説明

癌の浸潤を指標とした診断マーカーおよび癌治療遺伝子

【課題】早期かつ最小の切除で、転移および/または浸潤のリスクを指標として口腔癌の悪性度を診断する方法を提供することが、課題である。さらに、口腔癌における浸潤および/または転移を抑制する核酸、抗体および組成物を提供することが、課題である。
【解決手段】浸潤能の高い細胞において高い発現を示す新規マーカー遺伝子が開示される。この遺伝子は、5mm程度の最小の切除物からでも早期に口腔癌の浸潤および/または転移のリスクを決定することを可能にするマーカーである。本発明は、少なくとも2つの浸潤/転移マーカーを組み合わせて解析することが可能であることから、総合的に浸潤/転移を予測することで精度が増すという効果も奏する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌の浸潤および/または転移のリスクの予測による悪性度診断方法に関する。本発明はまた、癌の浸潤および/または転移を阻害および/または抑制する核酸、抗体および組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、口腔癌は、増加傾向にある。口腔癌とは、歯肉、舌、頬部、口蓋、口底等の口腔を構成する部位の粘膜より発生する癌のことで、その発生頻度は全体の癌の約4%であり、日本では毎年1万5千人の新しい患者がでており、約7千人の人が口腔癌で死亡していると推定される。なお、東南アジア諸国では発癌因子を含む檳榔子の実を噛む習慣があるため、口腔癌の発生率が非常に高く、世界では年間50万人の患者が発生し、全体の癌で5番目に発生率の高い癌である(非特許文献1)。
【0003】
通常、粘膜表層に生じた癌は、深部へと浸潤・増殖し、頚部リンパ節や他臓器に転移する。口腔癌の悪性度には、深部への浸潤および/または転移が重要な因子であると考えられている。
【0004】
現在、口腔癌の治療方針は、主に病理診断(生検)によって決定されている。生検においては、生体組織の一部を切除または摘出し、その形態から悪性度等を診断し、治療方針を決定する。しかし、形態からの判断では浸潤および/または転移の予測は不可能であるため、浸潤および/または転移を予測し、それによって早期に治療方針を決定する方法は現在のところ存在しない。
【0005】
また、患者のクオリティ・オブ・ライフ(QOL)の観点から、口腔癌が存在する部位である顔または舌を大規模に切除するのは望ましくない。5mm程度の最小の切除によりその癌の悪性度が判定され、治療方針を決定できることが望ましい。この点からも、現在の生検とは異なる、口腔癌の悪性度診断法が必要とされている。
【0006】
近年の分子生物学の進歩に伴って、疾患の存在、リスクまたは悪性度診断のための特定の核酸またはポリペプチドのマーカーの同定がさかんに試みられている。しかし、口腔癌の浸潤および/または転移を予測し、早期に治療方針を決定することを可能にするような優れたマーカーは存在しない。
【非特許文献1】Mao L,Hong WK,Paradimitrakopoulou VA.Focus on head and neck cancer.Cancer Cell 2004年;5:p.311〜6
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の問題点を考慮し、本発明は、早期かつ最小の切除で、転移および/または浸潤のリスクを指標として口腔癌の悪性度を診断する方法を提供することを課題とする。本発明はさらに、口腔癌における浸潤および/または転移を抑制する核酸、抗体および組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、浸潤能の高い細胞において高い発現を示す遺伝子を新規に同定することによって、本発明を完成させた。この遺伝子は、5mm程度の最小の切除物からでも早期に口腔癌の浸潤および/または転移のリスクを決定することを可能にするマーカーである。本発明におけるこれらのマーカーの同定は、浸潤および/または転移を予測する悪性度診断法は存在しないという従来の課題を解決するという顕著な効果を奏する。本発明は、少なくとも2つの浸潤/転移マーカーを組み合わせて解析することが可能であることから、総合的に浸潤/転移を予測することで精度が増すという効果も奏する。
【0009】
従って、本発明は、以下を提供する。
(書類名)特許請求の範囲
(項目1)
癌の転移および/または浸潤の可能性を評価するための診断マーカーであって、以下:
配列番号1に記載の核酸配列を含む核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であって、癌細胞の浸潤を増強させる活性を有するポリペプチドをコードする核酸、
配列番号1に記載の核酸配列と少なくとも80%相同な配列を含む核酸であって、癌細胞の浸潤を増強させる活性を有するポリペプチドをコードする核酸、
配列番号1に記載の核酸配列のフラグメントを含む核酸、
配列番号1に記載の核酸配列のフラグメントを含む核酸の対であって、少なくとも10塩基の長さであって、PCRプライマーとして配列番号1に記載の核酸配列の少なくとも一部を増幅できる核酸の対、
配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドに反応する抗体、
配列番号3に記載の核酸配列を含む核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であって、癌細胞の浸潤を増強させる活性を有するポリペプチドをコードする核酸、
配列番号3に記載の核酸配列と少なくとも80%相同な配列を含む核酸であって、癌細胞の浸潤を増強させる活性を有するポリペプチドをコードする核酸、
配列番号3に記載の核酸配列のフラグメントを含む核酸、
配列番号3に記載の核酸配列のフラグメントを含む核酸の対であって、少なくとも10塩基の長さであって、PCRプライマーとして配列番号1に記載の核酸配列の少なくとも一部を増幅できる核酸の対、
配列番号4に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドに反応する抗体、
からなる群より選択される核酸または抗体を含む、癌の転移および/または浸潤診断マーカー。
(項目2)
上記癌が、頭頸部に生じた扁平上皮癌である、項目1に記載の診断マーカー。
(項目3)
上記癌が、口腔癌である、項目2に記載の診断マーカー。
(項目4)
項目1に記載の診断マーカーであって、以下、
配列番号1に記載の核酸配列を含む核酸、および
配列番号3に記載の核酸配列を含む核酸、
からなる群より選択される核酸を含む、診断マーカー。
(項目5)
項目1に記載の診断マーカーであって、以下、
配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドに反応する抗体、および
配列番号4に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドに反応する抗体、
からなる群より選択される抗体を含む、診断マーカー。
(項目6)
被験体において癌の転移および/または浸潤の可能性を評価するための方法であって、
(a)(i)配列番号1および配列番号3からなる群より選択される核酸配列を含む核酸、または
(ii)(i)の核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であって、癌細胞の浸潤を増強させる活性を有するポリペプチドをコードする核酸、
の発現量を、その被験体由来の生物学的サンプルにおいて測定する工程、ならびに
(b)その発現量を指標として、その被験体におけるその転移および/または浸潤の可能性を評価する工程、
を包含する、方法。
(項目7)
被験体において癌の転移および/または浸潤の可能性を評価するための方法であって、
(a)(i)配列番号2および配列番号4からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するポリペプチド、または
(ii)配列番号2および配列番号4からなる群より選択されるアミノ酸配列において1または数個の変異、置換、挿入または欠失を含むアミノ酸配列を有し、かつ癌細胞の浸潤を増強させる活性を有するポリペプチド、
の発現量を、その被験体由来の生物学的サンプルにおいて測定する工程、ならびに
(b)その発現量を指標として、その被験体におけるその転移および/または浸潤の可能性を評価する工程、
を包含する、方法。
(項目8)
癌細胞の転移および/または浸潤を阻害および/または抑制する抗体であって、その抗体は、
配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドに反応する抗体、および
配列番号4に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドに反応する抗体、
からなる群より選択される、抗体。
(項目9)
上記癌が、頭頸部に生じた扁平上皮癌である、項目8に記載の抗体。
(項目10)
上記癌が、口腔癌である、項目9に記載の抗体。
(項目11)
癌細胞の転移および/または浸潤を阻害および/または抑制する組成物であって、項目8〜10のいずれか1項に記載の抗体を含む、組成物。
(項目12)
さらに抗癌剤を含む、項目11に記載の組成物。
(項目13)
上記抗癌剤が、シスプラチンまたは5−FUである、項目12に記載の組成物。
(項目14)
癌細胞の転移および/または浸潤を阻害および/または抑制する核酸であって、その核酸は、
(i)配列番号1および配列番号3からなる群より選択される核酸配列を含む核酸、または
(ii)(i)の核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であって、癌細胞の浸潤を増強させる活性を有するポリペプチドをコードする核酸、
からなる群より選択される核酸の発現量を低下させる、
核酸。
(項目15)
上記核酸が、
配列番号1に記載の核酸配列を含む核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であり、癌細胞の浸潤を増強させる活性を有するポリペプチドをコードする核酸のフラグメントである、核酸
配列番号1に記載の核酸配列と少なくとも80%相同な配列を含む核酸であり、癌細胞の浸潤を増強させる活性を有するポリペプチドをコードする核酸のフラグメントである、核酸
配列番号3に記載の核酸配列を含む核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であり、癌細胞の浸潤を増強させる活性を有するポリペプチドをコードする核酸のフラグメントである、核酸、および
配列番号3に記載の核酸配列と少なくとも80%相同な配列を含む核酸であり、癌細胞の浸潤を増強させる活性を有するポリペプチドをコードする核酸のフラグメントである、核酸
からなる群より選択される、項目14に記載の核酸。
(項目16)
上記癌が、頭頸部に生じた扁平上皮癌である、項目14または15に記載の核酸。
(項目17)
上記癌が、口腔癌である、項目16に記載の核酸。
(項目18)
癌細胞の転移および/または浸潤を阻害および/または抑制する組成物であって、項目14〜17のいずれか1項に記載の核酸を含む、組成物。
(項目19)
さらに抗癌剤を含む、項目18に記載の組成物。
(項目20)
上記抗癌剤が、シスプラチンまたは5−FUである、項目19に記載の組成物。
(項目21)
項目14〜17のいずれか1項に記載の核酸を含む、ベクター。
(項目22)
癌細胞の転移および/または浸潤を阻害および/または抑制する組成物であって、項目21に記載のベクターを含む、組成物。
(項目23)
さらに抗癌剤を含む、項目22に記載の組成物。
(項目24)
上記抗癌剤が、シスプラチンまたは5−FUである、項目23に記載の組成物。
(項目25)
抗浸潤薬のスクリーニング方法であって、その方法は、
(a)(i)配列番号1および配列番号3からなる群より選択される核酸配列を含む核酸、または
(ii)(i)の核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であって、癌細胞の浸潤を増強させる活性を有するポリペプチドをコードする核酸、
を発現する細胞と、候補化合物とを接触させる工程;
