュエータ26を制御系から切り離して、防振支持部材24,25の上下摺動に全く寄与しない構成とする。また、弾性体20には、パンチングによる衝撃のエネルギーが蓄えられる。その結果、防振支持部材24,25がアクチュエータ26によって摺動されないことにより、この防振支持部材24,25が上板27に前述した力を作用させず、上部体1Aが受けたパンチングを、弾性体20のみの伸縮で吸収することができる。従って、上部体1Aの乗員は、上部体1Aが受ける大きな衝撃を、弾性体20および防振支持部材24,25の両者で受けることによる座り心地などの硬さに起因する不快さや疲労感を生じることなく、快適な居住性を得ることができる。
【0037】
次いで、コントローラ32は、振動検出器30の検出により、振動に伴う上部体1Aの変位が正負切替点bに達した、もしくは達すると予測した場合、パンチング後期に対応して、アクチュエータ26を矢印ロのように制御モードBから制御モードCに遷移して駆動制御する。つまり、コントローラ32は、この正負切替点bを基準として、正負切替領域b´を駆動タイミングとしてアクチュエータ26を駆動させて、防振支持部材24,25の摺動により、弾性体20に蓄えた衝撃エネルギーを減衰させることで、上部体1Aの振動を迅速に減衰する。その結果、大きな振動(パンチング)に対しても容量を抑えたアクチュエータにより、振動の減衰を可能とすることができる。なお、正負切替領域b´は、正負切替点bを基準として、上部体1Aの固有振動数の前後1/4周期程度以内とすることが好ましい。
【0038】
なお、アクチュエータ26が、制御モードCにおいて駆動中に、設定値a以上のさらに新たなパンチングが機体(上部体1A)に印加されたことを振動検出器30が検出などした場合には、コントローラ32は、アクチュエータ26を矢印ハのように制御モードCから制御モードBに遷移して(戻して)、上述したようにアクチュエータ26の駆動を停止させ、パンチングを、弾性体20のみの伸縮で吸収させる。
【0039】
次いで、コントローラ32は、振動検出器30の検出により、振動に伴う上部体1Aの変位が、予め設定した変位の許容変化幅c以内に入った場合、アクチュエータ26を矢印ニのように制御モードCから制御モードAに遷移して駆動制御する。つまり、コントローラ32は、アクチュエータ26をパンチングによる振動を減衰させる作動から、通常走行時における通常のシート特性にする作動に切換える。その結果、変位が許容変化幅c以内に入った比較的小さな振動を含む振動収束時において、弾性体20およびアクチュエータ26による防振支持部材24,25両者の前記した力を上板27に作用させて、上部体1Aの座り心地など居住性をやや硬くすることで、上部体1Aの安定性を向上させる。
【0040】
なお、コントローラ32は、上述したように、振動検出器30の検出による変位が許容変化幅c以内に入ったことで、アクチュエータ26の駆動制御を矢印ニのように制御モードCから制御モードAに戻したが、変位が何らかの原因で許容変化幅c以内から外れた、もしくは入っていなかった場合などは、コントローラ32は、アクチュエータ26を矢印ホのように制御モードAから制御モードCに再度戻して駆動制御することもできる。
【0041】
さらに、コントローラ32は、上述したように、振動検出器30の検出による変位が設定値a以上のパンチングであった場合には、アクチュエータ26を矢印イのように制御モードAから制御モードBに遷移して制御するが、変位が何らかの原因で設定値aを越えていなかった場合などは、コントローラ32はアクチュエータ26を、矢印へのように制御モードBから制御モードAに戻して制御することもできる。
【0042】
以上のような構成にすることで、機体に大きな振動が加振された衝撃(パンチング)時に、アクチュエータ26の駆動を停止して、弾性体20の伸縮のみで衝撃を吸収させ、上部体1Aの座り心地など居住性を快適にするとともに、この衝撃吸収後から振動収束時まではアクチュエータ26を駆動して、振動を迅速に減衰させることができる。従って、大きな振動に対しても容量を抑えたアクチュエータ26により、振動の減衰を可能とする、コンパクト、かつ低コストな振動減衰装置23とすることができる。さらに、振動による変位収束時には、アクチュエータ26を停止させるとともに、通常のシート特性となるようにアクチュエータ26を駆動制御して、上部体1Aの座り心地を安定させることができる。
【0043】
以上詳述したように、この例の産業機械の振動減衰装置23は、機体を構成する上部体1Aおよび下部体1Bの間に設けた、弾性体20を備えたリンク機構からなる、機体の上下方向に摺動可能とした防振支持部材24,25と、上部体1Aまたは下部体1Bの振動を検出する手段(振動検出器30)と、防振支持部材24,25を弾性体20とは別個に機体の上下方向に摺動させるアクチュエータ26と、からなる、上部体1Aまたは下部体1Bに加わる振動を減少させ、振動減衰装置23は、振動検出器30が検出した設定値a以上の変位に伴う最初の衝撃時から変位収束時までにアクチュエータ26を駆動および停止させる、アクチュエータ26の制御手段を備えるものである。