(b)その細胞におけるその核酸の発現量を測定する工程;および
(c)その測定された発現量を指標として、その候補化合物から抗浸潤活性を有する化合物を選択する、工程;
を包含する、方法。
(項目26)
抗浸潤薬のスクリーニング方法であって、その方法は、
(a)(i)配列番号2および配列番号4からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するポリペプチド、または
(ii)配列番号2および配列番号4からなる群より選択されるアミノ酸配列において1または数個の変異、置換、挿入または欠失を含むアミノ酸配列を有し、かつ癌細胞の浸潤を増強させる活性を有するポリペプチド、
を発現する細胞と、候補化合物とを接触させる工程;
(b)その細胞におけるそのポリペプチドの発現量を測定する工程;および
(c)その測定された発現量を指標として、その候補化合物から抗浸潤活性を有する化合物を選択する、工程;
を包含する、方法。
(項目27)
癌の転移および/または浸潤の可能性を測定するためのキットであって、そのキットは、
項目1〜5のいずれか1項に記載の組成物、および
その癌の転移および/または浸潤の可能性を評価するための指示書、
を備える、キット。
(項目28)
上記癌が、頭頸部に生じた扁平上皮癌である、項目27に記載のキット。
(項目29)
上記癌が、口腔癌である、項目28に記載のキット。
【0010】
本発明のこれらおよび他の利点は、添付の図面を参照して、以下の詳細な説明を読みかつ理解すれば、当業者には明白になることが理解される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によって、早期かつ最小の切除で、転移および/または浸潤のリスクを指標として口腔癌の悪性度を診断する方法が提供される。さらに本発明によって、口腔癌における浸潤および/または転移を抑制する核酸、抗体および組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明を、必要に応じて、添付の図面を参照して例示の実施例により記載する。本発明を以下に説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0013】
以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきではない。本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは、当業者に明らかである。
【0014】
本発明者らは、口腔癌患者より培養細胞株を樹立し、その細胞よりin vitro invasion assay(具体的な方法については、実施例の一般的手法の項を参照のこと)を応用して浸潤能の高い細胞を分離した。浸潤能の高い細胞において高い発現を示す遺伝子であるIFITM1(核酸配列は配列番号1に、アミノ酸配列は配列番号2にそれぞれ示す)およびWNT5B(核酸配列は配列番号3に、アミノ酸配列は配列番号4にそれぞれ示す)を新規に同定することによって、本発明を完成させた。この遺伝子は、5mm程度の最小の切除物からでも早期に口腔癌の浸潤および/または転移のリスクを決定することを可能にするマーカーである。本発明におけるこれらのマーカーの同定は、浸潤および/または転移を予測する悪性度診断法は存在しないという従来の課題を解決するという顕著な効果を奏する。
【0015】
本発明はさらに、少なくとも2つ(IFITM1遺伝子およびWNT5B遺伝子)の浸潤/転移マーカーを組み合わせて解析することが可能であることから、総合的に浸潤/転移を予測することで精度が増すという効果も奏する。また、本発明の方法では、約2日という短期間で悪性度診断が完了する。
【0016】
IFITM1/9−27は、インターフェロンにより誘導される約17KDの膜タンパクとして同定された。IFITM1は、細胞増殖を抑制することが知られているが、その他の機能に関してはよくわかっていない。癌でのIFITM1の報告は、これまでにほとんどなく、癌におけるIFITM1の詳細な機能についてはまだ明らかにされていない。
【0017】
Wnt5Bは、発生や癌化に深く関わるWntファミリーのメンバーで、Wnt5Aと高い相同性を有している。機能については、ほとんど明らかにされていないが、脂肪細胞の機能を介して、糖尿病に関わることやWnt5Aとともに癌細胞株で高い発現を示すことが知られている。
【0018】
(用語の定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0019】
「転移」とは、癌細胞が体のある場所から他の離れた場所に運ばれ、そこで増殖を続ける現象をいう。
【0020】
「浸潤」とは、一般的に、癌細胞、白血球、リンパ球などの遊走細胞が組織内に侵入する病理的現象をいう。本明細書中における「浸潤」とは、特に、癌細胞の組織内への侵入をいう。
【0021】
「転移の可能性」とは、癌の転移の起こりやすさまたはリスクをいう。本明細書中における「転移」は、例えば以下の実施例5に記載されるように、マウスなどの実験動物のある部位(例えば、実施例5においては舌)に癌細胞を注射し、ある一定期間の経過後にその動物のいくつかの組織(例えば、実施例5においては頚部リンパ節および肺)を採取して、注射した部位以外の組織における癌の存在を試験することによって、決定される。マウスなどの実験動物の尾静脈に癌細胞を注射し、様々な臓器への転移の有無を決定するアッセイ法によってもまた、「転移」は決定され得る。
【0022】
「浸潤の可能性」とは、癌の浸潤の起こりやすさまたはリスクをいう。本明細書中における「浸潤」は、例えば実施例の一般的手法に記載されるようなin vitro invasion assayによって決定される。in vitro invasion assayでは、マトリゲルを移動(浸潤)してフィルターを貫通する細胞の数を指標にして、細胞株の浸潤能を決定する。一般的に、貫通した細胞数が多いほど、その細胞株の浸潤能は高く、貫通した細胞数が少ないほど、その細胞株の浸潤能は低い。
【0023】
本明細書中で「癌の転移および/または浸潤の可能性を評価する」とは、癌の転移および/または浸潤の起こりやすさまたはリスクを決定することをいう。本発明では一般的に、被験体由来の生物学的サンプルにおいてIFITM1遺伝子およびWNT5B遺伝子の発現が正常組織と比較して高い(例えば、コントロールの発現量の1.5倍以上)場合に、その被験体は「癌の転移および/または浸潤の可能性が高い」と評価され、正常組織と比較して同程度(例えば、コントロールの発現量の1〜1.2倍)の場合に、その被験体は「癌の転移および/または浸潤の可能性が高くない」と評価され、そして正常組織と比較して低い(例えば、コントロールの発現量の1倍未満)場合に、その被験体は「癌の転移および/または浸潤の可能性が低い」と評価される。本発明において使用するコントロールとしては、代表的には、口腔粘膜上皮(歯肉または舌の表面を覆う上皮組織)を使用するが、これに限定されない。
【0024】
「浸潤を増強させる」とは、浸潤能を高くすることをいう。上述のように、浸潤能は、in vitro invasion assayでは、移動してフィルターを貫通する細胞の数を指標にして決定される。浸潤が増強された細胞株は、in vitro invasion assayにおいて移動してフィルターを貫通する細胞の数が増加する。
【0025】
転移および/または浸潤を「阻害および/または抑制する」とは、癌の転移および/または浸潤を起こりにくくすること、転移および/または浸潤の可能性を低下させること、あるいは転移および/または浸潤が起こらないようにすることをいう。
【0026】
「ポリヌクレオチド」、「核酸」または「核酸分子」は、一本鎖形態、二本鎖形態、または他の形態である、リン酸エステルポリマー形態のリボヌクレオチド(アデノシン、グアノシン、ウリジン、もしくはシチジン;「RNA分子」)またはデオキシリボヌクレオチド(デオキシアデノシン、デオキシグアノシン、デオキシチミジン、もしくはデオキシシチジン(DNA分子」)、またはそれらの任意のホスホエステルアナログ(例えば、ホスホロチオエートおよびチオエステル)を指し得る。
【0027】
「ポリヌクレオチド配列」、「核酸配列」または「ヌクレオチド配列」は、核酸(例えば、DNAまたはRNA)中の一連のヌクレオチド塩基(「ヌクレオシド」とも呼ばれる)であり、2つの以上のヌクレオチドの任意の鎖またはその相補鎖を意味する。本発明の好ましい核酸は、配列番号1もしくは3のいずれかに示される核酸、ならびにその相補鎖、改変体およびフラグメントを包含する。
【0028】
「相補鎖」とは、ある核酸配列に対して塩基対を形成し得るようなヌクレオチドの鎖を意味する。例えば、二本鎖DNAの各々の鎖は互いに相補的な塩基配列を有し、一方の鎖から見て他方の鎖は相補鎖である。
【0029】
「コード配列」または発現生成物(例えば、RNA、ポリペプチド、タンパク質、もしくは酵素)を「コードする」配列は、発現された場合にその生成物の生成をもたらすヌクレオチド配列である。
【0030】
「タンパク質」、「ペプチド」または「ポリペプチド」は、2つ以上のアミノ酸の連続列を含む。本発明の好ましいペプチドは、配列番号2もしくは4のいずれかに示されるペプチド、ならびにその改変体およびフラグメントを包含する。
【0031】
「タンパク質配列」、「ペプチド配列」、または「ポリペプチド配列」または「アミノ酸配列」は、タンパク質、ペプチド、またはポリペプチド中にある一連の2つ以上のアミノ酸を指す。
【0032】
本明細書において遺伝子(例えば、核酸配列、アミノ酸配列など)の「相同性」とは、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいう。また、本明細書において配列(核酸配列、アミノ酸配列など)の同一性とは、2以上の対比可能な配列の、互いに対する同一の配列(個々の核酸、アミノ酸など)の程度をいう。従って、ある2つの遺伝子の相同性が高いほど、それらの配列の同一性または類似性は高い。2種類の遺伝子が相同性を有するか否かは、配列の直接の比較、または核酸の場合ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション法によって調べられ得る。2つの遺伝子配列を直接比較する場合、その遺伝子配列間でDNA配列が、代表的には少なくとも50%同一である場合、好ましくは少なくとも70%同一である場合、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である場合、それらの遺伝子は相同性を有する。本明細書において、遺伝子(例えば、核酸配列、アミノ酸配列など)の「類似性」とは、上記相同性において、保存的置換をポジティブ(同一)とみなした場合の、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいう。従って、保存的置換がある場合は、その保存的置換の存在に応じて相同性と類似性とは異なる。また、保存的置換がない場合は、相同性と類似性とは同じ数値を示す。
【0033】
本明細書では、アミノ酸配列および塩基配列の類似性、同一性および相同性の比較は、配列分析用ツールであるFASTAを用い、デフォルトパラメータを用いて算出される。
【0034】
本明細書において「フラグメント」とは、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1〜n−1までの配列長さを有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。フラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、ポリペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。また、ポリヌクレオチドの場合、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50、75、100およびそれ以上のヌクレオチドが挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。本明細書において、ポリペプチドおよびポリヌクレオチドの長さは、上述のようにそれぞれアミノ酸または核酸の個数で表すことができるが、上述の個数は絶対的なものではなく、同じ機能を有する限り、上限または下限としての上述の個数は、その個数の上下数個(または例えば上下10%)のものも含むことが意図される。そのような意図を表現するために、本明細書では、個数の前に「約」を付けて表現することがある。しかし、本明細書では、「約」のあるなしはその数値の解釈に影響を与えないことが理解されるべきである。本明細書において有用なフラグメントの長さは、そのフラグメントの基準となる全長タンパク質の機能のうち少なくとも1つの機能が保持されているかどうかによって決定され得る。
【0035】
本明細書において「単離された」生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その生物学的因子が天然に存在する生物体の細胞内の他の生物学的因子(例えば、核酸である場合、核酸以外の因子および目的とする核酸以外の核酸配列を含む核酸;タンパク質である場合、タンパク質以外の因子および目的とするタンパク質以外のアミノ酸配列を含むタンパク質など)から実質的に分離または精製されたものをいう。「単離された」核酸およびタンパク質には、標準的な精製方法によって精製された核酸およびタンパク質が含まれる。したがって、単離された核酸およびタンパク質は、化学的に合成した核酸およびタンパク質を包含する。
【0036】
本明細書において「精製された」生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その生物学的因子に天然に随伴する因子の少なくとも一部が除去されたものをいう。したがって、通常、精製された生物学的因子におけるその生物学的因子の純度は、その生物学的因子が通常存在する状態よりも高い(すなわち濃縮されている)。
【0037】
本明細書中で使用される用語「精製された」および「単離された」は、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、よりさらに好ましくは少なくとも95重量%、そして最も好ましくは少なくとも98重量%の、同型の生物学的因子が存在することを意味する。
【0038】
本明細書において、「ストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド」とは、当該分野で慣用される周知の条件をいう。本発明のポリヌクレオチド中から選択されたポリヌクレオチドをプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより、そのようなポリヌクレオチドを得ることができる。具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC(saline−sodium citrate)溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM 塩化ナトリウム、15mM クエン酸ナトリウムである)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるポリヌクレオチドを意味する。ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning 2nd ed.,Current Protocols in Molecular Biology,Supplement 1〜38、DNA Cloning 1:Core Techniques,A Practical Approach,Second Edition,Oxford University Press(1995)等の実験書に記載されている方法に準じて行うことができる。ここで、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列からは、好ましくは、A配列のみまたはT配列のみを含む配列が除外される。「ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチド」とは、上記ハイブリダイズ条件下で別のポリヌクレオチドにハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドをいう。ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドとして具体的には、本発明で具体的に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNAの塩基配列と少なくとも60%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、好ましくは80%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。
【0039】
本明細書において「高度にストリンジェントな条件」は、核酸配列において高度の相補性を有するDNA鎖のハイブリダイゼーションを可能にし、そしてミスマッチを有意に有するDNAのハイブリダイゼーションを除外するように設計された条件をいう。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーは、主に、温度、イオン強度、およびホルムアミドのような変性剤の条件によって決定される。このようなハイブリダイゼーションおよび洗浄に関する「高度にストリンジェントな条件」の例は、0.0015M塩化ナトリウム、0.0015M クエン酸ナトリウム、65〜68℃、または0.015M 塩化ナトリウム、0.0015Mクエン酸ナトリウム、および50% ホルムアミド、42℃である。このような高度にストリンジェントな条件については、Sambrooket al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory(ColdSpring Harbor,N,Y.1989);およびAnderson et al.、Nucleic Acid Hybridization:a Practical approach、IV、IRL Press Limited(Oxford,England).Limited,Oxford,Englandを参照のこと。必要により、よりストリンジェントな条件(例えば、より高い温度、より低いイオン強度、より高いホルムアミド、または他の変性剤)を、使用してもよい。他の薬剤が、非特異的なハイブリダイゼーションおよび/またはバックグラウンドのハイブリダイゼーションを減少する目的で、ハイブリダイゼーション緩衝液および洗浄緩衝液に含まれ得る。そのような他の薬剤の例としては、0.1%ウシ血清アルブミン、0.1%ポリビニルピロリドン、0.1%ピロリン酸ナトリウム、0.1%ドデシル硫酸ナトリウム(NaDodSOまたはSDS)、Ficoll、Denhardt溶液、超音波処理されたサケ精子DNA(または別の非相補的DNA)および硫酸デキストランであるが、他の適切な薬剤もまた、使用され得る。これらの添加物の濃度および型は、ハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシーに実質的に影響を与えることなく変更され得る。ハイブリダイゼーション実験は、通常、pH6.8〜7.4で実施されるが;代表的なイオン強度条件において、ハイブリダイゼーションの速度は、ほとんどpH独立である。Anderson et al.、NucleicAcid Hybridization:a Practical Approach
、第4章、IRL Press Limited(Oxford,England)を参照のこと。
【0040】
DNA二重鎖の安定性に影響を与える因子としては、塩基の組成、長さおよび塩基対不一致の程度が挙げられる。ハイブリダイゼーション条件は、当業者によって調整され得、これらの変数を適用させ、そして異なる配列関連性のDNAがハイブリッドを形成するのを可能にする。完全に一致したDNA二重鎖の融解温度は、以下の式によって概算され得る。
(℃)=81.5+16.6(log[Na])+0.41(%G+C)−600/N−0.72(%ホルムアミド)
ここで、Nは、形成される二重鎖の長さであり、[Na]は、ハイブリダイゼーション溶液または洗浄溶液中のナトリウムイオンのモル濃度であり、%G+Cは、ハイブリッド中の(グアニン+シトシン)塩基のパーセンテージである。不完全に一致したハイブリッドに関して、融解温度は、各1%不一致(ミスマッチ)に対して約1℃ずつ減少する。
【0041】
本明細書において「中程度にストリンジェントな条件」とは、「高度にストリンジェントな条件」下で生じ得るよりも高い程度の塩基対不一致を有するDNA二重鎖が、形成し得る条件をいう。代表的な「中程度にストリンジェントな条件」の例は、0.015M塩化ナトリウム、0.0015M クエン酸ナトリウム、50〜65℃、または0.015
M 塩化ナトリウム、0.0015M クエン酸ナトリウム、および20%ホルムアミド、37〜50℃である。例として、0.015Mナトリウムイオン中、50℃の「中程度にストリンジェントな」条件は、約21%の不一致を許容する。
【0042】
本明細書において「高度」にストリンジェントな条件と「中程度」にストリンジェントな条件との間に完全な区別は存在しないことがあり得ることが、当業者によって理解される。例えば、0.015Mナトリウムイオン(ホルムアミドなし)において、完全に一致した長いDNAの融解温度は、約71℃である。65℃(同じイオン強度)での洗浄において、これは、約6%不一致を許容にする。より離れた関連する配列を捕獲するために、当業者は、単に温度を低下させ得るか、またはイオン強度を上昇し得る。
【0043】
約20ヌクレオチドまでのオリゴヌクレオチドプローブについて、1MNaClにおける融解温度の適切な概算は、Tm=(1つのA−T塩基につき2℃)+(1つのG−C塩基対につき4℃)によって提供される。なお、6×クエン酸ナトリウム塩(SSC)におけるナトリウムイオン濃度は、1Mである(Suggsら、Developmental Biology Using Purified Genes、683頁、BrownおよびFox(編)(1981)を参照のこと)。
【0044】
配列番号2のアミノ酸配列を有するポリペプチドまたはその改変体もしくはフラグメントなどのタンパク質をコードする天然の核酸は、例えば、配列番号1の核酸配列の一部またはその改変体を含むPCRプライマーおよびハイブリダイゼーションプローブを有するcDNAライブラリーから容易に分離される。配列番号1のアミノ酸配列を有するポリペプチドまたはその改変体もしくはフラグメントなどをコードする核酸は、本質的に1%ウシ血清アルブミン(BSA);500mM リン酸ナトリウム(NaPO);1mM EDTA;42℃の温度で 7% SDS を含むハイブリダイゼーション緩衝液、および本質的に2×SSC(600mM NaCl;60mM クエン酸ナトリウム);50℃の0.1% SDSを含む洗浄緩衝液によって定義される低ストリンジェント条件下、さらに好ましくは本質的に50℃の温度での1%ウシ血清アルブミン(BSA);500mM リン酸ナトリウム(NaPO);15%ホルムアミド;1mM EDTA; 7% SDS を含むハイブリダイゼーション緩衝液、および本質的に50℃の1×SSC(300mM NaCl;30mM クエン酸ナトリウム);1% SDSを含む洗浄緩衝液によって定義される低ストリンジェント条件下、最も好ましくは本質的に50℃の温度での1%ウシ血清アルブミン(BSA);200mM リン酸ナトリウム(NaPO);15%ホルムアミド;1mM EDTA;7%SDSを含むハイブリダイゼーション緩衝液、および本質的に65℃の0.5×SSC(150mM NaCl;15mM クエン酸ナトリウム);0.1% SDSを含む洗浄緩衝液によって定義される低ストリンジェント条件下に配列番号1に示す配列の1つまたはその一部とハイブリダイズし得る。
【0045】
本明細書において配列(アミノ酸または核酸など)の「同一性」、「相同性」および「類似性」のパーセンテージは、比較ウィンドウで最適な状態に整列された配列2つを比較することによって求められる。ここで、ポリヌクレオチド配列またはポリペプチド配列の比較ウィンドウ内の部分には、2つの配列の最適なアライメントについての基準配列(他