【0044】
加えて、変位を検出する振動検出器30は、振動に伴う最初の衝撃時の変位の、正負切替点bを検出するとともに、制御手段は、それぞれ振動検出器30の検出による、設定値a以上の振動をアクチュエータ26の停止タイミング、正負切替領域b´内の振動をアクチュエータ26の駆動タイミング、許容変化幅c内の振動をアクチュエータ26の停止タイミングとする。
【0045】
以上は、産業機械の一例として、ホイール式トラクタについて説明してきたが、この発明はこれに限定されるものではなく、クローラ式トラクタやコンバイン、田植機など農作業車両のほか、建設作業車両として、バックホーやブルトーザなど、また除雪車や救急車などの車両のほか、航空機、船舶など防振すべき部位を備えたあらゆる産業機械に適用することができる。
【0046】
さらに、この振動減衰装置23は、上述してきたような、機体の上部体1Aの防振に限定して適用されるものではなく、例えば、操縦部や客室などを機体の下部体1Bに備える吊り下げ式モノレールなど、防振すべき部位が機体の下部体1Bに有するあらゆる産業機械にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の上部体および下部体を備える産業機械の一実施例を示す、作業車両としてのホイール式トラクタの左側面図である。
【図2】同トラクタの平面図である。
【図3】上部体を左側面から見た斜視図である。
【図4】振動減衰装置を下方に備える上部体の左側面模式図である。
【図5】振動減衰装置の左側面模式図である。
【図6】振動減衰装置の背面模式図である。
【図7】振動検出器により上部体の上下振動を変位として検出した経時変化の一例を概略的に示したグラフである。
【図8】アクチュエータの制御手段を示すブロック図である。
【図9】制御手段の遷移図である。
【符号の説明】
【0048】
1A 上部体
12 シート
20 弾性体
23 振動減衰装置
24,25 防振支持部材
26 アクチュエータ
26a 駆動軸
27 上板
30 振動検出器
32 コントローラ
A,B,C 制御モード
a 設定値
b 正負切替点
b´ 正負切替領域
c 許容変化幅
k 回動支点
イ、ロ、ハ、ニ、ホ、へ 矢印

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体を構成する上部体および下部体の間に設けた、弾性体を備えたリンク機構からなる、前記機体の上下方向に摺動可能とした防振支持部材と、前記上部体または前記下部体の振動を検出する手段と、前記防振支持部材を前記弾性体とは別個に前記機体の上下方向に摺動させるアクチュエータと、からなる、前記上部体または前記下部体に加わる振動を減少させる産業機械の振動減衰装置において、
前記振動減衰装置は、前記振動を検出する手段が検出した設定値以上の変位に伴う最初の衝撃時から変位収束時までに前記アクチュエータを駆動および停止させる、アクチュエータの制御手段を備えることを特徴とする産業機械の振動減衰装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記アクチュエータの停止タイミングを、前記振動を検出する手段が検出した設定値以上の変位とする、請求項1に記載の産業機械の振動減衰装置。
【請求項3】
前記振動を検出する手段は、前記振動の前記変位を検出するとともに、前記振動に伴う最初の衝撃時の前記変位の、正負切替点を検出することを特徴とする、請求項1に記載の産業機械の振動減衰装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記アクチュエータの駆動タイミングを、前記変位の正負切替領域内とする、請求項1よび3に記載の産業機械の振動減衰装置。
【請求項5】
前記振動を検出する手段は、設定した前記変位の許容変化幅内に有する前記変位を前記変位収束時として検出することを特徴とする、請求項1に記載の産業機械の振動減衰装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記アクチュエータの停止タイミングを、前記変位収束時とする、請求項1および5に記載の産業機械の振動減衰装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−227014(P2009−227014A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−72894(P2008−72894)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】