の配列に付加が含まれていればギャップが生じることもあるが、ここでの基準配列は付加も欠失もないものとする)と比較したときに、付加または欠失(すなわちギャップ)が含まれる場合がある。同一の核酸塩基またはアミノ酸残基がどちらの配列にも認められる位置の数を求めることによって、マッチ位置の数を求め、マッチ位置の数を比較ウィンドウ内の総位置数で割り、得られた結果に100を掛けて同一性のパーセンテージを算出する。検索において使用される場合、相同性については、従来技術において周知のさまざまな配列比較アルゴリズムおよびプログラムの中から、適当なものを用いて評価する。このようなアルゴリズムおよびプログラムとしては、TBLASTN、BLASTP、FASTA、TFASTAおよびCLUSTALW(Pearson and Lipman,1988,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85(8):2444−2448、 Altschul et al.,1990,J.Mol.Biol.215(3):403−410、Thompson et al.,1994,Nucleic Acids Res.22(2):4673−4680、Higgins et al.,1996,Methods Enzymol.266:383−402、Altschul et al.,1990,J.Mol.Biol.215(3):403−410、Altschul et al.,1993,Nature Genetics 3:266−272)があげられるが、何らこれに限定されるものではない。特に好ましい実施形態では、従来技術において周知のBasic Local Alignment Search Tool(BLAST)(たとえば、Karlin and Altschul,1990,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2267−2268、Altschul et al.,1990,J.Mol.Biol.215:403−410、Altschul et al.,1993,Nature Genetics 3:266−272、Altschul et al.,1997,Nuc.Acids Res.25:3389−3402を参照のこと)を用いてタンパク質および核酸配列の相同性を評価する。特に、5つの専用BLASTプログラムを用いて以下の作業を実施することによって比較または検索が達成され得る。
【0046】
(1) BLASTPおよびBLAST3でアミノ酸のクエリー配列をタンパク質配列データベースと比較;
(2) BLASTNでヌクレオチドのクエリー配列をヌクレオチド配列データベースと比較;
(3) BLASTXでヌクレオチドのクエリー配列(両方の鎖)を6つの読み枠で変換した概念的翻訳産物をタンパク質配列データベースと比較;
(4) TBLASTNでタンパク質のクエリー配列を6つの読み枠(両方の鎖)すべてで変換したヌクレオチド配列データベースと比較;
(5) TBLASTXでヌクレオチドのクエリ配列を6つの読み枠で変換したものを、6つの読み枠で変換したヌクレオチド配列データベースと比較。
【0047】
BLASTプログラムは、アミノ酸のクエリ配列または核酸のクエリ配列と、好ましくはタンパク質配列データベースまたは核酸配列データベースから得られた被検配列との間で、「ハイスコアセグメント対」と呼ばれる類似のセグメントを特定することによって相同配列を同定するものである。ハイスコアセグメント対は、多くのものが従来技術において周知のスコアリングマトリックスによって同定(すなわち整列化)されると好ましい。好ましくは、スコアリングマトリックスとしてBLOSUM62マトリックス(Gonnet et al.,1992,Science 256:1443−1445、Henikoff and Henikoff,1993,Proteins 17:49−61)を使用する。このマトリックスほど好ましいものではないが、PAMまたはPAM250マトリックスも使用できる(たとえば、Schwartz and Dayhoff,eds.,1978,Matrices for Detecting Distance Relationships: Atlas of Protein Sequence and Structure,Washington: National Biomedical Research Foundationを参照のこと)。BLASTプログラムは、同定されたすべてのハイスコアセグメント対の統計的な有意性を評価し、好ましくはユーザー固有の相同率などのユーザーが独自に定める有意性の閾値レベルを満たすセグメントを選択する。統計的な有意性を求めるKarlinの式を用いてハイスコアセグメント対の統計的な有意性を評価すると好ましい(Karlin and Altschul,1990,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2267−2268参照のこと)。
【0048】
本明細書における「プライマー」とは、高分子合成酵素反応において、合成される高分子化合物の反応の開始に必要な物質をいう。核酸分子の合成反応では、合成されるべき高分子化合物の一部の配列に相補的な核酸分子(例えば、DNAまたはRNAなど)が用いられ得る。
【0049】
通常プライマーとして用いられる核酸分子としては、目的とする遺伝子の核酸配列と相補的な、少なくとも8の連続するヌクレオチド長の核酸配列を有するものが挙げられる。そのような核酸配列は、好ましくは、少なくとも9の連続するヌクレオチド長の、より好ましく10の連続するヌクレオチド長の、さらに好ましくは11の連続するヌクレオチド長の、12の連続するヌクレオチド長の、13の連続するヌクレオチド長の、14の連続するヌクレオチド長の、15の連続するヌクレオチド長の、16の連続するヌクレオチド長の、17の連続するヌクレオチド長の、18の連続するヌクレオチド長の、19の連続するヌクレオチド長の、20の連続するヌクレオチド長の、25の連続するヌクレオチド長の、30の連続するヌクレオチド長の、40の連続するヌクレオチド長の、50の連続するヌクレオチド長の、核酸配列であり得る。プライマーとして使用される核酸配列には、上述の配列に対して、少なくとも70%相同な、より好ましくは、少なくとも80%相同な、さらに好ましくは、90%相同な、最も好ましくは95%相同な核酸配列が含まれる。プライマーとして適切な配列は、合成(増幅)が意図される配列の性質によって変動し得るが、当業者は、意図される配列に応じて適宜プライマーを設計することができる。そのようなプライマーの設計は当該分野において周知であり、手動でおこなってもよくコンピュータプログラム(例えば、LASERGENE,PrimerSelect,DNAStar)を用いて行ってもよい。
【0050】
本明細書において、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの「置換、付加または欠失」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドに対して、それぞれアミノ酸もしくはその代替物、またはヌクレオチドもしくはその代替物が、置き換わること、付け加わることまたは取り除かれることをいう。このような置換、付加または欠失の技術は、当該分野において周知であり、そのような技術の例としては、部位特異的変異誘発技術などが挙げられる。置換、付加または欠失は、1つ以上であれば任意の数でよく、そのような数は、その置換、付加または欠失を有する改変体において目的とする機能(例えば、ホルモン、サイトカインの情報伝達機能など)が保持される限り、多くすることができる。例えば、そのような数は、1または数個であり得、そして好ましくは、全体の長さの20%以内、10%以内、または100個以下、50個以下、25個以下などであり得る。
【0051】
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J.et al.(1989).Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001);Ausubel,F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley−Interscience;Ausubel,F.M.(1989).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associat ES and Wiley−Interscience;Innis,M.A.(1990).PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications,Academic Press;Ausubel,F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Ausubel,F.M.(1995).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Innis,M.A.et al.(1995).PCR Strategies,Academic Press;Ausubel,F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Wiley,and annual updates;Sninsky,J.J.et al.(1999).PCR Applications:Protocols for Functional Genomics,Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
【0052】
人工的に合成した遺伝子を作製するためのDNA合成技術および核酸化学については、例えば、Gait,M.J.(1985).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRLPress;Gait,M.J.(1990).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Eckstein,F.(1991).Oligonucleotides and Analogues:A Practical Approac,IRL Press;Adams,R.L.et al.(1992).The Biochemistry of the Nucleic Acids,Chapman&Hall;Shabarova,Z.et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids,Weinheim;Blackburn,G.M.et al.(1996).Nucleic Acids in Chemistry and Biology,Oxford University Press;Hermanson,G.T.(I996).Bioconjugate Techniques,Academic Pressなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
【0053】
本明細書において核酸の存在を確認するには、放射能法、蛍光法、ノーザンブロット法、ドットブロット法、PCR法などの分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価され得る。
【0054】
本明細書中で、「生物学的サンプル」とは、例えば、血液、血清、尿、および/または腫瘍生検をいうが、これらに限定されない。
【0055】
「マーカー」とは、生物学的因子を明確に同定する、生物学的因子の高分子的、微視的、または分子的特徴をいう。
【0056】
「抗体」は、抗体およびそのフラグメント(好ましくは、抗原結合フラグメント)を包含するが、これらに限定されない。この用語は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、二重特異性抗体、Fab抗体フラグメント、F(ab)抗体フラグメント、Fv抗体フラグメント(例えば、VまたはV)、単鎖Fv抗体フラグメント、およびdsFv抗体フラグメントを包含する。さらに、本発明の抗体分子は、完全ヒト抗体、マウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヤギ抗体、ニワトリ抗体、ヒト化抗体、またはキメラ抗体であり得る。本発明の抗体は、配列番号2または配列番号4のアミノ酸配列を含むポリペプチドに、特異的に反応する。
【0057】
「中和」は、生物学的活性を有する物質が、それに対する抗体に結合することにより、活性を失う現象をいう。本明細書中では、この生物学的活性は特に、転移および/または浸潤活性である。
【0058】
「中和抗体」は、生物学的活性を中和する抗体をいう。本明細書中における「中和抗体」は、特に、癌細胞の転移および/または浸潤活性を中和する抗体をいう。
【0059】
本発明が適用され得る癌は、頭頸部に生じた扁平上皮癌である。本発明が適用され得る癌は、特に、口腔癌である。本発明の別の実施形態においては、本発明が適用され得る癌は、大腸癌、胃癌または悪性黒色腫であり得るが、これらに限定されない。
【0060】
本発明の核酸または抗体は、抗癌剤と組み合わせて使用され得る。この抗癌剤としては、当該分野で公知の任意の抗癌剤(抗悪性腫瘍薬剤、細胞毒性薬剤(例えば、DNA相互作用剤(例えば、シスプラチンまたはドキソルビシン)等);タキサン(例えば、タキソテール、タキソール);トポイソメラーゼIIインヒビター(例えば、エトポシド);トポイソメラーゼIインヒビター(例えば、イリノテカン(すなわちCPT−11)、カンプトスターまたはトポテカン);微小管相互作用剤(例えば、パクリタキセル、ドセタキセルまたはエポシロン);ホルモン剤(例えば、タモキシフェン);チミジル酸合成インヒビター(例えば、5−フルオロウラシル);代謝拮抗剤(例えば、メトトレキセート);アルキル化剤(例えば、テモゾロミド(TEMODARTM)、シクロホスファミド);ファネシルタンパク質トランスフェラーゼインヒビター(例えば、SARASARTM(4−[2−[4−[(11R)−3,10−ジブロモ−8−クロロ−6,11−ジヒドロ−5H−ベンゾ[5,6]シクロヘプタ[1,2−b]ピリジン−11−イル−]−1−ピペリジニル]−2−オキソエチル]−1−ピペリジンカルボキサミド、またはSCH 66336)、チピファルニブ(ZarnestrasまたはR115777)、L778,123(ファネシルタンパク質トランスフェラーゼインヒビター)、BMS 214662(ファネシルタンパク質トランスフェラーゼインヒビター);シグナル伝達系インヒビター(例えば、Iressa、Tarceva(EGFRキナーゼインヒビター)、EGFRに対する抗体(例えば、C225)、GLEEVECTMC−ablキナーゼインヒビター);インターフェロン(例えば、イントロン、Peg−イントロン);ara−C、アドリアマイシン、シトキサンおよびゲムシタビン)が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の組成物と組み合わされて使用される、特に有用な抗癌剤は、シスプラチンまたは5−FUである。
【0061】
本明細書中において、「抗浸潤剤」とは、癌の浸潤を阻害および/または抑制することができる任意の因子をいう。
【0062】
「抗浸潤活性」とは、浸潤を阻害および/または抑制し、浸潤が起こる可能性を低下させる活性をいう。
【0063】
本発明の遺伝子は、siRNAを用いてその発現をノックダウンすることが可能である。所定の遺伝子からsiRNAを調製する方法は周知であり、例えば、実施例に示すような方法によって調製できる。さらに、(1)GまたはCが連続して4つ以上存在しない、(2)AまたはTが連続して4つ以上存在しない、(3)GあるいはCが9塩基以上存在しない、などの条件を加えてもよい。本発明のsiRNAは、19塩基長、20塩基長、21塩基長、22塩基長、23塩基長、24塩基長、25塩基長、26塩基長、27塩基長、28塩基長、29塩基長、または30塩基長である。本発明のsiRNAは、好ましくは、19塩基長である。本発明のsiRNAはまた、好ましくは20塩基長である。本発明のsiRNAはまた、好ましくは21塩基長である。本発明のsiRNAはまた、好ましくは22塩基長である。本発明のsiRNAはまた、好ましくは23塩基長である。本発明のsiRNAはまた、好ましくは24塩基長である。siRNAの調製法については、実施例の一般的手法の項を参照のこと。
【0064】
用語「発現する」および「発現」は、遺伝子、RNA配列もしくはDNA配列中の情報が明らかになるのを可能にすることまたはそれを引き起こすこと(例えば、対応する遺伝子の転写および翻訳に関与する細胞機能を活性化することによって、タンパク質を生成すること)を意味する。DNA配列は、細胞中でかまたは細胞によって、「発現生成物」(例えば、RNA(例えば、mRNA)またはタンパク質)を形成するように発現される。その発現生成物自体はまた、その細胞によって「発現される」と言われ得る。
【0065】
用語「形質転換」とは、核酸を細胞中に導入することを意味する。導入される遺伝子または配列は、「クローン」と呼ばれ得る。その導入されるDNAまたはRNAを受ける宿主細胞は、「形質転換」されており、これは、「形質転換体」または「クローン」である。宿主細胞に導入されるDNAまたはRNAは、任意の供給源由来であり得、宿主細胞と同じ属または種の細胞由来であっても、異なる属または種の細胞由来であってもよい。
【0066】
用語「ベクター」は、宿主を形質転換し、必要に応じて導入された配列の発現および/または複製を促進するように、DNA配列またはRNA配列が宿主細胞中に導入され得る媒体(例えば、プラスミド)を包含する。
【0067】
本発明において使用され得るベクターとしては、プラスミド、ウイルス、バクテリオファージ、組込み可能なDNAフラグメント、および宿主ゲノム中への核酸の導入を促進し得る他の媒体が挙げられる。プラスミドは、最も一般的に使用される形態のベクターであるが、同様の機能を提供しかつ当該分野で公知であるかまたは公知となる他のすべての形態のベクターが、本明細書中で野使用のために適切である。例えば、Pouwelsら、Cloning Vectors:A Laboratory Manual,1985 and Supplements,Elsevier,N.Y.およびRodriguezら、(編),Vectors:A Survey of Molecular Cloning Vectors and Their Uses 1988,Buttersworth,Boston,MAを参照のこと。
【0068】
用語「発現系」とは、適切な条件下で、そのベクターにより保有されて宿主細胞中に導入されるタンパク質または核酸を発現し得る、宿主細胞および適合性ベクターを意味する。一般的な発現系としては、E.coli宿主細胞およびプラスミドベクター、昆虫宿主細胞およびバキュロウイルスベクター、ならびに哺乳動物宿主細胞およびベクターが挙げられる。
【0069】
本発明の配列番号2または4に記載のポリペプチドをコードする核酸の発現は、原核生物細胞または真核生物細胞のいずれかにおいて従来の方法によって実行され得る。E.coli宿主細胞は、原核生物系において最も頻繁に使用されるが、他の多くの細菌(例えば、種々のPseudomonasおよびBacillusの株)が、当該分野で公知であり、そしてコレラも同様に、使用され得る。配列番号2または4に記載のポリペプチドをコードする核酸を発現するために適切な宿主細胞としては、原核生物および高等真核生物が挙げられる。原核生物は、グラム陰性生物およびグラム陽性生物(例えば、E.coliおよびB.subtilis)の両方を包含する。高等真核生物は、動物細胞(非哺乳動物起源(例えば、昆虫細胞)および哺乳動物起源(例えば、ヒト、霊長類、および齧歯類)の両方の動物細胞)由来の樹立された組織培養細胞株を包含する。
【0070】
原核生物宿主−ベクター系は、多くの異なる種のための広範な種類のベクターを包含する。DNAを増幅するための代表的なベクターは、pBR322またはその誘導体の多く(例えば、pUC18もしくはpUC19)である。配列番号2または4に記載のポリペプチドを発現するために使用され得るベクターとしては、lacプロモーターを含むベクター(pUCシリーズ);trpプロモーターを含むベクター(pBR322−trp);Ippプロモーターを含むベクター(pINシリーズ);λ−pPプロモーターもしくはλ−pRプロモーターを含むベクター(pOTS);またはハイブリッドプロモーター(例えば、ptac)を含むベクター(pDR540)が挙げられるが、これらに限定されない。Brosiusら、「Expression Vectors Employing Lambda−,trp−,lac−,and Ipp−derived Promoters」,Rodriguez and Denhardt(編)Vectors:A Survey of Molecular Cloning Vectors and Their Uses,1988,Buttersworth,Boston,pp.205〜236を参照のこと。多くのポリペプチドは、米国特許第4,952,496号、同第5,693,489号および同第5,869,320号、ならびにDavanloo,P.ら、(1984)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:2035〜2039;Studier,F.W.ら、(1986)J.Mol.Biol.189:113−130;Rosenberg,A.H.ら、(1987)Gene 56:125−135;およびDunn,J.J.ら、(1988)Gene 68:259に開示されるような、E.coli/T7発現系において、高レベルで発現され得る。
【0071】
高等真核生物組織培養細胞もまた、本発明の配列番号2または4に記載のポリペプチドの組換え生成のために使用され得る。任意の高等真核生物組織培養細胞株(昆虫バキュロウイルス発現系が挙げられる)が使用され得るが、哺乳動物細胞が、好ましい。このような細胞の形質転換、トランスフェクションおよび増殖は、慣用的手順となっている。有用な細胞株の例としては、HeLa細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株、J774細胞、Caco2細胞、ラット乳児腎臓(BRK)細胞株、昆虫細胞株、鳥類細胞株、およびサル(COS)細胞株が挙げられる。そのような細胞株のための発現ベクターは、通常は、複製起点、プロモーター、翻訳開始部位、RNAスプライス部位(ゲノムDNAが使用される場合)、ポリアデニル化部位、および転写終結部位を含む。これらのベクターはまた、通常は、選択遺伝子または増幅遺伝子を含む。適切な発現ベクターは、例えば、アデノウイルス、SV40、パルボウイルス、ワクシニアウイルス、またはサイトメガロウイルスのような供給源に由来するプロモーターを保有する、プラスミド、ウイルス、またはレトロウイルスであり得る。発現ベクターの例としては、pCR(登録商標)3.1、pCDNA1、pCD(Okayamaら、(1985)Mol.Cell Biol.5:1136)、pMC1neo Poly−A(Thomasら、(1987)Cell 51:503)、pREP8、pSVSPORTおよびそれらの誘導体、ならびにバキュロウイルスベクター(例えば、pAC373またはpAC610)が挙げられる。
【0072】
本発明はまた、本発明の配列番号2または4に記載のポリペプチドおよび配列番号1または3に記載のポリヌクレオチドと、第2ポリペプチド部分もしくは第2ポリヌクレオチド部分(「タグ」と呼ばれ得る)とを含む、融合物を包含する。本発明の融合ポリペプチドは、例えば、本発明のポリヌクレオチドまたはそのフラグメントを、発現ベクター中に挿入することによって、簡便に構築され得る。本発明の融合物は、精製または検出を容易するタグを含み得る。そのようなタグとしては、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、ヘキサヒスチジン(His6)タグ、マルトース結合タンパク質(MBP)タグ、赤血球凝集素(HA)タグ、セルロース結合タンパク質(CBP)タグ、およびmycタグが挙げられる。検出可能なタグ(例えば、32P、35S、H、99mTc、123I、111In、68Ga、18F、125I、131I、113mIn、76Br、67Ga、99mTc、123I、111Inおよび68Ga)もまた、本発明のポリペプチドおよびポリヌクレオチドを標識するために使用され得る。このような融合物を構築および使用するための方法は、当該分野で周知である。
【0073】
本明細書において「作動可能に連結された(る)」とは、所望の配列の発現(作動)がある転写翻訳調節配列(例えば、プロモーター、エンハンサーなど)または翻訳調節配列の制御下に配置されることをいう。プロモーターが遺伝子に作動可能に連結されるためには、通常、その遺伝子のすぐ上流にプロモーターが配置されるが、必ずしも隣接して配置される必要はない。
【0074】
本明細書において、核酸分子を細胞に導入する技術は、どのような技術でもよく、例えば、形質転換、形質導入、トランスフェクションなどが挙げられる。そのような核酸分子の導入技術は、当該分野において周知であり、かつ、慣用されるものであり、例えば、Ausubel F.A.ら編(1988)、Current Protocols in Molecular Biology、Wiley、New York、NY;Sambrook Jら(1987)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.およびその第三版,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載される。遺伝子の導入は、ノーザンブロット、ウェスタンブロット分析のような本明細書に記載される方法または他の周知慣用技術を用いて確認することができる。
【0075】
また、ベクターの導入方法としては、細胞にDNAを導入する上述のような方法であればいずれも用いることができ、例えば、トランスフェクション、形質導入、形質転換など(例えば、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン(遺伝子銃)を用いる方法など)が挙げられる。
【0076】
本明細書において「薬学的に受容可能なキャリア」は、医薬または動物薬のような農薬を製造するときに使用される物質であり、有効成分に有害な影響を与えないものをいう。そのような薬学的に受容可能なキャリアとしては、例えば、以下が挙げられるがそれらに限定されない:抗酸化剤、保存剤、着色料、風味料、および希釈剤、乳化剤、懸濁化剤、溶媒、フィラー、増量剤、緩衝剤、送達ビヒクル、賦形剤および/または薬学的アジュバント。
【0077】
本発明の処置方法において使用される薬剤の種類および量は、本発明の方法によって得られた情報(例えば、疾患に関する情報)を元に、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、投与される被検体の部位の形態または種類などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。本発明のモニタリング方法を被験体(または患者)に対して施す頻度もまた、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、被験体の年齢、体重、性別、既往歴、および治療経過などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。疾患状態をモニタリングする頻度としては、例えば、毎日−数ヶ月に1回(例えば、1週間に1回−1ヶ月に1回)のモニタリングが挙げられる。1週間−1ヶ月に1回のモニタリングを、経過を見ながら施すことが好ましい。
【0078】
必要に応じて、本発明の治療では、2種類以上の薬剤が使用され得る。2種類以上の薬剤を使用する場合、類似の性質または由来の物質を使用してもよく、異なる性質または由来の薬剤を使用してもよい。このような2種類以上の薬剤を投与する方法のための疾患レベルに関する情報も、本発明の方法によって入手することができる。
【0079】
「被験体」または「患者」は、ヒト、またはイヌ、ネコ、マーモセット、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ゾウ、キリン、ニワトリ、ライオン、サル、フクロウ、ラット、リス、ホソロリス、およびマウスなどを含む脊椎動物を意味する。本明細書中では、「被験体」または「患者」は、好ましくは哺乳動物であり、より好ましくはヒトである。
【0080】
(薬学的組成物)
本発明のポリヌクレオチド、ポリヌクレオチドを含む発現ベクターは、癌の転移/浸潤の阻害および/または抑制のため薬学的組成物の成分として使用することが可能である。
【0081】
本明細書において薬剤の「有効量」とは、その薬剤が目的とする薬効が発揮することができる量をいう。本明細書において、そのような有効量のうち、最小の濃度を最小有効量ということがある。そのような最小有効量は、当該分野において周知であり、通常、薬剤の最小有効量は当業者によって決定されているか、または当業者は適宜決定することができる。そのような有効量の決定には、実際の投与のほか、動物モデルなどを用いることも可能である。本発明はまた、このような有効量を決定する際に有用である。
【0082】
本明細書において「薬学的に受容可能なキャリア」は、医薬または動物薬のような農薬を製造するときに使用される物質であり、有効成分に有害な影響を与えないものをいう。そのような薬学的に受容可能なキャリアとしては、例えば、以下が挙げられるがそれらに限定されない:抗酸化剤、保存剤、着色料、風味料、および希釈剤、乳化剤、懸濁化剤、溶媒、フィラー、増量剤、緩衝剤、送達ビヒクル、賦形剤および/または農学的もしくは薬学的アジュバント。
【0083】
本発明の処置方法において使用される薬剤の種類および量は、本発明の方法によって得られた情報(例えば、疾患に関する情報)を元に、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、投与される被検体の部位の形態または種類などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。本発明のモニタリング方法を被検体(または患者)に対して施す頻度もまた、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、および治療経過などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。疾患状態をモニタリングする頻度としては、例えば、毎日−数ヶ月に1回(例えば、1週間に1回−1ヶ月に1回)のモニタリングが挙げられる。1週間−1ヶ月に1回のモニタリングを、経過を見ながら施すことが好ましい。
【0084】
必要に応じて、本発明の治療では、2種類以上の薬剤が使用され得る。2種類以上の薬剤を使用する場合、類似の性質または由来の物質を使用してもよく、異なる性質または由来の薬剤を使用してもよい。このような2種類以上の薬剤を投与する方法のための疾患レベルに関する情報も、本発明の方法によって入手することができる。
【0085】
本発明では、いったん類似の種類(例えば、ヒトに対するマウスなど)の生物、培養細胞、組織などに関し、ある特定の糖鎖構造の分析結果と、疾患レベルとが相関付けられた場合、対応する糖鎖構造の分析結果と、疾患レベルとが相関付けることができることは、当業者は容易に理解する。そのような事項は、例えば、動物培養細胞マニュアル、瀬野ら編著、共立出版、1993年などに記載され支持されており、本明細書においてこのすべての記載を援用する。
【0086】
本明細書において使用される場合、「キット」とは、複数の容器、および製造業者の指示書を含み、そして各々の容器が、本発明の薬学的組成物、その他の薬剤、およびキャリアを含む製品をいう。
【0087】
以下に実施例等により本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0088】
(一般的手法)
(in vitro invasion assay)
in vitro invasion assayは、Kudo Y.ら、Clin Cancer Res 2004;10:5455−63に記載されるように行った。簡単に述べると、浸潤は、8mmの孔を有する24ウェル用細胞培養インサート(Falcon,Becton Dickinson)を使用して測定した。フィルターを、再構成された基底膜物質であるEHS抽出物(Iwaki Garasu,Tokyo,Japan)20μgでコーティングした。下側の区画は、0.5mLの血清を含まない培地を含んだ。トリプシン処理した後、1.5×10個の細胞を100μLの血清を含まない培地に再懸濁し、その細胞培養インサートの上側の区画に6〜24時間置いた。インキュベーション後、Kalebicらの方法(Kalebic T.ら、Clin Exp metastasis 1998;6:301−18)をわずかに改変した方法により、浸潤能が高いクローンを単離するためにフィルターの下側に貫通している細胞を収集した。浸潤能を試験するために、細胞をホルマリン固定し、H&Eで染色した。細胞の浸潤能は、孔を通ってフィルターの下側へ貫通した細胞を、倍率100×で顕微鏡下で計数することによって決定した。アッセイは三回行い、3つの視野をランダムに選択し、そして各アッセイについて計数した。
【0089】
(遺伝子アレイ分析)
10,458遺伝子プローブを含んでいる、UniSet Human I Expression Bioarrayを使用するAmersham CodeLink System(Amersham,Piscataway,NJ)を、転写プロファイルの比較のために使用した。このアレイは、公共に入手可能な、十分に注釈のついたmRNA配列から広範な遺伝子を含んでいる。総RNAは、RNeasy Mini Kit(QiagenmChatsworth,CA)を製造者の指示に基づいて使用して、コンフルエントな細胞から単離した。調製物を定量し、その純度を標準的な分光光度法によって決定した。データは、対象遺伝子(IFITM1およびWNT5B)について、パーフェクトマッチプローブとミスマッチプローブとの間の平均差異として表される。
【0090】
(逆転写PCR(RT−PCR))
総RNAを、RNeasy Mini Kit(QiagenmChatsworth,CA)を使用して、コンフルエントな細胞から単離した。調製物を定量し、その純度を標準的な分光光度法によって決定した。cDNAを、ReverTra Dash(Toyobo Biochemicals,Tokyo,Japan)によって、1μgの総RNAから合成した。プライマー配列は以下の通りであった:
IFITM1フォワードプライマー;
5’−atgtcgtctggtccctgttc−3’(配列番号5)
IFITM1リバースプライマー;
5’−gtcatgaggatgcccagaat−3’(配列番号6)
Wnt5Bフォワードプライマー;
5’−cgggagcgagagaagaact−3’(配列番号7)
Wnt5Bリバースプライマー;
5’−tacacctgacgaagcagcac−3’(配列番号8)
総cDNAのアリコートを、1.25ユニットのrTaq−DNAポリメラーゼ(Qiagen)で増幅した。この増幅は、PC701サーマルサイクラー(Astec,Fukuoka,Japan)において、全てのプライマーについて以下の工程を30〜35サイクル繰り返すことによって行った:94℃で30秒間の変性工程;60℃で30秒間のアニーリング工程;および72℃で1分間の伸長工程。増幅反応の産物は、1.5%アガロース/TAEゲル(Nacalai Tesque,Inc.,Kyoto,Japan)に溶解し、100mVで電気泳動し、エチジウムブロマイド染色して可視化した。
【0091】
(ウェスタンブロッティング分析)
ウェスタンブロッティング分析は、Kitajima S.ら、Am J Pathol 2004;165:2147−55に記載されるように行った。ポリクローナルIFITM1抗体およびWNT5B抗体は、IFITM1およびWNT5Bについて特異的な配列(IFITM1抗体は、Boster社より購入し(CAT NO.BA1781)、WNT5B抗体は、広島大学大学院医歯薬学総合研究科 菊池 章教授より供与していただいた)で、ウサギを免疫化することによってそれぞれ生成し、アフィニティカラムによって精製する。抗Hisポリクローナル抗体(Cell Signaling Texhnology,Inc.,Beverly,MA)およびβ−アクチンモノクローナル抗体(Sigma,St.Louis,MO)もまた使用する。30μgのタンパク質を10%PAGEに供し、次いでニトロセルロースフィルターに電気ブロットする。免疫複合体の検出のためには、ケミルミネッセンスウェスタンブロッティング検出システム(Amersham,Piscataway,NJ)を使用する。
【0092】
(組み換えIFITM1および組み換えWNT5Bの生成)
全長のヒトIFITM1およびWNT5BのcDNAを、pIZ/V5−Hisベクター(Invitrogen)にサブクローニングした。IFITM1およびWNT5Bを含むpIZ/V5−Hisベクターを、Cellfectin試薬(Invitrogen)を使用してHigh−Five昆虫細胞にトランスフェクションした。安定なクローンを、培地中でのゼオシン選択によって得た。Ni−ニトリロ三酢酸カラム(Invitrogen)を使用して、製造者の指示に従って組み換えIFITM1および組み換えWNT5Bを精製した。
【0093】
(siRNAの調製)
当該分野で公知のsiRNA提供業者(株式会社 ニッポンイージーティー、富山、日本)により、アニーリングしている2本鎖の合成siRNAを入手した。その合成siRNAをRNAseフリーの溶液に溶解し、最終濃度が20μMになるように調整し、その後細胞へ導入した。
【0094】
(組織サンプル)
HNSCCの組織サンプルは、広島大学倫理委員会の承認後に、広島大学病院の1998年〜2004年の病理組織標本ファイルから取り出した。緩衝化ホルマリン固定してパラフィン包埋した組織(10%)を、免疫組織化学試験のために使用する。腫瘍の組織学的悪性度分類およびステージは、日本頭頸部癌学会の基準に従って分類する。新鮮なサンプルをRT−PCR分析のために腫瘍性組織および非腫瘍性組織から採取する。
【0095】
(免疫組織化学染色)
NHSCCにおけるIFITM1およびWNT5Bの免疫組織化学検出は、シリコンコーティングされたガラススライド上に載せた4.5μm切片において、Kitajima S.ら、Am J Pathol 2004;165:2147−55に記載されたようなストレプトアビジン−ビオチンペルオキシダーゼ技術を使用して行う。IFITM1およびWNT5Bの発現を、++(30%を超える腫瘍細胞が、強いかまたは散在性の免疫陽性を示す)、+(10〜30%の腫瘍細胞が、中程度または寄せ集めの免疫陽性を示す)および−(10%未満の腫瘍細胞が、弱いかまたは限局的な免疫陽性を示すか、あるいは染色しない)に分類する。3人の病理学者が全ての評価を行う。分析した腫瘍サンプルの変量間の相関は、Fisherの正確検定によって試験する。p<0.05が有意性のためには必要とされる。
【0096】
(実施例1 浸潤能が高い頭頚部扁平上皮癌(HNSCC)細胞株において過剰発現している遺伝子としての、IFITM1およびWNT5Bの同定)
本発明者らは、以前の研究で、リンパ節転移からHNSCC細胞株であるMSCC−1を樹立した(Kudo Y.ら、Oral Oncol 2003;39:515−20を参照のこと)。さらに本発明者らは、上述のin vitro invasion assayを使用して、MSCC−1細胞から、浸潤能が高いクローンであるMSCC−Inv1を単離した。次いで、親細胞であるMSCC−1と浸潤能が高いMSCC−Inv1との間で発現が異なっている遺伝子を同定するために、MSCC−1の転写プロファイルとMSCC−Inv1の転写プロファイルとを、上述のように遺伝子アレイ分析によって比較した。IFITM1遺伝子およびWNT5B遺伝子の発現量が、浸潤能が高いMSCC−Inv1細胞株において上昇していることを見出した。これらの中でとりわけ、親株と比較して約18倍過剰に発現している遺伝子として、本願発明に係るIFITM1およびWNT5Bを同定した。これらの遺伝子がMSCC−1細胞よりもMSCC−Inv1細胞において過剰発現していることを、RT−PCRによってさらに確認した。この結果を、図1に示す。これらの結果により、IFITM1遺伝子およびWNT5B遺伝子を、浸潤能増強のマーカーと同定した。
【0097】
(実施例2 IFITM1およびWNT5B過剰発現による、浸潤能の増強)
(IFITM1)
6ヒスチジンタグ−IFITM1 cDNAをコードする、IFITM1発現プラスミドpBICEP−CMV−2−IFITM1を、φ6cmの培養皿に播種した細胞に3μgのplasmidを導入した。pBICEP−CMV−2−IFITM1またはベクターのみを、頭頸部扁平上皮癌細胞株のHSC2およびHSC3細胞に導入し、培地中においてG418(500μg/ml;Life Technologies)によって選択して、安定なクローンを得た。細胞トランスフェクションは、FuGENE6(Roche,Castle Hill,Australia)を使用して製造者の指示に従って行った。各細胞について4個のIFITM1過剰発現クローンおよび1個のコントロールクローンを、次の実験のために選択した。
【0098】
IFITM1の過剰発現を、Western blotによって確認した(図2A)。その細胞を用いて、IFITM1過剰発現細胞では浸潤能が増強されていることを、in vitro invasion assayによって確認した(図2B)。
【0099】
(WNT5B)
6ヒスチジンタグ−WNT5B cDNAをコードする、IFITM1発現プラスミドpPGK2−Wnt5B(広島大学大学院医歯薬学総合研究科 菊池 章教授より供与された)を、φ6cmの培養皿に播種した細胞に3μgのplasmidを導入した。pPGK2−Wnt5Bまたはベクターのみを、頭頸部扁平上皮癌細胞株のHSC2およびHSC3細胞に導入し、培地中においてG418(500μg/ml;Life Technologies)によって選択して、安定なクローンを得た。細胞トランスフェクションは、FuGENE6(Roche,Castle Hill,Australia)を使用して製造者の指示に従って行った。各細胞について4個のWNT5B過剰発現クローンおよび1個のコントロールクローンを、次の実験のために選択した。
【0100】
WNT5Bの過剰発現を、Western blotによって確認した(図3A)。その細胞を用いて、WNT5B過剰発現細胞では浸潤能が増強されていることを、in vitro invasion assayによって確認した(図3B)。
(実施例3 siRNAによるIFITM1およびWNT5B発現抑制)
上述のように調製したsiRNAを用いて、IFITM1およびWNT5B発現抑制アッセイを行った。MSCC−Inv1細胞(Kudo Y.ら、Clin Cancer Res 2004;10:5455−63およびKudo Y.ら、Oral Oncol 2003;39:515−20を参照のこと)に、1mLのOPTI−MEM中の150pmolのsiRNAを、製造者の指示に従ってトランスフェクションした。48時間のsiRNA処理後、MSCC−Inv1細胞を、上述のin vitro invasion assayにおいて使用した。ラット、マウスまたはヒトの遺伝子配列に対して有意な相同性を示さないスクランブル配列を、コントロールとして使用した。
【0101】
WNT5Bの発現抑制のために使用したsiRNAの配列を以下に示す。
1−センス:GAACUUUGCCAAAGGAUCATT
アンチセンス:ugauccuuuggcaaaguucTT
2−センス:GGAGCACAUGGCCUACAUATT
アンチセンス:uauguaggccaugugcuccTT
いずれのセットを使用しても、siRNAの発現を抑制することができる。WNT5BのsiRNAによる発現抑制の結果を図4に示す。RT−PCR法により、実際にsiRNAによるWNT5Bの発現の低下を確認した(図4A)。このWNT5B発現抑制細胞において、浸潤能が抑制されていることを、in vitro invasion assayによって確認した(図4B)。IFITM1についても、同様に発現抑制によって浸潤能が抑制される。
【0102】
(実施例4 Wound healing assayによる、細胞の走化能の評価)
癌の転移は、細胞の走化能の増強によって促進される。そこで、細胞の走化能(運動能)を調べる実験として、Wound healing assayを行なった。まず、6ウェルプレートに細胞を播種し、コンフルエントに達した細胞(monolayer)にチップの先を用いて、横線を引くような意識で傷をつけた。数時間後、動いてきた細胞を位相差顕微鏡下で観察した(図5Aを参照のこと)。
【0103】
図5Bに、IFITM1過剰発現細胞のWound healing assayの結果を示す。図5Bから分かるように、コントロール細胞と比較して、IFITM1過剰発現細胞では、中心に向かって動いている細胞が有意に多いことを示す像を観察した。図5Cには、Wnt5B過剰発現細胞のWound healing assayの結果を示す。図5Cから分かるように、コントロール細胞と比較して、Wnt5B過剰発現細胞でも、中心に向かって動いている細胞が有意に多いことを示す像を観察した。以上の結果から、IFITM1およびWnt5Bともに、細胞の走化能(運動能)を増強させることが明らかになった。
【0104】
(実施例5 ヌードマウスにおける異種移植片アッセイ)
MSCC細胞におけるIFITM1およびWNT5B発現がインビボでの足場非依存性増殖に影響するか否かを試験するために、IFITM1過剰発現HSC2細胞(500μLのHBSS中1×10個)およびWNT5B過剰発現HSC2細胞(500μLのHBSS中1×10個)を、胸腺欠損(ヌード)マウスの多数の部位に皮下注射する。コントロール群には、ベクターをトランスフェクションしたHSC2細胞(500μLのHBSS中1×10個)を注射する。実験プロトコールは、広島大学の動物実験委員会によって承認されたものである。これらの動物を腫瘍形成について毎週モニタリングし、1ヶ月後に屠殺する。腫瘍の長さ(L)および幅(W)を実験の最後に測定し、腫瘍の体積を式:(L×W)/2によって計算する。IFITM1過剰発現HSC2細胞およびWNT5B過剰発現HSC2細胞は、コントロール細胞と比較して、有意に大きい腫瘍体積を示す。
【0105】
(実施例6 同所移植アッセイ)
IFITM1過剰発現HSC2細胞(500μLのHBSS中1×10個)、WNT5B過剰発現HSC2細胞(500μLのHBSS中1×10個)およびコントロールのHSC2細胞(500μLのHBSS中1×10個)を、雄性の胸腺欠損(ヌード)マウスの舌に注射する。これらの動物を腫瘍形成について3日ごとにモニタリングし、2週間後に屠殺する。舌の腫瘍、頸部リンパ節および肺を採取し、4%ホルマリンで固定する。標本をパラフィンに包埋し、4μm厚の切片に切り、H&Eで染色する。これらを、診断、リンパ節転移および肺転移について、組織学的に評価する。IFITM1過剰発現HSC2細胞およびWNT5B過剰発現HSC2細胞移植マウスにおける腫瘍は、コントロールのHSC2細胞を移植されたマウスの腫瘍と比較して有意に大きいことが観察できる。さらに、IFITM1過剰発現HSC2細胞およびWNT5B過剰発現HSC2細胞は、著しい浸潤性を示し、場合によっては、下顎骨の破壊およびリンパ性浸潤も観察される。興味深いことに、IFITM1過剰発現HSC2細胞およびWNT5B過剰発現HSC2細胞は、頚部リンパ節および肺に、自発的に転移し得る。また、コントロールのHSC2細胞移植マウスでは転移は観察されないが、IFITM1過剰発現HSC2細胞およびWNT5B過剰発現HSC2細胞移植マウスでは、局地的なリンパ節および/または肺への転移が観察され得る。これらの結果から、IFITM1過剰発現およびWNT5B過剰発現は、積極的な浸潤によって転移に関与していることが示される。
【0106】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】図1は、IFITM1およびWNT5B遺伝子が、MSCC−1細胞よりもMSCC−Inv1細胞において過剰発現していることを示す。GAPDHはコントロールである。
【図2】図2Aは、IFITM1過剰発現細胞のWestern blotの結果を示す。図2Bは、そのIFITM1過剰発現細胞のin vitro invasion assayの結果を示す。
【図3】図3Aは、WNT5B過剰発現細胞のWestern blotの結果を示す。図3Bは、そのWNT5B過剰発現細胞のin vitro invasion assayの結果を示す。
【図4】図4は、WNT5BのsiRNAによる発現抑制の結果を示す。図4Aは、WNT5B発現抑制細胞におけるRT−PCR法の結果を示す。図4Bは、WNT5B発現抑制細胞におけるin vitro invasion assayの結果を示す。
【図5】図5は、IFITM1およびWnt5B過剰発現細胞を使用したWound healing assayの結果を示す。図5Aは、Wound healing assayのプロトコールである。図5Bは、IFITM1過剰発現細胞のWound healing assayの結果を示す。図5Cは、Wnt5B過剰発現細胞のWound healing assayの結果を示す。
【配列表フリーテキスト】
【0108】
配列番号1=IFITM1の核酸配列
配列番号2=IFITM1のアミノ酸配列
配列番号3=WNT5Bの核酸配列
配列番号4=WNT5Bのアミノ酸配列
配列番号5=IFITM1フォワードプライマー
配列番号6=IFITM1リバースプライマー
配列番号7=WNT5Bフォワードプライマー
配列番号8=WNT5Bリバースプライマー
配列番号9=WNT5B用siRNAセンスプライマー
配列番号10=WNT5B用siRNAアンチセンスプライマー
配列番号11=WNT5B用siRNAセンスプライマー
配列番号12=WNT5B用siRNAアンチセンスプライマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌の転移および/または浸潤の可能性を評価するための診断マーカーであって、以下:
配列番号1に記載の核酸配列を含む核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であって、癌細胞の浸潤を増強させる活性を有するポリペプチドをコードする核酸、
配列番号1に記載の核酸配列と少なくとも80%相同な配列を含む核酸であって、癌細胞の浸潤を増強させる活性を有するポリペプチドをコードする核酸、
配列番号1に記載の核酸配列のフラグメントを含む核酸、
配列番号1に記載の核酸配列のフラグメントを含む核酸の対であって、少なくとも10塩基の長さであって、PCRプライマーとして配列番号1に記載の核酸配列の少なくとも一部を増幅できる核酸の対、
配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドに反応する抗体、
配列番号3に記載の核酸配列を含む核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であって、癌細胞の浸潤を増強させる活性を有するポリペプチドをコードする核酸、
配列番号3に記載の核酸配列と少なくとも80%相同な配列を含む核酸であって、癌細胞の浸潤を増強させる活性を有するポリペプチドをコードする核酸、
配列番号3に記載の核酸配列のフラグメントを含む核酸、
配列番号3に記載の核酸配列のフラグメントを含む核酸の対であって、少なくとも10塩基の長さであって、PCRプライマーとして配列番号1に記載の核酸配列の少なくとも一部を増幅できる核酸の対、
配列番号4に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドに反応する抗体、
からなる群より選択される核酸または抗体を含む、癌の転移および/または浸潤診断マーカー。
【請求項2】
前記癌が、頭頸部に生じた扁平上皮癌である、請求項1に記載の診断マーカー。
【請求項3】
前記癌が、口腔癌である、請求項2に記載の診断マーカー。
【請求項4】
請求項1に記載の診断マーカーであって、以下、
配列番号1に記載の核酸配列を含む核酸、および
配列番号3に記載の核酸配列を含む核酸、
からなる群より選択される核酸を含む、診断マーカー。
【請求項5】
請求項1に記載の診断マーカーであって、以下、
配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドに反応する抗体、および
配列番号4に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドに反応する抗体、
からなる群より選択される抗体を含む、診断マーカー。
【請求項6】
被験体において癌の転移および/または浸潤の可能性を評価するための方法であって、
(a)(i)配列番号1および配列番号3からなる群より選択される核酸配列を含む核酸、または
(ii)(i)の核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であって、癌細胞の浸潤を増強させる活性を有するポリペプチドをコードする核酸、
の発現量を、該被験体由来の生物学的サンプルにおいて測定する工程、ならびに
(b)該発現量を指標として、該被験体における該転移および/または浸潤の可能性を評価する工程、
を包含する、方法。
【請求項7】
被験体において癌の転移および/または浸潤の可能性を評価するための方法であって、
(a)(i)配列番号2および配列番号4からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するポリペプチド、または
(ii)配列番号2および配列番号4からなる群より選択されるアミノ酸配列において1または数個の変異、置換、挿入または欠失を含むアミノ酸配列を有し、かつ癌細胞の浸潤を増強させる活性を有するポリペプチド、
の発現量を、該被験体由来の生物学的サンプルにおいて測定する工程、ならびに
(b)該発現量を指標として、該被験体における該転移および/または浸潤の可能性を評価する工程、
を包含する、方法。
【請求項8】
癌細胞の転移および/または浸潤を阻害および/または抑制する抗体であって、該抗体は、
配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドに反応する抗体、および
配列番号4に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドに反応する抗体、
からなる群より選択される、抗体。
【請求項9】
前記癌が、頭頸部に生じた扁平上皮癌である、請求項8に記載の抗体。
【請求項10】
前記癌が、口腔癌である、請求項9に記載の抗体。
【請求項11】
癌細胞の転移および/または浸潤を阻害および/または抑制する組成物であって、請求項8〜10のいずれか1項に記載の抗体を含む、組成物。
【請求項12】
さらに抗癌剤を含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記抗癌剤が、シスプラチンまたは5−FUである、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
癌細胞の転移および/または浸潤を阻害および/または抑制する核酸であって、該核酸は、
(i)配列番号1および配列番号3からなる群より選択される核酸配列を含む核酸、または
(ii)(i)の核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であって、癌細胞の浸潤を増強させる活性を有するポリペプチドをコードする核酸、
からなる群より選択される核酸の発現量を低下させる、
核酸。
【請求項15】
前記核酸が、
配列番号1に記載の核酸配列を含む核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であり、癌細胞の浸潤を増強させる活性を有するポリペプチドをコードする核酸のフラグメントである、核酸
配列番号1に記載の核酸配列と少なくとも80%相同な配列を含む核酸であり、癌細胞の浸潤を増強させる活性を有するポリペプチドをコードする核酸のフラグメントである、核酸
配列番号3に記載の核酸配列を含む核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であり、癌細胞の浸潤を増強させる活性を有するポリペプチドをコードする核酸のフラグメントである、核酸、および
配列番号3に記載の核酸配列と少なくとも80%相同な配列を含む核酸であり、癌細胞の浸潤を増強させる活性を有するポリペプチドをコードする核酸のフラグメントである、核酸
からなる群より選択される、請求項14に記載の核酸。
【請求項16】
前記癌が、頭頸部に生じた扁平上皮癌である、請求項14または15に記載の核酸。
【請求項17】
前記癌が、口腔癌である、請求項16に記載の核酸。
【請求項18】
癌細胞の転移および/または浸潤を阻害および/または抑制する組成物であって、請求項14〜17のいずれか1項に記載の核酸を含む、組成物。
【請求項19】
さらに抗癌剤を含む、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
前記抗癌剤が、シスプラチンまたは5−FUである、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
請求項14〜17のいずれか1項に記載の核酸を含む、ベクター。
【請求項22】
癌細胞の転移および/または浸潤を阻害および/または抑制する組成物であって、請求項21に記載のベクターを含む、組成物。
【請求項23】
さらに抗癌剤を含む、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
前記抗癌剤が、シスプラチンまたは5−FUである、請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
抗浸潤薬のスクリーニング方法であって、該方法は、
(a)(i)配列番号1および配列番号3からなる群より選択される核酸配列を含む核酸、または
(ii)(i)の核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であって、癌細胞の浸潤を増強させる活性を有するポリペプチドをコードする核酸、
を発現する細胞と、候補化合物とを接触させる工程;
(b)該細胞における該核酸の発現量を測定する工程;および
(c)該測定された発現量を指標として、該候補化合物から抗浸潤活性を有する化合物を選択する、工程;
を包含する、方法。
【請求項26】
抗浸潤薬のスクリーニング方法であって、該方法は、
(a)(i)配列番号2および配列番号4からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するポリペプチド、または
(ii)配列番号2および配列番号4からなる群より選択されるアミノ酸配列において1または数個の変異、置換、挿入または欠失を含むアミノ酸配列を有し、かつ癌細胞の浸潤を増強させる活性を有するポリペプチド、
を発現する細胞と、候補化合物とを接触させる工程;
(b)該細胞における該ポリペプチドの発現量を測定する工程;および
(c)該測定された発現量を指標として、該候補化合物から抗浸潤活性を有する化合物を選択する、工程;
を包含する、方法。
【請求項27】
癌の転移および/または浸潤の可能性を測定するためのキットであって、該キットは、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物、および
該癌の転移および/または浸潤の可能性を評価するための指示書、
を備える、キット。
【請求項28】
前記癌が、頭頸部に生じた扁平上皮癌である、請求項27に記載のキット。
【請求項29】
前記癌が、口腔癌である、請求項28に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−206482(P2008−206482A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−48080(P2007−48080)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者:社団法人 日本病理学会、「日本病理学会会誌」第96巻第1号 平成19年2月5日、表紙、奥付、360頁中P1−248に関する部分
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】